特許第5996550号(P5996550)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5996550
(24)【登録日】2016年9月2日
(45)【発行日】2016年9月21日
(54)【発明の名称】細胞分取装置および細胞分取方法
(51)【国際特許分類】
   G01N 1/28 20060101AFI20160908BHJP
【FI】
   G01N1/28 J
   G01N1/28 G
【請求項の数】9
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2013-545917(P2013-545917)
(86)(22)【出願日】2012年11月19日
(86)【国際出願番号】JP2012079988
(87)【国際公開番号】WO2013077297
(87)【国際公開日】20130530
【審査請求日】2015年8月20日
(31)【優先権主張番号】特願2011-256287(P2011-256287)
(32)【優先日】2011年11月24日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000000376
【氏名又は名称】オリンパス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100118913
【弁理士】
【氏名又は名称】上田 邦生
(74)【代理人】
【識別番号】100112737
【弁理士】
【氏名又は名称】藤田 考晴
(72)【発明者】
【氏名】船崎 純
【審査官】 西浦 昌哉
(56)【参考文献】
【文献】 特開平11−148887(JP,A)
【文献】 特表2000−504824(JP,A)
【文献】 特表2003−521685(JP,A)
【文献】 特開2002−286592(JP,A)
【文献】 特開2002−202229(JP,A)
【文献】 特開2003−133263(JP,A)
【文献】 特開平06−089912(JP,A)
【文献】 特表2009−524021(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 1/00−1/44
H01L 21/78
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
所定の分割線によって複数の小片に区画され該小片の一端面が押圧されることにより当該小片が分離可能に設けられている基板の他端面に貼り付けられた組織の切片から、前記小片と共に前記所定の分割線に沿って切り取られた断片を採取する細胞分取装置であって、
前記基板の前記一端面が剥離可能に接着されたシート部材を支持する支持部と、
前記シート部材を貫通可能な針先を有する針部材と、
該針部材を、前記支持部に支持された前記シート部材の前記基板とは反対側において前記針先を前記シート部材に向けて保持し前記針部材の長手方向に沿って前記針先の前方方向に移動させる移動機構とを備え、
前記針先が、前記長手方向に交差する略同一の平面上の前記小片の前記一端面よりも狭い範囲内に少なくとも2つ配置して設けられている細胞分取装置。
【請求項2】
前記範囲内において多角形の各頂点となる位置に配される数の前記針先を有する請求項1に記載の細胞分取装置。
【請求項3】
前記小片が多角形の前記一端面を有し、
前記針先が、前記小片の前記一端面の各辺の略中心または各角に対応する位置に配されている請求項2に記載の細胞分取装置。
【請求項4】
前記シート部材に貫通した前記針先の前記シート部材からの突出量が所定量となる位置において前記移動機構による前記針先のそれ以上の前方への移動を制限する移動制限部を備える請求項1から請求項3のいずれかに記載の細胞分取装置。
【請求項5】
前記針部材が、途中位置で分岐することにより2つ以上の前記針先を有する請求項1から請求項4のいずれかに記載の細胞分取装置。
【請求項6】
前記針部材が、複数備えられ、
前記移動機構が、前記複数の針部材を互いに略平行に保持する請求項1から請求項5のいずれかに記載の細胞分取装置。
【請求項7】
前記平面が、前記長手方向に対して略垂直である請求項1から請求項6のいずれかに記載の細胞分取装置。
【請求項8】
前記平面が、前記長手方向に対して斜めである請求項1から請求項6のいずれかに記載の細胞分取装置。
【請求項9】
所定の分割線によって複数の小片に区画され該小片の一端面が押圧されることにより当該小片が分離可能に設けられている基板の他端面に貼り付けられた組織の切片から、前記小片と共に前記所定の分割線に沿って切り取られた断片を採取する細胞分取方法であって、
前記小片の前記一端面を、大きさおよび方向が略同一の力で少なくとも2つの位置において押圧することにより前記小片を分離する細胞分取方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、細胞分取装置および細胞分取方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、病理診断などに用いられる組織の切片から、数十ミクロン程度の微小領域を切り取って採取する技術としてLMD(Laser Microdissection)法が知られている(例えば、非特許文献1参照。)。LMD法は、組織切片の採取すべき微小領域にUVレーザを照射することにより、切片から微小領域を切り取っている。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0003】
【非特許文献1】Leica MICROSYSTEMS、“Leica LMD 6500 Leica LMD 7000”、p.2、[online]、[平成24年8月30日検索]、インターネット<URL:http://www.leica-microsystems.com/fileadmin/downloads/Leica%20LMD7000/Brochures/LMD6500_7000_JP.pdf>
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、LMD法によって切り取られる切片の1つの断片にはわずかな数の細胞しか含まれない。したがって、遺伝子検査に十分な量の細胞を採取するためには多数の切片をマイクロダイセクションする必要があり、膨大な労力および時間を要する。一度に採取する細胞数を増やすために切り取る範囲を拡大したり切片を厚くしたりする場合には、レーザの走査領域を拡大したり、切り取った後に断片を吹き飛ばすためのレーザの出力を高くしたりしなければならず、一層大掛かりで高価な装置が必要となる。
【0005】
本発明は、上述した事情に鑑みてなされたものであって、生体組織の切片から所望の断片を簡便な装置と操作で確実に回収することができる細胞分取装置および細胞分取方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成するため、本発明は以下の手段を提供する。
本発明の第1の態様は、所定の分割線によって複数の小片に区画され該小片の一端面が押圧されることにより当該小片が分離可能に設けられている基板の他端面に貼り付けられた組織の切片から、前記小片と共に前記所定の分割線に沿って切り取られた断片を採取する細胞分取装置であって、前記基板の前記一端面が剥離可能に接着されたシート部材を支持する支持部と、前記シート部材を貫通可能な針先を有する針部材と、該針部材を、前記支持部に支持された前記シート部材の前記基板とは反対側において前記針先を前記シート部材に向けて保持し前記針部材の長手方向に沿って前記針先の前方方向に移動させる移動機構とを備え、前記針先が、前記長手方向に交差する略同一の平面上の前記小片の前記一端面よりも狭い範囲内に少なくとも2つ配置して設けられている細胞分取装置である。
【0007】
本発明の第1の態様によれば、支持部によってシート部材を保持し、基板との間にシート部材を挟んで配置された針部材を移動機構によって移動させて針先をシート部材に貫通させる。貫通した針先によって一端面が押圧された小片は、シート部材から剥離して針先の前方方向に飛翔する。すなわち、切片の所望の断片に対応する小片を針部材で突くだけの簡単な構成と操作で、予めシート部材の基板側に配置しておいた回収容器に所望の断片を小片と共に回収することができる。
【0008】
この場合に、基板に貼り付けられた切片は小片と共に断片に切り取られるので、断片の大きさや厚さは特に制限されない。したがって、1度の操作で十分な量の細胞を採取することができる。また、同一平面上に配置された少なくとも2つの針先によって小片の一端面が押圧されることにより、該一端面に略均等に押圧力が作用する。これにより、シート部材から小片の一端面が確実に剥離するとともに該小片の飛翔方向が安定するので、その飛翔方向の前方に配置されている回収容器に小片を確実に回収することができる。
【0009】
上記第1の態様においては、前記範囲内において多角形の各頂点となる位置に配される数の前記針先を有する構成であってもよい。
このようにすることで、小片の一端面により均等に押圧力が作用することとなり、小片をより確実にシート部材から剥離させ、小片の飛翔方向をより安定させることができる。
【0010】
上記構成においては、前記小片が多角形の前記一端面を有し、前記針先が、前記小片の前記一端面の各辺の略中心または各角に対応する位置に配されていることとしてもよい。
このようにすることで、小片の一端面にさらに均等に押圧力が作用することとなり、小片をさらに確実にシート部材から剥離させ、小片の飛翔方向をさらに安定させることができる。
【0011】
上記第1の態様においては、前記シート部材に貫通した前記針先の前記シート部材からの突出量が所定量となる位置において前記移動機構による前記針先のそれ以上の前方への移動を制限する移動制限部を備えることとしてもよい。
【0012】
このようにすることで、針部材のうち針先近傍の比較的細径の部分のみがシート部材に貫通させられる。これにより、針部材がシート部材を貫通するときにシート部材に与える衝撃を低減し、回収対象である小片の周辺の小片が衝撃によって意図せずにシート部材から剥離することを防ぐことができる。また、シート部材に形成される貫通孔が細径で済むので、複数の小片を回収して多数の貫通孔がシート部材に形成されたときにシート部材が脆くなったり貫通孔同士がつながってシート部材が裂けたりすることを防ぐことができる。
【0013】
上記第1の態様においては、前記針部材が、途中位置で分岐することにより2つ以上の前記針先を有することとしてもよい。
このようにすることで、小片の採取に必要な針部材の数を少なくとも1つとすることができる。
【0014】
上記第1の態様においては、前記針部材が、複数備えられ、前記移動機構が、前記複数の針部材を互いに略平行に保持することとしてもよい。
このようにすることで、針先の数や配置などを容易に変更することができる。
【0015】
上記第1の態様においては、前記平面が、前記長手方向に対して略垂直であることとしてもよい。
このようにすることで、小片を針部材の移動方向の前方に飛翔させることができる。
【0016】
上記第1の態様においては、前記平面が、前記長手方向に対して斜めであることとしてもよい。
このようにすることで、小片を、平面の法線方向と針部材の移動方向とが合成された方向、すなわち、針部材の移動方向に対して斜め方向に飛翔させることができる。
【0017】
本発明の第2の態様は、所定の分割線によって複数の小片に区画され該小片の一端面が押圧されることにより当該小片が分離可能に設けられている基板の他端面に貼り付けられた組織の切片から、前記小片と共に前記所定の分割線に沿って切り取られた断片を採取する細胞分取方法であって、前記小片の前記一端面を、大きさおよび方向が略同一の力で少なくとも2つの位置において押圧することにより前記小片を分離する細胞分取方法である。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、生体組織の切片から所望の断片を簡便な装置と操作で確実に回収することができるという効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0019】
図1】本発明の一実施形態に係る細胞分取装置の全体構成図である。
図2図1の細胞分取装置に使用される基板の一例を示す図である。
図3図1の細胞分取装置が備える針部材の針先を示す図である。
図4A】小片と針先との位置関係を示す図である。
図4B】小片と針先との位置関係を示す図である。
図5図1の細胞分取装置の動作を説明する図である。
図6図1の細胞分取装置が備える針部材の変形例と、該針部材を備える細胞分取装置の動作とを説明する部分的な構成図である。
図7図1の細胞分取装置が備える針部材のもう1つの変形例を示す部分的な構成図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下に、本発明の一実施形態に係る細胞分取装置1について図面を参照して説明する。
本実施形態に係る細胞分取装置1は、図1に示されるように、組織の切片Xが貼り付けられた基板2が接着されているシート(シート部材)3が載置されるステージ(支持部)4と、4つの針先5aを有する針部材5と、ステージ4の上方において針部材5を保持するとともに該針部材5を上下方向に移動させる移動機構6とを備えている。
【0021】
基板2は、図2に示されるように、前面(一端面)に組織の切片Xが貼り付けられ、該切片Xと共に溝(分割線)2bによって複数の小片2aに分割されている。これらの小片2aの背面(他端面)は、十分に接着力の弱い接着剤によってシート3に剥離可能に接着している。基板2は、可視光に対して透明なガラス等の材料からなるものが使用される。
【0022】
このような基板2は、例えば、切片Xが貼り付けられた元基板を接着剤でシート3に接着し、元基板と切片Xとを共にメスやガラス切り等を使用してシート3上で切断することにより作成される。または、シート3として表面方向に伸展可能なものを用い、シート3に接着した元基板にガラス切り等で溝2bを形成し、シート3を伸展させることにより元基板と切片Xとを溝2bに沿って分割し、シート3を伸展させた状態に保持することにより作成される。
【0023】
このような方法で切片Xを複数の断片に分割する場合には、切片Xの厚さや断片の大きさは特に制限されない。したがって、切片Xを比較的厚く作成し、溝2bの間隔を適宜調節することにより、1つの断片には十分に多くの細胞が含まれることとなる。
なお、図2には、正方形の端面を有する小片2aが正方配列されてなる基板2が示されているが、小片2aの端面の形状および配列は適宜変更可能である。また、小片2aは、側面同士を密着させて間隔を空けずに配列されていてもよい。
【0024】
ステージ4は、中央部に開口4aを有する倒立型光学顕微鏡のステージであり、鉛直上下方向と水平方向とに移動可能である。基板2が接着している側を下方に向け、開口4a内に基板2が配置されるようにシート3をステージ4に載置し、シート3の端をクリップ等の押さえ部材4bで押さえることにより、シート3がステージ4上に略水平に安定に支持される。ステージ4に載置されたシート3および該シート3に接着している小片2aは、ステージ4の下方に配置された対物レンズ7によって拡大観察可能となっている。ステージ4と対物レンズ7との間には、小片2aを回収するマイクロチューブのような回収容器8が配置される空間が形成されている。
【0025】
針部材5は、単一の軸部5bと、該軸部5bの先端側において4本に分岐した針部5cとを有している。該針部5cの先端である尖鋭な針先5aは、図3に示されるように、軸部5bの長手方向に略垂直に交差する同一の平面P上に配置されている。
【0026】
ここで、4つの針先5aは、小片2aの背面よりも狭い範囲内に配置され、同時に1つの小片2aの背面に接触可能となっている。さらに、針先5aは、略正方形の小片2aの背面に対して均等に分布するように配置されている。具体的には、4つの針先5aは、略正方形の各頂点となるように配置されている。そして、針先5aが小片2aの背面の各角(図4A参照。)、または、各辺の略中心位置(図4B参照。)に対応するように、針部材5は移動機構6に保持される。これにより、4つの針先5aが小片2aの背面に接触したときに、該背面全面において大きさおよび方向が略同一の押圧力を作用させることができる。
【0027】
移動機構6は、針先5aを略鉛直下方に向けて針部材5の軸部5bを保持している。移動機構6は、ステージ4に載置されたシート3の上方に針先5aが配される位置と、針先5aがシート3を貫通して該シート3の下方に配される位置との間で針部材5と一体で略鉛直方向に移動可能に設けられている。移動機構6が有するレバー6aが操作者によって下方に押圧されることにより、針部材5は、矢印Aで示されるように、ステージ4に向かってその長手方向に沿って略鉛直下方に移動させられ、針先5aがシート3に略垂直に貫通するようになっている。また、移動機構6は、略水平方向にも針部材5と一体で移動可能に設けられている。
【0028】
ここで、シート3を貫通した針先5aのシート3からの突出量が所定量となるように、移動機構6の下方への移動を制限するストッパ(移動制限部)9が備えられている。ストッパ9の上下方向の位置は、針先5aの突出量が所望の量となるようにマイクロメータ10によって調節可能となっている。
【0029】
次に、このように構成された細胞分取装置1の作用について説明する。
本実施形態に係る細胞分取装置1を使用して組織の切片Xから所望の領域の断片を分取するには、まず、基板2を下方に向けてシート3をステージ4に設置する。次に、対物レンズ7を介して観察される視野の略中心に、切片Xの所望の断片が付着している小片2aが配置されるように、ステージ4の水平方向の位置を調節する。次に、移動機構6を水平方向に移動させて4つの針先5aを視野の略中心に配置する。次に、回収容器8を、ステージ4と対物レンズ7との間の空間の針先5aの略鉛直下方となる位置に配置する。
【0030】
次に、レバー6aを押圧してストッパ9によって係止される位置まで移動させることにより、図5に示されるように、針部材5を矢印Aで示される方向に移動させて針先5aをシート3に貫通させる。これにより、視野の略中心に配置した小片2aの背面が針先5aによって押圧されてシート3から剥離する。剥離した小片2aは、矢印Bで示されるように、押圧方向である針部材5の移動方向の前方に配置されている回収容器8に向かって飛翔する。
【0031】
以上の操作により、切片の所望の断片を小片2aに付着した状態で回収容器8に回収することができる。1つの切片から複数の断片を回収する場合は、レバー6aにより針先5aがステージ4の上方に配置されるまで針部材5を移動させた後、同じ操作を繰り返せばよい。
【0032】
このように、本実施形態によれば、簡略な装置構成と操作のみで切片Xから所望の断片を採取することができる。また、略同一の平面P上に配置された4つの針先5aで小片2aの背面を押圧することにより、該背面の各位置に作用する押圧力の大きさと方向とが略均一となる。これにより、小片2aの背面全面をシート3から確実に剥離させるとともに小片2aの飛翔方向を針部材5による押圧方向に安定させ、予め配置した回収容器8に確実に小片2aを回収することができる。
【0033】
また、針先5aがシート3に貫通した後に該針先5aの基端側の比較的太い部分や軸部5bもシート3に貫通した場合、シート3に形成される貫通穴が大きくなる。このときに、シート3に大きな衝撃が加わって対象とする小片2aの周辺の小片2aも意図せずにシート3から剥離したり、隣接する小片2aを採取した場合には貫通穴同士が繋がってシート3が裂けたりすることが考えられる。これに対して、本実施形態によれば、ストッパ9で針先5aの下方の位置を制限して十分に細径の部分のみがシート3に貫通するようにすることで、シート3に形成される貫通穴を十分に細径とし、上述した不都合の発生を防止することができる。
【0034】
本実施形態においては、小片2aを、針部材5の移動方向に対して正面方向に飛翔させることしたが、針部材5の移動方向に対して斜め方向に小片2aを飛翔させることとしてもよい。この場合、4つの針先5a’は、図6に示されるように、針部材5の長手方向に斜めに交差する同一の平面P’上に配置される。このような針先5a’によって押圧された小片2aは、図6に示されるように、矢印Aで示される針部材5の移動方向と、矢印Cで示される平面P’の法線方向とが合成された、矢印Dで示される方向に飛翔する。
【0035】
したがって、矢印Dの方向に回収容器8を配置しておくことにより、飛翔した小片2aを確実に回収容器8に回収することができる。また、シート3と対物レンズ7との間の光路に回収容器8が配置されないので、常時対物レンズ7による小片2aや針先5aの観察が可能となる。これにより、針先5aを小片2aに近接させて小片2aを飛翔させる過程を対物レンズ7により観察しながら行うことができる。
【0036】
本実施形態においては、針部材5が4つの針先5aを有することとしたが、針先5aの数は適宜変更可能であり、少なくとも2つの針先が針部材5の長手方向に交差する同一の平面上に配置されていればよい。
本実施形態においては、単一の軸部5bと4つの針部5cとを有する針部材5を備えることとしたが、これに代えて、単一の軸部と単一または複数の針部とを有する複数の針部材を平行に配列して移動機構6によって保持することとしてもよい。
【0037】
図7は、単一の軸部5b’と単一の針部5c”とを有する3つの針部材が互いに平行に保持されている構成を示している。3つの針先5a”は、同一直線上には配置されず、三角形の各頂点となるように配置される。このように複数の針部材を組み合わせることにより、針先5a”の数や位置を容易に変更することができる。
【0038】
本実施形態においては、基板2の上方に針部材5を配置し、小片2aを上方から針部材5で押圧して下方に飛翔させる構成について説明したが、基板2と針部材5との位置関係および小片2aの飛翔方向はこれに限定されるものではなく、適宜変更可能である。例えば、小片2aを下方から針部材5で押圧して上方に飛翔させることとしてもよい。上方に飛翔させた小片2aは、例えば、ステージ4の上方に配置された粘着シート等に付着させることにより、回収することができる。
【実施例】
【0039】
次に、上述した実施形態の実施例について説明する。
1.基板の作製
シート部材としてのダイシングシート(UE−111AJ、日東電工社製)の接着面に、元基板としてのカバーガラス(18mm×18mm、厚さ0.12mmから0.17mm、松浪硝子社製)の一端面を貼り付け、該カバーガラスをダイシングソーで格子状に切断した。このときに、切り代を0.08mmとし、ピッチを0.5mmとした。これにより、一辺が0.42mmの正方形の小片群が0.5mmピッチでダイシングシート上に正方配列された小片アレイを基板として作成した。
【0040】
次に、小片アレイをもう1枚のダイシングシートに転写した。具体的には、小片アレイの他端面にもう1枚のダイシングシートを接着し、一端面側のダイシングシートを剥離することにより、小片アレイを配列を維持したままもう1枚のダイシングシートに移動した。
【0041】
この小片アレイの転写は、ダイシングシートに形成されるダイシング痕によってダイシングシートが脆くなるために行われる。ダイシング痕によるダイシングシートの脆弱化が針部材を貫通させる際の操作に支障をきたさない場合は、この転写の工程は不要である。また、小片の各辺の寸法とピッチは、上述した数値に限定されるものではなく、分取すべき切片の断面の大きさ等に応じて適宜変更可能である。
【0042】
次に、小片アレイが転写されたもう1枚のダイシングシートをエキスパンダーにより表面方向に約1.4倍に伸展し、ダイシングシートを伸展状態にグリップリングにより保持した。次に、このダイシングシートに小片が接着している側とは反対側から波長約365nmの紫外線を照射し、ダイシングシートの接着力を十分に低下させた。紫外線の照射には紫外線照射装置(オムロン社製,本体:ZUV−C10、ヘッド:ZUV−H10)を使用し、出力約6mWで60秒間紫外線を照射した第1群と、出力約130mWで20秒間紫外線を照射した第2群とを用意した。なお、ダイシングシートの元々の接着力が十分に弱い場合は、この紫外線照射の工程を省略することができる。
【0043】
2.小片の回収
次に、小片アレイが接着している面を下方に向けてダイシングシートを倒立型顕微鏡のステージに載置し、上述した実施形態と同様の手順でダイシングシートの上方から任意の小片に対応する位置に針部材の針先を貫通させた。これにより、小片をダイシングシートから剥離および下方に飛翔させ、ダイシングシートの下側面から1.3mm下方に予め配置しておいたマイクロチューブ(以下、チューブという。)に回収した。
【0044】
ここで、針部材として、4つの針先を有する4先端針(マイクロメカニクス社製クラウンイジェクターニードル、CN05−32−015−19)と、単一の針先を有する1先端針(マイクロメカニクス社製イジェクターニードル、SEN−84−07)とを使用し、第1群の小片を4先端針を使用して、第2群の小片を1先端針を使用して採取した。
【0045】
それぞれの針を使用して、小片アレイの略中心の約10mm×10mmの領域内において100回ずつ小片の採取を実施した。針先による小片の押圧位置は、1先端針については小片の略中央とし、4先端針については図4(b)に示されるように小片の各辺の略中心とした。また、ダイシングシートに貫通させた針先のダイシングシートからの突出量は、1.3mmとした。この針先の突出量は、4先端針については針部のみがダイシングシートを貫通する量であり、1先端針についてはダイシングシートを貫通させるのに必要な最小限の量である。
【0046】
以上のようにして実施した小片の採取結果を表1に示す。小片の採取結果として起こり得る事象は、採取対象の小片がチューブに回収される「回収」、採取対象の小片がその縁部においてダイシングシートに付着するなどしてダイシングシートの元の位置に留まる「付着残り」、採取対象の小片が一旦ダイシングシートから剥離するもののダイシングシートの別の位置または他の小片に再付着する「再付着」、採取対象の小片の周辺の小片もダイシングシートから剥離する「周辺小片落下」、小片がチューブの外側に飛翔する「チューブ外」の5つに分類される。「回収」以外は、採取対象の小片が正常に回収されず、不都合な結果である。
【0047】
【表1】
【0048】
表1に示されるように、1先端針については、小片が正常に回収されない「回収」以外の結果の発生率が高く、小片の回収率は71%に留まった。紫外線の照射量によるダイシングシートの接着力の調節および針の突出量の調節をしたが、「付着残り」と「周辺小片落下」の両方の発生率を同時に低減することはできなかった。一方、4先端針では、採取対象の全ての小片がチューブに正常に回収された。
以上のように、4先端針を使用したときの小片の回収率は、1先端針を使用したときのそれと比べて優位に高く、本発明によって小片を確実に回収できることが確認された。
【0049】
なお、本実施例では、小片に生体組織の切片を貼り付けていないが、切片の有無は小片の採取に関する本発明の本質に影響を与えない。したがって、切片をカバーガラスに貼り付けた場合においても、表1と同じの結果が得られることは明らかである。
また、本実施例では、4つの針先を有する針部材を用いているが、同一の平面上に配される3つ以上の針先を有する針部材であれば、本実施例と同様の効果が得られることは明らかである。
【符号の説明】
【0050】
1 細胞分取装置
2 基板
2a 小片
2b 溝
3 シート(シート部材)
4 ステージ(支持部)
4a 開口
4b 押さえ部材
5 針部材
5a,5a’ 針先
5b,5b’ 軸部
5c,5c’,5c” 針部
6 移動機構
6a レバー
7 対物レンズ
8 回収容器
9 ストッパ(移動制限部)
10 マイクロメータ
X 切片
図1
図2
図3
図4A
図4B
図5
図6
図7