(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5997456
(24)【登録日】2016年9月2日
(45)【発行日】2016年9月28日
(54)【発明の名称】無線給電装置
(51)【国際特許分類】
H02J 50/12 20160101AFI20160915BHJP
H02J 50/80 20160101ALI20160915BHJP
H04B 5/02 20060101ALI20160915BHJP
【FI】
H02J50/12
H02J50/80
H04B5/02
【請求項の数】4
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2012-33264(P2012-33264)
(22)【出願日】2012年2月17日
(65)【公開番号】特開2013-172490(P2013-172490A)
(43)【公開日】2013年9月2日
【審査請求日】2015年1月30日
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成23年度、独立行政法人科学技術振興機構、戦略的創造研究推進事業チーム型研究(CREST)の研究領域「ディペンダブルVLSIシステムの基盤技術」の研究課題「ディペンダブルワイヤレスソリッド・ステート・ドライブ(SSD)」委託研究、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願
(73)【特許権者】
【識別番号】899000079
【氏名又は名称】学校法人慶應義塾
(74)【代理人】
【識別番号】100110191
【弁理士】
【氏名又は名称】中村 和男
(72)【発明者】
【氏名】石黒 仁揮
(72)【発明者】
【氏名】黒田 忠広
(72)【発明者】
【氏名】田口 眞男
【審査官】
宮本 秀一
(56)【参考文献】
【文献】
特開2008−219509(JP,A)
【文献】
特開2009−302911(JP,A)
【文献】
特開2011−234571(JP,A)
【文献】
特開2010−148221(JP,A)
【文献】
特表2011−523844(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G06K17/00
H02J50/00−50/90
H04B5/00−5/06
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
所定の共振周波数で共振し受電側共振回路と誘導結合して無線給電する送電側共振回路と、
前記送電側共振回路を所定の周波数で励起するスイッチング回路と、
前記共振周波数、及び、該共振周波数を奇数で分周した分数調波周波数の中の複数の周波数の割合を給電する電力に応じた所定値にしつつ、周波数の切り替えが疑似ランダムとなるように前記スイッチング回路の励起を制御することによって給電する電力を制御する制御回路と
を備えることを特徴とする無線給電装置。
【請求項2】
所定の共振周波数で共振し受電側共振回路と誘導結合して無線給電する送電側共振回路と、
前記送電側共振回路を所定の周波数で励起するスイッチング回路と、
前記共振周波数、及び、該共振周波数を奇数で分周した分数調波周波数の中の複数の周波数の割合を給電する電力に応じた所定値にしつつ、周波数の切り替えが疑似ランダムとなるように前記スイッチング回路の励起を制御することによって給電する電力を制御する制御回路と、
前記共振周波数で共振し前記送電側共振回路と誘導結合して無線給電を受ける受電側共振回路と
を備えることを特徴とする無線給電装置。
【請求項3】
前記制御回路は、前記複数の周波数の割合を給電する電力に応じた所定値にしつつ、前記複数の周波数をΔΣ変調によって疑似ランダムに選択することを特徴とする請求項1又は2記載の無線給電装置。
【請求項4】
前記制御回路は、受電側回路から必要な給電電力に関する情報を受信して、該必要な給電電力に応じて前記複数の周波数を選択することを特徴とする請求項1乃至3いずれかに記載の無線給電装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えばメモリカードのように電源を備えない情報処理・蓄積装置に対して、無線で電力を伝送する無線給電装置に関し、特に、負荷変動に対する応答速度を高め、電力変換効率を高め、不要輻射を低減することができる無線給電装置に関する。
【背景技術】
【0002】
無線給電は、金属接点やコネクタなどを介さずに電力を伝送するので、防水性が求められる用途や端子の露出が好まれない応用、例えば非接触型ICカードやコードレス電話などに採用されている。2つの隣接するコイルの片方に電流を流すと磁束が発生し、その磁束がもう片方のコイルを貫通して起電力を発生する電磁誘導を用いた方式が一般的である。
【0003】
従来の無線給電では、送信電力を細かく調整する必要はなかった。非接触型ICカードの場合は、消費電力が極小(数10ミリワット程度)なので、送信側が一定の電力を送信し、受信側で不要な電力を捨てても、電力の無駄は小さいので問題にならなかった。あるいは、コードレス電話の場合は、受信側に内蔵された2次電池を充電しているので、充電に要する電力はゆっくりとしか変化しない。最近、例えば電気自動車が走りながら充電できるように、機器を使用しながら無線給電できる技術の提案がされているが、2次電池あるいはキャパシタがあれば、急激な消費電力の変化があっても2次電池から必要な電力を瞬時に供給できる。従って非接触充電ができれば十分であり、高速な負荷変動に対応できる無線給電の要求はなかった。
【0004】
ところが、大容量メモリカードのように、小型で1W以上の電力が必要な情報機器に給電する場合は、急激な消費電力の変化に応じて送信電力を調整することが望ましい。受信側で余分な電力を捨てると電力の無駄が大きすぎるのと、2次電池あるいは十分に大きなキャパシタを搭載できないからである。メモリカードの場合は、データの読み出し/書き込み動作に応じて、消費電力が0.1ミリ秒以内に1ケタ変化することもある。電力の無駄なくかつ受電側の電源電圧を一定に保つためには、機器の動作状態に追従して送信電力を高速に制御する必要がある。
【0005】
送信電力は、送信側のコイルを流れる電流を切り替えるスイッチング周波数を変調したり(FM変調)(例えば、非特許文献1参照。)、パルス幅を変調する(PW変調)(例えば、非特許文献2参照。)ことで制御できる。
【0006】
スイッチング毎に電力を伝送するので、スイッチング周波数を高くするほど送信電力を高速に制御できる。これまでは数100kHzがよく使われてきたが、例えば数MHz〜10数MHzを用いてスイッチング制御をしたい。
【0007】
しかし、使用可能な周波数は規制で制限されている。特に1MHz以上の高い周波数帯では、規制が厳しい。例えば国際電気通信連合(ITU:International Telecommunication Union)は、もっぱら無線通信以外の産業・科学・医療に高周波エネルギー源として利用するための周波数帯をISMバンドと称して規制している。例えばISMバンドの一つである13.553 〜 13.567MHzの範囲では、10m離れた地点で40dBuA/mの磁界強度の電磁波が放射されても構わないが、ISMバンド以外では磁界強度は-8dBuA/m以下でなければならない。この場合、ISMバンドとして許される周波数の範囲は中心周波数(13.56MHz)のわずか0.05%(±7kHz)なので、その狭い周波数範囲の中ではFM変調やPW変調を用いて送信電力を調整できる範囲が狭いという問題があった。
【0008】
そこで、本発明者らは、送信側コイルを2つ重ねて備え、両コイルが生成する磁束を足し合せて受信コイルに通す構成とし、それぞれの送信コイルに流す送信電流の位相を変えることで受信側に伝送される電力を調整する方式を提案している(非特許文献3参照。)。すなわち、2つの送信コイルが送出する磁束が同じ位相で重畳したときは最大の伝送電力となり、両磁束が逆の位相で重畳したときは最小の伝送電力となり、スイッチング周波数を変えずに位相調整で送信電力を調整できる。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0009】
【非特許文献1】Ping Si et al., “A Frequency Control Method for Regulating Wireless Power to Implantable Devices,” Trans. Biomedical Circuits and Systems, vol.2, pp.22-29, March 2008.
【非特許文献2】Wenzhen Fu et al., “Study on Frequency-tracking Wireless Power Transfer System by Resonant Coupling,” IPEMC, pp.2658-2663, May 2009.
【非特許文献3】K. Tomita, R. Shinoda, T. Kuroda, and H. Ishikuro, "1W 3.3V-to-16.3V Boosting Wireless Power Transfer Circuits with Vector Summing Power Controller," IEEE Asian solid state circuit conference (A-SSCC'11), Dig. Tech. Papers, pp.177-180, Nov. 2011.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
しかし、この方式では、伝送する電力を小さくする場合は、一方の送信コイルから他方の送信コイルに電力が流れてその一部が損失するために、電力効率を高くできないという問題があった。
本発明は、上記問題点に鑑み、電力変換効率が高く、不要輻射が少なく、給電する電力を高速に変えることができる無線給電装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
請求項1記載の本発明の無線給電装置は、所定の共振周波数で共振し受電側共振回路と誘導結合して無線給電する送電側共振回路と、前記送電側共振回路を所定の周波数で励起するスイッチング回路と、前記共振周波数、及び、該共振周波数を奇数で分周した分数調波周波数の中の複数の周波数
の割合を給電する電力に応じた所定値にしつつ、周波数の切り替えが疑似ランダムとなるように前記スイッチング回路の励起を制御することによって給電する電力を制御する制御回路とを備えることを特徴とする。
【0012】
請求項2記載の本発明の無線給電装置は、所定の共振周波数で共振し受電側共振回路と誘導結合して無線給電する送電側共振回路と、前記送電側共振回路を所定の周波数で励起するスイッチング回路と、前記共振周波数、及び、該共振周波数を奇数で分周した分数調波周波数の中の複数の周波数
の割合を給電する電力に応じた所定値にしつつ、周波数の切り替えが疑似ランダムとなるように前記スイッチング回路の励起を制御することによって給電する電力を制御する制御回路と、前記共振周波数で共振し前記送電側共振回路と誘導結合して無線給電を受ける受電側共振回路とを備えることを特徴とする。
【0014】
請求項3記載の本発明の無線給電装置は、前記制御回路は、前記複数の周波数
の割合を給電する電力に応じた所定値にしつつ、前記複数の周波数をΔΣ変調によって疑似ランダムに選択することを特徴とする。
【0015】
請求項4記載の本発明の無線給電装置は、前記制御回路は、受電側回路から必要な給電電力に関する情報を受信して、該必要な給電電力に応じて前記複数の周波数を選択することを特徴とする。
【発明の効果】
【0016】
本発明の無線給電装置よれば、電力変換効率が高く、不要輻射が少なく、給電する電力を高速に変えることができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【
図1】本発明の実施例1による無線給電装置の構成を示す図である。
【
図2】励起周波数と励起電圧との関係を示す図である。
【
図3】共振周波数で励起する場合に共振回路に印加される電圧波形と共振回路に流れる電流波形を示す図である。
【
図4】共振周波数の1/3の周波数でスイッチングした場合の電圧・電流波形を示す図(その1)である。
【
図5】共振周波数の1/3の周波数でスイッチングした場合の電圧・電流波形を示す図(その2)である。
【
図6】実施例1における伝送電力の制御の原理を表す図である。
【
図7】50%以外のデューティー比を有する分数調波の作り方を表す図である。
【
図8】共振周波数とその1/3分数調波をPWM変調によって切り替えた場合の電流周波数スペクトルを示す図である。
【
図9】本発明の実施例2による疑似ランダムPWM変調を用いた場合の電流周波数スペクトルを示す図である。
【
図10】本発明の実施例3によるΔΣ変調を用いた場合の電流周波数スペクトルを示す図である。
【
図11】本発明の実施例4による帯域通過型ΔΣ変調を用いた場合の電流周波数スペクトルを示す図である。
【
図12】本発明の実施例5による無線給電装置の構成を示す図である。
【
図13】本発明の実施例5による構成において実測した動作波形を示す図である。
【
図14】本発明の実施例6による無線給電装置の構成を示す図である。
【
図15】共振周波数と1/3分数調波の割合を変えた場合の伝送電力と効率を表すグラフである。
【
図16】伝送電力を変えた場合の不要輻射成分の変化をΔΣ変調の有り無しで比較した結果を示すグラフである。
【
図17】本発明の共振回路の構成の変化例を示す図である。
【
図18】本発明の共振回路の構成の他の変化例を示す図である。
【
図19】本発明の構成の更に他の変化例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、添付図面を参照しながら本発明を実施するための形態について詳細に説明する。
【実施例1】
【0019】
図1は、本発明の実施例1による無線給電装置の構成を示す図である。本実施例1の無線給電装置は、送電側において、制御回路10、スイッチング回路11、及びインダクタL1とコンデンサC1とからなる共振回路を備え、受電側において、インダクタL2とコンデンサC2とからなる共振回路、整流器12、コンデンサC3、及び出力負荷Zを備える。スイッチング回路11は、スイッチSW1及びスイッチSW2の直列回路からなり、交互にオン、オフすることによって、所定の周波数でL1、C1共振回路を励起する。
【0020】
送信側のインダクタL1と受信側のインダクタL2が誘導結合(相互インダクタンスM)することで、無線給電できる。
共振周波数foは、例えばIMSバンドから選ぶ。共振周波数foは
fo=1/2π√{(L−M)C} (1)
で決まる。
L=L1=L2=300nH
M=150nH
C=C1=C2=1.0nF
に選ぶと、共振周波数foは約13MHzになる。これに対して13.56MHzでスイッチング回路を制御すると、高い効率で電力を伝送できる。また、ノイズの発生を抑制できる。
【0021】
図2は、励起周波数と励起電圧との関係を示す図である。
図2(a)、(b)は、共振周波数foの電圧VDDの矩形波で共振回路を励起する場合を示す。この場合、矩形波のフーリエ展開から、この矩形波の基本波であるfoの成分の電圧振幅は2VDD/π、n次高調波成分の電圧振幅は2VDD/nπと表される(nは奇数)。
図2(c)、(d)は、共振周波数foを奇数で分周した分数調波(fo/n;ここではn=3)を用いて共振回路を励起する場合を示す。この場合、共振周波数foを用いた場合に比べて小さな電力を給電できる。すなわち、この矩形波の基本波であるfo/nの成分の電圧振幅は2VDD/π、共振周波数foに対応するn次高調波成分の電圧振幅は2VDD/nπと表される。共振周波数foに相当する成分のみが、有効に共振回路を通して受電側に供給され、それ以外の成分はインピーダンス不整合により電源側に回収される。したがって、n次分数調波を用いることで、共振周波数成分の電圧を1/nに減らすことができる。負荷インピーダンスが一定の場合は、送信電力は電圧の2乗に比例するため1/n
2に抑えることが可能となる。送信電力の調整のため周波数を固定にして電源電圧VDDをDC-DCコンバータ等で制御する方法も可能であるが、部品点数の増加につながり、実装面積、コストの増大、および効率の劣化を招く。本実施例1では、部品点数を極端に増やすことなく電力制御が可能である(周波数切り替え機能等は集積化可能である)。
【0022】
図3は、共振周波数で励起する場合に共振回路に印加される電圧波形と共振回路に流れる電流波形を示す図である。まず、スイッチSW2がオフしスイッチSW1がオンすると(φ1)、共振回路に電流I1が流れ始める。スイッチング周期の1/4の時点で電流I1は最大となり、共振作用により、その後電流は減少し始めスイッチング周期の1/2の時点で電流が0となる。つぎに、スイッチSW1がオフしスイッチSW2がオンすると(φ2)、電流が逆流を始めてインダクタL1→コンデンサC1→スイッチSW2の経路で流れる。このように共振周波数でスイッチングを行うとスイッチに電圧が掛かるタイミングで電流を0とすることができ、損失を抑えることができる(ゼロ電流スイッチング)。さらに、インダクタL1を流れる電流が不連続点のない正弦波状となり不要な輻射成分を抑えることができる。
【0023】
図4、
図5は、共振周波数の1/3の周波数でスイッチングした場合の電圧・電流波形を示す図である。SW2がオフしSW1がオンすると、前述と同様共振回路に電流I1が流れ始め、共振周期の1/2周期の間(φ1)電源から電流がインダクタL1方向に流れ、次の共振周期の1/2周期間(φ2)は電源側に電流が逆流し、さらに次の1/2周期間(φ3)は再度電源からインダクタL1方向へ流れる。その後、SW1がオフしSW2がオンすると(
図5)、共振周期の3/2周期の間(φ4,φ5,φ6)、電流はインダクタL1、コンデンサC1、SW2のループを周回する(共振周期の1/2周期毎に電流の方向が変わる)。共振周波数の1/3の周波数でスイッチングした場合でも、スイッチのオン・オフが切り替わるタイミングではスイッチに流れる電流が0となり効率のよい、かつ不要輻射の少ないスイッチングが可能となる。
【0024】
図6は、実施例1における伝送電力の制御の原理を表す図である。スイッチング周波数を共振周波数とその1/3分数調波に切り替えることで、送信電力を調整できる。単位時間当たりに共振周波数を使用する割合が大きいほど伝送電力は大きくなり、1/3分数調波を使用する割合が多くなるほど伝送電力が下がる。この割合を調整することで伝送電力を制御できる。
【0025】
(デューティー比を変えることによる任意の整数分周波の作り方)
図7は、50%以外のデューティー比を有する分数調波の作り方を表す図である。共振周期をToとするとスイッチSW1がオンの時間をTo/2×p、スイッチSW2がオンの時間をTo/2×qとする。ただし、p,qは1以上の奇数とする。この波形の周期はTo×(p+q)/2となり、共振周波数を(p+q)/2分周した信号となる(前述の3分周のケースはp=q=3の場合である)。この信号の基本波成分はfo/{(p+q)/2}の周波数において振幅2VDD/πを有し、共振周波数f
0における成分の電圧は2VDD/{π(p+q)/2}となる。例えば、p=1,q=3とすると、共振周波数の1/2分数調波となる。このような波形を用いることで、奇数分周波だけに限られずに、ゼロ電流スイッチングを可能とする任意の整数分周波を作ることができる。すなわち、共振周波数と奇数分周波を選択するデューティー比を変えることよって任意の整数分周波を作ることができることになる。その結果、基本波成分の周波数を決める自由度が広がり、使用できる周波数帯が限られている場合においても本発明が利用できる用途が広がる。
【0026】
(共振周波数及び2つ以上の分数調波を用いる電力制御)
さらに、共振周波数とその分数調波を2つ以上使用して電力制御を行うこともできる。使用する分数調波を増やすことで、電力制御の調整幅を拡大することができ、また、特定の周波数に不要輻射成分が発生しないようにすることが容易になる。
【0027】
(PWM変調で電力制御)
図8は、共振周波数とその1/3分数調波をPWM変調によって切り替えた場合の電流周波数スペクトルを示す図である。PWM変調器の入力は給電しようとする電力に相当し、それに応じて、共振周波数foを使う時間と1/3分数調波を使う時間の割合を変える。PWMの周期をTPWMとすると、インダクタL1を流れる電流は、共振周波数を中心として周波数間隔が1/TPWMで変調が掛かったものとなる。
【実施例2】
【0028】
(疑似ランダムPWM変換でスプリアス成分の抑制)
図9は、本発明の実施例2による疑似ランダムPWM変調を用いた場合の電流周波数スペクトルを示す図である。本実施例2の無線給電装置は、共振周波数とその1/3分数調波の割合を給電する電力に応じた所定値にしつつ、切り替えに疑似ランダムPWM変調を用いる。実施例1においては、インダクタL1を流れる電流は、共振周波数foを中心として周波数間隔が1/TPWMで変調が掛かったスペクトルとなり、特に共振周波数foの隣の変調成分のパワーが大きくなる。これに対して疑似ランダムPWMを用いるとスペクトルを拡散することができ、共振周波数近傍の変調成分を抑えることができる。
【実施例3】
【0029】
(ΔΣ変換でスプリアス成分の抑制)
図10は、本発明の実施例3によるΔΣ変調を用いた場合の電流周波数スペクトルを示す図である。本実施例3の無線給電装置は、共振周波数とその1/3分数調波の割合を給電する電力に応じた所定値にしつつ、切り替えを疑似ランダムにしてΔΣ変調を用いる。ΔΣ変調を用いることで制御信号の周期性をさらに取り除くことが可能となり、個々のスプリアス成分の強度を抑えることが可能となる。
【実施例4】
【0030】
(帯域通過型ΔΣ変換でスプリアス成分の抑制)
図11は、本発明の実施例4による帯域通過型ΔΣ変調を用いた場合の電流周波数スペクトルを示す図である。本実施例4の無線給電装置は、共振周波数とその1/3分数調波の割合を給電する電力に応じた所定値にしつつ、切り替えを疑似ランダムにして帯域通過型のΔΣ変調を用いる。帯域通過型ΔΣ変調の零点の位置を調整することで、特定の周波数帯域のスプリアスを選択的に抑制することが可能となる。たとえば、電力伝送とデータ伝送を異なる周波数帯で同時に行う場合に、データ伝送に用いる周波数帯のスプリアスを選択的に抑制するといった用途に用いることができる。
【実施例5】
【0031】
(受電側から送電側に送電量を指定する信号を送信する)
図12は、本発明の実施例5による無線給電装置の構成を示す図である。本実施例5の無線給電装置は、受電側の受電状況を送電側にフィードバックして電力制御を行う。受電側において、整流器12によって整流された電圧を直列抵抗R1、R2によって分圧してモニタし、比較器13によって基準電圧Vrefと比較し、結果を送電側にデータチャネルを用いて伝送する。送電側においてはフィードバックされた信号を元に、ループフィルタ14、ΔΣ変調器15及び制御回路10によって、共振周波数fo及びその分数調波で切り替えることで送信電力を調整する。二次電池や大容量のキャパシタを受電側に実装できない用途では、受電側の負荷(消費電力)よりも大きな電力を送電すると受電側に高い電圧が発生して、素子信頼性を損なう。また、受電側の負荷よりも伝送電力が小さいと、受電側の電圧が低下して回路が誤動作する。受電側にレギュレータを入れても電力を調製することはできるが、その場合には電力損失を伴い効率が低下してしまう。これに対して本発明によれば、常に必要かつ最小限の電力が実質的に損失なく供給されるため、素子信頼性の問題や誤動作を高効率に防ぐことができる。
【0032】
図13は、本発明の実施例5による構成において実測した動作波形を示す図である。図は出力電圧Vout=15Vで負荷抵抗Zを714Ω(315mW)から4.5kΩ(50mW)に急激に変化させたときの出力電圧応答を示す。1桁程度の負荷変動時においても、受電側の電圧変化は3%(=0.45V)以内に抑えられ、また、30usec程度で負荷変化前の電圧に回復している。
【実施例6】
【0033】
(送電側においてコマンドに基づいて送電量を指定する)
図14は、本発明の実施例6による無線給電装置の構成を示す図である。本実施例6の無線給電装置は、コマンドに基づいて送電量を指定する例を無線SDカードに給電する場合について示すものである。送電側であるSDカードソケット20は、SDコマンドデコーダ21、通信制御回路22、送受信器23、接続検出用タイマー24、コマンドvs電力ルックアップテーブル25、電力駆動回路26、磁界結合器41、及び方向性結合器42を備え、受電側であるSDカード30は、磁界結合器41、方向性結合器42、送受信器31、通信制御回路32、整流・電圧安定化回路33、及びNANDflashメモリ34を備える。SDコマンドデコーダ21は、SDインタフェースを介して受信するコマンドを認識し、通信制御回路22、送受信器23、方向性結合器42を介してSDカード30に送信する。同時に、コマンドvs電力ルックアップテーブル25は、コマンドに応じた電力を電力駆動回路26に対して指定する。一般にメモリの書込みと読出しとでは必要な電力が異なる。電力駆動回路26は、接続検出用タイマー24によってSDカード30の接続が検出されている状態で、指定された電力を磁界結合器41を介してSDカード30に送信する。SDカード30においては、磁界結合器41を介して電力を受信し、整流・電圧安定化回路33によって必要な電源電圧を得る。また、方向性結合器42、送受信器31、通信制御回路32を介してコマンドを受信してNANDflashメモリ34を制御する。
【0034】
図15は、共振周波数と1/3分数調波の割合を変えた場合の伝送電力と効率を表すグラフである。横軸は、「0」を1/3分数調波のみ、「1」を共振周波数のみとした、共振周波数と1/3分数調波の割合を表し、左縦軸は、効率(%)を表し、右縦軸は伝送電力(w)を表す。割合を変えることで伝送電力が1桁程度制御できることがわかる。また、その際の効率の変動は10%強に抑えられている。
【0035】
図16は、伝送電力を変えた場合の不要輻射成分の変化をΔΣ変調の有り無しで比較した結果を示すグラフである。横軸は、伝送電力(w)を表し、縦軸は、不要輻射(dBuA/m@10m)、すなわち、10m離れた地点における磁界強度のデシベル表記を表す。ΔΣ変調を利用しなくても、不要輻射は規制値(ITU規制値:ISMバンド以外での磁界強度が-8dBuA/m以下)を下回っているが、ΔΣ変調を利用して、制御信号をランダムにすることによって不要輻射を8dB程度抑制できた。
【0036】
図17は、本発明の共振回路の構成の変化例を示す図である。ここまでは、共振回路として
図17(a)に示す直列共振回路の例を示してきたが、受電側は
図17(b)に示す並列共振回路であってもよい。
【0037】
図18は、本発明の共振回路の構成の他の変化例を示す図である。
図18(b)、
図18(c)に示すように、送電側も並列共振回路を用いることができる。この場合には
図18(a)に示すように、スイッチング回路を例えば、インダクタL3とスイッチSW1の直列回路と、インダクタL4とスイッチSW2の直列回路との並列回路とする。
【0038】
図19は、本発明の構成の更に他の変化例を示す図である。本例は、スイッチSW1を1つとするものであって、更に、インダクタLc、Ls、コンデンサC1pを備える。本例は、いわゆるE級動作する回路である。
【0039】
なお、本発明は上記実施例に限定されるものではない。
要は、磁界結合の共振回路を共振周波数及びその奇数分周調波周波数の中の複数の周波数によって選択的に励起するものであればよい。
また、その複数の周波数の割合を所定値にして、ランダムに切り替えることによって、スプリアスの発生を防ぐことができる。
【符号の説明】
【0040】
41 磁界結合器
42 方向性結合器