特許第5996722号(P5996722)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ エア プロダクツ アンド ケミカルズ インコーポレイテッドの特許一覧

特許5996722酸化ケイ素及び酸窒化ケイ素膜、それらの形成方法、並びに化学気相成長用組成物
<>
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5996722
(24)【登録日】2016年9月2日
(45)【発行日】2016年9月21日
(54)【発明の名称】酸化ケイ素及び酸窒化ケイ素膜、それらの形成方法、並びに化学気相成長用組成物
(51)【国際特許分類】
   H01L 21/316 20060101AFI20160908BHJP
   C23C 16/42 20060101ALI20160908BHJP
   C23C 16/455 20060101ALI20160908BHJP
【FI】
   H01L21/316 X
   C23C16/42
   C23C16/455
【請求項の数】23
【全頁数】14
(21)【出願番号】特願2015-106450(P2015-106450)
(22)【出願日】2015年5月26日
(62)【分割の表示】特願2013-243373(P2013-243373)の分割
【原出願日】2007年5月22日
(65)【公開番号】特開2015-159335(P2015-159335A)
(43)【公開日】2015年9月3日
【審査請求日】2015年5月26日
(31)【優先権主張番号】11/439,554
(32)【優先日】2006年5月23日
(33)【優先権主張国】US
(73)【特許権者】
【識別番号】591035368
【氏名又は名称】エア プロダクツ アンド ケミカルズ インコーポレイテッド
【氏名又は名称原語表記】AIR PRODUCTS AND CHEMICALS INCORPORATED
(74)【代理人】
【識別番号】100106002
【弁理士】
【氏名又は名称】正林 真之
(72)【発明者】
【氏名】ハーレッシュ スリダンダム
(72)【発明者】
【氏名】マンチャオ シャオ
(72)【発明者】
【氏名】シンジャン レイ
(72)【発明者】
【氏名】トーマス リチャード ガフネイ
【審査官】 長谷川 直也
(56)【参考文献】
【文献】 特開2007−318142(JP,A)
【文献】 米国特許出願公開第2006/0019032(US,A1)
【文献】 特開2005−213633(JP,A)
【文献】 特開平06−132276(JP,A)
【文献】 特開2000−195801(JP,A)
【文献】 米国特許出願公開第2005/0025885(US,A1)
【文献】 特開2003−124460(JP,A)
【文献】 特開2003−007700(JP,A)
【文献】 特開平06−132284(JP,A)
【文献】 特開2003−205574(JP,A)
【文献】 国際公開第2006/036538(WO,A2)
【文献】 特開平08−099979(JP,A)
【文献】 特開平08−198915(JP,A)
【文献】 国際公開第2006/049595(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01L 21/205−21/32、21/365、
21/469−21/475、21/86、
C07F 7/00− 7/30、
C23C 16/00−16/56
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記の式によって表されるアミノシランからなる群より選択されるアミノシラン前駆体と酸化剤とを使用することを含む、化学気相成長又は原子層堆積によって基材上に酸化ケイ素膜を形成する方法[ただし、前記アミノシラン前駆体は、ジ(ノルマルプロピル)アミノシラン、ジイソプロピルアミノシラン、ジイソブチルアミノシラン、ピロリルシラン、イミダゾリルシラン、ピラゾリルシラン、1−メチルピペラジニルシラン、ピロリジニルシラン、又は2−メチルピロリジニルシランではない]:
【化1】
(式中、
R及びRは、置換又は非置換の、直鎖、分枝又は環状の飽和又は不飽和のC〜C10のアルキル基;芳香族基;アルキルアミノ基;複素環基;からなる群より選択され;
式A及び式C中において、RとRは、組み合わさって環状基になっていてもよく、且つ
は、一重結合、(CH鎖(mは1〜6)、環、SiR又はSiHを表し、
ただし、式A中のRとRの双方が直鎖アルキル基ではなく、
式A中のRとRは、両者が組み合わさって環状基になっていないとき、エチル基、イソプロピル基、tert−ブチル基、ペンチル基、及びアリール基ではな(ただし、シクロペンチル基であってもよい。))。
【請求項2】
前記アミノシラン前駆体が式Aによって表される、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
R及びRが3〜4個の炭素を有するアルキル基である、請求項2に記載の方法。
【請求項4】
R及びRが環状である、請求項2に記載の方法。
【請求項5】
R及びRが組み合わさって(CHの形態の環になっており、且つnが4又は5である、請求項2に記載の方法。
【請求項6】
前記アミノシラン前駆体が以下の式によって表される(式中、nは5又は6)、請求項1に記載の方法:
【化2】
【請求項7】
前記アミノシラン前駆体が式Bによって表される、請求項1に記載の方法。
【請求項8】
前記アミノシラン前駆体が下記の式を有するアミノシランからなる群より選択される、請求項7に記載の方法:
【化3】
【請求項9】
前記アミノシラン前駆体が以下の式によって表される、請求項8に記載の方法:
【化4】
【請求項10】
前記アミノシラン前駆体が式Cによって表される、請求項1に記載の方法。
【請求項11】
前記アミノシラン前駆体が以下の式を有するアミノシランからなる群より選択される、請求項10に記載の方法:
【化5】
【請求項12】
前記酸化剤が、酸素、過酸化水素、オゾン及び亜酸化窒素からなる群より選択される、請求項1〜11のいずれかに記載の方法。
【請求項13】
炭素及び水素でドープされた酸化ケイ素膜を形成するために、炭素及び水素源を堆積チャンバーに導入する、請求項1〜12のいずれかに記載の方法。
【請求項14】
炭素、窒素及び水素でドープされた酸化ケイ素膜を形成するために、窒素源を堆積チャンバーに更に導入する、請求項13に記載の方法。
【請求項15】
前記窒素源が、アンモニア、ヒドラジン、アルキルヒドラジン、ジアルキルヒドラジン及びそれらの混合物からなる群より選択される、請求項14に記載の方法。
【請求項16】
記原子層堆積によって基材上に酸化ケイ素膜を形成する、請求項1〜15のいずれかに記載の方法。
【請求項17】
下記の式によって表されるアミノシランからなる群より選択されるアミノシラン前駆体と酸化剤とが反応して基材上に酸化ケイ素の誘電体層が堆積する条件下で、前記アミノシラン前駆体と酸化剤とを化学気相成長チャンバーに導入することを含む、化学気相成長チャンバーおける化学気相成長又は原子層堆積によって基材上に酸化ケイ素の誘電体層を製造する方法[ただし、前記アミノシラン前駆体は、ジ(ノルマルプロピル)アミノシラン、ジイソプロピルアミノシラン、ジイソブチルアミノシラン、ピロリルシラン、イミダゾリルシラン、ピラゾリルシラン、1−メチルピペラジニルシラン、ピロリジニルシラン、又は2−メチルピロリジニルシランではない]:
【化6】
(式中、
R及びRは、置換又は非置換の、直鎖、分枝又は環状の飽和又は不飽和のC〜C10のアルキル基;芳香族基;アルキルアミノ基;複素環基;からなる群より選択され;
式A及び式C中において、RとRは、組み合わさって環状基になっていてもよく、且つ
は、一重結合、(CH鎖(mは1〜6)、環、SiR又はSiHを表し、
ただし、式A中のRとRの双方が直鎖アルキル基ではなく、
式A中のRとRは、両者が組み合わさって環状基になっていない場合、エチル基、イソプロピル基、tert−ブチル基、ペンチル基、及びアリール基ではな(ただし、シクロペンチル基であってもよい。))。
【請求項18】
前記酸化剤が、オゾン、酸素、亜酸化窒素及び過酸化水素からなる群より選択される、請求項17に記載の方法。
【請求項19】
50〜00℃の温度と0.1〜500Torrの圧力を前記化学気相成長チャンバーにおいて用いる、請求項18に記載の方法。
【請求項20】
下記の式によって表されるアミノシランからなる群より選択されるアミノシラン前駆体と窒素源及び酸化剤とが反応して基材上に酸化ケイ素の誘電体層が堆積する条件下で、前記アミノシラン前駆体、窒素源、及び酸化剤とを化学気相成長チャンバーに導入することを含む、前記化学気相成長チャンバーおける化学気相成長又は原子層堆積によって基材上に酸窒化ケイ素の誘電体層を製造する方法[ただし、前記アミノシラン前駆体は、ジ(ノルマルプロピル)アミノシラン、ジイソプロピルアミノシラン、ジイソブチルアミノシラン、ピロリルシラン、イミダゾリルシラン、ピラゾリルシラン、1−メチルピペラジニルシラン、ピロリジニルシラン、又は2−メチルピロリジニルシランではない]:
【化7】
(式中、
R及びRは、置換又は非置換の、直鎖、分枝又は環状の飽和又は不飽和のC〜C10のアルキル基;芳香族基;アルキルアミノ基;複素環基;からなる群より選択され;
式A及び式C中において、RとRは、組み合わさって環状基になっていてもよく、且つ
は、一重結合、(CH鎖(mは1〜6)、環、SiR又はSiHを表し、
ただし、式A中のRとRの双方が直鎖アルキル基ではなく、
式A中のRとRは、両者が組み合わさって環状基になっていない場合、エチル基、イソプロピル基、tert−ブチル基、ペンチル基、及びアリール基ではな(ただし、シクロペンチル基であってもよい。))。
【請求項21】
前記酸化剤が、オゾン、酸素、亜酸化窒素及び過酸化水素からなる群より選択される、請求項20に記載の方法。
【請求項22】
前記窒素源が、アンモニア、ヒドラジン、アルキルヒドラジン、ジアルキルヒドラジン及びそれらの混合物からなる群より選択される、請求項20に記載の方法。
【請求項23】
下記の式によって表されるアミノシランからなる群より選択されるアミノシラン前駆体を含有する、酸化剤とアミノシラン前駆体とを使用する化学気相成長又は原子層堆積によって基材上に酸化ケイ素膜を形成するための化学気相成長用組成物[ただし、前記アミノシラン前駆体は、ジ(ノルマルプロピル)アミノシラン、ジイソプロピルアミノシラン、ジイソブチルアミノシラン、ピロリルシラン、イミダゾリルシラン、ピラゾリルシラン、1−メチルピペラジニルシラン、ピロリジニルシラン、又は2−メチルピロリジニルシランではない]:
【化8】
(式中、
R及びRは、置換又は非置換の、直鎖、分枝又は環状の飽和又は不飽和のC〜C10のアルキル基;芳香族基;アルキルアミノ基;複素環基;からなる群より選択され;
式A及び式C中において、RとRは、組み合わさって環状基になっていてもよく、且つ
は、一重結合、(CH鎖(mは1〜6)、環、SiR又はSiHを表し、
ただし、式A中のRとRの双方が直鎖アルキル基ではなく、
式A中のRとRは、両者が組み合わさって環状基になっていない場合、エチル基、イソプロピル基、tert−ブチル基、ペンチル基、及びアリール基ではな(ただし、シクロペンチル基であってもよい。))。
【発明の詳細な説明】
【背景技術】
【0001】
半導体デバイスの製作においては、酸化ケイ素などの化学的に不活性な誘電体材料の薄い不動態層が必要不可欠である。酸化ケイ素の薄層は、ポリシリコンと金属層の間の絶縁体、拡散マスク、酸化バリヤー、トレンチ分離、高い絶縁破壊電圧を有する金属間絶縁材料、及びパッシベーション層として機能する。
【0002】
以下の論文及び特許は、酸化ケイ素膜を製造するためにエレクトロニクス産業で用いられている堆積プロセスの合成法に関する当技術分野の代表的なものとして引用される。
【0003】
特許文献1は、低圧化学気相成長(LPCVD)によって基材上に改善された堆積速度で実質的に均一な厚さを有する二酸化ケイ素層を製造するための方法を開示している。反応体は酸化剤とクロロシランの混合物を一般に含み、このクロロシランは式RSiHCl(式中、R及びRはアルキル基を表す)のモノクロロシランである。二酸化ケイ素層は、種々の基材、例えば、アルミニウム上に堆積させることができる。
【0004】
特許文献2は、半導体基材上にSiO膜を堆積させるための化学気相成長(CVD)プロセスを開示している。有機シリコン化合物、例えば、テトラエチルオルソシリケート(TEOS)又はジ−tert−ブチルシランが前駆体として用いられている。
【0005】
特許文献3は、原子層堆積(ALD)により、式Si[N(CH、SiH[N(CH、SiH[N(CH又はSiH[N(CH]の化合物を使用して、窒化ケイ素及び酸化ケイ素膜を製造するための方法を開示している。トリスジメチルアミノシラン(TDMAS)が前駆体として好ましい。
【0006】
特許文献4は、前駆体反応体としてビス−tert−ブチルアミノシラン(BTBAS)を使用することを含む酸化ケイ素、窒化ケイ素及び酸窒化ケイ素膜の形成において、堆積速度を向上させるための方法を開示している。
【0007】
特許文献5は、化学気相成長(CVD)反応器を用いて基材上にSiO膜を堆積するための方法を開示している。ケイ素の前駆体、すなわちテトラエチルオルトシラン(TEOS)、ジエチルシラン、テトラメチルシクロテトラオキシシロキサン、フルオロトリエトキシシラン、及びフルオロトリアルコキシシランが、水及び過酸化水素と組み合わせて反応体として使用されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】米国特許第5,250,473号明細書
【特許文献2】米国特許第5,382,550号明細書
【特許文献3】米国特許第6,391,803号明細書
【特許文献4】米国特許第6,153,261号明細書
【特許文献5】米国特許第6,974,780号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、基材上に酸化ケイ素層を堆積させる方法に関する。基材上に酸化ケイ素層を形成するための基本的なプロセスでは、基材上に酸化ケイ素層を生成するための条件下で、堆積チャンバーにおいてシラン前駆体を酸化剤と反応させる。本明細書で記載されるプロセスでは、有機アミノシランをシラン前駆体として用いる。
【課題を解決するための手段】
【0010】
前駆体として用いられる化合物のクラスは、一般に以下の式によって表される:
【0011】
【化1】
(式中、
R及びRは、直鎖、分枝又は環状の飽和又は不飽和のC〜C10のアルキル基、芳香族、アルキルアミノ基からなる群より選択され;
式A及び式C中において、RとRは、環状基(CHになっていてもよく(nは1〜6、好ましくは4及び5)、且つ
は、一重結合、(CH鎖(mは1〜6)、環、SiR又はSiHを表す)。
【0012】
好ましい化合物は、RとRの両方がイソプロピルである式A中の化合物である。
【0013】
化学気相成長(CVD)プロセスで用いられる前駆体は、多くの利点を提供することができ、これらの利点としては、下記の点を挙げることができる:
低温条件での誘電体膜の形成を促進できること;
低い酸エッチ速度を有する膜を製造できること;
前駆体と酸素含有源との比を変化させることにより、得られる酸化ケイ素膜の炭素含有量を調整できること;
前駆体と窒素含有源との比を変化させることにより、得られる酸化ケイ素膜の窒素含有量を調整できること;
優れた堆積速度で酸化ケイ素膜を形成できること;及び
種々のシラン前駆体を使用した場合に過度の分解速度によって一般に生じる多くの製造上の問題を克服できること。
【発明を実施するための形態】
【0014】
化学気相成長(CVD)、例えばプラズマ化学気相成長(PECVD)によって半導体基材上に酸化ケイ素膜を形成することが周知であり、このような堆積プロセスは、本発明の実施において使用することができる。これらのプロセスでは、反応器チャンバーを排気し、半導体基材をその中に置く。次いで、有機ケイ素化合物と酸化源を、酸化ケイ素層が半導体ウェハ上に形成される条件下で、反応器チャンバーに提供する。これらの膜はまた、プロセスの間の炭素、水素及び窒素源の添加によって、炭素、窒素及び水素の含有量を調整できる(ドーピングと称されることがある)。有機アミノシラン前駆体の使用によって製造された膜は、酸化ケイ素膜、酸炭化ケイ素膜、酸窒化ケイ素膜、及び炭酸窒化ケイ素膜と称されることがある。
【0015】
本発明の実施に適したケイ素化合物の1つのクラスは、有機アミノシラン前駆体であり、これは以下の式Aによって表される。
【0016】
【化2】
【0017】
化合物のこのクラスでは、R及びRは、直鎖、分枝又は環状の飽和又は不飽和のC〜C10のアルキル基、芳香族、アルキルアミノ基、複素環、水素、シリル基からなる群より選択され、置換基を有していても有していなくてもよい。RとRは、組み合わされて環状基になっていてもよい。代表的な置換基は、アルキル基、特にC〜Cのアルキル基、例えば異性体を含むエチル、プロピル及びブチル;環状基、例えばシクロプロピル、シクロペンチル及びシクロヘキシルである。
【0018】
このクラスのうち好ましい化合物の幾つかの例は、以下の式によって表される(nは2〜7、好ましくは5又は6):
【0019】
【化3】
【0020】
酸化ケイ素層の製造において使用するのに好適な有機アミノシラン前駆体の第2のクラスは、式Bによって表されるように、1つの窒素原子からぶら下がった2つのシリル基を有する有機アミノシランである。
【0021】
【化4】
【0022】
クラスAの化合物におけるR基の場合と同様に、Rは、直鎖、分枝又は環状の飽和又は不飽和のC〜C10のアルキル基、芳香族、アルキルアミノ基、及び複素環からなる群より選択される。具体的なRとしては、メチル、エチル、プロピル、アリル、ブチル、ジメチルアミン基、及び環状基、例えばシクロプロピル、シクロペンチル及びシクロヘキシルが挙げられる。
【0023】
例示の化合物は、以下の式によって表される:
【0024】
【化5】
【0025】
アミノシラン化合物の第3のクラスは、式Cによって表される。これらは一般に、R及びRが式AのR及びRと同じであるジアミノジシリル化合物である。R基は、窒素原子を架橋している。R基は単に、窒素原子間の一重結合である場合があり、又は架橋基、例えばSiR、SiH、連鎖又は環であってよい。
【0026】
式Cは以下のとおりである。
【0027】
【化6】
【0028】
具体例としては、以下の式によって表されるものが挙げられる。
【0029】
【化7】
【0030】
上記の複数の有機アミノシランは半導体基材上に酸化ケイ素膜を製造するのに適しているが、式Aの有機アミノシランが好ましいことを見出した。ジアルキルアミノシランは、同様の誘電率を有する膜を形成するという点で、前駆体としての従来のシランの幾つかの基準を満たす。特に、ジイソプロピルアミノシランは、優れた低エッチ速度を提供し、安定でかつ他の多くのシラン前駆体よりも長い保存寿命を有するという点で、プロセスにおいて予想外の特性を提供する。
【0031】
酸化ケイ素膜は、化学気相成長(CVD)、例えば低圧化学気相成長(LPCVD)、プラズマCVD(PECVD)、原子層堆積(ALD)などのために設計された堆積チャンバーにおいて形成することができる。本明細書で用いられる化学気相成長(CVD)という語は、半導体産業で用いられるこれらプロセスのそれぞれを包含するものである。
【0032】
堆積チャンバーにおいてジアルキルアミノシランを酸化ケイ素に転化するための酸素源として、通常の酸化剤を使用することができる。代表的な酸化剤としては、過酸化水素、亜酸化窒素、オゾン及び分子状酸素が挙げられる。典型的には、酸化剤/シラン前駆体の比は、0.1よりも大きく、好ましくは有機アミノシラン前駆体1モル当たり酸化剤が0.1〜6モルである。
【0033】
酸窒化ケイ素膜の形成に使用できる通常の窒素源としては、アンモニア、ヒドラジン、アルキルヒドラジン、ジアルキルヒドラジン及びそれらの混合物が挙げられる。
【0034】
本明細書において記載される式A及びBの有機アミノシランを用いると、製造者は化学気相成長(CVD)によって比較的低い温度で、酸化ケイ素膜を形成することができるが、450〜600℃の一般的な温度範囲で行うこともできる。
【0035】
低圧化学気相成長(LPCVD)プロセスは、種々の基材、例えばシリコン及びアルミニウム上で、一般には0.1〜500Torr、好ましくは0.5〜20Torrの圧力範囲内で行うことができる化学反応を伴う。高圧の化学気相成長(CVD)では、所望の基材に達する前に、気相での核生成又は予備堆積が起こることがある。不活性ガス、例えば窒素及びヘリウムによるシラン前駆体の希釈が、このような高圧の反応のために必要とされる場合がある。製造者が不活性ガスを使用して前駆体の対応する希釈を達成することにより、堆積の共形性を改善することができ又は化学気相浸透のための浸入を改善することができる。
【0036】
特定のシラン前駆体として、イソプロピルアミノシラン、好ましくはジイソプロピルアミノシランを使用することで、5Å/分〜60Å/分の速度で堆積し、屈折率が1.45〜1.70であり、かつ(1%HF溶液での)ウェットエッチ速度が0.01Å/秒〜1.5Å/秒である酸化物膜を形成することができる。
【0037】
以下の例は、本発明の種々の実施態様を説明するために与えられるものであり、本発明の範囲を限定するものではない。
【0038】
[一般的手順]
酸化ケイ素堆積物のための実験用前駆体を評価するのに用いられる低圧化学気相成長(LPCVD)反応器において、前駆体を試験した。前駆体を脱ガスし、低圧マスフローコントローラ(MFC)を通じて、反応器に計量供給した。化学物質の質量損失と流れ時間に対して、マスフローコントローラ(MFC)流量を較正した。酸素などの追加の反応体、及び窒素及びヘリウムなどの希釈剤も同様に、較正されたマスフローコントローラ(MFC)を通じて反応器に計量供給した。10−4Torr(0.013Pa)未満に反応器を排気できるルーツブロワー/ドライポンプの組合せに、反応器を連結した。堆積中にシリコンウェハの装填物にわたる温度は、設定点の1℃以内にした。
【0039】
ウェハを石英ボート上に装填して反応器に挿入した。反応器をポンプにより基準圧にして漏れをチェックする。系をガス流によってプロセス温度まで上げた。このガス流は、反応器が温まったときにシリコンウェハが酸化するのを防ぐために、残留する酸素又は水分を希釈するものである。次いで、反応器を所定の時間安定化させて、すべてのウェハ表面を、付属の熱電対を用いて、ウェハについて先の測定により決定されたのと等しい温度にした。
【0040】
制御された圧力で所定の堆積時間にわたって、ガス及び蒸気を反応器に注入した。次に、ガスを遮断し、反応器をポンプで基準圧にした。次いで、反応器が冷却されるときに、反応性のガス及び蒸気を除去するために、反応器をポンプでパージし、ポンプを停止しそしてポンプでパージした。反応器を大気圧に戻し、ウェハを取り出し、そして室温に冷却した。次いで、堆積膜を、膜厚、膜の屈折率、膜応力、赤外線吸光度、誘電率及び酸エッチ速度について測定した。
【実施例】
【0041】
[例1(参考例)]
[ジエチルアミノシラン前駆体を用いた酸化ケイ素膜の形成]
以下の反応体及び流量条件を用いて、上で概説した一般的手順に従った。ジエチルアミノシラン(DEAS)11.7sccmを、O25.9sccmとともに、0.6Torrで、74分の堆積時間にわたって、500℃で、LPCVD反応器に流した。
【0042】
酸化ケイ素膜の平均の膜厚は123nmであり、屈折率は1.459であった。1%HF溶液でのこの膜のウェットエッチ速度は1.38Å/秒であった。赤外スペクトルはSi−O−Siの吸収が顕著であった。C−Hの吸収はノイズ中にあり、膜が二酸化ケイ素であることを示した。ラザフォード後方散乱分光法(前方散乱による水素)による膜組成の分析は、この膜が28原子%のケイ素、57原子%の酸素、11原子%の水素、3原子%の炭素及び1原子%の窒素であることを示した。このことは、この膜が、水素、炭素及び窒素の不純物を有する二酸化ケイ素であることを示している。
【0043】
[例2(参考例)]
[ジエチルアミノシラン前駆体を用いた酸化ケイ素膜の形成]
プロセス条件を除いて例1の手順に従った。この目的は、より高い温度と短い反応時間の効果を決定することであった。この例では、ジエチルアミノシラン(DEAS)11.7sccmを、O5.9sccmとともに、0.6Torrで、33分の堆積時間にわたって、600℃で、反応器に流した。
【0044】
酸化ケイ素膜の平均の膜厚は157nmであり、屈折率は1.501であった。1%HF溶液でのこの膜のウェットエッチ速度は0.41Å/秒であった。赤外スペクトルはSi−O−Siの吸収が顕著であった。C−Hの吸収はノイズ中にあり、膜が酸化ケイ素であることを示した。ラザフォード後方散乱分光法(前方散乱による水素)による膜組成の分析は、この膜が27原子%のケイ素、47原子%の酸素、15原子%の水素、7原子%の炭素及び4原子%の窒素であることを示した。このことは、この膜が、水素、炭素及び窒素の不純物を有する二酸化ケイ素であることを示している。
【0045】
[例3(参考例)]
[ジイソプロピルアミノシラン前駆体を用いた酸化ケイ素膜の形成]
プロセス条件及び前駆体を除いて本質的に例1の手順に従った。この例では、ジイソプロピルアミノシラン(DIPAS)10.5sccmを、O5.0sccmとともに、0.6Torrで、74分の堆積時間にわたって、500℃で、反応器に流した。
【0046】
酸化ケイ素膜の平均の膜厚は112nmであり、屈折率は1.458であった。1%HF溶液でのこの膜のウェットエッチ速度は1.39Å/秒であった。赤外スペクトルはSi−O−Siの吸収が顕著であった。C−Hの吸収はノイズ中にあり、膜が酸化ケイ素であることを示した。ラザフォード後方散乱分光法(前方散乱による水素)による膜組成の分析は、この膜が28原子%のケイ素、55原子%の酸素、12原子%の水素、3原子%の炭素及び2原子%の窒素であることを示した。このことは、この膜が、水素、炭素及び窒素の不純物を有する二酸化ケイ素であることを示している。
【0047】
[例4(参考例)]
[ジイソプロピルアミノシラン前駆体を用いた酸化ケイ素膜の形成]
プロセス条件及び前駆体を除いて例2の手順に従った。この例では、ジイソプロピルアミノシラン(DIPAS)10.5sccmを、O5.0sccmとともに、0.6Torrで、33分の堆積時間にわたって、600℃で、反応器に流した。
【0048】
酸化ケイ素膜の平均の膜厚は124nmであり、屈折率は1.495であった。1%HF溶液でのこの膜のウェットエッチ速度は0.42Å/秒であった。赤外スペクトルはSi−O−Siの吸収が顕著であった。C−Hの吸収はノイズ中にあり、膜が酸化ケイ素であることを示した。ラザフォード後方散乱分光法(前方散乱による水素)による膜組成の分析は、この膜が28原子%のケイ素、51原子%の酸素、11原子%の水素、6原子%の炭素及び4原子%の窒素であることを示した。このことは、この膜が、水素、炭素及び窒素の不純物を有する二酸化ケイ素であることを示している。
【0049】
[例1〜4のまとめ]
まとめると、例1〜4は、式Aで示されるタイプの有機アミノシランが、半導体基材上に酸化ケイ素膜を製造するための前駆体として使用できることを示している。ジイソプロピルアミノシラン(DIPAS)は、低エッチ速度の酸化物のプロセスにおいて、前駆体としてのジエチルアミノシラン(DEAS)の使用に対する利点をもたらす。ジエチルアミノシラン(DEAS)は、室温でジイソプロピルアミノシラン(DIPAS)よりも不安定である。ジエチルアミノシラン(DEAS)の不安定な性質は、多くのEH&Sマネジメント、製造、供給ライン(倉庫保管及び船積みを含む)及びエンドユーザプロセスの問題を引き起こす場合がある。例3及び4(参考例)は、ジイソプロピルアミノシラン(DIPAS)から形成された酸化物膜が、同様のプロセス条件下で例1及び2(参考例)においてジエチルアミノシラン(DEAS)から形成された酸化物膜と同じエッチ速度、誘電率、屈折率及び定性的組成(FTIRによる)を一般に有することを示している。したがって、化学及びプロセス両方の観点から、ジイソプロピルアミノシラン(DIPAS)は、低エッチ速度の酸化ケイ素膜を製造するための好ましい前駆体である。