(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5997657
(24)【登録日】2016年9月2日
(45)【発行日】2016年9月28日
(54)【発明の名称】転圧機械
(51)【国際特許分類】
E01C 19/23 20060101AFI20160915BHJP
【FI】
E01C19/23
【請求項の数】4
【全頁数】9
(21)【出願番号】特願2013-96304(P2013-96304)
(22)【出願日】2013年5月1日
(65)【公開番号】特開2014-218779(P2014-218779A)
(43)【公開日】2014年11月20日
【審査請求日】2015年3月16日
(73)【特許権者】
【識別番号】000005522
【氏名又は名称】日立建機株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100090022
【弁理士】
【氏名又は名称】長門 侃二
(72)【発明者】
【氏名】岡崎 鉄朗
(72)【発明者】
【氏名】柴田 俊徳
(72)【発明者】
【氏名】池田 豊
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 正和
【審査官】
須永 聡
(56)【参考文献】
【文献】
特開平08−134827(JP,A)
【文献】
実開昭56−079632(JP,U)
【文献】
実開平02−116510(JP,U)
【文献】
特開2008−285915(JP,A)
【文献】
実開平03−056840(JP,U)
【文献】
実開平03−122104(JP,U)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E01C 19/00−19/52
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
前後の車輪の少なくとも一方を兼用する転圧輪と、
該転圧輪により走行する車体と、
該車体を形成するフレームと、
該フレームの前部下方に空間として形成され、前輪を収容するタイヤハウスと、
前記フレーム内に収容された熱交換器と、
前記フレーム内に収容され、前記熱交換器に対して後方から前方へと風の流通を形成するファンと、
前記フレームに形成され、前記熱交換器を通過した熱交換風を前記車体外部に排出するダクトと
を備え、
該ダクトは、前記熱交換風が流通する熱交換風流通領域と前記タイヤハウスとの間を遮蔽し少なくとも前記車体の下方に前記熱交換風を導く遮蔽部と、前記フレームの下部まで延びて路面に対して前記熱交換風を吹き付ける路面吹き付け部とを有し、
前記路面吹き付け部は、前記熱交換風に対して水を散布する散水ノズルを有する
ことを特徴とする転圧機械。
【請求項2】
前記遮蔽部は、前記ダクトに沿って上方及び下方に延びる板材で形成されていることを特徴とする請求項1に記載の転圧機械。
【請求項3】
前記遮蔽部は、前記ダクトに沿って上方及び下方に延びる互いに回動可能な上下の回動板で形成されていることを特徴とする請求項1に記載の転圧機械。
【請求項4】
前記ダクトは、前記遮蔽部と連続して前記ダクトの上部又は下部を塞ぐ閉塞板をさらに備えたことを特徴とする請求項2に記載の転圧機械。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、路面を締め固めるための転圧機械、より好ましくはタイヤローラに関するものである。
【背景技術】
【0002】
道路等におけるアスファルト舗装工事において、施行箇所を早期に交通開放可能な状況にするために、舗装体を強制冷却する場合がある。この場合の冷却は、タイヤローラに専用のブロアファン等を設けて風を路面に当て、散水ノズルからの水をこの風に当てて発生する気化熱を利用している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】実用新案登録第3154152号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、専用のブロアファンを設けることはそのためのスペースが必要になり、コストも高くなってしまう(例えば特許文献1参照)。特許文献1では、専用のブロアファンを車体後方に配することで、車体全体の長さが長くなってしまっている。
【0005】
本発明は、上記従来技術を考慮したものであり、転圧輪で締め固めた路面を冷却する際に専用の送風機を必要とすることなく、効率よく冷却水を気化させることができ、スペース的コスト的に有利な転圧機械を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
前記目的を達成するため、本発明では、前後の車輪の少なくとも一方を兼用する転圧輪と、該転圧輪により走行する車体と、該車体を形成するフレームと、該フレームの前部下方に空間として形成され、前輪を収容するタイヤハウスと、前記フレーム内に収容された熱交換器と、前記フレーム内に収容され、前記熱交換器に対して後方から前方へと風の流通を形成するファンと、前記フレームに形成され、前記熱交換器を通過した熱交換風を前記車体外部に排出するダクトとを備え、該ダクトは、前記熱交換風が流通する熱交換風流通領域と前記タイヤハウスとの間を遮蔽し少なくとも前記車体の下方に前記熱交換風を導く遮蔽部
と、前記フレームの下部まで延びて路面に対して前記熱交換風を吹き付ける路面吹き付け部とを有し、前記路面吹き付け部は、前記熱交換風に対して水を散布する散水ノズルを有することを特徴とする転圧機械を提供する。
【0007】
好ましくは、前記遮蔽部は、前記ダクトに沿って上方及び下方に延びる板材で形成されている。
【0008】
好ましくは、前記遮蔽部は、前記ダクトに沿って上方及び下方に延びる互いに回動可能な上下の回動板で形成されている。
【0009】
好ましくは、前記ダクトは、前記遮蔽部と連続して前記ダクトの上部又は下部を塞ぐ閉塞板をさらに備えている。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、熱交換器を通過したファンからの熱交換風が流通する熱交換風流通領域とタイヤハウスとの間がダクトを形成する遮蔽部にて遮蔽されている。タイヤハウス内に収容された前輪には前輪に向けて水を吹き付けるノズルが設けられている。タイヤハウス内に熱交換風が流入すると、この水を巻き上げながら車体前方に排出されてしまい、運転席に着座している作業者に水がかかってしまう。遮蔽部を設けることにより、タイヤハウスに熱交換風が流入することを防止し、水の巻き上げを防止できる。
【0012】
また、ダクトには熱交換風を車体の下側に吹き付けるための路面吹き付け部が設けられ、この路面吹き付け部には散水ノズルが備わっているので、散水ノズルからの水は気化されてミスト状になる。このミストが路面にあたり、気化熱によって効率よく路面を冷却することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】本発明に係る転圧機械の一例であるタイヤローラの概略側面図である。
【
図2】本発明に係る転圧機械の一例を示すタイヤローラの前部概略断面図である。
【
図3】タイヤハウス側からフレームを視たときの概略図である。
【
図5】本発明に係る転圧機械の一例を示す別のタイヤローラの前部概略断面図である。
【
図6】
図5で示す例の遮蔽部の動作を説明するための概略図である。
【
図7】本発明に係る転圧機械の一例を示すさらに別のタイヤローラの前部概略断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
図1に示すように、転圧機械の一種であるタイヤローラ1は、前後の車輪を兼用する転圧輪2と、この転圧輪2により走行する車体3を備えている。転圧輪2は前輪2aと後輪2bからなっている。車体3の上部中央にはキャノピー型の運転席4が設けられている。この運転席4に対しては車体3の側部に配設されたステップ5を利用して昇降することができる。運転席4の前方には操作スタンド6が配設されている。この操作スタンド6には車体3を操縦するためのハンドル7や操作パネル8が設けられている。
【0015】
車体3はフレーム9によって形成され、フレーム9内に各種機器等が収容されている。例えば、フレーム9の後部はタンク収容室となっていて、図示しない燃料タンクや作動油タンクが収容されている。燃料タンクに燃料を供給する入口となる給油口10は、フレーム9の後部上方に設けられている。一方で、フレーム9の前部はエンジン収容室となっていて、図示しないエンジンや油圧ポンプ等の周辺機器が収容されている。エンジン収容室は開閉可能なエンジンカバー11により覆われている。油圧ポンプはエンジンにより駆動され、転圧輪2の走行用モータ等に作動油を供給する。また、フレーム9のその他の部分は水が貯留される水タンクとして利用されている。
【0016】
上述した転圧輪2は、それぞれフレーム9の前部及び後部の下方に空間として形成されたタイヤハウス12に収容されている。前輪2aはフレーム9に対して左右方向に回転可能なヨーク13に取り付けられていて、ハンドル7の操作に連動してヨーク13は回転する。これによって車体3の進行方向が定められる。前輪2a及び後輪2bには、路面転圧時に車輪とアスファルトとが必要以上に密着することを防止するため、ノズル20から散布される水が供給される。
【0017】
図2に示すように、フレーム9内には熱交換器となるラジエータ14が収容されている。ラジエータ14の後方にはファン15が配設されている。ファン15は、ラジエータ14に対して後方から風を吹き付ける。ファン15は回転軸21廻りに回転し、回転軸21はエンジンユニット22が有する図示しないエンジンの出力軸となっている。ファン15とラジエータ14との間にはシュラウド16が配されていて、ファン15からの風は効率よくラジエータ14に向かって送られる。なお、ラジエータ14に対して後方から前方へと風の流通を形成すればよいので、ファン15はラジエータ14の前方に配された吸い込み型を用いてもよい。
【0018】
ラジエータ14の前方には、ラジエータ14を通過した熱交換風である温風が流通するダクト17が形成されている。温風はこのダクト17を通り、車体3の外部に排出される。
図3及び
図4を参照すれば明らかなように、ダクト17はフレーム9に対して上下方向に延びている。したがって、ダクト17内で温風が流通する領域である熱交換風流通領域18もフレーム9に対して上下方向に延びている。ここで、ダクト17は熱交換風流通領域18とタイヤハウス12との間を遮蔽する遮蔽部19を含んでいる。図の例では、遮蔽部19はダクト17を形成する板材29であり、これにより熱交換風流通領域18とタイヤハウス12とは完全に遮断されている。
【0019】
このように、ラジエータ(熱交換器)14を通過したファン15からの温風(熱交換風)が流通する熱交換風流通領域18とタイヤハウス12との間がダクト17を形成する遮蔽部19にて遮蔽されている。タイヤハウス12内には、上述したように前輪2aに向けて水を吹き付けるノズル20が設けられている。タイヤハウス12内に温風が流入すると、この水を巻き上げながら車体3の前方に排出されてしまい、運転席4に着座している作業者に水がかかってしまう。遮蔽部19を設けることにより、タイヤハウス12に温風が流入することを防止し、水の巻き上げを防止できる。なお、遮蔽部19は完全にタイヤハウス12と熱交換風流通領域18とを仕切ってもよいし、水の巻き上げを防止できる程度であればある程度温風が通過するような隙間が空いていてもよい。
【0020】
実際の風の流れについて説明する。エンジンユニット22が有するエンジンを駆動させ、回転軸21を回転させるとともにファン15を回転させる。これにより、ファン15から車体3の前方に向けて風が発生し、シュラウド16内を通ってラジエータ14を通過する。風はラジエータ14を通過時に熱交換されて温風となる。温風はラジエータ14前方のダクト17内の熱交換風流通領域18に流入する。温風はそのまま熱交換風流通領域18を前方に流れようとするが、遮蔽部19によりさらに前方のタイヤハウス12内には流入せず、遮蔽部19に突き当たってダクト17内を上方及び下方に流れる。エンジンカバー11にはスリット23が形成されていて、ダクト17(遮蔽部19を構成する板部材)はこのスリット23まで温風をガイドするように延びている。したがって、ダクト17内を上方に流れた温風はこのスリット23から車体3の外部に排出される。ダクト17(遮蔽部19を構成する板部材)はさらにフレーム9の下部まで延びていて下側に向けて開口し、路面吹き付け部24が形成されている。したがって、ダクト17内を下方に流れた温風は路面吹き付け部24から路面に向けて車体3の外部に排出される。
【0021】
ここで、路面吹き付け部24の近傍には散水ノズル25が設けられている。この散水ノズル25は、ダクト17内を流通する温風に対して水を散布するものである。温風に対して水を散布することで、散水ノズル25からの水は気化されてミスト状となる。このミストはそのまま路面吹き付け部24から排出されて路面にあたる。このため、気化熱によって効率よく路面を冷却することができる。したがって、路面を迅速に冷却させることができ、早期に交通開放可能な状況にすることができる。なお、水を効率よくミスト化するため、路面吹き付け部24の内径を絞ったベンチュリ部を設けて温風の流速を高めてもよい。
【0022】
図5及び
図6に示すように、遮蔽部19として、ダクト17内に設けられた回動板26、27を用いてもよい。これら回動板26、27は互いにその端部で連結部28を介して接続され、互いにこの連結部28を介して回動可能である。回動板26は連結部28からダクト17に沿って上方に延び、回動板27は連結部28からダクト17に沿って下方に延びている。路面が土砂の場合であると、温風により土砂が舞い上がって作業者や周囲に影響を及ぼす可能性がある。このような場合、温風が車体3の下方に排出されることを防止するため、
図5に示すように回動板27でダクト17の下方(路面吹き付け部24)を塞ぐ。具体的には、回動板27を連結部28廻りに車体3の後方に向けて回動させ、ダクト17の後方側の壁に密接させる。これによって熱交換風流通領域18と路面吹き付け部24とが仕切られるので、ラジエータ14を通過した温風は全てダクト17の上方にのみ流通し、スリット23を介して車体3の外部に排出されることになる。
【0023】
一方で、路面がアスファルトの場合は前輪2aによる転圧後、路面が非常に熱くなっているため、冷却効率を高める必要がある。このような場合、温風を全て散水ノズル25からの水のミスト化に用いれば冷却効率を高めることができる。このため、
図6に示すように、回動板26でダクト17の上方を塞ぎ、温風を全てダクト17の下方のみに流通させる。具体的には、回動板26を連結部28廻りに車体3の後方に向けて回動させ、スリット23の後方側のエンジンカバー11裏面に当接させたり(
図6の例)、あるいはラジエータ14の上部壁面に当接させる。これによって熱交換風流通領域18とスリット23を介した車体3の上方空間とは仕切られるので、ラジエータ14を通過した温風は全て路面吹き付け部24に流入する。このため温風の流速が高まり、結果として散水ノズル25からの水のミスト化を促進させて効率よく気化熱を利用した路面冷却を行うことができる。なお、
図5及び
図6の例では上述した遮蔽部としての板材29も併用して設けた例を示しているが、回動板27が熱交換風流通領域18とタイヤハウス12との間を仕切っているので、板材29を不要とすることもできる。
【0024】
また、上述した板材29を用いた場合に温風をダクト17の上方のみ又は下方のみに流通させたい場合には、
図7に示すような閉塞板30を用いてもよい。
図7の実線で示した閉塞板30は、ダクト17の上方を覆い、温風がスリット23を介して車体3の上方に排出されることを防止している。具体的には、閉塞板30はダクト17の前方壁面とラジエータ14の上方壁面との間に当接して配される。すなわち閉塞板30は遮蔽部19たる板材29と連続してダクト17を形成し、このダクト17の上部を塞いでいる。このため、熱交換風流通領域18とスリット23を介した車体3の上方空間とが仕切られるので、温風は全てダクト17を下方に流通し、路面吹き付け部24から路面に向けて吹き付けられる。
【0025】
一方で、温風を車体3の上方のみから排出したい場合は、
図7の点線で示す位置に閉塞板30を設ければよい。具体的には、ダクト17内の熱交換風流通領域18と路面吹き付け部24との間を仕切る位置に閉塞板30を配する。すなわち閉塞板30は遮蔽部19たる板材29と連続してダクト17を形成し、このダクト17の下部を塞いでいる。これにより、温風は全てスリット23を介して車体3の上部に排出される。このように路面に対して温風を吹き付けたくない場合や、散水ノズル25からの水のミスト化を効率よく行いたい場合等、用途に応じてダクト17内における温風の流通方向を制御することができる。なお、ダクト17の上部又は下部を塞ぐ閉塞板30は、上部と下部で別々の板材を用いてもよいし、同一の板材を兼用して用いてもよい。
【符号の説明】
【0026】
1:タイヤローラ、2:転圧輪、3:車体、4:運転席、5:ステップ、6:操作スタンド、7:ハンドル、8:操作パネル、9:フレーム、10:給油口、11:エンジンカバー、12:タイヤハウス、13:ヨーク、14:ラジエータ(熱交換器)、15:ファン、16:シュラウド、17:ダクト、18:熱交換風流通領域、19:遮蔽部、20:ノズル、21:回転軸、22:エンジンユニット、23:スリット、24:路面吹き付け部、25:散水ノズル、26:回動板、27:回動板、28:連結部、29:板材、30:閉塞板