(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
複数の吐出孔と、複数の前記吐出孔にそれぞれ繋がっている複数の加圧室と、複数の前記加圧室にそれぞれ繋がっており各々しぼりを有する複数の個別流路と、複数の前記個別流路が接続されているマニホールドと、を有する流路部材と、
該流路部材の上に積層されており、前記複数の加圧室をそれぞれ加圧する圧電アクチュエータ基板と、
を有しており、
前記圧電アクチュエータ基板は、圧電体層と、該圧電体層における前記流路部材と反対側の主面上に配置されている複数の個別電極と、前記圧電体層を間に挟んで前記複数の個別電極と対向する共通電極と、を有しており、
前記個別電極は、前記加圧室と重なっている個別電極本体と、該個別電極本体から前記加圧室と重ならない位置まで引き出されている引出電極とを含んでおり、
該引出電極の直下の前記流路部材に、前記吐出孔と繋がっていない空隙部が存在するとともに、該空隙部の直下に、水平方向に延びる前記しぼりが位置しており、
前記しぼりは、前記個別流路における他の部分、前記加圧室および前記マニホールドと比較して上下方向の寸法が小さい部分を有しており、
前記空隙部は、前記引出電極と前記しぼりとの間に位置していることを特徴とする液体吐出ヘッド。
前記圧電アクチュエータ基板を平面視したとき、前記空隙部は、前記引出電極に沿って、前記加圧室と重なる位置まで伸びていることを特徴とする請求項2に記載の液体吐出ヘッド。
前記流路部材と前記圧電アクチュエータ基板とが接着剤層を介して積層されており、前記空隙部が、前記接着剤層の存在しない部位であることを特徴とする請求項1〜4のいず
れかに記載の液体吐出ヘッド。
【発明を実施するための形態】
【0014】
図1は、本発明の一実施形態による液体吐出ヘッドを含む記録装置であるカラーインクジェットプリンタの概略構成図である。このカラーインクジェットプリンタ1(以下、プリンタ1とする)は、4つの液体吐出ヘッド2を有している。これらの液体吐出ヘッド2は、印刷用紙Pの搬送方向に沿って並べられ、プリンタ1に固定されている。液体吐出ヘッド2は、
図1の手前から奥へ向かう方向に細長い形状を有している。この長い方向を長手方向と呼ぶことがある。
【0015】
プリンタ1には、印刷用紙Pの搬送経路に沿って、給紙ユニット114、搬送ユニット120および紙受け部116が順に設けられている。また、プリンタ1には、液体吐出ヘッド2や給紙ユニット114などのプリンタ1の各部における動作を制御するための制御
部100が設けられている。
【0016】
給紙ユニット114は、複数枚の印刷用紙Pを収容することができる用紙収容ケース115と、給紙ローラ145とを有している。給紙ローラ145は、用紙収容ケース115に積層して収容された印刷用紙Pのうち、最も上にある印刷用紙Pを1枚ずつ送り出すことができる。
【0017】
給紙ユニット114と搬送ユニット120との間には、印刷用紙Pの搬送経路に沿って、二対の送りローラ118aおよび118b、ならびに、119aおよび119bが配置されている。給紙ユニット114から送り出された印刷用紙Pは、これらの送りローラによってガイドされて、さらに搬送ユニット120へと送り出される。
【0018】
搬送ユニット120は、エンドレスの搬送ベルト111と2つのベルトローラ106および107を有している。搬送ベルト111は、ベルトローラ106および107に巻き掛けられている。搬送ベルト111は、2つのベルトローラに巻き掛けられたとき所定の張力で張られるような長さに調整されている。これによって、搬送ベルト111は、2つのベルトローラの共通接線をそれぞれ含む互いに平行な2つの平面に沿って、弛むことなく張られている。これら2つの平面のうち、液体吐出ヘッド2に近い方の平面が、印刷用紙Pを搬送する搬送面127である。
【0019】
ベルトローラ106には、
図1に示されるように、搬送モータ174が接続されている。搬送モータ174は、ベルトローラ106を矢印Aの方向に回転させることができる。また、ベルトローラ107は、搬送ベルト111に連動して回転することができる。したがって、搬送モータ174を駆動してベルトローラ106を回転させることにより、搬送ベルト111は、矢印Aの方向に沿って移動する。
【0020】
ベルトローラ107の近傍には、ニップローラ138とニップ受けローラ139とが、搬送ベルト111を挟むように配置されている。ニップローラ138は、図示しないバネによって下方に付勢されている。ニップローラ138の下方のニップ受けローラ139は、下方に付勢されたニップローラ138を、搬送ベルト111を介して受け止めている。2つのニップローラは回転可能に設置されており、搬送ベルト111に連動して回転する。
【0021】
給紙ユニット114から搬送ユニット120へと送り出された印刷用紙Pは、ニップローラ138と搬送ベルト111との間に挟み込まれる。これによって、印刷用紙Pは、搬送ベルト111の搬送面127に押し付けられ、搬送面127上に固着する。そして、印刷用紙Pは、搬送ベルト111の回転に従って、液体吐出ヘッド2が設置されている方向へと搬送される。なお、搬送ベルト111の外周面113に粘着性のシリコンゴムによる処理を施してもよい。これにより、印刷用紙Pを搬送面127に確実に固着させることができる。
【0022】
4つの液体吐出ヘッド2は、搬送ベルト111による搬送方向に沿って互いに近接して配置されている。各液体吐出ヘッド2は、下端にヘッド本体13を有している。ヘッド本体13の下面には、液体を吐出する多数の吐出孔8が設けられている(
図4および5参照)。
【0023】
1つの液体吐出ヘッド2に設けられた吐出孔8からは、同じ色の液滴(インク)が吐出されるようになっている。各液体吐出ヘッド2には図示しない外部液体タンクから液体が供給される。各液体吐出ヘッド2の吐出孔8は、吐出孔面に開口しており、一方方向(印刷用紙Pと平行で印刷用紙P搬送方向に直交する方向であり、液体吐出ヘッド2の長手方
向)に等間隔で配置されているため、一方方向に隙間なく印刷することができる。各液体吐出ヘッド2から吐出される液体の色は、それぞれ、マゼンタ(M)、イエロー(Y)、シアン(C)およびブラック(K)である。各液体吐出ヘッド2は、ヘッド本体13の下面と搬送ベルト111の搬送面127との間にわずかな隙間をおいて配置されている。
【0024】
搬送ベルト111によって搬送された印刷用紙Pは、液体吐出ヘッド2と搬送ベルト111との間の隙間を通過する。その際に、液体吐出ヘッド2を構成するヘッド本体13から印刷用紙Pの上面に向けて液滴が吐出される。これによって、印刷用紙Pの上面には、制御部100によって記憶された画像データに基づくカラー画像が形成される。
【0025】
搬送ユニット120と紙受け部116との間には、剥離プレート140と二対の送りローラ121aおよび121bならびに122aおよび122bとが配置されている。カラー画像が印刷された印刷用紙Pは、搬送ベルト111によって剥離プレート140へと搬送される。このとき、印刷用紙Pは、剥離プレート140の右端によって、搬送面127から剥離される。そして、印刷用紙Pは、送りローラ121a〜122bによって、紙受け部116に送り出される。このように、印刷済みの印刷用紙Pが順次紙受け部116に送られ、紙受け部116に重ねられる。
【0026】
なお、印刷用紙Pの搬送方向について最も上流側にある液体吐出ヘッド2とニップローラ138との間には、紙面センサ133が設置されている。紙面センサ133は、発光素子および受光素子によって構成され、搬送経路上の印刷用紙Pの先端位置を検出することができる。紙面センサ133による検出結果は制御部100に送られる。制御部100は、紙面センサ133から送られた検出結果により、印刷用紙Pの搬送と画像の印刷とが同期するように、液体吐出ヘッド2や搬送モータ174等を制御することができる。
【0027】
次に本発明の液体吐出ヘッドを構成するヘッド本体13について説明する。
図2は、
図1に示されたヘッド本体13を示す平面図である。
図3は、
図2の一点鎖線で囲まれた領域の拡大平面図であり、一部の流路を省略して描いている。
図4は、
図3と同じ位置の拡大透視図で、吐出孔8の位置が分かり易いように、
図3とは異なる一部の流路を省略して描いている。なお、
図3および
図4において、図面を分かり易くするために、圧電アクチュエータ基板21の下方にあって破線で描くべき加圧室10(加圧室群9)、しぼり12および吐出孔8などを実線で描いている。
図5(a)は
図3のV−V線に沿った縦断面図であり、
図5(b)は、
図5(a)の要部の拡大図であり、
図5(c)は、
図5(a)の平面図である。
【0028】
ヘッド本体13は、平板状の流路部材4と、流路部材4上に、圧電アクチュエータ基板21とを有している。圧電アクチュエータ基板21は台形形状を有しており、その台形の1対の平行対向辺が流路部材4の長手方向に平行になるように流路部材4の上面に配置されている。また、流路部材4の長手方向に平行な2本の仮想直線のそれぞれに沿って2つずつ、つまり合計4つの圧電アクチュエータ基板21が、全体として千鳥状に流路部材4上に配列されている。流路部材4上で隣接し合う圧電アクチュエータ基板21の斜辺同士は、流路部材4の短手方向について部分的にオーバーラップしている。このオーバーラップしている部分の圧電アクチェータ基板21を駆動することにより印刷される領域では、2つの圧電アクチュエータ基板21により吐出された液滴が混在して着弾することになる。
【0029】
流路部材4の内部には液体流路の一部であるマニホールド5が形成されている。マニホールド5は流路部材4の長手方向に沿って延び細長い形状を有しており、流路部材4の上面にはマニホールド5の開口5bが形成されている。開口5bは、流路部材4の長手方向に平行な2本の直線(仮想線)のそれぞれに沿って5個ずつ、合計10個形成されている
。開口5bは、4つの圧電アクチュエータ基板21が配置された領域を避ける位置に形成されている。マニホールド5には開口5bを通じて図示されていない液体タンクから液体が供給されるようになっている。
【0030】
流路部材4内に形成されたマニホールド5は、複数本に分岐している(分岐した部分のマニホールド5を副マニホールド5aということがある)。開口5bに繋がるマニホールド5は、圧電アクチュエータ基板21の斜辺に沿うように延在しており、流路部材4の長手方向と交差して配置されている。2つの圧電アクチュエータ基板21に挟まれた領域では、1つのマニホールド5が、隣接する圧電アクチュエータ基板21に共有されており、副マニホールド5aがマニホールド5の両側から分岐している。これらの副マニホールド5aは、流路部材4の内部の各圧電アクチュエータ基板21に対向する領域に互いに隣接してヘッド本体13の長手方向に延在している。
【0031】
流路部材4は、複数の加圧室10がマトリクス状(すなわち、2次元的かつ規則的)に形成されている4つの加圧室群9を有している。加圧室10は、角部にアールが施されたほぼ菱形の平面形状を有する中空の領域である。加圧室10は流路部材4の上面に開口するように形成されている。これらの加圧室10は、流路部材4の上面における圧電アクチュエータ基板21に対向する領域のほぼ全面にわたって配列されている。したがって、これらの加圧室10によって形成された各加圧室群9は圧電アクチュエータ基板21とほぼ同一の形状の領域を占有している。また、圧電アクチュエータ基板21は複数の加圧室10を覆うように積層されるので、各加圧室10の開口は、圧電アクチュエータ基板21で閉塞されている。
【0032】
本実施形態では、
図3に示されているように、マニホールド5は、流路部材4の短手方向に互いに平行に並んだ4列のE1〜E4の副マニホールド5aに分岐し、各副マニホールド5aに繋がった加圧室10は、等間隔に流路部材4の長手方向に並ぶ加圧室10の列を構成し、その列は、短手方向に互いに平行に4列配列されている。副マニホールド5aに繋がった加圧室10の並ぶ列は副マニホールド5aの両側に2列ずつ配列されている。
【0033】
全体では、マニホールド5から繋がる加圧室10は、等間隔に流路部材4の長手方向に並ぶ加圧室10の列を構成し、その列は、短手方向に互いに平行に16列配列されている。各加圧室列に含まれる加圧室10の数は、アクチュエータである変位素子50の外形形状に対応して、その長辺側から短辺側に向かって次第に少なくなるように配置されている。吐出孔8もこれと同様に配置されている。これによって、全体として長手方向に600dpiの解像度で画像形成が可能となっている。
【0034】
つまり、流路部材4の長手方向に平行な仮想直線に対して直交するように吐出孔8を投影すると、
図3に示した仮想直線のRの範囲に、4つの副マニホールド5aに繋がっている4つの吐出孔8、つまり全部で16個の吐出孔8が600dpiの等間隔に配置されている。また、各副マニホールド5aには平均すれば150dpiに相当する間隔で個別流路32が接続されている。これは、600dpi分の吐出孔8を4つ列の副マニホールド5aに分けて繋ぐ設計をする際に、各副マニホールド5aに繋がる個別流路32が等しい間隔で繋がるとは限らないため、マニホールド5aの延在方向、すなわち主走査方向に平均170μm(150dpiならば25.4mm/150=169μm間隔である)以下の間隔で個別流路32が形成されているということである。
【0035】
圧電アクチュエータ基板21の上面における各加圧室10に重なる位置には個別電極35がそれぞれ形成されている。すなわち、個別電極35は、圧電アクチュエータ基板21の上面に、第1の方向および第1の方向とは異なる方向にわたって形成されている。個別電極35は、個別電極本体35aと個別電極35aから引き出された引出電極35bとを
含む。個別電極本体35aは、加圧室10より一回り小さく、加圧室10とほぼ相似な形状を有しており、圧電アクチュエータ基板21の上面における加圧室10と対向する領域内に収まるように配置されている。
【0036】
流路部材4の下面には多数の吐出孔8が形成されている。これらの吐出孔8は、流路部材4の下面側に配置された副マニホールド5aと対向する領域を避けた位置に配置されている。また、これらの吐出孔8は、流路部材4の下面側における圧電アクチュエータ基板21と対向する領域内に配置されている。これらの吐出孔群7は圧電アクチュエータ基板21とほぼ同一の形状の領域を占有しており、対応する圧電アクチュエータ基板21の変位素子50を変位させることにより吐出孔8から液滴が吐出できる。吐出孔8の配置については後で詳述する。そして、それぞれの領域内の吐出孔8は、流路部材4の長手方向に平行な複数の直線に沿って等間隔に配列されている。
【0037】
ヘッド本体13に含まれる流路部材4は、複数のプレートが積層された積層構造を有している。これらのプレートは、流路部材4の上面から順に、キャビティプレート22、ベースプレート23、アパーチャ(しぼり)プレート24、サプライプレート25、26、マニホールドプレート27、28、29、カバープレート30およびノズルプレート31である。これらのプレートには多数の孔が形成されている。各プレートは、これらの孔が互いに連通して個別流路32および副マニホールド5aを構成するように、位置合わせして積層されている。ヘッド本体13は、
図5に示されているように、加圧室10は流路部材4の上面に、副マニホールド5aは内部の下面側に、吐出孔8は下面にと、個別流路32を構成する各部分が異なる位置に互いに近接して配設され、加圧室10を介して副マニホールド5aと吐出孔8とが繋がる構成を有している。
【0038】
各プレートに形成された孔について説明する。これらの孔には、次のようなものがある。第1に、キャビティプレート22に形成された加圧室10である。第2に、加圧室10の一端から副マニホールド5aへと繋がる流路を構成する連通孔である。この連通孔は、ベースプレート23(詳細には加圧室10の入り口)からサプライプレート25(詳細には副マニホールド5aの出口)までの各プレートに形成されている。なお、この連通孔には、アパーチャプレート24に形成されたしぼり12と、サプライプレート25、26に形成された個別供給流路6とが含まれている。
【0039】
第3に、加圧室10の他端から吐出孔8へと連通する流路を構成する連通孔であり、この連通孔は、以下の記載においてディセンダ(部分流路)と呼称される。ディセンダは、ベースプレート23(詳細には加圧室10の出口)からノズルプレート31(詳細には吐出孔8)までの各プレートに形成されている。第4に、副マニホールド5aを構成する連通孔である。この連通孔は、マニホールドプレート27〜29に形成されている。
【0040】
このような連通孔が相互に繋がり、副マニホールド5aからの液体の流入口(副マニホールド5aの出口)から吐出孔8に至る個別流路32を構成している。副マニホールド5aに供給された液体は、以下の経路で吐出孔8から吐出される。まず、副マニホールド5aから上方向に向かって、個別供給流路6を通り、しぼり12の一端部に至る。次に、しぼり12の延在方向に沿って水平に進み、しぼり12の他端部に至る。そこから上方に向かって、加圧室10の一端部に至る。さらに、加圧室10の延在方向に沿って水平に進み、加圧室10の他端部に至る。そこから少しずつ水平方向に移動しながら、主に下方に向かい、下面に開口した吐出孔8へと進む。
【0041】
また、プレート22には、上述したような、吐出される液体が流れる流路以外に、空隙部38が形成されている。空隙部38は、プレート22の上側が窪んで形成されているが、プレート22を貫通する孔として形成してもよい。空隙部38ついては、後で詳述する
。
【0042】
圧電アクチュエータ基板21は、
図5に示されるように、2枚の圧電セラミック層21a、21bからなる積層構造を有している。これらの圧電セラミック層21a、21bはそれぞれ20μm程度の厚さを有している。圧電アクチュエータ基板21の圧電セラミック層21a、21bの積層体の厚さは40μm程度であり、100μm以下であることにより、変位量を大きくすることができる。圧電アクチュエータ基板21は、流路部材4の加圧室10の開口している平面状の面に積層されており、圧電セラミック層21a、21bのいずれの層も複数の加圧室10を跨ぐように延在している(
図3参照)。これらの圧電セラミック層21a、21bは、強誘電性を有するチタン酸ジルコン酸鉛(PZT)系のセラミックス材料からなる。
【0043】
圧電アクチュエータ基板21は、Ag−Pd系などの金属材料からなる共通電極34、Au系などの金属材料からなる個別電極35を有している。必要に応じて、個別電極35の上に形成されているAg系などの金属材料からなる接続電極36を形成してもよい。個別電極35は、圧電アクチュエータ基板21の上面における加圧室10と重なる位置に配置されている個別電極本体35aと、個別電極本体35aから加圧室10と重ならない位置まで引き出されている引出電極35bとを含んでいる。引出電極35bの加圧室10のない位置には、接続電極36が形成されている。個別電極35の厚さは、0.3〜1μmである。接続電極36は例えばガラスフリットを含む銀からなり、厚さが1〜15μm程度で凸状に形成されている。また、接続電極36は、図示されていないFPC(Flexible
Printed Circuit)に設けられた電極と電気的に接合されている。詳細は後述するが、個別電極35には、制御部100からFPCを通じて駆動信号(駆動電圧)が供給される。駆動信号は、印刷媒体Pの搬送速度と同期して一定の周期で供給される。
【0044】
共通電極34は、圧電セラミック層(セラミック振動板)21aと圧電セラミック層(圧電体層)21bとの間の領域に面方向のほぼ全面にわたって形成されている。すなわち、共通電極34は、圧電アクチュエータ基板21に対向する領域内の全ての加圧室10を覆うように延在している。共通電極34の厚さは2μm程度である。共通電極34は図示しない領域において接地され、グランド電位に保持されている。本実施形態では、圧電セラミック層21b上において、個別電極35からなる電極群を避ける位置に個別電極35とは異なる表面電極(不図示)が形成されている。表面電極は、圧電セラミック層21bの内部に形成されたスルーホールを介して共通電極34と電気的に接続されているとともに、多数の個別電極35と同様に、外部配線内の別の電極と接続されている。
【0045】
図5(a)に示されるように、共通電極34と個別電極35とは、最上層の圧電セラミック層21bのみを挟むように配置されている。圧電セラミック層21bにおける個別電極35と共通電極34とに挟まれた領域は活性部と呼称され、その部分の圧電セラミックスには厚み方向に分極が施されている。本実施形態の圧電アクチュエータ基板21においては、最上層の圧電セラミック層21bのみが活性部を含んでおり、圧電セラミック21aは活性部を含んでおらず、振動板として働く。この圧電アクチュエータ基板21はいわゆるユニモルフタイプの構成を有している。
【0046】
なお、後述のように、個別電極35に選択的に所定の駆動信号が供給されることにより、この個別電極35に対応する加圧室10内の液体に圧力が加えられる。これによって、個別流路32を通じて、対応する液体吐出口8から液滴が吐出される。すなわち、圧電アクチュエータ基板21における各加圧室10に対向する部分は、各加圧室10および液体吐出口8に対応する個別の変位素子50に相当する。つまり、2枚の圧電セラミック層からなる積層体中には、
図5に示されているような構造を単位構造とする変位素子50が加圧室10毎に、加圧室10の直上に位置するセラミック振動板21a、共通電極34、圧
電セラミック層21b、個別電極35により作り込まれており、圧電アクチュエータ基板21には変位素子50が複数含まれている。なお、本実施形態において1回の吐出動作によって液体吐出口8から吐出される液体の量は5〜7pL(ピコリットル)程度である。
【0047】
本実施形態における圧電アクチュエータ基板21の液体吐出時の駆動方法の一例を、個別電極35に供給される駆動電圧(駆動信号)に関して説明する。個別電極35を共通電極34と異なる電位にして圧電セラミック層21bに対してその分極方向に電界を印加したとき、この電界が印加された部分が、圧電効果により歪む活性部として働く。この時圧電セラミック層21bは、その厚み方向すなわち積層方向に伸長または収縮し、圧電横効果により積層方向と垂直な方向、すなわち面方向には収縮または伸長しようとする。一方、残りの圧電セラミック層21aは、個別電極35と共通電極34とに挟まれた領域を持たない非活性層であるので、自発的に変形しない。つまり、圧電アクチュエータ基板21は、上側(つまり、加圧室10とは離れた側)の圧電セラミック層21bを、活性部を含む層とし、かつ下側(つまり、加圧室10に近い側)の圧電セラミック層21aを非活性層とした、いわゆるユニモルフタイプの構成となっている。
【0048】
この構成において、電界と分極とが同方向となるように、アクチュエータ制御部により個別電極35を共通電極34に対して正または負の所定電位とすると、圧電セラミック層21bの電極に挟まれた部分(活性部)が、面方向に収縮する。一方、非活性層の圧電セラミック層21aは電界の影響を受けないため、自発的には縮むことがなく活性部の変形を規制しようとする。この結果、圧電セラミック層21bと圧電セラミック層21aとの間で分極方向への歪みに差が生じて、圧電セラミック層21bは加圧室10側へ凸となるように変形(ユニモルフ変形)する。
【0049】
本実施の形態における実際の駆動手順は、あらかじめ個別電極35を共通電極34より高い電位(以下高電位と称す)にしておき、吐出要求がある毎に個別電極35を共通電極34と一旦同じ電位(以下低電位と称す)とし、その後所定のタイミングで再び高電位とする。これにより、個別電極35が低電位になるタイミングで、圧電セラミック層21a、bが元の形状に戻り、加圧室10の容積が初期状態(両電極の電位が異なる状態)と比較して増加する。このとき、加圧室10内に負圧が与えられ、液体がマニホールド5側から加圧室10内に吸い込まれる。その後再び個別電極35を高電位にしたタイミングで、圧電セラミック層21a、bが加圧室10側へ凸となるように変形し、加圧室10の容積減少により加圧室10内の圧力が正圧となり液体への圧力が上昇し、液滴が吐出される。つまり、液滴を吐出させるため、高電位を基準とするパルスを含む駆動信号を個別電極35に供給することになる。このパルス幅は、圧力波がしぼり12から吐出孔8まで伝播する時間長さであるAL(Acoustic Length)が理想的である。これによると、加圧室10
内部が負圧状態から正圧状態に反転するときに両者の圧力が合わさり、より強い圧力で液滴を吐出させることができる。
【0050】
以上のような液体吐出ヘッド2において、外部から信号を供給する電極により変位素子50の変位を阻害しないように、引出電極35bは、加圧室10の外にまで引き出されている。しかし、そうすることにより、引出電極35bと共通電極34との間に挟まれている、引出電極35bの直下の圧電セラミック層21b(以下で、この部位を引出部駆動部ということがある)も圧電駆動されることになる。この圧電駆動による、振動あるいは応力が、周囲の液体吐出素子に伝わると、その動作に影響を与えるためクロストークが生じ、印刷精度を低下させる。この現象は、引出部駆動部が分極されている液体吐出ヘッド2で顕著であり、本発明は、そのような液体吐出ヘッド2において、特に効果がある。
【0051】
この影響を低減させるために、流路部材4に空隙部38を設ける。空隙部38は、引出電極35bの直下にあり、引出部駆動部が圧電駆動された際に、変形する余地を与える。
これにより、周囲に与える応力を低減させ、クロストークを低減させる。クロストークは、圧電セラミック層21bが隣り合う変位素子50の間で繋がっている場合、応力が直接的に伝わるのでその影響が大きくなるので、空隙部38を設けることによる応力の低減は、そのような液体吐出ヘッド2において特に効果がある。
【0052】
ここで言う直下とは、真下の意味であり、空隙部38は、引出電極35bから、圧電アクチュエータ基板21と流路部材4との境界面に対して直交する方向のうちで、流路部材4に向かう方向に位置している。言い換えれば、ヘッド本体13を平面視すると、引出電極35bと空隙部38とは、少なくとも一部が重なっている。重なりは、大きい方が、応力緩和の効果が大きくなるので好ましい。
【0053】
しかし、引出電極35bは、外部との電気的接続の際などに外部から力が加わる部分であり、外部からの力で圧電セラミック層21bなどが破損してしまうおそれがある。そのため空隙部38の大きさ(幅など)は、引出電極の50〜150%とするのが好ましく、特に80〜120%とするのがよい。
【0054】
空隙部38は、吐出孔8とは繋がっておらず、吐出される液体は入ってこないようにされる。吐出される液体が入ってくると、空隙部38が変形し難くなるので、応力緩和の効果が低下する上、引出部駆動部の振動が空隙部38中の液体を通じて他の流路に伝わるので、クロストークが生じるおそれもある。
【0055】
空隙部38をヘッド本体13の外部の空間と繋げて、空気などが出入り可能にしてもよいが、空隙部38の変形量は小さいので、そのようにする必要性は高くない。また、上述のように、圧電アクチュエータ基板21が破損し難いように、空隙部38は、引出電極35bの直下(およびその近傍)を離れて流路部材4の平面方向へ広がっていないのが好ましい。空隙部38を外部と繋げる際には、一旦、流路部材4の下側(吐出孔面4−1側)に向かって広がり、その先で外部に繋がるようにするのが好ましい。
【0056】
引出部駆動部の直下に、吐出される液体が流れる流路が存在すると、その流路内の液体に振動を与えて、クロストークが生じるおそれがある。そのため、引出部駆動部の直下には、流路を設けないのが好ましい。しかし、印刷精度を高くするためには、ヘッド本体13の大きさを小さくする必要があるので、流路を高密度に配置しなければならず、現実的には、そのように設計するのは難しい。引出部駆動部の直下に流路を配置する場合には、その流路より圧電アクチュエータ基板21に近い位置に空隙部38を設けることで、クロストークの発生を抑制できる。
【0057】
引出電極35bの引出方向に直交する方向の幅をW[μm]としたとき、空隙部38(より正確には空隙部38の上端)を、圧電アクチュエータ基板21からW[μm]以下の距離に配置することで、応力緩和の効果を高くできる。Wは、例えば、30〜100μm程度である。応力緩和の効果を特に高くにするには、空隙部38は、圧電アクチュエータ基板21と流路部材4との境界に設けるのが好ましい。
【0058】
空隙部38は、
図5(b)のように、プレート22の上側をハーフエッチングして、窪みとして形成してもよいし、プレート22を貫通する孔として形成してもよい。また、圧電アクチュエータ基板21と流路部材4とを接着剤層を介して積層している場合、その部分に接着剤が存在しないようにすることで空隙部38を形成してもよい。引出電極35b直下の圧電駆動は100nm程度であるので、例えば、500nm以上の接着剤層を形成すれば、接着剤の存在しない部位を設けることで、その部位が空隙部38として十分機能する。
【0059】
流路部材4の内部に空隙部38の内部に配置する場合にも同様に、窪みや孔を形成したプレートを配置すればよい。各プレートが接着剤層を介して積層している場合には、接着剤の存在しない部位を空隙部38としてもよい。
【0060】
図6(a)は、本発明の他の液体吐出ヘッドの部分断面図であり、
図6(b)は、
図6(a)の部位の部分平面図である。この液体吐出ヘッドの基本構造は、
図1〜5で示したものと同じであり、差異の少ない部分については、同じ符号を付けて説明を省略する。
【0061】
流路部材204は、流路部材4のプレート22の上にプレート220が積層された構造となっている。加圧室10の上側は、プレート220で覆われて、塞がれている。図ではプレート22より下側のプレートは省略してある。
【0062】
圧電アクチュエータ基板21と、流路部材204とは接着剤層240を介して積層されている。プレート220とプレート22とも接着剤を介して積層されているが、図では省略してある。引出電極35bの直下には、接着剤層240が存在しない部位があり、空隙部238となっている。接着剤層240は0.2〜2μm程度の厚さにされる。厚さが0.2μm以上あれば、引出部駆動部が圧電変形しても、空隙部238において、圧電アクチュエータ基板21とプレート220とが接触し難いの、応力緩和効果が低下し難い。
【0063】
空隙部238は、加圧室10よりも圧電アクチュエータ基板21側に位置することで、応力緩和効果を高くできる。また、そのように配置することで、空隙部238を引出電極35bとほぼ同一の大きさにしても、空隙部238と加圧室10とが繋がらなくなる。これにより、空隙部238に吐出される液体が入り込まないようにしつつ、空隙部238の平面形状を引出電極35bに近づけるように大きくできる。
【0064】
空隙部238は、引出電極35bに沿って、加圧室10と重なる位置まで伸びていてもよい。そのようにすれば、変位素子50の変位量を大きくできる。
【0065】
変位素子50は、圧電セラミック層21bが平面方向に伸縮することで、撓み変形する。例えば、加圧室10の体積を小さくするように下側に変位させる場合には、圧電セラミック層21bを縮ませる。加圧室10の中央付近の圧電セラミック層21bが縮むと、その長さが、対応する部位の振動板(圧電セラミック層21aおよびプレート220)よりも短くなるので、下側に撓む。下側に撓むためには、加圧室10の外周付近(外周の内側)の圧電セラミック層21bは、平面方向に伸びるように変形しなければならなくなる。
【0066】
空隙部238に加圧室10と重なっている部位があると、その部位の直上の圧電アクチュエータ基板21が、空隙部238の分、下側に変位可能になるので、変位量を大きくできる。別の言い方をすれば、同じ変位量の変位をさせた場合、その部位の直上の圧電セラミック層21bに生じる伸びは、空隙238が存在することで小さくなるので、そこからさらに、圧電セラミック層21bを伸ばすように変形させて、変位量を大きくすることができる。
【0067】
個別電極本体35aは、平面形状が、加圧室10と略相似な個別電極中央部と、個別電極中央部から引出電極35bに繋がる個別電極接続部とを含む。上述のように、加圧室10の中央付近の圧電セラミック層21bを圧電駆動することで、変位が生じるのであるが、加圧室10の外周付近の圧電セラミック層21bが圧電駆動されると、逆に変位量が小さくなるので、個別電極中央部は、加圧室10よりも小さい形状にされる。変位素子50は、基本的に変位量が大きくなるように設計されるので、個別電極中央部が配置されている領域は、その直下の圧電セラミック層21bを圧電変形させることで変位量が大きくなる領域である。逆に言えば、個別電極中央部より外側は、圧電駆動されると変位が低下し
てしまう領域である。したがって、空隙部238は、加圧室10と略相似な個別電極中央部と個別電極接続部との境界まで伸ばせば、変位量をより大きくできる。
【0068】
以上のような液体吐出ヘッド2は、例えば、以下のようにして作製する。ロールコータ法、スリットコーター法などの一般的なテープ成形法により、圧電性セラミック粉末と有機組成物からなるテープの成形を行ない、焼成後に圧電セラミック層21a、21bとなる複数のグリーンシートを作製する。グリーンシートの一部には、その表面に共通電極34となる電極ペーストを印刷法等により形成する。また、必要に応じてグリーンシートの一部にビアホールを形成し、その内部にビア導体を充填する。
【0069】
ついで、各グリーンシートを積層して積層体を作製し、加圧密着を行なう。加圧密着後の積層体を高濃度酸素雰囲気下で焼成し、その後金ペーストを用いて焼成体表面に個別電極35を印刷して、焼成した後、同じ金ペーストを用いて個別金薄膜38および金薄膜39を印刷して、焼成し、さらにAgペーストを用いて接続電極36を印刷し、焼成することにより、圧電アクチュエータ基板21を作製する。
【0070】
次に、流路部材4を、圧延法等により得られたプレート22〜31を、接着剤層を介して積層して作製する。積層するプレート22〜31には、マニホールド5、個別供給流路6、液体加圧室10およびディセンダなどとなる孔を、エッチングにより所定の形状に加工しておく。空隙部38は、プレート22〜31のいずれかに、エッチングで、窪みあるいは孔を加工することで形成してもよい。また、空隙部38は、積層する際の接着剤層の塗布を、パターンニングして行なうことにより、接着剤の存在しない部分として形成してもよい。
【0071】
これらプレート22〜31は、Fe―Cr系、Fe−Ni系、WC−TiC系の群から選ばれる少なくとも1種の金属によって形成されていることが望ましく、特に液体としてインクを使用する場合にはインクに対する耐食性の優れた材質からなることが望ましため、Fe−Cr系がより好ましい。
【0072】
続いて、圧電アクチュエータ基板21と流路部材4とを接着剤層を介して積層する。空隙部38は、この段階での接着剤層の塗布を、パターンニングして行なうことにより、接着剤の存在しない部分として形成してもよい。積層を終えた後、加熱加圧して、接着剤層を硬化させる。その後、個別電極35と共通電極34との間に電圧を加え、これらの間に挟まれている部位の圧電セラミック層21bを分極することで、液体吐出ヘッド2を得ることができる。