(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5996503
(24)【登録日】2016年9月2日
(45)【発行日】2016年9月21日
(54)【発明の名称】畜舎の防疫方法およびその装置
(51)【国際特許分類】
A61L 2/18 20060101AFI20160908BHJP
A01K 1/035 20060101ALI20160908BHJP
A61L 9/01 20060101ALI20160908BHJP
A61L 9/04 20060101ALI20160908BHJP
【FI】
A61L2/18
A01K1/035 D
A61L9/01 F
A61L9/04
【請求項の数】5
【全頁数】8
(21)【出願番号】特願2013-198641(P2013-198641)
(22)【出願日】2013年9月25日
(65)【公開番号】特開2015-62567(P2015-62567A)
(43)【公開日】2015年4月9日
【審査請求日】2014年5月2日
(73)【特許権者】
【識別番号】503456430
【氏名又は名称】イーエス・テクノロジー株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000947
【氏名又は名称】特許業務法人あーく特許事務所
(74)【代理人】
【識別番号】100099508
【弁理士】
【氏名又は名称】加藤 久
(74)【代理人】
【識別番号】100093285
【弁理士】
【氏名又は名称】久保山 隆
(74)【代理人】
【識別番号】100182567
【弁理士】
【氏名又は名称】遠坂 啓太
(72)【発明者】
【氏名】立川 浩史
【審査官】
宮部 裕一
(56)【参考文献】
【文献】
国際公開第2008/152707(WO,A1)
【文献】
特開2011−050702(JP,A)
【文献】
国際公開第2009/008067(WO,A1)
【文献】
特開2013−048584(JP,A)
【文献】
特開2002−306086(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61L 2/18
A61L 2/20
A01K 1/035
A61L 9/04
F24F 3/16
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
次亜塩素酸水溶液を希釈して希釈水溶液を得ること、
家畜を飼育する蓄舎内を前記希釈水溶液により殺菌洗浄すること、
前記次亜塩素酸水溶液を蒸散器に流入させ、コンプレッサーによって前記次亜塩素酸水溶液に空気を吹き込んでばっ気することにより、前記空気中に前記次亜塩素酸水溶液を蒸散させて、完全に気化した状態の次亜塩素酸を含む空気を生成すること、
前記畜舎内の空気を、家畜を飼育するケージの上方に設けられたダクトおよび前記ケージの下方に設けられたブロワーによって前記蒸散器内を循環させることで、前記蒸散器で蒸散された次亜塩素酸を含む空気を前記蓄舎内に充満させること
を含むことを特徴とする畜舎の防疫方法。
【請求項2】
前記次亜塩素酸水溶液の濃度は、500〜5000ppmである請求項1記載の畜舎の防疫方法。
【請求項3】
前記希釈水溶液は、前記次亜塩素酸水溶液を20〜100倍に希釈したものである請求項2記載の畜舎の防疫方法。
【請求項4】
前記畜舎の開口部に、前記次亜塩素酸を含む空気が前記畜舎外に放散されないようにエアーカーテンを形成することを含む請求項1から3のいずれか1項に記載の畜舎の防疫方法。
【請求項5】
次亜塩素酸水溶液を希釈して希釈水溶液を得る希釈器と、
前記希釈器から家畜を飼育する畜舎内まで配設された配管と、
前記配管に接続され、前記畜舎内を前記希釈水溶液により殺菌洗浄する殺菌洗浄手段と、
前記次亜塩素酸水溶液を流入させ、コンプレッサーによって前記次亜塩素酸水溶液に空気を吹き込んでばっ気することにより、前記空気中に前記次亜塩素酸水溶液を蒸散させ、完全に気化した状態の次亜塩素酸を含む空気を生成する蒸散器と、
前記畜舎内の空気を前記蒸散器内に循環させることで、前記蒸散器によって生成された前記次亜塩素酸を含む空気を前記畜舎内に充満させるための前記蒸散器に設けられたダクトおよびブロワーとを含み、
前記ダクトは、家畜を飼育するケージの上方に設けられ、前記ブロワーは前記ケージの下方に設けられていることを特徴とする畜舎の防疫装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、鶏、牛や豚などの家畜を飼育する畜舎の防疫方法およびその装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、例えば特許文献1に記載の方法により生成された次亜塩素酸水溶液を希釈し、
図5に示すように鶏舎の各種殺菌洗浄に用いている。
図5に示すように、薬液タンクに入れられた次亜塩素酸水溶液1は希釈器4に導入され、水道水2により希釈されて希釈水溶液とされ、鶏舎内を出入りする作業者の靴底殺菌洗浄6、作業着殺菌洗浄7、鶏舎棚殺菌洗浄8、餌箱の殺菌洗浄9、鶏の飲水の殺菌10、鶏舎場内を出入りする車両のタイヤの殺菌洗浄11や鶏舎内のノズル噴霧による殺菌50等に用いられている。
【0003】
また、近年、高病原性鳥インフルエンザが新型インフルエンザ(ヒト−ヒト感染型)に変異し、全世界的な感染拡大を起こす危険性が指摘されており、その感染経路の遮断することが望まれている。特に、高病原性鳥インフルエンザが直接感染する可能性がある鶏舎の防疫は、感染拡大を抑止するのに最も効果的である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特許第4588104号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところが、高病原性鳥インフルエンザが流行する冬季に、
図5に示すように鶏舎内を殺菌消毒するために、鶏舎上部より次亜塩素酸水溶液をノズルより噴霧すると、鶏舎内の温度が低下して、飼育されている鶏が凍死する恐れがある。牛や豚などのその他の家畜を飼育する牛舎や豚舎などの畜舎においても、温度低下により飼育に悪影響を及ぼす恐れがある。
【0006】
そこで、本発明においては、冬季における家畜のインフルエンザの流行を防止するとともに、温度低下による家畜への悪影響を防止することが可能な畜舎の防疫方法およびその装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の畜舎の防疫方法は、次亜塩素酸水溶液を希釈して希釈水溶液を得ること、家畜を飼育する蓄舎内を希釈水溶液により殺菌洗浄すること、次亜塩素酸水溶液を蒸散器に流入させ、蒸散器で蒸散された次亜塩素酸を含む空気を蓄舎内に充満させることを含むことを特徴とする。
【0008】
また、本発明の畜舎の防疫装置は、次亜塩素酸水溶液を希釈して希釈水溶液を得る希釈器と、希釈器から家畜を飼育する畜舎内まで配設された配管と、配管に接続され、畜舎内を希釈水溶液により殺菌洗浄する殺菌洗浄手段と、次亜塩素酸水溶液を流入させて蒸散させ、次亜塩素酸を含む空気を生成する蒸散器と、蒸散器によって生成された次亜塩素酸を含む空気を畜舎内に充満させるダクトとを含むものである。
【0009】
これらの発明によれば、蒸散器によって生成された次亜塩素酸を含む空気を畜舎内に充満させることによって、畜舎内の温度低下を防止しつつ、冬季における家畜のインフルエンザの流行を防止することができるほか、畜舎内の臭気をも抑えることができる。
【0010】
ここで、次亜塩素酸水溶液の濃度は、500〜5000ppmであることが望ましい。これにより、経済性良く畜舎の防疫を行うことが可能となる。なお、500ppm未満の薄い濃度の状態では、あまり希釈倍率が取れないので、原液としての次亜塩素酸水溶液を多く使うことになり、コスト高となる。一方、5000ppm超では、大気にさらすと次亜塩素酸濃度が著しく低下するので、製造コストが高い割には稀釈倍率がそれほど多く取れず、経済性が悪くなる。
【0011】
また、希釈水溶液は、次亜塩素酸水溶液を20〜100倍に希釈したものであることが望ましい。これにより、経済性良く畜舎の防疫を行うことが可能となる。なお、20倍未満では、原液を多く使うことによりコスト高となる。一方、100倍超では、殺菌効果が少なくなる。
【0012】
また、畜舎の開口部には、次亜塩素酸を含む空気が畜舎外に放散されないようにエアーカーテンを形成することが望ましい。これにより、塩素系殺菌剤を蒸散させた空気が畜舎の外に漏れるのを防止し、畜舎内に塩素系殺菌剤を蒸散させた空気を充満させることが可能となる。
【発明の効果】
【0013】
(1)次亜塩素酸水溶液を希釈して希釈水溶液を得て、家畜を飼育する蓄舎内を希釈水溶液により殺菌洗浄し、次亜塩素酸水溶液を蒸散器に流入させ、蒸散器で蒸散された次亜塩素酸を含む空気を蓄舎内に充満させる構成により、畜舎内の温度低下を防止しつつ、冬季における家畜のインフルエンザの流行を防止することができる。特に、鶏の凍死を防止することができる。また、畜舎内の臭気をも抑えることができる。
【0014】
(2)畜舎の開口部に、次亜塩素酸を含む空気が畜舎外に放散されないようにエアーカーテンを形成することにより、塩素系殺菌剤を蒸散させた空気が畜舎の外に漏れるのを防止して、畜舎内に塩素系殺菌剤を蒸散させた空気を充満させることにより、畜舎内を効率良く防疫することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図1】本発明の実施の形態における鶏舎の防疫装置の構成を示すブロック図である。
【
図2】本発明の実施の形態における鶏舎の概略構成を示す断面図である。
【
図3】本発明の実施の形態における鶏舎の一部詳細断面図である。
【
図5】従来の鶏舎の防疫装置の構成を示すブロック図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
図1は本発明の実施の形態における鶏舎の防疫装置の構成を示すブロック図、
図2は本発明の実施の形態における鶏舎の概略構成を示す断面図、
図3は本発明の実施の形態における鶏舎の一部詳細断面図、
図4は
図3の平面断面図である。
【0017】
図1に示すように、本発明の実施の形態における家禽としての鶏を飼育する畜舎としての鶏舎20(
図2参照。)の防疫装置は、次亜塩素酸水溶液1を水道水2により希釈して希釈水溶液を得る希釈器4と、次亜塩素酸水溶液1に空気3を吹き込んでばっ気させることで、空気中に次亜塩素酸を蒸散させる蒸散器5とを備える。ここで、蒸散とは、空気中に蒸発させて、発散させることであり、蒸散させた次亜塩素酸は完全に気化した状態で空気中に含まれる。
【0018】
次亜塩素酸水溶液1は、次亜塩素酸ナトリウム水溶液と塩酸とから調製されたpHが2.0〜7.5のものであり、
図2に示すように、薬液タンク21に収容されている。薬液タンク21内の次亜塩素酸水溶液1の濃度は、500〜5000ppmである。薬液タンク21から希釈器4まで接続された配管22aの途中にはバルブ13が設けられている。また、薬液タンク21から蒸散器5まで接続された配管22bの途中には薬液ポンプ14が設けられている。
【0019】
希釈器4は、次亜塩素酸水溶液1を水道水2により20〜100倍に希釈して、希釈水溶液を得るものである。なお、次亜塩素酸水溶液1の希釈には、水道水2以外の水を使用することも可能である。また、希釈器4から鶏舎20まで、希釈水溶液を送る配管24が配設されている。また、配管24の先には、鶏舎20内を希釈水溶液により殺菌洗浄する殺菌洗浄手段40が接続されており、この殺菌洗浄手段40により、
図1に示すように、靴底殺菌洗浄6、作業着殺菌洗浄7、鶏舎棚殺菌洗浄8、餌箱の殺菌洗浄9、飲水の殺菌10や車両タイヤの殺菌洗浄11等が行われる。
【0020】
蒸散器5には、
図2に示すように、薬液タンク21から薬液ポンプ14により配管22bを通じて次亜塩素酸水溶液1が送り込まれ、この次亜塩素酸水溶液1にコンプレッサー26から空気3が吹き込まれ、ばっ気させることにより、空気3中に次亜塩素酸水溶液1が蒸散し、次亜塩素酸を含む空気が生成される。また、蒸散器5には、ダクト27およびブロワー28が設けられている。ダクト27は、鶏を飼育する飼育ケージ29の上方に設けられており、ブロワー28は飼育ケージ29の下方に設けられている。これにより、鶏舎20内の空気をダクト27およびブロワー28によって蒸散器5内を循環させることで、蒸散器5により生成された次亜塩素酸を含む空気を鶏舎20内に充満させ、次亜塩素酸を含む空気による鶏舎20内の殺菌消臭12(
図1参照。)を行う。また、蒸散器5内にコンプレッサー26、ブロワー28を設けることもできる。
【0021】
また、鶏舎20には、
図3および
図4に示すように、一部に開口部としての窓30が形成されており、鶏舎20内外で空気が出入り可能となっている。そこで、本実施形態における防疫装置は、各窓30に鶏舎20の内外の空気の出入りを遮断するエアーカーテン31を形成するエアーカーテン装置が備えられている。エアーカーテン装置は、各窓30に設けられ、空気を噴射してエアーカーテン31を形成するエアーパイプ32と、エアーパイプ32に空気を供給するエアー源33と、エアーパイプ32とエアー源33とを接続する配管34とから構成されている。なお、エアー源33としては、蒸散器5やブロワー28を利用することも可能である。
【0022】
この鶏舎20では、鶏舎20の内外の空気が出入りする各窓30の全てに対してエアーパイプ32によりエアーを噴出してエアーカーテン31を形成し、各窓30を遮断することにより、前述の次亜塩素酸を含む空気が鶏舎20の外に漏れるのを防止して、鶏舎20内に次亜塩素酸を含む空気を充満させ、鶏舎20内を効率良く防疫することができる。
【0023】
なお、本実施形態における防疫装置は、鶏舎20以外にも、牛や豚などの家畜を飼育する牛舎や豚舎などの畜舎であって、一部が窓により開放された畜舎にも同様に適用可能である。
【産業上の利用可能性】
【0024】
本発明の畜舎の防疫方法およびその装置は、鶏、牛や豚などの家畜を飼育する畜舎であって、一部が窓により開放された畜舎の防疫に有用である。
【符号の説明】
【0025】
1 次亜塩素酸水溶液
2 水道水
3 空気
4 希釈器
5 蒸散器
6 靴底殺菌洗浄
7 作業着殺菌洗浄
8 鶏舎棚殺菌洗浄
9 餌箱の殺菌洗浄
10 飲水の殺菌
11 車両タイヤの殺菌洗浄
12 次亜塩素酸を含む空気による鶏舎内の殺菌消臭
13 バルブ
14 薬液ポンプ
20 鶏舎
21 薬液タンク
22a,22b 配管
24 配管
26 コンプレッサー
27 ダクト
28 ブロワー
29 飼育ケージ
30 窓
31 エアーカーテン
32 エアーパイプ
33 エアー源
34 配管
40 殺菌洗浄手段
50 鶏舎内のノズル噴霧による殺菌