特許第5997479号(P5997479)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 日澱化學株式会社の特許一覧 ▶ 地方独立行政法人 大阪市立工業研究所の特許一覧

特許5997479酵素法による糖脂肪酸エステルの合成方法
<>
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5997479
(24)【登録日】2016年9月2日
(45)【発行日】2016年9月28日
(54)【発明の名称】酵素法による糖脂肪酸エステルの合成方法
(51)【国際特許分類】
   C12P 19/12 20060101AFI20160915BHJP
   C12P 7/62 20060101ALI20160915BHJP
   C12P 19/02 20060101ALI20160915BHJP
   C12P 19/04 20060101ALI20160915BHJP
   C07H 15/04 20060101ALI20160915BHJP
   C08B 37/00 20060101ALI20160915BHJP
   C08B 37/16 20060101ALI20160915BHJP
   C08B 31/16 20060101ALI20160915BHJP
【FI】
   C12P19/12
   C12P7/62
   C12P19/02
   C12P19/04
   C07H15/04 D
   C08B37/00 J
   C08B37/16
   C08B31/16
【請求項の数】13
【全頁数】29
(21)【出願番号】特願2012-81307(P2012-81307)
(22)【出願日】2012年3月30日
(65)【公開番号】特開2013-208087(P2013-208087A)
(43)【公開日】2013年10月10日
【審査請求日】2015年1月20日
(73)【特許権者】
【識別番号】000227272
【氏名又は名称】日澱化學株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】508114454
【氏名又は名称】地方独立行政法人 大阪市立工業研究所
(74)【代理人】
【識別番号】100081422
【弁理士】
【氏名又は名称】田中 光雄
(74)【代理人】
【識別番号】100084146
【弁理士】
【氏名又は名称】山崎 宏
(74)【代理人】
【識別番号】100156122
【弁理士】
【氏名又は名称】佐藤 剛
(72)【発明者】
【氏名】宮崎 義史
(72)【発明者】
【氏名】福田 元
(72)【発明者】
【氏名】中島 徹
(72)【発明者】
【氏名】永尾 寿浩
(72)【発明者】
【氏名】中野 博文
(72)【発明者】
【氏名】靜間 基博
(72)【発明者】
【氏名】渡辺 嘉
【審査官】 福間 信子
(56)【参考文献】
【文献】 特開平05−112592(JP,A)
【文献】 特開昭54−133484(JP,A)
【文献】 特開平08−217783(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12P 1/00−41/00
CAplus/MEDLINE/BIOSIS(STN)
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
糖脂肪酸エステルの合成方法であって、
(1)糖類の少なくとも1つの水酸基をヒドロキシ終端型(ポリ)オキシアルキレン基で修飾するために、エーテル化剤でエーテル化するエーテル化工程;および
(2)前記ヒドロキシ終端型(ポリ)オキシアルキレン基の少なくとも一つの水酸基と脂肪酸のカルボキシル基とをリパーゼを用いる脱水縮合によりエステル化する酵素エステル化反応工程
を含む、合成方法。
【請求項2】
前記糖類の少なくとも1つの水酸基が糖類の6位の水酸基である、請求項1に記載の合成方法。
【請求項3】
前記糖類が、マルトース、スクロース、ラクトース、セロビオース、トレハロース、キシロビオース、メリビオースからなる群より選択される二糖;グルコースが3〜10個結合したグルコオリゴ糖、フラクトースが3〜10個結合したフラクトオリゴ糖、もしくは単糖が1種類もしくは複数種類混合して結合したオリゴ糖;またはシクロデキストリン、シクロフラクタン、環状四糖からなる群より選択される環状糖もしくはこれらの環状糖の一分子にさらに上記オリゴ糖の一分子が結合した分岐環状糖である、請求項1に記載の合成方法。
【請求項4】
前記エーテル化剤が、非置換もしくは1〜4個の炭素数1〜3のアルキル基で置換されたエチレンオキシドまたはエチレンクロルヒドリンである、請求項1に記載の合成方法。
【請求項5】
前記エーテル化剤が、エチレンオキシド、プロピレンオキシド、ブチレンオキシド(1,2−ブチレンオキシド、2,3−ブチレンオキシド、イソブチレンオキシド)、ペンチレンオキシド(2−プロピルエチレンオキシド、1−メチル−2−エチルエチレンオキシド、1−メチル−2,2−ジメチル−エチレンオキシド、2−エチル−2−メチル−エチレンオキシド、2−イソプロピルエチレンオキシド)およびエチレンクロルヒドリンからなる群より選択される、請求項1に記載の合成方法。
【請求項6】
前記脂肪酸が、酪酸、ヘキサン酸、オクタン酸(カプリル酸)、ノナン酸、デカン酸、ドデカン酸、テトラデカン酸、ペンタデカン酸、ヘキサデカン酸(パルミチン酸)、オクタデカン酸(ステアリン酸)、イコサン酸、ドコサン酸、2-エチルヘキサン酸、3,5,5-トリメチルへキサン酸、イソステアリン酸、9-テトラデセン酸、2-ヘキサデセン酸、9-ヘキサデセン酸、9-オクタデセン酸(オレイン酸)、9,12-オクタデカンジエン酸(リノール酸)、6,9,12-オクタデカントリエン酸(α-リノレン酸)、γ-リノレン酸、アラキドン酸、ジホモ-γ-リノレン酸、エイコサペンタエン酸、ドコサペンタエン酸、ドコサヘキサエン酸からなる群より選択される炭素数4〜22の脂肪族カルボン酸;または、ベンゼンカルボン酸(安息香酸)、3-フェニル-2-プロペン酸(ケイ皮酸)、ヒドロキシケイ皮酸、4-メトキシケイ皮酸、3,4-ジヒドロキシケイ皮酸(カフェ酸)、α-シアノ-4-ヒドロキシケイ皮酸、シナピン酸からなる群より選択される芳香族カルボン酸;またはそれらの組合せである、請求項1に記載の方法。
【請求項7】
前記リパーゼが、動物の膵臓由来リパーゼ;小麦胚芽由来リパーゼ;またはカンジダ・アンタクティカ (Candida antarctica)由来のフラクションAリパーゼ(CALA)もしくはフラクションBリパーゼ(CALB)、カンジダ・ルゴザ (Candida rugosa)由来、ジオトリカム・カンジダム (Geotrichum candidum)由来、シュードモナス属 (Pseudomonas sp.)由来、シュードモナス・アエルギノザ (Pseudomonas aeruginosa)由来、ブルクホルデリア・セパシア (Burkholderia cepacia)由来、アルカリゲネス属 (Alcaligenes sp.)由来、セラチア・マルセッセンス (Serratia marcescens)由来、シュードモナス・フルオレッセンス (Pseudomonas fluorescens)由来、リゾムコール・ミーヘイ (Rhizomucor miehei)由来、リゾプス・オリザエ (Rhizopus oryzae)由来、サーモミセス・ラヌギノザ (Thermomyces lanuginosa)由来、フザリウム・ヘテロスポラム (Fusarium heterosporum)由来、ペニシリウム・カマンベルティ (Penicillium camembertii)由来、アスペルギラス・ニガー (Aspergillus niger)由来、もしくはそれらと近縁の微生物由来のリパーゼからなる群より選択される、請求項1に記載の方法。
【請求項8】
糖類の少なくとも1つの水酸基を修飾するヒドロキシ終端型(ポリ)オキシアルキレン基の水酸基と、脂肪酸のカルボキシル基との、1つまたは2つのエステル結合を有する糖脂肪酸モノエステルまたは糖脂肪酸ジエステルを含む組成物であって
該糖脂肪酸エステルが、一般式(1):
【化1】
{式中、Sは、糖類の少なくとも1つの水酸基を除いた残基を示し、mは1〜pの整数を示し、かつ、pは前記糖類が有する水酸基の最大個数を示し、m個のXは、それぞれ独立して、一般式(2):
【化2】
(式中、R、R、RおよびRは、独立して、Hまたは炭素数1〜3のアルキル基を示し、nは1〜6の整数を示す。)で表されるヒドロキシ終端型(ポリ)オキシアルキレン基;または一般式(3):
【化3】
[Rは炭素数4〜22の脂肪酸からカルボキシル基を除いた残基を示し、Lは、存在しないか、または、独立して、一般式(4):
【化4】
(式中、R、R、RおよびRは、独立して、Hまたは炭素数1〜3のアルキル基を示し、nは1〜6の整数を示す。)で表される(ポリ)オキシアルキレン基のリンカーを示す。]で表される基である。ただし、少なくとも1つのXは、一般式(3)で表される基であり、かつ、少なくとも1つのLは前記(ポリ)オキシアルキレン基のリンカーである。}で表される組成物。
【請求項9】
前記糖類の少なくとも1つの水酸基が糖類の6位の水酸基である、請求項8に記載の組成物。
【請求項10】
前記糖類が、マルトース、スクロース、ラクトース、セロビオース、トレハロース、キシロビオース、メリビオースからなる群より選択される二糖;グルコースが3〜10個結合したグルコオリゴ糖、フラクトースが3〜10個結合したフラクトオリゴ糖、もしくは単糖が1種類もしくは複数種類混合して結合したオリゴ糖;またはシクロデキストリン、シクロフラクタン、環状四糖からなる群より選択される環状糖もしくはこれらの環状糖の一分子にさらに上記オリゴ糖の一分子が結合した分岐環状糖である、請求項8または9に記載の組成物。
【請求項11】
前記脂肪酸が、酪酸、ヘキサン酸、オクタン酸(カプリル酸)、ノナン酸、デカン酸、ドデカン酸、テトラデカン酸、ペンタデカン酸、ヘキサデカン酸(パルミチン酸)、オクタデカン酸(ステアリン酸)、イコサン酸、ドコサン酸、2-エチルヘキサン酸、3,5,5-トリメチルへキサン酸、イソステアリン酸、9-テトラデセン酸、2-ヘキサデセン酸、9-ヘキサデセン酸、9-オクタデセン酸(オレイン酸)、9,12-オクタデカンジエン酸(リノール酸)、6,9,12-オクタデカントリエン酸(α-リノレン酸)、γ-リノレン酸、アラキドン酸、ジホモ-γ-リノレン酸、エイコサペンタエン酸、ドコサペンタエン酸、ドコサヘキサエン酸からなる群より選択される炭素数4〜22の脂肪族カルボン酸;または、ベンゼンカルボン酸(安息香酸)、3-フェニル-2-プロペン酸(ケイ皮酸)、ヒドロキシケイ皮酸、4-メトキシケイ皮酸、3,4-ジヒドロキシケイ皮酸(カフェ酸)、α-シアノ-4-ヒドロキシケイ皮酸、シナピン酸からなる群より選択される芳香族カルボン酸;またはそれらの組合せである、請求項8〜10のいずれかに記載の組成物。
【請求項12】
前記糖脂肪酸エステルのジエステル体/モノエステル体のモル比率が0〜0.5である請求項8〜11のいずれかに記載の組成物。
【請求項13】
前記糖脂肪酸エステルのジエステル体/モノエステル体のモル比率が0〜0.2である請求項8〜12のいずれかに記載の組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、様々な分野で有用な糖脂肪酸エステルの製造方法に関する。より詳しくは、この発明は、反応効率が高く、かつ、脂肪酸の劣化の少ない温和な条件下で糖脂肪酸エステルを製造する方法に関し、さらに、糖脂肪酸のモノエステル、ジエステル、トリエステル等のエステルのうち、特定のエステルの収率を制御する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ショ糖脂肪酸モノエステルは乳化剤としての機能を保持し、食品添加物、界面活性剤、化成品などに幅広く利用されている。二糖の代表であるショ糖の脂肪酸モノエステルは、脂肪酸の低級アルコールエステルとショ糖のエステル交換反応(特許第3002922号明細書など)による化学法が知られている。また、脂肪酸クロライドや脂肪酸無水物によるトレハロースのアシル化(特公昭62-50478号公報)も知られている。これらの化学法によれば、モノエステル体以外にもジエステル体やトリエステル体も多く生成し、エステルの混合物が得られる。また、これらの化学法は、ピリジンなどの悪臭を持つ溶媒を用いる、高温・高圧下あるいは高温・減圧下で反応させることによるエネルギーの必要性、副反応を起こしやすい、生成物が変色しやすい、などの問題点がある。
【0003】
酵素(リパーゼ)を用いて、単糖、二糖、およびシクロデキストリンを脂肪酸でエステル化する方法は多数報告されている。特公平3-35912号公報、J. Am. Oil Chem. Soc. 61, 1761-1765 (1984)、特公平7-94483号公報、および特開平7-115983号公報では、単糖、二糖、およびシクロデキストリンを水に溶解し、カンジダ・シリンドラセア (Candida cylindracea)(現在の名称:カンジダ・ルゴザ (Candida rugosa))由来リパーゼなどを添加して常圧または減圧下で反応させると、糖脂肪酸モノエステルが合成できるが、モノエステルと同時にジエステルやトリエステルも多く生成して、エステルの混合物が得られる。
【0004】
特開平3-76593号公報では、グルコースをtert-ブタノール、固定化カンジダ・アンタクティカ (Candida antarctica)リパーゼ、モレキュラーシーブ存在下で反応させると、純度良く糖脂肪酸モノエステルが合成できる。しかし、この方法はグルコースやフラクトースなどの単糖には適用できるが、ショ糖などの二糖へ適用しようとした場合、糖の溶媒への溶解度が低いため、その反応効率が低い(本出願の実施例参照)。この反応性低下傾向は、ラウリン酸などの中鎖脂肪酸に比べ、ステアリン酸やオレイン酸などの長鎖脂肪酸でより顕著になると言われている。これらの反応の効率を上げるためには、長鎖脂肪酸の溶解度を上げるピリジン等を溶媒として用いなくてはならないが、ピリジンは悪臭がある等の欠点がある(特開平3-168091号公報)。
【0005】
糖脂肪酸モノエステルを合成するために種々の改良法が報告されている。特開平5-176783号公報、および特開平9-271387号公報などでは、還元末端をメチル化したグルコースを基質とし、リパーゼを用いて常圧または減圧下で反応させることにより効率よく脂肪酸モノエステルが合成できるが、この方法は二糖には適用されていない、還元末端のメチル基を外す際に脂肪酸エステルも外れてしまう、などの欠点がある。ショ糖をケタール化する(特開平8-217783号公報)、ショ糖をアセタール化する(特開平8-266296号公報および特開2010-233566号公報)、などの糖の誘導化により糖脂肪酸モノエステルが合成されているが、糖のケタール・アセタール化という誘導化処理、生成物の分子内ケタール・アセタールを外す処理という煩雑な操作が必要となる。
【0006】
J. Ferment. Bioeng. 78, 70-73 (1994)では、マルトースなどの二糖にグリセリンまたはトリメチルプロパンを結合させ、カンジダ・シリンドラセア (Candida cylindracea)由来リパーゼを用いてオレイン酸などの脂肪酸をエステル結合させている。この方法によれば、モノエステル以外にもジエステルやトリエステルが多く生成し、エステルの混合物が得られる。
【0007】
特開昭61-191610号公報では、モノエステルが90%以上含まれるショ糖脂肪酸エステルを含有し、胃液中で速やかに溶解する錠剤が報告されている。また、特開2000-256386号公報では、ショ糖と脂肪酸とのモノエステルおよびジエステル、トリエステルのようなショ糖脂肪酸エステル混合物から簡便で収率よく、ショ糖脂肪酸モノエステルを精製する方法が報告されている。このように、特定のエステルを高い収率で得ることの有用性も指摘されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特許第3002922号明細書
【特許文献2】特公昭62-50478号公報
【特許文献3】特公平3-35912号公報
【特許文献4】特公平7-94483号公報
【特許文献5】特開平7-115983号公報
【特許文献6】特開平3-76593号公報
【特許文献7】特開平3-168091号公報
【特許文献8】特開平5-176783号公報
【特許文献9】特開平9-271387号公報
【特許文献10】特開平8-217783号公報
【特許文献11】特開平8-266296号公報
【特許文献12】特開2010-233566号公報
【特許文献13】特開昭61-191610号公報
【特許文献14】特開2000-256386号公報
【非特許文献】
【0009】
【非特許文献1】J. Am. Oil Chem. Soc. 61, 1761-1765 (1984)
【非特許文献2】J. Ferment. Bioeng. 78, 70-73 (1994)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
糖脂肪酸エステルは、様々な分野で有用であるため、効率よく製造することが望まれる。したがって、反応効率が高く、かつ、脂肪酸の劣化の少ない温和な条件下で糖脂肪酸エステルを製造する方法が必要とされる。
【0011】
また、糖脂肪酸エステルの適用分野に応じて、例えば、純度の高い糖脂肪酸モノエステルが要求されることがある。上記の方法では、モノエステル、ジエスエル、トリエステル等の複数種類のエステルの混合物を得ることができるが、いずれかのエステルを効率よく合成することができなかった。
【0012】
そこで、グルコースまたはフルクトースなどの単糖類が複数結合した二糖または三糖以上のオリゴ糖混合物またはシクロデキストリンなどの環状糖に脂肪酸が結合した糖脂肪酸エステルを合成するとき、糖に結合している脂肪酸の数を制御する、つまりモノエステルまたはジエステルまたはトリエステル等のいずれかの純度を制御することが可能な糖脂肪酸エステルの合成方法の確立が求められている。
【0013】
本発明は、上記事情に鑑みてなされたものであって、二糖または三糖以上のオリゴ糖混合物またはシクロデキストリンなどの環状糖の水酸基を予めヒドロキシ終端型(ポリ)オキシアルキレン基で修飾し、ヒドロキシ終端型(ポリ)オキシアルキレン基修飾糖類と脂肪酸とを混合し、温和な条件下で反応可能な酵素(リパーゼ)を反応させ、例えば、糖脂肪酸モノエステルが選択的に製造可能な方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
上記の目的を達成するために、本発明は以下の構成を採用した。
【0015】
二糖(マルトース、スクロース、およびラクトースなど)または三糖以上のオリゴ糖混合物またはシクロデキストリンなどの環状糖を、温和な温度下でプロピレンオキシドおよびブチレンオキシドのようなアルキレンオキシドやエチレンクロルヒドリンのようなアルキレンクロルヒドロン等のエーテル化剤を作用させることによりエーテル化して、主として糖類が有する少なくとも一つの水酸基をヒドロキシ終端型(ポリ)オキシアルキレン基で修飾する。
【0016】
この反応は、ピリジン等の悪臭のある溶媒、およびその他の揮発性・引火性の高い溶媒を用いない温和な反応である。糖の水酸基をヒドロキシ終端型(ポリ)オキシアルキレン基で修飾することにより、糖の有機溶媒への溶解性が高まり、リパーゼが作用しやすくなると考えられる。また、糖のピラノース環に結合している水酸基は、リパーゼの活性中心に入るためには立体的に嵩高く、結果としてリパーゼの反応性が低くなってしまう。しかしながら、この水酸基に(ポリ)オキシアルキレン基などのリンカーを付与することにより、このリンカーに結合している末端の水酸基の立体的嵩高さが減少し、リパーゼの活性中心に水酸基が入りやすくなり、リパーゼの反応性が高まると考えられる。
【0017】
次に、ヒドロキシ終端型(ポリ)オキシアルキレン基で修飾した二糖または三糖以上のオリゴ糖混合物またはシクロデキストリンなどの環状糖に、脂肪酸と有機溶媒(tert-ブタノールやアセトン)、およびリパーゼ(固定化カンジダ・アンタクティカ (Candida antarctica)リパーゼ、固定化リゾムコール・ミーハイ (Rhizomucor miehei)リパーゼ、固定化サーモミセス・ラヌギノザ (Thermomyces lanuginosa)リパーゼ、および固定化アルカリゲネス属 (Alcaligenes sp.) リパーゼ、遊離型カンジダ・ルゴザ (Candida rugosa)リパーゼなど)を作用させることにより、糖脂肪酸モノエステルが効率よく、かつ総エステル体に対するモノエステル体の純度が90%以上で製造可能となる。
【0018】
すなわち、本発明は、糖脂肪酸エステルの合成方法であって、
(1)糖類の少なくとも1つの水酸基をヒドロキシ終端型(ポリ)オキシアルキレン基で修飾するために、エーテル化剤でエーテル化するエーテル化工程;および
(2)前記ヒドロキシ終端型(ポリ)オキシアルキレン基の少なくとも一つの水酸基と脂肪酸のカルボキシル基とを酵素を用いる脱水縮合によりエステル化する酵素エステル化反応工程
を含む、合成方法を提供する。
【0019】
本発明の合成方法においてヒドロキシ終端型(ポリ)オキシアルキレン基で修飾するために、エーテル化剤でエーテル化される糖類の少なくとも1つの水酸基が、その糖類の6位の水酸基であり得る。
【0020】
本発明の合成方法に用いることができる糖類として、マルトース、スクロース、ラクトース、セロビオース、トレハロース、キシロビオース、メリビオースからなる群より選択される二糖;グルコースが3〜10個結合したグルコオリゴ糖、フラクトースが3〜10個結合したフラクトオリゴ糖、もしくは単糖が1種類もしくは複数種類混合して結合したオリゴ糖;またはシクロデキストリン、シクロフラクタン、環状四糖からなる群より選択される環状糖もしくはこれらの環状糖の一分子にさらに上記オリゴ糖の一分子が結合した分岐環状糖が挙げられる。
【0021】
本発明の合成方法において、エーテル化剤として、非置換もしくは1〜4個の炭素数1〜3のアルキル基で置換されたエチレンオキシド、またはエチレンクロルヒドリンなどから選択されるクロルヒドリンが挙げられる。
【0022】
本発明のエーテル化工程において、非置換もしくは1〜4個の炭素数1〜3のアルキル基で置換されたエチレンオキシドとして、エチレンオキシド、プロピレンオキシド、ブチレンオキシド(1,2−ブチレンオキシド、2,3−ブチレンオキシド、イソブチレンオキシド)、ペンチレンオキシド(2−プロピルエチレンオキシド、1−メチル−2−エチルエチレンオキシド、1−メチル−2,2−ジメチル−エチレンオキシド、2−エチル−2−メチル−エチレンオキシド、2−イソプロピルエチレンオキシド)などの炭素数2〜5個のアルキレンオキシドが好ましく、クロルヒドリンとして、エチレンクロルヒドリンが好ましい。
【0023】
本発明の合成方法に用いることができる脂肪酸として、酪酸、ヘキサン酸、オクタン酸(カプリル酸)、ノナン酸、デカン酸、ドデカン酸、テトラデカン酸、ペンタデカン酸、ヘキサデカン酸(パルミチン酸)、オクタデカン酸(ステアリン酸)、イコサン酸、ドコサン酸、2-エチルヘキサン酸、3,5,5-トリメチルへキサン酸、イソステアリン酸、9-テトラデセン酸、2-ヘキサデセン酸、9-ヘキサデセン酸、9-オクタデセン酸(オレイン酸)、9,12-オクタデカンジエン酸(リノール酸)、6,9,12-オクタデカントリエン酸(α-リノレン酸)、γ-リノレン酸、アラキドン酸、ジホモ-γ-リノレン酸、エイコサペンタエン酸、ドコサペンタエン酸、ドコサヘキサエン酸からなる群より選択される炭素数4〜22の脂肪族カルボン酸;または、ベンゼンカルボン酸(安息香酸)、3-フェニル-2-プロペン酸(ケイ皮酸)、ヒドロキシケイ皮酸、4-メトキシケイ皮酸、3,4-ジヒドロキシケイ皮酸(カフェ酸)、α-シアノ-4-ヒドロキシケイ皮酸、シナピン酸からなる群より選択される芳香族カルボン酸;またはそれらの組合せが挙げられる。
【0024】
本発明に用いることができる酵素として、動物の膵臓由来リパーゼ;種子由来リパーゼ;またはカンジダ・アンタクティカ (Candida antarctica)由来のフラクションAリパーゼ(CALA)もしくはフラクションBリパーゼ(CALB)、カンジダ・ルゴザ (Candida rugosa)由来、ジオトリカム・カンジダム (Geotrichum candidum)由来、シュードモナス属 (Pseudomonas sp.)由来、シュードモナス・アエルギノザ (Pseudomonas aeruginosa)由来、ブルクホルデリア・セパシア (Burkholderia cepacia)由来、アルカリゲネス属 (Alcaligenes sp.)由来、セラチア・マルセッセンス (Serratia marcescens)由来、シュードモナス・フルオレッセンス (Pseudomonas fluorescens)由来、リゾムコール・ミーヘイ (Rhizomucor miehei)由来、リゾプス・オリザエ (Rhizopus oryzae)由来、サーモミセス・ラヌギノザ (Thermomyces lanuginosa)由来、フザリウム・ヘテロスポラム (Fusarium heterosporum)由来、ペニシリウム・カマンベルティ (Penicillium camembertii)由来、アスペルギラス・ニガー (Aspergillus niger)由来、もしくはそれらと近縁の微生物由来のリパーゼからなる群より適宜選択される。
【0025】
本発明は、さらに、本発明による糖脂肪酸エステルの合成方法に適した糖脂肪酸エステルの前駆体として、糖類の少なくとも一つの水酸基がヒドロキシ終端型(ポリ)オキシアルキレン基で修飾された糖類および前記ヒドロキシ終端型(ポリ)オキシアルキレン基修飾糖類と脂肪酸との糖脂肪酸エステルも提供する。
【0026】
本発明は、糖類の少なくとも1つの水酸基を修飾するヒドロキシ終端型(ポリ)オキシアルキレン基の少なくとも1つの水酸基と脂肪酸のカルボキシル基とのエステル結合を有する糖脂肪酸エステルを含む組成物を提供する。
【0027】
本発明の組成物において、ヒドロキシ終端型(ポリ)オキシアルキレン基で修飾される糖類の少なくとも1つの水酸基が、その糖類の6位の水酸基であり得る。
【0028】
本発明の組成物において、前記糖脂肪酸エステルは、一般式(1):
【0029】
【化1】
{式中、Sは、糖類の少なくとも1つの水酸基を除いた残基を示し、mは1〜pの整数を示し、かつ、pは前記糖類が有する水酸基の最大個数を示し、m個のXは、それぞれ独立して、一般式(2):
【0030】
【化2】
(式中、R、R、RおよびRは、独立して、Hまたは炭素数1〜3のアルキル基を示し、nは1〜6の整数を示す。)で表されるヒドロキシ終端型(ポリ)オキシアルキレン基;または一般式(3):
【0031】
【化3】
[Rは炭素数4〜22の脂肪酸からカルボキシル基を除いた残基を示し、Lは、存在しないか、または、独立して、一般式(4):
【0032】
【化4】
(式中、R、R、RおよびRは、独立して、Hまたは炭素数1〜3のアルキル基を示し、nは1〜6の整数を示す。)で表される(ポリ)オキシアルキレン基のリンカーを示す。]で表される基である。ただし、少なくとも1つのXは、一般式(3)で表される基であり、かつ、少なくとも1つのLは前記(ポリ)オキシアルキレン基のリンカーである。}で表される。ここで、(ポリ)オキシアルキレン基は、オキシアルキレン基およびポリオキシアルキレン基を含むことを意図している。
【0033】
前記一般式(2)および(4)中のR、R、RおよびRは、独立して、H、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基である。
【0034】
本発明の組成物において、前記糖類として、マルトース、スクロース、ラクトース、セロビオース、トレハロース、キシロビオース、メリビオースからなる群より選択される二糖;グルコースが3〜10個結合したグルコオリゴ糖、フラクトースが3〜10個結合したフラクトオリゴ糖、もしくは単糖が1種類もしくは複数種類混合して結合したオリゴ糖;またはシクロデキストリン、シクロフラクタン、環状四糖からなる群より選択される環状糖もしくはこれらの環状糖の一分子にさらに上記オリゴ糖の一分子が結合した分岐環状糖が挙げられる。
【0035】
前記一般式(1)において、pは前記糖類が有する水酸基の最大個数である。具体的には、マルトース、スクロース、ラクトース、セロビオース、トレハロース、キシロビオース、メリビオースからなる群より選択される二糖;および、グルコースが3〜10個結合したグルコオリゴ糖、フラクトースが3〜10個結合したフラクトオリゴ糖、もしくは単糖が1種類もしくは複数種類混合して結合したオリゴ糖の有する水酸基の最大個数はp=3q+2(qは、結合するグルコース、フラクトースまたは1種類もしくは複数種類混合して結合する単糖の個数を示す。)で表される。例えば、マルトースなどの二糖類の有する水酸基の最大個数pは8であり、マルトトリオースなどの三糖類の有する最大個数pは11である。シクロデキストリン、シクロフラクタン、環状四糖からなる群から選択される環状糖の有する水酸基の最大個数はp=3r(rは、環状糖に含まれる糖類の個数を示す。)で表される。例えば、α-シクロデキストリンの有する水酸基の最大個数pは18である。上記の環状糖の一分子にさらに上記オリゴ糖の一分子が結合した分岐環状糖の有する水酸基の最大個数はp=3(q+r)(qは、結合するグルコース、フラクトースまたは1種類もしくは複数種類混合して結合する単糖の個数を示し、rは、環状糖に含まれる糖類の個数を示す。)で表される。
【0036】
本発明において、一般式(2)で表されるヒドロキシ終端型(ポリ)オキシアルキレン基とは、(ポリ)オキシアルキレン基の末端が水素化された結果、末端に水酸基が形成されている基を意味する。一般式(2)で表されるヒドロキシ終端型(ポリ)オキシアルキレン基は、nが1であるとき、「ヒドロキシアルキル基」ということもできる。いずれにしても、末端に水酸基を有することを特徴とする。
また、糖類の水酸基が一般式(2)で表されるヒドロキシ終端型(ポリ)オキシアルキレン基での修飾は、nが1であるとき、「ヒドロキシアルキル化」ということもできる。
【0037】
前記一般式(3)において、Lが存在しない場合、脂肪酸が直接糖類の水酸基とエステル結合し、Lが存在する場合、脂肪酸と糖類とは直接エステル結合せず、(ポリ)オキシアルキレン基であるリンカーを介して結合する。
【0038】
本発明の組成物において、前記脂肪酸として、酪酸、ヘキサン酸、オクタン酸(カプリル酸)、ノナン酸、デカン酸、ドデカン酸、テトラデカン酸、ペンタデカン酸、ヘキサデカン酸(パルミチン酸)、オクタデカン酸(ステアリン酸)、イコサン酸、ドコサン酸、2-エチルヘキサン酸、3,5,5-トリメチルへキサン酸、イソステアリン酸、9-テトラデセン酸、2-ヘキサデセン酸、9-ヘキサデセン酸、9-オクタデセン酸(オレイン酸)、9,12-オクタデカンジエン酸(リノール酸)、6,9,12-オクタデカントリエン酸(α-リノレン酸)、γ-リノレン酸、アラキドン酸、ジホモ-γ-リノレン酸、エイコサペンタエン酸、ドコサペンタエン酸、ドコサヘキサエン酸からなる群より選択される炭素数4〜22の脂肪族カルボン酸;または、ベンゼンカルボン酸(安息香酸)、3-フェニル-2-プロペン酸(ケイ皮酸)、ヒドロキシケイ皮酸、4-メトキシケイ皮酸、3,4-ジヒドロキシケイ皮酸(カフェ酸)、α-シアノ-4-ヒドロキシケイ皮酸、シナピン酸からなる群より選択される芳香族カルボン酸;またはそれらの組合せが挙げられる。
【0039】
本発明の糖脂肪酸エステルにおいて、糖類の水酸基には4つの状態がある。すなわち、ヒドロキシ終端型(ポリ)オキシアルキレン基で修飾された水酸基、脂肪酸エステル化された水酸基、(ポリ)オキシアルキレン基のリンカーを介して脂肪酸エステル化された水酸基および未修飾の水酸基である。
【0040】
以下、本発明の方法により、二糖類であるマルトースからヒドロキシ終端型(ポリ)オキシアルキレン基修飾糖類およびそのオレイン酸の糖脂肪酸エステルを得る反応スキームを例示する。
この糖脂肪酸エステルは、マルトースの6位の水酸基がヒドロキシプロピル基で修飾され、さらに、ヒドロキシプロピル基の水酸基が脂肪酸と酵素エステル化された特異的な具体例である。
【0041】
【化5】
【0042】
まず、二糖類であるマルトース(G2)を、例えば、プロピレンオキシドを用いて、ヒドロキシプロピル化する。この図では、反応条件により、結合している2つの単糖分子(還元末端または非還元末端)のいずれか一つの6位の水酸基がヒドロキシプロピル基で修飾された状態が示されている。つぎに、リパーゼを用いて、このヒドロキシプロピル化マルトースをオレイン酸でエステル化する。この図では、特異的に、前記ヒドロキシプロピル基の水酸基にてエステル化が生じている状態が示されている。
【発明の効果】
【0043】
二糖または三糖以上のオリゴ糖混合物またはシクロデキストリンなどの環状糖をヒドロキシ終端型(ポリ)オキシアルキレン基で修飾することにより、有機溶媒中でのリパーゼによる脂肪酸とのエステル化反応が格段に向上し、糖脂肪酸モノエステルが効率よく合成できる。
【発明を実施するための形態】
【0044】
二糖、三糖以上のオリゴ糖混合物、シクロデキストリンなどの環状糖を構成する最小単位である単糖は特に制限されないが、エリトロース、トレオース等の四炭糖(テトラオース)、リボース、アラビノース、キシロース、リキソース等の五炭糖(ペントース)、アロース、アルトロース、グルコース、マンノース、グロース、イドース、ガラクトース、タロース等の六炭糖(ヘキソース)などが好ましいものとして挙げられる。これらの中でも特に、グルコースおよびフラクトースがより好ましい。
【0045】
二糖としては、例えば、スクロース(ショ糖)、マルトース(麦芽糖)、ラクトース(乳糖)、セロビオース、トレハロース、キシロビオース、メリビオース等が好ましいものとして挙げられる。
【0046】
オリゴ糖としては、マルトトリオース、マルトテトラオース、マルトペンタオースなどのグルコースが3〜10個結合したもの、フラクトースが3〜10個結合したフラクトオリゴ糖、および単糖が1種類もしくは複数種類混合して結合したオリゴ糖などが代表として挙げられるが、これら以外のオリゴ糖であってもよい。
【0047】
環状糖としては、シクロデキストリン、シクロフラクタン、環状四糖などが挙げられる。シクロデキストリンとしては、α-、β-、γ-シクロデキストリンなどが挙げられる。
これらの環状糖にさらに上記オリゴ糖が結合した分岐環状糖であってもよい。
【0048】
二糖、三糖以上のオリゴ糖混合物、シクロデキストリンなどの環状糖および分岐環状糖の水酸基をヒドロキシ終端型(ポリ)オキシアルキレン基で修飾する物質としては、エチレンオキシド、プロピレンオキシド、ブチレンオキシドなどのアルキレンオキシドや、エチレンクロルヒドリンなどのアルキレンクロルヒドリン等のエーテル化剤が挙げられるが、反応が容易であるという点と、ヒドロキシプロピル化シクロデキストリンが既に化粧品、医薬品、消臭スプレー、柔軟剤として利用されているという点から、プロピレンオキシドが特に好ましいものとして挙げられる。
【0049】
また、糖の水酸基をエステル化させるアシル供与体の脂肪酸(カルボン酸)としては、本発明の効果を損なうものでなければ特に制限されず、炭素数4〜22の脂肪族カルボン酸、または芳香族カルボン酸であることが好ましい。
【0050】
前記炭素数4〜22の脂肪族カルボン酸(脂肪酸)としては、酪酸、ヘキサン酸、オクタン酸(カプリル酸)、ノナン酸、デカン酸、ドデカン酸、テトラデカン酸、ペンタデカン酸、ヘキサデカン酸(パルミチン酸)、オクタデカン酸(ステアリン酸)、イコサン酸、ドコサン酸などの直鎖飽和脂肪酸、2-エチルヘキサン酸、3,5,5-トリメチルへキサン酸、イソステアリン酸などの分岐飽和脂肪酸、9-テトラデセン酸、2-ヘキサデセン酸、9-ヘキサデセン酸、9-オクタデセン酸(オレイン酸)、9,12-オクタデカンジエン酸(リノール酸)、6,9,12-オクタデカントリエン酸(α-リノレン酸)、γ-リノレン酸、アラキドン酸、ジホモ-γ-リノレン酸、エイコサペンタエン酸、ドコサペンタエン酸、ドコサヘキサエン酸などの不飽和脂肪酸などが挙げられる。なかでも、反応効率の観点から、炭素数6〜16の直鎖飽和脂肪族カルボン酸がより好ましく、カプリル酸、パルミチン酸、ステアリン酸、オレイン酸、リノール酸、α-リノレン酸が特に好ましい。
【0051】
前記芳香族カルボン酸としては、ベンゼンカルボン酸(安息香酸)、3-フェニル-2-プロペン酸(ケイ皮酸)、ヒドロキシケイ皮酸、4-メトキシケイ皮酸、3,4-ジヒドロキシケイ皮酸(カフェ酸)、α-シアノ-4-ヒドロキシケイ皮酸、シナピン酸などが挙げられる。
【0052】
これらの脂肪酸、カルボン酸は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0053】
リパーゼ等の酵素を用いたエステル化反応は、有機溶媒中での反応、水溶液中での反応、無溶媒下での反応のいずれでもよいが、反応効率の観点から、有機溶媒中での反応が好ましい。用いる有機溶媒は、一級水酸基、二級水酸基を有しない溶媒が好ましく、例えば、アセトン、tert−ブタノール、tert−アミルアルコール、アセトニトリルなどのケトン類、三級アルコール類、ニトリル類ならいずれでもよいが、好ましくはアセトン、tert−ブタノールであり、また前述有機溶媒を適宜混合した溶媒でも構わない。また、ピリジンや、ジメチルホルムアミド、ジメチルスルホキシド、N−メチルピロリドン、N−メチル−2−ピロリジノンジプロピルスルホキシドなどの有機溶媒を混ぜて反応させてもよい。
【0054】
糖類の水酸基と脂肪酸のカルボキシル基をエステル化する酵素は、水酸基とカルボキシル基をエステル結合させる触媒活性をもつ酵素であれば特に制限されず、例えばリパーゼ、エステラーゼ、プロテアーゼ等の加水分解酵素が好ましい酵素として挙げられ、リパーゼがより好ましい酵素として挙げられる。
【0055】
当該リパーゼとしては、本発明の効果を損なわない酵素であれば特に制限されず、動物由来、微生物由来、又は植物由来のいずれであってもよい。例えば、豚や人などの動物の膵臓由来リパーゼ、小麦胚芽などの種子由来リパーゼ、カンジダ・アンタクティカ (Candida antarctica)由来(シュードザイマ・アンタクティカ (Psudozyma antarctica)ともいう)のフラクションAリパーゼ(CALA)またはフラクションBリパーゼ(CALB)、カンジダ・ルゴザ (Candida rugosa)由来(旧称:カンジダ・シリンドラセア (Candida cylindracea))、ジオトリカム・カンジダム (Geotrichum candidum)由来、シュードモナス属 (Pseudomonas sp.)由来、シュードモナス・アエルギノザ (Pseudomonas aeruginosa)由来、ブルクホルデリア・セパシア (Burkholderia cepacia)由来(旧称:シュードモナス・セパシア (Pseudomonas cepacia))、アルカリゲネス属 (Alcaligenes sp.)由来、セラチア・マルセッセンス (Serratia marcescens)由来、シュードモナス・フルオレッセンス (Pseudomonas fluorescens)由来、リゾムコール・ミーヘイ (Rhizomucor miehei)由来、リゾプス・オリザエ (Rhizopus oryzae)由来(旧称:リゾプス・デレマー (Rhizopus delemar))、サーモミセス・ラヌギノザ (Thermomyces lanuginosa) (旧称:フミコーラ・ラヌギノザ (Humicola lanuginosa))由来、フザリウム・ヘテロスポラム (Fusarium heterosporum)由来、ペニシリウム・カマンベルティ (Penicillium camembertii)由来、アスペルギラス・ニガー (Aspergillus niger)由来、またはそれらと近縁の微生物由来のリパーゼを好ましい酵素として挙げることができる。これらの中でも、特に、カンジダ・アンタクティカ (Candida antarctica)由来のフラクションBリパーゼ(CALB)、リゾムコール・ミーヘイ (Rhizomucor miehei)由来のリパーゼ、サーモミセス・ラヌギノザ (Thermomyces lanuginosa)由来のリパーゼ、アルカリゲネス属 (Alcaligenes sp.)由来のリパーゼが好ましい酵素として挙げられる。
【0056】
前記酵素は、遊離のリパーゼで用いてもよいし、担体に固定化して用いてもよいが、酵素を固定化した方が反応溶液から固定化酵素を容易に回収することができ、また当該固定化酵素を容易に再利用することができる。
【0057】
酵素の固定化の方法としては、セライトなどの不活性担体に物理化学的に吸着又は結合させたり、イオン交換樹脂に結合させたりする担体結合法、ポリアクリルアミドなどのポリマーからなるゲルの格子中に酵素を包含させる包括法などの公知の方法を適用できる。
【0058】
また、酵素は1種類の酵素を単独で用いてもよいし、複数の酵素を組合せて用いてもよい。
【0059】
用いる酵素の量は、本発明の効果を損なわない限り特に制限されないが、通常は反応原料である糖1 gに対して10〜100,000ユニット(U)、より好ましくは1,000〜50,000 Uを添加することが好ましい。ここでの1Uとは、オリーブ油などの油脂の加水分解反応において、1分間に1マイクロモルの脂肪酸を遊離する酵素量のことである。
【0060】
酵素反応を行う温度は、酵素が活性を失わない温度ならばいずれでもよいが、好ましくは0〜80℃、より好ましくは20〜60℃である。
【0061】
当該エステル化反応を行う反応時間は、生成物である糖脂肪酸エステルが得られる反応時間であれば特に制限されない。当該反応温度、酵素量、基質量にもよるが、通常は2〜120時間程度で、充分に当該エステル化反応を行うことができる。
【0062】
原料である糖と脂肪酸のモル比は、生成物である糖脂肪酸エステルが得られるならばいずれでもよいが、好ましくは脂肪酸/糖=0.5〜20、より好ましくは脂肪酸/糖=1〜6である。
【0063】
有機溶媒に溶かす糖と脂肪酸の量は、生成物である糖脂肪酸エステルが得られるならばいずれでもよいが、好ましくは1 mLの溶媒に対して、糖と脂肪酸の合計が1〜300 mg、より好ましくは4〜100 mgである。
【0064】
反応系には、有機溶媒、糖、脂肪酸、酵素だけを添加して振盪または撹拌しながら反応させるだけでもよいが、反応効率を上げるため、エステル化に伴う生成水を除きながら反応を行うのが望ましい。当該生成水を除くためには、減圧下で反応を行う、モレキュラーシーブなどの公知の脱水剤を用いる方法などが採用できる。
【0065】
以上の方法で合成した糖脂肪酸エステルは次の方法で定量および分析を行うことができる。
【0066】
<HPLCによる二糖脂肪酸モノエステル、ジエステルの分析条件>
反応液から上清を回収後、この上清100μLとメタノール100μLを混合し、遠心分離により上清を回収した。この遠心分離により得られた沈殿をメタノール200μLで洗浄・遠心分離後、上清を回収し、先程の上清と混合した。減圧下で溶媒を除去後、残渣を400μLのアセトン:アセトニトリル:TFA=33:67:0.05(容量比)に溶かした。このうちの40μLを、コスモシール5C18-MS (ナカライテスク社製、4.6 x 250 mm、40℃)に負荷し、二糖脂肪酸モノエステルおよびジエステルを分析した。この分析の時の溶出溶媒はアセトン:アセトニトリル:TFA=33:67:0.05(容量比)、流速0.5 mL/分であり、検出器は示差屈折計を用いた。
【0067】
後述の実施例に記載する反応により生成した生成物(オレイン酸とヒドロキシプロピルマルトース(HP-G2)とのエステル体)を、上記のHPLC条件で分取・精製し、検量線を作成後、この検量線から生成物の量を算出し、基質に対する生成物(モノエステルおよびジエステル)への変換率を求めた。ここで、例えばモノエステルへの変換率が50%、ジエステルへの変換率が5%とある場合は、原料となるHP-G2が100分子あった場合、50分子のHP-G2がモノエステルに、5分子のHP-G2がジエステルにそれぞれ変換されたことを意味する。
【0068】
<ケン化分解法によるエステル化率の測定>
三糖以上のオリゴ糖混合物、およびシクロデキストリンなどの環状糖は、この方法で分析した。0.6 mLの反応液に含まれる溶媒を減圧下で脱溶媒後、残渣を0.6 mLのヘキサンに懸濁し、遠心分離後、未反応の脂肪酸を含む溶媒層を除去した。(この時、溶媒層には、未反応の脂肪酸以外は存在しなかった。)沈殿を0.2 mLのヘキサンで洗浄後、遠心分離で得られた沈殿を0.6 mLのイソプロパノールに溶解させた。モレキュラーシーブまたは酵素由来の不溶物を遠心分離により除去後、2マイクロモルの内部標準(パルミチン酸)を添加し、この溶液を均等に0.3 mLずつに分けた。そのうちの一方は無処理でGC分析し、もう一方はケン化分解後にGC分析した。
【0069】
ケン化分解は以下のようにして行った。試料を溶かしたイソプロパノール溶液0.3 mLに1.5 mLの0.1M NaOH/92%エタノール溶液を添加し、65℃で10分間加熱した。室温まで冷却後、水を2.5 mL添加し、酸性になるまで2M塩酸を添加した。2 mLヘキサンで脂肪酸を抽出後、ヘキサン層を回収した。エバポレーターで脱溶媒後、0.5 mLのトルエン・ヘキサン・メタノール(4:1:1, v/v/v)溶液を添加し、2Mのトリメチルシリルジアゾメタンジエチルエーテル溶液で脂肪酸をメチルエステル化後、GC分析した。
【0070】
無処理でGC分析する場合は、試料を溶かしたイソプロパノール溶液0.3 mLを脱溶媒後、0.5 mLのトルエン・ヘキサン・メタノール溶液(4:1:1, v/v/v)溶液を添加し、トリメチルシリルジアゾメタンで脂肪酸をメチルエステル化後、GC分析した。ケン化分解した時の内部標準に対するオレイン酸の相対量、ケン化分解しなかった時の内部標準に対するオレイン酸の相対量をそれぞれ算出し、両者の差を糖に結合したオレイン酸の量とした。内部標準に対するオレイン酸の量と反応系中の基質の量から、糖1分子に対するオレイン酸のエステル化率を計算した。ここで、例えばヒドロキシプロピル化β-シクロデキストリンにおいて、原料となるヒドロキシプロピル化β-シクロデキストリンが100分子あった場合、50分子のヒドロキシプロピル化β-シクロデキストリンがモノエステルに、5分子のヒドロキシプロピル化β-シクロデキストリンがジエステルにそれぞれ変換された場合、ケン化分解法では結合している脂肪酸の量だけを定量していることから、50+5x2=60分子の脂肪酸が定量されることになる。糖1分子に対するオレイン酸のエステル化率で定義することから、エステル化率は60%となる。このケン化分解分析の後、MS分析等によりモノエステルとジエステルの比率が10:1と分析されたならば、エステル化率60%から、ヒドロキシプロピル化β-シクロデキストリンからモノエステルへの変換率は50%、ジエステルへの変換率は5%と算出できる。
【実施例】
【0071】
(製造例1)プロピレンオキシドを用いたヒドロキシプロピル化マルトース(HP-G2)の調製
20 gの水、0.3 gの水酸化ナトリウム、30 gのマルトース(G2)、および9 gのプロピレンオキシドを添加し、42℃、振盪しながら1晩反応させた。反応後、1.2 M HClを添加してpHを5に調製後、減圧下で未反応のプロピレンオキシドと水を除去し、粗精製HP-G2を調製した。
【0072】
この粗精製HP-G2を、2,5-ジヒドロキシ安息香酸(DHBA)をマトリックスとしてMALDI/TOF-MS(AXIMA Confidence、島津製作所)で分析した結果、(HP)1-G2含量は51.3 モル%であった。分析結果を表1に示す。
【0073】
ここで、G2はマルトース、(HP)1-G2はマルトースの水酸基の1か所がヒドロキシプロピル化された物質、(HP)2-G2はマルトースの水酸基の2か所がヒドロキシプロピル化された物質、(HP)3-G2はマルトースの水酸基の3か所がヒドロキシプロピル化された物質をそれぞれ意味する。また、HP-G2は、(HP)1-G2、(HP)2-G2および(HP)3-G2の混合物を意味するか、または、ヒドロキシプロピル化された水酸基の個数を特定せずに包括的に表す場合に用いる。他のヒドロキシアルキル化糖類についても同様である。
【0074】
次に、4 gの粗精製HP-G2を830 mLの活性炭カラムに負荷し、0%エタノール(1.5 L)/50%エタノール(1.5 L)のグラジエントでG2、(HP)1-G2、(HP)2-G2等を溶出した。(HP)1-G2を主成分とするフラクションを回収し、エバポレーターによる脱エタノールと凍結乾燥により、1.1 gの精製HP-G2を得た。
【0075】
この精製HP-G2を、DHBAをマトリックスとしてMALDI/TOF-MSで分析した結果を表1に示す。その結果、(HP)1-G2含量は94.4 モル%であった。また、精製HP-G2をイオントラップ型LC-MS(Finnigan LCQDECA、Thermo Quest)で分析したところ、m/z=423.3のナトリウムイオン付加分子[M+Na+]が観測され、マルトースの水酸基の1か所がヒドロキシプロピル化された物質であることが確認された。
【0076】
【表1】
【0077】
(実施例1)水酸基のヒドロキシプロピル化による糖類の溶解度の影響
適量のマルトース(G2)または精製HP-G2を1mLの有機溶媒(tert-ブタノール、アセトン)に添加し、50℃に加熱して、一時間撹拌した。遠心分離により上清を回収し、脱溶媒後、残渣の重量を測定した。この値を有機溶媒1mLあたりの溶解度(mg/mL)とした。その結果を表2に示す。
【0078】
【表2】
【0079】
(実施例2)リパーゼを用いた精製HP-G2とオレイン酸とのエステル化
25 mgの基質(G2、および製造例1で調製した精製HP-G2)、100 mgのオレイン酸(東京化成、純度約90%)、5 mLのtert-ブタノール(和光純薬)、100 mgのカンジダ・アンタクティカ (Candida antarctica)リパーゼ(Novozym 435、ノボザイムズジャパン)、および500 mgのモレキュラーシーブ3A(関東化学)を混合し、振盪しながら50℃で反応させた。1、3および5日後にサンプリングし、HPLCで生成物(G2または精製HP-G2のオレイン酸モノエステルおよびジエステル)の含量を測定し、G2、および精製HP-G2に対するモノエステルおよびジエステルへの変換率を算出した。結果を表3に示す。
【0080】
【表3】
【0081】
精製HP-G2を基質としたときの変換率は、G2を基質とした時に比べて、反応初期の1日目で31倍、反応後期の5日目で7.7倍高いことが分かった。したがって、二糖であるマルトースの水酸基をヒドロキシプロピル基で修飾することにより、リパーゼ反応を用いて、ヒドロキシプロピル化マルトースオレイン酸エステルが効率よく合成できることが分かった。
【0082】
効率よく合成できる理由として、(1)固型の基質にはきわめて作用しにくいリパーゼが、糖をヒドロキシアルキル化することにより、糖の有機溶媒への溶解性が高まり、作用しやすくなった、(2)糖の水酸基に(ポリ)オキシアルキレン基などのリンカーが存在するので、リパーゼの活性中心にヒドロキシアルキル基の水酸基が入りやすくなり、リパーゼの反応性が高まる、等が考えられる。
【0083】
マルトースの水酸基をヒドロキシプロピル基で修飾する反応は簡便で温和な条件下での反応であり、ピリジンなどの悪臭のある試薬を用いない反応である。これに引き続くリパーゼを用いるエステル化反応は、従来法(ヒドロキシプロピル化していないマルトースを用いた反応)よりも反応効率が高く、かつ、温和な条件下での反応であり、脂肪酸の劣化の危険性も低いことから、本合成法は、新規で優れた合成法である。
【0084】
(実施例3)(HP)1-G2オレイン酸モノエステルのLC/MS分析
実施例2で合成されたモノエステルおよびジエステルをHPLCで分取・精製し、LC-MSで分析した。その結果、モノエステルおよびジエステルは、それぞれm/z=687.4およびm/z=951.5のナトリウム付加分子[M+Na+]として検出された。ナトリウム付加分子を親イオンピークとして衝突誘起開裂したところ、モノエステルにおいては、[M-OCOR-H+Na+]のフラグメントイオン m/z=405 (R=CH3(CH2)7CH=CH(CH2)7)、および[M-OCH2CH(CH3)OCOR-H+Na+]のフラグメントイオンm/z=347が検出された。一方、ジエステルにおいては、[M-OCOR-H+Na+]のフラグメントイオンm/z=669、および[M-OCH2CH(CH3)OCOR-H+Na+]のフラグメントイオンm/z=611がそれぞれ検出された。以上のことから、(HP)1-G2にオレイン酸が1または2個エステル結合したヒドロキシプロピル化マルトースオレイン酸モノエステルおよびヒドロキシプロピル化マルトースオレイン酸ジエステルであることが確認された。なお、MALDI/TOF-MSの分析の結果、トリエステルは検出されなかった。
【0085】
(実施例4)リパーゼを用いたヒドロキシプロピル化二糖と脂肪酸のエステル化における二糖の種類の影響
マルトース以外の二糖においても、水酸基をヒドロキシプロピル化することにより、二糖脂肪酸エステルが効率よく合成できるかどうかを調べた。製造例1と同じ方法により、スクロース(ショ糖)またはラクトースから、粗精製HP-スクロースおよび粗精製HP-ラクトースを調製した。これらを、DHBAをマトリックスとしてMALDI/TOF-MSで生成物の組成比を分析した。その結果、粗精製HP-スクロースにおいては、未反応のスクロースは5.4モル%、水酸基の1か所がヒドロキシプロピル化された(HP)1-スクロースが28.1モル%、水酸基の2か所がヒドロキシプロピル化された(HP)2-スクロースが36.5モル%、水酸基の3か所がヒドロキシプロピル化された(HP)3-スクロースが23.6モル%、および水酸基の4か所がヒドロキシプロピル化された(HP)4-スクロースが6.4モル%であった。粗精製HP-ラクトースにおいては、未反応のラクトースは38.7モル%、水酸基の1か所がヒドロキシプロピル化された(HP)1-ラクトースが49.3モル%、水酸基の2か所がヒドロキシプロピル化された(HP)2-ラクトースが9.3モル%、および水酸基の3か所がヒドロキシプロピル化された(HP)3-ラクトースが2.7モル%であった。
【0086】
25 mgの基質(スクロース、粗精製HP-スクロース、ラクトース、粗精製HP-ラクトース、マルトース(G2)、および粗精製HP-G2)、100 mgのオレイン酸、5 mLのtert-ブタノール、100 mgのNovozym 435、および500 mgのモレキュラーシーブ3Aを混合し、振盪しながら50℃で反応させた。1、3および5日後にサンプリングし、HPLCで生成物(オレイン酸モノエステル)の含量を測定し、原料に対するモノエステルへの変換率を算出した。その結果を表4に示す。
【0087】
【表4】
【0088】
その結果、マルトースだけではなく、スクロースやラクトースなどの二糖の水酸基をヒドロキシプロピル化することにより、リパーゼを用いて、ヒドロキシプロピル化二糖脂肪酸エステルが効率よく合成できることが分かり、本技術が幅広い二糖に適用できることが分かった。
【0089】
(実施例5)リパーゼを用いた精製HP-G2と脂肪酸のエステル化における脂肪酸の種類の影響
25 mgの精製HP-G2、100 mgの脂肪酸(カプリル酸、パルミチン酸、リノール酸、いずれも東京化成)、5 mLのtert-ブタノール、100 mgのNovozym 435、および500 mgのモレキュラーシーブ3Aを混合し、振盪しながら50℃で反応させた。1、3および5日後にサンプリングし、HPLCで生成物(精製HP-G2の各種脂肪酸モノエステル)の含量を測定し、精製HP-G2に対するモノエステルへの変換率を算出した。その結果を表5に示す。
【0090】
【表5】
【0091】
その結果、炭素数18個、二重結合1個で常温液状のオレイン酸(C18:1)だけではなく、オレイン酸よりも二重結合が多い(2個)のリノール酸(C18:2)、炭素数16個で二重結合がなく常温で固形のパルミチン酸(C16:0)、炭素数が短くて(8個)二重結合がないカプリル酸(C8:0)においても、オレイン酸と同様、リパーゼを用いて、ヒドロキシプロピル化マルトース脂肪酸モノエステルが効率よく合成できることがわかり、本技術が幅広い脂肪酸に適用できることが分かった。
【0092】
(実施例6)リパーゼを用いた精製HP-G2とオレイン酸のエステル化における溶媒の種類の影響
25 mgの精製HP-G2、100 mgのオレイン酸、5 mLの溶媒(ヘキサン、アセトニトリル、アセトン)、100 mgのNovozym 435、および500 mgのモレキュラーシーブ3Aを混合し、振盪しながら50℃で反応させた。1、3および5日後にサンプリングし、HPLCで生成物(精製HP-G2のオレイン酸モノエステルおよびジエステル)の含量を測定し、精製HP-G2に対するモノエステルおよびジエステルへの変換率を算出した。その結果を表6に示す。なお、実施例2におけるtert-ブタノール中の反応も併記した。
【0093】
【表6】
【0094】
その結果、tert-ブタノールだけではなく、アセトニトリルおよびアセトン中でも効率よくエステル化反応が進行することが分かった。特にアセトン中における1日目のエステル化率は、tert-ブタノール中における1日目のエステル化率よりも大きいことが分かった。
【0095】
(実施例7)リパーゼを用いた精製HP-G2とオレイン酸のエステル化におけるモル比の影響
25 mgの基質(G2または精製HP-G2)、100 mgのオレイン酸(基質:オレイン酸=1:6 (モル比))または16.4 mgのオレイン酸(基質:オレイン酸=1:1(モル比))、5 mLのアセトン、100 mgのNovozym 435、および500 mgのモレキュラーシーブ3Aを混合し、振盪しながら50℃で反応させた。1および2日後にサンプリングし、HPLCで生成物(G2または精製HP-G2のオレイン酸モノエステルおよびジエステル)の含量を測定し、G2または精製HP-G2に対するモノエステルおよびジエステルへの変換率を算出した。その結果を表7に示す。
【0096】
【表7】
【0097】
その結果、実施例2におけるtert-ブタノール中での反応と同様、オレイン酸過剰量存在中でのアセトン中での反応では、G2よりも精製HP-G2の方がエステル化率は高かった。一方、オレイン酸が過剰量存在するとき、ジエステルが多く存在していた。しかし、オレイン酸量を減らして基質:オレイン酸=1:1(モル比)とした時、精製HP-G2の1日目での反応では、モノエステル:ジエステル=60:4(モル比)であったことから、オレイン酸量を基質に対して等モル使用することにより、モノエステルを選択的(エステル体の合計に対するモノエステルのモル比が90%以上)に合成できることが分かった。また、アセトン中でオレイン酸量を基質に対して等モル使用した場合でも、G2よりも精製HP-G2の方がエステル化率は約6倍高かった。なお、MALDI/TOF-MS分析の結果、モル比1:1、1:6のいずれにおいても、トリエステルは検出されなかった。このように、基質(糖類および脂肪酸)のバランスを考慮することにより、モノエステルとジエステルの生成量比をコントロールできることが分かった。
【0098】
(実施例8)リパーゼを用いた精製HP-G2とオレイン酸のエステル化におけるモレキュラーシーブ3Aの量の影響
25 mgの精製HP-G2、16.4 mgのオレイン酸(基質:オレイン酸=1:1 (モル比))、5 mLのアセトン、100 mgのNovozym 435、およびモレキュラーシーブ3A(0, 100, 300, 500 mg)を混合し、振盪しながら50℃で反応させた。1および2日後にサンプリングし、HPLCで生成物(精製HP-G2のオレイン酸モノエステルおよびジエステル)の含量を測定し、精製HP-G2に対するモノエステルおよびジエステルへの変換率を算出した。その結果を表8に示す。
【0099】
【表8】
【0100】
その結果、エステル化反応に伴って生成する水を除去するモレキュラーシーブが反応系になくても反応はするものの、モレキュラーシーブがあった方が反応性は高いことが分かり、本反応条件下においては、モレキュラーシーブ量が300 mgの時に最も生成物含量が高かった。
【0101】
(実施例9)リパーゼを用いた精製HP-G2とオレイン酸のエステル化における基質量の影響
25, 75, 150, 300 mgの精製HP-G2、16.4, 49.2, 98.4, 196.8 mgのオレイン酸(基質:オレイン酸=1:1(モル比))、5 mLのアセトン、100 mgのNovozym 435、および300 mgのモレキュラーシーブ3Aを混合し、振盪しながら50℃で反応させた。1、2および3日後にサンプリングし、HPLCで生成物(精製HP-G2のオレイン酸モノエステルおよびジエステル)の含量を測定し、5 mLの反応系に生成するモノエステルおよびジエステルの量を算出した。その結果を表9に示す。
【0102】
【表9】
【0103】
その結果、25 mgまたは75 mgの基質を用いた時は90%以上の純度(モノエステル/(モノエステル+ジエステル))でモノエステルが合成できるが、それよりも基質が多くなった時は、生成物の総量が多くなり、ジエステルの比率も高くなった。また、基質量をコントロールすることにより、モノエステルとジエステルの生成量比をコントロールできることが分かった。
【0104】
(実施例10)精製HP-G2とオレイン酸のエステル化におけるリパーゼの種類の影響
25 mgの精製HP-G2、16.4または100 mgのオレイン酸(基質:オレイン酸=1:1(モル比)または1:6)、5 mLのtert-ブタノールまたはアセトン、100 mgの固定化リパーゼ(Novozym 435、Lipozym TLIM (サーモミセス・ラヌギノザ (Thermomyces lanuginosa) 由来、ノボザイムズジャパン)、Lipozym RMIM (リゾムコール・ミーヘイ (Rhizomucor miehei) 由来、ノボザイムズジャパン)、イオン交換樹脂Duolite A568 (Rhom and Haas社製、輸入元:住化ケムテックス)に固定化したLipase-QLM (アルカリゲネス属 (Alkaligenes sp.) 名糖産業))または100 mgの遊離型リパーゼ (Lipase-QLM、Lipase-OF (カンジダ・ルゴザ (Candida rugosa) 名糖産業))、および300 mgのモレキュラーシーブ3Aを混合し、振盪しながら50℃で反応させた。1〜5日後にサンプリングし、HPLCで生成物(精製HP-G2のオレイン酸モノエステル)の組成を測定し、精製HP-G2に対するモノエステルへの変換率を算出した。その結果を表10に示す。
【0105】
【表10】
【0106】
その結果、固定化Novozym 435だけではなく、固定化されているLipozym TLIM、Lipozym RMIM 、Lipase-QLM、固定化していない遊離型のLipase-QLM、Lipase-OFでも生成物が有意に認められた。
【0107】
(製造例2)エチレンクロルヒドリンを用いたヒドロキシエチル化マルトース(HE-G2)の調製
300 gの水、6 gの水酸化ナトリウム、300 gのマルトース(G2)、および90 gのエチレンクロルヒドリンを添加し、38℃、撹拌しながら、pHを11.8以下にならない様に24% NaOH溶液を適宜滴下しながら1晩反応させた。反応後、1.2 M HClを添加してpHを5に調製後、活性炭カラムクロマトに供して、30%エタノールで溶出し、粗精製HE-G2液を得た。その液を、エバポレーションにより濃縮、乾固させ、粗精製HE-G2を得た。
【0108】
これを、DHBAをマトリックスとしてMALDI/TOF-MSで生成物の組成比を分析したところ、未反応のG2は5.6モル%、水酸基の1か所がヒドロキシエチル化された(HE)1-G2が52.8モル%、水酸基の2か所がヒドロキシエチル化された(HE)2-G2が35.5モル%、水酸基の3か所がヒドロキシエチル化された(HE)3-G2が6.1モル%であった。
【0109】
(実施例11)
25 mgの粗精製HE-G2、16.4 mgのオレイン酸(基質:オレイン酸=1:1(モル比))、5 mLのアセトン、100 mgのNovozym 435、および300 mgのモレキュラーシーブ3Aを混合し、振盪しながら50℃で反応させた1および2日後にサンプリングし、HPLCで生成物(粗精製HE-G2のオレイン酸モノエステルおよびジエステル)の含量を測定し、粗精製HE-G2に対するモノエステルおよびジエステルへの変換率を算出した。その結果を表11に示す。
【0110】
【表11】
【0111】
その結果、マルトースの水酸基をヒドロキシプルピル基で修飾するだけではなく、ヒドロキシエチル基で修飾しても、リパーゼの反応性が向上することが分かった。また、エステル化反応後の生成物をMALDI/TOF-MSで分析したところ、(HE)1-G2、(HE)2-G2のモノエステル体は、それぞれ、m/z=673.2、717.2のナトリウム付加分子[M+Na+]として検出された。なお、トリエステルのナトリウム付加分子[M+Na+]は検出されなかった。
【0112】
(製造例3)三糖以上のオリゴ糖混合物の製造
三糖以上のオリゴ糖混合物を以下の方法で試作した。特開平9-143191号公報に記載の方法に準じて、タピオカ澱粉をα-アミラーゼで分解し、還元糖が25のマルトオリゴ糖を得た。その後、そのマルトオリゴ糖を40%水溶液に調整し、生イースト(オリエンタル酵母株式会社製)をマルトオリゴ糖に対して4%添加し、35℃で2日間撹拌した。その後、珪藻土、活性炭、イオン交換樹脂による精製、噴霧乾燥を行って最終製品とした。その結果、G2以下を0.7 wt%、マルトトリオース(G3)を18.1 wt%、マルトテトラオース(G4)を19.9 wt%、マルトペンタオース(G5)を28.4 wt%、マルトヘキサオース(G6)を14.3 wt%、マルトヘプタオース(G7)以上を18.6 wt%含むオリゴ糖混合物(平均で4.6個のグルコースが結合する。)を得た。
【0113】
(実施例12)リパーゼを用いた三糖以上のオリゴ糖混合物のヒドロキシプロピル化物とオレイン酸のエステル化
マルトースを製造例3で製造したオリゴ糖混合物(No.3L-P)に変更した以外は、製造例1と同様にして反応を行い、粗精製ヒドロキシプロピル化した三糖以上のオリゴ糖混合物(粗精製HP-No.3L-P)を調製した。これをMALDI/TOF-MSで分析した結果、1分子あたりに結合しているヒドロキシプロピル基の数は、G3は1.62個、G4は1.76個、G5は2.03個、G6は2.17個であった。
【0114】
25 mgのNo.3L-P(製造例3で製造したオリゴ糖混合物)または粗精製HP-No.3L-P(粗精製ヒドロキシプロピル化した三糖以上のオリゴ糖混合物)、100 mgのオレイン酸、5 mLのアセトンまたはtert-ブタノール、100 mgのNovozym 435、および300 mgのモレキュラーシーブ3Aを混合し、振盪しながら50℃で3日間反応させた。ケン化分解法により、1分子(平均4.6個のグルコースが結合する。)のHP-No.3L-P(粗精製ヒドロキシプロピル化した三糖以上のオリゴ糖混合物)に対するオレイン酸のエステル化率(=(ケン化分解により遊離したオレイン酸のモル数)/(粗精製HP-No.3L-P(粗精製ヒドロキシプロピル化した三糖以上のオリゴ糖混合物)のモル数)x 100)を算出した。その結果を表12に示す。
【0115】
【表12】
【0116】
その結果、No.3L-Pをヒドロキシプロピル化することにより、エステル化率が有意に高くなることが分かった。
【0117】
また、DHBAをマトリックスとしてMALDI/TOF-MSで反応液を分析したところ、オリゴ糖のオレイン酸モノエステル体は、表13に示すようなナトリウムイオン付加分子[M+Na+]として検出され、生成物と確認された。一方、ヒドロキシプロピル化オリゴ糖のジエステル体のナトリウムイオン付加分子は検出されなかった。
【0118】
【表13】
【0119】
(実施例13)リパーゼを用いたヒドロキシプロピル化α-シクロデキストリンとオレイン酸のエステル化
グルコースが環状に6個結合したα-シクロデキストリン(α-CD)のエステル化を行った。マルトースをα-CDに変更した以外は、製造例1と同様にして反応を行い、粗精製ヒドロキシプロピル化α-CD (粗精製HP-α-CD)を調製した。これを、DHBAをマトリックスとしてMALDI/TOF-MSで生成物の組成比を分析したところ、1分子のα-CDのあたり8.1個の水酸基がヒドロキシプロピル化されていることが分かった。
【0120】
25 mgのα-CDまたは粗精製HP-α-CD、100 mgのオレイン酸、5 mLのtert-ブタノール、100 mgのNovozym 435、および300 mgのモレキュラーシーブ3Aを混合し、振盪しながら50℃で3日間反応させた。ケン化分解法により、1分子の粗精製HP-α-CDに対するオレイン酸のエステル化率(=(ケン化分解により遊離したオレイン酸のモル数)/粗精製(HP-α-CDのモル数)x 100)を算出した。その結果を表14に示す。
【0121】
【表14】
【0122】
その結果、α-CDをヒドロキシプロピル化することにより、エステル化率が有意に高くなることが分かった。
【0123】
また、粗精製HP-α-CDをオレイン酸でエステル化した後の試料に含まれるオレイン酸を除去後、MALDI/TOF-MSで分析したところ、ヒドロキシプロピル基が6から10個結合したヒドロキシプロピル化α-CDのモノエステル体は、m/z=1607.7, 1665.3, 1723.6, 1781.5, 1839.6のナトリウムイオン付加分子[M+Na+]としてそれぞれ検出された。一方、ヒドロキシプロピル化α-CDのジエステル体のナトリウムイオン付加分子[M+Na+]は検出されなかった。また、α-CDをオレイン酸でエステル化した後の試料を同様にしてMALDI/TOF-MSで分析したところ、エステル体のピークは確認されなかった。従って、表14におけるα-CDに対するエステル化率が2.5%とあるのは、ケン化分解法によるエステル化率測定のバックグラウンドレベルの値であると推定される。これらの結果から、粗精製HP-α-CDに対するモノエステル体への変換率は11.8-2.5=9.3%、ジエステル体への変換率は0%と推定できる。
【0124】
(実施例14)リパーゼを用いたヒドロキシプロピル化β−シクロデキストリンとオレイン酸のエステル化
グルコースが環状に7個結合したβ−シクロデキストリン(β-CD)のエステル化を行った。マルトースをβ-CDに変更した以外は、製造例1と同様にして反応を行い、粗精製ヒドロキシプロピル化β-CD1 (粗精製HP-β-CD1)を調製した。これを、DHBAをマトリックスとしてMALDI/TOF-MSで生成物の組成比を分析したところ、1分子のβ-CDのあたり5.9個の水酸基がヒドロキシプロピル化されていることが分かった。
【0125】
また、製造例1と同様の反応において、用いるプロピレンオキシドの量を1.5倍とし、さらにヒドロキシプロピル化反応を2日間に延ばした。その結果、1分子のβ-CDのあたり9.8個の水酸基がヒドロキシプロピル化されている粗精製ヒドロキシプロピル化β-CD2 (粗精製HP-β-CD2)を調製した。
【0126】
25 mgのβ-CDまたは粗精製HP-β-CD1または粗精製HP-β-CD2、100 mgのオレイン酸、5 mLのtert-ブタノールまたはアセトン、100 mgのNovozym 435、および300 mgのモレキュラーシーブ3Aを混合し、振盪しながら50℃で3または10日間反応させた。ケン化分解法により、1分子の粗精製HP-β-CDに対するオレイン酸のエステル化率(=(ケン化分解により遊離したオレイン酸のモル数)/粗精製(HP-β-CDのモル数)x 100)を算出した。その結果を表15に示す。
【0127】
【表15】
【0128】
その結果、β-CDをヒドロキシプロピル化することによって、エステル化率が有意に高くなることが分かった。また、β-CDに結合しているヒドロキシプロピル基を増やした方がエステル化率は高く、またtert-ブタノール中での反応よりアセトン中での反応の方がエステル化率は高かった。
【0129】
また、アセトン中で粗精製HP-β-CD2をオレイン酸で3日間エステル化した後の試料に含まれるオレイン酸を除去後、MALDI/TOF-MSで分析したところ、ヒドロキシプロピル基が8から12個結合したヒドロキシプロピル化β-CDのモノエステル体は、m/z=1885.9, 1943.8, 2001.8, 2059.8, 2117.8のナトリウム付加分子[M+Na+]としてそれぞれ検出された。一方、ヒドロキシプロピル化β-CDのジエステル体のナトリウム付加分子[M+Na+]は検出されず、またβ-CDの反応後の試料中にモノ及びジエステル体のナトリウム付加分子[M+Na+]は検出されなかった。これらの結果から、粗精製HP-β-CDに対するモノエステル体への変換率は33.4-2.1=31.3%、ジエステル体への変換率は0%と推定できる。
【0130】
(実施例15)リパーゼを用いたヒドロキシブチル化β−シクロデキストリンとオレイン酸のエステル化
マルトースをβ-CDに、プロピレンオキシドをブチレンオキシドに変更し、添加するNaOH量を2倍にし、反応時間を2日間に変更した以外は、製造例1と同様にして反応を行い、粗精製ヒドロキシブチル化β-CD (粗精製HB-β-CD)を調製した。これを、DHBAをマトリックスとしてMALDI/TOF-MSで生成物の組成比を分析したところ、1分子のβ-CDのあたり4.6個の水酸基がヒドロキシブチル化されていることが分かった。
【0131】
25 mgのβ-CDまたは粗精製HB-β-CD、100 mgのオレイン酸、5 mLのtert-ブタノール、100 mgのNovozym 435、および300 mgのモレキュラーシーブ3Aを混合し、振盪しながら50℃で3日間反応させた。ケン化分解法により、1分子の粗精製HB-β-CDに対するオレイン酸のエステル化率(=(ケン化分解により遊離したオレイン酸のモル数)/粗精製(HB-β-CDのモル数)x 100)を算出した。その結果を表16に示す。
【0132】
【表16】
【0133】
その結果、β-CDをヒドロキシブチル化することによって、エステル化率が高くなることが分かった。このように、ヒドロキシエチル化、ヒドロキシプロピル化だけでなく、ヒドロキシブチル化を行ったβ-CDにおいてもエステル化の基質になることが確認できた。
【0134】
(実施例16)ヒドロキシプロピル化マルトースオレイン酸エステルおよびヒドロキシプロピル化β-CDオレイン酸エステルの臨界ミセル濃度の測定
250 mgの粗精製HP-G2(製造例1で調製)、164 mgのオレイン酸(基質:オレイン酸=1:1 (モル比))、50 mLのアセトン、1 gのNovozym 435、および3 gのモレキュラーシーブ3Aを混合し、振盪しながら50℃で2日間反応させた。これと同じ反応を4回行った。反応後、全ての溶媒層を回収し、遠心分離により不溶物を除去後、エバポレーターで脱溶媒した。シリカゲルクロマトグラフィー(溶出溶媒は、ヘキサン:酢酸エチル=80 : 20(vol/vol))により未反応のオレイン酸を除去した。その結果、0.7 gの生成物が得られた。この生成物をMALDI/TOF-MSで分析した結果、未反応の粗精製HP-G2:モノエステル:ジエステルのピーク強度比は3.5 : 80.3 : 16.2であった。
【0135】
生成物の10-2 mol/L溶液を25 mL調製した後、これを蒸留水で適宜希釈し、10-6〜10-2mol/Lの溶液を調製した。自動表面張力計CBVP-A3型(協和界面科学株式会社)を用いて、これらの希釈液の表面張力を測定した。その結果、臨界ミセル濃度は8.7 x 10-6 mol/Lであった。同様にして、ヒドロキシプロピル化β-CDオレイン酸エステル(表15のアセトン中10日間反応物をヘキサン洗浄により未反応のオレイン酸を除去したもの)の臨界ミセル濃度は、1.3 x 10-5 mol/Lであった。これらの値は、従来のショ糖脂肪酸モノエステルの臨界ミセル濃度と同レベルである。従って、ヒドロキシプロピル化マルトースオレイン酸モノエステルを主成分とする生成物は、ショ糖脂肪酸モノエステルと同等の機能、つまり、界面活性能を有し、乳化剤などとして食品添加物、界面活性剤、化成品などの分野に幅広く利用することができる。
【0136】
(実施例17)ヒドロキシプロピル化β-CDオレイン酸エステルとトリプトファンメチルの包接
3 mgのトリプトファンメチル(メチル基の水素3分子が重水素に置換、Trp-Me)、0.8 mgのβ-CD またはHP-β-CDまたはHP-β-CDオレイン酸エステル(表15のアセトン中10日間反応物をヘキサン洗浄により未反応のオレイン酸を除去したもの)、および0.05 mLの水を混合した。
【0137】
これらを、イオントラップ型LC-MS(Finnigan LCQDECA、Thermo Quest)で分析したところ、β-CDにおいては、β-CDとTrp-Meの包接物のナトリウムイオン付加分子[M+Na+]と水素イオン付加分子[M+H+]が、HP-β-CDにおいては、HP-β-CDとTrp-Meの包接物の水素イオン付加分子[M+H+]が、HP-β-CDオレイン酸エステルにおいては、HP-β-CDオレイン酸エステルとTrp-Meの包接物の水素イオン付加分子[M+H+]が、それぞれ確認された。
【0138】
α-、β-、γ-シクロデキストリンは、その分子内にビタミンAやコエンザイムQ10などの各種機能性食品、ヨウ素などの各種抗菌剤、ワサビなどの各種食品フレーバー、プロスタグランジンなどの各種医薬品を包接することが分かっており、物質の安定化、徐放性、可溶化などの機能がある。シクロデキストリンに脂肪酸をエステル結合させることにより、両親媒性、つまり界面活性剤としての機能を持つようになる。従って、本実施例で得られた物質は、機能性物質の包接の機能と界面活性の機能を併せ持つ新規素材として期待できる。
【産業上の利用可能性】
【0139】
本発明によれば、二糖または三糖以上のオリゴ糖混合物またはシクロデキストリン等の環状糖などの水酸基を予めヒドロキシ終端型(ポリ)オキシアルキレン基で修飾し、ヒドロキシ終端型(ポリ)オキシアルキレン基修飾された糖類と脂肪酸とを混合し、温和な条件下で反応可能な酵素(リパーゼ)を反応させて、糖脂肪酸エステルの純度を制御するので、多様な糖脂肪酸エステルの適用分野に対応することができる。