(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0025】
(第1の実施の形態)
以下、本発明に係る油圧緩衝器の一実施の形態を
図1〜
図9Cによって詳細に説明する。
図1に示す油圧緩衝器1は、シリンダ2と、このシリンダ2の一端部(
図1においては上側の端部)から突出するピストンロッド3とを備えている。この実施の形態による油圧緩衝器1は、自動車(図示せず)などの車両に用いられるものである。
図1に示すシリンダ2は、車両の懸架装置における車輪とともに車体に対して移動する部材(例えばロアアーム4)に後述する車輪側連結部材5を介して連結される。
【0026】
ピストンロッド3は、車両の車体6に後述する車体側連結部材7を介して連結される。なお、本発明に係る油圧緩衝器1を車両に装備するにあたっては、ピストンロッド3が懸架装置における車輪とともに移動する部材(例えばロアアーム4)に連結され、シリンダ2が車体6に連結される形態を採ることも可能である。この実施の形態において、油圧緩衝器1を説明するにあたっては、
図1において上側に位置する部位を油圧緩衝器1の上部といい、
図1において下側に位置する部位を油圧緩衝器1の下部という。
【0027】
この油圧緩衝器1のシリンダ2は、1本の円筒によって形成されている。このシリンダ2の上端部(
図1において上側に位置する端部)には、第1の支持部材11が設けられ、下端部は、蓋部材12によって閉塞されている。
この油圧緩衝器1のシリンダ2内には、詳細は後述するが、ピストン13と、第2の支持部材14と、フリーピストン15などによって仕切られた第1〜第3の油室16〜18と、ガス室19とが形成されている。第1〜第3の油室16〜18には、作動油が充填されている。ガス室19には、予め定めた圧力のガスが充填されている。このガスとしては、例えばN
2 ガスを用いることができる。
【0028】
ピストンロッド3は、第1の支持部材11を摺動自在に貫通する主ピストンロッド21と、この主ピストンロッド21の下端部、すなわちシリンダ2内に位置する一端部に接続された副ピストンロッド22とによって構成されている。副ピストンロッド22は、後述する第2の支持部材14を貫通し、第2の支持部材14に摺動自在に支持されている。
【0029】
主ピストンロッド21の摺動部21a(第1の支持部材11を摺動自在に貫通する部位)の外径は、副ピストンロッド22の摺動部22a(第2の支持部材14を摺動自在に貫通する部位)の外径とは異なっている。この実施の形態において、副ピストンロッド22の摺動部22aの外径は、主ピストンロッド21の摺動部21aの外径より大きい。また、副ピストンロッド22は、主ピストンロッド21と同一軸線上に位置付けられている。
主ピストンロッド21の軸心部には、この主ピストンロッド21の一端から他端に延びる貫通孔23が形成されている。この貫通孔23内には、後述する可変絞り24が設けられている。
【0030】
主ピストンロッド21の上端部には、
図2に示すように、車体側連結部材7が取付けられている。
車体側連結部材7は、主ピストンロッド21の上端部にロックナット25によって固定された円板状の連結板26と、この連結板26を囲むハウジング27と、このハウジング27内に設けられた緩衝用ゴム28とを備えている。ハウジング27は、固定用ボルト29によって車体6に固定されている。
【0031】
緩衝用ゴム28は、連結板26がハウジング27内に位置している状態でハウジング27内に注入されて焼き付けられている。この緩衝用ゴム28は、連結板26の外周部を上下方向の両側から覆っている。
ハウジング27の下端部には、ゴム部材30が設けられている。このゴム部材30は、油圧緩衝器1が大きく収縮したときにハウジング27と後述のキャップ76(
図5参照)との間に挟まれて衝撃を緩和するためのものである。
【0032】
副ピストンロッド22の上端部内には、
図3に示すように、雌ねじ31が形成されている。主ピストンロッド21の下端部32には雄ねじ33が形成されている。主ピストンロッド21と副ピストンロッド22との接続は、副ピストンロッド22の雌ねじ31を、主ピストンロッド21の雄ねじ33にねじ込むことによって行われている。雌ねじ31が雄ねじ33にねじ込まれるときは、先ず、主ピストンロッド21がクランプ装置(図示せず)によって把持され、主ピストンロッド21の回転が規制される。その後、副ピストンロッド22の下端部に形成された6角穴34(
図7参照)に工具が係合される。そして、この工具を使用して副ピストンロッド22が回され、雌ねじ31が雄ねじ31にねじ込まれる。この実施の形態による副ピストンロッド22の軸心部であって雌ねじ31の近傍と6角穴34との間の部分には、軽量化を図るために非貫通穴35が形成されている。
【0033】
主ピストンロッド21の雄ねじ33を有する下端部32は、主ピストンロッド21の摺動部21aとは段差をもって細く形成されている。この主ピストンロッド21の下端部32と主ピストンロッド21の摺動部21aとの境界部分には、下方を指向する軸方向端面36が形成されている。主ピストンロッド21と副ピストンロッド22とを接続する作業は、この軸方向端面36と副ピストンロッド22との間にピストン13および後述するピストン周辺の板状部材が挟まれる状態で行われる。すなわち、ピストン13は、主ピストンロッド21と副ピストンロッド22との間に固定されている。
【0034】
ピストン13は、第1の支持部材11との間に第1の油室16を形成するとともに、シリンダ2内に設けられた後述する第2の支持部材14(
図1および
図7参照)との間に第2の油室17を形成するものである。この実施の形態によるピストン13は、
図3に示すように、円環状に形成されたピストン本体41と、このピストン本体41の外周部に設けられた円環状の軸受42およびOリング43などによって構成されている。軸受42は、ピストン13とシリンダ2との摺動を円滑にするためのものである。Oリング43は、軸受42の内周面とピストン13との間をシールするためのものである。
【0035】
ピストン本体41には、主ピストンロッド21の下端部32が嵌合する貫通穴44と、後述する複数の油孔とが形成されている。貫通穴44は、ピストン本体41の軸心部に位置付けられている。複数の油孔とは、
図3においてピストン13の左側を軸方向に貫通する伸長側油孔45と、
図3においてピストン13の右側を軸方向に貫通する圧縮側油孔46と、この圧縮側油孔46からピストン13の軸心部に向けて延びる連通孔47などである。伸長側油孔45と圧縮側油孔46は、ピストン本体41の周方向に適当な間隔をあけて交互に複数ずつ設けられている。
【0036】
伸長側油孔45の一端部(第1の油室16側の端部)は、ピストン本体41に形成された連通穴48を介して第1の油室16に接続されている。圧縮側油孔46の一端部(第2の油室17側の端部)は、ピストン本体41に形成された連通穴49を介して第2の油室17に接続されている。この実施の形態においては、これらの伸長側油孔45および連通穴48と、圧縮側油孔46および連通穴49とによって、請求項1記載の発明でいう「第1の作動油通路」が構成されている。
【0037】
連通孔47は、後述する可変絞り24に作動油を導く作動油通路の一部を構成するものである。この連通孔47は、ピストン本体41の貫通穴44に形成された環状溝50と、圧縮側油孔46とを連通している。
この実施の形態によるピストン本体41は、貫通穴44に主ピストンロッド21の下端部32が嵌合した状態で上述した軸方向端面36と副ピストンロッド22の上端面との間に複数の板状の部材とともに挟まれて固定されている。ピストン13と軸方向端面36との間には、円環状のプレート51と、複数のシム52と、複数のディスク状の第1の板ばね53とが挟まれている。ピストン13と副ピストンロッド22との間には、複数のディスク状の第2の板ばね54と、複数のシム55と、ワッシャ56とが挟まれている。プレート51は、この油圧緩衝器1が最も伸長したときに後述のストッパーゴム83(
図5参照)に当接する。
【0038】
第1の板ばね53は、ピストン13に形成された伸長側油孔45および圧縮側油孔46における第1の油室16側の開口部を閉塞している。第2の板ばね54は、伸長側油孔45および圧縮側油孔46における第2の油室17側の開口部を閉塞している。この実施の形態においては、第1の板ばね53と第2の板ばね54とによって、請求項1記載の発明でいう「第1の作動油通路に設けられた絞り」が構成されている。
【0039】
ここで、主ピストンロッド21の中に設けられている可変絞り24について説明する。この実施の形態による可変絞り24は、
図4に示すように、主ピストンロッド21の貫通孔23内に移動自在に嵌合された弁体61と、これとは別体に形成された操作用ロッド62と、弁体61が着座する弁座部材63とを備えている。
弁体61は、先端が弁座部材63に向けて細くなる円錐状に形成された本体部61aと、これに一体に形成された円柱部61bとを備えている。操作用ロッド62は、下端が円柱部61bに当接し、そこから主ピストンロッド21の上端近傍まで延びるロッド部62aと、このロッド部62aの上端部分に設けられた操作部62bとから構成されている。
【0040】
円柱部61bは、主ピストンロッド21の貫通孔23との間をシールするためのOリング64を備えている。円柱部61bは、主ピストンロッド21の貫通孔23内に嵌合している。この貫通孔23における円柱部61bより下側であって後述する弁座部材63との間には、本体部61aが収容された油室65が形成されている。この油室65は、主ピストンロッド21に形成された油孔66を介して第1の油室16に連通されている。
【0041】
操作部62bは、6角穴付きのねじを構成しており、貫通孔23の上端部の孔壁面に形成された雌ねじ23aに螺合されている。また、操作部62bには、この操作用ロッド62の回転を規制するためのボール67を備えている。このボール67は、圧縮コイルばね68によって主ピストンロッド21の6角穴69に押し付けられている。この操作部62bを回転させてねじを締め込むことにより、弁体61が後述する弁座部材63に向けて前進する。弁体61には作動油の圧力が作用している。この圧力は、第1の油室16と第2の油室17の圧力で、作動油を介して伝播されたガス室19内の圧力である。このため、操作部62bを回転させてねじを弛めることによって、弁体61が弁座部材63から離間する方向に後退する。
弁座部材63は、有底円筒状に形成されており、底部が上側(弁体61側)に位置する状態で主ピストンロッド21の貫通孔23内に嵌合している。弁座部材63の底部には、弁体61が挿入される油孔70が形成されている。
【0042】
この弁座部材63の開口端(下端)は、固定用ボルト71によって上方に向けて押され、弁座部材63の底部(上端)は、貫通孔23の段部23bに下方から押し付けられている。固定用ボルト71は、貫通孔23の下端部に形成された雌ねじ23cにねじ込まれており、貫通孔23の下端を閉塞している。
【0043】
弁座部材63の周壁には、弁座部材63の中空部内と弁座部材63の外とを連通する複数の油孔72が形成されている。これらの油孔72は、ピストン13の環状溝50と対応する位置に形成されている。この油孔72と環状溝50とは、主ピストンロッド21に形成された油孔73を介して連通している。すなわち、この油圧緩衝器1の第1の油室16と第2の油室17は、ピストン13の伸長側油孔45および圧縮側油孔46の他に、主ピストンロッド21内の貫通孔23を含む作動油通路74と、可変絞り24とを介して連通されている。
【0044】
この貫通孔23を含む作動油通路74とは、ピストン13の連通穴49と、連通孔47と、環状溝50と、主ピストンロッド21の油孔66,73と、弁座部材63の油孔70,72および中空部と、油室65などによって構成されている。この貫通孔23を含む作動油通路74によって、請求項5〜請求項7記載の発明でいう「第3の作動油通路」が構成されている。
【0045】
この可変絞り24は、この弁座部材63の油孔70の開口縁に弁体61が押し付けられることにより全閉状態になる。また、この可変絞り24は、弁座部材63の油孔70の開口縁と弁体61との間に隙間が形成されることにより、絞りとして機能する。絞り量は、操作部62bを回転させて弁体61を軸線方向に移動させ、上述した隙間の断面積を変えることにより調整することができる。すなわち、この可変絞り24は、請求項5〜請求項7記載の発明でいう「第3の作動油通路」の断面積を変更可能なものである。
【0046】
シリンダ2の一端部に設けられた第1の支持部材11は、
図5に示すように、円環状に形成されている。また、この第1の支持部材11は、その中空部内に主ピストンロッド21が摺動自在に貫通するとともに、外周部がシリンダ2内に嵌合した状態でシリンダ2に支持されている。この第1の支持部材11は、シリンダ2の内周部に固定されたサークリップ75と、シリンダ2の外端面に当接するキャップ76とによって、シリンダ2に対して移動することができない状態に固定されている。キャップ76は、複数の固定用ボルト77によって第1の支持部材11に取付けられている。
【0047】
第1の支持部材11の外周部には、シリンダ2との間をシールするためのOリング78が装着されている。第1の支持部材11の内周部には、複数の部材が軸線方向に並ぶ状態で取付けられている。これらの複数の部材とは、
図5において上から順に、ダストシール79と、軸受80と、オイルシール81と、ワッシャ82と、ストッパーゴム83である。ダストシール79は、主ピストンロッド21が第1の支持部材11を貫通する部分から内部に塵埃や水などの異物が入ることを防ぐためのものである。
【0048】
軸受80は、第1の支持部材11に圧入されており、主ピストンロッド21を摺動自在に支持するものである。オイルシール81は、シリンダ2内(第1の油室16内)の作動油が主ピストンロッド21の貫通部を通って外に漏洩することを防ぐためのものである。ワッシャ82は、ストッパーゴム83を支えるためのものである。ストッパーゴム83は、この油圧緩衝器1のいわゆる伸びきり時の衝撃を緩和するためのものである。このストッパーゴム83には、主ピストンロッド21に固定されたプレート51が伸びきり時に当接する。
【0049】
シリンダ2の上部には、
図1に示すように、懸架装置のコイルスプリング84を支持するためのばね受け部材84a(
図1参照)がCリング84b(
図3参照)によって取付けられている。このコイルスプリング84は、車体側とばね受け部材84aとの間に圧縮された状態で装着されている。なお、懸架装置のコイルスプリング84は、油圧緩衝器1とは独立に設けてもよい。
シリンダ2の下端部を閉塞する蓋部材12は、
図6に示すように、シリンダ2の下端部内に嵌合された有底円筒状の筒体85と、この筒体85に一体に形成されて下方に延びる一対の取付板86とを有している。筒体85の上端部には、雄ねじ87が形成されている。一方、シリンダ2の下端部内には、雌ねじ88が形成されている。この蓋部材12は、筒体85の雄ねじ87がシリンダ2の雌ねじ88にねじ込まれることによって、シリンダ2に結合されている。
【0050】
筒体85の外周部であって雄ねじ87より下側には、シリンダ2との間をシールするためのOリング89が装着されている。
筒体85の内周部には、後述するパイプ90の下端部が嵌合した状態で固定される円形凹部91が形成されている。この筒体85の内周部は閉塞されている。また、この筒体85の内周部には、パイプ90との間をシールするためのOリング92が装着されている。
【0051】
筒体85の下端部は、シリンダ2の下端より太く形成されており、筒体85がシリンダ2にねじ込まれるときのストッパを構成している。また、この筒体85の下端部には、蓋部材12の外周面から径方向の内側に延びる小孔93と、この小孔93の先端部内と筒体85内とを連通する連通孔94とが形成されている。小孔93内の中間部には、ゴム製の栓部材95が保持されている。小孔93の開口部には、プラグ96が螺着されている。プラグ96には、図示していないガス注入用の針を通して栓部材95に刺すための貫通孔96aが形成されている。この針は、筒体85とパイプ90との間の空間(ガス室19)にガスを注入するためのものである。ガスは、栓部材95を貫通した針の先端部から小孔93内に注入される。針は、ガス注入後に栓部材95から抜かれる。針が栓部材95から抜かれると、栓部材95の針穴が閉じ、小孔93が栓部材95によって閉塞される。
【0052】
なお、小孔93にガスを注入するためには、図示してはいないが、栓部材95の代わりに開閉弁を使用することができる。この開閉弁としては、ガスが供給されるか、あるいはガス供給装置が接続されることにより開き、ガスの供給が停止されるか、あるいはガス供給装置が取外されることにより閉じる構造のものを使用することができる。この種の開閉弁は、ガス供給口あるいは供給装置用接続部が蓋部材12から突出する状態で小孔93の大気側開口部に螺着される。
【0053】
蓋部材12の下端部に設けられた一対の取付板86は、油圧緩衝器1の下端部を懸架装置における車体に対して車輪とともに移動する部材(例えばロアアーム4)に取付けるためのものである。この実施の形態による取付板86には、懸架装置のロアアーム4に設けられた連結用ブラケット4aが車輪側連結部材5を介して取付けられている。
車輪側連結部材5は、外筒97と、この外筒97の中に挿入された内筒98と、外筒97と内筒98との間に配置された環状の緩衝用ゴム99とによって構成されている。緩衝用ゴム99は、外筒97と内筒98とに焼き付けられている。外筒97は、ロアアーム4の連結用ブラケット4aに形成された取付穴4bに圧入されている。このブラケット4aと車輪側連結部材5は、一対の取付板86,86の間に挿入され、これらの部材を貫通する状態で内筒98に挿入されたボルト100によって取付板86に固定されている。
【0054】
蓋部材12に固定されたパイプ90は、
図1に示すように、蓋部材12からシリンダ2の上下方向の中央部まで上方に延びている。このパイプ90は、蓋部材12に嵌合する小径部90aと、上端部に位置する大径部90bとによって形成されており、シリンダ2と同一軸線上に位置付けられている。
パイプ90の小径部90aの内径は、
図7に示すように、副ピストンロッド22の下端部(先端部)が接触することなく挿入可能な大きさである。
【0055】
このパイプ90の小径部90aには、フリーピストン15が摺動自在に嵌合している。このフリーピストン15は、円環状に形成されており、中空部にパイプ90が貫通する状態でこのパイプ90とシリンダ2とに摺動自在に嵌合している。フリーピストン15の内周部には、パイプ90の外周面との間をシールするためのOリング101が装着されている。フリーピストン15の外周部には、シリンダ2の内周面との間をシールするためのOリング102と軸受103とが装着されている。
詳述すると、フリーピストン15の外周部は、このフリーピストン15の軸線方向において第3の油室18に近接する軸受103と、この軸受103とはガス室19側に離間した外周側のシール(Oリング102)とによってシリンダ2に支持されている。フリーピストン15の内周部は、このフリーピストン15の軸線方向において軸受103と外周側のシール(Oリング102)との間に位置する内周側のシール(Oリング101)によってパイプ90に支持されている。
【0056】
このフリーピストン15は、シリンダ2内の第3の油室18とガス室19とを仕切っている。第3の油室18は、フリーピストン15と、パイプ90の大径部に固定された後述する第2の支持部材14との間に形成されている。ガス室19は、フリーピストン15と蓋部材12との間に形成されている。このガス室19には、フリーピストン15が第2の支持部材14に向けて押圧される圧力のガスが充填されている。ガスの充填は、蓋部材12に設けられている栓部材95にガス注入用の針を刺して行われる。
パイプ90の大径部90bは、パイプ90の母材(図示せず)を小径部90aより外径が大きくなるように成形することにより円筒状に形成されている。この大径部90bの外径は、
図7に示すように、シリンダ2の内周面との間に環状の空間Sが形成される大きさである。
【0057】
第2の支持部材14は、
図7および
図8に示すように、小径部111と大径部112とを有し、副ピストンロッド22の摺動部22aを摺動自在に支持する内周部を有する円筒状に形成されている。
第2の支持部材14の小径部111は、上述したパイプ90の大径部90bに嵌合し、プレス圧入によって固定されている。この小径部111には、パイプ90の内周面との間をシールするためのOリング113が装着されている。
【0058】
第2の支持部材14の大径部112(第2の支持部材14の外周部)は、隙間嵌めでシリンダ2に嵌合しており、シリンダ2内の第2の油室17と第3の油室18とを仕切っている。第2の油室17は、ピストン13と第2の支持部材14との間に形成されている。第3の油室18は、第2の支持部材14とフリーピストン15との間に形成されている。
この大径部112には、第2の支持部材14の軸線方向に延びる複数の切り欠き114が形成されている。これらの切り欠き114は、第2の油室17と第3の油室18とを連通している。この実施の形態による切り欠き114は、第2の支持部材14の大径部112にシリンダ2の内周面との間隔が部分的に広くなる形状に形成されている。また、これらの切り欠き114は、
図8に示すように、大径部112の周方向に一定の間隔をおいて並べられている。
【0059】
これらの複数の切り欠き114の総断面積(第2の支持部材14の軸線方向から見た断面積)は、作動油が自由に通過可能な大きさである。この総断面積は、主ピストンロッド21の摺動部21aの断面積と、副ピストンロッド22の摺動部22aの断面積との差分以上である。このため、作動油は、必要に応じて切り欠き114を自由に通過することができる。この実施の形態においては、これらの複数の切り欠き114によって、本発明でいう「第2の作動油通路」が構成されている。
【0060】
第2の支持部材14の内周部には、上から順に、ワッシャ115と、オイルシール116と、軸受117とが設けられている。ワッシャ115は、オイルシール116が第2の支持部材14から抜けることを防ぐためのもので、大径部112の端面をかしめることにより大径部112内に固定されている。オイルシール116は、第2の支持部材14と副ピストンロッド22の外周面との間をシールするものである。軸受117は、副ピストンロッド22を摺動自在に支持するものである。第2の支持部材14の中空部は、副ピストンロッド22によって閉塞されている。パイプ90の大径部90bは、第2の支持部材14の小径部111と副ピストンロッド22とによって閉塞されている。すなわち、この油圧緩衝器1において、パイプ90内は、密封空間118になるから、このパイプ90内に外部から塵埃が入ることはない。
【0061】
このため、第2の支持部材14と副ピストンロッド22の外周面との間をシールするオイルシール116としては、ダストシールの機能を有していないものを使用することができる。このオイルシール116としてダストシールの機能を有するものを使用する場合と比べると、副ピストンロッド22の摺動抵抗が低減されて油圧緩衝器1の作動性が向上する。
【0062】
次に、この実施の形態による油圧緩衝器1の動作を説明する。
この油圧緩衝器1が伸長してピストン13がシリンダ2に対して
図1において上側(第1の支持部材11に接近する方向)に移動するときは、油圧が第1の油室16からピストン13の連通穴48と伸長側油孔45とを通って第2の板ばね54に伝達される。そして、油圧が第2の板ばね54の初期設定荷重を越えると、作動油が第2の板ばね54のばね力に抗して第2の板ばね54を開き、伸長側油孔45から第2の油室17に流入する。このように作動油が第2の板ばね54とピストン13との間の微小な隙間を通過することによって、減衰力が発生する。この減衰力の大きさは、可変絞り24の開度に対応して変化する。減衰力の大きさは、可変絞り24が全閉状態であるときに最大になり、可変絞り24の絞り量が変化することにより増減する。
【0063】
副ピストンロッド22の摺動部22aの外径は、主ピストンロッド21の摺動部21aの外径より大きい。このため、この油圧緩衝器1において、ピストン13が
図1において上側に移動するときは、第1の油室16から出る主ピストンロッド21の体積減少分より、第2の油室17に入る副ピストンロッド22の体積増加分の方が多くなる。すなわち、第1の油室16から第2の油室17に流入した作動油の全量を第2の油室17の中に収容することはできない。
【0064】
この場合、作動油は、
図7中に実線の矢印で示すように、第2の油室17から第2の支持部材14の切り欠き114を通過して第3の油室18に流入する。
切り欠き114の総断面積は、主ピストンロッド21の摺動部21aの断面積と、副ピストンロッド22の摺動部22aの断面積との差分以上である。このため、作動油がピストン13の移動に伴って切り欠き114内を円滑に流れるから、ピストン13の移動速度が高い場合であっても油室内でキャビテーションが発生することはない。
【0065】
一方、この油圧緩衝器1が収縮してピストン13がシリンダ2に対して
図1において下側(第2の支持部材14に接近する方向)に移動するときは、油圧が第2の油室17からピストン13の連通穴49と圧縮側油孔46とを通って第1の板ばね53に伝達される。そして、油圧が第1の板ばね53の初期設定荷重を越えると、作動油が第1の板ばね53のばね力に抗して第1の板ばね53を開き、圧縮側油孔46から第1の油室16に流入する。このように作動油が第1の板ばね53とピストン13との間の微小な隙間を通過することによって、減衰力が発生する。この場合は、作動油が第3の油室18から第2の支持部材14の切り欠き114を通過して第2の油室17に流入する。このときに作動油が流れる方向は、
図7中に破線の矢印で示す方向である。このときにも油室内でキャビテーションが発生することはない。
【0066】
この油圧緩衝器1の中の作動油は、ガス室19内のガスの圧力で加圧されている。このため、ピストン13には、第1の油室16側の受圧面積と第2の油室17側の受圧面積との差に相当する大きさのガス反力が自然状態であっても作用する。第1の油室16側の受圧面積は、第2の油室17側の受圧面積より大きい。このため、ピストン13は、このガス反力によって第2の支持部材14に向けて押される。すなわち、この油圧緩衝器1は、自然状態で収縮する。ピストン13は、このピストン13の下側近傍に設けられているワッシャ56が第2の支持部材14側のワッシャ115に当接するまで上述したガス反力によって押されて移動する。
【0067】
このように自然状態で収縮する油圧緩衝器1を車両の懸架装置に取付けるためには、例えば、先ず、油圧緩衝器1のシリンダ2にばね受け部材84aがCリング84bによって取付けられる。次に、主ピストンロッド21がシリンダ2から所定量突出した状態で保持される。主ピストンロッド21をシリンダ2から突出させるためには、専用の治具(図示せず)を用いるか、パイプ90内の密封空間118にガスを供給して行う。その後、懸架装置のコイルスプリング84がばね受け部材84aに装着され、車体側連結部材7が主ピストンロッド21に取付けられる。車体側連結部材7が主ピストンロッド21に取付けられることにより、油圧緩衝器1とコイルスプリング84とを有する組立体が形成される。
【0068】
その後、この組立体の上端に位置する車体側連結部材7が車体6に取付けられ、さらに、この組立体の下端に位置する蓋部材12が車輪側連結部材5によってロアアーム4に取付けられる。このように組立体が車体6と車輪側との間に取付けられた後、主ピストンロッド21の保持が解除される。この保持の解除は、主ピストンロッド21を保持している治具を外すか、密封空間118からガスを排出して行う。
このように油圧緩衝器1が懸架装置に取付けられることにより、車輪側連結部材5の緩衝用ゴム99には車重が荷重として付与される。この緩衝用ゴム99においては、
図6において内筒98より上側に位置する部位が引っ張られ、内筒98より下側に位置する部位が圧縮される。
【0069】
この油圧緩衝器1は、上述したように自然状態で収縮するものである。このため、この油圧緩衝器1が懸架装置に取付けられることによって、車体側連結部材7の緩衝用ゴム28には初期設定荷重が付与され、初期変形が生じた状態となる。
車体側連結部材7の緩衝用ゴム28においては、
図2において連結板26より下側に位置する部位が圧縮され、連結板26より上側に位置する部位が引っ張られる。
ここで、車両に装着された油圧緩衝器1の動作を
図9A〜
図9Cによって説明する。
図9A〜
図9Cは、車両を後方から見た状態で描かれている。また、
図9A〜
図9Cにおいては、車体左側の油圧緩衝器1および車体右側の油圧緩衝器1と、これらの油圧緩衝器1に接続された緩衝用ゴム28,99とを模式的に描いてある。また、
図9A〜
図9Cは、ロアアーム4に車輪121を接続した状態で描いてある。さらに、
図9A〜
図9C中には、油圧緩衝器1とは独立に設けられた懸架装置のコイルスプリング84が二点鎖線によって描かれている。
【0070】
緩衝用ゴム28は、車両が停止あるいは平坦な路面を直進しているときには、
図9Aに示すように、ガス反力により油圧緩衝器1側に引っ張られて変形している。以下においては、この変形を単に初期変形という。緩衝用ゴム99は、車重によって変形し、下方に向けて撓んでいる。この状態で車両が走行し、左側の車輪121が例えば白線のような路上の微小な凸部122に乗り上げると、
図9Bに示すように、緩衝用ゴム28が初期変形により変形した状態で油圧シリンダ1が上に変位するために、緩衝用ゴム28の初期変形が一部又は全部解消される。この場合は、油圧緩衝器1は作動(収縮)しておらず、車輪121から車体6側へ伝達される衝撃が緩衝用ゴム28によって緩和される。
【0071】
コイルスプリング84が油圧緩衝器1とは独立に設けられている場合は、緩衝用ゴム99がガス反力により
図9A中に二点鎖線で示すように上に向けて凸となる形状に初期変形により撓んでいる。このため、左側の車輪が白線のような凸部122に乗り上げると、
図9B中に二点鎖線で示すように、緩衝用ゴム99の初期変形が一部又は全部解消される。すなわち、この場合は、車輪121から車体6側へ伝達される衝撃が緩衝用ゴム28と緩衝用ゴム99との両方によって緩和される。
【0072】
車両が例えば左方向に旋回するときは、
図9Cに示すように、車体6は、遠心力によって車体右側が低くなるように傾斜する。このとき、車体右側に位置する緩衝用ゴム28は、
図9Aに示す状態から初期変形が一旦解消された後に逆方向に撓み、それ以上変形することができなくなった後、油圧緩衝器1にこれが収縮する方向へ力を伝達する。一方、車体左側に位置する緩衝用ゴム28は、ガス反力によってもともと引っ張られた状態なので、直ちに油圧緩衝器1にこれが伸長する方向へ力を伝達する。このとき、車体左側に位置する緩衝用ゴム99に加えられる荷重は、車体6の左側部分が上方へ変位するために減少する。この結果、この緩衝用ゴム99は、
図9Aに示す状態から初期変形が一旦解消された後に、
図9Cに示すように逆方向に撓む。
【0073】
すなわち、このときは、車体右側の油圧緩衝器1が収縮するとともに、車体左側の油圧緩衝器1が伸長することにより減衰力が発生する。車体右側に位置する油圧緩衝器1においては、車体6が僅かに下がると緩衝用ゴム28において初期変形が解消され、
図9Cに示すように逆方向へ撓む変形が終了した直後に減衰力が発生する。なお、コイルスプリング84が油圧緩衝器1とは独立に設けられている場合は、緩衝用ゴム28と緩衝用ゴム99とにおいて初期変形が解消される。
車体左側に位置する油圧緩衝器1においては、車体6の傾斜が開始されて緩衝用ゴム99において初期変形が解消され、逆方向へ撓む変形が終了した直後に減衰力が発生する。なお、コイルスプリング84が油圧緩衝器1とは独立に設けられている場合は、傾斜開始と同時に減衰力が発生する。このため、車体6は、右側に僅かに傾斜した状態で左側に旋回する。
このような車両の旋回性や油圧緩衝器1の応答性は、特許文献1や特許文献2に記載の油圧緩衝器では実現不可能である。
【0074】
この実施の形態による油圧緩衝器1において、ピストン13がシリンダ2に対して移動するときは、主ピストンロッド21の摺動部21aの断面積と副ピストンロッド22の摺動部22aの断面積との差に相当する流量だけ作動油が第2の支持部材14の切り欠き114を流れる。この切り欠き114の総断面積は、主ピストンロッド21の摺動部21aの断面積と副ピストンロッド22の摺動部22aの断面積との差分以上である。このため、作動油がピストン13の移動に伴って切り欠き114を円滑に流れるから、ピストン13の移動速度が高い場合であっても油室内でキャビテーションが発生することはない。
【0075】
したがって、この実施の形態による油圧緩衝器1においては、ピストンロッド3の作動性が高くなるとともに、油室内のキャビテーションの発生を防ぎながら車両の緩衝用ゴム28に初期設定荷重を付与することができる。懸架装置のコイルスプリング84が油圧緩衝器1とは独立に設けられている場合は、緩衝用ゴム28と緩衝用ゴム99との両方に初期設定荷重を付与することができる。
この結果、この実施の形態によれば、不必要な衝撃が車体6に伝達されることなくかつ車両の挙動に応答性よく減衰力が生じることから、車両の乗り心地を改善することが可能な油圧緩衝器を提供することができる。
【0076】
この実施の形態による第2の支持部材14の切り欠き114(第2の作動油通路)は、第2の支持部材14の外周部にシリンダ2の内周面との間隔が部分的に広くなる形状に形成されている。
この切り欠き114は、第2の支持部材14における副ピストンロッド22を支持するために必要な部位(オイルシール116や軸受117を収容する部位)を除く広い範囲を利用して形成されている。このため、この切り欠き114を形成するにあたって制約が少なく、この切り欠き114によって断面積が大きな作動油通路(第2の作動油通路)を簡単に形成することができる。
したがって、この実施の形態によれば、より一層キャビテーションが発生し難い油圧緩衝器を提供することができる。
【0077】
この実施の形態による副ピストンロッド22の摺動部22aの外径は、主ピストンロッド21の摺動部21aの外径より大きい。
このため、ピストン13の第2の油室17側の受圧面積が第1の油室16側の受圧面積より小さくなる。この結果、ピストン13は、受圧面積の差に相当する大きさのガス反力が作用し、このガス反力によって第2の支持部材14に向けて移動する。このため、この実施の形態による油圧緩衝器1は、上述したように自然状態で収縮する。
【0078】
この油圧緩衝器1を車両の懸架装置に組み付けることにより、懸架装置の緩衝用ゴム28が油圧緩衝器1によって引っ張られ、緩衝用ゴム28に初期設定荷重(初期変形が起きる原因となる荷重)が付与される。懸架装置のコイルスプリング84が油圧緩衝器1とは独立に設けられている場合は、緩衝用ゴム28と緩衝用ゴム99との両方に初期設定荷重が付与される。
そして、車輪121が路面上の微小な突起122を乗り越えるときは、緩衝用ゴム28の初期変形が一部又は全部解消されるために、油圧緩衝器1が作動しない状況でも衝撃が車体6に伝達され難くなって乗り心地が向上する。なお、懸架装置のコイルスプリング84が油圧緩衝器1とは独立に設けられている場合は、緩衝用ゴム28と緩衝用ゴム99との両方の初期変形が一部又は全部解消される。また、コーナリング時などで車体6が左右方向に傾くときは、旋回内側に位置する油圧緩衝器1(伸びる方の油圧緩衝器1)において、車体の傾斜開始と略同時に減衰力が発生する。なお、懸架装置のコイルスプリング84が油圧緩衝器1とは独立に設けられている場合は、車体の傾斜開始と同時に減衰力が発生する。
旋回外側に位置する油圧緩衝器1においては、車体が僅かに下がり、少なくとも緩衝用ゴム28の初期変形が解消されて逆方向へ撓む変形が終了した直後に減衰力が発生する。すなわち、車体が傾斜し難くなるから、乗り心地が向上する。
【0079】
この実施の形態による油圧緩衝器1は、主ピストンロッド21内を通って第1の油室16と第2の油室17とを連通する作動油通路74(第3の作動油通路)を備えている。また、この油圧緩衝器1は、この作動油通路74の断面積を変更可能な可変絞り24を備えている。
このため、可変絞り24によって作動油通路74の断面積を変えることによって、この油圧緩衝器1で生じる減衰力の大きさを変えることができる。
したがって、この実施の形態によれば、油圧緩衝器1が取付けられる車両の機種や乗員の好みに応じて減衰力の大きさを調整することができるから、乗り心地が更に向上する油圧緩衝器を提供することができる。
【0080】
この実施の形態によるパイプ90は、フリーピストン15が摺動自在に嵌合する小径部90aと、この小径部90aより外径が大きく形成されて第2の支持部材14が固定される大径部90bとを含んでいる。第2の支持部材14は、パイプ90の大径部90bの中に嵌合した状態で固定されている。
この実施の形態による油圧緩衝器1において、第2の支持部材14とパイプ90との接触部分の面積は、第2の支持部材14がパイプ90の小径部90aに嵌合する場合の接触部分の面積と比べて大きくなる。
【0081】
このため、この実施の形態においては、第2の支持部材14がパイプ90に強固に固定されるから、第2の支持部材14に作用する油圧の大きさに影響を受けることなく、副ピストンロッド22が安定した状態で支持される。すなわち、ピストンロッド3が円滑に動作する。
したがって、この実施の形態によれば、油圧緩衝器1の伸長時または収縮時の動作が円滑で、乗員に違和感を与えることがないから、乗り心地が向上する油圧緩衝器を提供することができる。
【0082】
(第2の実施の形態)
パイプと第2の支持部材は、
図10および
図11に示すように形成することができる。これらの図において、
図1〜
図9Cによって説明したものと同一もしくは同等の部材については、同一符号を付し詳細な説明を適宜省略する。
【0083】
図10および
図11に示すパイプ90は、一端から他端まで外径が一定になる形状に形成されている。第2の支持部材14の小径部111は、第1の実施の形態を採る場合と比べて軸線方向に長く形成されている。この実施の形態による第2の支持部材14は、小径部111の中にパイプ90が嵌合する状態で、このパイプ90に固定されている。パイプ90は、小径部111の中に圧入されている。小径部111には、パイプ90の外周面との間をシールするためのOリング123が装着されている。
【0084】
このように外径が一定に形成されたパイプ90は、大量生産により価格が低く抑えられたものを使用することができる。このため、この実施の形態によれば、車両に装備したときに乗り心地が向上するだけでなく、製造コストが低くなる油圧緩衝器を提供することができる。
【0085】
(第3の実施の形態)
蓋部材は、
図12に示すように形成することができる。
図12において、
図1〜
図11によって説明したものと同一もしくは同等の部材については、同一符号を付し詳細な説明を適宜省略する。
【0086】
図12に示す蓋部材12には、円形凹部91内と蓋部材12の外とを連通するガス供給通路131が形成されている。この実施の形態によるガス供給通路131の一端は、円形凹部91の内周面に開口している。ガス供給通路131は、この一端から蓋部材12の径方向に延びている。ガス供給通路131の他端は、蓋部材12の外周面に開口している。すなわち、ガス供給通路131は、円形凹部91を介してパイプ90内の密封空間118に接続されている。
【0087】
このガス供給通路131の中間部には、ゴム製の栓部材132が保持されている。ガス供給通路131の開口部には、プラグ133が螺着されている。このプラグ133には、ガス注入用の針134を通して栓部材132に刺すための貫通孔135が形成されている。この針134は、パイプ90内の密封空間118にガスを注入するためのものである。ガスは、栓部材132を貫通した針134の先端部からガス供給通路131内に吐出される。
【0088】
ガス供給通路131に供給されるガスは、主ピストンロッド21の摺動部21aの断面積と副ピストンロッド22の摺動部22aの断面積との差に起因して生じるガス反力が相殺される圧力またはそれより高い圧力のガスである。ガス供給通路131に針134を使用してガスが供給されることにより、ガス供給通路131内および密封空間118の圧力が上昇する。ガス供給通路131内から針134を通してガスが抜かれることにより、ガス供給通路131内および密封空間118の圧力が低下する。そして、針134が栓部材132から抜かれることにより、栓部材132の針穴は弾性で閉じられ、ガス供給通路131および密封空間118が予め定めた低い圧力の状態で閉じられる。ここでいう「低い圧力の状態」とは、大気圧あるいは大気圧より僅かに高い圧力の状態をいう。
【0089】
この実施の形態によるパイプ90内の密封空間118は、上述したように、ガスが供給されて圧力が上昇する形態と、ガスが抜かれ、予め定めた低い圧力の状態で閉じられる形態とを切替可能なガス供給通路131が接続されている。このガス供給通路131から密封空間118にガスが供給されることによって、副ピストンロッド22にガスの圧力が作用し、この副ピストンロッド22とともに主ピストンロッド21がシリンダ2から突出する方向に移動する。
【0090】
この結果、自然状態で収縮する油圧緩衝器1を車両の懸架装置に組み付けるときに、懸架装置の取付位置に合わせて油圧緩衝器1の全長を調整することができる。したがって、この実施の形態によれば、懸架装置に簡単に組み付けることが可能な油圧緩衝器を提供することができる。
【0091】
この実施の形態においては、ガス供給通路131を閉じるためにゴム製の栓部材132が用いられている。しかし、本発明は、このような限定にとらわれることはない。ガス供給通路131を閉じるためには、図示してはいないが、開閉弁を使用することができる。この開閉弁としては、ガスが供給されるか、あるいはガス供給装置が接続されることにより開き、ガスの供給が停止されるか、あるいはガス供給装置が取外されることにより閉じる構造のものを使用することができる。このような構造の開閉弁としては、例えば、自転車や自動車のタイヤに広く使用されている英式バルブ(English Valve)、米式バルブ(American Valve)あるいは仏式バルブ(French Valve)などがある。この種の開閉弁は、ガス供給口あるいは供給装置用接続部が蓋部材12から突出する状態でガス供給通路131の大気側開口部に螺着される。
【0092】
上述した第1ないし第3の実施の形態においては、副ピストンロッド22の摺動部22aの外径が主ピストンロッド21の摺動部21aの外径より大きい形態を示した。しかし、本発明は、このような限定にとらわれることはない。すなわち、本発明に係る油圧緩衝器1は、主ピストンロッド21の摺動部21aの外径が副ピストンロッド22の摺動部22aの外径より大きくなる形態を採ることができる。この構成を採る油圧緩衝器1は、自然状態で伸長し、車両の懸架装置に組み付けられた状態で緩衝用ゴムに初期設定荷重(初期変形が起こる原因となる荷重)を付与する。このため、この構成を採る場合であっても、第1の実施の形態を採るときと同等の効果が得られる。