(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、前後進切替機構を含む無段変速機の制御は、一般的に、例えばマイクロコンピュータ等を用いた電子制御装置によって行われている。このような電子制御装置では、極めてまれにではあるが、マイクロコンピュータの不良、例えばRAM等のメモリやレジスタ等の不良(例えば書き込んだデータと読み出したデータが一致しない等)、論理演算回路の不良、及びクロック信号のばらつきなどが生じることが有り得る。また、ROMデータ(制御データ等)の設定・書込み間違い等も生じることが有り得る。
【0006】
このようなハード的な不良やROMデータの設定間違い等が発生した場合には、例えば、上述したクラッチ圧の制御目標値である目標クラッチ圧が異常になることによって、クラッチ圧が異常になることも考えられ得る。ここで、例えば、目標クラッチ圧が異常値になりクラッチ圧が抜けると、運転者の意図に反して、すなわち、走行したいにもかかわらず、エンジンの駆動力が駆動輪側に伝達されず、車両が走行できないといった状態になることも有り得る。また、例えば、このような異常状態が坂道上で生じると、車両がずり下がるおそれもある。しかしながら、従来、例えば、上述した目標クラッチ圧等の異常、すなわち前後進切替機構の制御値の合理性を判定することは考慮されていなかった。
【0007】
本発明は、上記問題点を解消する為になされたものであり、運転者の意思に反して、前後進切替機構の制御量がエンジンの駆動力を伝達できない異常な値か否かを検知することが可能な無段変速機の異常検知装置、及び無段変速機の異常検知方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明に係る無段変速機の異常検知装置は、無段変速機のレンジを選択する操作を受け付けるセレクト手段と、車両の速度を検出する車速検出手段と、エンジンと駆動輪との間に設けられ該駆動輪の正転と逆転とを切り替える前後進切替機構の動作を制御する
目標制御量を取得する取得手段と、セレクト手段により走行レンジが選択されており、車速検出手段により検出された車速が所定速度以上であり、かつ、取得手段により取得された前後進切替機構の
目標制御量がエンジンの駆動力を伝達できない値である場合に、前後進切替機構の
目標制御量が異常であると判定する判定手段とを備えることを特徴とする。
【0009】
また、本発明に係る無段変速機の異常検知方法は、無段変速機のレンジを選択する操作を受け付けるセレクトステップと、車両の速度を検出する車速検出ステップと、エンジンと駆動輪との間に設けられ該駆動輪の正転と逆転とを切り替える前後進切替機構の動作を制御する
目標制御量を取得する取得ステップと、セレクトステップにおいて走行レンジが選択され、車速検出ステップで検出された車速が所定速度以上であり、かつ、取得ステップにおいて取得された前後進切替機構の
目標制御量がエンジンの駆動力を伝達できない値である場合に、前後進切替機構の
目標制御量が異常であると判定する判定ステップとを備えることを特徴とする。
【0010】
本発明に係る無段変速機の異常検知装置又は異常検知方法によれば、走行レンジが選択されており、車速が所定速度以上の場合、すなわち、運転者が走行しようとしており、前後進切替機構の
目標制御量としてはエンジンの駆動力を伝達可能な値でなければならない状態にもかかわらず、前後進切替機構の
目標制御量がエンジンの駆動力を伝達できない値である場合に、該
目標制御量が異常であると判定される。よって、運転者の意思に反して、前後進切替機構の
目標制御量がエンジンの駆動力を伝達できない異常な値か否かを検知(すなわち
目標制御量の合理性を判定)することが可能となる。
【0011】
本発明に係る無段変速機の異常検知装置では、取得手段が、前後進切替機構の
目標制御量として、前後進切替機構を構成するクラッチのクラッチ圧を調節するアクチュエータの目標電流値を取得し、判定手段が、走行レンジが選択されており、車速が所定速度以上であり、かつ、目標電流値がエンジンの駆動力を伝達できない値である場合に、該目標電流値が異常であると判定することが好ましい。
【0012】
このようにすれば、運転者の意思に反して、前後進切替機構を構成するクラッチのクラッチ圧を調節するアクチュエータの目標電流値がエンジンの駆動力を伝達できない異常な値か否かを検知(すなわち目標電流値の合理性を判定)することが可能となる。
【0015】
本発明に係る無段変速機の異常検知装置では、判定手段が、前後進切替機構の
目標制御量が異常と判定される状態が所定時間以上継続した場合に、前後進切替機構の
目標制御量が異常であると確定することが好ましい。このようにすれば、誤判定を適切に防止することができる。
【0016】
本発明に係る無段変速機の異常検知装置は、前後進切替機構の
目標制御量が異常であると確定された場合に、前後進切替機構の駆動量をエンジンの駆動力を伝達可能な値に制御する制御手段を備えることが好ましい。
【0017】
この場合、異常確定時に、前後進切替機構の駆動量がエンジンの駆動力を伝達可能な値に制御にされる。よって、異常確定時に、エンジンの駆動力を伝達可能にすることができる。
【0018】
本発明に係る無段変速機の異常検知装置は、車両を制動する制動手段と、制動手段の動作を制御する制動制御手段とを備え、制動制御手段が、前後進切替機構の
目標制御量が異常であると確定された場合に、自動的に車両を制動することが好ましい。
【0019】
このようにすれば、異常確定時に車両が自動的に制動される。よって、例えば、坂道等において、運転者の意思に反して、車両がずり下がること等を防止することができる。
【0020】
本発明に係る無段変速機の異常検知装置は、前後進切替機構の
目標制御量が異常であると確定された場合に、運転者に対して警告を促す警告手段をさらに備えることが好ましい。
【0021】
このようにすれば、異常確定時に、該異常を運転者に認識させることができる。よって、運転者は、例えば、ブレーキを踏む等の対処をすることができる。
【0022】
本発明に係る無段変速機の異常検知装置では、判定手段が、運転者によってアクセルが操作されているときに、前後進切替機構の
目標制御量の異常判定を行うことが好ましい。
【0023】
このようにすれば、アクセルが操作されているとき、すなわち、運転者に走行する意思があるときに、上述した異常判定を行うことが可能となる。
【発明の効果】
【0024】
本発明によれば、運転者の意思に反して、前後進切替機構の制御量がエンジンの駆動力を伝達できない異常な値か否かを検知(すなわち制御量の合理性を判定)することが可能となる。
【発明を実施するための形態】
【0026】
以下、図面を参照して本発明の好適な実施形態について詳細に説明する。なお、図中、同一又は相当部分には同一符号を用いることとする。また、各図において、同一要素には同一符号を付して重複する説明を省略する。
【0027】
まず、
図1を用いて、実施形態に係る無段変速機の異常検知装置1の構成について説明する。
図1は、無段変速機の異常検知装置1、及び、該無段変速機の異常検知装置1が適用された無段変速機20等の構成を示すブロック図である。
【0028】
エンジン10は、どのような形式のものでもよいが、例えば水平対向型の筒内噴射式4気筒ガソリンエンジンである。エンジン10では、エアクリーナ(図示省略)から吸入された空気が、吸気管に設けられた電子制御式スロットルバルブ(以下、単に「スロットルバルブ」という)13により絞られ、インテークマニホールドを通り、エンジン10に形成された各気筒に吸入される。ここで、エアクリーナから吸入された空気の量はエアフローメータ61により検出される。さらに、スロットルバルブ13には、該スロットルバルブ13の開度を検出するスロットル開度センサ14が配設されている。各気筒には、燃料を噴射するインジェクタが取り付けられている。また、各気筒には混合気に点火する点火プラグ、及び該点火プラグに高電圧を印加するイグナイタ内蔵型コイルが取り付けられている。エンジン10の各気筒では、吸入された空気とインジェクタによって噴射された燃料との混合気が点火プラグにより点火されて燃焼する。燃焼後の排気ガスは排気管を通して排出される。
【0029】
上述したエアフローメータ61、スロットル開度センサ14に加え、エンジン10のカムシャフト近傍には、エンジン10の気筒判別を行うためのカム角センサが取り付けられている。また、エンジン10のクランクシャフト近傍には、クランクシャフトの位置を検出するクランク角センサが取り付けられている。これらのセンサは、後述するエンジン・コントロールユニット(以下「ECU」という)60に接続されている。また、ECU60には、アクセルペダルの踏み込み量すなわちアクセルペダルの開度を検出するアクセルペダルセンサ62、及びエンジン10の冷却水の温度を検出する水温センサ等の各種センサも接続されている。
【0030】
エンジン10のクランク軸(出力軸)15には、クラッチ機能とトルク増幅機能を持つトルクコンバータ21、及び、前後進切替機構27を介して、エンジン10からの駆動力を変換して出力する無段変速機20が接続されている。
【0031】
トルクコンバータ21は、主として、ポンプインペラ22、タービンライナ23、及びステータ24から構成されている。クランク軸(出力軸)15に接続されたポンプインペラ22がオイルの流れを生み出し、ポンプインペラ22に対向して配置されたタービンライナ23がオイルを介してエンジン10の動力を受けて出力軸を駆動する。両者の間に位置するステータ24は、タービンライナ23からの排出流(戻り)を整流し、ポンプインペラ22に還元することでトルク増幅作用を発生させる。
【0032】
また、トルクコンバータ21は、入力と出力とを直結状態にするロックアップクラッチ25を有している。トルクコンバータ21は、ロックアップクラッチ25が締結されていないとき(非ロックアップ状態のとき)はエンジン10の駆動力をトルク増幅して無段変速機20に伝達し、ロックアップクラッチ25が締結されているとき(ロックアップ時)はエンジン10の駆動力を無段変速機20に直接伝達する。トルクコンバータ21を構成するタービンライナ23の回転数(タービン回転数)は、タービン回転数センサ56により検出される。検出されたタービン回転数は、後述するトランスミッション・コントロールユニット(以下「TCU」という)40に出力される。
【0033】
前後進切替機構27は、駆動輪の正転と逆転(車両の前進と後進)とを切り替えるものである。前後進切替機構27は、主として、ダブルピニオン式の遊星歯車列28、前進クラッチ29及び後進ブレーキ30を備えている。前後進切替機構27では、前進クラッチ29、及び後進ブレーキ30それぞれの状態を制御することにより、エンジン駆動力の伝達経路を切り替えることが可能に構成されている。
【0034】
より具体的には、前進クラッチ29を締結して後進ブレーキ30を解放することにより、タービン軸26の回転がそのまま後述するプライマリ軸32に伝達され、車両を前進走行させることが可能となる。また、前進クラッチ29を解放して後進ブレーキ30を締結することにより、遊星歯車列28を作動させてプライマリ軸32の回転方向を逆転させることができ、車両を後進走行させることが可能となる。なお、前進クラッチ29及び後進ブレーキ30を解放することにより、タービン軸26とプライマリ軸32とは切り離され、前後進切替機構27はプライマリ軸32に動力を伝達しないニュートラル状態となる。なお、前進クラッチ29及び後進ブレーキ30の動作は、後述するTCU40、及びバルブボディ(コントロールバルブ)50によって制御される。
【0035】
無段変速機20は、前後進切替機構27を介してトルクコンバータ21のタービン軸(出力軸)26と接続されるプライマリ軸32と、該プライマリ軸32と平行に配設されたセカンダリ軸37とを有している。
【0036】
プライマリ軸32には、プライマリプーリ34が設けられている。プライマリプーリ34は、プライマリ軸32に接合された固定プーリ34aと、該固定プーリ34aに対向して、プライマリ軸32の軸方向に摺動自在に装着された可動プーリ34bとを有し、それぞれのプーリ34a,34bのコーン面間隔、すなわちプーリ溝幅を変更できるように構成されている。一方、セカンダリ軸37には、セカンダリプーリ35が設けられている。セカンダリプーリ35は、セカンダリ軸37に接合された固定プーリ35aと、該固定プーリ35aに対向して、セカンダリ軸37の軸方向に摺動自在に装着された可動プーリ35bとを有し、プーリ溝幅を変更できるように構成されている。
【0037】
プライマリプーリ34とセカンダリプーリ35との間には駆動力を伝達するチェーン36が掛け渡されている。プライマリプーリ34及びセカンダリプーリ35の溝幅を変化させて、各プーリ34,35に対するチェーン36の巻き付け径の比率(プーリ比)を変化させることにより、変速比が無段階に変更される。ここで、チェーン36のプライマリプーリ34に対する巻き付け径をRpとし、セカンダリプーリ35に対する巻き付け径をRsとすると、変速比iは、i=Rs/Rpで表される。よって、変速比iは、プライマリプーリ回転数Npをセカンダリプーリ回転数Nsで除算する(i=Np/Ns)ことにより求められる。
【0038】
ここで、プライマリプーリ34(可動プーリ34b)には油圧室34cが形成されている。一方、セカンダリプーリ35(可動プーリ35b)には油圧室35cが形成されている。プライマリプーリ34、セカンダリプーリ35それぞれの溝幅は、プライマリプーリ34の油圧室34cに導入されるプライマリ油圧と、セカンダリプーリ35の油圧室35cに導入されるセカンダリ油圧とを調節することにより設定・変更される。
【0039】
無段変速機20を変速させるための油圧、すなわち、上述したプライマリ油圧及びセカンダリ油圧は、バルブボディ(コントロールバルブ)50によってコントロールされる。バルブボディ50は、スプールバルブと該スプールバルブを動かすソレノイドバルブ(電磁弁)を用いてバルブボディ50内に形成された油路を開閉することで、オイルポンプ(図示省略)から吐出された油圧を調整して、プライマリプーリ34の油圧室34c及びセカンダリプーリ35の油圧室35cに供給する。また、バルブボディ50は、前後進切替機構27等にも油圧を供給する(詳細は後述する)。
【0040】
無段変速機20の変速制御は、TCU40によって実行される。すなわち、TCU40は、上述したバルブボディ50を構成するソレノイドバルブ(電磁弁)の駆動を制御することにより、プライマリプーリ34の油圧室34c及びセカンダリプーリ35の油圧室35cに供給する油圧を調節して、無段変速機20の変速比を変更する。また、TCU40は、上述したバルブボディ50を構成する前進クラッチソレノイド50aの駆動を制御することにより、前進クラッチ29に供給/排出するATF(Automatic Transmission Fluid)量を調節して、前進クラッチ29の締結/解放を行う。同様に、TCU40は、バルブボディ50を構成する後進クラッチソレノイド50bの駆動を制御することにより、後進クラッチ30に供給/排出するATF量を調節して、後進クラッチ30の締結/解放を行う。
【0041】
ここで、車両のフロア(センターコンソール)等には、運転者による、無段変速機20の動作状態(レンジ)を択一的に切り換える操作を受付けるシフトレバー(セレクトレバー)51が設けられている。シフトレバー51には、該シフトレバー51と連動して動くように接続され、該シフトレバー51の選択位置を検出するレンジスイッチ59が取り付けられている。レンジスイッチ59は、TCU40に接続されており、検出されたシフトレバー51の選択位置が、TCU40に読み込まれる。なお、シフトレバー51では、「D」レンジ、「M」レンジの他、パーキング「P」レンジ、リバース「R」レンジ、ニュートラル「N」レンジを選択的に切り換えることができる。すなわち、シフトレバー(セレクトレバー)51は、特許請求の範囲に記載のセレクト手段として機能する。なお、シフトレバー51に代えて、スイッチタイプのセレクト機構を用いてもよい。
【0042】
ここで、シフトレバー51が操作されてDレンジ(前進走行レンジ)が選択された場合には、前進クラッチソレノイド50aの目標電流値が例えば0(A)に設定されて、前進クラッチ29の油圧室にATFが供給されるとともに、後進ブレーキソレノイド50bの目標電流値が例えば1(A)に設定されて、後進ブレーキ30の油圧室からATFが排出される。これにより、前進クラッチ29が締結状態、後進ブレーキ30が解放状態となり、車両は前進可能となる。一方、シフトレバー51が操作されてRレンジ(後進走行レンジ)が選択された場合には、後進ブレーキソレノイド50bの目標電流値が例えば0(A)に設定されて、後進ブレーキ30の油圧室にATFが供給されるとともに、前進クラッチソレノイド50aの目標電流値が例えば1(A)に設定されて、前進クラッチ29の油圧室からATFが排出される。これにより、後進ブレーキ30が締結状態、前進クラッチ29が解放状態となり、車両は後進可能となる。なお、シフトレバー51が操作されてNレンジ又はPレンジが選択された場合には、前進クラッチ29の油圧室、及び後進クラッチ30の油圧室それぞれからATFが排出される。これにより、前進クラッチ29及び後進ブレーキ30それぞれが解放状態となり(エンジン駆動力の伝達が遮断され)、車両は中立状態となる。
【0043】
TCU40には、プライマリプーリ34の回転数を検出するプライマリプーリ回転センサ57や、セカンダリプーリ35の回転数(車速に対応)を検出するセカンダリプーリ回転センサ58(車速検出手段に相当)などが接続されている。また、TCU40は、例えばCAN(Controller Area Network)100を介して、エンジン10を総合的に制御するECU60、ビークルダイナミック・コントロールユニット(以下「VDCU」という)70、及びメータ・コントロールユニット(以下「MCU」という)90等と相互に通信可能に接続されている。
【0044】
TCU40、ECU60、及びVDCU70は、それぞれ、演算を行うマイクロプロセッサ、該マイクロプロセッサに各処理を実行させるためのプログラム等を記憶するROM、演算結果などの各種データを記憶するRAM、12Vバッテリによってその記憶内容が保持されるバックアップRAM、及び入出力I/F等を有して構成されている。
【0045】
ECU60では、上述したカム角センサの出力から気筒が判別され、クランク角センサの出力によって検出されたクランクシャフトの回転位置の変化からエンジン回転数が求められる。また、ECU60では、上述した各種センサから入力される検出信号に基づいて、吸入空気量、アクセルペダル開度、混合気の空燃比、及び水温等の各種情報が取得される。そして、ECU60は、取得したこれらの各種情報に基づいて、燃料噴射量や点火時期、並びにスロットルバルブ13等の各種デバイスを制御することによりエンジン10を総合的に制御する。
【0046】
また、ECU60では、エアフローメータ61により検出された吸入空気量に基づいて、エンジン10のエンジン軸トルク(出力トルク)が算出される。そして、ECU60は、CAN100を介して、エンジン回転数、エンジン軸トルク、及びアクセルペダル開度等の情報をTCU40に送信する。
【0047】
VDCU70には、ブレーキアクチュエータ73のマスタシリンダ圧力(ブレーキ油圧)を検出するブレーキ液圧センサ71が接続されている。また、VDCU70には、車両の各車輪の回転速度(車速)を検出する車輪速センサ72(車速検出手段に相当)等も接続されている。VDCU70は、ブレーキペダルの操作量に応じてブレーキアクチュエータを駆動して車両を制動するとともに、車両挙動を各種センサ(例えば車輪速センサ72、操舵角センサ、加速度センサ、ヨーレートセンサ等)により検知し、自動加圧によるブレーキ制御とエンジン10のトルク制御により、横滑りを抑制し、旋回時の車両安定性を確保する。また、VDCU70は、検出したブレーキ液圧等の制動情報(ブレーキ操作情報)や車輪速(車速)等を、CAN100を介してTCU40に送信する。
【0048】
一方、VDCU70は、TCU40から、前進クラッチソレノイド50aの目標電流値の異常の有無を示すフェイル情報(詳細は後述する)等をCAN100を介して受信する。そして、VDCU70は、前進クラッチソレノイド50aの目標電流値が異常であると確定された場合に、自動的にブレーキアクチュエータ73を駆動して車両を制動する。すなわち、ブレーキアクチュエータ73は特許請求の範囲に記載の制動手段に相当し、VDCU70は特許請求の範囲に記載の制動制御手段として機能する。
【0049】
TCU40は、変速マップに従い、車両の運転状態(例えばアクセルペダル開度及び車速等)に応じて自動で変速比を無段階に変速する。なお、自動変速モードに対応する変速マップはTCU40内のROMに格納されている。
【0050】
特に、TCU40は、前後進切替機構27を構成する前進クラッチ29のクラッチ圧を調節する前進クラッチソレノイド50aの目標電流値の異常を検知(合理性を判定)する機能を有している。そのため、TCU40は、制御量取得部41、異常判定部42、及びソレノイド制御部43を機能的に有している。TCU40では、ROMに記憶されているプログラムがマイクロプロセッサによって実行されることにより、制御量取得部41、異常判定部42、及びソレノイド制御部43の各機能が実現される。また、TCU40は、前進クラッチソレノイド50a、及び後進ブレーキソレノイド50b等を流れる電流(実電流値)を検出するための電流検出回路を有している。
【0051】
制御量取得部41は、前後進切替機構27の動作を制御する制御量を取得する。すなわち、制御量取得部41は、特許請求の範囲に記載の取得手段として機能する。より具体的には、制御量取得部41は、前記前後進切替機構27の制御量として、前記前後進切替機構27を構成する前進クラッチ29のクラッチ圧を調節する前進クラッチソレノイド50a(特許請求の範囲に記載のアクチュエータに相当)の目標電流値(目標クラッチ圧に対応)を取得する。なお、制御量取得部41により取得された前進クラッチソレノイド50aの目標電流値は、異常判定部42に出力される。
【0052】
異常判定部42は、シフトレバー51によりDレンジ(前進走行レンジ)が選択されており、例えばセカンダリプーリ回転センサ58により検出された車速が所定速度(例えば5km/h)以上であり、かつ、前進クラッチソレノイド50aの目標電流値がエンジン10の駆動力を伝達できない値(例えば900mA以上)である場合に、該目標電流値が異常であると判定する。すなわち、異常判定部42は、特許請求の範囲に記載の判定手段として機能する。なお、異常判定部42では、運転者によってアクセルペダルが踏み込まれているとき(アクセルが操作されているとき)に限り、前進クラッチソレノイド50aの目標電流の異常判定を行うようにしてもよい。
【0053】
また、異常判定部42は、前進クラッチソレノイド50aの目標電流値が異常と判定される状態が所定時間(例えば1sec.)以上継続した場合に、前進クラッチソレノイド50aの目標電流値が異常であると確定する。なお、異常判定部42による判定結果は、ソレノイド制御部43、及び、VDCU70並びにMCU90に出力される。
【0054】
ソレノイド制御部43は、通常時(正常時)には、前進クラッチソレノイド50aの目標電流値に基づいて、該目標電流値と実電流値とが一致するように、前進クラッチソレノイド50aに流れる電流値を制御する。
【0055】
一方、ソレノイド制御部43は、前進クラッチソレノイド50aの目標電流値が異常であると確定された場合に、前進クラッチソレノイド50aの目標電流値をエンジン10の駆動力を伝達可能な値(例えば0mA)に制御する。なお、ソフト的に目標電流を書き換える方法に変えて、ハード的に、前進クラッチソレノイド50aへの通電をカットする構成としてもよい。
【0056】
MCU90は、例えば、メータ内やダッシュボードの上部などに配設されたLCDディスプレイ等を有する表示部91と接続されており、該表示部91を駆動して、例えば、車両や、エンジン10、及び無段変速機20等の状態や各種情報を運転者に提示する。特に、MCU90は、前進クラッチソレノイド50aの目標電流値が異常であると確定された場合に、運転者に対して警告を発する。その際に、MCU90は、表示部91を駆動し、例えば、警告灯を点灯させたり、「ブレーキを踏んでください」といった文字を表示したりすることが好ましい。また、同時に警告音を出力するようにしてもよい。MCU90及び表示部91は、特許請求の範囲に記載の警告手段として機能する。
【0057】
次に、
図2を参照しつつ、無段変速機の異常検知装置1の動作について説明する。
図2は、無段変速機の異常検知装置1による、前進クラッチソレノイド50aの目標電流の異常検知(合理性判定)処理の処理手順を示すフローチャートである。本処理は、TCU40において、所定時間毎(例えば10ms毎)に繰り返して実行される。
【0058】
まず、ステップS100では、前進クラッチソレノイド50aの目標電流が読み込まれる。次に、ステップS102では、シフトレバー51によりDレンジ(前進走行レンジ)が選択されているか否かについての判断が行われる。ここで、Dレンジが選択されている場合には、ステップS104に処理が移行する。一方、Dレンジが選択されていないときには、一旦本処理から抜ける。
【0059】
ステップS104では、車速が所定速度(例えば5km/h)以上であるか否かについての判断が行われる。ここで、車速が所定速度以上の場合には、ステップS106に処理が移行する。一方、車速が所定速度未満のときには、一旦本処理から抜ける。
【0060】
ステップS106では、前進クラッチソレノイド50aの目標電流が所定値(例えば900mA)以上であるか否かについての判断が行われる。ここで、目標電流が所定値以上である場合には、ステップS108に処理が移行する。一方、目標電流値が所定値未満のときには、一旦本処理から抜けて、通常の制御が実行される。
【0061】
ステップS108では、目標電流値が所定値以上である状態(すなわち異常状態)が所定時間(例えば1s.)以上継続しているか否かについての判断が行われる。ここで、異常状態が上記所定時間以上継続している場合(すなわち異常が確定した場合)には、ステップS110に処理が移行する。一方、異常状態が上記所定時間以上継続していないときには、一旦本処理から抜けて、通常の制御が実行される。
【0062】
ステップS110では、前進クラッチソレノイド50aの目標電流に、エンジン10の駆動力を伝達可能な値(例えば0mA)がセットされる。これにより、前進クラッチ29が締結状態にされる。なお、ステップS110では、目標電流を書き換えることに変えて、前進クラッチソレノイド50aへの通電を強制的にカットするようにしてもよい。
【0063】
以上、詳細に説明したように、本実施形態によれば、Dレンジ(前進走行レンジ)が選択されており、車速が所定速度(例えば5km/h)以上の場合、すなわち、運転者が走行しようとしており、前進クラッチソレノイド50aの目標電流値としてはエンジン10の駆動力を伝達可能な値(例えば0mA)でなければならない状態にもかかわらず、前進クラッチソレノイド50aの目標電流値がエンジン10の駆動力を伝達できない値(例えば900mA以上)の場合に、該目標電流値が異常であると判定される。よって、運転者の意思に反して、前進クラッチソレノイド50aの目標電流値がエンジン10の駆動力を伝達できない異常な値か否かを検知(すなわち目標電流値の合理性を判定)することが可能となる。
【0064】
また、本実施形態によれば、前進クラッチソレノイド50aの目標電流値が異常と判定される状態が所定時間(例えば1s.)以上継続した場合に、前進クラッチソレノイド50aの目標電流値が異常であると確定される。そのため、誤判定を適切に防止することができる。
【0065】
本実施形態によれば、異常確定時に、前進クラッチソレノイド50aの目標電流値がエンジン10の駆動力を伝達可能な値(例えば0mA)に制御にされる。よって、異常確定時に、エンジン10の駆動力を伝達可能にすることができる。
【0066】
本実施形態によれば、前進クラッチソレノイド50aの目標電流値が異常であると確定された場合に、自動的に車両が制動される。よって、例えば、坂道等において、運転者の意思に反して、車両がずり下がること等を防止することができる。
【0067】
本実施形態によれば、前進クラッチソレノイド50aの目標電流値が異常であると確定された場合に、運転者に対して警告が促される。よって、異常確定時に、該異常を運転者に認識させることができる。よって、運転者は、例えば、ブレーキを踏む等の対処をすることができる。
【0068】
なお、本実施形態によれば、運転者によってアクセルペダルが踏み込まれているときに、前進クラッチソレノイド50aの目標電流値の異常判定を行うようにすることにより、運転者に走行する意思があるときに、上述した異常判定を行うことが可能となる。
【0069】
以上、本発明の実施の形態について説明したが、本発明は、上記実施形態に限定されるものではなく種々の変形が可能である。例えば、上記実施形態では、前後進切替機構27の制御量として、前進クラッチソレノイド50aの目標電流値を取得し、該目標電流値の異常を判定したが、前進クラッチソレノイド50aの目標電流値に代えて、前進クラッチソレノイド50aの実電流値を取得し、該実電流値の異常を判定する構成としてもよい。すなわち、Dレンジ(前進走行レンジ)が選択されており、車速が所定速度(例えば5km/h)以上であり、かつ、前進クラッチソレノイド50aの実電流値(実クラッチ圧に対応)がエンジン10の駆動力を伝達できない値(例えば900mA以上)である場合に、該実電流値が異常であると判定する構成としてもよい。
【0070】
このようにすれば、運転者の意思に反して、前後進切替機構27を構成する前進クラッチ29のクラッチ圧を調節する前進クラッチソレノイド50a実電流値がエンジン10の駆動力を伝達できない異常な値か否かを検知(すなわち実電流値の合理性を判定)することが可能となる。
【0071】
また、上記実施形態では、Dレンジ(前進走行レンジ)が選択された場合を例にして説明したが、Rレンジ(後進走行レンジ)が選択された場合にも同様にして前後進切替機構27の異常判定を行うことができる。
【0072】
さらに、上記実施形態では、異常時に、内部からソフト的に前進クラッチ27を締結する(前進クラッチソレノイドバルブ50aの目標電流値を0(mA)にする)構成としたが、例えば、制御量取得部41及び異常判定部43を異なるCPU又は監視用IC上に構築し、異常時に、外部からハード的に前進クラッチ27を締結(前進クラッチソレノイドバルブ50aの駆動電流をカット)する構成としてもよい。
【0073】
上記実施形態では、前後進切替機構27を、プライマリプーリ34の前段に配置したが、セカンダリプーリ35の後段に配置する構成としてもよい。
【0074】
上記実施形態では、前進クラッチ29および後進ブレーキ30として油圧式のものを用いたが、例えば電磁式のものを用いることもできる。
【0075】
上記実施形態では、スプールバルブはソレノイドバルブにより駆動される構成としたが、ソレノイドバルブに代えてステッピングモータ等により駆動する構成としてもよい。
【0076】
上記実施形態では、本発明をチェーン式の無段変速機(CVT)に適用したが、チェーン式の無段変速機に代えて、例えば、ベルト式の無段変速機や、トロイダル式の無段変速機等にも適用することができる。
【0077】
上記実施形態では、エンジン10を制御するECU60と、無段変速機20を制御するTCU40とを別々のハードウェアで構成したが、一体のハードウェアで構成してもよい。