【実施例1】
【0015】
図1に、本発明の生体光計測装置の装置構成の一例を示す。光を生体に入射し、生体内を散乱・吸収され伝播して生体外に放出される光を検出できる生体光計測装置において、装置本体20に含まれる1つまたは複数の光源101から照射される光30を、光を伝播させるための導波路40を介して、被検者10に入射させる。光30は、照射点12から被検者10内に入射し、被検者10内を透過、伝播した後は、照射点12とは離れた位置にある検出点13から導波路40を介して、1つまたは複数の光検出器102で検出される。SD距離は、前述のように照射点12と検出点13間の距離で定義される。
ここで、1つまたは複数の光源101は半導体レーザ(LD)や発光ダイオード(LED)等であり、1つまたは複数の光検出器はアバランシェフォトダイオード(APD)やフォトダイオード(PD)、光電子増倍管(PMT)等であれば良い。また、導波路40は光ファイバ、ガラス、ライトガイド等の使用する波長が伝播可能な媒体であれば良い。
【0016】
光源101は、光源駆動装置103により駆動され、1つまたは複数の光検出器102の増倍率及びゲインは制御・解析部106により制御される。制御・解析部106は、光源駆動装置103の制御も行い、入力部107からの条件等の入力を受ける。
【0017】
光検出器102で光電変換して得られた電気信号は、増幅器104で増幅され、アナログ−デジタル変換器105でアナログ−デジタル変換され、制御・解析部106へ送られ、処理される。微小信号の検出及び複数信号の分離の方法としては、複数の光源を強度変調方式で駆動し、光検出器で検出された信号をロックイン検出してからアナログ−デジタル変換する方法や、受光器からの信号を増幅・アナログ−デジタル変換した後に、ロックイン処理をデジタル的に行う方法がある。また、これに限定されず、たとえば、複数の光を照射するタイミングを時間的にずらすことで複数光を弁別する時分割方式や、スペクトラム拡散変調方式を用いることも可能である。
【0018】
尚、光源101及び光検出器102は、導波路40と一体となる構成でも良い。例えば、LD、LED等の光源素子、PD、APD等の光検出素子をプローブ内に設置することで、光損失の低下、装置の小型化、低コスト化、低消費電力化、等の効果がある。
【0019】
制御・解析部106では、光検出器102で検出された信号に基づき解析を実行する。具体的には、アナログ−デジタル変換器105で変換して得られたデジタル信号を受け当該デジタル信号をもとに、例えば非特許文献1に記載されている方法に基づいて、検出光量変化もしくは吸光度変化から、酸素化、脱酸素化ヘモグロビン変化(oxy-Hb、deoxy-Hb)を算出する。ここでの酸素化及び脱酸素化ヘモグロビン変化は、ヘモグロビン濃度と実効光路長との積の変化量に相当する値である。もしくは、実効光路長を仮定し代入することによりヘモグロビン濃度の変化量を算出しても良い。
【0020】
ここでは、制御・解析部106は光源101の駆動、光検出器102のゲイン制御、アナログ−デジタル変換器105からの信号処理を全て行うことを想定して記述したが、それぞれ別個の制御部を有し、さらにそれらを統合する手段を有することでも同機能を実現できる。
【0021】
また、計測データおよびヘモグロビン変化の算出結果は、記憶部108に保存され、解析結果および/または保存データに基づいて表示部109で計測結果を表示することが可能である。
【0022】
送光器50、受光器60は、
図1に記載していないが、送光器50は、例えば光源101側の導波路40を含み、被検者10に接触あるいは接触に近い状態で設置され、受光器60は、例えば光検出器102側の導波路40を含み、被検者10に接触あるいは接触に近い状態で設置される。
【0023】
さらに、本発明の生体光計測装置には、印加される圧力を受けるための受圧部14と、受圧部14で受けた圧力を前記被検者10へ伝える加圧部15と、前記被検者10の表層組織における止血もしくは虚血の状態を確認するための圧力センサ16を具備する。また、受圧部14に効率的に圧力をかけるとともに加圧する圧力を制御する手段を有する加圧制御部11を備える。加圧制御部11は、手動で制御するものでも、電磁気的な方法で自動制御するものでもよい。加圧制御部は着脱可能であってもよい。非加圧時の計測を行う場合には加圧制御部は不要となるため、加圧制御部を取り外すことにより、性能を変えずにプローブを軽量化することができるという効果がある。プローブを軽量化することは、被検者の負担軽減につながる。
【0024】
制御・解析部106は、受圧部14に所定の圧力を印加することで被検者10を加圧部15において加圧したときに光検出器102で取得される信号を演算して得られる加圧時信号から、前記被検者内部の情報を取得する。圧力印加時には、好ましくは表示部109において、圧力情報を測定時に表示、もしくは音で報知する。これにより、オペレータは圧力が安定に印加されているかどうかを確認することが可能になる。このとき、圧力センサ16を保持部17の内部に設置すれば、加圧部の凹凸を小さくした平面とすることができる。
【0025】
尚、以下では被検者10に接触する保持部17、保持部17が保持する送光器50、受光器60、及び周辺の構成要素からなるコンポーネントをプローブと呼ぶ。送光器50、受光器60がそれぞれ光源101、光検出器102であってもよい。前記圧力センサ16は、保持部17もしくは前記プローブの、表面もしくは内部に設置され、加圧部15と、照射点12と検出点13のいずれかとの間の圧力を測定する。ここでは圧力センサ16は、加圧状態を測定することで、被検者10の表層組織における止血状態、もしくは虚血状態、もしくは血管の閉塞状態、を確認する目的であるので、印加圧力に関連するパラメータを取得できればよい。
【0026】
尚、ここでは、圧力センサ16を用いる方法を説明したが、圧力センサ以外に、パルスオキシメータやレーザドップラ血流計等の生体信号を用いて、周波数成分の解析を行うことにより、具体的には、脈波信号が小さくなることを確認することにより、被検者10の表層組織における止血状態、もしくは虚血状態、もしくは血管の閉塞状態、を確認する方法でもよい。また、これらの方法を圧力センサ16と併用して用いてもよい。このように、計測原理の異なる、もしくは独立の生体信号を別途取得することにより、圧力センサのみで計測する場合よりも、精度よく血液の状態を計測できる可能性がある。
【0027】
図2に示すフローチャートを参照しながら、実施例1に従った測定と解析の流れを説明する。まず、加圧制御部11により受圧部14に圧力を印加することで、加圧部15から被検者10に圧力を印加する(ステップS201)。次に、加圧時信号を取得する(ステップS202)。加圧時信号を取得開始するには、表層組織における血液量変化が十分抑制されていることを確認する必要があるが、十分抑制されていることを視覚(色ランプ)もしくは聴覚的な手段(音)等の報知手段で報知してもよい。次に、加圧時信号から、被検者内部情報を取得する(ステップS203)。 次に、加圧部からの圧力を解放する(ステップS204)。さらに、非加圧時信号を取得し(ステップS205)、非加圧時信号、及び前記被検者内部情報から、非加圧時信号に含まれる深部信号、浅部信号を取得する(ステップS206)。フローチャートには示していないが、加圧時信号のデータ保存時には、圧力センサ16で計測した圧力情報を含めて保存することにより、次回からの計測で加圧時信号の取得が不要となり、計測者の手間、被検者10の負担を軽減し、計測を効率的に進めることができる。さらに、必要に応じて、圧力が十分であったかどうかを後の解析時に判断することが可能となる。
【0028】
図2の手順では、加圧時信号を取得後、非加圧時信号を取得する場合について説明したが、非加圧時信号を取得した後に、加圧時信号を取得しても良い。加圧時信号は、被検者の内部情報、つまり構造パラメータを取得する目的であるので、既に取得済みであれば、加圧時信号の再度の取得は不要と判断してもよい。さらに、ここでは加圧時信号の取得と、非加圧時信号の取得を別個の測定と想定して説明したが、一回の測定中において、加圧時信号を取得後に圧力を解放し、非加圧時信号を取得しても良い。その場合、加圧状態と非加圧状態の変化時において、表層組織由来の信号が過渡的な応答を示すことが予想されるため、非加圧時の有効なデータを取得するために、一定の時間を空ける必要がある。例えば、10秒程度は必要であると考えられる。この一回の測定で加圧時信号及び非加圧時信号の両方を取得する手順においても、先に非加圧時信号を取得し、その後に加圧時信号を取得する手順でもよい。
【0029】
図3に示すフローチャートを参照しながら、被検者内部情報を取得する流れを説明する(特許文献2、非特許文献4、非特許文献5を参照)。まず、加圧時に測定されたマルチディスタンス計測データ(電圧もしくは電圧データから変換されたヘモグロビン変化)に独立成分分析を適用する (ステップS301)。次に、独立成分及びそれらの重みから、各SD距離における信号寄与を算出する (ステップS302)。次に、各独立成分について、SD距離に対して信号寄与をプロットし、最小二乗法により1次回帰直線を算出し、回帰直線の傾き及びx切片を算出する(ステップS303)。最後に、各独立成分のx切片に対し、信号寄与による重みづけ平均化処理を行い、被検者内部情報(Xi
gr)を求める(ステップS304)。
【0030】
ステップS301では信号分離手法として、独立成分分析を用いる方法を説明したが、主成分分析、因子分析等の方法でも良い。また、信号分離手法を用いなくても、検出光量またはヘモグロビン変化の代表振幅を用いる方法でも良い。
【0031】
ステップS304で求める被検者内部情報(Xi
gr)は、ここでは灰白質の平均実効光路長のSD距離依存直線におけるSD距離軸の切片に相当する値であり、光子が灰白質へ到達する(灰白質における光吸収変化への感度を有する)ための最小SD距離である。尚、被検者内部情報は、頭部組織各層の厚みに依存するパラメータ、灰白質深さに比例するパラメータ等、被検者頭部構造に関する他のパラメータであってもよい。
【0032】
図3の手順ではx切片を被検者内部情報として抽出する方法について説明したが、回帰直線の傾きを内部情報として抽出しても良い。回帰直線の傾きは、振幅情報を表しており、被検者が遂行する課題にも依存するものである。課題の情報との組み合わせにより、該課題の特性(脳血液量及び皮膚血液量変化への影響等)を知る上で、有効なデータベースとなり得る。
【0033】
図4は、ヒト頭部における皮膚及び灰白質の平均実効光路長の照射―検出器間(SD)距離依存性を示す図である。横軸はSD距離、縦軸は平均実効光路長、もしくは部分光路長である。
図4によれば、皮膚における平均実効光路長(74)はSD距離10〜40 mmにおいてあまり変化が無いが、灰白質における平均実効光路長(75)は、SD距離に応じて線形的に増加する。よって、SD距離が大きくなると、NIRS計測信号における灰白質由来成分は大きくなるが、皮膚由来成分は変化しないことが予想される。さらに、灰白質の平均実効光路長を、SD距離10 mmから40 mmのデータを用いて線形回帰により求めた一次回帰直線(72)とSD距離軸(70)との交点として、SD距離軸(x軸)切片(Xi
grと表す)(73)を得ることができる。ここでは約10 mmの値となっている。このXi
grは、脳、皮膚分離時の解析パラメータとなる。特許文献2等の手順に従って、このx切片を用いることで、SD距離を複数種類有するマルチディスタンス計測で取得されたNIRS信号を、深部信号及び浅部信号に分離することが可能となる。
【0034】
ここで得た生体内部情報を深部、浅部信号除去における解析パラメータとして用いるが、既に取得済みの場合には、記憶部108もしくはメモリに保存されている既取得データを読み出し、制御・解析部106が用いても良い。深部寄与率算出式には、SD距離軸切片73が必要であるが、個人、さらには同じ個人においても計測部位によって異なるため、各被検者及び計測部位における最適値をメモリから取りだすことは解析結果の精度向上に有効である。
【0035】
次に、
図5に示すフローチャートを参照しながら、非加圧時信号、及び前記被検者内部情報から、非加圧時信号に含まれる深部信号、浅部信号を取得する流れを説明する。まず、非加圧時に測定されたマルチディスタンス計測データ(検出光量として検出される電圧データもしくは電圧データから変換されたヘモグロビン変化)に独立成分分析を適用する(ステップS501)。次に、独立成分及びそれらの重みから、各SD距離における信号寄与を算出する(ステップS502)。次に、各独立成分について、SD距離に対して信号寄与をプロットし、最小二乗法により1次回帰直線 f(x) = a(x − Xi
ex) を算出し、直線の傾きa、及びx切片(Xi
ex)を算出する(ステップS503)。最後に、Xi
gr、Xi
exと寄与率を算出するSD距離(x)から、各独立成分の深部寄与率を算出する(ステップS504)。ステップS504において、各独立成分の深部寄与率及び浅部寄与率を算出する際には、例えば、表1に示す式を用いる(非特許文献4を参照)。
【0036】
【表1】
最後に、独立成分と深部、浅部各寄与率から、例えば数式1を用いて深部信号、浅部信号を再構成する(ステップS505)。
【0037】
【数1】
ただし、r
dpCiは独立成分iの深部寄与率、W
CiPjは計測点mにおける独立成分iの重み、u
Ciは独立成分iの時系列データ、ΔCLは計測点mにおけるヘモグロビン(酸素化、もしくは脱酸素化)の深部信号である。浅部信号は、同様に浅部寄与率を用いる、もしくは元信号から深部信号を差し引く、等により求めることが可能である。
【0038】
このようにして得られた浅部信号は、表層組織における血液量変化の課題(タスク)依存性を調べることや、表層組織の血液量変化に対する個人差の影響を調べることに有効である。さらに、浅部信号のNIRS信号への寄与を事前に調べることで、マルチディスタンス配置ではない方法でのデータ解釈に対して有効な指針が得られるという効果がある。
【0039】
次に、以上のような測定を実現するプローブについて説明する。
図6は、本発明の実施例1に従った測定を行うための、複数の照射―検出器間距離を有する配置(マルチディスタンス配置)の場合のプローブ断面を示す図である。
【0040】
特許文献2にあるように、マルチディスタンス配置においてはSD距離に応じて光量を変化させることが有効である。送光器50及び受光器60を保持するための保持部17は、保持部17と被検者10との間に空隙18を設けるように設置される。保持部17の材料には、内部応力の発生しにくい(変形しにくい)、硬いゴムもしくはプラスチック等を使用することが望ましい。空隙18を構成する表面の材質としては、光の反射の少ない低反射体19とすることが望ましい。一度空間に出た光子が再び組織に入射し、いずれかの光検出器102で検出されてしまうと、実効光路がより浅い位置に移動してしまい、深部組織への感度が相対的に低下するためである。このような現象を防ぐため、空隙18の内壁部のみの材質を低反射体19もしくは高吸収体とするか、もしくはこれらの材質のコーティング加工としても良い。
【0041】
空隙18は、加圧部15からの被検者10に対する印加圧力を加圧部15もしくはプローブ直下に集中させることに効果がある。さらに、空隙18は、加圧部15により圧迫され、押し出された生体組織を逃がす空間としての役割がある。これにより、加圧部15から被検者10に、加圧制御部11から受圧部14に印加された圧力21を効率的に伝えることに効果がある。つまり、より小さい力でより大きな圧力を印加できる効果がある。空隙18が無い場合、印加圧力が分散し、印加圧力を大きくする必要が生じる。尚、空隙は圧力を伝えず、加圧領域を制限するための効果があるが、同効果を実現するために受圧部14からの圧力を加圧部15へ伝えにくい材質で置き換えても良い。
【0042】
保持部17には、被検者を所定の圧力で加圧できているかモニタするために、つまり、被検者10の表層組織における止血状態、もしくは虚血状態、もしくは血管の閉塞状態を確認する手段として、圧力センサ16を設置する。加圧部15を介して被検者10に加わる圧力の時間的変化は、NIRS信号に影響を与えるため、常にモニタしておく必要がある。圧力センサ16は、プローブ内部に設置することが望ましい。圧力センサ16が加圧部15の面に設置されないことで、生体組織接触部の平面性を維持できる。よって、被検者10に対し一様に圧力印加が可能である、という効果がある。
【0043】
十分な圧力であること、被検者10の表層組織における止血状態、もしくは虚血状態、もしくは血管の閉塞状態の確認は、心拍の拍動(パルス)が無くなることで確認しても良い。心拍の拍動は、NIRS波形の脈動の有無を目視確認するか、圧力センサの出力値、もしくはNIRSプローブの直近に設置された光学的計測システムでも良い。ここでの光学的計測システムは、パルスオキシメータもしくは光電式容積脈波計測装置(フォトプレチスモグラフィ)等の技術に基づくもので良い。前記光学的計測システムによる計測結果から、脈動(脈波)成分の有無に基づいて圧力の判定を行う。つまり、脈動(脈波)成分が無い場合に、表層組織の血流がNIRS信号に影響を与えない程度に十分に抑制されていると判定する。尚、その結果を視覚(色ランプ)もしくは聴覚的な手段(音)等の報知手段により報知するようにしてもよい。また、
図2のフローチャートにおける加圧時信号を取得し(ステップS202)、加圧時信号から、被検者内部情報を取得する(ステップS203)ことを終了したことを知らせるための視覚(色ランプ)もしくは聴覚的な手段(音)等の報知手段を有してもよい。これにより、手動で加圧する場合に、加圧をやめるタイミングを知ることができ、不要な加圧を防ぐことができるという効果がある。
【0044】
さらに、止血の状態を確認する手段として、検出器を1個追加して、5 mmの計測点を1点追加する構成を用いても良い。さらに、このSD距離5 mmの計測点は、脳、皮膚由来信号分離後に、分離性能の評価に用いることができる。また、皮膚血流が対象となる計測範囲で一様と仮定したときに、SD距離5 mmの計測点を参照信号として利用して、皮膚血流成分を分離する解析に用いることもできる。
【0045】
図6では受圧部14は外部から圧力を受け、加圧部15を介して被検者10へ圧力を伝達する構成について説明したが、加圧制御手段として、保持部17、もしくはプローブ内に圧力発生手段を有することにより、内部に受圧部を包含する構成であってもよい。
【0046】
以上は脳酸素モニタ、組織酸素モニタ装置、光トポグラフィ等の光脳機能計測装置のいずれのNIRS装置にも使用可能である。
【0047】
尚、加圧時の加圧領域としては、被検者への設置時に、前記照射点または前記検出点を囲むように配置される。照射点及び検出点のそれぞれの中心点を中心とする半径5 mmの円、好ましくは半径10 mmの円、を含むよう構成される。半径5 mmの円とすれば加圧部15は比較的小さい面積で済み、プローブ直下の表層血液を有る程度抑えられるという効果がある。半径10 mmとした場合には、加圧時に、受圧部14への印加圧力を大きくする必要があるが、表層組織の血液変化を抑制するのにさらに顕著な効果がある。しかし、加圧領域を大きくすることは、所定圧力を被検者10に伝えるために印加圧力を大きくする必要性が生じ、特に手動で加圧することを想定した場合には現実的な手段では無く、圧力センサ16等の情報を利用して、表層組織由来信号を十分抑制可能な、最小の印加圧力を見出すことが重要である。
【0048】
図7は、空隙を有する保持部及び周辺の構成を示す図である。上図は断面AA、下図は断面BBを示す。受圧部14から受けた圧力を加圧部15より生体へ伝える構造において、空隙18及びその周囲に接触固定部24を有する。加圧部15は、光源101及び光検出器102を含んでおり、当該光源101及び検出器102の周囲へ均一な圧力を印加する目的から、当該光源101及び検出器102が、圧力を伝えるよう構成されることが望ましいが、圧力を伝えない構成としても良い。生体への接触部は、加圧部15の他に、生体接触部24が設けられており、空隙18を有するため、圧力が加わりにくい構成となっている。空隙18は、圧力が加圧部15に集中させ、受圧部に加える力を低減させるために有効である。光源101及び検出器102が被検者10へ圧力を伝えるよう構成される場合には、例えば導波路40としてL字状に湾曲及び屈曲した光ファイバ束を用い、ファイバ周囲を金属もしくはプラスチック等の被覆で覆い、さらに被覆と保持部17と一体化させることで実現できる。または、光源及び光検出器の素子を保持部に接触させ、受圧部に印加された圧力が伝わるよう配置することで、光学素子の筺体を介して圧力を被検者10に伝えることが可能である。
【0049】
図8は、円形の加圧部を有し、接触固定部が曲率を有するプローブの断面図である。円形とすることで、光源101及び光検出器102の真下に位置する照射点12及び検出点13の周囲を均一に加圧可能であり、圧迫が必要な部位において均一に表層組織を圧迫できるという効果がある。また、圧力不均一による痛み等を軽減できる。さらに、曲率を有する生体接触部25、保持バンド26と組み合わせることで、加圧制御部11から受圧部14に印加された圧力21による生体表面への局所的な圧力印加を防ぐことが可能となる。例えば、加圧部においては平面であり、保持バンド26と連結する場所の下に位置する生体接触部においては生体表面の曲面に合わせた曲率を有する構造とすることで、加圧部には圧力を集中させ、曲率を有する生体接触部25においては圧力を分散させるという効果がある。曲率を有する生体接触部25を構成する材料としては、ゴム材料等の弾性体もしくはプラスチック等であればよい。尚、ここでは光源101と光検出器102間、及び両光検出器102間に空隙18を設ける構成としたが、これらの間の空隙を設けずに、生体接触部24と加圧部の間にのみ空隙もしくは圧力を伝えにくい部材を有する構成でもよい。
【0050】
図9は、光子伝播シミュレーションにより得られた、頭皮における実効光路長分布を示す図である。実効光路長の大きさを濃淡で表現している。色が濃いほど実効光路長が大きいことを示す。頭部構造(各組織厚み、吸収係数、散乱係数)を仮定した上で、光子の経路を光子伝播シミュレーションにより算出後、100個の光子の経路を、検出光量に応じて重みづけ平均し、表層組織に位置する各ボクセル(2 mm×2 mm×3 mm (皮膚厚み))における実効光路長を算出したものである。照射・検出点の直径は1.5 mmと仮定した。照射点12と検出点13の周囲、及び照射点12と検出点13を結ぶ直線状に、表層組織(頭皮)光路長の分布が集中することがわかる。特に、照射点12と検出点13を中心とする半径5 mmの円内に集中している。よって、この領域を加圧すれば、検出光変化に寄与する表層組織内血液量変化を効果的に抑制することが可能となる。実際にはこの領域に流れ込む血液を流すための血管を圧迫することが効果的であるので、この領域の周囲の領域を同時に圧迫することが重要である。よって実際には、加圧部の固定時の安定性も考慮し、半径10〜15 mm程度としてもよい。頭皮の厚みは被検者毎、測定部位毎に異なるので、最適な加圧領域は条件により異なる。加圧時の負担を考慮しなければ、十分に広い範囲を圧迫することが表層組織の血液量を抑えるのに効果的であると考えられる。このように、頭部構造及び光学特性分布を仮定した上での光子伝播シミュレーション結果を用いることで、最小限で効率良く加圧可能な領域を決めることができる。MRIやX線CT等の結果等を用いて頭部構造のシミュレーションモデルを作成することで、被検者毎に最適な加圧領域を決めることが可能である。尚、加圧部15の形状としては、円形に限らず、好ましくは実効光路長分布の形状をカバーするような形状であることがさらに効果的である。つまり、前記加圧部15は、検出光の表層組織における実効光路長の分布において、表層組織における実効光路長の総和のうち所定の割合(例えば、95%)以上を覆う領域を含む形状とすればよい。
【0051】
図10は、加圧領域調整手段28を有するプローブを示す図である。最適な加圧領域は被検者、測定部位、可能な加圧範囲により異なるので、条件に応じて加圧領域を調整することが有効である。ここでは、加圧領域調整手段を有するプローブについて説明する。加圧領域調整手段28は、加圧制御部11から受圧部14に印加された圧力21を生体表面へ伝える領域である加圧部15の面積を調整するためのものである。例えばプローブ(もしくは保持部17)に対して着脱可能な部材であり、空隙18を構成する保持手段内壁に設置される溝にはめ込むように挿入することが可能であればよい。当該部材をプローブに挿入すると、加圧部15の面積を広げることができる。この構成により、容易に加圧領域を調整することが可能で、さまざまな条件(被検者、測定部位、可能な加圧範囲)に応じてプローブを構成することが可能となるため、加圧部の異なるプローブに交換する等の手間を低減できるという効果がある。さらに、SD距離に応じて実効光路が変わることから、適切な加圧領域面積も変わるため、SD距離を複数計測する場合にも、SD距離に応じて加圧領域面積を変えることが可能となる。
【0052】
次に、
図11に示すフローチャートを参照しながら、適切な加圧領域を算出し、適切なプローブを選択する流れを説明する。まず、MRI、X線CT画像、プローブ位置情報、 データベース等から頭部構造データを取得する(ステップS1101)。次に、文献等を参考にしながら、吸収係数、散乱係数を仮定する(ステップS1102)。次に、散乱係数と、アルゴリズムに応じて吸収係数を用いて、光子伝播シミュレーションにより光子伝播経路を算出する (ステップS1103)。例えば、モンテカルロシミュレーション、もしくは光拡散方程式を有限要素法により解く方式、等を用いれば良い。次に、吸収係数分布を考慮しながら、表層組織における実効光路長分布を算出する(ステップS1104)。次に、全検出パワーに対する比率(及び加圧領域のマージン)を設定する(ステップS1105)。ここでのマージンとは、前記全検出パワーに対する所定の比率を含む領域からの一定の余裕幅のことである。余裕幅を持たせ、より広い範囲を加圧領域と指定することで、加圧に必要な領域下の血管を十分に圧迫することが可能となる。次に、加圧領域を算出する(ステップS1106)。次に、加圧領域調整手段28を用いて加圧領域を調整する(ステップS1107)。以上のステップS1101からステップS1106までの手順を、制御・解析部106で行っても良いし、オフラインでユーザが行っても良い。
【0053】
図12は、押下位置案内手段を有する保持部を示す図である。送光器50及び受光器60を保持する保持部17において、押下位置案内手段80を有する。押下位置案内手段80は、最も効果的に加圧部15より被検者10に圧力を印加できる場所に表示される。例えば、SD距離約30 mmに設定されている送光器50と受光器60との間の中点に配置される。受圧部14は図には表示されていないが、ここでは押下位置案内手段80の位置と同位置となる。これにより、圧力を手動により印加する場合に、押下場所のガイドとなるため、再現性良く、簡便に計測を行うことができるという効果がある。
【0054】
次に、特に手動で加圧する場合の押下部の構造についての実施例を説明する。
図13(a)は、凹部のある受圧部を有する保持部の断面を示す図である。送光器50及び受光器60を保持する保持部17が、凹部を有する受圧部81を有する。保持部17が受圧部14において凹部を有することにより、触覚的なガイドとなると同時に、手動による圧力を受圧部14に集中させることに効果がある。
図13(b)は、突起状の滑り止めを有する保持部の断面を示す図である。押下位置のガイドとしての役割がある滑り止め82を設けることで、手動で加圧する場合に、より安定して加圧できる。尚、このとき凹部を有する受圧部81は、加圧制御部11としての役割を兼ね備えるため、別途加圧制御部11を設けなくてもよい。
【0055】
図14は、屈曲もしくは湾曲のある導波路を有する保持部を示す図である。保持部17において保持される送光器50及び受光器60が屈曲もしくは湾曲を有する導波路41を有する。圧力21を印加する際に、送光器50及び受光器60が物理的、空間的な障害を小さくし、圧力を効率よく伝えるという効果を有する。つまり、加圧制御部11と空間的な干渉を無くすという効果がある。さらに、送光器50及び受光器60が光ファイバ等で構成される場合には、手動による圧力印加の際の接触により折れるという可能性も少なくなる。さらに、手動により受圧部14への圧力印加の際に、圧力をかけやすいという効果がある。同効果を得るために、光源素子及び検出器素子等の光学素子を直接、被検者に対して接触に近い位置関係で配置するという構成でもよい。
【0056】
図15(a)は、取っ手を有する保持部の断面を示す図である。保持部17には、受圧部14へ圧力を印加するための加圧制御部11として、取っ手22が接続される。取っ手22を有することにより、特に保持部17が小さい場合には、手動にてより圧力を印加しやすいという効果がある。さらに、手動で圧力を印加する際の受圧部14も取っ手の接続位置に固定されるため、目的の位置に圧力を印加可能であるという効果がある。尚、取っ手22は取り外し可能としてもよい。
【0057】
図15(b)は、取っ手及び弾性機構を有する保持部の断面を示す図である。受圧部14、加圧部15を含むプローブモジュールが、保持部17により、弾性機構29を介して被検者10に対して固定される。このとき、加圧制御部11としての取っ手22を、保持部17と干渉しないようにプローブモジュール上の受圧部14に取り付けることで、保持部17が弾性機構29を有する場合にも、取っ手22を介して直接受圧部14に圧力を印加可能である。この構成により、加圧時信号取得時には所定の圧力を効率的に加圧部15から被検者10に印加可能であり、かつ非加圧時信号取得時には弾性機構29がプローブ装着の改善、及び過剰圧力の防止に寄与するという効果がある。
【0058】
図16(a)は、加圧機構を有する保持部17の断面を示す図である。受圧部14に対して加圧機構23が圧力を印加する。加圧機構23としては、機械式、電磁式、油圧式等でよい。特に、気体または液体の圧力を使用するもの、もしくはネジ式にねじることで加圧部を被検者10に弾性体を押しつけるものでもよい。もしくは、頭部に巻くベルトにボルト状の部材をねじ込むことで前記部材直下の圧力を調整する構造でもよい。尚、加圧機構23は被検者10に対して固定されていてもよく、それにより、被検者10における加圧部15との接触部に効果的に圧力を印加する構成としてもよい。また、加圧機構23は取り外し可能としてもよい。
【0059】
図16(b)は、空気袋により受圧部14を加圧するときのプローブ断面を示す図である。加圧機構として、空気袋27を用いる。空気袋27が膨張することで、受圧部14に圧力が加わる。そして、受圧部14に加わった圧力は、加圧部15を介して生体表面に伝わる。空気袋の空気圧を電磁気的な手段で制御することにより、精度良くかつ再現性良く、生体表面に加える圧力を調整することが可能となる。これにより、自動制御を用いて高い再現性で生体表面を加圧することが可能となり、これまでの、測定日や個人によって加圧圧力が変わり得るという課題を解決することが可能となる。さらに、印加圧力を外部のポンプによる空気圧で制御し、空気圧を外部機器で測定及びモニタしている場合等は、圧力センサを保持部17に設けない構成も可能となる。
【0060】
加圧機構23を自動制御するよう構成した場合には、被検者10を自動圧迫し、さらに加圧部15より印加する圧力を制御することが可能である。記憶部108が被検者毎、部位毎に十分に表層血流が抑制された圧力の情報と計測データ及び内部構造情報を結びつけて記憶、保存しておくことで、再度同じ被検者が計測する際には記憶部108から、対応する圧力情報及び内部構造情報を読み込むことで、自動圧迫を効率的に行うことができる。または、内部構造情報を再計測する必要が無い場合、加圧時計測を省略することも可能となる。
【0061】
加圧機構23を用いる自動圧迫時においては、圧力センサ16等の、被検者10の表層組織における止血状態、もしくは虚血状態、もしくは血管の閉塞状態を確認する手段を用いて、十分に表層組織における血流の影響が抑制される圧力に自動調整可能である。