【実施例1】
【0031】
まず、本実施例1に係るレーダ送受信機10の構成について説明する。
図1は、実施例1に係るレーダ送受信機10の構成を示すブロック図である。同図に示すように、このレーダ送受信機10は、アンテナ部11と、サーキュレータ12と、送信機13と、レーダ波送信処理部14と、受信機15と、記憶部16と、表示器17と、制御部20とを有する。
【0032】
アンテナ部11は、サーキュレータ12から出力されたレーダ波を送信するとともに、反射波を受信してサーキュレータ12に出力する。本実施例1では、このアンテナ部11を用いて送信及び受信を行っているが、送信用アンテナ部と受信用アンテナ部を別体とすることもできる。また、アンテナ部11は、回転しつつ周囲360度に対してレーダ波を送信するとともに、回転しつつ周囲360度から反射波を受信する。この反射波には、自船舶の周囲の海面による反射及び後方散乱が含まれる。
【0033】
サーキュレータ12は、送信機13、アンテナ部11及び受信機15に接続された3ポートサーキュレータである。このサーキュレータ12により、送信機13から出力されたレーダ波がアンテナ部11に出力され、アンテナ部11から出力された反射波が受信機15に出力される。
【0034】
送信機13は、レーダ波送信処理部14により生成された送信波形を所定のRF(Radio Frequency)周波数帯にアップコンバートして増幅することでレーダ波を生成し、該レーダ波をサーキュレータ12に出力する装置である。レーダ波送信処理部14は、周波数変調等がなされた変調パルスからなるレーダパルスの送信波形を生成し、この送信波形を送信機13に出力する。
【0035】
受信機15は、アンテナ部11より出力された反射波を増幅して、制御部20に出力する装置である。記憶部16は、ハードディスク装置や不揮発性メモリ等の記憶デバイスであり、PPI(Plan Position Indicator)画像データ16a、津波データ16b、陸地地形データ16c、海底地形データ16d及び移動履歴データ16eを記憶する。
【0036】
PPI画像データ16aは、反射波をXY座標系の信号に変換した画像データである。津波データ16bは、PPI画像データ16aに基づいて検出した津波に関するデータである。津波データ16bは、津波の位置、進行速度及び進行方向等の情報を含む。
【0037】
陸地地形データ16cは、自船舶の周囲の陸地の地形を示すデータである。海底地形データ16dは、自船舶の周囲の海底の地形を示すデータである。移動履歴データ16eは、自船舶の移動に関する履歴を示すデータである。移動履歴データ16eには、自船舶の位置、速度及び針路の履歴が示される。
【0038】
表示器17は、レーダ映像を表示する装置である。この表示器17には、円形の表示領域上を回転する走査線によって、対象物の2次元上の所在位置を表示するPPIスコープ等を用いることができる。本実施例1により検出された津波の端部である津波フロントは、1本ないしは数本の筋として表示器17上に表示される。なお、この表示器17には、海図を表示することもでき、自船舶の位置を表示器17に表示した海図上に重畳表示することも可能である。
【0039】
制御部20は、レーダ送受信機10を全体制御する制御部であり、PPI画像生成部21、津波フロント検出部22、津波速度算定部23及び到達予測部24を有する。実際には、これらの機能部に対応するプログラムを図示しないROMや不揮発性メモリに記憶しておき、これらのプログラムをCPU(Central Processing Unit)にロードして実行することにより、PPI画像生成部21、津波フロント検出部22、津波速度算定部23及び到達予測部24にそれぞれ対応するプロセスを実行させることになる。
【0040】
PPI画像生成部21は、受信機15から出力された反射波に基づいて、PPI画像データ16aを生成する処理部である。反射波は、レーダ波を反射した海面までのレーダ送受信機10からの距離Rと、レーダ波を反射した海面のレーダ送受信機10に対する相対方位θとを示すRθ座標系の信号である。PPI画像生成部21は、このRθ座標系の信号をXY座標系の信号に変換してPPI画像データ16aを生成する。
【0041】
PPI画像生成部21は、生成したPPI画像データ16aを表示器17に表示制御するとともに、記憶部16に格納する。なお、PPI画像生成部21は、PPI画像データ16aを生成する度に記憶部16に格納されるため、記憶部16には時系列で生成された複数のPPI画像データ16aが格納されることとなる。
【0042】
津波フロント検出部22は、記憶部16に格納された複数のPPI画像データ16aに基づいて、津波の端部である津波フロントを検出する処理部である。津波フロント検出部22は、フーリエ変換部22a、固定成分除去部22b、直線成分抽出部22c、津波データ判定部22d及びフーリエ逆変換部22eを有する。
【0043】
フーリエ変換部22aは、複数のPPI画像データ16aにより示されるPPI画面強度η(x,y,t)に対して3次元フーリエ変換を行なってパワースペクトルP(Kx,Ky,ω)を算出する処理部である。
【0044】
固定成分除去部22bは、フーリエ変換部22aにより算出されたパワースペクトルP(Kx,Ky,ω)から、周波数「0」付近の値を減算する処理部である。海岸線等の位置が移動しない部分については、その周波数が「0」若しくは「0」に極めて近い値となるためである。
【0045】
直線成分抽出部22cは、パワースペクトルP(Kx,Ky,ω)から直線成分を抽出する処理部である。パワースペクトルP(Kx,Ky,ω)は、風等によって海面に生じた波である波浪に由来するスペクトルと、津波フロントに生じた波に由来するスペクトルとが含まれ、このうち津波フロントに生じた波に由来するスペクトルがパワースペクトルP(Kx,Ky,ω)上で直線状の部分に現れることとなるため、この直線成分を抽出する。
【0046】
この点を具体的に説明すると、波浪に由来する波浪スペクトルは、波の分散性により、(Kx,Ky,ω)空間において所定の曲面(分散シェル)上及びその近傍に現れる。一方、津波フロントに生じた波に由来する津波スペクトルは、津波の波長が水深に比べて長いために分散性を有さず、(Kx,Ky,ω)空間において分散シェルとは異なる非分散シェル上及びその近傍に現れる。
【0047】
非分散シェルは、(Kx,Ky,ω)空間の原点、もしくは原点近傍から立ち上がる概略円錐面状のスペクトル曲面となる。震源からリング状に広がる津波フロントを検出して3次元フーリエ変換すると、津波スペクトルは非分散シェル上及びその近傍に現れる。船舶に搭載したレーダ送受信機10により検出できる津波フロントは、震源からリング状に広がる津波フロントの一部であり、非分散シェルの局所に対応する。具体的には、非分散シェルのうち、原点若しくはその近傍を通過する直線状に分布するスペクトルに対応する。したがって、直線成分抽出部22cがパワースペクトルP(Kx,Ky,ω)から直線成分を抽出することで、津波スペクトルを選択的に抽出することができる。
【0048】
津波データ判定部22dは、直線成分抽出部22cにより抽出された直線成分から津波の進行方向及び進行速度を判定する処理部である。この津波データ判定部22dによって判定された津波の進行方向及び進行速度は、津波データ16bとして記憶部16に格納される。かかる津波の進行方向は、直線成分抽出部22cにより抽出された直線成分を(Kx,Ky)平面に投影して得られる角度θに対応する。また、津波の進行速度は、直線成分抽出部22cにより抽出された直線成分の(Kx,Ky)平面に対する角度Cに対応する正接(タンジェント)により求められる。なお、角度Cの正接により求めた津波の進行速度は、レーダ送受信機10に対する相対的な速度である。このため、自船舶の船速がゼロで無い場合は、角度Cの正接により求めた津波の進行速度に対し、移動履歴データ16eに示された自船舶の船速分を補正することで、津波の陸地に対する進行速度(対地速度)を求める。
【0049】
フーリエ逆変換部22eは、直線成分抽出部22cにより抽出された直線成分である津波スペクトルをフーリエ逆変換する処理部である。ここでは説明の便宜上、直線成分である津波スペクトルの一時記憶についての説明は省略するが、直線成分抽出部22cが抽出した直線成分は、記憶部16に一時記憶すれば良い。かかるフーリエ逆変換を行うことにより、津波フロントがXY平面上の線分として得られることとなる。制御部20の図示しない表示制御部が、この津波フロントを表示器17に表示制御する。また、XY平面上の津波フロントの位置は、津波データ16bに対応付けて記憶部16に格納される。
【0050】
津波速度算定部23は、記憶部16内に複数の津波データ16bが存在する場合に、該複数の津波データ16bに含まれる津波フロントの位置の差に基づいて津波フロントの進行速度を算定する処理部である。かかる津波フロントの進行速度は、津波データ16bに対応付けて記憶部16に格納される。
【0051】
すでに説明したように、津波データ判定部22dによって津波フロントの進行速度が算出されるわけであるが、かかる津波速度算定部23が、津波フロントの位置の差に基づいて津波フロントの進行速度を算定し、両方の進行速度のずれをチェックすることで、進行速度を精度良く求めることができる。
【0052】
到達予測部24は、津波フロントの位置及び進行速度と陸地地形データ16cとを用いて、津波の陸地への到達を予測する処理部である。具体的には、陸地地形データ16cにより津波の進行方向に所在する陸地までの距離Lを求め、距離Lを津波の進行速度で除算して到達予測時間を予測する。津波の進行速度は、陸地に近づき水深が浅くなると遅くなるため、算定した到達予測時間は、実際に津波が到達するまでに要する時間よりも短くなる。したがって、算定した到達予測時間に基づいて警報を発すれば、実際の到達時間よりも早めに警報を行なうことができる。
【0053】
また、海底地形データ16dにより、津波フロントの現在位置から陸地までの水深及び海底地形が得られる場合には、水深及び海底地形による津波フロントの速度変化を予測し、到達予測時間をより高精度に求めることが可能となる。
【0054】
次に、
図1に示したPPI画像生成部21により生成されるPPI画像データ16aについて説明する。
図2は、PPI画像生成部21により生成されるPPI画像データ16aを説明するための説明図である。
【0055】
図2に示すように、PPI画像データ16aは、自船舶を中心とした反射波の強度分布となる。このPPI画像データ16aには、風等によって海面に生じた波浪からの反射波と、津波フロントに生じた波からの反射波とが含まれる。
【0056】
ここで、津波フロントは、PPI画像データ16aでは1本ないしは数本の筋として現れる。
図2では、津波フロント31及び32の2本の筋が現れた場合を示している。津波フロントは、必ずしも厳密な直線ではなく海底勾配や海岸形状によっては曲線状になるが、船舶近傍では細切れのノイズ状になる風浪に比べてほぼ直線状の筋となる。津波フロントの進行方向は、その峰に対して直角方向となる。
【0057】
この津波フロントからの反射波と波浪からの反射波とを識別するため、津波フロント検出部22は、フーリエ変換部22aによる3次元フーリエ変換を用いる。波浪からの反射波を3次元フーリエ変換すると、波浪スペクトルは(Kx,Ky,ω)空間において所定の曲面(分散シェル)上に現れる。
【0058】
図3は、波浪スペクトルが分布する分散シェルを説明するための説明図である。
図3に示すように、分散シェルは、波数Kx(rad/m)、波数Ky(rad/m)及び角速度波数ω(rad/sec)の周波数空間において、所定の曲面を形成する。この曲面は、原点に凹部を有する曲面である。
【0059】
水深に比して波長の短い波浪は、進行速度が波長に依存する分散性を有するため、この分散シェル上に分布することとなる。実際には、ノイズにより分散シェル付近で厚みをもった分布となる。
【0060】
図4は、ノイズにより厚みを有する波浪スペクトルの具体例を示す図である。
図4に示すように、波浪スペクトルは厚みを有するものの、
図3に示した分散シェルの曲面に沿って分布することとなる。
【0061】
このように波浪からの反射波を3次元フーリエ変換した波浪スペクトルが分散シェル上及びその近傍に現れるのに対し、津波フロントからの反射波を3次元フーリエ変換した津波スペクトルは、(Kx,Ky,ω)空間において非分散シェル上及びその近傍に分布する。その理由は、津波の波長が水深に比べて長いために分散性を有さないからである。
【0062】
図5は、津波スペクトルが分布する非分散シェルを説明するための説明図である。
図5に示すように、非分散シェルは、波数Kx(rad/m)、波数Ky(rad/m)及び角速度波数ω(rad/sec)の周波数空間において、所定の曲面を形成する。この曲面は、原点にから立ち上がる概略円錐面状のスペクトル曲面である。
【0063】
船舶に搭載したレーダ送受信機10により検出できる津波フロントは、震源からリング状に広がる津波フロントの一部であり、非分散シェルの局所に対応する。具体的には、津波スペクトルは、原点若しくはその近傍を通過する直線状に分布することとなる。実際には、ノイズにより非分散シェル付近で厚みをもった分布となる。
【0064】
図6は、ノイズにより厚みを有する津波スペクトルの具体例を示す図である。
図6に示すように、津波スペクトルは厚みを有するものの、
図5に示した非分散シェルの曲面に沿って直線状に分布することとなる。
【0065】
したがって、時系列に取得した複数のPPI画像データ16aから得られるPPI画面強度η(x,y,t)に対し、3次元フーリエ変換を行なってパワースペクトルP(Kx,Ky,ω)を求めると、分散シェルにしたがう波数スペクトルと直線状の部分に現れる津波スペクトルとが混在したスペクトルとなる。
【0066】
図7は、波浪スペクトルと津波スペクトルとが混在したスペクトルの存在範囲の説明図である。
図7に示すパワースペクトルでは、津波スペクトル41は、(Kx,Ky)平面上において傾きθを有し、角速度ω方向において傾きCを有する直線である。θは、自船舶の針路を基準とした場合の津波フロントの進行方向を示し、Cの正接(タンジェント)は、津波フロントの進行速度を示している。なお、津波フロントの峰に曲がりがあれば、津波スペクトル41は、峰の曲がりに対応した太さをもって分布することとなる。また、津波フロントに非線形性があればkによらずに速度が一様にならない場合があり、この場合には、津波スペクトルは41厳密な直線でなく、曲がりが生じる。
【0067】
直線成分抽出部22cは、
図7に示したパワースペクトルから直線成分を抽出する。具体的には、直線成分抽出部22cは、分散シェル上に分布する波浪スペクトルをパワースペクトルから除去することで、津波スペクトルに対応する直線成分を抽出する。また、パワースペクトル内に存在する直線を画像処理技術を用いて検出することで、津波スペクトルに対応する直線成分を抽出することもできる。
【0068】
このようにして抽出した津波スペクトルをフーリエ逆変換部22eによりフーリエ逆変換することで、津波フロントがXY平面上の線分として得られる。
図8は、フーリエ逆変換により得られた津波フロントを説明するための説明図である。
【0069】
図8に示すように、フーリエ逆変換により得られた津波フロントを表示器17に表示することにより、操作者が津波の位置を簡易に視認することが可能となる。また、津波の進行方向や進行速度を合わせて表示することもできる。また、
図2に示したPPI画像データ16aと重畳表示するようにしてもよい。
【0070】
次に、レーダ送受信機10の処理手順について説明する。
図9は、レーダ送受信機10の処理手順を示すフローチャートである。
図9に示すように、レーダ送受信機10は、まず、送信機13が生成したレーダ波をアンテナ部11より送信する(ステップS101)。その後、海面で反射した反射波をアンテナ部11により受信し(ステップS102)、受信機15により増幅して制御部20に出力する。
【0071】
制御部20は、受信した反射波に基づいて、PPI画像データ16aを生成し(ステップS103)、生成したPPI画像データ16aを記憶部16に格納制御するとともに表示器17に表示制御する(ステップS104)。
【0072】
フーリエ変換部22aは、記憶部16に所定数のPPI画像データ16aが蓄積されたかを判定する(ステップS105)。記憶部16に蓄積されたPPI画像データ16aが所定数未満である場合には(ステップS105;No)、レーダ送受信機10はステップS101に移行し、レーダ波を送信する。
【0073】
所定数のPPI画像データ16aが蓄積されたならば(ステップS105;Yes)、フーリエ変換部22aは、所定数のPPI画像データ16aにより示されるPPI画面強度η(x,y,t)に対して3次元フーリエ変換を行なってパワースペクトルP(Kx,Ky,ω)を求める(ステップS106)。直線成分抽出部22cは、パワースペクトルP(Kx,Ky,ω)から、津波スペクトルに対応する直線成分を抽出する(ステップS107)。
【0074】
津波データ判定部22dは、直線成分抽出部22cにより抽出された直線成分の傾きから、津波フロントの進行速度及び進行方向を判定する(ステップS108)。また、フーリエ逆変換部22eは、直線成分抽出部22cにより抽出された直線成分をフーリエ逆変換する(ステップS109)。フーリエ逆変換により得られた津波フロントは、表示器17に表示制御される(ステップS110)。
【0075】
到達予測部24は、津波フロントの位置及び進行速度と陸地地形データ16cとを用いて、津波の陸地への到達を予測する(ステップS111)。予測結果は、表示器17への表示制御や、音声出力による報知、通信による他船舶や陸上基地への通知に用いられる。
【0076】
上述してきたように、本実施例1では、自船舶周囲の海面から反射波を取得してPPI画像データ16aを作成する処理を繰り返し、時系列のPPI画像データ16aにより示されるPPI画面強度η(x,y,t)を3次元フーリエ変換してパワースペクトルP(Kx,Ky,ω)を算出し、パワースペクトルP(Kx,Ky,ω)から直線成分を抽出することで津波フロントを検出するよう構成したので、船舶に搭載したレーダを用いて津波を検出することができる。
【0077】
また、パワースペクトルP(Kx,Ky,ω)から抽出した直線成分に対してフーリエ逆変換を行なって表示器17に表示制御することで、津波フロントの自船舶に対する相対位置を視認可能とすることができる。
【0078】
さらに、パワースペクトルP(Kx,Ky,ω)から抽出した直線成分の傾きから津波フロントの進行方向及び進行速度を求めることができるので、津波の陸地への到達を予測して、警報を発することができる。
【0079】
なお、上記実施例1では、説明の便宜上、画像処理技術を用いてパワースペクトル内に存在する直線を検出する場合についての説明を省略したが、例えば周知の微分処理技術(例えば、SOBELオペレータ等)を適用して各画素位置におけるエッジの方向と強度を算出し、所定値以上のエッジ値及びエッジ方向を持つ画素が所定の画素数以上連続する場合には、直線を形成する複数の画素を取り出し、これらの画素から回帰直線を推定することにより、直線を抽出することが可能となる。
【実施例2】
【0080】
ところで、上記実施例1では3次元フーリエ変換を用いてPPI画像データ16aから津波フロントを検出する場合について説明したが、画像処理技術を用いてPPI画像データ16aから津波フロントを検出することもできる。そこで、本実施例2では、画像処理技術を用いてPPI画像データ16aから津波フロントを検出する場合について説明する。
【0081】
まず、実施例2に係るレーダ送受信機110の構成について説明する。
図10は、実施例2に係るレーダ送受信機110の構成を示すブロック図である。同図に示すように、レーダ送受信機110は、津波フロント検出部120が画像処理技術を用いて津波フロントを検出する点が
図1に示したレーダ送受信機10と異なる。その他の構成及び動作については
図1に示したレーダ送受信機10と同様であるので、同一の構成要素には同一の符号を付してその詳細な説明を省略する。
【0082】
津波フロント検出部120は、ノイズ除去部121、エッジ検出部122及び線分検出部123を有する。ノイズ除去部121は、PPI画像生成部21により生成されたPPI画像データ16aを記憶部16から読み出し、ノイズの除去を行なう処理部である。具体的には、メディアンフィルタ等の周知の積分オペレータをPPI画像データ16aに適用することで、PPI画像データ16aに存在する孤立点等を除去する。
【0083】
エッジ検出部122は、ノイズ除去部121によりノイズが除去されたPPI画像データ16aに対して、エッジ検出処理を行なう処理部である。このエッジ検出処理としては、SOBELオペレータなどの任意の画像処理技術を用いることができ、このSOBELオペレータを適用することで、画素毎のエッジ強度とエッジ方向を取得することができる。
【0084】
線分検出部123は、エッジ検出部122により抽出されたエッジを用いて、PPI画像データ16a内の線分を検出する処理部である。例えば、上述したSOBELオペレータによりエッジを検出した場合には、各エッジのエッジ強度とエッジ方向が得られるため、この微分画像データを所定のしきい値で2値化することにより所定値以上のエッジ強度を持つ画素を抽出することができる。この2値画像を形成する各画素のうち、所定の画素数連続しない画素を除去すると、津波フロントを形成する各画素のみを残すことができる。その後、これらの画素を用いて回帰曲線による曲線推定を行うことで、津波フロントをなす線分を検出することができる。なお、本実施例2では、積分オペレータ、微分オペレータ及び回帰曲線の推定技術を用いることとしたが、本発明はこれに限定されるものではなく、線分を抽出する各種の画像処理技術を用いることができる。なお、この線分検出部123により検出された津波フロントを示す線分は、津波データ16bとして記憶部16に格納される。
【0085】
次に、津波フロント検出部120による画像処理技術についてさらに詳細に説明する。
図11は、津波フロント検出部120が画像処理の対象とするPPI画像データ16aを説明するための説明図である。
【0086】
図11に示すPPI画像データ16aは、実施例1と同様に、PPI画像生成部21により生成される。PPI画像データ16aは、自船舶を中心とした反射波の強度分布となる。このPPI画像データ16aには、風等によって海面に生じた波浪からの反射波と、津波フロントに生じた波からの反射波とが含まれる。
【0087】
波浪からの反射波と津波フロントに生じた波からの反射波とを識別するため、津波フロント検出部120は、画像処理技術によりノイズ除去、エッジ検出及び線分検出を行う。
【0088】
具体的には、
図11に示したPPI画像データ16aに対してノイズ除去部121がメディアンフィルタ等の積分オペレータを適用すると、PPI画像データ16a上の孤立点が除去されるため、
図12に示す画面データが得られる。例えば、3×3のメディアンフィルタを用いた場合には、たとえ注目画素の画素値が高くとも、注目画素に隣接する隣接画素の画素値が低い場合には、注目画素の画素値が低くなり、周囲の画素によっては孤立画素が完全に除去される。
【0089】
図12に示したノイズ除去後のPPI画像データに対してエッジ検出部122によりSOBLEオペレータを適用すると、各画素のエッジ強度及びエッジ方向が得られる。ここで、所定のしきい値を用いて微分画像データを2値化すると、
図13に示すような微分画像データが得られる。
図13に示すように、この微分画像データには、津波フロントを形成する画素と、比較的大きな波浪を形成する画素が含まれている。
【0090】
ここで、この微分画像データを形成する画素のうち、所定の画素数連続しない画素を除外すると、波浪を形成する画素を除外することができるため、結果的に
図14に示すように、津波フロントを形成する画素のみを残すことが可能となる。このため、この画素を用いて回帰曲線による曲線近似を行うことで、津波フロントを形成する曲線(線分)を抽出することができる。なお、かかる線分検出部123により検出された線分は、津波データ16bとして記憶部16に格納されるとともに、表示器17に表示される。
【0091】
このように、津波フロント検出部120は、1枚のPPI画像データ16aから津波フロントを検出する。このため、津波フロントの進行速度及び進行方向については、津波速度算定部23により行うこととなる。具体的には、津波速度算定部23は、津波フロント検出部120により複数回津波フロントが検出された場合に、津波フロントの位置の差に基づいて津波フロントの進行速度及び進行方向を算定する。
【0092】
次に、レーダ送受信機110の処理手順について説明する。
図15は、レーダ送受信機110の処理手順を示すフローチャートである。
図15に示すように、レーダ送受信機110は、まず、送信機13が生成したレーダ波をアンテナ部11より送信する(ステップS201)。その後、海面で反射した反射波をアンテナ部11により受信し(ステップS202)、受信機15により増幅して制御部20に出力する。
【0093】
制御部20は、受信した反射波に基づいて、PPI画像データ16aを生成する(ステップS203)。制御部20は、生成したPPI画像データ16aを記憶部16に格納制御するとともに表示器17に表示制御する(ステップS204)。
【0094】
ノイズ除去部121は、生成されたPPI画像データ16aに対し、ノイズ除去を行う(ステップS205)。エッジ検出部122は、ノイズ除去部121によりノイズが除去されたPPI画像データ16aからエッジを検出する処理を行う(ステップS206)。線分検出部123は、エッジ検出部122により抽出されたエッジを用いて、PPI画像データ16a内の線分を検出する(ステップS207)。
【0095】
制御部20は、線分検出部123により検出された線分を津波フロントとして表示器17に表示制御する(ステップS208)とともに、記憶部16に津波データ16bとして格納する。津波速度算定部23は、記憶部16に過去の津波データが格納されているか否かを判定する(ステップS209)。記憶部16に過去の津波データが格納されていなければ(ステップS209;No)、レーダ送受信機110はステップS201に移行し、レーダ波を送信する。
【0096】
記憶部16に過去の津波データが格納されていたならば(ステップS209;Yes)、津波速度算定部23は、過去の津波データに示された津波フロントの位置と、新たに検出した津波フロントの位置を比較し、津波の進行速度及び進行方向を算定する(ステップS210)。
【0097】
到達予測部24は、津波フロントの位置及び進行速度と陸地地形データ16cとを用いて、津波の陸地への到達を予測する(ステップS211)。予測結果は、表示器17への表示制御や、音声出力による報知、通信による他船舶や陸上基地への通知に用いられる。
【0098】
上述してきたように、本実施例2では、自船舶周囲の海面から反射波を取得してPPI画像データ16aを作成し、PPI画像データ16aに対する画像処理によって津波フロントを検出するよう構成したので、船舶に搭載したレーダを用いて津波を検出することができる。
【0099】
また、1枚のPPI画像データ16aから津波フロントを検出することができるので、複数枚のPPI画像データ16aを用いて3次元フーリエ変換により津波フロントを検出する構成に比して処理負荷が小さく、高速に津波フロントの検出を行うことができる。
【実施例3】
【0100】
上記実施例1及び2では、津波フロントを検出した場合に表示器17に表示制御する場合について説明したが、津波フロントを検出した場合に他の船舶等に通知して警告を行うようにしてもよい。本実施例3では津波フロントの検出時に通信による警告を行う場合について説明を行う。
【0101】
まず、実施例3に係る津波検出方法の概念について説明する。
図16は、実施例3に係る津波検出方法を説明するための説明図である。
図16に示す船舶51〜53は、互いに通信可能である。また、船舶51〜53は、それぞれがレーダ送受信機210を搭載しており、津波を検出可能である。
【0102】
船舶51〜53のいずれかが津波を検出した場合には、津波を検出した船舶は、他の船舶等と通信し、津波の検出を通知する。また、津波の検出を通知された船舶は、該通知を他の船舶等に転送する。
【0103】
図16は、船舶51が津波70を検出し、船舶52及び船舶53に津波の検出を通知した場合を示している。船舶52は、船舶51から通知された津波の検出結果を陸上に設けられた陸上基地60に転送している。同様に、船舶53は、船舶51から通知された津波の検出結果を陸上に設けられた陸上基地60に転送している。
【0104】
このように、津波を検出可能な複数の船舶により通信ネットワークを形成し、いずれかの船舶が津波を検出した場合に他の船舶や基地に通知するよう構成することで、津波の発生を効率よく検出することができる。
【0105】
次に、実施例3に係るレーダ送受信機210の構成について説明する。
図17は、実施例3に係るレーダ送受信機210の構成を示すブロック図である。同図に示すように、レーダ送受信機210は、通信部18をさらに備え、制御部20が通知制御部25をさらに備える点が
図1に示したレーダ送受信機10と異なる。その他の構成及び動作については
図1に示したレーダ送受信機10と同様であるので、同一の構成要素には同一の符号を付して説明を省略する。
【0106】
通信部18は、他の船舶に搭載されたレーダ送受信機や陸上基地等と通信するインタフェースである。また、通知制御部25は、通信部18による通信を制御する処理部である。具体的には、通知制御部25は、津波フロント検出部22により津波フロントが検出され、津波データ16bが生成された場合には、津波データ16bを他の船舶や陸上基地に送信し、他の船舶から津波データ16bを受信した場合には、受信した津波データ16bについて自船舶内で報知するとともに、受信した津波データ16bを転送する処理を行う。
【0107】
図18は、通知制御部25の処理手順を示すフローチャートである。
図18に示すように、通知制御部25は、津波フロント検出部22により津波フロントが検出されたか否かを判定する(ステップS301)。
【0108】
津波フロント検出部22により津波フロントが検出されたならば(ステップS301;Yes)、通知制御部25は、津波フロント検出部22により生成された津波データ16bを通信部18によって他の船舶や陸上基地等に送信し(ステップS305)、処理を終了する。
【0109】
津波フロント検出部22により津波フロントが検出されていなければ(ステップS301;No)、通知制御部25は、通信部18が他の船舶や陸上基地から津波データを受信したか否かを判定する(ステップS302)。通信部18が津波データを受信していなければ(ステップS302;No)、通知制御部25は処理を終了する。
【0110】
一方、通信部18が他の船舶や陸上基地から津波データを受信したならば(ステップ302;Yes)、通知制御部25は、受信した津波データについて自船舶内で報知する(ステップS303)。自船舶内の報知は、表示器17への表示制御や、音声による警報等を用いればよい。自船舶内での報知を行った後、通知制御部25は、受信した津波データを通信部18によって他の船舶や陸上基地等に送信し(ステップS304)、処理を終了する。
【0111】
上述してきたように、本実施例3では、津波を検出した場合には他の船舶や陸上基地に津波データを送信し、他の船舶や陸上基地から津波データを受信した場合には自船舶内で報知するとともに受信した津波データを転送するよう構成したので、津波の発生を効率よく検出することができる。
【0112】
なお、本実施例3では、実施例1と同様の津波フロント検出部22により3次元フーリエ変換を用いて津波フロントを検出する場合を例に説明を行ったが、実施例2と同様の津波フロント検出部120により画像処理技術を用いて津波フロントを検出するように構成してもよい。
【0113】
また、上記実施例1〜3では、自船舶が停止した状態でPPI画像データ16aを生成し、津波フロントを検出する場合について説明したが、自船舶が移動や針路変更を行なった場合には、かかる自船舶の移動や針路変更について補正を行なう。
【0114】
具体的には、時刻tから時刻(t+1)の間に自船舶が移動したならば、時刻tに生成したPPI画像データ16aを自船舶の移動分だけずらすことで、時刻(t+1)における自船舶の位置を基準とした時刻tのPPI画像データ16aが得られる。また、時刻tから時刻(t+1)の間に自船舶が変針したならば、時刻tに生成したPPI画像データ16aを自船舶の変針分だけ回転させることで、時刻(t+1)における自船舶の方向を基準とした時刻tのPPI画像データ16aが得られる。
【0115】
自船舶の移動及び変針の履歴は、移動履歴データ16eとして記憶部16に格納されているので、移動履歴データ16eに基づいて複数のPPI画像データ16aを補正することで、自船舶の移動及び変針の影響を除去したPPI画面強度η(x,y,t)が得られる。したがって、このPPI画面強度η(x,y,t)を3次元フーリエ変換すれば、自船舶の移動及び変針の影響を受けずにパワースペクトルを算定することができる。
【0116】
また、上記実施例1〜3では、レーダの反射波から画像データを生成し、該画像データに基づいて津波フロントを検出する場合について説明したが、本発明はこれに限定されるものではなく、海面の状態を示す任意の多次元データを津波フロントの検出に使用することができる。また、実施例1では、3次元フーリエ変換を用いる場合について説明したが、本発明は3次元フーリエ変換に限定されるものではなく、任意の多次元信号処理を使用可能である。
【0117】
また、上記実施例1〜3で図示した各構成は機能概略的なものであり、必ずしも物理的に図示の構成をされていることを要しない。すなわち、各装置の分散・統合の形態は図示のものに限られず、その全部または一部を各種の負荷や使用状況などに応じて、任意の単位で機能的または物理的に分散・統合して構成することができる。例えば、制御部20が有する機能の一部又は全てをASICやPGLA等の回路によって実現するよう構成してもよい。
【0118】
また、上記実施例1〜3では、本発明を船舶用レーダ送受信機に適用した場合を示したが、本発明はこれに限定されるものではなく、航空機用レーダ送受信機や潜水艦用レーダ送受信機、人工衛星搭載レーダ等の他のレーダ送受信機に適用することもできる。