(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明の実施の形態を図面を用いて説明する。
【0019】
〜構成〜
図1は、本実施の形態に係るハイブリッド式建設機械の外観を示す図である。ハイブリッド式建設機械は小型の油圧ショベルである。
【0020】
油圧ショベルは、下部走行体101と、この下部走行体101上に旋回可能に搭載された上部旋回体102と、この上部旋回体102の先端部分にスイングポスト103を介して上下及び左右方向に回動可能に連結されたフロント作業機104とを備えている。下部走行体101はクローラ方式であり、トラックフレーム105の前方側に上下動可能な排土用のブレード106が設けられている。上部旋回体102は基礎下部構造をなす旋回台107と、旋回台107上に設けられたキャビン(運転室)108とを備えている。フロント作業機104はブーム111と、アーム112と、バケット113とを備え、ブーム111の基端はスイングポスト103にピン結合され、ブーム111の先端はアーム112の基端にピン結合され、アーム112の先端はバケット113にピン結合されている。
【0021】
上部旋回体102は下部走行体101に対して図示しない旋回モータにより旋回駆動され、スイングポスト103及びフロント作業機104は旋回台107に対してスイングシリンダ24gにより左右に回動駆動され、ブーム111、アーム112、バケット113は、それぞれ、ブームシリンダ24c、アームシリンダ24d、バケットシリンダ24eを伸縮することにより上下に回動駆動される。下部走行体101は左右の走行モータ24a,24bにより回転駆動され、ブレード106はブレードシリンダ24hにより上下に駆動される。
【0022】
図2は、
図1に示した油圧ショベルの駆動システムを示す図である。
図2において、駆動システムは、エンジン系1と、油圧系2と、発電電動系3と、制御系4とを備えている。
【0023】
エンジン系1は、ディーゼルエンジン11と、エンジンコントロールダイヤル12と、エンジンコントローラ13と、電子ガバナ14と、エンジン回転数検出装置15とを備えている。ディーゼルエンジン11は、後述する如く、従来のものよりもダウンサイジングした(エンジン出力の小さい)エンジンである。
【0024】
エンジンコントロールダイヤル12は、オペレータの操作によりエンジン11の目標回転数を設定するものである。目標回転数とは、エンジンに負荷が投入されていないときのエンジン回転数である。エンジンコントローラ13は、エンジンコントロールダイヤル12からの目標回転数信号を入力し、所定の演算処理を行って目標燃料噴射量を求め、電子ガバナ14を制御することによりエンジンの各気筒に噴射される燃料噴射量を制御し、エンジン出力トルクとエンジン回転数を制御する。なお、本実施の形態では、電子ガバナ14の制御に、エンジン負荷の増加に応じてエンジン回転数を低下させつつ燃料噴射量を増加させるドループ制御を採用した場合を例に説明する。エンジンコントローラ13はエンジン負荷率を演算し、エンジン負荷率情報を生成する。エンジン負荷率は、例えば、最大燃料噴射量に対する目標燃料噴射量の割合を演算することにより求められる。エンジン回転数検出装置15は、エンジン11の実回転数を検出するものである。エンジン回転数検出装置15によって検出されたエンジン回転数は、エンジンコントローラ13を介して車体コントローラ46(後述)に入力される。
【0025】
エンジン
11の出力軸は大径ギヤ6aと小径ギヤ6bからなる動力分配機6を介して油圧系2と発電電動系3に接続されている。
【0026】
油圧系2は、油圧ポンプ21及びパイロットポンプ22と、コントロールバルブ23と、複数の油圧アクチュエータ24a〜24hと、複数の操作装置25,26とを備えている。
【0027】
油圧ポンプ21はエンジン11の出力軸に動力分配機6を介して接続され、エンジン11により駆動される。油圧ポンプ21から吐出された圧油はコントロールバルブ23を介して複数の油圧アクチュエータ24a〜24hに供給され、それぞれの被駆動体を駆動する。油圧ポンプ21は可変容量型であり、押しのけ容積可変機構(例えば斜板)21aと、押しのけ容積可変機構21aの傾転位置を調整し、油圧ポンプの容量を制御するポンプレギュレータ27を備えている。
【0028】
複数の油圧アクチュエータ24a〜24hは、左右の走行用油圧モータと、それ以外の油圧アクチュエータを含み、それ以外の油圧アクチュエータは、例えば、ブーム用油圧シリンダ、アーム用油圧シリンダ、バケット用油圧シリンダ、スイング用油圧シリンダ、ブレード用油圧シリンダを含む。
【0029】
コントロールバルブ23は複数の油圧アクチュエータ24a〜24hに対応する複数のメインスプールを内蔵し、これらメインスプールは操作装置25,26から出力される油圧信号により切換操作される。操作装置25は左右の走行用の操作装置を代表したものであり、操作装置26は走行以外の操作装置を代表したものである。
【0030】
発電電動系3は、発電・電動機31と、インバータ32と、バッテリ(蓄電装置)33と、バッテリコントローラ34と、操作パネル35とを備えている。
【0031】
発電・電動機31はエンジン11の出力軸に動力分配機6を介して接続され、エンジン11に余剰トルクがあるときは、その余剰トルクによって駆動されて発電機として作動する。発電・電動機31が発生した電気エネルギはインバータ32を介してバッテリ33に蓄電される。また、発電・電動機31は、バッテリ33の容量に対する蓄電量の比率(以下、充電率という)がアシスト駆動に必要な最小充電率(例えば30%)以上でありかつ油圧ポンプ21をアシスト駆動する必要があるときは、インバータ32を介してバッテリ33の電気エネルギが供給され、電動機として作動する。バッテリコントローラ34はバッテリ33の蓄電量を監視し、操作パネル35はその蓄電量に係わる情報(蓄電情報)を表示する。
【0032】
制御系4は、走行速度切換スイッチ41と、走行の操作パイロット圧センサ42と、走行以外の操作パイロット圧センサ43と、走行速度切替電磁弁45と、制御装置としての車体コントローラ46とを備え、車体コントローラ46は、操作パイロット圧センサ42,43及び走行速度切替電磁弁45と電気的に接続されている。また、車体コントローラ46はインバータ32、バッテリコントローラ34及びエンジンコントローラ13とも電気的に接続されている。車体コントローラ46は、操作パイロット圧センサ42,43の検出信号、バッテリコントローラ34の蓄電情報及びエンジンコントローラ13のエンジン負荷率情報を入力し、所定の演算処理を行い、インバータ32及び走行速度切替電磁弁45に制御信号を出力する。
【0033】
図3は、ポンプレギュレータ27の構成の詳細を示す図である。
【0034】
図3は、ポンプレギュレータ27の構成の詳細を示す図である。
ポンプレギュレータ27は、複数の操作装置25,26の操作量に基づく要求流量に応じた流量を吐出するよう油圧ポンプ21の押しのけ容積可変機構21aの傾転位置を制御する(したがって油圧ポンプ容量を制御する)LS制御部等の要求流量応答制御部と、油圧ポンプ21の最大吸収トルクを予め定められた値を超えないように油圧ポンプ21の押しのけ容積可変機構21aの最大傾転位置を制御する(したがって油圧ポンプの最大容量を制御する)トルク制御部とを有している。
図3は、図示の簡略化のため、トルク制御部のみ図示している。また、動力
分配機6は図示を省略している。
【0035】
図3において、ポンプレギュレータ27は、油圧ポンプ21の押しのけ容積可変機構21aに作動的に連結された制御スプール27aと、この制御スプール27aに対して油圧ポンプ21の容量増加方向に作用する第1及び第の2つのバネ27b,27cと、スプール27aに対して油圧ポンプ21の容量減少方向に作用する受圧部27dとを有している。受圧部27dには油圧ポンプ21の吐出圧力がパイロットライン27fを介して導入される。第1及び第2バネ27b,27cは油圧ポンプ21の最大吸収トルクを設定するものである。第1バネ27bは第2バネ27cよりも長く、制御スプール27aが図示の初期位置にあるときは第1バネ27bのみが制御スプール27aに接触して、制御スプール27aを図示右方向に付勢する。制御スプール27aが図示左方向にある程度移動すると第2バネ27cも制御スプール27aに接触して、第1及び第2バネ27b,27cの両方が制御スプール27aを図示右方向に付勢する。
【0036】
図4は、ポンプレギュレータ27のトルク制御部の機能を示すポンプトルク特性図であり、横軸は油圧ポンプ21の吐出圧力を示し、縦軸は油圧ポンプ21の容量を示している。
【0037】
また、
図4において、符号TP1及びTP2で示される2つの直線(実線)からなる折れ曲がり線は第1及び第2バネ27b,27cにより設定される最大吸収トルク特性である。符号TELcで示される曲線は、最大吸収トルク特性TP1,TP2を設定する最大設定トルクを示しており、エンジン11の最大出力時のトルクTEmaxcよりも所定の余裕分だけ小さくなるように設定されている。
【0038】
ポンプレギュレータ27のトルク制御部は、油圧ポンプ21の吐出圧力に応じて油圧ポンプ21の押しのけ容積可変機構21aの最大傾転位置(したがって油圧ポンプ21の最大容量)を制限することで油圧ポンプ21の最大吸収トルクを制限するものである。油圧ポンプ21の吐出圧力の上昇時に吐出圧力が第1の値P1を超える前は、油圧ポンプ21の吐出圧力が導かれる受圧部27dの油圧力は第1バネ27bの付勢力より小さく、油圧ポンプ21の最大容量はqmaxに維持される。すなわち、油圧ポンプ21の容量は要求流量応答制御部の制御によりqmaxまで上昇させることができる。油圧ポンプ21の吐出圧力が更に上昇して第1の値P1を超えると、受圧部27dの油圧力は第1バネ27bの付勢力より大きくなり、制御スプール27aは図示左方向に移動して、油圧ポンプ21の最大容量は折れ曲げ線の直線TP1に沿って減少する。これにより要求流量応答制御部により制御される油圧ポンプ21の容量は直線TP1が規定する最大容量以下に制限され、油圧ポンプ21の吸収トルク(ポンプ吐出圧力と容量の積)はエンジン11の最大設定トルクTELcを超えないように制御される。
【0039】
油圧ポンプ21の吐出圧力が更に上昇して第2の値P2を超えると、制御スプール27aは第2バネ27cに接触して、油圧ポンプ21の吐出圧力の上昇量に対する制御スプール27aの移動量の割合(油圧ポンプ21の容量の減少割合)は減少し、油圧ポンプ21の最大容量は直線TP1よりも傾きの小さい直線TP2に沿って減少する。この場合も、油圧ポンプ21の吸収トルクはエンジン11の
最大設定トルクTEL
cを超えないように制御される。油圧ポンプ21の吐出圧力がメインリリーフ弁29の設定圧力に達すると、それ以上油圧ポンプ21の吐出圧力の上昇は阻止される。
【0040】
図5は、油圧系のコントロールバルブと複数の油圧アクチュエータのうち、左右の走行用油圧モータに係わる油圧回路部分を示す図である。図中、左右の走行用のメインスプールを符号23a,23bで示し、左右の走行用油圧モータを符号24a,24bで示している。左右の油圧モータ24a,24bはメインスプール23a,23bを介して油圧ポンプ21に接続されている。
【0041】
左右の油圧モータ24a,24bはそれぞれ可変容量型であり、押しのけ容積可変機構(斜板)24a1,24b1と、押しのけ容積可変機構24a1,24b1をそれぞれ駆動する制御ピストン24a2,24b2とを備えている。制御ピストン24a2,24b2の一側には受圧部24a3,24b3が形成され、その反対側にはバネ24a4,24b4が配置されている。
【0042】
走行速度切替電磁弁45が図示のOFF位置にあるとき、制御ピストン24a2,24b2の受圧部24a3,24b3はタンクに連通しており、制御ピストン24a2,24b2はバネ24a4,24b4の力で押されて図示の位置にあって、押しのけ容積可変機構24a1,24b1は大傾転位置(大容量位置)に保持されている。走行速度切替電磁弁45がON位置に切り換えられると、制御ピストン24a2,24b2の受圧部24a3,24b3に制御圧力としてパイロットポンプ22の吐出圧力が導かれ、これにより制御ピストン24a2,24b2が作動して、押しのけ容積可変機構24a1,24b1は大傾転位置(大容量位置)から小傾転位置(小容量位置)へと切り換えられる。大傾転位置では油圧モータ24a,24bは低速回転が可能であり、走行低速に適した状態となり、小傾転位置では油圧モータ24a,24bは高速回転が可能であり、走行高速に適した状態となる。本明細書では、押しのけ容積可変機構24a1,24b1が大傾転位置にあるときの状態を油圧モータ24a,24bの低速大容量モードといい、押しのけ容積可変機構24a1,24b1が小傾転位置にあるときの状態を油圧モータ24a,24bの高速小容量モードという。
【0043】
図6(A)は、従来の一般的なミニショベルのエンジン出力馬力の制限値と油圧ポンプのPQ特性(馬力特性)と出力使用範囲との関係を示す図であり、横軸は油圧ポンプの吐出圧力を示し、縦軸は油圧ポンプの吐出流量を示している。
図6(B)は、同ミニショベルのエンジン出力馬力特性と出力使用範囲との関係を示す図であり、横軸はエンジン回転数を示し、縦軸はエンジンの出力馬力を示している。
【0044】
まず、油圧ポンプのPQ特性について説明する。油圧ポンプのPQ特性とは、ある最大吸収トルク特性を持つ油圧ポンプをエンジンで駆動して回転させ、作業を行ったときに得られる油圧ポンプの出力馬力特性である。
図6(A)の油圧ポンプのPQ特性は、一例として、
図4に示した最大吸収トルク特性を持つ油圧ポンプ21の場合のものであり、かつエンジン回転数が定格最大回転数にある場合のものである。定格最大回転数とは、
図6(B)に示すように、最大目標回転数NTmaxに基づいて制御されているエンジンの出力馬力が最大となるときのエンジン回転数NRmaxである。
【0045】
一般的なミニショベルの作業状態として、走行高速時と走行低速時と通常作業時とを考える。
図6(A)及び
図6(B)中、Aは走行高速時の出力使用範囲、Bは走行低速時の出力使用範囲、Cは通常作業時の出力使用範囲を示している。走行高速とは、走行用の油圧モータ24a,24bが高速小容量モードにありかつ走行用の操作装置25が操作されて走行している状態をいい、走行低速とは、走行用の油圧モータ24a,24bが低速大容量モードにありかつ走行用の操作装置25が操作されて走行している状態をいう。通常作業とは、走行以外の操作装置26(特にフロント作業機104に係わる油圧アクチュエータ111,112,113及び旋回モータのいずれかに係わる操作装置)が操作されて作業を行っている状態をいう。
【0046】
図6(A)の符号HELcはエンジンの必要馬力値を示しており、エンジンの最大出力馬力HEmaxcよりも所定の余裕分だけ小さくなるように設定されている。また、走行高速時はスピード(大流量)が必要であり、油圧ポンプ21の出力は最も大きくなるため、エンジンの必要馬力HELcは、走行高速時Aの運転状態で油圧ポンプ21に要求される油圧馬力を賄うことができる大きさに設定されている。
【0047】
一方、ポンプレギュレータ27の最大吸収トルク特性(
図4)は、第1及び第2の2つのバネ27b,27cによって実線の直線TP1,TP2からなる折れ曲げ線のように設定されるため、油圧ポンプ21のPQ特性も同様に符号HPで示すように折れ曲げ線形状となり、通常作業時ではエンジンの必要馬力HELcに対して油圧ポンプ21の出力使用範囲CがXと大きく離れて、余裕がありすぎる状態となる。これは、エンジン出力馬力を有効に使用していないことを意味する。
【0048】
図7(A)は、本実施の形態によるミニショベルのエンジン出力馬力と油圧ポンプのPQ特性(馬力特性)と出力使用範囲との関係を示す図であり、
図7(B)は、同ミニショベルのエンジン出力馬力特性と出力使用範囲との関係を示す図である。
【0049】
本実施の形態では、エンジン11の最大出力馬力HEmaxeを
図6(B)に示した従来のエンジン最大出力馬力HEmaxcよりも小さくし、油圧ポンプ21の馬力特性HPにおける最大馬力を下回る設定とする。更に言えば、本実施の形態では、エンジン11の最大出力馬力HEmaxeを、走行高速時A以外(走行低速時B及び通常作業時C)の運転状態で油圧ポンプ21に要求される油圧馬力を賄うことができ、走行高速時Aの運転状態で油圧ポンプ21に要求される油圧馬力を賄うことができない大きさに設定する。
【0050】
そして、走行高速時には、バッテリ33により発電・電動機31を電動機として作動させ出力アシストを行う。
図7(A)の点線HEmaxe+HMmaxは、最大アシスト時のシステム出力馬力(エンジン出力馬力HEmaxeと電動機の最大出力馬力HMmaxの合計出力)である。
【0051】
このようにエンジン11の出力馬力を従来よりも小さくし、エンジン11の最大出力馬力HEmaxeを油圧ポンプ21の馬力特性HPにおける最大馬力を下回るように設定することにより、エンジン11の出力馬力をフルに使用できるようになるとともに、エンジン11をダウンサイジング(小型化)することが可能となる。エンジン11をダウンサイジングすることにより低燃費化、エンジン11から排出される有害なガスの量の低減、及び騒音の低減が可能となる。また、排出ガス後処理装置の小型化或いは簡略化が可能となり、エンジン11のダウンサイジング化によるコスト低減と相まってエンジンの製作コストを低減することができ、機械全体の価格を下げることができる。更に、アクチュエータ側には発電機等の電気機器を装着しないため、簡易なハイブリッド方式となり、ハイブリッド化によるコストアップの影響を最小限に止めることが可能になるとともに、簡易なハイブリッド方式であるためミニショベルのような小型の建設機械であってもレイアウト面の困難性を回避することができる。
【0052】
〜制御〜
次に、
図8を用いて上述した本発明の動作原理を実現する車体コントローラ46の制御機能について説明する。
図8は、車体コントローラ46の処理手順を示すフロー図である。
図8のフローを構成する各ステップについて順に説明する。
【0053】
まず、バッテリ充電率が第1閾値より小さいか否かを判定する(ステップS100)。第1閾値とは、バッテリの充電量が不十分か否かを判定するための閾値であり、作業の継続が不能となる最小充電率(例えば30%)よりも高い値(例えば50%)に設定されている。ステップS100でYES(バッテリ充電率<50%)と判定された場合は、エンジン回転数が最大馬力回転数より小さいか否かを判定する(ステップS110)。最大馬力回転数とは、目標回転数に基づいて制御されているエンジン11の出力馬力が最大(以下、最大出力馬力という)となるときのエンジン回転数である。
【0054】
ここで、最大馬力回転数について、
図9を用いて詳しく説明する。
図9は、エンジン回転数とエンジン出力馬力の関係を示す図である。図中の実線Emax,E1,E2及び破線Smax,S1,S2は、それぞれ目標回転数をNTmax,NT1,NT2に設定した場合のエンジン馬力特性及びシステム馬力特性を示している。目標回転数NTmax,NT1,NT2(以下、NTxという)に基づいて制御されているエンジン11の出力馬力は、それぞれ、エンジン回転数が最大馬力回転数NRmax,NR1,NR1(以下、NRxという)のときに最大となる。なお、最大目標回転数NTmaxに対応する最大馬力回転数NRmaxは、エンジン11の定格最大回転数と一致する。
図9に示した目標回転数NTxと最大馬力回転数NRxとの対応関係を車体コントローラ46の記憶装置に予め記憶させておくことにより、エンジンコントロールダイヤル12による目標回転数の設定に応じて最大馬力回転数を変更することが可能となる。
【0055】
図8に戻り、ステップS110でYES(エンジン回転数<最大馬力回転数NRx)と判定された場合は、発電・電動機31を電動機として作動させ(ステップS140)、処理を終了する。ステップS140で構成される出力アシスト制御によって、エンジン回転数は最大馬力回転数NRxまで上昇し、エンジン出力馬力は最大出力馬力まで上昇する。電動機31の出力トルクとエンジン回転数との関係については後述する。
【0056】
ステップS110でNO(エンジン回転数≧最大馬力回転数NRx)と判定された場合は、余剰トルクによって発電・電動機31を駆動して発電・電動機31を発電機として作動させ(ステップS120)、バッテリ充電制御を行う(ステップS130)。これにより、エンジン回転数は最大馬力回転数NRxまで低下し、エンジン出力馬力は最大出力馬力まで上昇する。さらに、エンジン11の余剰トルクによって発電機31が駆動され、発電機31で発電した電力がインバータ32を介してバッテリ33に蓄電される。発電機31の負荷トルクとエンジン回転数との関係については後述する。
【0057】
ステップS130に続いて、バッテリ充電率が第2閾値より大きいか否かを判定する(ステップS150)。第2閾値とは、バッテリの充電が不要か否かを判定するための閾値であり、第1閾値よりも高い値(例えば70%)に設定されている。ステップS150でYES(バッテリ充電率>70%)と判定された場合は、処理を終了する。一方、ステップS150でNO(バッテリ充電率≦70%)と判定された場合は、ステップS110に戻り、ステップS110以降の処理を繰り返し実行する。
【0058】
ステップS100でNO(バッテリ充電率≦50%)と判定された場合は、ステップS110と同様にエンジン回転数が最大馬力回転数NRxより低いか否かを判定する(ステップS160)。ステップS160でNO(エンジン回転数≧最大馬力回転数NRx)と判定された場合は、発電・電動機31を電動機として作動させ(ステップS140)、処理を終了する。これにより、エンジン回転数は最大馬力回転数NRxまで上昇し、エンジン出力馬力は最大出力馬力まで上昇する。一方、ステップS160でNO(エンジン回転数≧最大馬力回転数NRx)と判定された場合は、処理を終了する。
【0059】
電動機31の出力トルクとエンジン回転数との関係及び発電機31の負荷トルクとエンジン回転数との関係について、それぞれ
図10(A)及び
図10(B)を用いて説明する。
図10(A)は、出力アシスト制御に伴うエンジン回転数及びエンジン出力トルクの変化を示す図であり、横軸はエンジン回転数を示し、縦軸はエンジン出力トルクを示している。
図10(B)は、バッテリ充電制御に伴うエンジン回転数及びエンジン出力トルクの変化を示す図であり、横軸はエンジン回転数を示し、縦軸はエンジン出力トルクを示している。
【0060】
図10(A)において、符号TE1は、エンジン回転数が最大馬力回転数NRxより小さい(作業負荷トルクTW1が最大馬力回転数NRxにおけるエンジン出力トルクTopt(以下、最適トルクという)より大きい)条件の下で出力アシスト制御を行わなかった場合のエンジン出力トルクを示しており、エンジン出力トルクTE1と作業負荷トルクTW1とは一致している。
【0061】
一方、符号TE2は、同じく作業負荷トルクTW1が最適トルクToptより大きい条件の下で出力アシスト制御を行った場合のエンジン出力トルクを示している。
図10(A)に示すように、電動機31の出力トルクTMによって作業負荷トルクTW1と最適トルクToptとの差分が小さくなるよう制御することにより、エンジン出力トルクは最適トルクToptまで低下し、エンジン回転数は最大馬力回転数NRxまで上昇する。
【0062】
図10(B)において、符号TE3は、エンジン回転数が最大馬力回転数NRxより大きい(作業負荷トルクTW2が最適トルクToptより小さい、すなわち余剰トルクがある)条件の下でバッテリ充電制御を行わなかった場合のエンジン出力トルクを示しており、エンジン出力トルクTE3と作業負荷トルクTW2とは一致している。
【0063】
一方、符号ET4は、同じくエンジン回転数が最大馬力回転数NRxより大きい(作業負荷トルクTW2が最適トルクToptより小さい、すなわち余剰トルクがある)条件の下でバッテリ充電制御を行った場合のエンジン出力トルクを示している。
図10(B)に示すように、発電機31の負荷トルクTGによって最適トルクToptと作業負荷トルクTW2との差分が小さくなるよう制御することにより、エンジン出力トルクは最適トルクToptまで上昇し、エンジン回転数は最大馬力回転数NRxまで低下する。
【0064】
〜動作〜
本実施の形態に係る駆動システムの動作を、
図11(A)及び
図11(B)を用いて説明する。
図11(A)は、出力アシスト制御によるエンジン出力馬力の変化を示す図であり、横軸はエンジン回転数を示し、縦軸はエンジン出力馬力を示している。
図11(B)は、バッテリ充電制御によるエンジン出力馬力の変化を示す図であり、横軸はエンジン回転数を示し、縦軸はエンジン出力馬力を示している。
【0065】
図11(A)において、符号HE1,HS1は、エンジン回転数が最大馬力回転数NRxより小さい条件の下で出力アシスト制御を行わなかった場合のエンジン出力馬力及びシステム出力馬力を示しており、両者は一致している。一方、符号HE2,HS2は、同じくエンジン回転数が最大馬力回転数NRxより小さい条件の下で出力アシスト制御を行った場合のエンジン出力馬力及びシステム出力馬力を示している。このとき、エンジン出力馬力HE2は最大出力馬力となり、システム出力馬力HS2は、エンジン出力馬力HE2(最大出力馬力)と電動機31の出力馬力HMとの合計出力となる。
【0066】
図11(B)において、符号HE3,HS3は、エンジン回転数が最大馬力回転数NRxより大きい(作業負荷トルクTWが最適トルクToptより小さい、すなわちエンジン11に余剰トルクがある)条件の下でバッテリ充電制御を行わなかった場合のエンジン出力馬力及びシステム出力馬力を示しており、両者は一致している。一方、符号HE4,HS4は、同じくエンジン回転数が最大馬力回転数NRxより大きい(作業負荷トルクTWが最適トルクToptより小さい、すなわちエンジン11に余剰トルクがある)条件の下でバッテリ充電制御を行った場合のエンジン出力馬力及びシステム出力馬力を示している。このとき、エンジン出力馬力HE4は最大出力馬力となり、システム出力馬力HS4は、エンジン出力馬力HE4(最大出力馬力)と発電機31の発電負荷HGとの差分と一致する。
【0067】
〜効果〜
このように構成した本発明においては、電動機31の出力アシストによってエンジンの要求トルクを抑えることができるため、エンジン11の小型化が可能となり、その結果、燃費の向上、排ガス特性の改善及び騒音の低減を図ることができる。
【0068】
また、エンジン回転数が最大馬力回転数NRxより大きい(エンジン11に余剰トルクがある)ときは電動機31による出力アシストを行わないため、バッテリ33の消費電力が抑えられる。これにより、バッテリ33の充電のために作業を中断する頻度を低減することができ、機体の稼動率を向上できる。
【0069】
さらに、バッテリの充電量が不十分でかつエンジン回転数が最大馬力回転数NRxより大きい(エンジン11に余剰トルクがある)ときに発電・電動機31を発電機として作動させることにより、作業効率を低下させることなくバッテリ33の充電を行うことができる。これにより、バッテリ33の充電のために作業を中断する頻度を更に低減することができ、機体の稼動率を更に向上できる。
【0070】
〜変形例〜
本実施の形態では、エンジン回転数と最大馬力回転数NRxとの大小判定結果に基づいて出力アシスト制御とバッテリ充電制御とを切り替えることとしたが、最大馬力回転数NRxにはマージンを持たせても良い。すなわち、エンジン回転数のハンチング等を考慮した所定のマージンΔNを設定し、エンジン回転数が最大馬力回転数NRx+ΔNより大きくなったときにバッテリ充電制御を行い、エンジン回転数が最大馬力回転数NRx−ΔNより小さくなったときに出力アシスト制御を行っても良い。これにより、エンジン回転数が最大馬力回転数NRx付近にあるときの発電・電動機31の制御を安定化させることができる。
【0071】
また、本実施の形態では、電子ガバナ14の制御にエンジン負荷の増加に応じてエンジン回転数を低下させつつ燃料噴射量を増加させるドループ制御を採用した場合を例に説明したが、本発明はこれに限られず、エンジン負荷の増加によらずエンジン回転数が一定に保たれるように燃料噴射量を調整するアイソクロナス制御を採用することも可能である。以下にその根拠を説明する。
【0072】
図12(A)は、アイソクロナス制御を採用した場合のエンジン回転数とエンジン出力トルクとの関係を示す図であり、
図12(B)は、アイソクロナス制御を採用した場合のエンジン回転数とエンジン出力馬力との関係を示す図である。
【0073】
図12(A)において、出力トルクが最適トルクToptより小さい(エンジン11に余剰トルクがある)ときは、符号TEaで示すようにエンジン回転数は目標回転数NTx(=最大馬力回転数NRx)に保たれ、出力トルクが最適トルクToptより大きくなると、符号TEbで示すように出力エンジン回転数は最大馬力回転数NRxより小さくなる。一方、
図12(B)においては、出力トルクが最適トルクToptより小さい(エンジン11に余剰トルクがある)ときは、符号HEaで示すようにエンジン回転数は最大馬力回転数NRxに保たれ、出力トルクが最適トルクToptより大きくなると、符号HEbに示すようにエンジン回転数は最大馬力回転数NRxより小さくなり、出力馬力は最大出力馬力より小さくなる。
【0074】
このように、アイソクロナス制御では、エンジン11に余剰トルクがあるときのエンジン回転数の変化がドループ制御と相違するものの、エンジン回転数が最大馬力回転数NRxより小さいか否かによって出力アシストの要否が判定可能である。従って、アイソクロナス制御を採用した場合も本発明は適用可能である。
【0075】
<第2の実施の形態>
本発明の第2の実施の形態に係るハイブリッド式建設機械及び駆動システムの構成は、
図1及び
図2に示したものと同様である。
【0076】
図13は、本実施の形態における車体コントローラ46の処理手順を示すフロー図である。図中、
図8に示したフローを構成する処理と同様の処理には同じ符号を付している。以下、
図8に示したフローと相違する部分を中心に説明する。
【0077】
ステップS110でNO(エンジン回転数≧最大馬力回転数NRx)と判定された場合は、エンジンコントローラ13からのエンジン負荷率情報に基づいてエンジン負荷変化率が所定の閾値より大きいか否かを判定する(ステップS111)。所定の閾値とは、エンジン11に急負荷が投入されたか否かを判定するための閾値である。ステップS111でNO(エンジン負荷変化率≦閾値)と判定された場合は、ステップS120以降の処理を実行する。一方、ステップS111でYES(エンジン負荷変化率>閾値)と判定された場合は、発電・電動機31を電動機として作動させ(ステップS140)、処理を終了する。
【0078】
ステップS160でNO(エンジン回転数≧最大馬力回転数NRx)と判定された場合は、ステップS111と同様にエンジン負荷変化率が所定の閾値より大きいか否かを判定する(ステップS161)。ステップS161でYES(エンジン負荷率偏差>閾値)と判定された場合は、発電・電動機31を電動機として作動させ(ステップS140)、処理を終了する。一方、ステップS161でNO(エンジン負荷変化率≦閾値)と判定された場合は、処理を終了する。
【0079】
本実施の形態における急負荷投入時のエンジン出力馬力の変化を、第1の実施の形態の場合と比較して説明する。
図14(A)は、第1の実施の形態における急負荷投入時のエンジン回転数及びエンジン出力馬力の変化を示す図であり、
図14(B)は、本実施の形態に係る油圧ショベルにおける急負荷投入時のエンジン回転数及びエンジン出力馬力の変化を示す図である。
【0080】
図14(A)において、符号HE5,HS5は、それぞれ、エンジン回転数が最大馬力回転数NRxより大きい状態でバッテリ充電制御を行わなかった場合のエンジン出力馬力とシステム出力馬力を示しており、両者は一致している。この状態でエンジン11に急負荷が投入されると、エンジン出力馬力及びシステム出力馬力はエンジン回転数の低下に伴って急激に変化する(HE5→HE6,HS5→HS6)。エンジン回転数が最大馬力回転数NRxを下回ったところで出力アシスト制御が開始され、エンジン回転数は最大馬力回転数NRxまで上昇し、エンジン出力馬力は最大出力馬力まで上昇する(HE6→HE7)。一方、システム出力馬力は、最大出力馬力HE7と電動機31の出力馬力HMとの合計出力となる(HS6→HS7)。
【0081】
これに対して、
図14(B)に示す本実施の形態では、急負荷投入直後に出力アシストが開始されるため、
図13(A)に示した第1の実施の形態における動作と比較して、エンジン回転数の低下が抑制され、それに伴うエンジン出力馬力及びシステム出力馬力の変動(HE5→HE6’,HS5→HS6’)も小さくなる。
【0082】
上記のように構成した本実施の形態においては、第1の実施例と同様の効果が得られる。また、急負荷投入直後に発電・電動機31を電動機として作動させて出力アシスト制御を開始することにより、エンジン回転数が最大馬力回転数NRxを下回る時間が短縮され、エンジン出力馬力が最大出力馬力を下回ることによる作業効率の低下を防ぐことができる。