特許第5996901号(P5996901)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許5996901光選択透過フィルター、樹脂シート及び固体撮像素子
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5996901
(24)【登録日】2016年9月2日
(45)【発行日】2016年9月21日
(54)【発明の名称】光選択透過フィルター、樹脂シート及び固体撮像素子
(51)【国際特許分類】
   G02B 5/20 20060101AFI20160908BHJP
   G02B 5/22 20060101ALI20160908BHJP
【FI】
   G02B5/20 101
   G02B5/22
【請求項の数】5
【全頁数】30
(21)【出願番号】特願2012-72027(P2012-72027)
(22)【出願日】2012年3月27日
(65)【公開番号】特開2013-64975(P2013-64975A)
(43)【公開日】2013年4月11日
【審査請求日】2014年11月7日
(31)【優先権主張番号】特願2011-191932(P2011-191932)
(32)【優先日】2011年9月2日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000004628
【氏名又は名称】株式会社日本触媒
(74)【代理人】
【識別番号】110000914
【氏名又は名称】特許業務法人 安富国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】松本 愛
(72)【発明者】
【氏名】平内 達史
(72)【発明者】
【氏名】中村 潤一
(72)【発明者】
【氏名】新居 知哉
【審査官】 横川 美穂
(56)【参考文献】
【文献】 特開平09−279125(JP,A)
【文献】 特開2011−100084(JP,A)
【文献】 特開2008−181121(JP,A)
【文献】 特開平06−214113(JP,A)
【文献】 特開2007−108582(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G02B 5/20
G02B 5/22
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
樹脂シートと、その少なくとも一方の表面に形成されてなる反射膜とを含む光選択透過フィルターであって、
該樹脂シートは、色素及び樹脂成分を含有する樹脂層を有し、
該色素は、金属フタロシアニン系色素及び/又はポルフィリン系色素を含み、
該樹脂層は、溶剤可溶性であり、
該樹脂層に含まれる樹脂成分はシクロオレフィン系樹脂、フッ素化芳香族ポリマー及びポリ(アミド)イミド樹脂からなる群より選択される少なくとも1種の溶剤可溶性樹脂であり、
該ポリ(アミド)イミド樹脂は、芳香環を脂環又は脂肪鎖で置き換えた構造を有することを特徴とする光選択透過フィルター。
【請求項2】
前記金属フタロシアニン系色素は、銅、バナジウム及び亜鉛からなる群から選択される少なくとも1種の金属元素を中心金属とする、金属フタロシアニンであることを特徴とする請求項1に記載の光選択透過フィルター。
【請求項3】
前記金属フタロシアニン系色素及びポルフィリン系色素は、600〜800nmの波長域に吸収極大を有することを特徴とする請求項1又は2に記載の光選択透過フィルター。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれかに記載の光選択透過フィルターに用いられることを特徴とする光選択透過フィルター用樹脂シート。
【請求項5】
請求項1〜3のいずれかに記載の光選択透過フィルター、レンズユニット部、及び、センサー部を少なくとも有することを特徴とする固体撮像素子。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光選択透過フィルター、樹脂シート及び固体撮像素子に関する。より詳しくは、光学部材やオプトデバイス部材の他、表示デバイス部品、機械部品、電気・電子部品等として有用な光選択透過フィルター、それに用いられる樹脂シート、及び、光選択透過フィルターを有する固体撮像素子に関する。
【背景技術】
【0002】
光選択透過フィルターは、特定波長の光の透過率を選択的に低減するフィルターであり、例えば、光学部材やオプトデバイス部材の他、表示デバイス部品、機械部品、電気・電子部品等として用いられる光フィルター部材として有用なものである。例えば、代表的な光学部材の1つである固体撮像素子(カメラモジュールとも称す)においては、光学ノイズとなる赤外線(特に波長>780nm)を遮断する赤外線カットフィルター(IRカットフィルター)が用いられている。
【0003】
ところで、近年、光学部材等においては、例えば、デジタルカメラモジュールが携帯電話に搭載される等、小型化が進み、光学部材の小型化が一層求められており、それに伴って、デジタルカメラモジュール等に用いられる光選択透過フィルター(赤外線カットフィルター)の薄膜化が望まれている。光選択透過フィルターは、主に、基材に金属等を蒸着させ無機多層膜とし、各波長の屈折率を制御したものが用いられており、その基材として、従来、ガラス板が用いられてきたが、薄膜化の要望の高まりを受け、樹脂を基材とする技術が検討されている。近年ではまた、携帯電話、デジタルカメラ、車載用カメラ、監視カメラ、表示素子(LED等)等の屋外でも使用できる用途への適用も検討されているが、これらの屋外使用用途では、直射日光暴露等の外部環境への耐性、すなわち高いレベルの耐光性が要求されることになる。
【0004】
基材に樹脂を用いた光選択透過フィルターとしては、例えば、厚みが200μm未満であり、かつ基材が耐リフロー性機能フィルムを含んで構成された光選択透過フィルターが開示されている(例えば、特許文献1参照。)。この光選択透過フィルターは、充分に薄くても耐熱性に優れるため、各種用途に極めて有用なものである。特許文献1の実施例には、基材上に反射型のIRカット膜(誘電体多層膜)を蒸着した形態の光選択透過フィルター、すなわち反射型フィルターが開示されている。
【0005】
また、反射型フィルターと、光吸収剤を含有する透明材料から構成される吸収型フィルターとの、特性の異なる2種のフィルターを併用することによって、光学フィルターをより優れた性能を有するものとする試みも行われている。例えば、特許文献2には、ガラス基板上に、近赤外吸収剤を含む顔料インクを塗布・乾燥して得られる光吸収膜と、該光吸収膜よりも高屈折率の膜とを、交互に多層積層した光吸収フィルターが開示されている。特許文献2の光吸収フィルターは、角度依存性を低減しつつ薄型化をも実現しようとするものである。また、特許文献3には、ガラス基板上に光学多層膜からなる熱線反射膜及び熱線吸収膜が形成された熱線カットフィルターが開示されている。特許文献3に開示された熱線カットフィルターは、ランプから発生する、近赤外線領域から遠赤外線領域に亙って広帯域に熱線をシャープに且つほぼ完全にカットできる広帯域の熱線カットフィルターを提供することを目的とし、短波長領域(例えば波長2μm以下)の赤外線を熱線反射膜で遮断し、長波長領域(例えば波長2μm以上)の赤外線を熱線吸収膜で遮断しようとするものである。
【0006】
ところで、ガラス基板上に多層膜を蒸着形成する場合には、透過させたい波長域(例えば、可視領域)での高い透過性、及び、遮断したい波長域(例えば、近赤外領域)での高いカット性能を実現しようと多層膜の層数を多くすると、蒸着工程における加熱・冷却によって層間に応力が生じクラックや割れが発生するおそれがある。そこで、吸収ガラスを基材に用いることにより、多層膜の層数を減らすことが提案されている(例えば、非特許文献1参照。)。しかしながら、吸収ガラスは吸収イオン濃度(吸収を示す金属イオンの濃度)を高めるとクラックが発生し、ガラスとして成形できないため、吸収イオン濃度を低くせざるを得ない。このため、充分な吸収性能を発揮するためには、相当な厚み(例えば、2mm程度)の吸収ガラスを用いる必要がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2008−181121号公報
【特許文献2】特開2006−106570号公報
【特許文献3】特開平8−329719号公報
【非特許文献】
【0008】
【非特許文献1】小檜山光信著、「光学薄膜フィルターデザイン」、オプトロニクス社、2006年10月5日、p.213−219
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
上述したように、種々の光選択透過フィルターが検討されているが、一般に、反射型フィルターは、光の遮断性能には優れるものの、光の入射角によって反射特性が変化する入射角依存性を有しており、その低減が課題であった。入射角依存性のないフィルターとしては、例えば、光吸収剤を含有する透明材料から構成される吸収型フィルターが挙げられるが、充分な吸収特性を実現するためには相当な厚みが必要であった。また、ガラス基材を用いる場合には、薄くすると割れやすくなる等の課題があり、薄膜化には限界があった。
このように、従来の技術には、遮断性能の入射角依存性を低減して特定波長の光を効果的に遮断するとともに、薄膜化の要請にも応えることができる光選択透過フィルターを得るための工夫の余地があった。また、直射日光暴露等の厳しい外部環境下でもより充分な性能を発揮できる、すなわち高いレベルの耐光性に優れる光選択透過フィルターとするための工夫の余地もあった。
【0010】
本発明は、上記現状に鑑みてなされたものであり、光遮断特性の入射角依存性が充分に低減され、光選択透過性に優れるとともに、充分な薄膜化が可能であり、しかも、耐光性に特に優れる光選択透過フィルター、該光選択透過フィルターに用いられる樹脂シート、及び、該光選択透過フィルターを有する固体撮像素子を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者は、光の透過率を選択的に低減する光選択透過フィルターについて種々検討したところ、反射層と吸収層とを有する形態とすることで、入射角依存性の低減と充分な遮断性能とを達成できることに着目した。そして、吸収層を色素及び樹脂成分を含む樹脂層とすると、吸収剤としての色素を高濃度としても均一に層中に分散でき、吸収ガラスのようにガラスを用いる場合と比較して、吸収層を大幅に薄膜化することができることを見いだした。また、光選択透過フィルターを、上述した吸収層(樹脂層)を有する樹脂シートの表面に、反射膜が形成された構成とすることで、基材にガラスを用いる場合と比較して、フィルター全体を大幅に薄膜化できることも見いだした。更に、樹脂層を溶剤可溶性のものとすると、色素の吸収性能の劣化を充分に抑制でき、耐光性に特に優れる光選択透過フィルターとなることを見いだし、上記課題をみごとに解決することができることに想到した。そして、このような光選択透過フィルターが、固体撮像素子(カメラモジュール)等の光学用途やオプトデバイス用途等に好適に適用することができることを見いだし、本発明に到達したものである。
【0012】
すなわち本発明は、樹脂シートと、その少なくとも一方の表面に形成されてなる反射膜とを含む光選択透過フィルターであって、該樹脂シートは、色素及び樹脂成分を含有する樹脂層を有し、該色素は、金属フタロシアニン系色素及び/又はポルフィリン系色素を含み、該樹脂層は、溶剤可溶性である光選択透過フィルターである。
本発明はまた、上記光選択透過フィルターに用いられる光選択透過フィルター用樹脂シートでもある。
本発明は更に、上記光選択透過フィルター、レンズユニット部、及び、センサー部を少なくとも有する固体撮像素子でもある。
以下に本発明を詳述する。なお、以下において段落に分けて記載される本発明の好ましい形態の2つ又は3つ以上を組み合わせたものも本発明の好ましい形態である。
【0013】
本発明の光選択透過フィルターは、樹脂シートと、その少なくとも一方の表面に形成されてなる反射膜とを有する。
このような光選択透過フィルターにおける樹脂シートは、色素及び樹脂成分を含有する樹脂層を有し、該樹脂層が溶剤可溶性を示すものである。このような樹脂層を有する樹脂シートを用いることにより、極めて高度の耐光性を発揮することができ、また、当該吸収性の樹脂層を、反射膜として好適な光学多層膜と併用することで、光学多層膜の層数を減らすことができ、該多層膜における応力を緩和できるため、多層膜のクラックや割れを充分に防止することができる。このような本発明の光選択透過フィルターに用いられる光選択透過フィルター用樹脂シートもまた、本発明の1つである。
【0014】
上記樹脂シートにおいて、樹脂層は、色素及び樹脂成分を含有するものであって、該樹脂層自体が溶剤可溶性を示す層である。このような樹脂層は、後述する溶媒キャスト法によって形成(成膜)することができるため、色素を高濃度で均一に分散できるとともに、比較的低温で樹脂層を形成することができる。また、樹脂層を形成するための樹脂成分(樹脂形成成分、バインダー樹脂とも称す)を適切に選択することにより、透過させたい波長域(例えば、可視領域)における高透過率と、遮断したい波長域(例えば、赤外領域)における高吸収性とを両立することが可能となる。
なお、溶剤可溶性の樹脂層とは、ジメチルアセトアミド又はN−メチルピロリドン100質量部に対し、1質量部以上溶解する樹脂層であることが好適である。
【0015】
上記樹脂層はまた、色素及び樹脂成分を含有するものであるが、色素が樹脂層中に分散されてなる形態のものが好適である。また、色素が分散された溶剤可溶性樹脂を用いて形成された樹脂層であることが好ましい。色素が分散された溶剤可溶性樹脂とは、少なくとも溶剤可溶性樹脂と色素とを含む組成物であって、該組成物中に色素が分散されてなるものである。
【0016】
上記樹脂層において、色素は、特定波長の光を吸収する物質を意味する。
上記色素としては、樹脂成分と混合又は混練可能な色素を用いることができるが、例えば、600〜800nmの波長域に吸収極大を有するものが好適である。これにより、光選択透過フィルターを、特に780nm〜10μmの赤外光を低減させる赤外線カットフィルターに好適に適用することが可能になる。より好ましくは、650〜750nmの波長域に吸収極大を有するものである。上記色素はまた、400nm以上、600nm未満の波長域には実質的に吸収極大を持たないものであることが好ましい。
【0017】
上記色素は、金属フタロシアニン系色素及び/又はポルフィリン系色素を含む。すなわち、金属フタロシアニン系色素及びポルフィリン系色素からなる群より選択される少なくとも1種を含むものである。これらの色素を含むことにより、色素の樹脂成分への溶解性が高くなり、また、光選択透過フィルターが可視光領域での透過率に優れるものとなる。より好ましくは、金属フタロシアニン系色素を少なくとも含むことである。
【0018】
上記金属フタロシアニン系色素としては、例えば、銅、亜鉛、コバルト、バナジウム、鉄、ニッケル、錫、銀、マグネシウム、ナトリウム、リチウム、鉛等の金属元素を中心金属とする金属フタロシアニンが挙げられる。中でも、溶解性、可視光透過性、耐光性がより優れることから、銅、バナジウム及び亜鉛のいずれか1以上を中心金属とするものが好ましい。このように、上記金属フタロシアニン系色素が、銅、バナジウム及び亜鉛からなる群から選択される少なくとも1種の金属元素を中心金属とする、金属フタロシアニンである形態は、本発明の好適な形態の1つである。中心金属としてより好ましくは銅及び亜鉛であり、更に好ましくは銅である。銅を用いたフタロシアニンは、どのようなバインダー樹脂に分散させても光による劣化がなく、非常に優れた耐光性を有する。
上記ポルフィリン系色素としては、テトラアザポルフィリン等が挙げられる。
【0019】
上記色素はまた、金属フタロシアニン系色素及びポルフィリン系色素以外のその他の色素を含んでいてもよい。例えば、シアニン系色素、クアテリレン系、スクアリリウム系、ナフタロシアニン系、ニッケル錯体系、銅イオン系色素等が挙げられる。
上記その他の色素の含有量は、金属フタロシアニン系色素やポルフィリン系色素による効果を充分に発揮させるため、色素の全量100重量部に対し、30重量部以下であることが好適である。より好ましくは20重量部以下、更に好ましくは10重量部以下、特に好ましくは、その他の色素を実質的に含まないことである。
上記シアニン系色素としては、I塩シアニン、ClO塩シアニン、Br塩シアニン、OAc塩シアニン、BF塩シアニン等が挙げられる。
上記銅イオン系色素としては、アクリル酸、カルボン酸、リン酸等の酸やケトン基、エステル基等の極性基が配位及び/又は結合した銅イオンを含む化合物等が挙げられる。
【0020】
上記色素は、上記樹脂層中に均一に分散又は溶解されてなることが好ましい。この形態において、色素を含有する樹脂層の可視光領域におけるヘイズが10%以下であることが好ましい。より好ましくは5%以下、更に好ましくは3%以下、最も好ましくは1%以下である。また、この形態において、色素を含有する樹脂層の可視光500nmにおける透過率は60%以上であることが好適である。より好ましくは70%以上、更に好ましくは80%以上、最も好ましくは85%以上である。
上記形態においては更に、上記色素を含有する樹脂層を含む光選択透過フィルターについても、可視光領域におけるヘイズ及び可視光500nmにおける透過率が、夫々上述した範囲にあることが好ましい。
【0021】
上記樹脂シートにおける色素の濃度(含有量)としては、樹脂シートの総量100質量%に対して、0.0001質量%以上、15質量%未満であることが好ましい。より好ましくは、0.001質量%以上、10質量%未満である。更に好ましくは、0.01質量%以上、0.5質量%未満である。
上記樹脂層における色素の濃度(含有量)としては、樹脂層の総量100質量%に対して、0.0001質量%以上、20質量%未満であることが好ましい。なお、樹脂層における色素の濃度(含有量)のより好適な範囲は、樹脂シートの構成や樹脂層の厚みによって異なる。
【0022】
上記樹脂シートが、後述するような、上記樹脂層が支持フィルムを兼ねた単層からなる場合は、上記樹脂層における色素の濃度(含有量)としては、樹脂層の総量100質量%に対して、0.001質量%以上が好ましく、0.01質量%以上がより好ましく、また1質量%以下が好ましく、0.5質量%以下がより好ましい。
また上記樹脂シートが、後述するような、上記樹脂層と支持フィルムとからなる場合には、上記樹脂層における色素の濃度(含有量)としては、樹脂層の総量100質量%に対して、1質量%以上、20質量%未満であることが好ましい。より好ましくは3質量%以上であり、特に8質量%以上が好ましい。また上限は、15質量%未満が更に好ましい。
【0023】
上記樹脂シートにおいて、樹脂成分としては、溶剤可溶性樹脂を用いることが好適である。溶剤可溶性樹脂とは、有機溶剤に可溶な樹脂を意味し、例えば、ジメチルアセトアミド又はN−メチルピロリドン100質量部に対し、1質量部以上溶解する樹脂であることが好適である。具体的には、例えば、ポリエーテルサルホン樹脂、ポリサルホン樹脂、シクロオレフィン系樹脂((変性)ノルボルネン系樹脂等)、ポリカーボネート樹脂、フッ素化芳香族ポリマー、ポリ(アミド)イミド樹脂、ポリアミド樹脂、アラミド樹脂、ポリアリレート樹脂等の1種又は2種以上を使用することができる。これらの中でも、上記樹脂成分は、ポリエーテルサルホン樹脂、シクロオレフィン系樹脂、ポリカーボネート樹脂、フッ素化芳香族ポリマー及びポリ(アミド)イミド樹脂からなる群より選択される少なくとも1種を含むものであることが好ましく、これにより、色素の吸収性能の劣化をより充分に抑制でき、耐光性に特に優れる光選択透過フィルターとすることが可能になる。より好ましくは、フッ素化芳香族ポリマー及び/又はポリ(アミド)イミド樹脂を用いることであり、これにより、上記樹脂層が色素をより均一に分散又は溶解された状態となり、また、耐光性に特に優れる光選択透過フィルターを与えることが可能になる。このように、上記樹脂成分がフッ素化芳香族ポリマー及び/又はポリ(アミド)イミド樹脂を含む形態は、本発明の特に好適な形態の1つである。更に好ましくは、ポリ(アミド)イミド樹脂を少なくとも含むことである。また、ポリ(アミド)イミド樹脂の中でも、ポリイミド樹脂が好適である。
【0024】
上記樹脂成分は、上述したようにフッ素化芳香族ポリマー及び/又はポリ(アミド)イミド樹脂を含むことが特に好適であるが、上記樹脂成分がフッ素化芳香族ポリマー及び/又はポリ(アミド)イミド樹脂を含む場合、その他の樹脂成分の含有量は、フッ素化芳香族ポリマーやポリ(アミド)イミド樹脂による効果を充分に発揮させるため、樹脂成分の全量100重量部に対し、30重量部以下であることが好適である。より好ましくは20重量部以下、更に好ましくは10重量部以下、特に好ましくは、その他の樹脂成分を実質的に含まないことである。
【0025】
上記樹脂成分としてはまた、架橋反応(硬化反応)することが可能な反応性基(例えば、エポキシ基やオキセタン環、エチレンスルフィド基等の開環重合性基や、アクリル基、メタクリル基、ビニル基等のラジカル硬化性基及び/又は付加硬化性基)を有するものであってもよい。
上記樹脂成分がそのまま、上記樹脂層を構成する樹脂成分となっていてもよいし、該樹脂成分が架橋反応等により変化したものが、上記樹脂層を構成する樹脂成分となっていてもよい。
なお、架橋可能な反応性基の量や成膜時の架橋反応をどの程度進めるかは特に限定されるものではないが、樹脂の溶剤可溶性が維持できる程度であることが好ましい。
【0026】
ここで、上記樹脂成分として、溶剤可溶性樹脂に替えて、溶剤可溶性樹脂原料(溶剤可溶性の樹脂原料、すなわち樹脂原料であって溶剤可溶性であるものをいい、樹脂としては溶剤可溶性樹脂に該当しないもの。)や、液状樹脂原料(液状の樹脂原料、すなわち樹脂原料であって液状であるものをいい、樹脂としては溶剤可溶性樹脂に該当しないもの。)を用いることも考えられる。しかしながら、樹脂形成成分(バインダー樹脂)として溶剤可溶性樹脂を用いると、溶剤可溶性樹脂原料及び液状樹脂原料を用いた場合に比べて、著しく耐光性に優れる。これは、溶剤可溶性樹脂が溶剤可溶性樹脂原料及び液状樹脂原料よりも、分散した色素の吸収性能の劣化を引き起こしにくいためである。理由として、溶剤可溶性樹脂は、そのモノマーや前駆体から調整し、重合や反応を完結させている。更に精製を行う場合もある。こうして得られた溶剤可溶性樹脂には、色素の劣化、分解を促進させる未反応物、反応性末端、イオン性基、触媒、酸・塩基性基等がほとんどないと考えられる。一方、溶剤可溶性樹脂原料及び液状樹脂原料は、このような色素の劣化、分解を促進させる因子が多く残っている。また、色素を分散させた状態で、色素の吸収性能や吸収スペクトルを保持したまま、溶剤可溶性樹脂原料及び液状樹脂原料の重合や反応を完結させることが難しい(未反応部位が多くなり、所望の物性も充分に得られない。)。そのため、同じ色素を分散させても、樹脂形成成分(バインダー樹脂)の違いにより、樹脂層の耐光性が異なる。したがって、耐光性の観点からは、少なくとも溶剤可溶性樹脂を用いることが好適である。このような溶剤可溶性樹脂の中でも、本発明ではフッ素化芳香族ポリマー及び/又はポリ(アミド)イミド樹脂を用いることが特に好ましく、これにより、耐光性に著しく優れる光選択透過フィルターを実現している。
【0027】
上記フッ素化芳香族ポリマーとしては、少なくとも1以上のフッ素基を有する芳香族環と、エーテル結合、ケトン結合、スルホン結合、アミド結合、イミド結合及びエステル結合の群より選ばれた少なくとも1つの結合とを含む繰り返し単位により構成された重合体等が挙げられ、具体的には、例えば、フッ素原子を有するポリイミド、ポリエーテル、ポリエーテルイミド、ポリエーテルケトン、ポリエーテルスルホン、ポリアミドエーテル、ポリアミド、ポリエーテルニトリル、ポリエステル等が挙げられる。これらの中でも、少なくとも1つ以上のフッ素基を有する芳香族環と、エーテル結合とを含む繰り返し単位を必須部位として有する重合体であることが好ましく、下記一般式(1−1)又は(1−2)で表される繰り返し単位を含む、フッ素原子を有するポリエーテルケトンがより好ましい。中でも特に、フッ素化ポリエーテルケトン(FPEK)が好適である。
なお、一般式(1−1)又は(1−2)で表される繰り返し単位は、同一でも異なっていてもよく、ブロック状、ランダム状等の何れの形態であってもよい。
【0028】
【化1】
【0029】
上記一般式(1−1)中、Rは炭素数1〜150の芳香族環を有する2価の有機鎖を表す。Zは2価の鎖又は直接結合を表す。x及びyは0以上の整数であり、x+y=1〜8を満たし、同一又は異なって、芳香族環に結合しているフッ素原子の数を表す。nは、重合度を表し、2〜5000の範囲内が好ましく、5〜500の範囲内がより好ましい。
上記一般式(1−2)中、Rは、置換基を有していてもよい、炭素数1〜12のアルキル基、炭素数1〜12のアルコキシ基、炭素数1〜12のアルキルアミノ基、炭素数1〜12のアルキルチオ基、炭素数6〜20のアリール基、炭素数6〜20のアリールオキシ基、炭素数6〜20のアリールアミノ基又は炭素数6〜20のアリールチオ基を表す。Rは、炭素数1〜150の芳香族環を有する2価の有機鎖を表す。zは、芳香族環に結合しているフッ素原子の数であり、1又は2である。nは、重合度を表し、2〜5000の範囲内が好ましく、5〜500の範囲内がより好ましい。
【0030】
上記一般式(1−1)において、x+yは2〜8の範囲内が好ましく、4〜8の範囲内がより好ましい。また、エーテル構造部分(−O−R−O−)が芳香族環に結合する位置としては、Zに対してパラ位であることが好ましい。
【0031】
上記一般式(1−1)及び(1−2)において、R及びRは2価の有機鎖であるが、例えば、下記の構造式群(2)で表されるいずれか一つ、又は、その組み合わせの有機鎖であることが好ましい。
【0032】
【化2】
【0033】
上記構造式群(2)中、Y〜Yは、同一若しくは異なって、水素基又は置換基を表し、該置換基は、ハロゲン原子、又は、置換基を有していてもよい、アルキル基、アルコキシ基、アルキルアミノ基、アルキルチオ基、アリール基、アリールオキシ基、アリールアミノ基若しくはアリールチオ基を表す。
【0034】
上記R及びRのより好ましい具体例としては、下記の構造式群(3)で表される有機鎖が挙げられる。
【0035】
【化3】
【0036】
上記一般式(1−1)において、Zは、2価の鎖又は直接結合していることを表す。当該2価の鎖としては、例えば、下記構造式群(4)(構造式(4−1)〜(4−13))で表される鎖であることが好ましい。
【0037】
【化4】
【0038】
上記構造式群(4)中、Xは、炭素数1〜50の2価の有機鎖であるが、例えば、上述した構造式群(3)で表される有機鎖が挙げられ、その中でもジフェニルエーテル鎖、ビスフェノールA鎖、ビスフェノールF鎖、フルオレン鎖が好ましい。
【0039】
上記一般式(1−2)中のRにおいて、アルキル基としては、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、ブチル基、イソブチル基、sec−ブチル基、tert−ブチル基、ペンチル基、イソペンチル基、ネオペンチル基、ヘキシル基、ヘプチル基、オクチル基、ノニル基、デシル基、ウンデシル基、ドデシル基、2−エチルヘキシル基等が好適である。
上記アルコキシ基としては、メトキシ基、エトキシ基、プロポキシ基、イソプロポキシ基、ブトキシ基、ペンチルオキシ基、ヘキシルオキシ基、2−エチルヘキシルオキシ基、オクチルオキシ基、ノニルオキシ基、デシルオキシ基、ウンデシルオキシ基、ドデシルオキシ基、フルフリルオキシ基、アリルオキシ基等が好適である。
上記アルキルアミノ基としては、メチルアミノ基、エチルアミノ基、ジメチルアミノ基、ジエチルアミノ基、プロピルアミノ基、n−ブチルアミノ基、sec−ブチルアミノ基、tert−ブチルアミノ基等が好適である。
上記アルキルチオ基としては、メチルチオ基、エチルチオ基、プロピルチオ基、n−ブチルチオ基、sec−ブチルチオ基、tert−ブチルチオ基、iso−プロピルチオ基等が好適である。
【0040】
上記アリール基としては、フェニル基、ベンジル基、フェネチル基、o−、m−又はp−トリル基、2,3−又は2,4−キシリル基、メシチル基、ナフチル基、アントリル基、フェナントリル基、ビフェニリル基、ベンズヒドリル基、トリチル基、ピレニル基等が好適である。
上記アリールオキシ基としては、フェノキシ基、ベンジルオキシ基、ヒドロキシ安息香酸及びそのエステル類(例えば、メチルエステル、エチルエステル、メトキシエチルエステル、エトキシエチルエステル、フルフリルエステル及びフェニルエステル等)由来の基、ナフトキシ基、o−、m−又はp−メチルフェノキシ基、o−、m−又はp−フェニルフェノキシ基、フェニルエチニルフェノキシ基、クレソチン酸及びそのエステル類由来の基等が好適である。
上記アリールアミノ基としては、アニリノ基、o−、m−又はp−トルイジノ基、1,2−又は1,3−キシリジノ基、o−、m−又はp−メトキシアニリノ基、アントラニル酸及びそのエステル類由来の基等が好適である。
上記アリールチオ基としては、フェニルチオ基、フェニルメタンチオ基、o−、m−又はp−トリルチオ基、チオサリチル酸及びそのエステル類由来の基等が好適である。
【0041】
上記Rとしては、これらのうち、置換基を有していてもよい、アルコキシ基、アリールオキシ基、アリールチオ基、アリールアミノ基が好ましい。但し、Rには、二重結合又は三重結合が含まれていてもよいし、含まれていなくてもよい。
【0042】
上記一般式(1−2)中のRにおける置換基としては、上述のような炭素数1〜12のアルキル基;フッ素、塩素、臭素、ヨウ素等のハロゲン原子;シアノ基、ニトロ基、カルボキシエステル基等が好適である。また、これら置換基の水素がハロゲン化されていてもよいし、されていなくてもよい。これらの中でも、好ましくは、ハロゲン原子、水素がハロゲン化されていてもよいし、されていなくてもよいメチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基及びカルボキシエステル基である。
【0043】
上記ポリ(アミド)イミド樹脂とは、狭義のポリイミド樹脂(イミド結合を含み、アミド結合を含まない樹脂を意味し、ここでいうアミド結合とは、アミック酸の脱水反応によりイミド結合を形成し得ないアミド結合を意味する。)、及び、ポリアミドイミド樹脂(アミック酸の脱水反応によりイミド結合を形成し得ないアミド結合とイミド結合とを含む樹脂を意味する。)のいずれをも包含する。
なお、ポリイミド樹脂におけるイミド結合は、通常、アミド結合とそれに隣接するカルボキシル基とを有する結合鎖(本発明では、該結合鎖をアミック酸ともいう。通常は、アミド結合が結合した炭素原子に隣接する炭素原子にカルボキシル基が結合した構造である。)におけるアミド結合とカルボキシル基との脱水反応による形成される。
ポリアミック酸から脱水反応によりポリイミド樹脂を生成させる際、分子内に若干量のアミック酸は残存し得る。したがって、本発明で「ポリイミド樹脂」という場合は、イミド結合を含み、アミック酸の脱水反応によりイミド結合を形成し得ないアミド結合は含まないが、アミック酸の脱水反応によりイミド結合を形成し得るアミド結合は含まないか若干量含んでいてもよい。
【0044】
本発明で用いる溶剤可溶性樹脂としては、ポリイミド樹脂におけるイミド結合含有率(イミド化反応によりイミド化し得るアミド結合数とイミド結合数の合計量100モル%に対するイミド結合数の割合)が80モル%以上であるポリイミド樹脂が好ましい。より好ましくは90モル%以上であり、更に好ましくは95モル%以上であり、特に好ましくは98モル%以上である。
【0045】
また本発明でいうポリアミドイミド樹脂とは、アミック酸の脱水反応によりイミド結合を形成し得ないアミド結合とイミド結合とを含むが、アミック酸の脱水反応によりイミド結合を形成し得るアミド結合は含まないか若干量含んでいてもよい。アミック酸の脱水反応によりイミド結合を形成し得るアミド結合を含む場合、アミド結合数(脱水反応によりイミド結合を形成し得ないアミド結合数と脱水反応によりイミド結合を形成し得るアミド結合数との和)とイミド結合数との合計量100モル%に対する、アミック酸の脱水反応によりイミド結合を形成し得るアミド結合の含有率は、20モル%未満が好ましく、より好ましくは10モル%未満であり、更に好ましくは5モル%未満であり、特に好ましくは2モル%未満である。
【0046】
上記ポリ(アミド)イミド樹脂は、多価カルボン酸化合物と、多価アミン化合物及び/又は多価イソシアネート化合物との反応により得られるポリ(アミド)イミド樹脂の原料(ポリ(アミド)イミド前駆体とも称す)を、イミド化反応して得ることができる。
上記ポリ(アミド)イミド樹脂はまた、透明性を有することが好ましい。透明性向上のためには、芳香環が少ないほうが好ましい。中でも、芳香環を脂環又は脂肪鎖等で置き換えた構造を有することが好適である。より好ましくは、全重量100%中の芳香環の重量が65%以下、更に好ましくは45%以下、特に好ましくは30%以下である。
【0047】
上記ポリ(アミド)イミド樹脂としては、イミド結合を有する化合物であれば特に限定されないが、例えば、下記一般式(5):
【0048】
【化5】
【0049】
(式中、Rは、同一又は異なって、有機基を表す。)で表される繰り返し単位を有する化合物が好適である。
上記一般式(5)におけるRとしては、2価の有機基が好ましく、中でも、炭素数2〜39の2価の有機基が好ましい。また、当該有機基は1種又は2種以上の炭化水素骨格を含むものが好ましい。炭化水素骨格としては、脂肪族鎖状炭化水素、脂肪族環状炭化水素又は芳香族炭化水素であることが好ましい。当該有機基はまた、複素環骨格を有するものであってもよい。
【0050】
上記一般式(5)におけるRとしてはまた、上記の炭化水素骨格及び/又は複素環骨格から選ばれる、同一又は異なる2種以上を有し、それらが炭素―炭素結合を介して、又は、炭素―炭素結合とは異なる結合基を介して、結合した骨格を含むものが好ましい。結合基としては、例えば、−O−、−SO−、−CO−、−Si(CH−、−CO−、−S−等が挙げられる。
なお、上記一般式(5)で表される繰り返し単位におけるそれぞれのRとしては、同一であっても異なるものであってもよい。
【0051】
上記Rで表される有機基は窒素原子に直接結合していてもよいし、結合基として、−O−、−SO−、−CO−、−CH−、−C(CH−、−Si(CH−、−CO−、−S−等を有していてもよい。
なお、一般式(5)におけるシクロヘキシル環における水素原子の一部又は全部が置換されていてもよいが、無置換(全て水素原子である形態)であるものが好ましい。
上記一般式(5)で表される繰り返し単位は、同一でも異なっていてもよく、ブロック状、ランダム状等の何れの形態であってもよい。
【0052】
上記ポリ(アミド)イミド樹脂の好ましい具体例としては、例えば、三菱ガス化学社製のネオプリムL−3430(厚さ50μm、100μm、200μm等)等が挙げられる。なお、この製品はフィルム形状であるが、有機溶剤に可溶であるので、本発明の溶剤可溶性樹脂として好ましく使用される。
【0053】
上記ポリエーテルサルホン樹脂としては、住友ベークライト社製のポリエーテルサルホンFS−1300等が、シクロオレフィン系樹脂としては、日本ゼオン社製のゼオネックス、JSR社製のアートン等が、ポリカーボネート樹脂としては、帝人社製のポリカーボネート樹脂ピュアエース等が、それぞれ好ましい例として挙げられる。
【0054】
上記色素が上記樹脂層中に分散されてなる形態において、色素が分散された樹脂層の形成方法としては特に限定されず、例えば、練込法や溶媒キャスト法等を採用することができる。中でも、溶媒キャスト法を採用することが好ましい。これにより、色素をより均一に分散できるため、光選択吸収性により優れた光吸収膜を形成することができる。また、色素を高濃度で分散可能であるため薄膜化が可能であり、撮像レンズ素子等の部材の低背化要求に応えることができる。更に、比較的低温で樹脂層を形成することができるため、比較的耐熱性の低い色素も使用することができる。このように、上記樹脂層が溶媒キャスト法によって形成されてなる形態は、本発明における好適な実施形態の1つである。
一方、練込法においては、樹脂を高温(例えば、200℃以上)で溶融して用いることになるため、耐熱性の低い色素は分解してしまい、充分な光吸収性が得られないおそれがある。また、色素の分散性も充分に高くならないおそれがある。
【0055】
上記溶媒キャスト法において使用する溶媒(有機溶剤)としては、上記樹脂層を形成するための樹脂形成成分を溶解可能であれば特に限定されず、樹脂の種類に応じて適宜選択可能であるが、例えば、メチルエチルケトン(2−ブタノン)、メチルイソブチルケトン(4−メチル−2−ペンタノン)、シクロヘキサノン等のケトン類;PGMEA(2−アセトキシ−1−メトキシプロパン)、エチレングリコールモノ−n−ブチルエーテル、エチレングリコールモノエチルエーテル、エチレングリコールエチルエーテルアセテート等のグリコール誘導体(エーテル化合物、エステル化合物、エーテルエステル化合物等);N,N−ジメチルアセトアミド等のアミド類;酢酸エチル、酢酸プロピル、酢酸ブチル等のエステル類;N−メチル−ピロリドン(より具体的には、1−メチル−2−ピロリドン等)等のピロリドン類;トルエン、キシレン等の芳香族炭化水素類;シクロヘキサン、ヘプタン等の脂肪族炭化水素類;ジエチルエーテル、ジプチルエーテル等のエーテル類;等が好適である。より好ましくは、メチルエチルケトン、酢酸エチル、N,N−ジメチルアセトアミドである。
【0056】
上記溶媒の使用量としては、上記樹脂成分の総量100質量%に対して、150質量%以上であることが好ましく、また、1900質量%以下が好ましい。より好ましくは、200質量%以上であり、また、1400質量%以下である。
【0057】
上記溶媒キャスト法においては、溶媒に樹脂層を形成するための樹脂形成成分(バインダー樹脂)を溶解して得られる溶液に色素を均一に分散させた分散液を、基材上に塗布・乾燥(硬化)することにより樹脂層を製膜(成膜)することになる。
【0058】
本発明の光選択透過フィルターを構成する樹脂シートの形態としては、例えば、(i)樹脂シートが、色素及び樹脂成分を含有する樹脂層と支持体フィルムとからなる形態、及び、(ii)樹脂シートが、色素及び樹脂成分を含有する樹脂層からなる形態(すなわち、支持体フィルムからなり、色素及び樹脂成分が該支持体フィルムに含有される形態)を挙げることができる。中でも、(i)の形態とすることが好ましい。より好ましくは、樹脂層が、支持体フィルムの両面に形成された形態である。このように、上記樹脂シートが、色素及び樹脂成分を含有する樹脂層と支持体フィルムとからなり、該樹脂層が、支持体フィルムの両面に形成された形態は、本発明の好適な形態の1つである。
【0059】
上記(i)の形態の場合、色素の分散困難な支持体フィルムであっても、表面に樹脂層をコートすることにより本発明の効果を付与できる。樹脂層の色素濃度や樹脂層のコート厚さを変えることにより、吸収特性の制御が可能であるため、例えば樹脂層を極薄コートすることにより支持体フィルムの膜厚をほとんど変えずに本発明の効果を付与したり、支持体フィルムの厚み調整に利用したり、樹脂層を支持体フィルムの表面傷削減等の表面改質に利用したりすることもできる。
また、樹脂層を支持体フィルムで挟み込んだ樹脂シートとすることも好ましい。
【0060】
上記(i)の形態において、支持体フィルムとしては、透明性に優れる樹脂を用いることが好ましい。具体的には、例えば、(メタ)アクリル樹脂、エポキシ樹脂、ポリカーボネート樹脂、ポリエステル樹脂、フッ素化芳香族ポリマー、ポリ(アミド)イミド樹脂、ポリアミド樹脂、アラミド樹脂、ポリシクロオレフィン樹脂(シクロオレフィン樹脂ともいう)等を用いることができる。これらの中でも、反射膜を蒸着形成する際の耐熱性に優れる点で、フッ素化芳香族ポリマー、ポリ(アミド)イミド樹脂、ポリアミド樹脂、アラミド樹脂、ポリシクロオレフィン樹脂、エポキシ樹脂、アクリル樹脂が好ましい。このように上記支持体フィルムが、フッ素化芳香族ポリマー、ポリ(アミド)イミド樹脂、ポリアミド樹脂、アラミド樹脂、ポリシクロオレフィン樹脂、エポキシ樹脂及びアクリル樹脂からなる群より選択される少なくとも1種により形成されるものである形態は、本発明の好適な実施形態の1つである。
【0061】
上記支持体フィルムを構成する樹脂としてはまた、色素の分散性が高いために光選択吸収性により優れた光吸収膜を形成することができるとともに、色素を高濃度で分散可能であるため薄膜化が可能である点で、溶剤可溶性樹脂、溶剤可溶性樹脂原料及び液状樹脂原料のうちの少なくとも1種より形成される樹脂に該当するものがより好ましい。中でも、可撓性等に優れる点で、上述した溶剤可溶性樹脂に該当するものが特に好ましい。
【0062】
上記溶剤可溶性樹脂原料とは、溶剤可溶性の樹脂原料、すなわち樹脂原料であって溶剤可溶性であるものをいう。例えば、ジメチルアセトアミド又はN−メチルピロリドン100質量部に対し、1質量部以上溶解するものが好適である。また、液状樹脂原料とは、液状の樹脂原料、すなわち樹脂原料であって液状であるものをいう。ここで、物が「液状である」とは、その物自体の粘度が、常温(25℃)において100Pa・s以下であることを意味する。上記粘度は、B型粘度計により測定することができる。
なお、上記樹脂原料には、樹脂の前駆体や該前駆体の原料、更に、樹脂を形成するための単量体(硬化性モノマー等)が含まれるものとする。
【0063】
上記溶剤可溶性樹脂原料又は液状樹脂原料として具体的には、例えば、エポキシ樹脂(化合物)、アクリル樹脂(化合物)、ビニル系単量体((メタ)アクリル系化合物、スチレン系化合物等)、ポリ(アミド)イミド前駆体等が挙げられる。好ましくは、エポキシ樹脂(化合物)、アクリル樹脂(化合物)である。
【0064】
上記エポキシ樹脂とは、エポキシ基を有する化合物(エポキシ化合物)を含む硬化性組成物の硬化物である。硬化物の形態としてはエポキシ化合物をカチオン硬化触媒の存在下で光及び/又は熱硬化してなる形態、エポキシ化合物を付加的硬化剤と反応させることにより得られる硬化物の形態等が挙げられる。後者において硬化反応促進のため従来公知の硬化促進剤を併用することもできる。付加的硬化剤としては、例えば、酸無水物、多価フェノール化合物、多価アミン等が例示されるが、中でも酸無水物が好ましい。
【0065】
上記エポキシ化合物としては、芳香族エポキシ化合物、脂肪族エポキシ化合物、脂環式エポキシ化合物、水添エポキシ化合物等が好適であり、例えば、大阪ガスケミカル社製のフルオレンエポキシ(オンコートEX−1);ジャパンエポキシレジン社製のビスフェノールA型エポキシ樹脂(エピコート828EL);ジャパンエポキシレジン社製の水添ビスフェノールA型エポキシ樹脂(エピコートYX8000);ダイセル工業社製の脂環式液状エポキシ樹脂(セロキサイド2021)等が好ましく使用できる。
なお、本明細書中、エポキシ基とは、3員環のエーテルであるオキシラン環を含むものであり、狭義のエポキシ基の他、グリシジル基(グリシジルエーテル基及びグリシジルエステル基を含む)を含むものを意味する。
【0066】
上記エポキシ樹脂はまた、その硬化前の硬化性組成物が、可撓性を有する成分(可撓性成分)を含むことが好適である。可撓性成分を含むことにより、成形時や基板、型等からはずすときに割れない、形が崩れない、剥がれやすい、柔軟性がある等の一体感のある樹脂組成物とすることができる。
上記可撓性成分としては、上記エポキシ化合物とは異なる化合物であってもよいし、上記エポキシ化合物の少なくとも1種が可撓性成分であってもよい。
【0067】
上記アクリル樹脂とは、(メタ)アクリロイル基を有する化合物((メタ)アクリロイル基含有化合物)を含む硬化性組成物の硬化物である。
上記アクリル樹脂として具体的には、ウレタンアクリレート、ポリエステルアクリレート、エポキシアクリレート、(メタ)アクリレートモノマーの(共)重合体等が挙げられる。フィルム化を容易にできる点で、上記樹脂(オリゴマー、ポリマー)と(メタ)アクリレートモノマーからなる組成物を硬化させることが好ましい。
【0068】
上記ポリ(アミド)イミド前駆体とは、ポリ(アミド)イミド樹脂を形成するための原料、すなわちイミド化反応に供される化合物であり、例えば、ポリアミック酸等が好適である。具体的には、例えば、日立化成工業社製のHPC−7000−30等が好ましく使用される。
【0069】
上記(i)の形態の樹脂シートにおいて、支持体フィルムの材質と樹脂層に含まれる樹脂成分との好適な組み合わせとしては、例えば、支持体フィルム:ポリイミド樹脂/樹脂層:ポリイミド樹脂、支持体フィルム:ポリイミド樹脂/樹脂層:フッ素化芳香族ポリマー等が挙げられる。中でも、支持体フィルム:ポリイミド樹脂/樹脂層:ポリイミド樹脂が最も好ましい。
【0070】
上記(i)の形態において、樹脂シートの製造方法は特に限定されないが、支持体フィルムの表面(片面又は両面)に、上述した溶剤キャスト法によって樹脂層を形成する方法が好ましい。
【0071】
上記(ii)の形態においては、色素を含有する樹脂層が支持体フィルムを兼ねることとなる。好適な形態については、上記樹脂層の説明において既に述べた通りである。
上記(ii)の形態において、樹脂シートの製造方法は特に限定されないが、任意の基材(樹脂フィルムやガラス板)の表面に、上述した溶剤キャスト法によって樹脂層を形成し、剥離することにより製造する方法が好ましい。
【0072】
本発明の光選択透過フィルターを構成する樹脂シートは、上記色素の吸収極大波長における透過率が60%以下であることが好ましい。これにより、上記吸収極大波長付近の光を効果的に遮断することができる。透過率としてより好ましくは、50%以下であり、更に好ましくは40%以下であり、特に好ましくは30%以下である。
透過率は、分光光度計(Shimadzu UV−3100、島津製作所社製)を用いて測定することができる。
【0073】
上記樹脂シートはまた、厚みが1mm以下であることが好ましい。これにより、光選択透過フィルターを充分に薄膜化することができ、光学部材等の低背化要求に応えることができる。樹脂シートの厚みとしてより好ましくは200μm以下、更に好ましくは100μm以下、より更に好ましくは80μm以下、より一層好ましくは50μm以下、特に好ましくは40μm以下、最も好ましくは30μm以下である。
また上記樹脂シートが、樹脂層と支持体フィルムとからなる形態においては、上記樹脂層の厚みが10μm以下、支持体フィルムの厚みが100μm以下であることが好ましい。
【0074】
本発明の光選択透過フィルターにおいて、反射膜としては、多層からなる膜であることが好適である。すなわち、上記反射膜は、光学多層膜が好ましい。また、光学多層膜としては、各波長の屈折率を制御できる無機多層膜等が、耐熱性に優れる点で好適である。無機多層膜としては、基材やその他の機能性材料層の上に、真空蒸着法、スパッタリング法等により、低屈折率材料及び高屈折率材料を交互に積層させた屈折率制御多層膜が好ましい。上記反射膜はまた、透明導電膜も好適である。透明導電膜としては、インジウム−スズ系酸化物(ITO)等の赤外線を反射する膜としての透明導電膜が好ましい。中でも、無機多層膜が好ましい。
【0075】
上記無機多層膜としては、誘電体層Aと、誘電体層Aが有する屈折率よりも高い屈折率を有する誘電体層Bとを交互に積層した誘電体多層膜が好適である。
上記誘電体層Aを構成する材料としては、屈折率が1.6以下の材料を通常用いることができ、好ましくは、屈折率の範囲が1.2〜1.6の材料が選択される。
上記材料としては、例えば、シリカ、アルミナ、フッ化ランタン、フッ化マグネシウム、六フッ化アルミニウムナトリウム等が好適である。
【0076】
上記誘電体層Bを構成する材料としては、屈折率が1.7以上の材料を用いることができ、好ましくは、屈折率の範囲が1.7〜2.5の材料が選択される。
上記材料としては、例えば、酸化チタン、酸化ジルコニウム、五酸化タンタル、五酸化ニオブ、酸化ランタン、酸化イットリウム、酸化亜鉛、硫化亜鉛、酸化インジウムを主成分とし酸化チタン、酸化錫、酸化セリウム等を少量含有させたもの等が好適である。
【0077】
上記誘電体層A及び誘電体層Bの各層の厚みは、通常、遮断しようとする光の波長をλ(nm)とすると0.1λ〜0.5λの厚みであることが好ましい。厚みが上記範囲外になると、屈折率(n)と膜厚(d)との積(n×d)がλ/4で算出される光学的膜厚と大きく異なって反射・屈折の光学的特性の関係が崩れてしまい、特定波長の遮断・透過をするコントロールができなくなるおそれがある。
【0078】
上記誘電体層Aと誘電体層Bとを積層する方法については、これら材料層を積層した誘電体多層膜が形成される限り特に制限はないが、例えば、CVD法、スパッタ法、真空蒸着法等により、誘電体層Aと誘電体層Bとを交互に積層することにより誘電体多層膜を形成することができる。
【0079】
上記無機多層膜等の反射膜は、上記方法等により好適に形成することができるが、蒸着によって光選択透過フィルターが変形しカールしたり、割れが生じたりする可能性を小さくするために、以下の方法を用いることができる。具体的には、離型処理したガラス等の仮の基材に蒸着層を形成し、光選択透過フィルターの基材となる樹脂シートに、該蒸着層を転写して反射膜を形成する反射膜の転写方法が好適である。この場合、樹脂シートには、接着層を形成しておくことが好ましい。
また樹脂シートが有機材料、具体的には、樹脂組成物により形成される場合には、未硬化、半硬化状態の樹脂シート(樹脂組成物)に、上記誘電体層等を蒸着した後、樹脂シートを硬化する方法が好適である。このような方法を用いると、多層蒸着後の冷却時に、基材が流動的となり、液状に近い状態となるために、樹脂組成物と誘電体層等との熱膨張係数差が問題にならず、光選択透過フィルターの変形(カール)を抑制することができる。
【0080】
このように樹脂シートへの反射膜(好ましくは光学多層膜、より好ましくは無機多層膜)の形成には、蒸着法を用いることが好適であるが、蒸着温度は、100℃以上とすることが好適である。より好ましくは120℃以上、更に好ましくは150℃以上である。このような高温で蒸着すると、無機膜(無機多層膜を構成する無機膜)が緻密で硬くなり、種々の耐性が向上し、歩留りが向上する等の利点がある。そのため、このような蒸着温度に耐える樹脂シート及び色素を用いることは、非常に意味がある。また、このような高温での蒸着には、樹脂シートを構成する樹脂層又は支持体フィルムとして、線膨張係数の低い樹脂層又は支持体フィルムを用いることが好適である。これにより、無機・有機の線膨張係数の差による無機層クラックを抑制することができる。また、線膨張係数が低い樹脂層又は支持体フィルムを用いると、高温で蒸着できるだけでなく、低温で蒸着したとしても、無機膜との線膨張係数の差が小さいため、本発明の光選択透過フィルターを含む固体撮像素子を製造する場合などに採用されるリフロー工程等の製造工程での加熱環境や過酷な使用環境においても、無機・有機の線膨張係数の差による無機層クラックが生じない。
【0081】
上記線膨張係数が低い樹脂層又は支持体フィルムとしては、線膨張係数が60ppm以下のものが好ましい。より好ましくは50ppm以下、更に好ましくは30ppm以下、最も好ましくは10ppm以下である。
上記線膨張係数が低い樹脂層又は支持体フィルムとして具体的には、例えば、ポリ(アミド)イミド樹脂、アラミド樹脂、ポリアミド樹脂、エポキシ樹脂、ポリエステル樹脂、有機無機ハイブリッド樹脂等が好適であり、上記樹脂層又は支持体フィルムが、これらからなる群より選択される少なくとも1種により形成されるものである形態は、本発明の好適な形態の1つである。また、樹脂を延伸する;無機微粒子等を分散させる;ガラスクロスを用いる;架橋密度を上げる;コンポジット化する;結晶化させる;等によっても線膨張係数を低下させることができる。
【0082】
上記反射膜は、上記樹脂シートの少なくとも一方の表面に形成されてなるものである。上記反射膜は、樹脂シートの一方の表面のみに形成されていてもよいし、樹脂シートの両面に形成されていてもよいが、両面に形成されることが好ましい。これにより、本発明に係る光選択透過フィルターの反りや反射膜の割れを低減することができる。また、樹脂シートが上記樹脂層と支持体フィルムとからなる形態においては、反射膜は、該樹脂層の表面に形成されることが好ましい。
【0083】
上述したように上記反射膜は光学多層膜であることが好ましいが、その積層数は、樹脂シートの一方の表面にのみ上記光学多層膜を有する場合は、10〜80層の範囲が好ましく、より好ましくは25〜50層の範囲である。一方、樹脂シートの両面に上記光学多層膜を有する場合は、上記光学多層膜の積層数は、樹脂シート両面の積層数の合計として、10〜80層の範囲が好ましく、より好ましくは25〜50層の範囲である。
また、上記反射膜の厚みは、0.5〜10μmであることが好ましい。より好ましくは、2〜8μmである。反射膜が上記樹脂シートの両面に形成される形態においては、両面の反射膜の合計の厚みが上記範囲内にあることが好ましい。
【0084】
本発明に係る光選択透過フィルターの他の好ましい形態として、上述の樹脂シートとは異なる樹脂フィルムの少なくとも一方の表面に反射膜が形成され、更に該反射膜の表面に、上述の樹脂シート(好ましくは色素を含有する樹脂層)が形成される形態を挙げることができる。すなわち、上記樹脂フィルムの表面に、反射膜、上記樹脂シート(樹脂層のみからなる樹脂シート、又は、樹脂層と支持体フィルムとからなる樹脂シート)の順に積層されてなる形態である。反射膜は樹脂フィルムの両面に設けられてなることが好ましい。その場合、樹脂シートは、一方の反射膜の表面に積層されていても、2つの反射膜の表面に積層されていてもよい。この場合、樹脂フィルムは、上述した支持体フィルムと同様のものを使用することができ、好適な形態についても支持体フィルムの場合と同様である。
【0085】
本発明の光選択透過フィルターは、所望の光の透過率を選択的に低減させるという機能以外の種々の他の機能を有していてもよい。例えば、光選択透過フィルターとして好ましい形態の1つである赤外カットフィルターの場合、紫外線を遮蔽する機能等の赤外カット以外の各種機能を有する形態や、強靱性、強度等の赤外カットフィルターの物性を向上させる機能を有する形態を挙げることができる。
このような、本発明の光選択透過フィルターが上記他の機能を有する形態においては、樹脂シートの一方の表面に上記反射膜を形成し、他方の表面に上記他の機能を付与するための機能性材料層を形成することが好ましい。
上記機能性材料層は、例えば、上述のCVD法、スパッタリング法、真空蒸着法により、直接、上記樹脂シート上に形成したり、離型処理された仮の基材上に形成された機能性材料層を樹脂シート上に接着剤で張り合わせたりすることにより得ることができる。また、原料物質を含有する液状組成物を樹脂シートに塗布、乾燥して製膜することによっても得ることができる。
【0086】
本発明の光選択透過フィルターはまた、厚み(樹脂シートと反射膜との合計の厚み)が1mm以下であることが好ましい。ここで、光選択透過フィルターの厚みとは、該光選択透過フィルターの最大厚みをいう。上記光選択透過フィルターの厚みとしてより好ましくは、薄膜化要求に対応し得る点で、200μm以下であり、更に好ましくは150μm以下、特に好ましくは120μm以下、最も好ましくは60μm以下である。また、耐リフロー性、特に260℃の温度における耐熱性に優れる点で、上記光選択透過フィルターの厚みとして好ましくは、1μm以上であり、より好ましくは10μm以上、更に好ましくは30μm以上である。光選択透過フィルターの厚みの範囲としては、1〜150μmであることが好ましく、より好ましくは10〜120μm、更に好ましくは30〜120μm、特に好ましくは30〜60μmである。
【0087】
上記光選択透過フィルターの厚みを1mm以下とすることにより、光選択透過フィルターをより小型化、軽量化することができ、種々の用途に好適に用いることができる。特に、光学部材等の光学用途において好適に用いることができる。光学用途においては、他の光学部材と同様に光選択透過フィルターも小型化、軽量化が強く求められている。本発明の光選択透過フィルターは、厚みを1mm以下とすることで、薄膜化をより達成でき、特に撮像レンズ等のレンズユニットに用いた場合に、レンズユニットの低背化を実現することができる。言い換えると1mm以下の薄い光選択透過フィルターを光学部材として用いた場合に、光路を短縮することができ、該光学部材を小さくすることができる。具体的には、カメラモジュールにおいては、レンズと光選択透過フィルターとシーモスセンサーとを有することとなる。
【0088】
図1及び図2に、カメラモジュールの一例を、模式的に示した。なお、これらの図は、エレクトロニックジャーナル第81回テクニカルセミナー(Electronic Journal 第81回 Technical Seminar)資料を参照した。
図1に示すように、光選択透過フィルターは、所望の波長の光(カメラモジュールにおいては、例えば、700nm以上の波長の光)をカットし、シーモスセンサーの誤作動を防ぐ役割がある。カメラモジュールに光選択透過フィルターを入れると、焦点距離が伸びるため、バックフォーカスが伸張し、モジュールが大きくなる。光選択透過フィルターの厚みがtで屈折率nが1.5程度の場合、図2に示すように、バックフォーカスが約t/3伸張し、モジュールが大きくなるが、光選択透過フィルターを薄くして、焦点距離を短くし、モジュールを小さくすることができる。それにより、例えば、1/10インチの光学サイズの光路長としては、光選択透過フィルターなしの場合の120%以下とすることが好ましい。より好ましくは110%以下であり、更に好ましくは、105%以下である。
【0089】
本発明の光選択透過フィルターは、光の透過率を選択的に低減するものである。低減させる光としては、10nm〜100μmの間のものであればよく、用いる用途により選択することができる。低減させる光の波長に応じて赤外線カットフィルター、紫外線カットフィルター、赤外・紫外線カットフィルター等とすることができるが、中でも、650nm〜10μmの赤外光と200〜350nmの紫外光とを低減し、それ以外の光を透過するものであることが好ましい。すなわち、上記光選択透過フィルターは赤外・紫外線カットフィルターであることが好ましい。これにより、光遮断特性の入射角依存性を低減するという本発明の作用効果をより充分に発揮することができる。
赤外線カットフィルターは、赤外線領域である650nm〜10μmの波長を有する光のうち、いずれかの波長(範囲)の光を選択的に低減する機能を有するフィルターであればよい。選択的に低減する波長の範囲としては、650nm〜2.5μm、650〜1000nm又は800nm〜1μmであることが好適である。これらの範囲の波長の少なくとも一つを選択的に低減するフィルターもまた、上記赤外線カットフィルターに含まれる。選択的に低減する波長の範囲としては、近赤外線領域である650nm〜1μmであることがより好ましい。
紫外線カットフィルターは、紫外線を遮断する機能を有するフィルターである。選択的に低減する波長の範囲としては、200〜350nmであることが好ましい。
赤外・紫外線カットフィルターは、紫外線及び赤外線の両方を遮断する機能を有するフィルターである。選択的に低減する波長の範囲は、上述と同様であることが好ましい。
【0090】
本発明の光選択透過フィルターが赤外線カットフィルターである形態においては、650〜1000nmの赤外線の透過率を選択的に5%以下に低減するものが好ましい。その他の波長域の透過率は、75%以上であることが好ましいが、フィルターの用途に応じて特定の波長域の透過率のみが高いものであってもよい。例えば、上記赤外線カットフィルターをカメラモジュールとして用いる場合には、赤外光の透過率が5%以下であり、可視光(400〜600nm)の透過率が80%以上であることが好適である。より好ましくは85%以上である。また、可視光の中でも450〜550nmの波長域の光の透過率が85%以上であることが好ましく、90%以上であることがより好適である。なお、上記赤外線カットフィルターにおいては、その他(赤外線領域以外)の波長の透過率としては、より好ましくは85%以上であり、更に好ましくは90%以上である。すなわち、上記光選択透過フィルターは、波長が400〜600nmにおける光の透過率が80%以上であり、かつ800〜1000nmにおける透過率が5%以下の赤外線カットフィルターであることが好ましい。
透過率は、分光光度計(Shimadzu UV−3100、島津製作所社製)を用いて測定することができる。
【0091】
本発明の光選択透過フィルターが紫外線カットフィルターである形態においては、200〜350nmの紫外線の透過率を選択的に5%以下に低減するものが好ましい。その他の波長域の透過率は、75%以上であることが好ましい。
【0092】
本発明の光選択透過フィルターが赤外・紫外線カットフィルターである形態においては、650nm〜10μmの赤外光と200〜350nmの紫外光とを選択的に5%以下に低減するものが好ましく、その他の波長域の透過率は、75%以上であることが好ましい。
【0093】
上記光選択透過フィルターとして好ましくは、600〜800nmの波長域に吸収極大を有する色素を含有する樹脂層を有する樹脂シートの少なくとも一方の表面に、反射膜が形成されてなるものであるが、この構成によって、光遮断特性の入射角依存性をより充分に低減することができる。光遮断特性の入射角依存性は、分光光度計(Shimadzu UV−3100、島津製作所社製)を用いて、入射角を変えた透過率(例えば0°、20°、25°、30°等。入射角0°における透過率とは、光選択透過フィルターの厚み方向から光が入射するようにして測定される透過率であり、入射角20°における透過率とは、光選択透過フィルターの厚み方向に対して20°傾いた方向から光が入射するようにして測定される透過率である)を測定し、そのスペクトル変化量により評価できる。
なお、光遮断特性の入射角依存性は、樹脂シートの吸収により充分に低減されている必要があり、入射角の変化に対して透過率スペクトルが変化しないこと、又は、その変化の程度が小さいことが好ましい。具体的には、入射角0°を20°に変えても(より好ましくは25°に変えても)、透過率80%以上の領域において、透過率のスペクトルが変化しないことが好ましく、より好ましくは、透過率70%以上の領域において透過率のスペクトルが変化しないことであり、更に好ましくは、透過率60%以上の領域において透過率のスペクトルが変化しないことである。最も好ましくは、いずれの透過率領域においてもスペクトルが変化しないことである。
【0094】
上述したように、本発明の光選択透過フィルターは、光遮断特性の入射角依存性を充分に低減することができるとともに、充分な薄膜化が可能であるため、自動車や建物等のガラス等に装着される熱線カットフィルター等として有用であるのみならず、カメラモジュール(固体撮像素子ともいう)用途における光ノイズを遮断し視感度補正するためのフィルターとして有用である。中でも、本発明の光選択透過フィルターは、薄型化・軽量化が進むデジタルスチルカメラや携帯電話用カメラ等のカメラモジュールに用いられるフィルターとして有用である。カメラモジュールは、通常、レンズユニット(撮像レンズ)部と、光選択透過フィルター、及び、CCDやCMOS等のセンサー部を備える。また、本発明の光選択透過フィルターを用いたカメラモジュールは、上述したように、通常、レンズユニット(撮像レンズ)部と、CCDやCMOS等のセンサー部との間に配置される。このように本発明の光選択透過フィルター、レンズユニット部、及び、センサー部を少なくとも有する固体撮像素子もまた、本発明の1つである。通常、反射型の光選択透過フィルターを用いた固体撮像素子では、入射角依存性に起因する影響(入射角による色むらの発生等)を抑制するために、多数のレンズを使用してレンズユニット部を構成するが、本発明の固体撮像素子では、上述した光選択透過フィルターを用いることによって、入射角依存性に起因する影響が充分に排除されるため、レンズユニット部を構成するレンズの枚数を少なくすることができ、薄型化・軽量化がより実現されることになる。
なお、レンズユニット部については、WO2008/081892に記載の形態が好ましく採用できる。
【0095】
また本発明の光選択透過フィルターは、上述したように、極めて高レベルの耐光性を発揮できることから、視野角依存性の抑制された光選択透過性を長期にわたり維持することができる。したがって、直射日光の下で使用される等、屋外使用の可能性がある固体撮像素子にも好適に用いることができる。このような固体撮像素子としては、例えば、携帯電話、デジタルカメラ、車載用カメラ、監視カメラ、表示素子(LED等)等が挙げられるが、このように本発明の光選択透過フィルターを用いてなる、携帯電話用カメラ、デジタルカメラ、車載用カメラ、監視カメラ、及び、表示素子もまた、本発明の好適な実施形態の1つである。
【発明の効果】
【0096】
本発明の光選択透過フィルターは、上述の構成よりなり、所望の波長の光を効果的に遮断することができるとともに、光遮断特性の入射角依存性が充分に低減された光選択透過フィルターである。したがって、本発明の光選択透過フィルターを用いた固体撮像素子(カメラモジュール)は、反射型の光選択透過フィルターを用いることにより課題となった入射角による色むらの発生が抑制された画像を取り込むことができる。また、充分な薄膜化も可能であるため、薄型化・軽量化が求められる用途において特に好適に用いることができる。具体的には、オプトデバイス用途、表示デバイス用途、機械部品、電気・電子部品等の様々な用途に好適に用いることができ、特にカメラモジュール用IRカットフィルターとして特に有用である。また、高レベルの耐光性を示すことができるため、直射日光に暴露される可能性がある用途等、厳しい耐光性が要求される用途に好ましく使用される。
【図面の簡単な説明】
【0097】
図1】:カメラモジュールの構成を示す断面模式図である。
図2】:光選択透過フィルターの有無によるバックフォーカスの伸張を示す模式図である。
図3】:透過率測定方法を示す概念図である。
図4】:本発明の樹脂シートに多層膜を積層して形成した光選択透過フィルターにおける、透過率及び入射角依存性を評価したスペクトルの一例である。
【発明を実施するための形態】
【0098】
以下に実施例を掲げて本発明を更に詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例のみに限定されるものではない。特に断りのない限り、「部」は「重量部」を、「%」は「質量%」を意味するものとする。なお、耐光性及び溶解性は下記の試験方法に従って評価した。
【0099】
<耐光性試験方法(蛍光灯照射試験)>
各フィルムについて、照度10万ルクスの蛍光灯光を室温(25℃)で100時間照射した。照射前後の透過率(波長700nm光に対する値、単位:%)を評価し、透過率の変化を調べた。なお、光源として東芝製メロウラインプライドFHF32EX−D−PDを用い、光源より95mm距離をおいた位置にサンプルを設置した。設置位置での照度は、照度計にて確認した。透過率は、分光光度計(Shimadzu UV−3100、島津製作所社製)にて測定した。
【0100】
<溶解性試験方法>
各フィルム(樹脂シート)を各々0.01g準備し、0.09gのDMAc(ジメチルアセトアミド)を加えた。120℃で1時間撹拌し、溶解するかどうかを観察し、下記基準で評価した。
○:溶解した。
×:溶解しなかった。
【0101】
合成例1
<脂環式ポリイミドの合成>
1,2,4,5−シクロヘキサンテトラカルボン酸(アルドリッチ製、純度95%)5部と無水酢酸(和光純薬製)44部とを、フラスコに仕込み、攪拌しながら反応器内を窒素ガスで置換した。窒素ガス雰囲気下で溶剤の還流温度まで昇温し、10分間溶剤を還流させた。攪拌しながら室温まで冷却し、結晶を析出させた。析出した結晶を固液分離し、乾燥して目的物(1,2,4,5−シクロヘキサンテトラカルボン酸二無水物)の結晶を得た。温度計、撹拌器、窒素導入管、側管付き滴下ロート、ディーンスターク、冷却管を備えたフラスコに、窒素気流下、4,4’−ジアミノジフェニルエーテル(和光純薬製)0.89部と、溶剤としてN−メチル−2−ピロリドン7.6部を仕込んで溶解させた後、1,2,4,5−シクロヘキサンテトラカルボン酸二無水物1部を室温にて固体のまま1時間かけて分割投入し、室温下2時間撹拌した。共沸脱水剤としてキシレンを2.6部添加して180℃で3時間反応を行い、ディーンスタークで還流して共沸する生成水を分離した。190℃に昇温しながらキシレンを留去した後、冷却しポリイミドのN−メチル−2−ピロリドン溶液を得た。
【0102】
合成例2
<FPEK(フッ素化ポリエーテルケトン)の合成>
温度計、冷却管、ガス導入管、及び、攪拌機を備えた反応器に、BPDE(4,4’−ビス(2,3,4,5,6−ペンタフルオロベンゾイル)ジフェニルエーテル)16.74部、HF(9,9−ビス(4−ヒドロキシフェニル)フルオレン)10.5部、炭酸カリウム4.34部、DMAc(ジメチルアセトアミド)90部を仕込んだ。この混合物を80℃に加温し、8時間反応した。反応終了後、反応溶液をブレンダーで激しく攪拌しながら、1%酢酸水溶液中に注加した。析出した反応物を濾別し、蒸留水及びメタノールで洗浄した後、減圧乾燥して、フッ素化芳香族ポリマー(FPEK)を得た。上記ポリマーのガラス転移点温度(Tg)は242℃、数平均分子量(Mn)が70770、表面抵抗値は1.0×1018Ω/cm以上であった。
なお、上記合成例における数平均分子量は、以下の方法により測定した。
ゲル透過クロマトグラフィー(カラム:TSKgel SuperMultiporeHZ−N 4.6150を2本、溶離液:テトラヒドロフラン、標準サンプル:TSKポリスチレンスタンダード)により測定した。
【0103】
実施例1
合成例1の溶液に、3PhOPcZn(中心金属:Zn、フタロシアニン系色素、吸収極大波長700nm)を0.004875部加え均一に溶解させた。この色素含有ポリイミド溶液をガラス板に塗布し、150℃で3時間焼成した。ガラス板から剥がして亜鉛フタロシアニン色素含有ポリイミドフィルム(厚み22μm)のフィルムを得た。このフィルムについて、上述した試験方法に従って耐光性及び溶解性を評価した。結果を表1に示す。なお、3PhOPcZnの構造を下記に示す。
【0104】
【化6】
【0105】
実施例2
合成例1の溶液に、PcCu(中心金属:Cu、フタロシアニン系色素、吸収極大波長708nm)を0.004875部加え均一に溶解させた。この色素含有ポリイミド溶液をガラス板に塗布し、150℃で3時間焼成した。ガラス板から剥がして銅フタロシアニン色素含有ポリイミドフィルム(厚み21μm)を得た。このフィルムについて、上述した試験方法に従って耐光性及び溶解性を評価した。結果を表1に示す。
【0106】
実施例3
合成例2のFPEK1部に、DMAc6部、3PhOPcZn(中心金属:Zn、フタロシアニン系色素、吸収極大波長700nm)を0.00325部加え均一に溶解させた。この色素含有FPEK溶液をガラス板に塗布し、150℃で3時間焼成した。ガラス板から剥がして亜鉛フタロシアニン色素含有FPEKフィルム(厚み19μm)を得た。このフィルムについて、上述した試験方法に従って耐光性及び溶解性を評価した。結果を表1に示す。
【0107】
実施例4
合成例2のFPEK1部に、DMAc6部、PcCu(中心金属:Cu、フタロシアニン系色素、吸収極大波長708nm)を0.00325部加え均一に溶解させた。この色素含有FPEK溶液をガラス板に塗布し、150℃で3時間焼成した。ガラス板から剥がして銅フタロシアニン色素含有FPEKフィルム(厚み20μm)を得た。このフィルムについて、上述した試験方法に従って耐光性及び溶解性を評価した。結果を表1に示す。
【0108】
比較例1
HPC−7000−30(溶媒:DMAc、固形分濃度30%日立化成工業社製、ポリアミドイミド前駆体)5部に、DMAc6部、3PhOPcZn(中心金属:Zn、フタロシアニン系色素、吸収極大波長700nm)を0.004875部加え均一に溶解させた。この色素含有ポリアミドイミド前駆体溶液をガラス板に塗布し、200℃で1時間焼成した。ガラス板から剥がして亜鉛フタロシアニン色素含有ポリアミドイミドフィルム(厚み15μm)のフィルムを得た。このフィルムについて、上述した試験方法に従って耐光性及び溶解性を評価した。結果を表1に示す。
【0109】
比較例2
HPC−7000−30(溶媒:DMAc、固形分濃度30%日立化成工業社製、ポリアミドイミド前駆体)5部に、DMAc6部、PcCu(中心金属:Cu、フタロシアニン系色素、吸収極大波長708nm)を0.004875部加え均一に溶解させた。この色素含有ポリアミドイミド前駆体溶液をガラス板に塗布し、200℃で1時間焼成した。ガラス板から剥がして亜鉛フタロシアニン色素含有ポリアミドイミドフィルム(厚み17μm)のフィルムを得た。このフィルムについて、上述した試験方法に従って耐光性及び溶解性を評価した。結果を表1に示す。
【0110】
比較例3
実施例1において、3PhOPcZn0.004875部の代わりに、シアニン系色素{1H−Benzindolium,3−butyl−2−[5−(3−butyl−1,3−dihydro−1,1−dimethyl−2H−benzindol−2−ylidene)−1,3−pentadien−1−yl]−1,1−dimethyl−tetrafluoroborate(1−)(HBFB、シアニン系色素、吸収極大波長680nm)}を0.0013部用いたこと以外は、実施例1と同様にして、シアニン色素含有ポリイミドフィルム(厚み21μm)のフィルムを得た。このフィルムについて、上述した試験方法に従って耐光性及び溶解性を評価した。結果を表1に示す。
なお、HBFBの構造を下記に示す。
【0111】
【化7】
【0112】
比較例4
実施例3において、3PhOPcZn0.00325部の代わりに、シアニン系色素{1H−Benzindolium,3−butyl−2−[5−(3−butyl−1,3−dihydro−1,1−dimethyl−2H−benzindol−2−ylidene)−1,3−pentadien−1−yl]−1,1−dimethyl−tetrafluoroborate(1−)(HBFB、シアニン系色素、吸収極大波長680nm)}を0.0009部用いたこと以外は、実施例3と同様にして、シアニン色素含有FPEKフィルム(厚み18μm)を得た。このフィルムについて、上述した試験方法に従って耐光性及び溶解性を評価した。結果を表1に示す。
【0113】
【表1】
【0114】
表1より、比較例1及び2で得たフィルム(樹脂シート)自体は、溶剤(ジメチルアセトアミド)に溶解しない、すなわち溶剤不溶性の樹脂層からなるのに対し、実施例1〜4及び比較例3〜4で得たフィルム(樹脂シート)は、溶剤(ジメチルアセトアミド)に溶解する、すなわち溶剤可溶性を示す樹脂層からなるものであることが分かる。なお、比較例1及び2のフィルムの原料のポリアミドイミド前駆体は、溶剤可溶性である。
【0115】
上記実施例及び比較例から以下のことがいえる。
実施例1、実施例3及び比較例1は、同じ色素(3PhOPcZn)を用いているものの、バインダー樹脂(樹脂成分)が異なるが、このような相違の下、耐光性を対比すると、実施例1及び3に比べて、比較例1では光照射前後の透過率の差が著しく大きい。また、実施例2、実施例4及び比較例2は、同じ色素(PcCu)を用いているものの、バインダー樹脂が異なり、同様にこれらの耐光性を対比すると、実施例2及び4では、光照射前後の透過率が変化しなかったのに対し、比較例2では透過率に差が生じている。したがって、樹脂成分の相違によって耐光性が著しく異なることが確認された。
また実施例1と比較例3との比較、及び、実施例3と比較例4との比較から、同じ樹脂成分を用いても、色素の相違によって、耐光性に顕著な差異が生じることが確認された。
【0116】
試験例
実施例1〜4及び比較例1〜4で得た各フィルム(樹脂シート)を、幅60mm、長さ100mmの長方形にカッティングした。この両面に、蒸着基板温度150℃で赤外線を反射する多層膜〔シリカ(SiO:膜厚120〜190nm)層とチタニア(TiO:膜厚70〜120nm)層とが交互に積層されてなるもの、積層数は片面20層ずつ両面に蒸着:計40層〕を蒸着により形成し、光選択透過フィルター(光学フィルター)を製造した。得られた各光選択透過フィルターについて、透過率及び入射角依存性を以下に示す方法にて測定・評価した。
【0117】
<透過率の測定・入射角依存性の評価>
Shimadzu UV−3100(島津製作所社製)を用いて200〜1100nmにおける透過率を測定した。透過率は、図3に示すように、入射光に対して垂直になるように光選択透過フィルターを設置した場合(このようにして測定された透過率スペクトルを0°スペクトルともいう。光選択透過フィルターの厚み方向から光が入射するようにして測定される。)と、入射光に対して25°光選択透過フィルターを傾けて設置した場合(このようにして測定された透過率スペクトルを25°スペクトルともいう。光選択透過フィルターの厚み方向に対して25°傾いた方向から光が入射するようにして測定される。)の夫々について測定した。
【0118】
その結果、スペクトルは示していないものの、色素を含有する樹脂層を有する光選択透過フィルター(実施例1〜4、比較例1〜4)では、近赤外領域での透過率スペクトルのスロープは緩やかになるものの、透過率80%以上の領域において、0°と25°とのスペクトルに変化がなく、光遮断特性の入射角依存性は低減されることが確認された。一例として、本発明の樹脂シートに、多層膜を積層して形成した光選択透過フィルターにおける、透過率及び入射角依存性を評価したスペクトルを示す(図4)。なお、色素を含有する樹脂層を有しない光選択透過フィルターでは、近赤外領域での透過率スペクトルの吸収端付近における透過率変化のスロープは急峻であるものの、すべての透過率領域において0°と25°のスペクトルにずれが生じ、光遮断特性の入射角依存性が大きいことが確認された。
したがって、本発明の光選択透過フィルター(実施例1〜4)は、光遮断特性の入射角依存性を低減すると同時に、高度の耐光性を発揮することができることが分かった。
【符号の説明】
【0119】
1:レンズ
2:光選択透過フィルター
3:センサー
4:光源
5:光選択透過フィルター
6:受光部
図1
図2
図3
図4