(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5996972
(24)【登録日】2016年9月2日
(45)【発行日】2016年9月21日
(54)【発明の名称】アルコール感付与剤およびその利用
(51)【国際特許分類】
A23L 27/10 20160101AFI20160908BHJP
A23L 2/00 20060101ALI20160908BHJP
A23L 21/10 20160101ALN20160908BHJP
【FI】
A23L27/10 C
A23L2/00 B
!A23L21/10
【請求項の数】7
【全頁数】9
(21)【出願番号】特願2012-191163(P2012-191163)
(22)【出願日】2012年8月31日
(65)【公開番号】特開2014-45712(P2014-45712A)
(43)【公開日】2014年3月17日
【審査請求日】2015年4月6日
(73)【特許権者】
【識別番号】596072586
【氏名又は名称】高田香料株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000590
【氏名又は名称】特許業務法人 小野国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】大本 秀郎
(72)【発明者】
【氏名】石塚 有紀
(72)【発明者】
【氏名】山中 孝仁
【審査官】
太田 雄三
(56)【参考文献】
【文献】
特開2009−171983(JP,A)
【文献】
特開2012−131821(JP,A)
【文献】
特開2010−268758(JP,A)
【文献】
国際公開第2010/070836(WO,A1)
【文献】
米国特許出願公開第2010/0055245(US,A1)
【文献】
米国特許出願公開第2007/0178206(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A23L 2/00−35/00
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
WPIDS/WPIX(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ダバナ抽出物および/またはトルーバルサム抽出物を含むことを特徴とするアルコール感付与剤。
【請求項2】
ダバナ抽出物が、ダバナオイルである請求項1記載のアルコール感付与剤。
【請求項3】
トルーバルサム抽出物が、トルーレジノイドである請求項1記載のアルコール感付与剤。
【請求項4】
請求項1〜3の何れかに記載のアルコール感付与剤を含むことを特徴とするアルコール感付与用香料組成物。
【請求項5】
請求項1〜3の何れかに記載のアルコール感付与剤を含むことを特徴とするアルコール感が付与されたノンアルコール飲食品。
【請求項6】
飲食品に、請求項1〜3の何れかに記載のアルコール感付与剤を配合することを特徴とするアルコール感が付与されたノンアルコール飲食品の製造方法。
【請求項7】
飲食品に、請求項1〜3の何れかに記載のアルコール感付与剤を配合することを特徴とするノンアルコール飲食品にアルコール感を付与する方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、飲食品に配合することによりアルコール感を付与し、嗜好性を高めることができるアルコール感付与剤に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、健康に対する意識の高まりや、飲酒運転に対する規制の強化等により、日常生活における飲酒のスタイルが変化してきており、ノンアルコールビール、ノンアルコールカクテル、ノンアルコール梅酒、ノンアルコールチューハイ、ノンアルコール清酒等のノンアルコール飲料の需要が拡大している。
【0003】
しかしながら、ノンアルコール飲料は、やはりアルコールを含んでいないため、嗜好性の点で満足できるものではなかった。
【0004】
これまでノンアルコール飲料等の飲食品にアルコール感(ここでいうアルコール感は、アルコール飲料を飲んだ時に感じる後味の苦さや、アルコール特有の味の厚み等が、口中に広がり、味わいを感じる状態等であり味に関するものである)を付与するために、例えば、酸味付与物質と苦味付与物質を特定量で含有させる技術(特許文献1)、カプサイシン類と炭素数3〜5の脂肪族1価アルコールを特定量で含有させる技術(特許文献2)、炭素数4または5の脂肪族アルコールと収斂味付与物質とを特定量で含有させる技術(特許文献3)等が知られている。
【0005】
しかしながら、これらの技術はアルコール飲料を飲用した時に感じる味は付与できるものの、アルコール独特の風味を連想させる香りまでは付与できないものであった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2011−254731号公報
【特許文献2】特開2012−16308号公報
【特許文献3】特開2012−60975号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
従って、本発明の課題は、アルコール独特の風味を連想させる香りを付与できる技術を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意研究した結果、特定の植物抽出物を飲食品へ配合することによりアルコール独特の風味を連想させる香りを付与できることを見出し、本発明を完成させた。
【0009】
すなわち、本発明はダバナ抽出物および/またはトルーバルサム抽出物を含むことを特徴とするアルコール感付与剤である。
【0010】
また、本発明は上記アルコール感付与剤を含むことを特徴とする香料組成物である。
【0011】
更に、本発明は上記アルコール感付与剤を含むことを特徴とする飲食品である。
【0012】
また更に、本発明は飲食品に、上記アルコール感付与剤を配合することを特徴とするアルコール感が付与された飲食品の製造方法である。
【0013】
更にまた、本発明は飲食品に、上記アルコール感付与剤を配合することを特徴とする飲食品にアルコール感を付与する方法である。
【発明の効果】
【0014】
本発明のアルコール感付与剤は、それ自体にアルコール独特の風味を連想させる香りはないが、飲食品に配合することによりアルコール独特の風味を連想させる香りを付与することができ、嗜好性を高めることができる。
【0015】
また、本発明のアルコール感付与剤を、アルコールを含まない飲食品、特にノンアルコール飲料に配合したものは、それに対応するアルコール飲料と遜色のないものとなる。
【発明を実施するための形態】
【0016】
本明細書において、「アルコール感」とは、飲食する前の香りと飲食した時の鼻に抜ける香りでアルコール独特の風味を連想させる香りがあることをいう。
【0017】
本発明のアルコール感付与剤に用いられるダバナ抽出物は、キク科ヨモギ属のダバナ(Artemisia pallens Wallich)の全草から水蒸気蒸留、水抽出、溶剤抽出、超臨界二酸化炭素抽出等の公知の抽出法により得られる香気成分を含む抽出物である。ダバナ抽出物の種類は特に限定されないが、好ましくは水蒸気蒸留で得られるダバナオイル(精油)である。ダバナオイルとしては、例えば、ダバナオイル(Davanah oil)等の市販品を使用することができる。
【0018】
また、本発明のアルコール感付与剤に用いられるトルーバルサム抽出物は、マメ科バルサムノキ属のトルーバルサムノキ(Myroxylon balsamum Druce、Toluifera balsamum Miller)から採取される樹脂(トルーバルサム)から水蒸気蒸留、水抽出、溶剤抽出、超臨界二酸化炭素抽出等の公知の抽出法により得られる香気成分を含む抽出物である。トルーバルサム抽出物の種類は特に限定されないが、好ましくはエタノール等の低級アルコールで抽出し、その後抽出物から脱アルコール化したトルーレジノイドである。トルーレジノイドとしては、例えば、トルーレジノイドエクストラ(Tolu Resinoide extra)等の市販品を使用することができる。
【0019】
本発明のアルコール感付与剤には、上記したダバナ抽出物および/またはトルーバルサム抽出物、好ましくはダバナ抽出物およびトルーバルサム抽出物を含ませればよい。
【0020】
また、本発明のアルコール感付与剤には、上記したダバナ抽出物および/またはトルーバルサム抽出物の他に、例えば、水、プロピレングリコール等のグリコール、グリセリン脂肪酸エステル等のグリセリンと脂肪酸のエステル等の溶媒等の任意成分を添加してもよい。
【0021】
更に、本発明のアルコール感付与剤は、ダバナ抽出物および/またはトルーバルサム抽出物と、必要により任意成分を撹拌、混合することにより得ることができる。なお、撹拌、混合の際には必要により加熱をしてもよい。
【0022】
また更に、本発明のアルコール感付与剤は、これを香料成分の1つとして用い、飲料用、製菓用、冷菓用、加工食品用等の他の香料と適宜組み合わせて香料組成物とすることもできる。
【0023】
斯くして得られる本発明のアルコール感付与剤は、飲食品に配合することによりアルコール感を付与することができる。飲食品に配合するアルコール感付与剤の量は、特に限定されないが、例えば、飲食品中に、ダバナ抽出物が2000ppm以下、好ましくは0.1〜1000ppmとなる量であり、トルーバルサム抽出物が2000ppm以下、好ましくは0.1〜1000ppmとなる量である。具体的にダバナ抽出物としてダバナオイルを用いる場合、0.5ppm以下、好ましくは0.01〜0.2ppmとなる量であり、トルーバルサム抽出物としてトルーレジノイドを用いる場合、0.5ppm以下、好ましくは0.01〜0.2ppmとなる量である。より具体的にダバナ抽出物としてダバノン(Davanone)を20質量%(以下、「%」という)含むダバナオイルを用いる場合、0.5ppm以下、好ましくは0.01〜0.2ppmとなる量であり、トルーバルサム抽出物としてt−シンナムアルデヒド(t−Cinnam aldehyde)を3%、シンナミック酸(Cinnamic acid)を1.5%およびバニリン(Vanillin)を1%含むトルーレジノイドを用いる場合、5ppm以下、好ましくは0.1〜2ppmとなる量である。
【0024】
本発明のアルコール感付与剤を配合することのできる飲食品としては、特に限定されず、例えば、アイス、飴、グミ、ガム、チョコレート等の菓子類、ゼリー、ケーキ、パン等の食品類、果汁飲料、乳飲料、乳酸菌飲料、コーヒー飲料、茶飲料、清涼飲料等の飲料類、ビール、カクテル、梅酒、チューハイ、ワイン、清酒等の酒類等の公知の飲食品を挙げることができる。これらの飲食品の中でもアルコールを含まない飲食品が好ましく、特に従来のアルコールを含む飲食品に対応したアルコールが含まれない代替の飲食品、具体的にはノンアルコールビール、ノンアルコールカクテル、ノンアルコール梅酒、ノンアルコールチューハイ、ノンアルコールワイン、ノンアルコール清酒等のノンアルコール飲料が好ましい。なお、ここでノンアルコール飲料とは、酒税法で酒類に分類されないアルコールが1%未満の飲料、好ましくはアルコールが0%の飲料をいう。
【0025】
本発明のアルコール感付与剤を配合した飲食品の製造方法は、特に限定されず、公知の飲食品の製造方法の任意の段階において、本発明のアルコール感付与剤を配合すればよい。なお、本発明のアルコール感付与剤が配合される飲食品に香料が配合される場合には、本発明のアルコール感付与剤をその香料と組み合わせた後、飲食品に配合することが好ましい。
【0026】
斯くして得られる飲食品は、飲食する前の香りと飲食した時の鼻に抜ける香りでアルコール独特の風味を連想させる香りが付与され、さもアルコールが含まれている飲食品を摂取したような感覚が得られる。
【実施例】
【0027】
以下、本発明を実施例を挙げて詳細に説明するが、本発明はこれら実施例に何ら限定されるものではない。
【0028】
実 施 例 1
アルコール感付与剤の調製:
表1に示す組成A〜Iのアルコール感付与剤を調製した。なお、組成A〜Bのアルコール感付与剤は各成分を混合、溶解して調製した。また、組成C〜Iのアルコール感付与剤は各成分を加熱溶解して調製した。
【0029】
【表1】
【0030】
実 施 例 2
レモン風味ノンアルコール飲料:
実施例1で調製したアルコール感付与剤A、E、Fを、下記処方の飲料にそれぞれ0.01%の割合で添加し、レモン風味ノンアルコール飲料を製造した。無添加品およびアルコール3%添加品を比較対照とし、習熟した4名のパネルにより、下記評価基準に基づいて官能評価を行った。パネルの評価結果(平均点)を表3に示した。
【0031】
【表2】
【0032】
<評価基準>
(評点) (内容)
3 : 風味を損なわず、強くアルコール感を感じる
2 : 風味を損なわず、ややアルコール感を感じる
1 : アルコール感を感じない
【0033】
【表3】
【0034】
表3の結果より、アルコール感付与剤が添加されたレモン風味ノンアルコール飲料は、無添加品と比べて明らかにアルコール感が付与されていることが示された。
【0035】
実 施 例 3
梅風味ノンアルコール飲料:
実施例1で調製したアルコール感付与剤B、E、Iを、下記処方の飲料にそれぞれ0.01%の割合で添加し、梅風味ノンアルコール飲料を製造した。無添加品およびアルコール3%添加品を比較対照とし、実施例2と同様にして官能評価を行った。パネルの評価結果(平均点)を表5に示した。
【0036】
【表4】
【0037】
【表5】
【0038】
表5の結果より、アルコール感付与剤が添加された梅風味ノンアルコール飲料は、無添加品と比べて明らかにアルコール感が付与されていることが示された。
【0039】
実 施 例 4
ワイン風味ノンアルコール飲料:
実施例1で調製したアルコール感付与剤B、D、Hを、下記処方の飲料にそれぞれ0.01%の割合で添加し、ワイン風味ノンアルコール飲料を製造した。無添加品およびアルコール3%添加品を比較対照とし、実施例2と同様にして官能評価を行った。パネルの評価結果(平均点)を表7に示した。
【0040】
【表6】
【0041】
【表7】
【0042】
表7の結果より、アルコール感付与剤が添加されたワイン風味ノンアルコール飲料は、無添加品と比べて明らかにアルコール感が付与されていることが示された。
【0043】
実 施 例 5
ビール風味ノンアルコール飲料:
実施例1で調製したアルコール感付与剤B、C、Gを、下記処方の飲料にそれぞれ0.01%の割合で添加し、ビール風味ノンアルコール飲料を製造した。無添加品およびアルコール3%添加品を比較対照とし、実施例2と同様にして官能評価を行った。パネルの評価結果(平均点)を表9に示した。
【0044】
【表8】
【0045】
【表9】
【0046】
表9の結果より、アルコール感付与剤が添加されたビール風味ノンアルコール飲料は、無添加品と比べて明らかにアルコール感が付与されていることが示された。
【0047】
実 施 例 6
梅酒風味ノンアルコールゼリー:
実施例1で調製したアルコール感付与剤B、E、Iを、下記処方のゼリーにそれぞれ0.02%の割合で添加し、梅酒風味ノンアルコールゼリーを製造した。無添加品およびアルコール3%添加品を比較対照とし、実施例2と同様にして官能評価を行った。パネルの評価結果(平均点)を表11に示した。
【0048】
【表10】
【0049】
【表11】
【0050】
表11の結果より、アルコール感付与剤が添加された梅酒風味ノンアルコールゼリーは、無添加品と比べて明らかにアルコール感が付与されていることが示された。
【0051】
実 施 例 7
香料組成物:
ダバナ抽出物(ダバナオイル:Synthite製)の0.002gを、レモン香料99.998gと混合し、アルコール感とレモン風味を付与できる香料組成物を調製した。
【0052】
実 施 例 8
香料組成物:
トルーバルサム抽出物(トルーレジノイドエクストラ:General Aromatics製)の0.05gを、梅香料99.95gと混合し、アルコール感と梅風味を付与できる香料組成物を調製した。
【0053】
実 施 例 9
香料組成物:
ダバナ抽出物(ダバナオイル:Synthite製)の0.005gとトルーバルサム抽出物(トルーレジノイドエクストラ:General Aromatics製)の0.03gを、ワイン香料99.965gと混合し、アルコール感とワイン風味を付与できる香料組成物を調製した。
【0054】
実 施 例 10
香料組成物:
ダバナ抽出物(ダバナオイル:Synthite製)の0.005gとトルーバルサム抽出物(トルーレジノイドエクストラ:General Aromatics製)の0.01gを、ビール香料99.985gと混合し、アルコール感とワイン風味を付与できる香料組成物を調製した。
【産業上の利用可能性】
【0055】
本発明のアルコール感付与剤は、飲食品にアルコール感を付与することができ、嗜好性を高めることができる。
以 上