(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下、本発明の実施形態について図面を参照しながら説明する。なお、以下の実施形態は、本質的に好ましい例示であって、本発明、その適用物、あるいはその用途の範囲を制限することを意図するものではない。
【0025】
《発明の実施形態1》
<概要>
図1は、本発明の実施形態1に係る電力変換装置(20)を備えたモータ駆動システム(100)の構成図である。
図1のモータ駆動システム(100)は、モータ(11)と、電力変換装置(20)とで構成されている。
【0026】
モータ(11)は、3相のブラシレスDCモータであって、図示はしていないが、ステータ、ロータ及びホール素子等を有している。ステータは、複数の駆動コイルを有している。ロータは、複数の永久磁石を有している。ホール素子は、ステータに対するロータの位置を検出するための素子である。
【0027】
なお、本実施形態1に係るモータ(11)は、
図2の空気調和装置(70)に含まれる圧縮機(72)の駆動源である。
図2は、空気調和装置(70)の構成の概略図である。
図2に示すように、室外ユニット(71)には、冷媒を圧縮する圧縮機(72)及びモータ(11)の他、冷媒の流れを切り換える四方切換弁(73)、外気と冷媒との間で熱交換を行う室外熱交換器(74)、冷媒を減圧する膨張弁(75)、室外熱交換器(74)へ外気を供給する室外ファン(76)、及びファンモータ(77)が含まれている。室内ユニット(80)には、室内の空気と冷媒との間で熱交換を行う室内熱交換器(81)、熱交換後の空気を室内に吹き出す室内ファン(82)及びファンモータ(83)が含まれている。
【0028】
電力変換装置(20)は、商用電源(91)及びモータ(11)と、複数本のハーネスを介して接続されている。電力変換装置(20)は、交流電源である商用電源(91)からの入力交流を出力交流電力(SU,SV,SW)に変換してモータ(11)に供給する。これにより、モータ(11)は駆動することができる。
【0029】
なお、本実施形態1では、商用電源(91)が単相電源である場合を例に採る。
【0030】
<電力変換装置の構成>
電力変換装置(20)は、主として、フィルタ(21)、整流部(22)、主電源リレー(23)、入力電圧検出部(24)、力率改善部(25)、出力電圧検出部(27)、電力変換部(28)、電流検出部(29)、力率改善駆動部(30)及びコントローラ(31)を備える。
【0031】
−フィルタ−
フィルタ(21)は、商用電源(91)と整流部(22)との間に位置している。フィルタ(21)は、コイル(21a)とコンデンサ(21b)とで構成されたローパスフィルタであって、力率改善部(25)及び電力変換部(28)にて発生した高周波ノイズの、商用電源(91)側への回り込みを防止する。
【0032】
−整流部−
整流部(22)は、フィルタ(21)の後段に接続されている。整流部(22)は、4つのダイオード(22a,22b,22c,22d)で構成されている。
【0033】
具体的には、ダイオード(22a,22c)の各カソード端子は、互いに電源配線(41)に接続されている。ダイオード(22b,22d)の各アノード端子は、互いにGND配線(42)に接続されている。ダイオード(22a)のアノード端子とダイオード(22b)のカソード端子との接続点、及び、ダイオード(22c)のアノード端子とダイオード(22d)のカソード端子との接続点は、それぞれ商用電源(91)の出力に接続されている。
【0034】
整流部(22)は、商用電源(91)からの入力交流を、
図3に示すように全波整流して出力する。
図3は、整流された電圧(以下、入力電圧(V1))、入力電圧(V1)の波高値(V11)、後述する入力側検出周期、及び入力電圧検出部(24)の検出結果(Vac_peak)の経時的変化を表している。
【0035】
以下では、説明の便宜上、入力交流の電圧を「商用電圧(V0)」と呼称する。
【0036】
−主電源リレー−
主電源リレー(23)は、整流部(22)と力率改善部(25)との間にて、電源配線(41)上に直列に接続されている。主電源リレー(23)は常閉接点である。主電源リレー(23)は、例えばモータ(11)の駆動を緊急停止しなければならない場合に開放されることで、商用電源(91)からモータ(11)側への電力供給を遮断する。
【0037】
モータ(11)の駆動を緊急停止しなければならない場合としては、圧縮機(72)にて高圧異常が生じた場合、及び、モータ(11)に過大な電流が流れた場合等が挙げられる。
【0038】
なお、主電源リレー(23)の位置は、整流部(22)の後段に代えて前段であってもよい。
【0039】
−入力電圧検出部−
入力電圧検出部(24)は、整流部(22)から出力された電圧(V1)を、力率改善部(25)の入力電圧として検出する。
【0040】
具体的に、入力電圧検出部(24)は、
図1及び
図4に示すように、主として、互いに直列に接続された2つの抵抗(24a,24b)、ピークホールド回路(24c)、入力電圧サンプリング部(31a)として機能するコントローラ(31)等によって構成されている。互いに直列に接続された2つの抵抗(24a,24b)は、主電源リレー(23)と力率改善部(25)との間において、整流部(22)の出力の両端に接続されている。抵抗(24a,24b)同士の接続点における電圧値は、ピークホールド回路(24c)に入力される。ピークホールド回路(24c)では、
図3に示すように、入力電圧(V1)の最大値である波高値(V11)が、一定時間の間維持される。この波高値(V11)は、コントローラ(31)に入力され、入力電圧サンプリング部(31a)により、
図3に示すように入力側検出周期でサンプリング且つAD変換され、検出結果(Vac_peak)として認識される。
【0041】
ここで、
図4は、実施形態1に係るコントローラ(31)の機能部を模式的に表している。
【0042】
また、
図3では、入力電圧検出部(24)の検出周期である入力側検出周期が、入力電圧(V1)が最大値を採る周期(電源周波数)よりも長い場合を表している。
【0043】
−力率改善部−
図1に示すように、力率改善部(25)は、主電源リレー(23)を介して整流部(22)と並列に設けられている。力率改善部(25)は、昇圧型の力率改善回路であって、入力電圧(V1)を昇圧及び平滑することで、力率改善動作を行う。
【0044】
具体的に、実施形態1に係る力率改善部(25)は、3相のインターリーブ方式で構成された3相の昇圧チョッパ回路(25a)と1つの平滑コンデンサ(26)とを有する。なお、
図1では、1相分のみの昇圧チョッパ回路(25a)の参照符号を記載してある。昇圧チョッパ回路(25a)は、本発明の昇圧回路の一例である。
【0045】
力率改善部(25)は、具体的に、3つのリアクタ(L25a,L25b,L25c)、3つのスイッチング素子(Q25a,Q25b,Q25c)、3つの抵抗(R25a,R25b,R25c)、3つのダイオード(D25a,D25b,D25c)、及び1つの平滑コンデンサ(26)を有する。
【0046】
リアクタ(L25a)は、電源配線(41)上に直列に接続され、入力電圧(V1)を電気エネルギーとし、これを磁束エネルギーに変化させて蓄える役割を担う。リアクタ(L25a)のインダクタンス値は、電源配線(41)上を流れる電流値やスイッチング素子(Q25a)のスイッチング周波数等に応じて、適宜決定される。
【0047】
スイッチング素子(Q25a)は、Nchの絶縁ゲートバイポーラトランジスタで構成されており、リアクタ(L25a)に対し並列に接続されている。スイッチング素子(Q25a)は、入力電圧(V1)に基づくエネルギーの、リアクタ(L25a)への蓄積と放電とを切り換える役割を担う。スイッチング素子(Q25a)は、力率改善駆動部(30)によってスイッチング素子(Q25a)のオン及びオフが制御される。
【0048】
抵抗(R25a)は、スイッチング素子(Q25a)に流れる電流(以下、PFC電流(Ipfc)と呼ぶ)の検出用のシャント抵抗であって、スイッチング素子(Q25a)とGND配線(42)との間に接続されている。抵抗(R25a)の両端電圧(Vd1)は、AD変換後、PFC電流算出部(31b)として機能するコントローラ(31)に入力され(
図4参照)、PFC電流(Ipfc)の算出に用いられる。PFC電流(Ipfc)は、力率改善部(25)の駆動制御に利用される。出力電圧(V2)がある程度上下したとしても、安定したエネルギーが力率改善部(25)の後段へと供給されるようにするためである。抵抗(R25a)の抵抗値は、力率改善部(25)による電圧の昇圧動作を妨げることのない適切な値に、決定されている。
【0049】
なお、
図1では、抵抗(R25c)の両端電圧(Vd1)のみがコントローラ(31)に入力されているが、抵抗(R25a,R25b)の両端電圧(Vd1)もコントローラ(31)に入力される。
【0050】
ダイオード(D25a)は、リアクタ(L25a)の出力側において、電源配線(41)上に直列に接続されている。特に、ダイオード(D25a)のアノード端子は、リアクタ(L25a)とスイッチング素子(Q25a)との接続点よりも電流の流れ方向下流側に接続されている。ダイオード(D25a)は、リアクタ(L25a)側から電力変換部(28)側への電流の流れのみを許容する。
【0051】
平滑コンデンサ(26)は、例えば電解コンデンサによって構成されており、各相の昇圧チョッパ回路(25a)に共通して1つ設けられている。平滑コンデンサ(26)は、各リアクタ(L25a,L25b,L25c)の出力側において、各スイッチング素子(Q25a,Q25b,Q25c)に並列に接続されている。平滑コンデンサ(26)は、各リアクタ(L25a,L25b,L25c)から放出された磁束エネルギーを充放電することで、比較的リプル成分の低い直流電圧を生成する。
【0052】
このような力率改善部(25)の昇圧動作(即ち、力率改善動作)について、1相分の昇圧チョッパ回路(25a)を例に説明する。先ず、スイッチング素子(Q25a)がオンすると、電源配線(41)からリアクタ(L25a)、スイッチング素子(Q25a)、抵抗(R25a)を経てGND配線(42)への電流経路が形成され、PFC電流(Ipfc)がこの順に流れる。すると、リアクタ(L25a)にPFC電流(Ipfc)が流れることにより、リアクタ(L25a)には磁気エネルギーが蓄積される。次いで、スイッチング素子(Q25a)がオフすると、上記電流経路がスイッチング素子(Q25a)によって絶たれる。リアクタ(L25a)に蓄積されたエネルギー分の電流が、ダイオード(D25a)を経て平滑コンデンサ(26)へと流れ込み、平滑コンデンサ(26)の両端電圧は高くなる。昇圧チョッパ回路(25a)における昇圧量は、スイッチング素子(Q25a,Q25b,Q25c)のオン時間とオフ時間の比(デューティー比)を制御することで可変できる。上記デューティー比の制御は力率改善駆動部(30)が行う。
【0053】
なお、他の2相分の昇圧チョッパ回路(25a)は、上述した1相分の昇圧チョッパ回路(25a)と並列に接続されており、その動作は上記と同様である。
【0054】
なお、上記力率改善部(25)の各構成要素(リアクタ(L25a,L25b,L25c)等)の数は、一例であって、上記に限定されることはない。また、抵抗(R25a,R25b,R25c)に代えてカレントセンサ(図示せず)が、PFC電流(Ipfc)の検出を行っても良い。
【0055】
−出力電圧検出部−
出力電圧検出部(27)は、出力電圧(V2)のトップ電圧、平均電圧、ボトム電圧を検出する。出力電圧検出部(27)は、
図1及び
図4に示すように、主として、互いに直列に接続された2つの抵抗(27a,27b)、出力電圧サンプリング部(31c)として機能するコントローラ(31)によって構成されている。互いに直列に接続された2つの抵抗(27a,27b)は、力率改善部(25)と電力変換部(28)との間において、平滑コンデンサ(26)と並列に接続されている。抵抗(27a,27b)同士の接続点における電圧(V21)は、コントローラ(31)に入力され、出力電圧サンプリング部(31c)によって出力側検出周期でサンプリング且つAD変換され、出力電圧(V2)の検出結果(Vdc)として認識される。
【0056】
上記出力側検出周期は、入力電圧検出部(24)の検出周期である入力側検出周期よりも短くしてある。一例としては、入力側検出周期が約1secである場合、出力側検出周期は、約10msecであることができる。
【0057】
−電力変換部−
電力変換部(28)は、力率改善部(25)の出力側にて、リアクタ(L25a,L25b,L25c)に対し並列に接続されている。電力変換部(28)は、力率改善部(25)から出力電圧(V2)を供給されると、出力交流電力(SU,SV,SW)を生成する。
【0058】
電力変換部(28)は、図示はしていないが、インバータ回路及びインバータ駆動部とで構成されている。インバータ回路は、例えば絶縁ゲート型バイポーラトランジスタで構成されたパワー素子と、パワー素子に並列に接続された還流用ダイオードとを、それぞれ複数有する構成となっている。インバータ駆動部は、例えば集積回路によって構成されており、各パワー素子のゲート端子に接続されている。インバータ駆動部は、コントローラ(31)から出力されるモータ制御信号(Pwm)に基づいて、各パワー素子へのゲート電圧の印加制御を行うことで各パワー素子をオン及びオフさせて、インバータ回路に交流の出力交流電力(SU,SV,SW)を生成させる。
【0059】
−電流検出部−
電流検出部(29)は、電力変換部(28)への入力電流(Im)の値を検出する。入力電流(Im)とは、商用電源(91)から電源配線(41)、電力変換部(28)、モータ(11)へと流れ、再び電力変換部(28)、GND配線(42)を経て、力率改善部(25)に流れ込む電流である。
【0060】
電流検出部(29)は、
図1及び
図4に示すように、主として、GND配線(42)上に直列に接続されたシャント抵抗(29a)、入力電流算出部(31d)として機能するコントローラ(31)等によって構成されている。シャント抵抗(29a)の両端電圧(Vd2)は、コントローラ(31)に入力され、入力電流算出部(31d)によって所定のサンプリング周期にてサンプリング且つAD変換され、入力電流(Im)の算出に利用される。
【0061】
−力率改善駆動部−
力率改善駆動部(30)は、各スイッチング素子(Q25a,Q25b,Q25c)のゲート端子及びコントローラ(31)と接続されている。力率改善駆動部(30)は、例えば集積回路によって構成されている。力率改善駆動部(30)は、コントローラ(31)からのPFC駆動指令信号(Cpfc)に基づいて、各スイッチング素子(Q25a,Q25b,Q25c)へのゲート電圧の印加制御を行うことで、力率改善部(25)をオン及びオフさせる。
【0062】
具体的に、力率改善駆動部(30)は、力率改善部(25)をオンにして力率改善動作を行わせる際、各スイッチング素子(Q25a,Q25b,Q25c)のオン及びオフを短い周期で繰り返させるためのゲート制御信号(G1,G2,G3)を、各スイッチング素子(Q25a,Q25b,Q25c)に出力する。このとき力率改善駆動部(30)は、電流波形が正弦波に近づくように(すなわち力率を改善し、電源電流の高調波成分を抑制するように)、ゲート制御信号(G1,G2,G3)を生成する。
【0063】
なお、力率改善駆動部(30)は、力率改善部(25)をオフにして力率改善動作を停止させる際、全てのスイッチング素子(Q25a,Q25b,Q25c)をオフの状態に保つためのゲート制御信号(G1,G2,G3)を、各スイッチング素子(Q25a,Q25b,Q25c)に出力する。
【0064】
−コントローラ−
コントローラ(31)は、メモリ及びCPUによって構成されている。コントローラ(31)は、メモリに格納された各種プログラムに応じて、
図4に示すように、上述した入力電圧サンプリング部(31a)、PFC電流算出部(31b)、出力電圧サンプリング部(31c)、入力電流算出部(31d)、モータ駆動制御部(31e)、目標値決定部(31f)、及び昇圧量補正部(31h)として機能する。
【0065】
モータ駆動制御部(31e)は、モータ(11)におけるロータ位置情報に基づいてモータ制御信号(Pwm)を決定し、これを電力変換部(28)のインバータ駆動部に出力する。ロータ位置情報としては、モータ(11)におけるホール素子の検出結果、電流検出部(29)の検出結果である入力電流(Im)等が挙げられる。また、モータ駆動制御部(31e)は、モータ(11)が駆動している間、ロータ位置情報及びその時々の各検出部(24,27)の検出結果(Vac_peak,Vdc)等を用いて、モータ(11)の駆動に対してフィードバック制御を行う。
【0066】
更に、実施形態1に係るコントローラ(31)は、力率改善部(25)に関する制御を行う。当該制御としては、モータ(11)の通常回転時の力率改善部(25)のオン及びオフ制御、力率改善部(25)の出力電圧(V2)の目標値である出力目標値(Vdc_ref)の可変制御が挙げられる。
【0067】
モータ(11)の通常回転時の力率改善部(25)のオン及びオフ制御とは、瞬時電圧低下または瞬時停電が発生していない場合の、入力電流(Im)等に基づく力率改善部(25)のオン及びオフ制御である。当該制御では、例えば、入力電流(Im)が第1閾値を超過した場合、力率改善部(25)はオンし、入力電流(Im)が第1閾値よりも小さい第2閾値を下回った場合、力率改善部(25)はオフする。その他、当該制御では、入力電流(Im)による制御方法に代えて、力率改善部(25)の出力電力の大小による制御方法や、モータ(11)を起動させると共に力率改善部(25)をオンさせる制御方法が採用されても良い。
【0068】
以下では、出力目標値(Vdc_ref)の可変制御、及び、瞬時電圧低下または瞬時停電の発生に伴う力率改善部(25)のオン及びオフ制御について、詳述する。
【0069】
<出力目標値の可変制御>
この制御は、目標値決定部(31f)として機能するコントローラ(31)によって行われる。
【0070】
図5は、本実施形態1に係る可変式の出力目標値(Vdc_ref)の概念の説明図である。
図5では、商用電圧(V0)の変動が予測される範囲を横軸に取り、各商用電圧(V0)に対する入力電圧検出部(24)の検出結果(Vac_peak)及び出力目標値(Vdc_ref)を縦軸にて表している。
図5及び下記(1)式に示されるように、目標値決定部(31f)は、その時々の入力電圧検出部(24)の検出結果(Vac_peak)に一定量である昇圧量(Va)を加算した結果を、出力目標値(Vdc_ref)として決定する。
【0071】
Vdc_ref=Vac_peak+Va ・・・(1)
即ち、
図5及び(1)式では、力率改善部(25)の入力電圧(V1)がたとえ変化したとしても、出力目標値(Vdc_ref)が常に一定の値に保たれているのではなく、力率改善部(25)の出力電圧(V2)(検出結果(Vdc))が入力電圧(V1)に応じて変化することを表している。具体的には、
図5に示すように、商用電圧(V0)が低電圧側へと変動する程、入力電圧検出部(24)の検出結果(Vac_peak)も低電圧側へとシフトするため、出力目標値(Vdc_ref)は小さい値を採る。逆に、商用電圧(V0)が高圧側へと変動する程、入力電圧検出部(24)の検出結果(Vac_peak)は高電圧側へとシフトするため、出力目標値(Vdc_ref)は大きい値を採る。このような出力目標値(Vdc_ref)の可変制御は、商用電圧(V0)が変動する、いわゆる電源電圧変動が生じる場合に好適である。
【0072】
電源電圧変動は、様々な要因によって生じる。一例としては、商用電源(91)を様々な機器が電源として用いる際に、当該機器が一斉に稼働することによって、商用電源(91)の設備容量に対する負荷が標準よりも過剰となる場合が挙げられる。この場合、商用電源(91)から各機器への電流は過大になり、商用電源(91)がその影響に耐えられなくなる。故に、商用電圧(V0)は基準値から低下する。他には、殆どの機器が稼働していないために負荷が標準よりも小さく、故に商用電圧(V0)が基準値よりも上昇する場合等がある。
【0073】
このような電源電圧変動は、一時的に生じることもあれば、常時生じていることもある。電源電圧変動では、商用電圧(V0)が、基準値に対してマイナス10%からプラス10%の範囲でばらつくこともある。
【0074】
上記電源電圧変動が生じると、入力電圧検出部(24)の検出結果(Vac_peak)も変動する。例えば、電源電圧変動の有無に関わらず力率改善部(25)の出力電圧(V2)が一定であるとすると、仮に商用電圧(V0)が基準値に対して低電圧側へと変動した際には、力率改善部(25)の昇圧量は、商用電圧(V0)が基準値の場合に比して多くなる。すると、力率改善部(25)のリアクタ(L25a,L25b,L25c)に蓄積するべきエネルギー量は増加するため、リアクタ(L25a,L25b,L25c)やスイッチング素子(Q25a,Q25b,Q25c)に流れる電流量も必然的に多くなる。その結果、リアクタ(L25a,L25b,L25c)やスイッチング素子(Q25a,Q25b,Q25c)での電力損失が増加する。
【0075】
そこで、上式(1)及び
図5に示すように、目標値決定部(31f)は、力率改善部(25)の昇圧量(Va)を一定とし、入力電圧検出部(24)の検出結果(Vac_peak)に応じて出力目標値(Vdc_ref)を決定する制御を行う。これにより、電源電圧変動が生じたとしても昇圧量(Va)自体は変化しないため、スイッチング素子(Q25a,Q25b,Q25c)を流れる電流は概ね一定である。従って、力率改善部(25)を構成するリアクタ(L25a,L25b,L25c)及びスイッチング素子(Q25a,Q25b,Q25c)の電力損失も、概ね一定となる。
【0076】
なお、出力目標値は、固定値とすることも可能である。
【0077】
<昇圧量の補正>
本実施形態では、平滑コンデンサ(26)の出力電圧(V2)が力率改善部(25)への入力電圧(V1)よりも低下しないように、昇圧チョッパ回路(25a)の昇圧量を補正するようになっている。
【0078】
図6は、入力電圧(V1)、通常時における平滑コンデンサ(26)の出力電圧(V2)の波形を示す。なお、ここでは「通常時」とは、力率改善部(25)の負荷が想定範囲内である場合、且つ平滑コンデンサ(26)の劣化が想定範囲内である場合をいう。この場合は、出力電圧(V2)は、商用電圧(V0)よりも常に大きな値である。また、
図7は、リプルが増大した場合における平滑コンデンサ(26)の出力電圧(V2)の波形を示す。この例では、整流部(22)の出力の波高値(V11)の方が、平滑コンデンサ(26)の出力電圧(V2)のボトム値よりも大きくなっている。
【0079】
このようなリプルの増大は、平滑コンデンサ(26)が劣化したり、電力変換部(28)に加わる負荷がより大きくなったりすると起こりえる現象である。このように、力率改善部(25)への入力電圧(V1)の波高値(V11)の方が、平滑コンデンサ(26)の出力電圧(V2)のボトム値よりも大きくなると、力率改善部(25)において、昇圧動作が間欠的に行われる可能性がある。そうすると、従来の装置であれば、電源電流の高調波成分が増加したり、力率改善が不十分になったり、力率改善部を構成するスイッチング素子に過渡的に大きな電流が流れたりする可能性がある。
【0080】
しかしながら、本実施形態では、このようにリプルが増大した場合でも、平滑コンデンサ(26)の出力電圧(V2)が、力率改善部(25)の入力電圧(V1)よりも低下しないように上記補正を行っている。本実施形態では、この補正の制御は、昇圧量補正部(31h)として機能するコントローラ(31)によって行っている。
【0081】
具体的に、昇圧量補正部(31h)は、所定の周期で出力電圧検出部(27)の出力値(電圧(V21))をモニターしている。電圧(V21)は、平滑コンデンサ(26)の出力電圧(V2)に対応(相関)している。そして、昇圧量補正部(31h)は、この電圧(V21)を用いて、平滑コンデンサ(26)の出力電圧(V2)のリプルの振幅を算出する。そして、昇圧量補正部(31h)は、平滑コンデンサ(26)の出力電圧(V2)のリプルの振幅が所定の閾値(C_Vripple_Dat)を超えた場合に、昇圧チョッパ回路(25a)の昇圧量を増加させる。より具体的には、上記通常時における昇圧量(Va)に一定の増分値(電圧補正値(C_Vdc_Add))を加算した値を、新たな昇圧量とする。すなわち、新たな昇圧量は、Va+C_Vdc_Addである。新たな昇圧量が定まると、コントローラ(31)では、モータ駆動制御部(31e)が昇圧チョッパ回路(25a)におけるデューティー比で昇圧チョッパ回路(25a)のスイッチング素子(Q25a,Q25b,Q25c)をスイッチングさせる。
【0082】
閾値(C_Vripple_Dat)及び電圧補正値(C_Vdc_Add)は、上記負荷が最大となった場合のリプル、及び平滑コンデンサ(26)が劣化した場合に想定されるリプルを勘案し、その状況下で平滑コンデンサ(26)の出力電圧(V2)が入力電圧(V1)よりも低下しないように定めてある。本実施形態では、閾値(C_Vripple_Dat)は、30Vであり、昇圧量の増分(電圧補正値(C_Vdc_Add))は、5V(固定値)である。勿論、これらの値は、例示であり、電力変換装置(20)の用途などに応じて適宜設定する。
【0083】
なお、電圧補正値(C_Vdc_Add)は、大きければよいというものではない。昇圧量が大きすぎると、スイッチング素子(Q25a,Q25b,Q25c)における損失が増大するからである。すなわち、電圧補正値(C_Vdc_Add)を定める場合は、スイッチング素子(Q25a,Q25b,Q25c)の損失も勘案する必要がある。
【0084】
上記のように昇圧量を増加させることで、
図7に示すように、リプル自体は減少しないが、上記補正後は、平滑コンデンサ(26)の出力電圧(V2)のボトムが、入力電圧(V1)を下回らないようにできる。
【0085】
ところで、電力変換部(28)の負荷が一時的に増大して、平滑コンデンサ(26)の出力電圧(V2)のリプルが増大したような場合には、負荷が減少すれば上記リプルも減少する。そのような場合に、昇圧量を補正(増大)させたままだと、損失の増大につながるので好ましくない。そこで、本実施形態では、昇圧量補正部(31h)は、上記補正を行った後に、平滑コンデンサ(26)の出力電圧(V2)のリプルの振幅が所定の閾値(C_Vripple_Rel)よりも小さくなった場合に、昇圧量を減少させて補正を解除するようになっている。本実施形態では、補正を解除する閾値(C_Vripple_Rel)は25Vである。勿論この値も例示であり、電力変換装置(20)の用途に応じて適宜設定する。
【0086】
<本実施形態における効果>
以上の通り本実施形態によれば、平滑コンデンサ(26)のリプルが増大したした場合に、昇圧チョッパ回路(25a)の昇圧量が補正される。それ故、本実施形態では、リプルが増大したした場合に、力率改善部(25)が間欠動作に入らないようにできる。すなわち、本実施形態では、電源電流の高調波成分が増加したり、力率改善が不十分になったり、力率改善部(25)を構成するスイッチング素子(Q25a,Q25b,Q25c)に過渡的に大きな電流が流れたりするのを防止できる。
【0087】
《発明の
関連技術》
本発明の
関連技術では、昇圧量補正部(31h)の他の構成例を説明する。本
関連技術の昇圧量補正部(31h)は、出力電圧検出部(27)の検出値が、入力電圧検出部(24)の検出値を下回らないように、昇圧チョッパ回路(25a)における昇圧量を補正するようになっている。
【0088】
この例では、昇圧量補正部(31h)は、周期的に入力電圧検出部(24)の検出値をモニターする。そして、昇圧量補正部(31h)は、出力電圧検出部(27)の検出結果(Vdc)が、入力電圧検出部(24)の検出結果(Vac_peak)に近づいてきたら、昇圧チョッパ回路(25a)における昇圧量を増大(補正)するようになっている。
【0089】
例えば、平滑コンデンサ(26)の出力電圧(V2)のリプルの振幅が増大すると、整流部(22)の出力の波高値(V11)と、平滑コンデンサ(26)の出力電圧(V2)のボトム値とが近づいてくる。しかしながら、本
関連技術では、このような場合には、昇圧チョッパ回路(25a)における昇圧量が増大させられる。それ故、本
関連技術でも、平滑コンデンサ(26)の出力電圧(V2)のボトム値よりも大きくならないようにできる。すなわち、本
関連技術においても、上記リプルが増大したした場合に、力率改善部(25)が間欠動作に入らないようにでき、電源電流の出力の高調波成分が増加したり、力率改善が不十分になったり、力率改善部(25)を構成するスイッチング素子(Q25a,Q25b,Q25c)に過渡的に大きな電流が流れたりするのを防止できる。
【0090】
《その他の実施形態》
なお、モータ(11)の駆動対象は、圧縮機(72)以外(例えば室外ファン(76)や室内ファン(82)等)であってもよい。
【0091】
また、整流部(22)とは別途、商用電源(91)に接続された整流回路があり、入力電圧検出部(24)は、当該回路の出力電圧を検出する構成であっても良い。
【0092】
また、昇圧量の補正は、平滑コンデンサ(26)の出力電圧(V2)のボトムと、入力電圧(V1)との関係を見ながら、段階的に補正量を増やすようにしてもよい。こうすることで、不必要に昇圧量が大きくなることがなく、電力変換装置における損失を低減することが可能になる。具体的には、昇圧量を所定値だけ補正した後に、出力電圧検出部(27)の出力値(電圧(V21))をモニターし、平滑コンデンサ(26)の出力電圧(V2)のボトムが、入力電圧(V1)を下回っていたら、更に昇圧量増加させるという動作を、平滑コンデンサ(26)の出力電圧(V2)のボトムが、入力電圧(V1)を超えるまで続けるとよい。
【0093】
また、昇圧量の初期値(補正前の値)は、なるべく低くするのが望ましい。電力変換装置における損失を低減することが可能になるからである。初期値は、例えば現在の負荷に応じて決定することが考えられる。