(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
金属ナノ粒子は、特許文献1に示されるように金属ナノ粒子の合成工程において副生する塩類やイオン分を除去したり、共存する無機イオン類を除去したりして精製・濃縮する必要のある場合が多い。この目的のために、ナノメーターサイズの金属ナノ粒子を限外濾過する場合、膜表面へのファウリングや微粒子自体の膜表面への目詰まりによる濾過流量の低下を防止するため、微粒子が膜表面に付着しにくい膜材質を選定することと、定期的に逆圧洗浄などの処理により膜表面を洗浄することが必要になる。
しかし、通常の濾過と逆圧洗浄の組み合わせでは濾過流量を回復することが難しい場合が多く、濾過流量回復のために高濃度の薬液洗浄を繰り返した場合には、薬液による洗浄システムの追加設置や洗浄廃液の処理等の費用負担が大きくなる。
本発明は、薬液洗浄を行わなくとも安定して高いレベルの濾過流量を維持できる、金属ナノ粒子とイオン分を含む液体から分離膜により共存する不純物イオン分を除去し金属ナノ粒子を精製・分離する方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、
金属ナノ粒子を含む液体から分離膜により金属ナノ粒子を分離する濾過方法であって、
前記金属ナノ粒子が、金属及び金属化合物からなる平均粒子径が1〜300nmの範囲のものであり、
前記分離膜が、水との接触角が58度以下の素材で構成された親水性膜であり、
前記濾過方法が、
クロスフロー方式で濾過圧力0.1MPa以下で実施する濾過工程と洗浄工程を有しており、
前記洗浄工程が、逆圧洗浄及び蓄圧フラッシング洗浄のうち少なくとも一つの洗浄工程を定期的に実施し、洗浄排水を原水に戻す工程である、金属ナノ粒子の濾過方法を提供する。
【発明の効果】
【0007】
本発明の濾過方法によれば、薬剤洗浄を行わなくとも安定して高い濾過流量を維持することができる。
【発明を実施するための形態】
【0008】
<金属ナノ粒子>
本発明の濾過方法の処理対象となる金属ナノ粒子は、金属及び金属化合物からなる平均粒子径が1〜300nmの範囲のものである。
【0009】
金属ナノ粒子を構成する金属及び金属化合物は特に制限されるものではなく、チタン、金、銀、銅、又はそれらの酸化物、窒化物、炭化物などを挙げることができる。前記の金属ナノ粒子は、合成工程で副生する塩類や共存するイオン分などの不純物が含まれる場合が多く、それらの塩類やイオン分を除去し、精製するため、本発明の分離膜により金属ナノ粒子を濾過・分離する。
平均粒子径は、5〜200nmが好ましく、10〜100nmがより好ましい。平均粒子径は、実施例に記載の方法により測定する。
【0010】
<分離膜>
本発明の濾過方法で使用する分離膜は、水との接触角が58度以下の素材で構成された親水性膜である。
水との接触角が58度以下の素材としては、セルロース系樹脂、ポリビニルアルコール樹脂、ポリアミド樹脂及びそれらの混合物からなるものを使用することができる。
また、前記水との接触角が58度以下の素材と疎水性材料を組み合わせて、水との接触角が58度以下になるようにしたものも含まれる。疎水性材料としては、ポリスルホン、ポリエーテルスルホン、ポリアクリロニトリルなどを挙げることができる。
水との接触角が58度以下の素材としては、セルロース系材料が好ましく酢酸セルロースが特に好ましい。
【0011】
分離膜は、平膜、中空糸膜、チューブ膜を使用することができる。
これらの中でも、本発明の濾過運転や逆圧洗浄が容易であることから、中空糸膜が好ましい。中空糸膜は、内圧型、外圧型のいずれでも使用できるが、適切な膜面線速の確保や、逆洗の容易性の面から内圧型がより好ましい。
中空糸膜の内径は、0.5〜2mmが好ましく、0.7〜1.5mmがより好ましい。
中空糸膜の外径は、0.8〜3mmが好ましく、1.1〜2.2mmがより好ましい。
膜厚は、150〜500μmが好ましい。
分離膜は、分画分子量1〜50万程度の限外濾過膜が好ましい。
分離膜は、それらを使用したスパイラルモジュール、平膜モジュール、中空糸膜モジュール、チューブラーモジュールとして使用することができる。
これらの中でも本発明の濾過運転が容易であることから、中空糸膜モジュールが好ましい。
【0012】
<濾過方法>
本発明の濾過方法は、濾過工程と洗浄工程を有している。
濾過工程は、クロスフロー方式で濾過圧力0.1MPa以下、好ましくは0.08Mpa以下で実施する。
このような小さな圧力で濾過することで、金属ナノ粒子が濾過膜面に押しつけられ難くなり、濾過性能が低下することを抑制することができる。
【0013】
洗浄工程は、逆圧洗浄及び蓄圧フラッシング洗浄のうち少なくとも一つの洗浄工程を定期的に実施し、洗浄排水を原水に戻す工程である。
逆圧洗浄工程は、所定間隔おいて定期的に実施する。この逆圧洗浄によって、濾過膜面に存在する金属ナノ粒子を取り除いて洗浄排水に移行させることで、濾過性能が低下することを抑制することができる。
逆圧洗浄の送水圧力は、0.1MPa〜0.2MPaの範囲であることが好ましい。
逆圧洗浄工程は、例えば、濾過工程を10〜120分間、好ましくは20〜60分間実施した後、逆圧洗浄を0.5〜3分間、好ましくは1〜2分間実施する運転を1サイクルとして、これを繰り返して実施することができる。
逆圧洗浄後の洗浄排水中には金属ナノ粒子が含まれているため、再度原水に戻す。逆圧洗浄水には、膜ろ過水を用いてもよいが、精製のためにろ過時に原水に補給している精製水を用いることが効率的である。逆圧洗浄を利用して精製水を原水に加水することができる。
【0014】
また、フラッシング洗浄や蓄圧フラッシング洗浄により、膜表面に付着・堆積している金属ナノ粒子を膜面から離脱させることができ、逆圧洗浄よりも簡便な膜面洗浄が行える利点が生じる。中空糸膜材質として酢酸セルロースを使用したときには、フラッシング洗浄が有効になり、特に蓄圧フラッシング洗浄が好ましい。
前記の蓄圧フラッシング洗浄を実施するときは、クロスフローろ過運転において、膜の濾過側の配管やモジュール内部に気体が封入される空間(蓄圧空間)を形成した状態で以下のようにして濾過運転を実施する。
濾過運転を実施しながら濾過側のバルブを閉めると、濾過の原水圧力によって濾過側空間の空気が圧縮され、次いで膜の濃縮側のバルブを絞ると、膜モジュールにさらに圧力がかかり、濾過側の空気がさらに圧縮されて、濾過側に濾過液が蓄積される。
この状態で、膜濃縮バルブを開放すると、膜モジュール濃縮側の圧力が下がり、これに応じて膜濾過側も圧力が下がり、濾過側に蓄積された空気が膨張することで、膜濾過側に溜まった濾過液が原水側へ逆流し、原水側フラッシングの流れと一緒になって、膜原水側の蓄積物を放出され、蓄圧フラッシング洗浄が実施される。
蓄圧フラッシング洗浄工程は、例えば、濾過工程を10〜120分間、好ましくは20〜60分間実施した後、蓄圧フラッシングを0.5〜3分間、好ましくは1〜2分間実施する運転を1サイクルとして、これを繰り返して実施することができる。
【0015】
分離膜の濾過性能の低下が大きいときは、洗浄工程として逆圧洗浄工程と蓄圧フラッシング洗浄工程の両方を実施することができる。
両方の洗浄を実施するときは、例えば、濾過工程を10〜120分間、好ましくは20〜60分間実施した後、逆圧洗浄工程を0.5〜3分間、好ましくは1〜2分間実施し、蓄圧フラッシングを0.5〜3分間、好ましくは1〜2分間実施する運転を1サイクルとして、これを繰り返して実施することができる。
逆圧洗浄工程と蓄圧フラッシング洗浄工程は、どちらを先に実施しても良い。
【0016】
本発明の濾過方法は、金属ナノ粒子の分離、精製、回収方法として適している。
【実施例】
【0017】
(1)平均粒子径の測定
透過型電子顕微鏡で観察を行い、画像解析することで、50個の粒子の粒子径の平均値を求めた。
【0018】
実施例1
金属ナノ粒子として平均粒子径80nmのチタンナノ粒子(石原産業社製)を用い、チタンナノ粒子濃度0.1%になるように純水に希釈した。
このチタンナノ粒子含有液に対して、不純物として硫酸ナトリウム(試薬特級・和光純薬)が1000ppmになるように添加・溶解して未精製原液とした。
この原液を、純水で10倍希釈した後、酢酸セルロース素材でできた分画分子量15万の限外濾過中空糸膜モジュール(FA03-FC-FUC1582;ダイセン・メンブレン・システムズ(株)社製)を用いて、濾過圧力0.05MPaにてクロスフロー濾過を行った。
このクロスフロー濾過により透過液側に硫酸ナトリウムが移行し、濃縮液側にチタンナノ粒子が移行する。
濾過30分ごとに逆圧洗浄を1分間実施するサイクルを繰り返して、濃縮液中のチタンナノ粒子濃度を元の濃度(0.1%)に戻した(1回目の濾過)。
その後、純水で濃縮液を10倍希釈して同様のろ過を繰り返した(2回目の濾過)。
1回目の濾過流量は平均1.5リットル/分、2回目の濾過流量は平均1.4リットル/分であり、殆ど低下がなかった。
未精製原液の電気伝導度は1.9mS/cmであり、2回精製後の濃縮液の電気伝導度は35μS/cmであった。純水は1μS/cmのものを使用した。
【0019】
比較例1
ポリエーテルサルホン素材でできた分画分子量15万の限外濾過中空糸膜モジュール(FA03-FC-FUS1582;ダイセン・メンブレン・システムズ(株)社製)を用いた以外は、実施例1と全く同様に精製処理を行った。
その時の1回目の濾過流量は平均2.1リットル/分、2回目の濾過流量は平均0.9リットル/分であり、濾過流量の低下が大きかった。
未精製原液の電気伝導度は1.9mS/cmであり、2回精製後の濃縮液の電気伝導度は45μS/cmであった。純水は1μS/cmのものを使用した。
【0020】
実施例2
逆圧洗浄の代わりに、蓄圧フラッシング洗浄を行うこと以外は実施例1と全く同様にクロスフローろ過を行った。
蓄圧フラッシング洗浄は、濾過水配管内部に約0.05リットルの空気の入った空間を持たせて、濾過運転中に濾過側バブルを閉止した後、膜濃縮側のバルブを絞って、約0.11MPaの圧力を原水にかけ、濾過側の空間部を圧縮させた後、濾過側のバルブを開放する操作を合計15秒間で行い、これを1サイクルとして合計4サイクルを連続して実施して、合計1分間の蓄圧フラッシング洗浄を実施した。
結果は、1回目の濾過流量は平均1.5リットル/分、2回目の濾過流量は平均1.4リットル/分であり、殆ど低下がなかった。
未精製原液の電気伝導度は1.9mS/cmであり、2回精製後の濃縮液の電気伝導度は35μS/cmであった。
【0021】
比較例2
使用する膜を比較例1で使用した膜モジュールに変更した以外は、実施例2と全く同様にした。
結果は、1回目の濾過流量は平均2.0リットル/分、2回目の濾過流量は平均0.4リットル/分であり、濾過流量の低下が大きかった。
未精製原液の電気伝導度は1.9mS/cmであり、2回精製後の濃縮液の電気伝導度は47μS/cmであった。
【0022】
比較例3
蓄圧フラッシング洗浄を実施しなかった以外は、実施例2と全く同様にした。
その結果、1回目の濾過流量は平均1.5リットル/分、2回目の濾過流量は平均1.2リットル/分であり、多少の低下が認められた。
未精製原液の電気伝導度は1.9mS/cmであり、2回精製後の濃縮液の電気伝導度は35μS/cmであった。