特許第5997105号(P5997105)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5997105
(24)【登録日】2016年9月2日
(45)【発行日】2016年9月28日
(54)【発明の名称】空気分離方法
(51)【国際特許分類】
   F25J 3/04 20060101AFI20160915BHJP
   C01B 13/02 20060101ALI20160915BHJP
【FI】
   F25J3/04 101
   C01B13/02 Z
【請求項の数】4
【全頁数】14
(21)【出願番号】特願2013-119277(P2013-119277)
(22)【出願日】2013年6月5日
(65)【公開番号】特開2014-112022(P2014-112022A)
(43)【公開日】2014年6月19日
【審査請求日】2014年10月24日
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用 2012年12月27日に神鋼エア・ウォーター・クライオプラント株式会社発行の「パンパシフィック・カッパー株式会社 日比製煉所殿 空気分離設備 見積仕様書」において発表
(73)【特許権者】
【識別番号】504226456
【氏名又は名称】神鋼エア・ウォーター・クライオプラント株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100075409
【弁理士】
【氏名又は名称】植木 久一
(74)【代理人】
【識別番号】100129757
【弁理士】
【氏名又は名称】植木 久彦
(74)【代理人】
【識別番号】100115082
【弁理士】
【氏名又は名称】菅河 忠志
(74)【代理人】
【識別番号】100125243
【弁理士】
【氏名又は名称】伊藤 浩彰
(72)【発明者】
【氏名】橋本 保
(72)【発明者】
【氏名】谷口 賢晃
(72)【発明者】
【氏名】浅岡 斉
【審査官】 森井 隆信
(56)【参考文献】
【文献】 国際公開第2013/041229(WO,A1)
【文献】 米国特許第05916262(US,A)
【文献】 米国特許第05546767(US,A)
【文献】 国際公開第2012/127148(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F25J 1/00− 5/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
原料空気を圧縮する空気圧縮機と、
前記原料空気を用いて熱交換を行う主熱交換器と、
前記原料空気を酸素及び窒素に分離する高圧精留塔及び低圧精留塔と
を有する空気分離装置を用いて原料空気から酸素を回収する空気分離方法であって、
前記空気分離装置に備えられた前記高圧精留塔は1塔であり、
前記空気分離装置は、
前記低圧精留塔から液体酸素が導入されかつ熱交換部が設けられた容器
前記容器内の熱交換部に空気又は昇圧空気を供給する空気供給ライン、
前記熱交換部で前記液体酸素と熱交換した空気を前記高圧精留塔に導入するラインを備え、
前記熱交換部は前記液体酸素を用いて熱交換を行うことによりガス酸素を生成し、前記容器内の前記液体酸素と前記ガス酸素とを前記主熱交換器にそれぞれ供給する液体酸素供給ライン及びガス酸素供給ラインをさらに備え、
前記容器内から取り出す前記液体酸素及び前記ガス酸素の量比率は、前記液体酸素の比率を10%以上80%以下とし、前記ガス酸素の比率を20%以上90%以下とし、
前記液体酸素供給ラインを介して高純度酸素を回収し、
前記ガス酸素供給ラインを介して前記高純度酸素よりも相対的に純度の低い低純度酸素を回収する
ことを特徴とする空気分離方法
【請求項2】
前記空気分離装置は、前記容器内で前記熱交換部の上方に精留パッキン又は精留皿が設けられた請求項1に記載の空気分離方法
【請求項3】
前記空気分離装置は、前記低圧精留塔から前記容器に液体酸素を供給する供給ラインと、該供給ラインに設けられ、前記低圧精留塔から前記容器に前記液体酸素を移送する液酸移送ポンプとを備えた請求項1または2に記載の空気分離方法
【請求項4】
前記空気分離装置は、前記容器内で蒸発した酸素の一部を前記低圧精留塔に戻す戻しラインと、該戻しラインの途中に設けられたバルブとを備えた請求項1〜のいずれか1項に記載の空気分離方法
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、原料空気から酸素や窒素を精留分離する空気分離装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
発電設備や製鉄所等のように大量の酸素が消費される工場内には、酸素自給のための酸素製造設備を併設することが多い。従来、上記酸素製造設備として最も汎用されているのは、空気を原料として酸素を得ることができ、しかも副産物として窒素を得ることができる空気分離装置である。
【0003】
製鉄業等の他に化学工業や半導体産業等でも空気分離装置が使用されており、取り出された酸素は酸化や酸素富化燃焼の用途で使われている。通常、酸素は空気分離装置から取り出された純度のままで使われているケースが多く、酸素富化燃焼では空気と混合させて炉に導入されているケースが多い。
【0004】
例えば特許文献1には、精留塔で分離された高純度酸素のうち、一部(16.4×P−0.8%以下、Pは酸素圧(MPaG))を液体酸素で取り出して、ポンプで昇圧した後、昇圧圧縮機を使わず主熱交換器で蒸発させることによりガス酸素を取り出す方法が記載されている。
【0005】
また特許文献2には、多段式主凝縮器で最低部に配置された主凝縮器の高さを1200mm以下とすることで、沸点上昇を低減させて消費動力を低減することが記載されている。この効果は酸素が低純度になるほど大きいことが記載されている。また同文献の請求項3には、最低部に配置された凝縮器には、空気の導入から始まり液体酸素を蒸発させることが記載されている。
【0006】
さらに、図6及び図7に示すような空気分離装置もある。図6の空気分離装置は、空気圧縮機2、吸着器3、主熱交換器4、高圧精留塔5、低圧精留塔6、主凝縮器6a、及び酸素圧縮機7を主に備える。図6の空気分離装置では、低圧精留塔6で生成されたガス酸素が主熱交換器4と酸素圧縮機7を介して、その状態で外部に供給されるものと空気が混合されて外部に供給されるものとに分かれる。
【0007】
また図7の空気分離装置は、空気圧縮機2、吸着器3、主熱交換器4、高圧精留塔5、低圧精留塔6、主凝縮器6a、昇圧圧縮機8、及び液酸ポンプ9を主に備える。図7の空気分離装置では、低圧精留塔6で生成された液体酸素が液酸ポンプ9で昇圧されて主熱交換器4を通った後、その状態で外部に供給されるものと空気が混合されて外部に供給されるものとに分かれる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特許第4908740号公報
【特許文献2】特許第4790979号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
原料空気圧縮機の稼動コストの割合は空気分離装置全体の稼動コストのほとんどを占めることから、該原料空気圧縮機の消費動力を低減して稼動コストをさらに低減することが強く望まれている現状がある。上記特許文献1の図1及び図2の空気分離装置では、上塔(低圧精留塔)から液体酸素とガス酸素を取り出し、該液体酸素を昇圧後、主熱交換器における熱交換によりガス酸素を生成している。そして、生成したこのガス酸素と上記ガス酸素とを合流させて又は合流させないで需要先に供給するように構成されている。このように同文献の空気分離装置では、上塔内のガス酸素のみを取り出すのではなく、液体酸素も取り出して利用することで、酸素圧縮機の流量の低減を図って消費動力を小さくしている。しかしながら、原料空気圧縮機についてはその消費動力の低減をさらに進める余地は残っている。
【0010】
また、低圧蒸留塔からの液体酸素を塔外に設置した凝縮器容器内で蒸発させてガス酸素を得る構成の空気分離装置(特許文献2の図4)、並びに図6及び図7の空気分離装置においても、原料空気圧縮機の消費動力をより低減し得る余地がある。
【0011】
本発明は、かかる従来の事情に鑑みてなされたものであり、空気圧縮機の消費動力を従来よりも低減して稼動コストを小さくすることができる空気分離装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明に係る空気分離装置は、原料空気を圧縮する空気圧縮機と、前記原料空気を用いて熱交換を行う主熱交換器と、前記原料空気を酸素及び窒素に分離する高圧精留塔及び低圧精留塔とを有する空気分離装置であって、
前記低圧精留塔から液体酸素が導入されかつ熱交換部が設けられた容器を備え、
前記熱交換部は前記液体酸素を用いて熱交換を行うことによりガス酸素を生成し、
前記容器内の前記液体酸素と前記ガス酸素とを前記主熱交換器にそれぞれ供給する液体酸素供給ライン及びガス酸素供給ラインをさらに備えたことを要旨とする。
【0013】
上記空気分離装置において、液体酸素供給ライン及びガス酸素供給ラインにより主熱交換器にそれぞれ供給された液体酸素及びガス酸素は、該主熱交換器で熱交換されることによって、高純度酸素及び低純度酸素として外部に供給される。なお本発明において、上記容器内の液体酸素を、容器内のガス酸素を基準として相対的に高純度酸素と称し、該容器内のガス酸素を、容器内の液体酸素を基準として相対的に低純度酸素と称することがある。
【0014】
前記容器内から取り出す前記液体酸素及び前記ガス酸素の量比率において、前記液体酸素の比率を10%以上80%以下とし、前記ガス酸素の比率を20%以上90%以下とすることができる。
【0015】
前記空気凝縮器容器内で前記空気凝縮器の上方に精留パッキン又は精留皿を設けることが好ましい。
【0016】
前記容器内に空気又は昇圧空気を供給する空気供給ラインを備えた態様とすることができる。また、前記低圧精留塔から前記容器に液体酸素を供給する供給ラインと、該供給ラインに設けられ、前記低圧精留塔から前記容器に前記液体酸素を移送する液酸移送ポンプとを備えた態様とすることができる。
【0017】
前記容器内で蒸発した酸素の一部を前記低圧精留塔に戻す戻しラインと、該戻しラインの途中に設けられたバルブとを備えた態様とすることができる。
【発明の効果】
【0018】
本発明に係る空気分離装置によれば、2種以上の純度の酸素を取り出すことができ、そのうち一種を低純度酸素(ガス酸素)で取り出すことによって、低圧精留塔内の主凝縮器に必要な酸素の純度を低減できる。その結果、空気圧縮機の吐出圧の低減を図ることができ、該圧縮機の消費動力を低減できる。したがって、空気分離装置の稼動コストを従来よりも小さくすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
図1】本発明の第1実施形態に係る空気分離装置の構成を示すブロック図である。
図2】本発明の第2実施形態に係る空気分離装置の構成を示すブロック図である。
図3】本発明の第3実施形態に係る空気分離装置の構成を示すブロック図である。
図4】本発明の第4実施形態に係る空気分離装置の構成を示すブロック図である。
図5】本発明の第5実施形態に係る空気分離装置の構成を示すブロック図である。
図6】従来の空気分離装置の例を示すブロック図である。
図7】従来の空気分離装置の他の例を示すブロック図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
本発明に係る空気分離装置は、原料空気を圧縮する空気圧縮機と、上記原料空気を用いて熱交換を行う主熱交換器と、上記原料空気を酸素及び窒素に分離する高圧精留塔及び低圧精留塔とを有する空気分離装置であって、上記低圧精留塔から液体酸素が導入されかつ熱交換部が設けられた容器を備える。上記熱交換部は上記液体酸素を用いて熱交換を行うことによりガス酸素を生成する。また、空気分離装置は上記容器内の上記液体酸素と上記ガス酸素とを上記主熱交換器にそれぞれ供給する液体酸素供給ライン及びガス酸素供給ラインをさらに備える。
【0021】
このような空気分離装置によれば、保冷箱から2種以上の純度の酸素を取り出すことができ、そのうち一種を低純度酸素(ガス酸素)で取り出すことによって、低圧精留塔内の主凝縮器に必要な酸素の純度を低減できる。その結果、空気圧縮機の吐出圧の低減を図ることができ、該圧縮機の消費動力を低減できる。したがって、空気分離装置の稼動コストを従来よりも小さくすることができる。
以下、図面に示した実施の形態に基づいて本発明を詳細に説明する。
【0022】
1.第1実施形態
図1は本発明の第1実施形態に係る空気分離装置1の全体構成を示すブロック図である。
【0023】
図1において本実施形態に係る空気分離装置1は、空気圧縮機2、吸着器3、主熱交換器4、高圧精留塔5、低圧精留塔6、低圧精留塔6内に設けられた主凝縮器6a、昇圧圧縮機8、液酸ポンプ9、空気凝縮器容器10、及び空気凝縮器容器10内に設けられた空気凝縮器10aを主として備えている。なお、主熱交換器4、高圧精留塔5、低圧精留塔6、主凝縮器6a、液酸ポンプ9、空気凝縮器容器(容器)10、及び空気凝縮器(熱交換部)10aは保冷箱7内に配されている。
【0024】
原料空気は、空気圧縮機2により高圧精留に必要な圧力(約0.3〜0.5MPa)に昇圧圧縮される、吸着器3により二酸化炭素、水分、炭化水素等の不純物が除去される。原料空気が吸着器3を経た後、その一部は保冷箱7内の主熱交換器4に供給され、その残りは昇圧圧縮機8に送られて昇圧された後に主熱交換器4に供給される。
【0025】
吸着器3を経て主熱交換器4に供給された原料空気は、この主熱交換器4で冷却された後、供給ラインL1により高圧精留塔5内の底部に導入される。また、吸着器3及び昇圧圧縮機8を経て主熱交換器4に供給された原料空気は、この主熱交換器4で冷却された後、供給ラインL2により高圧精留塔5内の底部に導入される。高圧精留塔5内に導入された原料空気は、この高圧精留塔5内を上昇中に下降液と向流接触を行い、蒸留により低沸点成分が増加することで液体窒素と酸素リッチな液体空気とに精留分離される。
【0026】
高圧精留塔5内で精留分離された液体窒素及び酸素リッチな液体空気は、それぞれ供給ラインL8及び供給ラインL9により低圧精留塔6内に導入される。低圧精留塔6内に導入された液体窒素と酸素リッチな液体空気は上昇ガスと向流接触を起こし、蒸留により低圧精留塔6内で高純度のガス窒素と液体酸素とに分離される。また、高圧精留塔5内のガス窒素は図示しない供給ラインにより低圧精留塔6の主凝縮器6aにも導入される。主凝縮器6aは、導入されたガス窒素と低圧精留塔6内の底部に溜まった液体酸素との間で熱交換を行って、該液体酸素を気化させつつ該ガス窒素を凝縮することにより液化させる。この熱交換に必要なガス窒素と液体酸素との温度差を確保するために、高圧精留塔5及び低圧精留塔6の各運転圧力が設定される。低圧精留塔6内で気化した上記ガス酸素は低圧精留塔6内で上昇ガスとなり精留分離に利用される。分離された高純度のガス窒素は製品窒素として低圧精留塔6の頂部より導出され、供給ラインL10により外部に供給される。なお、低圧精留塔6内の残部ガスの一部は、必要に応じて供給ラインL11により吸着器3に送られ、吸着材の再生ガスとして利用される。
【0027】
低圧精留塔6内で精留分離された液体酸素は、供給ラインL3により空気凝縮器容器10内に供給される。
【0028】
ここで、供給ラインL1から分岐した供給ライン(空気供給ライン)L4が空気凝縮器容器10に接続されている。この供給ラインL4により、主熱交換器4を経た原料空気が空気凝縮器容器10内に送られるようになっている。
【0029】
次に、空気凝縮器容器10内に設けられた空気凝縮器10aは、上述の供給ラインL3により送られてきた液体酸素と供給ラインL4により送られてきた空気との間で熱交換を行う。該熱交換により気化したガス酸素(低純度酸素)は、供給ライン(ガス酸素供給ライン)L5により主熱交換器4に送られて常温に戻された後、必要に応じて空気が混合されて酸素富化燃焼用酸素として外部(酸素富化炉)に供給される。なお、酸素富化燃焼用として必要な酸素純度は極めて低く、通常約30%程度の純度で足りる。
【0030】
一方、空気凝縮器容器10の底部には供給ライン(液体酸素供給ライン)L6が接続されており、該供給ラインL6の途中に液酸ポンプ9が設けられている。このような構成において空気凝縮器容器10内の液体酸素は、供給ラインL6により液酸ポンプ9に送られて必要圧に昇圧された後、主熱交換器4で蒸発及び昇温されることによりガス酸素(高純度酸素)となり、酸化用酸素として外部(酸化炉)に供給される。
【0031】
なお、液酸ポンプ9により液体酸素が昇圧されると、該液体酸素の沸点が上がる。そのため、主熱交換器4で熱交換を成立させて液体酸素を蒸発させるためには、昇圧圧縮機8で圧力をかけることで沸点を上げた原料空気を上記の如く主熱交換器4に導入する必要がある。
【0032】
上述したように本実施形態に係る空気分離装置1によれば、酸素富化燃焼用の低純度酸素と酸化用の高純度酸素が必要とされる場合、つまり、必要とされる高純度酸素が全体の酸素の一部である場合に、その必要とされる高純度酸素の純度を確保しつつも低圧精留塔6内の液体酸素の純度を下げることができる。以下、表1を用いて詳しく説明する。表1は、図1の空気分離装置1において空気凝縮器容器10から取り出す全体酸素量(純酸素)に占める液体酸素(純酸素)の取り出す比率を20%に固定し、ガス酸素の純度を変えた場合の空気凝縮器容器10内の液体酸素の純度、主凝縮器6aの液体酸素の純度、空気圧縮機2の吐出圧力、空気圧縮機原単位、及び空気圧縮機原単位率を特定した。上記ガス酸素の純度については、99.6%,95.0%,90.0%,80.0%,70.0%に変えた。なお、表1において空気圧縮機原単位率とは、ガス酸素の純度が99.6%であるときの空気圧縮機の動力原単位を100%(基準値)とした場合に、各ガス酸素純度に対応する空気圧縮機の動力原単位を比率で示したものである。また、上記比率20%は、空気凝縮器10aから取り出すガス酸素及び液体酸素の合計の中の純酸素流量を分母とし、液体酸素量の中の純酸素流量を分子として算定したものである。
【0033】
【表1】
【0034】
表1において、空気凝縮器容器10から取り出す高純度酸素(液体酸素)の純度が92.5%であってその量が全体酸素量の20%であり、残り量の80%の酸素を酸素富化用の低純度酸素(純度80%)として取り出す場合、高純度酸素の92.5%という純度を得るために必要な主凝縮器6a内の液体酸素の純度は82.2%であることが分かる。
【0035】
低圧精留塔6内の液体酸素が空気凝縮器容器10に導入されると、該容器内で液体酸素は原料空気との熱交換によって加熱されて気化する。この場合、相対的に沸点の低い窒素が気化し易くなるので、当該気化により液体中の窒素が減少し、空気凝縮器容器10内の液体酸素の純度は例えば92.5%に上がる。なお、空気凝縮器容器10から取り出すガス酸素の純度は、上記気化した窒素が多めに含まれるので80%となる。
【0036】
このように、主凝縮器6aから取り出す液体酸素の必要純度を約10%低減できるので、該10%分の酸素の沸点を下げることが可能となる。したがって、低圧精留塔6内で液体酸素とガス窒素との間で行われる熱交換の温度差を大きくすることができ、高圧精留塔5内の必要圧力を下げることができる。これにより、空気圧縮機2の吐出圧力を低減することができ、該圧縮機の消費動力の低減が可能となる。よって、空気分離装置1の稼動コストを従来よりも抑えることができる。
【0037】
なお、本発明の空気分離装置1において保冷箱7の外側で高純度酸素と低純度酸素とを混合することも可能である。この場合においても、上記のように低圧精留塔6内の主凝縮器6aの液体酸素の純度を低下させることができるので、低圧精留塔からの液体酸素(高純度酸素)を蒸発させて生成したガス酸素の一部を空気で希釈する従来技術よりも省エネ効果が得られる。
【0038】
2.第2実施形態
図2は本発明の第2実施形態に係る空気分離装置1aの全体構成を示すブロック図である。図2の空気分離装置1aの構成が図1の空気分離装置1と異なるところは、供給ラインL4の代わりに、供給ライン(空気供給ライン)L7が設けられている点であり、その他の構成は同じである。以下、詳しく説明する。
【0039】
本実施形態に係る空気分離装置1aにおいて、供給ラインL7は、昇圧圧縮機8から主熱交換器4を介して空気凝縮器容器10までを繋いでいる。この構成において、昇圧圧縮機8で昇圧された原料空気の一部は、供給ラインL7により主熱交換器4に送られた後、空気凝縮器容器10内に導入される。
【0040】
空気凝縮器容器10内において空気凝縮器10aは、供給ラインL3により送られてきた液体酸素と供給ラインL7により送られてきた昇圧空気との間で熱交換を行う。該熱交換により気化したガス酸素(低純度酸素)は、供給ラインL5により主熱交換器4に送られて常温に戻された後、必要に応じて空気が混合されて酸素富化燃焼用酸素として外部(酸素富化炉)に供給される。空気圧縮機2の吐出圧が空気凝縮器10aで必要な圧力を下回った場合に、空気凝縮に必要な原料空気は昇圧圧縮機8によって昇圧されて空気凝縮器容器10内に導入される。なお、昇圧圧縮機8の代わりに、膨張タービンで駆動される昇圧機を用いてもよいし、上記空気凝縮に必要な昇圧空気として、空気圧縮機2により圧縮された原料空気の一部を使用することもできる。
【0041】
一方、空気凝縮器容器10内の液体酸素は、供給ラインL6により液酸ポンプ9に送られて昇圧された後、主熱交換器4で蒸発及び昇温されることによりガス酸素(高純度酸素)となり、酸化用酸素として外部(酸化炉)に供給される。
【0042】
本実施形態に係る空気分離装置1aによれば、第1実施形態の空気分離装置1と同じように、主凝縮器6aより取り出す液体酸素の純度を低減することができる。したがって、空気圧縮機2の吐出圧力を低減することができ、該圧縮機の消費動力の低減が可能となる。
【0043】
3.第3実施形態
図3は本発明の第3実施形態に係る空気分離装置1bの全体構成を示すブロック図である。図3の空気分離装置1bの構成が図1の空気分離装置1と異なるところは、空気凝縮器容器10内において空気凝縮器10aの上方に精留パッキン11が設けられている点であり、その他の構成は同じである。
【0044】
本実施形態に係る空気分離装置1bにおいて、空気凝縮器10aの上方に精留パッキン11を設けると、空気凝縮器に精留機能を付加することができる。つまり、空気凝縮器容器10において液体酸素の純度をさらに上げることができることから、主凝縮器6aより取り出す液体酸素の純度をさらに低減することができる。したがって、空気圧縮機2の吐出圧力を低減でき、該圧縮機の消費動力のさらなる低減が可能となる。
【0045】
なお精留パッキン11を用いることとしたが、これに限定されるものではなく、精留パッキン11の代わりに精留皿を採用することができ、またこれらを組み合わせて用いることも可能である。また、空気凝縮器容器10からの高純度酸素(液体酸素)の取り出しに代えて、精留パッキン11又は精留皿底部から高純度のガス酸素で取り出すこともできる。
【0046】
4.第4実施形態
図4は本発明の第4実施形態に係る空気分離装置1cの全体構成を示すブロック図である。図4の空気分離装置1cの構成が図2の空気分離装置1aと異なるところは、空気凝縮器容器10内において空気凝縮器10aの上方に精留パッキン11が設けられている点であり、その他の構成は同じである。
【0047】
本実施形態に係る空気分離装置1cによれば、第3実施形態の空気分離装置1bと同じように、空気凝縮器10aに精留機能を付加することができる。それにより、空気凝縮器容器10において液体酸素の純度をさらに上げることができることから、主凝縮器6aより取り出す液体酸素の純度をさらに低減することができる。したがって、空気圧縮機2の吐出圧力を低減でき、該圧縮機の消費動力のさらなる低減が可能となる。
【0048】
5.第5実施形態
図5は本発明の第5実施形態に係る空気分離装置1dの全体構成を示すブロック図である。図5の空気分離装置1dの構成が図4の空気分離装置1cと異なるところは、供給ラインL3に液酸移送ポンプ12が設けられている点、及び戻しラインL12と該戻しラインL12の途中にバルブvaとが設けられている点であり、その他の構成は同じである。
【0049】
液酸移送ポンプ12は低圧精留塔6から空気凝縮器容器10に液体酸素を移送するものである。上記第2実施形態でも述べたが、昇圧圧縮機8などによって昇圧された空気を空気凝縮器容器10内に導入する場合、該空気凝縮器容器10の内圧が上昇するため、上記の液酸移送ポンプ12により液体酸素を移送することで、低圧精留塔6からの液体酸素を空気凝縮器容器10内に導入し易くなる。
【0050】
また、戻しラインL12は供給ラインL5から分岐して低圧精留塔6に接続されている。空気凝縮器容器10内で蒸発した酸素の一部を、バルブvaでその流量を調整しつつ低圧精留塔6内に戻すことができる。空気凝縮器容器10からの液体酸素の取り出し量がガス酸素の取り出し量に対して大きくなる場合、精留パッキン11における精留分離効果を高めるため(向流接触において下降液である液体酸素と上昇するガス酸素との量を適切に調整するため)、上記のように空気凝縮器容器10内の酸素の一部を低圧精留塔6に戻すことができる。
【0051】
本発明はもとより上記実施形態によって制限を受けるものではなく、本発明の趣旨に適合し得る範囲で適当に変更を加えて実施することも勿論可能であり、それらはいずれも本発明の技術的範囲に包含される。
【実施例】
【0052】
以下、実施例を挙げて本発明をより具体的に説明する。本発明は以下の実施例によって制限を受けるものではなく、前記、後記の趣旨に適合し得る範囲で適当に変更を加えて実施することも勿論可能であり、それらはいずれも本発明の技術的範囲に包含される。
【0053】
1.実施例1
上でも述べたが、空気分離装置1において空気凝縮器容器10から取り出す全体酸素量(純酸素)に占める液体酸素(純酸素)の取り出す比率を20%に固定し、ガス酸素の純度を変えた場合の空気凝縮器容器10内の液体酸素の純度等を特定した(表1参照)。
【0054】
表1において、ガス酸素の必要純度を低くするにつれ、主凝縮器の液体酸素に必要な純度も低下し、それに応じて空気圧縮機に必要な圧力も低減できることが確認できた。表1の一例をピックアップすれば、酸化炉に供給する酸化用酸素として本来必要である92.5%という純度の酸素を空気凝縮器10aで得ることにより、低圧精留塔6内の液体酸素としては92.5%という高い純度が要求されずに、それよりも低い82.2%の純度で済むことが可能となり、空気圧縮機の吐出圧の低減につながった。
【0055】
これまで95%以上(例えば95.5%)の純度を低圧精留塔の主凝縮器で得る場合の空気圧縮機の吐出圧は445kPaGで、空気圧縮機原単位は0.072kWh/Nmであった。しかし、本発明の空気分離装置1によれば、空気凝縮器容器10内の液体酸素の純度が95.8%であるとき、主凝縮器6aの液体酸素の純度が91.1%で、空気圧縮機2の吐出圧は399kPaGで、空気圧縮機原単位は0.068kWh/Nmとなり、約5.6%の空気圧縮機原単位の低減が可能となることが確認できた。なお、ガス酸素の必要純度が低いほど、その効果(空気圧縮機原単位の低減効果)は大きくなる。
【0056】
2.実施例2
図3の空気分離装置1bにおいて、空気凝縮器容器10から取り出す全体酸素量(純酸素)に占める液体酸素(純酸素)の取り出す比率を20%に固定し、ガス酸素の純度を99.6%,95.0%,90.0%,80.0%,70.0%に変えた場合の空気凝縮器容器10内の液体酸素の純度等を特定した。特定結果を表2に示す。
【0057】
【表2】
【0058】
表2においても、空気凝縮器容器10内の液体酸素の純度を99.6%(一部99.8%を除く)に維持しながらガス酸素の必要純度を低くするにつれ、主凝縮器の液体酸素に必要な純度も低下し、それに応じて空気圧縮機に必要な圧力も低減できることが確認できた。
【0059】
3.実施例3
図1の空気分離装置1において、ガス酸素純度を70%,80%,90%として、空気凝縮器容器10からの液体酸素の抜き出し量(取り出し比率)を変えた場合の空気圧縮機の吐出圧をそれぞれ算定した。算定結果を表3〜表5に示す。なお、表3がガス酸素純度70%のものであり、表4がガス酸素純度80%のものであり、表5がガス酸素純度90%のものである。また、各表において液体酸素抜き出し量は全酸素(純酸素)に対する割合であり、液体酸素抜き出し量が0%及び100%であるものは従来例(比較例)に相当する(以下、同じ)。
【0060】
【表3】
【0061】
【表4】
【0062】
【表5】
【0063】
表3〜表5において、ガス酸素純度に関わらず、空気圧縮機の吐出圧を最も小さくできるのは、液体酸素の抜き出し量が10%であるときということが確認できた。またその中でも、ガス酸素純度が90%,80%,70%と低下するにつれて、空気圧縮機の吐出圧を低減できることが確認できた。
【0064】
4.実施例4
図3の空気分離装置1bにおいて、ガス酸素純度を70%,80%,90%として、空気凝縮器容器10からの液体酸素の抜き出し量(取り出し比率)を変えた場合の空気圧縮機の吐出圧をそれぞれ算定した。算定結果を表6〜表8に示す。なお、表6がガス酸素純度70%のものであり、表7がガス酸素純度80%のものであり、表8がガス酸素純度90%のものである。
【0065】
【表6】
【0066】
【表7】
【0067】
【表8】
【0068】
表6〜表8においても、ガス酸素純度に関わらず、空気圧縮機の吐出圧を最も小さくできるのは、液体酸素の抜き出し量が10%である場合ということが確認できた。またその中でも、ガス酸素純度が90%、80%、70%と低下するにつれて、空気圧縮機の吐出圧を低減できることが確認できた。
【符号の説明】
【0069】
1,1a,1b,1c,1d 空気分離装置
2 空気圧縮機
3 吸着器
4 主熱交換器
5 高圧精留塔
6 低圧精留塔
6a 主凝縮器
7 保冷箱
8 昇圧圧縮機
9 液酸ポンプ
10 空気凝縮器容器
10a 空気凝縮器
11 精留パッキン
12 液酸移送ポンプ
va バルブ
L1〜L11 供給ライン
L12 戻しライン
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7