(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0010】
図1は、実施形態に係わるシステムの一例を示す図である。
図1は、いわゆるスマートグリッドとして知られるシステムの一例を示す。既存の電力網(grid)では原子力、火力、水力などの既存発電所と、一般家庭や、ビル、工場といった多種多様な需要家とが電力網によって接続される。次世代の電力系統(Power grid)ではこれらに加えて太陽光発電(Photovoltaic Power Generation:PV)システムや風力発電装置などの分散型電源や蓄電装置、新交通システムや充電スタンドなどが電力系統に接続される。これら多種多様な要素は通信グリッドを介して通信することが可能である。
【0011】
エネルギーを管理するシステムは、エネルギーマネジメントシステム(Energy Management System:EMS)と総称される。EMSはその規模などに応じて幾つかに分類される。例えば一般家庭向けのHEMS(Home Energy Management System)、ビルディング向けのBEMS(Building Energy Management System)などがある。このほか、集合住宅向けのMEMS(Mansion Energy Management System)、コミュニティ向けのCEMS(Community Energy Management System)、工場向けのFEMS(Factory Energy Management System)などがある。これらのシステムが連携することできめ細かなエネルギー最適化制御が実現される。
【0012】
これらのシステムによれば既存の発電所、分散型電源、太陽光や風力などの再生可能エネルギー源、および需要家の相互間で高度な協調運用が可能になる。これにより自然エネルギーを主体とするエネルギー供給システムや、需要家と事業者との双方向連携による需要家参加型のエネルギー需給といった、新規かつスマートな形態の電力供給サービスが生み出される。
【0013】
[第1の実施形態]
図2は、第1の実施形態に係るエネルギー管理システムの一例を示す図である。実施形態に係るHEMSは、需要家宅(ホーム)100に備わるクライアントシステムと、サーバシステムとしてのクラウドコンピューティングシステム(以下、クラウドと略称する)300とを備える。
【0014】
クライアントシステムは、ホーム100に設置されるホームサーバ7を備える。ホームサーバ7は例えばIPネットワーク200上の通信回線40を介してクラウド300と通信可能である。IPネットワーク200は、いわゆるインターネット、あるいはシステムベンダのVPN(Virtual Private Network)などである。ホームサーバ7はクラウド300と通信可能なクライアント装置であり、クラウド300に各種のデータを送信し、またクラウド300から各種のデータを受信する。
【0015】
図2において、電力グリッド6から供給される電力(交流電圧)は、変圧器61などを経て各家庭に分配され、電力量計(スマートメータ)19を経てホーム100の分電盤20に供給される。電力量計19は、ホーム100に備わるエネルギー生産機器の発電量、ホーム100の消費電力量、電力グリッド6から流れ込む電力量、あるいは電力グリッド6に逆潮流する電力量などを計測する機能を備える。周知のように、再生可能エネルギーに基づいて発電された電力は、電力グリッド6に逆潮流することを許される。
【0016】
分電盤20は、この分電盤20に接続される電気機器(照明、エアコンなど)5やパワーコンディショニングシステム(PCS)104に配電線21を介して電力を供給する。また分電盤20は、フィーダごとの電力量を計測する計測装置を備える。
【0017】
電気機器5はホーム100内の配電線21に接続されることの可能な機器である。電気機器5はコンセント(図示せず)を介して配電線21に着脱可能に接続され、配電線21を介して分電盤20に接続される。電気機器5により電力が消費される。
【0018】
ホーム100の屋根や外壁にはPVユニット101が設置される。PVユニット101は、再生可能エネルギーから電気機器5を稼動させるためのエネルギーを生産する創エネルギー機器である。なお、風力発電システムなども創エネルギー機器の範疇に入る。再生可能エネルギーに由来する余剰電力が生じれば、この余剰電力は電力グリッド6に売電されることが可能である。
【0019】
蓄電池システム102は、電力グリッド6や配電線21からの交流電力を直流に変換し、自らに蓄電する。蓄電池システム102に蓄えられた電力は交流に変換されて需要家の電力需要を賄う。
【0020】
PCS104はコンバータ(図示せず)を備え、配電線21からの交流電力を直流電力に変換して蓄電池システム102に供給する。また、PCS104はインバータ(図示せず)を備え、PVユニット101あるいは蓄電池システム102から供給される直流電力を交流電力に変換して配電線21に供給する。これにより、電気機器はPCS104を介して、PVユニット101や蓄電池システム102からも電力の供給を受けることができる。
【0021】
要するにPCS104は、PVユニット101および蓄電池システム102と配電線21との間でエネルギーを授受するための変換器としての機能を備える。PCS104は蓄電池システム102を安定に制御する機能も備える。なおPCS104は、PVユニット101、蓄電池システム102のそれぞれに個別に設けられても良い。
【0022】
ホーム100には無線LAN(Local Area Network)などのホームネットワーク25が形成される。ホームサーバ7はホームネットワーク25とIPネットワーク200との双方に、コネクタ(図示せず)などを介して着脱可能に接続される。これによりホームサーバ7は、ホームネットワーク25に接続される電力量計19、分電盤20、PCS104および電気機器5と相互に通信可能である。なおホームネットワーク25は無線、あるいは有線のいずれでも良い。
【0023】
ホームサーバ7は通信部7aを備える。通信部7aは、クラウド300に各種のデータを送信し、またクラウド300から各種のデータを受信する、ネットワークインタフェースである。
ホームサーバ7は有線回線または無線回線を介して端末105に接続される。ホームサーバ7と端末105とを合わせてローカルサーバとしての機能を実現することも可能である。端末105はいわゆるタッチパネルなどのほか、例えば汎用的な携帯情報機器、パーソナルコンピュータ、あるいはタブレット端末などでもよい。
【0024】
端末105は電気機器5、PVユニット101、蓄電池システム102の稼働状況や消費電力量を例えばLCD(Liquid Crystal Display)に表示したり、音声ガイダンスなどで需要家(ユーザ)に報知する。また端末105は操作パネルを備え、需要家による各種の操作や設定入力を受け付ける。
【0025】
図3は、ホームサーバ7の一例を示す機能ブロック図である。ホームサーバ7は、デマンド予測部71、PV予測部72およびスケジューラ73を備える。
デマンド予測部71は、需要家におけるエネルギーの需要量(以下、デマンドと表記する)を予測して、デマンド予測値を得る。デマンド予測部71は、例えばホーム100の過去のデマンドの履歴から翌日のデマンドを予測する。翌日のデマンド予測は、例えば一週間前の同じ曜日のデマンドを利用して得られる。
【0026】
あるいは、デマンド予測部71は、予測する当日の或る時刻までのデマンドから、その時刻以降のデマンドを予測する。当日の或る時刻以降のデマンドは、その時刻までのデマンドカーブと類似するデマンドカーブを過去の履歴から検索し、マッチしたカーブのその時刻以降のカーブを予測値とすることができる。これらの手法に限らず、デマンドは他の様々な手法により予測可能である。また、デマンド予測値を、天気情報などを利用して補正することも可能である。
【0027】
デマンド予測値の時系列をD(t)とする。ここでtは1日における時刻を示す変数である。例えば1日(基準期間)を1分(単位期間)の集合で表すとすれば、tは0〜1439の値をとる。
【0028】
PV予測部72は、PVユニット101による電力の生産量(以下、発電量と表記する)を予測して、発電量の予測値(PV予測値)を得る。PV予測値の時系列をPV(t)とする。
例えば発電量の過去の実績値、あるいは天気予報に基づいてPV予測値を算出することが可能である。例えば、3時間ごとの天気予報から日射量を予測する手法が文献『島田、黒川、“天気予報と天気変化パターンを用いた日射予測”,IEEJ Trans. PE, pp1219-1225, Vol. 127, No.11, 2007.』に記載されている。
【0029】
スケジューラ73は、デマンド予測値、PV予測値および電気料金表などに基づいて、蓄電池システム102の充放電スケジュールを作成し、このスケジュールに基づいて蓄電池システム102を制御する。すなわちスケジューラ73は、算出された充放電スケジュールに基づいて、蓄電池システム102を制御するための充放電指令を生成する。蓄電池システム102はこの充放電指令に基づいて電力を充電し、または放電し、あるいは充電も放電もせず充電量を一定の値に保持する。
【0030】
図4は、スケジューラ73の一例を示す機能ブロック図である。スケジューラ73は、放電価値計算部1と、充電価値計算部2と、保持価値計算部3と、最適化部4とを備える。
【0031】
放電価値計算部1は、次式(1)〜(4)に基づいて、放電価値DisCHGval(t)の時系列を算出する。
【数1】
【0032】
式(1)におけるPVovD(t)は、PV予測値PV(t)がデマンド予測値D(t)を超える場合には両者の差をとり、PV予測値がデマンド予測値以下の場合には0となる系列である。
式(2)におけるDovPV(t)は、デマンド予測値D(t)がPV予測値PV(t)を超える場合には両者の差をとり、デマンド予測値がPV予測値以下の場合には0となる系列である。
式(3)のPVpush(t)は、PV(t)とD(t)とのうち小さいほうの値である。このPVpush(t)は、デマンド予測値D(t)を蓄電池システム102の放電で賄うことでPV売電量を押し上げ可能な発電量の系列である。
放電価値DisCHGval(t)は式(4)により表される。式(4)において、PriceBuy(t)は時刻tにおける電力料金を示す。PriceSell(t)は時刻tにおけるPV買い取り価格を示す。
式(4)の右辺第1項は、押し上げられたPV発電量の分の売電価格であり、PVユニット101の発電量に基づく売電利益の予測値を示す。右辺第2項はデマンド予測値を蓄電池システム102の放電で賄う場合の、買電損益の打ち消し額を示す。放電価値DisCHGval(t)は、時刻tにおいてD(t)分放電したときに得られる価値を示す。
【0033】
充電価値計算部2は、次式(5)〜(8)に基づいて、充電価値CHGval(t)の時系列を算出する。
【数2】
【0034】
式(5)、(6)はそれぞれ式(1)、(2)と同様である。式(7)におけるCHGamount(t)は、電力グリッド6から蓄電池システム102に充電可能な電力の時系列を示す。なお電力グリッド6との契約電力の上限をLimitとする。
【0035】
充電価値CHGval(t)は式(8)により表される。CHGval(t)は、時刻tにおいてCHGamount(t)分充電したときに支払われる価値と、売電可能であったPV発電量が0になることによる損失との合計として表される。
【0036】
保持価値計算部3は、次式(9)〜(11)に基づいて、蓄電池システム102の充放電機能を利用しない場合の電気料金Val(t)の時系列を算出する。以下ではVal(t)を、保持価値と称する。
【数3】
【0037】
式(9)、(10)はそれぞれ式(1)、(2)と同様である。式(11)の保持価値Val(t)は、蓄電池システム102を充電も放電もしないとき、つまり充電状態(State of Charge)を保持する際の電力料金の収支を示す。
【0038】
最適化部4は、上記算出された放電価値、充電価値および保持価値と、蓄電池システム102の充電量および放電量に基づいて蓄電池システム102の充放電スケジュールを作成する。最適化部4は、充放電価値テーブル4aと充放電量テーブル4bとをメモリ(図示せず)などに記憶する。
【0039】
図5は充放電価値テーブル4aの一例を示す図である。充放電価値テーブル4aは、それぞれ計算された放電価値、充電価値および保持価値を、例えば1日における時刻ごとに記載するテーブルである。
図6は充放電量テーブル4bの一例を示す図である。充放電量テーブル4bは、充放電を実行した際の充放電量を、時刻ごとに記載したテーブルである。
図5および
図6に示されるテーブルにおいて、t=0は0時0分に対応する。t=1は0時1分に対応する。このように1日を分で表すと、t=1439は23時59分に対応する。
【0040】
図7は、ホームサーバ7のハードウェアブロックの一例を示す図である。ホームサーバ7は、例えば、汎用のコンピュータを基本ハードウェアとして用いることで実現することが可能である。ホームサーバ7はCentral Processing Unit(CPU)とメモリを備えるコンピュータである。メモリは、このコンピュータを制御するプログラムを記憶する。
【0041】
プログラムは、クラウド300と通信したり、電気機器5や蓄電池システム102、FCユニット103の運転計画を計算したり、あるいはこの計算をクラウド300に要求したり、システムの制御に需要家の意思を反映させたりするための命令などを含む。CPUが各種のプログラムに基づいて機能することで、ホームサーバ7に係る諸機能が実現される。
【0042】
すなわち、ホームサーバ7における各機能ブロックは、メモリに記憶されるプログラムを、コンピュータのCPUに実行させることで実現可能である。ホームサーバ7は、上記プログラムをコンピュータにインストールすることで実現可能である。あるいは上記プログラムをCD−ROMなどの記憶媒体に記憶して、またはネットワークを介して配信してコンピュータにインストールすることで実現してもよい。
【0043】
図7に示されるように、コンピュータは、CPU、メモリ、ハードディスク、インタフェース(IF)およびグラフィックインタフェース(GUI)を備え、これらはバスを介して接続される。このうちインタフェースは、PV発電量および電力需要(デマンド)を計測するためのインタフェースと、蓄電池システム102とのインタフェースと、ネットワークに接続されるインタフェースとを備える。ホームサーバ7の機能を実現するプログラムはハードディスク上に格納され、実行時にメモリに展開されたのち手順に従って実行される。
【0044】
特に、ホームサーバ7は
図3に示される機能ブロックに加え、パワーコンディショニングシステムを備えても良い。このような形態では、ホームサーバ7を組み込み機器(embedded device)として実現して屋外に設置しても良い。
【0045】
次に、上記構成における作用を説明する。蓄電池システム102の充放電スケジュールを最適化することを考える。充放電スケジュールは、時刻毎に充電、放電、あるいは保持の、いずれかのケースをとる。例えば1分刻みで充放電スケジュールを立てるケースでは充電、放電および保持のいずれかが1分毎に割り付けられ(アサインされ)る。しかし、蓄電池システム102の充電量の下限と上限という制限を満たさなければならないので、充放電を無作為に割り当てることはできない。以上を踏まえ、充放電を各時刻に割り付けるためのアルゴリズムを説明する。
【0046】
図8は、蓄電池システム102の充放電スケジュールの作成に係わる処理手順の一例を示す図である。ここではホームサーバ7の最適化部4を主体として説明する。最適化部4は、先ず、充放電シーケンスの全ての組み合わせを作成する(ステップS1)。すなわち最適化部4は、各時刻が充電、放電および保持のいずれかとなる組み合わせを全ての時刻にわたって作成し、組み合わせのそれぞれを要素sとする集合Sを作成する。
【0047】
次に最適化部4は、集合Sから要素sを順次抜き出し、コスト(光熱費など)を算出する(ステップS2)。コストの算出にあたっては充放電価値テーブル4aにより管理される内容と、充放電量テーブル4bにより管理される内容とが参照される。また最適化部4は、要素sごとの蓄電池システム102のSOC(state of charge)を計算する。そして最適化部4は、計算されたSOCが蓄電池システム102の容量の上限と下限との間にあるか否かを判定する(ステップS4)。この制限から外れていれば(No)、そのsは非現実的であるとして破棄される(ステップS5)。
【0048】
ステップS2からS5の手順は、集合Sに含まれる全ての要素sについて繰り返される(ステップS6)。全ての組み合わせについての手順が完了すると、破棄されず残ったsのうちコストが最小のsが選択される(ステップS7)。最適化部4は、この選択されたsに対応する充放電スケジュールを出力する(ステップS8)。
【0049】
以上説明したように第1の実施形態では、蓄電池システム102のとり得る充電、放電および保持の3つの状態ごとに、その価値を示すパラメータ(充電価値、放電価値、保持価値)を算出する。また、充電、放電および保持の全ての組み合わせについてコストおよびSOCを算出し、SOCが制限を満たすもののうちコストが最小となるシーケンスを充放電スケジュールとして選択する。
【0050】
このようにしたので、放電だけでなく、充電、および放電も充電もしないケースをも含めた形で最適化した、蓄電池システム102の充放電スケジュールを作成できるようになる。つまり、気象条件や時間帯、あるいは売電(買電)単価によっては押し上げ効果を利用しないほうがコスト面で有利であったり、むしろ積極的に充電をするほうが有利であったりすることがある。第1の実施形態ではこのような状況をも総合的に考慮した充放電スケジュールを作成することが可能になる。つまり蓄電池システムの充放電を繰り返すことで、さらなるコスト削減を期待できるスケジュールを作成できるようになり、従って、蓄電装置を有利な充放電戦略のもとで運用可能な
エネルギー管理装置、エネルギー管理システム、エネルギー管理方法およびプログラムを提供することが可能となる。
【0051】
[第2の実施形態]
第1の実施形態では、充放電シーケンスの全ての組み合わせを列挙して、その中から充放電制約を満たし、かつコストが最小のものを選択した。しかし組み合わせの数は時間の刻み幅が細かくなればなるほど幾何級数的に増えるので、計算が実用時間内に終了しないことが考えられる。そこで第2の実施形態では、三分探索木(ternary search tree)と称されるアルゴリズムを用いることで、処理時間の短縮を図る。このアルゴリズムに基づく最適化手法を以下の擬似コードに示す。
【数4】
【0052】
この擬似コード列において、calc_priceは、時刻順に充放電戦略を実施した時のコストと時刻毎のSOCを計算する関数である。ここで文字列”CHG”,“DIS”,“NON”はそれぞれ、充電、放電、保持(充電も放電もせず)を示す。関数は再帰呼び出しの形式で記述され、それぞれの時刻で、充電、放電、保持を実施した場合を想定してcalc_priceを呼ぶ。返り値は、その時刻以降のコストの合計と充放電戦略のシーケンスである。時刻がtmaxであれば関数を再帰呼び出しせずに、時刻tmaxにおけるコストを計算して返り値を返す。valは、その時刻tでactを実施した際の価値を返す。なお上記擬似コード列は幅優先探索法に基づくシーケンスを記述する。このほか、深さ優先探索法で解を探索することも可能である。
【0053】
第1の実施形態では、1分毎のケースについて一つずつコストを計算した。これに対し第2の実施形態では、分岐における先頭から共通の部分については計算の回数が1度だけで済む。つまり全てのケースを計算することなく最良解に到達することが可能になり、従って計算時間を飛躍的に短縮することが可能になる。
【0054】
[第3の実施形態]
第2の実施形態では三分探索木法により解を生成した。第3の実施形態ではさらに、三分探索木法に分枝限定法を適用して解を探索する。以下にアルゴリズムを説明する。
【数5】
【0055】
このアルゴリズムは、第2の実施形態のアルゴリズムに、暫定解と最良解との大小関係を判定し、その結果により解の探索空間を縮小する処理を追加したものである。この処理は、いわゆる枝刈り処理と称される。
【0056】
図9に示されるように、三分探索木法は一つのノードごとに3つのノードが接続され、各ノードに対する評価値を算出するアルゴリズムである。充電をc、放電をd、保持をnで示すと、時刻Tが進行するにつれ3のT乗でノードの数が増える。そこで、上記アルゴリズムに暫定解を与え、この暫定解を超えるノードはそれ以降の計算を実行しないことで計算にかかるステップを大幅に削減することができる。この枝刈り処理を加えることで解の探索空間を縮めることができ、処理の高速化を図ることが可能となる。
【0057】
最良解は、残りの全ての時刻について需要分まで放電した際に得られる金額と、この需要をSOCの現状値で賄えない場合、残りの時間帯で最も安い価格で充電したと仮定して算出した金額との差として計算される。
【0058】
暫定解は、上記アルゴリズムにより計算された解を用いて順次更新される。しかし最良解に近い暫定解を初期に算出できなければ解の探索手順が多くなり、計算時間を要することとなる。以下に、最良解に近い暫定解を算出する手法の一例を説明する。
【0059】
図10は、暫定解の算出に係わる処理手順の一例を示すフローチャートである。ここではホームサーバ7の最適化部4を主体として説明する。最適化部4は、先ず、PV発電量の予測値を算出してその時系列PV(t)を得る(ステップS11)。また最適化部4はデマンド予測値を算出し、その時系列D(t)を得る(ステップS12)。tは1日における時刻を示す変数である。例えば1日(基準期間)を1分(単位期間)の集合で表すとすれば、tは0〜1439の値をとる。
【0060】
次に最適化部4は、蓄電池システム102の充電計画を作成する(ステップS13)。買電損益を最小にするため、電力料金の安い時間帯になるべく短期間で充電が完了するような充電計画を求める。電力料金が最低の時間帯が終了する時刻をTeとすると、最適化部4は、このTeに蓄電池システム102が満充電となる計画を生成する。
【0061】
図11は、電力料金と充電期間との関係の一例を示す図である。
図11(a)においてTeは午前7:00である。充電前の蓄電池システム102の残量を空とし、電池容量を5kWh、充電可能電力を5kWとする。例として
図11(b)に示されるように、6:00〜7:00の間に蓄電池システム4を5kWで充電するという計画を立てることができる。
【0062】
図10に戻り、次に最適化部4は、次式(12)〜(15)に基づいて放電価値の予測値Value(t)(V(t)とも表記する)の時系列を算出する(ステップS14)。第1の実施形態では、時刻Teから、電気料金が最低の時間が開始する時刻Tsまでの時系列を算出するとする。つまりValue(t)は、単位期間である1分ごとの値が算出される。
【数6】
【0063】
式(12)、(13)、(14)はそれぞれ式(1)、(2)、(3)と同様である。式(15)の右辺は式(4)の右辺と同じである。つまりValue(t)は、時刻tにおいてD(t)分放電したときに得られる価値を示す。
【0064】
図12は、PV(t)、D(t)およびV(t)の各予測値の一例を示すグラフである。
図12(a)はPV予測値PV(t)を示し、
図12(b)はデマンド予測値D(t)を示す。
図12(c)はPV(t)およびD(t)から式(15)により算出した放電価値V(t)を示す。
図12(a)〜
図12(c)の各グラフにおいて横軸は時間であり、0時から通算した“分”の累積値を示す。縦軸は各分ごとの値を示す。
【0065】
図12(c)に示されるV(t)の算出にあたり、Pricesell(t)およびPriceBuy(t)として
図13に示される値を用いた。
図13(a)の買い電力がPriceBuy(t)であり、
図13(b)のPV余剰発電買取価格がPricesell(t)である。
【0066】
図10に戻り、次に最適化部4は、放電価値V(t)およびデマンドD(t)から放電価値率Efficiency(t)(E(t)とも表記する)の時系列を、式(16)に基づいて算出する(ステップS15)。つまりEfficiency(t)は、Value(t)をデマンド予測値で除算した値である。
【数7】
【0067】
図14はEfficiency(t)の時系列の一例を示すグラフである。
図14のグラフはTe(7:00)〜Ts(23:00)間におけるEfficiency(t)を示す。例えば1000分(16:40)以降の値に比べて600分(10:00)近傍におけるEfficiency(t)の値のほうが高いので、600分の近傍で蓄電池システム4を放電させるほうが効率が高い、つまり売電利益と買電損益との差し引きをより高められることが分かる。
【0068】
次に最適化部4は、時刻インデックスtを、E(t)の高い順にソートする。E(t)が同じであれば、D(t)の大きい時刻tの順位を高くする(ステップS16)。そして最適化部4は、ソートしたtの順にD(t)を累積加算し(ステップS17)、D(t)の累積加算値が蓄電池システム102の総放電量(充電量、あるいは放電可能量)を初めて超える時刻tthを算出する(ステップS18)。
【0069】
つまり最適化部4は、デマンド予測値D(t)を放電価値率E(t)の高い時刻tから順に加算したとき、D(t)の合計が蓄電池システム102の1日における総放電量以上となる時刻tthを特定する。時刻tthにおけるE(t)をEtthとする。
図14の例ではtth=667分目となり、その時のE(667)=33.96(円/kWh)である。つまり閾値は33.96円/kWとなる。得られた放電価値率Etthは最適化部4に出力される(ステップS19)。
【0070】
図15は、蓄電池システム102の放電オン/オフ制御の一例を示す図である。放電実施する(放電オン)を1、放電実施せず(放電オフ)を0として示す。
図15は、放電のオン/オフを決定する放電価値の閾値を、33.96円/kWとしたケースを示す。
【0071】
第3の実施形態では、算出されたEtthを暫定解の初期値とする。三分探索木法にこの暫定解を与えることでアルゴリズムの初期段階からの枝刈りが進み、早期に解を収束させることができる。従って第3の実施形態によれば解の探索空間を縮小でき、処理時間を大幅に高速化することが可能になる。
【0072】
[第4の実施形態]
図16は、第4の実施形態に係るエネルギー管理システムの一例を示すブロック図である。
図16において
図2と共通する部分には同じ符号を付して示し、ここでは異なる部分についてのみ説明する。第4の実施形態においては、第1の実施形態により実現される機能を、クラウドコンピューティングシステム300と、ホームサーバ7との協調動作により実現する。
【0073】
クラウド300は、サーバコンピュータSVとデータベースDBとを備える。サーバコンピュータSVは単体でも複数でも良い。データベースDBは一つのサーバコンピュータSVに備えられていても、複数のサーバコンピュータSVに分散配置されていてもよい。ホームサーバ7は、IPネットワーク200を経由してサーバコンピュータSVと通信したり、データベースDBとデータを授受したりできる。
【0074】
第4の実施形態では、エネルギー管理システムに係わる機能オブジェクトをクラウド300に配置し、クラウド300とホームサーバ7とのインタフェースを規定する。つまりクラウド300において充放電スケジュールを作成し、この充放電スケジュールを通信回線40を介してホームサーバ7に通知する。また、充放電スケジュールの作成に要する情報はクラウド300において取得するか、ホームサーバ7から通信回線40を介してクラウド300に通知するようにした。
【0075】
このような形態によれば、クラウドコンピューティングシステムの膨大な計算機リソースを利用することが可能になる。例えばPV予測やデマンド予測は負荷の高い計算を要する場合があるが、第4の実施形態によれば予測値を高精度で、かつ、短時間で算出することが可能になる。精度の高いPV予測値やデマンド予測値を利用すれば、充放電スケジュールの妥当性をさらに高められることは言うまでもない。
【0076】
これらのことから第4の実施形態によっても、蓄電装置を有利な充放電戦略のもとで運用可能な
エネルギー管理装置、エネルギー管理システム、エネルギー管理方法およびプログラムを提供することが可能となる。
【0077】
本発明のいくつかの実施形態を説明したが、これらの実施形態は例として提示するものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。これら新規な実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更を行うことができる。これら実施形態やその変形は、発明の範囲や要旨に含まれるとともに、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれる。