特許第5997473号(P5997473)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 白石カルシウム株式会社の特許一覧

<>
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5997473
(24)【登録日】2016年9月2日
(45)【発行日】2016年9月28日
(54)【発明の名称】地温上昇抑制剤及び地温上昇抑制方法
(51)【国際特許分類】
   A01G 13/00 20060101AFI20160915BHJP
   A01G 7/00 20060101ALI20160915BHJP
【FI】
   A01G13/00 301Z
   A01G13/00 Z
   A01G7/00 602Z
【請求項の数】4
【全頁数】8
(21)【出願番号】特願2012-73655(P2012-73655)
(22)【出願日】2012年3月28日
(65)【公開番号】特開2013-201954(P2013-201954A)
(43)【公開日】2013年10月7日
【審査請求日】2015年2月12日
(73)【特許権者】
【識別番号】593119527
【氏名又は名称】白石カルシウム株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001232
【氏名又は名称】特許業務法人 宮▲崎▼・目次特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】神戸 賢
(72)【発明者】
【氏名】松川 誠一
【審査官】 田辺 義拓
(56)【参考文献】
【文献】 特開2008−035860(JP,A)
【文献】 特開昭50−151654(JP,A)
【文献】 特開2004−166627(JP,A)
【文献】 特開2001−037349(JP,A)
【文献】 特開2001−269069(JP,A)
【文献】 特開昭61−047788(JP,A)
【文献】 特開2010−130909(JP,A)
【文献】 白石工業株式会社,製品一覧 Power(ゴム・プラスチック用途),2006年 9月23日,URL,http://www.shiraishi.co.jp/kogyo/seihin/power/index_bw.html
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A01G 13/00
A01G 7/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
土壌表層の温度上昇を抑制するため土壌表層に散布される粉末状の地温上昇抑制剤であって、
炭酸カルシウム、炭酸マグネシウム、酸化マグネシウム、酸化亜鉛、酸化チタン及び焼成クレーから選ばれる少なくとも一種の白色無機粉末を95〜60質量%、α−デンプン、カルボキシメチルセルロース、及びグアガムから選ばれる少なくとも一種の糊材を5〜40質量%含むことを特徴とする地温上昇抑制剤。
【請求項2】
白色無機粉末の平均粒子径が30μm以下であることを特徴とする請求項1に記載の地温上昇抑制剤。
【請求項3】
土壌が、葉菜類を育成するための土壌であることを特徴とする請求項1または2に記載の地温上昇抑制剤。
【請求項4】
播種した土壌に、請求項1〜のいずれか一項に記載の地温上昇抑制剤を1平方メートル当たり50〜200g散布することを特徴とする地温上昇抑制方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、葉菜類等の夏季栽培において発生する高温障害(発芽抑制、生育抑制など)を軽減するため、土壌表層に散布する地温上昇抑制剤及び地温上昇抑制方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
ホウレンソウ、水菜、小松菜などの葉菜類は、夏季栽培においても降雨による病害の発生の懸念から、ビニルハウス内で栽培されている。しかし葉菜類は比較的冷涼な環境を好むため、夏季栽培において播種後の発芽率の低下、または高温による生育阻害による収量の減少が問題となっている。そのため、夏季の葉菜類の栽培では、冷涼な気候の高地での栽培や、寒冷紗や、ハウス屋根部に吹き付ける遮光剤などを使用し、地温の上昇を抑制している。
【0003】
しかしながら、近年の温暖化による気温の上昇や品種の特性上などから冷涼な高地においても高温障害が発生している。また、寒冷紗や拭きつけ式の遮光剤については、価格が高いことと日光が必要なときに寒冷紗または遮光剤の除去作業が必要となり、労力がかかるなどの問題となっている。
【0004】
非特許文献1及び非特許文献2においては、地温の上昇を抑制するため、播種した後、パーライトや卵殻粉砕物を土壌表面に散布することが開示されている。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】平成8年研究成果情報(果樹・野菜−花き・茶業・蚕糸 関東東海農業),81−82(1997)「夏まきホウレンソウ栽培におけるマルチ資材散布による生産安定(農林水産省農業研究センターS)」富田真佐男
【非特許文献2】野菜園芸技術,10−14平成8年(1996)3月号「夏どりホウレン草の最近の動向」富田真佐男
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
卵殻粉砕物の散布の効果は、1平方メートル当たり500g〜1kgの散布で認められるが、土壌のpHの急激な上昇が危惧されるとともに、卵殻粉砕物のコストが高いという問題がある。
【0007】
また、パーライトの散布においても、散布量が多く、高いコストになるという問題がある。さらに、パーライトは軽量であるため、散布時及び散布後において、風等により飛ばされ、土壌表層に固定できないという問題がある。
【0008】
本発明の目的は、安全で経済的に土壌表層の温度上昇を抑制することにより、夏季の葉菜類の栽培等における高温障害を軽減することができる地温上昇抑制剤及び地温上昇抑制方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の地温上昇抑制剤は、土壌表層の温度上昇を抑制するため土壌表層に散布される粉末状の地温上昇抑制剤であって、白色無機粉末を95〜60質量%、糊材を5〜40質量%含むことを特徴としている。
【0010】
本発明において、白色無機粉末の平均粒子径は、30μm以下であることが好ましい。
【0011】
白色無機粉末としては、炭酸カルシウム、炭酸マグネシウム、酸化マグネシウム、酸化亜鉛、酸化チタン及び焼成クレーから選ばれる少なくとも一種が挙げられる。
【0012】
本発明において用いる糊材としては、α−デンプン、カルボキシメチルセルロール、ゼラチン、アルギン酸塩、及びグアガムから選ばれる少なくとも一種が挙げられる。
【0013】
本発明の地温上昇抑制剤を散布する土壌としては、例えば、葉菜類を育成するための土壌が挙げられる。
【0014】
本発明の地温上昇抑制方法は、播種した土壌に、本発明の地温上昇抑制剤を散布する方法である。地温上昇抑制剤の散布量としては、1平方メートル当たり50〜200gの範囲内が挙げられる。
【発明の効果】
【0015】
本発明の地温上昇抑制剤を用いることにより、安全で経済的に土壌の地温上昇を抑制することができる。従って、例えば、夏季栽培における葉菜類の発芽率の低下及び生育抑制などの高温障害を軽減することができる。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明についてさらに詳細に説明する。
【0017】
<白色無機粉末>
本発明において用いる白色無機粉末としては、炭酸カルシウム、炭酸マグネシウム、酸化マグネシウム、酸化亜鉛、酸化チタン及び焼成クレーから選ばれる少なくとも一種などが挙げられる。これらの中でも特に炭酸カルシウムが好ましく用いられる。
【0018】
炭酸カルシウムとしては、重質炭酸カルシウム、沈降性炭酸カルシウム等を用いることができる。
【0019】
白色無機粉末の平均粒子径は、30μm以下であることが好ましく、15μm以下であることがさらに好ましく、1〜5μmの範囲内であることがさらに好ましい。白色無機粉末の平均粒子径が小さ過ぎると、嵩が高くなり、取り扱いにくい場合がある。白色無機粉末の平均粒子径が大き過ぎると、本発明の効果が十分に得られない場合がある。
【0020】
<糊材>
本発明において用いる糊材としては、α−デンプン、カルボキシメチルセルロール、ゼラチン、アルギン酸塩、及びグアガムから選ばれる少なくとも一種などが挙げられる。
【0021】
α−デンプンは、有機JASとして認定されているので、特に好ましい糊材として用いられる。
【0022】
<地温上昇抑制剤>
本発明の地温上昇抑制剤においては、白色無機粉末を95〜60質量%、糊材を5〜40質量%含む、さらに好ましくは、白色無機粉末を90〜70質量%、糊材を10〜30質量%含む。
【0023】
糊材の含有量が少な過ぎると、白色無機粉末を土壌表層に固着させる固着性が低下し、効果の持続性が問題となる場合がある。また、糊材の含有量が多過ぎると、本発明の効果に限界が生じ、多量に散布しなければならないなど、コストが高くなり過ぎる場合がある。また、糊剤が土壌表面を覆い植物の根の呼吸を阻害し生育不良になる場合がある。
【0024】
本発明における地温上昇抑制剤の形態は、粉末状であるため、輸送性及び貯蔵性において優れている。
【0025】
<地温上昇抑制方法>
本発明の地温上昇抑制方法は、上記本発明の地温上昇抑制剤を、播種した土壌に散布することを特徴としている。散布する方法としては、土壌表面に対し、本発明の地温上昇抑制剤を直接散布することが好ましい。
【0026】
地温上昇抑制剤の散布量は特に限定されるものではないが、土壌1平方メートル当たり50〜200gの範囲内であることが好ましい。散布量が少な過ぎると、本発明の効果が十分に得られない場合がある。散布量が多過ぎると、散布量に比例した効果が得られず、効果に限界が生じる場合がある。また、白色無機粉末の種類によっては、土壌のpHを過剰に上昇させ、作物に好ましくない場合がある。
【0027】
本発明の地温上昇抑制剤を、播種した土壌に散布することにより、地温の上昇を抑制して発芽率を高めることができる。特に、夏季栽培における葉菜類の播種後に土壌表面に散布することにより、地温の上昇を抑制して、発芽率の低下及び生育抑制を軽減することができる。
【0028】
本発明においては、白色無機粉末に糊材を配合することにより、潅水時等における白色無機粉末の土壌表面からの流出を防ぎ、地温抑制の効果を長期間持続させることができる。
【実施例】
【0029】
以下、本発明を具体的な実施例により説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0030】
(実施例1〜6)
〔地温上昇抑制剤の調製〕
白色無機粉末として、炭酸カルシウム(重質炭酸カルシウム、平均粒子径1.8μm)、炭酸マグネシウム(平均粒子径2.5μm)、酸化チタン(平均粒子径2.0μm)、または焼成クレイ(平均2.8μm)を用い、糊材としてα−デンプン、カルボキシメチルセルロース、またはグアガムを用い、表1に示す白色無機粉末と糊材の組み合わせ及び配合量で白色無機粉末と糊材とを混合し、地温上昇抑制剤を調製した。表1に示すように、白色無機粉末100質量部に対して、糊材を15質量部用いた。従って、白色無機粉末約87質量%、糊材約13質量%の配合割合となった。
【0031】
比較例1として、糊材を混合せずに、白色無機粉末としての炭酸カルシウムのみのものを調製した。
【0032】
【表1】
【0033】
〔地温上昇抑制剤の散布〕
上記のように調製した実施例1〜6の地温上昇抑制剤及び比較例1の炭酸カルシウムを、ホウレンソウを播種し、潅水した後のハウス内の圃場に、背負い式粉末散布器にて散布した。実施例1〜6の地温上昇抑制剤については、1平方メートル当たり115gとなるように散布した。比較例1の炭酸カルシウム粉末については、100gとなるように散布した。
【0034】
散布後の管理は、毎日1回1平方メートル当たり1リットルとなるように、自動潅水装置により潅水を実施した。
【0035】
〔土壌白色度の測定〕
実施例1〜6の地温上昇抑制剤の散布した区、比較例1の粉末を散布した区、及び地温上昇抑制剤及び炭酸カルシウムを散布していない比較例2の区において、土壌表面の白色度を、ハンディ型分光色差計を用いて毎日1回測定した。散布直後、散布1週間後、及び散布2週間後の土壌表面の白色度の測定結果を表2に示す。なお、表2に示す値は、比較例2の値を1.0とした場合の相対値である。
【0036】
【表2】
【0037】
表2に示すように、本発明に従う実施例1〜6の地温上昇抑制剤を散布した区においては、土壌表面の白色度が高くなっており、散布1週間後及び散布2週間後においても高い白色度が得られている。
【0038】
これに対し、糊材を配合していない炭酸カルシウムを散布した比較例1においては、散布直後において高い白色度が得られているが、散布1週間後、散布2週間後になるにつれて、白色度が低下していることがわかる。
【0039】
また、散布していない比較例2の区においては、低い白色度の値が維持されている。
【0040】
〔地温の測定〕
上記と同様に各散布区について、土壌表面から5cmの深さにおける地温を、経時的に測定し、1日における平均の地温を求めた。
【0041】
表3に、散布直後、散布1週間後、及び散布2週間後における平均地温を示す。
【0042】
【表3】
【0043】
表3に示すように、本発明に従う実施例1〜6の地温上昇抑制剤を散布した区においては、本発明の地温上昇抑制剤または炭酸カルシウムを散布していない比較例2に比べ、5〜6℃程度地温が低くなっており、地温上昇抑制の効果が認められている。
【0044】
地温上昇抑制の効果は、経時により低減するが、散布から2週間後においても、4℃程度の地温上昇抑制効果が認められている。
【0045】
糊材を含有していない炭酸カルシウムを散布した比較例1の区においては、散布直後において地温上昇抑制の効果が得られているが、散布1週間後、散布2週間後となるにつれて、地温上昇抑制の効果が著しく低減していることがわかる。このような効果は、表2に示す白色度の結果と相関性があるものと考えられる。
【0046】
〔発芽率、株数、株重、及び収量の測定〕
実施例1〜6の区、比較例1の区及び比較例2の区のそれぞれにおいて、播種したホウレンソウの発芽率、株数、株重、及び収量を測定し、表4にそれらの結果を示した。なお、発芽率は、(発芽数/播種数)×100の値である。また、表4における( )内の数字は、それぞれにおける比較例2の値を100とした場合の相対値である。
【0047】
【表4】
【0048】
表4に示す結果から明らかなように、発芽率、株数、株重、及び収量において、本発明に従う実施例1〜6の地温上昇抑制剤を散布した区は、散布しなかった比較例2の区、糊材を含まない炭酸カルシウム粉末を散布した比較例1の区に比べ、いずれにおいても、良好な結果が得られた。これは、本発明の地温上昇抑制剤の散布により、地温の上昇を抑制することができ、発芽抑制、生育抑制などの高温障害の発生が抑えられたためであると考えられる。
【0049】
(実施例7〜11及び比較例3〜5)
ここでは、白色無機粉末と糊材の配合割合による影響を検討した。
【0050】
白色無機粉末としての炭酸カルシウム100質量部に対し、糊材としてのα−デンプンを0質量部(比較例3)、3質量部(比較例4)、6質量部(実施例7)、10質量部(実施例8)、15質量部(実施例9)、40質量部(実施例10)、60質量部(実施例11)、及び80質量部(比較例5)となるように配合して混合粉末を調製した。
【0051】
これらの混合粉末を、上記と同様にして、ホウレンソウを播種した圃場に、1平方メートル当たりの白色無機粉末(炭酸カルシウム)の量が100gとなるように散布した。
【0052】
上記と同様にして、散布直後、散布1週間後、及び散布2週間後の地温を測定し、測定結果を表5に、ホウレンソウの発芽率、株数、株重及び収量を測定し、測定結果を表6に示した。表6における( )内の数字は、それぞれにおける比較例3の値を100とした場合の相対値である。
【0053】
【表5】
【0054】
表5に示す結果から明らかなように、糊材を増加することにより地温を抑制する効果が増大することがわかる。しかしながら、糊材を40質量%より多く配合した比較例5は、実施例11とほぼ同程度の地温上昇抑制効果であり、糊材を40質量%以上多く配合しても、それに比例した地温上昇抑制効果が得られなくなることがわかる。
【0055】
【表6】
【0056】
表6に示す発芽率、株数、株重及び収量の結果から、比較例5のように糊材を40質量%より多く配合することにより、収量が低下することがわかる。この原因としては糊材の多量の投与により、土壌表面に糊材の膜が生じ、根の呼吸が阻害されたため生育が阻害された結果と考えられる。