特許第5996627号(P5996627)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許5996627立体自由形状造形法によって金属物体を構築する方法及び装置
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5996627
(24)【登録日】2016年9月2日
(45)【発行日】2016年9月21日
(54)【発明の名称】立体自由形状造形法によって金属物体を構築する方法及び装置
(51)【国際特許分類】
   B23K 10/02 20060101AFI20160908BHJP
   B23K 9/04 20060101ALI20160908BHJP
   B23K 10/00 20060101ALI20160908BHJP
   C22C 14/00 20060101ALN20160908BHJP
   B23K 35/30 20060101ALN20160908BHJP
【FI】
   B23K10/02 501A
   B23K9/04 G
   B23K9/04 N
   B23K10/00 502Z
   !C22C14/00 Z
   !B23K35/30 340Z
【請求項の数】10
【全頁数】14
(21)【出願番号】特願2014-502502(P2014-502502)
(86)(22)【出願日】2012年3月30日
(65)【公表番号】特表2014-512961(P2014-512961A)
(43)【公表日】2014年5月29日
(86)【国際出願番号】NO2012000033
(87)【国際公開番号】WO2012134299
(87)【国際公開日】20121004
【審査請求日】2015年1月20日
(31)【優先権主張番号】1105433.5
(32)【優先日】2011年3月31日
(33)【優先権主張国】GB
(73)【特許権者】
【識別番号】512037473
【氏名又は名称】ノルスク・チタニウム・コンポーネンツ・アーエス
【氏名又は名称原語表記】NORSK TITANIUM COMPONENTS AS
(74)【代理人】
【識別番号】100110423
【弁理士】
【氏名又は名称】曾我 道治
(74)【代理人】
【識別番号】100111648
【弁理士】
【氏名又は名称】梶並 順
(74)【代理人】
【識別番号】100147500
【弁理士】
【氏名又は名称】田口 雅啓
(74)【代理人】
【識別番号】100166235
【弁理士】
【氏名又は名称】大井 一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100179914
【弁理士】
【氏名又は名称】光永 和宏
(72)【発明者】
【氏名】シュテンプファー、フェルディナンド
【審査官】 豊島 唯
(56)【参考文献】
【文献】 特開平04−055065(JP,A)
【文献】 特表2009−534535(JP,A)
【文献】 特開平04−059186(JP,A)
【文献】 国際公開第2011/019287(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B23K 10/00 − 10/02
B23K 9/04
B23K 35/30
C22C 14/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
立体自由形状造形法によって金属材料の3次元物体を製造する方法であって、前記物体は保持基材上の前記金属材料の連続した堆積物を合わせて溶融することによって作製され、
該方法は、
前記物体が作製される金属材料と同様の金属材料から作製される保持基材を用いることと、
各連続した堆積物を、
i)第1のプラズマトランスファーアーク(PTA)を用いて、前記金属材料が堆積することになる位置において母材を予熱し該母材に溶融池を形成し、
ii)金属材料の供給ワイヤの形態で堆積することになる前記金属材料を、前記溶融池の上方の位置に供給し、
iii)溶融金属材料が前記溶融池内に滴下するように、第2のプラズマトランスファーアーク(PTA)を用いて前記金属材料の供給ワイヤを加熱溶融し、
iv)前記溶融金属材料の連続した堆積物が固化して前記3次元物体を形成するように所定のパターンで、前記第1のPTA及び前記第2のPTAの位置に対して前記保持基材を移動させる、
ことによって得ることと、
を含むことを特徴とする、金属材料の3次元物体を製造する方法。
【請求項2】
前記第1のプラズマトランスファーアークは、ガスタングステンアーク溶接トーチ(GTAWトーチ)によって形成され、該GATWトーチは、該GTAWトーチの電極がカソードになり前記母材がアノードになるように、直流電源に電気的に接続され、
前記第2のプラズマトランスファーアークは、任意の従来のプラズマトランスファーアークトーチ(PTAトーチ)によって形成され、該PTAトーチは、該PTAトーチの電極がカソードになり前記金属材料の供給ワイヤがアノードになるように、直流電源に電気的に接続される、
請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記金属材料はチタン又は合金チタンである、請求項1又は2に記載の方法。
【請求項4】
前記物体の前記立体自由形状造形法は、
コンピューター支援設計(CAD)ツールを用いて前記物体の仮想3次元モデルを形成し、該モデルを一組の仮想平行層に分割するとともに、各平行層を一組の仮想準一次元切片に更に分割して、前記物体の仮想ベクトル化積層モデルを形成し、
前記保持基材の位置及び移動、前記第1プラズマトランスファーアークトーチ及び前記第2プラズマトランスファーアークトーチの起動、並びに前記金属材料の供給ワイヤを供給するワイヤ供給システムの起動を調節することができる制御システムに、前記物体の前記仮想ベクトル化積層モデルをロードし、
前記物体の前記仮想ベクトル化積層モデルの第1の層に従うパターンで、前記金属材料の供給ワイヤの一連の準一次元切片を前記母材の上に堆積させかつ溶融させるように前記制御システムを関与させ、
前記物体の前記仮想ベクトル化積層モデルの第2の層に従うパターンで、前記金属材料の供給ワイヤの一連の準一次元切片を先の堆積層の上に堆積させかつ溶融させることにより、前記物体の第2の層を形成し、
前記物体全体が形成されるまで、該物体の前記仮想ベクトル化積層モデルの各連続した層に対して層ごとに前記堆積及び溶融プロセスを繰り返す、
ことによる、
前記物体の特徴的な寸法によって得られる、請求項1又は2に記載の方法。
【請求項5】
前記第2のプラズマトランスファーアークは、前記プラズマトランスファーアークトーチ(PTAトーチ)の前記電極を直流電源の負極に接続するとともに、前記母材を該直流電源の正極に電気的に接続することによって、前記溶融池に熱パルスを送達し、1Hzから10kHzの範囲の周波数で前記直流電源をパルス化するように用いられる、請求項2に記載の方法。
【請求項6】
立体自由形状造形法によって金属材料の3次元物体を製造する装置であって、
該装置は、
前記金属材料のワイヤを供給するワイヤ供給器が組み込まれた溶接トーチと、
前記溶接トーチに対して保持基材を位置決めし移動させるシステムと、
形成されることになる前記物体のコンピューター支援設計(CAD)モデルを読み、該CADモデルを用いて、前記保持基材を位置決めし移動させるように前記システムの位置及び移動を調節し、前記保持基材上の前記金属材料の連続した堆積物を溶融することにより、物理的物体が構築されるように、ワイヤ供給器が組み込まれた前記溶接トーチを動作させることができる制御システムと、
を具備し、
前記保持基材は、作製されることになる前記物体と同様の金属材料から作製され、
前記溶接トーチは、
i)前記母材に電気的に接続された第1のプラズマトランスファーアーク(PTA)トーチと、
ii)前記金属材料の供給ワイヤに電気的に接続された第2のプラズマトランスファーアーク(PTA)トーチと、
を備え、
前記制御システムは、前記金属材料が堆積することになる位置で前記母材に溶融池を形成し維持するように、前記第1のPTAトーチを別個に動作させ調節することができ、
前記制御システムは、溶融金属材料が前記溶融池内に滴下するような位置で前記金属材料供給材料を溶融するように、前記ワイヤ供給器及び前記第2のPTAトーチを別個に動作させ調節することができることを特徴とする、3次元物体を製造する装置。
【請求項7】
前記第1のプラズマトランスファーアークトーチはガスタングステンアーク溶接トーチ(GTAWトーチ)であり、該GTAWトーチは、該GTAWトーチの電極がカソードになり前記母材がアノードになるように、直流電源に電気的に接続されており、
前記第2のプラズマトランスファーアークは任意の従来のプラズマトランスファーアークトーチ(PTAトーチ)であり、該PTAトーチは、該PTAトーチの電極がカソードになり前記金属材料の供給ワイヤがアノードになるように、直流電源に電気的に接続されている、請求項6に記載の装置。
【請求項8】
前記GTAWトーチ及び前記PTAトーチの直流電源は、独立して調節される2つのDC電源である、請求項6又は7に記載の装置。
【請求項9】
前記ワイヤ供給器はMIGトーチであり、
前記金属材料の供給ワイヤは、チタン又は合金チタンから作製され、直径が1.0mm、1.6mm及び2.4mmのうちの1つである、請求項6又は7に記載の装置。
【請求項10】
前記第2のプラズマトランスファーアークの前記電極は、直流電源の負極に電気的に接続され、前記母材は、前記直流電源の正極に電気的に接続されており、
前記直流電源からの電位は、1Hzから10kHzの範囲の周波数でパルス化される、請求項7に記載の装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、立体自由形状造形法(solid freeform fabrication)により物体、特にチタン体及びチタン合金体を製造する方法及び装置に関する。
【背景技術】
【0002】
チタン又はチタン合金製の構造化金属部品は、従来、ビレットから鋳造、鍛造又は機械加工することによって作製される。これらの技法には、高価なチタン金属の材料使用量が多く、製造におけるリードタイムが長いという不都合がある。
【0003】
十分に稠密な物理的物体を、ラピッドプロトタイピング(rapid prototyping)、ラピッドマニュファクチャリング(rapid manufacturing)、積層造形法(layered manufacturing)又は付加造形法(additive fabrication)として知られる製造技術によって作製することができる。
この技法は、コンピューター支援設計ソフトウェア(CAD)を用いて、まず、作製する物体の仮想モデルを構成し、その後、その仮想モデルを、通常水平方向に向けられる薄い平行なスライス又は層に変換する。そして、物理的物体を、液体ペースト、粉末又はシート材の形態で連続した原料の層であって、仮想層の形状に類似する層を物体全体が形成されるまで敷くことによって作製することができる。
それらの層を合わせて溶融して立体稠密物体を形成する。合わせて溶融又は溶接される立体材料を堆積させる場合、この技法はまた、立体自由形状造形法(solid freeform fabrication)とも呼ばれる。
【0004】
立体自由形状造形法は、通常、各物体に対して数時間から数日までの範囲の比較的高速の製造速度で、ほぼいかなる形状の物体の作成も可能にする柔軟な技法である。したがって、この技法はプロトタイプの形成及び少量連続生産には適しているが、大量生産にはそれほど適していない。
【0005】
従来技術
積層造形法の技法は、複数片の構成材料の堆積を含むように、すなわち、並んで置かれたときに層を形成する一組の部片に物体の仮想モデルの各構造層を分割するように拡張することができる。
これにより、物体の仮想積層モデルに従って各層を形成する連続したストライプ状にワイヤを基材の上に溶接し、物理的物体全体が形成されるまで各層に対してプロセスを繰り返すことによって、金属物体を形成することができる。
溶接技法の精度は、通常、許容可能な寸法の物体を直接形成することができないほど粗い。したがって、形成される物体は、通常、許容可能な寸法精度まで機械加工する必要がある未加工物体又は予成形品であるとみなされる。
【0006】
非特許文献1には、電子ビーム自由形状造形法(electron beam freeform fabrication)(EBF)と組み合わされた、コンピューター支援設計データから直接構造金属部品を製造する方法及び装置が開示されている。構造部品は、電子ビームによって提供される熱エネルギーによって溶接される金属溶接ワイヤの連続した層の上に溶接することによって構築される。
非特許文献1の図1の複写である図1に、そのプロセスを概略的に示す。
EBFプロセスは、高真空環境において集束電子ビームによって生成され維持される溶融池内に金属ワイヤを供給することを伴う。
電子ビーム及び溶接ワイヤの位置決めは、1つ又は複数の軸(X軸、Y軸、Z軸及び回転軸)に沿って移動可能に電子ビーム銃及び位置決めシステム(支持基材)が蝶番式に取り付けられるようにするとともに、4軸運動制御システムによって電子ビーム銃及び支持基材の位置を調節することによって得られる。
このプロセスは、材料の使用がほぼ100%効率的であり電力消費が95%効果的であると主張されている。この方法は、バルク金属堆積及びより精巧で緻密な堆積の両方に用いることができ、この方法は、金属部品を機械加工する従来の手法に比較して、リードタイムの短縮と材料コスト及び機械加工コストの低減とに対して著しい効果を得ると主張されている。
電子ビーム技術には、堆積チャンバーにおいて10−1Pa以下の高真空に依存するという不都合がある。
【0007】
金属材料を溶接する熱を提供するために、プラズマアークを使用することが知られている。この方法を、大気圧又はより高い圧力で行うことができ、したがって、この方法によってより単純かつコストのかからないプロセス機器が可能になる。
1つのこうした方法は、ガスタングステンアーク溶接(gas tungsten arc welding)(GTAW、TIGとも示される)として知られており、そこでは、非消耗型タングステン電極と溶接領域との間にプラズマトランスファーアーク(plasma transfer arc:プラズマ移行アーク)が形成される。プラズマアークは、通常、プラズマトーチを介して供給されているガスによって保護される。プラズマトーチは、アークの周囲に保護カバーを形成している。TIG溶接は、溶接池又はプラズマアーク内に金属ワイヤ又は金属粉末を充填材として供給することを含むことができる。
【0008】
特許文献1により、TIG溶接トーチを用いて、立体自由形状造形法(SFFF)によって物体を構築することが知られている。そこでは、低延性の金属供給原材料の連続した層が基材の上に与えられる。アーク電極を使用して流動ガスを励起することによってプラズマ流が生成され、アーク電極には大きさの変化する電流が供給される。
プラズマ流が所定標的領域に向けられることにより、堆積前の所定標的領域が予熱される。電流が調整されるとともに、プラズマ流内に供給原材料が導入されて、溶融した供給原料が所定標的領域に堆積される。
電流が調整されるとともに、溶融した供給原料が高温(通常は供給原材料の脆性遷移温度ないし延性遷移温度を超える温度)で徐々に冷却されて、冷却段階において材料応力の発生が最小限にされる。
【0009】
別の例が特許文献2に開示されている。特許文献2は、立体自由形状造形法(SFFF)プロセスで従来使用されている高価なレーザーの代りにTIGトーチを使用することを開示している。そこでは、原料のコストを大幅に低減する方法で比較的低コストのチタン供給材料と合金化成分とを結合することによって、その比較的低コストのチタン供給材料を用いる。
より詳細には以下の通りである。
一態様では、この発明は、合金ワイヤよりコストが低い純チタンワイヤ(CP Ti)を用い、溶接トーチ又は他の高出力エネルギービームの溶融においてCP Tiワイヤと粉末合金化成分とを結合することにより、SFFFプロセスにおいてあるがままの状態で(in-situ)でCP Tiワイヤを粉末合金化成分と結合する。
別の実施形態では、この発明は、合金化元素と混合されるとともにワイヤ状に形成されたチタンスポンジ材料を用いる。そのチタンスポンジ材料は、SFFFプロセスにおいてプラズマ溶接トーチ又は他の高出力エネルギービームと組み合わせて、ニアネットシェイプ(near net shaped)のチタン部品を生成するために使用されることができる。
【0010】
400℃を超えるように加熱されるチタン金属又はチタン合金は、酸素と接触すると酸化しやすい。したがって、積層造形によって形成されている溶接されかつ加熱される物体を、周囲雰囲気中の酸素から保護する必要がある。
【0011】
この問題に対する1つの解決法は、特許文献3により知られている。特許文献3には、立体自由形状造形法による物体(特にチタン体及びチタン合金体)の製造を周囲雰囲気に対して閉鎖されている反応チャンバー内で行うことにより、堆積速度を上昇させる方法が開示されている。
堆積チャンバーに十分に酸素がないようにすることにより、新たに溶接された領域が周囲雰囲気酸素によって酸化されることを回避する保護手段を用いる必要がもはやなくなる。それにより、溶接部の過度の酸化の危険なしに、溶接ゾーンをより高温にすることが可能になるため、溶接プロセスをより高い速度で進めることができる。例えば、チタン又はチタン合金の物体の製造において、酸化を回避するために溶接ゾーンを400℃未満まで冷却する必要がもはやなくなる。
【0012】
堆積速度を上昇させる別の解決法は、特許文献4により知られている。特許文献4には、以下の特徴からなる堆積ヘッドアセンブリ、すなわち、
堆積領域への粉末の集束する流れをもたらす出力粉末ノズルのアレイと、
堆積基材上に複数のビームが集束されるのを可能にする中心オリフィスと、
ノズルと堆積ヘッドアセンブリとの間の作動距離をより長くするために、これらのノズルからの粉末の流れを集中させる、粉末ノズルの各々に対する同軸ガス流と
からなる堆積ヘッドアセンブリが開示されている。
作動距離をより長くすることは、溶融金属粒子が処理中に堆積装置に付着しないことを確実にするために重要である。特に、この発明は、堆積プロセスに関して同時に2つ以上のレーザービームを使用することができる堆積ヘッドアセンブリ内に設計されたマニホルドシステムを含む。堆積ヘッドアセンブリは、材料利用効率を向上させるように各オリフィスからの粉末の流れを能動的に集中させる手段も組み込んでいる。
【0013】
特許文献5には、DMD製品を形成することを非常に困難にするTiの反応特性及びその溶融特性に関連する問題を解決するために、ガスメタルアーク溶接及びレーザー溶接を組み合せて使用することが開示されている。
ガスメタルアーク技法(techniques)には、それらの適用をTiの堆積に厳密に制限する幾つかの不都合がある。これらの欠点には、金属転移の不安定性と、過度のスパッターと、堆積層形状の不十分な制御と、堆積中に薄い部分の歪みをもたらす高い入熱(high heat input)とが挙げられる。また、堆積中に発生するカソードスポットのゆらぎ(wandering)のために、生産性の向上は不可能である。
特許文献5によるこれらの問題に対する解決法は、基材を準備するステップと、基材の上に金属供給原料から金属を堆積させるステップとを含む、直接金属堆積プロセスに対するものである。金属供給原料と基材との間に電気アークが生成され、アークがレーザー放射線に露出することにより、基材の上に溶融金属池が形成される。溶融金属池が冷却されて、基材の上に第1の立体金属層が形成される。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0014】
【非特許文献1】Taminger, K. M. and Hafley, R. A., "Electron Beam Freeform Fabrication for Cost Effective Near-Net Shape Manufacturing", NATO/RTOAVT-139Specialists' Meeting on Cost Effective Manufacture via Net Shape Processing (Amsterdam, the Netherlands, 2006) (NATO), pp 9-25,http://ntrs.nasa.gov/archive/nasa/casi.ntrs.nasa.gov/20080013538_2008013396.pdf
【特許文献】
【0015】
【特許文献1】米国特許出願公開第2010/0193480号
【特許文献2】米国特許出願公開第2006/185473号
【特許文献3】国際公開第2011/0198287号
【特許文献4】米国特許第6268584号
【特許文献5】国際公開第2006/133034号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0016】
本発明の主な目的は、立体自由形状造形法によって金属を構築する装置を提供することである。
【0017】
本発明の別の目的は、チタン又はチタン合金の物体のラピッド積層造形方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0018】
本発明は、
ワイヤの形態で金属供給材料を供給するとともに、
母材上の堆積領域を加熱する1つのプラズマトランスファーアークと、供給ワイヤを加熱するとともに溶融する1つのプラズマトランスファーアークとの2つのガストランスファーアークを用いることにより、
堆積速度を上昇させることができる、という理解に基づく。
【0019】
したがって、第1の態様において、本発明は、
立体自由形状造形法によって金属材料の3次元物体を製造する方法であって、前記物体は保持基材上の前記金属材料の連続した堆積物を合わせて溶融することによって作製され、
該方法は、
前記物体が作製される金属材料と同様の金属材料から作製される保持基材を用いることと、
各連続した堆積物を、
i)第1のプラズマトランスファーアーク(PTA)を用いて、前記金属材料が堆積することになる位置において母材を予熱し該母材に溶融池を形成し、
ii)ワイヤの形態で堆積することになる前記金属材料を、前記溶融池の上方の位置に供給し、
iii)溶融金属材料が前記溶融池内に滴下するように、第2のプラズマトランスファーアーク(PTA)を用いて前記ワイヤを加熱溶融し、
iv)前記溶融金属材料の連続した堆積物が固化して前記3次元物体を形成するように所定のパターンで、前記第1のPTA及び前記第2のPTAの位置に対して前記保持基材を移動させる、
ことによって得ることと、
を含むことを特徴とする、金属材料の3次元物体を製造する方法に関する。
【0020】
第2の態様において、本発明は、立体自由形状造形法によって金属材料の3次元物体を製造する装置であって、
該装置は、
前記金属材料のワイヤを供給するワイヤ供給器が組み込まれた溶接トーチと、
前記溶接トーチに対して保持基材を位置決めし移動させるシステムと、
形成されることになる前記物体のコンピューター支援設計(CAD)モデルを読み、該CADモデルを用いて、前記保持基材を位置決めし移動させるように前記システムの位置及び移動を調節し、前記保持基材上の前記金属材料の連続した堆積物を溶融することにより、物理的物体が構築されるように、ワイヤ供給器が組み込まれた前記溶接トーチを動作させることができる制御システムと、
を具備し、
前記保持基材は、作製されることになる前記物体と同様の金属材料から作製され、
前記溶接トーチは、
i)前記母材に電気的に接続された第1のプラズマトランスファーアーク(PTA)トーチと、
ii)前記金属材料の供給ワイヤに電気的に接続された第2のプラズマトランスファーアーク(PTA)トーチと、
を備え、
前記制御システムは、前記金属材料が堆積することになる位置で前記母材に溶融池を形成し維持するように、前記第1のPTAトーチを別個に動作させ調節することができ、
前記制御システムは、溶融金属材料が前記溶融池内に滴下するような位置で前記金属材料供給材料を溶融するように、前記ワイヤ供給器及び前記第2のPTAトーチを別個に動作させ調節することができる
ことを特徴とする、金属材料の3次元物体を製造する装置に関する。
【0021】
本明細書において用いられる「同様の金属材料」という用語は、金属材料が基準金属材料と同じ金属又は金属合金からなることを意味する。
【0022】
本明細書において用いられる「母材」という用語は、第1のPTAトーチからの熱に対するターゲット材であり、溶融池が形成されることになるものを意味する。これは、金属材料の第1の層を堆積させるときの保持基材となる。金属材料の1つ又は複数の層が保持基材の上に堆積すると、母材は、金属材料の新たな層を堆積させることになる堆積した金属材料の上部層となる。
【0023】
本明細書において交換可能に用いられる「プラズマトランスファーアークトーチ」又は「PTAトーチ」という用語は、電気アーク放電によりプラズマへの不活性ガスの流れを加熱し励起し、その後、電気アークを含むプラズマガスの流れをオリフィス(ノズル)を通して移送し、オリフィスから延出しアークの強力な熱をターゲット領域に伝達する抑制されたプルームを形成することができる、任意の装置を意味する。
電極及びターゲット領域は、PTAトーチの電極がカソードになり、ターゲット領域がアノードになるように、直流電源に電気的に接続される。これにより、電気アークを含むプラズマプルームが、PTAトーチから供給されている熱流束の面積の広がり及び大きさの優れた制御により、ターゲット領域の小さい表面積に非常に集中した熱流を送達していることが確実になる。
プラズマトランスファーアークには、ゆらぎがほとんどなく、カソードとアノードとの間の長さのずれに対して優れた耐性で、安定し一貫したアークを提供するという利点がある。したがって、PTAトーチは、母材に溶融池を形成することと、金属ワイヤ供給材料を加熱し溶融することとの両方に適している。
PTAトーチは、有利には、タングステン製の電極と銅製のノズルとを有することができる。しかしながら、本発明は、PTAトーチのいかなる特定の選択又はタイプにも拘束されない。PTAトーチとして機能することができる任意の既知の又は考えられる装置を適用することができる。
【0024】
母材を予熱し溶融池を形成する別個に制御された第1のPTAトーチと、金属材料の供給ワイヤを溶融する別個に第2のPTAトーチとを使用することにより、基材への熱供給とは無関係に金属ワイヤの供給材料への熱供給を増大させることが可能になり、それにより、スパッターを発生させる「溶射アーク」を生成する危険なしに、供給材料内への熱流速を増大させることが可能になるという利点がもたらされる。
したがって、基材を同時に過熱することなく、かつスパッター又は過剰な溶融池の形成の危険なしに(したがって堆積材料の固化の厳密でない制御の危険なしに)、溶融金属供給材料の堆積速度を上昇させることができる。
この特徴は、
第1のPTAトーチの電極が負極性になり母材が正極性になって、第1のPTAトーチの電極と母材との間のアーク放電により電荷が移送される電気回路を規定するように、直流電源を接続することにより、かつ
第2のPTAトーチの電極を直流電源の負極に接続し金属材料の供給ワイヤを正極に接続して、第2のPTAトーチの電極と金属材料の供給ワイヤとの間のアーク放電により電荷が移送される電気回路を形成することにより、
得られる。
【0025】
第1のPTAトーチ及び第2のPTAトーチは、有利には、別個の電源と、それぞれのトーチに対する電源を調節する手段とを有することができる。
電力を調節する手段は、有利には、母材の堆積領域の温度を監視する手段と、アークの幅及び位置を調節する手段、すなわち磁気アーク偏向手段等の手段とを含むことができる。
また、母材に溶融池を形成するように用いられる第1のPTAトーチは、有利には、広いアークを形成する、すなわち、ガスタングステンアーク溶接トーチ(GTAWトーチ、文献ではTIGトーチとも示される)によって形成されるようなアークを形成することにより、母材の表面のより広い面積に溶融池を形成することができる。
【0026】
本明細書において交換可能に使用される「コンピューター支援設計モデル」又は「CADモデル」という用語は、
本発明の第2の態様による装置の制御システムにおいて用いることができる、形成されることになる物体の任意の既知又は考えられる仮想3次元表現であって、
保持基材の位置及び移動を調節するように、かつ、
物理的物体が、物体の仮想3次元モデルに従って物理的物体を構築する際に結果として得られるパターンで保持基材の上の金属材料の連続した堆積物を溶融することによって製造されるように、ワイヤ供給器が組み込まれた溶接トーチを動作させるように用いることができる、
仮想3次元表現を意味する。
これは、例えば、まず仮想3次元モデルを一組の仮想平行層に分割し、その後、平行層の各々を一組の仮想準一次元切片に分割することにより、3次元モデルの仮想ベクトル化積層モデルを形成することで得ることができる。
そして、物理的物体は、物体の仮想ベクトル化積層モデルの第1の層に従うパターンで、金属材料供給材料の一連の準一次元切片を支持基材の上に堆積させ溶融させるように、制御システムを関与させることによって形成することができる。
そして、物体の仮想ベクトル化積層モデルの第2の層に従うパターンで、先に堆積した層の上に溶接可能材料の一連の準一次元切片を堆積させ溶融させることにより、物体の第2の層に対するシーケンスを繰り返す。
物体全体が形成されるまで、物体の仮想ベクトル化積層モデルの各連続した層に対して、層ごとに堆積及び溶融プロセスを繰り返し続ける。
しかしながら、本発明は、本発明による装置の制御システムを実行するいかなる特定のCADモデル及び/又はコンピューターソフトウェアにも拘束されず、本発明は、いかなる特定のタイプの制御システムにも拘束されない。
1つの第1のPTAトーチに対して溶融池を形成するように、かつ第2のPTAトーチに対して溶融池内への金属材料の供給ワイヤを溶融するように別個に動作させるように制御システムが調整される限り、立体自由形状造形法によって金属3次元物体を構築することができる任意の既知又は考えられる制御システム(CADモデル、コンピューターソフトウェア、コンピューターハードウェア及びアクチュエーター等)を用いることができる。
【0027】
有利には、金属材料の供給ワイヤの供給速度(ワイヤ速度)及び位置決めは、母材の溶融池の上方の意図された位置に達したときにワイヤが連続して加熱され溶融されていることを確実にするために、第2のPTAトーチへの電源の影響に従って制御され調節されることができる。
これは、従来のガスメタルアーク溶接トーチ(GMAWトーチ、MIGトーチとも示される)を、MIGトーチにアークを形成することなくワイヤ供給器として使用することによって得ることができる。
ワイヤ供給器のこの実施形態には、ワイヤを第2のPTAトーチのDC電源に電気的に接続することができるとともに、ワイヤを非常に正確に位置決めすることもできるという利点がある。
金属材料の供給ワイヤは、任意の実際的に実施可能な寸法、すなわち1.0mm、1.6mm、2.4mm等のような寸法を有することができる。
【0028】
本明細書において用いられる「金属材料」という用語は、3次元物体を形成するようにワイヤに成形しかつ自由形状造形プロセスで用いることができる、任意の既知若しくは考えられる金属又は金属合金を意味する。好適な材料の例としては、限定されないが、チタン及びチタン合金、すなわちTi−6Al−4V合金等が挙げられる。
【0029】
第1のPTAトーチ及び第2のPTAトーチに対して与えられる影響は、いずれの金属材料が適用されているか、供給ワイヤの寸法、母材の耐熱性、堆積速度等によって決まる。
したがって、本発明は、いかなる特定の電源の枠にも拘束されず、第1のPTAトーチ及び第2のPTAトーチの機能動作をもたらす任意の実際に機能する電位差及び電流を用いることができる。当業者は、試行錯誤試験によってこれらのパラメーターを見つけることができるであろう。
本出願人が行った実験により、等級5チタン合金製の直径1.6mmのワイヤを用いることにより、第1のPTAトーチに約150Aが供給され第2のPTAトーチに約250Aが供給されるとき、3.7kg/時から3.8kg/時の堆積速度で、従来のチタン体と同様の機械特性の3次元物体を製造することができることが分かった。
効果的に保護された雰囲気、すなわち特許文献3に開示されている反応チャンバー等において、本発明の第1の態様及び第2の態様によりSFFF堆積を行うことにより、最大10kg/時の堆積速度を得ることができると考えられる。
これは、ワイヤ径2.4mm、等級5チタンを用いて本出願人が行った別の実験によって確認されており、第1のPTAトーチに約250Aの電流を供給し第2のPTAトーチに約300Aの電流を供給したときに9.7kg/時の堆積速度をもたらした。
【0030】
代替形態として、本発明は、溶融池におけるデンドライト結晶成長の発生傾向を克服するために溶融池において熱パルスを生成する手段も備えることができる。この特徴により、改善された粒構造に起因して機械特性が強化された金属物体を形成することができる。
熱パルス化は、
脈動する(pulsating)DC電位を送達する第3のDC発電機を用い、
DC発電機の負極を第2のPTAトーチの電極に接続するとともに、正極を母材に接続して、第2のPTAトーチの電極と母材との間の脈動するアーク放電によって電荷が移送される電気回路を形成する
ことによって得ることができる。
第2のPTAトーチの電極と母材との間のアーク放電は、印加される脈動するDC電位に従ってオンオフされ、したがって、母材の溶融池内への脈動する熱流束を形成する。パルス化の周波数は、1Hzから数kHz以上例えば10kHzの範囲とすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0031】
図1】立体自由形状造形法の原理の概略図を示す非特許文献1の図1の複写である。
図2】プラズマトランスファーアーク立体自由形状造形法の原理の概略図を示す特許文献2の図1の複写である。
図3】本発明の第2の態様による装置の断面図を示す概略図である。
図4】熱パルス化を含む本発明の第2の実施形態の断面図を示す概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0032】
実施形態例によって、本発明をより詳細に説明する。これらの例は、一つが母材に溶融池を形成し、一つが供給材料を溶融する2つのPTAトーチを使用する本発明の概念の全体的な範囲の限定として解釈されるべきではない。
【0033】
第1の実施形態例
本発明の第2の態様による装置の第1の実施形態例を、図3に概略的に示す。この図は、矩形立方体として成形されたTi−6Al−4V合金製の保持基材1を示し、その上に、同じTi−6Al−4V合金製の3次元物体が立体自由形状造形法によって形成されることになる。この図は、Ti−6Al−4V合金の第1の溶接ストライプ2が堆積している堆積プロセスの初期部分を示す。
【0034】
Ti−6Al−4V合金製のワイヤ3が、ワイヤ供給器4によって連続的に供給されている。ワイヤ供給器4は、保持基材1上の堆積領域における溶融池5の上方にワイヤ3の遠位端(distal end)が位置するように、ワイヤ3を位置決めする。ワイヤ3には、図において上部の矢印によって示す速度が与えられている。その速度は、溶融ワイヤの液滴6が溶融池5に連続的に供給されているように、遠位端の加熱及び溶融速度に対応する。
【0035】
第1のプラズマトランスファーアーク7がPTAトーチ8によって形成されている。PTAトーチ8は、PTAトーチの電極10がカソードになり保持基材1がアノードになるように、DC電源9に接続されている。プラズマトランスファーアーク7は、連続的であり、溶融池5が得られるように堆積スポットにおいて母材(SFFFプロセスのこの段階では保持基材である)を加熱し溶融するように向けられる。
DC電源9の影響(effect)は、制御システム(図示せず)によって一定のサイズ及び広がりの溶融池5を維持するように調節される。PTAトーチ8は、アーク8のサイズ及び位置を制御するように磁気アーク偏向器(図示せず)が備えられたガスタングステンアーク溶接(GTAW)トーチである。
【0036】
第2のプラズマトランスファーアーク11がPTAトーチ12によって形成されている。PTAトーチ12は、PTAトーチ12の電極14がカソードになり供給ワイヤ3がアノードになるように、DC電源13に電気的に接続されている。プラズマトランスファーアーク11は、連続的であり、ワイヤ3の遠位端を加熱し溶融するように向けられている。
DC電源13の影響は、液滴6の形成のタイミングを取り溶融池5内への溶融ワイヤの連続的な滴下を維持するように、ワイヤの供給速度に従って加熱及び溶融速度を維持するように調節される。
DC電源13によって提供される影響と、ワイヤ供給器4から出るワイヤ3の供給速度とは、Ti−6Al−4V合金の意図された堆積速度を提供する速度で溶融ワイヤが溶融池5に供給されるように、制御システムによって常に調節され制御される。
制御システムは、アクチュエーター(図示せず)の動作と、そのアクチュエーターの関与の調節とに同時に関与される。アクチュエーターは、形成される物体のCADモデルによって与えられるように意図された堆積スポットに溶融池が位置するように、保持基材1を常に位置決めし移動させる。
SFFFプロセスのこの段階では、下部矢印に示すように、保持基材1が移動している。
【0037】
第2の実施形態例
本発明の第2の実施形態例は、溶融池5に熱パルスを生成する追加の手段を備える、上述した第1の実施形態例である。
【0038】
熱パルスを生成する手段はDC電源15である。DC電源15は、電極14がカソードになり保持基材1がアノードになるように、第2のPTAトーチ12に電気的に接続されている。
さらに、DC電源15によって送達される電力をパルス化するための手段16がある。手段16のパルス化により、アーク11は、ワイヤ3を加熱し溶融することに加えて、パルス化電源と同じ周波数で溶融池5内に入り、脈動する熱流束を溶融池に送達するようになる。手段16は、制御システムによって調節されることができ、1kHの周波数で溶融池内にパルス化アーク放電を提供する。
【0039】
参考文献
1. Taminger, K. M. and Hafley, R. A., "Electron Beam Freeform Fabrication for Cost Effective Near-Net Shape Manufacturing", NATO/RTOAVT-139
Specialists' Meeting on Cost Effective Manufacture via Net Shape Processing (Amsterdam, the Netherlands, 2006) (NATO), pp 9-25,
http://ntrs.nasa.gov/archive/nasa/casi.ntrs.nasa.gov/20080013538_2008013396.pdf
図1
図2
図3
図4