(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記金属組織の前記c軸方向のCuの濃度プロファイルにおいて1以上のピークを含むように前記セル相のCu濃度の1.5倍以上のCu濃度を示す範囲内で連続する領域を前記Cuリッチプレートレット相と定義したとき、前記金属組織の前記c軸方向の幅1μmあたりの領域内に存在する前記Cuリッチプレートレット相の数が10以上70以下である、請求項1に記載の永久磁石。
前記組成式におけるCoの20原子%以下がNi、V、Cr、Mn、Al、Ga、Nb、Ta、およびWから選ばれる少なくとも1種の元素で置換されている、請求項1ないし請求項6のいずれか一項に記載の永久磁石。
【発明を実施するための形態】
【0009】
(第1の実施形態)
本実施形態の永久磁石について以下に説明する。
【0010】
<永久磁石の構成例>
本実施形態の永久磁石は、組成式:R
pFe
qM
rCu
tCo
100−p−q−r−t
(式中、Rは希土類元素から選ばれる少なくとも1種の元素、MはZr、Ti、およびHfから選ばれる少なくとも1種の元素、pは10.5≦p≦12.5原子%を満足する数、qは23≦q≦40原子%を満足する数、rは0.88≦r≦4.5原子%を満足する数、tは4.5≦t≦10.7原子%を満足する数である)で表される組成を具備する。
【0011】
上記組成式におけるRは、磁石材料に大きな磁気異方性をもたらすことができる元素である。R元素としては、例えばイットリウム(Y)を含む希土類元素から選ばれる1種または複数の元素などを用いることができ、例えばサマリウム(Sm)、セリウム(Ce)、ネオジム(Nd)、プラセオジム(Pr)等を用いることができ、特に、Smを用いることが好ましい。例えば、R元素としてSmを含む複数の元素を用いる場合、Sm濃度をR元素として適用可能な元素全体の50原子%以上とすることにより、磁石材料の性能、例えば保磁力を高めることができる。
【0012】
なお、R元素として適用可能な元素の70原子%以上をSmとするとさらに好ましい。R元素として適用可能な元素はいずれも磁石材料に大きな磁気異方性をもたらし、例えばR元素として適用可能な元素の濃度を10.5原子%以上12.5原子%以下とすることにより保磁力を大きくすることができる。R元素として適用可能な元素の濃度が10.5原子%未満の場合、多量のα−Feが析出して保磁力が小さくなり、R元素として適用可能な元素の濃度が12.5原子%を超える場合、飽和磁化が低下する。R元素として適用可能な元素の濃度は、10.7原子%以上12.3原子%以下であることが好ましく、さらに10.9原子%以上12.1原子%以下であることが好ましい。
【0013】
上記組成式におけるMは、高いFe濃度の組成で大きな保磁力を発現させることができる元素である。M元素としては、例えばチタン(Ti)、ジルコニウム(Zr)、およびハフニウム(Hf)から選ばれる1種または複数の元素が用いられる。M元素の含有量rが4.5原子%以上であると、M元素を過剰に含有する異相が生成しやすくなり、保磁力、磁化ともに低下しやすくなる。また、M元素の含有量rが0.88原子%未満であるとFe濃度を高める効果が小さくなりやすい。つまり、M元素の含有量rは、R元素以外の元素(Fe、Co、Cu、M)の総量の0.88原子%以上4.5原子%以下であることが好ましい。さらに、元素Mの含有量rは、1.14原子%以上3.58原子%以下であることが好ましく、さらに1.49原子%よりも大きく2.24原子%以下であることが好ましい。
【0014】
M元素は、Ti、Zr、Hfのいずれであってもよいが、少なくともZrを含むことが好ましい。特に、M元素の50原子%以上をZrとすることによって、永久磁石の保磁力を高めることができる。一方、M元素の中でHfはとりわけ高価であるため、Hfを使用する場合においても、その使用量は少ないことが好ましい。例えば、Hfの含有量は、M元素の20原子%未満であることが好ましい。
【0015】
Cuは、磁石材料において高い保磁力を発現させることができる元素である。Cuの含有量は、Fe、Co、Cu、およびM元素の総量の3.5原子%以上10.7原子%以下であることが好ましい。これよりも多量に配合すると磁化の低下が著しく、またこれよりも少量であると高い保磁力と良好な角型比を得ることが困難となる。Cuの含有量tは、Fe、Co、Cu、およびM元素の総量の3.9原子%以上9.0原子%以下が好ましく、さらにFe、Co、Cu、およびM元素の総量の4.3原子%以上5.8原子%以下が好ましい。
【0016】
Feは、主として磁石材料の磁化を担う元素である。Feを多量に配合することにより磁石材料の飽和磁化を高めることができるが、過剰に配合するとα−Feの析出や相分離により所望の結晶相が得られにくくなり、保磁力を低下させるおそれがある。よって、Feの含有量qは、Fe、Co、CuおよびM元素の総量の23原子%以上40原子%以下であることが好ましい。Feの含有量qは、26原子%以上36原子%以下が好ましく、さらに29原子%以上34原子%以下が好ましい。
【0017】
Coは、磁石材料の磁化を担うとともに高い保磁力を発現させることができる元素である。また、Coを多く配合すると高いキュリー温度が得られ、磁石特性の熱安定性を高める働きも有している。Coの配合量が少ないとこれらの効果が小さくなる。しかしながら、Coを過剰に添加すると、相対的にFeの割合が減り、磁化の低下を招くおそれがある。また、Coの20原子%以下をNi、V、Cr、Mn、Al、Si、Ga、Nb、Ta、Wで置換することにより磁石特性、例えば保磁力を高めることができる。しかしながら、過剰の置換により磁化の低下を招くおそれがあるため、置換量はCoの20原子%以下であることが好ましい。
【0018】
さらに、本実施形態の永久磁石は、複数の六方晶系のTh
2Zn
17型結晶相(2−17型結晶相)と複数のCuリッチ相とを含む金属組織を具備する。
【0019】
一般的にSm−Co系磁石は、Th
2Zn
17型結晶相(2−17型結晶相)を有するセル相と、六方晶系のCaCu
5型結晶相(1−5型結晶相)を有するセル壁相と、プレートレット相と、を含む2次元の金属組織を具備する。例えば、セル壁相は、上記Cuリッチ相の一つであり、セル壁相によりセル相は区切られている。上記構造をセル構造ともいう。また、プレートレット相は、Th
2Zn
17型結晶相よりもZr等の元素Mの濃度が高いMリッチプレートレット相であり、Th
2Zn
17型結晶相のc軸と垂直に形成される。例えば、プレートレット相のZr濃度がTh
2Zn
17型結晶相よりも高い場合、該プレートレット相をZrリッチプレートレット相ともいう。なお、本実施形態では、Th
2Zn
17型結晶相のc軸として説明している。このTh
2Zn
17型結晶相のc軸は磁化容易軸であるTbCu
7型結晶相におけるc軸と平行である。すなわち、Th
2Zn
17型結晶相のc軸は磁化容易軸と平行に存在している。
【0020】
Cuリッチ相は、Cu濃度が高い相である。Cuリッチ相のCu濃度は、Th
2Zn
17型結晶相のCu濃度よりも高い。Cuリッチ相は、例えばTh
2Zn
17型結晶相におけるc軸を含む断面において、線状または板状に存在する。Cuリッチ相の構造としては、特に限定されないが、例えば六方晶系のCaCu
5型結晶相(1−5型結晶相)などが挙げられる。また、本実施形態の永久磁石は、相の異なる複数のCuリッチ相を有していてもよい。
【0021】
Cuリッチ相の磁壁エネルギーは、Th
2Zn
17型結晶相の磁壁エネルギーよりも高く、この磁壁エネルギーの差が磁壁移動の障壁となる。つまり、Cuリッチ相がピニングサイトとして機能することにより、複数のセル相間での磁壁移動を抑制することができる。これを磁壁ピニング効果ともいう。
【0022】
23原子%以上のFeを含むSm−Co系磁石において、Cuリッチ相のCu濃度は、30原子%以上であることが好ましい。Fe濃度が高い領域においてはCuリッチ相のCu濃度にばらつきが発生しやすくなり、例えば磁壁ピニング効果の大きいCuリッチ相と磁壁ピニング効果の小さいCuリッチ相とが生じ、保磁力および角型比が低下する。より好ましいCu濃度は35原子%以上、さらに好ましくは40原子%以上である。
【0023】
ピニングサイトを外れた磁壁が移動すると、移動した分だけ磁化が反転してしまうため、磁化が低下する。外磁場を印加した際に、ある一定の磁場で一斉に磁壁がピニングサイトを外れれば、磁場の印加に対し、途中の磁場の印加により磁化が低下せず、良好な角型比が得られる。換言すると、磁場を印加した際に保磁力よりも低い磁場でピニングサイトを外れ、磁壁が移動してしまうと、移動した分だけ磁化が減少し、角型比の悪化につながると考えられる。角型比の悪化を抑制するためには、磁壁ピニング効果を大きくし、あるピニングサイトを仮に外れても別のピニングサイトで改めて磁壁のピニングを行い、磁化反転する領域を最小限に留めることが重要であると考えられる。
【0024】
さらに、本実施形態の永久磁石では、セル壁相だけでなく、Mリッチプレートレット相に沿った方向(例えばMリッチプレートレット相に平行な方向(0001面))にもCuリッチ相を形成することができることを見出した。なお、Mリッチプレートレット相に沿って形成されるCuリッチ相をCuリッチプレートレット相ともいう。Cuリッチプレートレット相のCu濃度は、7.5原子%以上であることが好ましい。また、Cuリッチプレートレット相のSm濃度は、Th
2Zn
17型結晶相よりも高いことが好ましい。また、Cuリッチプレートレット相の結晶構造は、CaCu
5型結晶相であってもよい。なお、平行とは、平行方向から±10度以内の状態(略平行)を含んでいてもよい。
【0025】
Cuリッチプレートレット相は、Th
2Zn
17型結晶相を磁気的に分断する。このとき、Cuリッチプレートレット相により分断されたTh
2Zn
17型結晶相のそれぞれが単磁区となり、Th
2Zn
17型結晶相のそれぞれにおいて磁化の反転は起きにくい。つまり、Cuリッチプレートレット相は、磁壁移動の障壁となりうるため、ピニングサイトとして機能することができる。以上のように、Mリッチプレートレット相に沿ってCuリッチプレートレット相を形成することにより、ピニングサイトの数が多くなるため、磁壁ピニング効果が高くなり、良好な角型比、高保磁力、および高磁化を同時に実現することができる。
【0026】
また、Cuリッチプレートレット相の析出密度を制御することにより、さらに角型比、保磁力等を改善することができる。例えば、Mリッチプレートレット相に垂直な方向において、金属組織の幅1μmあたりの領域内に存在するCuリッチプレートレット相の数は、10以上70以下が好ましい。このとき、金属組織の幅方向は、Mリッチプレートレット相に垂直な方向と同じ方向とする。Cuリッチプレートレット相の数が10未満のときは角型比、保磁力の改善効果が少なく、70よりも大きい場合、セル壁相でのCu濃度が低くなり、かえって保磁力が減少してしまう。Mリッチプレートレット相と垂直な方向における金属組織の幅1μmあたりの領域内に存在するCuリッチプレートレット相の数のより好ましい範囲は、12以上60以下、さらに好ましくは15以上55以下である。なお、垂直とは、垂直方向から±10度以内の状態(略垂直)も含んでいてもよい。
【0027】
実際のサンプルにおいて、Cuリッチプレートレット相は、他のCuリッチ相よりも厚さが薄い場合があり分析が困難であるが、例えば三次元アトムプローブ(3−Dimension Atom Probe:3DAP)を用いることにより比較的容易に分析することができる。3DAPを用いた分析法とは、電圧を印加することにより観察試料を電界蒸発させ、電界蒸発されたイオンを二次元検出器により検出することにより原子配列を特定する分析法である。二次元検出器に到達するまでの飛行時間からイオン種が同定され、個々に検出されたイオンを深さ方向に連続的に検出し、検出された順番にイオンを並べる(再構築する)ことにより、三次元の原子分布が得られる。
【0028】
本実施形態における3DAPによるCuリッチプレートレット相の分析は、以下の手順で行われる。まず、試料をダイシングにより薄片化し、そこから収束イオンビーム(Focused Ion Beam:FIB)でピックアップ・アトムプローブ(AP)用針状試料を作製する。さらに、作製した針状試料を用い、Mリッチプレートレット相に平行なTh
2Zn
17型結晶相の原子面(0003)の面間隔(およそ0.4nm)を基準にして、原子マップを作成する。そのように作成したアトムプローブデータをもとに作成されたZr、Cu、およびSmの濃度プロファイルの例を
図1(A)、
図1(B)、
図1(C)にそれぞれ示す。
【0029】
図1(A)において、Th
2Zn
17型結晶相のc軸と垂直な方向にZrリッチ相が形成され、
図1(B)において、Zrリッチ相に対し45度以上180度未満の角度を有する(非平行である)Cuリッチ相が形成されている。上記Zrリッチ相がZrリッチプレートレット相に相当し、Cuリッチ相がセル壁相に相当する。また、
図1(C)では、Cuリッチプレートレット相と同領域において、Th
2Zn
17型結晶相よりもSm濃度が高い傾向が見られる。
【0030】
さらに、
図1(B)において、Zrリッチ相に沿って隣接する部分にもCuリッチ相が形成されている。上記Cuリッチ相がCuリッチプレートレット相に相当する。なお、セル壁相となるCuリッチ相は、Cuリッチプレートレット相となるCuリッチ相に接していることが好ましく、例えばCuリッチ相(セル壁相およびCuリッチプレートレット相)によりTh
2Zn
17型結晶相を取り囲むことにより磁壁移動の抑制効果をさらに高めることができる。また、
図1(B)では、1つのZrリッチプレートレット相に対して複数のCuリッチプレートレット相が形成されているが、これに限定されず、1つのZrリッチプレートレット相に対して少なくとも1つのCuリッチプレートレット相が形成されていればよい。また、1つのZrリッチプレートレット相に対して3以上のCuリッチプレートレット相が形成されていてもよい。
【0031】
上記Cuリッチプレートレット相は、例えば以下のように定義される。まず、Zrリッチプレートレット相に垂直な方向におけるCuの濃度プロファイルを解析する。濃度プロファイル解析範囲は15nm×15nm×15nm、または10nm×10nm×10nmとすることが好ましい。上記解析により得られるCuの濃度プロファイルの模式図を
図2に示す。
図2において、横軸は、Th
2Zn
17型結晶相のc軸と垂直な方向の測定距離を表しており、縦軸は、Cu濃度を表している。次に、
図2に示すCuの濃度プロファイルのうち、最もCu濃度の低い値P
Cuを求める(
図2では5.0原子%)。さらに、上記の分析および解析を同一試料において5回行い、その平均値をセル相におけるCu濃度C
Cu−cellと定義する。次に、同領域においてC
Cu−cellの1.5倍の濃度を求める(
図2では7.5原子%)。C
Cu−cellの1.5倍以上のCu濃度である領域をCuリッチプレートレット相と定義する。
図2の場合、C
Cu−cellの1.5倍以上のCu濃度である領域内にピークが2つ存在するため、2つのCuリッチプレートレット相が存在するといえる。上記Cuリッチプレートレット相が観察される場合、磁石特性の改善が認められる。
【0032】
また、上記解析により得られるCuの濃度プロファイルの模式図の他の例について
図3に示す。
図3の場合、C
Cu−cellの1.5倍以上のCu濃度である領域内にピークが2つ存在する。しかしながら、ピーク間の領域においてもCu濃度がC
Cu−cellの1.5倍以上であり、C
Cu−cellの1.5倍以上のCu濃度である領域内で2つのピークが連続している。よって、
図3の場合、1つのCuリッチプレートレット相が存在するとみなすことができる。
【0033】
なお、透過型電子顕微鏡(Transmission Electron Microscope)を用いたTEM−エネルギー分散型X線分光法(TEM−Energy Dispersive X−ray spectroscopy:TEM−EDX)によるマッピングを用いてもCuリッチプレートレット相を観察することができる。マッピングは、例えば200k倍の倍率で行うことが好ましい。磁場配向させた焼結体からなる永久磁石では、Th
2Zn
17型結晶相のc軸を含む断面を観察する。各元素についてマッピング像を作成すると、Zrリッチプレートレット相に沿ってCuリッチプレートレット相が形成されていることを確認することができる。
【0034】
本実施形態では、3DAPによる分析およびTEMによる観察を焼結体の内部に対して行う。例えば、焼結体の表面のうち、最大の面積を有する面における最長の辺の中央部において、最長の辺に垂直(曲線の場合は中央部の法線と垂直)に切断した断面の表面部と内部とで組成を測定する。測定箇所は、上記断面において各辺の1/2の位置を始点として、辺に対し垂直に内側に向けて端部まで引いた第1の基準線と、各角部の中央を始点として角部の内角の角度の1/2の位置で内側に向けて端部まで引いた第2の基準線とを設け、第1の基準線および第2の基準線の始点から基準線の長さの1%の位置を表面部、40%の位置を内部と定義する。なお、角部が面取り等で曲率を有する場合、隣り合う辺を延長した交点を辺の端部(角部の中央)と定義する。この場合、測定箇所は、交点からではなく、基準線と接した部分からの位置となる。
【0035】
また、Cuリッチプレートレット相密度は、例えば以下のように定義される。3DAPによる分析により示されるMリッチプレートレット相と垂直な方向において、金属組織の幅1μmあたりの領域内に存在するCuリッチプレートレット相の数を計数する動作を、5箇所で行う。その5箇所のCuリッチプレートレット相の数の平均値をCuリッチプレートレット相密度n(単位面積あたりのCuリッチプレートレット相の数)と定義する。
【0036】
なお、角型比は、以下のように定義される。まず、直流B−Hトレーサーにより室温における直流磁化特性を測定する。次に、測定結果から得られたB−H曲線より磁石の基本特性である残留磁化M
rと保磁力
iH
Cおよび最大エネルギー積(BH)maxを求める。このとき、M
rを用いて理論最大値(BH)maxが下記式(1)により求められる。
(BH)max(理論値)=M
r2/4μ
0・・・(1)
角型比は、測定で得られる(BH)maxと(BH)max(理論値)の比により評価され、下記式(2)により求められる。
(BH)max(実測値)/(BH)max(理論値)×100・・・(2)
【0037】
なお、本実施形態の永久磁石は、例えばボンド磁石としても用いられる。例えば、特開2008−29148号公報または特開2008−43172号公報に開示されているような可変磁束ドライブシステムにおける可変磁石に本実施形態の磁石材料を用いることにより、システムの高効率化、小型化、低コスト化が可能となる。本実施形態の永久磁石を可変磁石として用いるためには時効処理条件を変更し、保磁力を100kA/M以上350kA/M以下に収める必要がある。
【0038】
<永久磁石の製造方法>
次に、永久磁石の製造方法例について説明する。
【0039】
まず、永久磁石の合成に必要な所定の元素を含む合金粉末を調製する。例えば、ストリップキャスト法などでフレーク状の合金薄帯を作製し、その後合金薄帯を粉砕することにより合金粉末を調製することができる。ストリップキャスト法を用いた合金薄帯の作製では、周速0.1m/秒以上20m/秒以下で回転する冷却ロールに合金溶湯を傾注することにより、厚さ1mm以下に連続的に凝固させた薄帯を作製することができる。周速が0.1m/秒未満の場合、薄帯において組成のばらつきが生じやすい。また、周速が20m/秒を超える場合、結晶粒が単磁区サイズ以下に微細化してしまう等、磁気特性が低下する場合がある。冷却ロールの周速は0.3m/秒以上15m/秒以下、さらに好ましくは0.5m/秒以上12m/秒以下である。また、アーク溶解や高周波溶解後に鋳造する等により得られた合金インゴットを粉砕することにより合金粉末を調製することもできる。また、メカニカルアロイング法、メカニカルグラインディング法、ガスアトマイズ法、還元拡散法などを用いて合金粉末を調製してもよい。
【0040】
さらに、上記合金粉末または粉砕前の合金の材料に対して熱処理を施すことにより該材料を均質化することが可能である。例えば、ジェットミル、ボールミルなどを用いて材料を粉砕することができる。なお、不活性ガス雰囲気もしくは有機溶媒中で材料を粉砕することにより粉末の酸化を防止することができる。
【0041】
粉砕後の粉末において、平均粒径が2μm以上5μm以下であり、かつ粒径が2μm以上10μm以下の粉末の割合が粉末全体の80%以上であると配向度が高くなり、また、保磁力が大きくなる。これを実現するためにはジェットミルによる粉砕が好ましい。
【0042】
例えば、ボールミルで粉砕する場合、粉末の平均粒径が2μm以上5μm以下であったとしても、粒径がサブミクロンレベルの微粉末が多量に含まれる。この微粉末が凝集するとプレス時の磁場配向中に磁化容易軸方向にTbCu
7相における結晶のc軸が揃いにくくなり、配向度が悪くなりやすい。また、このような微粉末は、焼結体中の酸化物の量を増大させ、保磁力を低下させるおそれがある。特に、Fe濃度が23原子%以上の場合、粉砕後の粉末において、10μm以上の粒径の粉末の割合が粉末全体の10%以下であることが望ましい。Fe濃度が23原子%以上の場合、原材料となるインゴット中における異相の量が増大する。この異相では、粉末の量が増大するだけでなく、粒径も大きくなる傾向にあり、粒径が20μm以上になることがある。
【0043】
このようなインゴットを粉砕した際に例えば15μm以上の粒径の粉末がそのまま異相の粉末となることがある。このような異相粗粉末を含んだ粉砕粉を磁場中でプレスし、焼結体とすると、異相が残存し、保磁力の低下、磁化の低下、角型性の低下等を引き起こす。角型性が低下すると着磁が難しくなる。特に、ロータなどへのアセンブリ後の着磁が困難となる。このように、10μm以上の粒径の粉末を全体の10%以下とすることにより23原子%以上のFeを含む高いFe濃度組成において角型比の低下を抑制しつつ保磁力を大きくすることができる。
【0044】
次に、電磁石の中に設置した金型内に合金粉末を充填し、磁場を印加しながら加圧成形することにより結晶軸を配向させた圧粉体を製造する。さらにこの圧粉体を、1100℃以上1210℃以下、1時間以上15時間以下で焼結することにより緻密な焼結体が得られる。例えば、焼結温度が1100℃未満の場合、生成される焼結体の密度が低くなりやすい。また、1210℃よりも高い場合、粉末中のSmが過剰に蒸発する等で磁気特性が低下する場合がある。より好ましい焼結温度は1150℃以上1205℃以下であり、さらに好ましくは1165℃以上1195℃以下である。一方、焼結時間が1時間未満の場合、密度が不均一になりやすいため磁化が低下しやすく、さらに、焼結体の結晶粒径が小さくなり、かつ結晶粒界比率が高くなることにより、磁化が低下しやすい。また、焼結時間が15時間を越えると粉末中のR元素の蒸発が過剰となり、磁気特性が低下するおそれがある。より好ましい焼結時間は2時間以上13時間以下であり、さらに好ましくは4時間以上10時間以下である。なお、真空中またはアルゴンガス中で熱処理を行うことにより酸化を抑制することができる。また、焼結温度近くになるまで真空を維持し、その後Ar雰囲気に切り替え、等温維持することにより焼結体密度を向上させることができる。
【0045】
次に、得られた焼結体に対して、溶体化処理を施して結晶組織を制御する。例えば、1100℃以上1190℃以下、3時間以上28時間以下で溶体化処理を行うことにより、相分離組織の前駆体であるTbCu
7型結晶相が得られやすい。
【0046】
熱処理温度が1100℃未満の場合および1190℃を超える場合、溶体化処理後の試料中に存在するTbCu
7型結晶相の割合が小さく、磁気特性が低下するおそれがある。熱処理温度は、好ましくは1110℃以上1180℃以下、さらに好ましくは1120℃以上1170℃以下である。
【0047】
また、熱処理時間が3時間未満の場合、構成相が不均一になりやすく、保磁力が低下しやすくなり、焼結体の結晶粒径が小さくなりやすく、結晶粒界比率が高くなり磁化が低下しやすい。また、熱処理温度が28時間を超える場合、焼結体中のR元素が蒸発する等で磁気特性が低下するおそれがある。熱処理時間は、好ましくは4時間以上24時間以下であり、さらに好ましくは10時間以上18時間以下である。
【0048】
なお、真空中やアルゴンガス等の不活性雰囲気中で溶体化処理を行うことにより粉末の酸化を抑制することができる。また、焼結と連続して溶体化処理を行ってもよい。
【0049】
さらに、等温保持後に急冷を行う。急冷を行うことにより、室温であってもTbCu
7型結晶相を維持させることができる。急冷速度を170℃/分以上とすることによりTbCu
7型結晶相が安定化させることができ保磁力が発現しやすくなる。例えば、冷却速度が170℃/分未満の場合、冷却中にCe
2Ni
7型結晶相(2−7相)が生成されやすくなる。2−7相の存在により磁化が低下する場合があり、また、保磁力も低下する場合がある。2−7相はCuが濃化されていることが多く、これにより主相中のCu濃度が低下し、時効処理による相分離が起きにくくなるためである。特にFe濃度を23原子%以上含む組成では冷却速度が重要となりやすい。
【0050】
次に、急冷後の焼結体に時効処理を行う。時効処理とは、金属組織を制御して磁石の保磁力を高める処理であり、磁石の金属組織を、Th
2Zn
17型結晶相やCuリッチ相等の複数の相に相分離させることを目的としている。
【0051】
一般的なSm−Co系磁石では、Mリッチプレートレット相が析出し、その後TbCu
7型結晶相がTh
2Zn
17型結晶相やCuリッチ相等の複数の相に相分離するといわれている。このとき、Mリッチプレートレット相は、TbCu
7型結晶相との粒界面における元素拡散パスとして働くとされており、保磁力を得るために有効な相であるといわれている。しかしながら、Mリッチプレートレット相の析出は、Th
2Zn
17型結晶相と格子整合しないおそれがある。格子不整合部があると磁化反転核が形成されやすくなり、保磁力の低下や角型比の悪化の原因となる。これに対し、Mリッチプレートレット相とTh
2Zn
17型結晶相とのひずみを緩和させるような相(緩和相)を生成させることができれば、保磁力や角型比が改善される可能性が高い。しかしながら、上記緩和相を生成するためには、Mリッチプレートレット相に先だってCuリッチ相を生成させる必要がある。
【0052】
そこで、本実施形態では、溶体化処理の後、時効処理を予備時効処理と本時効処理に分け、予備時効処理において保持温度や時間、または保持後の徐冷速度を厳密に制御することが緩和の生成に有効であることを見出した。
【0053】
例えば、予備時効処理温度は、Mリッチプレートレット相が生成しやすい温度よりも低いことが好ましい。これにより、Mリッチプレートレット相に先だってCuリッチ相を析出させることができる。また、予備時効処理温度は、本時効処理温度よりも一定温度以上低いことが好ましい。これにより、核生成頻度が高くなり、母相全体にCuリッチ相を緻密に形成することができる。一方で、元素の拡散速度が遅いため、核生成しにくくなるおそれもある。そこで、低温で長時間保持することにより核生成を促進させることができる。さらに、予備時効処理後の徐冷速度を遅くすることにより、Cuリッチ相のCu濃度が高くなることを見出した。
【0054】
また、上記予備時効処理を行うと、Cuリッチな核が母相全体に生成され、その後の本時効処理において、多くのCuリッチな核はセル壁相として成長していくが、一部のCuリッチな核はMリッチプレートレット相が生成する際にプレートレット相と母相の界面にとどまり、Cuリッチ相を形成する。上記Cuリッチ相がCuリッチプレートレット相に相当する。
【0055】
例えば、予備時効処理では、550℃以上850℃以下で4時間以上20時間以下保持した後、0.9℃/分以下の冷却速度で20℃以上350℃以下まで徐冷する。なお、予備時効処理温度が550℃よりも低いと、Cuリッチ相の密度が高くなり、Cuリッチ相の体積分率が大きくなり、さらに、Cuリッチ相毎のCu濃度が低くなる。これにより、かえって磁壁ピニング効果が低くなり、その後本時効処理を行っても保磁力が上がりにくくなってしまい、また、角型比の悪化や、磁化の低下等が起こる場合がある。これは元素の拡散挙動が関与していると考えられる。例えば、Cuリッチ相の体積分率が高くなると磁化を担う相であるTh
2Zn
17型結晶相の体積分率が減るため、磁化が低下する。また、予備時効温度が850℃よりも高くなると、角型比改善効果が小さくなる場合がある。より好ましい予備時効温度は550℃以上750℃以下であり、さらに好ましくは600℃以上710℃以下である。
【0056】
また、上記時効処理では、予備時効処理温度と本時効処理温度の関係に注意しなければならない。予備時効処理温度を低くすることにより角型比がさらに改善されるが、保磁力を大きくすることが困難となる。保磁力低下の原因の一つとしては、本時効処理によりセル壁相が十分に形成されないことが考えられる。これに対し、例えば本時効処理温度を上げて元素拡散を促成させる。具体的には予備時効処理温度と本時効処理温度の差を130℃以上に設定することにより、23原子%以上のFeを含む組成においても、Cuリッチプレートレット相のCu濃度を高くすることができる。よって、良好な角型比、高保磁力、および高磁化を同時に実現することができる。
【0057】
さらに、本時効処理では、750℃以上880℃以下で2時間以上80時間以下保持した後、0.2℃/分以上2℃/分以下の冷却速度で300℃以上650℃以下まで徐冷する。このとき、300℃以上650℃以下で一定時間保持することにより保磁力を改善することもできる。このときの保持時間は1時間以上6時間以下が好ましい。
【0058】
また、上述の予備時効処理および本時効処理に加え、本時効処理後の徐冷速度を0.5℃/分未満とすることにより、単位面積あたりのCuリッチプレートレット相の数を増やすことができるため、さらに角型比を良好にすることができ、保磁力を高めることができ、磁化を高めることができる。
【0059】
また、真空中またはアルゴン等の不活性ガス中で予備時効処理および本時効処理を行うことにより、焼結体の酸化を抑制することができる。
【0060】
以上により永久磁石を製造することができる。
【0061】
(第2の実施形態)
第1の実施形態の永久磁石は、各種モータや発電機に使用することができる。また、可変磁束モータや可変磁束発電機の固定磁石や可変磁石として使用することも可能である。第1の実施形態の永久磁石を用いることによって、各種のモータや発電機が構成される。第1の実施形態の永久磁石を可変磁束モータに適用する場合、可変磁束モータの構成やドライブシステムには、特開2008−29148号公報や特開2008−43172号公報に開示されている技術を適用することができる。
【0062】
次に、本実施形態のモータと発電機について、図面を参照して説明する。
図4は本実施形態における永久磁石モータを示す図である。
図4に示す永久磁石モータ1では、ステータ(固定子)2内にロータ(回転子)3が配置されている。ロータ3の鉄心4中には、第1の実施形態の永久磁石である永久磁石5が配置されている。第1の実施形態の永久磁石を用いることにより、各永久磁石の特性等に基づいて、永久磁石モータ1の高効率化、小型化、低コスト化等を図ることができる。
【0063】
図5は本実施形態による可変磁束モータを示す図である。
図5に示す可変磁束モータ11において、ステータ(固定子)12内にはロータ(回転子)13が配置されている。ロータ13の鉄心14中には、第1の実施形態の永久磁石が固定磁石15および可変磁石16として配置されている。可変磁石16の磁束密度(磁束量)は可変することが可能とされている。可変磁石16はその磁化方向がQ軸方向と直交するため、Q軸電流の影響を受けず、D軸電流により磁化することができる。ロータ13には磁化巻線(図示せず)が設けられている。この磁化巻線に磁化回路から電流を流すことによって、その磁界が直接に可変磁石16に作用する構造となっている。
【0064】
第1の実施形態の永久磁石によれば、固定磁石15に好適な保磁力を得ることができる。第1の実施形態の永久磁石を可変磁石16に適用する場合には、前述した製造方法の各種条件(時効処理条件等)を変更することによって、例えば保磁力を100kA/m以上500kA/m以下の範囲に制御すればよい。なお、
図5に示す可変磁束モータ11においては、固定磁石15および可変磁石16のいずれにも第1の実施形態の永久磁石を用いることができるが、いずれか一方の磁石に第1の実施形態の永久磁石を用いてもよい。可変磁束モータ11は、大きなトルクを小さい装置サイズで出力可能であるため、モータの高出力・小型化が求められるハイブリッド車や電気自動車等のモータに好適である。
【0065】
図6は本実施形態による発電機を示している。
図6に示す発電機21は、本実施形態の永久磁石を用いたステータ(固定子)22を備えている。ステータ(固定子)22の内側に配置されたロータ(回転子)23は、発電機21の一端に設けられたタービン24とシャフト25を介して接続されている。タービン24は、例えば外部から供給される流体により回転する。なお、流体により回転するタービン24に代えて、自動車の回生エネルギー等の動的な回転を伝達することによって、シャフト25を回転させることも可能である。ステータ22とロータ23には、各種公知の構成を採用することができる。
【0066】
シャフト25はロータ23に対してタービン24とは反対側に配置された整流子(図示せず)と接触しており、ロータ23の回転により発生した起電力が発電機21の出力として相分離母線および主変圧器(図示せず)を介して、系統電圧に昇圧されて送電される。発電機21は、通常の発電機および可変磁束発電機のいずれであってもよい。なお、ロータ23にはタービン2からの静電気や発電に伴う軸電流による帯電が発生する。このため、発電機21はロータ23の帯電を放電させるためのブラシ26を備えている。
【0067】
以上のように、第1の実施形態の永久磁石を発電機に適用することにより、高効率化、小型化、低コスト化等の効果が得られる。
【0068】
なお、本発明のいくつかの実施形態を説明したが、これらの実施形態は例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。これら新規な実施形態は、その他の様々な形態で実施し得るものであり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更を行うことができる。これら実施形態やその変形は、発明の範囲や要旨に含まれると共に、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれる。
【実施例】
【0069】
本実施例では、永久磁石の具体例について説明する。
【0070】
(実施例1、実施例2)
永久磁石に用いられる各原料を所定の比率で秤量して混合した後、Arガス雰囲気でアーク溶解して合金インゴットを作製した。上記合金インゴットを1175℃で8時間保持して熱処理を行った後、合金インゴットに対して粗粉砕とジェットミルによる粉砕とを実施し、磁石の原料粉末としての合金粉末を調製した。合金粉末を磁界中でプレス成形して圧縮成形体を作製した。
【0071】
次に、合金粉末の圧縮成形体を焼結炉チャンバ内に配置し、チャンバ内を真空状態にした後に1180℃まで昇温させそのまま1分間保持し、その後にArガスを導入し、Ar雰囲気中で1195℃まで昇温させ、その温度で6時間保持して本焼結を行った。
【0072】
本焼結工程に引き続いて、焼結体を1160℃で8時間保持して溶体化処理を行った。なお、溶体化処理後の冷却速度を−220℃/分とした。次に、溶体化処理後の焼結体を、表2に示すように、予備時効処理として710℃で6時間保持した後に300℃まで0.9℃/分の速度で徐冷し、さらに本時効処理として845℃で20時間保持した。このような条件下で時効処理を行った焼結体を420℃まで0.7℃/分の速度で徐冷し、その温度で2時間保持した。その後、室温まで炉冷することにより、磁石を得た。得られた磁石の組成は表1に示す通りである。
【0073】
また、誘導結合発光プラズマ(ICP)法により磁石の組成分析を実施した。なお、ICP法による組成分析を以下の手順により行った。まず、記述の測定箇所から採取した試料を乳鉢で粉砕し、粉砕した試料を一定量はかり取り、石英製ビーカに入れた。さらに、ビーカに混酸(硝酸と塩酸を含む酸)を入れ、ホットプレート上で140℃程度に加熱し、ビーカ中の試料を完全に溶解させた。さらに放冷した後、ポリエチルアクリレート(PEA)製メスフラスコに移して定容し、試料溶液とした。
【0074】
さらに、ICP発光分光分析装置を用いて検量線法により上記試料溶液の含有成分の定量を行った。ICP発光分光分析装置としては、エスアイアイ・ナノテクノロジー製、SPS4000を用いた。また、上記磁石のCuリッチプレートレット相の有無、Mリッチプレートレット相に垂直な方向における金属組織の幅1μmあたりの領域内に存在するCuリッチプレートレット相の数、角型比、保磁力、および残留磁化を表3に示す。
【0075】
(実施例3、実施例4、実施例5)
各原料を所定の比率で秤量して混合した後、Arガス雰囲気中で高周波溶解して合金インゴットを作製した。合金インゴットに対し粗粉砕を実施した後に1170℃、1時間の熱処理を施し、急冷することにより室温まで冷却した。さらに粗粉砕とジェットミルによる粉砕とを実施し、磁石の原料粉末としての合金粉末を調製した。さらに上記合金粉末を磁界中でプレス成形して圧縮成形体を作製した。
【0076】
次に、合金粉末の圧縮成形体を焼結炉のチャンバ内に配置し、チャンバ内を真空度8.5×10
−3Paの真空状態にした後に1160℃まで昇温させ、そのまま15分間保持した後、チャンバ内にArガスを導入した。Ar雰囲気中としたチャンバ内の温度を1185℃まで昇温し、そのまま4時間保持して本焼結を行った。次に、焼結体を1125℃で12時間保持して溶体化処理を行った。なお、溶体化処理後の冷却速度を−180℃/分とした。
【0077】
次に、溶体化処理後の焼結体を、表2に示すように予備時効処理として685℃で8時間保持した後に200℃まで0.7℃/分の速度で徐冷した。その後、本時効処理として830℃で30時間保持し、390℃まで0.45℃/分で徐冷した。その温度で2時間保持し、その後、室温まで炉冷することにより磁石を得た。上記磁石の組成は表1に示す通りである。なお、他の実施例と同様に上記磁石の組成をICP法により確認した。また、上記磁石のCuリッチプレートレット相の有無、Mリッチプレートレット相に垂直な方向における金属組織の幅1μmあたりの領域内に存在するCuリッチプレートレット相の数、角型比、保磁力、および残留磁化を表3に示す。
【0078】
(実施例6)
各原料を所定の比率で秤量して混合した後、Arガス雰囲気中で高周波溶解して合金インゴットを作製した。合金インゴットに対し粗粉砕を実施した後に1170℃、6時間の熱処理を施し、急冷することにより室温まで冷却した。さらに粗粉砕とジェットミルによる粉砕とを実施し、磁石の原料粉末としての合金粉末を調製した。さらに上記合金粉末を磁界中でプレス成形して圧縮成形体を作製した。
【0079】
次に、合金粉末の圧縮成形体を焼結炉のチャンバ内に配置し、チャンバ内を真空度7.0×10
−3Paの真空状態にした後に1165℃まで昇温させ、そのまま20分間保持した後、チャンバ内にArガスを導入した。Ar雰囲気中としたチャンバ内の温度を1195℃まで昇温させ、そのまま4時間保持して本焼結を行った。次に、焼結体を1130℃で12時間保持して溶体化処理を行った。なお、溶体化処理後の冷却速度を−260℃/分とした。
【0080】
次に、溶体化処理後の焼結体を、表2に示すように予備時効処理として680℃で10時間保持し、350℃まで0.6℃/分の速度で徐冷した。その後、本時効処理として820℃で35時間保持し、360℃まで0.8℃/分の速度で徐冷を行い、そのまま1.5時間保持し、その後、室温まで炉冷することにより磁石を得た。得られた磁石の組成は表1の通りである。なお、他の実施例と同様に上記磁石の組成をICP法により確認した。また、上記磁石のCuリッチプレートレット相の有無、Mリッチプレートレット相に垂直な方向における金属組織の幅1μmあたりの領域内に存在するCuリッチプレートレット相の数、角型比、保磁力、および残留磁化を表3に示す。
【0081】
(実施例7)
各原料を所定の比率で秤量して混合した後、Arガス雰囲気中で高周波溶解して合金インゴットを作製した。合金インゴットに対し粗粉砕を実施した後に1170℃、10時間の熱処理を施し、急冷することにより室温まで冷却した。さらに粗粉砕とジェットミルによる粉砕とを実施し、磁石の原料粉末としての合金粉末を調製した。さらに上記合金粉末を磁界中でプレス成形して圧縮成形体を作製した。
【0082】
次に、合金粉末の圧縮成形体を焼結炉のチャンバ内に配置し、チャンバ内を真空度9.0×10
−3Paの真空状態にした後に1155℃まで昇温させ、そのまま60分間保持した後、チャンバ内にArガスを導入した。Ar雰囲気中としたチャンバ内の温度を1180℃まで昇温させ、そのまま12時間保持して本焼結を行った。次に、焼結体を1120℃で16時間保持して溶体化処理を行った。なお、溶体化処理後の冷却速度を−280℃/分とした。
【0083】
次に、溶体化処理後の焼結体を、表2に示すように予備時効処理として670℃で15時間保持した後に300℃まで0.5℃/分の速度で徐冷した。その後、本時効処理として840℃で35時間保持し、400℃まで0.6℃/分の速度で徐冷を行い、そのまま1.5時間保持し、その後、室温まで炉冷することにより磁石を得た。得られた磁石の組成は表1の通りである。なお、他の実施例と同様に上記磁石の組成をICP法により確認した。また、上記磁石のCuリッチプレートレット相の有無、Mリッチプレートレット相に垂直な方向における金属組織の幅1μmあたりの領域内に存在するCuリッチプレートレット相の数、角型比、保磁力、および残留磁化を表3に示す。
【0084】
(実施例8)
各原料を所定の比率で秤量して混合した後、Arガス雰囲気中で高周波溶解して合金インゴットを作製した。上記合金インゴットに対し粗粉砕を実施した後に1160℃、8時間の熱処理を施し、急冷することにより室温まで冷却した。さらに、粗粉砕とジェットミルによる粉砕とを磁石の原料粉末としての合金粉末を調製した。さらに上記合金粉末を磁界中でプレス成形して圧縮成形体を作製した。
【0085】
次に、合金粉末の圧縮成形体を焼結炉のチャンバ内に配置し、チャンバ内を真空度8.0×10
−3Paの真空状態にした後に1165℃まで昇温させ、そのまま30分間保持した後、チャンバ内にArガスを導入した。Ar雰囲気中としたチャンバ内の温度を1120℃まで昇温させ、そのまま4時間保持して本焼結を行った。次に、焼結体を1140℃で12時間保持して溶体化処理を行った。なお、溶体化処理後の冷却速度を−180℃/分とした。
【0086】
次に、液体化処理後の焼結体を、表2に示すように予備時効処理として675℃で6時間保持した後に300℃まで0.9℃/分の速度で徐冷した。その後、本時効処理として830℃で30時間保持し、400℃まで0.55℃/分の速度で徐冷し、そのまま1.5時間保持し、その後、室温まで炉冷することにより磁石を得た。得られた磁石の組成は表1に示す通りである。なお、他の実施例と同様に上記磁石の組成をICP法により確認した。また、上記磁石のCuリッチプレートレット相の有無、Mリッチプレートレット相に垂直な方向における金属組織の幅1μmあたりの領域内に存在するCuリッチプレートレット相の数、角型比、保磁力、および残留磁化を表3に示す。
【0087】
(実施例9、実施例10)
実施例8と同組成の合金粉末を原料に用い、磁界中でプレス成形して圧縮成形体を作製した。この圧縮成形体を焼成炉のチャンバ内に配置し、チャンバ内を真空度9.0×10
−3Paの真空状態にした後に実施例8と同様の方法で本焼結および溶体化処理を行った。
【0088】
さらに表2に示すように、実施例9では、予備時効処理として675℃で15時間保持した後に300℃まで0.9℃/分の速度で徐冷し、実施例10では、予備時効処理として675℃で6時間保持した後に300℃まで0.6℃/分の速度で徐冷した。その後、本時効処理として830℃で30時間保持し、400℃まで0.55℃/分の速度で徐冷し、そのまま1.5時間保持し、その後、室温まで炉冷することにより磁石を得た。得られた各磁石の組成は表1に示す通りである。なお、他の実施例と同様に上記各磁石の組成をICP法により確認した。また、上記磁石のCuリッチプレートレット相の有無、Mリッチプレートレット相に垂直な方向における金属組織の幅1μmあたりの領域内に存在するCuリッチプレートレット相の数、角型比、保磁力、および残留磁化を表3に示す。
【0089】
(実施例11、実施例12)
実施例8と同組成の合金粉末を原料に用い、磁界中でプレス成形して圧縮成形体を作製した。この圧縮成形体を焼成炉のチャンバ内に配置し、チャンバ内を真空度9.0×10
−3Paの真空状態にした後に実施例8と同様の方法で本焼結および溶体化処理を行った。
【0090】
さらに表2に示すように、予備時効処理として675℃で15時間保持した後に300℃まで0.6℃/分の速度で徐冷した。その後、本時効処理として830℃で30時間保持し、実施例11では400℃まで0.55℃/分の速度で徐冷し、実施例12では、400℃まで0.35℃/分の速度で徐冷した。さらに、そのまま1.5時間保持し、その後、室温まで炉冷することにより磁石を得た。得られた各磁石の組成は表1に示す通りである。なお、他の実施例と同様に上記各磁石の組成をICP法により確認した。また、上記磁石のCuリッチプレートレット相の有無、Mリッチプレートレット相に垂直な方向における金属組織の幅1μmあたりの領域内に存在するCuリッチプレートレット相の数、角型比、保磁力、および残留磁化を表3に示す。
【0091】
(実施例13)
実施例8と同組成の合金粉末を原料に用い、磁界中でプレス成形して圧縮成形体を作製した。この圧縮成形体を焼成炉のチャンバ内に配置し、チャンバ内を真空度9.0×10
−3Paの真空状態にした後に実施例8と同様の方法で本焼結および溶体化処理を行った。
【0092】
さらに表2に示すように、予備時効処理として675℃で15時間保持した後に300℃まで0.6℃/分の速度で徐冷した。その後、本時効処理として830℃で30時間保持し、400℃まで0.22℃/分の速度で徐冷し、そのまま1.5時間保持し、その後、室温まで炉冷することにより磁石を得た。得られた各磁石の組成は表1に示す通りである。なお、他の実施例と同様に上記各磁石の組成をICP法により確認した。また、上記磁石のCuリッチプレートレット相の有無、Mリッチプレートレット相に垂直な方向における金属組織の幅1μmあたりの領域内に存在するCuリッチプレートレット相の数、角型比、保磁力、および残留磁化を表3に示す。
【0093】
(比較例1、比較例2)
表1に示す組成を有する磁石を、実施例1および実施例2のそれぞれと同一の方法で作製した。上記各磁石のCuリッチプレートレット相の有無、Mリッチプレートレット相に垂直な方向における金属組織の幅1μmあたりの領域内に存在するCuリッチプレートレット相の数、角型比、保磁力、および残留磁化を表3に示す。
【0094】
(比較例3ないし比較例5)
実施例8と同組成の合金粉末を原料に用い、磁界中でプレス成形して圧縮成形体を作製した。この圧縮成形体を焼成炉のチャンバ内に配置し、チャンバ内を真空度9.0×10
−3Paの真空状態にした後に実施例8と同様の方法で本焼結および溶体化処理を行った。
【0095】
さらに、表2に示すように、比較例3では、予備時効処理として675℃で2時間保持した後に300℃まで0.9℃/分の速度で徐冷し、その後、本時効処理として830℃で30時間保持し、400℃まで0.55℃/分の速度で徐冷し、そのまま1.5時間保持し、その後、室温まで炉冷することにより磁石を得た。
【0096】
また、表2に示すように、比較例4では、予備時効処理として675℃で6時間保持した後に300℃まで2.1℃/分の速度で徐冷し、その後、本時効処理として830℃で30時間保持し、400℃まで0.55℃/分の速度で徐冷し、そのまま1.5時間保持し、その後、室温まで炉冷することにより磁石を得た。
【0097】
また、表2に示すように、比較例5では、予備時効処理として675℃で6時間保持した後に300℃まで0.9℃/分の速度で徐冷し、その後、本時効処理として790℃で30時間保持し、400℃まで0.55℃/分の速度で徐冷し、そのまま1.5時間保持し、その後、室温まで炉冷することにより磁石を得た。
【0098】
上記各磁石の組成は表1に示す通りである。なお、他の実施例と同様に上記磁石の組成をICP法により確認した。また、上記各磁石のCuリッチプレートレット相の有無、Mリッチプレートレット相に垂直な方向における金属組織の幅1μmあたりの領域内に存在するCuリッチプレートレット相の数、角型比、保磁力、および残留磁化を表3に示す。
【0099】
表1ないし表3から明らかなように、実施例1ないし実施例13の永久磁石では、例えばSm濃度が12.93%である比較例1の永久磁石やZr濃度が5.28%である比較例2の永久磁石と比較して、Cuリッチプレートレット相が形成され、いずれも良好な角型比、高保磁力、および高磁化を発現している。このことから、永久磁石を構成する各元素の量を調整することにより、磁石特性を高めることができることがわかる。
【0100】
また、実施例8ないし実施例11の永久磁石では、例えば予備時効処理時間が2時間である比較例3の永久磁石と比較して、Cuリッチプレートレット相が形成され、いずれも良好な角型比、高保磁力、および高磁化を発現している。このことから、予備時効処理後時間を制御することにより、磁石特性を高めることができることがわかる。
【0101】
また、実施例8ないし実施例11の永久磁石では、例えば予備時効処理後の徐冷速度が2.1℃/分である比較例4の永久磁石と比較して、Cuリッチプレートレット相が形成され、いずれも良好な角型比、高保磁力、および高磁化を発現している。このことから、予備時効処理後の徐冷速度を制御することにより、磁石特性を高めることができることがわかる。
【0102】
また、実施例8ないし実施例11の永久磁石では、本時効処理温度が790℃であり、予備時効処理温度と本時効処理温度との温度差が115℃である比較例5の永久磁石と比較して、Cuリッチプレートレット相があり、いずれも良好な角型比、高保磁力、および高磁化を発現している。このことから、本時効処理温度、および予備時効処理温度と本時効処理温度との温度差を制御することにより、磁石特性を高めることができることがわかる。
【0103】
以上のように、実施例1ないし実施例13の永久磁石では、Cuリッチプレートレット相を有することにより、Fe濃度が23%以上の場合であっても、いずれも良好な角型比、高保磁力、および高磁化を発現している。このことから、実施例1ないし実施例13の永久磁石は、磁石特性に優れていることが分かる。
【0104】
【表1】
【0105】
【表2】
【0106】
【表3】