(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
回分式で基質としてのリグノセルロース系バイオマスとアンモニア水とを混合して基質混合物を得る工程と、該基質混合物を所定の温度に加熱すると共に該温度に所定の時間保持することにより該基質からリグニンを解離させ又は該基質を膨潤させてアンモニア含有糖化前処理物を得る工程と、該アンモニア含有糖化前処理物からアンモニアを放散させてアンモニアが分離されたアンモニア分離糖化前処理物を得る工程と、該アンモニア含有糖化前処理物から放散されたアンモニアを冷却して凝縮させると共に水に溶解させてアンモニア水とし該アンモニア水を回収する工程とを備え、
該基質混合物を加熱する第1の熱媒体と、該アンモニアを凝縮させる際の凝縮熱と水に溶解させる際の溶解熱とを回収する第2の熱媒体とをヒートポンプに供給し、該ヒートポンプにおける第1の熱媒体と第2の熱媒体との熱交換により、加熱された第1の熱媒体を用いて該基質混合物を加熱すると共に、冷却された第2の熱媒体を用いて該アンモニアを冷却するバイオマスの前処理方法において、
第1の熱媒体を該ヒートポンプと該基質混合物を加熱する部分とに循環させる第1の循環経路に、該基質混合物を加熱する部分を迂回して該ヒートポンプに循環させる第1のバイパス循環経路を設け、第1の熱媒体を第1のバイパス循環経路に循環させることにより、該所定の温度より高温に加熱し、該所定の温度より高温に加熱された第1の熱媒体を予め所定量貯留しておくと共に、該基質混合物が該所定の温度に到達するまでの間、該所定の温度より高温に加熱された第1の熱媒体により該基質混合物を加熱し、
第2の熱媒体を該ヒートポンプと該アンモニアを冷却する部分とに循環させる第2の循環経路に、該アンモニアを冷却する部分を迂回して該ヒートポンプに循環させる第2のバイパス循環経路を設け、第2の熱媒体を第2のバイパス循環経路に循環させることにより、第2の熱媒体を第2の循環経路に循環させるときの温度よりも低温に冷却し、第2の循環経路に循環させるときの温度よりも低温に冷却された第2の熱媒体を予め所定量貯留しておくと共に、該アンモニア含有糖化前処理物から放散されるアンモニアの濃度が所定の濃度に低下し、該アンモニアの量が所定の量に低下するまでの間、第2の循環経路に循環させるときの温度よりも低温に冷却された第2の熱媒体により該アンモニアを冷却することを特徴とするバイオマスの前処理方法。
請求項1又は請求項2記載のバイオマスの前処理方法において、前記所定の温度より高温に加熱された第1の熱媒体の貯留は、前記基質混合物を得る工程の間に行われ、第2の循環経路に循環させるときの温度よりも低温に冷却された第2の熱媒体の貯留は、該基質混合物を得る工程及び前記アンモニア含有糖化前処理物を得る工程の間に行われることを特徴とするバイオマスの前処理方法。
請求項4記載のバイオマスの前処理方法において、1つの反応容器で得られた前記アンモニア含有糖化前処理物からアンモニアを放散させる間に他の1つの反応容器で前記基質混合物を得る工程を行い、同時に前記所定の温度より高温に加熱された第1の熱媒体の貯留を行うことを特徴とするバイオマスの前処理方法。
【背景技術】
【0002】
近年、自動車用燃料として、ガソリン−エタノール混合燃料を用いることが検討されている。前記エタノールとして、植物性物質の発酵、蒸留により得たバイオエタノールを用いると、土壌管理を厳密に行うことにより所謂カーボンニュートラル効果を得ることができ、二酸化炭素の排出量を低減して地球温暖化の防止に寄与できるものと考えられている。
【0003】
しかし、前記植物性物質として、例えばサトウキビ、トウモロコシ等の農作物を用いると、該農作物がエタノールの原料として大量に消費されることにより、食料又は飼料としての供給量が減少するという問題がある。そこで、前記植物性物質として、食用又は飼料用とならないリグノセルロース系バイオマスを用いてエタノールを製造する技術が検討されている。
【0004】
前記リグノセルロース系バイオマスはセルロースを含んでおり、糖化酵素を用いて該セルロースを糖化処理することによりグルコース等の糖に分解し、得られたグルコース等を発酵させることによりエタノールを得ることができる。
【0005】
ところが、前記リグノセルロース系バイオマスは、セルロースの他にヘミセルロース及びリグニンを主な構成成分としており、通常該セルロース及び該ヘミセルロースは、該リグニンに強固に結合しているため、そのままでは該セルロースに対する酵素糖化反応を行うことが難しい。従って、前記セルロースを酵素糖化反応させるに際しては、予め前記リグノセルロース系バイオマスを前処理して酵素糖化反応が可能な状態としておくことが望ましい。
【0006】
前記リグノセルロース系バイオマスを酵素糖化反応が可能な状態とするために、基質としてのリグノセルロース系バイオマスとアンモニア水とを混合して基質混合物とし、該基質混合物を所定温度に所定時間保持する前処理方法が知られている。前記前処理方法によれば、前記基質からリグニンを解離させ又は該基質を膨潤させることにより、該基質としてのリグノセルロース系バイオマスを酵素糖化反応可能な状態とすることができる。
【0007】
尚、本願において、解離とは、セルロース等に結合しているリグニンの結合部位のうち、少なくとも一部の結合を切断することをいう。また、膨潤とは、液体の浸入により結晶性セルロースを構成するセルロース等に空隙が生じ、又は、セルロース繊維の内部に空隙が生じて膨張することをいう。
【0008】
また、前記アンモニア水は、前記前処理後、前記基質混合物から分離された気体のアンモニアを冷却して凝縮させると共に水に溶解させることにより回収することができる。
【0009】
そこで、前記前処理方法において、前記アンモニアを凝縮させる際の凝縮熱と水に溶解させる際の溶解熱とを熱源として、ヒートポンプを用いて熱媒体を加熱し、該熱媒体を用いて該基質混合物を加熱する方法が提案されている(例えば特許文献1参照)。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
一方、前記基質混合物を加熱する熱媒体を第1の熱媒体とすると共に、前記アンモニアを凝縮させる際の凝縮熱と水に溶解させる際の溶解熱とを回収する熱媒体を第2の熱媒体として、該第1の熱媒体を加熱するヒートポンプに第2の熱媒体を供給することが考えられる。このようにするときには、第1の熱媒体と第2の熱媒体との熱交換により、加熱された第1の熱媒体を用いて前記基質混合物を加熱することができると共に、冷却された第2の熱媒体を用いて前記アンモニアを冷却することができる。
【0012】
しかしながら、前記従来の前処理方法は、回分(バッチ)式で行うときには、前記基質混合物を所定の温度に加熱するまでに大きな熱エネルギーを要し、ヒートポンプ始動時の低温かつ少量の第1の熱媒体では該所定の温度まで速やかに加熱することが難しいという不都合がある。
【0013】
また、前記回分式では、前記基質混合物の前処理終了直後に、前記アンモニア含有糖化前処理物から放散されて分離されるアンモニアは高濃度かつ大量になる。この結果、前記高濃度かつ大量のアンモニアの冷却に大きな冷却エネルギーを要し、ヒートポンプ始動時の高温かつ少量の第2の熱媒体では速やかに冷却することが難しいという不都合がある。
【0014】
前記不都合を解決するために、ヒートポンプ自体を大型化したり、他の熱源又は冷却手段を設けたりすることが考えられるが、このようにするときには設備コストの増大が避けられない。
【0015】
また、前記基質混合物は一旦所定の温度に加熱されれば、その後、該温度に維持する熱エネルギーは該所定の温度に加熱するまでに要する熱エネルギーより小さくなる。同様に、前記アンモニアは前記前処理終了直後の時期を過ぎれば、その後は、濃度及び発生量が低下し、冷却に要する冷却熱エネルギーが低減する。従って、前記基質混合物の前処理終了直後の状態に対応するために設備を大型化すると、運転コストが増大するという不都合もある。
【0016】
本発明は、かかる不都合を解消して、前記基質混合物が前記所定の温度に到達するまでの加熱を速やかにかつ低コストで効率よく行うことができると共に、該基質混合物の前処理終了直後に前記アンモニア含有糖化前処理物から放散される高濃度かつ大量のアンモニアの冷却を速やかにかつ低コストで効率よく行うことができるバイオマスの前処理方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0017】
かかる目的を達成するために、本発明は、回分式で基質としてのリグノセルロース系バイオマスとアンモニア水とを混合して基質混合物を得る工程と、該基質混合物を所定の温度に加熱すると共に該温度に所定の時間保持することにより該基質からリグニンを解離させ又は該基質を膨潤させてアンモニア含有糖化前処理物を得る工程と、該アンモニア含有糖化前処理物からアンモニアを放散させてアンモニアが分離されたアンモニア分離糖化前処理物を得る工程と、該アンモニア含有糖化前処理物から放散されたアンモニアを冷却して凝縮させると共に水に溶解させてアンモニア水とし該アンモニア水を回収する工程とを備え、該基質混合物を加熱する第1の熱媒体と、該アンモニアを凝縮させる際の凝縮熱と水に溶解させる際の溶解熱とを回収する第2の熱媒体とをヒートポンプに供給し、該ヒートポンプにおける第1の熱媒体と第2の熱媒体との熱交換により、加熱された第1の熱媒体を用いて該基質混合物を加熱すると共に、冷却された第2の熱媒体を用いて該アンモニアを冷却するバイオマスの前処理方法において、第1の熱媒体を該ヒートポンプと該基質混合物を加熱する部分とに循環させる第1の循環経路に、該基質混合物を加熱する部分を迂回して該ヒートポンプに循環させる第1のバイパス循環経路を設け、第1の熱媒体を第1のバイパス循環経路に循環させることにより、該所定の温度より高温に加熱し、該所定の温度より高温に加熱された第1の熱媒体を予め所定量貯留しておくと共に、該基質混合物が該所定の温度に到達するまでの間、該所定の温度より高温に加熱された第1の熱媒体により該基質混合物を加熱し、第2の熱媒体を該ヒートポンプと該アンモニアを冷却する部分とに循環させる第2の循環経路に、該アンモニアを冷却する部分を迂回して該ヒートポンプに循環させる第2のバイパス循環経路を設け、第2の熱媒体を第2のバイパス循環経路に循環させることにより、第2の熱媒体を第2の循環経路に循環させるときの温度よりも低温に冷却し、第2の循環経路に循環させるときの温度よりも低温に冷却された第2の熱媒体を予め所定量貯留しておくと共に、該アンモニア含有糖化前処理物から放散されるアンモニアの濃度が所定の濃度に低下し、該アンモニアの量が所定の量に低下するまでの間、第2の循環経路に循環させるときの温度よりも低温に冷却された第2の熱媒体により該アンモニアを冷却することを特徴とする。
【0018】
本発明の前処理方法は、回分(バッチ)式であり、まず、基質としてのリグノセルロース系バイオマスとアンモニア水とを混合して基質混合物を得る。
【0019】
次に、前記基質混合物を所定の温度に所定の時間保持することにより、該基質からリグニンを解離させ又は該基質を膨潤させてアンモニア含有糖化前処理物を得る。前記アンモニア含有糖化前処理物は、前記基質としてのリグノセルロース系バイオマスが酵素糖化反応可能な状態に前処理されているが、アンモニアを含有しているためにpHが高く、そのままでは酵素糖化反応に供することができない。
【0020】
そこで、次に、前記アンモニア含有糖化前処理物からアンモニアを放散させて分離する一方、放散されたアンモニアを冷却して凝縮させると共に水に溶解させてアンモニア水とし、該アンモニア水を回収する。この結果、アンモニアが分離されたアンモニア分離前処理物を得ることができ、該アンモニア分離前処理物を酵素糖化反応に供することができる。
【0021】
ここで、本発明では、第1の熱媒体により前記基質混合物を加熱する一方、第2の熱媒体により前記アンモニアを凝縮させる際の凝縮熱と水に溶解させる際の溶解熱とを回収する。第1の熱媒体と第2の熱媒体とは、ヒートポンプに供給され、該ヒートポンプで第1の熱媒体と第2の熱媒体との間で熱交換を行うことにより、第1の熱媒体が加熱される一方、第2の熱媒体が冷却される。
【0022】
ところで、本発明の前処理方法は回分式であるので、前記基質混合物の加熱の初期には該基質混合物はもちろん、装置自体も加熱されていないため、該基質混合物を所定の温度に加熱するために大きな熱エネルギーが必要となる。
【0023】
そこで、本発明の前処理方法では、前記第1の熱媒体を前記ヒートポンプと前記基質混合物を加熱する部分とに循環させる第1の循環経路に、該基質混合物を加熱する部分を迂回して該ヒートポンプに循環させる第1のバイパス循環経路を設け、該第1の熱媒体を該第1のバイパス循環経路に循環させる。このようにすると、前記第1の熱媒体は、熱エネルギーが前記基質混合物の加熱により失われることがないので、次第に高温に昇温される。
【0024】
そして、前記のようにして、前記第1の熱媒体を前記所定の温度より高温に加熱すると共に、加熱された第1の熱媒体を予め所定量貯留しておき、前記基質混合物が前記所定の温度に到達するまでの間、加熱された第1の熱媒体により該基質混合物を加熱する。
【0025】
本発明の前処理方法によれば、このようにすることにより、前記基質混合物が前記所定の温度に到達するまでの加熱を速やかに、しかも該加熱を別途他の熱源を設けたり、ヒートポンプ自体を大型化することなく、低コストで効率よく行うことができる。
【0026】
また、本発明の前処理方法は回分式であるので、前記基質混合物の前処理直後には、前記アンモニア含有糖化前処理物から高濃度かつ大量のアンモニアが放散されることとなり、該アンモニアを冷却するために大きな冷却エネルギーが必要となる。
【0027】
そこで、本発明の前処理方法では、前記第2の熱媒体を前記ヒートポンプと前記アンモニアを冷却する部分とに循環させる第2の循環経路に、該アンモニアを冷却する部分を迂回して該ヒートポンプに循環させる第2のバイパス循環経路を設け、第2の熱媒体を該第2のバイパス循環経路に循環させる。このようにすると、前記第2の熱媒体は、冷却エネルギーが前記アンモニアの冷却により失われることがないので、次第により低温に冷却される。
【0028】
そこで、前記のようにして、前記第2の熱媒体を前記第2の循環経路に循環させるときの温度よりも低温に冷却すると共に、冷却された第2の熱媒体を予め所定量貯留しておき、前記アンモニア含有糖化前処理物から放散されるアンモニアの濃度が所定の濃度に低下し、該アンモニアの量が所定の量に低下するまでの間、冷却された第2の熱媒体により該アンモニアを冷却する。
【0029】
本発明の前処理方法によれば、このようにすることにより、前記アンモニア含有糖化前処理物から放散されるアンモニアの濃度が所定の濃度に低下し、該アンモニアの量が所定の量に低下するまでの冷却を速やかに、しかも該冷却を別途他の冷却手段を設けたり、ヒートポンプ自体を大型化したりすることなく、低コストで効率よく行うことができる。
【0030】
本発明の前処理方法において、前記ヒートポンプは、単一の熱媒体を用いるものであってもよいが、2種類の熱媒体を備える2元系ヒートポンプを用いることにより、前記アンモニアの冷却をさらに効率よく行うことができる。
【0031】
また、本発明の前処理方法において、前記所定の温度より高温に加熱された第1の熱媒体の貯留は、例えば、前記基質混合物を得る工程の間に行うことができる。また、第2の循環経路に循環させるときの温度よりも低温に冷却された第2の熱媒体の貯留は、例えば、前記基質混合物を得る工程及び前記アンモニア含有糖化前処理物を得る工程の間に行うことができる。
【0032】
また、本発明の前処理方法は回分式であるので、1つの反応容器においてアンモニア分離糖化前処理物を得る工程が終了した後、次回の基質混合物を得る工程が開始されるまでには、該反応容器の洗浄等の作業が必要となるので、相当の時間がかかる。この間、前記反応容器では前記前処理方法を実施することができないので、十分な処理効率を得ることができない。
【0033】
そこで、本発明の前処理方法では、前記基質混合物を得る工程と、前記アンモニア含有糖化前処理物を得る工程と、前記アンモニア分離糖化前処理物を得る工程とを行う反応容器を複数設け、1つの反応容器でアンモニア分離糖化前処理物を得る工程が終了し、次回の基質混合物を得る工程が開始されるまでの間に、他の少なくとも1つの反応容器で該基質混合物を得る工程と、該アンモニア含有糖化前処理物を得る工程と、該アンモニア分離糖化前処理物を得る工程とを行い、各反応容器毎に前記第1の循環経路を設けると共に、各反応容器に共通の第1バイパス循環経路を設けることが好ましい。
【0034】
このようにすることにより、1つの反応容器においてアンモニア分離糖化前処理物を得る工程が終了した後、次回の基質混合物を得る工程が開始されるまでの間に、他の反応容器で前記前処理を行うことができ、処理効率を向上させることができる。
【0035】
また、このとき、各反応容器毎に前記第1の循環経路を設けると共に、各反応容器に共通の第1バイパス循環経路を設け、該第1のバイパス循環径路により前記所定の温度より高温に加熱された第1の熱媒体を予め所定量貯留しておく。そして、前記所定の温度より高温に加熱された第1の熱媒体を各第1の循環経路により各反応容器に供給することにより、装置構成を簡略化することができるので、さらに処理効率を向上させることができる。
【0036】
前記のようにするときには、例えば、1つの反応容器で得られた前記アンモニア含有糖化前処理物からアンモニアを放散させる間に他の1つの反応容器で前記基質混合物を得る工程を行い、同時に前記所定の温度より高温に加熱された第1の熱媒体の貯留を行うことができる。
【0037】
以上の工程では、ヒートポンプを連続して運転できるため、ヒートポンプをより効率よく稼動させて消費エネルギーを減らすことができる。
【発明を実施するための形態】
【0039】
次に、添付の図面を参照しながら本発明の実施の形態についてさらに詳しく説明する。
【0040】
本実施形態の前処理方法は、例えば、
図1に示す前処理装置1を用いて実施することができる。前処理装置1は、反応容器2と、アンモニア凝縮器3と、アンモニア吸収塔4と、アンモニアタンク5とを備えている。
【0041】
反応容器2は、上部に、基質供給導管6と、アンモニア水供給導管7とが配設されていると共に、アンモニアガスを排出しアンモニア凝縮器3に案内する第1排気導管8が排気弁9とバグフィルタ10とを介して配設されている。基質供給導管6は、基質としてのリグノセルロース系バイオマス、例えば稲藁を反応容器2に供給し、アンモニア水供給導管7は、図示しないアンモニア水タンクからアンモニア水を反応容器2に供給する。
【0042】
また、反応容器2は、上部に配設されたモータ11と、モータ11から反応容器2内部に垂下される回転軸12と、回転軸12から水平方向に延出された攪拌翼13とを備えると共に、外側に熱媒体が流通されるジャケット14を備えている。ジャケット14には温水導管15が接続されている。
【0043】
温水導管15は、ジャケット14の上部から導出された第1の熱媒体としての温水を温水1次タンク16、温水1次ポンプ17、空冷ファン18、2元系ヒートポンプ19、第1切替弁20を介して、ジャケット14の底部に循環させるようになっている。この結果、温水導管15により、第1の循環径路が形成されている。
【0044】
第1切替弁20には温水バイパス導管21が接続されており、温水バイパス導管21は第2切替弁22を介して他端部が温水1次タンク16に接続されている。この結果、第1切替弁20、温水バイパス導管21、第2切替弁22、温水1次タンク16と、温水1次タンク16から第1切替弁20までの温水導管15とにより、第1のバイパス循環径路が形成されている。
【0045】
また、第2切替弁22には高温水導管23が接続されており、高温水導管23は他端部が温水2次タンク24に接続されている。第1切替弁20、第2切替弁22は、それぞれ2元系ヒートポンプ19に設けられた第1温度センサ25で検知される温度により温水の流路を切り替える。
【0046】
温水2次タンク24には高温水供給導管26が設けられており、高温水供給導管26は温水2次ポンプ27を介して、第1切替弁20の下流側で温水導管15に接続されている。尚、温水1次タンク16には第1補給水導管28が設けられており、第1補給水導管28は第1給水弁29を介して第1補給水タンク30に接続されている。
【0047】
アンモニア凝縮器3は、第1排気導管8から導入されたアンモニアガスの少なくとも一部を冷却することにより凝縮させて液体アンモニアとするものであり、凝縮したアンモニアを排出する第1排液導管31を備えている。第1排液導管31は、凝縮したアンモニアをさらに冷却する凝縮タンク32、第1排液ポンプ33を介してアンモニアタンク5に接続されている。
【0048】
また、アンモニア凝縮器3は、凝縮しなかったアンモニアガスを排出し、アンモニアタンク5に案内する第2排気導管34を備えており、第2排気導管34は開閉弁35を介してアンモニアタンク5に接続されている。第2排気導管34は開閉弁35の上流で第3排気導管36を分岐しており、第3排気導管36は途中に真空ポンプ37を備え、開閉弁35の下流で第2排気導管34に合流している。
【0049】
アンモニア吸収塔4は、底部でアンモニアタンク5の天面に連通しており、第2排気導管34によりアンモニアタンク5に案内されたアンモニアガスをアンモニア水に吸収(溶解)させる。このため、アンモニア吸収塔4は、アンモニア水循環導管38を介してアンモニアタンク5から供給されるアンモニア水をシャワリングするシャワリング装置39を上部に備えている。
【0050】
アンモニア水循環導管38は、アンモニアタンク5から循環ポンプ40、アンモニア水熱交換器41、アンモニア濃度センサ42を介してシャワリング装置39に接続されている。アンモニア水熱交換器41は、アンモニア水循環導管38に循環されるアンモニア水を冷却する機能を備えている。また、アンモニア吸収塔4には、第2補給水導管43が設けられており、第2補給水導管43は第2給水弁44を介して第2補給水タンク45に接続されている。
【0051】
アンモニアタンク5は、アンモニア水を排出する第2排液導管46を備えており、第2排液導管46は、第2排液ポンプ47を介して図示しないアンモニア水タンクに接続されている。
【0052】
また、アンモニア凝縮器3には、第1排気導管8から導入されたアンモニアガスを冷却する低温水導管48が接続されている。低温水導管48はアンモニア凝縮器3から導出された第2の熱媒体としての低温水を低温水1次タンク49、低温水1次ポンプ50、2元系ヒートポンプ19、第3切替弁51、アンモニア水熱交換器41、凝縮タンク32を介して、アンモニア凝縮器3に循環させるようになっている。この結果、低温水導管48により、第2の循環径路が形成されている。
【0053】
第3切替弁51には低温水バイパス導管52が接続されており、低温水バイパス導管52は第4切替弁53を介して他端部が低温水1次タンク49に接続される。この結果、第3切替弁51、低温水バイパス導管52、第4切替弁53、低温水1次タンク49と、低温水1次タンク49から第3切替弁51までの低温水導管48とにより、第2のバイパス循環径路が形成されている。
【0054】
また、第4切替弁53には冷水導管54が接続されており、冷水導管54は他端部が低温水2次タンク55に接続されている。第3切替弁51、第4切替弁53は、それぞれ2元系ヒートポンプ19に設けられた第2温度センサ56で検知される温度により低温水の流路を切り替える。
【0055】
低温水2次タンク55には冷水供給導管57が設けられており、冷水供給導管57は低温水2次ポンプ58を介して、第3切替弁51の下流側で低温水導管48に接続されている。尚、低温水1次タンク49には第3補給水導管59が設けられており、第3補給水導管59は第3給水弁60を介して第3補給水タンク61に接続されている。
【0056】
次に、本実施形態の前処理装置1の作動について説明する。
【0057】
前処理装置1では、まず、前回の処理で得られたアンモニア分離糖化前処理物が反応容器2底部の排出口(図示せず)から排出され、次工程に移送される。その後、反応容器2の内部を洗浄し、基質供給導管6から新たな基質としてのリグノセルロース系バイオマス、例えば稲藁が反応容器2に供給されると共に、アンモニア水供給導管7からアンモニア水が反応容器2に供給される。
【0058】
このとき、反応容器2では、モータ11により回転軸12が回転駆動され、攪拌翼13で前記稲藁とアンモニア水とが攪拌されることにより、基質混合液が調製される。本実施形態では、新たな基質とアンモニア水とが反応容器2に供給され、混合されて基質混合物が得られるまでの間が、基質混合物を得る工程に相当する。
【0059】
前記基質混合液は、第1の熱媒体として温水導管15からジャケット14に供給される温水により、反応容器2内で所定の温度、例えば80〜85℃の範囲の温度に加熱され、該温度に所定の時間保持される。この結果、前記基質からリグニンが解離され、又は該基質が膨潤されて、該基質としての稲藁が酵素糖化反応可能な状態とされたアンモニア含有糖化前処理物を得ることができる。本実施形態では、前記作動がアンモニア含有糖化前処理物を得る工程に相当する。
【0060】
前処理装置1では、次に、排気弁9を開弁することにより、前記アンモニア含有糖化前処理物に含まれるアンモニアをガスとして放散させ、バグフィルタ10を介して第1排気導管8からアンモニア凝縮器3に案内する。このとき、反応容器2内の圧力は前記加熱により大気圧より高くなっており、排気弁9を開弁することにより、前記アンモニア含有糖化前処理物からアンモニアガスを容易に放散させることができる。
【0061】
前記アンモニアガスは、第2の熱媒体として低温水導管48からアンモニア凝縮器3に供給される低温水により冷却され、その一部が凝縮し液化して液体アンモニアとなり、第1排液導管31を介して凝縮タンク32に排出される。前記液体アンモニアは、凝縮タンク32において低温水導管48から供給される低温水によりさらに冷却された上、第1排液ポンプ33を介してアンモニアタンク5に送られる。このとき同時に、アンモニア凝縮器3及び凝縮タンク32で前記アンモニアガスを凝縮させる際に生成する凝縮熱が、低温水導管48を流通する低温水により回収される。
【0062】
また、前記アンモニアガスの残部は、開閉弁35を開弁することにより第2排気導管34を介してアンモニアタンク5に導入される。前記アンモニアガスの圧力は、放散されるに従って低下し、大気圧に等しくなるとそれ以上の放散が難しくなる。そこで、前処理装置1では、前記アンモニアガスの圧力が大気圧に等しくなったならば、開閉弁35を閉弁すると共に真空ポンプ37を作動させて、反応容器2内のアンモニアを吸引し、第2排気導管34、第3排気導管36を介してアンモニアタンク5に導入する。
【0063】
反応容器2では、前記アンモニア含有糖化前処理物から前述のようにしてアンモニアが放散された結果、アンモニアが分離されたアンモニア分離糖化前処理物を得ることができる。本実施形態では、前記作動がアンモニア分離糖化前処理物を得る工程に相当する。
【0064】
前記アンモニア分離糖化前処理物は、前述のように反応容器2底部の排出口(図示せず)から排出され、次工程に移送される。そして、反応容器2では次回の処理が準備される。
【0065】
一方、アンモニアタンク5に導入された前記アンモニアガスは、次いでアンモニアタンク5に連通するアンモニア吸収塔4に導入される。アンモニア吸収塔4では、循環ポンプ40によりアンモニア水循環導管38を介して循環されるアンモニア水をシャワリング装置39からシャワリングすることにより、前記アンモニアガスを該アンモニア水に吸収(溶解)させる。
【0066】
本実施形態では、前記アンモニアガスのアンモニア凝縮器3における凝縮と、アンモニア吸収塔4における吸収(溶解)とが、放散されたアンモニアをアンモニア水として回収する工程に相当する。
【0067】
このとき、アンモニア水循環導管38の途中にはアンモニア水熱交換器41が設けられており、アンモニア水循環導管38を流通するアンモニア水が、低温水導管48を流通する低温水と熱交換することにより冷却される。同時に、前記アンモニアガスを前記アンモニア水に吸収(溶解)させる際に生成する溶解熱が、低温水導管48を流通する低温水により回収される。
【0068】
また、アンモニア水循環導管38にはアンモニア濃度センサ42が設けられており、アンモニア水循環導管38を介して循環されるアンモニア水のアンモニア濃度を検出する。そして、アンモニア濃度センサ42により検出されるアンモニア濃度が所定の値、例えば反応容器2に供給されるアンモニア水の濃度以上になったときには、第2給水弁44が開弁され、第2補給水タンク45から第2補給水導管43を介して、アンモニア吸収塔4に純水が補給される。この結果、アンモニアタンク5に貯留されるアンモニア水の濃度を所定の値、例えば反応容器2に供給されるアンモニア水の濃度に保持することができる。
【0069】
アンモニアタンク5に貯留されるアンモニア水は、アンモニア凝縮器3及び凝縮タンク32における凝縮及び冷却と、アンモニア吸収塔4におけるアンモニア水への溶解との結果、例えば15〜20℃の範囲の温度に冷却されている。前記範囲の温度に冷却されたアンモニア水は、第2排液導管46を介して第2排液ポンプ47により取出され図示しないアンモニア水タンクに送られ、反応容器2における前記基質混合液の調製に再利用される。
【0070】
次に、反応容器2における前記基質混合物の加熱と、アンモニア凝縮器3及びアンモニア吸収塔4における前記アンモニアガスの冷却とについて、さらに詳細に説明する。
【0071】
前処理装置1では、前記基質混合物を得る工程の間に、第1切替弁20が温水導管15と温水バイパス導管21とを接続するように切り替えられると共に、温水1次ポンプ17、空冷ファン18及び2元系ヒートポンプ19が作動される。温水バイパス導管21は、第2切替弁22により上流と下流とが接続されている。
【0072】
このようにすると、温水1次タンク16に貯留されている温水が、温水導管15により、温水1次ポンプ17、空冷ファン18、2元系ヒートポンプ19、第1切替弁20、温水バイパス導管21を経て、温水1次タンク16に戻る第1のバイパス循環経路で循環される。ここで、前記温水は、空冷ファン18で冷却された後、2元系ヒートポンプ19において2元系ヒートポンプ19の熱媒体と熱交換することにより加熱される。
【0073】
また、第3切替弁51が低温水導管48と低温水バイパス導管52とを接続するように切り替えられると共に、低温水1次ポンプ50が作動される。低温水バイパス導管52は、第4切替弁53により上流と下流とが接続されている。
【0074】
このようにすると、低温水1次タンク49に貯留されている低温水が、低温水導管48により、低温水1次ポンプ50、2元系ヒートポンプ19、第3切替弁51、低温水バイパス導管52を経て、低温水1次タンク49に戻る第2のバイパス循環経路で循環される。ここで、前記低温水は、2元系ヒートポンプ19において熱媒体と熱交換することにより冷却される。
【0075】
2元系ヒートポンプ19は2種類の熱媒体を用いるヒートポンプであり、
図2に示すように、第1の循環導管71と、第2の循環導管72との2種類の熱媒体の循環系を備えている。前記2種類の熱媒体として、例えば、第1の循環導管71にはテトラフルオロエタン(R134a)が循環され、第2の循環導管72にはペンタフルオロプロパン(R245fa)が循環される。
【0076】
第1の循環導管71は、途中に膨張弁73、低温水導管48に循環される低温水と熱交換する第1熱交換器74、圧縮機75、第2の循環導管72に循環されるペンタフルオロプロパン(R245fa)と熱交換する第2熱交換器76を備えている。また、第2の循環導管72は、途中に膨張弁77、第1の循環導管71に循環されるテトラフルオロエタン(R134a)と熱交換する第2熱交換器76、圧縮機78、温水導管15に循環される温水と熱交換する第3熱交換器79を備えている。
【0077】
ここで、前記低温水は、2元系ヒートポンプ19の第1熱交換器74においてテトラフルオロエタン(R134a)と熱交換することにより冷却される。前記テトラフルオロエタン(R134a)は、第1熱交換器74において前記低温水と熱交換することにより加熱され、圧縮機75で圧縮されてさらに高温にされた後、第2熱交換器76に供給され、第2の循環導管72に循環されるペンタフルオロプロパン(R245fa)と熱交換する。前記テトラフルオロエタン(R134a)は、前記熱交換により冷却された後、膨張弁73で断熱膨張されてさらに冷却された後、第1熱交換器74に戻される。
【0078】
前記ペンタフルオロプロパン(R245fa)は、第2熱交換器76において前記テトラフルオロエタン(R134a)と熱交換することにより加熱され、圧縮機75で圧縮されてさらに高温にされた後、第3熱交換器79に供給され、温水導管15に循環される温水と熱交換する。前記ペンタフルオロプロパン(R245fa)は、前記熱交換により冷却された後、膨張弁77で断熱膨張されてさらに冷却された後、第2熱交換器76に戻される。前記温水は、第3熱交換器79において前記ペンタフルオロプロパン(R245fa)と熱交換することにより加熱される。
【0079】
2元系ヒートポンプ19における作用は、換言すれば、前記アンモニアの凝縮熱と溶解熱とを回収する第2の熱媒体として前記低温水を、前記基質混合物を加熱する第1の熱媒体としての前記温水を加熱する2元系ヒートポンプ19に供給し、2元系ヒートポンプ19を介して第1の熱媒体と第2の熱媒体との熱交換を行い、第1の熱媒体を加熱すると共に第2の熱媒体を冷却することに相当する。
【0080】
2元系ヒートポンプ19によれば、前記テトラフルオロエタン(R134a)と前記ペンタフルオロプロパン(R245fa)との2種類の熱媒体のそれぞれの圧縮比を小さくすることができる。従って、単一の熱媒体を用いる場合に比較して、温水導管15に循環される第1の熱媒体としての前記温水の加熱と、低温水導管48に循環される第2の熱媒体としての前記低温水の冷却とを、共に効率よく行うことができる。
【0081】
温水導管15に循環される第1の熱媒体としての前記温水は、2元系ヒートポンプ19の始動直後には十分に加熱されることがないが、第1のバイパス循環経路により反応容器2を迂回して循環されているので、時間の経過と共に次第に昇温される。そこで、前処理装置1では、2元系ヒートポンプ19の二次側の温水導管15に第1温度センサ25を設け、前記温水の温度を検出する。
【0082】
そして、第1温度センサ25により検出される前記温水の温度が反応容器2において前記基質混合物が加熱される所定の温度(例えば80〜85℃の範囲の温度)より高温の例えば90〜95℃の範囲の温度に加熱されたならば、第2切替弁22が温水バイパス導管21と高温水導管23とを接続するように切り替えられる。この結果、前記範囲の温度の温水(以下、高温水という)が温水2次タンク24に貯留される。
【0083】
前記高温水の貯留は、前記基質混合物を得る工程の間を通じて行われる。この間に温水2次タンク24に貯留される前記高温水の水位が上限に達したことが水位センサ(図示せず)により検出されたときは、第2切替弁22が温水バイパス導管21の上流と下流とを接続するように切り替えられ、該高温水は温水1次タンク16に循環される。
【0084】
また、温水2次タンク24に貯留される前記高温水が不足する場合には、第1給水弁29が開弁され、第1補給水タンク30から第1補給水導管28を介して、温水1次タンク16に純水が補給される。
【0085】
次に、前記基質混合物の調製が完了し、該基質混合物を所定の温度に加熱する段階に至ったならば、第2切替弁22により温水バイパス導管21と高温水導管23とが接続された状態で、温水2次ポンプ27を作動させる。このようにすると、温水2次タンク24に貯留されている前記高温水が高温水供給導管26及び温水導管15を介して、反応容器2のジャケット14に供給され、前記基質混合物が前記所定の温度に到達するまでの加熱を速やかに行うことができる。
【0086】
次に、温水2次タンク24に貯留される前記高温水の水位が下限に達したことが水位センサ(図示せず)により検出されたならば、第1切替弁20が温水導管15の上流と下流とを接続するように切り替えられる。そして、ジャケット14の上部から導出された温水が、第1の循環径路である温水導管15により、温水1次タンク16、温水1次ポンプ17、空冷ファン18、2元系ヒートポンプ19、第1切替弁20を介して、ジャケット14の底部に循環される通常の加熱状態に移行する。
【0087】
この結果、前記通常の加熱状態の温水により供給される熱エネルギーだけで、前記基質混合物が前記所定の温度に維持され、加熱が継続される。
【0088】
一方、低温水導管48に循環される第2の熱媒体としての前記低温水は、2元系ヒートポンプ19の始動直後には十分に冷却されることがないが、第2のバイパス循環経路によりアンモニア凝縮器3とアンモニア吸収塔4とを迂回して循環されているので、時間の経過と共に、次第に降温される。そこで、前処理装置1では、2元系ヒートポンプ19の二次側の低温水導管48に第2温度センサ56を設け、前記低温水の温度を検出する。
【0089】
そして、第2温度センサ56により検出される前記低温水の温度が、アンモニア凝縮器3でアンモニアガスを凝縮させることができる温度より低温に冷却されたならば、第4切替弁53が低温水バイパス導管52と冷水導管54とを接続するように切り替えられる。この結果、アンモニア凝縮器3でアンモニアガスを凝縮させることができる温度、例えば10〜15℃の範囲の温度より低温に冷却された低温水(以下、冷水という)が低温水2次タンク55に貯留される。
【0090】
前記冷水の貯留は、前記基質混合物を得る工程と、前記アンモニア含有糖化前処理物を得る工程との間を通じて行われる。この間に低温水2次タンク55に貯留される前記冷水の水位が上限に達したことが水位センサ(図示せず)により検出されたときは、第4切替弁53が低温水バイパス導管52の上流と下流とを接続するように切り替えられ、該冷水は低温水1次タンク49に循環される。
【0091】
また、低温水2次タンク55に貯留される前記冷水が不足する場合には、第3給水弁60が開弁され、第3補給水タンク61から第3補給水導管59を介して、低温水1次タンク49に純水が補給される。
【0092】
次に、反応容器2において前記アンモニア含有糖化前処理物が得られ、排気弁9を開弁して該アンモニア含有糖化前処理物から放散されるアンモニアガスがアンモニア凝縮器3に導入される段階に至ったならば、第4切替弁53により低温水バイパス導管52と冷水導管54とが接続された状態で、低温水2次ポンプ58を作動させる。このようにすると、低温水2次タンク55に貯留されている前記冷水が冷水供給導管57及び低温水導管48を介して、アンモニア水熱交換器41、凝縮タンク32を経由して、アンモア凝縮器3に供給される。この結果、アンモニア含有糖化前処理物から放散される高濃度かつ大量のアンモニアガスの冷却を速やかに行うことができる。
【0093】
このとき、低温水2次ポンプ58の流量を低温水1次ポンプ50の流量より大としておくことにより、通常の低温水導管48のみを用いて低温水を循環させる場合よりも、アンモニア凝縮器3に供給される冷水の量を大きくすることができるので好ましい。
【0094】
アンモニア凝縮器3に供給された前記冷水は、前記アンモニアガスの冷却に用いられた後、低温水導管48を介して排出される。そして、低温水1次ポンプ50から2元系ヒートポンプ19に供給されて再冷却された後、低温水バイパス導管52及び冷水導管54を経て低温水2次タンク55に戻される。
【0095】
しかし、低温水2次ポンプ58の流量は低温水1次ポンプ50の流量より大であるので、低温水2次タンク55における前記冷水の貯留量は漸減する。そこで、低温水2次タンク55に貯留される前記冷水の水位が下限に達したことが水位センサ(図示せず)により検出されたならば、第3切替弁51が低温水導管48の上流と下流とを接続するように切り替えられる。
【0096】
そして、アンモニア凝縮器3から導出された低温水が、第2の循環径路である低温水導管48により、低温水1次タンク49、低温水1次ポンプ50、2元系ヒートポンプ19、第3切替弁51、アンモニア水熱交換器41、凝縮タンク32を介して、アンモニア凝縮器3に循環される通常の冷却状態に移行する。このときには、放散されるアンモニアガスの濃度も量も既に低減しているので、前記通常の冷却状態の低温水により十分に前記アンモニアガスを冷却し、凝縮させることができる。
【0097】
図1に示す前処理装置1は、上述のように反応容器2を1基のみ備えている。しかし、本実施形態の前処理方法は回分式であるので、反応容器2において前記アンモニア分離糖化前処理物を得る工程が終了した後、反応容器2に付着した基質等を除去したり、反応容器2自体を洗浄したりする作業が必要となる。従って、反応容器2を1基しか備えていない場合には、次回の基質混合物を得る工程が開始されるまでに相当の時間を必要とし、この間、反応容器2では前記前処理を実施することができないので、十分な処理効率を得ることができない。
【0098】
そこで、前処理装置1は、複数の反応容器2、例えば
図3に示すように2基の反応容器2a,2bを備えていてもよい。反応容器2a,2bは、それぞれジャケット14に温水導管15a,15bが接続されると共に、アンモニアガスを排出してアンモニア凝縮器3に案内する第1排気導管8a,8bを備えることを除いて反応容器2と全く同一の構成を備えている。そこで、
図3では、反応容器2a,2bについて、温水導管15a,15b及び第1排気導管8a,8b以外の構成は省略して示している。
【0099】
図3に示す前処理装置1において、温水導管15a,15bは、温水導管15の高温水供給導管26との合流点の下流に設けられた第5切替弁62により温水導管15から分岐し、それぞれ反応容器2a,2bのジャケット14の底部に接続されている。また、それぞれ反応容器2a,2bのジャケット14の上部から導出された温水導管15a,15bは、第6切替弁63で合流して温水導管15となり、温水1次タンク16に接続されている。
【0100】
この結果、反応容器2aでは温水導管15,15aにより第1の循環径路が形成されており、反応容器2bでは温水導管15,15bにより第1の循環径路が形成されている。一方、第1のバイパス循環径路は、反応容器2a,2bに共通となっている。
【0101】
また、第1排気導管8a,8bは第7切替弁64で合流して第1排気導管8となり、アンモニア凝縮器3に接続されている。
【0102】
次に、
図3に示す前処理装置1の作動について説明する。
【0103】
図3に示す前処理装置1では、まず、第5切替弁62及び第6切替弁63が温水導管15と温水導管15aとを接続し、第7切替弁64が第1排気導管8と第1排気導管8aとを接続した状態で、反応容器2aに基質とアンモニア水とを供給する。そして、反応容器2に代えて反応容器2aを用いること以外は、
図1に示す前処理装置1と全く同一にして前記基質の前処理を行う。この間、反応容器2bでは、前回の前処理における基質の残渣の除去や反応容器2b自体の洗浄が行われる。
【0104】
次に、反応容器2aにおいて、前記アンモニア含有糖化前処理物を得る工程が終了し、該アンモニア含有糖化前処理物からアンモニアを放散させる前記アンモニア分離糖化前処理物を得る工程が開始されたならば、第5切替弁62及び第6切替弁63により温水導管15と温水導管15bとを接続する。そして、反応容器2aにおいて前記アンモニア分離糖化前処理物を得る工程が行われている間に反応容器2bに基質とアンモニア水とを供給し、基質混合物を得る工程を開始する。
【0105】
このとき、反応容器2a,2bはいずれも前記温水による加熱を必要としない。そこで、この間に前記温水を前記第1のバイパス循環径路に循環させ、前記基質混合物が加熱される所定の温度より高温に加熱された前記高温水を温水2次タンク24に貯留することができる。
【0106】
また、アンモニア含有糖化前処理物を得る工程で所定の時間保持するときに、余分な高温水や冷温水を生成しないためにヒートポンプ19を停止することがある。この場合、ヒートポンプ19を再起動するために余分なエネルギーが必要となる。これに対し
図3に示す前処理装置1は、所定の時間保持している間もヒートポンプ19を稼働して停止しないため、効率よく稼動でき消費エネルギーをより少なくできる。
【0107】
反応容器2aでは、前記アンモニア分離糖化前処理物を得る工程が終了したならば、該アンモニア分離糖化前処理物が排出されて次工程に移送され、基質の残渣の除去や反応容器2a自体の洗浄が行われる。また、第7切替弁64が第1排気導管8aと第1排気導管8bとを接続することにより、反応容器2bでは、反応容器2aと全く同一にして前記前処理を行うことができる。
【0108】
図3に示す前処理装置1では、前述のようにして、反応容器2a,2bを交互に用いて前記前処理を行うことにより、処理効率を向上させることができる。
【0109】
尚、
図3に示す前処理装置1では、反応容器2を反応容器2a,2bの2基とする例を示しているが、反応容器2を3基以上とし各反応容器2a,2b,2c,…を順次用いて前記前処理を行うようにしてもよい。