(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
ループドメインを含むタンパク質スカフォールドであって、前記スカフォールドは、配列番号16の共通アミノ酸配列に基づくアミノ酸配列を有し、配列番号16の1つ以上の特定の残基が置換され、配列番号16のアミノ酸配列を有するタンパク質スカフォールドの融解温度(Tm)及び化学安定性と比べて前記タンパク質スカフォールドの融解温度(Tm)及び化学安定性が増強されたものであり、配列番号16の置換が、N46V、E14P、L17A、E86I、N46VとE86Iとの組み合わせ、E14PとN46VとE86Iとの組み合わせ、及びL17AとN46VとE86Iとの組み合わせからなる群から選択されるものである、タンパク質スカフォールド。
前記融解温度(Tm)が示差走査熱量計によって測定され、前記化学安定性が塩化グアニジニウム変性に対する抵抗性により[D]として測定され、前記Tmが、配列番号16のアミノ酸配列を有する前記タンパク質スカフォールドと比べて、約1Kcal〜約12Kcal増加する、請求項1に記載のタンパク質スカフォールド。
標的タンパク質と接触するループ領域を含み、前記ループ領域が、配列番号16、142、143及び147〜151からなる群から選択されるアミノ酸配列の残基13、15及び16、22〜28、38〜43、51〜54、60〜64、及び75〜81からなる群から選択される1つ以上の位置に変異を含む、請求項1に記載のタンパク質スカフォールド。
ポリペプチド変異体を製造するためにランダム化コドンを導入するフィブロネクチン3型ドメインの安定性が強化された共通配列に由来するスカフォールドベースタンパク質のライブラリーの構築方法であって、
フィブロネクチン3型ドメインの安定性が強化された共通配列を含むポリペプチドをコードするポリヌクレオチド配列を提供するステップであって、前記安定性が強化された共通配列が配列番号142〜144及び147〜151からなる群から選択されるものである、ステップと、
ランダム化コドンを、少なくとも1つのループ領域をコードする位置において前記ポリヌクレオチド配列に導入するステップと、
変異スカフォールドタンパク質をコードするポリヌクレオチドのライブラリーを形成するために、ポリヌクレオチド配列のコピーを増幅するステップと、を含む方法。
前記ランダム化コドンが、配列番号142〜144及び147〜151の残基13〜16、22〜28、38〜43、51〜54、60〜64、及び75〜81の位置の残基からなる群から選択される少なくとも1つのループ領域をコードする位置に導入される、請求項7に記載の方法。
【発明を実施するための形態】
【0014】
略語
ADCC=抗体依存性の細胞傷害性;CDC=補体依存性の細胞毒性;DSC=示差走査熱量計;ΔG=ギブス自由エネルギー;IgG=免疫グロブリンG;Tm=融解温度;
【0015】
用語の定義&説明
用語「抗体」又は「抗体部分」は、抗体、その消化断片、特定部分及び変異型を含むことを意図し、これには抗体模倣薬が非限定的に挙げられ、又は抗体の構造及び/若しくは機能を模倣する抗体の部分又はその特定断片若しくは一部を含み、単鎖抗体、単一ドメイン抗体、小体、及びその断片が非限定的に挙げられる。機能的断片は、関心対象の標的抗原に結合する、抗原結合断片を含む。例えば、Fab(例えば、パパイン消化による)、Fab’(例えば、ペプシン消化及び部分的還元による)、及びF(ab’)
2(例えば、ペプシン消化による)、facb(例えば、プラスミン消化による)、pFc’(例えば、ペプシン又はプラスミン消化による)、Fd(例えば、ペプシン消化、部分的還元、及び再集合による)、Fv又はscFv(例えば、分子生物学的技術による)断片が挙げられるが、これらに限定されない、標的抗原又はその一部に結合できる抗体断片が、用語「抗体」に含まれる。抗体又は断片は、非限定的に、ヒト、マウス、ウサギ、ラット、げっ歯類、霊長類、ラクダ類、ヤギ、又はそれらの任意の組み合わせ等に由来することができ、また、単離したヒト、霊長類、げっ歯類、哺乳類、キメラ、ヒト化、及び/又はCDR移植等の抗体、免疫グロブリン、開裂産物及び他の指定部分、並びにそれらの変異を含む。
【0016】
用語「エピトープ」は、抗体又はスカフォールドベースタンパク質の1つ以上のループなどの改変結合ドメインに対して特異的に結合することができるタンパク質決定基を意味する。エピトープは通常、アミノ酸又は糖側鎖などの化学的に活性な分子表面基で構成されており、通常、特定の3次元構造特性並びに特定の電荷特性を有する。構造的及び非構造的エピトープは、後者ではなく前者に対する結合が、変性溶媒の存在下で損失するという点で区別される。立体構造エピトープは、標的分子の線形配列の様々な部分からのアミノ酸が、3次元空間内でごく近接して集まるときに発生する、標的分子の立体構造的折り畳みの結果もたらされる。かかる構造的エピトープは、典型的には、原形質膜の細胞外側上で分散される。
【0017】
本明細書で使用されるところの「Fc」、「Fc含有タンパク質」、又は「Fc含有分子」という用語は、少なくとも免疫グロブリンCH2及びCH3ドメインを有する、単量体、二量体、又はヘテロ二量体タンパク質を意味する。CH2及びCH3ドメインは、タンパク質/分子(例えば、抗体)の二量体領域の少なくとも一部を形成することができる。
【0018】
本明細書で用いられる「安定性」という用語は、正常な機能活性(例えば、サイトカイン又は血清タンパク質などの標的分子に対する結合など)の少なくとも1つを維持するように、生理学的条件下で折り畳み状態を維持する分子の能力を指す。タンパク質安定性及びタンパク質不安定性の測定は、タンパク質完全性の同じ又は異なる態様として見ることができる。タンパク質は、熱、紫外線又は電離放射線、溶液中の場合には周囲の浸透圧モル濃度及びpHの変化、小さな孔寸法での濾過、紫外線放射、γ線照射によるなどの電離放射線、化学的又は熱脱水、あるいはタンパク質構造の破壊を引き起こす可能性のあるその他の任意の作用又は力によって引き起こされる変性に対して感受性がある、つまり「不安定」である。分子の安定性は、標準方法を用いて決定することができる。例えば、分子の安定性は、熱融解(「TM」)温度を測定することにより決定することができる。TMは、分子の半分が非折畳み状態になる温度(℃)である。典型的には、TMが高いほど、分子はより安定している。熱に加えて、化学環境もまた、タンパク質が特有の三次元構造を維持する能力を変化させる。
【0019】
化学変性も同様に、様々な方法によって測定することができる。化学的変性剤は、例えば水素結合、静電結合、ファン・デル・ワールス力、疎水性相互作用、又はジスルフィド結合などの、タンパク質内の非共有相互作用及び共有結合を破壊することで知られた薬剤である。化学的変性剤としては、グアニジン塩酸塩、チオシアン酸グアニジニウム、尿素、アセトン、有機溶媒(DMF、ベンゼン、アセトニトリル)、塩類(硫酸アンモニウム、臭化リチウム、塩化リチウム、臭化ナトリウム、塩化カルシウム、塩化ナトリウム)、還元剤(例えば、ジチオスレイトール、βメルカプトエタノール、ジニトロチオベンゼン(dinitrothiobenzene)、及び水素化物、例えば水素化ホウ素ナトリウム)、非イオン性及びイオン性洗剤、酸類(例えば、塩酸(HCl)、酢酸(CH
3COOH)、ハロゲン化酢酸)、疎水性分子(例えば、リン脂肪酸)、及び標的変性剤(Jain R.K and Hamilton A.D.,Angew.Chem.114(4),2002)が挙げられる。変性の範囲の定量化は、標的分子に結合する能力などの機能特性の消失、あるいは凝集する、これまで溶媒が到達しにくかった残基が露出する、又はジスルフィド結合が破壊又は形成する傾向などの生理化学的性質による消失に依存し得る。
【0020】
安定性の消失に関しては、即ち、タンパク質が「変性する」又はタンパク質の「変性」とは、タンパク質の機能特性を付与する三次元コンフォメーションのいくつか又は全てが、活性及び/又は溶解度の不随損失と共に消失する過程を意味する。変性中に破壊される力としては、静電力、疎水性力、ファン・デル・ワールス力、水素結合、及びジスルフィドなどであるがこれらに限定されない分子内結合が挙げられる。タンパク質の変性は、タンパク質又はタンパク質を含む溶液に加えられる力、例えば、機械力(例えば、圧縮力又は剪断力)、熱応力、浸透ストレス、pH、電界又は磁界の変化、電離放射線、紫外線放射及び脱水など、及び化学的変性剤によって引き起こされ得る。
【0021】
本明細書で用いられる「治療上有効な」処置又は量とは、疾患又はその症状の原因の検出可能な緩和又は改善を引き起こすのに十分な分量の量を指す。「改善する」とは、治療を受ける患者の疾患の有害な影響の緩和を指す。本発明の被験者は好ましくはヒトであるが、有害な状態、疾患、又は疾病の治療が必要な任意の動物を、その目的のために設計されたスカフォールドベースタンパク質で治療することができることを想定し得る。
【0022】
概論
本発明は、フィブロネクチン3型(FN3)繰り返し体タンパク質の共通配列に基づく、哺乳類由来スカフォールドを非限定的に含む、単離された組み換え及び/又は合成タンパク質スカフォールド、並びに組成物、及び共通FN3配列に基づくタンパク質スカフォールドをコードする少なくとも1つのポリヌクレオチドを含むコード化核酸分子を提供する。本発明は、例えば発見プラットホームとして、また診断用組成物、治療用組成物、方法及びデバイスを目的として、このような核酸及びタンパク質スカフォールドを製造しかつ使用する方法を非限定的に含む。
【0023】
本発明のタンパク質スカフォールドは、小さくて小型であるため、より広範な免疫グロブリンに基づく生物学的療法剤に利点を提供する。特に、生体分子の寸法及び形状は、局所的に、経口で、又は血液脳関門を横断して投与される能力;大腸菌などの低コスト系で発現される能力;複数の標的又は同じ標的の複数のエピトープに結合する二重特異的又は特異的な分子に改変される能力;結合に対する適合性、即ち、活性物質、ポリマー、及びプローブに対する適合性;高濃度に調製される能力;及びかかる分子が病変組織及び腫瘍に効果的に浸透する能力、に影響を与え得る。
【0024】
更に、タンパク質スカフォールドは、抗体の可変領域を模倣するフォールドとの関連で、抗体の特性の多くを有する。この方法により、抗体の相補性決定領域(CDR)に類似するFN3ループを露出できるようにする。これらは細胞内標的に結合できるはずであり、このループを変化させ、例えば、親和性成熟し、特定の結合特性又は関連する特性を改善することができる。
【0025】
本発明のタンパク質スカフォールドの6つのループのうちの3つは、性質上超可変であることが分かっている可変ドメインのループに位置する抗体の結合ドメインに位相的に対応し(Kabatにより抗体の相補性決定領域(CDR)、即ち、抗原結合領域の残基と定義される位置の超可変ドメインループ(HVL))、残りの3つのループは、抗体CDRと同様の方法で露出される表面である。これらのループは、以下の表3及び
図6に示すように、配列番号16の残基13〜16、22〜28、38〜43、51〜54、60〜64、及び75〜81又はその付近に及ぶ又は位置する。好ましくは、残基22〜28、51〜54、及び75〜81又はその付近のループ領域を、結合特異性及び親和性のために変化させる。1つ以上のこれらループ領域を、他のループ領域及び/又はストランドとしてその配列を維持する他のストランドとランダム化してライブラリーに配置し、特定のタンパク質標的に高い親和性を有するライブラリーから、有効なバインダーを選択することができる。タンパク質との抗体CDRの相互作用と同様に、1つ以上のループ領域は標的タンパク質と相互作用することができる。
【0026】
本発明のスカフォールドは、例えば、共有結合性相互作用を介して、他のサブユニットを組み入れることができる。抗体定常領域の全て又は一部は、スカフォールドに付着して、抗体様特性、特に、例えば、補体活性(ADCC)、半減期などのFc領域に関連する抗体様特性を付与することができる。例えば、エフェクター機能は、例えば、C1q結合及び/又はFcγR結合を改変し、それによってCDC活性及び/又はADCC活性を変えることにより提供及び/又は制御されることができる。「エフェクター機能」は、(例えば、被験体における)生物活性を活性化又は低減させる役割を果たす。エフェクター機能の例としては、C1q結合;補体依存性細胞傷害(CDC);Fc受容体結合;抗体依存性細胞媒介細胞毒性(ADCC);食作用;細胞の表面にある受容体の下方制御(例えば、B細胞受容体;BCR)等が挙げられるが、これらに限定されない。このようなエフェクター機能は、結合ドメイン(例えば、タンパク質スカフォールドループ)と結合するFc領域を必要とする場合があり、様々な試験法(例えば、Fc結合アッセイ、ADCCアッセイ、CDCアッセイなど)を用いて評価することができる。
【0027】
追加部分は、スカフォールドベースポリペプチドに付加又は関連付けられてもよく、所望の特性のため、毒素複合体、アルブミン又はアルブミンバインダー、ポリエチレングリコール(PEG)分子などの変異型をスカフォールド分子に結合してよい。これらの部分は、スカフォールドのコード配列とインラインで融合してもよく、標準的な手法、例えば、公表されているコードヌクレオチド配列を用いて構成された組み換え融合コード化ベクターによる融合タンパク質の発現により作成されてもよい。あるいは、化学的手法を用いて、該部分を組み換えにより作り出されたスカフォールドベースタンパク質に結合してもよい。
【0028】
本発明のスカフォールドは、単量体型で単一特異的に、又は、多量体型で二重特異的若しくは多特異的(異なる標的タンパク質又は同一の標的タンパク質上のエピトープに対して)に使用できる。各スカフォールドユニット間の結合は、共有結合であるか又は非共有結合であってもよい。例えば、二量体の二重特異的スカフォールドは、第1標的タンパク質又はエピトープに対して特異性を有する1つのサブユニット、かつ第2標的タンパク質又はエピトープに対して特異性を有する2つ目のサブユニットを有する。スカフォールドサブユニットは、結合価、つまり抗原の結合活性を増加することができる、様々な立体構造で連結してよい。
【0029】
スカフォールドタンパク質の産生及び作製
本発明の少なくとも1つのスカフォールドタンパク質は、所望により、当該技術分野において周知の細胞株、混合細胞株、不死化細胞又は不死化細胞のクローン集団によって産生することができる。例えば、Ausubel,et al.,ed.,Current Protocols in Molecular Biology,John Wiley & Sons,Inc.,NY,NY(1987〜2001);Sambrook,et al.,Molecular Cloning:A Laboratory Manual,2
nd Edition,Cold Spring Harbor,NY(1989);Harlow and Lane,Antibodies,a Laboratory Manual,Cold Spring Harbor,NY(1989);Colligan,etal.,eds.,Current Protocols in Immunology,John Wiley & Sons,Inc.,NY(1994〜2001);Colligan et al.,Current Protocols in Protein Science,John Wiley & Sons,NY,NY,(1997〜2001)を参照されたい。
【0030】
当該技術分野において既知のように、スカフォールドタンパク質から、アミノ酸を変更、付加、及び/又は欠失して、免疫原性を低減する、又は結合、親和性、会合速度、解離速度、結合活性、特異性、半減期、安定性、溶解度、若しくは任意のその他好適な特性を低減、増強、若しくは変化させることができる。
【0031】
生理活性スカフォールドベースタンパク質を、抗原に対する高い親和性及びその他の好適な生物学的特性を伴うように設計することができる。この目的を達成するため、スカフォールドタンパク質を、所望により親配列及び改変配列の三次元モデルを使用して、親配列及び様々な概念的改変産物の分析プロセスによって調製することができる。三次元モデルが一般的に利用可能であり、当業者によく知られている。選択された候補配列の考えられる三次元立体構造を図示し表示するコンピュータプログラムが使用可能であり、潜在的な免疫原性を計測することができる(例えば、Xencor,Inc.(Monrovia,CA)のImmunofilterプログラム)。これらの表示を調べることにより、候補配列の機能における残基の役割として可能性の高いものの分析、すなわち、候補のスカフォールドタンパク質が、その抗原に結合する能力に影響を及ぼす残基の分析が可能となる。このようにして、標的抗原に対する親和性などの望ましい特性が達成されるように、親配列及び参照配列から残基を選択し組み合わせることができる。上記手順の別の方法として、又はそれに加えて、その他好適な改変方法を使用できる。
【0032】
スクリーニング
類似するタンパク質又は断片に特異的に結合する変化に富んだ残基又はドメインを有するスカフォールドベースタンパク質を含む改変スカフォールドベースタンパク質又はライブラリーのスクリーニングを、ヌクレオチド(DNA若しくはRNAディスプレイ)又はペプチドディスプレイライブラリー、例えば、インビトロディスプレイを用いて便利に達成することができる。この方法は、望ましい機能又は構造をもつ個々のメンバーについてペプチドの大規模コレクションをスクリーニングすることを含む。ヌクレオチド配列を有する又は有さない表示されるペプチドの長さは、3〜5000個又はそれ以上のヌクレオチド又はアミノ酸、しばしば5〜100個のアミノ酸、更にしばしば約8〜25個のアミノ酸であり得る。ペプチドライブラリーを作成するための直接的な化学合成方法に加えて、複数の組換えDNA法も記述されている。1つのタイプには、バクテリオファージ又は細胞の、表面上のペプチド配列のディスプレイが関与している。各バクテリオファージ又は細胞は、特定のディスプレイされたペプチド配列をコードするヌクレオチド配列を含有する。
【0033】
本発明のタンパク質スカフォールドは、ヒト又はその他哺乳類のタンパク質に、広範な親和性(K
D)で結合することができる。好ましい実施形態では、少なくとも1つの本発明のタンパク質スカフォールドは、所望により、高い親和性、例えば、当業者により実施されるように、表面プラズモン共鳴又はKinexa法で測定されるとき、K
Dが約10
-7M以下、例えば、以下には限定されないが、0.1〜9.9(又はこのうちの任意の範囲若しくは値)X 10
-8、10
-9、10
-10、10
-11、10
-12、10
-13、10
-14、10
-15又はこのうちの任意の範囲若しくは値で、標的タンパク質に結合することができる。
【0034】
抗原に対する抗体の親和性又は結合活性は、任意の適切な方法を使用して実験的に決定することができる。(例えば、Berzofsky,et al.,「Antibody−Antigen Interactions,」In Fundamental Immunology,Paul,W.E.,Ed.,Raven Press:New York,NY(1984);Kuby,Janis Immunology,W.H.Freeman and Company:New York,NY(1992);及び本明細書に記載の方法を参照のこと。)特定のタンパク質スカフォールド−抗原相互作用の測定される親和性は、異なる条件(例えば、浸透圧モル濃度、pH)下で測定される場合に異なる場合がある。したがって、親和性及びその他抗原結合パラメータ(例えば、K
D、K
on、K
off)の測定は、好ましくは、タンパク質スカフォールド及び抗原の標準化溶液、及び本明細書で記載される緩衝液などの標準化緩衝液を用いて行われる。
【0035】
本発明のタンパク質スカフォールドと標的タンパク質への結合を競合するのは、及び/又はエピトープ領域を共有するのは、どのタンパク質、抗体、及びその他拮抗物質であるのかを確認するため、本発明のタンパク質スカフォールドについて競合アッセイを実施することができる。容易に当業者に知られるように、これらのアッセイは、タンパク質上の限られた結合部位に対する、拮抗物質又はリガンド間の競合を評価する。競合の前後でタンパク質及び/又は抗体を固定化、単離、又は捕捉し、また、例えば、デカント(タンパク質/抗体を予め不溶化した場合)又は遠心分離(競合反応後タンパク質/抗体を沈殿させた場合)により、標的タンパク質に結合したサンプルを未結合のサンプルから分離する。また、タンパク質スカフォールドの標的タンパク質への結合したこと、又は結合しなかったことにより機能が変わるかどうか、例えば、タンパク質スカフォールド分子が、例えば、ラベルの酵素活性を阻害又は強化するかどうかにより、競合結合を決定してもよい。当該技術分野において周知のような、ELISA及びその他機能性アッセイを使用してよい。
【0036】
核酸分子
本発明のタンパク質スカフォールドをコードする核酸分子は、mRNA、hnRNA、tRNA若しくは任意の他の形態などのRNAの形態、又はクローニングにより得られる若しくは合成的に生成されるcDNA及びゲノムDNAが挙げられるがこれらに限定されないDNAの形態、又はこれらの任意の組み合わせであってよい。DNAは、三本鎖、二本鎖、若しくは一本鎖、又はこれらの任意の組み合わせであってもよい。DNA又はRNAの少なくとも1本の鎖の任意の部分は、センス鎖としても知られるコード鎖であってもよく、又はアンチセンス鎖と呼ばれる、非コード鎖であってもよい。
【0037】
本発明の単離核酸分子には、本明細書に記載のように、及び/又は当該技術分野において既知のように、1つ以上のイントロン(例えば、限定するものではないが、少なくとも1つのタンパク質スカフォールドの少なくとも1つの特定の部位)を任意に有するオープンリーディングフレーム(ORF)を含む核酸分子、標的タンパク質に結合するタンパク質スカフォールド又はループ領域のコード配列を含む核酸分子、及び上述のものとは実質的に異なるヌクレオチド配列を含むが、遺伝コードの縮重に起因して、タンパク質スカフォールドを依然としてコードする核酸分子を含むことができる。当然のことながら、遺伝子コードは、当該技術分野においてよく知られている。したがって、当業者には、本発明の特異的なタンパク質スカフォールドをコードする、これらの変性核酸変異体を作成することは、日常的であるであろう。例えば上記のオースベル(Ausubel)らを参照されたく、かかる核酸変異体は、本発明に含まれる。
【0038】
本明細書に記されているように、タンパク質スカフォールドをコードする核酸を含む本発明の核酸分子には、単独でタンパク質スカフォールド断片のアミノ酸配列をコードするもの、全タンパク質スカフォールド又はその一部分についてのコード配列、タンパク質スカフォールド、断片又は一部分についてのコード配列、並びに付加的配列、例えばスプライシング及びポリアデニル化シグナルを含む、転写、mRNAプロセシングにおいて役割を果たす転写された非翻訳配列(例えば、リボソーム結合及びmRNAの安定性)といった非コード5’及び3’配列を含むが、これらに限定されない、付加的な非コード配列を伴う、少なくとも1つのイントロンなどの、前述の付加的なコード配列を伴うか否かを問わない、少なくとも1つのシグナルリーダー又は融合ペプチドのコード配列、付加的なアミノ酸(例えば付加的な機能を提供するものなど)をコードする付加的なコード配列、を含んでよいが、これらに限定されない。したがって、タンパク質スカフォールドをコードする配列は、マーカー配列、例えばタンパク質スカフォールド断片又は一部分を含む融合タンパク質スカフォールドの精製を容易にするペプチドをコードする配列と融合させてよい。
【0039】
核酸分子
本発明はまた、単離したポリヌクレオチドとして、又は原核細胞、真核性、又は繊維状のファージ発現、組成物の分泌及び/又はそれらの定方向突然変異誘発物質又は組成物のディスプレイと適合するベクターを含む発現ベクターの部分として、本発明の組成物をコードする核酸を提供する。
【0040】
本発明の単離核酸は、
(a)組換え方法、(b)合成方法、(c)精製方法、及び/又は、
(d)これらの組み合わせ、を使用して作ることができる。
【0041】
本発明の実施に際して有用なポリヌクレオチドは、本明細書に記載されるタンパク質スカフォールドの機能部分をコードする。本発明のポリヌクレオチドは、本発明のタンパク質スカフォールドをコードするポリヌクレオチドに対する選択的ハイブリダイゼーションのために利用可能な核酸配列を含む。本発明は、本明細書で開示されるポリヌクレオチドに対して、選択的なハイブリダイゼーション条件下で、ハイブリダイズする単離核酸を提供する。したがって、本実施形態のポリヌクレオチドは、このようなポリヌクレオチドを含む核酸を単離、検出、及び/又は定量するために使用することができる。例えば、本発明のポリヌクレオチドを使用して、蓄積されたライブラリーにおける部分又は全長クローンを同定、単離、又は増幅することができる。一部の実施形態においては、ポリヌクレオチドは、単離された、又はそうでなければヒト又は哺乳類核酸ライブラリーからのcDNAに相補的なゲノム配列又はcDNA配列である。
【0042】
核酸は、本発明のポリヌクレオチドに加えて、便利に配列を含むことができる。例えば、1つ以上のエンドヌクレアーゼ制限酵素認識部位を含むマルチクローニングサイトを、核酸に挿入して、ポリヌクレオチドの単離に役立てることができる。また、翻訳可能な配列を挿入して、本発明の翻訳されたポリヌクレオチドの単離に役立てることができる。例えば、ヘキサヒスチジンマーカー配列は、本発明のタンパク質を精製するための便利な手段を提供する。本発明の核酸(コード配列を除く)は、所望により、本発明のポリヌクレオチドのクローニング及び/又は発現のためのベクター、アダプター、又はリンカーである。
【0043】
追加の配列をかかるクローン化及び/又は発現配列に追加して、クローン化及び/又は発現におけるそれらの機能を最適化して、ポリヌクレオチドの単離を助けることができるか、又は細胞へのポリヌクレオチドの導入を改善することができる。クローン化ベクター、発現ベクター、アダプター、及びリンカーの使用は、当該技術分野においてよく知られている。
【0044】
本明細書に記されているように、タンパク質スカフォールドをコードする核酸を含む本発明の核酸分子には、単独でタンパク質スカフォールド断片のアミノ酸配列をコードするもの、全タンパク質スカフォールド又はその一部分についてのコード配列、タンパク質スカフォールド、断片又は一部分についてのコード配列、並びに付加的配列、例えばスプライシング及びポリアデニル化シグナルを含む、転写、mRNAプロセシングにおいて役割を果たす転写された非翻訳配列(例えば、リボソーム結合及びmRNAの安定性)といった非コード5’及び3’配列を含むが、これらに限定されない、付加的な非コード配列を伴う、少なくとも1つのイントロンなどの、前述の付加的なコード配列を伴うか否かを問わない、少なくとも1つのシグナルリーダー又は融合ペプチドのコード配列、付加的なアミノ酸(例えば付加的な機能を提供するものなど)をコードする付加的なコード配列、を含んでよいが、これらに限定されない。したがって、タンパク質スカフォールドをコードする配列は、マーカー配列、例えばタンパク質スカフォールド断片又は一部分を含む融合タンパク質スカフォールドの精製を容易にするペプチドをコードする配列と融合させてよい。
【0045】
ファージ感染細菌などの細菌発現では、好ましい分泌シグナルは、pelB又はompA分泌シグナルであるが、米国特許第5,658,727号に記載のように、他の分泌シグナルポリペプチドドメインを使用してもよい。ファージディスプレイでは、下流の翻訳可能なDNA配列は、糸状ファージ外膜タンパク質、例えば、pIII又はpIXタンパク質をコードする。好ましいファージタンパク質は、糸状ファージM13、f1、fd等、及び同等の糸状ファージから得られる。したがって、下流の翻訳可能なDNA配列は、糸状ファージ遺伝子III又は遺伝子IX外膜ポリペプチドに対応する、及び好ましくはこれと同一であるアミノ酸残基配列をコードする。かかる外膜タンパク質の配列は既知であり、NCBIなどの公開データベースで入手することができる。
【0046】
本明細書で開示されているような、本発明のポリヌクレオチドの配列に基づいたプローブを用いて、cDNA又はゲノムライブラリーをスクリーニングすることができる。同じ又は異なるインビボの相同遺伝子を単離するため、ゲノムDNA又はcDNA配列とハイブリッド形成するためにプローブを使用することができる。当業者であれば、アッセイ中でさまざまな度合のハイブリダイゼーションストリンジェンシーを用いることができ、ハイブリダイゼーション又は洗浄培地のいずれかがストリンジェントであり得るということは明らかだろう。ハイブリダイゼーションのための条件がストリンジェントになるにつれて、二重鎖形成が生じるための、プローブと標的の間に必要な相補性の程度は大きくなる。ストリンジェンシーの程度は、温度、イオン強度、pH、及びホルムアミドなどの部分的変性溶媒の存在のうちの、1つ以上によって制御することができる。例えば、ハイブリダイゼーションのストリンジェンシーは、例えば0%〜50%の範囲内のホルムアミド濃度の操作を通して反応溶液の極性を変えることにより都合良く変更される。検出可能な結合のために必要な相補性(配列同一性)の程度は、ハイブリダイゼーション媒質及び/又は洗浄媒質のストリンジェンシーに応じて変化する。相補の程度は、最適には100%、又は70〜100%、又はその中の任意の範囲若しくは値である。しかしながら、プローブ及びプライマー内のわずかな配列変動は、ハイブリダイゼーション及び/又は洗浄培地のストリンジェンシーを低減させることで補償できるということを理解すべきである。
【0047】
本本発明の一態様において、ポリヌクレオチドは、1つ以上特定の残基の得られたポリペプチドを多様化する、又は配列内の特定の位置に残基を加えるために、ランダム化コドンを導入する技術を用いて構築される。ランダム法、反合理的な方法、及び合理的な方法などの様々な戦略を用いて、変化したポリペプチド配列のライブラリーを作製することができる。合理的及び半合理的な方法は、コード配列に導入された変化の影響をより正確に制御するという点で、ランダム戦略に勝る利点を有する。加えて、遺伝子の特定領域の変異に集中することにより、考えられるあらゆる全てのアミノ酸変異型を、選択した位置で調査することができる。
【0048】
共通のNNK又はNNS多様化スキームで構築されたライブラリーは、全ての位置及びアミノ酸20個全てにおいて32の異なるコドンを導入する。かかるライブラリーは、理論上は、残基の数n毎に32n増加する。しかしながら、実質的に、ファージディスプレイは、10
9〜10
10の変異型のサンプリングライブラリーに制限され、そのライブラリーに完全な配列を収録しようとする場合、これは、6〜7個の残基のみを標的にできることを意味する。したがって、多様化されるべき主要な位置を特定し、それに沿って多様化計画を選択することによって、スカフォールド変異型のライブラリーを作製する半合理的な又は「集中的な」方法を適用することができる。「コドンセット」は、所望される変異アミノ酸をコードするために使用される様々なヌクレオチドトリプレット配列の1つのセットを指す。コドン表示の標準的な形態はIUBコードのコドン表示であり、これは当該分野で公知であり、本明細書中に記載される。「無作為ではないコドンセット」は、選択されたアミノ酸をコードするコドンセットを指す。特定の位置に選択されたヌクレオチド「縮重」を有するオリゴヌクレオチドの合成は当該分野で周知であり、例えば、TRIM手法が知られている(Knappek et al.;J.Mol.(1999),296:57〜86);Garrard & Henner,Gene(1993),128:103)。特定のコドンセットを有しているヌクレオチドのそのようなセットは、市販されているヌクレオチド又はヌクレオシド試薬、及び装置を使用して合成することができる。
【0049】
コドンセットは、所望の変異アミノ酸をコードするのに使用する様々なヌクレオチドトリプレット配列のセットである。コドンセットは、IUBコードに従って以下に示されるような、特定のヌクレオチド又はヌクレオチドの等モル混合物を表す記号を使用して表わされることができる。
【0050】
IUBコード
G:グアニン
A:アデニン
T:チミン
C:シトシン
R(A又はG)
Y(C又はT)
M(A又はC)
K(G又はT)
S(C又はG)
W(A又はT)
H(A又はC又はT)
B(C又はG又はT)
V(A又はC又はG)
D(A又はG又はT)
N(A又はC又はG又はT)
【0051】
例えば、コドンセットDVKにおいて、DはヌクレオチドA又はG又はTであり得、VはA又はC又はGであり得、KはG又はTであり得る。このコドンセットは、18の異なるコドンを表し、アミノ酸Ala、Trp、Tyr、Lys、Thr、Asn、Lys、Ser、Arg、Asp、Glu、Gly、及びCysをコードすることができる。
【0052】
集中された(例えば、無作為ではない)ライブラリーは、NNKコドンを使用し、かつ選択された残基の変異(varigation)に集中することによって作成されることができ、あるいは、無作為ではない置換を有する変異型は、例えば、11個のアミノ酸(ACDEGKNRSYW)をコードするDVKコドン及び1つの終止コドンを使用して作成されることができる。あるいは、クンケル型変異誘発を用いて、ポリペプチドの所望の残基又は領域を多様化することができる(Kunkel et al.,Methods Enzymol.154:367〜382,1987)。
【0053】
標準のクローニング法を用いて、ライブラリーをベクターにクローニングして発現させる。ライブラリーは、既知のシステムを用いて発現させることができ、例えば、融合タンパク質としてそのライブラリーを発現することができる。融合タンパク質は、任意の好適なファージの表面にディスプレイすることができる。バクテリオファージの表面上に抗体断片を含む融合ポリペプチドをディスプレイする方法は周知である(米国特許第6,969,108号(Griffith)、米国特許第6,172,197号(McCafferty)、米国特許第5,223,409号(Ladner)、米国特許第6,582,915号(Griffiths)、米国特許第6472147号(Janda))。新規ポリペプチドの単離のためのライブラリーは、pIX上にディスプレイされ得る(WO2009085462A1)。該ライブラリーは、例えば、リボソームディスプレイ(Hanes and Pluckthun,Proc.Natl.Acad.Scie.Acad.Scie.USA,94:4937,1997)、mRNAディスプレイ(Roberts and Szostak,Proc.Natl.Acad.Sci.USA,94:12297,1997)、CISディスプレイ(Odegrip et.al.,Proc.Natl.Acad.Sci.USA,101:2806,2004)、又は他の無細胞系(US 5,643,768 to Kawasaki)を用いてインビトロで翻訳することもできる。
【0054】
多様化領域を有するライブラリーは、Tencon配列(配列番号16)をコードするポリヌクレオチド又はその所定の突然変異体を含むベクターを用いて作成され得る。鋳型構築物は、プロモーターとポリペプチド鎖のシグナル配列とを有し得る。スカフォールドライブラリーを作製するために、スカフォールドのループ領域(A:B、B:C、C:D、D:E、E:F、及びF:G)をコードしたオリゴヌクレオチドを用いた突然変異誘発反応を用いる。全ての選択された位置のランダム化スキームへの導入を確実にするために、多様化されることが意図されるのが望ましい各領域に、終止コドン(例えばTAA)を組み込むことができる。終止コドンが置換されたクローンのみが生じる。
【0055】
修飾されたスカフォールドポリペプチド
本発明の修飾されたタンパク質スカフォールド及び断片は、直接的又は間接的に別のタンパク質に共有結合される1つ以上の部分を含むことができる。
【0056】
ペプチド残基を付加する、又はインラインで融合タンパク質を作成する場合、かかる残基の付加は、本明細書に記載のようなポリヌクレオチド配列の組み換え技術によって行われてもよい。付加、結合又は共役ペプチド、タンパク質、有機化学薬品、無機化学薬品、若しくは原子、又はそれらの任意の組み合わせの場合、本発明のタンパク質のスカフォールド又は断片に結合する付加部分は、典型的には、ペプチド結合以外のものによる。修飾された本発明のタンパク質スカフォールドは、タンパク質のスカフォールド又は断片を改変剤と反応させることにより製造することができる。例えば、有機部分は、アミン反応性改変剤、例えば、PEGのNHSエステルを利用することによって、非部位特異的方式でタンパク質スカフォールドに結合させることができる。本発明のタンパク質スカフォールドの特定の部位に結合された有機部分を含む修飾されたタンパク質スカフォールド及び断片は、逆タンパク質分解などの好適な方法を用いて調製され得る(Fisch et al.,Bioconjugate Chem.,3:147〜153(1992);Werlen et al.,Bioconjugate Chem.,5:411〜417(1994);Kumaran et al.,Protein Sci.6(10):2233〜2241(1997);Itoh et al.,Bioorg.Chem.,24(1):59〜68(1996);Capellas et al.,Biotechnol.Bioeng.,56(4):456〜463(1997)),and the methods described in Hermanson,G.T.,Bioconjugate Techniques,Academic Press:San Diego,CA(1996)。
【0057】
スカフォールドタンパク質にポリマー又は鎖が結合される場合、ポリマー又は鎖は、独立して、親水性ポリマー基、脂肪酸基、又は脂肪酸エステル基であり得る。本明細書で使用されるところの「脂肪酸」という用語は、モノカルボン酸及びジカルボン酸を包含する。本明細書で使用されるところの「親水性ポリマー基」という用語は、オクタンよりも水への可溶性の高い有機ポリマーを意味する。例えばポリリシンは、オクタンに対するよりも水に対する溶解度が高い。そのため、ポリリシンを共有結合することによって修飾されたタンパク質スカフォールドは、本発明に含まれる。本発明のタンパク質スカフォールドを修飾するのに適した親水性ポリマーは、直鎖又は分枝であることができ、例えば、ポリアルカングリコール(例えば、PEG、モノメトキシ−ポリエチレングリコール(mPEG)、PPG等)、炭水化物(例えば、デキストラン、セルロース、オリゴ糖、多糖類等)、親水性アミノ酸のポリマー(例えば、ポリリシン、ポリアルギニン、ポリアスパルテート等)、ポリアルカンオキシド(例えば、ポリエチレンオキシド、ポリプロピレンオキシド等)及びポリビニルピロリドンを挙げることができる。好ましくは、本発明のタンパク質スカフォールドを修飾する親水性ポリマーは、個別の化合物として、約800〜約150,000ダルトンの分子量を有する。例えば、PEG
5000及びPEG
20,000を使用することができ、下付き文字は、ポリマーの平均分子量(ダルトン)である。親水性ポリマー基は、1〜約6アルキル、脂肪酸、又は脂肪酸エステル基と置換され得る。脂肪酸又は脂肪酸エステル基と置換される親水性ポリマーは、適切な方法を採用することによって調製することができる。例えば、アミン基を含むポリマーを、脂肪酸又は脂肪酸エステルのカルボン酸塩にカップリングさせることができ、脂肪酸又は脂肪酸エステル上の活性化カルボン酸塩(例えばN、N−カルボニルジイミダゾールで活性化されている)をポリマー上のヒドロキシル基にカップリングさせることができる。
【0058】
本発明のタンパク質スカフォールドを修飾するのに好適な脂肪酸及び脂肪酸エステルは飽和状態であってよく、又は1つ以上の不飽和単位を含有してよい。本発明のタンパク質スカフォールドを修飾するために好適な脂肪酸としては、例えば、n−ドデカン酸(C
12、ラウリン酸)、n−テトラデカン酸(C
14、ミリスチン酸)、n−オクタデカン酸(C
18、ステアリン酸)、n−エイコサン酸(C
20、アラキジン酸)、n−ドコサン酸(C
22、ベヘン酸)、n−トリアコンタン酸(C
30)、n−テトラコンタン酸(C
40)、シス−Δ9−オクタデカン酸(C
18、オレイン酸)、全てのシス−Δ5,8,11,14−エイコサテトラエン酸(C
20、アラキドン酸)、オクタンジオン酸、テトラデカンジオン酸、オクタデカンジオン酸、ドコサンジオン酸などが挙げられる。適切な脂肪酸エステルは、直線状又は分岐状の低級アルキル基を含む、ジカルボキシル酸のモノエステルを含む。低級アルキル基は、1〜約12個、好ましくは1〜約6個の炭素原子を含んでよい。
【0059】
Fc含有タンパク質は、いくつかの周知のインビトロアッセイによって、機能性を比較され得る。具体的には、Fcγ受容体のFcγRI、FcγRII、及びFcγRIIIファミリーのメンバー対する親和性が対象となる。これらの測定値は、受容体の組み換え可溶型又は受容体の細胞結合型を使用して形成することができる。更に、FcRnに対する親和性、IgGの延長された循環半減期に応答可能な受容体は、組み換え可溶型FcRnを使用して、例えば、BIAcoreによって測定することができる。ADCCアッセイ及びCDCアッセイ等の細胞ベースの機能性アッセイは、特定の変異型構造の可能な機能性の結果に関する見識を提供する。一実施形態において、ADCCアッセイは、主要なエフェクター細胞であるNK細胞を有するように構成され、それによって、FcγRIIIA受容体上で機能的効果を反映させる。過酸化又は炎症媒介放出等の細胞応答を測定できるように、食作用アッセイを使用して、異なる変異型の免疫エフェクター機能を比較することもできる。インビボモデルも同様に、例えば、抗CD3抗体の変異型を使用して、マウスにおけるT細胞活性を測定する場合に使用することができ、活性は、Fcγ受容体等の特定リガンドを係合するFcドメインに依存する。
【0060】
宿主細胞選択又は宿主細胞工学
本明細書に記載されるように、スカフォールドベースタンパク質の発現に対して選択される宿主細胞は、最終組成物に対する重要な寄与因子であり、存在する場合に、例えば免疫グロブリンCH2ドメインにおいてタンパク質を修飾するオリゴ糖部分の組成物における変異を含むが、これに限定されない。したがって、本発明の1つの態様は、所望の治療用タンパク質を発現する産生細胞の使用及び/又は開発のために適切な、宿主細胞の選択を含む。
【0061】
更に、宿主細胞は、哺乳類起源であってもよく、又はCOS−1、COS−7、HEK293、BHK21、CHO、BSC−1、Hep G2,653、SP2/0、293、HeLa、骨髄腫、リンパ腫、酵母、昆虫若しくは植物細胞、又はそれらの任意の誘導体、不死化細胞、若しくは形質転換細胞から選択され得る。
【0062】
あるいは、別の方法としては、宿主細胞は、ポリペプチドのグリコシル化が不可能である種又は有機体、例えば、原核細胞又は有機体、及び天然又は工学的大腸菌spp、クレブシェラspp、又はシュードモナスsppから選択されてもよい。
【0063】
結合ドメインの選択
ポリペプチド又は融合タンパク質あるいはその成分及びドメインは、そのようなドメイン又は成分のライブラリー、例えば、ファージライブラリーから選択することにより得られてもよい。ファージライブラリーは、免疫化された動物又はヒトのB細胞から抗体ドメインのような、ランダムオリゴヌクレオチドのライブラリー又は目的の配列を含有するポリヌクレオチドのライブラリーを挿入することによって、作成され得る(Smith,G.P.1985.Science 228:1315〜1317)。抗体ファージライブラリーは、1つのファージに重鎖(H)及び軽鎖(L)可変領域対を含有し、単鎖Fv断片又はFab断片の発現を可能にする(Hoogenboom,et al.2000,Immunol.Today 21(8)371〜8)。ファージミドライブラリーの多様性は、後に追加の、望ましい分子特性及びそれらをコードするポリヌクレオチドを生成しその後同定するために、ライブラリーのポリペプチドの特異性を増大及び/又は変更するように操作することができる。
【0064】
抗体可変領域以外を含み得る標的結合成分の他のライブラリーは、リボソームディスプレイ、CISディスプレイ、酵母ディスプレイ、細菌ディスプレイ、及び哺乳類細胞ディスプレイである。リボソームディスプレイは、タンパク質のRNAとの付着を保ちつつ、mRNAをそれらの同属タンパク質へと翻訳する方法である。核酸コード配列は、RT−PCRによって回復される(Mattheakis,L.C.et al.1994.Proc.Natl.Sci.USA 91,9022)。CISディスプレイは、ライブラリーがRepAを有する融合タンパク質として構築される代替インビボデイスプレイ法である。インビトロ翻訳の間、RepAは、RepAが作られたDNAにシスで結合し、遺伝子型と表現型との間の直接結合を提供する(Odegrip et.al.,Proc.Natl.Acad.Sci.USA,101:2806,2004)。酵母ディスプレイは、膜結合αアグルチニン酵母接着受容体の融合タンパク質の構築物aga1及びaga2に基づき、接合型システムの一部である(Broder,et al.1997.Nature Biotechnology,15:553〜7)。細菌ディスプレイは、細胞膜又は細胞壁に関係している、標的と排出された細菌タンパク質との融合に基づく(Chen and Georgiou 2002.Biotechnol Bioeng,79:496〜503)。同様に、哺乳類ディスプレイ系は、ランダム化された配列を含むポリペプチドと分泌された膜アンカータンパク質との間の融合タンパク質の形成に基づく。
【0065】
スカフォールドベースの分子の用途
本明細書に記載され、上述の方法のいずれかで作成されるスカフォールドベースの分子の組成物は、ヒトの疾病の症状、又は細胞、組織、臓器、体液、若しくは一般には宿主の特定の病変を、診断し、監視し、調節し、治療し、緩和し、発生の防止を助け、又は軽減するために使用され得る。特定の目的のために改変されたスカフォールドベースの分子を使用して、免疫介在疾患又は免疫不全症、代謝性疾患、心臓血管傷害又は疾患;悪性疾患;神経障害又は疾患;細菌感染症、ウイルス感染症又は寄生虫感染症などの感染症;あるいは、腫脹、疼痛、及び組織壊死又は線維症などのその他の既知又は特定の関連疾患、を治療することができる。
【0066】
このような方法は、このような症状の調節、治療、軽減、予防、若しくは低減する効果、又は機序を必要としている細胞、組織、器官、動物又は患者に、少なくとも1つのスカフォールドタンパク質を含む組成物又は医薬組成物を有効量投与することを含み得る。有効量は、本明細書に記載のように、又は関連分野で既知のように、既知の方法を用いて行い決定するとき、単回(例えば、ボーラス)、複数回、若しくは持続投与あたり約0.001〜500mg/kgの量、又は単回、複数回、若しくは持続投与あたり0.01〜5000μg/mLの血清濃度を達成する量、あるいはこの中の任意の有効範囲若しくは値を含んでよい。
【0067】
スカフォールドベースタンパク質を含む組成物
修飾されている又は修飾されていない、一価、二価、又は多価の、単一標的、重標的、多標的である標的結合スカフォールドタンパク質は、捕捉、固定化、分割、又は沈殿のための当該技術分野において周知の分離法を用いて単離され、商業的応用に必要な程度まで精製され得る。
【0068】
治療上の使用目的で、スカフォールドベースのタンパク質は、非経口、皮下、筋肉内、静脈内、関節内、気管支内、腹内、関節包内、軟骨内、洞内、腔内、小脳内、脳室内、結腸内、頚管内、胃内、肝内、心筋内、骨内、骨盤内、心膜内、腹腔内、胸膜内、前立腺内、肺内、直腸内、腎臓内、網膜内、脊髄内、滑液嚢内、胸郭内、子宮内、膀胱内、病巣内、ボーラス、膣内、直腸、口腔内、舌下、鼻腔内、又は経皮手段などであるが、これらに限定されない適切な投与方法に基づいて調製され得る。少なくとも1種のタンパク質スカフォールド組成物は、錠剤又はカプセル;粉末、点鼻薬又はエアゾール;ジェル、軟膏、ローション、懸濁液の形態で使用すために調製されることができ、あるいは、当該技術分野において既知のような治療用包帯又は「貼付剤」送達システムに組み込まれることができる。本発明は、スカフォールドベースのタンパク質の安定な製剤を提供するものであって、好ましくは、水性リン酸緩衝生理食塩水又は混合塩水だけでなく、保存加工された溶液及び製剤、並びに、医薬的用途又は家畜への使用に適した多目的の保存加工された製剤であり、製薬上許容できる製剤には少なくとも1つの少なくとも1つのスカフォールドベースのタンパク質が含まれている。好適な媒体及びその製剤(ヒトタンパク質、例えば、ヒト血清アルブミンを含む)は、例えば、Remington:The Science and Practice of Pharmacy,21
st Edition,Troy,D.B.ed.,Lipincott Williams and Wilkins,Philadelphia,PA 2006,Part 5,Pharmaceutical Manufacturing pp 691〜1092,See especially pp.958〜989に記載されている。
【0069】
該組成物は、単一製剤、又は示された疾患、症状、若しくは疾病の治療に有効であることが知られているその他の活性物質と共に使用されてもよく、又は組み込まれてもよく、あるいは、スカフォールドベースタンパク質と新規組成物及び活性物質との組み合わせを調製することによって試験されてもよい。
【0070】
本発明は一般論として記述されてきているが、本発明の実施形態は、特許請求の範囲を限定するように解釈されるべきではない以下の実施例で更に開示される。
【実施例】
【0071】
実施例1.Fcグリコシル化変異型の構成
Tenconの設計
ヒトテネイシンの第3 FN3ドメイン(配列番号3)を、抗体の相補性決定領域(CDR)に構造的に類似する表面露出ループを介して特定の標的分子に結合するよう改変することができる代替スカフォールドとして使用することができる。天然型のこのドメインの融解温度はPBS中で54℃である。類似構造及び改善された物理学的特性、例えば改善された熱安定性を有するスカフォールド分子を製造するため、ヒトテネイシンの15のFN3ドメイン(配列番号1〜15)の配列比較に基づいて共通配列を設計した。
【0072】
表1に示す重複配列比較解析により、これら15のドメインが13〜80%の範囲で互いに配列同一性を有しており、対間の平均配列同一性が29%であることが示される。共通配列(配列番号16)を、表1に示される配列のそれぞれの位置における最も保存された(高頻度の)アミノ酸を組み入れることにより設計した。対で配列比較すると、Tenconと表わされた本発明の共通配列(配列番号16)は、テネイシンのFN3ドメインに対して34〜59%の位置で同一であり、平均配列同一性は43%である。
【0073】
タンパク質の発現及び精製
Tenconのアミノ酸配列(配列番号16)を逆翻訳すると、配列番号17に示すDNA配列が得られた。この配列をオーバーラッピングPCRにより構築し、修飾されたpET15ベクターにサブクローンし、BL21Star(DE3)大腸菌(Invitrogen)に形質転換し、75μg/mLカルベニシリン含有LB寒天平板上で培養した。コロニーを1つ取り、37℃で、2%グルコース及び100μg/mLカルベニシリンを含有するTB培地50mL中で一晩培養した。この培養液を用いて、2.5L容のUltra Yieldフラスコ(Thomson Instrument Company)中の自己誘導培地(Overnight Express Instant TB media,Novagen)500mLに播種した。増殖及び発現は、ATR Multitron振盪培養機の二重プログラム(37℃、300rpmで3時間、続いて30℃、250rpmで16時間)を用いて行った。
【0074】
培養液を回収し、JL8.1ローターで7000rpm、15分間遠心分離し、細胞を沈殿させた。細胞を、20mMリン酸ナトリウム(pH 7.5)、500mMのNaCl、10%グリセロール、20mMのイミダゾール、0.37mg/mLのリゾチーム、1X Complete Protease inhibitor(EDTA−フリー、Roche)、及びBenzonase(Sigma−Aldrich、0.25μL/mL最終濃度)を含有する緩衝剤30mLに再懸濁し、Misonix XL2020超音波処理器を用いて、氷上で5分間、パルスモード(5秒オン、30秒オフ)で溶解させた。JA−17ローターで、17,000rpm、30分間遠心分離して、不溶性物質を除去した。
【0075】
Tenconタンパク質を、2段階クロマトグラフィー法で可溶性ライセートから精製した。まず、Ni−NTAアガロースビーズ(Qiagen)2mLをライセートに加え、4℃で1時間にわたって振動台上に置いて、固定化金属アフィニティクロマトグラフィーによりタンパク質を捕捉した。続いて、Poly−Prepカラム(Bio−Rad)に樹脂を充填し、20mMリン酸ナトリウム(pH 7.5)、500mM NaCl、10%グリセロール、及び20mMイミダゾールで洗浄して未結合の物質を除去した。20mMリン酸ナトリウム(pH 7.5)、500mM NaCl、10%グリセロール、及び500mMイミダゾールで樹脂からタンパク質を溶出した。HRP抱合抗His抗体(Immunology Consultants Laboratory)を用いたクマシー染色及びウエスタンブロットの両方により、画分をSDS−PAGEで分析した。所望の画分をプールし、PBS(pH 7.4)に透析した。精製の第2のステップとして、PBSで平衡化したSuperdex−75 HiLoad 16/60カラム(GE Healthcare)にタンパク質をのせた。画分をSDS−PAGEで分析し、Tenconを含む画分をプールし、Centriprep UltraCel YM−3濃縮機(Amicon)を用いて濃縮した。
【0076】
280nmにおけるサンプルの吸光度を測定するBioTekプレートリーダーを用いてタンパク質濃度を決定した。クマシー染色(
図1)、抗His抗体を用いたウエスタンブロット、及びPBSで平衡化したG3000SW−XLカラム(TOSOH Biosciences)を用いたHPLC−SECにより、最終調製物を分析した。SDS−PAGE分析では、Tenconが、単量体タンパク質についての予測質量である10.7kDaに一致して、6kDaと14kDaとの間に泳動することを示す。培養液1Lにつき収率>50mgの精製Tenconタンパク質が得られた。
【0077】
生物物理学的特徴
Tenconの構造及び安定性を、それぞれ円偏光二色性分光法及び示差走査熱量測定法によって特徴づけた。PBS中濃度0.2mg/mLで、20℃において、AVIV分光計でCD測定を実施した。
図8のスペクトルは218nmで最小を示し、設計したとおり、FN3ファミリーに属するタンパク質に予測されるβシート構造が示唆される。溶液のテネイシン第3 FN3ドメイン又はTenconのPBS溶液0.5mg/mLを、N−DSCII熱量計(Applied Thermodynamics)において、35℃から95℃まで、1℃/分の速度で加熱することによりDSCデータを得た。最初に、緩衝剤のみの曲線を差し引き、
図3に示す特性を得た。このデータから、第3 FN3ドメイン及びTenconそれぞれについて、CpCalc(Applied Thermodynamics)ソフトウェアを用い、54℃及び78℃の融解温度が計算された。両ドメインの折り畳み及び変性は、これらの温度で可逆的である。
【0078】
免疫原性解析
ヒトに対するアミノ酸配列の免疫原性をモデリングするコンピュータプログラムを用い、ヒトテネイシンの第3 FN3ドメイン、Tencon、及び種々の治療用抗体(表2に示す)を表すアミノ酸配列の予測される免疫原性を比較した。このプログラムで解析したキメラmAb及びヒトmAb(アダリムマブ)に、続いて寛容限界を適用した(ヒト生殖細胞系にコードされた配列に100%同一である9マーのペプチドを除去する)。寛容限界は、テネイシン又はTenconに適用しなかった。寛容限界は、ヒト生殖細胞系にコードされたmAb配列に対する幅広いT細胞寛容を仮定し、主にCDR及び隣接ドメインにおける新規配列に関する解析に焦点を当てる。
【0079】
解析した配列に由来する9マーペプチドが1つ以上のHLA分子に結合する可能性に基づき、これらの解析では、テネイシン及びTenconの両者において免疫原性リスクが低いことを予測する。スコアは、それぞれのHLA対立遺伝子の保有率に関して重みづけされる。モデルに対するスコアをそれぞれの配列について合計し、それぞれの配列の総合PIR(スコア合計)を示す1つの数字を提供する。この解析結果を表2にまとめる。テネイシンが、一番低い総合スコア(11.9)を有することが示された。テネイシン同様に、Tenconは、本質的に非バインダーで、予測免疫原性リスクが低いアグレトープであるとスコア化された(スコア=13.2)。テネイシン及びTenconの配列は、治療用抗体と比較して有利であるとスコア化された。
【0080】
pIX融合によるM13ファージにおけるTenconのディスプレイ
Tenconのアミノ酸配列をコードする遺伝子を、PCR及び制限消化クローニングによりファージミド発現ベクターpPep9にサブクローニングし、ベクターpTencon−pIXを得た。この系は、C末端がM13 pIXタンパク質のN末端に融合するN末端Myc−タグ化Tenconを発現する(
図4)。Lacプロモーターにより、IPTGがない状態で発現レベルが低く、IPTGの添加後に発現を増加することができる。OmpAシグナル配列をTenconのN末端に追加し、周辺質への効率的な移動を促進した。短いTSGGGGSリンカー(配列番号141)をTenconとpIXとの間に構築し、これらのタンパク質間における立体相互作用を防止した。
【0081】
M13ファージ粒子表面上のディスプレイの確認には、pTencon−pIXでXL1−Blue大腸菌を形質転換し、コロニー1つを用い、アンピシリンが追加されたLB培地5mLに接種した。この培養液を対数期の中間部に達するまで37℃で増殖し、この時点で6
10pfuのVCSM13ヘルパーファージを加え、この培養液を37℃で10分間、振盪せずにインキュベートし、続いて振盪しながら50分間培養した。続いてヘルパーファージで救出した培養液をアンピシリン及びカナマイシンを追加した2YT培地50mLで希釈し、O.D.
600が0.7に達するまで振盪しながら37℃で増殖させ、この時点でIPTGを添加して最終濃度1mMとし、温度を30℃に下げた。16時間後、4000×gで20分間培養液を遠心分離し、上清を回収し、分析用に4℃で保管した。
【0082】
ファージ粒子の抗Myc抗体(Invitrogen)への結合を利用して、M13ファージ表面のMyc−Tencon構築物のディスプレイを確認した。Maxisorpプレートを2.5μg/mLの濃度の抗−Myc又は抗αv抗体(陰性対照)で一晩コーティングし、SuperBlock T20(Pierce)でブロッキングした。上述のファージミド培養液の上清を、PBSで2倍ずつ連続希釈し、コーティングしたプレートのウェルに加えた。1時間後、プレートをTBSTで洗浄し、抗−M13 HRP抗体をそれぞれのウェルに添加し、1時間のインキュベーション後TBSTで洗浄した。Roche BD ELISA POD基質を加え、プレートリーダー(Tecan)で発光を検出した。
図5は、Myc−Tenconファージ粒子が、プレートの抗αv抗体でコーティングしたウェル又は未コーティング対照ウェルには結合しないが、抗−Mycに濃度依存的に結合し、M13ファージ粒子上のMyc−Tenconの特異的ディスプレイが確認されることを示している。
【0083】
更なるファージミドベクターを構築し、コーティングタンパク質pIIIとの融合として、M13ファージ上にTencon及びライブラリーメンバー(実施例2参照)をディスプレイすることができる。この系において、pIX遺伝子は、切断型pIIIをコードする遺伝子と置換される(Bass et al.1990)。
図4に示す系と比較して更なる変化としては、OmpAシグナル配列のDsbAシグナル配列との置換が挙げられるが、これはこの配列を用いる分泌が、安定な代替スカフォールド分子のディスプレイに有用であることが示されているからである(Steiner et al.,2006)。
【0084】
実施例2:Tenconライブラリーの作成
Tencon変異体ライブラリーを所望の複雑度、及び分子内における変異体の相対位置に応じて、様々な方法で作成することができる。Tencon遺伝子全体に点在する変異体を作るには、DNA合成法が好ましい。遺伝子の異なる領域に変異を含有するDNA断片を組み換えるための、制限酵素クローニングも用いることができる。単一のTenconループなど、小さく定められた領域における飽和突然変異誘発は、縮重オリゴヌクレオチド及びオリゴヌクレオチド指定突然変異誘発を用いて導入することができる(Kunkel et al.,1987)。
【0085】
オリゴヌクレオチド指定突然変異誘発を用いてFGループを7つのランダムアミノ酸で置換するよう設計された、Tenconライブラリー(ライブラリーFG7)を構築した。FGループをコードする位置にNNSである21塩基対(bp)の縮重配列、及び隣接する2か所に20〜27bpのTenconコード配列に相補的なヌクレオチド配列をもつように、オリゴヌクレオチド(TconFG7−For−5’pho)を合成した。この設計では、20種全てのアミノ酸をFGループに提示できる。ヌクレオチドレベルにおける計算された多様度は1.3×10
9である。
【0086】
TconFG7−For5’pho:(配列番号18)
GAATACACCGTTTCTATCTACGGTGTTNNSNNSNNSNNSNNSNNSNNSCCGCTGTCTGCGGAATTCAC
【0087】
オリゴヌクレオチド指定突然変異誘発の鋳型である、pDsbA−Tencon−Asc−loop−Myc−pIIIを、TenconのF:Gループをコードする配列を、AscI制限部位を含むステムループ配列で置換することにより構築した。この系では、生じたDNAを形質転換前にAscIで消化することにより、突然変異誘発後の鋳型DNAのバックグラウンドを排除することができる。突然変異誘発において1本鎖DNA鋳型を精製するため、pDsbA−Tencon−Asc−loop−Myc−pIIIをもつ大腸菌CJ236のコロニーを1つ、カルベニシリン(50μg/mL最終濃度)及びクロラムフェニコール(10μg/mL)を含む2YT増殖培地5mLに取った。6時間後、VCSM13ヘルパーファージを最終濃度10
10pfu/mLになるよう加え、振盪せずに10分間インキュベートし、カルベニシリン(10μg/mL)及びウリジン(0.25μg/mL)を含む2YT 150mLに移して200rpmで振盪しながら37℃で一晩インキュベートした。細胞を遠心分離で沈殿させ、上清を回収し、ファージをPEG NaClで沈殿させた。QIAprep Spin M13キット(Qiagen)をメーカーの使用説明書にしたがって用い、この沈殿物から1本鎖DNAを精製した。
【0088】
縮重オリゴヌクレオチドを鋳型にアニーリングするため、5μgの鋳型DNAを、Tris−HCl(50mM、pH7.5)及びMgCl2(10mM)中でオリゴTconFG7−For−5−phoとモル比10:1で混合し、90℃で2分間、60℃で3分間、及び20℃で5分間インキュベートした。アニーリング反応後、ATP(10mM)、dNTP(それぞれの25mM)、DTT(100mM)、T4リガーゼ(7単位)、及びT7 DNAポリメラーゼ(10単位)を反応混合液に加え、14℃で6時間、その後20℃で12時間インキュベートした。生じたDNAをPCR精製キット(Qiagen)を用いて精製し、100μLの水に回収した。ライブラリーDNAを10単位のAscIで4時間消化し、続いてQiagenのPCR精製キットを用いて再度精製した。最終ライブラリーDNAを50μLの水に回収した。次に、生じた2本鎖DNA生成物を、電気穿孔法により大腸菌MC1061F’に形質転換した。
【0089】
形質転換体を20mLのSOC培地に採取し、37℃で1時間回復させた。回復終了時点で、形質転換液の一定分量を連続希釈し、1%グルコースを含有するカルベニシリン(100μg/mL)プレートで培養し、総形質転換体数を評価した。続いて残りのSOC培養液を用い、カルベニシリン及び1%グルコースを含む2xYT培地1Lに播種し、OD
600が0.6に達するまで増殖させた。この培養液100mLにM13ヘルパーファージを10
10/mLになるように播種し、37℃でインキュベート後、遠心分離した。生じた細胞沈殿物をカルベニシリン(100μg/mL)及びカナマイシン(35μg/mL)を含む新しい2xYT培地500mLに再懸濁し、30℃で一晩増殖後遠心分離した。ファージ粒子をPEG/NaClを添加して沈殿させ、−80℃で保管した。
【0090】
第2のライブラリー(BC6/FG7)を設計し、TenconのB:C及びF:Gループ内に同時に多様性を導入した。これを行うため、2つのオリゴヌクレオチド、Tc−BC6−For−5’phos及びPOP149を合成した。順方向オリゴはリン酸化され、B:Cループをコードするそれぞれの位置にNNSコドン18塩基を含み、一方、逆方向オリゴは5’末端でビオチン化され、F:Gループをコードするそれぞれの位置にNNSコドン21塩基を含んだ。両オリゴヌクレオチドとも、変異させられる領域に先行及び後続する領域と同一である2つの18bpヌクレオチド配列で隣接させた(プライマーの詳細は以下を参照)。
【0091】
Tc−BC6−For−5’phos:(配列番号19)
gactctctgcgtctgtcttggNNSNNSNNSNNSNNSNNSTTCGACTCTTTCCTGATCCAGTACC
【0092】
POP 2149:(配列番号20)
GTGAATTCCGCAGACAGCGGSNNSNNSNNSNNSNNSNNSNNAACACCGTAGATAGAAACGGTG
【0093】
ライブラリーを構築するため、オリゴTc−CB6−For5’phos及びPOP2149を用いて100μLのPCR反応を16回実施し、Tencon DNA鋳型を増幅し、このプロセスにおいて、B:C及びF:Gループに同時にNNSコドンを導入した。2本鎖PCR生成物を、磁気ストレプトアビジンビーズ(Dynal)とB&W緩衝剤(10mM Tris−HCl(pH7.5)、1mM EDTA、2M NaCl、0.1% Tween−20)内で混合し、20分間インキュベート後、磁石で落とし、B&W緩衝剤で2回洗浄した。順方向鎖を150mM NaOH 300μLでビーズから溶出した。この「メガプライマー」(理論的多様性において8×10
16を超える長いプライマーの混合物)を用い、1本鎖ライブラリー鋳型をアニーリングした。ライブラリー構築は、FG7ライブラリーについて上述のとおりに実施した。
【0094】
実施例3:IgGバインダーの選択
IgGに結合するTenconライブラリーメンバーの選択を実施するため、組み換えIgG(ヒトIgG1サブタイプ)をスルホ−NHS−LC−ビオチン(Pierce)を用いてビオチン化し、PBS内に透析した。選択には、200μLのファージディスプレイライブラリーFG7又はBC6/FG7を200μLのケミブロッカーでブロッキングした後、500nM(1回目)又は100nM(2回目及び3回目)の濃度のビオチン化IgGを添加した。結合したファージを、1回目はNeutravidin磁気ビーズ(Seradyne)で、2回目及び3回目はストレプトアビジン磁気ビーズ(Promega)で回収した。未結合のファージを、tween含有Tris緩衝生理食塩水(TBST)1mLで5〜10回洗浄し、続いてTris緩衝生理食塩水(TBS)1mLで2回洗浄し、ビーズから洗い流した。対数増殖期中期の大腸菌MC1061F’を添加することにより、結合したファージをビーズから溶出させた。カルベニシリンとグルコースとを添加したLB寒天プレート上に感染細胞を蒔いた。翌日、細胞をプレートからかき取り、対数期の中間部まで増殖させた後、VCSM13ヘルパーファージで回復させ、一晩増殖した。PEG/NaCl沈殿で単離したファージ粒子を、次の選択回で用いた。
【0095】
IgGに対して3回全体を調べた後、Tencon遺伝子をPCRで増幅することにより、その結果をリガーゼ非依存性クローニング部位を含むよう修飾されたpET27ベクターにサブクローンした。このPCR生成物をベクターにアニーリングし、BL21−GOLD(DE3)細胞(Stratagene)に形質転換した。別々のコロニーを96深ウェルプレート(Corning)の1mLの培養液内に取り、37℃で一晩、飽和するまで増殖させた。翌日、一晩培養液50μLを用いて、新しい1mL培養液に播種した。培養液を37℃で2時間増殖させた後、IPTGを1mMになるよう加え、温度を30℃に低下させた。誘導16時間後、細胞を遠心分離で回収し、100μLのBugBuster(Novagen)で溶解した。生じたライセートを遠心分離によりきれいにし、ELISAによるIgGへの結合試験に使用した。
【0096】
Maxisorpプレート(Nunc)を0.1μgの抗His抗体(Qiagen)μgで一晩コーティングし、TBSTで洗浄し、Starting Block T20(Thermo Scientific)でブロッキングした。澄明なライセートをStarting Blockで1:4に希釈し、プレートに加え、1時間結合させた後、TBSTで洗浄した。ビオチン化IgG又はビオチン化HSAを1μg/mLの濃度で添加し、1時間インキュベートした後、TBSTで洗浄した。ストレプトアビジン−HRP(Jackson Immunoresearch)の添加、及びPOD化学発光基質による検出により、結合IgG又はHSAの検出を達成した。ELISAの結果を
図7に示す。ELISAシグナルで判断するとき、ビオチン化HSAよりもビオチン化IgGに10倍強く結合する構築物の配列を決定した。複数回の選択実験の完了後、ライブラリーFG7から60個の固有の結合配列が、ライブラリーBC6FG7から10個の固有の配列が得られ、表4では、B:C及び/又はF:Gループの配列番号16と異なる程度が示される、IgGバインダーの代表的な配列を示す。また、表4では、スカフォールドの他の領域における多くの変異も示す。
【0097】
本明細書で設計され、発現され、及び精製されたTenconタンパク質は、代替スカフォールド分子として用いられているヒトテネイシンの第3 FN3ドメインに対して、26℃改善された熱安定性を有する。この安定性向上に基づき、本スカフォールド分子は、アミノ酸置換により適しており、より製造が容易と考えられる。タンパク質の安定性を低下させる変異は、より安定なスカフォールドという意味において、より寛容であると考えられ、したがって向上した安定性を有するスカフォールドは、スカフォールド変異体ライブラリーから、より機能的で、よく折り畳まれたバインダーをもたらすと考えられる。
【0098】
【表1】
【0099】
【表2】
【0100】
【表3】
【0101】
【表4-1】
【0102】
【表4-2】
【0103】
【表4-3】
【0104】
【表4-4】
【0105】
配列:
配列番号1:
sppkdlvvtevteetvnlawdnemrvteylvvytpthegglemqfrvpgdqtstiiqelepgveyfirvfailenkksipvsarvat
【0106】
配列番号2:
tylpapeglkfksiketsvevewdpldiafetweiifrnmnkedegeitkslrrpetsyrqtglapgqeyeislhivknntrgpglkrvtttrld
【0107】
配列番号3:
dapsqievkdvtdttalitwfkplaeidgieltygikdvpgdrttidltedenqysignlkpdteyevslisrrgdmssnpaketftt
【0108】
配列番号4
tgldaprnlrrvsqtdnsitlewrngkaaidsyrikyapisggdhaevdvpksqqattkttltglrpgteygigvsavkedkesnpatinaateldtpkd
【0109】
配列番号5
dtpkdlqvsetaetsltllwktplakfdryrlnyslptgqwvgvqlprnttsyvlrglepgqeynvlltaekgrhkskpakskparvk
【0110】
配列番号6
qapelenltvtevgwdglrlnwtaadqayehfiiqvqeankveaarnltvpgslravdipglkaatpytvsiygviqgyrtpvlsaeastge
【0111】
配列番号7
etpnlgevvvaevgwdalklnwtapegayeyffiqvqeadtveaaqnltvpgglrstdlpglkaathytitirgvtqdfsttplsvevlte
【0112】
配列番号8
evpdmgnltvtevswdalrlnwttpdgtydqftiqvqeadqveeahnltvpgslrsmeipglragtpytvtlhgevrghstrplavevvte
【0113】
配列番号9
dlpqlgdlavsevgwdglrlnwtaadnayehfviqvqevnkveaaqnltlpgslravdipgleaatpyrvsiygvirgyrtpvlsaeastakepe
【0114】
配列番号10
kepeignlnvsditpesfnlswmatdgifetftieiidsnrlletveynisgaertahisglppstdfivylsglapsirtktisatatte
【0115】
配列番号11
alpllenltisdinpygftvswmasenafdsflvtvvdsgklldpqeftlsgtqrklelrglitgigyevmvsgftqghqtkplraeivte
【0116】
配列番号12
aepevdnllvsdatpdgfrlswtadegvfdnfvlkirdtkkqsepleitllapertrdltglreateyeielygiskgrrsqtvsaiattam
【0117】
配列番号13
gspkevifsditensatvswraptaqvesfrityvpitggtpsmvtvdgtktqtrlvklipgveylvsiiamkgfeesepvsgsfttal
【0118】
配列番号14
dgpsglvtanitdsealarwqpaiatvdsyvisytgekvpeitrtvsgntveyaltdlepateytlrifaekgpqksstitakfttdl
【0119】
配列番号15
dsprdltatevqsetalltwrpprasvtgyllvyesvdgtvkevivgpdttsysladlspsthytakiqalngplrsnmiqtifttigl
【0120】
配列番号16
LPAPKNLVVSEVTEDSLRLSWTAPDAAFDSFLIQYQESEKVGEAINLTVPGSERSYDLTGLKPGTEYTVSIYGVKGGHRSNPLSAEFTT
【0121】
配列番号17
ctgccggcgccgaaaaacctggttgtttctgaagttaccgaagactctctgcgtctgtcttggaccgcgccggacgcggcgttcgactctttcctgatccagtaccaggaatctgaaaaagttggtgaagcgatcaacctgaccgttccgggttctgaacgttcttacgacctgaccggtctgaaaccgggtaccgaatacaccgtttctatctacggtgttaaaggtggtcaccgttctaacccgctgtctgcggaattcaccacc
【0123】
実施例4:Tenconの安定化突然変異
本明細書で上述されたTenconスカフォールド(配列番号16)の折畳み安定性を改善するために突然変異体を設計した。点突然変異を生じさせて、配列番号16の個々の残基の置換、例えば、N46V(Tencon17−配列番号142)、E14P(Tencon18−配列番号143)、E11N(Tencon19−配列番号144)、E37P(Tencon20−配列番号145)、及びG73Y(Tencon21−配列番号146)を生じさせ、これらはプログラムPoPMuSiC v2.0(Dehouck,Grosfils et al.,2009)によって安定性を改善すると予想された。突然変異体E86I(Tencon22−配列番号147)は、相同タンパク質、ヒトテネイシンの第3 FN3ドメインを安定させることが以前に見出されている(WO2009/086116A2)。最後に、Tenconの全てのループ残基が独立してアラニンで置換されるアラニン走査実験中に、L17A変異体がTenconを有意に安定させることが見出された(データは示されず)。安定性アッセイの初回の後(下記参照)、安定性を更に増加させるために、コンビナトリアル突然変異体N46V/E86I(Tencon 23−配列番号148)、E14P/N46V/E86I(Tencon24−配列番号149)、及びL17A/N46V/E86I(Tencon25−配列番号150)を生成した。
【0124】
発現及び精製
QuikChange変異誘発キット(Stratagene)を使用して、Tenconコード配列の突然変異体を生成した。得られたプラスミドをBL21−GOLD(DE3)大腸菌(Stratagene)に形質転換して発現させた。単一コロニーを取り、100μg/mLアンピシリンを含有するTB培地2mL中で37℃で一晩培養した。この培養液を用いて、500mLのバッフルフラスコ中の自己誘導培地(Overnight Express Instant TB media,Novagen)100mLに播種し、37℃で16時間培養した。
【0125】
4000×gにて20分遠心分離することにより培養液を回収し、ペレット化された細胞を、1グラムのウェット細胞ペレット当り5mLのBugBuster HT(Novagen)で再懸濁した。室温で30分間インキュベーションした後、30,000×gにて20分遠心分離することにより溶解物を浄化し、3mLのNi−NTA superflowカラム(Novagen)に重力により充填した。充填後、50mMのリン酸ナトリウム(pH 7.4)、500mMのNaCl、及び10mMのイミダゾールを含有する15mLの緩衝液で各カラムを洗浄した。次に、50mMのリン酸ナトリウム(pH 7.4)、500mMのNaCl、及び250mMのイミダゾールを含有する10mLの緩衝液を使用して、結合タンパク質をカラムから溶出した。タンパク質の純度をSDS−PAGEで評価した。生物物理学的解析に先立って、各突然変異体を、PBS(pH 7.4)の中に十分に透析した。100mLの培養液から各突然変異体ごとに28〜33mgの精製タンパク質を得た。
【0126】
熱安定性の特性評価
本発明のTencon及び各突然変異体の熱安定性を、毛細示差走査熱量法(DSC)によって測定した。各サンプルをPBS(pH 7.4)に対して透析し、2〜3mg/mLの濃度まで希釈した。オートサンプラー(MicroCal,LLC)を備えたVP−DSC機器を使用して、これらサンプルの融解温度を測定した。サンプルを10℃から95℃又は100℃まで毎分1℃の速度で加熱した。積分のためのベースラインを計算するために、各サンプルの走査の間に緩衝液のみの走査を行った。データは、緩衝液のみのシグナルを差し引いた後の二状態変性モデルに合致していた。各サンプルをセルから取り出すことなく走査を繰り返すことによって、熱変性の可逆性を決定した。可逆性は、1回目の走査曲線の下の面積を2回目の走査曲線の下の面積と比較することによって計算された。DSC実験の結果は、完全な融解曲線から導かれた値として表5に示されている。単一の突然変異体Tencon17、Tencon18、Tencon19、及びTencon22は、親Tencon配列と比べて熱安定性を改善した。Tencon21だけが有意に不安定化した。コンビナトリアル突然変異体サンプルTencon23、Tencon24、及びTencon25は全て、安定性の向上が有意に大きく、設計された変異は熱安定性の改善に対して相加的に作用することが示された。
【0127】
塩酸グアニジン(Guandine)による変性
トリプトファン蛍光で測定した場合の、高濃度の塩酸グアニジン(GdmCl)で処理された際にTencon及び各突然変異体が折り畳みを維持するの能力を用いて、安定性を評価した。Tenconはトリプトファン残基を1個だけ含有している。トリプトファン残基は疎水性コアの中に埋め込まれ、したがって、360nmの蛍光放射は、このタンパク質の折り畳み状態の感度の高い測定となる。17点滴定のために、50mMのリン酸ナトリウム(pH 7.0)、150mMのNaCl、及び0.48〜6.63Mの可変濃度のGdmClを含有する200μLの溶液を、黒色で非結合の96個のウェルプレート(Greiner)にピペットで入れた。Tencon突然変異体を含有している10μLの溶液を、最終タンパク質濃度が23uMになるようにプレートにわたり各ウェルに加え、ピペットをゆっくりと上下に操作することによって混合した。室温で24時間インキュベーションした後、SpectraMax M5プレートリーダー(Molecular Devices)によって、280nmでの励起及び360nmでの発光により蛍光を読み取った。かかる曲線から作成されたデータが
図8に示されている。次の式(Pace 1986 Methods Enzymol 131:266〜80)を用いて蛍光シグナルを折り畳みが壊れた割合に変換した。
【0128】
【数1】
式中、y
Fは、折り畳みサンプルの蛍光シグナルであり、y
uは非折り畳みサンプルの蛍光シグナルである。
【0129】
非折り畳みへの移行の中間点、及び移行傾斜を、次の式(Clarke,Hamill et al.,1997)に当てはめて決定した。
【0130】
【数2】
式中、Fは、所与の変性剤濃度における蛍光であり、α
N及びα
Dは、元の状態と変性状態のy切片であり、β
N及びβ
Dは、元の状態と変性状態のベースラインの傾斜であり、[D]はGdmClの濃度であり、[D]
50%は、サンプルの50%が変性している時点のGdmCl濃度であり、Mは移行の傾斜であり、Rは気体定数であり、Tは温度である。各サンプルの折り畳みの自由エネルギーを次の式を用いて推定した(Pace 1986 supra;Clarke,Hamill et al.1997 J Mol Biol 270(5):771〜8)。
【0132】
このような曲線の移行傾斜mを正確に測定するのは困難な場合が多い。加えて、本明細書に記載の突然変異は、Tenconの折り畳み機構を変更させるものとは期待されない。したがって、各突然変異体のm値を測定し、この値を平均して(上記Pace 1986参照)、全ての自由エネルギー計算で使用するm=14.83kJ/モル/M(3544カロリー/モル/M)を生成した。これらの計算の結果が表5に示されている。GdmCl変性実験の結果は、熱安定性に関してTenconを安定させる同じ突然変異体は、GdmCl誘発変性に対してもタンパク質を安定させることを証明している。
【0133】
サイズ排除クロマトグラフィー
サイズ排除クロマトグラフィー(SEC)を用いて、WT Tencon及び各突然変異体の凝集状態を評価した。5μLの各サンプルを、PBS移動相を用いて0.3mL/分の流量でSuperdex 75 5/150カラム(GE Healthcare)上に注入した。カラムからの溶出を280nmの吸光度でモニターした。凝集状態を評価するために、球状分子量標準品(globular molecular weight standards)(Sigma)でカラムを予め較正した。Tencon21を除く試験した全てのサンプルは、モノマーサンプルの溶出体積と一致する溶出体積で単一ピークに溶出された。Tencon21は2つのピークに溶出され、凝集の存在を示していた。
【0135】
以上の記述及び実施例中で特に記されたものとは別な形で本発明を実施できることは明白であろう。以上の教示に照らして、本発明の数多くの修正及び変形形態が可能であり、したがってこれらは、添付の特許請求の範囲内に入るものである。