(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5997003
(24)【登録日】2016年9月2日
(45)【発行日】2016年9月21日
(54)【発明の名称】振動ピックアップ装置及び振動測定ヘッド
(51)【国際特許分類】
H04R 29/00 20060101AFI20160908BHJP
H04R 1/02 20060101ALI20160908BHJP
G01H 17/00 20060101ALI20160908BHJP
H04M 1/24 20060101ALI20160908BHJP
【FI】
H04R29/00 310
H04R1/02 106
G01H17/00 D
H04M1/24 Z
【請求項の数】15
【全頁数】14
(21)【出願番号】特願2012-235030(P2012-235030)
(22)【出願日】2012年10月24日
(65)【公開番号】特開2014-85258(P2014-85258A)
(43)【公開日】2014年5月12日
【審査請求日】2015年8月10日
(73)【特許権者】
【識別番号】000006633
【氏名又は名称】京セラ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100147485
【弁理士】
【氏名又は名称】杉村 憲司
(74)【代理人】
【識別番号】100153017
【弁理士】
【氏名又は名称】大倉 昭人
(72)【発明者】
【氏名】稲垣 智裕
【審査官】
渡邊 正宏
(56)【参考文献】
【文献】
特表平11−500284(JP,A)
【文献】
特開平01−117599(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01H 1/00−17/00
H04M 1/00
H04M 1/02− 1/23
H04M 1/24− 1/82
H04M 99/00
H04R 29/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
筐体に保持された振動体を人体の耳に押し当てて振動伝達により音をユーザに伝える電子機器を測定するための振動ピックアップ装置であって、
人体の耳を模した耳型部に形成された人工外耳道の周辺部に装着可能であり、且つ前記人工外耳道に連通される孔を有する板状の振動伝達部材と、該振動伝達部材の一部に結合された振動ピックアップと、を備える振動ピックアップ装置。
【請求項2】
前記振動伝達部材の前記孔は、5mmから18mmの直径を有する、請求項1に記載の振動ピックアップ装置。
【請求項3】
前記振動伝達部材はリング形状を有する、請求項1又は2に記載の振動ピックアップ装置。
【請求項4】
前記振動伝達部材は、前記孔の直径に、6mmから12mmを加えた外径を有する、請求項3に記載の振動ピックアップ装置。
【請求項5】
前記振動ピックアップは、圧電式加速度ピックアップからなる、請求項1から4のいずれか一項に記載の振動ピックアップ装置。
【請求項6】
筐体に保持された振動体を人体の耳に押し当てて振動伝達により音をユーザに伝える電子機器を測定するための振動測定ヘッドであって、
人体の耳を模した耳型部と、請求項1から5のいずれか一項に記載の振動ピックアップ装置と、を備え、
前記振動ピックアップ装置は、前記振動伝達部材に形成された前記孔が前記人工外耳道に連通して、前記振動伝達部材が前記耳型部に形成された人工外耳道の周辺部に装着されている、振動測定ヘッド。
【請求項7】
前記耳型部は、前記振動ピックアップ装置を所定の位置関係で着脱可能に装着する装着部を備える、請求項6に記載の振動測定ヘッド。
【請求項8】
前記装着部は、前記振動伝達部材を挿脱可能に保持する挿入保持部と、前記耳型部に対する前記振動ピックアップの位置を位置決めする位置決め部とを備える、請求項7に記載の振動測定ヘッド。
【請求項9】
人体の頭部模型をさらに備え、前記耳型部は、前記頭部模型を構成する人工耳として、当該頭部模型に着脱自在である、請求項6から8のいずれか一項に記載の振動測定ヘッド。
【請求項10】
前記耳型部は、耳模型と、該耳模型に結合された人工外耳道部とを備え、
前記人工外耳道部に前記人工外耳道が形成されている、請求項6から9のいずれか一項に記載の振動測定ヘッド。
【請求項11】
前記人工外耳道は、前記振動ピックアップ装置の前記振動伝達部材に形成された前記孔までの長さが、8mmから30mmの長さである、請求項6から10のいずれか一項に記載の振動測定ヘッド。
【請求項12】
前記耳型部は、IEC60318−7に準拠した素材からなる、請求項6から11のいずれか一項に記載の振動測定ヘッド。
【請求項13】
前記耳型部は、前記人工外耳道を経て伝播される音の音圧を測定するためのマイクロフォン装置をさらに備える、請求項6から12のいずれか一項に記載の振動測定ヘッド。
【請求項14】
前記マイクロフォン装置は、前記人工外耳道の外壁から延在するチューブ部材に保持されたマイクロフォンを備える、請求項13に記載の振動測定ヘッド。
【請求項15】
前記マイクロフォン装置は、前記人工外耳道の外壁からフローティング状態で配置されたマイクロフォンを備える、請求項13に記載の振動測定ヘッド。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、筐体に保持された振動体を人間の耳に押し当てることで振動伝達により音をユーザに伝える電子機器による振動量を測定するための振動ピックアップ装置及び振動測定ヘッドに関するものである。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、携帯電話などの電子機器として、気導音と骨導音とを利用者(ユーザ)に伝えるものが記載されている。また、特許文献1には、気導音とは、物体の振動に起因する空気の振動が外耳道を通って鼓膜に伝わり、鼓膜が振動することによって利用者の聴覚神経に伝わる音であることが記載されている。また、特許文献1には、骨導音とは、振動する物体に接触する利用者の体の一部(例えば外耳の軟骨)を介して利用者の聴覚神経に伝わる音であることが記載されている。
【0003】
特許文献1に記載された電話機では、圧電バイモルフ及び可撓性物質からなる短形板状の振動体が、筐体の外面に弾性部材を介して取り付けられる旨が記載されている。また、特許文献1には、この振動体の圧電バイモルフに電圧が印加されると、圧電材料が長手方向に伸縮することにより振動体が屈曲振動し、利用者が耳介に振動体を接触させると、気導音と骨導音とが利用者に伝えられることが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2005−348193号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、発明者らは、上記特許文献1に記載された電話機とは異なり、携帯電話の表面に配置された表示パネルや保護パネル等のパネルを振動させることにより発生する気導音と、振動するパネルを人間の耳に当てた時に伝わる振動伝達による音成分である振動音とを用いて音を伝える携帯電話を開発している。そして発明者は、特許文献1のような電話機や発明者らが開発を行っている携帯電話等の振動により何らかの音を伝える電子機器を適切に評価するには、振動体の振動によって人体に音圧と振動量がどれだけ伝わるかを可能な限り人体に近似させて測定することが好ましいことに思い至った。なお、一般に振動量の測定法としては、以下の二つの測定法が知られている。
【0006】
第1の測定法は、耳の後ろの乳突部を機械的に模擬した骨導振動子測定用の人工マストイドに、測定対象の振動体を押し当てて振動量を電圧として測定するものである。第2の測定法は、例えば圧電式加速度ピックアップ等の振動ピックアップを、測定対象の振動体に押し当てて振動量を電圧として測定するものである。
【0007】
しかしながら、上記第1の測定法により得られる測定電圧は、振動体を人体の耳の後ろの乳突部に押し当てたときの人体の特徴が機械的に重み付けされた電圧であって、振動体を人体の耳に押し当てたときの振動伝達の特徴が重み付けされた電圧ではない。また、上記第2の測定法により得られる測定電圧は、振動体の振動量を振動する物体から直接的に測定したものであって、同様に、人体の耳への振動伝達の特徴が重み付けされた電圧ではない。そのため、従来の測定法により振動体の振動量を測定しても、電子機器が人体に伝える振動量を正しく評価することができないことになる。このようなことから、人体の耳への振動伝達の特徴が重み付けされた振動量を測定できる装置の開発が望まれる。
【0008】
本発明は、上述した要望に応えるべくなされたもので、人体の耳、特に耳の軟骨を中心とした各部への振動伝達の特徴が重み付けされた振動量を測定するための振動ピックアップ装置及び振動測定ヘッドを提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記目的を達成する本発明に係る測定ピックアップ装置は、筐体に保持された振動体を人体の耳に押し当てて振動伝達により音をユーザに伝える電子機器を測定するための振動ピックアップ装置であって、
人体の耳を模した耳型部に形成された人工外耳道の周辺部に装着可能で、前記人工外耳道に連通される孔を有する板状の振動伝達部材と、該振動伝達部材の一部に結合された振動ピックアップと、を備える。
【0010】
前記振動伝達部材の前記孔は、5mmから18mmの直径を有するとよい。
【0011】
前記振動伝達部材はリング形状を有するとよい。
【0012】
前記振動伝達部材は、前記孔の直径に、6mmから12mmを加えた外径を有するとよい。
【0013】
前記振動ピックアップは、圧電式加速度ピックアップとするとよい。
【0014】
さらに、上記目的を達成する本発明に係る振動測定ヘッドは、筐体に保持された振動体を人体の耳に押し当てて振動伝達により音をユーザに伝える電子機器を測定するための振動測定ヘッドであって、
人体の耳を模した耳型部と、上記の振動ピックアップ装置と、を備え、
前記振動ピックアップ装置は、前記振動伝達部材に形成された前記孔が前記人工外耳道に連通して、前記振動伝達部材が前記耳型部に形成された人工外耳道の周辺部に装着されている。
【0015】
前記耳型部は、前記振動ピックアップ装置を所定の位置関係で着脱可能に装着する装着部を備えてもよい。
【0016】
前記装着部は、前記振動伝達部材を挿脱可能に保持する挿入保持部と、前記耳型部に対する前記振動ピックアップの位置を位置決めする位置決め部とを備えてもよい。
【0017】
人体の頭部模型をさらに備え、前記耳型部は、前記頭部模型を構成する人工耳として、当該頭部模型に着脱自在としてもよい。
【0018】
前記耳型部は、耳模型と、該耳模型に結合された人工外耳道部とを備え、
前記人工外耳道部に前記人工外耳道が形成されるとよい。
【0019】
前記人工外耳道は、前記振動ピックアップ装置の前記振動伝達部材に形成された前記孔までの長さが、8mmから30mmとするとよい。
【0020】
前記耳型部は、IEC60318−7に準拠した素材からなるとよい。
【0021】
前記耳型部は、前記人工外耳道を経て伝播される音の音圧を測定するためのマイクロフォン装置をさらに備えてもよい。
【0022】
前記マイクロフォン装置は、前記人工外耳道の外壁から延在するチューブ部材に保持されたマイクロフォンを備えてもよい。
【0023】
前記マイクロフォン装置は、前記人工外耳道の外壁からフローティング状態で配置されたマイクロフォンを備えてもよい。
【発明の効果】
【0024】
本発明によれば、人体の耳への振動伝達の特徴が重み付けされた振動量を測定するための振動ピックアップ装置及び振動測定ヘッドを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【
図1】本発明の第1実施の形態に係る振動測定ヘッドを用いる測定装置の概略構成を示す図である。
【
図2】測定対象の電子機器の一例を示す平面図である。
【
図3】
図1の振動ピックアップ装置の構成を示す図である。
【
図5】
図1の測定装置の要部の機能ブロック図である。
【
図7】
図6の耳型部による振動試験の振動ピックアップによる測定結果の一例を示す図である。
【
図8】
図6の耳型部による振動試験のレーザ変位計による測定結果の一例を示す図である。
【
図9】本発明の第2実施の形態に係る振動測定ヘッドの要部の構成を説明するための図である。
【
図10】本発明の第3実施の形態に係る振動測定ヘッドを用いる測定装置の概略構成を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0026】
以下、本発明の実施の形態について、図を参照して説明する。
【0027】
(第1実施の形態)
図1は、本発明の第1実施の形態に係る振動測定ヘッドを用いる測定装置の概略構成を示す図である。本実施の形態に係る測定装置10は、基台30に支持された振動測定ヘッド40と、測定対象の電子機器100を保持する保持部70とを備える。なお、以下の説明において、電子機器100は、
図2に平面図を示すように、矩形状の筐体101の表面に、人の耳よりも大きい矩形状のパネル102を有するスマートフォン等の携帯電話で、パネル102が振動体として振動するものとする。先ず、振動測定ヘッド40について説明する。
【0028】
振動測定ヘッド40は、耳型部50と、振動ピックアップ装置55とを備える。耳型部50は、人体の耳を模したもので、耳模型51と、該耳模型51に結合された人工外耳道部52とを備える。
図1の耳型部50は、人の左耳に対応している。人工外耳道部52には、中央部に人工外耳道53が形成されている。人工外耳道53は、人の外耳孔の平均的な直径である7mm〜8mmの孔径で形成される。耳型部50は、人工外耳道部52の周縁部において、支持部材54を介して基台30に着脱自在に支持される。
【0029】
耳型部50は、例えば人体模型のHATS(Head And Torso Simulator)やKEMAR(ノウルズ社の音響研究用の電子マネキン名)等に使用される平均的な耳模型の素材と同様の素材、例えば、IEC60318−7に準拠した素材からなる。この素材は、例えば硬度35から55のゴム等の素材で形成することができる。なお、ゴムの硬さは、例えばJIS K 6253やISO 48 などに準拠した国際ゴム硬さ(IRHD・M 法)に準拠して測定されるとよい。また、硬さ測定装置としては、株式会社テクロック社製 全自動タイプIRHD・M法マイクロサイズ 国際ゴム硬さ計GS680が好適に使用される。なお、耳型部50は、年齢による耳の硬さのばらつきを考慮して、大まかに、2から3種類程度、硬さの異なるものを準備し、これらを付け替えて使用するとよい。
【0030】
人工外耳道部52の厚さ、つまり人工外耳道53の長さは、人の鼓膜(蝸牛)までの長さに相当するもので、例えば5mmから50mm、好ましくは8mmから30mmの範囲で適宜設定される。本実施の形態では、人工外耳道53の長さを、ほぼ30mmとしている。
【0031】
振動ピックアップ装置55は、
図3(a)に平面図を、
図3(b)に正面図をそれぞれ示すように、人工外耳道53の孔径とほぼ同径、例えば直径15mmの孔56aを有する板状の振動伝達部材56と、該振動伝達部材56の一方の面の一部に結合された一つの振動ピックアップ57と、を備える。本実施の形態において、振動伝達部材56は、孔56aが人工外耳道53に連通するように、他方の面が人工外耳道部52の耳模型51側とは反対側の端面に接着される。また、振動ピックアップ57は、例えば、グリス等を介して振動伝達部材56の一方の面に結合される。なお、振動ピックアップ装置55については、更に後述する。
【0032】
さらに、本実施の形態に係る振動測定ヘッド40は、人工外耳道53を経て伝播される音の音圧を測定するためのマイクロフォン装置60を備える。マイクロフォン装置60は、
図4(a)に基台30側から見た平面図を、
図4(b)に
図4(a)のb−b線断面図をそれぞれ示すように、人工外耳道53の外壁(穴の周壁)から振動ピックアップ装置55の振動伝達部材56の孔56aを通して延在するチューブ部材61と、該チューブ部材61に保持されたマイクロフォン62とを備える。マイクロフォン62は、例えば、電子機器100の測定周波数範囲においてフラットな出力特性を有し、自己雑音レベルの低い計測用コンデンサマイクからなる。マイクロフォン62は、音圧検出面が人工外耳道部52の端面にほぼ一致するように配置される。なお、マイクロフォン62は、例えば、人工外耳道部52や基台30に支持して、人工外耳道53の外壁からフローティング状態で配置してもよい。なお、
図4(a)において、人工外耳道部52は矩形状を成しているが、人工外耳道部52は任意の形状とすることができる。
【0033】
次に、保持部70について説明する。電子機器100が、スマートフォン等の平面視で矩形状を成す携帯電話の場合、人が当該携帯電話を片手で保持して自身の耳に押し当てようとすると、通常、携帯電話の両側面部を手で支持することになる。また、耳に対する携帯電話の押圧力や接触姿勢は、人(利用者)によって異なったり、使用中に変動したりする。本実施の形態では、このような携帯電話の使用態様を模して、電子機器100を保持する。
【0034】
そのため、保持部70は、電子機器100の両側面部を支持する支持部71を備える。支持部71は、電子機器100を耳型部50に対して押圧する方向に、y軸と平行な軸y1を中心に回動調整可能にアーム部72の一端部に取り付けられている。アーム部72の他端部は、基台30に設けられた移動調整部73に結合されている。移動調整部73は、アーム部72を、y軸と直交するx軸と平行な方向で、支持部71に支持される電子機器100の上下方向x1と、y軸及びx軸と直交するz軸と平行な方向で、電子機器100を耳型部50に対して押圧する方向z1とに移動調整可能に構成されている。
【0035】
これにより、支持部71に支持された電子機器100は、軸y1を中心に支持部71を回動調整することで、又は、アーム部72をz1方向に移動調整することで、振動体(パネル102)の耳型部50に対する押圧力が調整される。本実施の形態では、0Nから10Nの範囲、好ましくは3Nから8Nの範囲で押圧力が調整される。
【0036】
ここで、0Nから10Nの範囲は、人間が電子機器を耳に押し当てて通話等の使用をするに想定される押し当て力よりも十分な広い範囲での測定を可能とすることを目的としている。なお、0Nの場合として、例えば耳型部50に接触しているが押し当てていない場合のみならず、耳型部50から1cmきざみで離間させて保持でき、それぞれの離間距離において測定ができるようにしてもよい。これにより、気道音の距離による減衰の度合いもマイクロフォン62による測定により可能となり、測定装置としての利便性が向上する。また、3Nから8Nの範囲は、通常、健聴者が従来型のスピーカを用いて通話をする際に耳に押し当てる平均的な力の範囲を想定している。人種、性別により差があるかもしれないが、要は従来型のスピーカを搭載したスマートフォンや従来型携帯電話等の電子機器において、通常、ユーザが押し付ける程度の押圧力において振動音や気道音を測定できることが好ましい。
【0037】
また、アーム部72をx1方向に移動調整することで、耳型部50に対する電子機器100の接触姿勢が、例えば、振動体(パネル102)が耳型部50のほぼ全体を覆う姿勢や、
図1に示されるように、振動体(パネル102)が耳型部50の一部を覆う姿勢に調整される。なお、アーム部72を、y軸と平行な方向に移動調整可能に構成したり、x軸やz軸と平行な軸回りに回動調整可能に構成したりして、耳型部50に対して電子機器100を種々の接触姿勢に調整可能に構成してもよい。
【0038】
図5は、本実施の形態に係る測定装置10の要部の機能ブロック図である。振動ピックアップ57及びマイクロフォン62は、信号処理部75に接続される。信号処理部75は、振動ピックアップ57及びマイクロフォン62の出力に基づいて、電子機器100による人工外耳道部52を介しての振動量及び人工外耳道53を介しての音圧をそれぞれ測定する。また、信号処理部75は、測定した振動量及び音圧に基づいて聴感を測定する。これらの測定結果は、表示部、プリンタ、記憶部等の出力部76に出力されて、電子機器100の評価に供される。
【0039】
ここで、振動ピックアップ装置55について、更に詳細に説明する。
図6は、
図1の振動測定ヘッド40において、振動ピックアップ装置55を取り外した状態の耳型部50を基台30側から見た平面図である。
図6は、便宜上、人工外耳道53の穴の周囲を8個の領域A1〜A8に分割して示している。なお、
図1の耳模型51は、人の左耳の模型であり、
図6の領域A4は主として耳模型51の耳輪側の対耳珠上部に対応し、領域A5は主として耳珠側に対応している。
【0040】
図7及び
図8は、それぞれ
図6の耳型部50の振動試験の測定結果の一例を示す図である。
図7の測定結果は、
図6の耳型部50を基台30にセットし、保持部70に電子機器100をセットしてパネル102を耳型部50に押し当て、その状態でパネル102を500Hzから3.5kHzの周波数範囲で振動させた際の耳型部50の領域A1〜A8の各振動量を示すものである。振動量は、一つの振動ピックアップを領域A1〜A8に両面テープを介して順次に接着して測定した。なお、
図7において、A0は、電子機器100のパネル102の振動量を同じ振動ピックアップで測定した結果を示す。また、
図8の測定結果は、
図7の測定の場合と同様にして電子機器100のパネル102を所定の周波数(例えば、2000Hz)で振動させた際の耳型部50の基台30側端面の振動の様子をレーザ変位計で測定したものである。
【0041】
図7から明らかなように、パネル102の振動の周波数特性A0に対して、領域A1〜A8で検出される振動の周波数特性がそれぞれ異なっている。そのため、一つの領域を特定して一つの振動ピックアップを装着すると、聴覚神経に伝わる振動成分の検出精度が低下することになる。また、検出精度を高めるために、複数の領域にそれぞれ振動ピックアップを装着すると、処理信号の増加に伴い測定装置の処理速度の低下や測定装置のコストアップを招いたり、振動ピックアップの重量増加に伴い微細な振動の検出精度が低下したりすることが懸念される。
【0042】
また、
図8から明らかなように、電子機器100のパネル102の振動による耳型部50の変位量は、領域A3、A5、A8を含む耳模型51の耳珠のラインに大きく現れる。しかも、領域A1〜A8は、それぞれ領域全体が一様に変位するのではなく、主として人工外耳道53の周辺部に対応する領域が変位する。
【0043】
以上の測定結果を踏まえて、本実施の形態に係る振動ピックアップ装置55は、人工外耳道53の孔径以上の孔56aを有する板状の振動伝達部材56と、該振動伝達部材56の一方の面の一部に結合された一つの振動ピックアップ57とを備えて構成されている。そして、振動ピックアップ装置55は、振動伝達部材56の孔56aが人工外耳道53を遮蔽することなく人工外耳道53に連通するように、振動ピックアップ57が結合されていない振動伝達部材56の面が、人工外耳道53の周辺の人工外耳道部52に接着等により取り付けられる。
【0044】
ここで、振動伝達部材56は、振動伝達効率の良好な素材、例えば、鉄、SUS、真鍮、アルミニウム、チタン等の金属や合金、あるいはプラスチック等が使用可能であるが、検出感度の点では軽量な素材で構成するのが好ましい。また、振動伝達部材56は、角形平ワッシャーのような外形が矩形状であってもよいが、本実施の形態では、
図8に示したように、耳型部50の変位量が人工外耳道53の周辺部で大きいことから、丸形平ワッシャーのようなリング形状としている。なお、リング形状の外形は、例えば、孔56aの直径に、6mmから12mmを加えた、つまり孔56aの径方向両側のリングの幅を5mm程度として形成することができる。また、振動伝達部材56の厚さは、素材の強度等に応じて適宜設定される。
【0045】
振動ピックアップ57は、公知の小型の振動ピックアップが使用可能である。本実施の形態では、振動ピックアップ57として圧電式加速度ピックアップを用い、該圧電式加速度ピックアップをグリス等、あるいはアロンアルファ(登録商標)のような瞬間接着剤等の接合部材を介して振動伝達部材56に結合している。なお、
図7及び
図8に示したように、電子機器100のパネル102の振動量は、耳型部50の領域A3、A5、A8に伝わり易い。したがって、振動ピックアップ装置55は、振動ピックアップ57が振動伝達部材56を介して領域A3、A5、A8の一部に、例えば領域A5と対向するように、或いは領域A5と領域A8とに跨って対向するように、人工外耳道部52に装着されるのが好ましい。
図4は、振動ピックアップ装置55を、振動ピックアップ57が領域A5と対向するように装着された場合を例示している。
【0046】
本実施の形態に係る測定装置10によると、人工外耳道53の周辺部に伝わる振動を、振動ピックアップ装置55により、振動伝達部材56を介して一つの振動ピックアップ57に伝達して検出することができる。これにより、振動ピックアップ装置55を軽量化して、人工外耳道53の周辺部の広い面積の振動を検出することができる。したがって、振動ピックアップ57から高レベルでS/Nの良好な検出信号が得られるので、聴覚神経へ伝わる振動成分を高精度で検出することができる。
【0047】
しかも、本実施の形態に係る測定装置10によると、人体の耳への振動伝達の特徴が重み付けされた振動レベルを測定することができるので、電子機器100を正しく評価することができる。また、振動レベルと同時に人工外耳道53を介しての音圧も測定でき、これにより人間の耳への振動伝達量に相当する振動レベルと気導音に相当する音圧レベルとが合成された聴感レベルを測定できるので、電子機器100をより詳細に評価することが可能となる。さらに、電子機器100の耳型部50に対する押圧力を可変できるとともに、接触姿勢も可変できるので、電子機器100を種々の態様で評価することが可能となる。
【0048】
(第2実施の形態)
図9(a)及び(b)は、本発明の第2実施の形態に係る振動測定ヘッドの要部の構成を説明するための図である。
図9(a)は、振動ピックアップ装置55の装着前の人工外耳道部52の部分断面図を示しており、
図9(b)は振動ピックアップ装置55の装着後の人工外耳道部52の底面図である。本実施の形態に係る振動測定ヘッド41は、第1実施の形態に係る振動測定ヘッド40の構成において、人工外耳道部52の耳模型51とは反対側の端部(底面側)に、振動ピックアップ装置55を所定の位置関係で着脱可能に装着する装着部42を備えるものである。装着部42は、振動伝達部材56の挿入保持部43と、振動ピックアップ57の位置決め部44とを備える。挿入保持部43は、人工外耳道53に同心状に連続する開口45と、開口45に連通する大径空間部46とを有する。また、位置決め部44は、押し込み部43の所定の領域、例えば
図6の領域A5に対応する領域から振動ピックアップ57が突出するように、挿入保持部43を切り欠いて形成される。なお、位置決め部44の切り欠きは、開口45にも連通している。
【0049】
本実施の形態による振動測定ヘッド41によると、振動ピックアップ装置55を耳型部50の装着部42に装着するにあたっては、振動ピックアップ57が位置決め部44から突出するように、挿入保持部43の底面側の人工外耳道部52を塑性変形しない範囲で広げながら、振動伝達部材56を挿入保持部43に挿入して、大径空間部46に保持する。これにより、振動ピックアップ装置55は、振動伝達部材56の孔56aが人工外耳道53及び開口45にほぼ同心状に連通され、かつ、耳型部50に対して所定の位置関係で、振動伝達部材56が大径空間部46に埋設されて保持される。また、振動ピックアップ装置55を耳型部50の装着部42から取り外す際は、挿入保持部43の底面側の人工外耳道部52を塑性変形しない範囲で広げて、振動伝達部材56を挿入保持部43から引き抜くことで、振動ピックアップ装置55を装着部42から取り外すことができる。したがって、耳型部50の交換や、振動ピックアップ装置55の交換に容易に対処することが可能となる。その他の効果は、第1実施の形態と同様である。
【0050】
(第3実施の形態)
図10は、本発明の第3実施の形態に係る振動測定ヘッドを用いる測定装置の概略構成を示す図である。本実施の形態に係る測定装置110は、人体の頭部模型130と、測定対象の電子機器100を保持する保持部150とを備える。頭部模型130は、例えばHATSやKEMAR等からなる。頭部模型130の人工耳131は、頭部模型130に対して着脱自在である。
【0051】
人工耳131は、
図11(a)に頭部模型130から取り外した側面図を示すように、第1実施の形態の耳型部50と同様の耳模型132と、該耳模型132に結合され、人工外耳道133が形成された人工外耳道部134とを備える。人工外耳道部134には、人工外耳道133の開口周辺部に、第1実施の形態の耳型部50と同様に、振動伝達部材56及び振動ピックアップ57を備える振動ピックアップ装置135が配置されている。したがって、本実施の形態において、人工耳131及び振動ピックアップ装置135が振動測定ヘッドを構成する。なお、
図11(a)は、右側の人工耳131を後方から見た図を示している。また、頭部模型130の人工耳131の装着部には、
図11(b)に人工耳131を取り外した側面図を示すように、中央部にマイクロフォンを備えるマイクロフォン装置136が配置され、周辺部に振動ピックアップ装置135の振動ピックアップ57が嵌合する開口137が形成されている。マイクロフォン装置136は、頭部模型130に人工耳131が装着されると、人工耳131の人工外耳道133を経て伝播される音の音圧を測定するように配置されている。マイクロフォン装置136は、第1実施の形態の耳型部50と同様に、人工耳131側に配置してもよい。
【0052】
保持部150は、頭部模型130に着脱自在に取り付けられるもので、頭部模型130への頭部固定部151と、測定対象の電子機器100を支持する支持部152と、頭部固定部151及び支持部152を連結する多関節アーム部153と、を備える。保持部150は、多関節アーム部153を介して、支持部152に支持された電子機器100の人工耳131に対する押圧力及び接触姿勢を、第1実施の形態の保持部70と同様に調整可能に構成されている。
【0053】
本実施の形態に係る測定装置110によると、第1実施の形態の測定装置10と同様の効果が得られる。特に、本実施の形態では、人体の頭部模型130に、振動検出用の人工耳131及び振動ピックアップ装置135を有する振動測定ヘッドを着脱自在に装着して電子機器100を評価するので、頭部の影響が考慮された実際の使用態様により即した評価が可能となる。
【0054】
なお、本発明は、上記実施の形態にのみ限定されるものではなく、幾多の変形または変更が可能である。例えば、上記実施の形態では、測定対象の電子機器100として、スマートフォン等の携帯電話で、パネル102が振動体として振動するものを想定したが、折り畳み式の携帯電話で、通話等の使用態様において耳に接触するパネルが振動する電子機器も同様に評価することが可能である。また、携帯電話に限らず、他の圧電レシーバも同様に評価することが可能である。また、第3実施の形態において、人工耳131に第2実施の形態と同様に、振動ピックアップ装置55を所定の位置関係で着脱可能に装着する装着部を設けることもできる。
【符号の説明】
【0055】
10 測定装置
30 基台
40、41 振動測定ヘッド
42 装着部
43 挿入保持部
44 位置決め部
45 開口
46 大径空間部
50 耳型部
51 耳模型
52 人工外耳道部
53 人工外耳道
54 支持部材
55 振動ピックアップ装置
56 振動伝達部材
60 マイクロフォン装置
61 チューブ部材
62 マイクロフォン
70 保持部
71 支持部
72 アーム部
73 移動調整部
75 信号処理部
76 出力部
100 電子機器
101 筐体
102 パネル(振動体)
110 測定装置
130 頭部模型
131 人工耳
132 耳模型
133 人工外耳道
134 人工外耳道部
135 振動ピックアップ装置
136 マイクロフォン装置
150 保持部
151 頭部固定部
152 支持部
153 多関節アーム部