(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
トランスの二次側においてアーク溶接用の直流出力電力の生成に用いる高周波交流電力を生じさせるべく、そのトランスの一次側にてスイッチング素子の動作により直流電力を高周波交流電力に変換するインバータ回路と、
前記インバータ回路に入力される直流電力を平滑化する平滑コンデンサ及びその後段に補助コンデンサを並列に備えると共に両コンデンサ間に第1及び第2補助スイッチング素子を備え、前記入力される直流電力を前記インバータ回路に伝達する第1補助スイッチング素子を前記インバータ回路のスイッチング素子に先立ってオフすることでその後の前記補助コンデンサの充電電力の消費を待ってからの前記インバータ回路のスイッチング素子のオフに繋げるためのソフトスイッチング動作と、前記インバータ回路のスイッチング素子のオフ後に生じる還流電流にて前記補助コンデンサの充電を行う際のその余剰分を第2補助スイッチング素子のオンにより入力側に回生させる経路を形成する回生動作とを行う補助回路と、
前記インバータ回路及び前記補助回路の動作を制御する制御回路と
を備えたアーク溶接用電源装置であって、
前記制御回路は、前記補助回路の第2補助スイッチング素子をオンさせる回生動作を行い前記補助コンデンサの充電電圧を制限する制御を含む通常アーク制御と、前記補助回路の第2補助スイッチング素子をオフさせて回生動作を禁止し前記還流電流及びその余剰分を以て前記補助コンデンサを充電してその充電電圧を高める制御を含むアークスタート制御とを実施可能に構成し、アークスタート時にはアークスタート制御を実施し、アークが生じたとみなす判定に基づいて通常アーク制御に切り替えることを特徴とするアーク溶接用電源装置。
【背景技術】
【0002】
アーク溶接用電源装置においては、従来より例えば特許文献1に開示のものが知られている。同文献1の第11図に示される電源装置は、高電圧対応型であり、トランスを用いた絶縁型電力変換装置にて構成されている。トランスの一次側では、商用交流電力を直流化する整流回路と、後段のインバータ回路の入力に適切な電圧値への変換やインバータ回路の補助動作を行う補助回路と、整流回路及び補助回路を経た直流電力から高周波交流電力に変換するインバータ回路とが備えられている。インバータ回路は、第1〜第4スイッチング素子を用いたフルブリッジ回路よりなる。
【0003】
補助回路の構成について、整流回路の出力側の電源線間に先ず第1及び第2平滑コンデンサが直列接続されている。その後段の各電源線上に第5及び第6スイッチング素子がそれぞれ接続され、その後段の電源線間に第7及び第8スイッチング素子が直列接続されている。第1及び第2平滑コンデンサ間の接続点と第7及び第8スイッチング素子間の接続点とは互いに接続されている。第7及び第8スイッチング素子の後段の電源線間には補助コンデンサが接続されている。
【0004】
そして、補助回路の動作としては、インバータ回路の電力伝達期間では、第1及び第2平滑コンデンサの充電電圧(整流回路の出力電圧の半電圧)が交互にインバータ回路に供給されるように、第5〜第8スイッチング素子のスイッチング動作が行われる。また、トランス一次側の漏れインダクタンスによる電流還流期間では、その還流電流にて補助コンデンサの過充電がなされないように、第1及び第2平滑コンデンサから入力側に回生するような第5〜第8スイッチング素子の動作が行われている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、アーク溶接用電源装置としては、アークスタート性の向上が望まれている。つまり、アークスタート時(無負荷時)において初期アークを生じさせる際に、アークが生じる溶接トーチの電極先端電圧を高くする、即ち電源装置の出力電圧を高くするのが一つの方法としてある。
【0007】
一方で、アークスタート時において第5〜第8スイッチング素子の上記動作をそのまま行うと、補助コンデンサの充電電圧が第1及び第2平滑コンデンサの各充電電圧(整流回路の出力電圧の半電圧)までしか上昇しないため、電源装置の出力電圧をこれ以上高くすることが難しかった。そこで、アークスタート制御を見直して、簡易にアークスタート性を向上する検討がなされた。
【0008】
本発明は、上記課題を解決するためになされたものであって、その目的は、アークスタート時の制御の見直しを図り、簡易にアークスタート性を向上することができるアーク溶接用電源装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決するアーク溶接用電源装置は、トランスの二次側においてアーク溶接用の直流出力電力の生成に用いる高周波交流電力を生じさせるべく、そのトランスの一次側にてスイッチング素子の動作により直流電力を高周波交流電力に変換するインバータ回路と、前記インバータ回路に入力される直流電力を平滑化する平滑コンデンサ及びその後段に補助コンデンサを並列に備えると共に両コンデンサ間に第1及び第2補助スイッチング素子を備え、前記入力される直流電力を前記インバータ回路に伝達する第1補助スイッチング素子を前記インバータ回路のスイッチング素子に先立ってオフすることでその後の前記補助コンデンサの充電電力の消費を待ってからの前記インバータ回路のスイッチング素子のオフに繋げるためのソフトスイッチング動作と、前記インバータ回路のスイッチング素子のオフ後に生じる還流電流にて前記補助コンデンサの充電を行う際のその余剰分を第2補助スイッチング素子のオンにより入力側に回生させる経路を形成する回生動作とを行う補助回路と、前記インバータ回路及び前記補助回路の動作を制御する制御回路とを備えたアーク溶接用電源装置であって、前記制御回路は、前記補助回路の第2補助スイッチング素子をオンさせる回生動作を行い前記補助コンデンサの充電電圧を制限する制御を含む通常アーク制御と、前記補助回路の第2補助スイッチング素子をオフさせて回生動作を禁止し前記還流電流及びその余剰分を以て前記補助コンデンサを充電してその充電電圧を高める制御を含むアークスタート制御とを実施可能に構成し、アークスタート時にはアークスタート制御を実施し、アークが生じたとみなす判定に基づいて通常アーク制御に切り替える。
【0010】
この構成によれば、インバータ回路の前段の補助回路にて、インバータ回路のスイッチング素子に先立って第1補助スイッチング素子がオフするソフトスイッチング動作の際に補助コンデンサの充電電力が消費され、インバータ回路のスイッチング素子のオフ後に生じる還流電流にて補助コンデンサの充電が行われる。通常アーク制御では、補助回路の第2補助スイッチング素子がオンされて補助コンデンサを充電する還流電流の余剰分が入力側に回生される回生動作が行われ、補助コンデンサの充電電圧の制限がなされる。これに対し、アークスタート制御では、補助回路の第2補助スイッチング素子がオフされて回生動作が禁止され、余剰分を含む還流電流を以て補助コンデンサが充電されてその充電電圧が高められる。そして、アークスタート時において、通常アーク制御に切り替えられるアークが生じたとみなす判定がなされるまで、補助コンデンサの充電電圧を高くする、即ちアークが生じ易い状況となる電源装置の出力電圧を高くするアークスタート制御が実施される。このようなアークスタート制御を組み込むことで、簡易にアークスタート性を向上することが可能となる。
【0011】
また、上記アーク溶接用電源装置において、前記アークが生じたとみなす判定は、前記電源装置の出力電流のアーク発生相当の電流値の検出に基づいて行われるようにするのが好ましい。
【0012】
この構成によれば、アークが生じたとみなす判定は、電源装置の出力電流のアーク発生相当の電流値の検出に基づいて行われるため、アーク発生の判定がより確実に行われ、アークスタート制御から通常アーク制御への切り替えをより適切に行うことが可能となる。
【0013】
また、上記アーク溶接用電源装置において、前記アークが生じたとみなす判定は、前記電源装置の出力電圧のゼロ電圧の検出に基づいて行われるようにするのが好ましい。
この構成によれば、アークが生じたとみなす判定は、電源装置の出力電圧のゼロ電圧の検出に基づいて行われる。即ち、アーク溶接機では、アーク溶接用電源装置の出力端子に接続される溶接トーチの電極先端からアークが生じるものであり、アークスタート時においては、溶接トーチの電極を溶接対象(母材)に一旦接触させた後に初期アークを生じさせている。そのため、その電極の接触の際に電源装置の出力電圧が一旦ゼロ電圧になるため、アークが生じたとみなす判定をその電源装置の出力電圧のゼロ電圧の検出に基づいて行うようにすることで、補助コンデンサの充電電圧の制限がなされる通常アーク制御に速やかに切り替えることが可能となる。
【発明の効果】
【0014】
本発明のアーク溶接用電源装置によれば、アークスタート時の制御の見直しを図り、簡易にアークスタート性を向上することができるという効果を奏する。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、アーク溶接用電源装置の一実施形態について説明する。
図1に示すように、アーク溶接機10は、これに用いるアーク溶接用電源装置11のプラス側の出力端子o1に溶接トーチTHの電極WEを接続し、マイナス側の出力端子o2に溶接対象(母材)Mを接続して、電源装置11にて生成した直流出力電力に基づいて電極WEの先端にてアークを生じさせ、溶接対象Mのアーク溶接を行うものである。アーク溶接機10は、例えば消耗電極式のアーク溶接機であり、電極WEとして用いるワイヤ電極がアークにより消耗するため、該電極WEをその消耗に応じて送給する送給装置WFを用いる。
【0017】
アーク溶接用電源装置11は、入力変換回路12、補助回路13、インバータ回路14、トランスINT、及び出力変換回路15を備え、入力される商用交流電力からアーク溶接に適した直流出力電力を生成する。
【0018】
入力変換回路12は、ダイオードブリッジ回路よりなる一次側整流回路DR1にて構成され、三相の商用交流電力を直流電力に変換する。直流入力電力は、後段の補助回路13及びインバータ回路14に供給される。
【0019】
先にインバータ回路14について、インバータ回路14は、IGBT等の半導体スイッチング素子よりなる第1〜第4スイッチング素子TR1〜TR4のフルブリッジ回路にて構成されている。因みに、第1上アームに第1スイッチング素子TR1が、第1下アームに第2スイッチング素子TR2が、第2上アームに第3スイッチング素子TR3が、第2下アームに第4スイッチング素子TR4がそれぞれ配置されてなる。各スイッチング素子TR1〜TR4には、それぞれダイオードD1〜D4が逆接続されている。第1及び第2スイッチング素子TR1,TR2間のインバータ回路14の出力端子と、第3及び第4スイッチング素子TR3,TR4間の出力端子は、トランスINTの一次側コイルL1(漏れインダクタンスLaを含む)と接続される。
【0020】
そして、インバータ回路14は、第1及び第4スイッチング素子TR1,TR4が組となり、第2及び第3スイッチング素子TR2,TR3が組となって、各組が交互にスイッチング動作することで、入力変換回路12(一次側整流回路DR1)から補助回路13を介して入力される直流電力を高周波交流電力に変換し、トランスINTの一次側コイルL1に供給する。これらスイッチング素子TR1〜TR4のスイッチング動作は、制御回路20から入力される制御パルス信号に基づいて行われる。
【0021】
次にインバータ回路14の前段の補助回路13について、補助回路13は、一次側整流回路DR1とインバータ回路14との間に設けられている。一次側整流回路DR1の出力側(インバータ回路14の入力側)の電源線間に先ず第1及び第2平滑コンデンサC1,C2が直列接続されている。その後段の各電源線上に第5及び第8スイッチング素子TR5,TR8がそれぞれ接続され、その後段の電源線間に第6及び第7スイッチング素子TR6,TR7が直列接続されている。これら第5〜第8スイッチング素子TR5〜TR8は、IGBT等の半導体スイッチング素子よりなり、各スイッチング素子TR5〜TR8には、それぞれダイオードD5〜D8が逆接続されている。第1及び第2平滑コンデンサC1,C2間の接続点と第6及び第7スイッチング素子TR6,TR7間の接続点とは互いに接続されている。第6及び第7スイッチング素子TR6,TR7の後段の電源線間には補助コンデンサC3が接続され、平滑コンデンサC1,C2と並列接続されている。
【0022】
そして、補助回路13は、インバータ回路14の第1及び第4スイッチング素子TR1,TR4に対して第5スイッチング素子TR5が組となり、第2及び第3スイッチング素子TR2,TR3に対して第8スイッチング素子TR8が組となって、スイッチング動作を行う(
図2参照)。
【0023】
即ち、第1及び第4スイッチング素子TR1,TR4のオンと同期して第5スイッチング素子TR5がオンすることで、ダイオードD7を含む経路にて第1平滑コンデンサC1の充電電圧がトランスINTの一次側コイルL1に印加される。また、第2及び第3スイッチング素子TR2,TR3のオンと同期して第8スイッチング素子TR8がオンすることで、ダイオードD6を含む経路にて第2平滑コンデンサC2の充電電圧がトランスINTの一次側コイルL1に印加される。つまり、一次側整流回路DR1の出力電圧の半電圧である各平滑コンデンサC1,C2の充電電圧を交互にトランスINTに印加する態様の本実施形態の電源装置11は、高電圧の商用交流電圧に対応する電源装置として構成されている。
【0024】
また、第5及び第8スイッチング素子TR5,TR8は、組をなす第1〜第4スイッチング素子TR1〜TR4と同時にオンし、オフ時は同組のスイッチング素子TR1〜TR4のオフに先立ってオフする(この場合、ゼロ電圧オフ)。その後、補助コンデンサC3の充電電力の消費を待ってからスイッチング素子TR1〜TR4がゼロ電圧にてオフされるソフトスイッチング制御が行われる。このソフトスイッチング制御により、スイッチング損失の低減が図られている。
【0025】
また、第6及び第7スイッチング素子TR6,TR7は、スイッチング素子TR1〜TR4のオフ後に生じる還流電流による補助コンデンサC3の充電経路を形成するためのスイッチング動作を行う。本実施形態では、アークスタート制御時とそれ以降の通常アーク制御時とでそのスイッチング制御(補助コンデンサC3の充電態様)を異ならせている。これについては後述する。そして、これらスイッチング素子TR5〜TR8のスイッチング動作は、制御回路20から入力される制御パルス信号に基づいて行われる。
【0026】
トランスINTの二次側では、インバータ回路14にて生成された高周波交流電力が所定電圧に変換され、二次側コイルL2から出力される。二次側コイルL2には、出力変換回路15が接続される。
【0027】
出力変換回路15は、二次側整流回路DR2、直流リアクトルDCL、平滑コンデンサC4、及び抵抗R1を備えている。二次側整流回路DR2は、一対のダイオードを用いた全波整流回路よりなり、各ダイオードのアノードが二次側コイルL2の両側端子にそれぞれ接続され、各ダイオードのカソードは共に直流リアクトルDCLの一端に接続されている。直流リアクトルDCLの他端は、電源装置11のプラス側の出力端子o1に接続されている。電源装置11のマイナス側の出力端子o2は、二次側コイルL2の中間端子と接続されている。直流リアクトルDCLの後段の電源線間には、平滑コンデンサC4と抵抗R1とがそれぞれ接続されている。このような出力変換回路15は、トランスINTの二次側コイルL2からの高周波交流電力をアーク溶接用の直流出力電力に変換し、出力端子o1,o2から出力する。
【0028】
電源装置11には、CPU等を含む制御回路20が備えられている。制御回路20は、電源装置11の出力側電源線上に設置した電流検出器21からの出力信号に基づいて出力電流Ioを検出し、この出力電流Ioや出力電圧Vo等を含む各種パラメータに基づいてその時々で適切な出力を行うための内部演算を行っている。制御回路20は、先ずインバータ回路14のスイッチング制御としてPWM制御を実施しており、その時々でスイッチング素子TR1〜TR4のオンデューティが適切となるような制御パルス信号のオンパルス幅の設定(算出)を行っている。
【0029】
また、制御回路20は、補助回路13に対して、インバータ回路14(スイッチング素子TR1〜TR4)の制御パルス信号のオンパルス幅の設定に連動して、第5及び第8スイッチング素子TR5,TR8の制御パルス信号のオンパルス幅の設定と、第6及び第7スイッチング素子TR6,TR7の制御パルス信号のオンパルス幅の設定とを行う。
【0030】
先ず第5及び第8スイッチング素子TR5,TR8について、制御回路20は、組をなす第1〜第4スイッチング素子TR1〜TR4と同時にオンし、オフ時は同組のスイッチング素子TR1〜TR4のオフに先立ってオフする制御パルス信号を設定する。即ち、制御回路20は、スイッチング素子TR5,TR8及びダイオードD6,D7を用いた平滑コンデンサC1,C2の各充電電圧のインバータ回路14への交互の供給と共に、スイッチング素子TR5,TR8によるスイッチング素子TR1〜TR4のソフトスイッチング制御を行う。
【0031】
また、スイッチング素子TR1〜TR4のオフ後には、トランスINTの一次側コイルL1の漏れインダクタンスLaによる還流電流が生じ、この還流電流による補助コンデンサC3の充電がなされる。この補助コンデンサC3の充電動作において、制御回路20は、アークスタート制御時と通常アーク制御時とでその充電態様を異ならせている。
【0032】
次に、本実施形態の動作(作用)を説明する。
[通常アーク制御]
本制御では、
図2に破線にて示すように、第6スイッチング素子TR6は、第2及び第3スイッチング素子TR2,TR3のオフ直前から次の第1及び第4スイッチング素子TR1,TR4のオン所定時間後まで継続してオンされる。また、第7スイッチング素子TR7は、第1及び第4スイッチング素子TR1,TR4のオフ直前から次の第2及び第3スイッチング素子TR2,TR3のオン所定時間後まで継続してオンされる。制御回路20は、このような動作を行わせる制御パルス信号を設定する。
【0033】
つまり、本制御時では、第1〜第4スイッチング素子TR1〜TR4のオフ後に生じる還流電流にて、補助コンデンサC3が平滑コンデンサC1,C2の各充電電圧以上の過充電状態となることを防止すべく、第6及び第7スイッチング素子TR6,TR7がオンされて、還流電流の余剰分が平滑コンデンサC1,C2より入力側に回生される。
【0034】
ところで、アークスタートの際に、上記のように第6及び第7スイッチング素子TR6,TR7を動作させると、補助コンデンサC3の充電電圧の上昇が平滑コンデンサC1,C2の各充電電圧までで頭打ちとなる。補助コンデンサC3の充電電圧は、
図2のV(C3)として示している。
図2のV(C3)の破線にて示すように、補助コンデンサC3の充電電圧が頭打ちとなることがわかる。そのため、インバータ回路14の動作によりトランスINTの一次側コイルL1に印加される電圧も
図2のV(INT)の破線にて示すように頭打ちとなる。因みに、
図2のI(INT)は、トランスINTの一次側コイルL1に流れる電流である。
【0035】
そして、トランスINTの一次側コイルL1の印加電圧が頭打ちとなる結果、出力電圧Voが
図2の破線にて示す通常水準の電圧値で推移するが、アークスタート性を向上するには、出力電圧Voをより高電圧とすることが必要である。そこで、アークスタートの際には、通常アーク制御と異なるアークスタート制御が実施される。
【0036】
[アークスタート制御]
本制御では、
図2に実線にて示すように、第6及び第7スイッチング素子TR6,TR7はオフに固定される。
【0037】
つまり、本制御時では、第6及び第7スイッチング素子TR6,TR7のオフにより、入力側に回生するはずの還流電流の余剰分を含めて補助コンデンサC3の充電がなされ、補助コンデンサC3が平滑コンデンサC1,C2の各充電電圧以上の過充電状態とされ、補助コンデンサC3の充電電圧が高められる。補助コンデンサC3の充電電圧は、
図2のV(C3)の実線にて示すように、通常アーク制御(破線)よりも高められていることがわかる。尚、補助コンデンサC3を過充電とするが、このアークスタートにかかる時間は僅かであるため、スイッチング素子TR1〜TR8に対する耐圧等への影響は極めて小さい。
【0038】
そして、補助コンデンサC3の充電電圧は高くなることから、インバータ回路14の動作によりトランスINTの一次側コイルL1に印加される電圧も
図2のV(INT)の実線にて示すように高くなるため、出力電圧Voは同
図2の実線の如く、通常水準よりも高電圧となる。そのため、溶接トーチTHの電極WEの先端から適切な初期アークが生じ易くなり、アークスタートが速やかに行われる。因みに、アークスタートは、溶接トーチTHの電極WEを溶接対象Mに一旦接触させて行われる。
【0039】
そして、制御回路20は、アーク溶接開始時において先ずアークスタート制御を実施し、電流検出器21による出力電流Ioの検出から、アーク発生相当の電流値(数アンペア)を超えたことを検出した場合に、アークスタート制御から通常アーク制御に切り替えるようになっている。以降は、第6及び第7スイッチング素子TR6,TR7が動作して補助コンデンサC3の過充電の防止がなされる。
【0040】
次に、本実施形態の特徴的な効果を記載する。
(1)インバータ回路14の前段の補助回路13にて、インバータ回路14のスイッチング素子TR1〜TR4に先立ってスイッチング素子TR5,TR8がオフするソフトスイッチング動作の際に補助コンデンサC3の充電電力が消費され、スイッチング素子TR1〜TR4のオフ後に生じる還流電流にて補助コンデンサC3の充電が行われる。通常アーク制御では、補助回路13の対応するスイッチング素子TR6,TR7がオンされて補助コンデンサC3を充電する還流電流の余剰分が平滑コンデンサC1,C2より入力側に回生される回生動作が行われ、補助コンデンサC3の充電電圧V(C3)の制限がなされる。これに対し、アークスタート制御では、補助回路13のスイッチング素子TR6,TR7がオフに固定されて回生動作が禁止され、余剰分を含む還流電流を以て補助コンデンサC3が充電されてその充電電圧V(C3)が高められる。制御回路20は、通常アーク制御とアークスタート制御とが切替可能に構成され、アークスタート時において、通常アーク制御に切り替えられるアークが生じたとみなす判定とするまで、補助コンデンサC3の充電電圧を高くする、即ちアークが生じ易い状況となる電源装置11の出力電圧Voを高くするアークスタート制御を実施する。このようなアークスタート制御を組み込むことで、簡易にアークスタート性を向上することができる。
【0041】
(2)制御回路20は、アークが生じたとみなす判定について、電源装置11の出力電流Ioのアーク発生相当の電流値の検出に基づいて行っている。そのため、アーク発生の判定がより確実に行われることとなり、アークスタート制御から通常アーク制御への切り替えをより適切に行うことができる。
【0042】
尚、上記実施形態は、以下のように変更してもよい。
・制御の切り替えに用いるアークが生じたとみなす判定について、電源装置11の出力電圧Voのゼロ電圧の検出に基づいて行うようにしてもよい。即ち、アークスタート時において、溶接トーチTHの電極WEが溶接対象Mに一旦接触させるため、その接触の際に電源装置11の出力電圧Voが一旦ゼロ電圧になる。これを踏まえ、アークが生じたとみなす判定をその電源装置11の出力電圧Voのゼロ電圧の検出に基づいて行うこともできる。この場合、補助コンデンサの充電電圧V(C3)の制限がなされる通常アーク制御に速やかに切り替えることが可能である。
【0043】
また、アークが生じたとみなす判定を上記した出力電流Ioや出力電圧Voの検出以外で行って制御を切り替えるようにしてもよい。例えば、時間計時により制御を切り替えてもよい。
【0044】
・電源装置11の回路構成を適宜変更してもよい。例えばスイッチング素子TR1〜TR8にIGBT以外の半導体スイッチング素子を用いてもよい。
また、インバータ回路14を4個のスイッチング素子TR1〜TR4を用いたフルブリッジ回路にて構成したが、その他のスイッチング回路にて構成してもよい。
【0045】
また、補助回路13を4個のスイッチング素子TR5〜TR8等を用いて構成したが、その他の構成としてもよい。
次に、上記実施形態及び別例から把握できる技術的思想を以下に追記する。
【0046】
(イ)上記課題を解決するアーク溶接用電源装置において、
前記インバータ回路は、第1〜第4スイッチング素子を用いるフルブリッジ回路にて構成され、
前記補助回路は、前記インバータ回路の入力側の一対の電源線間に直列接続される前記平滑コンデンサとしての第1及び第2平滑コンデンサと、その後段の各電源線上にそれぞれ接続される前記第1補助スイッチング素子としての第5及び第8スイッチング素子と、その後段の電源線間に直列接続される前記第2補助スイッチング素子としての第6及び第7スイッチング素子と、その後段の電源線間に接続される前記補助コンデンサとを備え、第1及び第2平滑コンデンサ間と第6及び第7スイッチング素子間とが互いに接続されて構成されたことを特徴とするアーク溶接用電源装置。
【0047】
(ロ) トランスの二次側においてアーク溶接用の直流出力電力の生成に用いる高周波交流電力を生じさせるべく、そのトランスの一次側にてスイッチング素子の動作により直流電力を高周波交流電力に変換するインバータ回路と、
前記インバータ回路に入力される直流電力を平滑化する平滑コンデンサ及びその後段に補助コンデンサを並列に備えると共に両コンデンサ間に第1及び第2補助スイッチング素子を備え、前記入力される直流電力を前記インバータ回路に伝達する第1補助スイッチング素子を前記インバータ回路のスイッチング素子に先立ってオフすることでその後の前記補助コンデンサの充電電力の消費を待ってからの前記インバータ回路のスイッチング素子のオフに繋げるためのソフトスイッチング動作と、前記インバータ回路のスイッチング素子のオフ後に生じる還流電流にて前記補助コンデンサの充電を行う際のその余剰分を第2補助スイッチング素子のオンにより入力側に回生させる経路を形成する回生動作とを行う補助回路と
を備えたアーク溶接用電源装置の制御方法であって、
前記補助回路の第2補助スイッチング素子をオンさせる回生動作を行い前記補助コンデンサの充電電圧を制限する制御を含む通常アーク制御と、前記補助回路の第2補助スイッチング素子をオフさせて回生動作を禁止し前記還流電流及びその余剰分を以て前記補助コンデンサを充電してその充電電圧を高める制御を含むアークスタート制御とを用い、アークスタート時にはアークスタート制御を実施し、アークが生じたとみなす判定に基づいて通常アーク制御に切り替えることを特徴とするアーク溶接用電源装置の制御方法。