(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
素材板を押し込んで多角形容器の内面形状を成形するパンチと、前記パンチに押し込まれた素材板を流入させる多角形の穴を有するダイスと、前記パンチを挿入する多角形の穴を有し、前記ダイスの穴との周囲において素材板を抑えるブランクホルダーとを備える絞り加工用金型であって、
前記ダイスおよびブランクホルダーのうちの少なくとも一方の挟み付け面において、前記多角形の穴の直線部に面する領域に凹みが形成されて、コーナー部に面する領域よりもクリアランスが拡大されてダイスとブランクホルダーとによる素材板の挟み付け力がコーナー部に面する領域よりも小さい部分を有することを特徴とする絞り加工用金型。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
前記第一外装材(53)は、四角形容器(41)の内部容積を確保するために、側壁部(46a)(46b)が高く、かつ2つの側壁部(46a)(46b)と底壁部(47)とが合わさった三面コーナー部(48)が直角に近い角度で曲がっていることが求められる。
【0008】
しかしながら、従来の絞り加工においては上記形状に成形しようとすると三面コーナー部(48)が破断するため、所期する形状への成形が困難であった。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、上述した従来の絞り加工における素材板の変形挙動を解明し、これにより高い側壁部と可及的に直角に近い三面コーナー部を成形できる絞り加工用金型を提供するものである。
【0010】
即ち、本発明は下記[1]〜[4]に記載の構成を有する。
【0011】
[1]素材板を押し込んで多角形容器の内面形状を成形するパンチと、前記パンチに押し込まれた素材板を流入させる多角形の穴を有するダイスと、前記パンチを挿入する多角形の穴を有し、前記ダイスの穴との周囲において素材板を抑えるブランクホルダーとを備える絞り加工用金型であって、
前記多角形の穴の直線部に面する領域に、ダイスとブランクホルダーとによる素材板の挟み付け力がコーナー部に面する領域よりも小さい部分を有することを特徴とする絞り加工用金型。
【0012】
[2]前記ダイスおよびブランクホルダーのうちの少なくとも一方の挟み付け面において、多角形の穴の直線部に面する領域に凹みが形成されて、コーナー部に面する領域よりもクリアランスが拡大されている前項1に記載の絞り加工用金型。
【0013】
[3]前記凹みの深さはダイスおよびブランクホルダーの凹みの合計深さが前記素材板の厚みの3〜20%である前項2に記載の絞り加工用金型。
【0014】
[4]前記素材板は金属箔と熱可塑性樹脂フィルムとを貼り合わせたラミネート材である前項1〜3のいずれかに記載の絞り加工用金型。
【発明の効果】
【0015】
上記[1]に記載の発明によれば、ダイスおよびブランクホルダーの多角形の穴の直線部に面する領域に、ダイスとブランクホルダーとによる素材板の挟み付け力がコーナー部に面する領域よりも小さい部分を有しているので、直線部のフランジ部がダイスの穴に引き込まれ易く、従来の金型よりも引き込み量が大きくなる。
【0016】
多角形容器の絞り加工においては、コーナー部では材料が圧縮されて引き込まれ難いために、側壁部を立ち上げる際には開口縁と底部とを結ぶ方向の引張力(F1)が生じる。一方、直線部においては、パンチの中心から放射方向に引張力が生じる。放射方向の引張力は材料を放射方向に伸ばす力であり、材料が放射方向に伸びると周方向には縮もうとするので、周方向においては材料をコーナー部から直線部に引き寄せる引張力(F3)が生じている。従って、多角形容器の三面コーナー部には(F1、F3)の二軸方向に引張力が生じているので、三面コーナー部が最も破断が発生し易い箇所である。
【0017】
ところが、本発明の金型では直線部の引き込み量が大きくなるので、放射方向の引張力が小さくなり、それに伴って周方向の引張力(F3)も小さくなる。三面コーナー部に発生する二軸方向に引張力(F1、F3)のうち、一方の引張力(F3)が小さくなることによって、三面コーナー部の破断の発生が抑制される。ひいては、絞り加工において、多角形容器の側壁部をより高く、三面コーナー部の角度を可及的に直角に近づけることができる。
【0018】
上記[2]に記載の発明によれば、前記ダイスおよびブランクホルダーのうちの少なくとも一方の挟み付け面において、直線部に面する領域に凹みが形成されて、コーナー部に面する領域よりもクリアランスが拡大されているので、直線部における挟み付け力が小さくなっている。これにより、上述した三面コーナー部における破断の発生が抑制される。
【0019】
上記[3]に記載の発明によれば、直線部における引き込み量を大きくして三面コーナー部における破断の発生を抑制しつつ、フランジ部のしわの発生も防止できる。
【0020】
上記[4]に記載の発明によれば、ラミネート材を成形することによって、側壁部が高くかつ三面コーナー部が可及的に直角に近い電池用外装材を作製することができる。
【発明を実施するための形態】
【0022】
[本発明にかかる絞り加工用金型]
図1〜
図2Bは本発明にかかる絞り加工用金型の一実施形態を示す分解斜視図である。
図3は
図1の絞り加工用金型(1)を用いた素材板の加工状態を示す断面図であり、
図4A〜
図4Cは絞り加工品(40)である。
図5は電池用外装材(50)であり、前記絞り加工品(40)は立体形状の第二外装材(51)を作製するための中間素材である。
【0023】
絞り加工用金型(1)は、素材板(2)を押し込んで四角形容器(41)の内面形状を成形するパンチ(10)と、前記パンチ(10)に押し込まれた素材板(2)を流入させる四角形の穴(21)をするダイス(20)と、前記ダイス(20)の穴(21)と同寸の四角形の穴(31)を有し、穴(21)(31)の周りで素材板(2)を抑えるブランクホルダー(30)とを備えている。
【0024】
前記ダイス(20)の穴(21)およびブランクホルダー(30)の穴(31)の開口縁は4つのコーナー部(22)(32)と2対の平行な直線部(23)(24)(33)(34)とで形成されている。
【0025】
図2Aは、前記ダイス(20)の平面図であり、挟み付け面を示している。
図2Aにおいて、点線は直線部(23)(24)に面する直線部領域(A1)(A2)とコーナー部(22)に面するコーナー部領域(A3)との境界である。前記ダイス(20)の挟み付け面において、直線部領域(A1)(A2)を含む領域に凹み(25)(26)が形成されてコーナー部領域(A3)の最も高い部分よりも低くなっている。前記凹み(25)(26)は、コーナー部領域(A3)においてはコーナー部(22)の頂点とダイス(20)外周の頂点を結ぶ線を稜線(L)として、この稜線(L)から直線部領域(A1)(A2)に向かってなだらかに深くなり、直線部領域(A1)(A2)内においては一定の深さ(d1)で形成されている。従って、ダイス(20)の挟み付け面は、コーナー部領域(A3)においては稜線(L)から直線部領域(A1)(A2)に向かって下り斜面となり、直線部領域(A1)(A2)においてはフラット面となる。前記凹部の深さ(d1)とは、挟み付け面において最も高い部分から凹み(25)(26)の底までの距離である。
【0026】
図2Bは、前記ブランクホルダー(30)の平面図であり、挟み付け面を示している。
図2Bにおいて、点線は直線部(33)(34)に面する直線部領域(B1)(B2)とコーナー部(32)に面するコーナー部領域(B3)との境界である。前記ブランクホルダー(30)の挟み付け面においても、直線部領域(B1)(B2)を含む領域に凹み(35)(36)が形成されてコーナー部領域(B3)よりも低くなっている。前記凹み(35)(36)は、ダイス(20)の凹み(25)(26)と同一形状であり、コーナー部領域(B3)においてはコーナー部(32)の頂点とブランクホルダー(30)外周の頂点を結ぶ線を稜線(L)として、この稜線(L)から直線部領域(B1)(B2)に向かってなだらかに深くなり、直線部領域(B1)(B2)内においては一定の深さ(d2)に形成されている。
【0027】
前記ダイス(20)とブランクホルダー(30)とを合わせた状態において、両方の凹み(25)(35)、(26)(36)は挟み付け面に対して対称形であり、凹み(25)(35)、(26)(36)の合計深さ(d1)(d2)が挟み付け面における最大クリアランスとなる。前記凹み(25)(26)(35)(36)の深さ(d1)(d2)は素材板(2)の弾性変形範囲内の小さいものであるため、加工時のダイス(20)およびブランクホルダー(30)の挟み付け面は凹み(25)(26)(35)(36)の底部においても素材板(2)に接触しており、直線部領域(A1)(A2)(B1)(B2)においても挟み付け力が利いている。素材板(2)に対する挟み付け力は、挟み付け面の高さが最も高い稜線(L)で最も大きく、コーナー部領域(A3)(B3)内で徐々に小さくなり、高さが最も低くクリアランスが最大となる直線部領域(A1)(A2)(B1)(B2)において挟み付け力は最も小さくなる。素材板(2)の厚み(t)に対する前記凹み(25)(26)(35)(36)の深さ(d1)(d2)の好適範囲については後に詳述する。
【0028】
[絞り加工における変形挙動]
絞り加工は、ダイス(20)の穴(21)に素材板(2)をパンチ(10)で押し込み、パンチ(10)からの引張力によって素材板(2)のフランジ部(45a)(45b)を穴(21)内に引き込むことによって側壁部(46a)(46b)を形成する加工方法である。
図4A〜4Cに示す絞り加工品(40)において、四角形容器(41)の開口縁(42)は1/4円のコーナー部(43)と一対の長辺および一対の短辺からなる直線部(44a)(44b)とによって形成され、絞り加工における変形挙動はコーナー部(43)と直線部(44a)(44b)とで異なっている。即ち、コーナー部(43)ではフランジ部(45a)に対してパンチ(10)からの半径方向の引張力によって円周方向に圧縮力が生じることによって材料が集中し、集中した材料が絞り抵抗になるために殆ど引き込まれない。一方、直線部(44a)(44b)はパンチ(10)の肩部とダイス(20)の肩部とによる曲げ変形であるから、パンチ(10)からの引張力に対して絞り抵抗が小さくフランジ部(45b)が引き込まれやすい。従って、四角形の素材板(2)から四角形容器(41)を絞り成形した加工品(40)は、材料が多く引き込まれる直線部(44a)(44b)の中央部でフランジ部(45b)の幅が狭くなっている。なお、
図5の第一外装材(51)は前記絞り加工品(40)のフランジ部(45a)(45b)を切り整えて封止用周縁部(52)を成形したものである。
【0029】
発明者は、上述した四角形容器の絞り加工における変形挙動を分析し、2つの側壁部(46a)(46b)と底壁部(47)との三面コーナー部(48)で破断が生じる原因を解明するとともに、この原因を緩和することによって三面コーナー部(48)を可及的に直角に近づけ、かつ高い側壁部(46a)(46b)を形成することに成功した。以下の説明において
図6を参照する。
【0030】
図6は絞り加工品(40)の要部拡大図であり、点線で囲まれた(60)は開口縁(42)の丸み、(61)は側壁部(46a)(46b)と底壁部(47)との境界部の丸み、(62)は側壁部(46a)と側壁部(46b)との境界部の丸みを示している。コーナー部(43)ではフランジ部(45a)が殆ど引き込まれないので、コーナー部(43)から立ち上がる側壁部(62)は底壁部(47)からの材料移動(矢印M1)および側壁部(46a)(46b)の境界近傍からの材料移動(矢印M2、M3)によって形成されると考えられる。このとき、容器底部の三面コーナー部(48)においては開口縁(42)のコーナー部(43)および底壁部(47)に向かう歪みが生じ、矢印F1で表される引張力が生じる。一方、直線部(44a)(44b)のフランジ部(45b)および側壁部(46a)(46b)においては、底壁部(47)の中心から放射方向(径方向)の引張力(F2)が生じるが、この引張力(F2)によって材料が放射方向に伸びようとすると周方向には縮もうとするので、周方向においては材料をコーナー部(43)の側壁部(62)から直線部(44a)(44b)の側壁部(46a)(46b)側に引き寄せる引張力(F3)が生じる。放射方向の引張力(F2)が大きくなって放射方向の材料の伸びが大きくなるほど、周方向の縮みが大きくなって周方向の引張力(F3)が大きくなり、コーナー部(43)の側壁部(62)の材料を直線部(44a)(44b)側に引っ張る力が大きくなる。従って、容器底部の三面コーナー部(48)では、上述した方向の歪みによる引張力(F1)力に加えて周方向の引張力(F3)が加わり、二軸方向の引張力(F1)(F3)によって応力が増大するので破断し易くなる。また、前記引張力(F1)(F3)は側壁部(46a)(46b)が高くなるほど大きくなり、また三面コーナー部(48)の角度が鈍角から直角に近くなるほど大きくなるから、このような形状に成形しようとすれば破断が起きやすくなる。なお、三面コーナー部(48)における歪み量は側壁部(62)と底壁部の丸み(61)との境界部(63)で最大となるので、破断は三面コーナー部(48)の頂点ではなくこの境界部(63)から発生しやすい。
【0031】
[本発明の絞り金型による変形挙動]
三面コーナー部(48)に発生する二軸方向の引張力(F1)(F3)のうちの少なくとも一方を小さくすれば、三面コーナー部(48)における破断の発生を抑制することができ、ひいては、四多角形容器(41)の側壁部(46a)(46b)をより高く、三面コーナー部(48)の角度を可及的に直角に近づけることができる。本発明の金型(1)においては、周方向の引張力(F3)が小さくなるような変形を実現することによって三面コーナー部(48)の破断の発生を抑制する。
【0032】
上述したように、周方向の引張力(F3)は直線部(44a)(44b)における放射方向の引張力(F2)に伴って生じるものであり、直線部(44a)(44b)における放射方向の引張力(F2)が小さくなるようにすれば周方向の引張力(F3)も小さくなる。放射方向の引張力(F2)は直線部(44a)(44b)における材料の伸びによるものであり、側壁部(46a)(46b)の高さが一定であれば、直線部(44a)(44b)においてより多くの材料をダイス(20)の穴(21)に送り込むようにすれば放射向の引張力(F2)を小さくすることができる。
【0033】
本発明においては、ダイス(20)およびブランクホルダー(30)の直線部領域(A1)(A2)(B1)(B2)に、ダイス(20)とブランクホルダー(30)とによる挟み付け力がコーナー部領域(A3)(B3)よりも小さい部分を形成することにより、直線部のフランジ部(45b)が穴(21)に送り込まれ易くなるようにしている。
【0034】
コーナー部領域(A3)(B3)と直線部領域(A1)(A2)(B1)(B2)とで挟み付け力に差をつける方法として、
図1〜
図2Bに示したように、ダイス(20)およびブランクホルダー(30)のうちの少なくとも一方の挟み付け面において、直線部領域(A1)(A2)(B1)(B2)に凹み(25)(26)(35)(36)を形成してコーナー部領域(A3)(B3)よりも低くする方法を推奨できる。これにより、直線部領域(A1)(A2)(B1)(B2)におけるクリアランスが拡大して挟み付け力が小さくなる。前記凹み(25)(35)、(26)(36)の深さ(d1)(d2)の合計は、素材板(2)の厚み(t)の3〜20%の範囲が好ましい。凹み(25)(35)、(26)(36)の深さ(d1)(d2)の合計が3%未満では材料の送り込み量が少なく破断防止効果も小さい。一方、凹み(25)(35)、(26)(36)の深さ(d1)(d2)の合計が20%を超えると、素材板(2)に対する挟み付け力の低下によって送り込み量が増え三面コーナー部(48)の破断抑制効果は向上するが、その反面フランジ部(45b)のしわを抑制するというブランクホルダー本来の効果が損なわれるおそれがある。電池用の外装材(50)においては絞り加工品(40)のフランジ部(45a)(45b)を封止用周縁部(52)として利用するので、直線部領域(A1)(A2)(B1)(B2)においてもしわの発生を抑制するに足りる挟み付け力が必要である。特に好ましい凹み(25)(35)、(26)(36)の深さ(d1)(d2)の合計は素材板の厚み(t)の5〜10%である。
【0035】
本発明は、素材板(2)の材質や厚みを限定するものではなく、アルミニウムやステンレス等の金属の薄板または箔、金属薄板または金属箔と熱可塑性樹脂フィルムとを貼り合わせたラミネート材の絞り加工に好適に広く利用できる。また、素材板(2)の厚みにも制限はないが、絞り加工に適した厚み(t)として50〜300μmの範囲を推奨できる。また、アルミニウム箔と熱可塑性樹脂フィルムとを貼り合わせたラミネート材は電池用外装材として好適に用いられる材料であり、本発明の絞り加工用金型で成形することによって側壁部が高くかつ三面コーナー部が可及的に直角に近い電池用外装材を作製することができる。
【0036】
[本発明の絞り用金型における凹み形状]
また、
図1〜
図2Bに示すように、前記凹み(25)(26)(35)(36)はコーナー部領域(A3)(B3)に跨がっていても良い。凹み(25)(26)(35)(36)が直線部領域(A1)(A2)(B1)(B2)からコーナー部領域(A3)(B3)に跨がって形成されていても、挟み付け面における最も高い部分はコーナー部領域(A3)(B3)に存在するのでコーナー部領域(A3)(B3)と直線部領域(A1)(A2)(B1)(B2)とで挟み付け力に差が生じるからである。
【0037】
また、凹み(25)(26)(35)(36)のコーナー部領域(A3)(B3)側が傾斜面で形成されていることも好ましく、挟み付け力が徐々に小さくなるので直線部(45a)(45b)のフランジ部(45b)がスムーズに引き込まれる。また、
図1〜
図2Bに示したように、凹み(25)(26)(35)(36)は側面が傾斜面で底面が平坦面で形成されていても良いし、全体が傾斜面で形成されていても良い。
図7のダイス(70)は、対向する長辺側の直線部領域(A1)にコーナー部領域(A3)の稜線(L)に至る傾斜面で形成された断面V字形の凹み(71)を設けたものである。このダイス(70)の短辺側の直線部領域(A2)には凹みを設けていない。
【0038】
図1〜
図3の絞り金型(1)は、ダイス(20)とブランクホルダー(30)の両方に凹み(25)(26)(35)(36)を設けているが、どちらか一方にのみ凹みを設けた金型も本発明に含まれる。どちらか一方にのみ凹みを設けた場合、挟み付け面のクリアランスはその凹みの深さ分が拡大される。
【0039】
また、直線部領域(A1)(A2)(B1)(B2)の全体に凹みが設けられていることに限定されるものではなく、直線部領域(A1)(A2)(B1)(B2)の一部に凹みを設けた金型も本発明に含まれる。ただし、引張力(F2)を小さくして十分に材料を送り込むには開口縁における直線部の長さの90%以上に凹みを設けることが好ましい。
図8のダイス(75)は、長辺側の直線部領域(A1)の中央部に直線部領域(A1)の長さの90%に凹み(76)を設けたものである。このダイス(75)の短辺側の直線部領域(A2)およびコーナー部領域(A3)には凹みを設けていない。
【0040】
また、全ての直線部領域に凹みを設けることにも限定されず、四角形容器であれば、例えば
図7のダイス(70)および
図8のダイス(75)のように対向する2辺にのみ凹み(71)(76)を設けても良い。対向する2辺に凹みを設けてこれらの辺における引張力(F2)を小さくすればその辺において生じる周方向の引張力(F3)も小さくなるからである。また、多角形容器が長方形である場合は、
図7のダイス(70)および
図8のダイス(75)のように、フランジ部が引き込まれ易い2つの長辺側の直線部領域(A1)に凹みを設けることが好ましい。
【0041】
以上はダイス(70)(75)に設ける凹み(71)(76)を例示して説明したが、ブランクホルダーに凹みを設ける場合も同じである。
【0042】
挟み付け力に差をつける他の手段としては、ダイスおよびブランクホルダーの少なくとも一方をコーナー部領域と直線部領域とに分割し、挟み付け面に付与する押圧力に差をつける方法を例示できる。
【0043】
また、パンチの形状、即ち成形する多角形容器は四角形に限定されるものではなく、三角形や五角形以上の容器を成形する金型も本発明に含まれる。
【0044】
[絞り加工のシミュレーション]
図7示した長辺側の直線部領域(A1)にV字形の凹み(71)を設けたダイス(70)と、
図10に示した凹みが無く挟み付け面がフラットなブランクホルダー(100)とを組み合わせた絞り加工用金型を用いて絞り加工のシミュレーションを行った。前記ダイス(70)の凹み(71)は中央の最も深い部分で深さ(d1)が6μmであり、ダイス(70)とブランクホルダー(100)との間の最大クリアランスが6μmである。また、比較例として、
図11に示した凹みが無く挟み付け面がフラットなダイス(101)と凹みが無く挟み付け面がフラットなブランクホルダー(100)とを組み合わせた絞り加工用金型を用いた絞り加工のシミュレーションを行った。
【0045】
全てのダイスおよびブランクホルダーの外寸は、長辺120mm×短辺80mmの長方形であり、それぞれの穴は、長辺側直線部が50.4mm、短辺側直線部が29.8mm、コーナー部が半径2.25mmの1/4円で形成されている。また、成形する四角形容器の側壁部の高さ(成形深さ)は8mmとした。
【0046】
素材板(2)は厚さ40μmのアルミニウム箔の両面に熱可塑性樹脂フィルムを貼り合わせた総厚(t):105μmのラミネート材とした。ラミネート材(2)の寸法はダイスおよびブランクホルダーの外寸と同じ長辺120mm×短辺80mmの長方形である。
【0047】
図9〜
図11は材料の移動状態を解析するためにメッシュ切りを行ったラミネート材(2)の1/4図であり、四角形容器の開口縁近傍は変形量が大きいと予測されるのでメッシュを細かくした。各メッシュ図の長辺はラミネート材(2)の長辺:120mmの1/2の60mmである。
【0048】
図9は加工前の状態であり、「○」は材料移動を検証するためのマーカーである。
【0049】
図10は凹み(71)を有するダイス(70)とフラットなブランクホルダー(100)を用いて絞り加工した時のシミュレーション図(以下、「本発明例」または「本発明例のシミュレーション図」という)であり、メッシュ図の上部に、ラミネート材(2)の位置に対応するダイス(70)およびブランクホルダー(100)を記載した。「●」は加工前の「○」が加工後に移動した位置を示すマーカーであり、○−●間の距離が材料の移動量を示している。
【0050】
図11は挟み付け面がフラットなダイス(101)とブランクホルダーを用いて絞り加工した時のシミュレーション図(以下、「比較例」または「比較例のシミュレーション図」という)であり、メッシュ図の上部に、ラミネート材(2)の位置に対応するダイス(101)およびブランクホルダー(100)を記載した。「▲」は加工前の「○」が加工後に移動した位置を示すマーカーであり、○−▲間の距離が材料の移動量を示している。
【0051】
図10および
図11において、メッシュが近接して太線として表されている部分が四角形容器の開口縁に対応する。また、移動量を比較するために、
図10の本発明例のシミュレーション図にも比較例の移動位置を示す「▲」を記載した。
【0052】
以下に、本発明例および比較例のシミュレーション図を比較する。
【0053】
2つのシミュレーション図は、直線部は材料の移動量が大きく、コーナー部では材料の移動が少なく、コーナー部の側壁は底壁部および直線部の側壁部からの材料移動によって形成されている、という共通の特徴を示している。また、直線部における移動量は直線部の中央で最大となることも共通している。しかし、直線部における移動量を比較すると、本発明は比較例よりも移動量が大きく、フランジ部の引き込み量が大きいことを示している。直線部の中央における引き込み量(S)は、本発明例の5.64mmに対して比較例では3.65mmである。また、コーナー部においては、比較例が殆ど移動していないのに対し、本発明例では材料移動が認められる。これは、本発明例がコーナー部においてもフランジ部が引き込まれて側壁部の形成に寄与していることを示している。
【0054】
なお、2つのシミュレーション図において、短辺側の外周部の位置に変化がなく短辺側ではフランジ部が引き込まれていないように見える。これは、素材板(2)においてダイスの肩部に対応する位置から外周(輪郭)までの距離で表されるフランジ幅が長辺側よりも短辺側の方が長いために、ダイスの肩部の近くの材料が引き込まれても外周近くの材料は殆ど移動しないためである。フランジ部はその幅方向において均一に伸びるのではなく、肩部に近い部分の伸び(歪み)が大きいので、フランジ幅が大きい場合は輪郭が変化しない。本シミュレーションはそのようなケースであり、長辺側および短辺側のフランジ幅は以下に計算されるとおり、短辺側のフランジ幅の方が約10mm大きく、短辺側の外周近くの材料は殆ど移動せず輪郭は殆ど変化しない。
【0055】
長辺側のフランジ幅(mm)={素材板の短辺(80)−穴の短辺側直線部(29.8)−コーナ部の半径(2.25)×2}/2=22.85mm
短辺側のフランジ幅(mm)={素材板の長辺(120)−穴の長辺側直線部(50.4)−コーナー部の半径(2.25)×2}/2=32.55mm
このように、長辺と短辺とでフランジ幅が異なる場合は引き込み量に差が生じるが、長辺または短辺のどちらかにおいて歪み低減の効果を得れば三面コーナー部の引張力を低下させることができる。
【0056】
図12は容器内のA点からフランジ部のB点を結ぶ直線上において、A点からの距離とシミュレーションによって計算した歪み値との関係を示すグラフである。本発明例の歪み値は比較例よりも低く、破断が生じにくいことを示している。なお、本発明例の歪み値が比較例を上回っている部分もあるが、これは本発明例と比較例とでは移動量(フランジ部の引き込み量)が異なるので、A点からの距離が同じでも加工前の素材板に対応する位置が異なり、歪み値が異なるためであると考えられる。また、破断が発生するのは歪み値が最大となる点であるから、歪み値の低い位置で本発明例が比較例を上回っても破断が生じることにはならない。
【0057】
以上より、本発明例では直線部における材料の引き込み量が大きく、
図6に示した放射向の引張力(F2)が低減し、ひいては周方向の引張力(F3)を低減させることができる。また、コーナー部でもフランジ部が引き込まれていることから、三面コーナー部(48)を通る引張力(F1)も低減すると考えられる。従って、三面コーナー部(48)の破断原因となる引張力(F1)(F2)が低減し、より高い側壁部と可及的に直角に近い三面コーナー部を形成することができる。
【0058】
また、
図13は、容器の成形深さを変化させた場合において、成形深さ(側壁部の高さ)とシミュレーションによって計算した最大歪み値との関係を示すグラフである。本図に示すように、本発明例の最大歪み値は比較例よりも低い。特に成形深さの大きい場合に本発明例と比較例との差が大きく、破断が発生しやすい深い成形における本発明の優位性を裏付けている。