特許第5997639号(P5997639)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5997639
(24)【登録日】2016年9月2日
(45)【発行日】2016年9月28日
(54)【発明の名称】原子炉用制御棒およびその製造方法
(51)【国際特許分類】
   G21C 7/113 20060101AFI20160915BHJP
【FI】
   G21C7/10 JGDB
【請求項の数】14
【全頁数】27
(21)【出願番号】特願2013-59295(P2013-59295)
(22)【出願日】2013年3月22日
(65)【公開番号】特開2013-228376(P2013-228376A)
(43)【公開日】2013年11月7日
【審査請求日】2015年2月25日
(31)【優先権主張番号】特願2012-72819(P2012-72819)
(32)【優先日】2012年3月28日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】507250427
【氏名又は名称】日立GEニュークリア・エナジー株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000350
【氏名又は名称】ポレール特許業務法人
(72)【発明者】
【氏名】柳田 信義
(72)【発明者】
【氏名】町田 浩一
【審査官】 後藤 孝平
(56)【参考文献】
【文献】 特開2002−025968(JP,A)
【文献】 特開平05−323080(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G21C 7/10
G21C 21/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
タイロッドと、前記タイロッドの一端部に取り付けられたハンドルと、前記タイロッドの他端部に取り付けられた下部支持部材と、横断面がU字状をしており、両側端部が前記タイロッドに第3溶接部でそれぞれ取り付けられ、上端部が前記ハンドルに第4溶接部で取り付けられて下端部が前記下部支持部材に第5溶接部で取り付けられ、前記タイロッドから四方に伸びている複数のシースと、それぞれのシース内に配置された中性子吸収部材とを備え、
前記シースの前記両側端部のうちの1つの前記側端部である第1側端部に前記タイロッドに向かって突出した複数の第1突出部が形成されており、前記両側端部のうちの他の前記側端部である第2側端部に前記タイロッドに向かって突出した複数の第2突出部が形成されており、
前記複数の第1突出部は、前記タイロッドの軸方向において、前記複数の第2突出部に対してずれて配置され、
前記第3溶接部に含まれる、前記第1突出部と前記タイロッドの溶接部である第1溶接部の裏面が、前記タイロッドと前記第2側端部の間で前記タイロッドの軸方向において隣り合う前記第2突出部の相互間に形成された第2開口部に対向しており、
前記第3溶接部に含まれる、前記第2突出部と前記タイロッドの溶接部である第2溶接部の裏面が、前記タイロッドと前記第1側端部の間で前記タイロッドの軸方向において隣り合う前記第1突出部の相互間に形成された第1開口部に対向していることを特徴とする原子炉用制御棒。
【請求項2】
前記タイロッドは、前記シースの第1突出部に対向して前記シースの前記第1側端部に向かって伸びる第3突出部を形成しており、さらに、前記シースの第2突出部に対向して前記シースの前記第2側端部に向かって伸びる第4突出部を形成しており、
前記第1溶接部が前記第1突出部と前記第3突出部の溶接部であり、前記第2溶接部が前記第2突出部と前記第4突出部の溶接部である請求項1に記載の原子炉用制御棒。
【請求項3】
前記第1開口部の、前記第2溶接部の裏面に対向している部分で、前記タイロッドの軸心に直交する方向における幅が、前記第1開口部の、前記第2溶接部の裏面に対向していない部分での、前記タイロッドの軸心に直交する方向における幅よりも広くなっており、前記第2開口部の、前記第1溶接部の裏面に対向している部分で、前記タイロッドの軸心に直交する方向における幅が、前記第2開口部の、前記第1溶接部の裏面に対向していない部分での、前記タイロッドの軸心に直交する方向における幅よりも広くなっている請求項1または2に記載の原子炉用制御棒。
【請求項4】
前記タイロッドの、シース内の前記中性子吸収部材に対向する側面が平面である請求項1または2に記載の原子炉用制御棒。
【請求項5】
前記第1開口部に対向する前記第2溶接部の裏面、および前記第2開口部に対向する前記第1溶接部の裏面に、それぞれ、圧縮残留応力が付与されている請求項1ないし4のいずれか1項に記載の原子炉用制御棒。
【請求項6】
タイロッドの上端にハンドルを取り付け、前記タイロッドの下端に下部支持部材を取り付け、横断面がU字状をしているシース内に中性子吸収材を配置した状態で、前記シースを前記タイロッドから四方に伸びるように配置して前記シースの両側端部を前記タイロッドに溶接にて接合し、
前記シースの両側端部の前記タイロッドへのそれぞれの接合は、前記両側端部のうちの1つの前記側端部である第1側端部に前記タイロッドに向かって突出する複数の第1突出部が形成されており、前記両側端部のうちの他の前記側端部である第2側端部に前記タイロッドに向かって突出する複数の第2突出部が形成されており、さらに、前記複数の第1突出部は、前記タイロッドの軸方向において、前記複数の第2突出部に対してずれて配置されている前記シースを用いて、前記タイロッドと前記第2側端部の間で前記タイロッドの軸方向において隣り合う前記第2突出部の相互間に、前記第1突出部と前記タイロッドの第1溶接部の裏面と対向する第2開口部を形成し、前記タイロッドと前記第1側端部の間で前記タイロッドの軸方向において隣り合う前記第1突出部の相互間に、前記第2突出部と前記タイロッドの第2溶接部の裏面と対向する第1開口部を形成するように、前記複数の第1突出部および前記複数の第2突出部を前記タイロッドに溶接することによって行うことを特徴とする原子炉用制御棒の製造方法。
【請求項7】
前記第1突出部と前記タイロッドの溶接が、前記タイロッドに形成された、前記シースの第1突出部に対向して前記シースの前記第1側端部に向かって伸びる第3突出部と前記第1突出部とを溶接することであり、
前記第2突出部と前記タイロッドの溶接が、前記タイロッドに形成された、前記シースの第2突出部に対向して前記シースの前記第2側端部に向かって伸びる第4突出部と前記第2突出部とを溶接することである請求項6に記載の原子炉用制御棒の製造方法。
【請求項8】
前記第2開口部を通して前記第1溶接部の裏面に圧縮残留応力を付与し、前記第1開口部を通して前記第2溶接部の裏面に圧縮残留応力を付与する請求項6または7に記載の原子炉用制御棒の製造方法。
【請求項9】
前記第1溶接部および前記第2溶接部のそれぞれの裏面への圧縮残留応力の付与は研磨により行う請求項8に記載の原子炉用制御棒の製造方法。
【請求項10】
前記第1溶接部および前記第2溶接部のそれぞれの裏面への圧縮残留応力の付与はショットピーニングにより行う請求項8に記載の原子炉用制御棒の製造方法。
【請求項11】
前記第1溶接部および前記第2溶接部のそれぞれの裏面への圧縮残留応力の付与はウォータージェットピーニングにより行う請求項8に記載の原子炉用制御棒の製造方法。
【請求項12】
前記第1溶接部および前記第2溶接部のそれぞれの裏面への圧縮残留応力の付与はレーザーピーニングにより行う請求項8に記載の原子炉用制御棒の製造方法。
【請求項13】
前記第1溶接部および前記第2溶接部のそれぞれの裏面への圧縮残留応力の付与はロッドピーニングにより行う請求項8に記載の原子炉用制御棒の製造方法。
【請求項14】
前記第1溶接部および前記第2溶接部のそれぞれの裏面への圧縮残留応力の付与は押しつぶし加工により行う請求項8に記載の原子炉用制御棒の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、原子炉用制御棒およびその製造方法に係わり、特に、沸騰水型原子炉に適用するのに好適な原子炉用制御棒およびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
沸騰水型原子炉に用いられる制御棒は、横断面が十字形をしており、原子炉の運転中において燃料集合体が装荷された炉心に出し入れされて原子炉出力を制御する。制御棒は、運転サイクルの末期には炉心から全て引抜かれる。
【0003】
その制御棒の一例が、特開平9−61576号公報に記載されている。この制御棒は、ブレードを構成するシース内に中性子吸収材である扁平なハフニウム筒状体を配置している。2本のハフニウム筒状体が制御棒の軸方向に存在する。特開平9−61576号公報は、その制御棒の製造について以下のように説明している。
【0004】
ハンドルがタイロッドの上端部に取り付けられる。ハンドルは、ハンドル本体およびハンドル本体から下方に向かって伸びる上部舌状部を有する。下部支持部材本体および下部支持部材本体から上方に向かって伸びる下部舌状部を有する下部支持部材が、タイロッドの下端部に取り付けられる。ハンドル、タイロッドおよび下部支持部材の集合体をフレームと称する。
【0005】
ハンドルの上部舌状部が上部ハフニウム筒状体の上端部に挿入され、上部ハフニウム筒状体が上部舌状部にピンで固定される。下部支持部材の下部舌状部が下部ハフニウム筒状体の下端部に挿入され、下部ハフニウム筒状体が下部舌状部位にピンによって固定される。上部舌状部に取り付けられた複数の上部ハフニウム筒状体、および下部舌状部に取り付けられた複数の下部ハフニウム筒状体が、横断面がU字状であるステンレス鋼製のシース内に挿入される。その後、シースの上端、下端および側端が、ハンドル、下部支持部材およびタイロッドにそれぞれ溶接される。シースの側端部には制御棒の軸方向に複数のタブ(突起部)が形成されており、これらのタブがタイロッドに溶接される。シースおよび複数のハフニウム筒状体で1つのブレードが形成される。制御棒は、タイロッドから四方に伸びる4枚のブレードを有する。
【0006】
構造部材に圧縮残留応力を付与する技術として、ウォータージェットピーニング(例えば、特許第3162104号公報参照)、レーザーピーニング(例えば、特開平7−246483号公報参照)およびワイヤピーニング(例えば、特開平6−155172号公報参照)が知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開平9−61576号公報
【特許文献2】特許第3162104号公報
【特許文献3】特開平7−246483号公報
【特許文献4】特開平6−155172号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
特開平9−61576号公報に記載された制御棒では、シースの側端部に形成された複数のタブとタイロッドが溶接により接合される。シースのタブとタイロッドの溶接部において、入熱した側の反対側に形成される溶融部の領域は裏波と呼ばれる。
【0009】
一般に、シースとタイロッドの溶接部では、シースとタイロッドが互いに溶融され一体化して接合されることが好ましい。すなわち、裏波部に融合不良などの欠陥が生じていないことが好ましい。制御棒の品質の信頼性を確保するために、この裏波部に欠陥が生じていないことの検査が容易にできることが求められている。また、仮に検査により、仮に欠陥が検出された場合には、その補修が容易にできることが好ましい。
【0010】
特開平9−61576号公報に記載された制御棒では、シースとタイロッドの溶接部の裏波は、溶接後にはブレードを構成するシースによって遮られて外観観察などの検査を行うことができない。
【0011】
本発明の目的は、タイロッドとシースの溶接部の裏面の検査を容易に行うことができる原子炉用制御棒およびその製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記した目的を達成する本発明の特徴は、横断面がU字状をしており、両側端部がタイロッドに第3溶接部でそれぞれ取り付けられ、タイロッドから四方に伸びている複数のシースと、それぞれのシース内に配置された中性子吸収部材とを備え、
シースの両側端部のうちの1つの側端部である第1側端部に前記タイロッドに向かって突出した複数の第1突出部が形成されており、両側端部のうちの他の側端部である第2側端部にタイロッドに向かって突出した複数の第2突出部が形成されており、
複数の第1突出部は、タイロッドの軸方向において、複数の第2突出部に対してずれて配置され、
第3溶接部に含まれる、第1突出部と前記タイロッドの溶接部である第1溶接部の裏面が、タイロッドと第2側端部の間でタイロッドの軸方向において隣り合う第2突出部の相互間に形成された第2開口部に対向しており、
第3溶接部に含まれる、第2突出部とタイロッドの溶接部である第2溶接部の裏面が、タイロッドと第1側端部の間でタイロッドの軸方向において隣り合う第1突出部の相互間に形成された第1開口部に対向していることにある。
【0013】
複数の第1突出部は、タイロッドの軸方向において、複数の第2突出部に対してずれて配置され、第1突出部と前記タイロッドの第1溶接部の裏面が、タイロッドと第2側端部の間でタイロッドの軸方向において隣り合う第2突出部の相互間に形成された第2開口部に対向しているので、第1溶接部の裏面の検査を第2開口部を通して容易に行うことができる。また、第2突出部とタイロッドの第2溶接部の裏面が、タイロッドと第1側端部の間でタイロッドの軸方向において隣り合う第1突出部の相互間に形成された第1開口部に対向しているので、第2溶接部の裏面の検査を第1開口部を通して容易に行うことができる。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、原子炉制御棒において、タイロッドとシースの溶接部の裏面の検査を容易に行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1】本発明の好適な一実施例である実施例1の原子炉用制御棒の側面図である。
図2図1のA−A断面図である。
図3図1に示す原子炉用制御棒のタイロッドとシースの溶接部の拡大図である。
図4図3のO−O断面図である。
図5図3のB−B断面図である。
図6図3のC−C断面図である。
図7図3のD−D断面図である。
図8図5および図6に示すタイロッドとシースの溶接部の裏面を研磨砥石で研磨する状態を示す説明図である。
図9】タイロッドとシースの溶接部の裏面を研磨する研磨砥石を示す説明図である。
図10】研磨砥石において複数の砥粒が軟質バインダで結合されている状態を示す説明図である。
図11】発熱によりシース表面に圧縮残留応力が発生する過程を示す説明図で、(A)は発熱過程を示す説明図、(B)は発熱後の収縮過程を示す説明図、(C)は収縮によりシース表面に引張残留応力が発生して圧縮残留応力が付与される状態を示す説明図である。
図12】塑性変形によりシース表面に圧縮残留応力が発生する過程を示す説明図で、(A)はシース表面を塑性変形させる状態を示す説明図、(B)は塑性変形によりシース表面に圧縮残留応力が付与される状態を示す説明図である。
図13】従来の原子炉用制御棒のタイロッドとシースの溶接部を示す拡大図である。
図14図13のE−E断面図である。
図15】本発明の他の実施例である実施例2の原子炉用制御棒のタイロッドとシースの溶接部の裏面にショットピーニングを施している状態を示す説明図である。
図16】本発明の他の実施例である実施例3の原子炉用制御棒のタイロッドとシースの溶接部の拡大図である。
図17】本発明の他の実施例である実施例4の原子炉用制御棒のタイロッドとシースの溶接部の横断面図である。
図18図17に示す実施例4の原子炉用制御棒の他のタイロッドとシースの溶接部の横断面図である。
図19】本発明の他の実施例である実施例5の原子炉用制御棒のタイロッドとシースの溶接部の拡大図である。
図20図19のF−F断面図である。
図21図19のG−G断面図である。
図22図19のH−H断面図である。
図23図19のI−I断面図である。
図24】本発明の他の実施例である実施例6の原子炉用制御棒のタイロッドとシースの溶接部にウォータージェットピーニングを施工するウォータージェットピーニング装置の構成図である。
図25】本発明の他の実施例である実施例6の原子炉用制御棒のタイロッドとシースの溶接部の裏面にウォータージェットピーニングを施工している状態を示す説明図である。
図26】本発明の他の実施例である実施例7の原子炉用制御棒のタイロッドとシースの溶接部の裏面にレーザーピーニングを施工している状態を示す説明図である。
図27】本発明の他の実施例である実施例8の原子炉用制御棒のタイロッドとシースの溶接部にロッドピーニングを施工するロッドピーニング装置の構成図である。
図28】本発明の他の実施例である実施例8の原子炉用制御棒のタイロッドとシースの溶接部の裏面にロッドピーニングを施工している状態を示す説明図である。
図29】本発明の他の実施例である実施例9の原子炉用制御棒のタイロッドとシースの溶接部に押し潰し加工を施工する押しつぶし加工装置の構成図である。
図30】本発明の他の実施例である実施例9の原子炉用制御棒のタイロッドとシースの溶接部の裏面に鋼球による押し潰し加工を施工している状態を示す説明図である。
図31】本発明の他の実施例である実施例9の原子炉用制御棒のタイロッドとシースの溶接部の裏面にローラーによる押し潰し加工を施工している状態を示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
本発明の実施例を以下に説明する。
【実施例1】
【0017】
本発明の好適な一実施例である実施例1の原子炉用制御棒を、図1から図7を用いて説明する。本実施例の制御棒1は沸騰水型原子炉に用いられる制御棒である。
【0018】
本実施例の制御棒1は、横断面が十字形をしていて軸心にタイロッド2が配置され、このタイロッド2から四方に伸びる4枚のブレード3を有する。ハンドル5がタイロッド2の上端部に取り付けられ、下部支持部材6がタイロッド2の下端部に取り付けられる。下部支持部材6は、下部支持板(または落下速度リミッタ)である。
【0019】
一枚のブレード3において、各ブレード3は、横断面がU字状をしているシース4、扁平な筒状体であり中性子吸収部材であるハフニウム部材7A,7Bを有する。シース4はステンレス鋼(SUS304またSUS316L等)によって構成される。シース4の上端はハンドル5に溶接され、シース4の下端は下部支持部材6に溶接されている。
【0020】
U字状のシース4の両側端部には、複数のタブ(突出部)12がタイロッド2の軸方向において所定の間隔を置いて形成されている。タブ12は、シース4の一部であって、U字状のシース4の、対向する側端部にそれぞれ形成されており、タイロッド2側に向かって突出している突出部である。シース4の一つの側端部に形成される複数のタブ12のタイロッド2の軸方向におけるそれぞれの位置と、シース4の他の側端部に形成される複数のタブ12のタイロッド2の軸方向におけるそれぞれの位置は、異なっている。すなわち、前者の各タブ12(図3に示すタブ12A)のタイロッド2の軸方向における位置と、後者の各タブ12(図3に示すタブ12B)のタイロッド2の軸方向における位置は、タイロッド2の軸方向においてずれている。これにより、前者の各タブ12Aの、タイロッド2の軸方向の位置には、後者の各タブ12Bが存在していなく、後者の各タブ12Bの、タイロッド2の軸方向の位置には、前者の各タブ12Aが存在していない。
【0021】
シース4の一つの側端部に形成される各タブ12Aの、タイロッド2の軸方向における同じ位置において、タイロッド2からシース4の一つの側端部の各タブ12Aに向かって突出して各タブ12Aに対向する複数のタブ13(図3に示すタブ13A)がタイロッド2に形成される。また、シース4の他の側端部に形成される各タブ12Bの、タイロッド2の軸方向における同じ位置において、タイロッド2からシース4の他の側端部の各タブ12Bに向かって突出して各タブ12Bに対向する複数のタブ13(図3に示すタブ13B)がタイロッド2に形成される。各タブ13Aの厚みおよび各タブ13Bの厚みは、シース4の厚みと実質的に同じである。
【0022】
一枚のブレード3において、シース4の一つの側端部の各タブ12Aがタイロッド2に形成された各タブ13Aに溶接されており、シース4の他の側端部の各タブ12Bがタイロッド2に形成された各タブ13Bに溶接されている。溶接部14Aはタブ12Aとタブ13Aの溶接部であり、溶接部14Bはタブ12Bとタブ13Bの溶接部である(図3および図4参照)。シース4の上端とハンドル5、およびシース4の下端と下部支持部材6も溶接によって接合されている。
【0023】
タイロッド2の軸方向に細長い開口部15が、タイロッド2の軸方向において隣り合うタブ12Aおよび13Aの相互間でタイロッド2とシース4の一つの側端部の間にそれぞれ形成される。タイロッド2の軸方向に細長い開口部15Aが、タイロッド2の軸方向において隣り合うタブ12Bおよび13Bの相互間でタイロッド2とシース4の一つの側端部の間にそれぞれ形成される。溶接部14Aは開口部15Aと対向しており(図2および図5参照)、溶接部14Bは開口部15と対向している(図6参照)。タイロッド2の図3のD−D断面では、タイロッド2とシース4の両端部のそれぞれの間に開口部が形成され、タイロッド2にシース4側に突出する突出部19が形成されている。タブ13Aおよび13Bが存在する部分では、突出部19はタイロッド2に形成されていない。
【0024】
1枚のブレード2のシース4内に形成される空間内に、2つのハフニウム部材7Aおよび2つのハフニウム部材7Bが配置されている。ハフニウム部材7Aはハフニウム部材7Bの上方に位置しており、これらの軸方向の長さは同じである。ハンドル5の下端部に形成された舌状部8Aがハフニウム部材7Aの上端部内に挿入され、この状態で、ハフニウム部材7Aの上端部が舌状部8Aにピン9Aで取り付けられている。下部支持部材6の上端部に形成された舌状部8Bがハフニウム部材7Bの下端部内に挿入され、この状態で、ハフニウム部材7Bの下端部が舌状部8Bにピン9Bで取り付けられている。結果的に、ハフニウム部材7Aは上端部がハンドル5に取り付けられ、ハフニウム部材7Bが下部支持部材6に取り付けられている。沸騰水型原子炉の運転中において、舌状部8A,8Bに取り付けられたハフニウム部材7A,7Bが熱膨張しても、ハフニウム部材7Aの下端とハフニウム部材7Bの上端が互いに接触しないように、ハフニウム部材7Aの下端とハフニウム部材7Bの上端との間にギャップ(図示せず)が形成されている。
【0025】
シース4には複数の開口10が形成され、ハフニウム部材7A,7Bにも複数の開口11がそれぞれ形成されている。
【0026】
残りの3枚のブレード2も、上述したブレード2と同じ構成を有する。
【0027】
制御棒1は、沸騰水型原子炉の原子炉圧力容器内に配置され、原子炉出力を制御するために、複数の燃料集合体が装荷された炉心内に制御棒駆動機構(図示せず)によって出し入れされる。制御棒1は、下部支持部材6の下端部に設けられたコネクタ18によって原子炉圧力容器の底部に設けられた制御棒駆動装置に連結される。制御棒駆動装置は、制御棒1の炉心内への挿入操作、および制御棒1の炉心からの引き抜き操作を行う。原子炉圧力容器内を流れる冷却水は、シース4に形成された一部の開口10からシース4内に流入し、ハフニウム部材7A,7Bとシース4の内面のそれぞれの間に形成される隙間部を上昇しながら、ハフニウム部材7A,7Bを冷却する。シース4内に流入した冷却水は、他の開口10(特に上端部に位置する開口10)からシース4の外に流出する。
【0028】
シース4内に流入した冷却水の一部は、ハフニウム部材7Bに設けられた小径の開口11を通ってハフニウム部材7B内に流入してハフニウム部材7B,7A内を上昇し、ハフニウム部材7Aに形成された小径の開口11を通ってハフニウム部材7A外に流出する。このように、冷却水がハフニウム部材(中性子吸収部材)7B,7A内に流入することによって、これらのハフニウム部材の冷却が促進される。
【0029】
本実施例の制御棒1の製造について説明する。
【0030】
まず、横断面が十字形をしているハンドル5が軸方向に複数のタブ13Aおよび複数のタブ13Bが前述のように形成されているタイロッド2の上端に、横断面が十字形をしている下部支持部材6がタイロッド2の下端に、溶接によりそれぞれ取り付けられる。その後、扁平な筒状体の各ハフニウム部材7Aの上端部が、ピン9Aにより、ハンドル5に形成されたそれぞれの上部舌状部8Aに取り付けられる。さらに、扁平な筒状体の各ハフニウム部材7Bの下端部が、ピン9Bにより、下部支持部材6に形成されたそれぞれの下部舌状部8Bに取り付けられる。2本のハフニウム部材7Aおよび2本のハフニウム部材7Bが、タイロッド2から四方に向かって、それぞれ配置される。横断面がU字状をした1枚のシース4を、シース4の両側端部に形成されたタブ12Aおよび12Bがタイプレート2側を向くように配置して、このシース4をタイロッド2に向かって移動させる。このシース4の移動によって、2本のハフニウム部材7Aおよび2本のハフニウム部材7Bが、シース4内に配置され、やがて、1枚のシース4に形成された各タブ12Aがタイロッド2に形成された各タブ13Aに突き合され、各タブ12Bがタイロッド2に形成された各タブ13Bに突き合される。残りの3枚のシース4も、同様に、タイロッド2に形成された各タブ13Aおよび13Bに突き合わされる。各シース4とタイロッド2において、突き合わされたタブ12Aとタブ13Aが溶接され、突き合わされたタブ12Bとタブ13Bが溶接される。このようにして、4枚のシース4がタイロッド2に溶接される。
【0031】
タイロッド2の軸方向に存在するすべてのタブ8とタイロッド2の溶接、すなわち、シース4とタイロッド2の溶接が終了した後、各シース4の上端部とハンドル5、および各シース4の下端部と下部支持部材6の溶接が行われる。
【0032】
シース4とタイロッド2、ハンドル5および下部支持部材6のそれぞれの溶接が終了した後、タブ12Aとタブ13Aの溶接部14Aおよびタブ12Bとタブ13Bの溶接部14Bのそれぞれの外観検査を実施する。これらの溶接部の外観検査は、表側だけでなく、開口部15Aを通して溶接部14Aの裏側、および開口部15を通して溶接部14Bの裏側に対してもそれぞれ行われる。溶接部14Aおよび14Bはタイロッド2の軸方向において互いにずれて配置されており、溶接部14Aの裏面が開口部15Aに対向し、さらに、溶接部14Bの裏面が開口部15に対向しているので、溶接部14Aおよび14Bのそれぞれの裏側の外観検査を容易に行うことができる。これらの溶接部の外観検査は、溶接部での割れなどの欠陥の有無を目視で観察するものである。それぞれの溶接部14Aおよび14Bに欠陥が存在しない場合には、各溶接部14Aの裏波表面、溶接部14Aにつながるタブ12Aおよび13Aのそれぞれの裏面、さらに、各溶接部14Bの裏波表面、溶接部14Bにつながるタブ12Bおよび13Bのそれぞれの裏面を研磨する。
【0033】
この研磨を、図8図9および図10を用いて説明する。上記の各箇所の研磨には、回転駆動ヘッド21に取り付けられた研磨砥石20が用いられる。タイロッド2のタブとシース4のタブの溶接部の裏波表面の研磨を、溶接部14Bを例に挙げて説明する(図8参照)。回転駆動ヘッド21に取り付けられた研磨砥石20を、開口部15を通してシース4内に挿入し、溶接部14Bの裏波表面に接触させる。この状態で、回転駆動ヘッド21を回転させて研磨砥石20を矢印の方向に回転させる(図9参照)。研磨砥石20は、回転しながら溶接部14Bの裏波表面を研磨する。研磨砥石20は、図10に示すように、多数の砥粒22を柔らかいバインダ23で結合して構成される。バインダ2としては、紙、布、スポンジ形状材またはブラシ形状材が用いられる。スポンジ形状材を用いることによって、薄いディスク状の研磨砥石を形成することができる。本実施例では、バインダ23としてスポンジ形状材を用いた研磨砥石20により、溶接部14Bの裏波表面が研磨される。研磨砥石20による研磨は、タイロッド2の軸方向における、タブ12Bおよびタブ13Bの幅に対して行われる。溶接部14Bの研磨は、溶接部14Bの表側に対しても行われる。研磨砥石20を用いた研磨により、溶接部14B、タブ12Bおよびタブ13Bのそれぞれの裏面およびこれらの表面が、塑性変形し、発熱する(図10参照)。
【0034】
外観検査により溶接部14Bの裏面に割れ等の欠陥が発見された場合には、この欠陥を含む溶接部14Bを、溶接部14Bの裏面および表面から削り取り、削り取った部分に再度溶接を行うことによって削り取った部分を埋める。その後に、再度、外観検査を実施し、この検査により欠陥が検出されない場合には、前述したように、再溶接された溶接部14Bの裏面および表面を研磨砥石20により研磨する。
【0035】
研磨砥石20を用いて溶接部14Aおよび14Bおよびこれらの溶接部付近の裏面および表面を研磨することによって、研磨されたそれらの裏面および表面に圧縮残留応力を付与することができる。研磨された溶接部14Aおよび14B等の裏面および表面に圧縮残留応力が付与される理由を、図11および図12を用いて以下に説明する。
【0036】
研磨砥石20による溶接部14A(または溶接部14B)の表面加工の機構は、砥粒22が溶接部14A(または溶接部14B)の表面を叩き、押し潰す過程と、研磨砥石20の回転に伴って砥粒22が溶接部14A(または溶接部14B)の表面を擦り取る過程の組み合わせと考えられる。これらの過程により、溶接部14A(または溶接部14B)の表面に塑性変形が生じるとともに発熱が生じる。
【0037】
研磨砥石20により研磨された溶接部14A(または溶接部14B)の表面(裏面および表面)が発熱する(図11(A)参照)。発熱が生じた場合、溶接部14A(または溶接部14B)の表面が冷却過程で収縮しようとするが、溶接部14A(または溶接部14B)の内部の材料によって拘束される(図11(B)参照)。このため、溶接部14A(または溶接部14B)の表面に引張残留応力が発生する(図11(C)参照)。一方、砥粒22による押し潰しにより溶接部14A(または溶接部14B)の表面が塑性変形する(図12(A)参照)と、その表面が伸ばされようとするが、内部の材料によって拘束されるため、溶接部14A(または溶接部14B)の表面に圧縮残留応力が発生する(図12(A)参照)。
【0038】
研磨による溶接部14A(または溶接部14B)の表面加工は、その表面を叩き、押し潰す過程による塑性変形が、発熱による影響よりも大きいために、溶接部14A(または溶接部14B)の表面の残留応力が圧縮残留応力に変化する。
【0039】
溶接部14A(または溶接部14B)付近のタブ12Aおよびタブ13A(またはタブ12Bおよび13B)の表面(裏面および表面)を研磨した場合においても、上記した現象が生じ、その表面に圧縮残留応力が発生する。
【0040】
タブ12Aとタブ13Aの溶接部14A(またはタブ12Bとタブ13Bの溶接部14B)およびこの付近等の表面(裏面および表面)に、上記したように、圧縮残留応力を付与することにより、その表面からの応力腐食割れの発生および進展を抑制することができる。
【0041】
上記した研磨を実施することにより、溶接部14A(または溶接部14B)の表面、および溶接部14Aとタブ12Aおよび13Aのそれぞれの境界部(または溶接部14Bとタブ12Bおよび13Bのそれぞれの境界部)に、仮に微小な割れが生じていたとしても、この割れを削除することができる。
【0042】
以上に説明した本実施例の制御棒1と特開平9−61576号公報に記載された従来の制御棒の違いを、この従来の制御棒のタイロッドとシースの溶接部を示す図13および図14に基づいて説明する。この従来の制御棒では、U字状のシース4の両側端部に互いに対向しているタブ16がそれぞれ形成される。シース4の両側端部に形成された各タブ16は、タイロッド2の軸方向において同じ位置に存在し、互いに対向している(図14参照)。シース4の両側端部に形成された各タブ16は、タイロッド2に溶接にて接合されている。溶接部17はタブ16とタイロッド2の溶接部である。タイロッド2の軸方向において隣り合うタブ16の相互間でタイロッド2とシースの間には、それぞれ開口部15Bが形成される。
【0043】
従来の制御棒におけるタイロッド2とシース4に形成された各タブ16のように、それぞれ厚さが異なる溶接対象部材を溶接するためには、それぞれの溶接対象部材の接合部(タイロッド2とシース4のタブ16の接合部)を溶融させる必要がある。このとき、厚さが厚い溶接対象部材であるタイロッド2を十分に溶かす必要があるため、溶接入熱は大きくなる。溶接入熱が大きい場合には、溶接過程において溶接対象部材での高温領域が広くなる。溶接過程において各溶接対象部材の高温になった領域では、この領域全体が室温に戻ったときに引張応力が生じる。このため、タイロッド2における引張残留応力が分布する領域が広くなる。
【0044】
一方、本実施例の制御棒1では、タイロッド2に形成された、シース4の厚みと実質的に同じであるタブ13Aとシースに形成された12A、およびタイロッド2に形成された、シース4の厚みと実質的に同じであるタブ13Bとシースに形成された12Bを溶融するため入熱量は、特開平9−61576号公報に記載された従来の制御棒におけるタイロッド2とシース4に形成されたタブ16の溶接に比べて非常に小さくなる。このため、制御棒1において引張応力の発生する領域を、上記した従来の制御棒と比べて狭く抑えることができる。引張残留応力は、溶接部にき裂が発生した場合にそれを進展させる駆動力になる。本実施例の制御棒1では、引張残留応力が発生する領域を狭くできるため、仮にき裂が発生したとしてもその進展を従来の制御棒と比較して小さくすることができる。
【0045】
特開平9−61576号公報に記載された従来の制御棒では、横断面がU字状をしているシース4の両側端部に形成された各タブ16は、前述したように、タイロッド2の軸方向において同じ位置に存在する。この結果、シース4の両側端部に形成された各タブ16とタイロッド2のそれぞれの溶接部17も、タイロッド2の軸方向において同じ位置に存在する。その従来の制御棒では、シース4の両側端部に形成されて対向している2つのタブ16のうちの1つのタブ16とタイロッド2との溶接部17の裏波は、その2つのタブ16のうちの他のタブ16に遮られて外観検査をすることができない。同様に、その2つのタブ16のうちの後者の他のタブ16とタイロッド2との溶接部17の裏波は、その2つのタブ16のうちの前者の1つのタブ16に遮られて外観検査をすることができない。すなわち、溶接部17の裏波部分での溶接欠陥の有無を外観検査により観察することが困難である。これに対し、本実施例の制御棒1では、前述したように、溶接部14Aの裏波部分の外観検査は溶接部14Aの裏波に対向する開口部15Aを通して、溶接部14Bの裏波部分の外観検査は溶接部14Bの裏波に対向する開口部15を通して、それぞれ容易に実施することができる。このため、溶接部14Aの裏波部分および溶接部14Bの裏波部分における割れ等の欠陥の有無を、目視で容易に確認することができる。
【0046】
本実施例の制御棒1では、上記したように、溶接部14Aの裏波部分が開口部15Aと対向しているので、開口部15Aを通して研磨砥石20を溶接部14Aの裏波部分に接触させることができ、その裏波部分およびこの裏波部分付近のタブ12Aおよび13Aのそれぞれの裏面を研磨することができる。これにより、溶接部14Aの裏面および溶接部14A付近のタブ12Aおよび13Aのそれぞれの裏面に圧縮残留応力を付与することができる。溶接部14Aの裏面およびタブ12Aおよび13Aのそれぞれの裏面での応力腐食割れの発生を抑制することができる。また、制御棒1では、溶接部14Bの裏波部分が開口部15と対向しているので、開口部15を通して回転砥石20を溶接部14Bの裏波部分に接触させることができ、その裏波部分およびこの裏波部分付近のタブ12Bおよび13Bのそれぞれの裏面を研磨することができる。これにより、溶接部14Bの裏面および溶接部14B付近のタブ12Bおよび13Bのそれぞれの裏面に圧縮残留応力を付与することができる。溶接部14Bの裏面およびタブ12Bおよび13Bのそれぞれの裏面での応力腐食割れの発生を抑制することができる。これに対して、従来の制御棒では、横断面がU字状をしているシース4の両端部に形成されたそれぞれのタブ16が対向しているので、タイロッド2とタブ16の溶接部17の裏波部分を研磨することができない。このため、溶接部17の裏面に圧縮残留応力を付与することができない。
【実施例2】
【0047】
本発明の他の実施例である実施例2の制御棒を、図15を用いて説明する。本実施例の制御棒1Bは沸騰水型原子炉に用いられる制御棒である。
【0048】
本実施例の制御棒1Bは実施例1の制御棒1と同じハード構成を有する。制御棒1Bは、制御棒1と、タイロッド2に形成されたタブ13Aとシース4に形成されたタブ12Aとの溶接部14A、およびタイロッド2に形成されたタブ13Bとシース4に形成されたタブ12Bとの溶接部14Bのそれぞれの裏面に圧縮残留応力を付与する手法が異なっている。制御棒1においては溶接部14Aおよび14Bのそれぞれの裏面への圧縮残留応力の付与は研磨砥石20を用いた研磨により行っているが、制御棒1Bではショットピーニングにより溶接部14Aおよび14Bのそれぞれの裏面への圧縮残留応力の付与を行っている。
【0049】
制御棒1Bは、圧縮残留応力の付与の工程を除いて制御棒1と同様に製造される。制御棒1Bの製造工程において、溶接部14Aおよび14Bのそれぞれの裏波部分の外観検査でそれらの裏波部分に欠陥が存在しないと判定された場合に、溶接部14Aおよび14Bのそれぞれの裏波、およびそれぞれの裏波付近に存在するタブ12A,13A,12Bおよび13Bのそれぞれの裏面に対してショットピーニングが施される。
【0050】
このショットピーニングを、溶接部14Bへの施工を例に挙げて説明する。ショットピーニングに用いる金属の細粒32を供給する細粒供給管31に接続された噴射ノズル30を、溶接部14Bに対向する開口部15に挿入し、溶接部14Bおよびタブ12Bおよび13Bのそれぞれの裏面と対向させる。ショットピーニングは公知の方法を適用する。このショットピーニングにおいて、細粒供給管31から供給される金属の多数の細粒32を、噴射ノズル30から、ショットピーニングの施工対象面である溶接部14Bおよびタブ12Bおよび13Bのそれぞれの裏面に向かって噴射させ、これらの面に対して高速で衝突させる。噴射された金属の細粒32が衝突するそれらの面に、圧縮残留応力が付与される。溶接部14A、およびタブ12Aおよび13Aのそれぞれの裏面に対しても、開口部15Aに噴射ノズル30を挿入することにより、圧縮残留応力を付与することができる。
【0051】
本実施例においても、実施例1で生じる各効果を得ることができる。
【実施例3】
【0052】
本発明の他の実施例である実施例3の制御棒を、図16を用いて説明する。本実施例の制御棒1Cは沸騰水型原子炉に用いられる制御棒である。
【0053】
本実施例の制御棒1Cは、制御棒1において、開口部15Aの溶接部14Aの裏面に対向する部分に開口部15の水平方向における幅よりも大きくした幅を有する半円状の開口部25Aを形成し、さらに、開口部15の溶接部14Bの裏面に対向する部分に開口部15の水平方向における幅よりも大きくした幅を有する半円状の開口部25を形成した構成を有する。開口部25Aは、溶接部14Aの裏面に対向しており、開口部15Aと連通している。開口部25は、溶接部14Bの裏面に対向しており、開口部15と連通している。制御棒1Cの他の構成は制御棒1と同じである。
【0054】
開口部25および25Aは、シース4に形成された開口部10と同じように、冷却水を通水する開口として機能する。
【0055】
本実施例は実施例1で生じる各効果を得ることができる。開口部25の、タイロッド2の軸心に直交する方向における幅が、開口部15の、タイロッド2の軸心に直交する方向における幅よりも広く、開口部25Aの、タイロッド2の軸心に直交する方向における幅が、開口部15Aの、タイロッド2の軸心に直交する方向におけるよりも広いので、開口部25Aを通しての溶接部14Aの裏波部分の外観検査および開口部25を通しての溶接部14Bの裏波部分の外観検査がさらに容易に行うことができる。また、研磨砥石20または噴射ノズル30の開口部25および25Aへの挿入が幅が広い分容易になり、溶接部14Bおよび14Aのそれぞれの裏面付近への圧縮残留応力の付与が容易になる。
【実施例4】
【0056】
本発明の他の実施例である実施例4の制御棒を、図17および図18を用いて説明する。本実施例の制御棒1Dは沸騰水型原子炉に用いられる制御棒である。
【0057】
本実施例の制御棒1Dは、制御棒1においてタイロッド2に形成されたタブ13Aおよび13Bを削除し、シース4の両端部に形成されたタブ12Aおよび12Bをタイロッド2にそれぞれ溶接した構成を有する。制御棒1Dの他の構成は制御棒1と同じである。
【0058】
横断面がU字状になっているシース4の両側端部にそれぞれ形成されたタブ12Aおよびタブ12Bは、制御棒1と同様に、タイロッド2の軸方向における位置が互いにずれている。タブ12Aは、タイロッド2の1つの側面に形成された段付部26B上に置かれ、溶接部27Aでタイロッド2に接合され(図17参照)、タブ12Bは、タイロッド2の他の側面に形成された段付部26A上に置かれ、溶接部27Bでタイロッド2に接合される(図18参照)。
【0059】
本実施例は実施例1で生じる各効果を得ることができる。本実施例の制御棒1Dは、実施例1の制御棒1と異なり、タイロッド2のハフニウム部材7A、7Bに面する側面に突出部19が形成されているため、溶接部27Aの裏波を開口部15Aから直接見ることは困難であり、また、溶接部27Bの裏波を開口部15から直接見ることは困難である。このため、ファイバースコープを開口部15Aからシース4内に挿入することによって溶接部27Aの裏波の外観を検査することができる。また、溶接部27Bの裏波の外観検査は、開口部15からファイバースコープをシース4内に挿入することによって行うことができる。図14に示す従来の制御棒においても、開口部15Bを通してシース4内にファイバースコープを挿入して溶接部17の裏波の外観検査を行っている。この従来の制御棒における溶接部17の裏波の外観検査では、シース4内でファイバースコープ軸心がタイロッド2の軸方向に伸びるように、このファイバースコープを、曲げて、開口部15Bを通してシース内に挿入する必要があるため、溶接部17の裏面の外観検査に長時間を要している。これに対して、本実施例の制御棒1Dでは、溶接部27Aの裏面の外観検査を行うときに、ファイバースコープを、開口部15Aから、シース4の、この開口部15Aに対向する内面に向かって挿入すれば良い。このため、制御棒1Dにおける溶接部27Aの外観検査は、従来の制御棒に比べて容易にかつより短時間で行うことができる。制御棒1Dにおける溶接部27Bの裏波の外観検査についても、溶接部27Aのそれと同様である。
【0060】
本実施例における溶接部27Aおよび27Bのそれぞれの裏面への圧縮残留応力の付与は以下のようにすれば可能である。すなわち、先端部が溶接部27A(または溶接部27B)に向かって曲げられた噴射ノズル30を用いることによって、開口部15A(または開口部15)内に挿入した噴射ノズル30から溶接部27A(または溶接部27B)の裏面に金属の細粒32を噴射して衝突させるショットピーニングにより溶接部27A(または溶接部27B)の裏面に圧縮残留応力を付与することができる。
【実施例5】
【0061】
本発明の他の実施例である実施例4の制御棒を、図19から図23を用いて説明する。本実施例の制御棒1Eは沸騰水型原子炉に用いられる制御棒である。
【0062】
本実施例の制御棒1Eは、制御棒1において突出部19を形成したタイロッド2の替りに突出部19を形成していないタイロッド2を用いた構成を有する。制御棒1Eの他の構成は制御棒1と同じである。
【0063】
横断面がU字状をしているシース4の両端部にタブ35Aおよび35Bが形成されている。タブ35Aおよび35Bのタイロッド2の軸方向における位置は、制御棒1のタブ12Aおよび12Bと同様に、その軸方向において互いにずれている。制御棒1Eでは、タイロッド2の、シース4内に配置されたハフニウム部材7Aおよび7Bに対向する側面33が平面になっている。タイロッド2には、この側面33から、タブ35Aに向かって突出するタブ34Aが形成され、タブ35Bに向かって突出するタブ34Bが形成されている。タブ34Aとタブ35Aは溶接部14Aで接合され、タブ34Bとタブ35Bは溶接部14Bで接合されている。溶接部14Aと溶接部14Bも、タイロッド2の軸方向において互いにずれている(図19および図20参照)。
【0064】
溶接部14Aの裏面は開口部15Aに対向しており、溶接部14Bの裏面は開口部15に対向している。
【0065】
本実施例は実施例1で生じる各効果を得ることができる。
【実施例6】
【0066】
本発明の他の実施例である実施例6の制御棒を、図24および図25を用いて説明する。本実施例の制御棒1Fは、沸騰水型原子炉に用いられる制御棒であり、実施例1の制御棒1と実質的に同じ構成を有する。
【0067】
制御棒1Fは、横断面がU字状であるシース4の一つの側端部に形成されたタブ12Bがタイロッド2に溶接部14Bで接合されている(図25参照)。タブ12Bおよび溶接部14Bのそれぞれの裏面は、タブ12Aが形成されたシース4のもう1つの側端部とタイロッド2の間に形成された開口部15に面している。図25に図示されていないが、シース4の側端部に形成されたタブ12Aがタイロッド2に溶接部14Aで接合されている。タブ12Aおよび溶接部14Aのそれぞれの裏面は、タブ12Aが形成されたシース4の側端部とタイロッド2の間に形成された他の開口部15Aに面している。制御棒1Fは、タブ12Bおよび溶接部14Bのそれぞれの裏面、およびタブ12Aおよび溶接部14Aのそれぞれの裏面に対して、ウォータージェットピーニングにより、圧縮残留応力が付与されている。
【0068】
溶接により組み立てられた制御棒1Fでは、タブ12Bおよび溶接部14Bのそれぞれの裏面が開口部15に面し、タブ12Aおよび溶接部14Aのそれぞれの裏面が他の開口部15Aに面しているため、実施例1と同様に、溶接部14Aおよび14Bのそれぞれの裏面の検査を容易に行うことができる。
【0069】
制御棒1Fは、実施例4の制御棒1Dと異なり、突出部19がタイロッド2の、ハフニウム部材7A、7Bに面する側面に形成されていない。また、制御棒1Fは、実施例1の制御棒1のように、タイロッド2にタブ13Aおよび13Bを形成していない。
【0070】
制御棒1Fでは、溶接部14Aおよび14Bのそれぞれの裏面に欠陥が生じていないとき、タブ12Bおよび溶接部14Bのそれぞれの裏面、およびタブ12Aおよび溶接部14Aのそれぞれの裏面に対し、ウォータージェットピーニングにより、圧縮残留応力が付与される。
【0071】
ウォータージェットピーニングを用いてこれらの裏面に圧縮残留応力を付与する工程を含む制御棒1Fの製造方法を、以下に説明する。制御棒1Fの製造方法は、残留圧縮応力を付与する工程を除いて実施例1における制御棒1を製造する方法と同じである。ここでは、ウォータージェットピーニングにより圧縮残留応力を付与する工程を主に説明する。
【0072】
制御棒1Fにおけるタブとタイロッドの溶接部の裏面へのウォータージェットピーニングは、図24に示す、圧縮残留応力付与装置であるウォータージェットピーニング装置41を用いて行われる。ウォータージェットピーニング装置41は、噴射ノズル47、高圧ポンプ49および噴射ノズル走査装置を備えている。噴射ノズル走査装置は、走行装置42、アーム44、移動装置45および昇降装置46を有する。
【0073】
走行装置42は、水槽53内に設置された支持台50の上面に設けられた一対のガイド部材43に走行可能に取り付けられている。アーム44が、走行装置42に取り付けられ、ガイド部材43と直交する方向で水平方向に伸びている。移動装置45が、アーム44に、アーム44に沿って移動可能に取り付けられる。昇降装置46が移動装置45に昇降可能に取り付けられる。先端に噴射口が形成された噴射ノズル47は、昇降装置46の下端部に上下方向において回転可能に取り付けられ、高圧ホース48によって高圧ポンプ49に接続される。
【0074】
実施例1と同様に組み立てられた、ウォータージェットピーニングが施工される制御棒1Fが、タイロッドを水平方向に配置した状態で、水54が蓄えられた水槽53内に平行に配置された支持台51および52のそれぞれの上面に置かれ、支持台51および52のそれぞれに取り外し可能に固定される。制御棒1Fを取り付ける支持台51および52のそれぞれの長さは、制御棒1Fの軸方向の長さよりも長くなっている。支持台51と支持台52の間には、隙間64が形成されている。下向きになっている、制御棒1Fの1枚のブレードが、この隙間64内に挿入され、このブレードと直交している2枚のブレードが、支持台51および52のそれぞれの上面に置かれている。この状態で、1枚のブレードにおける溶接部14Bが支持台52の上面に接触し、このブレードと180°反対側に存在する他の1枚のブレードにおける溶接部14Aが支持台51の上面に接触している。制御棒1F、および支持台51および52は、水槽53内の水54に浸漬されており、支持台50の上面は水槽53内の水面よりも上方に位置している。
【0075】
支持台50は支持台51および52と平行に配置され、支持台50、および一対のガイド部材43の長さも制御棒1Fの軸方向の長さよりも長くなっている。このため、走行装置42をガイド部材43に沿って移動させることにより、噴射ノズル47が制御棒1Fの軸方向の全長に亘って移動可能である。
【0076】
走行装置42をガイド部材43に沿って移動させると、噴射ノズル47は、制御棒1Fの軸方向に移動する。移動装置45をアーム44に沿って移動させると、噴射ノズル47は制御棒1Fのブレードの幅方向に移動する。昇降装置46は噴射ノズル47を上下方向に移動させる。走行装置42、移動装置45および昇降装置46により、噴射ノズル47を制御棒1Fのウォータージェットピーニング開始点に位置合わせする。すなわち、走行装置42をガイド部材43に沿って移動させ、移動装置45をアーム44に沿って移動させることにより、噴射ノズル47を、1枚のブレードにおいて制御棒1Fのハンドルに最も近くに位置する溶接部14Bの真上に位置させる。この状態で、昇降装置46を下降させて噴射ノズル47を開口部15内に挿入させ、噴射ノズル47の先端が所定位置まで下降したとき、昇降装置46の下降を停止する。その後、噴射ノズル47を上下方向において回転させることにより、噴射ノズル47の噴射口を溶接部14Bの裏面に対向させる(図25参照)。
【0077】
高圧ポンプ49が駆動され、高圧ポンプ49で昇圧された高圧水が高圧ホース48を通って噴射ノズル47に供給される。この高圧水は、噴射ノズル47の噴射口から溶接部14Bの裏面に向かって噴流62となって噴射される。噴射された噴流62に含まれた多数のキャビテーション気泡が崩壊することによって発生する衝撃波が、溶接部14Bの裏面、タイロッド2の、シース4の内側領域に面する側面63およびタブ12Bの裏面にそれぞれ衝突し、溶接部14Bの裏面、タイロッド2の側面63およびタブ12Bの裏面にそれぞれ圧縮残留応力が付与される。噴射ノズル47は、噴流62を噴射しながら、走行装置42によりその溶接部14Bに対向する1つの開口部15内で制御棒1Fの軸方向に移動される。これで、1つの溶接部14Bの裏面に対して、制御棒1Fの軸方向におけるウォータージェットピーニングが施工される。
【0078】
1つの溶接部14Bの裏面に対するウォータージェットピーニングの施工が終了した後、高圧ポンプ49が停止され、昇降装置46を上方に向かって移動させる。噴射ノズル47の噴射口が開口部15よりも上方に到達したとき、昇降装置46の上昇が停止される。その後、走行装置42が制御棒1Fの軸方向に移動され、ウォータージェットピーニングが施工された溶接部14Bの隣に位置する別の溶接部14Bの真上まで噴射ノズル47が移動される。そして、昇降装置46が下降され、噴射ノズル47の噴射口がその別の溶接部14Bの真上に位置する別の開口部15内に挿入される。この状態で、前述したように、噴射ノズル47の噴射口から高圧水の噴流62が噴射され、噴流62に含まれるキャビテーション気泡の崩壊により発生する衝撃波により、別の溶接部14Bの裏面等に圧縮残留応力が付与される。
【0079】
以上のように、支持台51および52の上に置かれた1枚のブレードにおいて、U字状のシース4の一つの側端部における複数の溶接部14Bの裏面に対して、ウォータージェットピーニングが順番に施工される。このブレードのその側端部における全ての溶接部14Bの裏面へのウォータージェットピーニングの施工が終了した後、昇降装置46により、噴射ノズル47の噴射口の位置を、隙間64に挿入されたブレードとタイロッド2を中心として180°反対側に位置する他のブレードの上端よりも上方まで上昇させ、移動装置45により噴射ノズル47をこのブレードの真上を通過させてアーム44の先端側に移動させる。噴射ノズル47は、ウォータージェットピーニングが施工されたブレード2とタイロッド2を中心にして180°反対側に位置するブレード(支持台51の上面に置かれたブレード)の真上に位置する。この状態で、噴射ノズル47を水平面内で180°回転させる。この回転により、噴射ノズル47の噴射口は、垂直状態のブレードの側面に面している。
【0080】
昇降装置46を下降させ、その噴射口が、支持台51の上面に接触している溶接部14Aの真上で軸方向において隣り合っているタブ12Aの間に形成された開口部15A内に挿入されるまで下降される。噴射ノズル47の噴射口が開口部15A内に挿入された状態でこの噴射口から高圧水の噴流62が噴射され、溶接部14Aの裏面に対してウォータージェットピーニングが施工される。前述の溶接部14Bの裏面に対するウォータージェットピーニングの施工と同様に、制御棒1Fの軸方向に存在する全ての溶接部14Aの裏面に対して、ウォータージェットピーニングが施工される。支持台51の上面に接触しているブレードの全溶接部14Aに対するウォータージェットピーニングの施工が終了した後、制御棒1Fが持ち上げられ、支持台51および52の上方で制御棒1Fを90°回転させ、他の1枚のブレード(例えば、支持台52に接触してウォータージェットピーニングが施工されたブレード)を隙間64内に挿入する。支持台51および52にそれぞれ接触しているブレードにおいて、支持台51に接触する各溶接部14Aおよび支持台52に接触する各溶接部14Bに対するウォータージェットピーニングを施工する。制御棒1Fを90°ずつ回転させて全てのブレードにおける溶接部14Aおよび14Bのそれぞれの裏面に対して、ウォータージェットピーニングを施工する。
【0081】
制御棒1Fでは、溶接部14Bの裏面に対向して開口部15が形成され、溶接部14Aの裏面に対向して開口部15Aが形成されているため、溶接部14Aおよび14Bのそれぞれの裏面に対して、ウォータージェットピーニングによる圧縮残留応力の付与を容易に行うことができる。
【0082】
本実施例は引用例1で生じる各効果を得ることができる。
【実施例7】
【0083】
本発明の他の実施例である実施例7の制御棒を、図26を用いて説明する。本実施例の制御棒1Gは、沸騰水型原子炉に用いられる制御棒であり、実施例6の制御棒1Fと実質的に同じ構成を有する。制御棒1Gでは、圧縮残留応力が、レーザーピーニングにより、タブ12Aとタイロッド2の溶接部14Aの裏面およびタブ12Bとタイロッド2の溶接部14Bの裏面に付与されている。
【0084】
開口部15Aが溶接部14Aの裏面に対向し、開口部15が溶接部14Bの裏面に対向しているので、実施例1と同様に、溶接により組み立てられた制御棒1Gでは、組み立て後において溶接部14Aおよび14Bのそれぞれの裏面の検査を容易に行うことができる。
【0085】
溶接部14Aおよび14Bのそれぞれの裏面に欠陥が生じていないとき、制御棒1Gにおいて、タブ12Bおよび溶接部14Bのそれぞれの裏面、およびタブ12Aおよび溶接部14Aのそれぞれの裏面に対し、レーザーピーニングが施工され、圧縮残留応力が付与される。レーザーピーニングの施工には、圧縮残留応力付与装置であるレーザーピーニング装置が用いられる。レーザーピーニング装置は、図24に示すウォータージェットピーニング装置41において噴射ノズル47をレーザー照射ヘッド55に、高圧ホース48を光ファイバ56に替えた構成を有する。レーザーピーニング装置の他の構成はウォータージェットピーニング装置41と同じである。
【0086】
実施例6におけるウォータージェットピーニングの施工と同様に、支持台50,51及び52が、水54を蓄えた水槽53内に配置されている。支持台51および51が水54に浸漬され、レーザーピーニングを施工する制御棒1Gも水54に浸漬されている。レーザーピーニングを施工する制御棒1Gは、制御棒1Fと同様に、1枚のブレードが支持台51の上面に置かれて他の1枚のブレードが支持台52の上面に置かれ、支持台51および52に取り外し可能に固定される。走行装置42、移動装置45及び昇降装置46のそれぞれを移動させ、レーザー照射ヘッド55の先端部を、例えば、溶接部14Bの裏面と対向して形成された開口部15内に挿入する。
【0087】
光ファイバ56に接続されたレーザー発信器(図示せず)で発生したパルス時間幅が数ナノ秒から数十ナノ秒のレーザーを、光ファイバ56を通してレーザー照射ヘッド55に伝える。このレーザーは、水中において、レーザー照射ヘッド55から溶接部14Bの裏面に向かって照射される。このレーザーの照射によって高圧のプラズマが発生し、これに伴って衝撃力が発生する。この衝撃力により溶接部14Bの裏面に圧縮残留応力が付与される。制御棒1Gの軸方向における走行装置42の移動、および昇降装置46の上昇および下降を繰り返しながら、制御棒1Gの軸方向に存在する各溶接部14Bの裏面に対して残留圧縮応力を付与する。実施例6と同様にして、制御棒1Gに存在する全ての溶接部14Aおよび14Bのそれぞれの裏面に対して、レーザーピーニングが施工され、圧縮残留応力が付与される。
【0088】
本実施例は実施例1で生じる各効果を得ることができる。
【実施例8】
【0089】
本発明の他の実施例である実施例8の制御棒を、図27および図28を用いて説明する。本実施例の制御棒1Hは、沸騰水型原子炉に用いられる制御棒であり、実施例1の制御棒1と実質的に同じ構成を有する。制御棒1Hでは、圧縮残留応力が、ロッドピーニングにより、タブ12Aとタイロッド2の溶接部14Aの裏面およびタブ12Bとタイロッド2の溶接部14Bの裏面に付与されている。
【0090】
開口部15Aが溶接部14Aの裏面に対向し、開口部15が溶接部14Bの裏面に対向しているので、実施例1と同様に、溶接により組み立てられた制御棒1Hでは、溶接部14Aおよび14Bのそれぞれの裏面の検査を容易に行うことができる。
【0091】
溶接部14Aおよび14Bのそれぞれの裏面に欠陥が生じていないとき、制御棒1Hにおいて、タブ12Bおよび溶接部14Bのそれぞれの裏面、およびタブ12Aおよび溶接部14Aのそれぞれの裏面に対し、ロッドピーニングが施工され、圧縮残留応力が付与される。ロッドピーニングの施工には、圧縮残留応力付与装置であるロッドピーニング装置41Aが用いられる。
【0092】
ロッドピーニング装置41Aは、複数の細いロッド58が取り付けられたバイブレータ57およびバイブレータ走査装置を備えている。バイブレータ走査装置は、走行装置42Aおよび42B、アーム44、移動装置45および昇降装置46を有する。ロッドピーニング装置41Aの、複数の細いロッド58が取り付けられたバイブレータ57は、特開平6−155172号公報の図4に記載された、複数の細線ワイヤを取り付けたバイブレータにおいて、複数の細線ワイヤを複数の細いロッド58に取り替えた構成を有する。
【0093】
走行装置42Aは、床面に設置された支持台52の上面に設けられた一対のガイド部材43Aに走行可能に取り付けられている。走行装置42Bは、床面に設置された支持台51の上面に設けられた一対のガイド部材43Bに走行可能に取り付けられている。支持台51および52の相互間には、制御棒1Hの1枚のブレードが挿入される隙間64が形成される。アーム44Aが、走行装置42Aおよび42Bに取り付けられ、ガイド部材43Aおよび43Bと直交する方向で水平方向に伸びている。移動装置45が、アーム44Aに、アーム44に沿って移動可能に取り付けられる。昇降装置46が移動装置45に昇降可能に取り付けられる。バイブレータ57は、昇降装置46の下端部に上下方向において回転可能に取り付けられる。
【0094】
ロッドピーニングを施工する制御棒1Hが、支持台51および52のそれぞれの上面に固定される。すなわち、制御棒1Hの1枚のブレードが隙間64内に挿入され、このブレードと直交する2枚のブレードが、支持台51および52のそれぞれの上面に置かれ、これらの支持台に固定される。走行装置42A,42B、移動装置45及び昇降装置46のそれぞれを移動させ、バイブレータ57に取り付けられた各ロッド58を、例えば、溶接部14Bの裏面と対向して形成された開口部15内に挿入する。各ロッド58の先端が溶接部14Bの裏面に接触したとき、昇降装置46の下降を停止する。
【0095】
バイブレータ57には、コンプレッサ(図示せず)に接続された空気ホース(図示せず)が接続されている。ロッドピーニングを施工するとき、作動用空気がコンプレッサから空気ホースを通してバイブレータ57に供給される。この作動用空気によりバイブレータ57が作動し、各ロッド58を振動させる。振動する各ロッド58が先端部で溶接部14Bの裏面を打撃する。溶接部14Bの裏面の打撃された部分は押しつぶされ、この部分に引張の塑性ひずみが発生する。この塑性ひずみよる変形が周囲に拘束されることにより、ロッドピーニングによる、溶接部14Bの裏面の打撃部には、圧縮残留応力を付与することができる。制御棒1Hの軸方向における走行装置42A,42Bの移動、および昇降装置46の上昇および下降を繰り返しながら、各ロッド58により、制御棒1Hの軸方向に存在する各溶接部14Bの裏面に対して打撃を加えて残留圧縮応力を付与する。実施例6と同様にして、制御棒1Hに存在する全ての溶接部14Aおよび14Bのそれぞれの裏面に対して、ロッドピーニングが施工され、圧縮残留応力が付与される。
【0096】
本実施例は実施例1で生じる各効果を得ることができる。
【実施例9】
【0097】
本発明の他の実施例である実施例9の制御棒を、図29および図30を用いて説明する。本実施例の制御棒1Iは、沸騰水型原子炉に用いられる制御棒であり、実施例1の制御棒1と実質的に同じ構成を有する。制御棒1Iでは、圧縮残留応力が、押し潰し加工により、タブ12Aとタイロッド2の溶接部14Aの裏面およびタブ12Bとタイロッド2の溶接部14Bの裏面に付与されている。
【0098】
開口部15Aが溶接部14Aの裏面に対向し、開口部15が溶接部14Bの裏面に対向しているので、実施例1と同様に、溶接により組み立てられた制御棒1Iでは、溶接部14Aおよび14Bのそれぞれの裏面の検査を容易に行うことができる。
【0099】
溶接部14Aおよび14Bのそれぞれの裏面に欠陥が生じていないとき、制御棒1Iにおいて、タブ12Bおよび溶接部14Bのそれぞれの裏面、およびタブ12Aおよび溶接部14Aのそれぞれの裏面に対し、押し潰し加工が施工され、圧縮残留応力が付与される。押し潰し加工の施工には、圧縮残留応力付与装置である押し潰し加工装置41Bが用いられる。
【0100】
押し潰し加工装置41Bは、実施例8で用いられるロッドピーニング装置41Aにおいてバイブレータ57およびロッド58を押し潰し加工用ヘッド59に替えた構成を有する。押し潰し加工装置41Bの他の構成はロッドピーニング装置41Aと同じである。押し潰し加工用ヘッド59は下端部に鋼球60を回転可能に取り付けている。
【0101】
ロッドピーニングを施工する制御棒1Iが、支持台51および52のそれぞれの上面に固定される。すなわち、制御棒1Iの1枚のブレードが隙間64内に挿入され、このブレードと直交する2枚のブレードが、支持台51および52のそれぞれの上面に置かれ、これらの支持台に固定される。走行装置42A,42B、移動装置45及び昇降装置46のそれぞれを移動させ、押し潰し加工用ヘッド59に取り付けられた鋼球60を、例えば、溶接部14Bの裏面と対向して形成された開口部15内に挿入する。昇降装置46を下降させて鋼球60を溶接部14Bの裏面に押し付け、鋼球60に圧縮荷重を加える。鋼球60に加えられた圧縮荷重により溶接部14Bが押し潰される。この結果、溶接部14Bの裏面に塑性変形が生じ、その裏面に圧縮残留応力が付与される。走行装置42A,42Bを制御棒1Iの軸方向に移動させ、押し潰し加工用ヘッド59を一つの開口部15内でその軸方向に移動させる。鋼球60は、溶接部14Bの裏面に押し付けられながら、制御棒1Iの軸方向に移動される。一つの開口部15に対向する溶接部14Bの裏面の、制御棒1Iの軸方向における全長に亘って圧縮残留応力が付与される。
【0102】
制御棒1Iの軸方向における走行装置42A,42Bの移動、および昇降装置46の上昇および下降を繰り返しながら、鋼球60により、制御棒1Iの軸方向に存在する各溶接部14Bの裏面に対して打撃を加えて残留圧縮応力を付与する。実施例6と同様にして、制御棒1Iに存在する全ての溶接部14Aおよび14Bのそれぞれの裏面に対して、押し潰し加工が施工され、圧縮残留応力が付与される。
【0103】
本実施例は実施例1で生じる各効果を得ることができる。
【0104】
下端部に鋼球60を取り付けた押し潰し加工用ヘッド59の替りに、図31に示すように、下端部にローラー61を取り付けた押し潰し加工用ヘッド59Aを用いて、制御棒1Iに存在する全ての溶接部14Aおよび14Bのそれぞれの裏面に対して、押し潰し加工を施工してもよい。押し潰し加工用ヘッド59Aは押し潰し加工装置41Bの昇降装置46に取り付けられており、昇降装置46を下降させることによってローラー61が溶接部14B(または溶接部14A)の裏面に押し付けられ、押し潰し加工用ヘッド59と同様に溶接部14B(または溶接部14A)の裏面に圧縮残留応力を付与する。
【0105】
前述した実施例1〜9のそれぞれは、横断面がU字状をしているシース4内に、中性子吸収部材であるハフニウム部材の替りに、中性子吸収部材である、BCを充填した複数の中性子吸収棒を配置した制御棒に対して適用しても良い。
【符号の説明】
【0106】
1,1B,1C,1D,1E,1F,1G,1H,1I…制御棒、2…タイロッド、3…バンドル、4…シース、5…ハンドル、6…下部支持部材、7A,7B…ハフニウム部材、12A,12B,13A,13B,34A,34B,35A,35B…タブ、14A,14B,27A,27B…溶接部、15A,15B,25,25A…開口部、20…研磨砥石、22…砥粒、23…バインダ、30…噴射ノズル、32…細粒、41…ウォータージェットピーニング装置、41A…ロッドピーニング装置、41B…押し潰し加工装置、44…アーム、45…、46…昇降装置、46…噴射ノズル、50,51,52…支持台、55…レーザー照射ヘッド、57…バイブレータ、58…ロッド、59,59A…押し潰し加工用ヘッド。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
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図31