【実施例1】
【0012】
本発明の第1の実施例を示すスクロール圧縮機について、
図1〜2を用いて詳細に説明する。本発明の第1実施例を示すスクロール圧縮機の全体構造に関して説明する。
スクロール圧縮機1は、圧縮機構部2と駆動部3とを密閉容器100内に収納して構成する。該圧縮機構部2は、固定スクロール110と旋回スクロール120とフレーム160から構成される。固定スクロール110は、端板110bと該端板110bに垂直に立設する渦巻状ラップ110aを有し、かつラップ中央部に吐出口110eを有し、該フレーム160に複数のボルトを介して固定される。該旋回スクロール120は、端板120bと該端板120bに垂直に立設する渦巻状ラップ120aを有し、該端板120bの背面側にボス部120eとボス部端面120fで構成される。
【0013】
固定スクロール110と旋回スクロール120とが噛合わされて形成される圧縮室130は、該旋回スクロール120が固定スクロール110に対して旋回運動することによりその容積が減少する圧縮動作を行う。この圧縮動作では、該旋回スクロール120の旋回運動に伴って、作動流体が吸込口140から該圧縮室130へ吸込まれ、吸込まれた作動流体が圧縮行程を経て固定スクロール110の吐出口110eから密閉容器100内の吐出空間136に吐出され、さらに吐出口150を経由して密閉容器100から吐出される。これによって、密閉容器100内の空間は吐出圧力に保たれる。
【0014】
旋回スクロール120を旋回運動させる駆動部3は、ステータ108及びロータ107と、クランク軸101と、旋回スクロール120の自転防止機構の主要部品であるオルダム継手134と、フレーム160と、主軸受104、副軸受105と、旋回軸受103で構成される。クランク軸101は主軸部101bと上部の偏心ピン部101aとを一体に備えて構成される。主軸受104はフレーム160に設けられ、副軸受105は軸受ケース205に設けられ、これらの主軸受104及び副軸受105によりクランク軸101を回転軸方向に移動可能にかつ回転自在に支持するように構成される。なお、フレーム160及び軸受ケース205は密閉容器100に固定されるものである。
【0015】
旋回軸受103は、クランク軸101の上部の偏芯ピン部101aを回転軸方向に移動可能にかつ回転自在に支持するように、旋回スクロール120背面側のボス部120eに設けられる。クランク軸101を回転自在に支持する主軸受104、副軸受105は、ステータ108及びロータ107から構成される電動機の圧縮機構部2側と油溜り部131側とにそれぞれ配置される。
【0016】
本実施例において、該圧縮機構部2側近傍の旋回軸受103及び主軸受104にすべり軸受を用いることが望ましい。特に旋回軸受103は旋回スクロール120の背面側のボス部120eに設けられるため、その他の種類の軸受を採用すると、背圧室180の空間の寸法制約から、ボス部120eを薄い形状とすることが必要となり、強度上の信頼性低下を招く虞がある。但し、主軸受104についてはフレーム160を設置する空間に、ある程度、スペースに余裕があるため、これは転がり軸受を採用してもよい。
【0017】
油溜り部131近傍の副軸受105には図示のようなすべり軸受の他、使用条件に適応できる転がり軸受やその他の球面軸受部材でも良い。オルダム継手134は、旋回スクロール120とフレーム160とにより構成した背圧室180に配設されており、固定スクロール110と旋回スクロール120の自転防止部材である。オルダム継手134に形成した直交する2組のキー部分の1組がフレーム160に構成したキー溝を滑動し、残りの1組が旋回スクロール120の背面側に構成したキー溝を滑動する。
【0018】
図1、2を用いて、旋回軸受103と主軸受104をすべり軸受で構成した場合に関して説明する。
図2は、
図1の旋回スクロール軸受部及び主軸受近傍の拡大図(
図1のA部)である。旋回スクロール120の背面側に構成される空間は、旋回スクロール120とフレーム160と固定スクロール110とで囲まれて構成される空間である。高圧室と背圧室との分離手段は、旋回スクロール背面のボス部端面120fと、これに対面するフレームの端面部164と、該端面部164に構成されたリング状溝161と、該リング状溝161に配設されたシール部材172とを備えて構成される。ここで、該ボス部端面120fは、該シール部材172と接するシール面である。該シール部材172は、背圧室180と高圧室181を圧力的に分離するシール手段である。
【0019】
高圧室181は、旋回軸受103、主軸受104、スラスト軸受204から排出された潤滑油をシール部材172でシールしており、ポンプ作用による昇圧作用と軸受部や隙間部を通過する時に減圧作用を受けるもののほぼ吐出圧力程度の圧力空間になる。背圧室180内に配設したオルダム継手134等の摺動部は高圧室181へ供給した潤滑油の一部を供給するため、排出経路空間185と第2背圧室180を断続的あるいは連続的に連通させる小孔170を旋回軸支持部端面120fに設けてある。
【0020】
旋回軸受103、主軸受104及び副軸受105への給油は、クランク軸101内に設けた給油経路102と給油ポンプ106とで行う。即ち、密閉容器100の下部空間に溜めた潤滑油131を給油ポンプ106で吸引して給油通路102、を通して各部へ潤滑油を供給する。給油ポンプとしては、図示していないがクランク軸101に構成する偏芯回転動作により実現する遠心ポンプ作用を用いても良い。
【0021】
本実施例における旋回軸受103又は主軸受104をすべり軸受で構成した断面構造について
図3を用いて説明する。本実施例のすべり軸受は、バックメタル104aとカーボン繊維104bと樹脂系材料104cを有しており、バックメタル104aが旋回スクロール120の背面側のボス部120eに設けられる。カーボン繊維104bは樹脂系材料104cに混在させて、バックメタル104a上に形成している。このような材料を用いることによって、従来のような多孔質青銅の露出率をシビアに考えなくて良いので、寸法公差のみを考慮すれば良く生産時間及びコストの低減を図ることが可能となる。
【0022】
本実施例の上記したすべり軸受の摩擦特性を測定した結果を
図6に示す。本実施例のすべり軸受の樹脂系材料の成分はポリエーテルエーテルケトンとフッ素樹脂を含有させ、高強度のためにカーボン繊維を混在させたものである。従来のすべり軸受材料は樹脂系材料に多孔質青銅系合金を含有したもので、摺動面表面の多孔質青銅系合金の面積露出割合を実験的に20%としたものである。
【0023】
図6は、軸受平均面圧と摩擦係数の関係を示したものである。ここで軸受平均面圧は(荷重N/すべり軸受内径D×すべり軸受高さL)として求めたものである。縦軸の摩擦係数比は、本実施例の軸受平均面圧が6.5MPaのときの値を1としてこれを基準として示している。
図6に示すように本実施例のすべり軸受は、従来よりも低摩擦を維持できる特性を有している事が分かる。この理由としては、フッ素樹脂及びカーボンは潤滑性がある固体潤滑材であり、カーボンが低摩擦化を発揮できる成分と考えることができる。概略本実施例のすべり軸受は従来のすべり軸受よりも摩擦係数を30%程度低減できるものであり、省エネ化に有効な軸受材料であることが伺える。
【0024】
なお、
図6に示すすべり軸受の材料の引張強度は概ね50〜80MPaのものを採用した。この引張強度は大きい方が強度面の信頼性向上を図ることができるが、一方で引張強度が大きすぎると摩擦係数の上昇を招く虞がある。したがって、すべり軸受の材料として引張強度を50〜80MPa程度のものを採用することにより、耐摩耗性や耐焼付性に関して信頼性を維持しながら、上記した摩擦係数を低減し省エネを図ることが可能となる。なお、従来の材料の引張強度は概ね20MPaであり、
図6に示すすべり軸受は4倍程度の高強度を有しているものである。
【0025】
本実施例では樹脂系材料の成分としてポリエーテルエーテルケトンとフッ素樹脂を含有させ、高強度のためにカーボン繊維を混在させたものを採用することで引張強度を80MPa程度を保つことが可能となったが、ポリエーテルエーテルケトン以外にもポリフェニレンサルファイドとフッ素樹脂とカーボン繊維の混在でも引張強度50MPaを維持できるため、同様な効果を得ることができる。
【実施例2】
【0026】
本発明の第2の実施例を示すスクロール圧縮機について、
図4を用いて説明する。
図4は、
図2のB部の主軸受近傍の断面図である。クランク軸101は主軸部101bと偏心ピン部101aとを一体に備えて構成される。主軸受104、副軸受105はクランク軸101を回転自在に支持するように構成される。旋回軸受103は、クランク軸101の偏芯ピン部101aを回転軸方向に移動可能にかつ回転自在に支持するように、旋回スクロールのボス部120eに備える。クランク軸を回転自在に支持する主軸受104、副軸受105は、ステータ108及びロータ107から構成される電動機の圧縮機構部2側と油溜り部131側とにそれぞれ配置される。
【0027】
クランク軸101は、回転による旋回スクロール120の遠心力及び旋回スクロール120がガスを圧縮する際に旋回軸受103を介して受ける軸方向の荷重により微小傾斜を起こす。特に、駆動部3の両側に位置した主軸受104、副軸受105でクランク軸101を支持するように構成していることで、偏心ピン部101aや主軸受部101bに傾斜が生じやすい。そこで、主軸受104の両端の端部内周面に平坦部104dから端部に拡開するテーパ部104eを設けている。テーパ部104eは主軸受104の上部及び下部に設けられておりクランク軸101から離れるように傾斜するように構成されるものである。
【0028】
図2に図示するように旋回軸受103においても開口側の端部内周面に拡開テーパを設けることで同様な効果が得られる。なお、クランク軸101は上端、あるいは下端を支点として偏心するものであるため、クランク軸101の上端においては旋回軸受103と接する面における傾斜は微小な程度である。そこで本実施例では、旋回軸受103については下部のみに偏心ピン部101aから離れるように傾斜するテーパ部を設けており、図示では上部には設けていないが、上部に設置しても同様な効果が得られる。テーパ部はすべり軸受を旋回スクロールのボス部120eやフレーム160に取り付けた後で形成されるものであるため、ボス部120eに取り付けた後では加工するためのスペースがなくテーパ部の加工自体が困難である。そこで上記したように旋回軸受103の下部のみにテーパ部を設けることで微小傾斜による面圧上昇を抑制しながら、しかも生産性を向上することが可能となる。
【0029】
主軸受104のテーパ部104eは、軸方向の寸法を数ミリオーダー、径方向の寸法を数十ミクロンオーダーとする緩やかなテーパ角度θで形成されている。このように主軸受104の両端面にテーパ部104fを設ける構造によって、クランク軸101が微小傾斜した場合においてもクランク軸101が主軸受104の両端テーパ部104eと片当りすることなく、滑らかに面で接触することができ、面圧上昇を緩和させる効果があるからすべり軸受の信頼性を高めることができる。
【0030】
なお、近年では、省エネルギー化が望まれており、その指標として通年エネルギー消費効率(Annual Performance Factor:APF)を表示するようになってきたので、特に中間条件と言われる低速条件の重みが増してきた。低速条件での圧縮機効率を向上させるには、すべり軸受部での摺動損失ロスを低減することが有効である。よって、本実施例にて説明したスクロール圧縮機用のすべり軸受として樹脂系材料とカーボン繊維を混在させた材料で軸受開口側の端部に拡開テーパ部を備えることで、低摩擦化を図れ、軸受摩耗量の低減や焼付耐力の向上を発揮できることを見出したものである。
【実施例3】
【0031】
本発明の第3の実施例を示すスクロール圧縮機について、
図5を用いて説明する。
図5は、
図2のB部の主軸受近傍の断面図である。この第3実施例は、次に述べる点で第2実施例と相違するものであり、その他については第2実施例と基本的には同一である。
【0032】
この第3実施例では、主軸受104の両端の端部内周面の平坦部104dから端部に拡開するマイクロステップ部104fを設けている。つまりテーパ部を段差形状により構成するものである。図示していないが、旋回軸受103においても開口側の端部内周面に拡開するマイクロステップ部を設けることで同様な効果が得られる。主軸受104のマイクロステップ部104fは、軸方向の寸法を数ミリオーダー、径方向の寸法を数ミクロンオーダーで段階的に拡開する円筒部で加工され、擬似的な緩やかなテーパ角度θで形成されている。
【0033】
このように主軸受の両端面にマイクロステップ部104fを設ける構造によって、クランク軸101が微小傾斜した場合においてもクランク軸101が主軸受104の両端マイクロステップ部104fと片当りすることなく、滑らかに面で接触することができ、面圧上昇を緩和させる効果があるからすべり軸受の信頼性を高めることができる。本実施例のような加工方法は、研削で軸受内周面の平坦面104dを高精度に仕上げ、更にマイクロステップを研削加工で構成できる手法である。マイクロステップ加工ではなく、テーパ加工を研削で実施する場合は、専用の研削砥石形状を製作しなければならなく、コスト面で不利となるために、実用的ではない。
【実施例4】
【0034】
本発明の第4に実施例を示すスクロール圧縮機の構造は、
図4及び
図5を用いて説明し、その効果に関しては
図7を用いて説明する。
図4に示した主軸受の詳細断面図に記載したように、主軸受104の両端部
の内周面に拡開したテーパ部104eを設け、テーパ部104eのクランク軸101からの開口角度θは軸受直径隙間Cとすべり軸受104の平坦面104d長さL1の関係がθ≧C/L1となるように設定する。なお、旋回軸受103の場合にこの開口角度θは偏心ピン部からどれだけテーパ部が開口しているかで示される。例えば、軸受内径D=35mm、軸受直径隙間C=0.05mmで、軸受平坦面104dの長さL1=25mmとした場合の開口角度θ(軸受テーパ角度)と摩擦係数比の関係を
図7に示す。ここでは、軸が傾斜した場合の摩擦係数を示し、摩擦係数比の基準は、摩擦係数が最も小さくなる軸受テーパ角度θ=0.002radとして示してある。
【0035】
拡開する開口角度θ(軸受テーパ角度)を0.002〜0.0025radが最も低摩擦となることが分かり、軸受隙間Cを軸受平坦面長さL1で除した値の0.002radとほぼ同等であることから上述の関係式が成り立つ。