(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記制御手段は、更に、前記モータへの通電を再開してからの経過時間に応じた通電開始補正値を算出し、その通電開始補正値により前記目標開度を更に補正することを特徴とする請求項1に記載のエンジンの排気還流装置。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
ところで、電動式のEGR弁につき、特許文献1に記載のEGR装置のように、エンジンの減速運転時やアイドル運転時にEGR弁を所定の低開度に保持することが考えられる。また、エンジンの燃費向上を狙ってモータの消費電力を削減するために、EGR弁を所定の低開度に保持するときに、そのモータへの通電をカットすることが考えられる。
【0009】
ところが、EGR弁においてモータへの通電をカットすると、それまでモータで生じていた自己発熱がなくなり、EGR弁では、モータに隣接した構成部品に温度低下が生じる。その結果、それら構成部品に温度低下による熱収縮が起こり、その熱収縮の影響から、弁座に対して弁体が変位し、EGR弁の実際の開度が所期の目標開度からずれるおそれがあった。この開度のずれは、EGR弁を低開度に保持した状態から、モータへの通電を再開してEGR弁を再び開弁したときにも顕われる。この結果、燃焼室へ還流されるEGRガスの流量に過不足が生じ、エンジンの排気エミッションやドライバビリティが悪化するおそれがあった。
【0010】
図8に、動作中のEGR弁につき、モータへの通電をカットしてからの弁体変位の挙動をタイムチャートにより示す。
図8において、時間「0」で、モータへの通電をカットすると、それまで通電によって熱源となっていたモータが停止することになり、停止後の時間経過に伴ってEGR弁の樹脂製構成部品に温度低下による熱収縮が起こり、弁体が弁座に対して変位する。
図8では、例えば、「−0.14(mm)」程度の位置にあった弁体が、約800秒(約13分)後には「0(mm)」の位置まで変位することがわかる。この弁体の変位によりEGR弁の実際の開度が所期の目標開度からずれ、EGRガス流量に誤差が生じてしまう。
【0011】
この発明は、上記事情に鑑みてなされたものであって、その目的は、電動式の排気還流弁を、その動作中に通電カットにより所定の開度に保持した後、通電を再開させて再び開弁しても、熱収縮による実際の開度のずれに対処して排気還流弁を適正な開度で制御することを可能としたエンジンの排気還流装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記目的を達成するために、請求項1に記載の発明は、エンジンの燃焼室から排気通路へ排出される排気の一部を排気還流ガスとして吸気通路へ流して燃焼室へ還流させる排気還流通路と、排気還流通路における排気還流ガスの流量を調節するために排気還流通路に設けられた電動式の排気還流弁と、排気還流弁が、弁座と、弁座に着座可能に設けられた弁体と、弁体を駆動するためのモータとを含むことと、エンジンの運転状態に応じて排気還流弁を制御するための制御手段とを備えたエンジンの排気還流装置において、制御手段は、エンジンの運転状態に応じた目標開度を算出し、排気還流弁の動作中に、排気還流弁を所定の開度に保持するときにはモータへの通電をカットし、その後に排気還流弁を目標開度へ制御するときにはモータへの通電を再開すると共に、モータへの通電をカットしてからの経過時間に応じた通電カット補正値を算出し、その通電カット補正値により目標開度を補正することを趣旨とする。
【0013】
上記発明の構成において、モータへの通電がカットされると、それまでモータで生じていた自己発熱がなくなり、モータに隣接した構成部品に温度低下による熱収縮が起こり、弁座に対して弁体が変位して排気還流弁の実際の開度が所期の目標開度からずれるおそれがある。これに対し、上記発明の構成によれば、エンジンの運転状態に応じた目標開度が制御手段により算出される。そして、排気還流弁の動作中に、排気還流弁を所定の開度に保持するときには、モータへの通電が制御手段によりカットされ、その後に排気還流弁を目標開度へ制御するときには、制御手段によりモータへの通電が再開されると共に、モータへの通電をカットしてからの経過時間に応じた通電カット補正値が算出され、その通電カット補正値により目標開度が補正される。従って、モータへの通電がカットされた後の目標開度に対する実際の開度のずれが通電カット補正値により低減される。
【0014】
上記目的を達成するために、請求項2に記載の発明は、請求項1に記載の発明において、制御手段は、更に、モータへの通電を再開してからの経過時間に応じた通電開始補正値を算出し、その通電開始補正値により目標開度を更に補正することを趣旨とする。
【0015】
上記発明の構成において、モータへの通電が再開されると、モータに再び自己発熱が生じ、モータに隣接した構成部品に温度上昇による熱膨張が起こり、弁座に対して弁体が変位して排気還流弁の実際の開度が補正後の目標開度からずれるおそれがある。これに対し、上記発明の構成によれば、請求項1に記載の発明の作用に加え、更に、モータへの通電を再開してからの経過時間に応じた通電開始補正値が制御手段により算出され、その通電開始補正値により目標開度が更に補正される。従って、モータへの通電が再開されてからの補正後の目標開度に対する実際の開度のずれが通電開始補正値により低減される。
【0016】
上記目的を達成するために、請求項3に記載の発明は、請求項1に記載の発明において、制御手段は、通電カット補正値の算出を、所定の上限値と所定の下限値との範囲内に制限したことを趣旨とする。
【0017】
上記発明の構成によれば、請求項1に記載の発明の作用に加え、通電カット補正値が所定の上限値と所定の下限値との範囲内に制限されるので、通電カット補正値が大き過ぎたり小さすぎたりすることがない。
【0018】
上記目的を達成するために、請求項4に記載の発明は、請求項
2に記載の発明において、制御手段は、通電開始補正値の算出を、所定の上限値と所定の下限値との範囲内に制限したことを趣旨とする。
【0019】
上記発明の構成によれば、請求項
2に記載の発明の作用に加え、通電開始補正値が所定の上限値と所定の下限値との範囲内に制限されるので、通電開始補正値が大き過ぎたり小さすぎたりすることがない。
【発明の効果】
【0020】
請求項1に記載の発明によれば、電動式の排気還流弁を、その動作中に通電カットにより所定の開度に保持した後、通電を再開させて再び開弁しても、熱収縮による実際の開度のずれに対処して排気還流弁を適正な開度で制御することができ、燃焼室へ還流される排気還流ガスの流量を適正に制御することができ、エンジンの排気エミッションやドライバビリティの悪化を防止することができる。
【0021】
請求項2に記載の発明によれば、請求項1に記載の発明の効果に加え、電動式の排気還流弁を、通電カットから通電を再開させて再び開弁しても、熱膨張による実際の開度のずれに対処して排気還流弁をより一層適正な開度で制御することができる。
【0022】
請求項3に記載の発明によれば、請求項1又は2に記載の発明の効果に加え、通電カット補正値を有効な大きさに規定することができ、目標開度を有効に補正して適正な目標開度を得ることができる。
【0023】
請求項4に記載の発明によれば、請求項
2に記載の発明の効果に加え、通電開始補正値を有効な大きさに規定することができ、目標開度を更に有効に補正してより適正な目標開度を得ることができる。
【発明を実施するための形態】
【0025】
以下、本発明におけるエンジンの排気還流装置を具体化した一実施形態につき図面を参照して詳細に説明する。
【0026】
図1に、この実施形態におけるエンジンの排気還流装置(EGR装置)を含む過給機付エンジンシステムを概略構成図により示す。このエンジンシステムは、レシプロタイプのエンジン1を備える。エンジン1の吸気ポート2には、吸気通路3が接続され、排気ポート4には、排気通路5が接続される。吸気通路3の入口には、エアクリーナ6が設けられる。エアクリーナ6より下流の吸気通路3には、排気通路5との間に、吸気通路3における吸気を昇圧させるための過給機7が設けられる。
【0027】
過給機7は、吸気通路3に配置されたコンプレッサ8と、排気通路5に配置されたタービン9と、コンプレッサ8とタービン9を一体回転可能に連結する回転軸10とを含む。過給機7は、排気通路5を流れる排気によりタービン9を回転させて回転軸10を介してコンプレッサ8を一体的に回転させることにより、吸気通路3における吸気を昇圧させる、すなわち過給を行うようになっている。
【0028】
過給機7に隣接して排気通路5には、タービン9を迂回する排気バイパス通路11が設けられる。この排気バイパス通路11には、ウェイストゲートバルブ12が設けられる。ウェイストゲートバルブ12により排気バイパス通路11を流れる排気が調節されることにより、タービン9に供給される排気流量が調節され、タービン9及びコンプレッサ8の回転速度が調節され、過給機7による過給圧が調節されるようになっている。
【0029】
吸気通路3において、過給機7のコンプレッサ8とエンジン1との間には、インタークーラ13が設けられる。このインタークーラ13は、コンプレッサ8により昇圧されて高温となった吸気を適温に冷却するためのものである。インタークーラ13とエンジン1との間の吸気通路3には、サージタンク3aが設けられる。また、インタークーラ13の下流側であってサージタンク3aの上流側には、電動式のスロットル弁である電子スロットル装置14が設けられる。この電子スロットル装置14は、吸気通路3に配置されるバタフライ形のスロットル弁21と、そのスロットル弁21を開閉駆動するためのDCモータ22と、スロットル弁21の開度(スロットル開度)TAを検出するためのスロットルセンサ23とを備える。この電子スロットル装置14は、運転者によるアクセルペダル26の操作に応じてスロットル弁21がDCモータ22により開閉駆動され、開度が調節されるように構成される。この電子スロットル装置14の構成として、例えば、特開2011−252482号公報の
図1及び
図2に記載される「スロットル装置」の基本構成を採用することができる。タービン9の下流側の排気通路5には、排気を浄化するための排気触媒としての触媒コンバータ15が設けられる。
【0030】
エンジン1には、燃焼室16に燃料を噴射供給するためのインジェクタ25が設けられる。インジェクタ25には、燃料タンク(図示略)から燃料が供給されるようになっている。
【0031】
この実施形態において、大量EGRを実現するためのEGR装置は、エンジン1の燃焼室16から排気通路5へ排出される排気の一部をEGRガスとして吸気通路3へ流して燃焼室16へ還流させる排気還流通路(EGR通路)17と、EGR通路17におけるEGRガス流量を調節するためにEGR通路17に設けられた排気還流弁(EGR弁)18とを備える。EGR通路17は、タービン9の上流側の排気通路5と、サージタンク3aとの間に設けられる。すなわち、排気通路5を流れる排気の一部をEGRガスとしてEGR通路17を通じて吸気通路3へ流して燃焼室16へ還流させるために、EGR通路17の出口17aが、スロットル弁21の下流側にてサージタンク3aに接続される。また、EGR通路17の入口17bは、タービン9の上流側における排気通路5に接続される。
【0032】
EGR通路17の入口17bの近傍には、EGRガスを浄化するためのEGR用触媒コンバータ19が設けられる。また、EGR用触媒コンバータ19より下流のEGR通路17には、同通路17を流れるEGRガスを冷却するためのEGRクーラ20が設けられる。この実施形態で、EGR弁18は、EGRクーラ20より下流のEGR通路17に配置される。
【0033】
図2に、EGR弁18の概略構成を断面図により示す。
図3に、そのEGR弁18の弁座32と弁体33の部分を拡大断面図により示す。
図2に示すように、EGR弁18は、ポペット弁として、かつ、電動弁として構成される。すなわち、EGR弁18は、ハウジング31と、ハウジング31の中に設けられた弁座32と、ハウジング31の中で弁座32に対して着座可能かつ移動可能に設けられた弁体33と、弁体33をストローク運動させるためのステップモータ34とを備える。ハウジング31は、排気通路5の側(排気側)よりEGRガスが導入される導入口31aと、吸気通路3の側(吸気側)へEGRガスを導出する導出口31bと、導入口31aと導出口31bとを連通する連通路31cとを含む。弁座32は、連通路31cの中間に設けられる。
【0034】
ステップモータ34は、直進的に往復運動(ストローク運動)可能に構成された出力軸35を備え、その出力軸35の先端に弁体33が固定される。出力軸35はハウジング31に設けられた軸受36を介してストローク運動可能に支持される。出力軸35の上端部には、雄ねじ部37が形成される。出力軸36の中間(雄ねじ部37の下端付近)には、スプリング受け38が設けられる。スプリング受け38は、下面が圧縮スプリング39の受け面となっており、上面にはストッパ40が形成される。
【0035】
弁体33は円錐形状をなし、その円錐面が弁座32に対して当接又は離間するようになっている。弁体33は、スプリング受け38とハウジング31との間に設けられた圧縮スプリング39によりステップモータ34の側へ、すなわち弁座32に着座する閉弁方向へ付勢されている。そして、閉弁状態の弁体33が、ステップモータ34の出力軸35により圧縮スプリング39の付勢力に抗してストローク運動することにより、弁体33が弁座32から離間して開弁する。すなわち、開弁時には、弁体33は、EGR通路17の上流側(排気側)へ向けて移動する。このように、EGR弁18は、弁体33が弁座32に着座した閉弁状態から弁体33をエンジン1の排気圧力又は吸気圧力に抗してEGR通路17の上流側へ移動させることで開弁するタイプとなっている。一方、開弁状態から弁体33が、ステップモータ34の出力軸35により圧縮スプリング39の付勢方向へストローク運動することにより、弁体33が弁座32に近付いて閉弁する。すなわち、閉弁時には、弁体33はEGR通路17の下流側(吸気側)へ向けて移動する。
【0036】
そして、ステップモータ34の出力軸35がストローク運動することにより、弁座32に対する弁体33の開度が調節されるようになっている。この出力軸35は、弁体33が弁座32に着座する全閉状態から、弁体33が弁座32から最大限離間する全開状態までの間で所定のストロークだけストローク運動可能に設けられる。この実施形態では、大量EGRを実現するために、従前の技術に比べて弁座32の流路開口面積が拡大されている。それに合わせて、弁体33が大型化されている。
【0037】
ステップモータ34は、コイル41、マグネットロータ42及び変換機構43を含む。ステップモータ34は、コイル41が通電により励磁されることで、マグネットロータ42を所定のモータステップ数だけ回転させる。この回転により、変換機構43によりマグネットロータ42の回転運動を出力軸35のストローク運動に変換し、弁体33をストローク運動させるようになっている。
【0038】
マグネットロータ42は、樹脂製のロータ本体44と、円環状のプラスチックマグネット45とを含む。ロータ本体44の中心には、出力軸35の雄ねじ部37に螺合する雌ねじ部46が形成される。そして、ロータ本体44の雌ねじ部46と出力軸35の雄ねじ部37とが螺合した状態で、ロータ本体44が回転することで、その回転運動が出力軸35のストローク運動に変換されるようになっている。ここで、雄ねじ部37と雌ねじ部46により上記した変換機構43が構成される。ロータ本体44の下部には、スプリング受け38のストッパ40が当接する当接部44aが形成される。EGR弁18の全閉時には、ストッパ40の端面が、当接部44aの端面に面接触して、出力軸35の初期位置が規制されるようになっている。上記したコイル41、マグネットロータ42及び変換機構43等の構成部品は、樹脂製のケーシング47により覆われている。
【0039】
この実施形態では、ステップモータ34のモータステップ数を段階的に変えることにより、EGR弁18の弁体33の開度を、全閉から全開までの間で段階的に微少に調節することができるようになっている。
【0040】
この実施形態では、エンジン1の運転状態に応じて燃料噴射制御、吸気量制御及びEGR制御等をそれぞれ実行するために、インジェクタ25、電子スロットル装置14のDCモータ22及びEGR弁18のステップモータ34がそれぞれエンジン1の運転状態に応じて電子制御装置(ECU)50により制御されるようになっている。ECU50は、中央処理装置(CPU)と、所定の制御プログラム等を予め記憶したり、CPUの演算結果等を一時的に記憶したりする各種メモリと、これら各部と接続される外部入力回路及び外部出力回路とを備える。ECU50は、本発明の制御手段の一例に相当する。外部出力回路には、インジェクタ25、DCモータ22及びステップモータ34が接続される。外部入力回路には、スロットルセンサ23をはじめエンジン1の運転状態を検出するための運転状態検出手段に相当する各種センサ27,51〜55が接続され、各種エンジン信号が入力されるようになっている。また、ECU50は、EGR弁18のステップモータ34を制御するために、所定の指令信号をステップモータ34へ出力するようになっている。
【0041】
ここで、各種センサとして、スロットルセンサ23の他に、アクセルセンサ27、吸気圧センサ51、回転速度センサ52、水温センサ53、エアフローメータ54及び空燃比センサ55が設けられる。アクセルセンサ27は、アクセルペダル26の操作量であるアクセル開度ACCを検出する。アクセルペダル26は、エンジン1の動作を操作するための操作手段に相当する。吸気圧センサ51は、サージタンク3aにおける吸気圧PMを検出する。すなわち、吸気圧センサ51は、本発明の吸気圧検出手段に相当し、EGR通路17から吸気通路3へEGRガスが流れ込む位置より下流の吸気通路3(サージタンク3a)における吸気圧PMを検出するようになっている。回転速度センサ52は、エンジン1のクランクシャフト1aの回転角(クランク角)を検出するとともに、そのクランク角の変化をエンジン1の回転速度(エンジン回転速度)NEとして検出する。水温センサ53は、エンジン1の冷却水温THWを検出する。エアフローメータ54は、エアクリーナ6の直下流の吸気通路3を流れる吸気流量Gaを検出する。空燃比センサ55は、触媒コンバータ15の直上流の排気通路5に設けられ、排気中の空燃比A/Fを検出する。
【0042】
この実施形態において、ECU50は、エンジン1の全運転領域において、エンジン1の運転状態に応じてEGRを制御するために、EGR弁18を制御するようになっている。一方、ECU50は、エンジン1の減速時であって、エンジン1への燃料供給が遮断される減速燃料カット時には、EGRの流れを遮断するためにEGR弁18を全閉に制御するようになっている。また、ECU50は、EGR弁18の動作中に、EGR弁18を所定の開度(例えば、低開度)に保持するときには、ステップモータ34への通電をカットするようになっている。
【0043】
ここで、EGR弁18の動作中に、ステップモータ34への通電をカットすると、それまでステップモータ34で生じていた自己発熱がなくなり、EGR弁18では、ステップモータ34に隣接した構成部品(例えば、ケーシング47等)に温度低下による熱収縮が起きることがある。その後、ステップモータ34への通電を再開すると、ステップモータ34で自己発熱が再び生じて構成部品に温度上昇による熱膨張が起きることがある。この熱収縮及び熱膨張の影響から、
図3に実線及び2点鎖線で示すように、ステップモータ34の出力軸35がその軸線方向へ移動し、弁体33が弁座32に対して変位するおそれがある。そこで、この実施形態では、EGR弁18の動作中に通電カットによりEGR弁18を所定の開度に保持してから、通電再開により再び開弁させても、温度低下に起因した熱収縮による影響を排除してEGR弁18を適正な開度で制御するために、ECU50が以下のようなEGR制御を実行するようになっている。
【0044】
図4に、ECU50が実行するEGR制御の処理内容の一例をフローチャートにより示す。処理がこのルーチンへ移行すると、ステップ100で、ECU50は、エンジン回転速度NEとエンジン負荷KLを取り込む。ここで、ECU50は、エンジン負荷KLを、例えば、エンジン回転速度NEと吸気圧PMとの関係から求めることができる。
【0045】
次に、ステップ110で、ECU50は、ステップモータを通電カットすべきか否かを判断する。すなわち、ECU50は、エンジン1の運転状態が、EGR弁18を構成するステップモータ34への通電をカットすべき状態にあるか否かを判断する。例えば、エンジン1の運転状態に変化がなく、EGR弁18を所定の小開度で保持するときは、ECU50は、ステップモータ34への通電をカットすべきと判断する。ECU50は、この判断結果が肯定となる場合、処理をステップ120へ移行し、この判断結果が否定となる場合、処理をステップ130へ移行する。
【0046】
ステップ120では、ECU50は、ステップモータ34への通電をオフする。その後、ECU50は、処理をステップ100へ戻す。
【0047】
一方、ステップ130では、ECU50は、ステップモータ34への通電を許容する。
【0048】
次に、ステップ140で、ECU50は、EGR弁18に係り、エンジン回転速度NEとエンジン負荷KLに応じた補正前目標開度Iegrを求める。ECU50は、この補正前目標開度Iegrを、所定のマップを参照することで求めることができる。
【0049】
次に、ステップ150で、ECU50は、EGR弁18に係り、補正後目標開度Tegrを求める。すなわち、ECU50は、補正前目標開度Iegrから目標開度補正値dtegrを減算することにより、補正後目標開度Tegrを求める。ここで、ECU50は、別途算出された目標開度補正値dtegrを取り込む。
【0050】
そして、ステップ160で、ECU50は、目標開度Tegrに基づきステップモータ34を制御する。その後、ECU50は、処理をステップ100へ戻す。
【0051】
図5に、上記したEGR制御に関連して、目標開度補正値degrを別途算出するための処理内容の一例をフローチャートにより示す。処理がこのルーチンへ移行すると、ステップ200で、ECU50は、ステップモータ34への通電がオフであるか否かを判断する。ECU50は、この判断結果が肯定である場合、処理をステップ201へ移行し、この判断結果が否定である場合、処理をステップ210へ移行する。
【0052】
ステップ201では、ECU50は、通電開始カウンタCnt2を「0」にリセットする。
【0053】
次に、ステップ202で、ECU50は、通電カットカウンタCnt1を開始する。すなわち、カウントのインクリメントを開始する。
【0054】
次に、ステップ203で、ECU50は、通電カットカウンタCnt1が所定値C1よりも大きいか否かを判断する。ECU50は、この判断結果が肯定となる場合、処理をステップ204へ移行し、この判断結果が否定となる場合、処理をステップ200へ戻す。
【0055】
ステップ204では、ECU50は、通電カット補正量tAを更新する。すなわち、ECU50は、この補正値tAを、前回更新された通電カット補正値Aに定数Xを加算することにより求める。ここで、定数Xは、単位時間当たりの所定の補正値を意味し、この実施形態では、例えば「0.03(step/100ms)」の値を採用することができる。
【0056】
次に、ステップ205で、ECU50は、上限・下限のガード処理を行う。すなわち、ECU50は、今回更新された通電カット補正値tAを下限値(0step)以上、上限値(2step)以下の範囲に制限する。
【0057】
次に、ステップ206で、今回更新された通電カット補正値tAをメモリに格納する。すなわち、ECU50は、今回更新された通電カット補正値tAを、前回更新された通電カット補正値Aとして設定する。
【0058】
次に、ステップ207で、ECU50は、通電カットカウンタCnt1を「0」にリセットする。
【0059】
次に、ステップ208で、ECU50は、通電カット補正有判定を行う。すなわち、ECU50は、通電カット補正有フラグXccを「1」に設定する。その後、ECU50は、処理をステップ200へ戻す。
【0060】
一方、ステップ210では、ECU50は、通電カットカウンタCnt1を「0」にリセットする。
【0061】
次に、ステップ211で、ECU50は、通電カット補正有フラグXccが「1」か否か、すなわち、通電カット補正が有るか否かを判断する。ECU50は、この判断結果が肯定となる場合、処理をステップ212へ移行し、この判断結果が否定となる場合、処理をステップ200へ戻す。
【0062】
ステップ212では、ECU50は、通電開始カウンタCnt2を開始する。すなわち、カウントのインクリメントを開始する。
【0063】
次に、ステップ213で、ECU50は、通電開始カウンタCnt2が所定値C2よりも大きいか否かを判断する。ECU50は、この判断結果が肯定となる場合、処理をステップ214へ移行し、この判断結果が否定となる場合、処理をステップ200へ戻す。
【0064】
ステップ214では、ECU50は、通電開始補正値tBを更新する。すなわち、ECU50は、この補正値tBを、前回更新された通電開始補正値Bに定数Yを加算することにより求める。ここで、定数Y(X>Y)は、単位時間当たりの所定の補正値を意味、この実施形態では、例えば「0.01(step/100ms)」の値を採用することができる。
【0065】
ここで、上記した所定値C1,C2及び定数X,Yの値は、ステップモータ34の性能や環境温度等に応じて決定することができる。
【0066】
次に、ステップ215で、ECU50は、上限・下限のガード処理を行う。すなわち、ECU50は、今回更新された通電開始補正値tBを下限値(0step)以上、上限値(Astep)以下の範囲に制限する。
【0067】
次に、ステップ216で、今回更新された通電開始補正値tBをメモリに格納する。すなわち、ECU50は、今回更新された通電開始補正値tBを、前回更新された通電開始補正値Bとして設定する。
【0068】
次に、ステップ217で、ECU50は、通電開始カウンタCnt2を「0」にリセットする。
【0069】
次に、ステップ218で、ECU50は、目標開度補正値dtegrを求める。すなわち、ECU50は、補正値dtegrを、通電開始補正値Bから通電カット補正値Aを減算することにより求める。
【0070】
次に、ステップ219で、ECU50は、目標開度補正値dtegrが「0」以上か否かを判断する。ECU50は、この判断結果が肯定となる場合、処理をステップ220へ移行し、この判断結果が否定となる場合、処理をステップ200へ戻す。
【0071】
ステップ220では、ECU50は、目標開度補正値dtegrを「0」にリセットする。
【0072】
そして、ステップ221で、ECU50は、通電カット補正値A、通電開始補正値B及び通電カット補正有フラグXccをそれぞれ「0」にリセットする。その後、ECU50は、処理をステップ200へ戻す。
【0073】
上記制御によれば、ECU50は、エンジン1の運転状態に応じた補正前目標開度Iegrを算出し、EGR弁18の動作中に、EGR弁18を所定の小開度に保持するときにはステップモータ34への通電をカットし、その後にEGR弁18を補正後目標開度Tegrへ制御するときにはステップモータ34への通電を再開すると共に、ステップモータ34への通電をカットしてからの経過時間である通電カットカウンタCnt1の値に応じた通電カット補正値Aを算出し、その通電カット補正値A(目標開度補正値degrに含まれる。)により補正前目標開度Iegrを補正することにより補正後目標開度Tegrを算出するようにしている。
【0074】
また、ECU50は、更に、ステップモータ34への通電を再開してからの経過時間である通電開始カウンタCnt2の値に応じた通電開始補正値Bを算出し、その通電開始補正値B(目標開度補正値degrに含まれる。)により補正前目標開度Iegrを更に補正することにより補正後目標開度Tegrを算出するようにしている。
【0075】
更に、ECU50は、通電カット補正値Aの算出を、所定の上限値と所定の下限値との範囲内に制限するようにしている。同様に、ECU50は、通電開始補正値Bの算出を、所定の上限値と所定の下限値との範囲内に制限するようにしている。
【0076】
ここで、
図6に、上記制御に関する各種パラメータの挙動をタイムチャートにより示す。
図6において、時刻t1で、同図(a)に示すように、ステップモータ34への通電をカットすると、それまで通電により熱源となっていたステップモータ34が停止することになる。その後、時刻t3までの時間経過に伴って、EGR弁18の樹脂製構成部品であるケーシング47等に温度低下による熱収縮が起こり、弁体33が弁座32に対して変位し、
図6(b)に示すように、両者32,33の間のクリアランス変位が変化する。ここでは、通電カットにより保持された微少開度が時間経過に伴って開度が増加してしまう(モータステップ数で「2step」のクリアランスの分だけ増加する。)となってしまう。
【0077】
また、時刻t1では、
図6(e),(f)に示すように、補正前目標開度Iegrと補正後目標開度Tegrがそれぞれ微少開度へ減少し、その後、時刻t4までの間で、その微少開度が一定に保たれる。更に、時刻t1で、
図6(c)に示すように、通電カット補正値Aの算出が開始され、時刻t2までの間で上限値(2step)まで段階的にインクリメントされる。
【0078】
その後、時刻4で、
図6(a)に示すように、ステップモータ34の通電が再開されると、同図(b)に示すように、クリアランス変位が変化し始め、時刻t6までの間で、クリアランス変位がもとの状態に戻ることになる。また、時刻t4では、
図6(e)に示すように、補正前目標開度Iegrが微小開度から所定の開度へ増加する。更に、時刻t4では、
図6(d)に示すように、通電開始補正値Bの算出が開始され、時刻t6までの間で通電開始補正値Bが上限値(2step)まで段階的にインクリメントされる。これに伴い、
図6(f)に示すように、時刻t4から時刻t6までの間で、補正後目標開度Tegrが段階的に補正される。このように、クリアランス変位、すなわちEGR弁18の開度の誤差変化に対応するように補正後目標開度Tegrが段階的に補正され、EGR弁18の開度の誤差が解消される。
【0079】
以上説明したこの実施形態のエンジンの排気還流装置の構成において、EGR弁18を構成するステップモータ34への通電がカットされると、それまでステップモータ34で生じていた自己発熱がなくなり、ステップモータ34に隣接した構成部品であるケーシング47等に温度低下による熱収縮が起こり、弁座32に対して弁体33が変位してEGR弁18の実際の開度が所期の目標開度からずれるおそれがある。
【0080】
これに対し、この実施形態の構成によれば、エンジン1の運転状態に応じた補正前目標開度IegrがECU50により算出される。そして、EGR弁18の動作中に、EGR弁18を所定の開度に保持するときには、ステップモータ34への通電がECU50によりカットされ、その後にEGR弁18をエンジン1の運転状態に応じた補正後目標開度Tegrへ制御するときには、ECU50によりステップモータ34への通電が再開されると共に、ステップモータ34への通電をカットしてからの経過時間である通電カットカウンタCnt1の値に応じた通電カット補正値Aが算出され、その通電カット補正値Aを含む目標開度補正値degrにより補正前目標開度Iegrが補正される。従って、ステップモータ34への通電がカットされた後の補正後目標開度Tegrに対する実際の開度のずれが通電カット補正値Aにより低減される。このため、電動式のEGR弁18を、その動作中に通電カットにより所定の開度に保持した後、通電を再開させて再び開弁しても、熱収縮による実際の開度のずれに対処してEGR弁18を適正な開度で制御することができる。この結果、燃焼室16へ還流されるEGRガス流量を適正に制御することができ、エンジン1の排気エミッションやドライバビリティの悪化を防止することができる。また、この実施形態では、EGR弁18の開度を所定の開度に保持するときに、ステップモータ34への通電をカットするので、ステップモータ34の消費電力を削減することができ、エンジン1の燃費を向上させることができる。
【0081】
また、この実施形態の構成において、ステップモータ34への通電が再開されると、ステップモータ34に再び自己発熱が生じ、ステップモータ34に隣接したケーシング47等の構成部品に温度上昇による熱膨張が起こり、弁座32に対して弁体33が変位してEGR弁18の実際の開度が補正後目標開度Tegrからずれるおそれがある。
【0082】
これに対し、この実施形態の構成によれば、ステップモータ34への通電を再開してからの経過時間である通電開始カウンタCnt2の値に応じた通電開始補正値B(目標開度補正値degrに含まれる)がECU50により算出され、その通電開始補正値Bにより補正前目標開度Iegrが更に補正される。従って、ステップモータ34への通電が再開されてからの補正前目標開度Iegrに対する実際の開度のずれが通電開始補正値Bにより低減される。このため、電動式のEGR弁18を、通電カットから通電を再開させて再び開弁しても、熱膨張による実際の開度のずれに対処してEGR弁18をより一層適正な開度で制御することができる。この結果、燃焼室16へ還流されるEGRガス流量をより一層適正に制御することができ、エンジン1の排気エミッションやドライバビリティの悪化を防止することができる。
【0083】
この実施形態では、通電カット補正値Aが所定の上限値と所定の下限値との範囲内に制限されるので、通電カット補正値Aが大き過ぎたり小さすぎたりすることがない。このため、通電カット補正値A(目標開度補正値degr)を有効な大きさに規定することができ、補正前目標開度Iegrを有効に補正して適正な補正後目標開度Tegrを得ることができる。
【0084】
この実施形態では、通電開始補正値Bが所定の上限値と所定の下限値との範囲内に制限されるので、通電開始補正値Bが大き過ぎたり小さすぎたりすることがない。このため、通電開始補正値B(目標開度補正値degr)を有効な大きさに規定することができ、補正前目標開度Iegrを更に有効に補正してより適正な補正後目標開度Tegrを得ることができる。
【0085】
なお、この発明は前記実施形態に限定されるものではなく、発明の趣旨を逸脱することのない範囲で構成の一部を適宜に変更して実施することができる。
【0086】
(1)前記実施形態では、
図1に示すように、EGR通路17の出口17aを、スロットル弁21の下流側にてサージタンク3aに接続し、その入口17bを、タービン9の上流側にて排気通路5に接続した。これに対し、
図7に示すように、EGR通路17の入口17bを、触媒コンバータ15の下流側にて排気通路5に接続し、その出口17aをコンプレッサ8の上流側にて吸気通路3に接続するように構成してもよい。
図7には、エンジンの排気還流装置(EGR装置)を含む過給機付エンジンシステムを概略構成図により示す。
【0087】
(2)前記実施形態では、本発明のEGR装置を過給機7を備えたエンジン1に具体化したが、本発明のEGR装置を過給機を備えていないエンジンに具体化することもできる。
【0088】
(3)前記実施形態では、EGR弁18を構成するアクチュエータとしてステップモータ34を使用したが、ステップモータ以外にDCモータを使用することもできる。