(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明者らは、電界効果トランジスタ等の半導体装置におけるパンチスルー現象を抑制することに着目し、鋭意検討を重ねた。パンチスルー現象とは、ゲート電極を有する半導体装置において、ゲート電極で制御できない基板電流が大量に流れてしまう現象をいう。以下、これについて、理論式を用いて説明する。
【0008】
図11Bは、縦型GaN FETの構造の一例であり、
図12は、
図11Bに示す縦型GaN FETのバンドエネルギー分布の模式図である。
図11Bに示す通り、この縦型GaN FETは、高濃度n型GaN基板101の上面に、n型GaN層102、p型GaN層103、およびn型GaN層104が、前記順序で積層されている。高濃度n型GaN基板101の下面には、ドレイン電極113がオーミック接合されている。n型GaN層104の上面には、ソース電極111がオーミック接合されている。n型GaN層102側面、p型GaN層103側面、n型GaN層104上面および側面において、ソース電極111の接合部位以外には、ゲート絶縁膜121が積層されている。n型GaN層102の上部、p型GaN層103、およびn型GaN層104は、それらの一部が除去されている。前記除去部分には、n型GaN層102の上面、p型GaN層103の側面、およびn型GaN層104の側面を覆うようにゲート絶縁膜121が形成されている。ゲート電極112は、ゲート絶縁膜121を介して、n型GaN層102、p型GaN層103、およびn型GaN層104に接合している。この縦型GaN FETは、ゲート電極112に印加する電圧を変えることで、p型GaN層103とゲート絶縁膜121との界面に蓄積される電子濃度を調節可能である。これにより、ソース電極111とドレイン電極113との間を流れる電流を制御し、縦型FET動作を行うことができる。
【0009】
図12に示すA−B間の線は、
図11Bに示すA−B間の線すなわちソース電極とドレイン電極の間の半導体層のバンドエネルギー分布に相当する。
図12は、前記半導体層のうち、n型GaN層102からn型GaN層104までのバンドエネルギー分布を表す。また、
図12に示すV
ds(V)は、ドレイン電圧を示す。以下において、p型GaN層103の厚さをL
ch(cm)、不純物濃度をN
a(cm
−3)と表す。また、n型GaN層102の厚さをL
dr(cm)、不純物濃度をN
d1(cm
−3)と表す。また、これらの半導体層のpn接合面からの空乏層の広がり(空乏層幅)を、それぞれx
p1(cm)、x
n1(cm)と表す。また、p型GaN層103とn型GaN層104のpn接合面からの空乏層幅を、それぞれx
p2(cm)、x
n2(cm)と表し、n型GaN層104の不純物濃度をN
d2(cm
−3)と表す。これら空乏層幅と不純物濃度との間には、下記数式(1)および(1B)の関係が成り立つ。
【0010】
x
p1×N
a=x
n1×N
d1・・・(1)
x
p2×N
a=x
n2×N
d2・・・(1B)
【0011】
図11Bに示す縦型GaN FETの耐圧V
B(V)は、n型GaN層102の厚さにより設計することができる。すなわち、GaNの破壊電界をE
crit(V/cm)とすると、n型GaN層102が完全に空乏化する条件において、以下の数式(2)が成り立つ。下記数式(2)において、各符号の意味は、V
bi:内蔵電位(V)、k:ボルツマン定数、T:温度(K)、q:素電荷(C)、ε
s:半導体層の誘電率(F/cm)である。
【0012】
【数2】
【0013】
また、
図11Bに示す縦型GaN FETのオン抵抗R
ON(Ω)は、近似的に、以下の数式(3)で表すことができる。下記数式(3)において、q:素電荷(C)、n:キャリア濃度(cm
−3)、μ
ch:チャネル移動度(cm
2/V・s)、μ
n:n型GaN中の移動度(cm
2/V・s)である。
【0014】
【数3】
【0015】
n型GaN層102が完全に空乏化する電圧条件において、電界強度の最大値がE
crit(V/cm)に達するとした場合に、上述した数式(2)、数式(3)の関係式で算出した耐圧V
B(V)と、オン抵抗R
ONA(mΩ・cm
2)との関係を示したのが
図13である。
図13において横軸は、耐圧V
B(V)を示し、縦軸は、オン抵抗R
ONA(mΩ・cm
2)を示す。
図13に示すように、耐圧V
B=1000(V)以上の領域では、L
drを小さくすることで耐圧V
B(V)が下がると同時にオン抵抗R
ONA(mΩ・cm
2)も下がっており、GaN理論限界に近い相関が認められる。一方、耐圧V
B=1000(V)以下の領域では、L
dr(cm)を小さくすることで耐圧V
B(V)は下がるが、L
ch(cm)を固定しているため、p型GaN層103の抵抗が支配的となり、オン抵抗R
ONA(mΩ・cm
2)は一定の値となる。
【0016】
このV
B=1000(V)以下の領域でのオン抵抗R
ONA(mΩ・cm
2)を低減するためには、L
ch(cm)を小さくすることが有効的である。しかし、p型GaN層103中の空乏層がp型GaN層103全域に到達すると、パンチスルー現象により空間電荷制限電流が流れ、オフ動作を維持できなくなるため、L
chの短縮には限度がある。
【0017】
パンチスルー抑制の条件については、以下の通りである。まず、pn接合における空乏層の伸びについては、フィジクス・オブ・セミコンダクター・デバイス(S. M. Sze, "Physics of Semiconductor Devices," John Wiley & Sons, 2nd edition, 1981)の2.3節に記載されている。
図11BのFETにおいて、p型GaN層103とn型GaN層102のPoisson方程式は、下記数式(4)から(7)で表される。
【0018】
【数4】
【0019】
【数5】
【0020】
【数6】
【0021】
【数7】
【0022】
前記数式(4)〜(7)において、xは、FETの基板平面に垂直方向(縦方向)に軸を取った場合の座標(cm)を示す。ただし、p型GaN層103とn型GaN層102のpn接合界面をx=0、p型層側をx<0、n型層側をx>0とする。また、E(x)は、座標xにおける電界であり、E
n(x)は、xがn型GaN層102内に存在する場合の電界を表し、E
p(x)は、xがp型GaN層103内に存在する場合の電界を表す。電界の最大値E
maxはx=0における電界で与えられ、下記数式(8)の通りとなる。
【0023】
【数8】
【0024】
数式(6)および(7)を積分し、V
p(−x
p)=0、V
n(x
n1) =−(V
bi+V
ds)とすると、下記数式(9)および(10)が成り立つ。
【0025】
【数9】
【0026】
【数10】
【0027】
前記数式(9)および(10)において、V
biおよびV
dsの意味は、V
bi:内蔵電位(V)、V
ds:FETのドレイン電圧(V)である。V
p(0)=V
n(0)であるので、数式(9)および(10)と数式(8)より、p型GaN層103とn型GaN層102界面付近のp型層中の空乏層幅|x
p1|は、下記数式(11)で表される。
【0028】
【数11】
【0029】
同様に、p型GaN層103とn型GaN層104のpn接合面からの空乏層幅|x
p2|は、下記数式(12)で表される。
【0030】
【数12】
【0031】
以上より、ドレイン電圧V
ds印加時にパンチスルーが発生しない条件は、下記数式(13)で表される。
【0032】
【数13】
【0033】
すなわち、
図11Bに示す半導体構造でデバイスのオン抵抗RONを低減する場合には、V
B=1000(V)以下の低耐圧領域では、パンチスルー現象の発生により、p型GaN層103の薄層化によるオン抵抗低減に限界がある。このようなことから、パンチスルー現象の発生を抑制することが可能な半導体装置の開発が必要である。
【0034】
そこで、本発明は、パンチスルー現象の発生を抑制することが可能な半導体装置の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0035】
前記目的を達成するために、本発明の半導体装置は、
基板と、第1のn型半導体層と、p型半導体層と、第2のn型半導体層と、ドレイン電極と、ソース電極と、ゲート電極と、ゲート絶縁膜とを含み、
前記基板上に、前記第1のn型半導体層、前記p型半導体層、および前記第2のn型半導体層が、前記順序で積層され、
前記ドレイン電極は、前記第1のn型半導体層とオーミック接合され、
前記ソース電極は、前記第2のn型半導体層とオーミック接合され、
前記p型半導体層および前記第2のn型半導体層の一部に、前記第2のn型半導体層上面から前記第1のn型半導体層上部まで達する開口埋め込み部または切欠き部が形成され、
前記ゲート絶縁膜が、前記開口埋め込み部または切欠き部を覆うように形成され、
前記ゲート電極は、前記ゲート絶縁膜を介して前記開口埋め込み部または切欠き部を埋め込むように配置されることにより、前記ゲート絶縁膜を介して前記開口埋め込み部内面または前記切欠き部表面における前記第1のn型半導体層上面、前記p型半導体層側面および前記第2のn型半導体層側面と接合され、
前記p型半導体層は、前記ドレイン電極、前記ソース電極、および前記ゲート電極のいずれにも電圧を印加しない状態で、前記第1のn型半導体層側に正の分極電荷を有することを特徴とする。
【0036】
また、本発明の電子装置は、本発明の半導体装置を含むことを特徴とする。
【発明の効果】
【0037】
本発明によれば、パンチスルー現象の発生を抑制することが可能な半導体装置を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0039】
以下、本発明の半導体装置について、具体的な実施形態に基づき、さらに詳しく説明する。ただし、以下の実施形態は例示であって、本発明は、これらの説明により限定されない。例えば、本発明において、前記および下記の各数式は、あくまで理論式であり、実際の本発明の半導体装置において起こる現象は、各数式と完全に一致しない場合がある。また、半導体装置の構造を示す図は、説明の便宜のための例示的な模式図であるため、各部の寸法比、細部の構造等は、実際の半導体装置とは異なる場合がある。本発明において、数値限定により発明を特定する場合は、厳密にその数値でも良いし、約その数値でも良い。
【0040】
<半導体装置の構造>
図1の断面図に、本発明の半導体装置の一実施形態の構造を示す。本実施形態の半導体装置は、縦型GaN FETである。同図は、本実施形態における前記縦型GaN FETの半導体構造を模式的に示したものである。
【0041】
図示の通り、本実施形態の縦型GaN FETは、Siなどから形成されたn型基板1と、n型GaN層(n型GaNドリフト層)2と、p型InGaN層(p型InGaNチャネル層)3と、n型GaN層4(n型InGaNキャップ層)と、ドレイン電極13と、ソース電極11と、ゲート電極12とを含む。n型GaN層2は、本発明の半導体装置における前記「第1のn型半導体層」に相当する。p型InGaN層3は、本発明の半導体装置における前記「p型半導体層」に相当する。n型GaN層4は、本発明の半導体装置における前記「第2のn型半導体層」に相当する。また、本実施形態の縦型GaN FETは、さらに、ゲート絶縁膜21を含む。
【0042】
n型基板1の上面には、Ga面成長したn型GaN層2(第1のn型半導体層)、p型InGaN層3(p型半導体層)、n型GaN層4(第2のn型半導体層)が、前記順序で積層されている。n型GaN層2の上面はp型InGaN層3の下面と接している。p型InGaN層3の上面はn型GaN層4の下面と接している。ドレイン電極13は、n型基板1の下面に形成され、n型GaN層2(第1のn型半導体層)とオーミック接合されている。ソース電極11は、n型GaN層4(第2のn型半導体層)の上面に形成され、n型GaN層4とオーミック接合されている。n型GaN層2の上部の一部と、p型InGaN層3およびn型GaN層4の一部は除去されている。ゲート絶縁膜21は、前記除去部分を覆うように形成されている。ゲート電極12は、前記除去部分を埋め込むように配置され、ゲート絶縁膜21を介して前記除去部分の表面におけるn型GaN層2(第1のn型半導体層)上面、p型InGaN層3(p型半導体層)側面、およびn型GaN層4(第2のn型半導体層)側面と接合されている。p型InGaN層3(p型半導体層)は、ドレイン電極13、ソース電極11、およびゲート電極12のいずれにも電圧を印加しない状態で、n型GaN層2(第1のn型半導体層)側に正の分極電荷を有する。なお、
図1において、符号A−B間の矢印は、ソース電極11上方からドレイン電極13下方に向かって、基板1平面に垂直な方向を表す。また、これ以外の矢印は、電流の方向を模式的に例示する矢印である。
【0043】
また、本実施形態の縦型GaN FETでは、
図1に示す構造が左右に複数連続している。すなわち、同図では、縦型GaN FET上部の中央にソース電極11があり、左右にゲート電極12があるように図示しているが、左右のゲート絶縁膜21およびゲート電極12は、それぞれ連結して一つのゲート絶縁膜およびゲート電極を形成する。すなわち、n型GaN層2の上部の一部と、p型InGaN層3およびn型GaN層4の一部が除去されて開口埋め込み部を形成し、ゲート絶縁膜21は、前記開口埋め込み部を覆うように形成されている。ゲート電極12は、ゲート絶縁膜21を介して前記開口埋め込み部を埋め込むように配置されることにより、ゲート絶縁膜21を介して前記開口埋め込み部内面におけるn型GaN層2(第1のn型半導体層)上面、p型InGaN層3(p型半導体層)側面、およびn型GaN層4(第2のn型半導体層)側面と接合されている。すなわち、本実施形態では、ゲート電極12とソース電極11とは、縦型GaN FETの上部に平面的に交互に配置されている。
【0044】
なお、本発明において「接合」とは、直接接触した状態でも良いし、他の構成要素を介してつなぎ合わされた状態でもよい。電極が半導体層と接合している状態とは、例えば、
図1で説明したように、ソース電極11がn型GaN層4と直接接触した状態、ドレイン電極13がn型基板1を介してn型GaN層2とつなぎ合わされた状態、ゲート電極12が絶縁膜21を介してn型GaN層2、p型InGaN層3およびn型GaN層4とつなぎ合わされた状態等がある。
【0045】
また、本発明において、「上に(upper side)」は、特に断らない限り、上面に直接接触している状態(on)に限定されず、間に他の構成要素等が存在し、直接接触していない状態(above)も含む。同様に、「下に(lower s11ide)」は、特に断らない限り、下面に直接接触している状態(on)でも良いし、間に他の構成要素等が存在し、直接接触していない状態(below)でも良い。また、「上面に(on the upper surface)」は、上面に直接接触している状態を指す。同様に、「下面に(on the lower surface)」は、下面に直接接触している状態を指す。「片面側に(at the one side)」は、特に断らない限り、片面側に直接接触している状態でも良いし、間に他の構成要素等が存在し、直接接触していない状態でも良い。「両面側に(at the both side)」も、同様とする。「片面に(on the one side)」は、片面に直接接触している状態を指す。「両面に(on the both side)」も、同様とする。
【0046】
また、本発明において、「組成」とは、半導体層等を構成する元素の原子数の量的関係をいう。「組成比」とは、前記半導体層等を構成する特定の元素の原子数と、他の元素の原子数との相対的な割合をいう。例えば、Al
xGa
1−xNの組成で表される半導体層において、xの数値を「Al組成比」という。また、本発明において、一つの半導体層と他の半導体層との組成を比較する場合、導電性を発現させるための不純物(ドーパント)は、半導体層を構成する元素として考慮しないものとする。例えば、p型GaN層とn型GaN層とは、不純物(ドーパント)が異なるが、組成は同一であるものとする。また、例えば、n型GaN層と、不純物濃度がさらに高いn
+GaN層とがあった場合、それらの組成は同一であるものとする。
【0047】
また、半導体は、結晶状態である場合とアモルファス(非結晶)状態である場合とがある。本発明の半導体装置において、前記第1のn型半導体層、前記p型半導体層、前記第2のn型半導体層等を構成する各半導体は、特に制限されないが、結晶状態であることが好ましい。また、前記結晶状態は、単結晶状態でも多結晶状態でも良いが、単結晶状態であることがより好ましい。
【0048】
<半導体装置の製造方法>
図1に示す本実施形態の半導体装置である縦型GaN FETの製造方法について説明する。
【0049】
まず、導電性Siで形成されたn型基板1上に、例えば、分子線エピタキシ(Molecular Beam Epitaxy: MBE)成長法により、前記各半導体層を形成する。具体的には、n型基板1側から順に、n型GaNドリフト層2(膜厚1μm、ドーピング濃度1×10
17cm
−3)、p型In
0.2Ga
0.8Nチャネル層3(膜厚0.1μm、ドーピング濃度5×10
17cm
−3)、およびn型GaNキャップ層4(膜厚0.1μm、ドーピング濃度5×10
17cm
−3)を、前記順序で積層させる。
【0050】
次に、n型GaN層4の上面、および、n型基板1の下面に、例えば、Ti/Alなどの金属を蒸着し、ソース電極11およびドレイン電極13を形成する。ソース電極11およびドレイン電極13は、形成後、650℃でアニールを行うことでオーム性接触(オーミック接合)をとる。
【0051】
さらに、前記層2、3、および4から形成されたエピタキシャル層構造の一部を、n型GaNドリフト層2が露出するまでエッチングにより除去する。この除去部分の表面に、例えば、Al
2O
3をゲート絶縁膜21として形成した後に、例えば、Ni/Auなどの金属を蒸着し、ゲート電極12を形成する。以上のようにして、
図1に示す縦型GaN FETを製造することができる。
【0052】
なお、以上の説明は例示であって、
図1の縦型GaN FETは、これ以外の製造方法により製造しても良い。本発明の半導体装置の製造方法は特に限定されず、例えば一般的な半導体装置の製造方法等を参考にして任意の製造方法を適用できる。
【0053】
<作用、効果、変形例等>
以下、
図1に示す本実施形態の半導体装置の作用、効果、変形例等について、例示的に説明する。
【0054】
まず、
図1に示す本実施形態の縦型GaN FETのバンドエネルギー分布について説明する。
図2は、本実施形態の縦型GaN FETのバンドエネルギー分布を例示する模式図である。
図2に示すA−B間の線は、
図1に示すA−B間の線すなわちソース電極とドレイン電極の間の半導体層のバンドエネルギー分布に相当する。
図2は、前記半導体層のうち、n型GaN層2からn型GaN層4までのバンドエネルギー分布を表す。また、
図2に示すV
dsは、
図1の縦型GaN FETのドレイン電圧(V)を示し、V
biは、
図1の縦型GaN FETの内蔵電位(V)を示す。本実施形態の縦型GaN FETは、n型GaN層2の上にp型InGaN層3を形成したことにより、ドレイン電極13、ソース電極11、およびゲート電極12のいずれにも電圧を印加しない状態で、p型InGaN層3の下側界面に正(+)、上側界面に負(−)の分極電荷が発生する。これにより、
図2に示した通り、p型InGaN層3中の下側(n型GaN層2側)の空乏層の伸び(広がり)を抑制し、パンチスルー耐性を高めることが出来る。
【0055】
以下、前記分極電荷密度の設計について説明する。まず、アンバシャー(O. Ambacher)らによる文献ジャーナル・オブ・フィジクス(Journal of Physics) 第14巻第3399頁、2002年(O. Ambacher, et al., "Pyroelectric properties of Al(In)GaN/GaN hetero− and quantum well structures," Journal of Physics: Condensed Matter, Vol. 14, pp. 3399−3434 (2002).)によれば、In
yGa
1−yN(但し、yは、0<y≦1)およびGaNの自発分極P
sp(C・m
−2)およびGaN上のIn
yGa
1−yNに発生するピエゾ分極P
pz(C・m
−2)は、下記数式(14)から(16)で表される。P
sp(GaN)は、GaN層の自発分極P
spであり、P
sp(In
yGa
1−yN)は、In
yGa
1−yN層の自発分極P
spである。
【0056】
P
sp(GaN)=−0.031・・・・(14)
【0057】
P
sp(In
yGa
1−yN)=−0.042y−0.034(1−y)+0.037y(1−y)・・・・・・・・・・・・・(15)
【0058】
P
pz(In
yGa
1−yN/GaN)=0.148y−0.0424y(1−y)・・・・・・・・・・・・・・(16)
【0059】
また、この構造において自発分極を起源とする界面電荷P
sp(In
yGa
1−yN/GaN)(C・m
−2)は、数式(14)および(15)より、下記数式(17)の通り導出できる。
【0060】
P
sp(In
yGa
1−yN/GaN)=P
sp(In
yGa
1−yN)−P
sp(GaN)=−0.003+0.029y−0.037y
2・・・・(17)
【0061】
すなわち、p型InGaN層3の下側界面に発生する分極電荷σ(C・m
−2)は、数式(16)と(17)より、下記数式(18)の通り導出できる。
【0062】
σ(In
1−yGa
yN/GaN)=P
pz(In
yGa
1−yN/GaN)+P
sp(In
yGa
1−yN/GaN)=−0.003+0.1346y+0.0054y
2・・・・(18)
【0063】
なお、前記数式(18)で表されるIn組成比yと電荷密度n
pの関係を
図3のグラフに示した。すなわち、
図3は、本発明の半導体装置におけるピエゾ分極および自発分極による電荷密度設計を例示するグラフである。
【0064】
前記数式(18)より、p型InGaN層3の下側界面に正の分極電荷を発生させるためにはy>0.022とすれば良い。また、前記数式(18)によれば、p型InGaN層3の上側界面には、前記数式(18)と同じ密度で極性が反対の分極電荷が発生する。ただし、前記数式(18)は、前述の通り理論式である。したがって、本発明の半導体装置における実際の現象は、前記数式(18)と完全に一致するとは限らない。本発明の半導体装置において、前記ドレイン電極、前記ソース電極、および前記ゲート電極のいずれにも電圧を印加しない状態で、前記p型半導体層における前記第1のn型半導体層側に実際に正の分極電荷を有するのであれば、y>0.022でなくてもよい。
【0065】
本発明の半導体装置において、前記p型半導体層の厚みは特に制限されないが、オン抵抗低減の観点からは薄い方が好ましく、パンチスルー現象の発生を抑制する観点からは、一定以上の厚みであることが好ましい。本発明の半導体装置は、前述の通り、前記p型半導体層が、前記ドレイン電極、前記ソース電極、および前記ゲート電極のいずれにも電圧を印加しない状態で、前記第1のn型半導体層側に正の分極電荷を有する。これにより、前記p型半導体層の厚みが薄くてもパンチスルー現象の発生を抑制できるため、オン抵抗低減とパンチスルー現象発生の抑制を両立することが可能である。
【0066】
例えば、
図1に示した本実施形態の縦型GaN FETは、p型InGaN層3に発生する分極電荷でバンドエネルギーが持ち上がり、ドレイン電圧の印加による空乏層の広がりを抑えることができる。このため、例えば、パンチスルー現象の発生を抑制した状態でp型InGaN層3の薄層化を実現することができる。これにより、本実施形態の縦型GaN FETは、例えば、p型InGaN層3を、本発明と関連する
図11Aまたは
図11Bに示す半導体装置よりも薄くすることができ、オン抵抗低減を実現することができる。また、本実施形態の縦型GaN FETは、p型層にInを添加したp型InGaN層3を用いているため、p型ドーパント(不純物)の高濃度化が可能となり、パンチスルー現象の発生を抑制した状態でp型InGaN層3を薄層化し、オン抵抗低減を実現することができる。
【0067】
また、本発明の半導体装置において、前記p型半導体層の厚みは、パンチスルー現象発生抑制の観点からは、下記数式(A)を満たすことが好ましい。なお、下記数式(A)は、前記数式(13)と同じである。
【数14】
前記数式(A)において、各記号の意味は下記の通りである。
N
d1:前記第1のn型半導体層の不純物濃度(cm
−3)
N
d2:前記第2のn型半導体層の不純物濃度(cm
−3)
N
a :前記p型半導体層の不純物濃度(cm
−3)
L
ch:前記p型半導体層の厚み(cm)
q:素電荷(電気素量)(C)
ε
s:前記半導体層の誘電率(F/cm)
V
bi:内蔵電位(V)
V
B:前記半導体装置の耐圧(V)
【0068】
図4に、本実施形態の半導体装置(
図1)と、参考例として製造した他の半導体装置の、ホール濃度の分布を併せて示す。前記参考例としては、
図11Bの構造を有する半導体装置を、前記と同様の製造方法で製造して用いた。この参考例の半導体装置の半導体構造は、
図11Bにおいてn型基板101側から順に、n型GaNドリフト層102(膜厚1μm、ドーピング濃度1×10
17cm
−3)、p型GaNチャネル層103(膜厚0.1μm、ドーピング濃度5×10
17cm
−3)、n型GaNキャップ層104(膜厚0.1μm、ドーピング濃度5×10
17cm
−3)とした。
図4に示すとおり、参考例の半導体装置では、前記p型半導体層(p型GaNチャネル層103)中のホール濃度は、ドーピング濃度(5×10
17cm
−3)を下回っているため、中性領域が失われ(すなわちp層全域が空乏化し)パンチスルーが発生する状況になっている。これに対し、本実施形態の半導体装置では、空乏化しない領域が残っており、パンチスルーが抑制されている。
【0069】
本発明において、前記第1のn型半導体層、前記p型半導体層および前記第2のn型半導体層は、特に制限されないが、III−V族窒化物半導体から形成されていることが好ましい。前記III−V族窒化物半導体は、例えば、GaAsN等、窒素以外のV族元素を含む混晶でも良いが、窒素以外のV族元素を含まないIII族窒化物半導体が好ましい。前記III族窒化物半導体としては、例えば、GaN、InGaN、AlGaN、InAlN、InAlGaNが挙げられる。また、前記III−V族窒化物半導体は、Ga面成長したIII
−V族窒化物半導体がより好ましい。
【0070】
本発明の半導体装置において、前記p型半導体層は、前記ドレイン電極、前記ソース電極、および前記ゲート電極のいずれにも電圧を印加しない状態で、前記第1のn型半導体層側に正の分極電荷を有するための構成は、特に制限されない。前記正の分極電荷を有するためには、前記p型層と前記第1のn型半導体層との組成が異なることが好ましい。例えば、前記p型半導体層と、前記第1のn型半導体層とで、結晶格子の原子間距離が異なることにより、前記p型半導体層の結晶構造に歪みを生じさせ、前記正の分極電荷を発生させることができる。なお、このように、半導体に加えられた外部の応力またはひずみによって前記半導体に分極電荷が発生する現象を、「ピエゾ効果」「ピエゾ分極」あるいは「圧電分極」という。本発明の半導体装置において、前記第1のn型半導体層がAl
xGa
1−xN(但し、xは、0≦x≦1)で表される組成を有し、前記p型半導体層がIn
yGa
1−yN(但し、yは、0<y≦1)で表される組成を有することがより好ましい。前記第1のn型半導体層および前記p型半導体層がこれらの組成であると、より、前記ピエゾ効果(ピエゾ分極)が得られやすい。前記第1のn型半導体層において、Al組成比xは、好ましくは0〜0.5、より好ましくは0.05〜0.4、特に好ましくは0.1〜0.3である。なお、
図1の縦型GaN FETは、前記第1のn型半導体層がGaN(n型GaN層2)で形成されている例、すなわちx=0の例である。また、この場合において、前記In
yGa
1−yN(但し、yは、0<y≦1)の組成で表されるp型半導体層のIn組成比yは、前述の理由により、0.022より大きいことが好ましい。
【0071】
なお、本発明の半導体装置においては、前記p型半導体層が、前記ドレイン電極、前記ソース電極、および前記ゲート電極のいずれにも電圧を印加しない状態で、前記第1のn型半導体層側に正の分極電荷を有するのであれば、前記p型半導体層と前記第1のn型半導体層の組成が同じでもよい。また、本発明の半導体装置は、前記p型半導体層がInを含むことが好ましい。例えば、前記p型半導体層がGaNから形成され、Inを含まない場合、p型ドーパント(不純物)濃度は、1×10
17cm
−3を超えることは難しい。これに対し、前記p型半導体層がInを含んでいれば、前述のように、前記p型半導体層中のp型ドーパント(不純物)を高濃度にドーピングしやすい。前記p型半導体層中のp型ドーパント(不純物)が高濃度であれば、前記数式(A)(前記数式(13))から分かる通り、前記p型半導体層の厚みがより小さくても、パンチスルー現象を抑制しやすい。これにより、パンチスルー現象の抑制とオン抵抗の低減との両立が、いっそう達成しやすくなる。前記p型半導体層の不純物濃度N
a(cm
−3)は、例えば1×10
16〜1×10
21cm
−3、好ましくは1×10
17〜1×10
20cm
−3、特に好ましくは1×10
18〜1×10
19cm
−3である。ただし、前記数式(A)(前記数式(13))から分かる通り、N
aの好適範囲は、前記第1のn型半導体層の不純物濃度N
d1(cm
−3)および前記第2のn型半導体層の不純物濃度N
d2(cm
−3)等の他の条件にも影響される。N
aの値は、例えば、前記数式(A)(前記数式(13))を参考にして適宜設定すれば良い。また、例えば、前述の
図4で説明したように、本実施形態の半導体装置は、参考例の半導体装置とN
aは同じであるが、本発明による前記正の分極電荷の効果により、パンチスルー現象を抑制している。
【0072】
本発明の半導体装置は、前記p型半導体層が、前記ドレイン電極、前記ソース電極、および前記ゲート電極のいずれにも電圧を印加しない状態で、前記第2のn型半導体層側に負の分極電荷を有することが好ましい。これにより、例えば、
図2に示したように、前記p型半導体層の上側(前記第2の半導体層側)の空乏層の伸び(広がり)をも抑制することが可能である。この観点から、前記正の分極電荷に関する記述と同様の理由により、前記p型半導体層の組成と前記第2のn型半導体層の組成とが異なることが好ましい。より具体的には、例えば、前記p型半導体層がIn
yGa
1−yN(但し、yは、0<y≦1)で表される組成を有し、前記n型半導体層がAl
zGa
1−zN(但し、zは、0≦z≦1)で表される組成を有することがより好ましい。前記第2のn型半導体層において、Alの組成比zは、好ましくは0〜0.5、より好ましくは0.05〜0.4、特に好ましくは0.1〜0.3である。ただし、本発明においては、前記p型半導体層の組成と前記第2のn型半導体層の組成とが同じであっても良い。
【0073】
なお、本発明の半導体装置の前記p型半導体層が前記第1のn型半導体層側に分極電荷を有する場合、前記第1のn半導体層側とは、特に制限されないが、前記p型半導体層が前記第1の半導体層と接する界面付近を言う。
【0074】
また、
図1に示した半導体装置は、さらに、あらゆる変形が可能である。例えば、本実施形態では、
図1に示す構造が左右に連続している形態を示したが、
図1の構造単体でも半導体装置(FET)として機能しうる。すなわち、
図1の半導体装置(FET)は、前記開口埋め込み部に代えて、切欠き部を有し、前記ゲート絶縁膜が前記切欠き部表面を覆うように形成され、前記ゲート電極は、前記ゲート絶縁膜を介して前記切欠き部を埋め込むように配置されていても良い。後述する
図5、6、7、8および9においても同様である。さらに、これに限定されず、本発明の半導体装置において、前記ドレイン電極、前記ソース電極、および前記ゲート電極は、それぞれ1個でも複数でも良い。前記ドレイン電極、前記ソース電極、および前記ゲート電極が、最低限、それぞれ1個ずつあれば、半導体装置として機能し得る。ただし、本発明の半導体装置は、前記ソース電極および前記ゲート電極の少なくとも一方を複数有し、前記ソース電極および前記ゲート電極が交互に配置されていることが好ましい。
【0075】
さらに、オーム性電極(前記ソース電極および前記ドレイン電極)の接合形態等も、
図1の形態に限定されず、種々の変形が可能である。例えば、前記第2の半導体層の形成に代えて、前記p型半導体層の上部の一部または全部にイオン注入等でn型導電領域を形成し、これを前記第2のn型半導体層としても良い。
図5に、その一例を示す。
図5の半導体装置(縦型GaN FET)では、p型InGaN層3の上部の左右両脇に、例えばイオン注入により、n型導電領域5が形成されている。p型InGaN層3の上部の中央部は、n型導電領域5が形成されていない。
図5の半導体装置は、第2の半導体層4を有しない。ソース電極11は、p型InGaN層3およびn型導電領域5の上面に直接接触し、p型InGaN層3およびn型導電領域5とオーミック接合されている。これら以外の点は、
図5の半導体装置は、
図1の半導体装置と同様である。
【0076】
また、前記ソース電極は、例えば、
図6に示すような接合形態でもよい。
図6の半導体装置は、ソース電極11の下方に位置するn型GaN層4の一部が除去されて開口埋め込み部が形成されている。ソース電極11は、前記開口埋め込み部を埋め込むように形成され、n型GaN層4(前記第2の半導体層)およびp型InGaN層3(前記p型半導体層)の両方に直接接触し、n型GaN層4およびp型InGaN層3とオーミック接合されている。これら以外の点は、
図6の半導体装置は、
図1の半導体装置と同様である。なお、
図5および6の半導体装置は、前記p型半導体層上(上面)の一部に前記第2のn型半導体層が積層された構造を有する。
【0077】
ドレイン電極13は、
図1では、n型基板1の裏面に形成したが、例えば
図7に示すように、ビアホールなどでn型GaN層2と接続するようにドレイン電極13を形成することも可能である。
図7の半導体装置の構造をより具体的に説明すると、以下の通りである。すなわち、まず、同図の半導体装置は、n型基板1の一部が除去されてビアホール(開口埋め込み部)が形成されている。ドレイン電極13は、n型基板1の下面と接触し、かつ前記ビアホール(開口埋め込み部)を埋め込んでn型GaN層2(前記第1の半導体層)と直接接触するように形成されている。これにより、ドレイン電極13は、n型GaN層2とオーミック接合している。これら以外の点は、
図7の半導体装置は、
図1の半導体装置と同様である。なお、
図7の構造が左右に連続して半導体装置を形成する場合、前記ビアホールは、必ずしも
図7に示す構造毎に形成する必要はない。前記ビアホールは、最低限、半導体装置毎に1つ形成すれば、相応の効果が得られるが、複数形成しても良く、
図7に示す構造毎に形成しても良い。
【0078】
また、前記ドレイン電極は、前記基板を介して前記第1のn型半導体層と接合させる以外の接合形態でも良い。例えば、
図8のように、n型GaN層2の下部にドレインコンタクト用の高濃度n型GaN層7を設け、表面側から露出させた高濃度n型GaN層7の上面にドレイン電極13を形成しても良い。すなわち、同図の半導体装置は、基板1の上面に高濃度n型GaN層7が形成されている。高濃度n型GaN層7の上面にはn型GaN層2(前記第1のn型半導体層)が形成され、さらに、p型InGaN層3(前記p型半導体層)、n型GaN層4(前記第2のn型半導体層)等、
図1と同様の構造が形成されている。この構造は、1つでも良いし、左右に連続していても良い。同図の半導体装置の左右の末端では、高濃度n型GaN層7の上面に前記構造が形成されていない。ドレイン電極13は、基板1の下面に代えて、半導体装置の左右末端に1つずつ、それぞれ高濃度n型GaN層7の上面に形成されている。
【0079】
本発明の半導体装置は、例えば、
図1、
図5および
図6に示したようなソース電極の接合形態と、
図7および
図8に示したドレイン電極の接合形態を任意に組合せて用いても良いし、その他の構造でも良い。本発明の半導体装置の構造は、例えば、
図11Aに示した半導体装置の構造等を参考に、これに準じた構造としても良い。
【0080】
本発明の半導体装置において、前記基板、前記各半導体層等の形成材料も、前述の形成材料に限定されない。例えば、前記基板は、n型Si基板に限定されず、高濃度n型GaN基板等でも良いし、n型基板に限定されず、p型基板でも良い。また、前記基板を介さずに前記ドレイン電極と前記第1のn型半導体層とを接合させる場合は、前記基板が導電性である必要はなく、高抵抗あるいは絶縁性の基板を用いても良い。具体的には、例えば
図8に示した形態が挙げられる。
【0081】
また、本実施形態の縦型GaN FETにおいては、
図1および
図2に示したように、p型InGaN層3は、n型GaN層2側に正、n型GaN層4側に負の分極電荷をそれぞれ発生させた。しかしながら、p型InGaN層3においてn型GaN層2側に正の分極電荷を発生させることが可能であれば、n型GaN層2、p型InGaN層3およびn型GaN層4の組成は、特に限定されず、任意の組成を適用可能である。例えば、前述のように、n型GaN層2がAl
xGa
1−xN(但し、xは、0≦x≦1)で表される組成を有し、p型InGaN層3がIn
yGa
1−yN(但し、yは、0<y≦1)で表される組成を有し、n型GaN層4がAl
zGa
1−zN(但し、zは、0≦z≦1)で表される組成を有するように前記各層を形成しても良い。
【0082】
なお、本発明の半導体装置は、特に制限されないが、電界効果トランジスタ(FET)であることが好ましい。前記各図を用いて説明した半導体装置は、全て、電界効果トランジスタ(FET)として使用可能である。
【0083】
次に、本発明の別の実施形態について説明する。
【0084】
<半導体装置の構造>
図9の断面図に、本実施形態の半導体装置の構造を模式的に示す。この半導体装置は、
図1の半導体装置と同じく縦型GaN FETである。
図9に示すとおり、この半導体装置は、さらに、半導体から形成された組成変調層6を含む。組成変調層6は、n型GaN層2(前記第1のn型半導体層)上面とp型InGan層3(前記p型半導体層)下面とに接して第1のn型GaN層2とp型GaN層3との間に配置されている。この半導体装置は、n型GaN層2と組成変調層6との界面、前記組成変調層、およびp型InGaN層3と前記組成変調層との界面を形成する半導体の組成が、基板1平面と垂直な方向に、前記半導体の組成が連続的または段階的に変化する。組成変調層6下面付近は、n型GaN層2と組成がほぼ等しく、組成変調層6上面付近は、p型InGaN層3と組成がほぼ等しい。また、
図9における組成変調層6は、n型半導体から形成されたn型組成変調層である。これら以外は、
図9の半導体装置の構造は、
図1の半導体装置と同様である。
【0085】
<半導体装置の製造方法>
本実施形態の半導体装置の製造方法は、例えば以下の通りである。まず、導電性Siから形成されたn型基板1上に、例えば、分子線エピタキシ(Molecular Beam Epitaxy: MBE)成長法により各半導体層を形成する。具体的には、n型基板1側から順に、n型GaNドリフト層2(膜厚1μm、ドーピング濃度1×10
17cm
−3)、n型組成変調層6(膜厚50nm、ドーピング濃度1×10
17cm
−3)、p型In
0.2Ga
0.8Nチャネル層3(膜厚0.1μm、ドーピング濃度5×10
17cm
−3)、およびn型GaNキャップ層4(膜厚0.1μm、ドーピング濃度5×10
17cm
−3)を、前記順序で積層させる。
【0086】
次に、n型GaN層4の上面、および、n型基板1の下面に、例えば、Ti/Alなどの金属を蒸着し、ソース電極11およびドレイン電極13をそれぞれ形成する。ソース電極11およびドレイン電極13は、形成後に、650℃でアニールを行うことでオーム性接触(オーミック接合)をとる。
【0087】
さらに、前記層2、3、4および6から形成されたエピタキシャル層構造の一部を、n型GaNドリフト層2が露出するまでエッチングにより除去する。この除去部分の表面に、例えば、Al
2O
3をゲート絶縁膜21として形成した後に、例えば、Ni/Auなどの金属を蒸着し、ゲート電極12を形成する。以上のようにして、
図9に示す縦型GaN FETを製造することができる。
【0088】
なお、以上の説明は例示であって、
図9の縦型GaN FETは、これ以外の製造方法により製造しても良い。前述のとおり、本発明の半導体装置の製造方法は特に限定されない。
【0089】
<作用、効果、変形例等>
以下、
図9に示す本実施形態の半導体装置の作用、効果、変形例等について、例示的に説明する。
【0090】
図9に示す本実施形態の半導体装置(縦型GaN FET)では、実施形態1と同様に、p型InGaN層3に発生する分極電荷により、パンチスルー現象の抑制効果を得ることができる。さらに、本実施形態では、n型組成変調層6により、n型GaN層2とp型InGaN層3との間にノッチ(バンドエネルギーが、層界面で急激に変化する現象)を発生させないようにすることが可能となる。
【0091】
図10は、本実施形態の縦型GaN FETのバンドエネルギー分布を例示する模式図である。
図10に示すA−B間の線は、
図9に示すA−B間の線すなわちソース電極とドレイン電極の間の半導体層のバンドエネルギー分布に相当する。
図10は、前記半導体層のうち、n型GaN層2からn型GaN層4までのバンドエネルギー分布を表す。
図9の半導体装置では、前記ドレイン電極、前記ソース電極、および前記ゲート電極のいずれにも電圧を印加しない状態で、p型InGaN層3と組成変調層6との積層体が、n型GaN層2側に正の分極電荷を有する。n型組成変調層6およびp型InGaN層3内部に発生する正の分極電荷の総和は、前記各理論式に基づけば、実施形態1の構造を有する半導体装置のp型InGaN層3内部に発生する正の分極電荷と等しい。したがって、本実施形態においても、実施形態1と同様に、前記正の分極電荷によるパンチスルー現象の抑制効果を得ることができる。さらに、本実施形態の縦型GaN FETは、
図10に示すとおり、n型組成変調層6の挿入により、p型InGaN層3とn型GaN層2との間のノッチが無いため、実施形態1よりも低抵抗を実現することができる。
【0092】
本発明の半導体装置は、例えば
図9に示したように、
さらに、半導体から形成された組成変調層を含み、
前記第1のn型半導体層と前記p型半導体層とが異なる組成を有し、
前記組成変調層は、前記第1のn型半導体層上面と前記p型半導体層下面とに接して前記第1のn型半導体層と前記p型半導体層との間に配置され、
前記第1のn型半導体層と前記組成変調層との界面、前記組成変調層、および前記p型半導体層と前記組成変調層との界面を形成する半導体の組成が、前記基板平面と垂直な方向に連続的または段階的に変化し、
前記p型半導体層に代えて、前記p型半導体層と前記組成変調層との積層体が、前記ドレイン電極、前記ソース電極、および前記ゲート電極のいずれにも電圧を印加しない状態で、前記第1のn型半導体層側に正の分極電荷を有することが好ましい。これにより、例えば
図10で説明したように、前記第1のn型半導体層と前記p型半導体層との間のノッチを解消または低減でき、さらに低抵抗を実現することが可能である。
【0093】
また、
図9の組成変調層はn型であるが、本発明では、前記組成変調層はn型に限定されず、p型変調層でも良いし、n型組成変調層とp型組成変調層の両方から形成されていても良い。前記組成変調層がp型組成変調層の場合、および、n型組成変調層とp型組成変調層の両方から形成されている場合も、同様に前記ノッチの解消または低減効果が得られる。前記変調層がn型組成変調層とp型組成変調層の両方から形成されている場合は、前記n型組成変調層が前記第1のn型半導体層側に配置され、かつ、前記p型組成変調層が前記p型半導体層側に配置されていることが好ましい。すなわち、前記n型組成変調層が前記第1のn型半導体層上面と接しており、かつ、前記p型組成変調層が前記第p型半導体層上面と接していることが好ましい。以上の通り、本発明では、前記組成変調層は、n型組成変調層およびp型組成変調層の一方または両方から形成され、前記n型組成変調層の下面は前記第1のn型半導体層上面と接しており、前記p型組成変調層の上面は前記p型半導体層下面と接していることが好ましい。
【0094】
なお、前記p型半導体層と前記組成変調層との積層体が前記第1のn型半導体層側に分極電荷を有する場合、前記第1のn半導体層側とは、特に制限されないが、前記p型半導体層と前記組成変調層との積層体が前記第1の半導体層上面と接する近辺を言う。前記近辺とは、前記組成変調層のみを含み前記p型半導体層を含まなくても良いし、前記p型半導体層を含んでいても良い。
【0095】
また、本発明では、前記と同様の観点から、前記p型半導体層上面と前記第2のn型半導体層下面との間に、前記組成変調層と同様の他の組成変調層を配置しても良い。前記他の組成変調層は、n型組成変調層およびp型組成変調層の一方または両方から形成され、前記n型組成変調層の上面は前記第2のn型半導体層下面と接しており、前記p型組成変調層の下面は前記p型半導体層上面と接していることが好ましい。前記他の組成変調層は、単独で用いても良いし、前記第1のn型半導体層上面と前記p型半導体層下面との間に配置された前記組成変調層と併用しても良い。
【0096】
また、
図9に示した本実施形態の半導体装置(縦型GaN FET)は、例えば、実施形態1で述べた種々の変形に準じて、あらゆる変形が可能である。例えば、
図5に準じて、p型InGaN層3の一部にイオン注入などでn型導電性を形成し、n型領域とp型領域との両方に接触するようにソース電極11を形成しても良い。また、例えば、
図7に準じて、n型基板1の一部にビアホールなどを形成し、n型InGaN層5と接続するようにドレイン電極13を形成しても良い。
【0097】
以上、説明した通り、本発明によれば、パンチスルー現象の発生を抑制することが可能な半導体装置を提供することができる。本発明の半導体装置は、パンチスルー現象の抑制により、例えば、低耐圧領域でも低いオン抵抗を得ることが可能である。本発明の半導体装置は、特に制限されないが、電界効果トランジスタ(FET)であることが好ましく、縦型GaN FETであることが特に好ましい。本発明の半導体装置の用途は特に制限されず、例えば、一般的な電界効果トランジスタ(FET)等と同様の用途に用いても良い。本発明の半導体装置は、例えば、各種家電製品、通信機器等の電子装置に広く用いることができる。
【0098】
以上、実施形態を参照して本願発明を説明したが、本願発明は、上記実施形態に限定されるものではない。本願発明の構成や詳細には、本願発明のスコープ内で当業者が理解しうる様々な変更をすることができる。
【0099】
この出願は、2009年9月22日に出願された日本出願特願2009−218295を基礎とする優先権を主張し、その開示の全てをここに取り込む。