特許第5997394号(P5997394)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許5997394パーキンソン病のバイオマーカーおよびその利用
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5997394
(24)【登録日】2016年9月2日
(45)【発行日】2016年9月28日
(54)【発明の名称】パーキンソン病のバイオマーカーおよびその利用
(51)【国際特許分類】
   G01N 33/53 20060101AFI20160915BHJP
   G01N 33/50 20060101ALI20160915BHJP
   G01N 33/15 20060101ALI20160915BHJP
   C07K 16/18 20060101ALI20160915BHJP
   C12Q 1/02 20060101ALI20160915BHJP
   A61K 38/00 20060101ALI20160915BHJP
   A61P 25/16 20060101ALI20160915BHJP
   C12P 21/08 20060101ALN20160915BHJP
   C07K 14/00 20060101ALN20160915BHJP
【FI】
   G01N33/53 DZNA
   G01N33/50 Z
   G01N33/15 Z
   C07K16/18
   C12Q1/02
   A61K37/02
   A61P25/16
   !C12P21/08
   !C07K14/00
【請求項の数】14
【全頁数】25
(21)【出願番号】特願2015-545213(P2015-545213)
(86)(22)【出願日】2015年2月13日
(86)【国際出願番号】JP2015053930
(87)【国際公開番号】WO2015125702
(87)【国際公開日】20150827
【審査請求日】2015年10月14日
(31)【優先権主張番号】特願2014-28449(P2014-28449)
(32)【優先日】2014年2月18日
(33)【優先権主張国】JP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】591063394
【氏名又は名称】公益財団法人東京都医学総合研究所
(74)【代理人】
【識別番号】100099623
【弁理士】
【氏名又は名称】奥山 尚一
(74)【代理人】
【識別番号】100096769
【弁理士】
【氏名又は名称】有原 幸一
(74)【代理人】
【識別番号】100107319
【弁理士】
【氏名又は名称】松島 鉄男
(74)【代理人】
【識別番号】100180231
【弁理士】
【氏名又は名称】水島 亜希子
(72)【発明者】
【氏名】松田 憲之
(72)【発明者】
【氏名】小谷野 史香
(72)【発明者】
【氏名】尾勝 圭
(72)【発明者】
【氏名】呉 越
(72)【発明者】
【氏名】木村 まゆみ
(72)【発明者】
【氏名】佐伯 泰
【審査官】 草川 貴史
(56)【参考文献】
【文献】 国際公開第2013/153386(WO,A1)
【文献】 特開2014−025764(JP,A)
【文献】 国際公開第2010/005077(WO,A1)
【文献】 金尾智子,パーキンソン病原因遺伝子産物がミトコンドリアの品質管理を行う分子,科学研究費助成事業(科学研究費補助金)研究成果報告書,2013年 8月27日
【文献】 松田憲之,ユビキチン連結酵素Parkinがミトコンドリアの異常によって活性化される仕組み,医学のあゆみ,日本,2013年,Vol.247,No.10,Page.1013-1018
【文献】 Koyano F、外15名,Ubiquitin is phosphorylated by PINK1 to activate parkin.,Nature,2014年 6月 5日,Vol.510,No.7503,Page.162-166
【文献】 松田憲之,遺伝性パーキンソン病関連分子PINK1によってリン酸化されたユビキチンがParkinを活性化する,細胞工学,日本,2014年 8月22日,Vol.33,No.9,Page.974-976
【文献】 Kazlauskaite A、外9名,Parkin is activated by PINK1-dependent phosphorylation of ubiquitin at Ser65.,Biochem J,2014年 5月15日,Vol.460,No.1,Page.127-139
【文献】 Kane LA、外7名,PINK1 phosphorylates ubiquitin to activate Parkin E3 ubiquitin ligase activity.,J Cell Biol,2014年 4月21日,Vol.205,No.2,Page.143-153
【文献】 Kazlauskaite A、外1名,PINK1 and Parkin - mitochondrial interplay between phosphorylation and ubiquitylation in Parkinson's,FEBS J,2015年 1月,Vol.282,No.2,Page.215-223
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 33/48−33/98
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
65番目のセリン残基がリン酸化されたユビキチン。
【請求項2】
ヒト由来のものである、請求項1に記載のリン酸化されたユビキチン(配列番号1)。
【請求項3】
N末端および/またはC末端にタグが付加された、請求項1または2に記載のリン酸化されたユビキチン。
【請求項4】
65番目のセリン残基がアスパラギン酸残基に置換されたリン酸化模倣型ユビキチン。
【請求項5】
ヒト由来のものである、請求項4に記載のリン酸化模倣型ユビキチン(配列番号2)。
【請求項6】
N末端および/またはC末端にタグが付加された、請求項4または5に記載のリン酸化模倣型ユビキチン。
【請求項7】
被験者から単離された試料について、65番目のセリン残基がリン酸化されたユビキチンを検出または定量するステップを含むパーキンソン病の検査方法。
【請求項8】
前記検出または定量するステップが、免疫学的手法により行われる、請求項に記載の検査方法。
【請求項9】
65番目のセリン残基がリン酸化されたユビキチンからなるパーキンソン病検出用バイオマーカー。
【請求項10】
65番目のセリン残基がリン酸化されたユビキチンに対して特異的結合能を有する抗体。
【請求項11】
ポリクローナル抗体またはモノクローナル抗体である、請求項10に記載の抗体。
【請求項12】
(1)PINK1を発現する細胞を提供するステップと、
(2)前記細胞中のミトコンドリアを傷害するステップと、
(3)前記細胞に候補化合物を接触させるステップと、
(4)前記細胞において生成された65番目のセリン残基がリン酸化されたユビキチン量を測定するステップと
を含む、パーキンソン病の治療薬または予防薬のスクリーニング方法。
【請求項13】
(1)ユビキチンと、キナーゼと、リン酸供与体とを含有するリン酸化反応溶液を調製するステップと、
(2)前記リン酸化反応溶液に候補化合物を添加するステップと、
(3)前記リン酸化反応溶液において生成された65番目のセリン残基がリン酸化されたユビキチン量を測定するステップと
を含む、パーキンソン病の治療薬または予防薬のスクリーニング方法。
【請求項14】
前記リン酸化反応溶液が細胞抽出液である、請求項13に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、パーキンソン病の診断用バイオマーカーおよびそれに対する抗体、パーキンソン病の検査・診断方法、ならびにパーキンソン病の治療薬または予防薬およびそのスクリーニング方法に関する。
【背景技術】
【0002】
パーキンソン病は、65歳以上の人口における罹患率が1%を超える、加齢に伴って高頻度で発症する神経変性疾患である。今後、人口の高齢化とともに患者数が大幅に増加することが予想されており、パーキンソン病の診断・予防・治療方法の早期確立が急務である。
【0003】
パーキンソン病は、中脳の黒質におけるドーパミン神経細胞が変性・脱落することによって発症することが知られており、L−ドーパの投与によるドーパミン補充療法が、パーキンソン病の主な予後治療として行われている。しかし、ドーパミン補充療法は対症療法に過ぎず、パーキンソン病の症状を抑制するためには投薬を継続しなければならない。さらに、長期間にわたるL−ドーパの投与は、薬効の継続時間が短くなることによるウェアリング・オフや、ジスキネジアと呼ばれる異常な不随意性運動などの深刻な副作用をもたらすという問題がある。また、診断についても、パーキンソン病に特徴的な症状に基づいた診断方法しかないため、症状が軽い早期の段階では他の神経疾患との明確な区別ができないのが現状である。パーキンソン病の根本療法および早期かつ特異的な診断方法の確立のためには、パーキンソン病の発症機序、すなわちドーパミン神経細胞の変性が起こるメカニズムが解明される必要があり、その早急な解明が望まれている。
【0004】
パーキンソン病の大多数は孤発性であるが、一部は家族性(遺伝性)であり、複数の原因遺伝子が単離・同定されている。孤発性パーキンソン病と遺伝性パーキンソン病は臨床症状が共通していることから、ドーパミン細胞の変性における共通のメカニズムの存在が推定されており、遺伝性パーキンソン病の原因遺伝子の解析が孤発型パーキンソン病の発症メカニズムの解明につながることが期待されている。遺伝性劣性若年性パーキンソン症候群の原因遺伝子としては、PINK1およびParkinが同定されている(非特許文献1)。PINK1はミトコンドリアに局在するSer/Thrキナーゼを、Parkinはユビキチンリガーゼ(E3)を、それぞれコードしており、PINK1とParkinが膜電位の消失したミトコンドリア上に集積し、ミトコンドリアをユビキチン化することにより、不良ミトコンドリアのみを選択的に分解へと導く(非特許文献2)。この不良ミトコンドリアの選択的分解機構(マイトファジー)の異常が、パーキンソン病における神経変性の一因と考えられている。
【0005】
Parkinは、ユビキチンリガーゼ(E3)である。E3は、ユビキチン−プロテアソーム系における基質特異性を決定する上で最も重要な酵素であり、マイトファジー異常によるパーキンソン病の発症メカニズムを解明する上で、Parkin活性化のメカニズムを理解することは極めて重要である。Parkinは、通常は不活性型の状態で細胞質に存在するが、不良ミトコンドリアに移行すると活性化されて、E3酵素として機能するようになる。このParkinのミトコンドリアへの移行と活性化の両方に、PINK1が必須であることが知られている(非特許文献3)。さらに最近の研究により、ミトコンドリアの膜電位の低下に伴ってPINK1の自己リン酸化が起こると、PINK1依存的にParkinがリン酸化され、その結果、Parkinは、ミトコンドリアへと移行するとともに、E3酵素として活性化されることが見出された(非特許文献4、非特許文献5)。しかし、Parkinの活性化にはリン酸化が必須である一方、それのみでは不十分であることも確認されており、Parkin活性化のメカニズムは依然として部分的な理解にとどまっている。
【0006】
E3酵素として活性化されたParkinは、ミトコンドリア外膜上の基質タンパク質をユビキチン化し、ミトコンドリアを分解へと導く。ユビキチンは、全ての真核生物に普遍的に存在する76個のアミノ酸からなるタンパク質であり、そのアミノ酸配列は高度に保存されている。ユビキチン研究の歴史は古く、ユビキチンは、基質タンパク質を分解へと誘導する目印として働く以外にも、DNA修復や細胞内のシグナル伝達などの種々の機能に関与することが明らかにされている。また、ユビキチンは、7つのリジン残基を有しており、これらのリジン残基を介して他のユビキチンのC末端のグリシン残基と結合してポリユビキチン鎖を形成することができ、その際の結合パターンの違い(すなわちポリユビキチン鎖の形状の違い)によって、種々の異なる機能が発揮されることも詳細に研究されている。しかし、ユビキチン自体が何らかの翻訳後修飾を受けて、その機能が変化するといった報告は、今までに一例もなされていない。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】Nature, Vol.392, pp.605−608, 1998
【非特許文献2】Nature, Vol.441, pp.1162−1166, 2006
【非特許文献3】J.Cell Biol., Vol.189, pp.211−221, 2010
【非特許文献4】Sci.Rep., Vol.2, srep01002, 2012
【非特許文献5】J.Biol.Chem., Vol.288, pp.22019−22032, 2013
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、Parkinの活性化機構を明らかにし、それに基づくパーキンソン病の早期診断、予防、根本的な治療を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、鋭意研究の結果、Parkinが完全に活性化されるためには、Parkinのリン酸化に加えて、ユビキチンがリン酸化されることが必須であることを見出した。ユビキチンのリン酸化がParkinの活性化のために必須であるという知見が新規であるのみならず、ユビキチン自体が何らかの翻訳後修飾を受けること、また、それによって細胞内シグナル伝達の制御に関与するということは、従来全く知られていなかった驚くべき発見事項である。本発明者らは、この新規な発見に基づき、リン酸化されたユビキチンが、パーキンソン病の検出、診断、予防、治療、およびパーキンソン病の予防・治療薬のスクリーニングに有用であることを見出した。
【0010】
すなわち、本発明は、一実施形態によれば、被験者から単離された試料について、65番目のセリン残基がリン酸化されたユビキチンを検出または定量するステップを含む、パーキンソン病の検査方法を提供するものである。
【0011】
前記検出または定量するステップは、免疫学的手法により行われることが好ましい。
【0012】
また、本発明は、一実施形態によれば、65番目のセリン残基がリン酸化されたユビキチンからなるパーキンソン病検出用バイオマーカーを提供するものである。
【0013】
また、本発明は、一実施形態によれば、65番目のセリン残基がリン酸化されたユビキチンに対して特異的結合能を有する抗体を提供するものである。
【0014】
前記抗体は、ポリクローナル抗体またはモノクローナル抗体であることが好ましい。
【0015】
また、本発明は、一実施形態によれば、65番目のセリン残基がリン酸化されたユビキチンを含んでなるパーキンソン病の治療薬または予防薬を提供するものである。
【0016】
また、本発明は、一実施形態によれば、65番目のセリン残基がアスパラギン酸残基に置換されたリン酸化模倣型ユビキチンを含んでなるパーキンソン病の治療薬または予防薬を提供するものである。
【0017】
また、本発明は、一実施形態によれば、(1)PINK1を発現する細胞を提供するステップと、(2)前記細胞中のミトコンドリアを傷害するステップと、(3)前記細胞に候補化合物を接触させるステップと、(4)前記細胞において生成された65番目のセリン残基がリン酸化されたユビキチン量を測定するステップとを含む、パーキンソン病の治療薬または予防薬のスクリーニング方法を提供するものである。
【0018】
また、本発明は、一実施形態によれば、(1)ユビキチンと、キナーゼと、リン酸供与体とを含有するリン酸化反応溶液を調製するステップと、(2)前記リン酸化反応溶液に候補化合物を添加するステップと、(3)前記リン酸化反応溶液において生成された65番目のセリン残基がリン酸化されたユビキチン量を測定するステップとを含む、パーキンソン病の治療薬または予防薬のスクリーニング方法を提供するものである。
【0019】
前記リン酸化反応溶液は、細胞抽出液であることが好ましい。
【発明の効果】
【0020】
本発明に係るリン酸化されたユビキチンは、パーキンソン病の発症プロセスを測定・評価できるバイオマーカーとして、パーキンソン病の早期かつ特異的な診断や、パーキンソン病の治療薬または予防薬のスクリーニングに有用である。また、本発明に係るリン酸化されたユビキチンに対して特異的結合能を有する抗体は、前記バイオマーカーの検出・測定に有用である。
【0021】
また、本発明に係るリン酸化されたユビキチンおよびリン酸化模倣型ユビキチンは、パーキンソン病の治療薬または予防薬として有用であり、早期かつ根本的なパーキンソン病の治療を可能とする。
【図面の簡単な説明】
【0022】
図1】CCCP処理細胞におけるユビキチンのリン酸化をPhos−tagアッセイにより確認した図である。
図2】無細胞系におけるユビキチンのリン酸化をPhos−tagアッセイにより確認した図である。
図3】ユビキチンのリン酸化部位を特定するための質量分析の結果を示す図である。
図4】無細胞系における組換えユビキチンのリン酸化部位が65番目のセリン残基であることをPhos−tagアッセイにより確認した図である。
図5】CCCP処理細胞における組換えユビキチンのリン酸化部位が65番目のセリン残基であることをPhos−tagアッセイにより確認した図である。
図6】PINK1−/−細胞におけるユビキチンのリン酸化をPhos−tagアッセイにより確認した図である。
図7】単離PINK1によるユビキチンのリン酸化をPhos−tagアッセイにより確認した図である。
図8】リン酸化模倣型ユビキチンによるParkin活性化を細胞内ユビキチン化アッセイにより確認した図である。
図9】C末端改変ユビキチンによるParkin活性化を細胞内ユビキチン化アッセイにより確認した図である。
図10】ミトコンドリアのユビキチン化を示す多重蛍光免疫染色像である。
図11】無細胞系における組換えユビキチンまたは65番目のセリン残基がリン酸化されたユビキチンによるParkinの活性化を示す図である。
図12】Parkinの活性化メカニズムの模式図である。
図13】抗リン酸化ユビキチンウサギポリクローナル抗体による、65番目のセリン残基がリン酸化されたユビキチンの検出を示す図である。
図14】抗リン酸化ユビキチンモルモットポリクローナル抗体による、65番目のセリン残基がリン酸化されたユビキチンの検出を示す図である。
図15】細胞内における65番目のセリン残基がリン酸化されたユビキチンの存在を、質量分析により確認した図である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下、本発明を詳細に説明するが、本発明は本明細書中に説明した実施形態に限定されるものではない。
【0024】
本発明の第一の局面は、パーキンソン病の早期検出に関する。この局面では、パーキンソン病検出用のバイオマーカーおよびその用途が提供される。
【0025】
本発明は、一実施形態によれば、65番目のセリン残基がリン酸化されたユビキチンからなるパーキンソン病検出用バイオマーカーである。本実施形態における「パーキンソン病検出用バイオマーカー」とは、パーキンソン病の罹患の有無もしくは罹患の程度を検出するための指標となる生体分子を意味する。
【0026】
「パーキンソン病」とは、臨床的には、(1)四肢の筋固縮、(2)安静時振戦などの不随意運動、(3)寡動や無動、(4)姿勢保持反射障害の少なくとも2つ以上の症状を呈し、病理学的には、黒質におけるドーパミン神経細胞の変性脱落を特徴とする神経変性疾患である。本発明に係る「パーキンソン病」には、いわゆるパーキンソン病(孤発性パーキンソン病)の他にも、若年性パーキンソニズム、家族性(遺伝性)パーキンソニズム、線条体黒質変性症(多系統萎縮症)などが包含される。
【0027】
本実施形態におけるパーキンソン病検出用バイオマーカーは、65番目のセリン残基がリン酸化されたユビキチンからなる。以降、本明細書では、65番目のセリン残基がリン酸化されたユビキチンを、「Ser65リン酸化ユビキチン」と記載する。
【0028】
本実施形態における「Ser65リン酸化ユビキチン」には、特定のアミノ酸配列(配列番号1)からなるユビキチンだけでなく、リン酸化された65番目のセリン残基が保存されていることを限度として、配列番号1のアミノ酸配列において、1〜数個のアミノ酸が置換、欠失、挿入および/または付加されたアミノ酸配列からなるユビキチンが包含され得る。ここで、「1〜数個」とは、好ましくは「1〜3個」、「1または2個」、または「1個」である。
【0029】
また、本実施形態における「Ser65リン酸化ユビキチン」には、リン酸化された65番目のセリン残基が保存され、かつ、配列番号1からなるユビキチンと同等の生理機能が維持されていることを限度として、配列番号1と80%以上の同一性を有するアミノ酸配列からなるユビキチンが包含され得る。アミノ酸配列の同一性は、好ましくは、約90%以上、95%以上、96%以上、97%以上であり、特に好ましくは、98%以上または99%以上である。アミノ酸配列の同一性は、配列解析ソフトウェアを用いて、または、当分野で慣用のプログラム(FASTA、BLASTなど)を用いて決定することができる。
【0030】
本実施形態のパーキンソン病検出用バイオマーカーは、正常(パーキンソン病に罹患していない)被験者においては、ミトコンドリア異常に伴って産生され、その後に消失するが、パーキンソン病患者においては、PINK1の機能喪失のために産生されないか、Parkinの機能喪失やミトコンドリアストレスの亢進によって、その濃度が上昇すると予想される。すなわち、本実施形態のパーキンソン病検出用バイオマーカーは、パーキンソン病に罹患していない被験者の正常値と比較して逸脱(減少または増加)を指標とすることにより、パーキンソン病を早期かつ特異的に検出することができる。
【0031】
本発明は、一実施形態によれば、被験者から単離された試料について、Ser65リン酸化ユビキチンからなるパーキンソン病検出用バイオマーカーを検出または定量するステップを含む、パーキンソン病の検査方法である。
【0032】
本実施形態において「検査」とは、Ser65リン酸化ユビキチンからなるパーキンソン病検出用バイオマーカーを指標として、数値的に定量またはその有無を検出することを意味する。この検査結果に基づけば、医師は、被験者がパーキンソン病に罹患しているか否かを判定・診断し、適切な治療方針を決定し得る。
【0033】
本実施形態において「被験者」とは、パーキンソン病に罹患し得る動物個体である。動物としては、例えば、マウス、ラット、ウサギ、イヌ、非ヒト霊長類、ヒトなどの哺乳動物が挙げられ、好ましくはヒトである。
【0034】
本実施形態における「試料」は、被験者から採取し得る生体試料であり、例えば被験者由来の組織、細胞または体液などであってよいが、特に限定されない。組織試料または細胞試料としては、例えば、脳、心筋、骨格筋などが挙げられる。体液試料としては、例えば、血液、血漿、血清、脳脊髄液などが挙げられる。試料は、当業者に周知の方法により被験者から得ることができる。
【0035】
本実施形態において、Ser65リン酸化ユビキチンの検出または定量は、当分野において周知の方法により行うことができ、例えば、酵素免疫測定法(EIA)、放射免疫測定法(RIA)、イムノブロッティング、免疫沈降、免疫組織化学的染色法などの免疫学的手法や、液体クロマトグラフィー、質量分析などの手法により行うことができる。好ましい検出または定量方法は、免疫学的手法である。免疫学的手法によるSer65リン酸化ユビキチンの検出または定量は、例えば、Ser65リン酸化ユビキチンに対して特異的結合能を有する抗体を用いて行うことができる。
【0036】
Ser65リン酸化ユビキチンの検出または定量を質量分析により行う場合には、試料から精製されたユビキチンをトリプシンやエンドプロテイナーゼLys−Cなどのプロテアーゼにより切断し、例えば、前駆イオンのm/z(Precursor m/z)が574.297、荷電状態(charge state)が+2であるペプチド断片:E(pS)TLHLVLR(リン酸化ユビキチンの64〜72番目のアミノ酸に相当)に由来するシグナルを検出する。また、その際に、前駆イオンのm/zが534.314、荷電状態が+2であるペプチド断片:ESTLHLVLR(リン酸化されていないユビキチンの64〜72番目のアミノ酸に相当)に由来するシグナルを、陽性対照として検出することができる。
【0037】
本実施形態のパーキンソン病の検査方法は、上記検出または定量の結果を、パーキンソン病に罹患していない対照由来の試料(正常対照試料)について予め決定されたバイオマーカープロファイルと比較するステップをさらに含んでもよい。この比較の結果に基づいて、被験者由来の試料におけるパーキンソン病検出用バイオマーカーが正常値から有意に逸脱していることが示された場合、被験者がパーキンソン病に罹患している可能性があると判定される。その意味で、本実施形態によるパーキンソン病の検査方法は、被験者がパーキンソン病に罹患しているかどうかを評価判別する方法、すなわち診断方法であり得る。また、検出または定量の結果を、例えば治療薬の投与の前後において同一人について比較し、治療効果を判断することもできる。
【0038】
本実施形態のパーキンソン病の検査方法は、パーキンソン病の早期かつ特異的な検出を可能とするものであり、極めて有用である。
【0039】
本発明は、一実施形態によれば、Ser65リン酸化ユビキチンに対して特異的結合能を有する抗体である。以降、本明細書では、Ser65リン酸化ユビキチンに対して特異的結合能を有する抗体を、「抗Ser65リン酸化ユビキチン抗体」と記載する。
【0040】
本実施形態における「抗体」は、ポリクローナル抗体、モノクローナル抗体、キメラ抗体、ヒト化抗体、または、Fab、F(ab’)、scFvなどの抗体断片であってよい。これらの抗体の作製方法は、当分野において周知の方法により作製することができる。本実施形態における抗体は、好ましくは、ポリクローナル抗体またはモノクローナル抗体である。
【0041】
具体的には、本実施形態における抗体がポリクローナル抗体である場合には、Ser65リン酸化ユビキチンまたはその部分ペプチド(リン酸化Ser65を含み、長さが6〜30アミノ酸、好ましくは9〜25アミノ酸の断片)を抗原とし、抗原をラット、ウサギ、モルモット、ヤギなどの哺乳動物に免疫する。その後、前記動物の血清を回収して精製することによりポリクローナル抗体を取得することができる。
【0042】
また、本実施形態における抗体がモノクローナル抗体である場合には、上記と同様の手順により作製した免疫感作動物から抗体産生細胞を回収し、前記抗体産生細胞と骨髄腫細胞とを融合させてハイブリドーマを調製する。その後、抗原に対して高い特異的親和性を示す抗体を産生するハイブリドーマクローンを選択し、選択されたクローンの培養液を回収して精製することによりモノクローナル抗体を取得することができる。
【0043】
キメラ抗体は、遺伝子工学的に作製されるモノクローナル抗体であって、具体的には、例えば、可変領域がヒト以外の動物のイムノグロブリン由来であり、かつ定常領域がヒトイムノグロブリン由来である抗体を意味する。ヒト以外の動物としては、マウス、ラット、ウサギなど、ハイブリドーマを作製することが可能であれば、いかなるものを用いてもよい。キメラ抗体は、当分野において周知の方法により作製することができる。
【0044】
ヒト化抗体(ヒト型CDR移植抗体)は、遺伝子工学的に作製されるモノクローナル抗体であって、具体的には、その超可変領域の相補性決定領域の一部または全部がヒト以外の動物のモノクローナル抗体に由来するものであり、その可変領域の枠組領域がヒトイムノグロブリン由来であり、かつその定常領域がヒトイムノグロブリン由来である抗体を意味する。ヒト化抗体は、当分野において周知の方法により作製することができる。
【0045】
Fab、F(ab’)、scFvなどの抗体断片は、上述した抗体の抗原結合領域を含む部分または当該領域から誘導された部分である。抗体断片は、当分野において周知の方法により作製することができる。
【0046】
本実施形態の抗Ser65リン酸化ユビキチン抗体は、細胞内または組織内のSer65リン酸化ユビキチンの検出または定量に使用することができる。
【0047】
本実施形態の抗Ser65リン酸化ユビキチン抗体は、任意の標識物質を結合させることにより、パーキンソン病の検査用試薬とすることもできる。ここでいう任意の標識物質とは、当該分野で公知のあらゆる核酸用標識物質であってよく、例えば、ビオチン、蛍光色素、発光物質、放射性同位元素、酵素などが挙げられる。また、Ser65リン酸化ユビキチン検出試薬は、更に必要に応じて、容器、緩衝液、陽性対照、陰性対照、検査プロトコールなどの付加的な要素と組み合わせることにより、パーキンソン病の検査用キットとすることもできる。
【0048】
本発明の第二の局面は、パーキンソン病の治療または予防に関する。この局面では、パーキンソン病の治療薬または予防薬が提供される。
【0049】
すなわち、本発明は、一実施形態によれば、Ser65リン酸化ユビキチンを含んでなるパーキンソン病の治療薬または予防薬である。Ser65リン酸化ユビキチンは、Parkinを活性化し、マイトファジーを正常化することにより、パーキンソン病を根本的に治療または予防することができる。
【0050】
本発明において、「治療」とは、パーキンソン病を完全に治癒することのみならず、パーキンソン病の症状を寛解させる、状態を緩和する、または、病態の進行を遅らせるもしくは停止させることをも含む。
【0051】
本実施形態におけるSer65リン酸化ユビキチンには、特定のアミノ酸配列(配列番号1)からなるユビキチンだけでなく、リン酸化された65番目のセリン残基が保存されていることを限度として、配列番号1のアミノ酸配列において、1〜数個のアミノ酸が置換、欠失、挿入および/または付加されたアミノ酸配列からなるユビキチンが包含され得る。ここで、「1〜数個」とは、好ましくは「1〜3個」、「1または2個」、または「1個」である。
【0052】
また、本実施形態における「Ser65リン酸化ユビキチン」には、リン酸化された65番目のセリン残基が保存され、かつ、配列番号1からなるユビキチンと同等の生理機能が維持されていることを限度として、配列番号1と80%以上の同一性を有するアミノ酸配列からなるユビキチンが包含され得る。アミノ酸配列の同一性は、好ましくは、約90%以上、95%以上、96%以上、97%以上であり、特に好ましくは、98%以上または99%以上である。アミノ酸配列の同一性は、配列解析ソフトウェアを用いて、または、当分野で慣用のプログラム(FASTA、BLASTなど)を用いて決定することができる。
【0053】
本実施形態におけるSer65リン酸化ユビキチンは、遺伝子工学的手法による生合成や、化学合成により製造することができる。
【0054】
遺伝子工学的手法により生合成する場合には、例えば、ユビキチンをコードするDNAを含む発現ベクターにより宿主細胞を形質転換することによってユビキチンを発現させ、ユビキチンを精製した後、リン酸化を行うことにより、Ser65リン酸化ユビキチンを製造することができる。
【0055】
ユビキチンを発現させる宿主細胞としては、例えば、菌、酵母、哺乳動物細胞などを使用することができる。好ましくは、BL21(DE3)やRosetta(DE3)などの大腸菌や、HeLa細胞、CHO細胞、COS7細胞などのヒト由来の細胞を宿主細胞として用いることができる。発現ベクターとしては、大腸菌を宿主細胞とする場合には、例えば、pT7(シグマ・アルドリッチ社製)やpET(メルクミリポア社製)などの大腸菌発現プラスミドを用いることができ、哺乳動物細胞を宿主細胞とする場合には、例えば、pcDNA3.1(インビトロジェン社製)などの動物細胞発現プラスミドや、レトロウイルスやアデノウイルスなどの動物ウイルスベクターなどを用いることができる。形質転換は、リン酸カルシウム共沈殿法、エレクトロポレーション法、マイクロインジェクション法、リポフェクション法などの周知の方法により行うことができる。
【0056】
ユビキチンのリン酸化は、宿主細胞から単離精製されたユビキチンを、膜電位を低下させることによりPINK1を蓄積させたミトコンドリア、PINK1を含有する免疫沈降産物、またはPINK1と反応させることにより行うことができる。前記反応は、マグネシウムなどの2価イオンおよびATPなどのリン酸供与体を含有するバッファー中で行うことができる。
【0057】
化学合成により製造する場合には、例えば、ペプチド合成機によりユビキチンを合成した後、リン酸化修飾を行うことにより、Ser65リン酸化ユビキチンを製造することができる。化学合成を実施するための操作は、全て公知の方法により行うことができる。
【0058】
本実施形態におけるSer65リン酸化ユビキチンは、カルボキシル末端に細胞膜透過性ペプチドが融合されたものであってもよい。細胞膜透過性ペプチドを融合させたSer65リン酸化ユビキチンは、細胞内に効率よく送達されることができるため、好ましい。細胞膜透過性ペプチドとは、アルギニンやリジンなどの塩基性アミノ酸を多く含み、細胞膜を透過する性質を有するペプチドである。本実施形態における細胞膜透過性ペプチドには、特に限定されないが、例えば、HIV−1 Tat、HIV−1 Rev、BMV−gag、HTLV−IIRexなどが挙げられる。
【0059】
本実施形態によるパーキンソン病の治療薬または予防薬は、Ser65リン酸化ユビキチンを有効成分として含有する。この治療薬または予防薬は、有効成分のみから構成されていてもよいが、さらに任意の成分として、薬学的に許容される公知の希釈液、担体、賦形剤などを含んでもよい。
【0060】
本実施形態によるパーキンソン病の治療薬または予防薬を製造するためには、Ser65リン酸化ユビキチンを、必要に応じて上記公知の希釈液、担体、賦形剤などと組み合わせて製剤化すればよい。パーキンソン病の治療薬または予防薬において、有効成分であるSer65リン酸化ユビキチンは、各形態に応じた範囲で適切な投与量となるように含有されれば良い。Ser65リン酸化ユビキチンは、その投与量が、通常成人1日当たり0.001mg/kg(体重)以上、好ましくは0.01mg/kg(体重)以上となるように、薬剤中の含有量が決定されることが好ましいが、かかる範囲には限定されず、患者の症状、年齢、性別などにより適宜調整されることが可能である。投与量の上限は、1日当たり、10mg/kg(体重)以下が好ましく、1mg/kg(体重)以下がより好ましい。
【0061】
本実施形態によるパーキンソン病の治療薬または予防薬は、錠剤、カプセル剤、粉剤、顆粒剤、シロップ剤、注射剤、直腸投与剤などに製剤化してもよい。従って、本実施形態によるパーキンソン病の治療薬または予防薬は、経口、腹腔内、皮内、静脈内、筋肉内などの投与を含む、種々の方法により達成することができる。
【0062】
パーキンソン病の治療薬または予防薬の経口用製剤は、例えば、錠剤、カプセル剤、粉剤、顆粒剤などの固形剤とすることができる。この場合には、適切な添加物、例えば、デンプン、乳糖、白糖、マンニット、カルボキシメチルセルロース、コーンスターチ、無機塩などの添加剤や、さらに所望により結合剤、崩壊剤、潤沢剤、着色剤、香料などを配合することができる。または、パーキンソン病の治療薬または予防薬の経口用製剤は、例えばシロップ剤などの液剤とすることができ、この場合には、滅菌水、生理食塩水、エタノールなどを担体として使用し得る。さらに所望により、懸濁剤などの補助剤、甘味剤、風味剤、防腐剤などを添加してもよい。
【0063】
パーキンソン病の治療薬または予防薬の非経口製剤は、例えば、注射剤や直腸投与剤などの液剤とすることができる。この場合には、定法に従って、有効成分であるSer65リン酸化ユビキチンを、注射用蒸留水、生理食塩水、ブドウ糖水溶液、注射用植物油、プロピレングリコール、ポリエチレングリコールなどに溶解ないし懸濁させ、さらに必要に応じて、殺菌剤、安定剤、等張化剤、無痛化剤などを加えることにより調製することができる。また、固体組成物を製造し、使用前に無菌水または無菌の注射用溶媒に溶解して調製することもできる。
【0064】
本実施形態によるパーキンソン病の治療薬または予防薬は、パーキンソン病の根本的な治療または予防に有用である。
【0065】
また、本発明は、一実施形態によれば、65番目のセリン残基がアスパラギン酸残基に置換されたリン酸化模倣型ユビキチンを含んでなるパーキンソン病の治療薬または予防薬である。65番目のセリン残基がアスパラギン酸残基に置換されたリン酸化模倣型ユビキチンは、Ser65リン酸化ユビキチンと同様にParkinを活性化し、マイトファジーを正常化することにより、パーキンソン病を根本的に治療または予防することができる。以降、本明細書では、65番目のセリン残基がアスパラギン酸残基に置換されたリン酸化模倣型ユビキチンを、「Ser65Aspリン酸化模倣型ユビキチン」と記載する。
【0066】
本実施形態におけるSer65Aspリン酸化模倣型ユビキチンには、特定のアミノ酸配列(配列番号2)からなるユビキチンだけでなく、65番目のアスパラギン酸残基が保存されていることを限度として、配列番号2のアミノ酸配列において、1〜数個のアミノ酸が置換、欠失、挿入および/または付加されたアミノ酸配列からなるユビキチンが包含され得る。ここで、「1〜数個」とは、好ましくは「1〜3個」、「1または2個」、または「1個」である。
【0067】
また、本実施形態における「Ser65Aspリン酸化模倣型ユビキチン」には、65番目のアスパラギン酸残基が保存され、かつ、Ser65リン酸化ユビキチンと同等の生理機能が維持されていることを限度として、配列番号2と80%以上の同一性を有するアミノ酸配列からなるユビキチンが包含され得る。アミノ酸配列の同一性は、好ましくは、約90%以上、95%以上、96%以上、97%以上であり、特に好ましくは、98%以上または99%以上である。アミノ酸配列の同一性は、配列解析ソフトウェアを用いて、または、当分野で慣用のプログラム(FASTA、BLASTなど)を用いて決定することができる。
【0068】
本実施形態におけるSer65Aspリン酸化模倣型ユビキチンは、上記のSer65リン酸化ユビキチンと同様に、遺伝子工学的手法による生合成や、化学合成により製造することができる。
【0069】
本実施形態におけるSer65Aspリン酸化模倣型ユビキチンは、上記のSer65リン酸化ユビキチンと同様に、カルボキシル末端に細胞膜透過性ペプチドが融合されたものであってもよい。
【0070】
本実施形態によるパーキンソン病の治療薬または予防薬は、Ser65Aspリン酸化模倣型ユビキチンを有効成分として含有する。この治療薬または予防薬は、有効成分のみから構成されていてもよいが、さらに任意の成分として、薬学的に許容される公知の希釈液、担体、賦形剤などを含んでもよい。
【0071】
本実施形態によるパーキンソン病の治療薬または予防薬は、上記のSer65リン酸化ユビキチンを含んでなるパーキンソン病の治療薬または予防薬と同様にして製剤化されることができる。
【0072】
本実施形態によるパーキンソン病の治療薬または予防薬は、パーキンソン病の根本的な治療または予防に有用である。
【0073】
本発明の第三の局面は、パーキンソン病の新規治療薬または新規予防薬の開発に関する。この局面では、パーキンソン病の治療薬または予防薬のスクリーニング方法が提供される。
【0074】
本発明は、一実施形態によれば、(1)PINK1を発現する細胞を提供するステップと、(2)前記細胞中のミトコンドリアを傷害するステップと、(3)前記細胞に候補化合物を接触させるステップと、(4)前記細胞において生成された65番目のセリン残基がリン酸化されたユビキチン量を測定するステップとを含む、パーキンソン病の治療薬または予防薬のスクリーニング方法である。本実施形態の方法は、ユビキチンのSer65のリン酸化を促進する化合物を、パーキンソン病の治療薬または予防薬に有効な物質として取得できるものである。
【0075】
本実施形態のスクリーニング方法は、PINK1を発現する細胞を調製して使用する。以降、本明細書では、PINK1を発現する生細胞を、「PINK1発現細胞」と記載する。
【0076】
本実施形態におけるPINK1発現細胞には、動物個体から採取された細胞を用いることができる。動物個体由来の細胞は、PINK1を発現する組織、例えば、脳や筋肉などの組織から、当業者に周知の方法により採取することができる。動物個体は、例えば、マウス、ラット、ウサギ、イヌ、非ヒト霊長類、ヒトなどであり、好ましくはヒトである。
【0077】
本実施形態におけるPINK1発現細胞には、PINK1を発現する哺乳動物細胞株を用いてもよい。哺乳動物細胞株としては、例えば、HeLa細胞、CHO細胞、COS7細胞などのヒト由来の細胞株を用いることが好ましい。
【0078】
次いで、PINK1発現細胞中のミトコンドリアを傷害する。ミトコンドリアの傷害は、従来公知の方法により行うことができ、例えば、CCCP処理、ロテノン処理、パラコート処理、MPTP処理などによってミトコンドリアを傷害することができる。
【0079】
次いで、ミトコンドリアが傷害されたPINK1発現細胞に、候補化合物を接触させる。候補化合物には、例えば、タンパク質、ペプチド、核酸、非ペプチド性化合物、合成化合物、細胞抽出液、植物抽出液、動物組織抽出液などが挙げられ、これらの物質は新規なものであってもよいし、公知のものであってもよい。
【0080】
上記細胞と候補化合物との接触は、例えば、PINK1発現細胞を培養する培地や、リン酸緩衝生理食塩水やトリス塩酸緩衝液などの各種緩衝液に対して候補化合物を添加し、その中で一定時間細胞をインキュベートすることにより行うことができる。添加される候補化合物の濃度は、化合物の種類により異なるが、例えば、0.1nM〜100nMの範囲で適宜選択することができる。インキュベートは、好ましくは、10分〜24時間行うことができる。
【0081】
次いで、前記細胞におけるSer65リン酸化ユビキチン量を測定する。Ser65リン酸化ユビキチン量は、上記パーキンソン病の検査方法におけるSer65リン酸化ユビキチンの検出または定量と同様に、例えば、抗Ser65リン酸化ユビキチン抗体を用いたELISA、免疫組織化学染色、イムノブロットなどの各種免疫学的手法や、質量分析などの手法により行うことができる。
【0082】
本実施形態のスクリーニング方法において、細胞におけるSer65リン酸化ユビキチンが、候補化合物との接触前と比較して有意に増加した場合は、当該候補化合物は、パーキンソン病の治療薬または予防薬として有望であると評価することができる。一方、細胞におけるSer65リン酸化ユビキチンが、候補化合物との接触前と同等量またはそれ以下の量しか検出されない場合は、当該候補化合物は、パーキンソン病の治療薬または予防薬として有望ではないと評価することができる。
【0083】
また、本発明は、一実施形態によれば、(1)ユビキチンと、キナーゼと、リン酸供与体とを含有するリン酸化反応溶液を調製するステップと、(2)前記リン酸化反応溶液に候補化合物を添加するステップと、(3)前記リン酸化反応溶液において生成された65番目のセリン残基がリン酸化されたユビキチン量を測定するステップとを含む、パーキンソン病の治療薬または予防薬のスクリーニング方法である。本実施形態の方法は、ユビキチンのSer65のリン酸化を促進する化合物を、パーキンソン病の治療薬または予防薬に有効な物質として取得できるものである。
【0084】
本実施形態のスクリーニング方法は、ユビキチンと、キナーゼと、リン酸供与体とを含有するリン酸化反応溶液を使用する無細胞系アッセイである。本実施形態におけるリン酸化反応溶液としては、生細胞から調製した細胞抽出液を用いてもよいし、ユビキチンと、キナーゼと、リン酸供与体とを混合して調製した人工的な反応溶液を用いてもよい。本実施形態の好ましいリン酸化反応溶液は、細胞抽出液である。
【0085】
リン酸化反応溶液として、細胞抽出液を用いる場合には、細胞抽出液は、上記のPINK1発現細胞から調製されたものであってもよいし、PINK1を発現しない細胞から調製されたものであってもよい。
【0086】
本実施形態における「PINK1を発現しない細胞」には、PINK1を全く発現しない細胞のみならず、PINK1を実質的に発現しない細胞も含まれる。PINK1を実質的に発現しない細胞とは、通常行われる遺伝子発現の検出手段(ノーザンブロット法など)によって、PINK1遺伝子の発現を検出することができない細胞を意味する。PINK1を実質的に発現しない細胞には、例えば、動物個体においてPINK1を実質的に発現しない組織、例えば、肺、脾臓、胸腺、白血球などから、当業者に周知の方法により採取することができる。動物個体は、例えば、マウス、ラット、ウサギ、イヌ、非ヒト霊長類、ヒトなどであり、好ましくはヒトである。PINK1を全く発現しない細胞は、PINK1−/−ノックアウト動物から採取されたものであってよく、例えば、PINK1−/−ノックアウトマウスの胎児線維芽細胞(MEFs)などであってよい。
【0087】
本実施形態における細胞抽出液は、細胞を物理的に破砕する方法や、CHAPSなどの界面活性剤により溶解する方法など、従来公知の方法により調製することができる。本実施形態における細胞抽出液は、好ましくは、細胞を物理的に破砕して調製する。
【0088】
リン酸化反応溶液として、ユビキチンと、キナーゼと、リン酸供与体とを混合して調製した反応溶液を用いる場合には、キナーゼによるリン酸化反応に適した反応バッファー中に、ユビキチンと、キナーゼと、リン酸供与体とを混合することにより調製することができる。反応バッファーには、例えば、Mg2+またはMn2+を含有するトリス塩酸バッファーなどを使用することができる。リン酸化反応溶液における各成分の組成は、細胞から調製した細胞抽出液の組成に準じて適切に決定することができる。
【0089】
本実施形態におけるユビキチンは、任意の真核生物由来のものであってよいが、好ましくは、マウス、ラット、ウサギ、イヌ、非ヒト霊長類、ヒトなどの哺乳動物由来のものであり、特に好ましくはヒト由来のユビキチンである。本実施形態におけるユビキチンは、上記のSer65リン酸化ユビキチンと同様に、遺伝子工学的手法による生合成や、化学合成により調製することができる。
【0090】
本実施形態におけるキナーゼには、PINK1の他にも、ERK1/2、ERK5、ERK7、JNK/SAPK、p38などのMAPキナーゼや、プロテインキナーゼA(PKA)、プロテインキナーゼC(PKC)、CaMキナーゼ、Mos/Rafキナーゼ、cdc2などの任意のSer/Thrキナーゼを使用することができる。好ましくは、本実施形態におけるキナーゼは、PINK1である。本実施形態におけるキナーゼは、任意の真核生物由来のものであってよいが、好ましくは、マウス、ラット、ウサギ、イヌ、非ヒト霊長類、ヒトなどの哺乳動物由来のものであり、特に好ましくはヒト由来のキナーゼである。本実施形態におけるキナーゼは、遺伝子工学的手法による生合成により調製することができる。
【0091】
本実施形態におけるリン酸供与体には、例えば、ATP、CTP、GTP、TTP、UTP、dATP、dCTP、dGTP、dTTP、dUTPなどを使用することができる。本実施形態における好ましいリン酸供与体は、ATPまたはGTPである。
【0092】
次いで、リン酸化反応溶液に、候補化合物を添加する。候補化合物には、例えば、タンパク質、ペプチド、核酸、非ペプチド性化合物、合成化合物、細胞抽出液、植物抽出液、動物組織抽出液などが挙げられ、これらの物質は新規なものであってもよいし、公知のものであってもよい。添加される候補化合物の濃度は、化合物の種類により異なるが、例えば、0.1nM〜100nMの範囲で適宜選択することができる。リン酸化反応は、好ましくは、10分〜24時間行うことができる。
【0093】
次いで、前記細胞におけるSer65リン酸化ユビキチン量を測定する。Ser65リン酸化ユビキチン量は、上記パーキンソン病の検査方法におけるSer65リン酸化ユビキチンの検出または定量と同様に、例えば、抗Ser65リン酸化ユビキチン抗体を用いたELISA、免疫組織化学染色、イムノブロットなどの各種免疫学的手法や、質量分析などの手法により行うことができる。
【0094】
本実施形態のスクリーニング方法において、リン酸化反応溶液中のSer65リン酸化ユビキチンが、候補化合物の添加前と比較して有意に増加した場合は、当該候補化合物は、パーキンソン病の治療薬または予防薬として有望であると評価することができる。一方、リン酸化反応溶液中のSer65リン酸化ユビキチンが、候補化合物の添加前と同等量またはそれ以下の量しか検出されない場合は、当該候補化合物は、パーキンソン病の治療薬または予防薬として有望ではないと評価することができる。
【実施例】
【0095】
以下に実施例を挙げ、本発明についてさらに説明する。なお、これらは本発明を何ら限定するものではない。
【0096】
<実施例1:ミトコンドリア膜電位の消失に応じてユビキチンがリン酸化される>
1−1.CCCP処理細胞におけるユビキチンのリン酸化
HeLa細胞は、1×非必須アミノ酸(ライフテック社製)、1×ピルビン酸ナトリウム(ライフテック社製)および10%ウシ血清(ライフテック社製)を添加したダルベッコ改変イーグル培地(DMEM)(シグマ・アルドリッチ社製)中で、5%CO、37℃にて培養した。HeLa細胞を、15〜30μMのCCCP(和光純薬社製)により3時間処理した後、細胞抽出用バッファー(20mMのTris−HCl(pH7.5)、150mMのNaCl、1mMのEDTA、1%のNP−40)中に懸濁し、細胞溶解物を調整した。また、CCCP処理を行わずに、それ以外同様の手順により調製した細胞溶解物を陰性対照とした。
【0097】
得られた細胞溶解物は、50μMのPhos−tagアクリルアミド(和光純薬社製)および100μMのMnClを含有する12.5−15%のポリアクリルアミドゲルに供され、電気泳動された。また、対照として、Phos−tagを含有しないポリアクリルアミドゲルによる電気泳動を行った。電気泳動後のゲルは、0.01%のSDSおよび1mMのEDTAを含有する転写バッファー中で10分間洗浄した後、EDTAを含有しない0.01%SDS転写バッファー中で10分間インキュベートした。その後、PVDF膜に転写し、抗ユビキチン抗体P4D1(セルシグナリングテクノロジー社製)(1:1000)を一次抗体として、ヤギ抗マウスIgG−AP抗体(サンタクルズバイオテクノロジー社製)(1:10000)を二次抗体として用いて、イムノブロットを行った。検出は、BCIP/NBT試薬(ナカライテスク社製)により行った。
【0098】
結果を図1に示す。図1左は、Phos−tagを含有しないポリアクリルアミドゲルにより電気泳動を行った結果であり、図1右は、Phos−tagを含有するポリアクリルアミドゲルにより電気泳動を行った結果である。CCCP処理を行った細胞溶解物をPhos−tag含有ゲルで泳動したものには、泳動の遅れたバンド(図中、記号「*」により表示)が確認された。この結果から、CCCP処理を行った細胞では、ユビキチンがリン酸化されていることが示唆された。
【0099】
1−2.無細胞系におけるユビキチンのリン酸化
ミトコンドリアの膜電位消失によってユビキチンのリン酸化が起こることを確認するために、無細胞系におけるユビキチンのリン酸化アッセイを行った。HeLa細胞を、上記1−1と同様の手順によりCCCP処理した後、EDTAフリープロテアーゼインヒビターカクテル(ロシュ・ダイアグノスティックス社製)を添加した無細胞系アッセイ用バッファー(20mMのHEPES−KOH(pH7.5)、220mMのソルビトール、10mMのKAc、70mMのスクロース)中に懸濁した。細胞懸濁液を、25ゲージの注射針に30回通過させることにより細胞を破砕し、細胞ホモジネート液を得た。次いで、細胞ホモジネート液を、4℃、800×gにて10分間遠心分離し、核除去後上清を回収した。核除去後上清を、4℃、10,000×gにて20分間さらに遠心分離し、ミトコンドリアペレットを回収した。
【0100】
ミトコンドリアを、5mMのMgCl、5mMのATP、2mMのDTTおよび1%のグリセロールを添加した無細胞系アッセイ用バッファーにより調製された、終濃度40ng/μLのユビキチン(ボストンバイオケム社製)、HA−ユビキチン(ボストンバイオケム社製)、またはHis−ユビキチン(ボストンバイオケム社製)中で、30℃で1時間インキュベートした。その後、4℃、16,000×gにて10分間遠心分離し、ミトコンドリアを除去した。得られた上清について、上記1−1と同様の手順により、Phos−tagアッセイを行った。また、CCCP処理を行わずに調製したものを陰性対照とした。イムノブロットは、抗ユビキチン抗体(ダコジャパン社製)(1:500)を一次抗体として、ヤギ抗ウサギIgG−AP抗体(サンタクルズバイオテクノロジー社製)(1:5000)を二次抗体として用いて行った。検出は、BCIP/NBT試薬(ナカライテスク社製)により行った。
【0101】
結果を図2に示す。CCCP処理を行った細胞から単離したミトコンドリアと反応させたユビキチンはリン酸化されたのに対し(図2右、レーン8、「pUb」と表示されたバンド)、CCCP処理を行わなかった細胞から単離したミトコンドリアと反応させたユビキチンにはリン酸化は見られなかった(図2右、レーン7)。なお、図2中、記号「*」により表示されたバンドは、抗体の交差反応による。この結果から、ミトコンドリアの膜電位消失に応じてユビキチンのリン酸化が起こることが示された。また、ユビキチンのN末端にHAタグまたはHisタグを付加しても、ユビキチンのリン酸化は阻害されないことを確認した(図2右、レーン10および12)。
【0102】
<実施例2:ユビキチンのリン酸化部位は65番目のセリン残基である>
2−1.質量分析法によるユビキチンのリン酸化部位の解析
ユビキチンのリン酸化部位を特定するために、液体クロマトグラフタンデム型質量分析法(LC−MS/MS)による解析を行った。ユビキチンは、上記1−2と同様にしてCCCP処理を行ったミトコンドリアと無細胞系において反応させた後、SDS−PAGEに供された。泳動後、ゲルをCCB染色によりバンドを検出した。ゲルを超純水により洗浄後、目的のバンドを切り出した。切り出されたゲル片を、1mmの小片に切り刻み、1mLの50mMの重炭酸アンモニウム/50%のアセトニトリル(ACN)中で1時間撹拌し、脱水した。その後、100%ACNによりゲル小片を完全に脱水した。50mMの重炭酸アンモニウム/5%のACN(pH8.0)を用いて20ng/μLに調製されたシークエンシンググレード改変トリプシン(プロメガ社製)をゲル小片に加え、37℃で一晩インキュベートし、ゲル内トリプシン消化を行った。
【0103】
消化反応後、50μLの50%ACN/0.1%トリフルオロ酢酸(TFA)を添加し、1時間振盪することにより、断片化ペプチドの抽出を行った。抽出液を別のチューブに回収した後、さらに残ったゲル小片に対して50μLの70%ACN/0.1%TFAを加え、30分間振盪することにより、追加の抽出を行った。回収された抽出液は、SpeedVac(アイラ社製)により、20μLに濃縮された。濃縮された断片化ペプチドに20μLの0.1%TFAを加え、LC−MS/MS用サンプルとした。LC−MS/MSには、ナノフローUHPLC装置としてEasy−nLC1000(サーモフィッシャーサイエンティフィック社製)、Q−Exactive質量分析計(サーモフィッシャーサイエンティフィック社製)およびを、解析ソフトウェアとしてXcalibur(サーモフィッシャーサイエンティフィック社製)を使用した。断片化ペプチドのスペクトルは、MASCOT検索エンジンにより、UniProtデータベースにて検索した。
【0104】
結果を図3に示す。CCCP処理を行った細胞から単離したミトコンドリアと反応させたユビキチン由来のペプチド断片について解析した結果、ユビキチンの55〜72番目のアミノ酸に相当するペプチド断片における65番目のセリンのリン酸化が確認された(TLSDYNIQKE(pS)TLHLVLR)。さらに、ユビキチンの64〜72番目のアミノ酸に相当するペプチド断片における65番目のセリンのリン酸化(E(pS)TLHLVLR)も確認された。上記のリン酸化ペプチド断片は、CCCP処理を行わなかった細胞から単離したミトコンドリアと反応させた対照からは検出されなかった。これらの結果から、ユビキチンの65番目のセリン残基(Ser65)がリン酸化部位であることが示された。
【0105】
2−2.無細胞系におけるユビキチンのリン酸化部位の解析
ミトコンドリア膜電位の消失に応じてユビキチンのSer65がリン酸化されることをさらに確認するために、Ser65に変異を導入した組換えユビキチンを用いて、上記1−2と同様の手順により、Phos−tagアッセイを行った。組換えユビキチンとして、Ser65をアラニンに置換したもの(S65A)と、Ser65をアスパラギン酸に置換したもの(S65D)を用い、対照として野生型(WT)を用いた。
【0106】
組換えユビキチンおよび野生型ユビキチンは、以下の手順により調製した。N末端にHisタグ配列を付加した上記変異型または野生型ユビキチンをコードするDNAを組み込んだpT7ベクター(シグマ・アルドリッチ社製)により、大腸菌Rosetta2(DE3)(ノバジェン社製)を形質転換した。得られた形質転換体は、100μg/mLのアンピシリンおよび24μg/mLのクロラムフェニコールを添加したLB培地20mL中で37℃にて一晩前培養し、その後200mLの培地に移した。37℃で2時間のインキュベーション後、終濃度1mMのIPTGを添加し、さらに6時間の培養を行った。回収した菌体を、20mMのTris−HCl(pH7.5)40mLに懸濁し、超音波処理により破砕した。8,000rpmにて10分間遠心分離後、上清を回収し、通常の方法により精製し、バッファーA(50mMのTris−HCl(pH7.5)/100mMのNaCl/10%グリセロール)に対して透析した。
【0107】
結果を図4に示す。Ser65を有する野生型のユビキチンはリン酸化された一方(図4右、レーン2)、Ser65が置換された組換えユビキチンには、いずれもリン酸化が見られなかった(図4右、レーン4および6)。この結果から、ユビキチンのSer65がリン酸化部位であることが確認された。
【0108】
2−3.CCCP処理細胞におけるユビキチンのリン酸化部位の解析
上記1−1と同様の手順により、CCCP処理を行ったHeLa細胞の抽出液について、Phos−tagアッセイを行った。S65A組換えユビキチンおよびWTユビキチンは、それぞれをコードするDNAをpcDNA3ベクター(インビトロジェン社製)に挿入したものを、FuGENE6(ロシュ・ダイアグノスティックス社製)を用いてHeLa細胞に導入することにより発現させた。
【0109】
結果を図5に示す。細胞内においても、野生型のユビキチンはリン酸化された一方(図5右、レーン2)、S65A組換えユビキチンはリン酸化されなかった(図5右、レーン4)。この結果からも、ユビキチンのSer65がリン酸化部位であることが確認された。
【0110】
<実施例3:PINK1がユビキチンをリン酸化する>
3−1.PINK1−/−細胞におけるユビキチンのリン酸化
PINK1はキナーゼであり、ミトコンドリア膜電位の消失に応じて活性化されることが知られていることから、ユビキチンをリン酸化する酵素はPINK1である可能性が考えられる。この仮説を検証するために、PINK1−/−ノックアウトマウスの胎児線維芽細胞(MEFs)を用いて、無細胞系におけるリン酸化試験を行った。
【0111】
PINK1−/−のMEFsは、PINK1−/−マウスの胎児から調製されたものを、Jie Shen博士(ハーバード大学)より分与していただいた。野生型PINK1、キナーゼ活性欠失(KD)変異PINK1、A168P変異PINK1またはG386A変異PINK1は、それぞれをコードする遺伝子をpMX−puroベクター(コスモバイオ社製)を用いてレトロウイルスにパッケージした。得られたレトロウイルスを、PINK1−/−のMEFsに感染させることにより、野生型PINK1または変異PINK1発現細胞を作製した。それ以外は上記1−2と同様の手順により、Phos−tagアッセイを行った。
【0112】
結果を図6に示す。CCCP処理したPINK1−/−のMEFsから単離されたミトコンドリアはユビキチンのリン酸化を誘導しないが(図6右、レーン2)、野生型PINK1を導入したPINK1−/−のMEFsから単離されたミトコンドリアは、CCCP処理依存的にユビキチンのリン酸化が見られた(図6右、レーン4)。一方、キナーゼ活性を持たない変異PINK1を導入したPINK1−/−のMEFsから単離されたミトコンドリアは、いずれもユビキチンをリン酸化しなかった(図6右、レーン6、8および10)。この結果から、ユビキチンのリン酸化はPINK1によるものであることが示された。
【0113】
3−2.CCCP処理細胞から単離されたPINK1によるユビキチンのリン酸化
PINK1がユビキチンをリン酸化するものであることをさらに確認するために、CCCP処理した細胞からPINK1を単離し、ユビキチンをリン酸化するかどうかを試験した。マウスレトロウイルス受容体であるmCAT1を一過性発現させたHeLa細胞に対し、上記3−1と同様の手順により、pMX−puroベクター(コスモバイオ社製)を用いてPINK1−3×Flag遺伝子を導入し、安定発現細胞を得た。細胞を、上記1−2と同様の手順により、無細胞系アッセイ用バッファー中に懸濁した。次いで、10mg/mLのジギトニンにより4℃で15分処理して細胞を可溶化した後、抗FLAG抗体2H8(トランスジェニック社製)をコンジュゲートさせたプロテインGセファロース4FastFlow(GEヘルスケア・ライフサイエンス社製)と4℃で1時間反応させ、免疫沈降を行った。反応後の免疫沈降物は、上記バッファーにより洗浄後、遠心分離により回収した。得られた免疫沈降物を、SDS−PAGE電気泳動後、上記1−1と同様にしてイムノブロットを行った。ミトコンドリアタンパク質の検出には、抗VDAC抗体ab2(カルビオケム社製)(1:1,000)、抗マイトフュージン2抗体ab56889(アブカム社製)(1:500)、抗FoF1−ATPase(上野博士より供与)(1:1,000)を使用した。
【0114】
結果を図7に示す。免疫沈降反応の結果、PINK1のみが単離され、他のミトコンドリアタンパク質(VDAC、マイトフュージン2、FoF1−ATPase)は除去されたことが示された(図7左)。
【0115】
次いで、ミトコンドリアに代えて単離PINK1を用いる以外は上記1−2と同様の手順により、Phos−tagアッセイを行った。また、ミトコンドリアを用いたものを対照とした。
【0116】
結果を図7に示す。CCCP処理細胞から単離されたPINK1は、CCCP処理細胞から単離されたミトコンドリアと同様にユビキチンをリン酸化することが示された(図7右、レーン4)。この結果から、PINK1がユビキチンをリン酸化していることが明確に示された。
【0117】
<実施例4:Ser65リン酸化ユビキチンはParkinの活性化因子である>
4−1.細胞内におけるリン酸化模倣型ユビキチンによるParkinの活性化(1)
PINK1が活性化されると、ParkinのE3酵素としての活性化とミトコンドリアへの移行が起こることが知られている。そこで、PINK1が活性化されてリン酸化されたユビキチンがどのような役割を果たしているのかを調べるために、リン酸化模倣型ユビキチンを用いてParkinを活性化することができるかどうかを試験した。
【0118】
リン酸化模倣型ユビキチンとしては、S65Dユビキチンを使用した。S65Dユビキチンは、S65DユビキチンをコードするDNAを挿入したpcDNA3ベクター(インビトロジェン社製)を、FuGENE6(ロシュ・ダイアグノスティックス社製)を用いてHeLa細胞に導入することにより発現させた。GFP−野生型Parkin(GFP−Parkin WT)またはGFP−組換えParkinも、同様にしてHeLa細胞に導入することにより発現させた。GFP−組換えParkinとして、E3酵素としての活性化とミトコンドリアへの移行に必須であるSer65のリン酸化を模倣したもの(GFP−Parkin S65E)と、部分的活性化型Parkinとして知られる403番目のシステイン残基をアラニンに置換したもの(GFP−Parkin W403A)を用いた。
【0119】
ParkinのE3酵素としての活性化は、Parkinの自己ユビキチン化に基づいて評価した。細胞内ユビキチン化アッセイは、GFP−ParkinまたはGFP−組換えParkinと、野生型ユビキチンまたはリン酸化模倣型ユビキチンとを含有するHeLa細胞の細胞質画分を、上記1−1の手順により単離して、イムノブロットすることにより行った。CCCP処理は、上記1−1と同様の手順により行った。
【0120】
結果を図8に示す。S65D組換えユビキチンは、CCCP処理不在下、すなわちPINK1が活性化されない条件下では、野生型Parkinを活性化しなかった(図8左、レーン3)。一方、S65E組換えParkinおよびW403A組換えParkinは、CCCP処理不在下であっても、S65D組換えユビキチンによって活性化されることが示された(図8中央、レーン3および図8右、レーン3)。この結果から、リン酸化されたユビキチンが、Parkinの活性化因子であることが示唆された。
【0121】
4−2.細胞内におけるリン酸化模倣型ユビキチンによるParkinの活性化(2)
リン酸化されたユビキチンのParkin活性化における役割をさらに調べるために、ポリユビキチン鎖の形成に必要であるユビキチンC末端のグリシン残基を欠失した組換えユビキチン(GGAAまたはGGVV)および組換えリン酸化模倣型ユビキチン(S65DGGAAまたはS65DGGVV)を用いて、上記4−1と同様の手順により、細胞内ユビキチン化アッセイを行った。
【0122】
結果を図9に示す。C末端のグリシン残基を欠失したS65Dリン酸化模倣型ユビキチンも、C末端のグリシン残基を有するS65Dリン酸化模倣型ユビキチンと同様に、S65E組換えParkinおよびW403A組換えParkinを活性化することが示された(図9、レーン4〜6)。この結果から、リン酸化されたユビキチンは、Parkinによって付加されるポリユビキチン鎖に使用されるのではなく、それとは独立のメカニズムにより、Parkinの活性化因子として機能するものであることが示唆された。
【0123】
<実施例5:ミトコンドリア上の基質タンパク質に付加されるユビキチンはリン酸化されていなくてもよい>
5−1.多重蛍光免疫染色によるミトコンドリアのユビキチン化の可視化解析
上記4−2から示唆される事項についてさらに検証するために、リン酸化されないS65A組換えユビキチンがミトコンドリア上の基質タンパク質に付加されるかどうかを試験した。上記2−3と同様の手順により、HeLa細胞にS65A組換えユビキチンを発現させた。また、野生型ユビキチンを発現させたものを対照とした。CCCP処理は、上記1−1と同様の手順により行った。
【0124】
細胞を、4%ホルムアルデヒドを用いて固定後、50mg/mLのジギトニンにより細胞を可溶化し、一次抗体として、抗GFP抗体ab6556(アブカム社製)(1:500)、抗Flag抗体2H8(トランスジェニック社製)(1:500)および抗Tom20抗体FL−145(サンタクルズバイオテクノロジー社製)(1:3,000)を用い、二次抗体としてAlexaFluor488または568標識抗マウスまたはウサギIgG抗体(インビトロジェン社製)(1:2,000)を用いて免疫染色を行った。染色後の細胞は、共焦点レーザースキャン顕微鏡システムLSM510(カールツァイス社製)により観察した。統計的分析は、3回の実験を通して100個以上の細胞を解析し、スチューデントのt検定により行った。
【0125】
結果を図10に示す。リン酸化されないS65A組換えユビキチンも、野生型ユビキチンと同様に、ミトコンドリア上の基質タンパク質に付加されることが示された。この結果からも、Parkinによって付加されるポリユビキチン鎖がリン酸化されたユビキチンに由来するものに限られるわけではないことが確認された。
【0126】
<実施例6:Ser65リン酸化ユビキチンはParkinの完全な活性化に必須である>
6−1.無細胞系におけるSer65リン酸化ユビキチンによるParkinの活性化
最後に、組換えParkinと組換えユビキチンまたはSer65リン酸化ユビキチンを用いた無細胞系アッセイにより、Parkinの活性化を評価した。WT、S65EまたはW403AのGFP−Parkinは、CCCP処理されていないHeLa細胞またはPINK1−/−のMEFsから、以下の手順により調製した。前記細胞を、EDTAフリープロテアーゼインヒビターカクテル(ロシュ・ダイアグノスティックス社製)を添加した無細胞系アッセイ用バッファー(20mMのHEPES−KOH(pH7.5)、220mMのソルビトール、10mMのKAc、70mMのスクロース)中に懸濁した。細胞懸濁液を、25ゲージの注射針に30回通過させることにより細胞を破砕し、細胞ホモジネート液を得た。次いで、細胞ホモジネート液を、4℃、800×gにて10分間遠心分離し、核除去後上清を回収した。核除去後上清を、4℃、16,000×gにて20分間さらに遠心分離し、上清を回収することで、ミトコンドリアを除去した細胞質画分を得た。この上清に、5mMのMgCl、5mMのATP、2mMのDTTおよび1%のグリセロールを添加した。WT、S65A、S65DのHis−ユビキチンまたはHis−Ser65リン酸化ユビキチンは、上記2−1、2−2の手順により調製した。
【0127】
ParkinのE3酵素としての活性化は、Parkinの自己ユビキチン化に基づいて評価した。無細胞系ユビキチン化アッセイは、GFP−ParkinまたはGFP−組換えParkinを含有するHeLa細胞の細胞質画分に、上記1−2、2−1の手順により調製された野生型ユビキチン、S65D組換えユビキチンまたはSer65リン酸化ユビキチン(終濃度50μg/mL)を添加し、30℃で2時間インキュベートすることにより行った。
【0128】
結果を図11に示す。S65E組換えParkinおよびW403A組換えParkinは、膜電位の消失したミトコンドリアが存在せずとも、S65Dリン酸化模倣型ユビキチンによって活性化されるが(図11上段、レーン12および18)、野生型Parkinは、S65Dリン酸化模倣型ユビキチンによって活性化されなかった(図11上段、レーン6)。野生型ユビキチンあるいはS65A組換えユビキチンは、S65E組換えParkinおよびW403A組換えParkinを活性化しなかった(図11上段、レーン10、16)。また、PINK1の影響を排除しても、全く同様の結果が得られた(図11中段)。さらに、S65Dリン酸化模倣型ユビキチンに代えて、実際にSer65がリン酸化されたユビキチンを用いた場合にも同様の結果が確認された(図11下段)。
【0129】
以上の実施例の結果から想定されるParkinの活性化メカニズムを図12に示す。活性化されたPINK1は、Parkinとユビキチンの両方をリン酸化する。また、Parkinの活性化には、PINK1によるParkinのリン酸化が必要であるが、それのみでは部分的な活性化しか起こらず、完全にParkinが活性化されるためには、Ser65がリン酸化されたユビキチンの存在が必要である。
【0130】
このように、本発明に係るSer65リン酸化ユビキチンは、Parkinの活性化に必須の構成分子であり、パーキンソン病検出用バイオマーカーとして使用し得るものであることが確認された。また、本発明に係るパーキンソン病検出用バイオマーカーを使用することにより、パーキンソン病の治療薬または予防薬のスクリーニング方法を提供することができることが示唆された。さらに、Ser65リン酸化ユビキチンおよびSer65Aspリン酸化模倣型ユビキチンは、Parkinを活性化する効果を有し、パーキンソン病の治療薬または予防薬として使用し得るものであることが示唆された。
【0131】
<実施例7:抗Ser65リン酸化ユビキチン抗体の作製>
次いで、Ser65リン酸化ユビキチンに対して特異的結合能を有する抗体を作製した。リン酸化Ser65を含むユビキチン断片であるCNIQKE(pS)TLHをウサギに、CNIQKE(pS)TLHLVをモルモットに、2週間間隔で4〜5回にわたって免疫した後、全採血し、血清を得ることにより、ポリクローナル抗体を含有する抗血清を得た。
【0132】
ポリクローナル得られた抗体の結合能評価は、上記1−2と同様の手順により調製したユビキチンサンプルを用いて行った。また、陽性対照には、抗ユビキチン抗体Z0458(ダコ社製)を用いた。
【0133】
結果を図13および図14に示す。陽性対照では、リン酸化されたユビキチン(図中、記号「*」により表示)とリン酸化されていないユビキチン(図中、記号「**」により表示)の両方が検出されているのに対し、抗ユビキチンウサギポリクローナル抗体と抗ユビキチンモルモットポリクローナル抗体はいずれも、リン酸化されたユビキチンのみを特異的に検出した。
【0134】
このように、本発明に係る抗Ser65リン酸化ユビキチン抗体は、Ser65リン酸化ユビキチンに対して特異的な結合能を有し、上記パーキンソン病の検出方法に使用できるものであることが示唆された。
【0135】
<実施例8:質量分析法を用いたSer65リン酸化ペプチドの検出>
実際に生体内において、ミトコンドリア膜電位の消失に応じて、ユビキチンのSer65がリン酸化されるかどうかを確認するために、細胞抽出液についてLC−MS/MS測定を行った。細胞抽出液を、上記1−1と同様の手順により、CCCP処理されたまたは処理されていないHeLa細胞から調製し、SDS−PAGEに供した。次いで、ユビキチンの分子量に相当する付近のゲルを切り出し、上記2−1と同様にしてサンプルを調製し、LC−MS/MS機器を用いて質量分析解析に処した。ただし、プロテアーゼによる切断に際しては、トリプシン(プロメガ社製)に加えて、エンドプロテイナーゼLys−C(和光純薬社製)を用いた。LC−MS/MS測定後、ユビキチンの64〜72番目のアミノ酸に相当するリン酸化ペプチド(E(pS)TLHLVLR)および非リン酸化ペプチド(ESTLHLVLR)に由来するフラグメントイオンに関して、曲線下面積値(The area under the curves:AUC)を、PinPoint software(サーモフィッシャー社製)を用いて算出した。
【0136】
結果を図15に示す。CCCP処理を行ったHeLa細胞の抽出液からは、リン酸化ペプチド断片(E(pS)TLHLVLR)に由来するシグナルが検出された一方、CCCP処理を行わなかったHeLa細胞の抽出液からは、リン酸化ペプチド断片は検出されなかった。非リン酸化ペプチド断片(ESTLHLVLR)に由来するシグナルはCCCP処理・未処理両方のHeLa細胞の抽出液から検出された。これらの結果から、実際に生体内において、ミトコンドリア膜電位の消失に応じたユビキチンのSer65のリン酸化を、質量分析法によって検出できることが示された。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15
【配列表】
[この文献には参照ファイルがあります.J-PlatPatにて入手可能です(IP Forceでは現在のところ参照ファイルは掲載していません)]