(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5996369
(24)【登録日】2016年9月2日
(45)【発行日】2016年9月21日
(54)【発明の名称】プレート一体ガスケット
(51)【国際特許分類】
H01M 8/0271 20160101AFI20160908BHJP
H01M 8/0202 20160101ALI20160908BHJP
H01M 8/02 20160101ALI20160908BHJP
F16J 15/10 20060101ALI20160908BHJP
F16J 15/12 20060101ALI20160908BHJP
【FI】
H01M8/02 S
H01M8/02 B
H01M8/02 Z
F16J15/10 S
F16J15/12 F
【請求項の数】2
【全頁数】9
(21)【出願番号】特願2012-236296(P2012-236296)
(22)【出願日】2012年10月26日
(65)【公開番号】特開2014-86365(P2014-86365A)
(43)【公開日】2014年5月12日
【審査請求日】2015年9月16日
(73)【特許権者】
【識別番号】000004385
【氏名又は名称】NOK株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100071205
【弁理士】
【氏名又は名称】野本 陽一
(74)【代理人】
【識別番号】100179970
【弁理士】
【氏名又は名称】桐山 大
(72)【発明者】
【氏名】古賀 正太郎
(72)【発明者】
【氏名】黒木 雄一
【審査官】
守安 太郎
(56)【参考文献】
【文献】
特開2008−177001(JP,A)
【文献】
特開2008−192403(JP,A)
【文献】
国際公開第2011/013313(WO,A1)
【文献】
特開2003−220664(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 8/02
F16J 15/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属プレートの表面をゴム状弾性体よりなる被覆材で被覆してなるプレート一体ガスケットであって、
前記金属プレートおよび前記被覆材とともにプレート保持部を備え、
前記プレート保持部は、前記金属プレートの一部表面に固定され、前記金属プレートを成形型キャビティに定置して前記被覆材を成形するときに前記金属プレートを位置決め保持し、前記被覆材の成形後前記被覆材に埋設された状態となるものであって、
さらに前記プレート保持部が脱離しないよう前記被覆材に対し係合する段差構造が前記プレート保持部に設けられていることを特徴とするプレート一体ガスケット。
【請求項2】
請求項1記載のプレート一体ガスケットにおいて、
前記金属プレートは、燃料電池用セパレータであることを特徴とするプレート一体ガスケット。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、プレート一体ガスケットに係り、更に詳しくは、金属プレートの表面をゴム状弾性体よりなる被覆材で被覆したプレート一体ガスケットに関する。本発明のガスケットは例えば、燃料電池用ガスケットの分野で用いられ、または一般用ガスケットの分野で用いられる。
【背景技術】
【0002】
従来から、金属プレートの表面をゴム状弾性体よりなる被覆材で被覆したプレート一体ガスケットが知られている。
図6に示すように金属プレートは例えば、燃料電池におけるセル構成部品として用いられるセパレータ11であって、この導電性金属よりなるセパレータ11がセルとして組み立てられたときに他の部品と接触して短絡することがないようにセパレータ11の表面が必要な範囲に亙って非導電性ゴム状弾性体よりなる被覆材21で被覆されている。尚、セパレータ11には、その平面中央に流体流路域12が設けられ、またマニホールド穴13が厚み方向に貫通するように設けられている。被覆材21には、リップ状のシール部22が流体流路域12やマニホールド穴13を囲むように設けられている。
【0003】
上記セパレータ11を被覆材21で被覆するに際しては、被覆材21すなわちゴム状弾性体を成形するゴム成形型のキャビティ内にセパレータ11を挿入した状態でゴム状弾性体を成形する所謂インサート成形を実施するのが適している。
【0004】
ここで、ゴム状弾性体を成形するゴム成形型のキャビティ内面に、セパレータ11を定位置に保持する突起状のプレート保持部を設け、このプレート保持部によってセパレータ11を定位置に保持した状態でゴム状弾性体を成形することが行なわれている。
【0005】
しかしながら、この従来技術では
図7に示すように、成形後、プレート保持部が抜けた痕跡によって穴部31が形成されるため、この穴部31においてセパレータ11が露出した状態となり、よって電気絶縁性を十分に確保することができないことがある。尚、
図7(A)は、
図6におけるA部拡大図に相当し、
図7(B)は、
図7(A)のB−B線断面図である。
【0006】
上記穴部31を無くしてセパレータ11の露出を防ぐには、比較例として
図8に示すように、成形型のキャビティ内面ではなくセパレータ11の表面上にゴムまたは樹脂などの絶縁性材料よりなる突起状のプレート保持部41を設け、このプレート保持部41によってセパレータ11を定位置に保持した状態でゴム状弾性体の成形することが考えられ、この構造によれば、成形後もプレート保持部41がセパレータ11に付着したままとされるため、穴部31が形成されず、よって電気絶縁性を十分に確保することができる。
【0007】
しかしながら、プレート保持部41の形状が単純な円柱形や半球形などであると、接着力が不足したり経時的に低下したりした場合、プレート保持部41が成形品から容易に脱離してしまい、結果、穴部31が形成されて電気絶縁性が確保されなくなる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特許第4066117号公報(
図1、
図2)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は以上の点に鑑みて、セパレータ等の金属プレートの表面上に設けるプレート保持部が成形品から脱離しにくい構造のプレート一体ガスケットを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記目的を達成するため、本発明の請求項1によるガスケットは、金属プレートの表面をゴム状弾性体よりなる被覆材で被覆してなるプレート一体ガスケットであって、前記金属プレートおよび前記被覆材とともにプレート保持部を備え、前記プレート保持部は、前記金属プレートの一部表面に固定され、前記金属プレートを成形型キャビティに定置して前記被覆材を成形するときに前記金属プレートを位置決め保持し、前記被覆材の成形後前記被覆材に埋設された状態となるものであって、さらに前記プレート保持部が脱離しないよう前記被覆材に対し係合する段差構造が前記プレート保持部に設けられていることを特徴とする。
【0011】
また、本発明の請求項2によるガスケットは、上記した請求項1記載のプレート一体ガスケットにおいて、前記金属プレートは、燃料電池用セパレータであることを特徴とする。
【0012】
上記構成を備える本発明のガスケットにおいては、プレート保持部が脱離しないよう被覆材に対し係合する段差構造がプレート保持部に設けられているため、プレート保持部が脱離しようとすると、段差構造が被覆材に対し係合することにより脱離が抑制される。段差構造は、その形状により被覆材に対するプレート保持部の接触面積が増大するため、脱離を抑制することができる。また段差構造は、プレート保持部の脱離方向に対し交差角度の大きな面を備えてこの面が被覆材に対し係合するため、脱離を抑制することができる。この面は、プレート保持部の脱離方向に対し直交する面であることが好ましく、また或る程度大きな平面積を備える面であることが好ましい。プレート保持部を固定する金属プレートは例えば、燃料電池用セパレータとして用いられる。
【発明の効果】
【0013】
本発明は、以下の効果を奏する。
【0014】
すなわち、本発明においては上記したように、プレート保持部が脱離しないよう被覆材に対し係合する段差構造がプレート保持部に設けられているため、プレート保持部が脱離しようとすると、段差構造が被覆材に対し係合することにより脱離が抑制される。したがってプレート保持部が金属プレートに付着したままとされ、穴部が形成されないため、電気絶縁性を十分に確保することができる。また本発明は、燃料電池の分野において有効に利用される。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図1】本発明の実施例に係るプレート一体ガスケットの平面図
【
図2】本発明の第1実施例を示す図で、
図2(A)は本発明の第1実施例に係るガスケットの要部平面図であって
図1におけるA部拡大図、
図2(B)は同ガスケットの要部断面図であって
図2(A)におけるD−D線断面図
【
図3】本発明の第1実施例に係るガスケットに備えられるプレート保持部を拡大して示す図で、
図3(A)は同プレート保持部の平面図、
図3(B)は同プレート保持部の断面図であって
図3(A)におけるE−E線断面図
【
図4】本発明の第2実施例を示す図で、
図4(A)は本発明の第2実施例に係るガスケットの要部平面図であって
図1におけるA部拡大図、
図4(B)は同ガスケットの要部断面図であって
図4(A)におけるF−F線断面図
【
図5】本発明の第2実施例に係るガスケットに備えられるプレート保持部を拡大して示す図で、
図5(A)は同プレート保持部の平面図、
図5(B)は同プレート保持部の断面図であって
図5(A)におけるG−G線断面図、
図5(C)は同プレート保持部の断面図であって
図5(A)におけるH−H線断面図
【
図7】従来例を示す図で、
図7(A)は従来例に係るガスケットの要部平面図、
図7(B)は同ガスケットの要部断面図であって
図7(A)におけるB−B線断面図
【
図8】比較例を示す図で、
図8(A)は比較例に係るガスケットの要部平面図、
図8(B)は同ガスケットの要部断面図であって
図8(A)におけるC−C線断面図
【発明を実施するための形態】
【0016】
本発明には、以下の実施形態が含まれる。
(1)セパレータの絶縁性をゴムで確保する構造が多様されているが、セパレータをゴムで包む構造の場合、成形時でのセパレータ位置決め部にゴムが存在せず電気絶縁性の確保が困難であった。
(2)一方で、セパレータへ凸状ゴム、樹脂等を予め一体化することにより、成形時でのセパレータの位置決めが可能となる。
(3)但し、セパレータへ一体化された凸状ゴムや樹脂の接着力が低下するとセパレータから脱離し、電気絶縁性を低下させる。
(4)そこで、予めセパレータ表面に形成する電気絶縁可能な凸状ゴムまたは樹脂を段差構造とすることで、凸状ゴムまたは樹脂をシール用ゴムによりセパレータからの脱離抑制が可能となる。したがってセパレータ等プレート一体ガスケットの電気絶縁性が向上する。
【実施例】
【0017】
つぎに本発明の実施例を図面にしたがって説明する。
【0018】
当該実施例では、金属プレートとして、導電性金属よりなる燃料電池用セパレータを用いる。すなわち当該実施例に係るガスケットは、
図1に示すように導電性金属よりなる燃料電池用セパレータ11の表面を必要な範囲に亙って非導電性ゴム状弾性体よりなる被覆材21で被覆することにより電気絶縁性を備えるプレート一体ガスケットである。セパレータ11には、その平面中央に流体流路域12が設けられ、またマニホールド穴13が厚み方向に貫通するように設けられている。被覆材21には、断面山形をなすリップ状のシール部22が流体流路域12やマニホールド穴13を囲むように設けられている。
【0019】
また当該実施例に係るガスケットは、
図2または
図4に示すようにセパレータ11および被覆材21とともに突起状のプレート保持部(プレート保持突起)41を所要数(複数)備える。このプレート保持部41は、ゴムまたは樹脂などの絶縁性材料(非導電性ゴム状弾性体)よりなり、セパレータ11の一部表面に固定され、セパレータ11を成形型キャビティに定置して被覆材21を成形するときにセパレータ11を位置決め保持(位置決めするとともに保持)し、被覆材21の成形後、被覆材21に埋設された状態とされるものであって、さらにこのプレート保持部41が成形品から脱離することがないように被覆材21に対し係合する段差構造(段差形状)51,52,53がプレート保持部41に設けられている。尚、プレート保持部41は、
図1では図示していないものの、シール部22ないし被覆部21が存在するすべての箇所(平面上)に複数(多数)が点在して設けられている。
【0020】
プレート保持部41は、以下のように構成されている。
【0021】
第1実施例・・・
図2および
図3に示す第1実施例では、プレート保持部41が全体として円盤形とされ、この円盤形のプレート保持部41の外周肩部に全周に亙って段差構造51が設けられている。すなわちプレート保持部41は、比較的大きな径寸法および平面積を備える第1円盤部(第1段部)42の平面上(平面中央)に比較的小さな径寸法および平面積を備える第2円盤部(第2段部)43を一体成形した形状よりなり、縦断面として凸字形を呈し、第1円盤部42の平面42bおよび第2円盤部43の外周面43aの組み合わせよりなる環状の段差構造51が設けられている。
【0022】
このような形状のプレート保持部41が被覆材21によって被覆されると、被覆材21に対する接触面積が、第1円盤部42の外周面42aおよび平面42bならびに第2円盤部43の外周面43aの各面積の和によって構成され、この接触面積は、プレート保持部41の形状が単純な円柱形である場合(
図8)より大きなものとされている。またこのプレート保持部41においては、第1円盤部42の平面42bが、プレート保持部41の脱離方向(
図3(B)では上方向)に対し直交する係合面とされている。
【0023】
したがって、このように被覆材21に対する接触面積が大きく、かつ脱離方向に対し直交する係合面が設けられているために、プレート保持部41は成形品から脱離しにくいものとされている。また、プレート保持部41が成形品から脱離しにくいため、成形品に穴部が形成されることがなく、よって成形品の電気絶縁性を確保することができる。
【0024】
第2実施例・・・
図4および
図5に示す第2実施例では、突起状のプレート保持部41が円筒部44を備え、この円筒部44のプレート側端部内周に環状の内向きフランジ部45が一体成形されるとともに円筒部44の円周上一箇所に切欠部46が設けられ、内向きフランジ部45の平面45bおよび円筒部44の内周面44bの組み合わせよりなる環状の段差構造52、ならびに切欠部46の底面46aおよび切欠部46の両側面(立ち上がり面)46bの組み合わせよりなる径方向に延びる直線状の段差構造53が設けられている。
【0025】
このような形状のプレート保持部41が被覆材21によって被覆されると、被覆材21に対する接触面積が、円筒部44の外周面44aおよび内周面44b、内向きフランジ部45の内周面45aおよび平面45bならびに切欠部46の底面46aおよび両側面46bの各面積の和によって構成され、この接触面積は、プレート保持部41の形状が単純な円柱形である場合(
図8)より大きなものとされている。またこのプレート保持部41においては、内向きフランジ部45の平面45bおよび切欠部46の底面46aがそれぞれ、プレート保持部41の脱離方向(
図5(B)では上方向)に対し直交する係合面とされている。
【0026】
したがって、このように被覆材21に対する接触面積が大きく、かつ脱離方向に対し直交する係合面が設けられているために、プレート保持部41は成形品から脱離しにくいものとされている。また、プレート保持部41が成形品から脱離しにくいため、成形品に穴部が形成されることがなく、よって成形品の電気絶縁性を確保することができる。尚、切欠部46は、被覆材21の成形時、その成形材料をプレート保持部41の内周側へ流入させる機能を併せ持つ。
【0027】
上記実施例では、プレート保持部41の形状として上記2例を示したが、プレート保持部41の形状は上記2例に限定されるものではない。プレート保持部41はこれが成形品から脱離することがないように被覆材21に対し係合する段差構造を備えるものであれば良い。また上記実施例では、金属プレートを燃料電池用セパレータ11としたが、金属プレートは燃料電池用セパレータ11に限定されるものではない。金属プレートはその少なくとも一部の表面をゴム状弾性体よりなる被覆材21で被覆されるものであれば良く、例えば平面状ゴムガスケットの補強用芯金などであっても良い。被覆の目的は、絶縁のほか、防錆などあっても良い。
【0028】
また、本発明は、被覆材21の成形後(成形品としての完成後)にプレート保持部41の脱離を抑制する効果を発揮することから、物の発明であると考えられるが、方法(製造方法)の発明としては、以下の工程を順次実施することになる。
(1)金属プレートの一部表面上に、段差構造を備えるプレート保持部を設ける工程。プレート保持部は、金属プレートの一部表面上に一体成形しても良いし、別途成形して金属プレートの一部表面上に接着するようにしても良い。
(2)プレート保持部を設けた金属プレートを成形型キャビティに定置して被覆材を成形する工程。このときプレート保持部はキャビティ内で金属プレートを位置決め保持する。
(3)被覆材の成形後、プレート保持部は被覆材に埋設された状態となる。
【符号の説明】
【0029】
11 セパレータ(金属プレート)
12 流体流路域
13 マニホールド穴
21 被覆材
22 シール部
41 プレート保持部
42,43 円盤部
44 円筒部
45 フランジ部
46 切欠部
51,52,53 段差構造