(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5997642
(24)【登録日】2016年9月2日
(45)【発行日】2016年9月28日
(54)【発明の名称】シリーズハイブリッドシステム
(51)【国際特許分類】
B60W 10/08 20060101AFI20160915BHJP
B60W 20/00 20160101ALI20160915BHJP
B60L 11/08 20060101ALI20160915BHJP
B60L 3/00 20060101ALI20160915BHJP
H02M 7/12 20060101ALI20160915BHJP
H02M 7/48 20070101ALI20160915BHJP
H02P 27/06 20060101ALI20160915BHJP
B60K 6/46 20071001ALI20160915BHJP
【FI】
B60W10/08 900
B60W20/00
B60L11/08ZHV
B60L3/00 J
H02M7/12 D
H02M7/48 E
H02P27/06
B60K6/46
【請求項の数】2
【全頁数】7
(21)【出願番号】特願2013-64021(P2013-64021)
(22)【出願日】2013年3月26日
(65)【公開番号】特開2014-189051(P2014-189051A)
(43)【公開日】2014年10月6日
【審査請求日】2015年3月27日
(73)【特許権者】
【識別番号】000001052
【氏名又は名称】株式会社クボタ
(74)【代理人】
【識別番号】100061745
【弁理士】
【氏名又は名称】安田 敏雄
(74)【代理人】
【識別番号】100120341
【弁理士】
【氏名又は名称】安田 幹雄
(72)【発明者】
【氏名】河端 真一
(72)【発明者】
【氏名】高木 剛
(72)【発明者】
【氏名】柳生 寿美夫
(72)【発明者】
【氏名】林 繁樹
【審査官】
佐々木 淳
(56)【参考文献】
【文献】
特開2008−183961(JP,A)
【文献】
特開2010−130770(JP,A)
【文献】
特開2005−130615(JP,A)
【文献】
特開2003−009607(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60W 10/08
B60K 6/46
B60L 3/00
B60L 11/08
B60W 20/00
H02M 7/12
H02M 7/48
H02P 27/06
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
エンジンと、
前記エンジンの動力によって駆動される三相のジェネレータと、
前記ジェネレータを駆動して発電された三相交流を直流に変換する第1のインバータと、
前記第1のインバータの直流出力端子に接続される第2のインバータと、
前記第2のインバータによって制御される三相交流モータと、を具備し、
前記第1のインバータは、
直流電圧が閾値を超えて上昇したことを検出する第1の電圧検知部と、
前記第1の電圧検知部によって閾値を超えた電圧が検出されたときに前記第1のインバータの界磁電流の位相を制御し、前記第1のインバータと前記第2のインバータの端間の電圧上昇を防止する第1のコントローラと、を具備し、
前記第2のインバータは、
直流電圧が閾値を超えて上昇したことを検出する第2の電圧検知部と、
前記第2の電圧検知部によって閾値を超えた電圧が検出されたときに前記第2のインバータの界磁電流の位相を制御し、前記第1のインバータと前記第2のインバータの端間の電圧上昇を防止する第2のコントローラと、を具備するシリーズハイブリッドシステム。
【請求項2】
前記第1のインバータは、該第1のインバータの出力端子間の直流電圧を検出するための抵抗による分圧回路であって、前記第1の電圧検知部が接続された第1の分圧回路を具備し、
前記第2のインバータは、該第2のインバータの入力端子間の直流電圧を検出するための抵抗による分圧回路であって、前記第2の電圧検知部が接続された第2の分圧回路を具備する請求項1記載のシリーズハイブリッドシステム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は農業機械や草刈機等の汎用機械に用いられるシリーズハイブリッドによるモータ制御システムに関し、特に直流電圧の上昇を抑制するシリーズハイブリッドシステムに関するものである。
【背景技術】
【0002】
本発明は近年温室効果ガスを含む排気ガスを規制する観点から排気ガスを規制する動きが社会的潮流となっている。この動きに対してハイブリッドカーや電気自動車等の開発が進められている。一方、従来の草刈り機や農業機械ではディーゼルエンジンが動力源として用いられ、エンジンの周囲にラジエーターやマフラー等を配置し、変速機を備えて動力を必要な部所に伝える構成であった。
【0003】
特許文献1にはエンジンを動力源とすることに代えて、電動式とする農業機械が提案されている。又農業機械の負荷に供給するための動力源としては、例えば200Vで三相交流の電圧を出力するものが知られている。
【0004】
又特許文献2にはエンジンに発電機を接続し、インバータを介してモータを制御するシリーズハイブリッドシステムが提案されている。シリーズハイブリッドシステムでは、エンジンと、エンジンに連結された発電機と、発電機の交流出力を直流電力に変換する第1のインバータと、このインバータからの直流出力に基づいて三相交流モータを制御する第2のインバータとが直列に制御されている。ここで一対のインバータの間にはバッテリーが接続されている場合や、バッテリーに代えてフィルムコンデンサ等のコンデンサを接続したシリーズハイブリッドシステムが知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2003−9607号公報
【特許文献2】特開2008−187794号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
前述したようにシリーズハイブリッドシステムでは、2つのインバータの間にバッテリーを搭載するか、又は比較的大きな容量のコンデンサを接続しておく必要がある。これはモータが何らかの原因で急停止したときにエンジンを急速に停止することができないため、インバータからの電力が消費されず、インバータの間の電圧が急激に上昇してしまうからである。通常、インバータのトルク制御はマネージングコンピュータにより通信回路を介して行われているため、急激な電圧上昇には対応できない。バッテリーを接続している場合にはバッテリーが負荷となって電圧の急上昇を吸収することができる。しかしコンデンサでは高耐圧で大容量のコンデンサを用いる必要があるため、コンデンサの価格が上昇したり形状が大きくなってしまうという問題点があった。
【0007】
本発明はこのような従来のシリーズハイブリッドシステムの問題点に着目してなされたものであって、インバータ間のコンデンサに高耐圧、大容量のものを必要とすることなく、急激な電圧の上昇を抑制することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
この課題を解決するために、本発明のシリーズハイブリッドシステムは、エンジンと、前記エンジン
の動力によって駆動される三相のジェネレータと、前記ジェネレータを駆動し
て発電された三相交流を直流に変換する第1のインバータと、前記第1のインバータの直流出力端子に接続される第2のインバータと、前記第2のインバータによって制御される三相交流モータと、を具備し、前記第
1のインバータは、直流電圧が閾値を超えて上昇したことを検出する
第1の電圧検知部と、前記
第1の電圧検知部によって閾値を超えた電圧が検出されたときに前記
第1のインバータの界磁電流の位相を制御し、
前記第1のインバータと前記第2のインバータの端間の電圧上昇を防止する
第1のコントローラと、を具備
し、前記第2のインバータは、直流電圧が閾値を超えて上昇したことを検出する第2の電圧検知部と、前記第2の電圧検知部によって閾値を超えた電圧が検出されたときに前記第2のインバータの界磁電流の位相を制御し、前記第1のインバータと前記第2のインバータの端間の電圧上昇を防止する第2のコントローラと、を具備するものである。
また、前記第1のインバータは、該第1のインバータの出力端子間の直流電圧を検出するための抵抗による分圧回路であって、前記第1の電圧検知部が接続された第1の分圧回路を具備し、前記第2のインバータは、該第2のインバータの入力端子間の直流電圧を検出するための抵抗による分圧回路であって、前記第2の電圧検知部が接続された第2の分圧回路を具備する。
【発明の効果】
【0009】
このような特徴を有する本発明によれば、シリーズハイブリッドシステムのインバータの内部で電圧の急上昇を抑えるようにベクトル制御を行っているため、インバータ間のコンデンサに大容量を必要とすることなく急激な電圧の上昇を抑制することができる。従ってコンデンサの容量や耐圧を低くすることができるため、低価格化することができるという効果が得られる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】
図1は本発明の実施の形態によるシリーズハイブリッドシステムの全体構成を示すブロック図である。
【
図2】
図2は本実施の形態によるインバータ14とその周辺回路を示すブロック図である。
【
図3】
図3は本実施の形態によるインバータ16とその周辺回路を示すブロック図である。
【
図4A】
図4Aはインバータ14の位相制御を示すベクトル図である。
【
図4B】
図4Bはインバータ16の位相制御を示すベクトル図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
図1は本発明の実施の形態によるシリーズハイブリッドシステムの全体構成を示すブロック図である。本図においてこのシリーズハイブリッドシステムはエンジン11を有している。エンジン11の動力はフライホイール12を介してジェネレータ13に供給され、ジェネレータ13を一定速度で回転駆動するものである。
【0012】
ジェネレータ13は三相交流式の発電機であって、回転数に応じた三相交流を第1のインバータ14に与える。インバータ14は三相交流の位相制御を行うものであり、その直流電圧の出力端子にはコンデンサ15を介して第2のインバータ16が接続されている。インバータ16には三相交流のモータ17が接続され、図示しない農業機械や汎用機械等がモータ17によって駆動される。又インバータ14,16にはマネージングコンピュータ18が接続される。マネージングコンピュータ18は操作部19からのアクセル等の信号に応じてインバータ14及び16をベクトル制御し、モータ17を駆動するものである。
【0013】
ここでコンデンサ15にはフィルムコンデンサが用いられる。従来のシリーズハイブリッドシステムでは、このコンデンサの耐圧や容量が大きく、例えば800Vの耐圧で600μFの容量のものを用いる必要があったが、この発明では後述するようにインバータ間の電圧上昇を避けるような制御を行っているため、耐圧は例えば450Vと低くて足りる。又容量についても従来のものより小さく、例えば500μFとすることができる。
【0014】
次にインバータ14の内部構成について
図2を用いて説明する。
図2に示すようにインバータ14の内部は例えばパワーMOSFETやIGBT等のスイッチング素子21Uと22U,21Vと22V,21Wと22Wが図示のように並列に接続される。そして各スイッチング素子の両端には逆流防止用のダイオードが接続されており、スイッチング素子
21Uと22Uの中点、21Vと22Vの中点、及び21Wと22Wの中点がジェネレータ13の各相に図示のように接続されて構成される。そしてこれらのスイッチングトランジスタの両端が直流電源の出力端子23a,23bとなっている。
【0015】
そしてこの一対の出力端子23a,23bの間には、端子間の電圧を検出するための抵抗R1,R2による分圧回路
(第1の分圧回路)と、その中点に接続された電圧検知部
(第1の電圧検知部)24が設けられ、その出力がコントローラ
(第1のコントローラ)25に接続される。電圧検知部24は端子間の電圧が所定の閾値を超えたときに検知信号をコントローラ25に出力するものである。コントローラ25はマネージングコンピュータ18からの制御に応じて6つのスイッチング素子21U〜22Wの開閉のタイミングを制御して位相制御を行うと共に、電圧検知部24からの信号が得られたときにエネルギーを弱めて界磁によって吸収するようにベクトル位相制御を行うものである。
【0016】
図3は第2のインバータ16の内部構成を示す図である。インバータ16もインバータ14と同様に、パワーMOSFETやIGBT等のスイッチング素子31Uと32U,31Vと32V,31Wと32Wが図示のように並列に接続される。そして各スイッチング素子の両端には逆流防止用のダイオードが接続されており、これらのスイッチングトランジスタの両端が直流電源の入力端子33a,33bとなっている。スイッチング素子31Uと32Uの中点、31Vと32Vの中点、及び31Wと32Wの中点がモータ17の各相に図示のように接続される。インバータ16においても直流入力端子には抵抗R3,R4による分圧回路
(第2の分圧回路)と電圧検知部
(第2の電圧検知部)34が接続される。電圧検知部34は端子間の電圧が所定の閾値を超えたときに検知信号をコントローラ
(第2のコントローラ)35に出力するものである。コントローラ35はマネージングコンピュータ18からの制御に応じて6つのスイッチング素子31U〜33Wの開閉のタイミングを制御して位相制御を行うと共に、電圧検知部34からの信号が得られたときにエネルギーを弱めて界磁によって吸収するようにベクトル位相制御を行うものである。
【0017】
次にこの実施の形態の動作について説明する。この実施の形態におけるシリーズハイブリッドシステムにおいては、アクセルからの信号が操作部19を介してマネージングコンピュータ18に加わり、これによってインバータ14,16のコントローラで位相制御が行われる。正常な動作時にはエンジン11はフライホイール12を介してジェネレータモータ13を一定速度で回転させる。これによってインバータ14はほぼ一定の直流電圧を発生する。ここで電圧を位相制御するためにジェネレータモータの各相のスイッチングのタイミングを制御し、ベクトル制御を行い、必要な直流電圧を得る。この直流電圧はコンデンサ15によって平滑され、更にインバータ16に与えられ、これに基づいてモータ17が負荷に応じて位相制御される。通常の定速、定負荷の駆動状態では、インバータ14は
図4Aに実線のベクトルV1で示すように、−Iqの回転位相の制御が行われている。又インバータ16では
図4Bに実線のベクトルV4で示すように、+Iqの位相制御が行われている。
【0018】
そしてモータ17に何らかの負荷が加わって急停止したとする。このような場合であっても、エンジン11は通常一定の速度で回転しているため、急速に停止することができない。このためインバータ14の出力側とインバータ16の入力側の直流電圧のレベルが過電圧となる。インバータ14では過電圧となれば電圧検知部24によって過電圧が検知され、コントローラ25に信号が加わる。これによって
図4AのベクトルV2のようにIdを負とし、Iqを小さくするように界磁制御を行う。こうすればエネルギーが吸収されることとなり、電圧の上昇を低下させることができる。ここでベクトルV3は制御電流を弱める限界のベクトルを示している。同時にインバータ16内の電圧検知部34によって過電圧が検知されると、
図4BのベクトルV5のようにIdを負とし、Iqを小さくするように界磁制御を行う。こうすればエネルギーが吸収される。尚ベクトルV6は界磁を弱め
るベクトルの限界値を示している。このようなベクトル制御に急激な過電圧を防止し、直流区間の電圧の上昇を抑制することができる。このようにインバータ内部のコントローラ25,35によってベクトル制御しているため、マネージングコンピュータ18を用いて制御する場合に比べて極めて短時間、例えば50μs程度で電圧の上昇を抑制できる。
【0019】
従ってインバータ14,16の間に高価なバッテリーを接続しておく必要がなく、又コンデンサ15も耐圧が小さく、比較的小容量のものでよいため、構成を簡略化することができる。
【0020】
尚この実施の形態では、2つのインバータに夫々抵抗分割回路と電圧検知部とを設けているが、閾値を超える電圧が検知されればコントローラに信号を与えるものであれば足りる。この2つの閾値は同一値であってもよい。又インバータ14,16とコンデンサ15とを1つの筐体内に収めて一体化するようにしてもよい。この場合には、これらの抵抗分圧回路と電圧検知部を共通にすることも可能である。
【産業上の利用可能性】
【0021】
本発明によればシリーズハイブリッドシステムにおいてインバータ間にコンデンサを小さくすることができる。従って本発明は例えば農業機械や芝刈機などの種々の産業機械に好適に用いることができる。
【符号の説明】
【0022】
11 エンジン
12 フライホイール
13 ジェネレータ
14,16 インバータ
15 コンデンサ
17 モータ
18 マネージングコンピュータ
19 操作部
24,34 電圧検知部
25,35 コントローラ