【実施例】
【0029】
(シリコン単結晶基板の準備)
最初に、オフ角を持ったシリコン単結晶基板を用意する。この際に、シリコン単結晶の<11−2>が基板表面に対して傾斜し、<1−10>は基板表面にほとんど傾斜しない関係を実現する。すなわち、<111>軸が基板表面に立てた法線から専ら<11−2>方向に傾斜する関係を満たす面を露出させる。すなわち
図1に示すθy0をほとんどゼロし、θx0に値を持たせる。θy0は厳密にゼロでなくてよく、小さな値をもっていてもよい。
一般に、tanθ0=(tan
2θx0+tan
2θy0)
1/2の関係になる。ここで、θ0は法線nとシリコン単結晶の<111>軸がなす角である。θy0が小さな場合、θ0とθx0は近似的に等しくなる。θx0(近似的にθ0に等しい)の絶対値が0.1°〜1.0°となる範囲で傾斜させる。同様に、tanθ1=(tan
2θx1+tan
2θy1)
1/2となる。ここで、θ1は法線nとIII族窒化物単結晶の<0001>軸がなす角である。
θx0の絶対値が0.1°以下であると、
図3に示すテラス14の幅Wの平均値が広くなりすぎ(1μm以上となる)、テラス14上で二次元核成長が開始し、
図9に示した不規則性が生じる可能性がある。θx0の絶対値が1.0°以上であると、
図3に示すテラス14の傾斜角が大きくなりすぎ、ステップ12の高さDが大きくなりすぎる。ステップフロー成長では、一度に成長するステップが1または2原子層の厚みを持っているときに、結晶欠陥が少なく、表面が平坦(1または2原子層の厚みの範囲内で変化するステップ・テラス形状はマクロ的には非常に平坦である)な結晶膜が成長することが知られている。θx0の絶対値が1.0°以上であると、一度に成長するステップの厚みが厚くなり、ステップバンチング現象が生じる可能性がある。
【0030】
(シリコン酸化膜の生成)
オフ角を持ったシリコン単結晶基板を用意する。用意したシリコン単結晶基板の表面には自然酸化膜が形成されている。その自然酸化膜が厚すぎる場合があるので、下記の処理をする。
(1)シリコン単結晶基板を、硫酸過水洗浄、アンモニア過水洗浄、及び/又は塩酸過水洗浄する。
(2)シリコン単結晶基板を、1%のフッ酸に晒して自然酸化膜の一部を除去して薄くする。
(3)純水でリンスして乾燥する。
上記の処理をしたシリコン単結晶基板は、表面が薄いシリコン酸化膜で覆われている。
【0031】
(アルミナ膜の生成)
0.5〜20nmの厚みのアルミナ膜を形成する。そのためには、ALD(原子層体積法)でアルミナ膜を生成することが好ましい。スパッタリング法でアルミナ膜を生成してもよい。アルミナ膜が厚みが0.5nm以下であると、シリコン酸化膜の表面をきれいに覆えない。アルミナ膜が厚みが20nm以上であると、後記する熱処理をしても、シリコン単結晶の<111>軸の方位がアルミナ膜の表面に伝達されない。この工程では、1〜3nmの厚みを持つアルミナ膜を形成するのが好ましい。
【0032】
(熱処理)
シリコン酸化膜とアルミナ膜が積層されたシリコン単結晶基板を1000〜1200℃に加熱して熱処理する。1000℃以下では熱処理が不十分であり、1200℃以上ではアルミナのAlとシリコン酸化膜のSiが反応して結晶性が損なわれる。
1000〜1200℃で熱処理することで、アルミナはアルファ型に結晶化され
る。アルミナ膜が結晶化
する際に、隣接するシリコン酸化物が還元され、SiO
2がSiOx(x<2)に変化する。
図4は、熱処理前のシリコン酸化膜のSi(1s軌道)のXPSスペクトル(カーブC1)と、熱処理後のシリコン酸化膜のXPSスペクトル(カーブC2)を示す。熱処理前XPSスペクトル(C1)に比して熱処理後XPSスペクトル(C2)は、ピークA,Bにおいて高さが減少しており、シリコン単結晶のXPSスペクトルによく似てくる。熱処理することで、シリコン酸化膜が還元され、SiOx(x<2)に変質したことが確認される。
シリコン酸化膜が還元されてアルミナ膜がアルファ型に結晶化されると、シリコン単結晶の<111>が傾斜していることの影響が
αアルミナ膜の表面にまで伝播し、アルファ型のアルミナ結晶のc軸も傾斜する。
図1に示すように、シリコン単結晶の<111>は主として<11−2>方向に傾斜している。そのために、
αアルミナ結晶のc軸も主として<11−2>方向に傾斜する。
熱処理は、アルゴンなどの希ガス中で行うことが好ましい。希ガス中で熱処理すると、シリコン単結晶が窒化するといったことを防止できる。
【0034】
(III族窒化物単結晶の成長)
表面に対してc軸が傾斜している
αアルミナ結晶の表面に、有機金属気相成長方法(MOCVD)法で、III族窒化物単結晶を成長させる。実施例では、AlNを結晶成長し、ついでGaNを結晶成長させた。
最初は、水素または窒素雰囲気で、基板を1000〜1100℃に加熱してAlNを成長させ始める。AlNの結晶成長開始時には、アルミナの熱処理温度よりも100℃程度低い温度で結晶成長を開始することが好ましい。アルミナの熱処理温度よりも100℃程度低い温度で結晶成長を開始すると、基板が窒化することを防止できる。その後、窒素源にアンモニアを用い、アルミニウム源にトリメチルアルミニウムを用いてAlNを結晶成長させる。こうして成長するAlN結晶は、
αアルミナ結晶に対して配向する。結果的に、AlN結晶は、シリコン単結晶の3回対称性を持つ<111>に対して配向する。シリコン単結晶の<111>が基板表面に対して傾斜している(直交していない)ことから、AlN結晶のc軸も基板表面に対して傾斜して成長する。この結果、AlN結晶8は、
図3に示すようにステップフロー成長する。
図3は、オフ角を持つシリコン単結晶基板2と、還元されたシリコン酸化膜4と、熱処理して結晶化した
αアルミナ膜6と、その上にステップフロー成長したAlN膜8の積層構図を模式的に示している。
なお、400〜800℃の温度範囲でMOCVD法を実施してAlN膜8を成長してもよい。あるいは、ALD法で非晶質のAlN膜を形成した後に熱処理して結晶化させてもよい。
【0035】
AlN膜8の表面に、他のIII族窒化物単結晶をエピタキシャル成長させることができる。
図3の実施例では、GaN膜10をエピタキシャル成長させている。AlN膜8とGaN膜10の間にヘテロ接合界面が形成された積層基板が形成される。GaN膜10のc軸10aは、GaN膜10の表面に対して傾斜する。この結果、GaN結晶10は、
図3に示すようにステップフロー成長する。
図3では、ステップ12の高さとテラス14の傾斜角は誇張して示されている。実際のステップ12の高さは1から数原子層分であり、テラス14の傾斜角は非常に小さい。すなわちGaN膜10の表面は非常に平坦度が高い。その平坦なGaN膜10の表面上に、例えば、Al
xGa
yIn
1−x−yNの薄膜を結晶成長することができる。GaN膜とAl
xGa
yIn
1−x−yNの薄膜の間に、非常に平坦なヘテロ接合界面が得られる。Al
xGa
yIn
1−x−yNの伝導帯がGaNの伝導帯よりも高いエネルギーを持つように混晶の組成を設計することができる。これによって、GaN膜とAl
xGa
yIn
1−x−yNのヘテロ接合界面に電子雲を発生させることができる。そのヘテロ接合界面は非常に平坦であり、電子の移動度が高い。非常に平坦なヘテロ接合界面に沿って移動度が高い電子が高濃度に存在している半導体装置(したがって能力の高い)を実現することができる。
【0036】
図1は、GaN単結晶の<0001>軸を図示している。
図2(a)は、法線nとシリコン単結晶の<11−2>軸を含む面(ny面)を断面視した図を示している。<111>軸をx軸方向からny面に投影した<111>nyと、<0001>をx軸方向からny面に投影した<0001>nyは、法線nから時計方向に回転しており、図示のθx0≠0であり、θx1≠0である。シリコンの<111>とGaNの<0001>は同じ側(同一方向)に傾斜している。
図5は、
図2(a)に図示されているθx0とθx1の関係を示している。前記したように、
図2(b)のθy0とθy1がともにほぼゼロであることから、θx0はθ0に近似し、θx1はθ1に近似している。
図5は、θ0とθ1の関係を示しているといってもよい。
図5に示すように、本実施例によると、θ0とθ1はよく相関する。θ1/θ0がほぼ0.6〜0.7である関係が成立する。θ0とθ1の関係を示す直線の勾配は、GaN膜の成膜条件によって変化する。成膜条件を調整することで、θ1/θ0の価を0.6〜1.0の範囲で調整することができる。
また
図2(c)に示すように、シリコン単結晶基板2またはGaN膜10の表面を平面視すると、シリコン単結晶の<111>軸とIII族窒化物単結晶の<0001>軸がなす角θはほぼゼロである。シリコン単結晶の<111>軸の方位とIII族窒化物単結晶の<0001>軸の方位がよく揃った積層基板を得ることができる。
【0037】
図6は、GaN単結晶の表面のAFM像である。
図3に模式的に示したテラス・ステップ形状が実際に観測される。θx0がθ0に近似的に等しく、しかもその絶対値が0.1〜1.0°の角度範囲にあると、テラスの幅(ステップに直交する方向に測定したテラスの幅)の平均値をWとし、GaN単結晶の<0001>軸の格子定数をCとしたときに、W×tanθx1の絶対値=0.5×C〜2.0×Cの関係を得ることができる。この場合、各ステップが、2原子層以下の厚みでステップフロー成長する。表面が平坦で、結晶欠陥が少ないGaN単結晶を得ることができる。GaN単結晶膜10を成膜する際に、不純物をドープしたGaN単結晶を結晶成長させることがある。2原子層以下の厚みでステップフロー成長する場合、不純物をIII族サイトに導入するか、V族サイトに導入するかを制御することができる。不純物の濃度のみならず、不純物の挙動まで安定した基板を作成することができる。
【0038】
図7は、GaN単結晶膜10の厚みと、XRC(X線ロッキングカーブ)半値幅の関係を示している。AlNを1060℃で成長させ、その上にGaNを結晶成長させた試料を用い、002回折のX線ロッキングカーブを測定した。GaNの膜厚が0.5μmの試料の半値幅は952sec
−1であり、膜厚が0.8μmの試料の半値幅は670sec
−1であり、膜厚が1.5μmの試料の半値幅は449〜514sec
−1であった。
膜厚が1.5μm以下であって、半値幅が450〜500arcsec(2.2〜2.4×10
−3rad)の単結晶窒化ガリウムを得ることができた。XRC半値幅は、螺旋転位密度と混合転位密度の合計値ρsに換算することができる。非特許文献8に、下記の式1の関係が成立することが報告されている。
【0039】
【数1】
【0040】
膜厚が1.5μmの試料で得られた半値幅を式1を用いて転位密度に換算すると、5×10
8cm
−2以下となった。換算した転位密度は、AFM像からも妥当であることが確認された。シリコン基板上に直接に窒化アルミニウムを成長させ、その上にGaNを成長させた場合、上記と同様に計測すると、転位密度が5×10
8cm
−2以上となってしまう。本明細書に開示する技術によって、膜厚が1.5μm以下であり、転位密度が5×10
8cm
−2以下である単結晶窒化ガリウムを得ることができた。
【0041】
実施例によると、シリコン基板2上に転位密度が小さくて良質なIII族窒化物単結晶膜8,10が積層された基板が得られる。この基板に、素子分離、ゲートリセスエッチング、ソース電極とドレイン電極の形成、電極シンターの形成、ゲート絶縁膜の形成、ゲート電極の形成、層間絶縁膜の形成等の工程を施すことによって、III族窒化物単結晶を利用する各種の半導体デバイスを製造することができる。
転位密度が小さくて良質なIII族窒化物単結晶膜10を得るのが目的であれば、シリコン単結晶基板にオフ角を設定することは不可欠でない。本技術は、オフ角を持たないシリコン単結晶基板の表面上に転位密度が小さくて良質なIII族窒化物単結晶膜10を得るために利用することができる。
【0042】
本実施例では、
図3に示すように、AlN膜8の上部にGaN膜10を積層している。これに代えて、AlN膜8の上部に、AlGaNからなる歪み緩和層、GaNからなるチャンネル層、AlxInyGa1−x−yNからなる障壁層、GaNからなるキャップ層を順次積層することによって、へテロ接合型電界効果トランジスタの層構造を作成することができる。チャネル層として作用するGaN膜は、結晶欠陥が少なく平坦であり、特性にすぐれたトランジスタを得ることができる。あるいは、AlN膜8の上部に、AlGaN膜、n型クラッド膜、多重量子井戸活性層、p型電子障壁層、p型コンタクト層を積層してもよい。n型クラッド膜、多重量子井戸活性層、p型電子障壁層、p型コンタクト層等は、III族窒化物単結晶で得ることができる。この構造によると、AlGaN膜が歪み緩和層として機能する発光ダイオードを製造することができる。この発光ダイオードは、Inを含む単結晶がステップフロー成長することから、Inの偏析が抑制され、発光効率が向上する。
【0043】
図10は、シリコン単結晶基板上に転位密度が小さくて良質なIII族窒化物単結晶膜を成長させる装置を模式的に示している。
図10の(1)〜(3)において、参照番号42は、表面がシリコン酸化膜で覆われているシリコン単結晶基板上に、
アルミナ膜を製膜するチャンバーを示している。
図10(1)の参照番号52は、
アルミナ膜が製膜されたシリコン単結晶基板を熱処理し、さらにIII族窒化物単結晶膜を製膜するチャンバーを示している。
図10(2)と(3)の参照番号58は、
アルミナ膜が製膜されたシリコン単結晶基板を熱処理するチャンバーを示し、参照番号66は、III族窒化物単結晶膜を製膜するチャンバーを示している。シリコン単結晶基板を熱処理するチャンバーと、III族窒化物単結晶膜を製膜するチャンバーは、同一であってもよいし、別々に用意されていてもよい。チャンバー42,52,58,66の各々には真空ポンプPが取り付けられており、チャンバー内の気体種類と圧力と気体流量等を調整することができる。
チャンバーとチャンバーの間は、移送用通路48、62、72等で接続されている。移送用通路48、62、72等も外気から遮断されており、処理中の試料を外気に晒さないで処理することができる。参照番号46,50,56,60,64,70等は、チャンバーと移送用通路間を開閉するシャッターである。参照番号42aは、自然酸化膜が形成されているシリコン単結晶基板をチャンバー42に入れる開口であり、参照番号44は開口42aを開閉するシャッターである。参照番号52aは、シリコン単結晶基板上にIII族窒化物単結晶膜が製膜された積層基板をチャンバー52から取り出す開口であり、参照番号54は開口52aを開閉するシャッターである。参照番号66aは、シリコン単結晶基板上にIII族窒化物単結晶膜が製膜された積層基板をチャンバー66から取り出す開口であり、参照番号68は開口66aを開閉するシャッターである。
図10(1)〜(3)の製造装置によると、試料を外気に晒さない状態で、シリコン単結晶基板上にIII族窒化物単結晶膜が製膜された積層基板を製造することができる。
【0044】
以上、本発明の具体例を詳細に説明したが、これらは例示にすぎず、特許請求の範囲を限定するものではない。特許請求の範囲に記載の技術には、以上に例示した具体例を様々に変形、変更したものが含まれる。
また、本明細書または図面に説明した技術要素は、単独であるいは各種の組合せによって技術的有用性を発揮するものであり、出願時請求項記載の組合せに限定されるものではない。また、本明細書または図面に例示した技術は複数目的を同時に達成するものであり、そのうちの一つの目的を達成すること自体で技術的有用性を持つものである。