特許第5997176号(P5997176)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許5997176プロテインAの新規アルカリ抵抗性変異体及びアフィニティークロマトグラフィーにおけるその使用
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5997176
(24)【登録日】2016年9月2日
(45)【発行日】2016年9月28日
(54)【発明の名称】プロテインAの新規アルカリ抵抗性変異体及びアフィニティークロマトグラフィーにおけるその使用
(51)【国際特許分類】
   C07K 14/31 20060101AFI20160915BHJP
   C07K 17/00 20060101ALI20160915BHJP
   C07K 1/22 20060101ALI20160915BHJP
   C12N 15/09 20060101ALN20160915BHJP
【FI】
   C07K14/31ZNA
   C07K17/00
   C07K1/22
   !C12N15/00 A
【請求項の数】13
【全頁数】17
(21)【出願番号】特願2013-544979(P2013-544979)
(86)(22)【出願日】2011年12月21日
(65)【公表番号】特表2014-508118(P2014-508118A)
(43)【公表日】2014年4月3日
(86)【国際出願番号】CA2011001370
(87)【国際公開番号】WO2012083425
(87)【国際公開日】20120628
【審査請求日】2014年9月5日
(31)【優先権主張番号】61/425,617
(32)【優先日】2010年12月21日
(33)【優先権主張国】US
(73)【特許権者】
【識別番号】508288700
【氏名又は名称】ザ ユニバーシティ オブ ウエスタン オンタリオ
【氏名又は名称原語表記】The University of Western Ontario
(73)【特許権者】
【識別番号】000004178
【氏名又は名称】JSR株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000084
【氏名又は名称】特許業務法人アルガ特許事務所
(74)【代理人】
【識別番号】100077562
【弁理士】
【氏名又は名称】高野 登志雄
(74)【代理人】
【識別番号】100096736
【弁理士】
【氏名又は名称】中嶋 俊夫
(74)【代理人】
【識別番号】100117156
【弁理士】
【氏名又は名称】村田 正樹
(74)【代理人】
【識別番号】100111028
【弁理士】
【氏名又は名称】山本 博人
(72)【発明者】
【氏名】リ,シュン−チェン
(72)【発明者】
【氏名】リ,シン
(72)【発明者】
【氏名】ボス,コートニー
(72)【発明者】
【氏名】中村 聡
(72)【発明者】
【氏名】福田 哲夫
(72)【発明者】
【氏名】岡野 友亮
(72)【発明者】
【氏名】塩谷 知範
(72)【発明者】
【氏名】田守 功二
(72)【発明者】
【氏名】王 勇
【審査官】 松浦 安紀子
(56)【参考文献】
【文献】 特表平09−508016(JP,A)
【文献】 特表2002−527107(JP,A)
【文献】 特表2005−538693(JP,A)
【文献】 国際公開第2012/074463(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C07K 14/31
C07K 1/22
C07K 17/00
C12N 15/09
WPI
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
配列番号1のアミノ酸配列を含む免疫グロブリン(Ig)結合タンパク質の変異体であって、
該変異体は、配列番号1の3位のアスパラギン残基のヒスチジン残基又はセリン残基への置換を含み、かつ該置換によって、該Ig結合タンパク質と比べてアルカリ安定性が向上している、変異体Ig結合タンパク質。
【請求項2】
配列番号1の23位のアスパラギン残基のセリン残基又はスレオニン残基への置換をさらに有することを特徴とする、請求項1に記載の変異体Ig結合タンパク質。
【請求項3】
配列番号1の6位のアスパラギン残基のアスパラギン酸残基への置換をさらに有することを特徴とする、請求項1又は2に記載の変異体Ig結合タンパク質。
【請求項4】
4個の配列番号8のタンデムを含むことを特徴とする、請求項1〜3のいずれか1項に記載の変異体Ig結合タンパク質。
【請求項5】
アフィニティー分離のためのマトリクスに固定化することができるリンカーペプチドとカップリングしていることを特徴とする、請求項1〜4のいずれか1項に記載の変異体Ig結合タンパク質。
【請求項6】
前記リンカーペプチドが配列番号15のアミノ酸配列を含むことを特徴とする、請求項5に記載の変異体Ig結合タンパク質。
【請求項7】
配列番号2、3、6、7及び8〜11のいずれかのアミノ酸配列からなる、請求項1〜6のいずれか1項に記載の変異体Ig結合タンパク質。
【請求項8】
アフィニティー分離のためのマトリクスであって、固体支持体とカップリングした請求項1〜7のいずれか1項に記載の変異体Ig結合タンパク質を含む、マトリクス。
【請求項9】
前記変異体Ig結合タンパク質がリンカーペプチドにより前記固体支持体とカップリングしていることを特徴とする、請求項8に記載のマトリクス。
【請求項10】
前記リンカーペプチドが配列番号15のアミノ酸配列を含むことを特徴とする、請求項9に記載のマトリクス。
【請求項11】
免疫グロブリン(Ig)及び該Igが分離されるべき少なくとも1種の他の物質を含む組成物から該Igを分離する方法であって、固体支持体とカップリングした請求項1〜7のいずれか1項に記載の変異体Ig結合タンパク質を含むアフィニティー分離のためのマトリクスと該組成物とを接触させ、これにより該組成物における該少なくとも1種の他の物質から該Igを分離することを含む、方法。
【請求項12】
前記変異体Ig結合タンパク質がリンカーペプチドにより前記固体支持体とカップリングしていることを特徴とする、請求項11に記載の方法。
【請求項13】
前記リンカーペプチドが配列番号15のアミノ酸配列を含むことを特徴とする、請求項12に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アルカリ抵抗性を有する数種の免疫グロブリン(Ig)リガンドタンパク質、それらの固体支持体への固定化、及びその結果得られるアフィニティーマトリクスのIg精製への適用に関する。
【背景技術】
【0002】
プロテインAは、細菌(黄色ブドウ球菌(Staphylococcus aureus))によってコードされる膜タンパク質である。プロテインAは、E−D−A−B−Cに配置された5個の相同なドメインからなる。プロテインAは、ヒトを含む様々な生物種由来の抗体の多く(IgG、IgM、IgE、IgA等)に結合することができるという特徴を有する。従って、プロテインAは、研究及び治療用の抗体精製用アフィニティーカラムを形成するための、固体支持体(例えば、樹脂)に固定化されたタンパク質リガンドとして広範に用いられている。
【0003】
医薬用途とバイオテクノロジー用途の両方にプロテインAの抗体結合特性を十分に活用するために、固体樹脂へのプロテインAの固定化効率を改善する方法と共に、固定化後にプロテインA安定性を向上させ、その漏出を低減させる方法が研究されている。この点に関し、特許文献1及び2は、プロテインAのN末端又はその1つ若しくは複数のドメインに1個のシステイン残基又は1個のアルギニン残基が付加することによりその固定化を促進する、プロテインAを固定化する方法を開示している。特許文献3は、抗体精製の際の温度を下げることによりプロテインAリガンドの漏出を軽減する、固定化タンパク質を安定化する方法を開示し、特許文献4は、配列中の特定のアスパラギン残基をグルタミン又はアスパラギン酸以外のアミノ酸に変異させることによりプロテインAドメインのアルカリ安定性を向上させた固定化タンパク質を安定化する方法を開示している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】米国特許第5,084,559号明細書
【特許文献2】米国特許第5,260,373号明細書
【特許文献3】米国特許第7,485,704号明細書
【特許文献4】米国特許第7,709,209号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
前述の状況にもかかわらず、タンパク質固定化及びリガンド安定性増強のための改良された方法の開発が依然として求められている。
【0006】
アフィニティークロマトグラフィーは、ワンステップで高い回収率を有するタンパク質精製のための最も有用な分離方法の1つである。エポキシベースのカップリングは、ペプチド又はタンパク質固定化のために広く用いられている技術である。エポキシ基は、2個の隣接する炭素原子に単結合してエポキシド環を形成する酸素原子を含有する。この官能基は、タンパク質表面における種々の求核基と反応して、最小限の化学修飾で強固な結合を形成することができる。しかし、エポキシ樹脂における固定化効率は、アミノ酸配列、pI及びタンパク質二次構造等の所定のペプチド又はタンパク質の組成、及びpH、カップリングバッファー組成及び塩濃度等の反応条件に大きく依存する。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、その一実施形態において、免疫グロブリン(Ig)結合タンパク質の変異体を提供する。該変異体は、該Ig結合タンパク質における少なくとも1個のアスパラギン(Asn)残基が、ヒスチジン(His)残基、セリン(Ser)残基、アスパラギン酸(Asp)残基又はスレオニン(Thr)残基に置換されているIg結合タンパク質を含み、該少なくとも1個の置換によって、該変異体は、該Ig結合タンパク質と比べてアルカリ安定性が向上している。
【0008】
本発明は、その一実施形態において、アフィニティー分離のためのマトリクスを提供する。該マトリクスは、固体支持体とカップリングした免疫グロブリン(Ig)結合タンパク質の変異体を含み、該変異体は、該Ig結合タンパク質における少なくとも1個のAsn残基がHis、Ser、Asp又はThr残基に置換されているIg結合タンパク質を含み、該少なくとも1個の置換によって、該変異体は、該Ig結合タンパク質と比べてアルカリ安定性が向上していることを特徴とする。
【0009】
本発明は、その一実施形態において、免疫グロブリン(Ig)及び該Igが分離されるべき少なくとも1種の他の物質を含む組成物から該免疫グロブリン(Ig)を分離する方法を提供する。該方法は、固体支持体とカップリングしたIg結合タンパク質の変異体を含むアフィニティー分離のためのマトリクスと該組成物とを接触させ、これにより該組成物における該少なくとも1種の他の物質から該Igを分離することを含み、該変異体は、該Ig結合タンパク質における少なくとも1個のAsn残基がHis、Ser、Asp又はThr残基に置換されているIg結合タンパク質を含み、該少なくとも1個の置換によって、該変異体は、該Ig結合タンパク質と比べてアルカリ安定性が向上していることを特徴とする。
【0010】
本発明の一実施形態において、上記変異体Ig結合タンパク質はプロテインAである。
【0011】
本発明の他の一実施形態において、上記Ig結合タンパク質は配列番号1のアミノ酸配列を含む。
【0012】
本発明の他の一実施形態において、上記変異体Ig結合タンパク質は、Asn3His置換(配列番号1の3位のアスパラギン残基がヒスチジン残基に置換)又はAsn3Ser置換を有する配列番号1のアミノ酸配列を含むIg結合タンパク質を含む。
【0013】
本発明の他の一実施形態において、上記変異体Ig結合タンパク質は、Asn6Asp置換を有する配列番号1のアミノ酸配列を含むIg結合タンパク質を含む。
【0014】
本発明の他の一実施形態において、上記変異体Ig結合タンパク質は、Asn23Ser置換を有する配列番号1のアミノ酸配列を含むIg結合タンパク質を含む。
【0015】
本発明の他の一実施形態において、上記変異体Ig結合タンパク質は、Asn3His/Asn23Ser又はAsn3His/Asn23Thrから選択される二重置換を有する配列番号1のアミノ酸配列を含むIg結合タンパク質を含む。
【0016】
本発明の他の一実施形態において、上記変異体Ig結合タンパク質は、三重置換Asn3His/Asn6Asp/Asn23Serを有する配列番号1のアミノ酸配列を含むIg結合タンパク質を含む。
【0017】
本発明の他の一実施形態において、上記変異体Ig結合タンパク質は、配列番号8の4個のタンデムを有するIg結合タンパク質を含む。
【0018】
本発明の他の一実施形態において、上記変異体Ig結合タンパク質は、少なくとも1個のAsn残基がAsp残基に置換されたIg結合タンパク質を含む。
【0019】
本発明の他の一実施形態は、上記変異体をアフィニティー分離のためのマトリクスに固定化させることができるリンカーペプチドとカップリングしていることを特徴とする変異体Ig結合タンパク質である。本発明の態様において、該リンカーペプチドは、配列番号15のアミノ酸配列を含む。
【0020】
本発明の他の一実施形態は、変異体Ig結合タンパク質であって、該Ig結合タンパク質が配列番号2〜11及び14から選択されることを特徴とする変異体Ig結合タンパク質である。
【0021】
本発明の上述の実施形態及び他の態様は、以下の図面を参照することにより、詳細な説明から明らかになるであろう。
【図面の簡単な説明】
【0022】
図1】Zドメインの配列(配列番号1)及び本発明において作製される種々の変異体を示す図である。
図2】対照として用いたZドメイン自身と比較した、0.5N NaOH中における27時間の継続的なインキュベーション27時間後の、種々のZドメイン突然変異体の残存IgG結合能を示す図である。
図3】異なる持続期間での0.5N NaOH浸漬における、3種のアフィニティーカラムの動的結合能保持率を示す図である。第一のカラムは、固定化された4DHS(ZドメインのDHS変異体の4個のタンデム反復)を含有し、第二のカラムは、固定化されたX03(4個のZドメイン反復)を含有し、第三のカラムは、MabSelect SuReTMビーズ(GEヘルスケア)を含有する。
図4】プロテインAドメインZ又はドメインZの三重変異体、HDSの4ドメイン反復のクローニングに用いた手順の概要を表す図である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
定義
特段に定義を与えない限り、本明細書におけるあらゆる専門及び科学用語は、本発明が属する技術分野の当業者によって通常理解されているものと同様の意味を有する。また、特段の記載が無い限り、特許請求の範囲を除き、「又は」の使用は、「及び」を包含し、その逆もまた同じである。非限定的な用語は、他に特に記述がなければ、或いは文脈がそれ以外を明示する場合を除き、限定的な用語として解釈すべきではない(例えば、「包含する」、「有する」及び「含む」は通常、「限定することなく包含する」を示す)。特許請求の範囲も含め、単数形(「a」、「an」及び「the」等)は、他に特に記述がない限り複数への参照を包含する。
【0024】
本明細書において「機能的に均等な誘導体」とは、タンパク質機能を実質的に失うことなく選択されたタンパク質を固定化するためのアンカー機能を保持する、誘導体を意味する。
【0025】
本明細書において「リガンド」とは、受容体の1以上の特異的部位に結合する分子又は分子群を意味する。
【0026】
概説
本発明は、アルカリ抵抗性を有する数種の免疫グロブリン(Ig)リガンドタンパク質に関する。本発明は、その一実施形態において、野生型又は親Ig結合タンパク質の少なくとも1個のアスパラギン(Asn)残基が、ヒスチジン(His)残基、セリン(Ser)残基、アスパラギン酸(Asp)残基又はスレオニン(Thr)残基に置換された、免疫グロブリン(Ig)結合タンパク質の変異体に関する。図3Bに示すように、該少なくとも1個の置換は、変異体Ig結合タンパク質のアルカリ性溶液中における安定性を、野生型Ig結合比べて向上させることができる。
【0027】
本発明はまた、新規アミノ酸配列及び新規Ig結合タンパク質に関する。本発明の一実施形態において、該新規Ig結合タンパク質は、配列番号2〜11及び配列番号14から選択することができる。
【0028】
本発明のIgリガンドタンパク質は、Fcフラグメント結合タンパク質であり得、IgG、IgA及び/又はIgM、好ましくはIgGの選択的結合に用いることができる。
【0029】
Ig結合タンパク質変異体
本発明は、その一実施形態において、免疫グロブリン(Ig)結合タンパク質の変異体に関する。該変異体は、少なくとも1個のAsn残基がHis、Ser、Asp又はThr残基に置換されたIg結合タンパク質を含むことができる。少なくとも1個の置換は、変異体Ig結合タンパク質に、野生型Ig結合と比較した場合に、アルカリ性溶液において向上した安定性を付与することができる。
【0030】
本発明は、その一実施形態において、プロテインAと比べてアルカリ性溶液における安定性が向上しているIg結合タンパク質に関する。本発明のIg結合タンパク質は、プロテインAのZドメイン又はBドメインの少なくとも1個のAsn残基がHis、Ser、Asp又はThr残基に置換されたプロテインAを含むことができる。
【0031】
一実施形態において、本発明のIg結合タンパク質は、プロテインAのZドメイン(配列番号1)又はBドメインにおけるAsn3(即ち、3位アスパラギン)、Asn6及びAsn23における変異等、単一、二重又は三重置換を有するプロテインAを含むことができる。単一置換は、Asn3His(即ち、3位におけるアスパラギンがヒスチジンに置換又は変異)、Asn3Ser、Asn6Asp、Asn23His又はAsn23Serから選択することができ、二重置換は、Asn3His/Asn23Ser又はAsn3His/Asn23Thrから選択することができ、三重変異は、Asn3His/Asn6Asp/Asn23Serであり得る。
【0032】
一実施形態において、本発明のIg結合タンパク質を、組換え手段によりN又はC末端伸長のいずれかとしてスペーサー又はリンカー配列を含むよう改変して、これにより、固体支持体への固定化が改善され得る融合タンパク質−リンカー産物を作製することができる。この点に関し、リンカー又はスペーサーを十分に確立された方法により化学的に合成し、選択されたIg結合タンパク質と共有結合させ得ることは、当業者には理解されよう。また、リンカー及び本発明のIgリガンドを含む融合産物を、組換え技術を用いて作製することもできる。この点に関し、リンカーは一般に、Igリガンドの機能を実質的に保持できるようにIgリガンドの末端と結合又は融合し得る。従って、タンパク質の種類に応じて、リンカーはIgリガンドのN末端に結合していても、C末端に結合していてもよい。ある場合、リンカーは両末端に結合していてもよく、又は末端残基以外のアミノ酸残基に付加的に結合していてもよい。また他の例において、リンカーは、化学的若しくは組換え手段により又は酵素の使用により、Ig結合タンパク質のカップリング前に固体支持体と結合されていてもよい。
【0033】
リンカーは、本発明のIg結合タンパク質を、Ig結合タンパク質の機能をその固定化状態において実質的に保持しつつ、即ち、免疫グロブリン結合の少なくとも約50%を保持しつつ、固体支持体に適切に固定化することができる。
【0034】
米国特許出願公開第2007/0055013号は、本発明のIgリガンドと融合することのできるリンカーの一例を提供している。
【0035】
更に本発明は、本発明のIg結合タンパク質をコードする核酸を含むベクター、又はリンカーと融合した該Ig結合タンパク質をコードする核酸を含むベクターを包含することが意図されている。
【0036】
当業者に理解されるように、本発明のIg結合タンパク質は、ラベルにより標識することによりIg分離アッセイにおけるIg結合タンパク質の検出を容易にすることができる。このようなラベルとしては、限定ではないが、放射性標識及び蛍光標識を挙げることができる。本発明のIg結合タンパク質は、例えば、ウシ血清アルブミン(BSA)又はキーホールリンペットヘモシアニンへのカップリング等の形式で、担体を備えることができる。
【0037】
固体支持体
本発明は、その一実施形態において、アフィニティー分離のためのマトリクスに関する。該マトリクスは、固体支持体とカップリングした、本発明のIg結合タンパク質のいずれかから作製することが可能なIgリガンドを含むことができる。図2に示すように、本発明の実施形態に係るマトリクスは、親分子をIgリガンドとして構成されたマトリクス(図2におけるZ)と比較して、断続的アルカリクリーニングを行った2回以上の分離プロセスにおいて結合能の増加を示す。予期せぬことに本発明者らは、アスパラギン残基のアスパラギン酸(D)への突然変異が、Igリガンドに改善された結合能を付与することを見出した。本発明のIgリガンドタンパク質は、好ましくは、Fcフラグメント結合タンパク質であり得、IgG、IgA及び/又はIgM、好ましくはIgGの選択的結合に用いることができる。
【0038】
リガンドタンパク質がアンカーペプチドと結合又は融合すると、融合産物は固体支持体に(共有結合的又は非共有結合的に)カップリングすることができる。適切な固体支持体として、エポキシベースの支持体(例えば、ビーズ又は樹脂)、エポキシ基の表面化学性質を有する固体支持体、或いはタンパク質がアンカー配列を介してカップリングできるよう表面が官能化された材料が挙げられる。
【0039】
固体支持体の材料の例としては、親水性表面を有するポリマー、例えば、ヒドロキシル基(−OH)、カルボキシル基(−COOH)、アミノカルボニル基(−CONH2、N置換型可)、アミノ基(−NH2、置換型可)、オリゴ又はポリエチレンオキシ基を外表面、更には存在するならば内表面にも有するポリマーをベースとするものである。一実施形態において、該ポリマーは合成ポリマー(例えば、ポリメタクリル酸、ポリアクリルアミド又はスチレン−ジビニルベンゼンコポリマー)である。このような合成ポリマーは、公知の方法により容易に製造することができる(例えば、J.MATER.CHEM 1991,1(3),371〜374参照)。或いは、TOYOPEARL(東ソー社製)等、市販品を用いることもできる。他の一実施形態において、該ポリマーは多糖類(例えば、デキストラン、デンプン、セルロース、プルラン又はアガロース)である。このような多糖類は、公知の方法により容易に作製することができる(例えば、日本特許第4081143号明細書参照)。また、セファロース(GEヘルスケアバイオサイエンス社製)等、市販品を用いることもできる。更に他の一実施形態においては、無機支持体(例えば、シリカ又は酸化ジルコニウム)を用いることができる。
【0040】
本発明のIgリガンドタンパク質又は融合産物を固体支持体に固定化するために、固体支持体を水溶液中で処理することができる。該水溶液としては、結合バッファー、例えば、0.1Mリン酸ナトリウム/0.5M Na2SO4(pHは例えば約6.5〜7.2の範囲、好ましくは6.8)を挙げることができる。ここで適切に使用される塩としては、固体支持体及び融合産物に適合性があり、固定化されたタンパク質の使用目的に対して無毒性であり、使用に適切な塩が挙げられる。固体支持体は、例えば、ほぼ室温で、固定化が行われるのに十分な時間、Igリガンドペプチドと混合することができる。
【0041】
固体支持体は、粒子状であり得る。この粒子は、多孔性であっても非多孔性であってもよい。粒子状の固体支持体は充填ベッドとしても、懸濁形態でも用いることができる。懸濁形態は、粒子が自由に移動できる膨張ベッド又は純粋サスペンジョン(pure suspension)とすることができる。充填ベッド又は膨張ベッドを用いる場合、公知のアフィニティークロマトグラフィーにおいて用いられる分離プロセスを用いることができる。純粋サスペンジョンを用いる場合には、バッチ法が用いられる。
【0042】
本実施形態に係る粒子状の固体支持体の粒子径(体積平均粒子径)は、好ましくは約20〜約200μm、より好ましくは約30〜約100μmである。固体支持体が約20μm未満の粒子径を有する場合、この支持体が充填されたカラムの圧力が、高流速では使用できないレベルまで増加し得る。固体支持体が約200μmを超える粒子径を有する場合、結合能が悪化し得る。本明細書において「粒子径」とは、レーザー回折/散乱粒子径分布分析計を用いて決定された体積平均粒子径を意味する。
【0043】
本実施形態に係る固体支持体は、好ましくは多孔性で、比表面積が好ましくは約50超〜約1000m2/g、より好ましくは約80〜約400m2/gとすることができる。アフィニティークロマトグラフィー充填材料が約50m2/g未満の比表面積を有する場合、結合能は悪化し得る。アフィニティークロマトグラフィー充填材料が約1000m2/g超の比表面積を有する場合、充填材料はカラム圧力が増加し強度が減少するため高流速で破壊され得る。本明細書において「比表面積」とは、水銀ポロシメーターを用いて粒子の乾燥重量で決定された孔(孔径:約10〜約5000nm)の表面積の値を意味する。
【0044】
本実施形態に係る固体支持体は、体積平均孔径約50〜約400nm、より好ましくは約100〜約300nmを有することができる。アフィニティー用固体支持体が約50nm未満の体積平均孔径を有する場合、結合能は高流速において非常に悪化し得る。アフィニティークロマトグラフィー充填材料が約400nmを超える体積平均孔径を有する場合、流速に関係なく結合能は悪化し得る。本明細書において「体積平均孔径」とは、水銀ポロシメーターを用いて決定された孔(孔径:10〜5000nm)の体積平均孔径を意味する。
【0045】
本実施形態に係る固体支持体として用いられる多孔性粒子の具体例としては、20〜50wt%の架橋性ビニルモノマーと、3〜80wt%のエポキシ基含有ビニルモノマーと、20〜80wt%のジオール基含有ビニルモノマーのコポリマーを含有し、粒子径20〜80μm、比表面積50〜150m2/g、及び体積平均孔径100〜400nmを有する多孔性有機ポリマー粒子が挙げられる。
【0046】
更にまた他の一実施形態において、固体支持体は、面、モノリス、チップ、キャピラリー又はフィルター等の他の形態とすることができる。
【0047】
本発明のIg結合タンパク質は、例えば、リガンドに存在するアミノ及び/又はカルボキシ基を利用する従来のカップリング技法により支持体に結合させることができる。ビスエポキシド、エピクロロヒドリン、CNBr、N−ヒドロキシコハク酸イミド(NHS)等は、よく知られたカップリング試薬である。支持体とリガンドとの間にスペーサー又はリンカーとして知られる分子を導入することができ、この操作は、Ig結合タンパク質の利用能を改善し、支持体へのIg結合タンパク質の化学的カップリングを容易にする。また、Ig結合タンパク質は、物理吸着又は生物学的特異的吸着等、非共有結合により支持体に結合させることができる。
【0048】
一実施形態において、本発明のIgリガンドは、イミノ(−NH−)結合により支持体にカップリングさせることができる。このようなカップリングを行うための方法は、当該分野においてよく知られており、当該分野の通常の知識を有する者であれば、標準的技法及び機器を用いて容易に行うことができる。有利な一実施形態において、その後のカップリングを考慮して、リガンドに先ず1又は複数個の末端リジン残基を付加することができる。当該分野の通常の知識を有する者であれば、適切な精製工程を容易に行うこともできる。
【0049】
上述のように、本リガンドの免疫グロブリンに対する親和性(即ち、結合特性)、言い換えればマトリクスの能力は、本質的にはアルカリ剤処理によって継時的に変化することはない(即ち、アルカリ抵抗性を有する)。従来、装荷された状態でのアフィニティー分離マトリクスのクリーニングに用いるアルカリ剤はNaOHであり得、その濃度は最大約0.8M(例えば約0.5M)であり得る。
【0050】
使用方法
本発明は、その一実施形態において、組成物からIgG、IgA及び/又はIgM等の免疫グロブリン(Ig)、又はFc融合タンパク質を分離する方法に関する。該組成物は、Ig、及びIgが分離されるべき少なくとも1種の他の物質から構成され得る。本方法は、固体支持体とカップリングした本発明の実施形態に係る変異体又は変異体Ig結合タンパク質、本発明に係るマルチマー又はマトリクスを含む、アフィニティー分離のためのマトリクスと、該組成物とを接触させることにより、該組成物における該少なくとも1種の他の物質から該Igを分離する工程を含むことができる。本方法は更に、溶出剤をマトリクスに添加することにより、固体支持体からIgを溶出させる工程を含むことができる。
【0051】
本方法は、固定化されたタンパク質と結合するリガンド、例えば、IgG、IgG1、IgG2、IgM、IgA及びIgE等の免疫グロブリンの単離における有用性を有するアフィニティーカラムの調製に用いるための、タンパク質、特に免疫グロブリン結合タンパク質の信頼性の高い固定化を提供する。
【0052】
以下、本発明を具体的な実施例に基づいて詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されるとは解釈されない。
【実施例】
【0053】
実施例1 Zドメイン部位特異的突然変異、及びアルカリ抵抗性の評価
黄色ブドウ球菌(Staphylococcus aureus)のプロテインAのBドメインの変異体であるZドメイン(配列番号1)を鋳型として用いて、Quickchange(ストラタジーン社)により突然変異を誘発させ、1、2又は3個のアミノ酸残基の部位特異的突然変異を含む変異体を作製した。ニッケルアフィニティーカラム(キアゲン社)におけるタンパク質精製を容易にするため、(His)6タグを備えるpETM11発現ベクターに、Zドメイン変異体をクローニングした。GEヘルスケア社製エポキシ活性化樹脂、又は(5)多孔性ビーズの合成セクションに示す独自開発したエポキシ樹脂に、精製Zドメイン変異体を固定化した。後述のように、各Zドメイン変異体のIgG結合能及びアルカリ抵抗性能力を評価した。
【0054】
Zドメイン変異体のアルカリ抵抗性を評価するため、大腸菌で各変異体タンパク質を発現させ、ニッケルアフィニティーカラム、続いてFPLCにより精製した。精製タンパク質(FPLCに基づく純度>90%)をエポキシ樹脂に固定化し、アフィニティーカラムを作製した。Z変異体アフィニティーカラムを0.5 NaOH中で、異なる時間インキュベートした。アルカリ溶液における27時間のインキュベーション後、カラムをPBSで十分に洗浄し、pHを中性に戻した。続いて、ヒトポリクローナルIgGをカラムにロードした。PBSで3回洗浄した後、結合しているIgGをカラムからpH3.2溶出バッファー中に溶出した。溶出したIgG試料の280nmでのUV吸光度を測定して、カラムのIgG結合能を定量化した。IgG結合能は、アルカリ処理前及びアルカリ処理中の様々な時点で測定した。本発明において作製されたZドメイン変異体を図1に示し、評価結果を表1及び図2に示す。個々の、又は様々に組み合わせた1以上のAsnのHis、Ser及びAspへの変異は、親Zドメインよりも優れたアルカリ抵抗性を示す単一、二重又は三重部位Zドメイン突然変異体のパネルの作製を可能にした(表1及び図2)。
【0055】
【表1】
【0056】
実施例2 Zドメイン及び三重変異体N3H/N6D/N23Sの4タンデムコピー又は4HDSの発現ベクターの構築
クローニング手順のフローチャートを図4に示す。野生型Zドメイン(図4(a))(NcoI−EcoRIによりpETM11にライゲーションされている)を構成ブロックとして用いて、4HDS(Zドメイン及び三重変異体N3H/N6D/N23Sの4タンデムコピー)構築物を作製した。
【0057】
Quickchange PCRプロトコール(ストラタジーン社)を用いてN3H/N6D/N23S変異をZドメインに連続的に導入し、単一コピーのHDS(配列番号8)を作製した(図4(b))。変異の存在は、DNA配列決定により検証した。
【0058】
次に、隣接制限酵素部位としてEcoRI及びSacIを用いた第二のHDSドメインの挿入により、終止のための終止コドンを有する2×HDSドメインを作製した(図4(c))。
【0059】
2コピーのEcoRI−EcoRI HDSドメインの挿入により、4×HDSドメイン(配列番号10)構築物を作製した。
【0060】
Quickchange PCRを用いて構築物のN末端におけるNcoI部位を除去してリンカー配列(ATKASK、配列番号15)を挿入し、最終的な4×HDSプラスミドを作製した(図4(d))。次に、この4×HDS配列をNdeI−XhoI制限酵素を用いてpET24aベクター(ノバジェン)にサブクローニングした。
【0061】
代替的な制限酵素部位を用いて一部のドメインが挿入された以外は同様の方法で、Zドメインの4タンデム反復、X03を構築した(図4(e))。
【0062】
4×HDSコンストラクトの最終タンパク質産物の配列を下に記す。
【0063】
4HDSのアミノ酸配列(変異した残基は二重下線で特定;クローニング由来のドメイン間残基は下線で特定;N末端伸長は太字下線で特定、配列番号9)。
【化1】
【0064】
実施例1及び2の方法及び材料
(1)プロテインA発現ベクターの構築
pETM11ベクター(ヨーロピアンモレキュラーバイオロジーラボラトリー)又はpET24aベクター(ノバジェン)のいずれかにおいて全構築物を発現させた。プロテインA遺伝子を含有するTAP−Tagプラスミド(EMBL)を鋳型として用いたPCR法により、オリジナルのプロテインA遺伝子を増幅した。PCRによる部位特異的突然変異誘発(PCR assisted site-directed mutagenesis)によりZドメインを作製した(後述を参照)。
【0065】
フージョン(Phusion)ポリメラーゼ(0.5ユニット、ニューイングランドバイオラボ、米国マサチューセッツ州イプスウィッチ)によりプロテインA遺伝子を増幅した。PCR条件を次に記す:94℃1分間、25サイクルの94℃30秒間、55℃30秒間及び72℃2.5分間、続いて、最後の伸長ステップ、72℃10分間。T4 DNAリガーゼ(0.5ユニット、インビトロジェン、米国カリフォルニア州カールスバッド)を用いて室温で16時間ライゲーション反応を行った。次に、これらの反応産物を大腸菌DH5α(F−endA1 glnV44 thi−1 recA1 relA1 gyrA96 deoR nupG lacZΔM15 hsdR17λ−)の形質転換に用いて、次に、細胞をSOB培地(組成:1L当たり20gトリプトン、5g酵母エキス、10mM NaCl、2.5mM KCl、10mM MgCl2、10mM MgSO4)と混合した。形質転換後、次に、LB培地(組成:1L当たり10gトリプトン、5g酵母エキス、10g塩化ナトリウム)、1.2%寒天及び30μg/mLのカナマイシンを含有するLB寒天培地のプレート上に細胞を蒔き、37℃で一晩培養した。1個のコロニーを2mLのLB培地に置き、37℃一晩でインキュベートすることによりコロニーPCRを行って、インサートの存在を確認した。翌日、鋳型として3μLの培養物、センスプライマーとしてT7プロモーター(5’−TAATACGACTCACTATAGGG−3’)(配列番号16)及びアンチセンスプライマーとしてT7ターミネーター(5’−GCTAGTTATTGCTCAGCGG−3’)(配列番号17)を用いてPCRを行った。PCR条件は、Taqポリメラーゼ(0.375ユニット、ファーメンタス、カナダ、オンタリオ州バーリントン)を用いた以外は上述と同一であった。次に、DNAミニプレップキット(GEヘルスケア、カナダ、ケベック州ベ・デュルフ(Baie d'Urfe))を用いて、所望のインサートを含有するDNAを精製した。
【0066】
プラスミドDNA増幅及び配列決定のため、大腸菌DH5αにおいてDNAクローニングを行った。組換えタンパク質の発現のために大腸菌BL21(DE3)(インビトロジェン)を用いた。LB培地において37℃にて200rpmで振盪しつつ、大腸菌を通常の方法で増殖させた。アンピシリン又はカナマイシン(100μg/mL)を適宜培地に組み入れた。
【0067】
(2)組換えタンパク質発現及び精製
BL21(DE3)pLysSコンピテント細胞は、T7プロモーターの制御下にありリボソーム結合部位を有する任意の遺伝子からの、高効率のタンパク質発現を可能にする。BL21(DE3)pLysSは、lac UV5プロモーターの制御下においてT7 RNAポリメラーゼをコードするT7バクテリオファージ遺伝子Iを含有するλ−DE3に対し溶原性である。BL21(DE3)pLysSは、T7リゾチームをコードする遺伝子を保有するプラスミド、pLysSも含有する。T7リゾチームは、T7プロモーターの制御下における標的遺伝子のバックグラウンド発現レベルを低下させるが、IPTGによる誘導後に達成される発現のレベルに干渉しない。標的DNAプラスミドを用いて、BL21コンピテント細胞をトランスフェクトした。約0.5gのDNAを含有する0.5μLのプラスミドDNAをトランスフェクションに用いた。BL21コンピテント細胞は−80℃で保存した。BL21細胞のアリコート(20μL)を解凍し、氷上に置いた。0.5μLのプラスミドDNAをコンピテント細胞と混合し、氷上に60分間置いた。氷上におけるインキュベーション後に、このプラスミドDNAを含有する細胞に、45℃水浴において45秒間「熱ショック」を与え、直ちに更に2分間氷上に置いた。次に、細菌細胞に30μLのLB培地を添加し、37℃で1時間振盪した。続いて、カナマイシン(終濃度:100μg/mL)を含有する寒天/LBプレート上にこの細胞を蒔いた。このプレートを37℃で一晩インキュベートした。
【0068】
組換えプロテインAドメインの発現のため、大腸菌BL21にDNAプラスミドを形質転換した。一晩培養した培養物を新鮮な培地に接種し、OD600(600nmにおける光学密度)が約0.5となるまで増殖させた。イソプロピルベータ−D−1−チオガラクトピラノシド(IPTG)を1mMの濃度となるよう添加し、更に15時間18℃で培養物を増殖させた。ソルヴァールGS−3ローターによる7,000rpm、10分間の遠心分離により細胞を収集した。
【0069】
プロテアーゼ阻害剤(ロシュアプライドサイエンス)、リゾチーム(200μg/mL)及びDNase I(3μg/mL)を含有するリン酸緩衝食塩水(PBS)にペレットを再懸濁した。凍結/融解サイクルの反復により細胞を溶解した。細胞デブリを遠心分離により除去した。
【0070】
pETM11ベクターにおいて発現した組換えタンパク質は、アミノ末端Hisタグを含有した。Hisタグ融合タンパク質はNi−NTAカラム(キアゲン)を用いて精製し、PBSに対して透析した。
【0071】
pET24aベクターにおいて発現した組換えタンパク質は、Hisタグを含有していない。発現した融合タンパク質を、ヒトIgGアフィニティーカラムを用いて精製した。
【0072】
(3)PCRによる部位特異的突然変異誘発
PCRに基づく部位特異的な突然変異誘発方法を用いてZ又はBドメインに変異を導入した。即ち、所望の変異を保有する重複するオリゴヌクレオチドを適切な隣接プライマーと組み合わせ、2個の重複する変異体産物を得た。変異したドメインを適切な発現ベクターに方向性を考慮してサブクローニングした。全ての変異はDNA配列決定により確認した。
【0073】
(4)ポリアクリルアミドゲル電気泳動(SDS−PAGE)によるタンパク質解析
ポリアクリルアミドゲルにおいてドデシル硫酸ナトリウム(SDS)存在下で電気泳動を行った。試料(10μL)を10μLのサンプルバッファー(62.5mM Tris−HCl、pH6.8、2%SDS、5%メルカプトエタノール、10%グリセロール及び0.0025%ブロモフェノールブルー(brophenol blue))と混合し、90℃で2分間加熱し、冷却し、ゲルにロードした。バイオラッドから購入された装置にて75mAにて電気泳動を行った。5:5:1メタノール/水/酢酸(acidic acid)に溶解した0.5mg/mLクーマシーブルー溶液中でゲルを染色し、電子レンジ内で加熱した水中で脱染した。
【0074】
(5)多孔性ビーズの合成
8.2gのメタクリル酸グリシジル(三菱レイヨン社製)、65.9gのトリメタクリル酸トリメチロールプロパン(サルトマー社製)及び90.6gのモノメタクリル酸グリセロール(NOF社製)を245.8gの2−オクタノン(東洋合成社製)及び62gのアセトフェノン(和光純薬社製)に溶解し、2gの2,2’−アゾイソブチロニトリル(和光純薬社製)を溶液に添加して、有機モノマー溶液を調製した。
【0075】
8.5gのポリビニルアルコール(「PVA−217」、クラレ社製)、0.43gのドデシル硫酸ナトリウム(「Emal 10G」、花王社製)及び21.3gの硫酸ナトリウム(和光純薬社製)を、4240gの蒸留水に添加した。混合物を一晩撹拌して、水溶液を調製した。
【0076】
得られた水溶液をセパラブル・フラスコ(7L)に入れた。セパラブル・フラスコは、温度計、撹拌翼及び冷却管を備えており、これを温水浴に置いた。窒素雰囲気下600rpmで水溶液を撹拌した。水溶液の温度が85℃に達したら、滴下漏斗を用いて有機モノマー溶液を水溶液に添加した。混合物を5時間撹拌した。
【0077】
反応溶液を冷却した後、反応溶液をポリプロピレン瓶(5L)に移した。反応溶液を、ビーズが浮遊するまで静置した。次に、瓶底から不要な水を吸引した。続いて反応溶液にアセトンを添加し、ビーズを沈殿させた。反応溶液を3分間静置させた後、デカンテーションによりアセトンを除去した。この操作を2回反復した後、水を添加して、ビーズを沈殿させた。混合物を3分間静置した後、混合物をデカンテーションに付した。ビーズ分散液の分散媒をアセトンに交換した後、混合物を一晩風乾した。次に、真空乾燥機を用いて混合物を乾燥して、90gの多孔性ビーズ(以下、「PB」と称する)を得た。PBの平均粒子径は43μmであり、PBの比表面積は83m2/gであった。
【0078】
(6)Hisタグを有する4HDS(4HDS(+))の調製
プロテインAドメインZのHDS変異体の4コピーを、マルチクローニング部位の前にヒスチジンタグをコードする改変型pETM−11ベクターにクローニングする。大腸菌において発現すると、このpETM−4HDSコンストラクトは、配列番号10に示す配列を有するタンパク質を産生する。4HDS(+)と呼ばれるこのタンパク質は、N末端(His)7タグ、Tev切断配列ENLYFQG(配列番号18)及びATKASK(配列番号15)リンカー(アンカー)を特色とする。2個のドメイン間残基、EF(緑色)は、クローニングに用いたEcoRI制限酵素部位に由来する(図4)。
【0079】
(7)Hisタグを有さない4HDS(4HDS(−))の調製
上述のように、4HDS(+)タンパク質はN末端にTev切断部位を含有する。TEVプロテアーゼは、タバコエッチウイルス(TEV)において発見された高度に部位特異的なシステインプロテアーゼである。この酵素の最適な認識配列は、Glu−Asn−Leu−Tyr−Phe−Gln−(Gly/Ser)(又はENLYFQ(G/S))(配列番号19)であり、切断は、GlnとGly/Ser残基との間で行われる。本発明者らは、TEV酵素(MoBiTech)を用いて、標準的な消化及び精製プロトコールに従って4HDS(+)タンパク質を消化し、Hisタグ配列を除去した。Tev切断により、4HDS(−)と呼ばれるタンパク質を産生した。4HDS(−)のアミノ酸配列を配列番号11に示す。
【0080】
(8)Hisタグを有するX03(X03(+))の調製
4HDS(+)のクローニングに関して記載されている手順と同じ手順を用いて、ヒスチジン(histine)タグ及びTev切断部位が先行するZドメインの4タンデム反復を含有するX03(+)を調製することができる。X03 DNAは、ヒスチジンタグとTev切断配列との間に(His)6タグ及び10個の追加的な残基(PMSDYDIPTT)(配列番号20)を含有する親pETM−11ベクターにサブクローニングする。特異的なアンカー又はリンカー配列は、この構築物に導入されていない。
【0081】
X03(+)のアミノ酸配列を配列番号12に示す。
【0082】
(9)Hisタグを有さないX03(X03(−))の調製
本発明者らは、TEV酵素(MoBiTech)を用いて、標準的な消化及び精製プロトコールに従ってX03(+)タンパク質を消化し、Hisタグ配列を除去した。得られたタンパク質をX03(−)と呼ぶ。X03(−)のアミノ酸配列を配列番号13に示す。
【0083】
(10)ビーズへの4HDS(−)の固定化
100mLの0.1Mリン酸バッファー(pH:6.8)中に11mLのPB及び200mgの4HDS(−)が分散している混合物を調製した。21gの硫酸ナトリウムを添加した後、混合物を25℃で24時間振盪して、4HDS(−)をPBに固定化した。得られたビーズを濾過し、100mLの5Mチオグリセロールと混合し、30℃で4時間反応させて、残存するエポキシ基をブロッキングした。ビーズをPBS/0.05%Tween20で洗浄し、PBSで洗浄して、11mLの4HDS(−)固定化多孔性ビーズ(4HDS(−)−PB)を得た。
【0084】
(11)ビーズへのX03(−)の固定化
4HDS(−)の代わりにX03(−)を用いる以外は上述の固定化実施例と同じ方法により、X03(−)固定化ビーズ(X03(−)−PB)を得た。
【0085】
(12)動的結合能(DBC)の測定
「AKTAprime plus」(GEヘルスケア)クロマトグラフィーシステムによりDBC測定を行った。カラム(内径:0.5cm)に、それぞれHDS(−)−PB、X03(−)−PB又はMabSelect SuRe(GEヘルスケア)をベッド高20cmまで充填した。20mMリン酸バッファー(pH:7.4)を用いて各カラムを平衡化した後、ヒトポリクローナルIgG(5mg/mL)を含有する20mMリン酸バッファー(pH:7.4)を、各カラムに300cm/時間の線形流速でポンプ注入した。DBCを10%ブレークスルーで計算した。4HDS(−)−PB、X03(−)−PB及びMabselect SuReのアルカリ処理を行わない初期のDBCは、それぞれ46mg/mL、45mg/mL及び42mg/mLであった。
【0086】
(13)アルカリ抵抗性の測定
測定実施例1において用いた各カラムを、「AKTAprime plus」機器に設置し、40mLの0.5N水酸化ナトリウムを各カラム内に流した。各カラムを装置から取り出し、密封し、室温で所定の時間静置し(0.5N NaOH浸漬実験)、次に、20mMリン酸バッファー(pH:7.4)で洗浄した。上述の動的結合測定と同じ方法で0.5N水酸化ナトリウム浸漬後のDBCを測定した。0.5N水酸化ナトリウム処理時間に対するDBC保持率を図3に示す。図3に示すように、アフィニティーマトリクス4HDS(−)−PBは、X03(−)−PBよりも、さらに最もよく知られた市販のアルカリ抵抗性プロテインAアフィニティーマトリクスであるMabSelect SuReよりも、アルカリ処理後のDBC保持率において顕著に改善した性能を有する。
図1
図2
図3
図4
【配列表】
[この文献には参照ファイルがあります.J-PlatPatにて入手可能です(IP Forceでは現在のところ参照ファイルは掲載していません)]