【実施例】
【0053】
実施例1 Zドメイン部位特異的突然変異、及びアルカリ抵抗性の評価
黄色ブドウ球菌(Staphylococcus aureus)のプロテインAのBドメインの変異体であるZドメイン(配列番号1)を鋳型として用いて、Quickchange(ストラタジーン社)により突然変異を誘発させ、1、2又は3個のアミノ酸残基の部位特異的突然変異を含む変異体を作製した。ニッケルアフィニティーカラム(キアゲン社)におけるタンパク質精製を容易にするため、(His)6タグを備えるpETM11発現ベクターに、Zドメイン変異体をクローニングした。GEヘルスケア社製エポキシ活性化樹脂、又は(5)多孔性ビーズの合成セクションに示す独自開発したエポキシ樹脂に、精製Zドメイン変異体を固定化した。後述のように、各Zドメイン変異体のIgG結合能及びアルカリ抵抗性能力を評価した。
【0054】
Zドメイン変異体のアルカリ抵抗性を評価するため、大腸菌で各変異体タンパク質を発現させ、ニッケルアフィニティーカラム、続いてFPLCにより精製した。精製タンパク質(FPLCに基づく純度>90%)をエポキシ樹脂に固定化し、アフィニティーカラムを作製した。Z変異体アフィニティーカラムを0.5 NaOH中で、異なる時間インキュベートした。アルカリ溶液における27時間のインキュベーション後、カラムをPBSで十分に洗浄し、pHを中性に戻した。続いて、ヒトポリクローナルIgGをカラムにロードした。PBSで3回洗浄した後、結合しているIgGをカラムからpH3.2溶出バッファー中に溶出した。溶出したIgG試料の280nmでのUV吸光度を測定して、カラムのIgG結合能を定量化した。IgG結合能は、アルカリ処理前及びアルカリ処理中の様々な時点で測定した。本発明において作製されたZドメイン変異体を
図1に示し、評価結果を表1及び
図2に示す。個々の、又は様々に組み合わせた1以上のAsnのHis、Ser及びAspへの変異は、親Zドメインよりも優れたアルカリ抵抗性を示す単一、二重又は三重部位Zドメイン突然変異体のパネルの作製を可能にした(表1及び
図2)。
【0055】
【表1】
【0056】
実施例2 Zドメイン及び三重変異体N3H/N6D/N23Sの4タンデムコピー又は4HDSの発現ベクターの構築
クローニング手順のフローチャートを
図4に示す。野生型Zドメイン(
図4(a))(NcoI−EcoRIによりpETM11にライゲーションされている)を構成ブロックとして用いて、4HDS(Zドメイン及び三重変異体N3H/N6D/N23Sの4タンデムコピー)構築物を作製した。
【0057】
Quickchange PCRプロトコール(ストラタジーン社)を用いてN3H/N6D/N23S変異をZドメインに連続的に導入し、単一コピーのHDS(配列番号8)を作製した(
図4(b))。変異の存在は、DNA配列決定により検証した。
【0058】
次に、隣接制限酵素部位としてEcoRI及びSacIを用いた第二のHDSドメインの挿入により、終止のための終止コドンを有する2×HDSドメインを作製した(
図4(c))。
【0059】
2コピーのEcoRI−EcoRI HDSドメインの挿入により、4×HDSドメイン(配列番号10)構築物を作製した。
【0060】
Quickchange PCRを用いて構築物のN末端におけるNcoI部位を除去してリンカー配列(ATKASK、配列番号15)を挿入し、最終的な4×HDSプラスミドを作製した(
図4(d))。次に、この4×HDS配列をNdeI−XhoI制限酵素を用いてpET24aベクター(ノバジェン)にサブクローニングした。
【0061】
代替的な制限酵素部位を用いて一部のドメインが挿入された以外は同様の方法で、Zドメインの4タンデム反復、X03を構築した(
図4(e))。
【0062】
4×HDSコンストラクトの最終タンパク質産物の配列を下に記す。
【0063】
4HDSのアミノ酸配列(変異した残基は二重下線で特定;クローニング由来のドメイン間残基は下線で特定;N末端伸長は太字下線で特定、配列番号9)。
【化1】
【0064】
実施例1及び2の方法及び材料
(1)プロテインA発現ベクターの構築
pETM11ベクター(ヨーロピアンモレキュラーバイオロジーラボラトリー)又はpET24aベクター(ノバジェン)のいずれかにおいて全構築物を発現させた。プロテインA遺伝子を含有するTAP−Tagプラスミド(EMBL)を鋳型として用いたPCR法により、オリジナルのプロテインA遺伝子を増幅した。PCRによる部位特異的突然変異誘発(PCR assisted site-directed mutagenesis)によりZドメインを作製した(後述を参照)。
【0065】
フージョン(Phusion)ポリメラーゼ(0.5ユニット、ニューイングランドバイオラボ、米国マサチューセッツ州イプスウィッチ)によりプロテインA遺伝子を増幅した。PCR条件を次に記す:94℃1分間、25サイクルの94℃30秒間、55℃30秒間及び72℃2.5分間、続いて、最後の伸長ステップ、72℃10分間。T4 DNAリガーゼ(0.5ユニット、インビトロジェン、米国カリフォルニア州カールスバッド)を用いて室温で16時間ライゲーション反応を行った。次に、これらの反応産物を大腸菌DH5α(F−endA1 glnV44 thi−1 recA1 relA1 gyrA96 deoR nupG lacZΔM15 hsdR17λ−)の形質転換に用いて、次に、細胞をSOB培地(組成:1L当たり20gトリプトン、5g酵母エキス、10mM NaCl、2.5mM KCl、10mM MgCl
2、10mM MgSO
4)と混合した。形質転換後、次に、LB培地(組成:1L当たり10gトリプトン、5g酵母エキス、10g塩化ナトリウム)、1.2%寒天及び30μg/mLのカナマイシンを含有するLB寒天培地のプレート上に細胞を蒔き、37℃で一晩培養した。1個のコロニーを2mLのLB培地に置き、37℃一晩でインキュベートすることによりコロニーPCRを行って、インサートの存在を確認した。翌日、鋳型として3μLの培養物、センスプライマーとしてT7プロモーター(5’−TAATACGACTCACTATAGGG−3’)(配列番号16)及びアンチセンスプライマーとしてT7ターミネーター(5’−GCTAGTTATTGCTCAGCGG−3’)(配列番号17)を用いてPCRを行った。PCR条件は、Taqポリメラーゼ(0.375ユニット、ファーメンタス、カナダ、オンタリオ州バーリントン)を用いた以外は上述と同一であった。次に、DNAミニプレップキット(GEヘルスケア、カナダ、ケベック州ベ・デュルフ(Baie d'Urfe))を用いて、所望のインサートを含有するDNAを精製した。
【0066】
プラスミドDNA増幅及び配列決定のため、大腸菌DH5αにおいてDNAクローニングを行った。組換えタンパク質の発現のために大腸菌BL21(DE3)(インビトロジェン)を用いた。LB培地において37℃にて200rpmで振盪しつつ、大腸菌を通常の方法で増殖させた。アンピシリン又はカナマイシン(100μg/mL)を適宜培地に組み入れた。
【0067】
(2)組換えタンパク質発現及び精製
BL21(DE3)pLysSコンピテント細胞は、T7プロモーターの制御下にありリボソーム結合部位を有する任意の遺伝子からの、高効率のタンパク質発現を可能にする。BL21(DE3)pLysSは、lac UV5プロモーターの制御下においてT7 RNAポリメラーゼをコードするT7バクテリオファージ遺伝子Iを含有するλ−DE3に対し溶原性である。BL21(DE3)pLysSは、T7リゾチームをコードする遺伝子を保有するプラスミド、pLysSも含有する。T7リゾチームは、T7プロモーターの制御下における標的遺伝子のバックグラウンド発現レベルを低下させるが、IPTGによる誘導後に達成される発現のレベルに干渉しない。標的DNAプラスミドを用いて、BL21コンピテント細胞をトランスフェクトした。約0.5gのDNAを含有する0.5μLのプラスミドDNAをトランスフェクションに用いた。BL21コンピテント細胞は−80℃で保存した。BL21細胞のアリコート(20μL)を解凍し、氷上に置いた。0.5μLのプラスミドDNAをコンピテント細胞と混合し、氷上に60分間置いた。氷上におけるインキュベーション後に、このプラスミドDNAを含有する細胞に、45℃水浴において45秒間「熱ショック」を与え、直ちに更に2分間氷上に置いた。次に、細菌細胞に30μLのLB培地を添加し、37℃で1時間振盪した。続いて、カナマイシン(終濃度:100μg/mL)を含有する寒天/LBプレート上にこの細胞を蒔いた。このプレートを37℃で一晩インキュベートした。
【0068】
組換えプロテインAドメインの発現のため、大腸菌BL21にDNAプラスミドを形質転換した。一晩培養した培養物を新鮮な培地に接種し、OD600(600nmにおける光学密度)が約0.5となるまで増殖させた。イソプロピルベータ−D−1−チオガラクトピラノシド(IPTG)を1mMの濃度となるよう添加し、更に15時間18℃で培養物を増殖させた。ソルヴァールGS−3ローターによる7,000rpm、10分間の遠心分離により細胞を収集した。
【0069】
プロテアーゼ阻害剤(ロシュアプライドサイエンス)、リゾチーム(200μg/mL)及びDNase I(3μg/mL)を含有するリン酸緩衝食塩水(PBS)にペレットを再懸濁した。凍結/融解サイクルの反復により細胞を溶解した。細胞デブリを遠心分離により除去した。
【0070】
pETM11ベクターにおいて発現した組換えタンパク質は、アミノ末端Hisタグを含有した。Hisタグ融合タンパク質はNi−NTAカラム(キアゲン)を用いて精製し、PBSに対して透析した。
【0071】
pET24aベクターにおいて発現した組換えタンパク質は、Hisタグを含有していない。発現した融合タンパク質を、ヒトIgGアフィニティーカラムを用いて精製した。
【0072】
(3)PCRによる部位特異的突然変異誘発
PCRに基づく部位特異的な突然変異誘発方法を用いてZ又はBドメインに変異を導入した。即ち、所望の変異を保有する重複するオリゴヌクレオチドを適切な隣接プライマーと組み合わせ、2個の重複する変異体産物を得た。変異したドメインを適切な発現ベクターに方向性を考慮してサブクローニングした。全ての変異はDNA配列決定により確認した。
【0073】
(4)ポリアクリルアミドゲル電気泳動(SDS−PAGE)によるタンパク質解析
ポリアクリルアミドゲルにおいてドデシル硫酸ナトリウム(SDS)存在下で電気泳動を行った。試料(10μL)を10μLのサンプルバッファー(62.5mM Tris−HCl、pH6.8、2%SDS、5%メルカプトエタノール、10%グリセロール及び0.0025%ブロモフェノールブルー(brophenol blue))と混合し、90℃で2分間加熱し、冷却し、ゲルにロードした。バイオラッドから購入された装置にて75mAにて電気泳動を行った。5:5:1メタノール/水/酢酸(acidic acid)に溶解した0.5mg/mLクーマシーブルー溶液中でゲルを染色し、電子レンジ内で加熱した水中で脱染した。
【0074】
(5)多孔性ビーズの合成
8.2gのメタクリル酸グリシジル(三菱レイヨン社製)、65.9gのトリメタクリル酸トリメチロールプロパン(サルトマー社製)及び90.6gのモノメタクリル酸グリセロール(NOF社製)を245.8gの2−オクタノン(東洋合成社製)及び62gのアセトフェノン(和光純薬社製)に溶解し、2gの2,2’−アゾイソブチロニトリル(和光純薬社製)を溶液に添加して、有機モノマー溶液を調製した。
【0075】
8.5gのポリビニルアルコール(「PVA−217」、クラレ社製)、0.43gのドデシル硫酸ナトリウム(「Emal 10G」、花王社製)及び21.3gの硫酸ナトリウム(和光純薬社製)を、4240gの蒸留水に添加した。混合物を一晩撹拌して、水溶液を調製した。
【0076】
得られた水溶液をセパラブル・フラスコ(7L)に入れた。セパラブル・フラスコは、温度計、撹拌翼及び冷却管を備えており、これを温水浴に置いた。窒素雰囲気下600rpmで水溶液を撹拌した。水溶液の温度が85℃に達したら、滴下漏斗を用いて有機モノマー溶液を水溶液に添加した。混合物を5時間撹拌した。
【0077】
反応溶液を冷却した後、反応溶液をポリプロピレン瓶(5L)に移した。反応溶液を、ビーズが浮遊するまで静置した。次に、瓶底から不要な水を吸引した。続いて反応溶液にアセトンを添加し、ビーズを沈殿させた。反応溶液を3分間静置させた後、デカンテーションによりアセトンを除去した。この操作を2回反復した後、水を添加して、ビーズを沈殿させた。混合物を3分間静置した後、混合物をデカンテーションに付した。ビーズ分散液の分散媒をアセトンに交換した後、混合物を一晩風乾した。次に、真空乾燥機を用いて混合物を乾燥して、90gの多孔性ビーズ(以下、「PB」と称する)を得た。PBの平均粒子径は43μmであり、PBの比表面積は83m
2/gであった。
【0078】
(6)Hisタグを有する4HDS(4HDS(+))の調製
プロテインAドメインZのHDS変異体の4コピーを、マルチクローニング部位の前にヒスチジンタグをコードする改変型pETM−11ベクターにクローニングする。大腸菌において発現すると、このpETM−4HDSコンストラクトは、配列番号10に示す配列を有するタンパク質を産生する。4HDS(+)と呼ばれるこのタンパク質は、N末端(His)7タグ、Tev切断配列ENLYFQG(配列番号18)及びATKASK(配列番号15)リンカー(アンカー)を特色とする。2個のドメイン間残基、EF(緑色)は、クローニングに用いたEcoRI制限酵素部位に由来する(
図4)。
【0079】
(7)Hisタグを有さない4HDS(4HDS(−))の調製
上述のように、4HDS(+)タンパク質はN末端にTev切断部位を含有する。TEVプロテアーゼは、タバコエッチウイルス(TEV)において発見された高度に部位特異的なシステインプロテアーゼである。この酵素の最適な認識配列は、Glu−Asn−Leu−Tyr−Phe−Gln−(Gly/Ser)(又はENLYFQ(G/S))(配列番号19)であり、切断は、GlnとGly/Ser残基との間で行われる。本発明者らは、TEV酵素(MoBiTech)を用いて、標準的な消化及び精製プロトコールに従って4HDS(+)タンパク質を消化し、Hisタグ配列を除去した。Tev切断により、4HDS(−)と呼ばれるタンパク質を産生した。4HDS(−)のアミノ酸配列を配列番号11に示す。
【0080】
(8)Hisタグを有するX03(X03(+))の調製
4HDS(+)のクローニングに関して記載されている手順と同じ手順を用いて、ヒスチジン(histine)タグ及びTev切断部位が先行するZドメインの4タンデム反復を含有するX03(+)を調製することができる。X03 DNAは、ヒスチジンタグとTev切断配列との間に(His)
6タグ及び10個の追加的な残基(PMSDYDIPTT)(配列番号20)を含有する親pETM−11ベクターにサブクローニングする。特異的なアンカー又はリンカー配列は、この構築物に導入されていない。
【0081】
X03(+)のアミノ酸配列を配列番号12に示す。
【0082】
(9)Hisタグを有さないX03(X03(−))の調製
本発明者らは、TEV酵素(MoBiTech)を用いて、標準的な消化及び精製プロトコールに従ってX03(+)タンパク質を消化し、Hisタグ配列を除去した。得られたタンパク質をX03(−)と呼ぶ。X03(−)のアミノ酸配列を配列番号13に示す。
【0083】
(10)ビーズへの4HDS(−)の固定化
100mLの0.1Mリン酸バッファー(pH:6.8)中に11mLのPB及び200mgの4HDS(−)が分散している混合物を調製した。21gの硫酸ナトリウムを添加した後、混合物を25℃で24時間振盪して、4HDS(−)をPBに固定化した。得られたビーズを濾過し、100mLの5Mチオグリセロールと混合し、30℃で4時間反応させて、残存するエポキシ基をブロッキングした。ビーズをPBS/0.05%Tween20で洗浄し、PBSで洗浄して、11mLの4HDS(−)固定化多孔性ビーズ(4HDS(−)−PB)を得た。
【0084】
(11)ビーズへのX03(−)の固定化
4HDS(−)の代わりにX03(−)を用いる以外は上述の固定化実施例と同じ方法により、X03(−)固定化ビーズ(X03(−)−PB)を得た。
【0085】
(12)動的結合能(DBC)の測定
「AKTAprime plus」(GEヘルスケア)クロマトグラフィーシステムによりDBC測定を行った。カラム(内径:0.5cm)に、それぞれHDS(−)−PB、X03(−)−PB又はMabSelect SuRe(GEヘルスケア)をベッド高20cmまで充填した。20mMリン酸バッファー(pH:7.4)を用いて各カラムを平衡化した後、ヒトポリクローナルIgG(5mg/mL)を含有する20mMリン酸バッファー(pH:7.4)を、各カラムに300cm/時間の線形流速でポンプ注入した。DBCを10%ブレークスルーで計算した。4HDS(−)−PB、X03(−)−PB及びMabselect SuReのアルカリ処理を行わない初期のDBCは、それぞれ46mg/mL、45mg/mL及び42mg/mLであった。
【0086】
(13)アルカリ抵抗性の測定
測定実施例1において用いた各カラムを、「AKTAprime plus」機器に設置し、40mLの0.5N水酸化ナトリウムを各カラム内に流した。各カラムを装置から取り出し、密封し、室温で所定の時間静置し(0.5N NaOH浸漬実験)、次に、20mMリン酸バッファー(pH:7.4)で洗浄した。上述の動的結合測定と同じ方法で0.5N水酸化ナトリウム浸漬後のDBCを測定した。0.5N水酸化ナトリウム処理時間に対するDBC保持率を
図3に示す。
図3に示すように、アフィニティーマトリクス4HDS(−)−PBは、X03(−)−PBよりも、さらに最もよく知られた市販のアルカリ抵抗性プロテインAアフィニティーマトリクスであるMabSelect SuReよりも、アルカリ処理後のDBC保持率において顕著に改善した性能を有する。