【実施例】
【0040】
以下、本発明を実施例によりさらに詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0041】
(実施例1)
鉄サレン錯体の合成を、次のように行った。
【0042】
【化25】
【0043】
4-nitrophenol(25g, 0.18mol)、hexamethylene tetramine (25g, 0.18mol)、 polyphosphoric acid (200ml)の混合物を1時間100℃で攪拌した。その後、その混合物を500mlの酢酸エチルと1Lの水の中に入れ、完全に溶解するまで攪拌した。さらにその溶液に400mlの酢酸エチルを追加で加えたところその溶液は2つの相に分離し、水の相を取り除き、残りの化合物を塩性溶液(溶剤)で2回洗浄し、無水MgSO4で乾燥させた結果、compound 2が17g(収率57%)合成できた。
【0044】
【化26】
【0045】
compound 2 (17g, 0.10mol), acetic anhydride (200ml), H
2SO
4 (少々)を室温で1時間攪拌させた。得られた溶液は、氷水(2L)の中に0.5時間混ぜ、加水分解を行った。得られた溶液をフィルターにかけ、大気中で乾燥させたところ白い粉末状のものが得られた。酢酸エチルを含む溶液を使ってその粉末を再結晶化させたところ、24gのCompound 3(収率76%)の白い結晶を得ることができた。
【0046】
【化27】
【0047】
compound 3 (24g, 77mmolとメタノール(500ml)に10%のパラジウムを担持したカーボン(2.4g)の混合物を一晩 1.5気圧の水素還元雰囲気で還元した。終了後、フィルターでろ過したところ茶色油状のcompound 4 (21g)が合成できた。
【0048】
【化28】
【0049】
無水ジクロメタン(DCM) (200ml)にcompound 4 (21g, 75mmol), di(tert-butyl) dicarbonate (18g, 82mmol)を窒素雰囲気で一晩攪拌した。得られた溶液を真空中で蒸発させた後、メタノール(100ml)で溶解させた。その後、水酸化ナトリウム(15g, 374mmol)と水(50ml)を加え、5時間還流させた。その後冷却し、フィルターでろ過し、水で洗浄後、真空中て乾燥させたところ茶色化合物が得られた。
得られた化合物は、シリカジェルを使ったフラッシュクロマトグラフィーを2回行うことで、10gのcompound 6(収率58%)が得られた。
【0050】
【化29】
【0051】
無水エタノール400mlの中にcompound 6 (10g, 42mmol)を入れ、加熱しながら還流させ、無水エタノール20mlにエチレンジアミン(1.3g, 21mmol)を0.5時間攪拌しながら数滴加えた。そして、その混合溶液を氷の容器に入れて冷却し15分間かき混ぜた。その後、200mlのエタノールで洗浄しフィルターをかけ、真空で乾燥させたところcompound 7が8.5g (収率82%)で合成できた。
【0052】
【化30】
【0053】
無水メタノール(50ml)の中にcompound 7 (8.2g, 16mmol)、triethylamine (22ml, 160mmol)をいれ、10mlメタノールの中にFeCl
3(2.7g, 16mmol)を加えた溶液を窒素雰囲気で混合した。室温窒素雰囲気で1時間混合したところ茶色の化合物が得られた。その後、真空中で乾燥させた。得られた化合物はジクロロメタン400mlで希釈し、塩性溶液で2回洗浄し、真空中で乾燥させたところcomplex Aが得られた。
得られた化合物を、ジエチルエーテルとパラフィンの溶液中で再結晶化させ高速液化クロマトグラフィーで測定したところ、純度95%以上のcomplex A(鉄サレン錯体)5.7g(収率62%)を得た。
その後、両端に、−NHR
1、水素結合を多く有する置換基−CO
2Me、−CO(OCH
2CH
2)
nOCH
3 又は
【化31】
をアシル化、Et3N等の反応ステップを経て、結合させた。
【0054】
(実施例2)
鉄サレン錯体の合成を、次のように行った。
【化32】
【0055】
4-nitrophenol(25g, 0.18mol)、hexamethylene tetramine (25g, 0.18mol)、 polyphosphoric acid (200ml)の混合物を1時間100℃で攪拌した。その後、その混合物を500mlの酢酸エチルと1Lの水の中に入れ、完全に溶解するまで攪拌した。さらにその溶液に400mlの酢酸エチルを追加で加えたところその溶液は2つの相に分離し、水の相を取り除き、残りの化合物を塩性溶液で2回洗浄し、無水MgSO4で乾燥させた結果、compound 2が17g(収率57%)合成できた。
【0056】
【化33】
【0057】
Compound 2 (17g, 0.10mol) compound 2 (17g, 0.10mol), acetic anhydride (200ml), H
2SO
4(少々)を室温で1時間攪拌させた。得られた溶液は、氷水(2L)の中に0.5時間混ぜ、加水分解を行った。得られた溶液をフィルターにかけ、大気中で乾燥させたところ白い粉末状のものが得られた。酢酸エチルを含む溶液を使ってその粉末を再結晶化させたところ、24gのCompound 3(収率76%)の白い結晶を得ることができた。
【0058】
【化34】
【0059】
compound 3 (24g, 77mmolとメタノール(500ml)に10%のパラジウムを担持したカーボン(2.4g)の混合物を一晩 1.5気圧の水素還元雰囲気で還元した。終了後、フィルターでろ過したところ茶色油状のcompound 4 (21g)が合成できた。
【0060】
【化35】
【0061】
無水ジクロメタン(DCM) (200ml)にcompound 4 (21g, 75mmol), di(tert-butyl) dicarbonate (18g, 82mmol)を窒素雰囲気で一晩攪拌した。得られた溶液を真空中で蒸発させた後、メタノール(100ml)で溶解させた。その後、水酸化ナトリウム(15g, 374mmol)と水(50ml)を加え、5時間還流させた。その後冷却し、フィルターでろ過し、水で洗浄後、真空中て乾燥させたところ茶色化合物がえられた。得られた化合物は、シリカジェルを使ったフラッシュクロマトグラフィーを2回行うことで、10gのcompound 6(収率58%)が得られた。
【0062】
【化36】
【0063】
無水エタノール400mlの中にcompound 6 (10g, 42mmol)を入れ、加熱しながら還流させ、無水エタノール20mlにエチレンジアミン(1.3g, 21mmol)を0.5時間攪拌しながら数滴加えた。そして、その混合溶液を氷の容器に入れて冷却し15分間かき混ぜた。その後、200mlのエタノールで洗浄しフィルターをかけ、真空で乾燥させたところcompound 7が8.5g (収率82%)で合成できた。
【0064】
【化37】
【0065】
無水メタノール(50ml)の中にcompound 7 (8.2g, 16mmol)、triethylamine (22ml, 160mmol)をいれ、10mlメタノールの中にFeCl
3(2.7g, 16mmol)を加えた溶液を窒素雰囲気で混合した。室温窒素雰囲気で1時間混合したところ茶色の化合物が得られた。その後、真空中で乾燥させた。得られた化合物はジクロロメタン400mlで希釈し、塩性溶液で2回洗浄し、Na2SO4で乾燥させ、真空中で乾燥させたところcomplex Aが得られた。得られた化合物はジエチルエーテルとパラフィンの溶液中で再結晶化させ高速液化クロマトグラフィーで測定したところ純度95%以上のcomplex A(鉄サレン錯体)5.7g(収率62%)を得た。
その後、両端に−NHR
1をアシル化、Et3N等の反応ステップを経て、結合させた。
【0066】
(実施例3)
鉄サレン錯体の合成を、次のように行った。
【化38】
その後、両端に−NHR
1をアシル化、Et3N等の反応ステップを経て、結合させた。
【0067】
(実施例4)
式(I)〜(IV)の化合物とそれに結合する化合物の電子の移動は第一原理計算で求めることができる。
このコンピュータシミュレーションを実現するシステムは。コンピュータとしての公知のハードウエア資源を備えるものであって、すなわち、メモリと、CPUなどの演算回路を備える演算装置と、演算結果を出力する表示手段を備えている。メモリは、既存の有機化合物または3次元構造を特定するデータと、コンピュータシミュレーションを実現するソフトウエア・プログラムを備えている。このソフトウエアは、各化合物の側鎖を追加・変更・削除し、所定の側鎖間で架橋し、記述のスピン電荷密度の高い領域を計算し、構造全体としてのスピン電荷密度を決定可能なものである。このプログラムとして、例えば、市販品(Dmol3、アクセルリス社)を利用することができる。
ユーザは化合物について、側鎖を追加する位置を入力し、または側鎖を変更し、あるいは削除するものを選択し、さらに、架橋を形成すべき箇所をメモリの支援プログラムを利用して演算装置に指定する。演算装置はこの入力値を受けて、スピン電荷密度を演算してその結果を表示画面に出力する。また、ユーザが既存の化合物の構造データをコンピュータシステムに追加することによって、既知の化合物についてのスピン電荷密度を得ることが出来る。
【0068】
鉄サレン錯体(化学式(I))とそのR
1部分に結合する電荷移動は、上記で求めた上向きと下向きのスピン電荷密度を三次元空間で積分すると求めることができる。
表1に電荷移動の演算結果を示す。表1においては、鉄サレン錯体(化学式(I))とそのR
1部分に結合する電荷移動を示した。マイナスは電子が増加していることを示す。プラスは電子が減っていることを示す。
【0069】
【表1】
【0070】
(実施例5)
【化39】
【0071】
【化40】
【0072】
【化41】
【0073】
上記式で示されるそれぞれの鉄サレン錯体を用いて、以下の実験を行った。
ラットL6細胞が30%のコンフルエントの状態の時に上記式で示される鉄サレン錯体粉末を磁石に引き寄せられるのが目視できる程度の量を培地にふりかけて48時間後に培地の状態を写真撮影した。
図1はラットL6細胞の培地がある角型フラスコに棒磁石を接触させた状態を示している。次いで、48時間後角型フラスコ底面の一端から他端までを撮影し、細胞数を算出した結果を
図2に示す。
図2において磁石から近位とは、角型フラスコ底面における磁石端面の投影面積内を示し、磁石から遠位とは、角型フラスコ底面において磁石端面と反対側にある領域を示す。
【0074】
図2に示すように、磁石から近位では鉄サレン錯体が引き寄せられて鉄サレン錯体の濃度が増し鉄サレン錯体のDNA抑制作用によって細胞数が遠位よりも極端に低いことが分かる。この結果、本発明による、磁性を持った薬剤と、磁力(磁気)発生手段とを備えたシステムによって、個体の目的とする患部や組織に薬剤を集中して存在させることが可能となる。
次に本発明に係る誘導装置の他の例について説明する。この誘導装置は、
図3に示すように重力方向に互いに向き合う一対の磁石230,232がスタンド234とクランプ235によって支持されており、磁石の間には金属板236が置かれている。一対の磁石間に金属板、特に鉄板をおくことにより、局所的に一様で強力な磁界を作り出すことができる。
【0075】
この誘導装置は磁石の代わりに電磁石を用いて発生磁力を可変にすることができる。また、XYZ方向に一対の磁力発生手段を移動できるようにして、テーブル上の固体の目的とする位置に磁力発生手段を移動させることができる。
この磁界の領域に固体の組織を置くことにより、この組織に薬剤を集中させることができる。体重約30グラムのマウスに既述の金属錯体(薬剤濃度5mg/ml(15mM))を静注して開腹し、右の腎臓を前記一対の磁石の間に来るようにマウスを鉄板の上に置く。
【0076】
使用した磁石は、信越化学工業株式会社製 品番:N50(ネオジウム系永久磁石) 残留磁束密度:1.39-1.44 Tである。このとき、右側の腎臓に与えられた磁場は約0.3(T)で左側の腎臓に与えられる磁場はその約1/10である。左の腎臓及び磁界を適用しない腎臓(コントロール)と共に、マウスの右腎に磁界を加えて10分後MRIでSNRをT1モード及びT2モードで測定した。その結果、
図4に示すように、磁界を加えた右腎(RT)が左腎(LT)及びコントロールに比較して薬剤を組織内に留め置くことができることが確認された。
【0077】
図5に、マウスにおけるメラノーマ成長に対するサレン錯体の効果を示す。メラノーマは、培養メラノーマ細胞(クローンM3メラノーマ細胞)の局所的移植によって、マウス尾腱においてin vivoに形成された。サレン錯体を尾腱の静脈から静脈投与し(50 mg/kg)、市販の棒磁石(630mT、円筒状ネオジウム磁石、長さ150mm、直径20mm)を用いて、局所的に磁場を印加した。サレン錯体を注入した直後に、メラノーマ部位に3時間棒磁石を接触させた。棒磁石の適用は、磁場強度が、メラノーマ浸潤が予想される部位に最大となるように、150mmの長さにわたって2週間の成長期間行った。
サレン錯体の初回注入の12日後に、メラノーマ浸潤の大きさを評価することによって、メラノーマの増大を評価した。
【0078】
図6に示すように、サレン錯体の代わりに、塩水を注入した塩水グループ(saline)では、メラノーマ増大は最大であった(100±17.2%)。一方、磁場を適用せずにサレン錯体を注入したSCグループでは、メラノーマ増大は緩やかに減少した(63.68±16.3%)。これに対して、磁場を適用しつつ(n=7〜10)サレン錯体を注入したSC+Magグループでは、ほとんどのメラノーマが消失した(9.05±3.42%)。
【0079】
図7に示すように、組織学的検討を、腫瘍増殖マーカーであるanti-Ki-67抗体及びanti-Cyclin D1抗体を用いて、ヘマトキシリン−エオジン染色及び免疫組織染色により行った。その結果、サレン錯体を注入した場合(SC)においてメラノーマの腫瘍増大が減少し、さらにサレン錯体に磁場の適用が組み合わされた場合にはほとんどが消失することが分かった。
【0080】
また、薬剤に磁場強度200 Oe(エルステッド)、周波数50kHzから200KHzの交流磁場を印加したところ2℃から10℃薬剤の温度が上昇した(
図8)。これは、体内投与時の温度に換算したところ39℃から47℃に相当しがん細胞を殺傷することが可能な温度域であることを確認した。