【実施例】
【0071】
(製造例1)プロピレンオキシドを用いたヒドロキシプロピル化マルトース(HP-G2)の調製
20 gの水、0.3 gの水酸化ナトリウム、30 gのマルトース(G2)、および9 gのプロピレンオキシドを添加し、42℃、振盪しながら1晩反応させた。反応後、1.2 M HClを添加してpHを5に調製後、減圧下で未反応のプロピレンオキシドと水を除去し、粗精製HP-G2を調製した。
【0072】
この粗精製HP-G2を、2,5-ジヒドロキシ安息香酸(DHBA)をマトリックスとしてMALDI/TOF-MS(AXIMA Confidence、島津製作所)で分析した結果、(HP)
1-G2含量は51.3 モル%であった。分析結果を表1に示す。
【0073】
ここで、G2はマルトース、(HP)
1-G2はマルトースの水酸基の1か所がヒドロキシプロピル化された物質、(HP)
2-G2はマルトースの水酸基の2か所がヒドロキシプロピル化された物質、(HP)
3-G2はマルトースの水酸基の3か所がヒドロキシプロピル化された物質をそれぞれ意味する。また、HP-G2は、(HP)
1-G2、(HP)
2-G2および(HP)
3-G2の混合物を意味するか、または、ヒドロキシプロピル化された水酸基の個数を特定せずに包括的に表す場合に用いる。他のヒドロキシアルキル化糖類についても同様である。
【0074】
次に、4 gの粗精製HP-G2を830 mLの活性炭カラムに負荷し、0%エタノール(1.5 L)/50%エタノール(1.5 L)のグラジエントでG2、(HP)
1-G2、(HP)
2-G2等を溶出した。(HP)
1-G2を主成分とするフラクションを回収し、エバポレーターによる脱エタノールと凍結乾燥により、1.1 gの精製HP-G2を得た。
【0075】
この精製HP-G2を、DHBAをマトリックスとしてMALDI/TOF-MSで分析した結果を表1に示す。その結果、(HP)
1-G2含量は94.4 モル%であった。また、精製HP-G2をイオントラップ型LC-MS(Finnigan LCQ
DECA、Thermo Quest)で分析したところ、
m/z=423.3のナトリウムイオン付加分子[M+Na
+]が観測され、マルトースの水酸基の1か所がヒドロキシプロピル化された物質であることが確認された。
【0076】
【表1】
【0077】
(実施例1)水酸基のヒドロキシプロピル化による糖類の溶解度の影響
適量のマルトース(G2)または精製HP-G2を1mLの有機溶媒(tert-ブタノール、アセトン)に添加し、50℃に加熱して、一時間撹拌した。遠心分離により上清を回収し、脱溶媒後、残渣の重量を測定した。この値を有機溶媒1mLあたりの溶解度(mg/mL)とした。その結果を表2に示す。
【0078】
【表2】
【0079】
(実施例2)リパーゼを用いた精製HP-G2とオレイン酸とのエステル化
25 mgの基質(G2、および製造例1で調製した精製HP-G2)、100 mgのオレイン酸(東京化成、純度約90%)、5 mLのtert-ブタノール(和光純薬)、100 mgのカンジダ・アンタクティカ (
Candida antarctica)リパーゼ(Novozym 435、ノボザイムズジャパン)、および500 mgのモレキュラーシーブ3A(関東化学)を混合し、振盪しながら50℃で反応させた。1、3および5日後にサンプリングし、HPLCで生成物(G2または精製HP-G2のオレイン酸モノエステルおよびジエステル)の含量を測定し、G2、および精製HP-G2に対するモノエステルおよびジエステルへの変換率を算出した。結果を表3に示す。
【0080】
【表3】
【0081】
精製HP-G2を基質としたときの変換率は、G2を基質とした時に比べて、反応初期の1日目で31倍、反応後期の5日目で7.7倍高いことが分かった。したがって、二糖であるマルトースの水酸基をヒドロキシプロピル基で修飾することにより、リパーゼ反応を用いて、ヒドロキシプロピル化マルトースオレイン酸エステルが効率よく合成できることが分かった。
【0082】
効率よく合成できる理由として、(1)固型の基質にはきわめて作用しにくいリパーゼが、糖をヒドロキシアルキル化することにより、糖の有機溶媒への溶解性が高まり、作用しやすくなった、(2)糖の水酸基に(ポリ)オキシアルキレン基などのリンカーが存在するので、リパーゼの活性中心にヒドロキシアルキル基の水酸基が入りやすくなり、リパーゼの反応性が高まる、等が考えられる。
【0083】
マルトースの水酸基をヒドロキシプロピル基で修飾する反応は簡便で温和な条件下での反応であり、ピリジンなどの悪臭のある試薬を用いない反応である。これに引き続くリパーゼを用いるエステル化反応は、従来法(ヒドロキシプロピル化していないマルトースを用いた反応)よりも反応効率が高く、かつ、温和な条件下での反応であり、脂肪酸の劣化の危険性も低いことから、本合成法は、新規で優れた合成法である。
【0084】
(実施例3)(HP)
1-G2オレイン酸モノエステルのLC/MS分析
実施例2で合成されたモノエステルおよびジエステルをHPLCで分取・精製し、LC-MSで分析した。その結果、モノエステルおよびジエステルは、それぞれ
m/z=687.4および
m/z=951.5のナトリウム付加分子[M+Na
+]として検出された。ナトリウム付加分子を親イオンピークとして衝突誘起開裂したところ、モノエステルにおいては、[M-OCOR-H+Na
+]のフラグメントイオン
m/z=405 (R=CH
3(CH
2)
7CH=CH(CH
2)
7)、および[M-OCH
2CH(CH
3)OCOR-H+Na
+]のフラグメントイオン
m/z=347が検出された。一方、ジエステルにおいては、[M-OCOR-H+Na
+]のフラグメントイオン
m/z=669、および[M-OCH
2CH(CH
3)OCOR-H+Na
+]のフラグメントイオン
m/z=611がそれぞれ検出された。以上のことから、(HP)
1-G2にオレイン酸が1または2個エステル結合したヒドロキシプロピル化マルトースオレイン酸モノエステルおよびヒドロキシプロピル化マルトースオレイン酸ジエステルであることが確認された。なお、MALDI/TOF-MSの分析の結果、トリエステルは検出されなかった。
【0085】
(実施例4)リパーゼを用いたヒドロキシプロピル化二糖と脂肪酸のエステル化における二糖の種類の影響
マルトース以外の二糖においても、水酸基をヒドロキシプロピル化することにより、二糖脂肪酸エステルが効率よく合成できるかどうかを調べた。製造例1と同じ方法により、スクロース(ショ糖)またはラクトースから、粗精製HP-スクロースおよび粗精製HP-ラクトースを調製した。これらを、DHBAをマトリックスとしてMALDI/TOF-MSで生成物の組成比を分析した。その結果、粗精製HP-スクロースにおいては、未反応のスクロースは5.4モル%、水酸基の1か所がヒドロキシプロピル化された(HP)
1-スクロースが28.1モル%、水酸基の2か所がヒドロキシプロピル化された(HP)
2-スクロースが36.5モル%、水酸基の3か所がヒドロキシプロピル化された(HP)
3-スクロースが23.6モル%、および水酸基の4か所がヒドロキシプロピル化された(HP)
4-スクロースが6.4モル%であった。粗精製HP-ラクトースにおいては、未反応のラクトースは38.7モル%、水酸基の1か所がヒドロキシプロピル化された(HP)
1-ラクトースが49.3モル%、水酸基の2か所がヒドロキシプロピル化された(HP)
2-ラクトースが9.3モル%、および水酸基の3か所がヒドロキシプロピル化された(HP)
3-ラクトースが2.7モル%であった。
【0086】
25 mgの基質(スクロース、粗精製HP-スクロース、ラクトース、粗精製HP-ラクトース、マルトース(G2)、および粗精製HP-G2)、100 mgのオレイン酸、5 mLのtert-ブタノール、100 mgのNovozym 435、および500 mgのモレキュラーシーブ3Aを混合し、振盪しながら50℃で反応させた。1、3および5日後にサンプリングし、HPLCで生成物(オレイン酸モノエステル)の含量を測定し、原料に対するモノエステルへの変換率を算出した。その結果を表4に示す。
【0087】
【表4】
【0088】
その結果、マルトースだけではなく、スクロースやラクトースなどの二糖の水酸基をヒドロキシプロピル化することにより、リパーゼを用いて、ヒドロキシプロピル化二糖脂肪酸エステルが効率よく合成できることが分かり、本技術が幅広い二糖に適用できることが分かった。
【0089】
(実施例5)リパーゼを用いた精製HP-G2と脂肪酸のエステル化における脂肪酸の種類の影響
25 mgの精製HP-G2、100 mgの脂肪酸(カプリル酸、パルミチン酸、リノール酸、いずれも東京化成)、5 mLのtert-ブタノール、100 mgのNovozym 435、および500 mgのモレキュラーシーブ3Aを混合し、振盪しながら50℃で反応させた。1、3および5日後にサンプリングし、HPLCで生成物(精製HP-G2の各種脂肪酸モノエステル)の含量を測定し、精製HP-G2に対するモノエステルへの変換率を算出した。その結果を表5に示す。
【0090】
【表5】
【0091】
その結果、炭素数18個、二重結合1個で常温液状のオレイン酸(C18:1)だけではなく、オレイン酸よりも二重結合が多い(2個)のリノール酸(C18:2)、炭素数16個で二重結合がなく常温で固形のパルミチン酸(C16:0)、炭素数が短くて(8個)二重結合がないカプリル酸(C8:0)においても、オレイン酸と同様、リパーゼを用いて、ヒドロキシプロピル化マルトース脂肪酸モノエステルが効率よく合成できることがわかり、本技術が幅広い脂肪酸に適用できることが分かった。
【0092】
(実施例6)リパーゼを用いた精製HP-G2とオレイン酸のエステル化における溶媒の種類の影響
25 mgの精製HP-G2、100 mgのオレイン酸、5 mLの溶媒(ヘキサン、アセトニトリル、アセトン)、100 mgのNovozym 435、および500 mgのモレキュラーシーブ3Aを混合し、振盪しながら50℃で反応させた。1、3および5日後にサンプリングし、HPLCで生成物(精製HP-G2のオレイン酸モノエステルおよびジエステル)の含量を測定し、精製HP-G2に対するモノエステルおよびジエステルへの変換率を算出した。その結果を表6に示す。なお、実施例2におけるtert-ブタノール中の反応も併記した。
【0093】
【表6】
【0094】
その結果、tert-ブタノールだけではなく、アセトニトリルおよびアセトン中でも効率よくエステル化反応が進行することが分かった。特にアセトン中における1日目のエステル化率は、tert-ブタノール中における1日目のエステル化率よりも大きいことが分かった。
【0095】
(実施例7)リパーゼを用いた精製HP-G2とオレイン酸のエステル化におけるモル比の影響
25 mgの基質(G2または精製HP-G2)、100 mgのオレイン酸(基質:オレイン酸=1:6 (モル比))または16.4 mgのオレイン酸(基質:オレイン酸=1:1(モル比))、5 mLのアセトン、100 mgのNovozym 435、および500 mgのモレキュラーシーブ3Aを混合し、振盪しながら50℃で反応させた。1および2日後にサンプリングし、HPLCで生成物(G2または精製HP-G2のオレイン酸モノエステルおよびジエステル)の含量を測定し、G2または精製HP-G2に対するモノエステルおよびジエステルへの変換率を算出した。その結果を表7に示す。
【0096】
【表7】
【0097】
その結果、実施例2におけるtert-ブタノール中での反応と同様、オレイン酸過剰量存在中でのアセトン中での反応では、G2よりも精製HP-G2の方がエステル化率は高かった。一方、オレイン酸が過剰量存在するとき、ジエステルが多く存在していた。しかし、オレイン酸量を減らして基質:オレイン酸=1:1(モル比)とした時、精製HP-G2の1日目での反応では、モノエステル:ジエステル=60:4(モル比)であったことから、オレイン酸量を基質に対して等モル使用することにより、モノエステルを選択的(エステル体の合計に対するモノエステルのモル比が90%以上)に合成できることが分かった。また、アセトン中でオレイン酸量を基質に対して等モル使用した場合でも、G2よりも精製HP-G2の方がエステル化率は約6倍高かった。なお、MALDI/TOF-MS分析の結果、モル比1:1、1:6のいずれにおいても、トリエステルは検出されなかった。このように、基質(糖類および脂肪酸)のバランスを考慮することにより、モノエステルとジエステルの生成量比をコントロールできることが分かった。
【0098】
(実施例8)リパーゼを用いた精製HP-G2とオレイン酸のエステル化におけるモレキュラーシーブ3Aの量の影響
25 mgの精製HP-G2、16.4 mgのオレイン酸(基質:オレイン酸=1:1 (モル比))、5 mLのアセトン、100 mgのNovozym 435、およびモレキュラーシーブ3A(0, 100, 300, 500 mg)を混合し、振盪しながら50℃で反応させた。1および2日後にサンプリングし、HPLCで生成物(精製HP-G2のオレイン酸モノエステルおよびジエステル)の含量を測定し、精製HP-G2に対するモノエステルおよびジエステルへの変換率を算出した。その結果を表8に示す。
【0099】
【表8】
【0100】
その結果、エステル化反応に伴って生成する水を除去するモレキュラーシーブが反応系になくても反応はするものの、モレキュラーシーブがあった方が反応性は高いことが分かり、本反応条件下においては、モレキュラーシーブ量が300 mgの時に最も生成物含量が高かった。
【0101】
(実施例9)リパーゼを用いた精製HP-G2とオレイン酸のエステル化における基質量の影響
25, 75, 150, 300 mgの精製HP-G2、16.4, 49.2, 98.4, 196.8 mgのオレイン酸(基質:オレイン酸=1:1(モル比))、5 mLのアセトン、100 mgのNovozym 435、および300 mgのモレキュラーシーブ3Aを混合し、振盪しながら50℃で反応させた。1、2および3日後にサンプリングし、HPLCで生成物(精製HP-G2のオレイン酸モノエステルおよびジエステル)の含量を測定し、5 mLの反応系に生成するモノエステルおよびジエステルの量を算出した。その結果を表9に示す。
【0102】
【表9】
【0103】
その結果、25 mgまたは75 mgの基質を用いた時は90%以上の純度(モノエステル/(モノエステル+ジエステル))でモノエステルが合成できるが、それよりも基質が多くなった時は、生成物の総量が多くなり、ジエステルの比率も高くなった。また、基質量をコントロールすることにより、モノエステルとジエステルの生成量比をコントロールできることが分かった。
【0104】
(実施例10)精製HP-G2とオレイン酸のエステル化におけるリパーゼの種類の影響
25 mgの精製HP-G2、16.4または100 mgのオレイン酸(基質:オレイン酸=1:1(モル比)または1:6)、5 mLのtert-ブタノールまたはアセトン、100 mgの固定化リパーゼ(Novozym 435、Lipozym TLIM (サーモミセス・ラヌギノザ (
Thermomyces lanuginosa) 由来、ノボザイムズジャパン)、Lipozym RMIM (リゾムコール・ミーヘイ (
Rhizomucor miehei) 由来、ノボザイムズジャパン)、イオン交換樹脂Duolite A568 (Rhom and Haas社製、輸入元:住化ケムテックス)に固定化したLipase-QLM (アルカリゲネス属 (
Alkaligenes sp.) 名糖産業))または100 mgの遊離型リパーゼ (Lipase-QLM、Lipase-OF (カンジダ・ルゴザ (
Candida rugosa) 名糖産業))、および300 mgのモレキュラーシーブ3Aを混合し、振盪しながら50℃で反応させた。1〜5日後にサンプリングし、HPLCで生成物(精製HP-G2のオレイン酸モノエステル)の組成を測定し、精製HP-G2に対するモノエステルへの変換率を算出した。その結果を表10に示す。
【0105】
【表10】
【0106】
その結果、固定化Novozym 435だけではなく、固定化されているLipozym TLIM、Lipozym RMIM 、Lipase-QLM、固定化していない遊離型のLipase-QLM、Lipase-OFでも生成物が有意に認められた。
【0107】
(製造例2)エチレンクロルヒドリンを用いたヒドロキシエチル化マルトース(HE-G2)の調製
300 gの水、6 gの水酸化ナトリウム、300 gのマルトース(G2)、および90 gのエチレンクロルヒドリンを添加し、38℃、撹拌しながら、pHを11.8以下にならない様に24% NaOH溶液を適宜滴下しながら1晩反応させた。反応後、1.2 M HClを添加してpHを5に調製後、活性炭カラムクロマトに供して、30%エタノールで溶出し、粗精製HE-G2液を得た。その液を、エバポレーションにより濃縮、乾固させ、粗精製HE-G2を得た。
【0108】
これを、DHBAをマトリックスとしてMALDI/TOF-MSで生成物の組成比を分析したところ、未反応のG2は5.6モル%、水酸基の1か所がヒドロキシエチル化された(HE)
1-G2が52.8モル%、水酸基の2か所がヒドロキシエチル化された(HE)
2-G2が35.5モル%、水酸基の3か所がヒドロキシエチル化された(HE)
3-G2が6.1モル%であった。
【0109】
(実施例11)
25 mgの粗精製HE-G2、16.4 mgのオレイン酸(基質:オレイン酸=1:1(モル比))、5 mLのアセトン、100 mgのNovozym 435、および300 mgのモレキュラーシーブ3Aを混合し、振盪しながら50℃で反応させた1および2日後にサンプリングし、HPLCで生成物(粗精製HE-G2のオレイン酸モノエステルおよびジエステル)の含量を測定し、粗精製HE-G2に対するモノエステルおよびジエステルへの変換率を算出した。その結果を表11に示す。
【0110】
【表11】
【0111】
その結果、マルトースの水酸基をヒドロキシプルピル基で修飾するだけではなく、ヒドロキシエチル基で修飾しても、リパーゼの反応性が向上することが分かった。また、エステル化反応後の生成物をMALDI/TOF-MSで分析したところ、(HE)
1-G2、(HE)
2-G2のモノエステル体は、それぞれ、
m/z=673.2、717.2のナトリウム付加分子[M+Na
+]として検出された。なお、トリエステルのナトリウム付加分子[M+Na
+]は検出されなかった。
【0112】
(製造例3)三糖以上のオリゴ糖混合物の製造
三糖以上のオリゴ糖混合物を以下の方法で試作した。特開平9-143191号公報に記載の方法に準じて、タピオカ澱粉をα-アミラーゼで分解し、還元糖が25のマルトオリゴ糖を得た。その後、そのマルトオリゴ糖を40%水溶液に調整し、生イースト(オリエンタル酵母株式会社製)をマルトオリゴ糖に対して4%添加し、35℃で2日間撹拌した。その後、珪藻土、活性炭、イオン交換樹脂による精製、噴霧乾燥を行って最終製品とした。その結果、G2以下を0.7 wt%、マルトトリオース(G3)を18.1 wt%、マルトテトラオース(G4)を19.9 wt%、マルトペンタオース(G5)を28.4 wt%、マルトヘキサオース(G6)を14.3 wt%、マルトヘプタオース(G7)以上を18.6 wt%含むオリゴ糖混合物(平均で4.6個のグルコースが結合する。)を得た。
【0113】
(実施例12)リパーゼを用いた三糖以上のオリゴ糖混合物のヒドロキシプロピル化物とオレイン酸のエステル化
マルトースを製造例3で製造したオリゴ糖混合物(No.3L-P)に変更した以外は、製造例1と同様にして反応を行い、粗精製ヒドロキシプロピル化した三糖以上のオリゴ糖混合物(粗精製HP-No.3L-P)を調製した。これをMALDI/TOF-MSで分析した結果、1分子あたりに結合しているヒドロキシプロピル基の数は、G3は1.62個、G4は1.76個、G5は2.03個、G6は2.17個であった。
【0114】
25 mgのNo.3L-P(製造例3で製造したオリゴ糖混合物)または粗精製HP-No.3L-P(粗精製ヒドロキシプロピル化した三糖以上のオリゴ糖混合物)、100 mgのオレイン酸、5 mLのアセトンまたはtert-ブタノール、100 mgのNovozym 435、および300 mgのモレキュラーシーブ3Aを混合し、振盪しながら50℃で3日間反応させた。ケン化分解法により、1分子(平均4.6個のグルコースが結合する。)のHP-No.3L-P(粗精製ヒドロキシプロピル化した三糖以上のオリゴ糖混合物)に対するオレイン酸のエステル化率(=(ケン化分解により遊離したオレイン酸のモル数)/(粗精製HP-No.3L-P(粗精製ヒドロキシプロピル化した三糖以上のオリゴ糖混合物)のモル数)x 100)を算出した。その結果を表12に示す。
【0115】
【表12】
【0116】
その結果、No.3L-Pをヒドロキシプロピル化することにより、エステル化率が有意に高くなることが分かった。
【0117】
また、DHBAをマトリックスとしてMALDI/TOF-MSで反応液を分析したところ、オリゴ糖のオレイン酸モノエステル体は、表13に示すようなナトリウムイオン付加分子[M+Na
+]として検出され、生成物と確認された。一方、ヒドロキシプロピル化オリゴ糖のジエステル体のナトリウムイオン付加分子は検出されなかった。
【0118】
【表13】
【0119】
(実施例13)リパーゼを用いたヒドロキシプロピル化α-シクロデキストリンとオレイン酸のエステル化
グルコースが環状に6個結合したα-シクロデキストリン(α-CD)のエステル化を行った。マルトースをα-CDに変更した以外は、製造例1と同様にして反応を行い、粗精製ヒドロキシプロピル化α-CD (粗精製HP-α-CD)を調製した。これを、DHBAをマトリックスとしてMALDI/TOF-MSで生成物の組成比を分析したところ、1分子のα-CDのあたり8.1個の水酸基がヒドロキシプロピル化されていることが分かった。
【0120】
25 mgのα-CDまたは粗精製HP-α-CD、100 mgのオレイン酸、5 mLのtert-ブタノール、100 mgのNovozym 435、および300 mgのモレキュラーシーブ3Aを混合し、振盪しながら50℃で3日間反応させた。ケン化分解法により、1分子の粗精製HP-α-CDに対するオレイン酸のエステル化率(=(ケン化分解により遊離したオレイン酸のモル数)/粗精製(HP-α-CDのモル数)x 100)を算出した。その結果を表14に示す。
【0121】
【表14】
【0122】
その結果、α-CDをヒドロキシプロピル化することにより、エステル化率が有意に高くなることが分かった。
【0123】
また、粗精製HP-α-CDをオレイン酸でエステル化した後の試料に含まれるオレイン酸を除去後、MALDI/TOF-MSで分析したところ、ヒドロキシプロピル基が6から10個結合したヒドロキシプロピル化α-CDのモノエステル体は、
m/z=1607.7, 1665.3, 1723.6, 1781.5, 1839.6のナトリウムイオン付加分子[M+Na
+]としてそれぞれ検出された。一方、ヒドロキシプロピル化α-CDのジエステル体のナトリウムイオン付加分子[M+Na
+]は検出されなかった。また、α-CDをオレイン酸でエステル化した後の試料を同様にしてMALDI/TOF-MSで分析したところ、エステル体のピークは確認されなかった。従って、表14におけるα-CDに対するエステル化率が2.5%とあるのは、ケン化分解法によるエステル化率測定のバックグラウンドレベルの値であると推定される。これらの結果から、粗精製HP-α-CDに対するモノエステル体への変換率は11.8-2.5=9.3%、ジエステル体への変換率は0%と推定できる。
【0124】
(実施例14)リパーゼを用いたヒドロキシプロピル化β−シクロデキストリンとオレイン酸のエステル化
グルコースが環状に7個結合したβ−シクロデキストリン(β-CD)のエステル化を行った。マルトースをβ-CDに変更した以外は、製造例1と同様にして反応を行い、粗精製ヒドロキシプロピル化β-CD1 (粗精製HP-β-CD1)を調製した。これを、DHBAをマトリックスとしてMALDI/TOF-MSで生成物の組成比を分析したところ、1分子のβ-CDのあたり5.9個の水酸基がヒドロキシプロピル化されていることが分かった。
【0125】
また、製造例1と同様の反応において、用いるプロピレンオキシドの量を1.5倍とし、さらにヒドロキシプロピル化反応を2日間に延ばした。その結果、1分子のβ-CDのあたり9.8個の水酸基がヒドロキシプロピル化されている粗精製ヒドロキシプロピル化β-CD2 (粗精製HP-β-CD2)を調製した。
【0126】
25 mgのβ-CDまたは粗精製HP-β-CD1または粗精製HP-β-CD2、100 mgのオレイン酸、5 mLのtert-ブタノールまたはアセトン、100 mgのNovozym 435、および300 mgのモレキュラーシーブ3Aを混合し、振盪しながら50℃で3または10日間反応させた。ケン化分解法により、1分子の粗精製HP-β-CDに対するオレイン酸のエステル化率(=(ケン化分解により遊離したオレイン酸のモル数)/粗精製(HP-β-CDのモル数)x 100)を算出した。その結果を表15に示す。
【0127】
【表15】
【0128】
その結果、β-CDをヒドロキシプロピル化することによって、エステル化率が有意に高くなることが分かった。また、β-CDに結合しているヒドロキシプロピル基を増やした方がエステル化率は高く、またtert-ブタノール中での反応よりアセトン中での反応の方がエステル化率は高かった。
【0129】
また、アセトン中で粗精製HP-β-CD2をオレイン酸で3日間エステル化した後の試料に含まれるオレイン酸を除去後、MALDI/TOF-MSで分析したところ、ヒドロキシプロピル基が8から12個結合したヒドロキシプロピル化β-CDのモノエステル体は、
m/z=1885.9, 1943.8, 2001.8, 2059.8, 2117.8のナトリウム付加分子[M+Na
+]としてそれぞれ検出された。一方、ヒドロキシプロピル化β-CDのジエステル体のナトリウム付加分子[M+Na
+]は検出されず、またβ-CDの反応後の試料中にモノ及びジエステル体のナトリウム付加分子[M+Na
+]は検出されなかった。これらの結果から、粗精製HP-β-CDに対するモノエステル体への変換率は33.4-2.1=31.3%、ジエステル体への変換率は0%と推定できる。
【0130】
(実施例15)リパーゼを用いたヒドロキシブチル化β−シクロデキストリンとオレイン酸のエステル化
マルトースをβ-CDに、プロピレンオキシドをブチレンオキシドに変更し、添加するNaOH量を2倍にし、反応時間を2日間に変更した以外は、製造例1と同様にして反応を行い、粗精製ヒドロキシブチル化β-CD (粗精製HB-β-CD)を調製した。これを、DHBAをマトリックスとしてMALDI/TOF-MSで生成物の組成比を分析したところ、1分子のβ-CDのあたり4.6個の水酸基がヒドロキシブチル化されていることが分かった。
【0131】
25 mgのβ-CDまたは粗精製HB-β-CD、100 mgのオレイン酸、5 mLのtert-ブタノール、100 mgのNovozym 435、および300 mgのモレキュラーシーブ3Aを混合し、振盪しながら50℃で3日間反応させた。ケン化分解法により、1分子の粗精製HB-β-CDに対するオレイン酸のエステル化率(=(ケン化分解により遊離したオレイン酸のモル数)/粗精製(HB-β-CDのモル数)x 100)を算出した。その結果を表16に示す。
【0132】
【表16】
【0133】
その結果、β-CDをヒドロキシブチル化することによって、エステル化率が高くなることが分かった。このように、ヒドロキシエチル化、ヒドロキシプロピル化だけでなく、ヒドロキシブチル化を行ったβ-CDにおいてもエステル化の基質になることが確認できた。
【0134】
(実施例16)ヒドロキシプロピル化マルトースオレイン酸エステルおよびヒドロキシプロピル化β-CDオレイン酸エステルの臨界ミセル濃度の測定
250 mgの粗精製HP-G2(製造例1で調製)、164 mgのオレイン酸(基質:オレイン酸=1:1 (モル比))、50 mLのアセトン、1 gのNovozym 435、および3 gのモレキュラーシーブ3Aを混合し、振盪しながら50℃で2日間反応させた。これと同じ反応を4回行った。反応後、全ての溶媒層を回収し、遠心分離により不溶物を除去後、エバポレーターで脱溶媒した。シリカゲルクロマトグラフィー(溶出溶媒は、ヘキサン:酢酸エチル=80 : 20(vol/vol))により未反応のオレイン酸を除去した。その結果、0.7 gの生成物が得られた。この生成物をMALDI/TOF-MSで分析した結果、未反応の粗精製HP-G2:モノエステル:ジエステルのピーク強度比は3.5 : 80.3 : 16.2であった。
【0135】
生成物の10
-2 mol/L溶液を25 mL調製した後、これを蒸留水で適宜希釈し、10
-6〜10
-2mol/Lの溶液を調製した。自動表面張力計CBVP-A3型(協和界面科学株式会社)を用いて、これらの希釈液の表面張力を測定した。その結果、臨界ミセル濃度は8.7 x 10
-6 mol/Lであった。同様にして、ヒドロキシプロピル化β-CDオレイン酸エステル(表15のアセトン中10日間反応物をヘキサン洗浄により未反応のオレイン酸を除去したもの)の臨界ミセル濃度は、1.3 x 10
-5 mol/Lであった。これらの値は、従来のショ糖脂肪酸モノエステルの臨界ミセル濃度と同レベルである。従って、ヒドロキシプロピル化マルトースオレイン酸モノエステルを主成分とする生成物は、ショ糖脂肪酸モノエステルと同等の機能、つまり、界面活性能を有し、乳化剤などとして食品添加物、界面活性剤、化成品などの分野に幅広く利用することができる。
【0136】
(実施例17)ヒドロキシプロピル化β-CDオレイン酸エステルとトリプトファンメチルの包接
3 mgのトリプトファンメチル(メチル基の水素3分子が重水素に置換、Trp-Me)、0.8 mgのβ-CD またはHP-β-CDまたはHP-β-CDオレイン酸エステル(表15のアセトン中10日間反応物をヘキサン洗浄により未反応のオレイン酸を除去したもの)、および0.05 mLの水を混合した。
【0137】
これらを、イオントラップ型LC-MS(Finnigan LCQ
DECA、Thermo Quest)で分析したところ、β-CDにおいては、β-CDとTrp-Meの包接物のナトリウムイオン付加分子[M+Na
+]と水素イオン付加分子[M+H
+]が、HP-β-CDにおいては、HP-β-CDとTrp-Meの包接物の水素イオン付加分子[M+H
+]が、HP-β-CDオレイン酸エステルにおいては、HP-β-CDオレイン酸エステルとTrp-Meの包接物の水素イオン付加分子[M+H
+]が、それぞれ確認された。
【0138】
α-、β-、γ-シクロデキストリンは、その分子内にビタミンAやコエンザイムQ10などの各種機能性食品、ヨウ素などの各種抗菌剤、ワサビなどの各種食品フレーバー、プロスタグランジンなどの各種医薬品を包接することが分かっており、物質の安定化、徐放性、可溶化などの機能がある。シクロデキストリンに脂肪酸をエステル結合させることにより、両親媒性、つまり界面活性剤としての機能を持つようになる。従って、本実施例で得られた物質は、機能性物質の包接の機能と界面活性の機能を併せ持つ新規素材として期待できる。