(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【背景技術】
【0002】
有機性廃水の処理方法として、好気性生物処理、嫌気性生物処理が挙げられる。嫌気性生物処理の中でメタン発酵処理は、酸素のない嫌気性環境下で生育する嫌気性微生物の代謝反応を利用して、有機性廃水中の有機物をメタンガスや炭酸ガスなどに分解する生物処理方法である。
【0003】
メタン発酵処理は、好気性生物処理と比べて、汚泥発生量が少なく、ブロワ−(曝気)などの電気代が不要なため、ランニングコストがかからないと言ったメリットがあるほか、発生したメタンガスを有効利用できるなどのメリットがあるため、近年、有機性廃水の処理方法として特に注目されている。
【0004】
メタン発酵処理の種類としては、例えばUASB(Upflow Anaerobic Sludge Blanket(上向流嫌気性汚泥床)の略)法、固定床法、流動床法等のメタン発酵処理方式などが知られている。中でも、UASB法は、メタン菌等の嫌気性菌をグラニュール状に造粒化することにより、リアクター内のメタン菌の濃度を高濃度に維持できるという特徴があり、その結果、廃水中の有機物の濃度が相当高い場合でも効率よく処理できるため、有機性廃水の処理方法として国内外で普及している。
【0005】
ところで、化学工場などから排出される有機性廃水には、メタノールやホルムアルデヒド、ギ酸などのC1化合物が含まれていることが多い。これらC1化合物を炭素源およびエネルギー源として利用する微生物は、C1化合物の代謝経路が特殊であるため“メチロトローフ”と呼ばれている。
【0006】
C1化合物を主成分とする有機性廃水の嫌気性廃水処理においては、Methanosarcinaなどのように自己造粒性を持たない粒状のメタン発酵菌が優占化することが知られている[非特許文献1]。
よって、C1化合物を主成分とする有機性廃水を対象とする嫌気性廃水処理では、自己造粒性を持たない微生物である粒状のメタン発酵菌(Methanosarcinaなど)が優占化して、汚泥粒径が0.5mm以上のグラニュール汚泥を形成し維持することができないため、メタン発酵槽から微細な汚泥が流出し、汚泥量の維持が困難であるという課題を抱えていた。
【0007】
このような嫌気性菌をグラニュール状に造粒化する方法として、被処理水である有機性廃水に、Ca
2+、Mg
2+、Co
2+、Fe
3+、Al
3+などの金属陽イオンを添加してメタン発酵する方法が提案されている(特許文献1)。
【0008】
また、グラニュール汚泥が崩壊しやすい炭素数4以下の有機物を主成分とする廃水の嫌気性処理方法として、グラニュール汚泥の崩壊を抑止するためにアルファ化した澱粉、凝集剤、硝酸または亜硝酸を添加する方法が提案されている(特許文献2)。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
安定的なメタン発酵を維持するためには、メタン発酵槽におけるpHをメタン発酵菌の活性維持に適したpH6.5〜7.8に維持する必要がある。一般的なメタン発酵の基質である酢酸であれば、次の式(1)に示されるように、嫌気性分解によって、酢酸からより弱い酸の炭酸を生成するため、メタン発酵菌の活性維持に適した前記pH領域が維持される。ところが、メタノールなどのC1化合物を多く含む場合には、次の式(2)に示されるように、嫌気性分解によって、中性のメタノールから酸性の炭酸を生成するため、メタン発酵菌の活性維持に適した前記pH領域を下回ることになる。
【0012】
CH
3COO
−+H
2O →CH
4+HCO
3− ・・・式(1)
4CH
3OH →3CH
4+HCO
3−+H
++H
2O ・・・式(2)
【0013】
そのため、C1化合物を含有する有機性廃水の嫌気性処理においては、メタン発酵槽内のpHを最適pHに調整するように、何等かの手段を講じる必要がある。
例えば、生成する炭酸を中和するアルカリ剤を添加することが考えられる。しかし、pH緩衝能の低い廃水、例えばCODCr(二クロム酸カリウムによる酸素要求量)に対してMアルカリ度が20%以下である廃水では、pH調整剤としてアルカリ剤を添加すると、メタン発酵工程流入部のpHがメタン発酵菌の活性維持に適したpH領域を超えて上昇してしまうため、かえってメタン発酵菌の活性が低下することになる。
【0014】
また、その他のpH調整方法としては、アルカリ剤として弱アルカリである重曹などを添加するか、或いは、pHが中性付近の処理水を循環し原水と混合することにより、メタン発酵菌の活性維持に適したpH範囲に調整することが考えられる。
しかし、前者の場合には、アルカリ剤として一般的に用いられている水酸化ナトリウムを添加する場合と比較すると、薬品コストが過大となるため、実用化は困難であった。
他方、後者の場合は、循環水量が多量となるため循環ポンプ動力が増大してしまうばかりか、メタン発酵法としてUASB法を採用した場合、LVの過大な増加を伴い、C1化合物を基質で優占化する自己造粒性を持たないメタン発酵菌が流出量も増加するため、槽内に維持できる汚泥量が減少し、処理が悪化するという問題があった。この際、上昇流速を汚泥が流出しないようにするためには、上向流嫌気性処理槽の設置面積を大きくする必要があり、過大な設備となってしまう。
【0015】
そこで本発明は、C1化合物を含有する有機性廃水の嫌気性処理方法において、メタン発酵槽内のpHをメタン発酵に適するpH領域に調整することができ、しかも、反応槽の容量を大きくするなど設備を増大する必要もない、新たな有機性廃水の嫌気性処理方法並びに嫌気性処理装置を提案せんとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0016】
本発明は、C1化合物を含有する有機性廃水の嫌気性処理方法において、前記有機性廃水を、混合槽において撹拌しながらメタン発酵を行う撹拌メタン発酵工程と、該撹拌メタン発酵工程から排出された汚泥含有撹拌メタン発酵処理水を、プラグフロー方式の発酵槽において撹拌を行わないでメタン発酵を行う仕上メタン発酵工程と、該仕上メタン発酵工程から排出された汚泥含有仕上メタン発酵処理水から、汚泥とメタン発酵処理水とを分離回収する汚泥分離工程と、該汚泥分離工程で分離回収した汚泥の一部又は全部を、前記撹拌メタン発酵工程又は仕上メタン発酵工程に返送する汚泥返送工程と、を備えた有機性廃水の嫌気性処理方法を提案する。
【0017】
このような有機性廃水の嫌気性処理方法においては、仕上メタン発酵工程から排出された汚泥含有仕上メタン発酵処理水に、2価以上の価数を持つ金属陽イオンを加えた後、汚泥とメタン発酵処理水とを分離回収することが特に有効である。
【0018】
本発明はまた、C1化合物を含有する有機性廃水の嫌気性処理装置として、撹拌手段を備えた混合槽を有する撹拌メタン発酵槽と、該撹拌メタン発酵槽から供給される汚泥含有撹拌メタン発酵処理水をメタン発酵する発酵槽であって、撹拌手段を備えないプラグフロー方式の反応槽を有する仕上メタン発酵槽と、仕上メタン発酵槽から供給される汚泥含有仕上メタン発酵処理水を、汚泥とメタン発酵処理水とに分離回収する汚泥分離槽と、汚泥分離槽で分離回収した汚泥を、撹拌メタン発酵槽乃至仕上メタン発酵槽に供給する汚泥返送管と、を備えた有機性廃水の嫌気性処理装置を提案する。
【発明の効果】
【0019】
C1化合物を含有する有機性廃水を、撹拌しながらメタン発酵を行うことにより、混合槽内に均一の反応場を形成することができる。よって、必要に応じてアルカリ剤を添加することにより、該アルカリ剤とメタン発酵によって発生する炭酸とを即座に反応させて中和することができるから、被処理水のpH緩衝能が低くても、メタン発酵菌の活性維持に適したpH領域(6.5〜7.8)に槽内を維持することができる。また、混合槽では、UASBタイプの反応槽と比較すると、循環ポンプが不要となり動力を削減できると共に、グラニュール汚泥の流出抑止のためにLVを一定値以下とする必要がなく設備の設置面積を小さくすることもできる。
【0020】
そして、このように混合槽での撹拌メタン発酵工程に続いて、仕上げ槽での仕上メタン発酵工程を行うことで、仕上メタン発酵工程において有機物のメタン発酵を完全に行うようにすればよい。逆に言えば、混合槽における撹拌メタン発酵工程では、有機物を完全に分解する必要がないため、混合槽の容量を小さくでき、省スペースを図ることができる。ちなみに、仕上メタン発酵工程を実施せず、混合槽における撹拌メタン発酵工程のみでメタン発酵を行った場合、混合槽内の有機物濃度と混合槽処理水の有機物濃度が同一になるため、良好な水質を得るためには滞留時間として長時間が必要となり、槽容量を大きくする必要がある。
【0021】
さらに、仕上メタン発酵工程から排出された汚泥含有仕上メタン発酵処理水に、2価以上の金属陽イオンを添加することにより、自己凝集性を持たないMethanosarcinaなどのメタン発酵菌に凝集フロックを形成させることができ、汚泥分離工程で汚泥として分離回収することができるから、撹拌メタン発酵工程や仕上メタン発酵工程に返送することで、撹拌メタン発酵槽乃至仕上メタン発酵槽内の汚泥量、すなわちメタン発酵菌の濃度を維持することができる。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下、本発明の実施の形態について図面を参照して説明する。但し、本発明は以下の実施形態に限定されるものではない。
【0024】
<本嫌気性処理方法>
本発明の実施形態の一例に係る有機性廃水の嫌気性処理方法(「本嫌気性処理方法」と称する)は、被処理水としての有機性廃水を、混合槽において、撹拌しながらメタン発酵を行う撹拌メタン発酵工程と、該撹拌メタン発酵工程から排出された汚泥含有撹拌メタン発酵処理水を、プラグフロー方式の発酵槽において、撹拌を行わないでメタン発酵を行う仕上メタン発酵工程と、該仕上メタン発酵工程から排出された汚泥含有仕上メタン発酵処理水から、汚泥とメタン発酵処理水とを分離回収する汚泥分離工程と、該汚泥分離工程で分離回収した汚泥の一部又は全部を、前記撹拌メタン発酵工程又は仕上メタン発酵工程に返送する汚泥返送工程と、を備えた有機性廃水の嫌気性処理方法である。
【0025】
<原水>
本処理方法の被処理水(原水)である有機性廃水は、メタノール、ホルムアルデヒド、ギ酸などのC1化合物を含有することが特徴である。
【0026】
C1化合物のCODCrの含有量は、原水のCODCrの50%以上、特に70%以上、中でも特に80%以上を占めるのが好ましい。C1化合物を多く含有する有機性廃水のメタン発酵処理では、自己造粒性を持たない微生物である粒状のメタン発酵菌(Methanosarcinaなど)が優占化するため、本発明の効果をより一層享受できるからである。また、C1化合物を主成分とする有機性廃水は、次のようにMアルカリ度が低いという特徴を有している。
【0027】
本処理方法の被処理水(原水)である有機性廃水は、CODCrに対してMアルカリ度が20%以下、中でも15%以下、その中でも10%以下でもあってもよい。
CODCrに対してMアルカリ度が10%以下の廃水は、pH緩衝能が低いという特徴を備えているが、本処理方法によれば、このようにpH緩衝能が低い廃水であっても、メタン発酵菌の活性維持に適したpH領域(6.5〜7.8)に反応槽内を維持することができ、効率良くメタン発酵させることができる。
【0028】
<撹拌メタン発酵工程>
本工程では、被処理水としての有機性廃水を、混合槽において撹拌しながらメタン発酵を行う。
被処理水としての有機性廃水を、混合槽において、撹拌しながらメタン発酵を行うことにより、混合槽内を均一の反応場とすることができるため、例えば撹拌しながらアルカリ剤を添加することにより、該アルカリ剤とメタン発酵によって発生する炭酸とを即座に反応させて中和することができる。よって、被処理水のpH緩衝能が低くても、メタン発酵菌の活性維持に適したpH領域(6.5〜7.8)に槽内を維持することができる。
【0029】
撹拌メタン発酵工程の処理温度は、嫌気性処理菌の種類に適した温度に設定するのが好ましい。よって、中温メタン発酵処理菌の場合であれば、30〜40℃が至適温度となるように温度調整するのが好ましく、高温メタン発酵処理菌の場合であれば、50〜60℃が至適温度となるように温度調整するのが好ましい。温度調整はメタン発酵工程にて行ってもよいし、メタン発酵工程前段の調整槽や途中の配管にて行ってもよい。
【0030】
撹拌メタン発酵工程では、必要に応じて、アルカリ剤や、金属陽イオン、メタン発酵に必要な栄養塩類、微量元素などを添加するのが好ましい。
これらアルカリ剤、金属陽イオン、栄養塩類及び微量元素は、撹拌メタン発酵工程を行う反応槽内に添加してもよいし、該反応槽の前段に調整槽を設けて該調整槽内で予め被処理水を調整した後に前記反応槽槽に供給するようにしてもよい。また、原水を反応槽に供給する配管内にて添加及び混合して、前記反応槽槽に供給するようにしてもよい。
【0031】
ここで、前記アルカリ剤としては、例えばNaOH、MgOH、KOHなどを挙げることができる。なお、pH調整剤としてのアルカリ剤は必ず添加しなければならないというものではなく、必要に応じて添加すればよい。
【0032】
前記金属陽イオンとしては、2価以上の価数を持つ陽イオンが好ましく、単原子イオン、錯イオンのいずれでもよく、単独でも複数種類を添加してもよい。具体的には、メタン発酵菌への阻害がなく、かつメタン発酵菌の活性促進作用のある微量元素あるいはこれらの含まれる錯イオン、例えばMg
2+、Al
3+、Ca
2+、Mn
2+、Fe
2+、Fe
3+、Co
2+、Ni
2+、Cu
2+、Zn
2+、およびこれらの錯イオンが好ましい。
前記栄養塩としては、メタン発酵に必要な栄養塩類として、例えば窒素やリンなどを挙げることができる。
前記微量元素としては、例えば鉄、コバルト、ニッケルなどを挙げることができる。
【0033】
本工程では、滞留時間などを調整して、有機物の分解を最後まで行わない、すなわち未分解の有機物が残存した状態で処理を留めることが好ましい。本工程の混合槽の槽容量を小さくするためであり、次の仕上メタン発酵工程で有機物の分解を最後まで行えばよいからである。
但し、未分解の有機物が60%以上残存すると、次の仕上メタン発酵工程で発生した炭酸によって適切なpH域よりも低下することになってしまうため、未分解の有機物の残存率が50%未満であるのが好ましく、反応時間の長期化の抑制及び装置の小型化を考慮すると、中でも10〜50%、その中でも20%以上或いは40%未満であるのがより一層好ましい。
【0034】
撹拌メタン発酵工程を実施する装置としては、撹拌手段を備えた混合槽を有していればよい。
【0035】
混合槽としては、反応器内の流体の流れが混合流れ(Mixing Flow)となる槽であればよい。混合槽内の成分が均一となり、供給した被処理水を即座に均一な状態へ混合することができる。
但し、後述するように、
図5に示すように、撹拌メタン発酵槽と仕上メタン発酵槽とが一体となり、撹拌メタン発酵槽の処理水が仕上メタン発酵槽内に流入するように構成されたものでもよい。
【0036】
C1化合物の嫌気性処理においては、自己造粒性を持たないメタン発酵菌が優先するため、撹拌メタン発酵槽に充填物は不要であるが、砂や粒状活性炭などの流動性担体表面に保持する嫌気性流動床法、嫌気微生物を固定床充填材の表面に保持する嫌気性固定床法を採用することも可能である。
【0037】
撹拌手段としては、例えばガス撹拌、ポンプ撹拌、機械撹拌などによる撹拌手段を挙げることができる。
【0038】
<仕上メタン発酵工程>
本工程では、前記撹拌メタン発酵工程から排出された汚泥含有撹拌メタン発酵処理水を、プラグフロー方式の発酵槽において、撹拌を行わないでメタン発酵を行う。
【0039】
前記撹拌メタン発酵工程から排出された汚泥含有撹拌メタン発酵処理水は、典型的には、メタン発酵菌に適したpH領域(例えば6.5〜7.8)に調整されており、未分解の有機物が残存した状態である。よって、本工程では、プラグフロー方式の発酵槽において撹拌を行わないでメタン発酵を行うことにより、未分解の有機物が無くなるまでメタン発酵を行うのが好ましい。これによって、次工程の汚泥分離工程において、メタン発酵によるガスの発生を極めて少なくすることができるから、自己造粒性を持たない微生物である粒状のメタン発酵菌(Methanosarcinaなど)が生成するガスによって浮上することなく良好に固液分離され、汚泥として回収することができる。
【0040】
ここで、プラグフロー方式の発酵槽((Plug Flow Reactor)とは、反応器内の流体の流れが押し出し流れ (Plug Flow)である槽を意味し、反応流体が押し出されていくように流れるという特徴を有する発酵槽である。
【0041】
仕上メタン発酵工程の処理温度も、上記撹拌メタン発酵工程の処理温度と同様、嫌気性処理菌の種類に適した温度に設定するのが好ましい。
【0042】
本工程では、未分解の有機物が無くなるように、反応装置の構成、滞留時間などを調整するのが好ましい。
【0043】
本工程は、例えば撹拌手段を備えないプラグフロー方式の仕上メタン発酵槽を使用して実施することができる。
【0044】
仕上メタン発酵槽は、例えばUASB型の発酵槽や、邪魔板などによる迂流槽などのようにプラグフロー方式の発酵槽(Plug Flow Reactor)を備えていればよく、1箇所以上のガス回収部を備えたものが好ましい。
中でも、混合槽流出水に残存した有機分を分解するのに必要な水理学的滞留時間を持たせることができる構成のものが好ましい。
【0045】
仕上メタン発酵槽の好ましい一例として、
図3及び
図4に示すように、上向流のプラグフロー方式の発酵槽であって、邪魔板により形成される気液固分離手段を、槽の内壁部に備えた構成のものを例示することができる。
この際、邪魔板により形成される気液固分離手段は、槽の内壁部に1つ設けられていてもよいし、また、上下方向に2段以上設けられていてもよいし、特に好ましくは3段以上設けられているのが好ましい。また、気液固分離手段を、槽の内壁部に2段以上設ける場合には、図に示すように、対向する位置に交互に設けるのが好ましい。
【0046】
気液固分離手段は、槽の内壁との角度が35度以下であり、かつ各専有面積が装置断面積の1/2以上である邪魔板により形成するのが好ましい。
【0047】
このような仕上メタン発酵槽であれば、汚泥含有撹拌メタン発酵処理水をメタン発酵槽の下部から流入させると、槽内の下部に沈殿しているメタン発酵菌の層に拡散して、被処理水に含まれた有機物がメタン発酵菌によってメタンガスと二酸化炭素ガスに分解される。そして、これらのバイオガスとメタン発酵菌は、処理水とともに浮上し、気液固分離手段によってバイオガスが分離回収され、メタン発酵菌を含んだ仕上メタン発酵処理水(「汚泥含有仕上メタン発酵処理水」と称する)は、仕上メタン発酵槽の上部から回収され、次の汚泥分離工程に供給される。
【0048】
なお、回収したバイオガスは、必要に応じて脱硫などのガス精製を行った後、ボイラーなどのエネルギー源として利用することができる。
【0049】
<汚泥分離工程>
汚泥分離工程では、前記仕上メタン発酵工程から排出された汚泥含有仕上メタン発酵処理水を分離処理して汚泥とメタン発酵処理水とを分離回収する。
【0050】
このような分離処理の前に、仕上メタン発酵工程から排出された汚泥含有仕上メタン発酵処理水に、2価以上の価数を持つ金属陽イオンを加えるのが好ましい。このように、汚泥含有仕上メタン発酵処理水に、2価以上の価数を持つ金属陽イオンを加えることで、自己造粒性を持たない微生物である粒状のメタン発酵菌(Methanosarcinaなど)による凝集フロックを形成させることができるようになり、凝集フロックとしてメタン発酵菌を分離回収することができる。
【0051】
自己造粒性を持たない微生物である粒状のメタン発酵菌(Methanosarcinaなど)が形成した凝集フロックは、非常に脆く、メタン発酵により多量のバイオガスが発生するとガス撹拌による流動で崩壊してしまう。しかし、前の仕上メタン発酵工程において、未分解の有機物が無くなるまでメタン発酵が行うことにより、汚泥分離工程ではバイオガスの発生を極めて少なくすることができるから、崩壊しやすいフロックであっても維持させることができ、これを含んだ汚泥を分離回収することができる。
【0052】
ここで、2価以上の価数を持つ陽イオンとしては、2価以上の価数を持つ陽イオンであれば単原子イオン、錯イオンのいずれでもよく、単独でも複数種類を添加してもよい。陽イオンとしては、メタン発酵菌への阻害がなく、かつメタン発酵菌の活性促進作用のある微量元素あるいはこれらの含まれる錯イオン、例えばMg
2+、Al
3+、Ca
2+、Mn
2+、Fe
2+、Fe
3+、Co
2+、Ni
2+、Cu
2+、Zn
2+、およびこれらの錯イオンが好ましい。
さらに言えば、嫌気性処理においては、溶存硫化物が存在することがあり、陽イオンと硫化物を生成する場合がある。硫化物が過剰にメタン発酵槽内に蓄積すると、メタン発酵菌への阻害、メタン発酵槽内の汚泥流動不良、腐食・スケールなどの問題を引き起こす恐れがある。そのため、硫化物存在下で溶解している陽イオンが好ましい。また、メタン発酵菌の栄養塩としての必要性や、薬品コストから、特にMg
2+、Ca
2+が好ましい。
【0053】
陽イオンの添加濃度は、処理水量あたり0.1〜100mg/Lであるのが効果的である。特にMg
2+、Ca
2+では、0.1〜20mg/Lとするのが好ましい。
【0054】
本工程を実施する汚泥回収槽としては、Methanosarcinaなどが形成する凝集フロックを分離・回収できる構造であれば沈殿池、遠心分離機、液体サイクロンなどいずれでもよい。中でも、2価以上の金属陽イオンの添加によりMethanosarcinaなどのメタン発酵菌が凝集フロックを形成し分離・回収できる沈殿池が好ましい。
【0055】
また、邪魔板により形成される気液固分離手段を、槽の内壁部に上下方向に多段に備えた構成のものを使用することもできる。
このようにガス分離手段を備えた汚泥回収槽にて、発生したバイオガスを分離回収しつつ、ガス脱離メタン発酵処理水を汚泥と処理液に分離するのが好ましい。
内部にガス分離手段を備えた汚泥回収槽にて汚泥を回収することにより、メタン発酵槽で残存した有機物が汚泥回収槽内に流入して汚泥回収槽内でメタンガスなどのバイオガスが発生したとしても、当該バイオガスをガス分離手段で回収することができるから、汚泥の浮上・流出を抑制することができ、安定運転が可能となる。
【0056】
<汚泥返送工程>
本工程では、前記汚泥分離工程で分離回収した汚泥の一部又は全部を、前記撹拌メタン発酵工程に返送する。仕上メタン発酵工程の汚泥の一部を前記撹拌メタン発酵工程に返送してもよい。
【0057】
汚泥の返送手段としては、例えば前記汚泥回収槽と、撹拌メタン発酵槽乃至仕上メタン発酵槽とを返送管で連結し、ポンプを配設すればよい。
【0058】
<本嫌気性処理装置>
本嫌気性処理方法は、例えば、撹拌手段を備えた混合槽を有する撹拌メタン発酵槽と、該撹拌メタン発酵槽から供給される汚泥含有撹拌メタン発酵処理水をメタン発酵する発酵槽であって、撹拌手段を備えないプラグフロー方式の反応槽を有する仕上メタン発酵槽と、仕上メタン発酵槽から供給される汚泥含有仕上メタン発酵処理水を、汚泥とメタン発酵処理水とに分離回収する汚泥分離槽と、汚泥分離槽で分離回収した汚泥を、撹拌メタン発酵槽に供給する汚泥返送管と、を備えた有機性廃水の嫌気性処理装置(「本嫌気性処理装置」と称する)を使用することで実施することができる。
【0059】
撹拌手段を備えた混合槽を有する撹拌メタン発酵槽と、プラグフロー方式の反応槽を有する仕上メタン発酵槽とで、メタン発酵処理を行うことで、混合槽ではUASBタイプと比較して循環ポンプを不要とし、動力を削減すると共に、グラニュール汚泥の流出抑止のためにLVを一定値以下とする必要がなくなるためにLVを一定値以下とするための多大な設置面積を少なくすることができる。さらに、混合槽とすることで、メタン発酵工程において最適pHの制御を容易にすることができる。混合槽では、C1化合物を処理するMethanosarcinaなどの高い活性を持っているメタン発酵菌を保持できるため、固形性廃棄物を処理する完全混合型のメタン発酵処理設備である嫌気性消化槽とは異なり、少ない汚泥保持量かつ高い有機物負荷で処理を行うことができる。
【0060】
上記の撹拌メタン発酵槽、仕上メタン発酵槽及び汚泥分離槽は、それぞれ別の槽として配管で接続してもよいし、
図5に示すように一つの槽内に仕切りを設けて一体のものとして構成し、被処理水が撹拌メタン発酵槽、仕上メタン発酵槽及び汚泥分離槽を上下迂回流として流通するように構成することができる。
この際、例えば仕上げ槽の天井部にガス排出機構を設けることで、被処理水の流れが上向流から下降流に移行する際に、バイオガスはそのまま浮上して外気に放出されるため、該ガス排出機構で収集することができる。
【0061】
<語句の説明>
本明細書において「X〜Y」(X,Yは任意の数字)と表現する場合、特にことわらない限り「X以上Y以下」の意と共に、「好ましくはXより大きい」或いは「好ましくはYより小さい」の意も包含する。
また、「X以上」(Xは任意の数字)或いは「Y以下」(Yは任意の数字)と表現した場合、「Xより大きいことが好ましい」或いは「Y未満であることが好ましい」旨の意図も包含する。
【実施例】
【0062】
以下、実施例に基づいて本発明を説明する。ただし、本発明がここで説明する実施例に限定されるものではない。
【0063】
以下の比較例及び実施例ではいずれも、炭素数1のメタノールによってCODCr7000mg/Lとなり、炭酸水素ナトリウムと炭酸ナトリウムによってMアルカリ度500mg/Lとなるように調整した人工廃水(pH9)を被処理水として使用した。この被処理水のCODCrに対するMアルカリ度は7%であった。
いずれの実施例・比較例でも、調製槽の水温が37℃となるように加温した。
また、栄養塩として、リン酸及びアンモニア塩を使用し、微量元素として鉄、コバルト、ニッケルの塩化物を使用した。
運転は、原水量を30L/dで4週間運転した。
メタン発酵槽には、予めメタノール基質であるクラフトパルプ工場のメタン発酵槽で馴致した汚泥を投入した。
実施例・比較例の結果は表1にまとめた。
【0064】
(比較例1)
比較例1は、
図1に示すように、調整槽と、容量10LのUASBタイプのメタン発酵槽からなる装置を使用して行い、メタン発酵槽流出水の一部を、循環水としメタン発酵槽の流入部に戻した。
メタン発酵槽は、邪魔板(内壁との角度30°)からなる気液固分離手段を槽の内壁部に上下方向に3段に備えたものであった。
【0065】
調整槽では、被処理水としての上記人工廃水に、上記栄養塩、微量元素、金属陽イオン及びアルカリ剤を添加し、撹拌混合した。
この際、アルカリ剤としての水酸化ナトリウムを、メタン発酵槽流出水のpHが7.0となるように調整槽に注入すると共に、メタン発酵槽流入水のpHが6.5〜7.8となるようにメタン発酵槽流出水の循環を原水量の4倍の水量で行った。
また、金属陽イオンとして2価のカルシウム及びマグネシウムの塩化物を、それぞれ原水量あたり2mg−Ca/L、3mg−Mg/Lとなるように調整槽に注入した。
【0066】
比較例1の運転期間中、メタン発酵槽から汚泥が浮上・流出し、メタン発酵槽の汚泥量は著しく減少した。運転期間終了時の原水に対するメタン発酵槽流出水の溶解性CODCr除去率は10%であった。
【0067】
(比較例2)
比較例2は、
図2に示すように、調整槽と、容量10LのUASBタイプのメタン発酵槽と、回収槽としての沈殿池とからなる装置を使用して行い、メタン発酵槽流出水の一部は、循環水としてメタン発酵槽の流入部に戻した。
メタン発酵槽は、邪魔板(内壁との角度30°)からなる気液固分離手段を槽の内壁部に上下方向に3段に備えたものであった。
【0068】
調整槽では、被処理水としての上記人工廃水に、上記栄養塩、微量元素、金属陽イオン及びアルカリ剤を添加し、撹拌混合した。
この際、アルカリ剤としての水酸化ナトリウムを、メタン発酵槽流出水のpHが7.0となるように調整槽に注入すると共に、メタン発酵槽流入水のpHが6.5〜7.8となるようにメタン発酵槽流出水の循環を原水量の4倍の水量で行った。
また、金属陽イオンとして2価のカルシウム及びマグネシウムの塩化物を、それぞれ原水量あたり2mg−Ca/L、3mg−Mg/Lとなるように調整槽に注入した。
沈殿池で沈降分離した汚泥は、原水量の1倍の水量でメタン発酵槽に返送した。
【0069】
比較例2の運転期間中、沈殿池から微細な汚泥が流出し、メタン発酵槽の汚泥量は減少した。運転期間終了時の原水に対するメタン発酵槽流出水の溶解性CODCr除去率は80%であった。
【0070】
(実施例1)
実施例1では、
図3に示すように、容量3Lの機械式撹拌機を備えた混合槽と、容量3LのUASBタイプの仕上げ槽と、回収槽としての沈殿池とからなる装置を使用して行い、沈殿池で分離回収した汚泥は、原水量の1倍の水量で混合槽に返送した。
仕上げ槽は、邪魔板(内壁との角度30°)からなる気液固分離手段を槽の内壁部に上下方向に3段に備えたものであった。
【0071】
混合槽では、被処理水としての上記人工廃水に、上記栄養塩、微量元素、金属陽イオン及びアルカリ剤を添加し、汚泥と共に撹拌混合した。
この際、アルカリ剤としての水酸化ナトリウムを、メタン発酵槽流出水のpHが7.0となるように混合槽に注入した。また、金属陽イオンとして2価のカルシウム及びマグネシウムの塩化物を、それぞれ原水量あたり2mg−Ca/L、3mg−Mg/Lとなるように混合槽に注入した。
【0072】
実施例1の運転期間中、沈殿池から微細な汚泥が流出し、メタン発酵槽の汚泥量は減少した。運転期間終了時の原水に対するメタン発酵槽流出水の溶解性CODCr除去率は88%であった。
【0073】
(実施例2)
実施例2では、
図4に示すように、容量3Lの機械式撹拌機を備えた混合槽と、容量3LのUASBタイプの仕上げ槽と、回収槽としての沈殿池とからなる装置を使用して行い、沈殿池で分離回収した汚泥は、原水量の1倍の水量で混合槽に返送した。
仕上げ槽は、邪魔板(内壁との角度30°)からなる気液固分離手段を槽の内壁部に上下方向に3段に備えたものであった。
【0074】
混合槽では、被処理水としての上記人工廃水に、上記栄養塩、微量元素及びアルカリ剤を添加し、汚泥と共に撹拌混合した。
この際、アルカリ剤としての水酸化ナトリウムを、メタン発酵槽流出水のpHが7.0となるように混合槽に注入した。
【0075】
また、沈殿池の注入部において、仕上げ槽から排出された汚泥含有仕上メタン発酵処理水に対して金属陽イオンを加えた後、沈殿池に注入した。
この際、金属陽イオンとして2価のカルシウム及びマグネシウムの塩化物を、それぞれ原水量あたり2mg−Ca/L、3mg−Mg/Lとなるように混合槽に注入した。
【0076】
実施例2の運転期間中、沈殿池からの汚泥流出はほとんどみられず、メタン発酵槽の汚泥量は増加した。運転期間終了時の原水に対するメタン発酵槽流出水の溶解性CODCr除去率は92%であった。
【0077】
【表1】
【0078】
実施例1及び2、すなわち、混合槽で撹拌しながらメタン発酵を行う撹拌メタン発酵工程に続いて、プラグフロー方式の発酵槽(仕上げ槽)で撹拌を行わないでメタン発酵を行う仕上メタン発酵工程を行うことで、比較例1及び2と比較すると、小型のメタン発酵槽で汚泥を維持しつつ、良好なメタン発酵処理を達成できた。
これは、C1化合物を含有する有機性廃水を、撹拌しながらメタン発酵を行うことにより、混合槽内に均一の反応場を形成することができ、これによって、アルカリ剤とメタン発酵によって発生する炭酸とを即座に反応させて中和することができるから、被処理水のpH緩衝能が低くても、メタン発酵槽内のpHを、メタン発酵菌の活性維持に適したpH領域(6.5〜7.8)に維持することができたものと考えることができる。また、混合槽では、UASBタイプの反応槽と比較すると、循環ポンプが不要となり動力を削減できると共に、グラニュール汚泥の流出抑止のためにLVを一定値以下とする必要がないため、設備の設置面積を小さくすることもできたと考えられる。また、撹拌メタン発酵工程に続いて仕上メタン発酵工程を行うことで、混合槽における撹拌メタン発酵工程では、有機物を完全に分解する必要がないため、混合槽の容量を小さくでき、省スペースを図ることができたとも考えられる。