【実施例】
【0050】
製造例1
(1)モンモリロナイトナノシートの作製
粘土として、2gの天然モンモリロナイトである「クニピアM」(クニミネ工業株式会社製)を98gの蒸留水に加え、ガラス製ビーカーにテフロン(登録商標)製のスターラーチップとともに入れ、マグネチックスターラーで攪拌し、均一な粘土分散液を得た。この粘土分散液を、液体窒素を用いて氷結させた。この氷を凍結乾燥機「FDU−2110」(東京理化機器株式会社製)を用いて凍結乾燥して、モンモリロナイトの剥離体(モンモリロナイトナノシート
)を得た。
【0051】
剥離体の嵩密度を以下の方法で測定した。結果を表1に示す。
嵩密度は、電子天秤「MC−1000」(株式会社エー・アンド・デイ製)を用い、23℃の室内で測定した。まず、容積25cm
3で内径20mmの金属製円筒容器の重量を測定した。この容器に剥離体を過剰量投入し、容器から飛び出している剥離体を金属板ですり切り、容器と剥離体の重量を測定し、以下の式より、剥離体の嵩密度を算出した。
【0052】
【数1】
W
0:金属容器 [g]
W
1:剥離体と金属容器の重量 [g]
V:金属容器容積 [cm
3]
【0053】
(2)シートの作製
モンモリロナイトの剥離体0.844gを金型(径34mm、深さ1mmの円柱状の窪みがあるもの)に投入し、厚さ1mmとなるように平滑な金属板で圧縮成型し、シートを得た。
シートの密度は0.93g/cm
3、厚さは1mmであった。
得られたシートの断面の走査型電子顕微鏡写真を
図9に示す。剥離体(モンモリロナイトナノシート)が配向しないで不規則に集合しているのが分かる。
モンモリロナイトナノシートは1層又は積層体であり、厚みを電解放射型電子走査顕微鏡「JSM7600」(日本電子株式会社製)により10点測定した結果、10〜800nmであった。
【0054】
製造例2
30gの天然モンモリロナイトである「クニピアM」(クニミネ工業株式会社製)を70gの蒸留水に加えた他は製造例1と同様にしてモンモリロナイトの剥離体を得た。このモンモリロナイトの剥離体0.853gを使用して製造例1と同様にシートを作製した。
【0055】
製造例3
粘土として、化学処理バーミキュライト「Micro Light Powder(登録商標)」(Specialty Vermiculite Corporation製)を乳鉢でメディアン径:D50が4μmとなるように粉砕したものを用いた他は、製造例1と同様にしてバーミキュライトの剥離体を得た。このバーミキュライトの剥離体0.898gを使用して製造例1と同様にシートを作製した。
【0056】
製造例4
粘土として、ナトリウム四珪素マイカである膨潤性マイカ「DMA−350」(トピー工業株式会社製)に変えた他は、製造例1と同様にしてマイカの剥離体を得た。このマイカの剥離体0.889gを使用して製造例1と同様にシートを作製した。
【0057】
製造例5
製造例4のマイカの剥離体を用い、このマイカの剥離体1.27gを使用して製造例1と同様にシートを作製した。
【0058】
製造例6
粘土として、30gのナトリウム四珪素マイカである膨潤性マイカ「DMA−350」(トピー工業株式会社製)に変えた他は、製造例1と同様にしてマイカの剥離体を得た。このマイカの剥離体0.453gを使用して製造例1と同様にシートを作製した。
【0059】
評価例1
製造例1〜6で得られたシートについて以下の特性を測定した。結果を表1に示す。
【0060】
(a)圧縮量と圧縮率
圧縮率は、配管等のガスケットとして通常使用される面圧を想定し、34MPaまで圧縮した際の変形量と初期の厚さの比から求めた値を意味する。
シートサンプルの圧縮率測定は、万能材料試験機「AG−100kN」(株式会社島津製作所製)を用いて測定した。まず、圧縮試験装置自体の歪みを測定する目的で、φ15mm、厚さ2mmの金属円柱板を0.1mm/分の速度で圧縮し、34MPa圧縮時の歪みを予め測定した。
次に、直径15mm、厚さ1mm±0.05mmのサンプルを0.1mm/分の速度で圧縮し、34MPaの荷重がかかった時の歪みを測定し、以下の式より圧縮量と圧縮率を算出した。
【0061】
【数2】
ε
1:サンプルを34MPaまで圧縮した際の歪み [mm]
ε
0:金属板を34MPaまで圧縮した際の歪み [mm]
t:初期厚さ [mm]
【0062】
(b)曲げ強度
シートサンプルの曲げ強度は、動的粘弾性スペクトロメーター「RSAIII」(TAインスツルメンツ社製)を用いて測定した。測定に用いたサンプルは、幅10mm、長さ20mm、厚さ1mmのものを使用した。測定は三点曲げ試験で行い、支点間距離10mm、試験速度1mm/分の条件で実施し、最大荷重を測定し、以下の式から曲げ強度を算出した。
【0063】
【数3】
σ:曲げ強度 [N/mm
2]
F:曲げ荷重 [N]
L:支点間距離 [mm]
b:試験片幅 [mm]
h:試験片厚さ [mm]
【0064】
(c)空隙率
サンプルの空隙率は、X線CT装置「SKYSCAN1072」(Bruker−microCT社製)を用いて測定した。測定に用いたサンプルは、1辺が1〜2mmの立方体になるようにカミソリ刃で慎重に切断し、サンプル内に切断による亀裂が発生しないよう調整した。
X線CT装置の測定条件は、倍率120.2倍(分解能2.28μm/pixel)、X線の管電圧100kV、管電流98μAに設定し、サンプルを露光時間1.1秒、2フレーム、回転ステップ0.23°で0〜180°まで回転させ、透過像を撮像した。なお、撮像はサンプルだけでなく必ずその周囲の空間も入るよう行い、透過像のラインプロファイルを確認し、サンプル部と空間部に差がみられるようにゲインを調整した。
撮像した透過像は再構成ソフトウェア「nRecon」(Bruker−microCT社製)を用い、空間部とサンプル部のピークが完全に入るようにCT値(画像の白黒グレー値)を設定し、再構成を行い3Dデータを得た。
次に、3Dデータからソフトウェア「VGStudioMAX」(ボリュームグラフィックス株式会社製)を用い、切断による破壊の無い部分を関心領域(300×320×230ピクセル)として抽出し、空間とサンプルのグレー値のヒストグラムから両ピークの中央値を読み取った。
このグレー値を空隙の閾値として、セグメント化し、Marching Cubes法により個々空隙の体積を計測した。
計測体積の中から、空隙直径15μm以上のものを抽出し、関心領域中の全体積と15μm以上の空隙の総和との比を空隙率(体積%)とした。
【0065】
(d)面方向の漏洩量(シール性)
シートの面方向のシール性は、圧力降下法で測定した。具体的には、シートサンプルを外径30mm、内径15mmのドーナッツ状にトムソン刃で打抜き加工した試験体を用い、試験体をSUS304製の中央に試験ガスを付加するための穴の開いた金属板(直径100mm、厚さ50mm、平均表面粗さ:Ra=0.5μm、中心穴径3mm)に設置した。これらを、万能材料試験機「AG−100kN」(株式会社島津製作所製)に設置し、SUS304製の金属板(直径100mm、厚さ50mm、平均表面粗さ:Ra=0.5μm)を圧縮板として用い、5mm/分の速度で試験体に34MPaかかるまで圧縮した。
本試験で用いた配管容器内体積を測定するため、試験体内径側に内圧が1MPaとなるように窒素ガスを供給し、バルブを閉じて密閉した。これに予め配管容器内体積を測定してある配管(485.56cm
3)に接続し、内圧を開放した。この際の残圧を測定し、以下の式より配管容器内体積を算出した。
【0066】
【数4】
V:配管容器内体積 [m
3]
V
0:予め配管容器内体積を測定してあるものの体積 [m
3]
P
0:初期付加圧力 [MPa]
P
1:開放時圧力 [MPa]
【0067】
次に、試験体内径側に内圧が1MPaとなるように窒素ガスを供給し、内圧が0.9MPaまで低下する時間を測定し、以下の式より面方向の漏れ量を算出した。なお、試験はすべて23±0.5℃の室内で行った。
【0068】
【数5】
Q:漏洩量 [atmcc/分]
V:配管容器内体積 [m
3]
P
a:検出開始時の試験体内側圧力 [MPa]
P
b:検出終了時の試験体内側圧力 [MPa]
Δt:検出開始から終了までの時間 [分]
【0069】
(e)厚さ方向の透過係数
厚さ方向のガス透過係数は、JIS K7126−1の差圧法に沿って実施し、差圧式ガス透過試験機「GTR−30ANI」(GTRテック株式会社製)を用いて測定した。測定に用いたサンプルは、厚さ0.5mmのシートをφ58mmになるようにカッターナイフで切断した。ガス透過係数の測定条件は、サンプル温度を30℃とし、透過断面積を15.2cm
2の測定セルを用い、ヘリウムガスを0.049MPa負荷し、差圧0.149MPaで任意の時間透過したヘリウムガス量を測定し、以下の式よりガス透過係数を算出した。なお、試験はすべて23±0.5℃の室内で行った。
【0070】
【数6】
GTR:ガス透過係数 [cm
2・sec
−1・cmHg
−1]
Q:漏洩量 [cm
3]
T:サンプル厚さ [cm]
A:透過断面積 [cm
2]
t:試験時間 [sec]
ΔP:差圧 [cmHg
−1]
【0071】
【表1】
【0072】
製造例7
(1)マイカナノシートの作製
20gのナトリウム四珪素マイカである膨潤性マイカ「NTS−10」(固形分10重量%、トピー工業株式会社製)を80gの蒸留水に加えた他は製造例1と同様にしてマイカの剥離体(マイカナノシート)を得た。
【0073】
(2)シートの作製
作製したマイカの剥離体1.134gを金型(直径85mm、深さ0.2mm円柱状の窪みがあるもの)に投入し、厚さ0.2mmとなるように平滑な金属板で圧縮成型し、シートを得た。シートの密度は1.0g/cm
3、厚さは0.2mmであった。
【0074】
<シート部で被覆された渦巻形ガスケット>
実施例1
厚さ0.2mm、幅5.3mmのSUS316製テープ状薄板のフープ材を略V字状に絞り加工した後、SUS316製内輪の外周部にスポット溶接し、フープ材だけを3周巻いた後、フィラー材として厚さ0.381mm、幅6.2mmの膨張黒鉛テープ(シート密度1g/cm
3)をはさみ、互いに重ね合わせて、9周巻回し、フープ材だけを3周巻いた後、巻き始めと同様に点溶接した。最後にSUS316製外輪を装着し、フープ材からはみ出しているフィラー材のみ削り取り、渦巻形ガスケット本体部を作製した。
製造例7で作製したシートをトムソン刃で打抜き加工した外径69.8mm、内径54.1mmのリング状のシート部にスプレーのり(スリーエム ジャパン株式会社製、スプレーのり77)を塗布し、前述の渦巻形ガスケット本体部の各面(フィラーを削り取った部分)に貼り付け、渦巻形ガスケットを作製した。
【0075】
比較例1
シート部を貼り付けなかった他は実施例1と同様にして渦巻形ガスケットを得た。この渦巻形ガスケットは特許文献1の渦巻形ガスケットに相当する。
【0076】
比較例2
厚さ0.2mm、幅5.3mmのSUS316製テープ状薄板のフープ材を略V字状に絞り加工した後、SUS316製内輪の外周部にスポット溶接し、フープ材だけを3周巻いた後、フィラー材として厚さ0.21mm、幅6.8mmのマイカテープ(株式会社日本マイカ製)をはさみ、互いに重ね合わせて、4周巻回し、その後、厚さ0.381mm、幅6.2mmの膨張黒鉛テープ(シート密度1g/cm
3)に変えて同様に2周巻回し、さらに再度前述のマイカテープを4周巻回し、最後にフープ材だけを3周巻いた後、巻き始めと同様に点溶接した。最後にSUS316製外輪を装着して、渦巻形ガスケットを作製した。この渦巻形ガスケットは特許文献2の渦巻形ガスケットに相当する。
【0077】
評価例2
実施例1、比較例1,2で得られた渦巻形ガスケットについて、以下の方法で漏洩量(常温及び加熱後のシール性)を測定した。結果を
図10に示す。
図10から、実施例1の渦巻形ガスケットは、加熱後もシール性を保持できることが分かる。
渦巻形ガスケットの漏洩量は圧力降下法で測定した。具体的には次の手順で行った。作製した渦巻形ガスケットを試験体とし、これを所定のフランジ(RF形フランジ、材質:SUS F304、呼び圧力:150LB、呼び径2・1/2、表面粗さRa=2.1μm)に挟み、締付面圧44.2MPaで締め付けた。
フランジ内部の容積を測定するため、試験体内径側に内圧が1MPaとなるように窒素ガスを供給し、バルブを閉じて密閉した。これに予め配管容器内体積を測定してある配管(206.18cm
3)に接続し、内圧を開放した。この際の残圧を測定し、以下の式より配管容器内体積を算出した。
【0078】
【数7】
V:配管容器内体積 [m
3]
V
0:予め配管容器内体積を測定してあるものの体積 [m
3]
P
0:初期付加圧力 [MPa]
P
1:開放時圧力 [MPa]
【0079】
次に、試験体内径側に内圧が1MPaとなるように窒素ガスを供給し、内圧が0.9MPaまで低下する時間を測定し、以下の式より面方向の漏れ量を算出した。なお、試験はすべて23±0.5℃の室内で行った。
【0080】
【数8】
Q:漏洩量 [atmcc/分]
V:配管容器内体積 [m
3]
P
a:検出開始時の試験体内側圧力 [MPa]
P
b:検出終了時の試験体内側圧力 [MPa]
Δt:検出開始から終了までの時間 [分]
【0081】
さらに、このフランジを高温恒湿器(スーパーハイテンプオーブン SSP H−101)「エスペック株式会社製」に設置し、大気雰囲気下で昇温速度5℃/分で40℃から600℃まで昇温し、600℃で17時間加熱保持後、自然冷却により室温付近まで降温した。その後フランジを23℃±0.5℃の室内で、上述の方法により漏洩量を測定し、加熱後の漏洩量を測定した。
【0082】
<フィラー材が薄片状粘土鉱物を含む渦巻形ガスケット>
実施例2
(1)フィラー材の作製
80gの蒸留水にアクリロニトリルブタジエンゴム(NBR)ラテックス「Nipol LX531」(固形分64重量%、日本ゼオン株式会社製)0.0625gを加え、ガラス製ビーカーにテフロン(商標登録)製のスターラーチップとともに入れ、マグネチックスターラーで攪拌し、均一なNBR分散液を得た。さらに、この分散液に粘土として、ナトリウム四珪素マイカである膨潤性マイカ「NTS−10」(固形分10重量%、トピー工業株式会社製)20g加え、よく攪拌し均一な粘土分散液を得た。
この粘土分散液を、液体窒素を用いて氷結させた。この氷を凍結乾燥機「FDU−2110」(東京理化機器株式会社製)を用いて凍結乾燥して、マイカの剥離
体とNBRの混合物を得た。
【0083】
作製した混合物4gを金型(10cm角、深さ0.4mmの四角柱状の窪みがあるもの)に投入し、厚さ0.4mmとなるように平滑な金属板で圧縮成型し、シートを得た。シートの密度は1.0g/cm
3、厚さは0.4mmであった。
得られたシートの断面の走査型電子顕微鏡写真で観察した。マイカ剥離体が配向しないで不規則に集合していた。
マイカは1層又は積層体であり、厚みを電解放射型電子走査顕微鏡「JSM7600」(日本電子株式会社製)により10点測定した結果、10〜800nmであった。
このシートをカットして幅6.5mm、長さ100mmのフィラー材を作製した。
【0084】
(2)渦巻形ガスケットの製造
作製したフィラー材を用いて渦巻形ガスケット(JPI クラス 300 1・1/2B)を得た。具体的には、厚さ0.2mm、幅5.3mmのSUS316製テープ状薄板のフープ材を略V字状に絞り加工した後、SUS316製内輪の外周部にスポット溶接し、フープ材だけを3周巻いた後、フィラー材をはさみ、互いに重ね合わせて、9周巻回し(シートが足りない場合は継ぎ足しながら行った)、フープ材だけを3周巻いた後、巻き始めと同様に点溶接した。最後にSUS316製外輪を装着して、渦巻形ガスケットを作製した。
【0085】
実施例3
NBRラテックス「Nipol LX531」(固形分64重量%、日本ゼオン株式会社製)を0.125gに変えてフィラー材を作製した他は、実施例2と同様にして渦巻形ガスケットを製造した。
【0086】
実施例4
NBRラテックス「Nipol LX531」(固形分64重量%、日本ゼオン株式会社製)を0.3125gに変えてフィラー材を作製した他は、実施例2と同様にして渦巻形ガスケットを製造した。
【0087】
評価例3
実施例2〜4と比較例1,2で得られた渦巻形ガスケットについて、評価例2と同様に漏洩量(常温及び加熱後のシール性)を測定した。結果を
図11に示す。
図11から、実施例2〜4の渦巻形ガスケットは、加熱後もシール性を保持できることが分かる。
【0088】
評価例4
実施例2〜4と比較例1のフィラー材について、以下の方法で曲げ強度(Mpa)と曲げひずみ量(mm)を測定した。結果を
図12に示す。
図12から、実施例2〜4のフィラー材は、渦巻形ガスケットを製造するための可撓性を有することが分かる。
【0089】
測定に用いたサンプルの大きさを、幅10mm、長さ20mm、厚さ0.4mmとした他は、評価例1(b)と同じ方法で曲げ強度を算出した。その際、曲げ強度が0.002MPaから最大強度になるまでにひずんだ量を曲げひずみ量とした。