特許第5997012号(P5997012)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 松本油脂製薬株式会社の特許一覧

<>
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5997012
(24)【登録日】2016年9月2日
(45)【発行日】2016年9月21日
(54)【発明の名称】未加硫ゴム用防着剤組成物
(51)【国際特許分類】
   C08L 101/14 20060101AFI20160908BHJP
   C08K 3/00 20060101ALI20160908BHJP
   C08K 5/053 20060101ALI20160908BHJP
   C09K 3/00 20060101ALI20160908BHJP
【FI】
   C08L101/14
   C08K3/00
   C08K5/053
   C09K3/00 R
【請求項の数】6
【全頁数】17
(21)【出願番号】特願2012-246271(P2012-246271)
(22)【出願日】2012年11月8日
(65)【公開番号】特開2014-95010(P2014-95010A)
(43)【公開日】2014年5月22日
【審査請求日】2015年11月2日
(73)【特許権者】
【識別番号】000188951
【氏名又は名称】松本油脂製薬株式会社
(72)【発明者】
【氏名】杉本 元
(72)【発明者】
【氏名】武市 賢治
(72)【発明者】
【氏名】伊藤 誠
(72)【発明者】
【氏名】伊藤 茂樹
【審査官】 繁田 えい子
(56)【参考文献】
【文献】 特開2011−144221(JP,A)
【文献】 特開2010−247864(JP,A)
【文献】 特開昭50−61467(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08L
C09K 3/00
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
水溶性高分子と、無機化合物と、多価アルコールと、界面活性剤と、水とを必須成分とする組成物であって、
前記無機化合物が、炭酸ナトリウム、炭酸マグネシウム、炭酸カルシウム、塩化ナトリウム、塩化マグネシウム、塩化カルシウムおよび酸化マグネシウムから選ばれる少なくとも1種であり、
前記界面活性剤が脂肪酸石鹸を含み、その重量割合が前記界面活性剤の50重量%以上であり、
前記界面活性剤の重量割合が、前記無機化合物を100重量部としたときに60重量部を超える、
未加硫ゴム用防着剤組成物。
【請求項2】
前記水溶性高分子、無機化合物、多価アルコールおよび界面活性剤の合計量に対して、前記水溶性高分子の重量割合が0.25〜20重量%、前記無機化合物の重量割合が2.5〜70重量%、前記多価アルコールの重量割合が0.25〜50重量%である、請求項1に記載の未加硫ゴム用防着剤組成物。
【請求項3】
前記水溶性高分子、無機化合物、多価アルコールおよび界面活性剤の合計の重量割合が、組成物全体の0.1〜60重量%である、請求項1または2に記載の未加硫ゴム用防着剤組成物。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれかに記載の未加硫ゴム用防着剤組成物、または、請求項1〜3のいずれかに記載の未加硫ゴム用防着剤組成物を含む分散組成物を、成型加工された未加硫ゴムの表面に付着させる処理工程を含む、防着処理された未加硫ゴムの製造方法。
【請求項5】
前記分散組成物が、スメクタイト、カオリナイト、モンモリロナイト、セリサイト、イライト、グローコナイト、クロライト、タルク、ゼオライトおよびマイカから選ばれる少なくとも1種の無機粉末をさらに含む、請求項4に記載の防着処理された未加硫ゴムの製造方法。
【請求項6】
請求項4または5に記載の製造方法により得られた、防着処理された未加硫ゴム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、未加硫ゴム用防着剤組成物に関する。より詳しくは、本発明は、水溶性高分子と、無機化合物と、多価アルコールと、界面活性剤と、水とを必須成分とする未加硫ゴム用防着剤組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
ゴム製品の生産加工工程において、未加硫ゴムを次の成型や加硫等の工程に移行するまでの間、積み重ねて貯蔵することがあり、この場合にゴムの密着を防止する目的で密着防止剤(防着剤)が使用されている。
従来、この防着剤としては、タルク、マイカ、炭酸カルシウム、炭酸マグネシウム、ベントナイト等の無機粒子が、防着性に優れるために使用されている。その使用方法としては、粉末のままゴムに吹き付ける方法や、粉末中を通過させる方法等のいわゆるドライ法;前記無機粒子の粉末を水に懸濁させ、その懸濁液をスプレーする方法や、細流にてゴムに吹き付ける方法や懸濁液中に浸漬する方法等のいわゆるウェット法を挙げることができる。ウェット法における水の使用目的は作業性の向上の他にゴムの冷却をも兼ねている。また、押出機を使用したタイヤのチューブ等の中空で薄肉の円筒成形では、防着剤を混入した空気をチューブに吹き込みながら押出成形することで、円筒の内面が密着しないようにしている。
【0003】
しかしながら、このような防着剤を使用する際に発生する粉塵が作業環境を悪化させることが問題になっている。ドライ法で使用する場合、粉末を吹き付けたり、粉末に浸漬したりするため、粉塵が飛散する。ウェット法で使用する場合も、防着剤が粉末状であると、水中へ投入する際に、粉塵が飛散する。さらには、ゴム表面に付着させた後、次の成型や加硫等の工程に移行するまでの間に粉落ちして粉塵が発生するといった問題もある。防着剤は基本的にはゴム製品にとって異物であり、微量の異物でもゴム製品の物理的性質に大きな影響を与える場合があるので、防着剤の作業環境への粉塵飛散は極力少ないことが望ましい。粉塵発生による作業環境の汚染を抑制する方法として、局所排気装置を設置する手段もあるが、設備投資費用が必要であるし根本的な解決にはならない。
この対策として、様々な防着剤が開発されているが上記問題を解決し、かつ防着剤に要求される各特性を充分に満たす防着剤はこれまでにない。
【0004】
特許文献1では炭素数および金属イオンを限定した脂肪酸石鹸と特定の界面活性剤を水に分散させた組成物をゴム面に塗布して防着する方法が開示されている。この方法は水分散物であるため、さらに水へ投入し希釈して使用する場合に、粉塵飛散が起こらない。また、無機粒子の粉末を使用していない点を特徴としており、防着処理後の粉塵飛散を軽減できる。しかし、充分な防着性能を発揮させるためには、高濃度で使用することが必要であり、その場合、加硫ゴムの物理的性質を大きく低下させる問題が生じる。また、防着剤組成物を塗布したゴム面の滑り摩擦力が大きく作業現場でゴムが滑り難く作業性の低下が懸念される。
特許文献2では造膜性を有する水溶性高分子と陰イオン活性剤または非イオン活性剤とからなる防着用組成物が開示されている。この防着用組成物も無機粒子の粉末を使用しないことを特徴としており、ゴム面の滑り摩擦力が大きく、作業性の低下が懸念される。また、充分な防着性能を発揮させるためには、高濃度で使用することが必要であり、その場合、水溶性高分子の保水性が著しく高くなり、防着剤組成物を塗布した後の乾燥工程に時間がかかり、生産性を悪化させる。
【0005】
特許文献3ではモンモリロナイトを必須成分とする微粉末と特定の界面活性剤とからなる防着用組成物が開示されている。モンモリロナイトを必須成分とする微分末が、水分散性に優れゴム表面に均一に付着することで非常に緻密な層を形成する。そのため、無機粉末を使用しながらも脱落による粉塵飛散の問題が低減できる。しかしながら、モンモリロナイトは層状粘土鉱物であり、水中で層間に水を取り込み膨潤する性質を持つ。そのため、未加硫ゴム表面に形成した被膜の保水性も高く乾燥性に優れない。また、ウェット法において、高濃度で使用する場合、無機粉末の配合比率が大きいため、分散性が悪化する。
以上のように、特許文献1〜3に示す防着剤にもそれぞれ問題点がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開昭49−47440号公報
【特許文献2】特開昭62−32127号公報
【特許文献3】特開2011−144221号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明はこのような従来の問題点に鑑み、使用時および防着処理後の粉塵飛散が少なく、水分散性に優れ、短時間で乾燥し、滑りがよく、従来よりも高い防着性を付与できる未加硫ゴム用防着剤組成物と、その未加硫ゴム用防着剤組成物を使用して行われる防着処理された未加硫ゴムの製造方法とを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者は、上記課題を解決するために鋭意検討した結果、水溶性高分子、特定の無機化合物、多価アルコール、特定の界面活性剤および水を配合した組成物によって、上記課題が解決されることを見出し、本発明に到達した。
本発明の未加硫ゴム用防着剤組成物は、水溶性高分子と、無機化合物と、多価アルコールと、界面活性剤と、水とを必須成分とする組成物であって、前記無機化合物が、炭酸ナトリウム、炭酸マグネシウム、炭酸カルシウム、塩化ナトリウム、塩化マグネシウム、塩化カルシウムおよび酸化マグネシウムから選ばれる少なくとも1種であり、前記界面活性剤が脂肪酸石鹸を含み、その重量割合が前記界面活性剤の50重量%以上であり、前記界面活性剤の重量割合が、前記無機化合物を100重量部としたときに60重量部を超える組成物である。
【0009】
ここで、前記水溶性高分子、無機化合物、多価アルコールおよび界面活性剤の合計量に対して、前記水溶性高分子の重量割合が0.25〜20重量%、前記無機化合物の重量割合が2.5〜70重量%、前記多価アルコールの重量割合が0.25〜50重量%であると好ましい。また、前記水溶性高分子、無機化合物、多価アルコールおよび界面活性剤の合計の重量割合が、組成物全体の0.1〜60重量%であると好ましい。
本発明の防着処理された未加硫ゴムの製造方法は、前記未加硫ゴム用防着剤組成物、または、前記未加硫ゴム用防着剤組成物を含む分散組成物を、成型加工された未加硫ゴムの表面に付着させる処理工程を含む製造方法である。
【0010】
前記分散組成物が、スメクタイト、カオリナイト、モンモリロナイト、セリサイト、イライト、グローコナイト、クロライト、タルク、ゼオライトおよびマイカから選ばれる少なくとも1種の無機粉末をさらに含むと好ましい。
本発明の防着処理された未加硫ゴムは、前記製造方法により得られたものである。
【発明の効果】
【0011】
本発明の未加硫ゴム用防着剤組成物は、未加硫ゴムに用いることによって、防着処理作業場での粉塵飛散が少なく、水分散性に優れ、短時間で乾燥し、滑りがよく、従来よりも高い防着性を未加硫ゴムに付与できる。
また、本発明の防着処理された未加硫ゴムの製造方法では、本発明の未加硫ゴム用防着剤組成物を用いるために、防着処理作業場での粉塵飛散が少なく、短時間で乾燥し、水分散性に優れ、滑りがよく、従来よりも高い防着性を有する未加硫ゴムを効率よく製造できる。
【発明を実施するための形態】
【0012】
〔未加硫ゴム用防着剤組成物〕
本発明の未加硫ゴム用防着剤組成物は、水溶性高分子と、無機化合物と、多価アルコールと、界面活性剤と、水とを必須成分とする組成物である。
以下、下記成分を詳しく説明する。
【0013】
(水溶性高分子)
水溶性高分子は、未加硫ゴム用防着剤組成物を増粘させ、経日的な沈降を抑制する成分である。また、水溶性高分子は、未加硫ゴム表面で被膜を形成し、無機化合物、後述する無機粉末や(以下では、無機化合物および無機粉末を纏めて「無機成分」ということがある。)、多価アルコールを未加硫ゴム表面に結合させる成分である。
水溶性高分子による増粘の効果は、水溶性高分子の分子量が大きい方が優れる。また、水溶性高分子の被膜も同様に、水溶性高分子の分子量が大きい方が強度に優れ、粉塵飛散の抑制や防着性に優れる傾向にある。しかしながら、水溶性高分子の分子量が大きすぎると、増粘効果が大きく流動性が悪くなるし、防着処理する場合に、保水性が高くなりすぎることによって、乾燥性が著しく低下することがある。そのため、本発明では、水溶性高分子の分子量は適正な範囲内で選択されることが望ましい。
【0014】
水溶性高分子は、一般に分子量分布を持つため、その水溶液の粘度で管理されることがゴム用防着剤の技術分野では一般的である。水溶性高分子の2%水溶液の粘度は、増粘効果が高く、被膜強度に優れるという見地からは、好ましくは5×10〜1×10mPa・s、より好ましくは5×10〜9×10mPa・s、さらに好ましくは5×10〜8×10mPa・s、特に好ましくは5×10〜7×10mPa・sである。本発明において、粘度は20℃でブルックフィールド粘度計を用いて測定する。
水溶性高分子の2%水溶液の粘度が5×10mPa・s未満であると、水溶性高分子の増粘効果が小さく、未加硫ゴム用防着剤組成物が経日的に沈降したり、被膜強度が優れず、粉塵飛散を引き起こしたり、防着性能が低下したりすることがある。一方、水溶性高分子の2%水溶液の粘度が1×10mPa・sを超えると、水溶性高分子の増粘効果が大きすぎて、未加硫ゴム用防着剤組成物のハンドリングが悪くなったり、ウェット法で防着処理する場合、保水性が高くなりすぎて乾燥性が低下したりすることがある。
【0015】
また、水溶性高分子の2%水溶液の粘度が5×10〜1×10mPa・sの範囲を満足すると、水溶性高分子の増粘効果が適度で、分散安定性が高まり、ハンドリングも良いし、未加硫ゴム用防着剤組成物を用いてウェット法で防着処理する場合に、保水性が適度で、乾燥性が高まるので好ましい。
水溶性高分子としては、特に限定はないが、たとえば、酸化でんぷん、酢酸でんぷん、燐酸でんぷん、カルボキシメチルスターチ、カルボキシエチルスターチ、ヒドロキシエチルスターチ、陽性でんぷん、シアノエチル化でんぷん、ジアルデヒドでんぷん等のでんぷん類;マンナン;アルギン酸、アルギン酸ナトリウム、アルギン酸プロピレングリコールエステル、アルギン酸トリエタノールアミン、アルギン酸アンモニウム等のアルギン酸類;メチルセルロース、エチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、ヒドロキシエチルメチルセルロース、ヒドロキシエチルエチルセルロース、カルボキシメチルセルロース等のセルロースエーテル類;タラカントガム、アラビアガム、グアーガム、キサンタンガム、ブリティッシュガム、グルコマンナン、ジェランガム、タラガム、ローカストビーンガム、カラギーナン等の天然ガム類;ポリアクリル酸ソーダ;ポリビニルアルコール;ポリエチレングリコール;ポリエチレンオキシド;水溶性アクリル樹脂;水溶性ウレタン樹脂;水溶性メラミン樹脂;水溶性エポキシ樹脂;水溶性ブタジエン樹脂;水溶性フェノール樹脂等が挙げられる。これらの水溶性高分子は1種または2種以上を併用してもよい。
【0016】
本発明では様々な水溶性高分子を選択することができるが、セルロースエーテル類および天然ガム類から選ばれる少なくとも1種が、被膜強度が高く、粉塵飛散の抑制および防着性能に優れるために好ましい。セルロースエーテル類としては、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、ヒドロキシエチルメチルセルロース、カルボキシメチルセルロース等が好ましく、天然ガム類としてはキサンタンガムが好ましい。
本発明の未加硫ゴム用防着剤組成物に含まれる水溶性高分子の重量割合は、水以外の必須成分である水溶性高分子、無機化合物、多価アルコールおよび界面活性剤の合計量(以下、4成分合計量ということがある。)に対して、好ましくは0.25〜20重量%、より好ましくは0.5〜15重量%、さらに好ましくは0.75〜10重量%、特に好ましくは1〜5重量%である。水溶性高分子が0.25重量%未満であると、増粘効果が得られず未加硫ゴム用防着剤組成物の安定性が悪くなるし、防着処理後の被膜が薄く防着性が低下することがある。一方、水溶性高分子が20重量%を超えると、未加硫ゴム用防着剤組成物の粘度が高く流動性が悪くなり作業性が低下することがある。また、防着処理後の被膜の保水性が高くなり、乾燥性が悪化することがある。
【0017】
(無機化合物)
無機化合物は、未加硫ゴム表面に付着することによってゴム−ゴム間に滑りを付与したり、ゴム−ゴム間の密着を抑制したりする成分である。
無機化合物は、炭酸ナトリウム、炭酸マグネシウム、炭酸カルシウム、塩化ナトリウム、塩化マグネシウム、塩化カルシウムおよび酸化マグネシウムから選ばれる少なくとも1種である。これらの無機化合物のうちでも、炭酸マグネシウムや、炭酸ナトリウム、炭酸カルシウム等が好ましく、後述の製造方法において無機粉末をさらに含む分散組成物を用いる場合に、未加硫ゴム表面への分散組成物の付着が向上し、防着性、滑り性が向上する。
【0018】
本発明の未加硫ゴム用防着剤組成物に含まれる無機化合物の重量割合は、4成分合計量に対して、好ましくは2.5〜70重量%、より好ましくは7.5〜65重量%、さらに好ましくは12.5〜60重量%、特に好ましくは17.5〜55重量%である。無機粉末が2.5重量%未満であると、防着性および滑性が低下することがある。一方、無機化合物が70重量%を超えると、水分散性が悪くなるし、防着処理後の粉塵飛散が多くなり、ゴム製品への異物混入や作業環境の悪化が起こることがある。
【0019】
(多価アルコール)
多価アルコールは、未加硫ゴム用防着剤組成物の低温流動性を向上させる成分である。また、防着処理後、未加硫ゴム表面に付着し潤滑性を付与するため、防着性も向上する。未加硫ゴム用防着剤組成物を使用する作業場は冬季、氷点下まで気温が下がる場合もあり、凍結せず流動性を保つことが求められる。
多価アルコールとしては、特に限定はないが、たとえば、水酸基を2以上有し、炭素数3〜6の鎖状ポリオールが水に溶解しやすいために好ましい。多価アルコールの炭素数は、より好ましくは3〜5、さらに好ましくは3〜4、特に好ましくは3である。
多価アルコールとしては、たとえば、グリセリン、1,3−ブタンジオール、エチレングリコール、ジエチレングリコール、プロピレングリコール、ジプロピレングリコール、ペンチレングリコール、ヘキシレングリコール、ソルビトール、エリスリトール等の鎖状ポリオールを挙げることができる。これらの多価アルコールは、1種または2種以上を併用してもよい。これらの多価アルコールのうちでも、多価アルコールがグリセリンであると、低温流動性、防着性に優れるために好ましい。
【0020】
本発明の未加硫ゴム用防着剤組成物に含まれる多価アルコールの重量割合は、4成分合計量に対して、好ましくは0.25〜50重量%、より好ましくは1.0〜40重量%、さらに好ましくは1.75〜30重量%、特に好ましくは2.5〜20重量%である。多価アルコールが0.25重量%未満であると、低温流動性が悪化することがある。一方、多価アルコールが50重量%を超えると、流動性が高くなりすぎて粘度が低下し、離水が生じることがある。また、防着処理後の未加硫ゴム表面がべたつき、次工程に移る際のゴムの取り扱いが困難になることがある。
多価アルコールは水溶性であると、水溶性高分子のゲル化を抑制し、乾燥性がさらに向上するために好ましい。ここで、多価アルコールが水溶性であるとは、15℃の水100gに対して、多価アルコールが0.1g以上溶解することを意味するものとする。
【0021】
(界面活性剤)
界面活性剤は、無機成分を水中へ分散させる成分であり、未加硫ゴムに対して「濡れ」を補助する成分である。界面活性剤が本発明の未加硫ゴム用防着剤組成物に含まれていることによって、無機成分が安定して水に分散するし、防着処理時には無機成分、水溶性高分子および多価アルコール等をより均一に未加硫ゴム表面に付着させることができる。
本発明では、界面活性剤は脂肪酸石鹸を含む。脂肪酸石鹸は、無機成分の水への分散、未加硫ゴムへの濡れの補助だけでなく、脂肪酸石鹸自体がゴム表面へ付着しやすいため、防着性を付与することができる。
【0022】
このような脂肪酸石鹸としては、たとえば、カプロン酸、カプリル酸、カプリン酸、ラウリン酸、ミリスチン酸、パルミチン酸、ステアリン酸、アラキジン酸、ベヘン酸、リグノセリン酸、セロチン酸、モンタン酸、メリシン酸、オレイン酸、イソオレイン酸、リノール酸、リノレン酸等の脂肪酸のナトリウム塩や、カリウム塩等を挙げることができる。これらの脂肪酸石鹸のうちでも、カプロン酸、カプリル酸、カプリン酸、ラウリン酸、ミリスチン酸、パルミチン酸、ステアリン酸、オレイン酸のナトリウム塩や、カリウム塩等が、水に溶け易いという理由から好ましい。
脂肪酸石鹸の重量割合は界面活性剤の50重量%以上であり、好ましくは55重量%以上、さらに好ましくは60重量%以上、特に好ましくは65重量%以上である。脂肪酸石鹸の重量割合が界面活性剤の50重量%未満であると、界面活性剤のゴムへの付着が低下し、防着性が悪くなることがある。
【0023】
界面活性剤の重量割合は、無機粉末を100重量部としたときに、60重量部を超え、好ましくは70重量部以上、さらに好ましくは80重量部以上、特に好ましくは90重量部以上である。界面活性剤が60重量部以下であると、無機成分の分散性が悪くなるし、未加硫ゴムへの濡れも低下する。
界面活性剤は、非イオン界面活性剤、脂肪酸石鹸以外の陰イオン界面活性剤、陽イオン界面活性剤、両性界面活性剤等をさらに含んでいてもよい。
【0024】
非イオン界面活性剤としては、たとえば、ポリオキシエチレンセチルエーテル、ポリオキシエチレンラウリルエーテル等のポリオキシアルキレンアルキルエーテル;ポリオキシエチレンノニルフェニルエーテル、ポリオキシエチレンオクチルフェニルエーテル等のポリオキシアルキレンアルキルフェニルエーテル;ポリオキシエチレンモノラウレート、ポリオキシエチレンモノオレエート等のポリオキシアルキレン脂肪酸エステル;ポリオキシエチレンソルビタンモノステアレート、ポリオキシエチレンソルビタンモノオレエート等のポリオキシアルキレンソルビタン脂肪酸エステル;ポリオキシアルキレンアルキルアミン;脂肪酸アルカノールアミド;ポリオキシアルキレン脂肪酸アミド;ポリオキシアルキレン硬化ひまし油;ポリオキシアルキレンソルビトール脂肪酸エステル;ポリグリセリン脂肪酸エステル;アルキルグリセリンエーテル;ポリオキシアルキレンコレステリルエーテル;アルキルポリグルコシド;ショ糖脂肪酸エステル等が挙げられる。
脂肪酸石鹸以外の陰イオン界面活性剤としては、たとえば、ラウリル硫酸ナトリウム、ラウリル硫酸アンモニウム、ステアリル硫酸ナトリウム、セチル硫酸ナトリウム等のアルキル硫酸エステル塩;ポリオキシエチレントリデシルエーテル酢酸ナトリウム等のポリオキシアルキレンアルキルエーテル酢酸塩;ドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム等のアルキルベンゼンスルホン酸塩;ポリオキシアルキレンアルキルエーテル硫酸塩;2−エチルヘキシルスルホコハク酸ナトリウム等の長鎖スルホコハク酸塩;オレオイルザルコシンナトリウム、ラウロイルザルコシンナトリウム等のN−アシルサルコシン塩;ステアロイルメチルタウリンナトリウム、ラウロイルメチルタウリンナトリウム、ミリストイルメチルタウリンナトリウム、パルミトイルメチルタウリンナトリウム等の高級脂肪酸アミドスルホン酸塩;モノステアリルリン酸ナトリウム等のアルキルリン酸塩;ポリオキシエチレンオレイルエーテルリン酸ナトリウム、ポリオキシエチレンステアリルエーテルリン酸ナトリウム等のポリオキシアルキレンアルキルエーテルリン酸エステル塩;N−ラウロイルグルタミン酸ナトリウムモノナトリウム、N−ステアロイル−L−グルタミン酸ジナトリウム等の長鎖N−アシルグルタミン酸塩等が挙げられる。
【0025】
陽イオン界面活性剤としては、たとえば、塩化ステアリルトリメチルアンモニウム、塩化ラウリルトリメチルアンモニウム、臭化セチルトリメチルアンモニウム等のアルキルトリメチルアンモニウム塩;ジアルキルジメチルアンモニウム塩;トリアルキルメチルアンモニウム塩、アルキルアミン塩等が挙げられる。
両性界面活性剤としては、たとえば、2−ウンデシル−N,N−(ヒドロキシエチルカルボキシメチル)−2−イミダゾリンナトリウム、2−ココイル−2−イミダゾリニウムヒドロキサイド−1−カルボキシエチロキシ2ナトリウム塩等のイミダゾリン系両性界面活性剤;2−ヘプタデシル−N−カルボキシメチル−N−ヒドロキシエチルイミダゾリウムベタイン、ラウリルジメチルアミノ酢酸ベタイン、ヤシ油脂肪酸アミドプロピルベタイン等のベタイン系両性界面活性剤;N−ラウリルグリシン、N−ラウリルβ−アラニン、N−ステアリルβ−アラニン等のアミノ酸型両性界面活性剤等が挙げられる。
【0026】
界面活性剤の2%水溶液の粘度は、未加硫ゴム用防着剤組成物のゴム表面への濡れ性が良いという見地からは、好ましくは5×10mPa・s未満、より好ましくは4×10mPa・s未満、さらに好ましくは3×10mPa・s未満、特に好ましくは2×10mPa・s未満である。界面活性剤の2%水溶液の粘度が5×10mPa・s以上であると、未加硫ゴム用防着剤組成物の粘度が高くなり過ぎて、ゴム表面での広がりに時間が掛かり、均一に濡れる前に乾燥する場合がある。界面活性剤の2%水溶液の粘度の下限値は0mPa・s超であればよい。
【0027】
(水)
水は、水道水、イオン交換水、蒸留水等のいずれでもよく、特に限定はないが、イオン交換水や蒸留水等が好ましい。また、水の硬度の観点からは、水が軟水であると、品質管理の観点から好ましい。
本発明の未加硫ゴム用防着剤組成物に含まれる水の重量割合については、特に限定はないが、輸送時の利便性や経費節減等の観点からは、好ましくは未加硫ゴム用防着剤組成物全体の40〜95重量%、さらに好ましくは45〜90重量%、特に好ましくは50〜85重量%、最も好ましくは55〜80重量%である。水の重量割合が40重量%未満の場合は、未加硫ゴム用防着剤組成物の粘度が高くなり過ぎて、取り扱いが困難になることがある。一方、水の重量割合が95重量%を超える場合は、未加硫ゴム用防着剤組成物の保管時や輸送時に無機成分の沈降が生じることがある。
本発明の未加硫ゴム用防着剤組成物を希釈せずに、そのまま未加硫ゴムに使用するという観点からは、水の重量割合は、好ましくは未加硫ゴム用防着剤組成物全体の95〜99.9重量%、さらに好ましくは95.2〜99.7重量%、特に好ましくは95.4〜99.5重量%、最も好ましくは95.6〜99.3重量%である。水の重量割合が95重量%未満の場合は、未加硫ゴム用防着剤組成物が未加硫ゴムへ付着した後の乾燥時間が長くなり、作業性が低下することがある。一方、水の重量割合が99.9重量%を超える場合は、未加硫ゴム用防着剤組成物の未加硫ゴムへの付着が少なくなり、防着性が低下することがある。
【0028】
(その他の成分等)
本発明のゴム用防着剤組成物は、上記で説明した各成分以外に、消泡剤や防腐剤等をさらに含有していてもよい。
消泡剤としては、たとえば、ポリメチルシロキサン、ポリエーテル変性シリコー等のシリコーン系消泡剤;ヒマシ油、ゴマ油、アマニ油、動植物油等の油脂系消泡剤;ステアリン酸、オレイン酸、パルミチン酸等の脂肪酸系消泡剤;ステアリン酸イソアミル、コハク酸ジステアリル、エチレングリコールジステアレート、ステアリン酸ブチル等の脂肪酸エステル系消泡剤;ポリオキシアルキレンモノハイドリックアルコールジ−t−アミルフェノキシエタノール、3−ヘプタノール、2−エチルヘキサノール等のアルコール系消泡剤;ジ−t−アミルフェノキシエタノール3−ヘプチルセロソルブノニルセロソルブ3−ヘプチルカルビトール等のエーテル系消泡剤;トリブチルオスフェート、トリス(ブトキシエチル)フオスフェート等のリン酸エステル系消泡剤;ジアミルアミン等のアミン系消泡剤;ポリアルキレンアミド、アシレートポリアミン等のアミド系消泡剤;ラウリル硫酸エステルナトリウム等の硫酸エステル系消泡剤;ポリオキシアルキレン系消泡剤;鉱物油等が挙げられる。
【0029】
防腐剤としては、たとえば、チアゾール、2−メルカプトチアゾール等のチアゾール類;メチレンビスチオシアネート、アンモニウムチオシアネート等のチオシアネート類;o−ベンゾイックスルフィミド、フェニルマーキュリック−o−ベンゾイックスルフィミド等のスルフィミド類;メチルジメチルチオカルバメート、エチルジエチルジチオカルバメート等のアルキルジアルキルチオカルバメート類;テトラメチルチラウムスルフィド、テトラエチルチラウムスルフィド等のチラウムスルフィド類;テトラメチルチラウムジスルフィド、テトラエチルチラウムジスルフィド等のチラウムジスルフィド類;フェリックジエチルジチオカルバメート、リードジメチルジチオカルバメート等のジチオカルバメート類;o−トルエンスルホンアミド、ベンゼンスルフォンアニリド等のスルファミド類;1−アミノナフチル−4−スルホン酸、1−アミノ−2−ナフトール−4−スルホン酸等のアミノスルホン酸類;ペンタクロロフェノール、o−フェニルフェノール等のフェノール類およびこれらのアルカリ金属塩類;;テトラクロロ−p−ベンゾキノン、2,3−ジクロロ−1,4−ナフトキノン等の塩化キノン類;ジニトロカプリルフェニルクロトネート、ジニトロ−o−クレゾール等のニトロ基含有化合物類;1,3,5−トリヒドロキシエチルヘキサハイドロ−1,3,5−トリアジン、1,3,5−トリエチルヘキサハイドロ−1,3,5−トリアジン等のトリアジン類;フェニルマーキュリックフタレート、o−ヒドロキシフェニルマーキュリッククロライド等の有機水銀化合物;p−アミノアゾベンゼン、ジフェニルアミン等のアミン類;シンナムアニリド等のアミド類;1,3−ジヨード−2−プロパノール等のヨウ素含有化合物等が挙げられる。
本発明のゴム用防着剤組成物は、以下で説明する無機粉末をさらに含有していてもよい。
【0030】
(未加硫ゴム用防着剤組成物およびその製造方法)
本発明の未加硫ゴム用防着剤組成物は、水溶性高分子、無機化合物、多価アルコール、界面活性剤および水を含む組成物であり、さらに必要に応じてその他の成分等を含むものであってもよい。
4成分合計量の重量割合については特に限定がないが、好ましくは未加硫ゴム用防着剤組成物全体の0.1〜60重量%である。4成分合計量が0.1重量%未満である場合、すなわち、未加硫ゴム用防着剤組成物が希薄な液の場合は、未加硫ゴム用防着剤組成物を未加硫ゴムの表面に付着させても所望の効果が得られにくくなることがある。一方、4成分合計量が60重量%を超える場合、すなわち、未加硫ゴム用防着剤組成物が濃厚な液の場合は、未加硫ゴム用防着剤組成物を未加硫ゴムの表面に付着させにくくなることがある。
【0031】
本発明の未加硫ゴム用防着剤組成物の輸送時の利便性や経費節減等の観点からは、4成分合計量の重量割合は、好ましくは未加硫ゴム用防着剤組成物全体の5〜60重量%、さらに好ましくは10〜55重量%、特に好ましくは15〜50重量%、最も好ましくは20〜45重量%である。4成分合計量が5重量%未満の場合は、未加硫ゴム用防着剤組成物の保管時や輸送時に無機成分の沈降が生じることがある。一方、4成分合計量が60重量%を超える場合は、未加硫ゴム用防着剤組成物の粘度が高くなり過ぎて、取り扱いが困難になることがある。
本発明の未加硫ゴム用防着剤組成物を希釈せずに、そのまま未加硫ゴムに使用するという観点からは、4成分合計量の重量割合は、好ましくは未加硫ゴム用防着剤組成物全体の0.1〜5重量%、さらに好ましくは0.3〜4.8重量%、特に好ましくは0.5〜4.6重量%、最も好ましくは0.7〜4.4重量%である。4成分合計量が0.1重量%未満の場合は、未加硫ゴム用防着剤組成物の未加硫ゴムへの付着が少なくなり、防着性が低下することがある。一方、4成分合計量が5重量%を超える場合は、未加硫ゴム用防着剤組成物が未加硫ゴムへ付着した後の乾燥時間が長くなり、作業性が低下することがある。
【0032】
本発明の未加硫ゴム用防着剤組成物の製造方法については、水溶性高分子、無機化合物、多価アルコール、界面活性剤、水、さらに必要に応じて配合されるその他の成分等を混合する工程を含むものであれば、混合順序や使用する混合設備等について特に限定はない。未加硫ゴム用防着剤組成物は、たとえば、ホモミキサーに各成分を順次添加し、混合することで製造することができる。
【0033】
(防着処理された未加硫ゴムの製造方法)
本発明の防着処理された未加硫ゴムの製造方法は、上記未加硫ゴム用防着剤組成物、または、上記未加硫ゴム用防着剤組成物を含む分散組成物を、未加硫ゴムの表面に付着させる処理工程を含む方法である。以下では、「未加硫ゴム用防着剤組成物や分散組成物」を「組成物等」ということがある。ここで、未加硫ゴムは、成形加工されたものであるとよい。
処理工程は、組成物等をスプレーする方法や、細流にてゴムに吹き付ける方法や組成物等の中に浸漬する方法等が挙げられる。組成物等の中に浸漬する方法では、均一に組成物等を付着させることができるため好ましい。本発明の製造方法で用いる未加硫ゴムは、通常、100〜180℃に加熱された状態にあり、組成物等の中に浸漬する方法で未加硫ゴムを冷却することができる。処理工程を行う際、組成物等の温度は特に限定はないが、0〜60℃であると好ましい。
【0034】
分散組成物は、無機粉末をさらに含むと、未加硫ゴムへの無機成分の付着が増し、平滑性や防着性が向上するために好ましい。無機粉末としては、ケイ酸塩等を挙げることができる。無機化合物がケイ酸塩等の無機粉末の水中での膨潤性を向上させるために、分散組成物中での微粒子化を促進し、無機成分が未加硫ゴムへより均一に付着する。
無機粉末の平均粒径については、特に限定は無いが、未加硫ゴムへの付着性等を考慮すると、好ましくは0.1〜200μm、より好ましくは0.1〜100μm、さらに好ましくは0.1〜50μm、特に好ましくは0.1〜40μmである。無機粉末の平均粒径が0.1μm未満であると平滑性に劣ることがある。一方、無機粉末の平均粒径が200μmより大きいと未加硫ゴム表面からの粉落ちが生じることがある。
【0035】
無機粉末としては、たとえば、スメクタイト、カオリナイト、モンモリロナイト、セリサイト、イライト、グローコナイト、クロライト、タルク、ゼオライトおよびマイカから選ばれる少なくとも1種のケイ酸塩を挙げることができる。これらの無機粉末のうちでも、スメクタイト、モンモリロナイト等が、無機化合物による膨潤促進効果が大きく未加硫ゴムへの付着が良いという理由で、好ましい。
分散組成物は、たとえば、未加硫ゴム用防着剤組成物および無機粉末を混合することによって調製することができ、適宜、水をさらに混合してもよい。混合に使用する設備等について特に限定はない。
【0036】
分散組成物に含まれる水溶性高分子、無機化合物、無機粉末、多価アルコールおよび界面活性剤の合計量(以下、5成分合計量ということがある。)は、分散組成物全体の好ましくは0.1〜5重量%、さらに好ましくは0.3〜4.8重量%、特に好ましくは0.5〜4.6重量%、最も好ましくは0.7〜4.4重量%である。5成分合計量が0.1重量%未満の場合は、未加硫ゴムに対する付着量が少なくなり防着性が低下することがある。一方、5成分合計量が5重量%を超える場合は、未加硫ゴムに対する付着量が多くなり乾燥性が低下することがある。
処理工程後に、組成物等を付着後の未加硫ゴムを乾燥する工程を実施してもよい。乾燥の方法としては、特に限定はないが熱風機やブローヒーターにより熱風を送ることで強制的に乾燥させる方法であると、コストが安くてよい。
このようにして製造された、防着処理された未加硫ゴムでは、次の工程に移行するまでの間、積み重ねて貯蔵する場合に、未加硫ゴム同士の密着を防止することができる。
【実施例】
【0037】
以下に、本発明を実施例および比較例を示して具体的に説明する。本発明はこれら実施例に限定されるものではない。実施例および比較例における各物性の評価は、以下のようにして行った。
【0038】
〔乾燥性の評価〕
未加硫ゴム用防着剤組成物または分散組成物に対して、100℃に加熱したNR/BRゴム試験片(天然ゴム/ブタジエンゴム;厚み0.5cm×縦5cm×横3cm)を浸漬し、直ちに引き上げた。そして、未加硫ゴム表面が乾くまでに要した時間を目視にて測定する。下部に液だまりができるがこれは全ての試験片に出来るので無視し、この状態に至るまでの乾燥時間を測定する。乾燥時間が35秒以下であれば、次の工程に移行するまでの待ち時間が少なく、乾燥性が良い。乾燥時間が35秒超であれば、次の工程に移行するまでの待ち時間が長く、作業性に支障をきたすため乾燥性が良くない。
【0039】
〔粉飛散抑制性の評価〕
NR/BRゴム試験片(厚み0.5cm×縦10cm×横10cm)を準備し、未加硫ゴム用防着剤組成物または分散組成物に対して、100℃に加熱されたゴム試験片を2回連続で浸漬し、すぐに引き上げた。試験片が風乾したらその重量(W1)を測定した。さらに試験片の各6面をたわしで15回強くこすった後の試験片の重量(W2)を測定した。防着処理ゴムの粉飛散量は下記の式により計算して粉飛散抑制性を評価する。
粉飛散量(mg/100cm)=W1−W2
防着処理ゴムからの粉飛散量が大きいほど、未加硫ゴム表面から粉落ちした粉塵による飛散問題が大きく、粉飛散抑制性が低い。粉飛散量1mg/100cm以下であれば、粉塵発生の問題を大幅に低下できる。粉飛散量が1mg/100cm超であれば、未加硫ゴム表面から粉落ちした粉塵による飛散が発生する。
【0040】
〔防着性の評価〕
未加硫ゴム用防着剤組成物または分散組成物に対して、100℃に加熱したNR/BR試験片(厚み0.5cm×縦5cm×横3cm)を浸漬して直ちに引き上げる。浸漬させたゴム試験片を2枚作製し、風乾したら重ね合わせ、1000kg/mの荷重をかけ40℃の恒温槽に24時間放置する。恒温槽から取出した試験片を室温まで空冷し、引張り試験機を用いて100mm/minの速度下で剥離抗力(N)を測定した。剥離抗力が小さいほど剥がしやすく、防着性が高い。剥離抗力が0.2N以下の場合、大きな負荷なく未加硫ゴム同士を剥がすことができ、防着性は高い。剥離抗力が0.5N超の場合、未加硫ゴム同士を剥がす時の負荷が大きく、防着性が低い。さらに剥離抗力が1N超の場合、ゴム同士が密着して剥離が困難である。
【0041】
〔滑り性の評価〕
未加硫ゴム用防着剤組成物または分散組成物に対して、100℃に加熱したNR/BR試験片(厚み0.5cm×縦5cm×横3cm)を浸漬して直ちに引き上げる。風乾したら、そのゴム試験片に金属片を重ね合わせ、垂直荷重200gをかけて水平に引っ張り(引張速度:100mm/min)、その際の引っ張り荷重(N)を測定する。引っ張り荷重が5N以下の場合、ゴムと金属との摩擦が小さく、次の工程に移行する際の作業性に優れる。引っ張り荷重が5N超の場合、摩擦が大きく、ゴム加工の作業性を著しく低下させる。
【0042】
〔分散性の評価〕
未加硫ゴム用防着剤組成物または分散組成物5gに、水95gを配合し、マグネチックスターラーを用いて混合する(撹拌速度100rpm)。30分後、混合液の分散性を目視にて確認する。浮遊物や沈降物が確認されない場合、分散性が良く(○)、作業工程が短縮できる。一方で浮遊物や沈降物が確認される場合、分散性が悪く(×)、混合時間が長くなるため生産性が悪い。
【0043】
(実施例1)
カルボキシメチルセルロース(2%水溶液の粘度:1×10mPa・s)0.5g、炭酸マグネシウム15g、グリセリン3g、ヤシ脂肪酸ナトリウム15gおよび水66.5gを均一に混合して、未加硫ゴム用防着剤組成物を得た。
次いで、水道水95gに上記防着剤組成物を5g加え、水中に均一分散させて、未加硫ゴム用防着剤組成物(希釈液)を得た。均一分散に要する時間は10分であり、希釈液は分散性に優れた。
得られた希釈液に100℃に加熱したNR/BRゴム試験片を浸漬して直ちに引き上げた。未加硫ゴム表面が乾くまでの時間を目視にて測定したところ、乾燥時間は25秒であり乾燥性に優れていた。浸漬させたゴム試験片を2枚作製し、風乾したら重ね合わせ、1000kg/mの荷重をかけ40℃の恒温槽に24時間放置した。剥離抗力は0.2Nであり、負荷無く剥離することができ、防着性に優れていた。粉飛散量は0.5mg/100cmで、脱落による粉塵発生の問題が大幅に低減され、粉飛散抑制性に優れていた。引っ張り荷重は3Nであり、滑り性に優れていた。
【0044】
(実施例2〜5)
実施例2〜5では、表1に示すように組成を変更した以外は、実施例1と同様にして未加硫ゴム用防着剤組成物(希釈液)を得て、評価した。その結果を表1にそれぞれ示す。それらは粉塵発生の問題が大幅に低減され(優れた粉飛散抑制性)、水分散性に優れ、短時間で乾燥し、滑り性が良く、高い防着性も示した。
【0045】
(実施例6)
実施例1で得られた未加硫ゴム用防着剤組成物(注:希釈液ではない)4g、ベントナイト1gおよび水95gを均一に分散させて、分散組成物を得た。得られた分散組成物を実施例1と同様に評価した。その結果を表2に示す。この分散組成物は、粉塵発生の問題が大幅に低減され(優れた粉飛散抑制性)、水分散性に優れ、短時間で乾燥し、滑り性が良く、高い防着性も示した。
【0046】
(実施例7〜10)
実施例7〜10では、表2に示すように、未加硫ゴム用防着剤組成物、無機粉末および水の種類や量を変更した以外は、実施例6と同様にして分散組成物を得て、評価した。その結果を表2にそれぞれ示す。これらの分散組成物は粉塵発生の問題が大幅に低減され(優れた粉飛散抑制性)、水分散性に優れ、短時間で乾燥し、滑り性が良く、高い防着性も示した。
【0047】
(比較例1)
塩化ナトリウム15.5g、1、3−ブタンジオール3g、オレイン酸カリウム8g、ラウリン酸カリウム7g、水66.5gを均一に混合して、未加硫ゴム用防着剤組成物を得た。
次いで、水道水95gに上記防着剤組成物を5g攪拌しながら加え、水中に均一分散させて、未加硫ゴム用防着剤組成物(希釈液)を得た。
【0048】
均一分散に要する時間は40分であり、分散性が悪かった。得られた希釈液に100℃に加熱したNR/BRゴム試験片を浸漬して直ちに引き上げた。未加硫ゴム表面が乾くまでの時間を目視にて測定したところ、乾燥時間は20秒であり乾燥性に優れた。浸漬させたゴム試験片を2枚作製し、風乾したら重ね合わせ、1000kg/mの荷重をかけ40℃の恒温槽に24時間放置した。剥離抗力は0.4Nであり、防着性に優れた。粉飛散量は1.5mg/100cmで、脱落による粉塵発生の問題が生じた。引っ張り荷重は4Nであり、滑り性に優れていた。
比較例1では、水溶性高分子の配合が無く、無機粉末のゴムへの付着が弱く、粉塵飛散の問題が生じ、粉飛散抑制性が劣っていた。
【0049】
(比較例2〜6)
比較例2〜6では、表3に示すように組成を変更した以外は、比較例1と同様にして未加硫ゴム用防着剤組成物(希釈液)を得て、評価した。その結果を表3にそれぞれ示す。
比較例2〜6では、実施例1〜5と比較して、粉塵発生の低減(優れた粉飛散抑制性)、良好な乾燥性、良好な水分散性、高い滑性、高い防着性等のすべてを満たすことができなかった。
【0050】
(比較例7)
比較例1で得られた未加硫ゴム用防着剤組成物(注:希釈液ではない)3g、非晶質シリカ2gおよび水95gを均一に分散させて、分散組成物を得た。得られた分散組成物を実施例6と同様に評価した。その結果を表4に示す。この分散組成物は、粉塵発生の低減(優れた粉飛散抑制性)、良好な乾燥性、良好な水分散性、高い滑性、高い防着性等のすべてを満たすことができなかった。
【0051】
(比較例8〜12)
比較例8〜12では、表4に示すように、未加硫ゴム用防着剤組成物、無機粉末および水の種類や量を変更した以外は、実施例6と同様にして分散組成物を得て、評価した。その結果を表4にそれぞれ示す。これらの分散組成物は、粉塵発生の低減(優れた粉飛散抑制性)、良好な乾燥性、良好な水分散性、高い滑性、高い防着性等のすべてを満たすことができなかった。
【0052】
【表1】
【0053】
【表2】
【0054】
【表3】
【0055】
【表4】
【0056】
上記表1〜4に挙げた水溶性高分子の2%水溶液の粘度(η;単位mPa・s)は以下のとおり。
カルボキシメチルセルロース:1×10
ヒドロキシプロピルメチルセルロース:1×10
キサンタンガム:1.5×10
ヒドロキシエチルメチルセルロース:1×10
アラビアガム:3×10
燐酸でんぷん:3×10
【0057】
また、上記表1〜4に挙げた界面活性剤の2%水溶液の粘度(η;単位mPa・s)は以下のとおり。
ヤシ脂肪酸ナトリウム:2×10未満
カプリル酸カリウム:2×10未満
オレイン酸カリウム:2×10未満
ラウリン酸カリウム:2×10未満
ジオクチルスルホコハク酸ナトリウム:2×10未満
【産業上の利用可能性】
【0058】
本発明の未加硫ゴム用防着剤組成物は、未加硫ゴム製品の生産加工工程に用いられ、未加硫ゴムを次の成型や加硫等の工程に移行するまでの間、積み重ねて貯蔵する場合にゴムの密着を防止することができる。その際、防着処理後の未加硫ゴム表面に短時間で強固な被膜を形成することで、製造工程の短縮、異物混入の低減が可能となる。また、強固な被膜はゴムの密着を防ぎ、作業性を大きく改善する。