特許第5997477号(P5997477)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5997477
(24)【登録日】2016年9月2日
(45)【発行日】2016年9月28日
(54)【発明の名称】表面保護用シート
(51)【国際特許分類】
   H01L 21/304 20060101AFI20160915BHJP
   C09J 7/02 20060101ALI20160915BHJP
【FI】
   H01L21/304 622J
   C09J7/02 Z
【請求項の数】6
【全頁数】13
(21)【出願番号】特願2012-81144(P2012-81144)
(22)【出願日】2012年3月30日
(65)【公開番号】特開2013-211438(P2013-211438A)
(43)【公開日】2013年10月10日
【審査請求日】2015年3月30日
(73)【特許権者】
【識別番号】000102980
【氏名又は名称】リンテック株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001494
【氏名又は名称】前田・鈴木国際特許業務法人
(72)【発明者】
【氏名】奥地 茂人
(72)【発明者】
【氏名】田村 和幸
【審査官】 ▲高▼須 甲斐
(56)【参考文献】
【文献】 特開2010−027686(JP,A)
【文献】 特開2003−119434(JP,A)
【文献】 特開平01−268133(JP,A)
【文献】 特開平01−268131(JP,A)
【文献】 特開2005−123382(JP,A)
【文献】 特開2009−188010(JP,A)
【文献】 特開2009−141265(JP,A)
【文献】 特開2008−311513(JP,A)
【文献】 特開2008−311514(JP,A)
【文献】 特開2010−027685(JP,A)
【文献】 特開2005−109433(JP,A)
【文献】 特開2004−288725(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01L 21/304
C09J 7/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
半導体ウエハの裏面研削を行う際に用いる表面保護用シートであって、
基材シートの片面に、貼付する半導体ウエハの外径よりも小径の非粘着部と、該非粘着部を囲繞する粘着部とを有し、
該粘着部の23℃における粘着力が500mN以上である表面保護用シート。
【請求項2】
前記粘着部の幅が0.1〜30mmである請求項1に記載の表面保護用シート。
【請求項3】
前記粘着部の40℃における粘着力が200mN以上である請求項1または2に記載の表面保護用シート。
【請求項4】
前記粘着部の80℃における粘着力が50mN以上である請求項3に記載の表面保護用シート。
【請求項5】
前記粘着部が、単層の粘着剤層からなる請求項1〜4の何れかに記載の表面保護用シート。
【請求項6】
前記粘着部の厚さが1〜40μmである請求項5に記載の表面保護用シート。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、表面保護用シートに関し、さらに詳しくは表面に回路が形成された半導体ウエハの裏面研削の際に、回路面を保護するために用いられる表面保護用シートに関する。
【背景技術】
【0002】
半導体装置の高密度実装化に伴い、半導体チップと基板の接合にはハンダ等からなるボール状、柱状ないし円錐台状の電極(以下、「バンプ」)が用いられることが多い。このようなバンプが回路面に形成されたウエハの裏面を研削すると、バンプの段差による圧力差が裏面に直接影響し、表面保護に用いる粘着シートのクッション性では抑えきれずに研削工程中にバンプやウエハが破損したり、ディンプル(裏面に生成する窪み)が生成し、完成したデバイスの信頼性を損なう要因となっていた。このような場合、従来ではウエハの破損を起こさないように仕上げの厚を比較的厚めにするか、バンプを配列する密度が疎となるような設計で回避していた。
【0003】
しかし、近年においてはバンプを高密度に配列することが要請されるデバイスが多くなっている。このようなデバイスに対して通常の表面保護用の粘着シートAを用いると、図6に示したように、バンプが邪魔をしてウエハの端部に粘着剤層が貼付できなくなることがある。この結果、裏面研削時に熱や切削屑の除去を目的として噴霧された洗浄水の一部が、回路面側に浸入し、回路面を汚損してしまうことがあった。
【0004】
このため、粘着剤層の厚みを厚くし、さらに粘着剤の流動性を高めることにより、粘着剤層とウエハの端部を密着させるようにして対処している。しかし、粘着剤が流動化すると、バンプの根本部分に粘着剤が回り込み易くなり、粘着シートの剥離操作によってバンプの根本部分に付着した粘着剤が層内破壊を起こし、その一部が回路面に残着することがある。これはエネルギー線硬化型粘着剤を用いた粘着シートを用いた場合であっても起こりうる問題であった。回路面に残着した粘着剤は溶剤洗浄等により除去しなければ、デバイスの異物として残留し完成したデバイスの信頼性を損なう。
【0005】
特許文献1には、適宜処理により粘着力の制御可能な保護テープを用い、半導体ウエハの周辺部に対してのみ保護テープを強粘着状態で貼り付けることを特徴とする半導体ウエハへの保護テープ貼り付け方法が開示されている。この方法は、要すれば紫外線硬化型粘着テープを保護テープとして用い、半導体ウエハの貼付に先立ち、ウエハの素子形成領域に当接する粘着剤層を硬化させておき、ウエハの周辺部でのみウエハの固定を行うものである。
【0006】
しかし、特許文献1の方法では、硬化された粘着剤層と未硬化の粘着剤層とは同一平面上にある。このため、バンプの高さが高くなると、バンプが邪魔をしてウエハの端部に粘着剤層が貼付できなくなる。したがって、図6に示したような、洗浄水が回路面側に浸入するという問題は、なお充分には解決されない。特にチップ収量を高めるために、ウエハの端部にまで回路を形成すると、粘着シートを貼付する糊代が狭くなり、粘着シートの貼付が困難になったり、粘着シートが剥離しやすくなる。
【0007】
特許文献2には、高バンプウエハに対する対策として、硬質基材の外周部に環状の接着部を設けた保護部材が提案されている。環状の接着部は、バンプが形成されていないウエハの端部に対向し、ウエハ端部に密着して、回路面を保護する。このような保護部材においては、外周接着部の厚みは、ウエハのバンプ高さに応じて設定され、従来は100〜200μm程度であった。ここで、単層粘着剤により環状の外周接着部を形成すると、ハンドリング性が悪いため、従来は両面粘着テープを環状に型抜きして外周接着部を形成していた。両面粘着テープでは、芯材により剛性が保たれるため、ハンドリング性が良好である。
【0008】
ところが、近年、機器の小型化はバンプにまで及び、バンプ自体も小さく、低くなる傾向があり、その高さは20μm、あるいはそれ以下になることがある。バンプの高さに応じて外周接着部の高さは設定されるので、バンプ高さが20μm程度の場合には、外周接着部の高さは20〜30μm程度となる。両面粘着テープを用いて、この高さの外周粘着部を形成すると芯材を除く実質的な粘着剤層の厚みは5μm程度になる。すなわち、両面粘着テープでは、厚みが10〜20μm程度の芯材が使用され、その両面に粘着剤の薄層が形成されてなる。両面粘着テープの全厚を20μm程度とすると、粘着剤層の厚みは5μm程度が限界となり、これ以上の厚みとすることは困難になる。
【0009】
粘着剤層の厚みが薄くなると、粘着力は低下する。このため、外周粘着部を通常の両面粘着テープで形成した場合には、バンプ高さが低いウエハに対しては十分な保護機能が果たせなくなる。このような粘着力不足による表面保護機能の低下は、前記した特許文献1に記載の保護テープでも同様に起こる問題である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特開平5−62950号公報
【特許文献2】特開2001−196404号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明は、上記のような従来技術に鑑みてなされたものであり、基材シートの片面に、貼付する半導体ウエハの外径よりも小径の非粘着部と、該非粘着部を囲繞する粘着部(以下、「外周粘着部」と呼ぶことがある)とを有する表面保護用シートにおいて、外周粘着部の密着不足による保護機能の低下を防止することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記課題を解決する本発明の要旨は、以下の通りである。
(1)半導体ウエハの裏面研削を行う際に用いる表面保護用シートであって、
基材シートの片面に、貼付する半導体ウエハの外径よりも小径の非粘着部と、該非粘着部を囲繞する粘着部とを有し、
該粘着部の23℃における粘着力が500mN以上である表面保護用シート。
【0013】
(2)前記粘着部の幅が0.1〜30mmである(1)に記載の表面保護用シート。
【0014】
(3)前記粘着部の40℃における粘着力が200mN以上である(1)または(2)に記載の表面保護用シート。
【0015】
(4)前記粘着部の80℃における粘着力が50mN以上である(3)に記載の表面保護用シート。
【0016】
(5)前記粘着部が、単層の粘着剤層からなる(1)〜(4)の何れかに記載の表面保護用シート。
【0017】
(6)前記粘着部の厚さが1〜40μmである(5)に記載の表面保護用シート。
【発明の効果】
【0018】
本発明の表面保護用シートによれば、外周粘着部の密着不足による保護機能の低下が起こり難く、特に外周粘着部の厚みが薄い場合であっても、十分な保護機能が達成できる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
図1】本発明に係る表面保護用シートの斜視図を示す。
図2図1のA−A線断面図を示す。
図3】本発明の他の態様に係る表面保護用シートの斜視図を示す。
図4図3のB−B線断面図を示す。
図5】本発明に係る表面保護用シートの使用態様の一例を示す。
図6】従来の表面保護用シートの使用態様の一例を示す。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、本発明について、図面を参照しながらさらに具体的に説明する。本発明に係る表面保護用シート10は、半導体ウエハの裏面研削を行う際に用いられる。表面保護用シート10の一態様について斜視図を図1に示し、図1の断面図を図2に示す。図示したように、本発明の表面保護用シート10は、基材シート1の片面に、貼付する半導体ウエハの外径よりも小径の非粘着部3と、該非粘着部3を囲繞する粘着部2とを有する。
【0021】
なお、本発明の他の態様においては、図3に斜視図、図4に断面図を示したように、非粘着部3の表面と粘着部2の表面とが連続し同一平面上にある形態であってもよい。
【0022】
[基材シート1]
本発明の表面保護用シート10に使用される基材シート1は、樹脂シートであれば、特に限定されず各種の樹脂シートが使用可能である。このような樹脂シートとしては、例えば、低密度ポリエチレン、直鎖低密度ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリブテン等のポリオレフィン、エチレン酢酸ビニル共重合体、エチレン(メタ)アクリル酸共重合体、エチレン(メタ)アクリル酸エステル共重合体等のエチレン共重合体、ポリエチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート等のポリエステル、ポリ塩化ビニル、アクリルゴム、ポリアミド、ウレタン、ポリイミド等の樹脂フィルムが挙げられる。基材シート1はこれらの単層であってもよいし、積層体からなってもよい。また、架橋等の処理を施したフィルムであってもよい。
【0023】
このような基材シート1としては、熱可塑性樹脂を押出成形によりシート化したものが使用されてもよいし、硬化性樹脂を所定手段により製膜、硬化してフィルム化したものが使われてもよい。
【0024】
硬化性樹脂としては、たとえば、エネルギー線硬化性のウレタンアクリレート系オリゴマーを主剤とし、比較的嵩高い基を有するアクリレートモノマーを希釈剤とし、必要に応じて光重合開始剤を配合した樹脂組成物が用いられる。
【0025】
基材シート1の厚さは、好ましくは30〜1000μm、さらに好ましくは50〜500μm、特に好ましくは100〜300μmである。また、後述する粘着部2が設けられる基材シート表面には、粘着部2との密着性を向上するために、コロナ処理を施したり、プライマー層を設けてもよい。
【0026】
また、基材シート1は、図5に示したように、貼付される半導体ウエハ4の外径とほぼ等しい大きさに予め打ち抜かれていてもよく、また表面保護用シート10と半導体ウエハ4とを接着後、半導体ウエハ4の外径に合わせて基材シート1を切断してもよい。
【0027】
[粘着部2]
基材シート1の片面には、貼付する半導体ウエハの外径よりも小径の非粘着部3と、該非粘着部3を囲繞する粘着部2が形成されてなる。
【0028】
粘着部2の23℃における粘着力が500mN以上、好ましくは520〜3000mN、さらに好ましくは800〜2500mNである。粘着部2の粘着力が上記範囲にあることで、粘着部の幅に関係なく、粘着部2の密着不足による保護機能の低下が起こり難い。また、一般に粘着剤層の厚みが薄くなると、粘着力が低下し、密着不足により保護機能が低下するが、本発明によれば、粘着部の厚みが薄い場合であっても、十分な保護機能が達成できる。なお、粘着部2をエネルギー線硬化型粘着剤により構成する場合には、上記の粘着力はエネルギー線硬化前の粘着力を意味する。
【0029】
ここで、粘着部2の粘着力は、被着体をシリコンウエハの鏡面とした以外は、JIS Z0237に準じて、万能型引張試験機(株式会社オリエンテック製、TENSILON/UTM−4−100)を用いて、剥離速度300mm/分、剥離角度180°にて粘着シートの粘着力で測定される値である。
【0030】
粘着部2の幅は、粘着力に影響を及ぼし、粘着部2の幅が広いほど粘着力は高くなる。本発明において粘着部2の幅は、好ましくは0.1〜30mm、さらに好ましくは1〜20mm、特に好ましくは2〜10mm程度である。粘着部2の幅が狭すぎる場合には、表面保護用シート10の粘着力が不十分になることがある。一方、粘着部2の幅が広すぎると、ウエハの回路形成領域にまで粘着部2が及び、粘着剤により回路が汚染されることがある。
【0031】
さらに、粘着部の40℃における粘着力は、好ましくは200mN以上、さらに好ましくは250〜1000mN、特に好ましくは300〜800mNである。また、粘着部の80℃における粘着力は、好ましくは50mN以上、さらに好ましくは55〜300mN、特に好ましくは70〜200mNである。加熱環境下における粘着部2の粘着力が上記範囲にあると、半導体ウエハの裏面加工時や裏面研削時にウエハの温度が上昇しても、十分な粘着力でウエハ外周部に表面保護用シートが密着するので、保護機能が低下することがない。一方、粘着部の粘着力が加熱環境下で極端に低下する場合には、ウエハの裏面加工時に粘着力が低下し、表面保護用シートが脱落してしまうことがある。
【0032】
さらに、粘着部は、両面粘着テープにより構成されていてもよく、また単層の粘着剤層により構成されていてもよい。両面粘着シートは、芯材フィルムの両面に粘着剤層が形成されてなる。芯材フィルムの厚みは様々だが、最低でも10μm以上であることが一般的である。このため、粘着部2が薄い場合に粘着部2を両面粘着テープで構成すると、粘着剤層の厚みが薄くなり、十分な粘着力が得られないことがある。したがって、粘着部の厚みが薄い場合には、粘着部は単層の粘着剤層(単層粘着フィルム)で形成することが好ましい。なお、粘着部を両面粘着テープで構成する場合、上記粘着力は、ウエハに貼付される側の粘着剤層の粘着力をいう。
【0033】
粘着部2を単層の粘着剤層により形成する場合、粘着部の厚さは、好ましくは1〜40μm、さらに好ましくは2〜30μm、特に好ましくは3〜10μm程度である。粘着部の厚みが薄すぎる場合には、十分な粘着力が得られず、保護機能が低下することがある。一方、粘着部の厚みが厚くなる場合には、両面粘着テープにより粘着部を形成することができ、単層粘着フィルムを使用する必要がなくなる。また、粘着部2を両面粘着テープで形成する場合には、粘着部の厚さは、好ましくは5〜40μm、さらに好ましくは10〜30μm程度である。
【0034】
なお、粘着部2の高さは0(ゼロ)であってもよい。この場合には、図3に斜視図、図4に断面図を示したように、非粘着部3の表面と粘着部2の表面とが連続し同一平面上にある形態となる。このような表面保護用シートは、基材シート1の全面に後述するようなエネルギー線硬化型粘着剤層を形成し、ウエハの回路面と接触する内周部のみをエネルギー線硬化し、非粘着部とし、外周部にのみ粘着力を保持するようにして得られる。
【0035】
粘着部2は、上記の粘着特性を満足する限り、その材質は特に限定はされず、ゴム系、アクリル系、シリコーン系、ウレタン系、ポリビニルエーテル系などの粘着剤から形成されていてもよい。また、エネルギー線の照射により硬化して再剥離性となるエネルギー線硬化型粘着剤により構成されていてもよい。
【0036】
エネルギー線硬化型粘着剤は、ガンマ線、電子線、紫外線、可視光等のエネルギー線の照射により硬化する種々のエネルギー線硬化型粘着剤により形成され得るが、特に紫外線硬化型粘着剤を用いることが好ましい。
【0037】
紫外線硬化型粘着剤としては、例えばアクリル系共重合体に、多官能紫外線硬化樹脂を混合した粘着剤が挙げられる。多官能紫外線硬化樹脂としては、(メタ)アクリロイル基を複数有する低分子化合物が挙げられる。また、側鎖に光重合性の官能基を有するアクリル系共重合体を含む粘着剤も用いることができる。光重合性の官能基としては(メタ)アクリロイル基が挙げられる。
【0038】
本発明で粘着部の粘着剤としてアクリル系共重合体を使用する場合、アクリル系共重合体を製造するためのモノマー及び重合方法については、本発明の目的を損なわない範囲であれば、特に限定されるものではないが、例えば、以下のモノマー及び重合方法により製造することができる。なお、以下に記載する(メタ)アクリル酸とは、アクリル酸及びメタクリル酸の総称であり、アクリル酸またはメタクリル酸の誘導体についても、同様である。
【0039】
アクリル系共重合体に使用するモノマーとしては、炭素数が4〜14のアルキル基を有する(メタ)アクリル酸アルキルエステルを好ましく使用できる。炭素数が4〜14の(メタ)アクリル酸アルキルエステルは、ホモポリマーとした際のTgが低いため、粘着剤層を形成した際に粘着力向上に貢献する。炭素数4〜14のアルキル基を有する(メタ)アクリル酸アルキルエステルとしては、例えば、n−ブチル(メタ)アクリレート、イソブチル(メタ)アクリレート、t−ブチル(メタ)アクリレート、n−オクチル(メタ)アクリレート、イソオクチル(メタ)アクリレート、n−ノニル(メタ)アクリレート、イソノニル(メタ)アクリレート、シクロヘキシル(メタ)アクリレート、2−エチルヘキシルアクリレート、ドデシル(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシエチルアクリレート、4−ヒドロキシブチルアクリレート、2−ヒドロキプロピルアクリレート等があげられる。これらモノマーは1種を使用しても2種以上を併用してもよい。
【0040】
なかでもn−ブチル(メタ)アクリレート、イソブチル(メタ)アクリレート、t−ブチル(メタ)アクリレート、イソオクチル(メタ)アクリレート、n−オクチル(メタ)アクリレート、2−エチルヘキシルアクリレートが好ましく、n−ブチルアクリレートや2−エチルヘキシルアクリレートが特に好ましい。
【0041】
炭素数が4〜14のアルキル基を有する(メタ)アクリル酸アルキルエステルの含有量は、アクリル系共重合体を構成するモノマー成分中の50質量%以上が好適である。当該範囲内とすることで、好適な粘着力が得られ易くなる。
【0042】
上記モノマーに加え、さらに高極性モノマーを併用することで、得られる粘着剤層の凝集力を向上させられるため高極性モノマーを好ましく使用できる。高極性モノマーとしては、カルボキシル基含有ビニルモノマー、窒素含有ビニルモノマー等が挙げられる。カルボキシル基含有ビニルモノマーとしては、(メタ)アクリル酸、イタコン酸、フマル酸、マレイン酸等のα,β−不飽和カルボン酸が挙げられる。窒素含有ビニルモノマーとしては、N−ビニルピロリドン、N−ビニルカプロラクタム、アクリロイルモルホリン、N,N−ジメチルアクリルアミド、ジメチルアミノアクリレート等が挙げられる。その他の高極性モノマーとしては、無水マレイン酸、アクリロニトリル、等が挙げられる。本発明においては、高極性モノマーとして、カルボキシル基含有ビニルモノマーと、窒素含有ビニルモノマーとを併用することが好ましい。
【0043】
本発明に使用するアクリル系共重合体の重量平均分子量は10〜200万であることが好ましく、50〜150万であることが更に好ましい。重量平均分子量を当該範囲とすることで、被着体への接着力と剥離シートから剥離する際の剥離力を好適な範囲に調整しやすい。
【0044】
本発明で使用するアクリル系共重合体は、溶液重合法、隗状重合法、懸濁重合法、乳化重合法等の公知の重合方法で共重合させることにより得ることができる。重合の開始方法も、過酸化ベンゾイルや過酸化ラウロイル等の過酸化物系、アゾビスイソブチルニトリル等のアゾ系の熱重合開始剤を用いた熱による開始方法や、アセトフェノン系、ベンゾインエーテル系、ベンジルケタール系、アシルフォスフィンオキシド系、ベンゾイン系、ベンゾフェノン系の光重合開始剤を用いた紫外線照射による開始方法や、電子線照射による方法を任意に選択できる。
【0045】
また、粘着剤層の凝集力を向上させるため、粘着剤層を架橋剤により架橋させても良い。架橋する方法としては、アクリル系共重合体の製造時に多官能(メタ)アクリレートを添加するか、該樹脂を製造した後にイソシアネート系架橋剤、エポキシ系架橋剤、アジリジン系架橋剤等の、アクリル系共重合体の成分と架橋反応をする架橋剤を適量添加することにより実施できる。
【0046】
架橋剤としては、例えば、イソシアネート系架橋剤、エポキシ系架橋剤、キレート系架橋剤等があげられる。特に粘着剤層を設ける場合は、イソシアネート系架橋剤またはエポキシ系架橋剤を使用するのが好ましい。
【0047】
[非粘着部3]
非粘着部3は、上記の粘着部2により囲繞されてなり、貼付される半導体ウエハの外径よりもやや小径となるように設計される。非粘着部3は、まったく粘着性を示さない表面状態であってもよいが、1000mN/25mm以下、好ましくは100mN/25mm以下の適度な再剥離性を示す粘着力であれば、問題なく使用できる。このような非粘着部3は、具体的には前記基材シート1の表面(図1図2)であってもよく、またエネルギー線硬化型粘着剤層の硬化物により形成されていてもよい(図3図4)。
【0048】
(表面保護用シート10の作成)
表面保護用シート10は、その使用時において、図5に示すように、貼付されるウエハ4のバンプ5が設けられた回路形成部分には、非粘着部3が対面し、回路が形成されていないウエハ4の外郭部分は粘着部2が対面するように構成されている。以下、表面保護用シート10の作成例として、粘着部2が単層の粘着剤層により形成される場合(図1図2に示す構成)を例にとり説明する。
【0049】
本発明の表面保護用シートにおける第1の態様として、粘着部2は、単層の粘着剤(粘着フィルム)からなり、粘着フィルムを基材シート1に積層する前に、打ち抜き等の手段で略円形に切断除去して、粘着部が形成されない開口部を形成する。このとき、粘着フィルムを2枚の剥離フィルムで挟み、片方の剥離フィルムと粘着フィルムを切り込み、他方の剥離フィルムは完全に打ち抜かないようにすれば、残留した剥離フィルムが粘着フィルムのキャリアとなり、テンションにより開口部が変形することがなく、以降の加工もroll−to−rollで連続して行えるので好ましい。続いて剥離フィルムを剥がし、型抜きされた粘着フィルムを基材シート1に積層し、表面保護用シート10が得られる。なお、粘着フィルムを基材シート1上に貼付した後に、粘着フィルムのみを略円形に型抜きして開口部を形成してもよい。剥離フィルムと粘着フィルムとの積層体の粘着フィルム側を基材シートに積層し、剥離フィルムと粘着フィルムとを型抜きして開口部を形成してもよい。前記した開口部あるいは型抜きされた部分には粘着剤層は存在しないため、非粘着部3となる。
【0050】
この段階の構成で本発明の表面保護用シート10として使用してもよい。この構成で使用する場合は、表面保護用シート10の非粘着部3をウエハの回路面の位置に合わせつつ、粘着部2をウエハの外郭へ貼着する。そして、ウエハよりはみ出している表面保護用シートをウエハ4の外周に沿って切断分離して裏面研削に供する。
【0051】
本発明の表面保護用シートの他の態様の製造方法としては、第1の態様で作成した段階の構成に続き、非粘着部3と略同心円状に、かつ貼付するウエハの外径に合わせて粘着部2の外周を打ち抜く構成である。すなわち、予め基材シート1および粘着部2をウエハ4の外径に合わせて切断除去を行っておき、剥離フィルム上に仮着しておく。予めウエハと同形状にカットすることにより、ウエハに表面保護用シートを貼付する際、カッターで表面保護用シートを切除する工程を行わずに済む。このようにすれば、カッター刃によりウエハの端部に傷を付け、その後の加工でウエハの損傷を誘引するようなことがなくなる。
【0052】
また、図3図4に示す表面保護用シートの製造方法は、基材シート1上にエネルギー線硬化型粘着剤層を形成し、エネルギー線硬化型粘着剤層を、ウエハの回路形成領域の大きさ、形状に合わせてエネルギー線照射して、回路形成領域に対応した非粘着部3を形成して得られる。
【0053】
(ウエハの裏面研削)
次に本発明の表面保護用シートをウエハの裏面研削時の表面保護用シートとして使用した場合を説明する。
【0054】
ウエハの裏面研削に際しては、図5に示すように表面保護用シート10の粘着部2が、ウエハ4のバンプ5に対面しないように精度よく位置合わせをした後、粘着部2とウエハ4の外周端部とを密着させ、半導体ウエハを研削するための表面保護形態とする。
【0055】
なお、基材シート1、粘着部2が予めウエハと同形状にカットされていない場合には、ウエハに表面保護用シート10を貼付した後に、カッターで表面保護用シートの不要部(ウエハからはみ出した部分)を切除する。
【0056】
ウエハは、回路面にバンプを有しないウエハであってもよいが、本発明の表面保護用シートは、回路面上にバンプを有するウエハの回路面の保護に特に好ましく用いられる。バンプの高さは、特に限定はされないが、粘着部2を単層粘着剤層で構成する場合には、バンプの高さは5〜50μmが好ましく、さらに10〜30μm、程度が好ましい。また、最も外に配置されるバンプの位置はウエハの外周から0.7〜30mm内側であることが好ましい。このようなバンプが外周部近くまで形成されたウエハは、従来の表面保護用粘着シートでの保護が困難であったが、本発明においてより好適に用いられる。
【0057】
上記のような表面保護形態としたウエハ4は、ウエハ研削装置のウエハ固定台(図示せず)に表面保護用シート10側を戴置し、砥石6などを用いた通常の研削手法で研削を行う。
【0058】
ウエハ4の外郭部には粘着部2が全周を囲って確実に接着しているため、研削加工時の洗浄水等の浸入は起こらずウエハの回路面を汚染することがない。また、ウエハ回路面に対してはバンプの頂点が適度な圧力で基材シートに接しているため、研削加工時に表面保護用シートの剥がれや位置ずれ等が起きにくくなる。
【0059】
その後、粘着部をエネルギー線硬化型粘着剤で形成した場合には粘着部にエネルギー線を照射し、表面保護用シート10からウエハ4を分離する。ウエハ4は、図示したように、リング状の粘着部2において表面保護用シート10に固定されている。本発明の表面保護用シート10によれば、ウエハ表面から表面保護用シート10を剥離する際に、表面保護用シート由来の残渣物によるウエハ表面の汚染が極めて少なく、不良品の発生を抑制でき、また得られる半導体チップの品質も安定する。
【実施例】
【0060】
以下、本発明を実施例により説明するが、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。本発明において採用した測定、評価方法は次の通りである。
【0061】
(粘着力)
後述する紫外線硬化型粘着剤A、BまたはCを形成する粘着剤組成物を、ロールナイフコーターを用いて、乾燥後の塗布厚が実施例に記載した所定の厚みとなるように、剥離シートとしてシリコーン剥離処理したポリエチレンテレフタレートフィルム(厚さ38μm)の剥離処理面に塗布し、100℃および120℃で2分間乾燥して粘着シートを得た。粘着力の安定化のために23℃50%RHの雰囲気下に7日放置した後、厚さ50μmのPETフィルムを裏打ちして、下記方法で粘着力を評価した。
【0062】
被着体をシリコンウエハの鏡面とし、粘着シートを実施例に記載した所定の幅にした以外は、JIS Z0237に準じて、万能型引張試験機(株式会社オリエンテック製、TENSILON/UTM−4−100)を用いて、23℃、40℃および80℃の環境下に1時間放置した後、剥離速度300mm/分、剥離角度180°にて粘着シートの粘着力を測定した。
【0063】
(裏面研削適性)
粘着シートを、半導体ウエハの裏面研削時の表面保護用シートとして用いた際の裏面研削適性を以下のように評価した。
【0064】
テープラミネーター(リンテック株式会社製、RAD−3510)を用いて、シリコンダミーウエハ(8インチ、厚さ:725μm、表面状態:最大の段差が20μmとなる回路パターンを有する)に表面保護用シートを貼付した。その後、ウエハ裏面研削装置(株式会社ディスコ製、DGP−8760)を用いてウエハ厚を400μmまで研削した。研削中にウエハと表面保護用シートが剥離しなかった場合を「良好とし、ウエハと表面保護用シートが剥離した場合を「不良」と評価した。
【0065】
(実施例1)
シリコーン処理された厚み75μmのポリエチレンテレフタレート(PET)剥離フィルム上に紫外線線硬化型粘着剤Aを乾燥膜厚が5μmとなるように塗布乾燥し、粘着剤層を形成した。さらに、粘着剤層面にシリコーン処理された厚み38μmのPET剥離フィルムと貼り合わせた。続いて、得られた積層シートの前記厚み38μmのPET剥離フィルムと粘着剤層を直径298mmの円形に切り込み、この円形部分を厚み75μmのPET剥離フィルムから除去して開口部を設けた。積層シートの前記厚み38μmのPET剥離フィルムを剥がし、厚み160μmの基材シート(ポリウレタンアクリレートフィルム)と貼り合わせてPET剥離フィルム、粘着剤、基材シートからなるシートを得た。
【0066】
切り込んだ前記シートと同心円になるように、基材シートから粘着剤層までの層を、直径300mmの円形に打ち抜き、直径300mmの円形の基材シート上に、幅1mmのリング状の貼着部を有する表面保護用シートを作成した。
【0067】
(実施例2)
芯材として厚み12μmのポリエチレンテレフタレート(PET)フィルムを用い、その片面にアクリル系粘着剤を乾燥膜厚が5μmとなるように塗布乾燥し、シリコーン処理された厚み38μmのPET剥離フィルムと貼り合わせた。芯材のもう一方の面に紫外線硬化型粘着剤Bを乾燥膜厚が13μmとなるように塗布乾燥しシリコーン処理された厚み75μmのPET剥離フィルムと貼り合わせて、PETフィルムを芯材とした両面粘着シートを得た。続いて、得られた両面粘着シートを厚み75μmのPET剥離フィルムを残し、厚み38μmのPET剥離フィルム側から直径260mmの円形に切り込み、この円形部分を厚み75μmのPET剥離フィルムから除去して開口部を設けた。両面粘着シートの前記厚み38μmのPETフィルムを剥がし、アクリル系粘着剤面と厚み160μmの基材シート(ポリウレタンアクリレートフィルム)と貼り合わせてPET剥離フィルム、両面粘着シート、基材シートからなる積層シートを得た。
【0068】
切り込んだ前記シートと同心円になるように、基材シートから両面粘着シート層までの層を、直径300mmの円形に打ち抜き、直径300mmの円形の基材シート上に、幅20mmの環状の貼着部を有する表面保護用シートを作成した。
【0069】
(実施例3)
シリコーン処理された厚み75μmのPET剥離フィルム上に紫外線硬化型粘着剤Cを乾燥膜厚が20μmとなるように塗布乾燥し、シリコーン処理された厚み38μmのPET剥離フィルムと貼り合わせた。続いて、得られたシートの前記厚み38μmのPET剥離フィルムと粘着剤層を直径290mmの円形に切り込み、この円形部分を厚み75μmのPET剥離フィルムから除去して開口部を設けた。前記厚み38μmのPETフィルムを剥がし、厚み160μmの基材シート(ポリウレタンアクリレートフィルム)と貼り合わせてPET剥離フィルム、粘着剤、基材シートからなるシートを得た。
【0070】
切り込んだ前記シートと同心円になるように、基材シートから粘着剤層までの層を、直径300mmの円形に打ち抜き、直径300mmの円形の基材シート上に、幅5mmのリング状の貼着部を有する表面保護用シートを作成した。
【0071】
(比較例1)
シリコーン処理された厚み75μmのPET剥離フィルム上に紫外線硬化型粘着剤Aを乾燥膜厚が4μmとなるように塗布乾燥し、シリコーン処理された厚み38μmのPET剥離フィルムと貼り合わせた。続いて、得られたシートの前記厚み38μmのPET剥離フィルムと粘着剤層を直径298mmの円形に切り込み、この円形部分を厚み75μmのPET剥離フィルムから除去して開口部を設けた。前記厚み38μmのPETフィルムを剥がし、厚み160μmの基材シート(ポリウレタンアクリレートフィルム)と貼り合わせてPET剥離フィルム、粘着剤、基材シートからなるシートを得た。
【0072】
切り込んだ前記シートと同心円になるように、基材シートから粘着剤層までの層を、直径300mmの円形に打ち抜き、直径300mmの円形の基材シート上に、幅1mmのリング状の貼着部を有する表面保護用シートを作成した。
【0073】
(比較例2)
シリコーン処理された厚み75μmのPET剥離フィルム上に紫外線硬化型粘着剤Cを乾燥膜厚が5μmとなるように塗布乾燥し、シリコーン処理された厚み38μmのPET剥離フィルムと貼り合わせた。続いて、得られたシートの前記厚み38μmのPET剥離フィルムと粘着剤層を直径290mmの円形に切り込み、この円形部分を厚み75μmのPET剥離フィルムから除去して開口部を設けた。前記厚み38μmのPETフィルムを剥がし、厚み160μmの基材シート(ポリウレタンアクリレートフィルム)と貼り合わせてPET剥離フィルム、粘着剤、基材シートからなるシートを得た。
【0074】
切り込んだ前記シートと同心円になるように、基材シートから粘着剤層までの層を、直径300mmの円形に打ち抜き、直径300mmの円形の基材シート上に、幅5mmのリング状の貼着部を有する表面保護用シートを作成した。
【0075】
【表1】
【符号の説明】
【0076】
1…基材シート
2…粘着部
3…非粘着部
4…半導体ウエハ
5…バンプ
6…砥石
10…表面保護用シート
A…従来の表面保護用シート
図1
図2
図3
図4
図5
図6