(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5996883
(24)【登録日】2016年9月2日
(45)【発行日】2016年9月21日
(54)【発明の名称】複合梁を備える建物
(51)【国際特許分類】
E04B 1/30 20060101AFI20160908BHJP
E04B 1/58 20060101ALI20160908BHJP
E04B 1/16 20060101ALI20160908BHJP
E04C 5/18 20060101ALI20160908BHJP
【FI】
E04B1/30 K
E04B1/58 508P
E04B1/16 Q
E04C5/18 105
【請求項の数】5
【全頁数】11
(21)【出願番号】特願2012-34707(P2012-34707)
(22)【出願日】2012年2月21日
(65)【公開番号】特開2013-170386(P2013-170386A)
(43)【公開日】2013年9月2日
【審査請求日】2015年2月6日
(73)【特許権者】
【識別番号】302060926
【氏名又は名称】株式会社フジタ
(74)【代理人】
【識別番号】100089875
【弁理士】
【氏名又は名称】野田 茂
(72)【発明者】
【氏名】増田 圭司
(72)【発明者】
【氏名】佐々木 仁
(72)【発明者】
【氏名】シング ウペンド ラヴィンドラ
(72)【発明者】
【氏名】有馬 義人
【審査官】
星野 聡志
(56)【参考文献】
【文献】
特開昭61−233147(JP,A)
【文献】
特開2010−281044(JP,A)
【文献】
特開昭63−040029(JP,A)
【文献】
特開平08−001647(JP,A)
【文献】
特開平06−272311(JP,A)
【文献】
特開平05−302361(JP,A)
【文献】
特開2010−084503(JP,A)
【文献】
特開平01−268947(JP,A)
【文献】
特開2010−196325(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E04B 1/30
E04B 1/16
E04B 1/58
E04C 5/18
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
対向する柱間に架け渡された鉄骨の両端部を鉄筋コンクリートで覆い、前記鉄骨の中央部を鉄骨梁部とし、両端部を鉄筋コンクリート梁部とし、前記鉄筋コンクリート梁部は、前記鉄骨の上下にそれぞれコンクリート中に埋設された複数の梁主筋を備え、前記鉄筋コンクリート梁部の前記柱側の端部と前記鉄骨梁側の端部をそれぞれ補強筋により補強した複合梁を備える建物であって、
前記鉄筋コンクリート梁部の前記鉄骨部側の端部を、地震時に塑性変形する塑性ヒンジが前記鉄筋コンクリート梁部内に生じないように補強した鉄骨梁部側補強部が設けられ、
前記鉄骨梁部の両端が、前記塑性ヒンジが生じる塑性ヒンジ領域となっており、
前記鉄骨梁部側補強部は、前記鉄筋コンクリート梁部のコンクリート中に埋設された複数の追加の補強筋を含んで構成され、
前記複数の追加の補強筋は、互いに平行する2つの脚部とそれら脚部を連結する連結部とを有するコ字状に折り曲げられた差込み筋であって、前記連結部が前記鉄筋コンクリート梁部の前記鉄骨部側の端部に位置し、前記2つの脚部が前記鉄筋コンクリート梁部の前記鉄骨部側の端部から前記鉄筋コンクリート梁部に差し込まれており、
前記コ字状の差込み筋は、少なくとも前記鉄骨の上下左右にそれぞれ設けられ、
前記鉄骨の上下に設けられる前記コ字状の差込み筋は、前記連結部を水平方向に延在させると共に、前記連結部の両端を、前記鉄骨の水平方向の両端よりも前記鉄筋コンクリート梁部の幅方向において外側に位置させて設けられ、
前記鉄骨の左右に設けられる前記コ字状の差込み筋は、前記連結部を上下方向に延在させると共に、前記連結部の両端を、前記鉄骨の上下方向の両端よりも前記鉄筋コンクリート梁部の高さ方向において外側に位置させて設けられている、
ことを特徴とする複合梁を備える建物。
【請求項2】
対向する柱間に架け渡された鉄骨の両端部を鉄筋コンクリートで覆い、前記鉄骨の中央部を鉄骨梁部とし、両端部を鉄筋コンクリート梁部とし、前記鉄筋コンクリート梁部は、前記鉄骨の上下にそれぞれコンクリート中に埋設された複数の梁主筋を備え、前記鉄筋コンクリート梁部の前記柱側の端部と前記鉄骨梁側の端部をそれぞれ補強筋により補強した複合梁を備える建物であって、
前記鉄筋コンクリート梁部の前記鉄骨部側の端部を、地震時に塑性変形する塑性ヒンジが前記鉄筋コンクリート梁部内に生じないように補強した鉄骨梁部側補強部が設けられ、
前記鉄骨梁部の両端が、前記塑性ヒンジが生じる塑性ヒンジ領域となっており、
前記鉄骨梁部側補強部は、前記鉄筋コンクリート梁部のコンクリート中に埋設された複数の追加の補強筋を含んで構成され、
前記複数の追加の補強筋は、互いに平行する2つの脚部とそれら脚部を連結する連結部とを有するコ字状に折り曲げられたメッシュ筋であって、前記連結部が前記鉄筋コンクリート梁部の前記鉄骨部側の端部に位置し、前記2つの脚部が前記鉄筋コンクリート梁部の前記鉄骨部側の端部から前記鉄筋コンクリート梁部に差し込まれており、
前記コ字状のメッシュ筋は、少なくとも前記鉄骨の上下左右にそれぞれ設けられ、
前記鉄骨の上下に設けられる前記コ字状のメッシュ筋は、前記連結部を水平方向に延在させると共に、前記連結部の両端を、前記鉄骨の水平方向の両端よりも前記鉄筋コンクリート梁部の幅方向において外側に位置させて設けられ、
前記鉄骨の左右に設けられる前記コ字状のメッシュ筋は、前記連結部を上下方向に延在させると共に、前記連結部の両端を、前記鉄骨の上下方向の両端よりも前記鉄筋コンクリート梁部の高さ方向において外側に位置させて設けられている、
ことを特徴とする複合梁を備える建物。
【請求項3】
対向する柱間に架け渡された鉄骨の両端部を鉄筋コンクリートで覆い、前記鉄骨の中央部を鉄骨梁部とし、両端部を鉄筋コンクリート梁部とし、前記鉄筋コンクリート梁部は、前記鉄骨の上下にそれぞれコンクリート中に埋設された複数の梁主筋を備え、前記鉄筋コンクリート梁部の前記柱側の端部と前記鉄骨梁側の端部をそれぞれ補強筋により補強した複合梁を備える建物であって、
前記鉄筋コンクリート梁部の前記鉄骨部側の端部を、地震時に塑性変形する塑性ヒンジが前記鉄筋コンクリート梁部内に生じないように補強した鉄骨梁部側補強部が設けられ、
前記鉄骨梁部の両端が、前記塑性ヒンジが生じる塑性ヒンジ領域となっており、
前記鉄骨梁部側補強部は、前記鉄筋コンクリート梁部のコンクリート中に埋設された複数の追加の補強筋を含んで構成され、
前記複数の追加の補強筋は、互いに平行する2つの脚部とそれら脚部を連結する連結部とを有するコ字状に折り曲げられた強化繊維からなるメッシュ筋であって、前記連結部が前記鉄筋コンクリート梁部の前記鉄骨部側の端部に位置し、前記2つの脚部が前記鉄筋コンクリート梁部の前記鉄骨部側の端部から前記鉄筋コンクリート梁部に差し込まれており、
前記コ字状の強化繊維からなるメッシュ筋は、少なくとも前記鉄骨の上下左右にそれぞれ設けられ、
前記鉄骨の上下に設けられる前記コ字状の強化繊維からなるメッシュ筋は、前記連結部を水平方向に延在させると共に、前記連結部の両端を、前記鉄骨の水平方向の両端よりも前記鉄筋コンクリート梁部の幅方向において外側に位置させて設けられ、
前記鉄骨の左右に設けられる前記コ字状の強化繊維からなるメッシュ筋は、前記連結部を上下方向に延在させると共に、前記連結部の両端を、前記鉄骨の上下方向の両端よりも前記鉄筋コンクリート梁部の高さ方向において外側に位置させて設けられている、
ことを特徴とする複合梁を備える建物。
【請求項4】
対向する柱間に架け渡された鉄骨の両端部を鉄筋コンクリートで覆い、前記鉄骨の中央部を鉄骨梁部とし、両端部を鉄筋コンクリート梁部とし、前記鉄筋コンクリート梁部は、前記鉄骨の上下にそれぞれコンクリート中に埋設された複数の梁主筋を備え、前記鉄筋コンクリート梁部の前記柱側の端部と前記鉄骨梁側の端部をそれぞれ補強筋により補強した複合梁を備える建物であって、
前記鉄筋コンクリート梁部の前記鉄骨部側の端部を、地震時に塑性変形する塑性ヒンジが前記鉄筋コンクリート梁部内に生じないように補強した鉄骨梁部側補強部が設けられ、
前記鉄骨梁部の両端が、前記塑性ヒンジが生じる塑性ヒンジ領域となっており、
前記鉄骨梁部側補強部は、前記複数の柱主筋の前記鉄骨梁部側の端部をコンクリートで覆う前記鉄筋コンクリート梁部の小口部分に取着され前記鉄骨を前記鉄筋コンクリート梁部に挿通させる鋼製のプレートを含んで構成されている、
ことを特徴とする複合梁を備える建物。
【請求項5】
対向する柱間に架け渡された鉄骨の両端部を鉄筋コンクリートで覆い、前記鉄骨の中央部を鉄骨梁部とし、両端部を鉄筋コンクリート梁部とし、前記鉄筋コンクリート梁部は、前記鉄骨の上下にそれぞれコンクリート中に埋設された複数の梁主筋を備え、前記鉄筋コンクリート梁部の前記柱側の端部と前記鉄骨梁側の端部をそれぞれ補強筋により補強した複合梁を備える建物であって、
前記鉄筋コンクリート梁部の前記鉄骨部側の端部を、地震時に塑性変形する塑性ヒンジが前記鉄筋コンクリート梁部内に生じないように補強した鉄骨梁部側補強部が設けられ、
前記鉄骨梁部の両端が、前記塑性ヒンジが生じる塑性ヒンジ領域となっており、
前記鉄骨梁部側補強部は、前記鉄筋コンクリート梁部の小口部分において前記複数の柱主筋の前記鉄骨梁部側の端部をコンクリートのみで覆うコンクリートのかぶり部を含んで構成され、
前記かぶり部の厚さは、前記鉄筋コンクリート梁部の長手方向の長さを15%程度延長する寸法で形成されている、
ことを特徴とする複合梁を備える建物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、端部が鉄筋コンクリート造で中央が鉄骨造の複合梁(ハイブリッド梁)を備える建物に関する。
【背景技術】
【0002】
近年高層の建物の梁躯体として、鉄筋コンクリート(RC)と鉄骨(S)造とで構成された複合構造の梁(以下、複合梁またはハイブリッド梁とも称する)が採用されてきている。このような構造の梁は、両端部をRCで覆った鉄骨が、RC造等の柱間に架け渡されて接合されたものである。以下、ハイブリッド梁のうち、S造である中央部を鉄骨梁部、RCで覆われた両端部をRC梁部と便宜的に称する。ハイブリッド梁のRC梁部においては、一般的に柱側の端部と鉄骨梁部側の端部をそれぞれ補強筋により補強している。たとえば、あばら筋と呼ばれるスパイラル状の鉄筋が、鉄骨梁の両端部の周囲を取り囲むように、RC梁部全体に渡り埋設されている。このあばら筋には、上述の柱側の端部及び鉄骨梁部側の端部の配筋を密にした集中補強筋も形成されている。ハイブリッド梁は、中央部がS造であることから梁自重が軽減され、梁成が減少するために梁のロングスパン化を可能とした建物が得られる新しい構法として注目されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2009−24462
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
通常、建物の設計に際しては、大地震の発生時に梁に作用する曲げモーメントにより、柱に接続している梁の端部に塑性ヒンジが発生することを想定して、その建物の必要保有水平耐力を算出している。鉄骨梁を用いた鋼構造の建物では、その構造特性係数の値(Ds値)を、鉄筋コンクリート梁を用いたRC造の建物と比べて概ね0.05程度小さくすることができるため、その分、必要保有水平耐力を小さく抑えることができる。しかるに、上述したハイブリッド梁を用いた建物では、柱に接続している梁端部分がRC梁部であることから、塑性ヒンジはそのRC梁部の柱側の端部に発生する。それゆえ通常は、ハイブリッド梁を用いた建物のDs値は、鉄筋コンクリート梁を用いた建物のDs値に準じたものとなる。
ただし、鉄骨梁部の長いハイブリッド梁の場合には、そのRC梁部を十分に短くするならば、梁端部分にではなく、鉄骨梁部の端部(即ち、鉄骨梁部とRC梁部との境界の鉄骨梁側の部位)に塑性ヒンジを発生させることができる。このように塑性ヒンジ発生領域を鉄骨梁部の端部に設定した場合に、もし、当該領域に塑性ヒンジが確実に安定して発生するのであれば、塑性ヒンジが鉄骨梁部に発生するのであるから、その建物のDs値は、RC造の建物のDs値より小さい、鋼構造の建物のDs値に準じた値とすることができる。
【0005】
しかしながら実際には、上述したようにハイブリッド梁の鉄骨梁部の端部に塑性ヒンジ発生領域を設定した場合には、次のような課題が生じることが避けられなかった。即ち、大地震時に大きな曲げモーメントを受けて鉄骨が塑性変形を繰返すと、それによって塑性ヒンジ発生領域の耐力の上昇につれて、RC梁部の損傷が進行するため、ハイブリット梁の塑性変形能力が低下する。ついには、ハイブリッド梁の両端部分のRC梁部に塑性ヒンジが発生するおそれがある。RC梁部に塑性ヒンジが発生するおそれがあるならば、その建物のDs値は、RC造の建物のDs値に準じた値としなければならず、従って、Ds値を小さくして必要保有水平耐力を低く抑えようとする試みは無に帰する。
この発明は以上の点を鑑みてなされたものであり、ハイブリッド梁を用いた建物において、そのハイブリッド梁の鉄骨梁部の端部に設定した塑性ヒンジ発生領域に、塑性ヒンジを確実に安定して発生させることができるようにし、それによって建物のDs値を、鋼構造の建物のDs値に準じた小さな値とし、もって、必要保有水平耐力を低く抑えてコスト的に有利な建物を設計し得るようにすることにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上述した目的を達成するために、
請求項1記載の発明は、対向する柱間に架け渡された鉄骨の両端部を鉄筋コンクリートで覆い、前記鉄骨の中央部を鉄骨梁部とし、両端部を鉄筋コンクリート梁部とし、
前記鉄筋コンクリート梁部は、前記鉄骨の上下にそれぞれコンクリート中に埋設された複数の梁主筋を備え、前記鉄筋コンクリート梁部の前記柱側の端部と前記鉄骨梁側の端部をそれぞれ補強筋により補強した複合梁を備える建物であって、前記鉄筋コンクリート梁部の前記鉄骨部側の端部を、地震時に塑性変形する塑性ヒンジが前記鉄筋コンクリート梁部内に生じないように補強した鉄骨梁部側補強部が設けられ、前記鉄骨梁部の両端が、前記塑性ヒンジが生じる塑性ヒンジ領域となって
おり、前記鉄骨梁部側補強部は、前記鉄筋コンクリート梁部のコンクリート中に埋設された複数の追加の補強筋を含んで構成され、前記複数の追加の補強筋は、互いに平行する2つの脚部とそれら脚部を連結する連結部とを有するコ字状に折り曲げられた差込み筋であって、前記連結部が前記鉄筋コンクリート梁部の前記鉄骨部側の端部に位置し、前記2つの脚部が前記鉄筋コンクリート梁部の前記鉄骨部側の端部から前記鉄筋コンクリート梁部に差し込まれており、前記コ字状の差込み筋は、少なくとも前記鉄骨の上下左右にそれぞれ設けられ、前記鉄骨の上下に設けられる前記コ字状の差込み筋は、前記連結部を水平方向に延在させると共に、前記連結部の両端を、前記鉄骨の水平方向の両端よりも前記鉄筋コンクリート梁部の幅方向において外側に位置させて設けられ、前記鉄骨の左右に設けられる前記コ字状の差込み筋は、前記連結部を上下方向に延在させると共に、前記連結部の両端を、前記鉄骨の上下方向の両端よりも前記鉄筋コンクリート梁部の高さ方向において外側に位置させて設けられていることを特徴とする。
また、請求項2記載の発明は、対向する柱間に架け渡された鉄骨の両端部を鉄筋コンクリートで覆い、前記鉄骨の中央部を鉄骨梁部とし、両端部を鉄筋コンクリート梁部とし、前記鉄筋コンクリート梁部は、前記鉄骨の上下にそれぞれコンクリート中に埋設された複数の梁主筋を備え、前記鉄筋コンクリート梁部の前記柱側の端部と前記鉄骨梁側の端部をそれぞれ補強筋により補強した複合梁を備える建物であって、前記鉄筋コンクリート梁部の前記鉄骨部側の端部を、地震時に塑性変形する塑性ヒンジが前記鉄筋コンクリート梁部内に生じないように補強した鉄骨梁部側補強部が設けられ、前記鉄骨梁部の両端が、前記塑性ヒンジが生じる塑性ヒンジ領域となっており、前記鉄骨梁部側補強部は、前記鉄筋コンクリート梁部のコンクリート中に埋設された複数の追加の補強筋を含んで構成され、前記複数の追加の補強筋は、互いに平行する2つの脚部とそれら脚部を連結する連結部とを有するコ字状に折り曲げられたメッシュ筋であって、前記連結部が前記鉄筋コンクリート梁部の前記鉄骨部側の端部に位置し、前記2つの脚部が前記鉄筋コンクリート梁部の前記鉄骨部側の端部から前記鉄筋コンクリート梁部に差し込まれており、前記コ字状のメッシュ筋は、少なくとも前記鉄骨の上下左右にそれぞれ設けられ、前記鉄骨の上下に設けられる前記コ字状のメッシュ筋は、前記連結部を水平方向に延在させると共に、前記連結部の両端を、前記鉄骨の水平方向の両端よりも前記鉄筋コンクリート梁部の幅方向において外側に位置させて設けられ、前記鉄骨の左右に設けられる前記コ字状のメッシュ筋は、前記連結部を上下方向に延在させると共に、前記連結部の両端を、前記鉄骨の上下方向の両端よりも前記鉄筋コンクリート梁部の高さ方向において外側に位置させて設けられていることを特徴とする。
また、請求項3記載の発明は、対向する柱間に架け渡された鉄骨の両端部を鉄筋コンクリートで覆い、前記鉄骨の中央部を鉄骨梁部とし、両端部を鉄筋コンクリート梁部とし、前記鉄筋コンクリート梁部は、前記鉄骨の上下にそれぞれコンクリート中に埋設された複数の梁主筋を備え、前記鉄筋コンクリート梁部の前記柱側の端部と前記鉄骨梁側の端部をそれぞれ補強筋により補強した複合梁を備える建物であって、前記鉄筋コンクリート梁部の前記鉄骨部側の端部を、地震時に塑性変形する塑性ヒンジが前記鉄筋コンクリート梁部内に生じないように補強した鉄骨梁部側補強部が設けられ、前記鉄骨梁部の両端が、前記塑性ヒンジが生じる塑性ヒンジ領域となっており、前記鉄骨梁部側補強部は、前記鉄筋コンクリート梁部のコンクリート中に埋設された複数の追加の補強筋を含んで構成され、前記複数の追加の補強筋は、互いに平行する2つの脚部とそれら脚部を連結する連結部とを有するコ字状に折り曲げられた強化繊維からなるメッシュ筋であって、前記連結部が前記鉄筋コンクリート梁部の前記鉄骨部側の端部に位置し、前記2つの脚部が前記鉄筋コンクリート梁部の前記鉄骨部側の端部から前記鉄筋コンクリート梁部に差し込まれており、前記コ字状の強化繊維からなるメッシュ筋は、少なくとも前記鉄骨の上下左右にそれぞれ設けられ、前記鉄骨の上下に設けられる前記コ字状の強化繊維からなるメッシュ筋は、前記連結部を水平方向に延在させると共に、前記連結部の両端を、前記鉄骨の水平方向の両端よりも前記鉄筋コンクリート梁部の幅方向において外側に位置させて設けられ、前記鉄骨の左右に設けられる前記コ字状の強化繊維からなるメッシュ筋は、前記連結部を上下方向に延在させると共に、前記連結部の両端を、前記鉄骨の上下方向の両端よりも前記鉄筋コンクリート梁部の高さ方向において外側に位置させて設けられていることを特徴とする。
また、請求項4記載の発明は、対向する柱間に架け渡された鉄骨の両端部を鉄筋コンクリートで覆い、前記鉄骨の中央部を鉄骨梁部とし、両端部を鉄筋コンクリート梁部とし、前記鉄筋コンクリート梁部は、前記鉄骨の上下にそれぞれコンクリート中に埋設された複数の梁主筋を備え、前記鉄筋コンクリート梁部の前記柱側の端部と前記鉄骨梁側の端部をそれぞれ補強筋により補強した複合梁を備える建物であって、前記鉄筋コンクリート梁部の前記鉄骨部側の端部を、地震時に塑性変形する塑性ヒンジが前記鉄筋コンクリート梁部内に生じないように補強した鉄骨梁部側補強部が設けられ、前記鉄骨梁部の両端が、前記塑性ヒンジが生じる塑性ヒンジ領域となっており、前記鉄骨梁部側補強部は、前記複数の柱主筋の前記鉄骨梁部側の端部をコンクリートで覆う前記鉄筋コンクリート梁部の小口部分に取着され前記鉄骨を前記鉄筋コンクリート梁部に挿通させる鋼製のプレートを含んで構成されていることを特徴とする。
また、請求項5記載の発明は、対向する柱間に架け渡された鉄骨の両端部を鉄筋コンクリートで覆い、前記鉄骨の中央部を鉄骨梁部とし、両端部を鉄筋コンクリート梁部とし、前記鉄筋コンクリート梁部は、前記鉄骨の上下にそれぞれコンクリート中に埋設された複数の梁主筋を備え、前記鉄筋コンクリート梁部の前記柱側の端部と前記鉄骨梁側の端部をそれぞれ補強筋により補強した複合梁を備える建物であって、前記鉄筋コンクリート梁部の前記鉄骨部側の端部を、地震時に塑性変形する塑性ヒンジが前記鉄筋コンクリート梁部内に生じないように補強した鉄骨梁部側補強部が設けられ、前記鉄骨梁部の両端が、前記塑性ヒンジが生じる塑性ヒンジ領域となっており、前記鉄骨梁部側補強部は、前記鉄筋コンクリート梁部の小口部分において前記複数の柱主筋の前記鉄骨梁部側の端部をコンクリートのみで覆うコンクリートのかぶり部を含んで構成され、前記かぶり部の厚さは、前記鉄筋コンクリート梁部の長手方向の長さを15%程度延長する寸法で形成されていることを特徴とする。
【発明の効果】
【0007】
本発明のハイブリッド梁(複合梁)を備える建物は、鉄骨梁部補強部を設けることで、鉄筋コンクリート梁部の鉄骨梁部側の端部の損傷を防止し、地震時にハイブリッド梁のS梁部の端部に確実に安定して塑性ヒンジを発生させることができるため、このハイブリッド梁を備える建物のDs値を、RC造の建物のDs値より小さい、鋼構造の建物のDs値に準じた値にすることができる。
このため、柱や梁を大きくすることなく塑性変形に強い建物を得ることができることとなり、建物を安価に設計する上で非常に効果的である。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】第1の実施の形態のハイブリッド梁の概略図である。
【
図2】第1の実施の形態のハイブリッド梁の、RC梁部付近における詳細な図である。
【
図3】第1の実施の形態のハイブリッド梁の、鉄骨梁部補強部の概略的な説明図である。
【
図4】(A)は片持ち梁先端に載荷し、その変位δから部材各Rを求め、P−R関係を得る説明図、(B)は第1の実施の形態のハイブリッド梁10の力学性能確認試験から得られた荷重―変位関係の図である。
【
図5】第2の実施の形態のハイブリッド梁の鉄骨梁部補強部の概略図である。
【
図6】第3の実施の形態のハイブリッド梁の鉄骨梁部補強部の概略図である。
【
図7】第4の実施の形態のハイブリッド梁の鉄骨梁部補強部の概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本発明の実施の形態を図示例と共に説明する。
図1は、第1の実施の形態の複合梁を示す概略図であり、複合梁10を備えた建物の一部を示している。また、
図2は
図1の一部の詳細な拡大図であり、具体的には柱際のRC梁部付近の拡大図である。
【0010】
図1−
図3は、第1の実施の形態のハイブリッド梁10の構成を説明するための概略図である。第1の実施の形態のハイブリッド梁10は、これを備えた建物(図示せず)の一部を構成するものとする。
ハイブリッド梁10は、対向する柱12間に架け渡された、I鋼やH鋼等の鉄骨Sの両端部をRCで覆う構造のものである。ここでは、鉄骨Sの中央部を鉄骨梁部10Aとし、両端部をRC部10Bとしており、
図1において符号11は床スラブを示している。RC梁部10Bは、これに該当する部位にあばら筋等の補強筋14を埋設して補強している。また、補強筋14のうち、RC梁部10Bの柱12側の端部と鉄骨梁10A側の端部に相当する部分においては、
図2に示されるように、特にあばら筋の配筋を密に配している。これを集中補強筋14Aとも称する。以上のような構成のハイブリッド梁10を備える建物として、たとえば橋梁や高層の建物等、様々な建造物が考えられる。
【0011】
上述のハイブリッド梁10のうち、RC梁部10Bの鉄骨梁部10A側の端部を、地震時に塑性変形する塑性ヒンジがRC梁部10B内に生じないように補強した、鉄骨梁部側補強部16が設けられている。
ここでは、
図3に示されるように、鉄骨梁部側補強部16は、RC梁部10Bのコンクリート中に埋設された複数の追加の補強筋17を含んで構成されている。鉄骨梁部側補強部16として上記の構成を採択する場合、通常の補強筋ではなく、メッシュ筋を用いてもよい。または、グラスファイバー、アラミド等の強化繊維からなるメッシュ筋であっても良い。この場合も、追加の補強筋17と同様の効果を得ることが出来る。
【0012】
また、鉄骨梁部10Aの両端には、地震発生時に、ハイブリッド梁10が曲げモーメントを受けた際に塑性ヒンジが生じるように設定された、塑性ヒンジ領域18が存在する。本発明を構成するハイブリッド梁は、RC梁部10Bにおいて鉄骨梁部側補強部16を備えているため、塑性ヒンジ領域18は、RC梁部10Bに係る部分には生じることがない。
地震発生時に、塑性ヒンジ領域18が繰り返し塑性変形することで、塑性ヒンジ領域18の鉄骨梁が硬化し、耐力上昇が生じる。これによりRC梁部10Bの鉄骨梁部10A側の端部が損傷し、塑性ヒンジが鉄筋コンクリート梁部にひろがるように作用するが、塑性ヒンジ18は、柱12から離れた位置にあり、さらにRC梁部10Bは補強筋14及び鉄骨梁部側補強部16を備えているため、RC梁部10Bは損傷を受けるおそれがない。具体的には、鉄骨梁部補強部16が設けられているため、塑性ヒンジ領域18に塑性ヒンジが形成されても、RC梁部10Bの鉄骨梁部10A側の端部の損傷を防止することができる。このように、地震時にハイブリッド梁のS梁部の端部に確実に安定して塑性ヒンジを発生させることができるため、このハイブリッド梁を備える建物のDs値を、RC造の建物のDs値より小さい、鋼構造の建物のDs値に準じた値にすることができる。
したがって、柱や梁を大きくすることなく塑性変形に強い建物を得ることができ、建物を安価に設計する上で非常に効果的である。
【0013】
図4(B)は第1の実施の形態のハイブリッド梁10の力学性能確認試験から得られた荷重―変位関係の図である。この試験は、加力スタブにハイブリット梁10を接合した構造の試験体に対し、
図4(A)に示すように、片持ち梁先端に荷重Pを載荷し、その変位δから部材角Rを求め、P−R関係を得、鉄骨梁部補強部16による補強前と補強後について行い、それぞれのP−R関係を示した。
【0014】
図4の結果から明らかなように、第1の実施の形態のハイブリッド梁10では、鉄骨梁部補強部16により補強されたRC梁部10Bは、水平力によってその補強筋に発生する歪みが十分に抑制されている。これは、補強されたRC端部10Bでは、鉄骨Sが鉄筋コンクリートによって強固に包持されていることを意味しており、そのため、大地震時に鉄骨梁部10Aの両端部の塑性ヒンジ領域18に発生した塑性ヒンジが塑性変形を繰返して当該部分の耐力が上昇した場合でも、塑性ヒンジ領域18が鉄骨梁部10Aの中へ進展することが、その補強された鉄筋コンクリートによって阻止されるため、塑性ヒンジは、設計時に設定した塑性ヒンジ領域18にのみ、確実に安定して発生する。このため、このハイブリッド梁を備える建物のDs値は、鋼構造の建物とDs値に準じた小さな値にすることができ、建物の必要保有水平耐力を低く抑えることが可能となる。
【0015】
以上の説明からも明らかなように、第1の実施の形態のハイブリッド梁10は、RC梁部10Bに塑性ヒンジが形成されないようにしているため、鉄骨梁部10Aの両端部に塑性ヒンジ領域18を確実に設けることが出来る。このため、このようなハイブリッド梁を備える建物のDs値を、鋼構造の建物と同程度の値に設定することができ、塑性変形に強い建物を得ることができる。
【0016】
次に、
図5を用いて第2の実施の形態のハイブリッド梁100について説明する。
これは、鉄骨梁部側補強部16Aを、RC梁部10Bの小口部に取着された鋼製のプレート(PL)20を含んで構成したものである。鉄骨梁部側補強部16を上記のようなPL20で構成した場合、第1の実施の形態のハイブリッド梁10と同様の効果を得ることができる。またさらに、鉄骨梁部側補強部16Aは、RC梁部10Bの製造工程において、PL20をコンクリートを流し込む際の型枠を兼用することもできるため、施工性の向上を計ることができる。
【0017】
次に、
図6を用いて第3の実施の形態のハイブリッド梁110について説明する。
これは、鉄骨梁部側補強部16Bを、RC梁部10Bの周囲に巻装された鋼製で帯状のプレート(PL)22を含んで構成したものである。鉄骨梁部側補強部16Bを上記のような帯状のPL22で構成した場合も、第1及び第2の実施の形態と同様の効果を得ることができる。なお、帯状のPL22を巻く部位は、RC梁部10Bの鉄骨部10A側の端部周辺の周囲全てでもよいが、鉄骨梁下まで等、所望の補強強さを得るために適宜設定することが可能である。
【0018】
次に、
図7を用いて第4の実施の形態のハイブリッド梁120について説明する。
これは、鉄骨梁部側補強部16Cを、RC梁部10Bの小口部分のコンクリートのかぶり厚さTを厚くすることで構成したものであり、RC梁部10Bの小口部分にコンクリートのかぶり部24を設けたものである。かぶり厚さTの厚みは、たとえばRC梁部10bの長手方向の幅を15%程度延長して配設するものとする。また、
図7に示すように、かぶり部24を、RC梁部10B自体のコンクリートの厚さを左右側方および下方に10−15%程度多く取るようにして構成し、これにより鉄骨梁部側補強部16Cを構成してもよい。このようにすることで、地震発生時、塑性ヒンジ領域50に塑性ヒンジが形成されても、RC梁部10Bが損傷するおそれが少ない。
【0019】
本発明は上述の実施の形態に限定されないことは明らかである。
たとえば、鉄骨梁部側補強部は、実施の形態の鉄骨梁部側補強部16−16Cではなくとも、地震時に塑性変形する塑性ヒンジがRC梁部内に生じないようにRC梁部の鉄骨部側の端部を補強することが可能であれば、どのような形態のものを採択しても良い。
また同様に、鉄骨梁部側補強部は、所定の部位を補強することができるものであれば、実施の形態で採択した材料を用いることに限定する必要はなく、種々好適な材料を採択することができる。
【0020】
またそのほかにも、第4の実施の形態においては、鉄骨梁部側補強部16Cを、RC梁部10Bの小口部分のコンクリートのかぶり厚さTを、一例としてRC梁部10bの長手方向の幅を15%程度延長して配設したものとしたが、鉄骨梁部側補強部16Cをどの程度補強するかによって、好適な厚さに設計可能である。
その他、発明の主旨を逸脱しない範囲内で適宜他の形態へ変更することができるものとする。
【符号の説明】
【0021】
S……鉄骨、10,100,110,120……ハイブリッド梁(複合梁)、10A……鉄骨梁部、10B……RC梁部、12……柱、14……補強筋、14A……集中補強筋、16,16A,16B,16C……鉄骨梁部側補強部、17……追加の補強筋、18……塑性ヒンジ領域、20……鋼製のプレート、22……帯状のプレート、24……かぶり部。