【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)国等の委託研究の成果に係る特許出願(平成22年度独立行政法人新エネルギー・産業技術総合開発機構「太陽エネルギー技術研究開発太陽光発電システム次世代高性能技術の研究開発」委託研究、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記金属基板の前記素子形成面の前記絶縁層が形成されていない領域、並びに、前記金属基板の裏面及び端面に、焼成により前記アルミナ層が形成される請求項1記載の化合物系薄膜太陽電池の製造方法。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、図面を参照して発明を実施するための形態について説明する。各図面において、同一構成部分には同一符号を付し、重複した説明を省略する場合がある。
【0015】
なお、以下の実施の形態等は、CIS系の化合物系薄膜太陽電池を例にとって説明するが、本発明は、CIS系以外の化合物系薄膜太陽電池にも適用可能である。本発明を適用可能なCIS系以外の化合物系薄膜太陽電池の一例として、光吸収層が銅(Cu)、亜鉛(Zn)、錫(Sn)、及びカルコゲン元素(セレン(Se)又は硫黄(S))を含有する化合物からなるCZTS系の化合物系薄膜太陽電池を挙げることができる。
【0016】
[本実施の形態に係るCIS系の化合物系薄膜太陽電池の構造]
図1は、本実施の形態に係るCIS系の化合物系薄膜太陽電池を例示する断面図である。
図1を参照するに、化合物系薄膜太陽電池10は、表面にアルミナ層12を有する金属基板11と、絶縁層13と、第1の電極層14と、化合物系光吸収層15と、第2の電極層16とを有し、金属基板11のアルミナ層12が形成されていない領域に、絶縁層13、第1の電極層14、化合物系光吸収層15、及び第2の電極層16が順次積層されている。以下、化合物系薄膜太陽電池10を構成する各要素について説明する。
【0017】
なお、本願では、化合物系薄膜太陽電池10を構成する基板及び各層において、受光側の面を上面、その反対面を下面、上面と下面を接続する面を端面と称する場合がある。又、上面、下面、及び端面を合わせて全表面と称する場合がある。又、金属基板11の上面を特に素子形成面と称し、金属基板11の下面を特に裏面と称する場合がある。
【0018】
金属基板11は、絶縁層13、第1の電極層14、化合物系光吸収層15、及び第2の電極層16を形成する基体となる部分である。金属基板11は、鉄を主成分としアルミニウム(Al)及びクロム(Cr)を含有する基板である。金属基板11の素子形成面の一部はアルミナ層12に被覆されている。又、金属基板11の端面及び裏面の全てが熱酸化によって形成されたアルミナ層12に被覆されている。金属基板11の厚さは、例えば、0.2mm〜0.6mm程度とすることができる。
【0019】
金属基板11におけるアルミニウム(Al)の含有量は、0.5重量%以上かつ6.0重量%以下とすると好適である。金属基板11におけるアルミニウム(Al)の含有量が0.5重量%未満であると、アルミナ層12が十分に形成されないため好ましくない。又、金属基板11におけるアルミニウム(Al)の含有量が6.0重量%を超えると、金属基板11の熱膨張率が大きくなるため好ましくない。
【0020】
金属基板11の一例としては、アルミニウム(Al)を含有したステンレス基板を挙げることができる。金属基板11として、アルミニウム(Al)を含有したフェライト系ステンレス基板を用いると特に好適である。フェライト系ステンレス基板は、熱膨張率がCIS系の化合物系光吸収層に近いため、熱処理時又は熱処理後に化合物系光吸収層が剥離することを防止できるからである。
【0021】
なお、ステンレス基板とは、ステンレス鋼から作製された基板である。ステンレス鋼とは、クロム(Cr)又はクロム(Cr)とニッケル(Ni)を含有させた合金鋼であって、クロム(Cr)の含有量が10.5%以上であるものをいう。
【0022】
但し、金属基板11は、アルミニウム(Al)を含有したステンレス基板には限定されず、例えば、鉄を主成分としアルミニウム(Al)及び10.5%未満のクロム(Cr)を含有する基板を用いてもよい。この場合、更にニッケル(Ni)を含有させてもよい。
【0023】
換言すれば、鉄を主成分としアルミニウム(Al)及びクロム(Cr)を含有する基板とは、フェライト系ステンレス基板を含む各種のステンレス基板、及び、ステンレス基板と同一種類の金属を含有する基板であって、クロム(Cr)の含有量が10.5%未満であるものを含む概念である。
【0024】
但し、クロム(Cr)の含有量が少なすぎると、金属基板11の熱膨張係数が大きくなったり、表面粗さが粗くなったりするおそれがあり、太陽電池用基板としては使いにくくなるため、クロム(Cr)は最低でも8%程度含有されていることが好ましい。
【0025】
又、更に緻密なアルミナ層12の形成のために、金属基板11にシリコン(Si)を含有させてもよい。
【0026】
アルミナ層12は、金属基板11の素子形成面の一部、具体的には、金属基板11の素子形成面の絶縁層13が形成されていない領域である外縁部を被覆している。又、アルミナ層12は、金属基板11の端面及び裏面の全てを被覆している。なお、アルミナ層12において、金属基板11の素子形成面の一部を被覆する部分と、金属基板11の端面及び裏面の全てを被覆する部分とは一体に形成されている。
【0027】
アルミナ層12は、金属基板11に含有されたアルミニウム(Al)が、所定条件で金属基板11の所定面に拡散して形成された層である。アルミナ層12は、化合物系薄膜太陽電池10の製造工程において、金属基板11がセレン化水素(H
2Se)や硫化水素(H
2S)等の腐食性が高いガスに腐食されることを防止する腐食防止層として機能する。アルミナ層12の厚さは、金属基板11の腐食を防止する観点からは、30nm以上とすることが好ましい。但し、アルミナ層12は厚くても問題はなく、例えば、1μm程度の厚さであってもよい。
【0028】
ところで、金属基板11の素子形成面の大部分が絶縁層13で覆われていること、及び金属基板11の厚さが0.2mm〜0.6mm程度と薄いため端面の面積が小さいこと等を考慮すると、金属基板11の裏面が最も腐食されやすい面と考えられる。そこで、化合物系薄膜太陽電池10の製造工程において、腐食性が高いガス雰囲気に晒される金属基板11の裏面には、少なくともアルミナ層12を形成しなければならない。
【0029】
但し、金属基板11の端面等からの腐食の可能性を排除するために、金属基板11の端面等にも腐食防止層を形成しておくことが好ましい。本実施の形態では、後述のように、熱酸化によってアルミナ層12を形成するので、スパッタ法等を用いてアルミナ層を形成する場合とは異なり、アルミナ層12は金属基板11の裏面のみではなく端面等にも確実に形成される。
【0030】
絶縁層13は、金属基板11の素子形成面の外縁部を除く領域(アルミナ層12が形成されていない領域)に形成されている。つまり、絶縁層13の下面は、金属基板11の素子形成面のみと接しており、アルミナ層12の上面とは接していない。但し、絶縁層13は、金属基板11の素子形成面の全領域に形成されてもよい。その場合には、金属基板11の素子形成面にはアルミナ層12は形成されず、裏面及び端面に形成される。
【0031】
絶縁層13の材料としては、ガラスを用いることが好ましい。ガラスの一例としては、シリカ(SiO
2)、CaO、B
2O
3、SrO、BaO、Al
2O
3、ZnO、ZrO
2、MgOのうちの少なくとも一つを成分とするガラスや低融点ガラスを挙げることができる。絶縁層13の材料としてガラスが好ましい理由は、例えば絶縁層13の材料として有機樹脂を用いると、化合物系光吸収層15を製膜する際の熱処理によりダメージを受けるおそれがあるが、絶縁層13を耐熱性の高いガラス層とすることにより、このような問題を回避できるからである。
【0032】
なお、絶縁層13を上記材料を組み合わせた複数の層から構成してもよく、その場合には、アルカリバリア機能を有する層を有してもよい。アルカリバリア機能とは、ナトリウム(Na)やカリウム(K)等のアルカリ金属成分が化合物系光吸収層15に過剰に拡散することを防止する機能である。アルカリバリア機能を有する層の厚さは、例えば、5〜100nm程度とすることが好ましい。
【0033】
絶縁層13の厚さは、10μm以上かつ50μm以下とすることが好ましい。又、絶縁層13の線膨張係数は、9.0×10
−6〜13.0×10
−6/K程度とすることが好ましい。なお、発明者らの検討により、絶縁層13の厚さが10μm未満となると、化合物系薄膜太陽電池10の変換効率が低下することがわかっている。これは、金属基板11の上面の表面粗さが、絶縁層13上に形成する各層の平坦性に影響を及ぼすためであると考えられる。又、絶縁層13の厚さが50μmよりも大きくなると、絶縁層13の機械的強度が低下したり、金属基板11から剥離しやすくなるため好ましくない。
【0034】
第1の電極層14は、絶縁層13上に形成されている。第1の電極層14の材料としては、例えば、モリブデン(Mo)を用いることができる。第1の電極層14の材料として、セレン化水素(H
2Se)や硫化水素(H
2S)に対する耐食性が高い他の金属、例えば、チタン(Ti)やタングステン(W)等を用いてもよい。第1の電極層14の厚さは、数10nm〜数μm程度とすると好適であるが、例えば、0.5μmとすることができる。
【0035】
化合物系光吸収層15は、p型半導体からなる層であり、第1の電極層14上に形成されている。化合物系光吸収層15は、照射された太陽光等を光電変換する部分である。化合物系光吸収層15が光電変換することにより生じた光電流は、第1の電極層14と第2の電極層16の何れか一方又は双方にはんだ等で取り付けられた図示しない電極リボン(銅箔リボン)から外部に電流として取り出すことができる。化合物系光吸収層15の厚さは、0.数μm〜数10μm程度とすると好適であるが、例えば、1.5μmとすることができる。
【0036】
化合物系光吸収層15は半導体薄膜であり、IB-IIIB-VIB族元素からなるCIS系化合物薄膜で形成することができる。CIS系化合物薄膜の材料は、Cu及びAgからなる群より選択された少なくとも1種類のIB族元素と、Al、Ga及びInからなる群より選択された少なくとも1種類のIIIB族元素と、S及びSeからなる群から選択された少なくとも1種類のVIB族元素とを含む、少なくとも1種類の化合物半導体とすることができる。
【0037】
具体的な化合物の一例を挙げれば、2セレン化銅インジウム(CuInSe
2)、2イオウ化銅インジウム(CuInS
2)、2セレン・イオウ化銅インジウム(CuIn(SSe)
2)、2セレン化銅ガリウム(CuGaSe
2)、2イオウ化銅ガリウム(CuGaS
2)、2セレン化銅インジウム・ガリウム(Cu(InGa)Se
2)、2イオウ化銅インジウム・ガリウム(Cu(InGa)S
2)、2セレン・イオウ化銅インジウム・ガリウム(Cu(InGa)(SSe)
2)等である。
【0038】
なお、化合物系光吸収層15として、例えば、銅(Cu),亜鉛(Zn),錫(Sn),カルコゲン元素からなるCZTS系の化合物を用いてもよい。具体的な化合物の一例を挙げれば、4セレン化2銅スズ・亜鉛(Cu
2ZnSnSe
4)、4イオウ化2銅スズ・亜鉛(Cu
2ZnSnS
4)、4セレン・イオウ化2銅スズ・亜鉛(Cu
2ZnSn(SSe)
4)等である。
【0039】
化合物系光吸収層15上にバッファ層(図示せず)を形成してもよい。バッファ層は、化合物系光吸収層15からの電流の漏出を防止する機能を有する高抵抗の層である。バッファ層の材料としては、例えば、亜鉛化合物(Zn(S,O,OH))等を用いることができる。バッファ層の材料として、酸化亜鉛(ZnO)、硫化亜鉛(ZnS)、酸化インジウム(In
2O
3)、硫化インジウム(InS)、インジウム化合物(In(S,O,OH))、硫化カドミウム(CdS)等を用いてもよい。バッファ層の厚さは、例えば、数nm〜数10nm程度とすることができる。
【0040】
なお、絶縁層13と第1の電極層14との間にアルカリバリア層を形成してもよい。アルカリバリア層は、ナトリウム(Na)やカリウム(K)等のアルカリ金属成分が化合物系光吸収層15に過剰に拡散することを防止するために設ける層である。アルカリバリア層の材料としては、例えば、シリカ(SiO
2)等を用いることができる。アルカリバリア層の厚さは、例えば、5〜100nm程度とすることができる。
【0041】
第2の電極層16は、n型半導体からなる透明な層であり、化合物系光吸収層15上に形成されている。第2の電極層16は、p型半導体からなる化合物系光吸収層15との間でpn接合を形成し、更に低抵抗の導体としても機能する。第2の電極層16としては、例えば、酸化亜鉛系薄膜(ZnO)やITO薄膜、酸化錫(SnO
2)等の透明導電膜を用いることができる。酸化亜鉛系薄膜(ZnO)を用いる場合には、硼素(B)やアルミニウム(Al)やガリウム(Ga)等をドーパントとして添加することにより、低抵抗化でき好適である。第2の電極層16の厚さは、例えば、0.5μm〜2.5μm程度とすることができる。
【0042】
なお、化合物系薄膜太陽電池10を複数のセルが直列に接続された集積構造としてもよい。
【0043】
[本実施の形態に係るCIS系の化合物系薄膜太陽電池の製造方法]
次に、本実施の形態に係るCIS系の化合物系薄膜太陽電池の製造方法について説明する。
図2は、本実施の形態に係るCIS系の化合物系薄膜太陽電池の製造工程を例示する図である。
【0044】
まず、
図2(a)に示す工程では、金属基板11を準備する。金属基板11は、鉄を主成分としアルミニウム(Al)及びクロム(Cr)を含有する基板である。前述のように、金属基板11として、アルミニウム(Al)を含有したフェライト系ステンレス基板を用いると特に好適である。又、金属基板11におけるアルミニウム(Al)の含有量は、0.5重量%以上かつ6.0重量%以下とすると好適である。金属基板11の厚さは、例えば、0.2mm〜0.6mm程度とすることができる。
【0045】
次に、
図2(b)に示す工程では、金属基板11の素子形成面の所定領域に、例えば軟化点が600℃以上かつ800℃以下の範囲(好適には650℃以上かつ750℃以下の範囲)にあるガラスペースト13aを、スリットコーター、スプレーコーター、スクリーン印刷、ディップコーター、スピンコーター等により塗布する。なお、ガラスペースト13aは、後工程で焼成されて絶縁層13となる絶縁材料である。
【0046】
次に、
図2(c)に示す工程では、
図2(b)に示す工程で塗布したガラスペースト13aを焼成して絶縁層13を形成すると共に、焼成中にガラスペースト13aで覆われていない部分の金属基板11の表面を熱酸化してアルミナ層12を形成する。具体的には、
図2(b)に示す工程で塗布したガラスペースト13aを大気もしくは酸素含有雰囲気中で100℃〜200℃程度に加熱し、ガラスペースト13aを乾燥させてガラスペースト13a中の有機溶剤を揮発させる。
【0047】
更に、乾燥させたガラスペースト13aを、大気もしくは酸素含有雰囲気中で、上記軟化点である600℃以上かつ800℃以下の範囲(好適には650℃以上かつ750℃以下の範囲)の温度で焼成することにより絶縁層13が形成される。又、ガラスペースト13aを焼成中に前記温度雰囲気中に露出した金属基板11の表面が酸化されて耐腐食機能を有する腐食防止層であるアルミナ層12が形成される。なお、焼成温度が600℃未満であると十分に焼成ができず、焼成温度が800℃より高いと絶縁層13の膜厚を確保することが困難となりピンホールが生じるおそれがある。
【0048】
焼成後の絶縁層13の厚さは、10μm以上かつ50μm以下とすることが好ましく、例えば、30μm程度とすることができる。なお、ガラスペースト13aを乾燥させる工程と焼成する工程とは温度が大きく異なるため、各々を別々の装置で行ってもよい。
【0049】
絶縁層13の材料として用いることができるガラスの例は、前述の通りである。又、絶縁層13を複数の層から構成してもよい点や、その場合に、アルカリバリア機能を有する層を有してもよい点は、前述の通りである。
【0050】
アルミナ層12は、金属基板11の素子形成面の絶縁層13が形成されていない領域である外縁部、及び、金属基板11の端面及び裏面の全てに一体に形成される。アルミナ層12は、少なくとも金属基板11の最も腐食されやすい面である裏面に形成されていればよいが、本実施の形態では、従来の方法では形成困難であった金属基板11の端面等にも均一なアルミナ層12を形成できる。そのため、金属基板11の耐腐食性をいっそう向上できる。なお、アルミナ層12の厚さは、金属基板11の腐食を防止する観点からは、30nm以上とすることが好ましい。
【0051】
図2(c)の工程後、絶縁層13上に、第1の電極層14、化合物系光吸収層15、及び第2の電極層16を順次積層することにより、
図1に示す化合物系薄膜太陽電池10が完成する。
【0052】
具体的には、絶縁層13上に、例えばDCマグネトロンスパッタ法等により、第1の電極層14を製膜する。或いは、第1の電極層14を、電子ビーム蒸着法等を用いて絶縁層13上に製膜してもよい。第1の電極層14の材料や厚さ等は、前述の通りである。なお、第1の電極層14を製膜する前に、スパッタ法等により、アルカリバリア層を形成してもよい。アルカリバリア層の材料や厚さ等は、前述の通りである。
【0053】
次に、第1の電極層14上に化合物系光吸収層15として、例えば、2セレン・イオウ化銅インジウム・ガリウム(Cu(InGa)(SSe)
2)を製膜する。2セレン・イオウ化銅インジウム・ガリウム(Cu(InGa)(SSe)
2)は、例えばDCマグネトロンスパッタ法や蒸着法等により銅(Cu),ガリウム(Ga),インジウム(In)等を含むプリカーサ膜を形成し、その後、例えば400〜600℃程度の温度でセレン化水素(H
2Se)によるセレン化及び硫化水素(H
2S)による硫化を行うことにより製膜できる(セレン化/硫化過程)。
【0054】
なお、化合物系光吸収層15として、2セレン・イオウ化銅インジウム・ガリウム(Cu(InGa)(SSe)
2)に代えて、前述の2セレン化銅インジウム(CuInSe
2)、2イオウ化銅インジウム(CuInS
2)等を製膜してもよい。
【0055】
又、化合物系光吸収層15は、銅(Cu),ガリウム(Ga),インジウム(In),及びセレン(Se)を蒸着することにより製膜してもよい。又、化合物系光吸収層15は、銅(Cu),ガリウム(Ga),インジウム(In),及び硫黄(S)を蒸着することにより製膜してもよい。又、化合物系光吸収層15は、銅(Cu),ガリウム(Ga),インジウム(In),及びセレン(Se)と硫黄(S)を蒸着することにより製膜してもよい。又、化合物系光吸収層15は、スパッタ法、ハイブリッドスパッタ法、メカノケミカルプロセス法、クリーン印刷法、近接昇華法、MOCVD法、スプレー法等を用いて製膜してもよい。
【0056】
絶縁層13が形成されていない部分の金属基板11の表面はアルミナ層12により被覆され、金属基板11が露出する部分がないため、セレン化水素(H
2Se)や硫化水素(H
2S)等による金属基板11の全表面の腐食が抑制される。
【0057】
なお、化合物系光吸収層15を製膜後、必要に応じ、化合物系光吸収層15上にバッファ層を製膜してもよい。バッファ層は、例えば、溶液成長法(CBD法)や有機金属気相成長法(MOCVD法)、アトミックレイヤーデポジション法(ALD法)等により、化合物系光吸収層15上に製膜できる。バッファ層の材料や厚さ等は、前述の通りである。
【0058】
次に、化合物系光吸収層15上に、例えばMOCVD法等により、第2の電極層16を製膜する。或いは、第2の電極層16を、スパッタ法や蒸着法、アトミックレイヤーデポジション法(ALD法)等を用いて化合物系光吸収層15上に製膜してもよい。第2の電極層16の材料や厚さ等は、前述の通りである。以上の工程により、
図1に示すCIS系の化合物系薄膜太陽電池10が完成する。
【0059】
なお、第1の電極層14、化合物系光吸収層15、及び第2の電極層16に分離溝を形成し、分離溝によってストリップ状に分離・形成されたセルが直列に接続された集積構造としてもよい。
【0060】
このように、本実施の形態では、金属基板11の素子形成面の所定領域にガラスペースト13aを塗布し、ガラスペースト13aを焼成して絶縁層13を形成すると共に、焼成中にガラスペースト13aで覆われていない部分の金属基板11の表面に腐食防止層であるアルミナ層12を形成する。これにより、腐食防止層を形成する工程を特別に設けることなく、絶縁層13の形成と同一工程において、腐食防止層であるアルミナ層12を効率的かつ均一に形成できる。
【0061】
つまり、金属基板11の耐腐食性確保のために、絶縁層13となるガラスペースト13aの使用量が増加することはなく、焼成エネルギーや排ガス処理の手間も増加しないため、ランニングコストの無駄がない点で効率的である。又、絶縁層13と同一工程でアルミナ層12を形成できるため、化合物系薄膜太陽電池10の製造工程では不要だった設備と部材が新たに必要にならない点でも効率的である。更に、金属基板11の端面等にも均一な腐食防止層を形成できる点で好適である。
【0062】
又、金属基板11が腐食されないため、金属基板11と絶縁層13との剥離が生じにくく、特性の良好な化合物系薄膜太陽電池を製造できる。特に、アルミナ層が熱酸化によって裏面のみではなく端面等にも確実に形成されるため、金属基板11の端面等からの腐食の可能性を排除することができ、金属基板11と絶縁層13との剥離のおそれをいっそう低減できる。
【0063】
又、金属基板11の耐腐食性確保のために必要な30nm以上のアルミナ層12は、600℃以上かつ800℃以下の範囲(好適には650℃以上かつ750℃以下の範囲)で形成可能である。この温度範囲は、特許文献1に示されている850℃以上という温度範囲よりも低いため、焼成エネルギーの低減が可能となる。
【0064】
[実施例1]
実施例1では、アルミナ層12を形成した金属基板11の腐食防止効果を確認した。まず、金属基板11として、アルミニウム(Al)を含有したフェライト系ステンレス基板(JFE18−3USR:3.4%のアルミニウムを含有したフェライト系ステンレス基板)を用意した。用意した金属基板11の厚さは0.3mmである。
【0065】
そして、用意した金属基板11の全表面にアルミナ層12を形成した複数のサンプルを試作した。具体的には、焼成温度を700℃としたサンプル21、焼成温度を750℃としたサンプル22、及び焼成温度を800℃としたサンプル23の3種類のサンプルを作製した。サンプル21〜サンプル23において、アルミナ層12の厚さは、30nm〜100nm程度であった。
【0066】
又、比較例として、焼成していない(表面がアルミナ層12に覆われていない)アルミニウム含有ステンレス基板であるサンプル24と、従来の太陽電池モジュールで使用しているフェライト系ステンレス基板(SUS430)でアルミナ層等の腐食防止層が形成されていないサンプル25を用意した。
【0067】
そして、サンプル21〜25に対して、400〜600℃程度の温度でセレン化水素(H
2Se)によるセレン化及び硫化水素(H
2S)による硫化を行った。なお、実施例1では絶縁層13等の積層は行っていない。
【0068】
図3(a)にサンプル21の表面状態を示す写真を、
図3(b)にサンプル22の表面状態を示す写真を、
図3(c)にサンプル23の表面状態を示す写真を、
図3(d)にサンプル24の表面状態を示す写真を、
図3(e)にサンプル25の表面状態を示す写真を示す。
【0069】
なお、
図3(a)〜
図3(c)は、アルミナ層12を形成した金属基板11を基準板(平坦な板)上に置いて上方から写真撮影を行ったもので、下側が基準板(平坦な板)、上側が全表面にアルミナ層12を形成した金属基板11である。
図3(d)及び
図3(e)は、アルミナ層12のような腐食防止層が形成されていない金属基板を基準板(平坦な板)上に置いて上方から写真撮影を行ったものである。又、
図3(a)〜
図3(e)において、写真中に示された直線の長さが30mmに相当する。
【0070】
図3(d)及び
図3(e)に示すように、アルミナ層12のような腐食防止層が形成されていないサンプル24及び25では、腐食によって表面がボロボロになっており、太陽電池用基板としては不適であることがわかった。一方、
図3(a)〜
図3(c)に示すように、サンプル21〜23では、端面も含めた金属基板11の全面において腐食は観察されなかった。
【0071】
[実施例2]
実施例2では、
図2で説明した製造方法により化合物系薄膜太陽電池10及び比較サンプルを作製し、電池特性の確認等を行った。
【0072】
まず、金属基板11として、アルミニウム(Al)を含有したフェライト系ステンレス基板(JFE18−3USR:3.4%のアルミニウムを含有したフェライト系ステンレス基板)を用意した。用意した金属基板11の厚さは0.3mmである。
【0073】
そして、用意した金属基板11にガラスペースト13aを塗布後、焼成して絶縁層13を形成すると共に、焼成中にアルミナ層12を形成した複数のサンプルを試作した。具体的には、焼成温度を650℃としたサンプル26、焼成温度を700℃としたサンプル27、焼成温度を750℃としたサンプル28、及び焼成温度を800℃としたサンプル29の4種類のサンプルを作製した。サンプル26〜サンプル29において、アルミナ層12の厚さは、30nm〜100nm程度であった。更に、各サンプルについて、絶縁層13上に、第1の電極層14、化合物系光吸収層15、及び第2の電極層16を順次積層して化合物系薄膜太陽電池10を作製した。
【0074】
又、比較例として、従来の太陽電池モジュールで使用しているフェライト系ステンレス基板(SUS430)を準備し、準備したステンレス基板の裏面及び端面にシリカによる腐食防止層を設け、更に、ステンレス基板の素子形成面に絶縁層13、第1の電極層14、化合物系光吸収層15、及び第2の電極層16を順次積層して化合物系薄膜太陽電池を作製した(サンプル30)。
【0075】
その結果、絶縁層13の焼成中に熱酸化によってアルミナ層12の形成を行ったサンプル26〜29において、金属基板11の腐食は観察されなかった。サンプル26〜30において測定した電池特性を表1にまとめた。なお、表1において、『FF』とは、太陽電池の特性の一つである曲線因子(FF:Fill Factor)を示している。
【0077】
表1に示すように、サンプル26〜29の電池特性は、従来構造のサンプル30の電池特性と同等であった。
【0078】
つまり、通常使用される温度(850℃以上)よりも低い、絶縁層を焼成する温度(600℃以上かつ800℃以下の範囲)により絶縁層の焼成中に熱酸化によって形成した薄いアルミナ層(30nm以上)を有する金属基板であっても、化合物系薄膜太陽電池としては十分な腐食防止効果を備えており、従来品と同様な特性の化合物系薄膜太陽電池を製造できることがわかった。
【0079】
以上、好ましい実施の形態及び実施例について詳説したが、上述した実施の形態及び実施例に制限されることはなく、特許請求の範囲に記載された範囲を逸脱することなく、上述した実施の形態及び実施例に種々の変形及び置換を加えることができる。