特許第5996164号(P5996164)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5996164
(24)【登録日】2016年9月2日
(45)【発行日】2016年9月21日
(54)【発明の名称】自動車の前部車体構造
(51)【国際特許分類】
   B62D 25/08 20060101AFI20160908BHJP
   B60R 19/54 20060101ALI20160908BHJP
   B60R 19/16 20060101ALI20160908BHJP
【FI】
   B62D25/08 D
   B60R19/54
   B60R19/16
【請求項の数】1
【全頁数】6
(21)【出願番号】特願2011-58256(P2011-58256)
(22)【出願日】2011年3月16日
(65)【公開番号】特開2012-192836(P2012-192836A)
(43)【公開日】2012年10月11日
【審査請求日】2014年3月4日
(73)【特許権者】
【識別番号】000002967
【氏名又は名称】ダイハツ工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100087619
【弁理士】
【氏名又は名称】下市 努
(72)【発明者】
【氏名】松下 和彦
(72)【発明者】
【氏名】大島 研介
【審査官】 森本 哲也
(56)【参考文献】
【文献】 特開平08−258742(JP,A)
【文献】 特開2005−178682(JP,A)
【文献】 特開2006−056328(JP,A)
【文献】 特開平07−304462(JP,A)
【文献】 特開2005−047324(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B62D 25/08
B60R 19/16
B60R 19/54
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
上下方向に延びる左,右の柱部材の上端部同士を上枠部材で、下端部同士を下枠部材で接続してなる矩形枠状のラジエータ支持部材の、前記左,右の柱部材の上下方向中途部を左,右のサイドメンバに取り付け、該柱部材の下端部の前側にエネルギ吸収部材を掛け渡して取り付けた自動車の前部車体構造において、
前記柱部材は、底面と左,右側面とを有する横断面コ字形状をなし、
該柱部材5の前記底面の上下方向中央部は、前記サイドメンバの前端面に当接し、かつ車幅方向に並列配置された複数本のボルトにより単純支持状態に取り付けられており、
該柱部材の上部又は上枠部材は、車両前後方向に延びる補強部材により車体構造体に連結され、
前記柱部材の前記エネルギ吸収部材が取り付けられた下端部は、車体構造体に対して非固定となっている
ことを特徴とする自動車の前部車体構造。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車体前部に配置されたラジエータ支持部材の下端部に車幅方向に延びるエネルギ吸収部材(以下、EA部材と記す)を配設した自動車の前部車体構造に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、車体前部の下端部にEA部材を配設し、車両前方衝突時に、被衝突物に作用する衝撃力を前記EA部材で吸収しつつ、該被衝突物が車両下方に巻き込まれるのを防止するようにした前部車体構造が提案されている。
【0003】
例えば、特許文献1では、下肢EA部材を、大型ブラケットを介してサイドメンバ,バンパリインホースに強固に固定している。また、特許文献2では、下肢EA部材をラジエータ支持部材の下枠に配設するとともに、該EA部材を回動リンクを介してバンパリインホースに結合している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2002−145113号公報
【特許文献2】特開2010−89736号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
前記特許文献1に記載の従来構造では、大型のブラケットを要するので、それだけ車体重量及びコストが増加するという問題がある。
【0006】
また前記特許文献2に記載の従来構造では、入力の一部を回動リンクの引っ張り力でバンパリインホースに負担させる効果はあるものの、ラジエータ支持部材の特に縦柱部材の剛性が不足している場合には、結局EA部材が後退してしまうという問題がある。
【0007】
本発明は、前記従来の状況に鑑みてなされたもので、ラジエータ支持部材の柱部材自体を補強することなく、また大型のブラケットを要することなく、EA部材への入力を柱部材全体に効率的に分散でき、EA部材の後退を抑制してエネルギ吸収効果を高めることができる自動車の前部車体構造を提供することを課題としている。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、上下方向に延びる左,右の柱部材の上端部同士を上枠部材で、下端部同士を下枠部材で接続してなる矩形枠状のラジエータ支持部材の、前記左,右の柱部材の上下方向中途部を左,右のサイドメンバに取り付け、該柱部材の下端部の前側にエネルギ吸収部材を掛け渡して取り付けた自動車の前部車体構造において、
前記柱部材は、底面と左,右側面とを有する横断面コ字形状をなし、
該柱部材の前記底面の上下方向中央部は、前記サイドメンバの前端面に当接し、かつ車幅方向に並列配置された複数本のボルトにより単純支持状態に取り付けられており、
該柱部材の上部又は上枠部材は、車両前後方向に延びる補強部材により車体構造体に連結され、
前記柱部材の前記エネルギ吸収部材が取り付けられた下端部は、車体構造体に対して非固定となっていることを特徴としている。
【0009】
ここで本発明において、単純支持状態に取り付けるとは、柱部材に荷重が入力されても、該柱部材に、これの軸方向及びサイドメンバの軸方向の変位が生じないとみなすことのできる取付け状態を意味している。従って、柱部材のサイドメンバに対する相対角度は変化し得る。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、横断面コ字形状をなす柱部材の底面の上下方向中央部を前記サイドメンバに単純支持状態に取り付けるとともに、該柱部材の上部又は上枠部材を、車両前後方向に延びる補強部材により車体構造体に連結し、前記柱部材のエネルギ吸収部材が取り付けられた下端部を車体構造体に対して非固定とした。そのため、車両前方から柱部材に入力された荷重を、柱部材のサイドメンバへの取付け点を支点とし、柱部材の上部を作用点として柱部材全体に分散させることができる。これにより、柱部材のサイドメンバへの取付け点における、車両前方からの荷重による曲げモーメントと、前記補強部材の反力による曲げモーメントとを相殺でき、ひいては前記取付け点における局部荷重を緩和できる。その結果、ラジエータ支持部材自体の剛性を増大させることなく、EA部材の後退量を軽減でき、エネルギ吸収効果を向上できる。
【0011】
また大型のブラケットを必要としないので、車体重量やコストの増加を回避できる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】本発明の実施例1による自動車の車体前部の模式正面斜視図である。
図2】前記車体前部の模式平面図である。
図3】前記実施例1における作用を説明するための模式図である。
図4】前記実施例1における作用を説明するための変位−荷重特性図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明の実施の形態を添付図面に基づいて説明する。
【実施例1】
【0014】
図1ないし図4は、本発明の実施例1を説明するための図である。本実施例において、前後,左右とは、自動車の進行方向に見た状態での前後,左右を意味する。
【0015】
図において、符号1は、本実施例構造が適用された自動車の車体前部であり、該車体前部1は模式的に示されている。前記車体前部1は、車体の左,右側部に配置された左,右のサイドメンバ2,2と、該サイドメンバ2,2の前端部2a,2aに架け渡して配置されたラジエータ支持部材3と、該ラジエータ支持部材3の下端部前面に配置されたEA部材4とを備えている。
【0016】
前記EA部材4は、車両前方衝突時に歩行者の下肢への衝撃を軽減するとともに、歩行者が車体下方に巻き込まれるのを防止するためのものである。このEA部材4は、例えば比較的薄い板金を用いて、横断面矩形状又はコ字形状で車幅方向に延びるように形成されており、歩行者の膝より低い高さに位置するように前記ラジエータ支持部材3に固定されている。
【0017】
前記左右のサイドメンバ2,2は、横断面矩形状をなし、車両前後方向に延びる筒状に形成されている。該サイドメンバ2,2の前端面には支持プレート2b,2bが固定されている。
【0018】
前記ラジエータ支持部材3は、左,右の柱部材5,5の上端部5a,5a同士を上枠部材6で、下端部5b,5b同士を下枠部材7で接続してなる矩形枠状をなしている。
【0019】
前記左,右の柱部材5は、横断面コ字形状をなし、上下方向に延びる棒状に形成されている。この左,右の柱部材5の横断面コ字形状をなす底面の上下方向中央部が、前記左,右のサイドメンバ2,2の前端の支持プレート2bに2本のボルト9,9で締め付け固定されている。前記ボルト9,9は車幅方向に並列配置されている。
【0020】
ここで前記柱部材5は、前記サイドメンバ2に車幅方向に並列配置された2本のボルト9,9で結合されているので、荷重が入力されてもサイドメンバ2に対する該柱部材5の、これの軸方向における変位及びサイドメンバ2の軸方向における変位が生じないが、相対的な角度が変化可能の、いわゆる単純支持状態に前記サイドメンバセ2に取り付けられているとみなすことができる。
【0021】
前記左,右の柱部材5,5の上端部5a,5aは、車両前後方向の引っ張りに対して高い強度,剛性を有する補強部材8を介して該ラジエータ支持部材3の後方に位置する車体構造体、例えばアッパメンバ10に連結されている。
【0022】
前記補強部材8は、前記柱部材5の構成部材と同等以上の肉厚の鋼板により例えば横断面コ字形状に形成されている。この補強部材8の前端部8bは前記ラジエータ支持部材3の柱部材5の上端部5aに溶接固定され、後端部8cはボルト8aにより前記アッパメンバ10に連結されている。
【0023】
本実施例1において、前記EA部材4に荷重Fが入力された場合の作用効果を説明する。
【0024】
まず、図3(a)に示すように、柱部材5をサイドメンバ2に対して、例えば上下に離した複数のボルト9′,9′で固定する等の、いわゆる固定支持状態に取り付けるとともに、前記補強部材8を備えていない従来構造を考える。この従来構造の場合は、前記荷重Fは、前記柱部材5の前記ボルト9′,9′による固定支持部aより下側部分のみで負担され、上側部分の剛性は前記荷重Fの負担に寄与しない。その結果、前記柱部材5のサイドメンバ2への固定支持部aの曲げモーメントはMと大きくなる。
【0025】
一方、本実施例では、図3(b)に示すように、前記柱部材5の上下方向中途部を、車幅方向に並列配置されたボルト9,9で前記サイドメンバ2に単純支持状態に取り付けるとともに、該柱部材5の上端部5aを、車両前後方向に延びる補強部材8によりアッパメンバ10に連結した。そのため、車両前方からの荷重Fを、柱部材5のサイドメンバ2への取付け点bを支点とし、柱部材5の上端部5aを作用点として柱部材5全体に分散させることができる。これにより、柱部材5のサイドメンバ2への取付け点bにおける、車両前方からの荷重Fによる曲げモーメントM1と、前記補強部材8の反力F′による曲げモーメントM2とを相殺させることができ、前記取付け点bにおける曲げモーメントひいては局部応力を緩和できる。その結果、ラジエータ支持部材3自体の剛性を増大させることなく、EA部材4の後退量を軽減できる。
【0026】
また図4に示すように、本実施例構造におけるエネルギ吸収量を、前記図3(a)に示す従来例のエネルギ吸収量Aに対してエネルギ吸収量Bに大きく向上できる。
【0027】
また、本実施例では、柱部材5をサイドメンバ2に対して、車幅方向に並列配置された2本のボルト9,9で結合するだけの簡易構造で単純支持状態に取り付けることができる。
【0028】
なお、前記実施例では、柱部材5の上端部5aを補強部材8で車体構造体に連結したが、本発明では、ラジエータ支持部材3の上枠部材6を補強部材8で車体構造体に連結しても良い。
【符号の説明】
【0030】
1 前部車体
2 サイドメンバ
3 ラジエータ支持部材
4 EA部材
5 柱部材
5a 上端部
5b 下端部
6 上枠部材
7 下枠部材
8 補強部材
10 アッパメンバ(車体構造体)
図1
図2
図3
図4