特許第5996124号(P5996124)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許5996124化学強化処理によりガラス板に発生する反りを低減する方法、化学強化用ガラス板の製造方法及び化学強化ガラス板の製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5996124
(24)【登録日】2016年9月2日
(45)【発行日】2016年9月21日
(54)【発明の名称】化学強化処理によりガラス板に発生する反りを低減する方法、化学強化用ガラス板の製造方法及び化学強化ガラス板の製造方法
(51)【国際特許分類】
   C03B 25/02 20060101AFI20160908BHJP
   C03C 21/00 20060101ALI20160908BHJP
   C03B 18/02 20060101ALI20160908BHJP
【FI】
   C03B25/02
   C03C21/00 101
   C03B18/02
【請求項の数】1
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2015-543200(P2015-543200)
(86)(22)【出願日】2015年3月25日
(86)【国際出願番号】JP2015001702
(87)【国際公開番号】WO2015146169
(87)【国際公開日】20151001
【審査請求日】2015年9月1日
(31)【優先権主張番号】特願2014-66484(P2014-66484)
(32)【優先日】2014年3月27日
(33)【優先権主張国】JP
【早期審査対象出願】
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】000004008
【氏名又は名称】日本板硝子株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100107641
【弁理士】
【氏名又は名称】鎌田 耕一
(72)【発明者】
【氏名】福島 清美
(72)【発明者】
【氏名】堀田 啓文
【審査官】 増山 淳子
(56)【参考文献】
【文献】 国際公開第2012/077796(WO,A1)
【文献】 特表2003−514758(JP,A)
【文献】 国際公開第2013/099620(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C03B 25/02
C03C 21/00
C03B 18/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
フロート法で製造されたガラス板に化学強化処理を施すことにより発生する前記ガラス板の反りを低減する方法であって、
化学強化処理が施されるよりも前に、フロート法で製造されたガラス板を、前記ガラス板を構成するガラスの歪点−70℃〜歪点+20℃の温度範囲内に10分以上保持する、
化学強化処理によりガラス板に発生する反りを低減する方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、化学強化処理によりガラス板に発生する反りを低減する方法、化学強化用ガラス板の製造方法及び化学強化ガラス板の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
携帯電話、スマートフォン及び携帯情報端末(PDA)などの携帯機器の画像表示装置には、表面保護のためのカバーガラスが配置されている。カバーガラスには、一般に1.1mm以下の薄い厚さを有するガラス板を化学強化したものが使用される。
【0003】
フロート法で製造された薄いガラス板に化学強化処理を施したとき、ガラス板に反りが生じることが知られている。この反りは、化学強化時にトップ面(フロートバスでの成形時に溶融スズと非接触であったガラス表面)とボトム面(フロートバスでの成形時に溶融スズと接触していたガラス表面)とでイオン交換量に差が生じることによるものと、熱変形によるものと、が考えられている。
【0004】
前者のイオン交換量の差は、フロートバスでの成形時にガラス板のボトム面にスズ成分が侵入することが主な原因と考えられている。そこで、従来、スズ侵入層を除去するための研磨処理などが行われている。しかし、このような処理は製造コストを押し上げる一因となっている。
【0005】
後者の熱変形としては、フロートバスでの成形時などでガラス板のトップ面とボトム面との冷却速度が異なることにより生じる残留応力によって起こる変形と、ガラス板に歪点温度以下の熱処理を施すことでガラスの自重によって起こる変形とが知られている。特許文献1では、ガラスの自重によって起こる熱変形を抑制するために、化学強化処理前の予熱(予備加熱)温度を歪点温度から少なくとも100℃低い温度とすることが開示されている。なお、化学強化処理は、通常、硝酸カリウム、硝酸ナトリウム又はこれらの混合溶融塩中にガラス板を所定時間浸漬することによって行われる。化学強化処理前の予備加熱とは、化学強化処理に使用する溶融塩にガラス板を接触させた際の熱ショックによるガラス板の割れを避けたり、ガラス板を接触させた際に溶融塩の温度が下がり過ぎたりしないようにすることを目的として実施するものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平7−29170号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
特許文献1に記載された方法では、化学強化処理時のガラス板の自重による熱変形をある程度抑制できるものの、温度の制限により適切な予備加熱ができない場合、溶融塩に接触した際の熱ショックによりガラス板に割れが生じてしまう場合があった。
【0008】
また、予備加熱では、一般に、自重によって起こるガラス板の熱変形を抑制するために、化学強化処理の予備加熱の際に、溶融塩に接触した際の熱ショックによる割れを避けることができる程度の必要最小限の加熱しか行うことができなかった。例えば、ガラス板の厚さが薄くなるほど、さらに、ガラス板のサイズが大きくなるほど、化学強化処理前後にガラス板の温度を上げると、自重による変形が生じやすい。化学強化ガラスを工業的に大量生産する場合、例えば一辺が300mm以上の比較的大きな寸法のガラス板を複数枚、ガラスホルダーに立てた状態で積載して、予備加熱工程〜化学強化処理工程を行うが、このような場合はガラス板の自重による熱変形の懸念がさらに増すことになる。したがって、予備加熱工程においては、必要以上に温度を上げないことが重要であると考えられていた。
【0009】
そこで、本発明は、薄いガラス板や大きいガラス板であっても、化学強化処理によって生じるガラス板の反りを低減できると共に、化学強化処理時に溶融塩と接触させた際に熱ショックによるガラス板の割れも十分に抑制できるような、化学強化処理によりガラス板に発生する反りを低減する方法を提供することを目的とする。さらに、化学強化用ガラス板(化学強化処理が施されるガラス板)の製造方法と、化学強化ガラス板(化学強化処理が施されたガラス板)の製造方法を提供することも目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
発明者らは、薄いガラス板や大きいガラス板であっても、化学強化処理よりも前に一定の条件で加熱処理を行うことによって、化学強化処理後にガラス板に発生する反りを低減できることを見出し、本発明に到達するに至った。なお、本発明は、熱変形を避けるためには、化学強化処理のための予備加熱を最低限度としなければならないとの従来の常識を覆すものであり、簡易に、化学強化処理によって発生する反りを低減できる方法である。
【0011】
すなわち、本発明は、フロート法で製造されたガラス板に化学強化処理を施すことにより発生する前記ガラス板の反りを低減する方法であって、
化学強化処理が施されるよりも前に、フロート法で製造されたガラス板を、前記ガラス板を構成するガラスの歪点−70℃〜歪点+20℃の温度範囲内に10分以上保持する、
化学強化処理によりガラス板に発生する反りを低減する方法を提供する。
【0012】
本発明は、さらに、
(I)フロート法で、ソーダライムガラスからなるガラス板を製造する工程と、
(II)前記工程(I)で製造された前記ガラス板を、前記ガラスの歪点−70℃〜歪点+20℃の温度範囲内に10分以上保持する工程と、
を含む、化学強化用ガラス板の製造方法を提供する。
【0013】
本発明は、さらに、
(i)上記本発明の化学強化用ガラス板の製造方法によって得られた化学強化用ガラス板を準備する工程と、
(ii)前記化学強化用ガラス板に対して化学強化処理を施す工程と、
を含む、化学強化ガラス板の製造方法を提供する。
【発明の効果】
【0014】
本発明の反りを低減する方法によれば、化学強化処理が施されるよりも前に、ガラス板をガラスの歪点−70℃〜歪点+20℃の温度範囲内に10分以上保持するという熱処理を施すだけで、薄いガラス板や大きいガラス板であっても、化学強化処理によって生じるガラス板の反りを低減できる。本発明の方法では、この熱処理を化学強化処理よりも前に実施すればよいだけであるため、化学強化処理のための予備加熱の温度が制限されることもない。したがって、本発明の方法によれば、薄いガラス板や大きいガラス板であっても、化学強化処理によって生じるガラス板の反りを低減できると共に、化学強化処理時に溶融塩と接触させた際の熱ショックによるガラス板の割れを十分に抑制できる。
【0015】
また、本発明の化学強化用ガラス板の製造方法によれば、薄いガラス板や大きいガラス板であっても、化学強化処理によって生じるガラス板の反りを低減できると共に、化学強化処理時に溶融塩と接触させた際の熱ショックによるガラス板の割れを十分に抑制できるような、化学強化用ガラス板を提供できる。
【0016】
また、本発明の化学強化ガラス板の製造方法によれば、薄いガラス板や大きいガラス板であっても、割れの発生を抑えつつ、反りが十分に低減された化学強化ガラス板を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1】実施例1〜14で実施した熱処理におけるガラス板の温度変化を示すグラフである。
図2】実施例15〜31で実施した熱処理におけるガラス板の温度変化を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0018】
(実施形態1)
本発明に係る、化学強化処理によりガラス板に発生する反りを低減する方法の実施形態について説明する。本実施形態の方法は、フロート法で製造されたガラス板に化学強化処理を施すことにより発生するガラス板の反りを低減する方法であって、化学強化処理が施されるよりも前に、フロート法で製造されたガラス板を、前記ガラス板を構成するガラスの歪点−70℃〜歪点+20℃の温度範囲内に10分以上保持する。
【0019】
化学強化処理よりも前に、ガラス板を当該ガラス板のガラスの歪点−70℃〜歪点+20℃の温度範囲内に10分以上保持するという熱処理を実施することにより、化学強化処理により発生する反りを改善(反りを低減)することができる。化学強化処理よりも前にこのような熱処理を実施するだけで、化学強化後のガラス板の反りが改善するということは、驚く結果であった。従来の常識では、比較的高い温度で熱処理をすると、化学強化後の反りが悪化することはあっても、改善するとは考えられなかったからである。なお、ガラス板を保持する方法としては、平坦な支持体にガラス板を平置きする方法、及び、ガラス板をガラスホルダーに立てる方法等が挙げられる。ガラス板をガラスホルダーに立てる方法は、複数のガラス板を同時に処理することができるため好ましいが、本実施形態はそれに限定されるものではない。
【0020】
化学強化後の反りが改善するメカニズムは、不明な点があるが、上記の熱処理を行うことでガラスの構造緩和による熱収縮が生じ、ガラスの密度が増加すると同時に、ガラスの剛性が高くなるためと考えられる。ガラスの剛性が高まることによって、化学強化に起因してガラス板に発生する曲げの力に対抗することができ、反りが低減されると推定される。
【0021】
ここで、上記の熱処理によるガラスの剛性の変化を確認するために、熱処理前後でガラス板の撓み測定を実施した。撓み測定の測定方法は、以下のとおりである。その結果、熱処理前のガラス板の撓みは1.9mmだったのに対して、熱処理後のガラス板の撓みは1.6mmであった。このように、熱処理後のガラス板は、熱処理前のガラス板よりも撓み量が小さいことが確認された。すなわち、熱処理によりガラスの剛性が高くなって、ガラス板の曲げ変形に対する抗力が増したと考えられる。
【0022】
<撓み測定>
(ガラス板サンプル)
200mm×300mmの長方形で、厚さが0.55mmである、フロート法により製造されたソーダライムガラス(ガラス組成は、後述の実施例で用いられたものと同じ)。
(熱処理)
510℃の炉内で90分保持後、大気中で放冷。
(計測)
レーザ変位計(オプテックスFA株式会社製CD5A−N)を使用した。ガラス板サンプルの四隅を支持した状態で平置きにして、ガラス板サンプル中央部と変位計との距離を測定した。ガラス板サンプル中央部に、約130gの錘(円筒中空パイプ形状)を乗せないときと乗せたときの距離の差を、錘の重量によって生じた変位量(撓み量)として評価した。撓み量は、2枚のガラス板サンプルの平均値とした。
【0023】
前記熱処理において、ガラス板を、当該ガラス板のガラスの歪点−70℃以上の温度とすることにより、ガラスの構造緩和が十分に起きるので、化学強化後の反りが改善されると考えられる。より高い反り改善効果を得るために、前記熱処理の温度は、ガラス板のガラスの歪点−40℃以上とすることが好ましく、歪点−20℃以上とすることがより好ましい。一方、前記熱処理の温度が高すぎると、ガラス板の自重による熱変形の影響が大きくなり、この熱変形が前記熱処理による反りの改善効果を上回り、化学強化後の反りの改善効果が得られなくなる場合がある。したがって、本実施形態では、前記熱処理の温度を、ガラス板のガラスの歪点+20℃以下とし、好ましくは歪点以下とする。例えば、前記熱処理の温度を歪点−40℃〜歪点とすることにより、例えば一辺が300mm以上の矩形形状を有するガラス板のような大きいサイズのガラス板であっても、化学強化処理により発生する反り量を小さく抑えることが可能となり、より効果的な反り改善が可能となる。
【0024】
前記熱処理における所定温度範囲にガラス板を保持する時間は、10分以上であれば反り改善の効果を十分に得られるが、反り改善の効果をより高めるために、好ましくは30分以上、より好ましくは60分以上、特に好ましくは90分以上である。
【0025】
前記熱処理では、ガラス板を、本実施形態で特定した所定温度範囲に所定時間保持するだけでよく、例えば所定温度範囲までの昇温速度及び所定温度範囲からの降温速度のような条件は、特には限定されない。
【0026】
また、前記熱処理は、化学強化処理よりも前に実施されればよく、化学強化処理の前に行う予熱工程として実施することも可能であるし、化学強化処理とは完全に別個の処理として実施することも可能である。すなわち、前記熱処理(化学強化処理のための予熱を兼ねる)→化学強化処理、の順で実施することも可能であるし、前記熱処理→化学強化処理のための予熱→化学強化処理、の順で実施することも可能である。
【0027】
本実施形態の方法では、ガラス板はフロート法で製造されている。したがって、[背景技術]で説明したような、フロートバスでの成形時にガラス板のボトム面にスズ成分が侵入することが原因で生じる化学強化処理時のイオン交換量の差によって、ガラス板の反りが発生することもある。そこで、イオン交換量の差に起因する反りの発生を抑制するために、従来、スズ侵入層を除去するために研磨処理などが行われていた。しかし、本実施形態の方法によれば、上述のとおりガラスの剛性が高くなるので、イオン交換量の差に起因する反りが発生しにくくなり、その結果、例えば研磨量の低減、又は、研磨処理の省略の実現も可能となる。
【0028】
本実施形態のガラス板は、ガラス板の連続製造方法であるフロート法で製造されたガラス板である。フロート法では、フロート窯で溶融されたガラス原料がフロートバス内の溶融金属上で板状のガラスリボンに成形され、得られたガラスリボンは、徐冷炉で徐冷された後、所定の大きさのガラス板へと切り分けられる。本実施形態のガラス板は、公知のフロート法で製造されたガラス板であればよく、フロート法における製造条件は特には限定されない。
【0029】
ガラス板には、一般に化学強化ガラスとして適用されるソーダライムガラスやアルミノ珪酸塩ガラスを用いることができ、その組成は特には限定されない。しかし、本実施形態の方法は、ソーダライムガラスからなるガラス板に適用することが好ましい。ソーダライムガラスからなるガラス板は、その他のガラス、例えばアルミノシリケートガラスからなるガラス板に比べて、フロート法での成形時にボトム面にスズが侵入しやすい。このことから、トップ面とボトム面とのイオン交換速度に差が生じやすい。また、ソーダライムガラスをフロート法で薄いガラス板に成形する場合、トップ面がボトム面に比べて急冷構造となりやすいことから、本発明の効果が顕著に現れやすい。すなわち、ボトム面より粗い構造であるトップ面は、熱処理を行うことにより、ボトム面よりも構造緩和が進んで密な構造となり、化学強化処理の際のイオン交換速度が抑制され、ボトム面側のイオン交換速度との差が小さくなる。また、ソーダライムガラスであれば、前記熱処理の温度域と、ソーダライムガラスの化学強化処理に用いる溶融塩の温度との差が小さいため、前記熱処理の後に引き続き化学強化処理を行うときには、熱利用の観点と、熱ショックによる割れの防止の観点から有利である。
【0030】
また、厚さ1.1mm以下の薄いガラス板において化学強化後の反りが特に発生しやすい。したがって、本実施形態の方法は、特に厚さ1.1mm以下の薄いガラス板に適用した場合に顕著な効果が得られる。
【0031】
(実施形態2)
本発明に係る化学強化用ガラス板の製造方法及び化学強化ガラス板の製造方法の実施形態について説明する。
【0032】
本実施形態の化学強化用ガラス板の製造方法は、
(I)フロート法で、ソーダライムガラスからなるガラス板を製造する工程と、
(II)前記工程(I)で製造された前記ガラス板を、前記ガラスの歪点−70℃〜歪点+20℃の温度範囲内に10分以上保持する工程と、
を含む。この製造方法によれば、工程(II)を含むことにより、その後に化学強化処理が施された場合でも、反りが低減されるガラス板を製造できる。なお、工程(II)によって、それよりも後で実施される化学強化処理による反りが低減されるメカニズムは、実施形態1で説明したとおりである。なお、工程(II)においてガラス板を保持する方法としては、平坦な支持体にガラス板を平置きする方法、及び、ガラス板をガラスホルダーに立てる方法等が挙げられる。ガラス板をガラスホルダーに立てる方法は、複数のガラス板を同時に処理することができるため好ましいが、本実施形態はそれに限定されるものではない。
【0033】
本実施形態の化学強化用ガラス板の製造方法によって得られた化学強化用ガラス板によれば、化学強化処理の際の予備加熱の条件を特に制限することなく化学強化処理を実施できる。したがって、本実施形態の化学強化用ガラス板の製造方法によれば、薄いガラス板や大きいガラス板であっても、化学強化処理によって生じるガラス板の反りを低減できると共に、化学強化処理時に溶融塩と接触させた際の熱ショックによるガラス板の割れを十分に抑制できるような、化学強化用ガラス板を提供できる。
【0034】
また、実施形態1でも説明したように、工程(II)が実施されることにより、ガラス板の表面を研磨する工程を実施することなく、反りが低減されるガラス板を製造することも可能となる。したがって、本実施形態の化学強化用ガラス板の製造方法では、ガラス板の表面を研磨する工程が含まれなくてもよい。
【0035】
さらに、実施形態1でも説明したように、前記工程(II)の熱処理において、ガラス板を、当該ガラス板のガラスの歪点−40℃(より好ましくは歪点−20℃)〜歪点の温度範囲内に10分以上保持することが好ましい。これにより、一辺が300mm以上の矩形形状を有するような大きいサイズの化学強化用ガラス板も製造できる。また、熱処理の際に、所定の温度に保持する時間の好ましい範囲は、実施形態1で説明した範囲と同じである。
【0036】
本実施形態の化学強化用ガラス板の製造方法によって製造された化学強化用ガラス板に対して、化学強化処理を施すことによって、化学強化ガラスを得ることができる。すなわち、本実施形態の化学強化ガラス板の製造方法は、
(i)本実施形態の化学強化用ガラス板の製造方法によって得られた化学強化用ガラス板を準備する工程と、
(ii)前記化学強化用ガラス板に対して化学強化処理を施す工程と、
を含む。本実施形態の化学強化ガラス板の製造方法では、本実施形態の化学強化用ガラス板の製造方法によって製造された化学強化用ガラス板を用いているので、化学強化処理の際の予備加熱の条件が特に制限されることなく化学強化処理を実施できる。その結果、薄いガラス板や大きいガラス板であっても、割れの発生を抑えつつ、反り量が十分に低減された化学強化ガラス板を提供できる。
【実施例】
【0037】
以下、本発明について実施例を用いてさらに詳細に説明するが、本発明は、本発明の要旨を超えない限り、以下の実施例に限定されるものではない。
【0038】
(実施例1〜14及び比較例1〜3)
[ガラス板の製造方法]
フロート法によって、厚さ0.55mmのガラス板を製造した。なお、このガラス板はソーダライムガラスからなり、当該ガラスのガラス組成、歪点及びガラス転移温度は表1に示すとおりである。表1に示すガラス組成となるように調合したガラス材料を溶融し、フロートバスの溶融錫上で溶融したガラス材料をガラスリボンへと成形した。本実施例では、このガラスリボンを切断して50mm×50mmの正方形のガラス板を得た。
【0039】
【表1】
【0040】
[熱処理及び化学強化処理]
フロート法で製造されたガラス板を、常温で洗浄した後、ガラスホルダーに立てた状態で電気炉(株式会社モトヤマ製「SU−2025」)にて加熱した。比較例1以外の加熱条件は、表2及び図1に示すとおりであった。加熱されたガラス板の温度を下げることなく、当該ガラス板を化学強化のために460℃のKNO溶融塩に浸漬させ、2時間イオン交換を行った。比較例1のみ、300℃の雰囲気の炉内にガラス板を10分間さらした後、イオン交換を実施した。イオン交換後は、ガラス板を、300℃の雰囲気で10分間で溶融塩切りをして、常温雰囲気で10分間冷却を行い、その後、50℃の水で洗浄してガラス板に付着しているKNOを取り除いた。これにより、熱処理及び化学強化処理が施されたガラス板が得られた。
【0041】
[反り量の測定方法]
反り量の測定には非接触3次元測定装置(三鷹光器株式会社製「NH−3N」)を使用した。化学強化後のガラス板を、凸側に反ったトップ面を上に向けて対向する2辺を支持し、トップ面の中央の高さ方向の座標を測定した。次にガラス板を裏返して、同様に、中央の高さ方向の座標を測定した。それら2つの測定結果の半分の量を反り量とした。ガラス板のトップ面及びボトム面の両方を測定することによって、得られた反り量には、自重によるたわみの影響が除かれている。各実施例及び比較例について8枚のガラス板の反り量を測定し、その平均値を各実施例及び比較例のガラス板の反り量とした。結果は、表2に示すとおりである。なお、実施例1〜14と比較例2及び3の反り量の改善率とは、比較例1を基準としたものである。改善率がマイナスとなっているものは、反り量が悪化したことを示す。
【0042】
【表2】
【0043】
実施例1〜14(加熱温度:450〜520℃(歪点−53〜歪点+17℃))の全てのガラス板で、比較例1よりも反り量の減少が見られ、高い反り量の改善率が得られた。なお、比較例1は、溶融塩に浸漬した際の熱ショックによる割れを避けるための最低限の熱処理を行うという、従来の方法で反りを低減したものである。歪点より73℃低い温度の430℃で熱処理を行った比較例2のガラス板は、比較例1のガラス板に対して化学強化後の反り量の減少は殆ど見られなかった。一方、歪点より37℃高い温度の540℃で熱処理を行った比較例3のガラス板では、反り量は増加した。比較例3のガラス板は、自重による熱変形の影響が大きく、反りが悪化したと推定される。
【0044】
(実施例15〜31及び比較例4〜8)
[ガラス板の製造方法]
ガラス板を370mm×470mmの長方形とし、厚さを0.4〜0.7mmとした点以外は、実施例1〜14及び比較例1〜3と同じ方法でガラス板を作製した。各実施例及び比較例のガラス板の厚さは、表3に示すとおりである。
【0045】
[熱処理及び化学強化処理]
実施例15〜31のガラス板に対して熱処理を行った。この熱処理は、ガラスホルダーにガラス板を複数枚立てた状態で、熱風循環電気炉(株式会社水上電機製作所製 特注品 サイズ「950×950×950mm」)にて加熱処理した。加熱条件等は、表3及び図2に示すとおりである。室温まで冷却したガラス板を、常温で洗浄した後、340℃(歪点−163℃)の雰囲気下で30分間の予備加熱工程を経て、化学強化のためにKNO溶融塩に浸漬させてイオン交換を行った。イオン交換条件は、表3に示すとおりである。イオン交換後は、ガラス板を、340℃の雰囲気で5分間で溶融塩切りをして、200℃の雰囲気で20分間冷却を行い、その後、50℃の水に25分間、次に常温の水に15分間浸漬させて、ガラス板に付着しているKNOを取り除いた。これにより、熱処理及び化学強化処理が施されたガラス板が得られた。比較例4〜8のガラス板については、熱処理を行わずに、実施例15〜31の場合と同じ方法で予備加熱及びイオン交換を行った。
【0046】
[反り量の測定方法]
化学強化後のガラス板を、凸側に反ったトップ面を下に向けて平坦な定盤上に置き、隙間ゲージを用いてガラス板と定盤との間隔を8点測定し、最大値をそのガラス板の反り量とした。各実施例及び比較例について5枚のガラス板の反り量を測定し、その平均値を各実施例及び比較例のガラス板の反り量とした。結果は、表3に示すとおりである。なお、実施例15〜18の反り量の改善率は比較例4を基準とし、実施例19の反り量の改善率は比較例5を基準とし、実施例20の反り量の改善率は比較例6を基準とし、実施例21及び22の反り量の改善率は比較例7を基準とし、実施例23〜31の反り量の改善率は比較例8を基準としたものである。
【0047】
【表3】
【0048】
本発明で特定する熱処理を行った実施例15〜31(加熱温度:440〜530℃(歪点−63℃〜歪点+27℃))の全てのガラス板で、高い反り量の改善率が得られた。また、熱処理の加熱温度を歪点−40℃〜歪点の範囲内とすることにより、反り量の改善率を40%以上とすることができた。
【産業上の利用可能性】
【0049】
本発明の方法によれば、化学強化処理による強度の向上に加え、化学強化後の反り量も低減されたガラス板を提供できる。このガラス板は、携帯機器の画像表示装置の表面保護のためのカバーガラス等の、薄さと強度とが要求される用途に好適に利用できる。
図1
図2