(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記フィルタ状態判定手段は、前記比較手段による比較結果の、前記フィルタの初期状態から該フィルタの再生実施後までの変化に基づいて、前記フィルタに堆積する不燃残留物量を推定することを特徴とする請求項1又は2に記載された微粒子捕集フィルタ状態検出装置。
前記第1の圧力検出手段により前記第1の圧力を検出する時間間隔及び前記第2の圧力検出手段により前記第2の圧力を検出する時間間隔はそれぞれ、内燃機関の回転数の基本周波数での周期よりも短いことを特徴とする請求項1乃至8の何れか一項に記載された微粒子捕集フィルタ状態検出装置。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、上記の特許文献1記載の測定システムでは、DPFの状態判定に誤差が生じており、精度の高い検出装置とは言えなかった。
【0006】
本発明は、上述の点に鑑みてなされたものであり、排ガス中の微粒子を捕集するフィルタの状態判定を排ガスの低流領域及び高流領域の双方において高精度に行うことが可能な微粒子捕集フィルタ状態検出装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、上記の誤差が生じる原因を鋭意研究した結果、ディーゼルエンジンの排気脈動であることを突き止めた。
【0008】
排気流通路内の圧力は、ディーゼルエンジンの排気脈動により大きく変動する。そして、その圧力には、エンジン回転数に応じた基本波が含まれると共に、その基本波に対する高調波成分が含まれる。また、DPF下流側の圧力は、DPF上流側の圧力に対して位相のズレ(時間のズレとして現れる)が生じる。特許文献1記載の技術では、DPF上流側の圧力値とDPF下流側の圧力値との位相合わせ(時間のズレを合わせること)が行われていないため、両圧力値に基づくDPFの状態すなわちPM堆積の判定を精度よく行うことが困難であった。
【0009】
上記の目的を達成するため、本発明の微粒子捕集フィルタ状態検出装置は、排気流通路を流通する排ガス中に含まれる微粒子を捕集するフィルタの状態を検出する微粒子捕集フィルタ状態検出装置であって、前記排気流通路上の前記フィルタの上流側に生じる第1の圧力を検出する第1の圧力検出手段と、前記排気流通路上の前記フィルタの下流側に生じる第2の圧力を検出する第2の圧力検出手段と、前記フィルタの状態を判定するフィルタ状態判定手段と、を備え、前記フィルタ状態判定手段は、演算部と記憶部とからなり、前記第1及び第2の圧力検出手段により検出された前記第1及び第2の圧力値を前記記憶部に格納し、前記第1及び第2の圧力検出手段により検出された前記第1及び第2の圧力値を前記記憶部から前記演算部に送信し、前記演算部にて、前記第1及び第2の圧力値にそれぞれフーリエ変換を施す第1及び第2のフーリエ変換手段により得られたゼロ周波数でのスペクトル強度及び/又は位相並びに所定周波数でのスペクトル強度及び/又は位相を比較する比較手段を用いることで前記フィルタの状態を判定
し、前記比較手段は、前記第1のフーリエ変換手段により得られたゼロ周波数でのスペクトル強度及び/又は位相と前記所定周波数でのスペクトル強度及び/又は位相との和を算出する第1の和算出手段と、
前記第2のフーリエ変換手段により得られたゼロ周波数でのスペクトル強度及び/又は位相と前記所定周波数でのスペクトル強度及び/又は位相との和を算出する第2の和算出手段と、前記第1の和算出手段により算出された和と前記第2の和算出手段により算出された和との差を算出する差算出手段と、を有し、前記フィルタ状態判定手段は、前記差算出手段により算出された前記差に基づいて、前記フィルタの状態を判定する。
【0010】
また、上記の目的を達成するため、本発明の微粒子捕集フィルタ状態検出装置は、排気流通路を流通する排ガス中に含まれる微粒子を捕集するフィルタの状態を検出する微粒子捕集フィルタ状態検出装置であって、前記排気流通路上の前記フィルタの上流側に生じる第1の圧力を検出する第1の圧力検出手段と、前記排気流通路上の前記フィルタの下流側に生じる第2の圧力を検出する第2の圧力検出手段と、前記第1の圧力検出手段により検出された前記第1の圧力値にフーリエ変換を施す第1のフーリエ変換手段と、前記第2の圧力検出手段により検出された前記第2の圧力値にフーリエ変換を施す第2のフーリエ変換手段と、前記第1のフーリエ変換手段により得られたゼロ周波数でのスペクトル強度及び/又は位相並びに所定周波数でのスペクトル強度及び/又は位相と、前記第2のフーリエ変換手段により得られたゼロ周波数でのスペクトル強度及び/又は位相並びに前記所定周波数でのスペクトル強度及び/又は位相と、を比較する比較手段と、前記比較手段による比較結果に基づいて、前記フィルタの状態を判定するフィルタ状態判定手段と、を備
え、前記比較手段は、前記第1のフーリエ変換手段により得られたゼロ周波数でのスペクトル強度及び/又は位相と前記所定周波数でのスペクトル強度及び/又は位相との和を算出する第1の和算出手段と、前記第2のフーリエ変換手段により得られたゼロ周波数でのスペクトル強度及び/又は位相と前記所定周波数でのスペクトル強度及び/又は位相との和を算出する第2の和算出手段と、前記第1の和算出手段により算出された和と前記第2の和算出手段により算出された和との差を算出する差算出手段と、を有し、前記フィルタ状態判定手段は、前記差算出手段により算出された前記差に基づいて、前記フィルタの状態を判定する。
【0012】
また、上記した微粒子捕集フィルタ状態検出装置において、前記フィルタ状態判定手段は、前記比較手段による比較結果に基づいて、前記フィルタに捕集された前記微粒子の堆積量を推定することとしてもよい。
【0013】
また、上記した微粒子捕集フィルタ状態検出装置において、前記フィルタ状態判定手段により推定された前記堆積量が所定量に達した場合に前記フィルタの再生を指示するフィルタ再生指示手段を備えることとしてもよい。
【0014】
また、上記した微粒子捕集フィルタ状態検出装置において、前記フィルタ状態判定手段は、前記比較手段による比較結果の、前記フィルタの初期状態から該フィルタの再生実施後までの変化に基づいて、前記フィルタに堆積する不燃残留物量を推定することとしてもよい。
【0015】
また、上記した微粒子捕集フィルタ状態検出装置において、前記フィルタ状態判定手段は、前記比較手段による比較結果の時間変化に基づいて、前記フィルタの異常又は故障を判定又は推定することとしてもよい。
【0016】
また、上記した微粒子捕集フィルタ状態検出装置において、前記所定周波数は、内燃機関の回転数に応じた周波数であることとしてもよい。
【0017】
また、上記した微粒子捕集フィルタ状態検出装置において、前記所定周波数は、内燃機関の回転数の基本周波数であることとしてもよい。
【0018】
また、上記した微粒子捕集フィルタ状態検出装置において、前記所定周波数は、内燃機関の回転数の基本周波数よりも高周波であることとしてもよい。
【0019】
また、上記した微粒子捕集フィルタ状態検出装置において、前記第1の圧力検出手段により前記第1の圧力を検出する時間間隔及び前記第2の圧力検出手段により前記第2の圧力を検出する時間間隔はそれぞれ、内燃機関の回転数の基本周波数での周期よりも短いこととするのが好ましい。
【発明の効果】
【0020】
本発明によれば、排ガス中の微粒子を捕集するフィルタの状態判定を排ガスの低流領域及び高流領域の双方において高精度に行うことができる。
【発明を実施するための形態】
【0022】
特許文献1(特開昭60−85214号公報)に開示されている従来の内燃機関用フィルタ再生装置によるDPFに堆積した微粒子の堆積量の検出方法では、DPFに堆積した微粒子の堆積量の検出精度が低くなるという問題があった。この微粒子の堆積量の検出精度が低くなる要因について考えた。排気流通路内の圧力は、ディーゼルエンジンの排気脈動により大きく変動しており、DPF上流側の圧力値とDPF下流側の圧力値との間で位相のズレ(時間のズレとして現れる)が生じているという事実を突き止めた。しかし、上記の特許文献1記載の技術では、DPFに堆積した微粒子の堆積量を検出するのに、DPF上流側の圧力値及びDPF下流側の圧力値そのものを用いており、位相ズレ(時間のズレとして現れる)の影響を大きく受けるため、微粒子の堆積量の検出精度が低くなるという課題を見出した。
【0023】
これに対して、DPF上流側の圧力値及びDPF下流側の圧力値をそれぞれフーリエ変換して周波数ごとのスペクトル強度を求めることで、位相ズレの影響を受けずにDPF上流側とDPF下流側との両圧力を比較することが可能である。また、排気流通路内の圧力の交流成分はDPFにより減衰するため、DPF前後でエンジンの排気脈動に応じた同じ特定周波数のスペクトル強度が減衰すると共に、排気流通路内の圧力の直流成分もDPFにより減衰するため、DPF前後でゼロ周波数のスペクトル強度が減衰する。DPF上流側における特定周波数のスペクトル強度とゼロ周波数のスペクトル強度とに基づく値と、DPF下流側における特定周波数のスペクトル強度とゼロ周波数のスペクトル強度とに基づく値と、の相対関係は、DPFに堆積した微粒子の堆積量と相関があることがわかった。
【0024】
そこで、DPF上流側の圧力値及びDPF下流側の圧力値をそれぞれフーリエ変換して周波数ごとのスペクトル強度を求めたうえで、特定周波数のスペクトル強度とゼロ周波数のスペクトル強度とに基づく値を比較し、その比較結果に基づいてDPFに堆積した微粒子の堆積量を精度よく検出することができるという効果を発見し、本発明を完成させた。
【0025】
以下、図面を用いて、本発明に係る微粒子捕集フィルタ状態検出装置の具体的な実施の形態について説明する。
【0026】
図1に、本発明の一実施形態である微粒子捕集フィルタ状態検出装置10を備えるシステムの全体構成図を示す。本実施形態のシステムは、内燃機関(具体的には、ディーゼルエンジン)12から排出される排ガス中に含まれる微粒子(PM:Particulate Matter)を捕集する微粒子捕捉フィルタ(DPF:Diesel Particulate Filter)14の状態(具体的には、PM堆積量)を検出し、その検出したPM堆積量が所定量に達した場合にDPF14の再生を図るシステムである。
【0027】
図1に示す如く、微粒子捕集フィルタ状態検出装置10は、内燃機関12に接続する排気流通路16上に設けられたDPF14を備えている。DPF14は、内燃機関12から排出される排ガス中に含まれるPMを捕捉可能なフィルタである。また、微粒子捕集フィルタ状態検出装置10は、排気流通路16に設けられた一対の圧力センサ20,22を備えている。尚、圧力センサ20,22は、排気流通路16内の、排ガスの密度と流速とに応じて変化する動圧の影響が最小となる位置(共振の影響が出ない位置)、すなわち、主に圧力損失に応じて変化する静圧を測定可能な位置に配設することが望ましい。
【0028】
圧力センサ20は、排気流通路16上のDPF14の上流側に生じる圧力(上流側圧力)に応じた電気信号(電圧信号)を出力するセンサである。また、圧力センサ22は、排気流通路16上のDPF14の下流側に生じる圧力(下流側圧力)に応じた電気信号(電圧信号)を出力するセンサである。以下、圧力センサ20を上流側圧力センサ20と、また、圧力センサ22を下流側圧力センサ22と、それぞれ称す。上流側圧力センサ20及び下流側圧力センサ22はそれぞれ、マイクロコンピュータを主体に構成される状態検出部24に接続されている。上流側圧力センサ20の出力信号及び下流側圧力センサ22の出力信号はそれぞれ、状態検出部24に供給される。
【0029】
状態検出部24は、上流側圧力センサ20の出力信号に基づいてDPF14の上流側に生じる上流側圧力Pinを検出すると共に、下流側圧力センサ22の出力信号に基づいてDPF14の下流側に生じる下流側圧力Poutを検出する。この状態検出部24による圧力検出は、所定のサンプリング時間(例えば、500μS)ごとに、すなわち、所定のサンプリング周期(例えば2kHz)で行われる。
【0030】
尚、上記した所定のサンプリング時間は、内燃機関12の回転数NEの基本周波数Fbaseでの周期よりも短いものである。また、この基本周波数Fbaseとは、内燃機関12の回転数NEの値によって決まる周波数であって、回転数NEが小さいほど低周波数となり、回転数NEが大きいほど高周波数となる。例えば、内燃機関12が直列4気筒4サイクルエンジンである場合は、その内燃機関12から一回転当たり2回の排気があり、排気圧力には一回転当たり2回の脈動があるので、1000rpmのときは、2000回/minの排気脈動が発生し、エンジン回転数NEに応じた脈動の振動数が33.3Hzであり、基本周波数Fbaseが33.3Hzとなる。ただ、上記した所定のサンプリング時間は、内燃機関12の回転数NEの、圧力検出を行うべき上限での基本周波数Fbase(例えば、直列4気筒4サイクルエンジンである内燃機関12の回転数の、圧力検出を行うべき上限が3000rpmであるときは、100Hz)での周期(10ms)よりも短くするのがよい。状態検出部24は、後に詳述の如く、上記検出した上流側圧力Pin及び下流側圧力Poutを演算処理して、DPF14に堆積するPMの堆積量Mを算出する。
【0031】
状態検出部24には、また、内燃機関12の回転数NEを示す信号、及び、内燃機関12の排気空気量Qを示す信号がそれぞれ供給されている。状態検出部24は、内燃機関12の回転数NE及び排気空気量Qを検出する。尚、回転数NEは、圧力波形と時間的なズレが生じるため、そのズレを補正して用いることが好ましい。
【0032】
本実施例のシステムは、また、内燃機関12の各種制御を行うエンジン用電子制御ユニット(以下、エンジンECUと称す)32を備えている。エンジンECU32には、上記した状態検出部24が接続されている。状態検出部24は、算出したDPF14へのPM堆積量Mが所定量に達しているか否かを判別すると共に、その判別の結果としてPM堆積量Mが所定量に達している場合にエンジンECU32に対してDPF14を再生するための指令を供給する。エンジンECU32は、状態検出部24からDPF14の再生指令を受けると、DPF32を再生する処理(例えば、内燃機関12の燃焼を促進してDPF32を加熱させる処理)を実行する。
【0033】
次に、
図2〜
図6を参照して、本実施形態の微粒子捕集フィルタ状態検出装置10における検出処理について説明する。
【0034】
図2は、本発明の一実施形態である微粒子捕集フィルタ状態検出装置10において状態検出部24が実行する制御ルーチンの一例のフローチャートを示す。
図3(A)は、本発明の一実施形態である微粒子捕集フィルタ状態検出装置10において状態検出部24がFFT(Fast Fourier Transform)処理を施す前のDPF前後の圧力値Pin,Poutの時系列データを表した波形図を示す。
図3(B)は、本発明の一実施形態である微粒子捕集フィルタ状態検出装置10において状態検出部24が
図3(A)に示す圧力値Pin,PoutそれぞれにFFT処理を施した後のスペクトル強度の周波数データを表した波形図を示す。
【0035】
図4は、フィルタ前後での圧力波形を比較した図を示す。
図5(A)は、本発明の一実施形態である微粒子捕集フィルタ状態検出装置10においてDPF上流側の圧力値Pinに対するFFT処理後のスペクトル強度を表した波形図を示す。
図5(B)は、本発明の一実施形態である微粒子捕集フィルタ状態検出装置10においてDPF下流側の圧力値Poutに対するFFT処理後のスペクトル強度を表した波形図を示す。また、
図6は、本発明の一実施形態である微粒子捕集フィルタ状態検出装置10による効果を説明するための図を示す。尚、
図6には、内燃機関12の回転数別かつトルク別の、DPF前後の圧力値Pin,PoutそれぞれのFFT処理後のゼロ周波数F0でのスペクトル強度と基本周波数Fbaseでのスペクトル強度との和のDPF前後差DIと、フィルタに堆積するPMの堆積量と、の関係の一例が示されている。
【0036】
本実施形態において、状態検出部24は、所定のサンプリングタイムごとに、上流側圧力センサ20の出力信号に基づいてDPF14の上流側に生じる上流側圧力Pin[kPa]を検出すると共に、下流側圧力センサ22の出力信号に基づいてDPF14の下流側に生じる下流側圧力Pout[kPa]を検出する(ステップ100)。そして、所定時間(例えば10秒など)中における上流側圧力値Pin及び下流側圧力Poutのデータをそれぞれメモリに記憶する。
【0037】
状態検出部24は、上記の如く記憶した所定時間中における上流側圧力値PinをFFT処理することで、その上流側圧力値Pinを周波数ごとのスペクトル強度Iin[(kPa)
2/Hz]に変換すると共に、上記の如く記憶した所定時間中における下流側圧力値PoutをFFT処理することで、その下流側圧力値Poutを周波数ごとのスペクトル強度Iout[(kPa)
2/Hz]に変換する(ステップ102;
図3参照)。かかる変換が行われると、エンジン回転数NEに応じた脈動が発生する上流側圧力値Pin及び下流側圧力Poutがそれぞれ、その位相と成分とに分離されることとなる。
【0038】
状態検出部24は、上記の如きFFT処理後のスペクトル強度から基本周波数Fbaseを検出・選択する(ステップ104)。具体的には、FFT処理後の周波数ごとのスペクトル強度のうちスペクトル強度が最大値となる周波数を基本周波数Fbaseとする。尚、基本周波数Fbaseは、内燃機関12の回転数NEとその内燃機関12の種類に応じて一義的に決定される。基本周波数Fbaseは、回転数NEが小さいほど低周波数となり、回転数NEが大きいほど高周波数となる。
【0039】
また、基本周波数Fbaseを求める他の手法としては、(1)内燃機関12が直列4気筒4サイクルエンジンであるときは、FFT処理後のスペクトル強度のうち所定以上のスペクトル強度が現れる最も低い周波数の4倍の周波数を基本周波数Fbaseとしてもよいし、また、(2)検出した内燃機関12の回転数NEに基づいて、その回転数NEに応じた脈動の基本周波数Fbaseを求めることとしてもよい。この場合、内燃機関12が直列4気筒4サイクルエンジンであって、回転数NEが2000rpmであるときは、基本周波数Fbaseは66.67Hzに設定される。
【0040】
状態検出部24は、上記の如くFFT処理後の各スペクトル強度Iin,Iout及び基本周波数Fbaseを算出すると、次に、周波数がゼロであるゼロ周波数F0でのスペクトル強度Iin
F0,Iout
F0を抽出すると共に、その算出した基本周波数Fbaseでのスペクトル強度Iin
Fbase,Iout
Fbaseを抽出する(ステップ106)。そして、それら上流側圧力値Pinについてのスペクトル強度Iin
F0,Iin
Fbaseと下流側圧力値Poutについてのスペクトル強度Iout
F0,Iout
Fbaseとに基づいて、DPF14に堆積するPMの堆積量M[g/l]を推定する。
【0041】
具体的には、状態検出部24は、DPF14のPM堆積量M[g/l]を推定するうえで、まず、次式(1)に従って上流側圧力値Pinについてゼロ周波数F0でのスペクトル強度Iin
F0をX倍した値と基本周波数Fbaseでのスペクトル強度Iin
FbaseをY倍した値との和(以下、第1のスペクトル和と称す)Ainを算出すると共に、次式(2)に従って下流側圧力値Poutについてゼロ周波数F0でのスペクトル強度Iout
F0をX倍した値と基本周波数Fbaseでのスペクトル強度Iout
FbaseをY倍した値との和(以下、第2のスペクトル和と称す)Aoutを算出する(ステップ108)。
【0042】
Ain =Iin
F0・X+Iin
Fbase・Y ・・・(1)
Aout=Iout
F0・X+Iout
Fbase・Y ・・・(2)
尚、上記の値Xは、上記のスペクトル和Ain,Aoutを算出するうえでゼロ周波数F0でのスペクトル強度に乗算される係数である。また、上記の値Yは、上記のスペクトル和Ain,Aoutを算出するうえで基本周波数Fbaseでのスペクトル強度に乗算される係数である。これらの値X,Yは、所定の比になるように予め固定された値であり、例えばそれぞれ“1”に設定されている。
【0043】
状態検出部24は、上記の如く算出した第1のスペクトル和Ainと第2のスペクトル和Aoutとの差DI(=Ain−Aout)を算出する(ステップ110)。そして、そのDIの大きさに基づいて、DPF14に堆積するPMの堆積量M[g/l]を推定する(ステップ112)。
【0044】
上流側圧力値Pinについての第1のスペクトル和Ainと下流側圧力値Poutについての第2のスペクトル和Aoutとの差DIは、DPF14へのPMの堆積量に応じて比例的・直線的に変化するものとなり、その堆積量が少ないほど小さく、その堆積量が多いほど大きくなる。
【0045】
状態検出部24は、予め、DPF14へのPMの堆積量とそのDPF前後の圧力の周波数スペクトルについての上記の差DIとの関係を記憶している。尚、このPM堆積量と差DIとの関係は、内燃機関12の回転数NE又はトルクに応じて設定されているものであるのがよい。状態検出部24は、上記ステップ112において、記憶しているPM堆積量と上記の差DIとの関係を参照して、上記ステップ110で算出した第1のスペクトル和Ainと第2のスペクトル和Aoutとの差DIを基に、更には内燃機関12の回転数NE又はトルクを考慮して、DPF14に堆積するPMの堆積量Mを推定する。
【0046】
尚、状態検出部24は、DPF14のPM堆積量Mを推定するうえで、DPF14の初期圧力損失ΔPや排気空気量(尚、圧力Pin,Poutのデータを記憶する所定時間中の平均値であってもよい。)に応じて補正を施すこととしてもよい。例えば、同じ回転数NEすなわち同じ基本周波数Fbaseであっても、スペクトル強度Iin
FbaseとIout
Fbaseとの関係が圧力損失ΔPの大きさに応じて変化するので、具体的には、圧力損失ΔPが大きいほどIout
Fbaseがより小さくなるので、ゼロ周波数F0でのスペクトル強度Iin
F0,Iout
F0並びに基本周波数Fbaseでのスペクトル強度Iin
Fbase,Iout
Fbaseに基づいてPM堆積量Mを推定するのに、例えば、圧力損失ΔPが大きいほどIout
Fbaseを小さい値に補正することとしてもよい。
【0047】
このように、本実施例の微粒子捕集フィルタ状態検出装置10においては、DPF14前後の上流側圧力Pin及び下流側圧力Poutをそれぞれ所定のサンプリング時間ごとにサンプリングし、その圧力値Pin,PoutのデータについてFFT処理を施し、ゼロ周波数F0でのスペクトル強度Iin
F0,Iout
F0並びに内燃機関12の回転数NEに応じた基本周波数Fbaseでのスペクトル強度Iin
Fbase,Iout
Fbaseに基づいて、ゼロ周波数F0でのスペクトル強度と基本周波数Fbaseでのスペクトル強度との和の、DPF前後差DIを算出し、その算出したDPF前後差DIに基づいてDPF14に堆積するPMの堆積量Mを推定する。
【0048】
DPF14の上流側と下流側とには、DPF14を通過する排ガスにより圧力差ΔP(=Pin−Pout)が生ずる。この圧力差ΔPは、DPF14の存在による圧力損失であって、ガス流量や流速,温度などに応じて変化する。また、排ガスの圧力は、内燃機関12の排気脈動により大きく変動し、内燃機関12の回転数NEに応じた基本周波数Fbaseの成分及びその基本周波数Fbaseの高調波成分を含む。排ガスがDPF14を通過する過程では、DPF14前後で、脈動による圧力交流成分の振幅が減衰すると共に、時間平均値である圧力直流成分が減衰する。このため、DPF14前後で、ゼロ周波数F0でのスペクトル強度が減衰すると共に、基本周波数Fbaseやその高調波でのスペクトル強度が減衰する。
【0049】
これらのゼロ周波数F0でのスペクトル強度の減衰率及び基本周波数Fbaseでのスペクトル強度の減衰率はそれぞれ、DPF14へのPMの堆積量に応じて変化し、ゼロ周波数F0でのスペクトル強度と基本周波数Fbaseでのスペクトル強度との和の、DPF前後の減衰率は、DPF14へのPM堆積量が多いほど大きくなる。すなわち、DPF14の上流側におけるゼロ周波数F0と基本周波数Fbaseとのスペクトル強度の和(第1のスペクトル和Ain)に対するDPF14の下流側におけるゼロ周波数F0と基本周波数Fbaseとのスペクトル強度の和(第2のスペクトル和Aout)は、PM堆積量が多いほど小さくなる。
【0050】
従って、本実施例の微粒子捕集フィルタ状態検出装置10によれば、排ガス中のPMを捕集するDPF14のPM堆積量を推定するうえで、DPF14前後の各圧力値Pin,PoutをFFT処理して得られるスペクトル強度Iin,Ioutを用いることで、DPF14前後の圧力の時間のズレとして現れる位相ズレを無くすことができるので、排ガス中のPMを捕集するDPF14のPM堆積量を精度よく推定することが可能である。
【0051】
また、本実施例においては、排ガス中のPMを捕集するDPF14のPM堆積量を推定するうえで、DPF前後それぞれにおける圧力の交流成分と直流成分とを考慮した値の、DPF前後差(具体的には、DPF14上流側についてのゼロ周波数F0でのスペクトル強度Iin
F0と基本周波数Fbaseでのスペクトル強度Iin
Fbaseとの和(第1のスペクトル和Ain)と、DPF14下流側についてのゼロ周波数F0でのスペクトル強度Iout
F0と基本周波数Fbaseでのスペクトル強度Iout
Fbaseとの和(第2のスペクトル和Aout)との差DI)を用いる。
【0052】
かかる構成においては、圧力の直流成分をも含めてDPF前後でのスペクトル強度差からPM堆積量が推定されるので、
図6に示す如く、内燃機関12の高回転時すなわち排ガスの高流速時にもまた内燃機関12の低回転時すなわち排ガスの低流速時にも、排ガス中のPMを捕集するDPF14のPM堆積量を精度よく推定することが可能であると共に、内燃機関12の高トルク時にもまた低トルク時にも、排ガス中のPMを捕集するDPF14のPM堆積量を精度よく推定することが可能である。すなわち、内燃機関12の回転数やトルクの大きさに関係なく、DPF14のPM堆積量を精度よく推定することが可能である。
【0053】
本実施例のシステムにおいて、状態検出部24は、上記の如くDPF14のPM堆積量Mを推定すると、そのPM堆積量Mが所定量に達しているか否かを判別する。尚、この所定量は、DPF14から下流側へのPM漏れが生ずる可能性がある値の下限値であって、予め規定されている。状態検出部24は、推定したPM堆積量Mが所定量に達していると判別した場合、エンジンECU32に対してDPF14の再生指令を行う。かかる処理が行われると、DPF14が加熱されるので、そのDPF14に堆積したPMが燃焼除去される。従って、本実施例のシステムによれば、PMが堆積したDPF14の再生を、DPF14に最大捕集量(尚、この最大捕集量とは、PM燃焼時にDPF14にクラックが生じない量のことである。)のPMが堆積する直前にタイミング良く実施することができ、DPF14の繰り返し利用を促進することが可能である。
【0054】
また、DPF14の上流側圧力値Pin及び下流側圧力値PoutへのFFT処理後の位相波形を比較することにより、DPF14の微細クラックや微量のPM変化などのより詳細な情報を得ることができる。位相は、スペクトル強度のピーク周波数と同じ周波数にピークを持ち、DPF14の上流側と下流側とで変化する。DPF14の上流側から下流側にかけて、スペクトル強度は減衰するが、位相は増長することもあるため、位相の減衰率や増長率からDPF14の状態を推定することができる。
【0055】
ところで、上記の実施形態においては、DPF14が特許請求の範囲に記載した「フィルタ」に相当している。また、状態検出部24が、上流側圧力センサ20の出力信号に基づいてDPF14の上流側に生じる上流側圧力Pinを検出することにより特許請求の範囲に記載した「第1の圧力検出手段」が、下流側圧力センサ22の出力信号に基づいてDPF14の下流側に生じる下流側圧力Poutを検出することにより特許請求の範囲に記載した「第2の圧力検出手段」が、上流側圧力値PinにFFT処理を施すことにより特許請求の範囲に記載した「第1のフーリエ変換手段」が、下流側圧力値PoutにFFT処理を施すことにより特許請求の範囲に記載した「第2のフーリエ変換手段」が、上流側圧力値PinについてのFFT処理後のゼロ周波数F0でのスペクトル強度Iin
F0及び基本周波数Fbaseでのスペクトル強度Iin
Fbaseと、下流側圧力値PoutについてのFFT処理後のゼロ周波数F0でのスペクトル強度Iout
F0及び基本周波数Fbaseでのスペクトル強度Iout
Fbaseと、を比較することにより特許請求の範囲に記載した「比較手段」が、それぞれ実現されている。
【0056】
また、上記の実施形態においては、状態検出部24が、上流側圧力値PinについてのFFT処理後のゼロ周波数F0でのスペクトル強度Iin
F0と基本周波数Fbaseでのスペクトル強度Iin
Fbaseとの和(第1のスペクトル和Ain)を算出することにより特許請求の範囲に記載した「第1の和算出手段」が、下流側圧力値PoutについてのFFT処理後のゼロ周波数F0でのスペクトル強度Iout
F0と基本周波数Fbaseでのスペクトル強度Iout
Fbaseとの和(第2のスペクトル和Aout)を算出することにより特許請求の範囲に記載した「第2の和算出手段」が、上記第1のスペクトル和Ainと上記第2のスペクトル和Aoutとの差DIを算出することにより特許請求の範囲に記載した「差算出手段」が、それぞれ実現されている。
【0057】
また、上記の実施形態においては、状態検出部24が、上記の差DIに基づいてDPF14に堆積するPMの堆積量Mを推定することにより特許請求の範囲に記載した「フィルタ状態判定手段」が、PM堆積量Mが所定量に達していると判別した場合にDPF14を加熱すべくエンジンECU32にDPF14の再生指令を行うことにより特許請求の範囲に記載した「フィルタ再生指示手段」が、それぞれ実現されている。
【0058】
以上、本発明の好ましい実施形態について説明したが、本発明はかかる特定の実施形態に限定されるものではなく、特許請求の範囲に記載した要旨内において様々な変形又は変更が可能である。
【0059】
例えば、上記の実施形態においては、DPF14前後の圧力値Pin,PoutそれぞれのFFT処理後のゼロ周波数F0でのスペクトル強度と基本周波数Fbaseでのスペクトル強度との和の、DPF前後差DIに基づいて、DPF14に堆積するPMの堆積量を推定することとしているが、本発明はこれに限定されるものではなく、そのDPF前後差DIに基づいて、DPF14に堆積する金属を成分とする不燃残留物の量(すなわち、Ash堆積量)を推定することとしてもよい。
【0060】
すなわち、DPF14の初期状態(製造直後など)では不燃残留物が堆積していないが、DPF14の使用が継続すると、徐々にそのDPF14に不燃残留物が堆積する。この不燃残留物は、DPF14が加熱により再生されても除去されない。また、上記のDPF前後差DIは、DPF14に不燃残留物が堆積しているときと堆積していないときとで大きく変化する。従って、DPF14の初期状態において圧力値Pin,PoutそれぞれのFFT処理後のゼロ周波数F0及び基本周波数Fbaseでのスペクトル強度に基づく上記第1のスペクトル和Ainと上記第2のスペクトル和Aoutとの和のDPF前後差DIを記憶したうえで、DPF14の再生実施後に、圧力値Pin,PoutそれぞれのFFT処理後のゼロ周波数F0及び基本周波数Fbaseでのスペクトル強度に基づく上記第1のスペクトル和Ainと上記第2のスペクトル和Aoutとの和のDPF前後差DIを算出し、そのDPF前後差DIの、DPF14の初期状態からDPF14の再生実施後までの変化に基づいてDPF14に堆積する不燃残留物量を推定することができる。例えば、DPF14の初期状態から再生実施後にかけての上記DPF前後差DIの変化量が多いほど、DPF14に堆積する不燃残留物量が多いと判定することができる。
【0061】
尚、上記のDPF14への不燃残留物量の推定は、上記の実施形態においてDPF14へのPMの堆積量Mが所定量に達することによりそのDPF14が加熱再生された直後に行われるものであってもよいし、また、上記の実施形態とは異なる手法でDPF14が再生された直後に行われるものであってもよい。
【0062】
また、上記の実施形態においては、DPF14前後の圧力値Pin,PoutそれぞれのFFT処理後のゼロ周波数F0及び基本周波数Fbaseでのスペクトル強度に基づく上記第1のスペクトル和Ainと上記第2のスペクトル和Aoutとの和のDPF前後差DIに基づいて、DPF14に堆積するPMの堆積量を推定することとしているが、本発明はこれに限定されるものではなく、そのDPF前後差DIに基づいて、DPF14の異常又は故障を判定又は推定することとしてもよい。
【0063】
すなわち、上記のDPF前後差DIは、DPF14が正常状態にあれば、そのDPF14へのPMや不燃残留物の堆積などに伴って所定の範囲内で変化(低下)する一方、DPF14に異常又は故障が発生すると、上記の所定の範囲を外れて変化するものである。従って、DPF14前後の圧力値Pin,PoutそれぞれのFFT処理後のゼロ周波数F0及び基本周波数Fbaseでのスペクトル強度に基づく上記第1のスペクトル和Ainと上記第2のスペクトル和Aoutとの和のDPF前後差DIの変化に基づいてDPF14の異常又は故障を判定又は推定することができる。例えば、そのDPF前後差DIが、予め定めた所定の範囲を外れて変化するときは、DPF14に異常又は故障が発生していると判定又は推定することができる。尚、DPF14に異常又は故障が発生していると判定又は推定されたときは、その異常や故障を車両運転者や使用者,作業者に知らせるべく、アラーム、ランプの点滅,点灯等により警告を行うこととしてもよい。
【0064】
また、上記の実施形態においては、DPF14を再生するのに状態検出部24からエンジンECU32へDPF14の再生指令を行うこととしているが、本発明はこれに限定されるものではなく、DPF14の内部や周囲に加熱ヒータを設け、状態検出部24からその加熱ヒータへの電力供給によりDPF14の加熱再生を図ることとしてもよい。
【0065】
更に、上記の実施形態や変形例においては、DPF14の状態を判定するのに、DPF14前後の圧力値Pin,PoutそれぞれのFFT処理後のゼロ周波数F0及び基本周波数Fbaseでのスペクトル強度に基づく上記第1のスペクトル和Ainと上記第2のスペクトル和Aoutとの和のDPF前後差DIを用いることとしているが、内燃機関12の回転数NEに従った基本周波数Fbaseでのスペクトル強度に代えて、その基本周波数Fbaseよりも高い高調波の特定周波数Fでのスペクトル強度を用いることとし、DPF14前後の圧力値Pin,PoutそれぞれのFFT処理後のゼロ周波数F0及びその特定周波数Fでのスペクトル強度に基づく第1のスペクトル和Ainと第2のスペクトル和Aoutとの和のDPF前後差DIを算出して、DPF14の状態判定を行うこととしてもよい。