特許第5996195号(P5996195)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5996195
(24)【登録日】2016年9月2日
(45)【発行日】2016年9月21日
(54)【発明の名称】フィルタ,機器装置及び清浄化方法
(51)【国際特許分類】
   B01D 39/20 20060101AFI20160908BHJP
   A61L 2/03 20060101ALI20160908BHJP
   A61L 9/16 20060101ALI20160908BHJP
   B01J 20/02 20060101ALI20160908BHJP
   B01J 20/34 20060101ALI20160908BHJP
   C02F 1/00 20060101ALI20160908BHJP
【FI】
   B01D39/20 D
   A61L2/03
   A61L9/16 D
   B01J20/02 B
   B01J20/34 Z
   C02F1/00 L
【請求項の数】15
【全頁数】14
(21)【出願番号】特願2012-11086(P2012-11086)
(22)【出願日】2012年1月23日
(65)【公開番号】特開2013-146713(P2013-146713A)
(43)【公開日】2013年8月1日
【審査請求日】2014年11月4日
(73)【特許権者】
【識別番号】000220767
【氏名又は名称】東京窯業株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】000244176
【氏名又は名称】明智セラミックス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100081776
【弁理士】
【氏名又は名称】大川 宏
(72)【発明者】
【氏名】高木 修
(72)【発明者】
【氏名】影山 健友
(72)【発明者】
【氏名】小笠原 真
(72)【発明者】
【氏名】亀嶋 哲
【審査官】 森井 隆信
(56)【参考文献】
【文献】 特開2011−084451(JP,A)
【文献】 特開2004−130173(JP,A)
【文献】 特開2005−137871(JP,A)
【文献】 特開2009−226711(JP,A)
【文献】 特開2002−066231(JP,A)
【文献】 特開2006−020790(JP,A)
【文献】 国際公開第2006/041079(WO,A1)
【文献】 特開平08−243324(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B01D 39/00−41/04
B01D 46/00−46/54
F01N 3/00−3/38
F01N 9/00
B01D 53/34−53/96
A61L 2/00−2/28
A61L 11/00−12/14
A61L 0/00−9/04
A61L 9/14−9/22
B01J 20/00−20/34
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
体積抵抗率が5Ω・cm〜500Ω・cmの多孔質の導電性を有するセラミックスよりなり、細菌を捕捉するフィルタであって、
導電性を有する該セラミックスは、炭化ケイ素を主成分とし、アルミニウム、ガリウム、インジウム、ビスマス、バナジウム、ニオブ、タングステンから選ばれる1種以上よりなる導電性を付与する金属元素が分散しており、
捕捉した該細菌を、該フィルタに通電して不活性化することを特徴とするフィルタ。
【請求項2】
前記フィルタによる捕捉は、細孔により行われる請求項1に記載のフィルタ。
【請求項3】
前記フィルタは、平均細孔径が5〜50μmである請求項1〜2のいずれかに記載のフィルタ。
【請求項4】
前記セラミックスは、熱伝導率が90W/mK以下である請求項1〜3のいずれかに記載のフィルタ。
【請求項5】
前記フィルタは、気孔率が15〜60%である請求項1〜4のいずれかに記載のフィルタ。
【請求項6】
前記細菌は、大気中又は水中に浮遊する請求項1〜5のいずれかに記載のフィルタ。
【請求項7】
請求項1〜6のいずれかに記載のフィルタと、
該フィルタに接続される一対以上の電極と、
該一対以上の電極間に通電する電源装置と、
を有することを特徴とする機器装置。
【請求項8】
前記機器装置は、清浄化装置である請求項7記載の機器装置。
【請求項9】
前記機器装置は、空気清浄機または水清浄機である請求項7〜8のいずれかに記載の機器装置。
【請求項10】
細菌を、体積抵抗率が5Ω・cm〜500Ω・cmの多孔質の導電性を有するセラミックスよりなるフィルタに捕捉する捕捉工程と、
該細菌が捕捉された状態で、該フィルタに通電する通電工程と、
を有し、該細菌を不活性化する清浄化方法であって、
導電性を有する該セラミックスは、炭化ケイ素を主成分とし、アルミニウム、ガリウム、インジウム、ビスマス、バナジウム、ニオブ、タングステンから選ばれる1種以上よりなる導電性を付与する金属元素が分散していることを特徴とする清浄化方法。
【請求項11】
前記フィルタによる捕捉は、細孔により行われる請求項10に記載の清浄化方法。
【請求項12】
前記フィルタは、平均細孔径が5〜50μmである請求項10〜11のいずれかに記載の清浄化方法。
【請求項13】
前記セラミックスは、熱伝導率が90W/mK以下である請求項10〜12のいずれかに記載の清浄化方法。
【請求項14】
前記フィルタは、気孔率が15〜60%である請求項10〜13のいずれかに記載の清浄化方法。
【請求項15】
前記細菌は、大気中又は水中に浮遊する請求項10〜14のいずれかに記載の清浄化方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、臭気原因物質、細菌、ウイルス、アレルゲン、カビから選ばれる少なくとも一つを脱臭及び/又は不活性化する(処理する)フィルタ,これを用いた機器装置及びこれを用いた清浄化方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、大気中又は水中に存在する有害物質が問題になってきている。この有害物質としては、臭気原因物質,細菌,ウイルス,アレルゲン,カビ等をあげることができる。
【0003】
大気中の微生物を除去する手段としては、例えばミクロフィルタと称される多孔質膜を濾過手段として用いたフィルタがある。例えば0.3μm程度の微小な孔径のミクロフィルタを用いれば、透過させた処理対象気体中の微生物を捕捉(捕獲)でき、気体中から微生物を除去できる。
【0004】
ところが、このようなフィルタでは、捕捉した微生物がフィルタ中に蓄積されて目づまり(膜閉塞)が生じやすく、フィルタ自体の性能が低下するという問題や、捕捉した微生物がフィルタ上で増殖して目づまりを促進するという問題があった。さらに、蓄積され、増殖した微生物がフィルタを透過した空気に混ざって大気中に再び放出されて人体に影響を及ぼすという問題があった。
【0005】
また、上記ミクロフィルタ以外に、大気中の微生物を簡易的に除去する方法としては、例えば、紫外線を照射する方法や、オゾンガスあるいはエチレンオキサイドガスを用いて殺菌することで微生物を除去する方法がある。
【0006】
しかし、紫外線は対象物の内部に到達しにくいので、大きな微生物など対象物が比較的大きい場合の殺菌能力が低いという問題があった。また、オゾンガス等の殺菌用ガスを用いる方法は、殺菌済み気体をユニット外に排出する前に、殺菌済気体の殺菌用ガス濃度を許容範囲まで低下させる必要があり、そのための処理手段が別途必要となっていた。
【0007】
さらに、殺菌用ガスを生成するために薬剤を用いる場合は、当該薬剤を定期的に補充する手間がかかり、補充しなければ継続して微生物を除去できないという問題があった。
【0008】
この問題に対する発明として、特許文献1に記載のフィルタがある。特許文献1に記載のフィルタは、濾過手段によって気体中の微生物を捕捉し、濾過手段に接した金属網を通電発熱させることで、フィルタに捕捉された有機物である微生物を有機性ガス化して除去する。
【0009】
しかしながら、特許文献1に記載のフィルタは、金属網を発熱させることから、フィルタの周囲の温度の上昇を招くという問題があった。そうすると、フィルタの周囲温度も上昇し、たとえば、フィルタが設置された室内温度を上昇させるという問題があった。さらに、温度の上昇条件は、場合によっては、フィルタの周囲の温度が細菌の繁殖を促進する最適温度になるという問題もあった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特開2004−130173号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明は上記実状に鑑みてなされたものであり、処理時に周囲温度の上昇が抑えられた、臭気原因物質、細菌、ウイルス、アレルゲン、カビから選ばれる少なくとも一つである細菌を、脱臭及び/または不活性化するときに用いられるフィルタ、これを用いた機器装置及び清浄化方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記課題を解決するために本発明者等は、細菌等を捕捉するフィルタに導電性を備えた多孔質のセラミックスを用い、通電したときの電流で細菌等を処理することで上記課題を解決できることを見出した。
【0013】
すなわち、本発明のフィルタは、体積抵抗率が5Ω・cm〜500Ω・cmの多孔質の導電性を有するセラミックスよりなり、細菌を捕捉するフィルタであって、導電性を有するセラミックスは、炭化ケイ素を主成分とし、アルミニウム、ガリウム、インジウム、ビスマス、バナジウム、ニオブ、タングステンから選ばれる1種以上よりなる導電性を付与する金属元素が分散しており、捕捉した細菌を、フィルタに通電して不活性化することを特徴とする。
【0014】
本発明の機器装置は、請求項1〜6のいずれかに記載のフィルタと、フィルタに接続される一対以上の電極と、一対以上の電極間に通電する電源装置と、を有することを特徴とする。
【0015】
本発明の清浄化方法は、細菌を、体積抵抗率が5Ω・cm〜500Ω・cmの多孔質の導電性を有するセラミックスよりなるフィルタに捕捉する捕捉工程と、細菌が捕捉された状態で、フィルタに通電する通電工程と、を有し、細菌を不活性化する清浄化方法であって、導電性を有するセラミックスは、炭化ケイ素を主成分とし、アルミニウム、ガリウム、インジウム、ビスマス、バナジウム、ニオブ、タングステンから選ばれる1種以上よりなる導電性を付与する金属元素が分散していることを特徴とする。
【発明の効果】
【0016】
本発明のフィルタは、通電したときに流れる電流で被処理物質を処理するものであり、処理時にフィルタ及びその周囲の温度の上昇を生じさせることなく、省電力で効果的に処理を進めることができる。
本発明の機器装置及び清浄化方法は、本発明のフィルタを用いるものであり、同様の効果を発揮する。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1】実施例1の殺菌装置の構成を示した図である。
図2】実施例2の殺菌装置のフィルタ近傍の構成を示した図である。
図3】実施例2の変形例の殺菌装置のフィルタ近傍の構成を示した図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
[フィルタ]
本発明のフィルタは、細菌(以下、被処理物質と称する)を捕捉するフィルタであって、捕捉した細菌を、フィルタに通電して不活性化する(以下、単に被処理物質を処理するとも称する)。すなわち、本発明のフィルタは、通電したときに流れる電流で被処理物質を処理することから、処理時にフィルタ及びその周囲の温度の上昇を生じさせることなく、処理を進めることができる。
【0019】
本発明のフィルタで処理される被処理物質は、臭気原因物質、細菌、ウイルス、アレルゲン、カビから選ばれる少なくとも一つである細菌である。これらは、人体に対して有害、あるいは人間が不快を感じる物質であることから、本発明においては被処理物質と称される物質は、人体を含む生体に対して有害、あるいは不快を感じる物質を示す。
【0020】
本発明のフィルタは通電した時に流れる電流で処理するものであることから、被処理物質は電流が流れたときに処理可能な物質であれば限定されるものではない。
【0021】
本発明のフィルタは、被処理物質を捕捉する部材である。ここで、被処理物質を捕捉するとは、被処理物質を多孔質の細孔内に留めることを示すだけでなく、フィルタの外表面及び細孔の内表面に接触した状態を含む。つまり、フィルタに通電したときに被処理物質を処理できる状態とすることを含む。
【0022】
そして、本発明のフィルタは、体積抵抗率が5Ω・cm〜500Ω・cmの多孔質の導電性を有するセラミックスよりなる。ここで、体積抵抗率(以下、各種特性値も同様)は、常温(20℃)近傍の温度域(たとえば、0〜40℃)での測定結果である。
【0023】
本発明のフィルタは、体積抵抗率が5Ω・cm〜500Ω・cmの導電性を有するセラミックスよりなることで、通電したときに電流が流れる。つまり、通電により被処理物質を処理できる。なお、体積抵抗率は、5Ω・cm〜500Ω・cmの範囲内であればよく、具体的な抵抗率は、フィルタを形成して被処理物質を処理するときに流れる電流(印加された電力)との関係(通電時の発熱量等)の条件により、適宜決定できる。
【0024】
体積抵抗率が5Ω・cm以下では抵抗率が低く、初期電流が大きくなり温度上昇が大きくなる。その為過加熱防止や過電流防止さらにはリーク防止などの対策をとる必要があり、必要以上に大型化、高価格化する。体積抵抗率が500Ω・cmを超えると、抵抗値が大きくなりすぎ、電流が小さくなり効果が得にくくなる。また、必要な電流を得ようとすると高電圧をかける必要があり、やはりリーク防止などの余分な装置をつける必要がある。
【0025】
また、本発明のフィルタは、多孔質のセラミックスよりなる。すなわち、多数の細孔を有することとなり、被処理物質と接触を生じる表面積が増加する。この結果、より多くの被処理物質の処理を行うことができる。なお、本発明のフィルタに開口する細孔は、表面のみに開口した独立した細孔だけではなく、連続した細孔を含む。本発明のフィルタは、連続した細孔をもつ多孔質のセラミックスよりなることが好ましい。
【0026】
本発明において、フィルタによる捕捉は、細孔により行われることが好ましい。すなわち、被処理物質を細孔内に捕捉することで、被処理物質を細孔内に留めることができ、フィルタに通電することで被処理物質を処理できるようになる。
【0027】
フィルタは、平均細孔径が5〜50μmであることが好ましい。フィルタ(多孔質のセラミックス)の平均細孔径が5〜50μmとなることで、被処理物質を細孔内に捕捉できるようになる。また、被処理物質が細菌と、臭気原因物質、ウイルス、アレルゲン、カビから選ばれる大きさの異なる一つ以上とである場合、それぞれを捕捉できるようになる。平均細孔径が5μm未満となると、被処理物質が細孔の内部に侵入しにくくなり、フィルタを多孔質体で形成することの効果が十分に得られなくなる。また、平均細孔径が50μmを超えるようになると、細孔の内部に侵入した被処理物質が細孔の内部に留まりにくくなる。また、平均細孔径が大きくなりすぎると、フィルタにおいて被処理部材の処理に寄与する表面積が小さくなり、処理性能の低下を招くようになる。フィルタの好ましい平均細孔径は8〜40μmであり、より好ましい平均細孔径は11〜35μmである。
【0028】
フィルタ(多孔質のセラミックス)の平均細孔径は、被処理物質の大きさにより好ましい細孔径を適宜選択することもできる。すなわち、被処理物質が、細菌を最も捕捉できる細孔径とすることが好ましい。臭気原因物質、ウイルス、アレルゲン、カビから選ばれる一種を含む場合には、それぞれも捕捉できる細孔径とすることが好ましい。
【0029】
フィルタ(多孔質のセラミックス)は、気孔率が15〜60%であることが好ましい。フィルタの気孔率がこの範囲内となることで、被処理物質を十分に捕捉できるようになる。気孔率が15%未満では、十分な量の細孔を確保できなくなり、多孔質体とすることの効果が十分に得られなくなる。気孔率が60%を超えると、細孔量が多くなりすぎ、フィルタ自身の強度の確保が十分でなくなる。好ましい気孔率は18〜55%であり、より好ましい気孔率は20〜50%である。
【0030】
本発明のフィルタを構成するセラミックスは、所定の体積抵抗率を有することができる材質であれば、その材質が限定されるものではない。本発明のフィルタを構成するセラミックスとしては、炭化ケイ素(SiC)セラミックス、カーボン等の導電性を有するセラミックス及びこれら導電性セラミックスを添加することにより導電性を得られるセラミックス複合体をあげることができる。
【0031】
本発明のフィルタを構成するセラミックスは、炭化ケイ素を主成分とする。ここで、SiCを主成分とするとは、セラミックス中のSiCの割合が50mass%以上又は50wt%以上である状態を示す。好ましくは、ほぼSiCよりなるセラミックスである。
本発明のフィルタを構成するセラミックスを炭化ケイ素を主成分とすることで、簡単に導電性セラミックスを得ることができる。
【0032】
そして、本発明のフィルタを構成するセラミックスは、導電性を付与する金属元素を分散する。これにより、SiCセラミックスに導電性を付与できる。ここで、導電性を付与する元素とは、炭化ケイ素焼結体に分散したときに、導電性を有することができる元素を示し、たとえば、金属元素,3価の元素,5価の元素をあげることができる。3価の元素としては、ホウ素、アルミニウム、ガリウム、インジウムより選ばれる1種以上をあげることができる。5価の元素としては、窒素、リン、ヒ素、アンチモンまたはビスマスのような窒素族の元素や、バナジウム、ニオブ、タングステンより選ばれる1種以上をあげることができる。本発明では、導電性を付与する元素として、アルミニウム、ガリウム、インジウム、ビスマス、バナジウム、ニオブ、タングステンから選ばれる1種以上よりなる金属元素を用いる。
【0033】
導電性を付与する元素の分散形態は、特に限定されるものではなく、SiC中に導電性を付与する元素が固溶、あるいは分散した形態であることが好ましい。SiC中に、原子状のアルミニウムが分散した形態がより好ましい。
【0034】
フィルタを構成するセラミックスの熱伝導率は、特に限定されるものではないが、過剰に大きくならないことが好ましい。セラミックスは温度により抵抗値が変化するので、通電時の温度変化が少ない方が好ましい。すなわち、熱伝導率は、90(W/mK)以下であることが好ましく、40〜90(W/mK)であることがより好ましい。熱伝導率が90(W/mK)を超えて大きくなると、通電時にフィルタに生じた熱が周囲に伝導されやすくなり、周囲が温度変化の影響を受けやすくなる。好ましい熱伝導率は40〜80(W/mK)であり、より好ましい熱伝導率は50〜80(W/mK)である。
【0035】
フィルタは、上記した特性を有するものであれば、その形状が限定されるものではない。すなわち、より多くの被処理物質を吸着可能な形状、すなわち大きな表面積を有する形状であることが好ましい。このような形状としては、たとえば、板状,筒状(円筒状や角筒状),ハニカム状等の形状をあげることができる。
【0036】
本発明のフィルタは、上記した特性を有するものであれば、その製造方法が限定されるものではない。たとえば、SiC粉末と導電性を付与する元素とを混合した状態で焼結させて焼結体を製造する方法,SiC粉末を導電性を付与する元素が含まれる雰囲気中で焼結させて焼結体を製造する方法等の方法をあげることができる。
【0037】
細菌は、大気中又は水中に浮遊していることが好ましい。すなわち、本発明のフィルタは、大気中に浮遊している被処理物質,水中に浮遊している被処理物質の処理を行うことができる。ここで、浮遊しているとは、被処理物質の粒子が大気中又は水中でそれぞれの流体から分離可能な状態で存在する状態を示す。
【0038】
[機器装置]
本発明の機器装置は、請求項1〜6のいずれかに記載のフィルタと、フィルタに接続される一対以上の電極と、一対以上の電極間に通電する電源装置と、を有する。すなわち、本発明の機器装置は、上記した本発明のフィルタを用いてなるものであり、上記のフィルタにより得られた効果を発揮する。
本発明の機器装置に用いられるフィルタは、上記したフィルタである。
【0039】
本発明の機器装置に用いられる一対以上の電極は、フィルタに接続されるものである。一対以上の電極は、フィルタに接続され部材であり、被処理物質を処理するための電流(電力)が、この一対以上の電極を介してフィルタに供給される。一対以上の電極(又はそれぞれの電極)の具体的な構成は、フィルタに通電できる構成であれば限定されるものではない。
【0040】
ここで、一対以上の電極の一対とは、フィルタに電流を流すときの正負一対の両極となる組み合わせを示す。そして、一対以上の電極において、複数対の電極とは、正極と負極の対になる関係(組み合わせ)が複数対ある状態を示す。すなわち、正負一対の電極を複数組有する構成(たとえば、対になる正極と負極が二つずつある構成)だけでなく、一つの極が複数対の電極を兼ねる構成(たとえば、正極が一つ、負極が二つの組み合わせ)を含む。
【0041】
本発明の機器装置に用いられる一対以上の電極は、フィルタに接続される接続位置が限定されるものではない。すなわち、フィルタに通電できる位置にそれぞれの電極を接続することができる。
【0042】
本発明の機器装置に用いられる電源装置は、一対の電極間に通電する。電源装置が一対の電極間に通電することで、フィルタの一対の電極間に電流が流れ、本発明の機器装置が被処理物質を処理できる。本発明において、電源装置は、一対以上の電極のそれぞれの電極が電気的に接続され、接続された電極を介して電流をフィルタに通電する装置である。
【0043】
電源装置は、フィルタに通電される電流(電力)の具体的な通電条件(たとえば、通電電流の値や通電時間等)を調節(任意に設定)できることが好ましい。また、電源装置は、フィルタに通電する電流(実際にフィルタに流れる電流)をモニタできることが好ましい。
【0044】
なお、本発明において、フィルタに通電される電流(電力)の具体的な通電条件は特に限定されるものではなく、被処理物質を処理できるだけの通電条件が適宜選択される。
【0045】
本発明の機器装置は、清浄化装置であることが好ましい。上記のように、本発明の機器装置に用いられるフィルタは、被処理物質(臭気原因物質、細菌、ウイルス、アレルゲン、カビから選ばれる少なくとも一つで示される人体を含む生体に対して有害、あるいは不快を感じる物質)を処理(脱臭及び/または不活性化)する場合に効果を発揮できるものであることから、生体の周囲の環境の清浄化に特に効果を発揮する。
【0046】
機器装置は、空気清浄機または水清浄機であることが好ましい。上記のように、本発明の機器装置に用いられるフィルタは、大気中又は水中に浮遊する被処理物質を処理することにより効果を発揮できるものであることから、大気や水の清浄化に特に効果を発揮する。
【0047】
本発明の機器装置は、上記以外の構成については、従来公知のフィルタを用いた空気清浄装置,水処理装置等と同様の構成とすることができる。すなわち、被処理物質をフィルタまで導くための手段,フィルタで処理した処理後の被処理物質をフィルタから機器装置の外部に除去する手段等の構成については、従来公知の装置と同様の構成とすることができる。
【0048】
[清浄化方法]
本発明の清浄化方法は、細菌を、体積抵抗率が5Ω・cm〜500Ω・cmの多孔質の導電性を有するセラミックスよりなるフィルタに捕捉する捕捉工程と、細菌が捕捉された状態で、フィルタに通電する通電工程と、を有し、細菌を不活性化する。そして、導電性を有するセラミックスは、炭化ケイ素を主成分とし、アルミニウム、ガリウム、インジウム、ビスマス、バナジウム、ニオブ、タングステンから選ばれる1種以上よりなる導電性を付与する金属元素が分散している。
【0049】
すなわち、本発明の清浄化方法は、上記の本発明のフィルタ及び/又は機器装置を用いて被処理物質を処理する清浄化方法である。つまり、本発明の清浄化方法は、上記した本発明のフィルタ及び/又は機器装置を用いてなるものであり、上記した効果と同様な効果を発揮する。
【0050】
なお、本発明の清浄化方法において、通電工程は、フィルタが被処理物質を捕捉した状態(被処理物質がフィルタに接触した状態)で通電する工程であり、捕捉工程を行った後に通電工程を実施しても、両工程を同時に実施しても、いずれでもよい。
【0051】
本発明の清浄化方法において、フィルタによる捕捉は、細孔により行われることが好ましい。
本発明の清浄化方法において、フィルタは、平均細孔径が5〜50μmであることが好ましい。
本発明の清浄化方法において、セラミックスは熱伝導率が90W/mK以下であることが好ましい。
【0052】
本発明の清浄化方法において、フィルタは、気孔率が15〜60%であることが好ましい。
本発明の清浄化方法において、細菌は、大気中又は水中に浮遊することが好ましい。
【実施例】
【0053】
以下、実施例を用いて本発明を説明する。
本発明の実施例として、殺菌装置を形成し、細菌の殺菌を行った。
【0054】
(実施例1)
(フィルタ)
まず、炭化ケイ素粉末(SiC),ケイ素粉末(Si),炭素粉末(C),アルミナ粉末(Al),分散剤,バインダ,水を表1に記載の割合で秤量・準備した。ここで、ケイ素粉末と炭素粉末は、ケイ素と炭素を一定比率で配合した。さらに、導電性付与化合物粉末において、アルミナ粉末は、炭化ケイ素粉末,炭素粉末及びケイ素粉末の合計に対して一定比率で配合した。また、所望の細孔特性を得るために、従来公知の造孔剤を添加してもよい。
【0055】
【表1】
【0056】
秤量・準備したそれぞれの粉末を、袋に入れて十分に混合した後に、バインダ,分散剤,水とともに、加圧型ニーダーで混練した。
得られた粘土状の混合粉末を、押出成形装置で円筒状に押出成形で成形し、ただちに成形体を乾燥した。
乾燥した成形体を、不活性ガス雰囲気(窒素ガス雰囲気)下で、焼成温度よりも低い温度で加熱して脱脂した。
その後、不活性ガス雰囲気(アルゴンガス雰囲気)下で焼結させた(焼成した)。
【0057】
焼結体を、酸化性ガス雰囲気(空気)下で加熱して、熱処理した。
熱処理後、放冷して円筒状の炭化ケイ素焼結体よりなるフィルタが製造された。
【0058】
製造された炭化ケイ素焼結体よりなるフィルタは、外径:φ6(mm),内径:φ4(mm),軸方向の長さ:100〜150(mm)の円筒状を有している。また、このフィルタは、体積抵抗率:50〜400Ω・cm,平均細孔径:8〜12(μm),気孔率:45〜50(%),熱伝導率:50〜70(W/mK)であった。
【0059】
(殺菌装置)
製造されたフィルタの軸方向の一方の端部に、銅線の一端を巻回して一方の電極を形成した。フィルタの他方の端部に、別の銅線を同様に巻回して、他方の電極を形成した。これにより、フィルタに一対の電極が接続された。
【0060】
一対の電極を形成する2本の銅線のそれぞれの巻回していない端部を、電源装置の正負両極のそれぞれに接続した。電源装置は、一対の電極に、直流電流を通電する装置である。本例において、電源装置は、通電電流,通電時間等の通電条件を調節可能な装置である。
以上により、本例の殺菌装置が製造できた。
【0061】
本例の殺菌装置1は、図1に示したように、円筒状の導電性を有する多孔質の炭化ケイ素セラミックス焼結体よりなるフィルタ2と、フィルタ2に接続された一対の電極3,3と、一対の電極3,3が接続された電源装置4と、から構成される。
【0062】
(殺菌試験)
製造された殺菌装置の評価として、大腸菌の殺菌を行った。
【0063】
(試験方法)
まず、滅菌水を準備し、試験管に注入し、口をアルミホイルでマスクする。
次に、試験管とは別に、滅菌水25mlを三角フラスコに注入し、口をアルミホイルでマスクする。
【0064】
つづいて、大腸菌を、三角フラスコに適量を入れ、手で十分に振とうして菌液を作製する。この菌液中には、1×10個/ml〜1×10個/mlの大腸菌が含まれている。
【0065】
次に、殺菌装置のフィルタ(及び電極)をオートクレーブで処理して滅菌した後に、同じく滅菌処理済みのセラミックス板(ジルコニア板)上に載置した。
菌液1mlを、フィルタの外表面上に滴下した。滴下された菌液は、多孔質のフィルタ内に全て吸収された。
【0066】
菌液の吸収を確認後、通電して殺菌した。通電条件は、電圧一定の条件下で、その他の条件(通電電流の値及び通電時間)は下記表2に示したとおりとした。なお、通電前後のフィルタの表面温度を赤外線放射温度計を用いて測定し、測定結果を表2に合わせて示した。
殺菌後、フィルタを取り外して、先に準備した試験管の滅菌水に投入し、浸漬した。フィルタを投入後、試験管の口をアルミホイルでマスクした。
【0067】
振とう器を用いて、試験管を100〜200rpmで10〜120分間シェイクした。このシェイクにより、試験管に残留した大腸菌が、フィルタから滅菌水に溶出し、大腸菌を含む菌液が調製された。
【0068】
オートクレーブで滅菌後、電子レンジで溶かした寒天培地(ニュートリエント培地)に、試験管から取り出した菌液を適量添加し、静置して培地を固化した。固化後、インキュベータで35℃,24時間培養した。
【0069】
その後、コロニー数をカウントして生菌数とした。測定結果を表2に示した。なお、上記の作業は、無菌室で行った。
また、殺菌試験は、同じ条件で2回ずつ行い、その平均を試験結果とした。また、通電を行わない比較試験も合わせて行った。
【0070】
【表2】
【0071】
表2に示したように、本例の殺菌装置によると、通電をした各試料と、通電をしない各試料との生菌数を比較すると、通電により殺菌率が向上していることが確認できる。すなわち、本例の殺菌装置は、大腸菌(細菌)の殺菌を行うことができることが確認できる。
【0072】
そして、本例の殺菌装置は、通電時間が同じであり、かつ通電電流の値のみが異なる試料同士を比較すると、通電電流の電流値が大きい試料の方が、殺菌率が向上していることが確認できる。すなわち、本例の殺菌装置は、通電電流の値が大きくなるほど、より多くの大腸菌(細菌)の殺菌を行うことができることが確認できる。
【0073】
また、本例の殺菌装置は、通電電流の値が同じであり、かつ通電時間のみが異なる試料同士を比較すると、通電時間が長い方が、殺菌率が向上していることが確認できる。すなわち、本例の殺菌装置は、通電時間が長くなるほど、より多くの大腸菌(細菌)の殺菌を行うことができることが確認できる。
【0074】
さらに、本例の殺菌装置は、フィルタの温度の測定結果が、通電前が27℃,通電後が27〜32℃となっている。すなわち、フィルタの温度の上昇を殆ど生じさせることなく、殺菌を行うことができている。ここで、大腸菌は、40℃以上で死滅することが知られており(換言すると、40℃以上に加熱しないと死滅しない)、本例の殺菌装置は、フィルタが発熱して大腸菌を殺菌したのではなく、フィルタに流れた電流により殺菌できたことが確認できる。
【0075】
上記のように、多孔質の導電性のセラミックスよりなるフィルタを用いた本例の殺菌装置は、周囲の温度の上昇を招くことなく細菌の殺菌を行うことができる効果を発揮した。すなわち、本発明のフィルタ,機器装置,清浄化方法は、周囲の温度の上昇を招くことなく細菌の殺菌を行うことができる効果を発揮することが確認できた。
【0076】
また、本例の殺菌装置のフィルタは、上記のように多孔質セラミックスよりなるフィルタを製造するときに同時に導電性を付与することができるため、簡単かつ低コストで製造できた。すなわち、本例の殺菌装置は、低コストで簡単に製造できる効果を発揮した。
【0077】
さらに、本例の殺菌装置のフィルタは、それ自身が導電性を有する炭化ケイ素を主成分としたセラミックスにより形成されており、内部に異なる材質による界面が存在しない。このため、衝撃が加わってもこの界面に起因する内部からの破壊が生じなくなっており、長期間殺菌性能を維持できる効果を発揮する。
【0078】
(実施例2)
本例は、フィルタをハニカム形状とした以外は、実施例1と同様な殺菌装置である。
本例に用いられるフィルタ2は、図2に示したように、軸方向に伸びるセル20を複数区画した形状である。図2に示したフィルタ2は、セル20及び外形が方形(正方形)をなしているが、この形状に限定されるものではない。
【0079】
また、ハニカム形状のフィルタ2は、セルの両端が開口したストレートフローのフィルタであっても、セル20を区画するセル壁を通過するウォールフローのフィルタであっても、いずれでもよい。
【0080】
本例の殺菌装置は、フィルタ2の形状が異なるのみであり、実施例1と同様な効果を発揮できる。さらに、本例の殺菌装置は、フィルタ2がハニカム形状であり、広い比表面積を有することから、細菌との接触(捕捉)面積が広くなり、より高い殺菌性能を示す効果を発揮する。
【0081】
(実施例2の変形例)
実施例2のフィルタ2を、図3に示したように、複数のハニカム分体21を接合材層22で接合してなるものとしてもよい。
【0082】
本例において、複数のハニカム分体21は、実施例2のハニカム形状のフィルタ2と同様に製造できる。また、本例において、接合材層22は、導電性を有する材質により形成されている。
【0083】
接合材層22を形成する導電性を有する材質としては、導電性セラミックス,導電性樹脂,金属等から選択できる。ここで、接合材層22を形成する導電性を有する材質としては、図3に示したように、全てのハニカム分体21に電極3が接触している(すなわち、全てのハニカム分体21に通電可能な)状態であれば、導電性を有していない材質を用いてもよい。
【0084】
本例においても、実施例2と同様な効果を発揮する。さらに、本例では、フィルタ2を構成する複数のハニカム分体21のそれぞれの特性(セル20の配置や大きさ,気孔率等)を異なるものとすることができる効果を発揮する。
【0085】
(別の変形例)
上記の各例の殺菌装置は、炭化ケイ素セラミックスよりなるフィルタ2に銅線を巻回して電極を形成していたが、フィルタ2の外周面に銅線を直接溶接(溶着)して電極を形成してもよい。
【符号の説明】
【0086】
1:殺菌装置
2:フィルタ
3:電極
4:電源装置
図1
図2
図3