【発明が解決しようとする課題】
【0010】
このような従来技術では、バッファアンプU11,U12の入力オフセット電圧は、高精度タイプでも1℃あたり数μV程度の温度特性(オフセット電圧温度ドリフト)があり、このDC成分がU11,U12から出力される。この温度特性には個体差があり、そのまま後段の差動増幅回路に入力すると、U11,U12の温度特性の差はキャンセルされずに増幅され、流量計測値が温度によりドリフトを起こしてしまう。通常、流量信号レベルは、一般的に流速1m/sあたり200μVp−p程度なので無視できない。
【0011】
このため、従来技術では、カップリングコンデンサC11,C12を差動増幅回路の入力側に入れてU11,U12出力のDC成分をカットしている。しかしながら、カップリングコンデンサC11,C12に起因して、差動増幅器におけるコモンモード電圧除去能力(以下、CMRRという:Common-Mode Rejection Ratio)の悪化や入力異常復帰遅れが発生するという問題点があった。
【0012】
[CMRRの悪化]
まず、差動増幅回路におけるCMRRの悪化について説明する。
差動増幅回路は、流量信号に重畳されているコモンモードノイズ成分を除去しつつ流量信号を増幅するのが目的である。しかし、
図6において、U13に単体でCMRRが高いオペアンプを使用したとしても、差動増幅回路としてのCMRRは、差動増幅回路の反転入力−U13の反転入力端子間に接続されている抵抗素子R11と差動増幅回路の非反転入力−U13の非反転入力端子間に接続されている抵抗素子R12とのマッチング、U13の反転入力端子−出力端子間に接続されている抵抗素子R13とU13の非反転入力端子−接地電位間に接続されている抵抗素子R14とのマッチング、さらにカップリングコンデンサC11とC12とのマッチングにも大きく影響されてしまう。
【0013】
また、
図6の回路構成では、C11とR11,R13の合成抵抗、およびC12とR12,R14の合成抵抗で、それぞれハイパスフィルタが形成される。これにより、これらの時定数を励磁周波数(=信号周波数)に対して十分に大きくし、信号周波数成分が損失しないようにしてやらないと、信号波形の振幅が減衰してしまう。このため、C11,C12には数十μF以上の大きな容量が必要となる。
【0014】
図8は、従来の差動増幅回路の入出力を示す信号波形図である。
例えば、
図6の回路で励磁周波数=12.5Hz、R11=R12=10kΩ、R13=R14=100kΩ(差動増幅ゲイン:10倍)のとき、C11=C12=100uFであれば、
図8(1)に示すように、ほとんど波形がなまらずに流量信号を増幅できる。
一方、C11=C12=10uFでは、
図8(2)のように、U13の出力電圧波形V11がなまってしまう。このような、なまった波形でサンプリングしたとすると、C11,C12のわずかな温度特性の違いが流量計測値に大きく影響してしまうことになる。
【0015】
このため、カップリングコンデンサC11,C12には、比較的温度特性が良いタンタル電解コンデンサが使用される。この際、容量精度の良い積層セラミックコンデンサ(温度補償タイプ)も考えられるが、0.1uF程度までしか製造されていないので使用できない。
しかし、タンタル電解コンデンサの容量精度はせいぜい±10%程度でありC11,C12のミスマッチングは避けられない。特に、低周波側ではC11,C12のインピーダンスが大きくなり、ミスマッチング・インピーダンス分も大きくなって、差動増幅回路のCMRRが悪化する。このため、低周波域のコモンモードノイズ成分があるとこれを十分に除去できず、流量計測値がふらついてしまう。また、このふらつきは、S/Wによる平均化処理を行えば安定性を向上できるが、その分、応答性は悪化する。
【0016】
なお、R11,R13の合成抵抗、およびR12,R14の合成抵抗を大きくすれば、相対的にC11,C12のインピーダンスが小さくなるのでC11,C12のミスマッチングによるCMRRの悪化を改善できるが、これらの値を大きくすると、抵抗による熱雑音が増加して出力信号のS/N比が悪化してしまう。このため、これらの合成抵抗は数kΩ程度以下にしておく必要がある。
また、信号レベルが十分に大きくて熱雑音によるS/N比の悪化が問題にならない場合でも、合成抵抗を大きくする際にはR11とR12のマッチングおよびR13とR14のマッチングを維持する必要があり、高抵抗かつ高精度の抵抗は製造されていないため、低抵抗かつ高精度の抵抗を複数個直列に接続して高抵抗かつ高精度にしなければならず、コストUPとなってしまう。
【0017】
[入力異常復帰遅れ]
次に、入力異常復帰遅れについて説明する。
配管内の流体が空になり検出器の検出電極が非接液状態になった場合や、検出器の信号線が断線した場合、許容入力電圧範囲を超えるノイズが入力信号に重畳された場合などは流量測定不能となるので、前述の入力信号異常処理が行われるが、その後入力信号が正常復帰したら、できるだけ早く流量測定を再開させなければならない。
【0018】
このとき、
図6の回路において、U13による差動増幅回路のゲインが大きいと、カップリングコンデンサC11,C12にチャージされた電圧の影響でU13の出力飽和状態からの復帰に時間がかかってしまうため、U13のゲインをあまり大きくすることはできない。このため、後段にU14による増幅回路を入れて複数段に分割し、後段のサンプル&ホールドおよびA/D変換が可能なレベルまで増幅している。
【0019】
例えば、配管内が空になり、その後満水状態に復帰した場合、
図7のように、検出器の検出電極が完全に水平となるよう設置されていれば、検出電極TAと検出電極TBが同時に接液するが、傾いて設置されていた場合は検出電極TBが先に接液し、その後検出電極TAが接液するなど、接液のタイミングにズレが発生する。
【0020】
図9は、
図6の信号増増幅回路の動作を示す信号波形図であり、(a)はゲイン50倍のとき、(b)はゲイン10倍のときを示している。なお、電源電圧は±5Vであり、U11〜U13はレールtoレール入出力タイプとする。
【0021】
図9(a),(b)に共通して、時刻T0よりも前の期間では、検出電極TAは非接液状態(ハイ・インピーダンス)であり、U11の入力バイアス電流によりA端子はマイナス側電源電圧レベルまで低下するため、U11の出力はマイナス側の飽和状態(−5V)となり、C11の両端電圧VC11は−5Vがチャージされている。
また、時刻T0のタイミングで、検出電極TAが非接液の状態から接液状態に復帰すると、検出電極TAから正常な信号がU11に入力され、U11の出力電圧は−5Vから ±100μV(信号振幅の半分)に正常復帰する。この際、C11のチャージ電圧VC11により差動増幅回路の入力電圧V10は約−5Vで、出力電圧V11はマイナス側で飽和状態(−5V)となっている。
【0022】
その後、C11にチャージされた電圧がR11,R13の直列抵抗を通して放電されるが、
図9(a)のゲイン50倍の場合は、R13の抵抗値が大きい分C11の放電に時間がかかり、さらにゲインも高いため、出力が飽和状態から復帰して正常な測定が可能な状態になるまで約40秒かかってしまう。
一方、
図9(b)のゲイン10倍の場合は、R13の抵抗値が小さいのでC11の放電が早く、ゲインも低いため、出力が飽和状態から復帰して正常な測定が可能な状態になるまで約10秒となっている。
【0023】
したがって、U13の差動増幅ゲインを大きくすると、正常な測定が可能になるまでの時間が長くなってしまうので、増幅回路を複数段に分割する必要があり、それぞれのアンプの出力に、例えば
図6のカップリングコンデンサC13,C14を入れて、オフセット電圧によるDC成分をカットする必要があった。
以上の通り、信号増増幅回路において、入力信号が異常値から正常復帰しても、これらC11,C12により、出力信号の正常復帰が遅れて、流量測定の再開が遅れることになる。
【0024】
本発明はこのような課題を解決するためのものであり、カップリングコンデンサに起因する、差動増幅回路におけるCMRRの悪化や入力異常復帰遅れを回避できる、電磁流量計の信号増幅回路技術を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0025】
このような目的を達成するために、本発明にかかる信号増幅回路は、配管内に配置された一対の検出電極で検出されて第1および第2の流量信号入力端子から入力された流量信号を信号増幅回路で差動増幅した後にサンプルホールド回路でサンプリングすることにより、当該配管を流れる流体の流量を測定するとともに、当該信号増幅回路で得られた出力信号に基づいて、当該流量信号の異常を異常検出回路で検出する電磁流量計で用いられる前記信号増幅回路であって、一方の入力端子が前記第1の流量信号入力端子に接続され、他方の入力端子が前記第2の流量信号入力端子に接続され、前記流量信号を差動増幅して得られた増幅出力信号を出力端子から前記サンプルホールド回路へ出力する、FET入力かつ1チップタイ
プの計装アンプと、非反転入力端子が前記第1の流量信号入力端子に接続され、反転入力端子が自己の出力端子に接続され、得られた第1の出力信号を当該出力端子から前記異常検出回路へ出力する第1のバッファアンプと、非反転入力端子が前記第2の流量信号入力端子に接続され、反転入力端子が自己の出力端子に接続され、得られた第2の出力信号を当該出力端子から前記異常検出回路へ出力する第2のバッファアンプと、前記第1のバッファアンプの出力端子に接続されて、前記第1の流量信号入力端子と当該第1のバッファアンプの非反転入力端子とを結ぶ基板上の第1の配線パターンに対して、その周囲を囲うように当該基板上に形成された第1のガードリングパターンと、前記第2のバッファアンプの出力端子に接続されて、前記第2の流量信号入力端子と当該第2のバッファアンプの非反転入力端子とを結ぶ基板上の第2の配線パターンに対して、その周囲を囲うように当該基板上に形成された第2のガードリングパターンとを備えている。
【0026】
また、本発明にかかる上記信号増幅回路の一構成例は、前記計装アンプが、一方の入力端子が第1の抵抗素子を介して前記第1の流量信号入力端子と接続されるとともに、他方の入力端子が第2の抵抗素子を介して前記第2の流量信号入力端子と接続され、前記第1のガードリングパターンは、基板上に実装された前記第1の抵抗素子の下を潜って前記第1の配線パターンの周囲を囲うように形成されており、前記第2のガードリングパターンは、基板上に実装された前記第2の抵抗素子の下を潜って前記第2の配線パターンの周囲を囲うように形成されているものである。
【0027】
また、本発明にかかる他の信号増幅回路は、配管内に配置された一対の検出電極で検出されて第1および第2の流量信号入力端子から入力された流量信号を、信号増幅回路で差動増幅した後にサンプルホールド回路でサンプリングすることにより、当該配管を流れる流体の流量を測定するとともに、当該信号増幅回路で得られた出力信号に基づいて、当該流量信号の異常を異常検出回路で検出する電磁流量計で用いられる前記信号増幅回路であって、一方の入力端子が前記第1の流量信号入力端子に接続され、他方の入力端子が前記第2の流量信号入力端子に接続され、前記流量信号を差動増幅して得られた増幅出力信号を出力端子から前記サンプルホールド回路と前記異常検出回路へ出力する、FET入力かつ1チップタイプの計装アンプと、前記第1の流量信号入力端子に非反転入力端子が接続され、反転入力端子が自己の出力端子に接続され、得られた出力信号を当該出力端子から前記異常検出回路へ出力するバッファアンプと、前記バッファアンプの出力端子に接続されて、前記第1の流量信号入力端子、当該バッファアンプの非反転入力端子、および前記計装アンプの前記一方の入力端子を結ぶ基板上の第1の配線パターンと、前記第2の流量信号入力端子および前記計装アンプの前記他方の入力端子を結ぶ基板上の第2の配線パターンとに対して、その周囲を囲うように当該基板上に形成されたガードリングパターンとを備えている。
【0028】
また、本発明にかかる上記他の信号増幅回路の一構成例は、前記計装アンプが、前記一方の入力端子が前記第1の流量信号入力端子と直接接続されるとともに、前記他方の入力端子が前記第2の流量信号入力端子と直接接続され、前
記ガードリングパターンは、基板上に実装された計装アンプの下を潜って前記第1および前記第2の配線パターンの周囲を囲うように形成されているものである。