特許第5996802号(P5996802)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5996802
(24)【登録日】2016年9月2日
(45)【発行日】2016年9月21日
(54)【発明の名称】リチウムイオン二次電池の負極材用粉末
(51)【国際特許分類】
   H01M 4/48 20100101AFI20160908BHJP
   H01M 4/36 20060101ALI20160908BHJP
【FI】
   H01M4/48
   H01M4/36 C
【請求項の数】2
【全頁数】10
(21)【出願番号】特願2015-526139(P2015-526139)
(86)(22)【出願日】2014年5月21日
(86)【国際出願番号】JP2014002666
(87)【国際公開番号】WO2015004834
(87)【国際公開日】20150115
【審査請求日】2015年8月20日
(31)【優先権主張番号】特願2013-144418(P2013-144418)
(32)【優先日】2013年7月10日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】397064944
【氏名又は名称】株式会社大阪チタニウムテクノロジーズ
(74)【代理人】
【識別番号】110001553
【氏名又は名称】アセンド特許業務法人
(72)【発明者】
【氏名】喜多 祥章
(72)【発明者】
【氏名】柏谷 悠介
【審査官】 結城 佐織
(56)【参考文献】
【文献】 特開2011−100745(JP,A)
【文献】 国際公開第2012/036127(WO,A1)
【文献】 特開2010−140885(JP,A)
【文献】 特開2009−272153(JP,A)
【文献】 特開2013−95647(JP,A)
【文献】 特表2012−533864(JP,A)
【文献】 国際公開第2010/071166(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 4/00−4/62
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
リチウムイオン二次電池の負極材用粉末であって、
炭素被膜を有する酸化珪素粉末を含み、
当該負極材用粉末全体として、モル比で、Si:O=1:x(0.5≦x≦1.5)の平均組成を有し、
体積メディアン径D50が、0.5μm≦D50≦10μmの関係を満たし、
安息角が、40〜50°であることを特徴とする、リチウムイオン二次電池の負極材用粉末。
【請求項2】
当該負極材用粉末において前記炭素被膜を構成する炭素の割合が、0.5〜7.0質量%であることを特徴とする、請求項1に記載の、リチウムイオン二次電池の負極材用粉末。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、リチウムイオン二次電池の負極材用粉末に関し、より詳しくは、サイクル特性が良好であるリチウムイオン二次電池を得ることができる負極材用粉末に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、携帯型の電子機器、通信機器等の著しい発展に伴い、経済性と機器の小型化および軽量化との観点から、高エネルギー密度の二次電池の開発が強く要望されている。現在、高エネルギー密度の二次電池として、ニッケルカドミウム電池、ニッケル水素電池、リチウムイオン二次電池およびポリマー電池等がある。このうち、リチウムイオン二次電池は、ニッケルカドミウム電池およびニッケル水素電池に比べて格段に高寿命かつ高容量であることから、その需要は電源市場において高い伸びを示している。
【0003】
図1は、コイン形状のリチウムイオン二次電池の構成例を示す断面図である。リチウムイオン二次電池は、同図に示すように、正極1、負極2、電解液を含浸させたセパレータ3、および正極1と負極2との電気的絶縁性を保つとともに電池内容物を封止するガスケット4を備えている。充放電を行うと、リチウムイオンがセパレータ3の電解液を介して正極1と負極2との間を往復する。
【0004】
正極1は、対極ケース1aと対極集電体1bと対極1cとで構成され、対極1cにはコバルト酸リチウム(LiCoO)またはマンガンスピネル(LiMn4)が主に使用される。負極2は、作用極ケース2aと、作用極集電体2bと、作用極2cとを備えている。作用極2cに用いる負極材は、一般に、リチウムイオンの吸蔵・放出が可能な活物質(負極活物質)と導電助剤およびバインダーとを備えている。
【0005】
リチウムイオン二次電池の負極活物質として、SiO等、SiO(0<x≦2)で表される酸化珪素の粉末を用いることが、試みられている(下記特許文献1参照)。ここで、酸化珪素とは、二酸化珪素と珪素との混合物を加熱して生成した一酸化珪素ガスを冷却し、析出させて得られた珪素非晶質の酸化物の総称である。酸化珪素は、充放電時のリチウムイオンの吸蔵・放出による構造の崩壊および不可逆物質の生成等による劣化が少ないことから、有効な充放電容量が大きな負極活物質となり得る。
【0006】
負極材としての抵抗値を低減するために、酸化珪素粉末を炭素で被覆(コート)することが試みられている。下記特許文献2には、一般式SiO(1.0≦x<1.6)で表される酸化珪素であって、炭素(黒鉛)被覆量が3重量%以上である粉末が開示されている。特許文献2によれば、この粉末を用いることにより、従来に比して、サイクル特性(充放電を繰り返した後の充放電容量の初期充放電容量に対する割合)が良好なリチウムイオン二次電池の負極が得られるとされている。
【0007】
しかし、本発明者らが、引用文献2に記載の要件を満たす粉末を作製し、この粉末を用いて負極を作製して、電池を組み立て、充放電を繰り返したところ、100回目の放電容量は、十分に高いものではなかった。その原因について調査したところ、炭素被膜が不均一であるため、充放電によるSiO粉末の膨張・収縮によって炭素被膜が破壊されることが一因であることがわかった。
【0008】
下記特許文献3には、表面に導電性炭素被膜を有する酸化珪素粉末であって、導電性炭素被膜の厚さが均一にされたものが開示されている。
【0009】
しかし、本発明者らが、この粉末を用いて負極を作製して、電池を組み立て、充放電を繰り返したところ、サイクル特性は、特許文献2の粉末を用いた場合に比して改善されているが、実用化には不十分であった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特許第2997741号公報
【特許文献2】特許第4171897号公報
【特許文献3】国際公開第2012/108113号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明は、これらの問題に鑑みてなされたものであり、リチウムイオン二次電池の負極材として用いたときに高いサイクル特性を得ることができる粉末を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明者らは、リチウムイオン二次電池のサイクル特性が十分に高くならない原因に関して、負極を構成する粒子の形状に着目した。図2に、負極材用の従来の粉末であって、酸化珪素からなるものの二次電子像(SEI:Secondary Electron Image)を示す。この図に示すように、粉末を構成する粒子は、多数の角部(尖端、および鋭利な部分)を有している。
【0013】
このような形状を有している粉末に炭素被覆して負極材に用いると、リチウムイオン二次電池の充放電時に、負極を構成する粒子の膨張・収縮によって、炭素被膜のうち角部を覆う部分に応力が集中して、炭素被膜の破壊が進行し、これに起因して、サイクル特性が劣化すると考えられる。このような予想の下に、本発明者らは、負極材用粉末を構成する粒子の角を丸める処理をし、この処理を施した粉末を用いて電池特性の評価をして、サイクル特性が向上することを確認した。
【0014】
粒子の角を丸めることにより、当該負極材用粉末の安息角は小さくなる。本発明者らは、負極材用粉末の安息角と、サイクル特性との間に、相関があることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0015】
本発明の要旨は、下記(1)および(2)のリチウムイオン二次電池の負極材用粉末である。
(1)リチウムイオン二次電池の負極材用粉末であって、炭素被膜を有する酸化珪素粉末を含み、当該負極材用粉末全体として、モル比で、Si:O=1:x(0.5≦x≦1.5)の平均組成を有し、体積メディアン径D50が、0.5μm≦D50≦10μmの関係を満たし、安息角が、40〜50°であることを特徴とする、リチウムイオン二次電池の負極材用粉末。
【0016】
(2)当該負極材用粉末において前記炭素被膜を構成する炭素の割合が、0.5〜7.0質量%であることを特徴とする、上記(1)に記載の、リチウムイオン二次電池の負極材用粉末。
【発明の効果】
【0017】
本発明の負極材用粉末の安息角は、40〜50°であり、従来の負極材用粉末の安息角(たとえば、55°)に比して小さい。これは、本発明の負極材用粉末を構成する粒子は、従来の負極材用粉末を構成する粒子に比して、角部が少ないことによる。本発明の粉末をリチウムイオン二次電池の負極材に使用すると、従来の負極材用粉末を用いた場合に比して、リチウムイオン二次電池のサイクル特性が向上する。これは、本発明の粉末は、充放電時に、粒子が膨張・収縮しても、炭素被膜が破壊され難いためであると考えられる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
図1図1は、コイン形状のリチウムイオン二次電池の構成例を示す断面図である。
図2図2は、負極材用の従来の粉末の二次電子像である。
図3図3は、回転子で粉体を撹拌する装置により、図2に示す粉末を処理した後の当該粉末の二次電子像である。
図4図4は、比較例1〜3の粉末を製造するために用いた酸化珪素粉末の二次電子像である。
図5図5は、実施例1-1〜1-3の粉末を製造するために用いた酸化珪素粉末の二次電子像である。
図6図6は、実施例2-1〜2-3の粉末を製造するために用いた酸化珪素粉末の二次電子像である。
図7図7は、実施例3-1〜3-3の粉末を製造するために用いた酸化珪素粉末の二次電子像である。
図8図8は、実施例4-1〜4-3の粉末を製造するために用いた酸化珪素粉末の二次電子像である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
1.本発明の負極材用粉末
本発明の負極材用粉末は、「リチウムイオン二次電池の負極材用粉末であって、炭素被膜を有する酸化珪素粉末を含み、当該負極材用粉末全体として、モル比で、Si:O=1:x(0.5≦x≦1.5)の平均組成を有し、体積メディアン径D50が、0.5μm≦D50≦10μmの関係を満たし、安息角が、40〜50°であることを特徴とする、リチウムイオン二次電池の負極材用粉末」である。
この負極材用粉末は、たとえば、図1に示すリチウムイオン二次電池において、作用極2cの材料として使用することができる。
【0020】
酸化珪素粉末に炭素被膜を形成することにより、この粉末を用いた負極材の導電性を高くすることができる。炭素被膜は、たとえば、化学蒸着法(CVD)(たとえば、熱化学蒸着法(熱CVD))により形成されたものとすることができる。
【0021】
負極材用粉末全体として、モル比で、Si:O=1:x(0.5≦x≦1.5)の平均組成を有することにより、この負極材用粉末を用いたリチウムイオン二次電池(以下、単に、「電池」ともいう。)のサイクル特性と電池の初期充放電容量(電池容量)とが、いずれも高くなるようにすることができる。x<0.5であると、サイクル特性が悪くなり、1.5<xであると、電池容量が低下する。
【0022】
体積メディアン径D50は、体積基準の累積粒度分布の微粒側(または粗粒側)から累積50%の粒径である。粒子の粒度分布は、たとえば、レーザー回折式粒度分布測定装置により測定することができる。D50<0.5μmであると、この粉末のかさ密度は低く、負極材中での充填率は低い。これにより、電池容量が低くなる。10μm<D50であると、粒子の表面に炭素被膜を形成しても、この粉末を用いた負極材の導電性を十分に低くすることができない。体積メディアン径D50の望ましい範囲は、2〜7μmである。
【0023】
安息角が50°以下であることにより、安息角が50°より大きい場合に比して、その粉末を用いた負極材を備えた電池のサイクル特性を高くすることができる。これは、安息角が小さい粉末を構成する粒子は、角部が少ないので、角部で炭素被膜に応力が集中することが少なく、炭素被膜の破壊が進行しにくいためであると考えられる。安息角が、40°を下回るように、粉末を加工しようとすると、加工歩留まりが低下するので、安息角は、40°以上とする。
【0024】
安息角の測定は、JIS R 9301−2−2:1999(「アルミナ粉末−第2部:物性測定方法−2:安息角」の項)に記載の方法に従うものとする。安息角の測定に用いる粉末は、造粒されていない(二次粒子が形成されていない)ものを用いる。安息角の測定は、測定に用いる粉末を、200℃で2時間保持した後、室温(15〜25℃)まで冷却してから、60分以内に行う。これにより、粉末に吸着されている水分を除去して、水分が安息角の測定に与える影響を排除することができる。
【0025】
本発明の負極材用粉末において炭素被膜を構成する炭素の割合(以下、「被覆炭素濃度」ともいう。)は、0.5〜7.0質量%であることが望ましい。被覆炭素濃度が、0.5質量%未満であると、負極材の導電性を高くする効果が十分に得られず、電池として、高い初期放電容量が得られない。一方、被覆炭素濃度を7質量%より多くすると、酸化珪素粉末粒子に対するリチウムイオンの吸蔵・放出が阻害され、この粉末を電池の負極材として用いたときの電池容量が低下してしまう。電池容量を十分に高くするために、被覆炭素濃度は、5質量%以下とすることが望ましい。
【0026】
2.本発明の負極材用粉末の製造方法
本発明の負極材用粉末は、酸化珪素粉末を準備する準備工程と、前記酸化珪素粉末を気流中に浮遊させながら、前記酸化珪素粉末を構成する粒子を相互に衝突させる衝突工程と、前記衝突工程後の前記酸化珪素粉末を炭素で被覆する工程とを含む製造方法により、製造することができる。
【0027】
準備工程で準備される酸化珪素粉末は、公知の方法、たとえば、二酸化珪素と珪素との混合物を加熱して生成した一酸化珪素ガスを冷却し、析出させる方法により、製造することができる。このような粉末は、安息角が50°より大きいものであってもよい。
【0028】
衝突工程により、粉体を構成する粒子の角がとれて、粒子の形状は丸みを帯びるようになり、この酸化珪素粉末の安息角を小さく(たとえば、40〜50°の範囲内に入るように)することができる。衝突工程は、たとえば、気流により粉体を分級する分級機、たとえば、サイクロ分級の原理により分級するものを用いて実施することができる。この場合、粉体は、気流により、たとえば、チャンバー内で旋回運動するようにされ、その際、粒子が相互に衝突する。分級により、粒度が異なる複数種の粉末が生じる。これらの粉末のうち、必要なもののみ選択して使用することとしてもよく、すべての種類の粉末を混合して使用することとしてもよい。
【0029】
本発明者らは、回転子(たとえば、プロペラ)により粉体を撹拌する装置で処理することにより、粉体を構成する粒子の角をとることも試みた。この処理を、図2に二次電子像を示す酸化珪素粉末に対して施した。回転子の回転数は、8000〜10000rpmとした。図3に、この処理により得られた粉末の二次電子像を示す。図2図3とを対比すると明らかなように、この処理によって、粒子は微細化されているが、粒子の角部は丸められていない。また、このような処理では、回転子の回転を開始してから数分で、回転子、および回転子を支持する支柱等に、粉末が付着凝集し、粉末を構成する粒子に回転子を衝突させることがほとんどできなくなった。
【0030】
このような装置では、高速回転している回転子が、粒子に、大きな相対速度で衝突する。これにより、粒子が、角部以外の部分でも破壊され、新たな角部が生じるので、粒子の形状が丸みを帯びなかったものと考えられる。できる限り、粒子の角部のみを取り去り、角部以外の部分が破壊されないようにするには、粒子に過度の力が加えられないようにする必要がある。この目的のためには、回転子を粒子に衝突させると、粒子には過度の力が加えられ、一方、気流中で粒子を相互に衝突させると、粒子に適切な力が加えられる。
【0031】
炭素被覆する工程は、たとえば、熱化学蒸着法(熱CVD)によるものとすることができる。衝突工程での処理を施した酸化珪素粉末の安息角、および体積メディアン径は、通常、炭素被覆する工程によっては、実質的に変化しない。この場合、衝突工程において、目的の安息角、および体積メディアン径が得られるように、酸化珪素粉末を処理することにより、炭素被覆した後、目的の安息角、および体積メディアン径を有する粉末が得られる。炭素被覆する工程により、安息角、または体積メディアン径が、実質的に変化する場合は、その変化を考慮した処理を衝突工程で行い、炭素被膜形成後に目的の安息角、または体積メディアン径が得られるようにする必要がある。
【実施例】
【0032】
本発明の効果を確認するために、以下の試験を行い、その結果を評価した。
1.試験条件
まず、従来の負極材用粉末の原料として用いられる酸化珪素粉末(粉末A)を用意した。この粉末に対して、日清エンジニアリング株式会社製の分級機「エアロファインクラシファイア」を用いて、分級処理をした。粉末がこの処理を施されている間、粉末を構成する粒子は相互に衝突する。これにより、粉末を構成する粒子の角がとれて、粒子が丸みを帯びることが予想される。
【0033】
分級処理が終了した後、処理生成物である微粉と粗粉とを十分に混合した。分級処理とその後の混合とを、複数回繰り返し、当該繰り返し回数が異なる4種類の酸化珪素粉末(粉末B〜E)を得た。繰り返し回数は、粉末B、粉末C、粉末D、および粉末Eの順に、多くなる。
【0034】
図4図8に、それぞれ、粉末A〜Eの二次電子像を示す。概ね、粉末A、粉末B、粉末C、粉末D、および粉末Eの順に、粒子の角部が少なくなり、粒子の形状は丸みを帯びていくことがわかる。
【0035】
次に、粉末A〜Eのそれぞれに、熱化学蒸着法(熱CVD)により、炭素を被覆して、表面に炭素被膜が形成された酸化珪素粉末を得た。被覆炭素濃度(炭素被覆後の酸化珪素粉末において、炭素被膜を構成する炭素の割合(質量%))は、各粉末A〜Eに対して、10質量%、7質量%、および5質量%とした。
【0036】
得られた粉末を用いて、負極材を作製し、この負極材を用いてリチウムイオン二次電池を作製し、このリチウムイオン二次電池を用いて充放電試験を行い、サイクル特性を測定した。
【0037】
負極は、以下のようにして作製した。まず、炭素被覆をした上記酸化珪素粉末の各々と、アセチレンブラックと、ポリアクリル酸とを、65:10:25の質量比で混合し、適量のn−メチルピロリドンを添加してスラリーを作製した。このスラリーを、厚さが20μmの銅箔上に塗布し、120℃で30分間乾燥して、シートにした後、このシートを一辺が1cmの四角形に打ち抜いて負極とした。
【0038】
リチウムイオン二次電池は、以下のようにして作製した。上述の負極と、対極として、リチウム箔と、セパレータとしてポリエチレン製多孔質フィルム(厚さは20μm)とを用いてコインセルを作製した。電解液として、エチレンカーボネート(EC)と、ジエチルカーボネート(DEC)とを体積比で1:1で混合してなる混合溶液に、LiPF(六フッ化リンリチウム)を、1モル/リットルの割合で溶解させた溶液を作製し、この溶液(電解液)を、セパレータに含浸させた。このようなコインセルを、電池評価用のリチウムイオン二次電池とした。
【0039】
充放電試験は、株式会社ナガノ製の二次電池充放電試験装置を用いて行った。充電は、電圧が0Vに達するまでは0.1Cの定電流で行い、電圧が0Vに達した後はセル電圧を0Vに保ったまま行った。電流値が20μAを下回った時点で、充電を終了した。放電は、電圧が1.5Vに達するまで、0.1Cの定電流で行った。ここで、電流値に関して、1Cの値は、珪素酸化物の放電容量を1500mAh/gとして計算した。たとえば、電極の活物質重量をM(mg)としたときの0.1Cの電流値Iは、I=1500mAh/g×M×10−3×0.1として計算される。各試料について、充放電を100回行ったときの100回目の放電容量(充放電100回目の放電容量)を測定した。
2.試験結果
【0040】
表1〜表3に、用いた炭素被覆酸化珪素粉末の安息角、および被覆炭素濃度、ならびに充放電100回目の放電容量を示す。表1は、粉末A〜Eのそれぞれに、被覆炭素濃度10%で炭素を被覆した粉末(比較例1、および実施例1-1〜4-1)についての結果を示す。表2は、粉末A〜Eのそれぞれに、被覆炭素濃度7%で炭素を被覆した粉末(比較例2、および実施例1-2〜4-2)についての結果を示す。表3は、粉末A〜Eのそれぞれに、被覆炭素濃度5%で炭素を被覆した粉末(比較例3、および実施例1-3〜4-3)についての結果を示す。
【0041】
【表1】
【0042】
【表2】
【0043】
【表3】
【0044】
比較例、および実施例の炭素被覆酸化珪素粉末(以下、「試料」という。)は、いずれも、体積メディアン径D50が、約4μmであり、全体として、モル比で、Si:O=1:1の平均組成を有していた。
【0045】
比較例1〜3の試料は、分級機を用いた上述の処理(以下、「角とり処理」という)を行わなかった粉末Aを用いたものである。比較例1〜3の試料の安息角は、いずれも、55°であり、本発明として規定する角度の範囲外であった。一方、角とり処理を行った粉末B〜Eを用いた試料(実施例1-1〜4-1、実施例1-2〜4-2、実施例1-3〜4-3)の安息角は、40〜50°であり、いずれも、本発明として規定する角度の範囲内であった。
【0046】
角とり処理で分級および混合の繰り返し回数が多い試料(炭素被覆後)ほど、安息角は小さかった。粉末B〜Eを用いた試料は、それぞれ、被覆炭素濃度によらず、同じ安息角(それぞれ、50°、48°、46°、および40°)を有していた。
【0047】
表1〜表3において、充放電100回目の放電容量は、比較例1の測定値を100とした値を記している。表2、および表3では、表1において同じ粉末A〜Eを用いた試料による放電容量を100としたときの増減値(%)を、括弧内に示している。表1〜表3から明らかなように、同じ被覆炭素濃度の試料で比較すると、安息角が小さくなるほど、充放電100回目の放電容量は大きくなる。
【0048】
また、被覆炭素濃度が小さくなるほど、安息角の減少に対して充放電100回目の放電容量が向上する割合が、高くなる。従来は、充放電100回目の放電容量を高くするために、たとえば、被覆炭素濃度を10質量%以上とする必要があった。表1〜表3に示す結果から、本発明によれば、より少ない被覆炭素濃度(たとえば、7質量%以下)で、従来被覆炭素濃度を10質量%とした場合と同等以上の充放電100回目の放電容量が得られる、すなわち、サイクル特性が向上することがわかる。
【0049】
従来の負極材用粉末を用いる場合、被覆炭素濃度を高くして、炭素被膜を厚くすることにより、負極材を構成する粒子の角部で炭素被膜が破壊されるのが抑制されるものと考えられる。一方、本発明によれば、負極材を構成する粒子は、角部が少ないので、炭素被膜を厚くしなくても、すなわち、被覆炭素濃度を高くしなくても、角部での炭素被膜の破壊が生じ難いものと考えられる。
【符号の説明】
【0050】
2:負極、 2c:作用極
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8