(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5997117
(24)【登録日】2016年9月2日
(45)【発行日】2016年9月28日
(54)【発明の名称】ミリ波帯フィルタおよびミリ波帯の高域減衰方法
(51)【国際特許分類】
H01P 1/207 20060101AFI20160915BHJP
【FI】
H01P1/207 Z
【請求項の数】7
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2013-188139(P2013-188139)
(22)【出願日】2013年9月11日
(65)【公開番号】特開2015-56721(P2015-56721A)
(43)【公開日】2015年3月23日
【審査請求日】2015年7月17日
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成25年度、総務省、電波資源拡大のための研究開発委託研究、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願
(73)【特許権者】
【識別番号】000000572
【氏名又は名称】アンリツ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100079337
【弁理士】
【氏名又は名称】早川 誠志
(72)【発明者】
【氏名】河村 尚志
(72)【発明者】
【氏名】下田平 寛
【審査官】
岸田 伸太郎
(56)【参考文献】
【文献】
米国特許第02823356(US,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01P 1/00−11/00
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
IEEE Xplore
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ミリ波帯の所定周波数以上の電磁波を伝搬させる断面長方形の導波路の一端側がそれぞれ短絡され、それぞれの前記一端側の導波路を囲む短辺側の側面を互いに対向させた状態で配置された第1導波管(21)および第2導波管(22)と、
前記第1導波管と第2導波管の前記短辺側の側面の間に、前記第1導波管の導波路と前記第2導波管の導波路との間を所定口径の導波路で連結させて、前記第1導波管に入射された電磁波の周波数が高くなる程、前記第2導波管への伝搬割合が小さくなるように規制する連結管(23)とを備えたミリ波帯フィルタ。
【請求項2】
前記第1導波管と第2導波管の導波路は、
前記短絡された一端側から他端側への向きが互いに反対方向となる状態で平行に形成されていることを特徴とする請求項1記載のミリ波帯フィルタ。
【請求項3】
前記連結管は、その口径中心から前記第1導波管と前記第2導波管の少なくとも一方の導波管の短絡された一端までの距離が、通過させたい周波数の管内波長の1/4の奇数倍となる位置で、前記第1導波管と第2導波管の側面間を連結していることを特徴とする請求項1または請求項2記載のミリ波帯フィルタ。
【請求項4】
前記第1導波管または第2導波管の内部に所定間隔でピンを立設し、該ピンの間隔によって決まる周波数帯を選択的に通過させるバンドパスフィルタを形成したことを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載のミリ波帯フィルタ
【請求項5】
前記第1導波管または第2導波管の内壁に所定深さの溝を設け、該溝の深さによって決まる周波数帯の通過を阻止するバンドリジェクションフィルタを形成したことを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載のミリ波帯フィルタ。
【請求項6】
ミリ波帯の所定周波数以上の電磁波を伝搬させる断面長方形の導波路の一端側がそれぞれ短絡された第1導波管(21)および第2導波管(22)を、それぞれの前記一端側の導波路を囲む短辺側の側面を互いに対向させた状態で配置し、
前記第1導波管と第2導波管の前記短辺側の側面の間に設けた連結管(23)により、前記第1導波管の導波路と前記第2導波管の導波路との間を所定口径の導波路で連結させて、前記第1導波管に入射された電磁波の周波数が高くなる程、前記第2導波管への伝搬割合が小さくなるように規制するミリ波帯の高域減衰方法。
【請求項7】
前記第1導波管と第2導波管の導波路を、
前記短絡された一端側から他端側への向きが互いに反対方向となる状態で平行に形成したことを特徴とする請求項6記載のミリ波帯の高域減衰方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ミリ波帯の高域を減衰させるための技術に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、ユビキタスネットワーク社会を迎え、電波利用ニーズが高まる中、家庭内のワイヤレスブロードバンド化を実現するWPAN(ワイヤレスパーソナルエリアネットワーク)や安全・安心な運転をサポートするミリ波レーダー等のミリ波帯無線システムが利用され始めている。また、100GHz超無線システム実現への取組も積極的に行われてきている。
【0003】
その一方で、60〜70GHz帯の無線システムの2次高調波評価や100GHz超の周波数帯における無線信号の評価については、周波数が高くなるにつれ測定器の雑音レベル及びミキサの変換損失が増加するとともに周波数精度が低下するため、100GHzを超える無線信号の高感度、高精度測定技術が確立されていない状況となっている。しかも、これまでの測定技術では局部発振の高調波を測定結果から分離することができず、不要発射等の厳密な測定が困難となっている。
【0004】
これらの技術課題を克服し、100GHz超帯域無線信号の高感度・高精度測定を実現するためには、アンプやミキサへの帯域外信号の入力を抑圧するフィルタが必要であり、特に、上記周波数帯で用いられる基本的な伝送線路である導波管は、基本的にハイパスフィルタとして働くので、高域の帯域外信号を抑圧するローパス型(ハイカット型)のフィルタの開発が必要となる。
【0005】
これを簡単に説明すると、導波管の基本的な特性は、例えば
図14のG1ように約70GHzから1000GHzを超える範囲まで通過帯域が延びたハイパス型であり、その広い通過帯域内で実際に使用する帯域の信号を選択的に通過させるために、導波管内に共振用素子を設けて例えば100GHzを通過中心周波数とするバンドパスフィルタの特性を与えることが考えられるが、この種のバンドバスフィルタは、その構造的な理由で、
図14のG2のように、所望帯域だけでなく、その整数倍の帯域(通過中心200GHz、300GHz、…)でも選択特性を示す。
【0006】
このため、所望帯域より高い周波数帯に不要信号があると、これを除去することができない。そのために、
図14のG3で示すように、例えば120GHzを越える周波数領域で高域減衰特性を有するフィルタが必要となる。
【0007】
この目的で使用可能なフィルタとして、導波管を用いたワッフルアイアン型のフィルタが知られている(特許文献1、2)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2007−194912号公報
【特許文献2】特開2007−088574号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかしながら、上記ワッフルアイアン型のフィルタは、導波管の内部に複数の溝を高精度に設ける必要があり、周波数が高くなるにつれてその製作難易度が高まり、100GHzを越える周波数帯域で十分な減衰特性が得られないという問題があった。
【0010】
本発明は、この課題を解決して、100GHzを越える周波数帯域で十分な高域減衰特性が得られ、製造が容易なミリ波帯フィルタおよびミリ波帯の高域減衰方法を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0011】
前記目的を達成するために、本発明の請求項1のミリ波帯フィルタは、
ミリ波帯の所定周波数以上の電磁波を伝搬させる断面長方形の導波路の一端側がそれぞれ
短絡され、それぞれの前記一端側の導波路を囲む短辺側の側面を互いに対向させた状態
で配置された第1導波管(21)および第2導波管(22)と、
前記第1導波管と第2導波管の前記短辺側の側面の間に、前記第1導波管の導波路と前記第2導波管の導波路との間を所定口径の導波路で連結させて、前記第1導波管に入射された電磁波の周波数が高くなる程、前記第2導波管への伝搬割合が小さくなるように規制する連結管(23)とを備えている。
また、本発明の請求項2記載のミリ波帯フィルタは、請求項1記載のミリ波帯フィルタにおいて、
前記第1導波管と第2導波管の導波路は、
前記短絡された一端側から他端側への向きが互いに反対方向となる状態で平行に形成されていることを特徴とする。
【0012】
また、本発明の請求項
3のミリ波帯フィルタは、請求項1
または請求項2記載のミリ波帯フィルタにおいて、
前記連結管は、その口径中心から前記第1導波管と前記第2導波管の少なくとも一方の導波管の
短絡された一端までの距離が、通過させたい周波数の管内波長の1/4の奇数倍となる位置で、前記第1導波管と第2導波管の導波路間を連結していることを特徴とする。
【0013】
また、本発明の請求項
4のミリ波帯フィルタは、請求項1
〜3のいずれかに記載のミリ波帯フィルタにおいて、
前記第1導波管または第2導波管の内部に所定間隔でピンを立設し、該ピンの間隔によって決まる周波数帯を選択的に通過させるバンドパスフィルタを形成したことを特徴とする。
【0014】
また、本発明の請求項
5のミリ波帯フィルタは、請求項1〜
4のいず
れかに記載のミリ波帯フィルタにおいて、
前記第1導波管または第2導波管の内壁に所定深さの溝を設け、該溝の深さによって決まる周波数帯の通過を阻止するバンドリジェクションフィルタを形成したことを特徴とする。
【0015】
また、本発明の請求項
6のミリ波帯の高域減衰方法は、
ミリ波帯の所定周波数以上の電磁波を伝搬させる断面長方形の導波路の一端側がそれぞれ
短絡された第1導波管(21)および第2導波管(22)を、それぞれの前記一端側の導波路を囲む短辺側の側面を互いに対向させた状態
で配置し、
前記第1導波管と第2導波管の前記短辺側の側面の間に設けた連結管(23)により、前記第1導波管の導波路と前記第2導波管の導波路との間を所定口径の導波路で連結させて、前記第1導波管に入射された電磁波の周波数が高くなる程、前記第2導波管への伝搬割合が小さくなるように規制することを特徴としている。
また、本発明の請求項7のミリ波帯の高域減衰方法は、請求項6記載のミリ波帯の高域減衰方法において、
前記第1導波管と第2導波管の導波路を、
前記短絡された一端側から他端側への向きが互いに反対方向となる状態で平行に形成したことを特徴とする。
【発明の効果】
【0016】
このように、本発明では、導波路が
短絡されたそれぞれの一端側の短辺側の側面同士が対向する状態
で配置された第1導波管と第2導波管のその短辺側の側面間に設けた連結管により、第1導波管と第2導波管の導波路の間を所定口径の導波路で連結することで、第1導波管に入射された電磁波の周波数が高くなる程、第2導波管への伝搬割合が小さくなるように規制している。
【0017】
このため、二つの導波管の導波路の短辺側の側面間を所定口径の導波路で連結するという極めて簡単な構造で、一方の導波管に入射されたミリ波帯の電磁波のうち、所望の高域成分を減衰させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【
図2】実施形態のミリ波帯フィルタの平面図およびその断面図
【
図5】本発明のミリ波帯フィルタの別の構造例を示す図
【
図7】
図5の構造のミリ波帯フィルタに他のフィルタを組み込んだ構造例を示す図
【
図11】本発明のミリ波帯フィルタの連結管の口径高さを変化させたときの通過特性図
【
図12】本発明のミリ波帯フィルタの連結管の長さを変化させたときの通過特性図
【
図13】本発明のミリ波帯フィルタの連結管の口径幅を変化させたときの通過特性図
【
図14】導波管の通過特性とフィルタの特性との関係を示す図
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、図面に基づいて本発明の実施の形態を説明する。
図1は、本発明の実施形態のミリ波帯フィルタ20の斜視図、
図2の(a)はその平面図(磁界面からみた図)、
図2の(b)〜(d)は、
図2の(a)のA−A線断面図、B−B線断面図、C−C線断面図である。
【0020】
これらの図に示されているように、このミリ波帯フィルタ20は、第1導波管21、第2導波管22および連結管23によって構成されている。
【0021】
第1導波管21と第2導波管22は同一口径であり、ミリ波帯の所定周波数以上(例えば90GHz以上)の電磁波を伝搬させる断面長方形の導波路の一端21a、22aがそれぞれ閉鎖され、その一端側の導波路を囲む短辺側の側面(内側面)21b、22bを互いに対向させた状態で平行にすれ違うように配置されている。
【0022】
そして、第1導波管21と第2導波管22の側面21b、22b側の先端部分は所定長にわたって開口され、その開口部同士を連結管23が連結している。この連結管23は、第1導波管21と第2導波管22の導波路の短辺側の側面の間を所定口径の導波路で連結させ、第1導波管21に入射された電磁波の周波数が高くなる程、第2導波管22への伝搬割合が小さくなるように規制している。
【0023】
ここで、第1導波管21と第2導波管22はミリ波帯で汎用的に用いられる断面長方形の導波路が連続した標準的な導波管(例えばWR−08)であり、第1導波管21の内寸をa1×b1、第2導波管22の導波路の内寸をa2×b2とし、ここでは、a1=a2、b1=b2とする。
【0024】
また、連結管23は、第1導波管21および第2導波管22と直交しており、フィルタ全体としては先端側が平行にすれ違うように配置した2本の導波管をこれと直交する導波管(連結管23)で連結したクランク型の導波管線路となる。
【0025】
このようなクランク型の導波管線路の場合、第1導波管21に入射された電磁波のうち、高域側の電磁波は低域側の電磁波に比べて直進性が強くなるので、連結管23を通過できる割合が小さくなり、これにより高域減衰特性を得ることができる。
【0026】
以下、この原理について説明する。
図2に示したように、第1導波管21の導波路の横幅a1、第2導波管22の導波路の横幅a2、連結管23の導波路の長さa3とすると、連結管23を挟んだ部分の全体の横幅と光速c
0により、連結管23を通過できる電磁波の周波数の遮断周波数fcが、
fc=c
0/{2(a1+a2+a3)}
で決まる。
【0027】
また、
図3のように、第1導波管21の一端側に伝搬された電磁波の波面の進行方向(導波管の長手方向)に直交する面に対する傾きθが大きい程、また、連結管23の導波路の幅(以下口径幅という)dが大きいほど連結管23へ電磁波が進入する割合が大きくなる。
【0028】
これらを考慮して、周波数fに依存する傾きθの波面の連結管23への進入率Pは、
P=(1/2)×(d/cos θ)×2sin θ÷a1=(dtan θ)/a1
sin θ=fc/f
となる。
【0029】
連結管23の口径幅dによる共振(ファブリペロー共振)の影響も考慮して、第1導波管21から第2導波管22までの透過率S21を求めると、
S21=P
2/{1+(Fsin ψ)
2}
ただし、F=π√R/(1−R)、ψ=2πd/λg、
λg=λ/√{1−[λ/2(a1+a2+a3)]
2}、
Rは連結管23の入り口における反射係数、λは自由空間波長、λgは管内波長
【0030】
以上の結果から、sin θ=fc/fが小さくなる、即ち、周波数fが高くなる程、透過率S21が減少する高域減衰特性をもつことがわかる。
【0031】
次に、上記基本構造のミリ波帯フィルタ20のシミュレーション結果について説明する。このシミュレーションでは、前記した標準の導波管WR−08を想定し、第1導波管21の内径a1×b1=2.032mm×1.016mm、第2導波管22の内径a2×b2=2.032mm×1.016mm、連結管23の口径幅d=1.6mm、長さa3=0.2mm、口径高さ(E面方向の高さ)b3=1.016mmとした。
【0032】
上記条件で、シミュレーションして得られた結果(S21)を
図4に示す。なおシミュレーションでは簡単のため材質を完全導体とし、導体損が存在しないモデルとしている。
【0033】
この
図4から明らかなように、リップルはあるものの、その包絡線で見れば透過率S21は、ほぼ140GHzから1000GHzまでの広い領域で高域程減衰量が大きくなる顕著な高域減衰特性を示しており、例えば100〜140GHzを使用帯域とするシステムで極めて有効な高域減衰フィルタとして用いることができる。
【0034】
上記基本構造のミリ波帯フィルタ20では、第1導波管21と第2導波管22の導波路の先端の側面間を連結管23で連結していたが、
図5の(a)〜(d)に示すように、第1導波管21と第2導波管22の導波路の中間部の側面間を連結管23で連結してもよい。
【0035】
ただし、この場合、連結管23の口径中心から第1導波管21の閉鎖された一端21aまでの距離H1、および連結管23の口径中心から第2導波管22の閉鎖された一端22aまでの距離H2は、通過させたい周波数の管内波長λgの1/4の奇数倍に設定する必要がある。このように設定することで、連結管23まで伝搬した電磁波と、導波管端面で反射した戻り成分とが逆位相となり相殺することができ、反射による悪影響を防止できる。なお、ここでは、H1=H2としているがH1≠H2であってもよい。また、第1導波管21と第2導波管22の一方の導波管については閉鎖された一端側末端部の側面に連結管23の一端側を接続し、他方の導波管については、その閉鎖された一端から通過させたい周波数の管内波長λgの1/4の奇数倍の距離の側面に連結管23の他端側を接続してもよい。
【0036】
また、この
図5の実施形態では、連結管23の口径高さb3を、第1導波管21、第2導波管の短辺b1、b2より短くしているが、後述するように、このような口径の連結管23であっても、前記した高域減衰特性が得られることを確かめている。
【0037】
この
図5の実施形態で、通過帯域の中心を104GHzとし、第1導波管21の内径a1×b1=2.032mm×1.016mm、第2導波管22の内径a2×b2=2.032mm×1.016mm、連結管23の口径幅d=1.44mm、長さa3=0.3mm、口径高さb3=0.2mm、各導波管の先端から連結管23までの距離H1、H2=3.0mmとして、透過率S21を求めた結果を
図6に示す。
図6の(a)は、周波数90〜1000GHzまでの特性であり、
図6の(b)は、
図6の(a)のうちの周波数90〜140GHzの範囲を拡大して示したものである。
【0038】
図6の(a)から明らかなように、リップルはあるものの、115GHz〜1000GHzの広い帯域において、高域程減衰量が大きくなる高域減衰特性を示しており、104GHzを通過帯域とするシステムで極めて有効な高域減衰用のフィルタとして用いることができる。
【0039】
上記実施例は、高域減衰特性のみを有するミリ波帯フィルタの例であったが、このミリ波帯フィルタを構成する導波管に、他のフィルタを組み込むことも可能である。
【0040】
図7、
図8は、その一例を示すものであり、上記構造のミリ波帯フィルタ20の第1導波管21にBPF(バンドパスフィルタ)50の機能をもたせ、第2導波管22にBRF(バンドリジェクションフィルタ)60の機能をもたせ、その間を連結する連結管23により、高域減衰特性を与えている。なお、ここでは、第1導波管21にBPF50を形成し、第2導波管22にBRF60を形成していたが、BPF50、BRF60を入れ替えてもよく、また、第1導波管21と第2導波管22のいずれか一方に、BPF50、BRF60の両方を形成してもよい。
【0041】
第1導波管21に設けたBPF50は、
図7および
図8の(a)のG−G線断面図に示しているように、導波路内にその長さ方向に所定間隔uで立てられた2本一組のピン51A、51Bを間隔vで複数組(図では3組)連続して設けて構成されている。
【0042】
また、第2導波管22に設けたBRF60は、
図7および
図8の(b)のH−H線断面図に示しているように、導波路の長辺側の上下の内壁にそれぞれの深さq1、q2、幅wで設けた溝61A、61Bを、間隔rで複数組(図では2組)連続して設けて構成されている。
【0043】
この場合、溝61A、61Bの深さq1、q2が阻止周波数の管内波長の1/4となるように設定して、導波路を溝61A、61Bまで伝搬してきた電磁波のうち、溝61A、61Bを深さ方向に往復して逆位相で戻って来た電磁波成分を相殺して、その通過を阻止する。
【0044】
この構造のフィルタで、第1導波管21と第2導波管22の導波路の寸法および連結管23の大きさは前記
図5の実施例と同じとし、BPF50の中心周波数を104GHzとするためにピンの太さ0.15mm、ピン間隔u=2.03mm、段間v=1.0mmとし、3段目のピン51Bから連結管23までの距離J1を2.0mm、連結管23から初段の溝61Aまでの距離J2を3.0mm、BRF60の阻止周波数を150GHzとするために、溝間隔r=0.3mm、溝幅w0.2mm、溝の深さq1=0.286mm、q2=0.232mmとして、透過率S21を求めた結果を
図9、
図10に示す。
【0045】
図9は、周波数70〜1000GHzまでの全体特性であり、
図10は、
図9の周波数100〜108GHzの範囲を拡大して示したものである。
【0046】
図9から明らかなように、リップルはあるものの、150GHz〜1000GHzの広い帯域にわたって高域程減衰量が大きくなる高域減衰特性が得られている。この特性は前記した連結管23の効果である。
【0047】
また、
図10から、BPF50の設計通過中心周波数104GHzの両側±1GHzから±4GHzの範囲で減衰量30dB以上の狭帯域特性が得られ、BRF60によって150GHzの帯域が減衰された狭帯域信号抽出用のフィルタとして、極めて優秀な特性が得られていることがわかる。
【0048】
次に、
図1、
図2に示した基本構造のミリ波帯フィルタ20で、連結管23の口径や長さを可変したときの透過率S21を求めたシミュレーション結果について説明する。
【0049】
図11は、連結管23の長さa3=0.2mm、口径幅d=1.6mで口径高さb3を1.016mm、0.5mm、0.2mmに変化させたときの透過率S21の結果であり、口径高さb3が小さくなる程リップが大きくなる傾向を示すが、全体的な高域減衰特性(包絡線)をみると顕著な差はないことがわかる。
【0050】
また、
図12は、連結管23の口径幅1.6mm、口径高さ1.016mmで、長さa3を、0.2mm、0.5mm、1.0mmに変化させたときの透過率S21の結果であり、連結管23の長さa3が長くなる程リップルが大きくなる傾向を示すが、やはり全体的な高域減衰特性をみると顕著な差はないことがわかる。
【0051】
一方、
図13は、連結管23の長さa3=0.2mm、口径高さ1.016mmで、口径幅dを1.6mm、1.0mm、0.5mmに変化させたときの透過率S21の結果であり、口径幅dが小さくなる程、リップルが大きくなり、しかも全体的にみた高域減衰量も大きくなる傾向を示している。
【0052】
前記
図4の特性は、リップルの少ない特性を優先した
図13の口径幅1.6mmの例であったが、要求される高域減衰量がより大きい場合には、口径幅dを1.6mmより小さくすればよく、つまり、要求されるリップルや高域減衰量に応じて口径幅を選択すればよいことがわかる。
【0053】
なお、
図7、
図8に示したように第1導波管21と第2導波管22の導波路の中間部を連結管23で連結したミリ波帯フィルタにBPF50やBRF60を設ける構造は、
図1に示した基本構造のミリ波帯フィルタにも採用できる。
【0054】
また、上記各実施形態では、その構造が理解しやすいように、第1導波管21、第2導波管22および連結管23の外形を一般的に導波管の形状として知られた角筒状で示しているが、機能的には電磁波を伝搬するための内部の導波路が主要部であり、その導波路を形成する金属壁の厚さは任意で、ミリ波帯フィルタとしての全体の外形は上記実施形態に限定されない。例えば、上記した導波路の連結構造を有するミリ波帯フィルタを、上下に重ね合わされて固定される2つの板状の金属ブロックで構成し、下側の金属ブロックの上面側に、第1導波管21、第2導波管22および連結管23の各導波路をその上面側が開口された状態で切削形成し、これに上側の金属ブロックを重ねて固定することで、各導波路の開口された上面側を閉じて外周が閉鎖された導波路とする構造であってもよい。この場合、二つの金属ブロックの外形は、各導波路の形成に必要な広さ以上であれば任意であり、クランク状以外に、矩形、円形、多角形などであってもよい。
【符号の説明】
【0055】
20……ミリ波帯フィルタ、21、22……導波管、23……連結管、50……BPF、51A、51B……ピン、60……BRF、61A、61B……溝