(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5996564
(24)【登録日】2016年9月2日
(45)【発行日】2016年9月21日
(54)【発明の名称】内燃機関用点火コイルの製造方法
(51)【国際特許分類】
H01F 41/12 20060101AFI20160908BHJP
H01F 38/12 20060101ALI20160908BHJP
F02P 15/00 20060101ALI20160908BHJP
【FI】
H01F41/12 C
H01F38/12 J
H01F38/12 Q
F02P15/00 303B
【請求項の数】5
【全頁数】10
(21)【出願番号】特願2014-8537(P2014-8537)
(22)【出願日】2014年1月21日
(65)【公開番号】特開2015-138821(P2015-138821A)
(43)【公開日】2015年7月30日
【審査請求日】2014年11月4日
(73)【特許権者】
【識別番号】000109093
【氏名又は名称】ダイヤモンド電機株式会社
(72)【発明者】
【氏名】山根 伸也
(72)【発明者】
【氏名】西村 雅之
(72)【発明者】
【氏名】山田 修司
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 大輔
(72)【発明者】
【氏名】高井良 拓也
(72)【発明者】
【氏名】島川 英明
【審査官】
久保田 昌晴
(56)【参考文献】
【文献】
特開2005−072547(JP,A)
【文献】
国際公開第2007/122957(WO,A1)
【文献】
特開2003−291140(JP,A)
【文献】
特開昭60−198713(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01F 17/00−19/08、27/32、30/00−38/12
H01F 38/16、38/42、41/12
F02P 1/00−3/12、7/00−17/12
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
超臨界流体を溶融させた溶融物質混成樹脂流体が二次コイルへ含浸される含浸工程と、前記超臨界流体の気相化を回避する圧力制御を続けながら前記溶融物質混成樹脂流体を温度低下させ固相化された溶融物質混成樹脂を形成させる固相化工程と、前記溶融物質混成樹脂の少なくとも一部領域を覆う外周絶縁樹脂が前記超臨界流体を伴わずに形成される被覆工程と、を有する内燃機関用点火コイルの製造方法において、
前記超臨界流体が窒素である場合、前記溶融物質混成樹脂の母材ポリマー(kg)に対する窒素(mol)の割合をRate1とし、キャビティ圧をP(MPa)とすると、
前記固相化工程は、Rate1<0.0425×P(MPa)、の条件を守りながら冷却させることを特徴とする内燃機関用点火コイルの製造方法。
【請求項2】
超臨界流体を溶融させた溶融物質混成樹脂流体が二次コイルへ含浸される含浸工程と、前記超臨界流体の気相化を回避する圧力制御を続けながら前記溶融物質混成樹脂流体を温度低下させ固相化された溶融物質混成樹脂を形成させる固相化工程と、前記溶融物質混成樹脂の少なくとも一部領域を覆う外周絶縁樹脂が前記超臨界流体を伴わずに形成される被覆工程と、を有する内燃機関用点火コイルの製造方法において、
前記超臨界流体が二酸化炭素である場合、前記溶融物質混成樹脂の母材ポリマー(kg)に対する二酸化炭素(mol)の割合をRate2とし、キャビティ圧をP(MPa)とすると、
前記固相化工程は、Rate2<0.17×P(MPa)、の条件を守りながら冷却させることを特徴とする内燃機関用点火コイルの製造方法。
【請求項3】
前記含浸工程は、前記二次コイル周辺圧力を設定させる予圧工程と、前記予圧工程の後に前記溶融物質混成樹脂を前記二次コイルへ供給する樹脂供給工程と、を実施させることを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の内燃機関用点火コイルの製造方法。
【請求項4】
前記溶融物質混成樹脂の主有機組成物は、PBT,PPE,又は,PAであることを特徴とする請求項1乃至請求項3の何れか一項に記載の内燃機関用点火コイルの製造方法。
【請求項5】
前記溶融物質混成樹脂及び前記外周絶縁樹脂は、各々の主有機組成物が同一であることを特徴とする請求項1乃至請求項4の何れか一項に記載の内燃機関用点火コイルの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、内燃機関用点火コイルの製造方法に関し、特に、内燃機関用点火コイルの構造形成に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、自動車等に用いられる内燃機関では、プラグホールの各々に点火コイルを配備させた直接点火方式が採用されている。かかる点火コイルの構造体は、使用環境又は耐久性の観点からこれに適う材質が選択され、例えば、ポリアミド系樹脂又はポリエステル系樹脂といった熱可塑性樹脂が使用される(特開2001−352012号公報)。
【0003】
このうち、ポリアミド樹脂については「PA6,PA66」、ポリエステル樹脂については「PBT」、この他の熱可塑性樹脂としては「変性PPE」等が其の使用例の代表とされている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2001−352012号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
内燃機関用点火コイルでは、高電圧(数十kV程度)を発生させる二次コイルの周辺が確実に絶縁されるよう、熱可塑性樹脂によって二次コイル周辺を隙間なく含浸させることが要求される。しかしながら、特許文献1を読む限り、二次コイルの巻線間といった狭い空隙へ熱可塑性樹脂を程よく行きわたらせる工夫は十分に述べられていない。
【0006】
また、超臨界流体を熱可塑性樹脂へ溶解させ、当該熱可塑性樹脂の粘性を調整させる製法も考えられる。しかし、かかる製法では、熱可塑性樹脂が投入される金型キャビティを適宜に圧力調整させねば、当該樹脂に溶解した超臨界流体の気相化を招き二次コイル周辺でボイドが発生してしまう。これを受け、点火コイル全体の筐体形成に係る樹脂注型装置へキャビティ圧調整機能を適用させると、其の樹脂注型装置は、高出力且つ大規模のコンプレッサ機構及びこの吸排気機構が必要となるので、追加機構の大型化及び装置全体の高コスト化を招いてしまう。
【0007】
本発明は上記課題に鑑み、二次コイルに対する熱可塑性樹脂の含浸を小規模かつ安価な装置で実現させ得る点火コイル製造方法の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するため、本発明では次のような内燃機関用点火コイルの製造方法とする。即ち、超臨界流体を溶融させた溶融物質混成樹脂流体が二次コイルへ含浸される含浸工程と、前記超臨界流体の気相化を回避する圧力制御を続けながら前記溶融物質混成樹脂流体を温度低下させ固相化された溶融物質混成樹脂を形成させる固相化工程と、前記溶融物質混成樹脂の少なくとも一部領域を覆う外周絶縁樹脂が前記超臨界流体を伴わずに形成される被覆工程と、を有し、
前記超臨界流体が窒素である場合、前記溶融物質混成樹脂の母材ポリマー(kg)に対する窒素(mol)の割合をRate1とし、キャビティ圧をP(MPa)とすると、前記固相化工程は、Rate1<0.0425×P(MPa)、の条件を守りながら冷却させることとする。
【0009】
上記課題を解決するため、上述した発明の他、本発明では次のような内燃機関用点火コイルの製造方法としても良い。即ち、超臨界流体を溶融させた溶融物質混成樹脂流体が二次コイルへ含浸される含浸工程と、前記超臨界流体の気相化を回避する圧力制御を続けながら前記溶融物質混成樹脂流体を温度低下させ固相化された溶融物質混成樹脂を形成させる固相化工程と、前記溶融物質混成樹脂の少なくとも一部領域を覆う外周絶縁樹脂が前記超臨界流体を伴わずに形成される被覆工程と、を有し、
前記超臨界流体が二酸化炭素である場合、前記溶融物質混成樹脂の母材ポリマー(kg)に対する二酸化炭素(mol)の割合をRate2とし、キャビティ圧をP(MPa)とすると、前記固相化工程は、Rate2<0.17×P(MPa)、の条件を守りながら冷却させることとする。
【0010】
好ましくは、前記溶融物質混成樹脂の主有機組成物は、PBT,PPE,又は,PAであることとする。
【0011】
好ましくは、前記溶融物質混成樹脂の主有機組成物は、PA6又はPA66であることとする。
【0012】
好ましくは、前記溶融物質混成樹脂及び前記外周絶縁樹脂は、各々の主有機組成物が同一であることとする。
【発明の効果】
【0013】
本発明に係る内燃機関用点火コイルの製造方法によると、二次コイルの周辺における絶縁構造は、超臨界流体を熱可塑性樹脂へ溶解させ、当該熱可塑性樹脂の粘性を調整させる物性調整製法が採用される。このため、二次コイルへ絶縁樹脂を含浸させる工程では、熱可塑性樹脂の粘性が低く調整されるので、二次コイルの周辺隙間部へ熱可塑性樹脂が確実に行きわたることとなる。
【0014】
これに加え、かかる製造方法によると、これを実現させる樹脂注型装置について以下のようなメリットを齎す。即ち、物性調整製法による熱可塑性樹脂は、二次コイル周辺の構造領域に限定して形成されるため、キャビティ圧を調整すべき加圧容積が格段に狭められる。このため、当該製法方式の樹脂注型装置は、加圧容積低下に伴いコンプレッサ等の要求出力が最小限に抑えられ、当該装置の大型化及び高コスト化から免れる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図1】実施の形態に係る二次コイルの組立工程を説明する図。
【
図2】実施の形態に係る二次コイルの樹脂形成工程を説明する図。
【
図3】実施の形態に係る低圧部品組立工程を説明する図。
【
図4】実施の形態に係る低圧部品組立工程を説明する図。
【
図6】実施の形態に係る点火コイルの製造工程のうち含浸工程を説明する図。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明に係る実施の形態につき図面を参照して具体的に説明する。
図1は、本実施の形態に係る二次コイルの組立工程が示されている。当該製造工程は、先ず、二次ボビン110が準備され、これに導線が巻回され二次コイル111が形成される。また、二次ボビン110の所定箇所には中継端子112が設けられている。この中継端子112の一端には二次コイル111の出力端が接続され、其の他端には高圧端子113が電気的に接続される。即ち、二次コイル111の巻線内側に急峻な磁界変化が生じた場合、当該二次コイル111は、これによって誘起電圧を発生させ、これを高圧端子113から後段導通部(点火プラグ等)へ出力させる。
【0017】
かかる工程の後、二次コイル111の周辺領域に溶融物質混成樹脂を形成させる(
図2参照)。この樹脂形成工程は、超臨界流体を液相状の熱可塑性樹脂へ溶解させた溶融物質混成樹脂流体が用いられ、これが固化された絶縁構造(溶融物質混成樹脂114)は、超臨界流体が溶融された状態で固相化されたものである。即ち、樹脂形成工程は、超臨界流体を利用することで液相段階の熱可塑性樹脂を粘度低下させることになる(物性調整製法による工程)。尚、二次コイル111及び溶融物質混成樹脂より成る構造体を高圧部構造体120と呼ぶことがある。
【0018】
超臨界流体を伴う樹脂注型装置(以下、超臨界式注型装置と呼ぶ場合がある)は、樹脂形成工程(含浸工程及び固相化工程)を担う装置であり、超臨界流体を生成吐出する機構と通常の射出成型機とが組合わされて構成される。このうち、超臨界流体を生成吐出する機構は、射出成型機からポリマーの溶体を導引させる管状部位、溶融物質が超臨界流体(温度及び圧力を臨界点へ到達させた状態)へ達するよう温度・圧力を制御する超臨界流体生成部位、この超臨界流体を管状部位の管内へ適量吐出させるインジェクタ―部位等から構成される。また、当該管状部位の吐出先には金型のゲートが接続され、其の金型は、ゲートを介して内部のキャビティと管状部位とが連通される。また、金型内に形成されたキャビティは、コンプレッサによる圧力制御と、ヒータによる温度制御とが適宜行われる。
【0019】
かかる構成とされた超臨界式注型装置は、射出成型機からポリマー(絶縁樹脂)の溶体が出力され、この樹脂流体に所定割合の超臨界流体が投入される。このとき、樹脂流体に超臨界流体が溶融し、溶融物質混成樹脂流体が生成される。一方、金型のキャビティ内は、コンプレッサによって圧力制御され、其処へ溶融物質混成樹脂流体が供給される(含浸工程)。
【0020】
このように、本実施の形態に係る内燃機関用点火コイル100の製造方法によると、二次コイル111の周辺における絶縁構造は、超臨界流体を熱可塑性樹脂へ溶解させ、当該熱可塑性樹脂の粘性を調整させる物性調整製法が採用される。このため、二次コイル111へ熱可塑性樹脂(溶融物質混成樹脂流体)を含浸させる工程では、熱可塑性樹脂の粘性が所期の如く低下するので、二次コイルの周辺隙間部へ熱可塑性樹脂(溶融物質混成樹脂)が確実に行きわたることとなる。
【0021】
その後、超臨界式注型装置は、金型の温度制御を行うことで溶融物質混成樹脂流体を徐々に温度低下させ、この樹脂流体を最終的に固相化させ、溶融物質混成樹脂を形成させる(固相化工程)。この固相化工程では、温度制御と同時にキャビティ内の圧力制御も行われ、超臨界流体に相当する溶融物質が気相変態しないように冷却動作が進められる。
【0022】
ヘンリーの法則に基づけば、超臨界流体が窒素である場合、母材ポリマー(kg)に対する窒素(mol)の割合Rate1が「Rate1<0.0425×P(MPa)」のとき、ポリマー内の溶存窒素が気相変態(即ち、発砲)しないとされている。また、母材ポリマー(kg)に対する二酸化炭素(mol)の割合Rate2が「Rate2<0.17×P(MPa)」のとき、ポリマー内の溶存二酸化炭素が概ね気相変態しないとされている。尚、本実施の形態では、この溶融物質の割合が数%程度に設定される。
【0023】
この例のように、キャビティ圧について適宜の条件を守りながら冷却させることで、超臨界式注型装置は、超臨界流体に係る溶融物質を発砲させることなく、当該樹脂を液相状態から固相状態へと相変態させることが可能となる。これによれば、溶融物質混成樹脂流体を冷却させる工程で二次コイル周辺にボイドが生じることはないので、当該二次コイル周辺における絶縁構造の品質が保たれる。
【0024】
固相化工程が完了した中間製品は、その後、二次コイル周辺に低圧部品を取付ける低圧部品組立工程へと投入される(
図3及び
図4参照)。本実施の形態に係る低圧部品は、ターミナル中継体131と、閉磁路鉄心132〜133と、中心鉄心134と、一次コイル135と、コネクタ構造体136(
図3及び
図4では図示されていない)とを指すものである。
【0025】
ターミナル中継体131は、絶縁構造体から成るものであって、上述した高圧部構造体120を受け入れる収容空間が設けられている。当該収容空間は、外部との連通孔が設けられ、組付けられた高圧部構造体120の高圧端子113が連通孔を介して外部の導通構造に接続可能となる。また、ターミナル中継体131の絶縁構造体は、収容空間を囲う如く鍔部が形成され、この鍔部に閉磁路鉄心132〜133,コネクタ構造体136,イグナイタ137といった低圧部品が配置される。
【0026】
また、高圧部構造体120には、二次コイル111の内部を貫く挿通孔が設けられており、これに中心鉄芯134及び一次コイル135が各々挿通される。よって、組付けられた中心鉄芯134の周りには、一次コイル135が巻回体として配置され、その外周に二次コイル111が巻回体として設けられる。そして、これらの構成の各々は、絶縁構造によって互いに電気的に絶縁されることとなる。更に、これらの構成のうち中心鉄芯134の端部には閉磁路鉄芯132〜133が配置され、これら全体構成によりコイルアセンブリが形成される。
【0027】
このコイルアセンブリの傍には、コネクタ構造体136(図示なし)及びイグナイタ137が配置される。コイルアセンブリの各コイルは、コネクタ構造体136に内設されたコネクタ端子、又は、イグナイタ137に配備された端子に適宜接続される。コネクタ端子は、電源端子,信号端子,及び,グランド端子等が設けられ、このうち、電源端子は一次コイル135に導通され、信号端子はイグナイタ内のパワートランジスタへ駆動信号を中継する。即ち、かかる構成とされた電磁回路は、点火信号(パルス)が信号端子に与えられると、一次コイル135及びパワートランジスタの直列回路で一次電流を一時的に発生させ、この一次電流が遮断するタイミングで二次コイル111から高電圧(数十kV)を出力させる。尚、自動車等の内燃機関では、其の制御回転数に応じて連続的に点火信号が与えられ、これに応じて点火コイルが連続的に駆動されることとなる。
【0028】
低圧部品組立工程が完了した中間製品は、その後、外周絶縁樹脂140を被覆させる被覆工程に投入される(
図5参照)。外周絶縁樹脂140は、上述した低圧部品の全部または一部を覆うように金型で注型される。本実施の形態に係る外周絶縁樹脂140は、図示の如く、コネクタ構造体136の一部を覆うように積層被覆し、また、他の低圧部品の露出箇所が無いように積層被覆している。例えば、溶融物質混成樹脂114について見れば、その一部部位がターミナル中継体131に覆われ、他の部位が外周絶縁樹脂140によって被覆され、これにより、高圧部構造体120の外周の略全体に絶縁構造が形成される。但し、これは一つの実施形態に過ぎず、例えば、溶融物質混成樹脂114によって二次コイルの誘起電圧を確実に絶縁できるのであれば、当該樹脂114が外周絶縁樹脂140から露出するような構造を与えても良い。
【0029】
かかる外周絶縁樹脂140は、これが注型される際、超臨界流体を伴わずに形成されるものである。即ち、外周絶縁樹脂140に係る樹脂注型装置は、超臨界流体を外周絶縁樹脂140の溶体に混入させる機構は不要である。この樹脂注型装置は、射出成形装置であっても良く、トランスファーモールド成形装置であっても良い。但し、トランスファーモールド成形装置では、溶解した絶縁体を低圧で押圧注入させることが可能なので、低圧部品の配置を崩すことなく適切な配置でモールドさせることが容易となろう。
【0030】
尚、溶融物質混成樹脂は、超臨界流体に係る含有量が数%程度に設定されるところ、これを含有させていない母材ポリマーに対する熱膨張率の差異は大きくないと考えられる。従って、溶融物質混成樹脂及び外周絶縁樹脂は、各々の母材ポリマー(主有機組成物)が同一であるのが熱応力回避の点で好ましい。例えば、PBT(Polybutylene Terephthalate)の溶融物質混成樹脂を用いる場合、外周絶縁樹脂もPBT(Polybutylene Terephthalate)として点火コイルの構造を形成するのが良い。また、PA(Polyamide)の溶融物質混成樹脂を用いる場合、外周絶縁樹脂もPA(Polyamide)として点火コイルの構造を形成するのが良い。
【0031】
このように、本実施の形態に係る製造方法によれば、物性調整製法による絶縁構造(溶融物質混成樹脂114)と、物性調整製法を伴わない絶縁構造(外周絶縁樹脂140)と、の2種類の絶縁構造を点火コイルとして形成させる。従って、物性調整製法による絶縁構造(溶融物質混成樹脂114)は、点火コイル100の全体に対して一部の限られた領域に形成されることとなる。
【0032】
かかる製造方法によると、物性調整製法による溶融物質混成樹脂114は、限定された構造領域に形成されるため、キャビティ圧を調整すべき加圧容積が格段に狭められる。このため、当該製法方式の樹脂注型装置は、加圧容積低下に伴いコンプレッサ等の要求出力が最小限に抑えられ、当該装置の大型化及び高コスト化から免れる。
【0033】
特に、本実施の形態に係る高圧部構造体120は、二次コイル111の周辺,及び,中継端子112及び高圧端子113の周辺に限定して溶融物質混成樹脂114が形成される。従って、超臨界式注型装置は、これによる注型容積が極力制限されるので、コンプレッサの要求出力を抑えることが可能となり、コンプレッサ周辺配管・バルブの耐圧構造等を引き下げることが可能となる。
【0034】
図6では、上述した樹脂形成工程が更に詳しく説明されている。尚、同図では、超臨界流体として窒素ガスが用いられることとし、溶融物質混成樹脂の母材としてPA(Polyamide/ポリアミド系樹脂)が用いられることとする。即ち、母材ポリマーとしてPA(Polyamide/ポリアミド系樹脂)が用いられ、これに超臨界流体の窒素ガスが溶融されて溶融物質混成樹脂流体が生成される。
【0035】
上述の如く、樹脂形成工程は、二次コイル周辺を溶融物質混成樹脂流体で含浸させる含浸工程と、圧力制御及び温度制御を行って溶融物質を発砲させずに溶融物質混成樹脂流体を固相化させる固相化工程と、から構成されている。このうち、
図6に係る含浸工程は、二次コイル周辺圧力を樹脂投入前に予め設定させる予圧工程(
図6(a)参照)と、予圧工程の後に溶融物質混成樹脂を二次コイルへ供給する樹脂供給工程(
図6(b)参照)と、によって構成されることとなる。
【0036】
予圧工程は、金型に形成されたキャビティCの内部へ樹脂供給させる前に、キャビティ圧を上昇させ二次コイル周辺圧力を適宜に設定しておく。これによれば、溶融物質混成樹脂流体がゲートGを介してキャビティ内に放出された際(樹脂供給工程の際)、当該樹脂流体の圧力低下が免れるので、キャビティ空間と樹脂流体との界面における急激な発砲が抑えられ、二次コイル周辺の絶縁構造が高品質に保たれる。このため、同工程では、キャビティ内でカウンタープレッシャーを形成させる為、ゲートGの対面側から窒素ガスNが加圧注入される。
【0037】
但し、二次コイルの周辺構造によっては、溶融物質混成樹脂流体を投入したときの樹脂流速を局所的に上昇させる場合があるので、溶融物質混成樹脂流体が局所的且つ一時的に圧力降下を招いてしまうことも考えられる。このような場合には、溶融物質混成樹脂流体の移動先にサブキャビティを設けておき、此処に気泡化した溶融物質を集めるようにしても良い。このサブキャビティは、高圧部構造体120から切落される端材であるところ、二次コイル周辺における絶縁構造の品質に影響を与えるものではない。このようにして、高圧部構造体120は、二次コイル周辺にボイド等を伴わない、高品質の絶縁構造が形成されることとなる(
図6(c)参照)。
【0038】
尚、溶融物質混成樹脂の母材ポリマー(主有機組成物)は、PBT(Polybutylene Terephthalate)又は変性PPE(Modified- Polyphenylen Eether)に置換えても良い。ここで、PBT(Polybutylene Terephthalate)について検討すると、化学組成構造から吸水性が低いことが明らかであり、PBT分子間の結合が強固とされる。一方、PA(Polyamide)にあっては、親水基(アミド基)を有するため吸水性が高い。即ち、双方を比較した場合、PA(Polyamide)の方が、ポリマーを構成する分子間距離が離れることになり、溶体樹脂投入時の流動性に優れた性質を示すことになる。特に、PA6及びPA66についてこの利点が顕著である。更に、PA(Polyamide)は、PBT(Polybutylene Terephthalate)よりも加水分解されにくいことからも、構造体として利用するに適していることが解る。
【符号の説明】
【0039】
100 内燃機関用点火コイル, 110 二次スプール, 111 二次コイル, 112 中継端子, 113 高圧端子, 114 溶融物質混成樹脂, 120 高圧部構造体, 122〜123 閉磁路鉄芯, 124 中心鉄芯, 125 一次コイル, 126 コネクタ構造体, 140 外周絶縁樹脂。